JP3763124B2 - タッチ信号プローブの信号処理装置および信号処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、形状測定装置や三次元測定機などの表面性状測定機に装着されるタッチ信号プローブの信号処理装置および信号処理方法に関する。より詳しくは、固定要素と可動要素とを備え、可動要素に外部から力が作用したとき固定要素に対する可動要素の変位を許容し、かつ、可動要素に作用する力がなくなった後に可動要素を正確に静止位置に復帰させる着座機構とスタイラスに変形検出素子を備えたタッチ信号プローブの信号処理装置と信号処理方法に関する。
【0002】
【背景技術】
三次元測定機では、接触検出にあたりタッチ信号プローブが広く用いられている。このようなタッチ信号プローブを用いた三次元測定機では、載物台上に置かれたワークに対して、三次元方向に相対移動可能なプローブの接触子を接触させ、接触子がワークに接触した瞬間を電気的なトリガとして各軸(三次元方向の各軸)の座標値を読み取り、これらの座標値を基にワークの寸法や形状を求める。このため、プローブとワークとの接触状態を電気的なタッチ信号として位置を検出することができる。
【0003】
図1は従来のタッチ信号プローブを示している。同図において、スタイラス1は可動要素2に固定されている。スタイラス1の先端には球状の接触子8が設けられている。可動要素2の周囲には、3本の円柱体3が、スタイラス1の軸線に対して直角な面内で、かつ、スタイラス1の軸線を中心として120度間隔で放射状に突設されている。一方、固定要素5には、2つの硬球6が3組、可動要素2の円柱体3と対応する位置にそれぞれ固定されている。ここに、円柱体3と硬球6とは、固定要素5と可動要素2との相対位置を一義的に定める着座要素を構成している。
【0004】
このような構成において、可動要素2を付勢要素7による付勢力Fの作用により固定要素5に押圧し、着座要素を介して可動要素2を固定要素5に強制的に接触させる。スタイラス1の先端の接触子8に被測定物からの押圧力が付与されていない状態では、可動要素2は固定要素5に6ヶ所の接触点で静止している。つまり、可動要素2の各円柱体3が硬球6と2点、全体として6点で静止している。従って、これを6点接触型着座機構と呼ぶ。これらの6点の接触点はいずれも電気的にスイッチとして直列接続されており、接触子8がワークWに接触して可動要素2が逃げ動作を行うことで、6点の接触点のいずれかが離隔するので、タッチ信号とすることが出来る。
【0005】
このような6点接触型着座機構では、可動要素が逃げ動作を行った後の復帰位置が一義に定まる。すなわち、スタイラス1が、可動要素側着座要素及び固定要素側着座要素の接触を保ちつつスタイラス1の静止位置の軸線方向と平行に各接触点方向に変位することを仮定した場合、前記スタイラスの先端の描く各軌跡は前記スタイラスの前記静止位置における軸線と交叉することになる。このような構成によれば、ワークWからの押圧力によって可動要素2が逃げ動作を行った後の復帰動作時に、付勢力Fによって各接触点との接触を回復するのみでスタイラス1は一義的な静止位置に復帰し、スタイラス1の静止位置を一定に保つことが可能である。
【0006】
この6点接触型着座機構では、6点の接触により固定要素に対する可動要素の位置が一義的に決まるため、着座状態での耐振動剛性が高い。また、どの方向から押圧力が加えられた場合でも、例えば10μm単位の比較的粗いオーダーで見たときには高い復帰精度を有している。
【0007】
このタッチ信号プローブは着座機構の接触点の離隔をタッチ信号として用いているので、実際に接触子8がワークWに接触した瞬間にタッチ信号が出力されるわけではなく、スタイラス1の変形(たわみ、あるいは歪)分だけ信号の出力が遅延する。この傾向はスタイラス1の長さが長い場合に顕著となり測定の高精度化の障害となっていた。
この問題に対して、図2に示すようなスタイラスの変形を検出してタッチ信号とするタッチ信号プローブが提案されている(特開平10−288502)。
図2(A)において、スタイラス22は、一端に被測定物と接触する接触子24を有し、他端の略柱状部に4個の圧電素子121〜124を取り付けた構造となっている。
【0008】
圧電素子支持部101C,101Dはスタイラス軸と直交する断面が正方形とされる鍔状直方体であり、この両直方体を跨ぐように各側面に前記圧電素子121〜124がその全面において接着剤等でそれぞれ固着されている。このような構造によって圧電素子をスタイラスの変形検出素子として用い、測定子24がワークWに接触した場合のスタイラス22の変形(たわみ)を検出してタッチ信号とする。
このような変形検出型スタイラスを備えたタッチ信号プローブの検出精度は、1μmあるいはそれを上回る性能が可能となる。
【0009】
そこで、この変形検出型スタイラス22を従来のスタイラス1に代えて可動要素2に取付け、前述の6点接触型着座機構を組み合せて用いようとすると、着座機構の着座精度に不足を生じることになる。
すなわち、前述のような6点接触型着座機構では、さらに高い精度、例えば1μmあるいはそれ以下で見たとき、接触後の復帰動作の際に、可動要素の逃げ動作の際に可動要素の接触子がワークに押し込まれ固定要素に対して相対変位を起こすことによる誤差(着座ずれ誤差)が生じる。
【0010】
つまり、ワークWに対して接触子8がスタイラス1の軸直交方向に接触して押込まれた場合、スタイラス1と可動要素2は傾斜して、硬球6と円柱体3は離隔する。この時、可動要素2と固定要素間にはほとんど逆向きの抗力が生じず、わずかではあるが、可動要素2にスタイラス軸直交方向のずれを生じる。その後、ワークWと接触子8の接触がなくなると、可動要素2は付勢力Fにより復帰動作を行うが、前述のずれにより可動要素2とスタイラス1に復帰位置のずれ(着座ずれ)を生じる。このずれは、プローブの測定精度に直接影響する。
【0011】
このような復帰動作後の着座位置ずれを修正する着座機構として、図3に示される着座機構が提案されている(特開平10−96618号)。これは、圧電素子等を用いて着座機構の可動要素と固定要素との接触点に作用する摩擦力の方向を管理することにより着座ずれを修正しようとするものである。
【0012】
この着座機構は、固定要素11と、可動要素21と、この可動要素21に外部から力が作用したとき固定要素11に対する可動要素21の変位を許容し、かつ、可動要素21に作用する力がなくなったとき可動要素21を静止位置に復帰させる付勢力発生手段(図示せず)とを備える。
