JP3757845B2 - 変速機付きハイブリッド車駆動構造の運転方法 - Google Patents

変速機付きハイブリッド車駆動構造の運転方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関と電動機の組合せにより車輪を駆動するハイブリッド車の駆動構造の運転方法に係る。
【0002】
【従来の技術】
近年、ますます高まりつつある大気環境保全と燃料資源の節約の重要性の認識の下に、内燃機関と電動機の組合せにより車輪が駆動されるハイブリッド車が脚光を浴びてきている。多様な回転数と駆動トルクの組合せが求められる自動車の車輪を内燃機関と電動機により駆動する場合に、その駆動態様をどのようにするかについては、種々の態様が可能であろうが、自動車は元来専ら内燃機関のみによって駆動されてきたものであり、また自動車の分野に於けるハイブリッド車は、従来の内燃機関のみによる駆動の一部を状況が許す限り電動駆動にて置き換えることから出発しているので、ハイブリッド車といえども、内燃機関のみによる駆動が可能となっていることは当然と考えられている。特開平11−198669には、内燃機関のクランク軸に第一の電動発電機を直列に接続して内燃機関または電動機のいずれか一方または両方により駆動される動力軸を構成し、かかる動力軸と第二の電動発電機の出力軸とをそれぞれ遊星歯車機構のリングギヤとサンギヤとに接続して組み合わせ、遊星歯車機構のキャリアを出力軸として、これに変速機を接続してなるハイブリッド車駆動構造が示されている。かかるハイブリッド車駆動構造によれば、内燃機関のみを原動機として働かせても、変速機の変速機能を得て、従来の内燃機関車と同様に自動車に求められる多様な運行態様に対応できる。これは上記の如きハイブリッド車の由来を反映する一つの典型であると思われる。
【0003】
しかし、一方、自動車の原動機として内燃機関と電動機とを組み合わせる機会に、車輪に求められる回転数対駆動トルクと内燃機関より得られる回転数対駆動トルクの間の乖離に起因する内燃機関出力軸と車軸の間の回転数の差を電動機により差動的に吸収し、内燃機関出力軸と車軸の間に従来から必要とされていた変速機を無くすことが本件出願人と同一人により提案された。添付の図1は、そのようなハイブリッド車の駆動構造を示す概略図である。
【0004】
図1に於いて、1は内燃機関であり、図には示されていない車体に取り付けられている。2はその出力軸(クランク軸)である。3は遊星歯車装置であり、4はそのサンギヤ、5はリングギヤ、6はプラネタリピニオン、7はキャリアである。クランク軸2はキャリア7に連結されている。8は第一の電動発電機(MG1)であり、コイル9と回転子10と有し、回転子10はサンギヤ4と連結されている。コイル9は車体より支持されている。リングギヤ5にはプロペラ軸11の一端が連結されている。かくして、遊星歯車装置3は、内燃機関の出力軸2に現れる内燃機関の出力を第一の電動発電機3と車輪駆動軸をなすプロペラ軸11とに分配する動力分配機構を構成している。プロペラ軸11の途中には第二の電動発電機(MG2)12が連結されている。第二の電動発電機12はコイル13と回転子14と有し、コイル13は車体より支持されている。プロペラ軸11に対する回転子14の連結は任意の構造であってよいが、図示の例では、プロペラ軸11に設けられた歯車15に回転子14により支持されて回転する歯車16が噛み合う構造とされている。プロペラ軸11の他端はディファレンシャル装置17を介して一対の車軸18に連結されている。車軸18の各々には車輪19が取り付けられている。
【0005】
図示の駆動構造に於いて、クランク軸2の回転とキャリア7の回転とは同じであり、今この回転数をNcで表すものとする。また第一の電動発電機8の回転とサンギヤ4の回転とは同じであり、今この回転数をNsで表すものとする。一方、リングギヤ5の回転と第二の電動発電機12の回転と車輪19の回転とは互いに対応し、最終的には車速に対応するものであるが、それぞれの回転数は歯車15と16の間の歯数の比、ディファレンシャル装置17に於ける減速比、およびタイヤ径によって異なる。しかし、今ここでは便宜上これらの部分の回転数をリングギヤ5の回転数にて代表するものとし、それをNrとする。そうすると、内燃機関と二つの電動発電機とを遊星歯車装置にて図示の如く組み合わせたハイブリッド車駆動構造に於ける内燃機関と二つの電動発電機MG1、MG2の回転数Nc、Ns、Nrの間の関係は、遊星歯車装置の原理に基づき、図2に示す