可動要素21には被測定物と接触する球状の接触子24を有するスタイラス22が突設されており、スタイラス22の軸直交方向に対し120度間隔で放射状に固定要素11と接触する3本の円柱体23を有する。
【0013】
固定要素11は、その中心部分がプローブのハウジング(図示せず)に固定されており、スタイラス22の軸を中心に120度間隔で放射状に延びた3本の腕部12を有し、その各腕部12の先端上面に2つの硬球13が配置されている。
また、各腕部12において、硬球13より内側部分に変位発生機構としての圧電素子14がスタイラス22の軸線に対し放射方向に略沿って伸縮可能に配置されている。
ここで各圧電素子14に電圧を印加すると、各圧電素子14は同期して変位し、各硬球13はスタイラス22の軸を中心に略放射方向に変位する。なお、ここでいう変位とは静的な変位であり、圧電素子により徐々に変位が与えられるものである。
この変位により、円柱23と硬球13の各接触点での摩擦力の方向が一定に揃い、付勢力によって静止位置に復帰するように着座位置が調整される。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記の変形検出型スタイラスは極めて高い検出精度を有するために、各種のノイズによっても反応してタッチ信号が出力されてしまい、用途が極めて限定されていた。
すなわち、測定機と組み合せて用いる場合には測定機自体で生じる各種の振動がノイズ源となる。例えば、三次元測定機の各軸の移動操作を行うと、各軸構造体の共振周波数近辺で比較的大きな振動が発生する。また、精密測定機で多く用いられる空気軸受けは、エアパッドの構造によっては振動を発生することがある。また、モータ駆動式の場合には、パルス幅変調(PWM)された直流モータの搬送周波数もノイズ源となり得る。さらに、タッチ信号プローブの近傍において大声での会話や人間の歩行によってもノイズを生じる場合がある。
【0015】
また、前記の改良された着座機構の着座精度についても極めて高い検出精度を有する前記の変形検出型スタイラスと組み合せて使用するには、必ずしも十分ではなかった。
本発明の目的は、スタイラス変形検出型タッチ信号プローブにおいて、ノイズ源の影響を受けず、高精度で確実にタッチ信号を発生させるための信号処理装置および信号処理方法を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
そのため、本発明は、座標値を出力する座標値測定要素と、固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素とを有するタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路と、前記変形タッチ信号が出力された瞬間毎に前記座標値を入力して最新座標値として記憶を更新すると共に前記接点タッチ信号が出力された際に、前記最新座標値を検出座標値として出力するラッチ回路とを備え、前記変形タッチ信号処理回路は、非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために、ゲイン切替え可能な増幅回路としきい値入力可能な比較回路との少なくともいずれかを設けたことを特徴とする。
【0017】
更に、本発明において、前記変形タッチ信号処理回路は、ハイパスフィルタ回路とローパスフィルタ回路を含むことが好ましい。
又、本発明において、前記ハイパスフィルタ回路の遮断周波数は、3kHzから10kHzの範囲であることが好ましい。
更に、本発明において、前記ローパスフィルタ回路の遮断周波数は、50kHzから200kHzの範囲であることが好ましい。
【0018】
又、本発明において、前記駆動手段は、前記固定要素側における前記接触点及び前記可動要素側における前記接触点を、相対的に少なくとも所定距離変化させる接触点変位手段であることが好ましい。
又、本発明において、前記駆動手段は、前記可動要素に作用する外力がなくなった後、前記固定要素側における前記接触点と前記可動要素側における前記接触点の接触を保ちつつ一定時間の間のみ、相対振動させることが好ましい。
【0019】
更に、本発明において、前記付勢要素による前記可動要素への付勢点を含む付勢領域の直径は、前記スタイラスの軸を中心とし、前記接触点を円周上に含むキネマティック円の直径に対して20%以下で且つ略ピンポイント以上であることが好ましい。
又、本発明において、前記付勢領域の中心は、前記可動要素の重心位置に略一致することが好ましい。
更に、本発明において、前記付勢領域の中心は、前記キネマティック円の中心に略一致することが好ましい。
又、本発明において、前記付勢要素はコイルばねで構成され、該コイルばねの長さは、該コイルばねの直径の1倍以上且つ2.5倍以下であることが好ましい。
【0020】
更に、他の本発明は、固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素とを有し、座標値を測定可能な表面性状測定機に用いられるタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路と、前記変形タッチ信号が出力された瞬間毎に前記座標値を入力して最新座標値として記憶を更新すると共に前記接点タッチ信号が出力された際に、前記最新座標値を検出座標値として出力するラッチ回路とを備え、前記変形タッチ信号処理回路には、非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために、ゲイン切替え可能な増幅回路としきい値入力可能な比較回路との少なくともいずれかとともに、ハイパスフィルタ回路を含み、前記表面性状測定機からの指令に基ずき、前記ゲイン切替えとしきい値入力との少なくともいずれかと、前記駆動手段の駆動を行うことを特徴とする。
【0022】
更に、他の本発明は、固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素と、前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、演算条件を切替え可能な演算回路を含んで前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路とを有し、座標値を測定可能な表面性状測定機に用いられるタッチ信号プローブの信号処理方法において、前記タッチ信号プローブをワークの測定点の手前へ位置決めするステップと、前記駆動手段を駆動して着座修正を行うステップと、前記演算回路の前記演算条件を切替えて感度を向上させるステップと、前記タッチ信号プローブを前記測定点へ向けて測定送りを行うステップと、変形タッチ信号が入力されると前記座標値を入力しての最新座標値の記憶を更新するステップと、接点タッチ信号が入力されると前記最新座標値を検出座標値として出力するステップと、非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために前記演算回路の前記演算条件を切替えて感度を低下させるステップと、
を含むことを特徴とする。
ここにおいて、演算回路は増幅器または比較器であることが好ましく、演算条件は増幅度あるいはしきい値であることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図4は本発明によるタッチ信号プローブ10の断面図である。この図において図2あるいは図3と同一の部材番号のものは、図2あるいは図3と機能および構造共同一であるので詳細な説明は省略する。
図4において、固定要素11は固定要素スタンド18を介してハウジング41の底部42に固定されている。固定要素11の腕部12(図3)は弾性材質であるベリリウム銅で形成され、その内部には圧電素子14が埋め込まれている。腕部12の先端部には陽極酸化皮膜処理され(通称アルマイト)電気絶縁体である硬球支持部15が埋込み一体化されている。
【0024】
圧電素子14には駆動源(図6の回路191)から変位駆動電圧が印加され、その結果、圧電素子14はスタイラス22の軸直交方向に0.5μm幅程度の変位運動を生じるようになっている。そのため、腕部12は発熱防止および金属疲労による劣化を防止して長寿命化を計るために弾性材質であるベリリウム銅で形成されている。
硬球支持部15の上端面には2個所の凹部が設けられており、各々の凹部に硬球13の下部約1/2が埋め込まれている。
図5は、図4における硬球13部分を図の左方向から見た図である。硬球13と円柱体23は電気接点を形成しており、硬球13への電気接続は弾性舌片16を押圧して行っている。弾性舌片16は電気絶縁体である舌片スタンド17を介してハウジング41の底部42へ固定されている。この弾性舌片16の材質は、ばね用りん青銅である。
【0025】
ハウジング41の天井部43と可動要素21間には押圧コイルばねである付勢要素71が設けられており、可動要素21は円柱体23を介して硬球13へ押圧されている。
この付勢要素71は圧縮コイルばねが用いられており、そのコイル直径は3mm、長さは6.5mm、付勢力は300gとすることが最適である。すなわち、スタイラス軸を中心とし、円柱体23と硬球13が接触する6点を含むキネマティック円の直径は28mmである。これに対して例えば長さ6.5mm、付勢力300g、直径11mmの圧縮コイルばねを使用した場合は、キネマティック円周方向の戻り誤差が極めて大きくなる。直径6mmでは若干改善されるが戻り精度は不十分であった。直径2mmでは戻り精度は良好であった。これはコイル径が小さいほど、コイルばねの圧縮に伴って発生する回転モーメントが小さいためと考えられる。
【0026】
また、圧縮コイルばねのコイル径に対する長さの点では、前記のコイル径2mm、長さ6.5mmの場合では付勢方向が必ずしも安定せず、戻り誤差が大きくなる場合があった。
従って、コイルばねを付勢要素71として用いる場合は、コイル径は、着座点である円柱体23と硬球13の接触点で構成されるキネマティック円の5%から20%の範囲とすることが好ましい。さらに、コイルばねのコイル径に対する長さは、2.5倍までの間とすることが好ましい。一方、この比率が1倍を下回ると、十分な付勢力を確保することが難しくなる。すなわち、付勢力を確保しようとすると、コイルばねの圧縮に伴う回転モーメントも大きくなってしまい、着座精度が低下する。
【0027】
尚、コイルばねの軸は可動要素21の重心点に一致させて付勢する。更に、この重心点は前記キネマティック円の中心に一致させることが好ましい。
ハウジング41の上部にはタッチ信号プローブ10を三次元測定機のZ軸スピンドルなどへ固定すると共に電気信号の送受を行うコネクタ44が設けられている。
一端に接触子24を備えたスタイラス22の他端はオスねじが設けられており、可動要素21の中心部に設けられたメスねじに螺合され、スタイラス22と可動要素21は一体に固定されている。図4に示すようにスタイラス22は固定要素11の中心部に設けられた丸穴を貫通する位置に取り付けられている。
【0028】
スタイラス22の詳細構造は図2に既に示したものと同一である。
図2(A)において、スタイラス22は、一端に被測定物と接触する接触子24を有し、他端の略柱状部に4個の圧電素子121〜124を取り付けた構造である。
圧電素子支持部101C,101Dはスタイラス軸と直交する断面が正方形とされる鍔状直方体であり、この両直方体を跨ぐように各側面に前記圧電素子121〜124がその全面において接着剤等でそれぞれ固着されている。
このうち、圧電素子121,123はスタイラス22の軸を挟んで互いに表裏の関係にあり、圧電素子122,124は圧電素子121,123と隣り合う位置において、互いに表裏の関係にある。
【0029】
図2(B)に示される通り、圧電素子121〜124は、その長手方向がスタイラス軸と平行である平面矩形状とされている。
いま、測定子24とワークWがスタイラス軸に直交する平面内で接触したとすると、圧電素子121の出力はスタイラス22の固有振動数等によって定まるToの時点で極大値Voとなる。
この極大値Voの大きさは圧電素子121の取付方位と接触子24がワークWと接触する方位とのなす角度、つまり、圧電素子121のスタイラス22の軸周りの角度θによって異なり、角度θに応じて、360度の周期で正弦波状に変化する。
出力極大値Voが最大値Vmaxとなるのは、圧電素子121が曲げ変形を受けやすい角度(θ=0)でワークWと接触子24が接触する場合である。
【0030】
図6は4個の圧電素子121〜124からの出力により接触信号を生成するためのタッチ信号処理部のブロック図である。
図6において、各圧電素子121〜124から出力される信号は、ハイパスフィルタ(H.P.F)機能とローパスフィルタ(L.P.F)機能の両方を持つ増幅回路131〜134で増幅されてV1〜V4とされた後、互いに表裏の関係にある圧電素子121,123から出力される信号V1,V3は、その差V13が回路141で差動増幅され、互いに表裏の関係にある圧電素子122,124から出力される信号V2,V4は、その差V24が回路142で差動増幅された後、各々自乗演算される。
【0031】
各圧電素子121〜124は非常に高い感度を有するので、各種のノイズに対しても敏感に反応する欠点がある。例えば、三次元測定機の各軸構造体の共振周波数は数百Hzである。また、精密測定機で多く用いられる空気軸受けは、エアパッドの構造によっては数kHzの振動を発生させる。また、PWM変調された直流モータの搬送周波数も数kHz程度(例:3kHz)であることが多い。また、音声は通常、3kHz程度までのパワーが強い。従って、前記ハイパスフィルタの遮断周波数は数kHz(5kHz前後)に選定することが好ましい。また、電磁誘導などによる誘導性ノイズは、一般に周波数成分が非常に高いので、ローパスフィルタの遮断周波数は100kHz前後に選定してこれを遮断することが好ましい。
ここではハイパスフィルタとローパスフィルタの組み合わせとしたが、バンドパスフィルタでも良いことは勿論である。
【0032】
さらに、圧電素子121〜124から出力されて増幅された信号V1〜V4は、これらの和V1234が回路143で加算された後、一定時間遅延されて、自乗演算される。
ここで、圧電素子121,123(122,124)の出力信号の差V13(V24)を演算して自乗するのは、スタイラス軸を中心として180度取付角度の異なる圧電素子121,123(122,124)からの出力信号の位相が180度異なるので、この演算によりスタイラス軸に作用する曲げ歪成分の最大値を角度θによらず一定にして抽出するためである。
【0033】
また、4個の圧電素子121〜124の和V1234を演算するのは、スタイラス軸に作用する曲げ歪成分を除去してスタイラス軸方向に作用する縦歪成分を抽出するためである。ただし、本実施形態では、縦歪成分を抽出するにあたり、4個全ての圧電素子121〜124の出力信号の和を求めるものに限定されるものではなく、互いに表裏関係にある2個の圧電素子121,123又は圧電素子122,124から出力信号の和を演算するものでもよい。
V1234は、曲げ歪成分を除いた縦歪成分を表す信号であるので、スタイラス軸の方向からワークに接触子24が接触した場合に最大値となる。
ただし、曲げ剛性より縦方向の剛性が一般的に高いので、V13(V24)に比べてV1234の方が時間的に早い。従って、回路143で遅延させた後、自乗演算を行う。
【0034】
回路141,142で生成された信号と、回路143で生成された信号は回路151で加算されて合成された後、ゲイン切替え回路161に入力される。このゲイン切替えの目的は、測定中の低速送り動作に比べて、測定のための高速位置決め動作においては高速移動のためにノイズが大きくなるので、ゲインを落として、各種ノイズによる誤測定を防止するためである。回路161へは、このためのゲイン信号が入力され、高ゲインと低ゲインを切替える。
ゲイン切替え回路161の出力は、外部より入力されるしきい値と比較され、この値を超えた場合のみ単安定マルチバイブレータが起動されて、変形タッチ信号として出力される。
圧電素子121〜124から出力される信号は一般にワークWと接触子24の接触による高周波信号であるが、この信号の最初の立ち上がりのみを捉えてタッチ信号にする必要があることから、単安定マルチバイブレータによって高周波衝撃信号を一定幅(約100mS幅)のデジタル信号にする。
【0035】
着座機構の接触部により構成される着座接点は開閉接点として、回路135のローパスフィルタによりノイズ除去を行った後、接点タッチ信号として出力される。
通常の測定においては、3mm/Sから5mm/S程度の測定速度でプローブ10をワークWに接触(あるいは衝突)させて変形タッチ信号を得るが、この時、プローブ10とワークWの相対移動は直ちには停止しない。そのため、プローブ10のスタイラス22は変位させられて、着座機構の開閉接点が開放されることになる。前記の測定速度の場合、変形タッチ信号が出力されてから、接点タッチ信号が出力されるまで、おおよそ、15mSから9mS程度の遅延がある。但しこれはスタイラス22の長さが20mmの場合であって、スタイラスが長い場合は、この遅延時間も大きくなる。前記単安定マルチバイブレータの時間幅はこの遅延時間より大きな時間幅とされており、必要に応じて、前記変形タッチ信号と前記接点タッチ信号の両者の論理積演算が可能な時間幅としている。
【0036】
着座修正信号が回路191へ入力されると、ゆっくりと固定要素側の着座機構を変位させる変位駆動電圧が生成され、3個の圧電素子14へ同時に供給されて、着座機構の接触点に相対変位を与える。
本件発明の信号処理回路あるいは信号処理方法によるタッチ信号プローブは例えば三次元測定機のZ軸スピンドルの下端に接続されて用いられる。
三次元測定機の構造の概要は図示しないが、一例としては次のような構造を備える。
すなわち、ワークWを載置する載物台と、載物台の左端及び右端に立設された支柱と、それぞれの支柱の上部を橋渡しされ、載物台に対して前後に移動可能な門型構造のY軸ブリッジと、Y軸ブリッジの橋渡し部に沿って左右に移動可能なX軸スライダと、このX軸スライダに設置され上下に移動可能なZ軸スピンドルを備えた構造である。ここでX軸、Y軸、Z軸の移動方向はおのおの直交している。従って、Z軸スピンドルの下端に接続されたタッチ信号プローブは、X、Y、Z軸の各軸を駆動することによってワークWに対して任意位置へ任意速度で位置決め可能である。
【0037】
図7は三次元測定機200のブロック図を示す。
各軸の駆動部221〜223は、駆動ガイドや駆動モータから構成されており、直交3軸(X、Y、Z軸)の各軸の駆動を行う。
各軸増幅部231〜233は、コンピュータ250から出力された駆動指令を基にして駆動モータのための電力増幅を行う。
各軸スケール201〜203は、直交3軸(X、Y、Z軸)の各軸の変位の位置検出を行ない、各軸カウンタ211〜213は位置検出結果を各々積算計数して各軸の現在位置座標値を出力する。
回路240は各軸カウンタ211〜213の出力を入力して一次記憶し(ラッチ)、必要に応じてコンピュータへ出力する。
【0038】
タッチ信号プローブ10の電気信号はタッチ信号処理部100に接続されており、タッチ信号処理部100から出力される変形タッチ信号と接点タッチ信号は回路240へ入力される。
回路240のラッチ処理は、一定時間毎(例えば10mS毎)に各軸カウンタ211〜213の出力を一次記憶してコンピュータ250へ出力する他、タッチ信号処理部100から変形タッチ信号が入力される毎に、直ちに各軸カウンタ211〜213の出力(現在位置座標値)を一次記憶する。その後(例えば、15mS後)、タッチ信号処理部100から接点タッチ信号が入力されると、変形タッチ信号に基づいて最後にラッチした現在位置座標値をタッチ信号プローブによる検出座標値としてコンピュータ250へ出力する。
【0039】
コンピュータ250は、必要に応じてゲイン信号、しきい値信号、着座修正信号をタッチ信号処理部100へ出力して、タッチ信号プローブの制御切替えを行う。
次にプログラム制御三次元測定機における本件発明によるタッチ信号プローブの信号処理の流れを図8により説明する。
【0040】
ステップ10(S10)より処理を開始する。
まず、ステップ20(S20)においてワークWを三次元測定機の載物台へ載置する。
次に、ステップ30(S30)において、三次元測定機の各軸を原点へ復帰させ、タッチ信号処理部100に対してゲイン信号(低ゲイン)、しきい値信号、着座修正信号を出力し、タッチ信号処理部100を経由してタッチ信号プローブ10を初期化し、更に、コンピュータ250の図示しない表示手段、入力手段を用いて、図示しない記憶装置にあらかじめ格納されている測定プログラムの選択を行う。
ステップ40(S40)では、測定プログラムの1命令を読込み、その内容を解析する。
次に、ステップ50(S50)では測定命令か否かを判断し、測定命令である場合にはステップ60(S60)へ進む。測定命令でない場合(例えば、照明命令等)は、図示しないステップにおいて該当命令を実行して再度、ステップ40(S40)へ戻る。
【0041】
ステップ60(S60)では、測定命令の内容(測定の種類、測定座標値等)を解析し、測定個所(測定点)の手前3mmの位置へタッチ信号プローブ10を位置決めする。
位置決め終了後、ステップ70(S70)において、着座修正信号を出力し、スタイラスの着座位置を修正すると共に、ステップ80(S80)において、ゲイン信号(高ゲイン)を出力する(これにより感度が向上する)。また、この時点で、ステップ110(S110)において各軸現在座標値を記憶する一次記憶領域をすべてクリヤーしておく。
【0042】
その後、ステップ90(S90)において、タッチ信号プローブ10をワークWの測定点へ向けて低速で移動させる。この時の移動目標点は、測定点よりも1mm程度ワーク側に設定してタッチ信号プローブ10の接触子24が確実にワークWに接触(衝突)するようにする。
次に、ステップ100において変形タッチ信号が入力されたか否かを判断し、入力があった場合は、ステップ110(S110)において各軸の現在座標値を各軸カウンタ211〜213から取り込んで一次記憶し、その後、ステップ120(S120)を処理する。この一次記憶領域への記憶は、ステップ100(S100)において、変形タッチ信号の入力が判断される毎に同一領域へ各軸現在座標値が重ね書きされるので、常に最新のデータが保持されることになる。一方、変形タッチ信号の入力がない場合は、ステップ120(S120)へ処理を移す。
【0043】
ステップ120(S120)では、接点タッチ信号が入力されたか否かを判断し、入力がない場合は、ステップ100(S100)へ処理を戻す。接点タッチ信号が入力された場合は、ステップ130(S130)において、ステップ110(S110)で最後に記憶された各軸現在座標値(つまり最新の各軸現在座標値)を検出座標値として内部記憶し、必要に応じてコンピュータ250の図示しない表示手段へ表示したり、図示しない出力手段(例:プリンタ)へ出力を行う。この時点ではタッチ信号プローブ10は送りを継続したままである。
ステップ140(S140)では、ゲイン信号(低ゲイン)を出力して、この後の変形タッチ信号の誤入力を防ぐ(これにより感度が低下する)。
【0044】
ステップ150(S150)において、各軸を減速停止させる。この時点では、タッチ信号プローブ10の接触子24は約400μm程度ワークの押込まれ、着座機構の開閉接点は確実に開放(離隔)した状態である。
その後、ステップ160(S160)においてプタッチ信号ローブ10を基準点(例えば、前記三次元測定機の原点とワークの中間点)へ戻す。
ステップ170(S170)において、測定プログラムの全命令を実行終了したか否か判断し、まだ終了していない場合は、ステップ40(S40)へ戻って命令の解析、実行を継続処理する。
全命令の実行を終了した場合は、ステップ180(S180)へ移行し測定処理を終了する。
【0045】
尚、図示していないが、ステップ90(S90)において指令した移動目標点に達しても接点タッチ信号が出ない場合、あるいはゲイン信号(低ゲイン)を出力中に変形タッチ信号が入力された場合は、ワークWの形状異常によってプローブがワークに接触しない、あるいは高速移動中にプローブがワークに衝突した、等の異常が考えられるため、三次元測定機の非常停止を行う。
また、ステップ90(S90)によって測定移動中に変形タッチ信号が入力される前に接点タッチ信号が入力された場合は、例えばワークWが軟質材料であるなどの測定条件不適が考えられる。この場合、1)測定を中止、2)再測定(リカバリ)、3)測定速度を速めて再測定、4)比較回路171のしきい値レベルを下げて再測定、5)あるいは増幅回路161のゲインを上げて再測定、のいずれとするかを、オペレータが選択可能となっている。ここで、前記3)〜5)はいずれも変形タッチ信号が出やすくなる。
【0046】
以上の処理によって、各測定点の座標値が検出座標値として内部記憶されるので、これらのデータを基にして形状解析等を行うことが出来る。
この実施形態においては、次の効果を奏する。
(1)変形検出素子から生成された変形タッチ信号によって各軸現在座標値をラッチし、その後、着座機構の開閉接点から生成された接点タッチ信号が入力された時点で、前記ラッチされた最新の各軸現在座標値を検出座標値とするので、ノイズによって変形タッチ信号が出力された場合でも、確実な検出座標値を得ることが出来る。
(2)変形検出素子出力に対してハイパスフィルタとローパスフィルタにより、最もノイズの多い周波数成分を遮断したので、確実に変形タッチ信号を得ることができる。
(3)変形タッチ信号生成の過程において増幅回路161にゲイン切替えを設けたので、非測定時の変形タッチ信号誤入力による非常停止を防ぐことが出来る。
【0047】
(4)変形タッチ信号生成の過程において比較回路171のしきい値の任意値入力設けたので、非測定時の変形タッチ信号誤入力による非常停止を防ぐことが出来る。
(5)タッチ信号処理部に、増幅回路161のゲイン切替えと、比較回路171のしきい値の任意値入力と、着座修正入力を設け、これらを自動制御としたので、確実な変形タッチ信号を容易に得ることが出来る。
(6)変形タッチ信号生成の過程において比較回路のしきい値の任意値入力設けたので、ワークが軟質材料であっても、変形タッチ信号の出力を確実に行うことが出来る。
(7)接触子24とワークWの接触後の着座毎に、腕部12には圧電素子14によって変位操作が加えられるため硬球13と円柱体23間に相対変位が生じ、硬球13と円柱体23間の摩擦の方向が同一方向に揃えられるため、接触点は最も安定した位置に着座して、着座ずれ誤差が小さくなり、着座の戻り精度が向上する。尚、摩擦の方向を揃えるためには、変位方向は常に一方向である必要はなく、伸長方向と短縮方向を交互に繰り返しても良い。
【0048】
(8)腕部12はベリリウム銅で形成されているので、圧電素子14による変位が与えられても発熱を少なく出来ると共に、金属疲労による劣化を防止して長寿命化を計ることが出来る。
(9)硬球13を弾性舌片で押圧して電気接続を計ったため、圧電素子14による硬球13の変位があっても、電気接続用のリード線断線などの故障を防止することができる。
(10)コイルばねを付勢要素71として用いる場合、コイル径は、着座点である円柱体23と硬球13の接触点で構成されるキネマティック円の5%から20%の範囲の値とすることによって、コイルばねの圧縮に伴う回転モーメントの影響による着座誤差を避けることができる。
【0049】
(11)コイルばねを付勢要素71として用いる場合、コイルばねのコイル径に対する長さは、1から2.5倍までの範囲とすることによって、コイルばねの圧縮に伴う回転モーメントの影響を避けつつ付勢方向の安定性を確保できる。
(12)コイルばねの軸を可動要素21の重心点に一致させて付勢するので安定した付勢が行える。
(13)更に可動要素21の重心点をキネマティック円の中心に一致させることによって更に安定した付勢が行える。
(14)付勢要素71による可動要素21の付勢点を略ピンポイントとして付勢手段の付勢に伴う回転モーメントの影響を避けることにより付勢要素71の設計上の自由度を向上させることが出来るとともに着座ずれ誤差が小さくなり、着座の戻り精度が向上する。
(15)着座要素を円柱と球で構成したことにより、高精度加工が容易に行え、着座誤差が小さくなる。
【0050】
本発明は、上記実施形態の他に各種の変形、応用が可能である。
例えば、図2において接触子24はスタイラス22の軸線上に配置しているが、図9に示すようなものであっても良い。
図9において、変位検出素子が圧電素子111,112,113,114から構成され、このうち互いに対向する一対の圧電素子111,113がスタイラスの軸対称となるように検出素子支持部1Eに装着され、残り一対の圧電素子112,114もスタイラスの軸対称となるように検出素子支持部1Fに装着されている。これらの圧電素子111,112,113,114は、同一形状とされている。
【0051】
圧電素子111,112,113,114が軸対称にスタイラスDの軸に対して角度αだけ傾斜して取り付けられていて、スタイラスDの捻じり(曲げ方向P)の力は各圧電素子の略長手方向に沿って伝達されるため、状態量の変化を十分に検出できる。
この構造のスタイラスの場合は図2に示すスタイラスに比べて変形検出素子が軸対称にスタイラスDの軸に対して角度αだけ傾斜して取り付けられていて、スタイラスDの捻じりに対して感度が向上するため、接触子がスタイラスの軸線上にない構造のプローブが実現でき、タッチ信号プローブの測定の応用性が向上する。
【0052】
又、図4の付勢要素71は、図10に示す変形例が可能である。
図10(A)は、圧縮コイルばね72の上端をハウジング41の天井部43に固定し、下端にピンポイント皿座金73を取りつける。ピンポイント皿座金73の下部には円錐ピンが突出している。可動要素21の重心位置には円錐形状の凹部が設けられており、前記円錐ピンをこの凹部に当接させて付勢を行う構造である。
図10(B)は、(A)に対して、ピンポイント皿座金73の代わりに円錐ロッド74を圧縮コイルばね72の下端に固定し、円錐ロッド74の円錐先端を可動要素21の凹部に当接して付勢を行う構造である。
図10(C)は、前記(A)に対してピンポイント皿座金73を圧縮コイルばね72の両端に固定し、可動要素21の重心位置と、その重心位置に対応するハウジング41の天井部43とに円錐形状の凹部をそれぞれ設け、それぞれピンポイント皿座金73の円錐ピンを当接して付勢を行う構造である。
【0053】
図10(D)は、前記(B)に対して円錐ロッド74を圧縮コイルばね72の両端に固定し、可動要素21の重心位置と、その重心位置に対応するハウジング41の天井部43とに円錐形状の凹部をそれぞれ設け、それぞれ円錐ロッド74の円錐先端を当接して付勢を行う構造である。
これらの付勢要素の変形例は、図10(A)から(D)の構造では圧縮コイルばねの圧縮に伴う回転モーメントの影響をほとんど受けないので、コイル径の制約がなくなり、設計の自由度が向上するとともに着座ずれ誤差が小さくなり、着座の戻り精度が向上する。
又、前記実施例における図6の回路161においてゲイン切替えのための信号は高ゲインと低ゲインを切替える切替え信号であるが、増幅度そのものを入力して、指定されたゲインに設定するものであっても良く、更にこの目的のためのゲイン切替えは、回路131から134において個別に行うものであっても良い。
【0054】
又、ノイズ除去を目的として回路161のゲイン切替えを行う他、回路171のしきい値を変更してノイズ除去を行っても良い。
更に、回路171のしきい値は、外部から入力せず、タッチ信号処理部の内部半固定値であっても良い。
これらの回路構成によって、非測定中のノイズ除去のための感度低下、軟質材ワーク測定のための感度向上を、増幅回路161における任意ゲイン設定、あるいは比較回路171における任意しきい値設定によって行えるため、変形タッチ信号を確実に得ることができ、タッチ信号プローブ10による測定の信頼性が向上する。
【0055】
又、前記実施形態において、図6の回路191で生成された変位駆動電圧は複数の相対変位手段(圧電素子14)へ同時に供給するのに代えて、各々の相対変位手段の性能バラツキに応じてゲイン調整を個別に行うようにすれば、各腕部の着座性能の均一化がはかれる。
更に、ゆっくりと固定要素側の着座機構を変位させる変位駆動電圧は、3個の圧電素子14へ同時に供給するのに代えて、それぞれの圧電素子14へ時間差をもって供給しても良い。これによって、可動要素の有害な振動を抑圧しやすくなる。
又、前記実施形態の単安定マルチバイブレータの時間幅は約100mSとしたが、この時間幅の設定は三次元測定機における測定速度や、タッチ信号プローブのスタイラスの長さ、あるいはノイズ条件によって最適な値とすれば良い。
【0056】
更に、図8においては、変形タッチ信号と接点タッチ信号を個別に監視する方法を取ったが、両信号の論理積の結果によって、図8のステップ120の判断処理を行っても良い。この方法によれば、検出座標値をより確実に得ることができる。
又、着座修正信号による着座接触点の変位は、一回の着座修正信号に毎に、一方の変位極限から他方の変位極限へ変位させるものであっても良く、また一回の着座修正信号に毎に、一方の変位極限から他方の変位極限へ変位した後もとの一方の変位極限へ戻るものであっても良い。同様に、一方の変位極限と他方の変位極限間数往復するものであってもよい。
【0057】
更に、図8では、プログラム制御三次元測定機において前もって作成済の測定プログラムを実行する場合のタッチ信号プローブの信号処理の流れを示したが、コンピュータの入力手段から測定点座標値を入力して一個所の座標値測定を行う半自動測定(NCにおけるMDI(Manual Data Input)に相当)や、プローブを把持して移動させ、測定を行う手動測定においても、ゲイン、しきい値、着座修正の信号を適宜タッチ信号処理部100へ与えてタッチ信号プローブ10の制御を自動で行っても良い。
例えば、前記半自動測定の場合は、前記測定点座標値入力後にスタートボタンが押されたら、プローブの初期化を行った後、図8のステップ60からステップ150(又はステップ160)を実施すれば良い。
【0058】
又、手動測定の場合は、各軸カウンタ211〜213の現在座標値を常時監視(例えば10mS毎)し、前回の現在座標値と今回の現在座標値の差分から各軸の移動速度を求め、各軸の合成速度が一定速度以上の場合は、ゲイン信号(低ゲイン)としきい値信号(高レベル)をタッチ信号処理部100へ出力し、一定速度未満の場合はゲイン信号(高ゲイン)としきい値信号(低レベル)を出力する。更に、移動中から停止中に状態が変化したことを検出して着座修正信号を出力する。このようにすれば半自動測定あるいは手動測定であってもタッチ信号プローブの制御が自動で行われるので、変形タッチ信号が確実に得られ、測定が容易になると共に、測定の信頼性が向上する。
【0059】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明のタッチ信号プローブの信号処理装置および信号処理方法によれば、スタイラスの変形を検出して生成した変形タッチ信号に対して、各種のノイズ除去操作を講じた上、着座要素からなる開閉接点から生成される開閉タッチ信号を確認信号として用いるので、変形タッチ信号が確実に得られ、測定が容易になると共に、測定の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のタッチ信号プローブの構造図である。
【図2】スタイラスの構造図である。
【図3】着座機構の構造図である。
【図4】本発明によるタッチ信号プローブの断面図である。
【図5】本発明によるタッチ信号プローブの部分図である。
【図6】本発明によるタッチ信号処理部のブロック図である。
【図7】本発明によるタッチ信号プローブを用いる三次元測定機のブロック図である。
【図8】本件発明によるタッチ信号プローブの信号処理のフローチャートである。
【図9】スタイラスの変形例である。
【図10】付勢要素の変形例である。
【符号の説明】
1,22 スタイラス
10 タッチ信号プローブ
12 腕部
14 圧電素子
24 接触子
2,21 可動要素
23,3 円柱体
5,11 固定要素
6 硬球
7 付勢要素
100 タッチ信号処理部
200 三次元測定機
111,112,113,114,121,122,123,124 変形検出素子
Claims (12)
- 座標値を出力する座標値測定要素と、固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素とを有するタッチ信号プローブの信号処理装置において、
前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、
前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、
前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、
前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路と、
前記変形タッチ信号が出力された瞬間毎に前記座標値を入力して最新座標値として記憶を更新すると共に前記接点タッチ信号が出力された際に、前記最新座標値を検出座標値として出力するラッチ回路とを備え、
前記変形タッチ信号処理回路は、非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために、ゲイン切替え可能な増幅回路としきい値入力可能な比較回路との少なくともいずれかを設けたことを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。 - 請求項1に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記変形タッチ信号処理回路は、ハイパスフィルタ回路とローパスフィルタ回路を含むことを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項2に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記ハイパスフィルタ回路の遮断周波数は、3kHzから10kHzの範囲であることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項2または請求項3に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記ローパスフィルタ回路の遮断周波数は、50kHzから200kHzの範囲であることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項1に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記駆動手段は、前記固定要素側における前記接触点及び前記可動要素側における前記接触点を、相対的に少なくとも所定距離変化させる接触点変位手段であることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項1に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記駆動手段は、前記可動要素に作用する外力がなくなった後、前記固定要素側における前記接触点と前記可動要素側における前記接触点の接触を保ちつつ一定時間の間のみ、相対振動させることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項1から請求項6のいずれかに記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記付勢要素による前記可動要素への付勢点を含む付勢領域の直径は、前記スタイラスの軸を中心とし、前記接触点を円周上に含むキネマティック円の直径に対して20%以下で且つ略ピンポイント以上であることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項7に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記付勢領域の中心は、前記可動要素の重心位置に略一致することを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項7に記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記付勢領域の中心は、前記キネマティック円の中心に略一致することを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 請求項7から請求項9のいずれかに記載のタッチ信号プローブの信号処理装置において、前記付勢要素はコイルばねで構成され、該コイルばねの長さは、該コイルばねの直径の1倍以上且つ2.5倍以下であることを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。
- 固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素とを有し、座標値を測定可能な表面性状測定機に用いられるタッチ信号プローブの信号処理装置において、
前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、
前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、
前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、
前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路と、
前記変形タッチ信号が出力された瞬間毎に前記座標値を入力して最新座標値として記憶を更新すると共に前記接点タッチ信号が出力された際に、前記最新座標値を検出座標値として出力するラッチ回路とを備え、
前記変形タッチ信号処理回路には、非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために、ゲイン切替え可能な増幅回路としきい値入力可能な比較回路との少なくともいずれかとともに、ハイパスフィルタ回路を含み、
前記表面性状測定機からの指令に基ずき、前記ゲイン切替えとしきい値入力との少なくともいずれかと、前記駆動手段の駆動を行うことを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理装置。 - 固定要素と、変形検出素子を備えたスタイラスが取り付けられた可動要素と、前記固定要素上に設けられた固定要素側着座要素と、前記可動要素に設けられ前記固定要素側着座要素と互いに離隔した3箇所のそれぞれにおいて2点一対の接触点で接触する可動要素側着座要素と、前記固定要素側着座要素に対して、前記可動要素側着座要素を相対駆動させる駆動手段と、前記スタイラスに外部から力が作用したとき前記固定要素に対する前記可動要素の変位を許容し、かつ、前記スタイラスに作用する外力がなくなったときに付勢力により前記可動要素を静止位置に復帰させる付勢要素と、演算条件を切替え可能な演算回路を含んで前記変形検出素子から変形タッチ信号を生成する変形タッチ信号処理回路と、前記固定要素側着座要素と前記可動要素側着座要素を開閉電気接点とし、前記開閉電気接点から接点タッチ信号を生成する接点タッチ信号処理回路とを有し、座標値を測定可能な表面性状測定機に用いられるタッチ信号プローブの信号処理方法において、
前記タッチ信号プローブをワークの測定点の手前へ位置決めするステップと、
前記駆動手段を駆動して着座修正を行うステップと、
前記演算回路の前記演算条件を切替えて感度を向上させるステップと、
前記タッチ信号プローブを前記測定点へ向けて測定送りを行うステップと、
変形タッチ信号が入力されると前記座標値を入力しての最新座標値の記憶を更新するステップと、
接点タッチ信号が入力されると前記最新座標値を検出座標値として出力するステップと、
非測定時の変形タッチ信号誤生成を防ぐために前記演算回路の前記演算条件を切替えて感度を低下させるステップと、
を含むことを特徴とするタッチ信号プローブの信号処理方法。
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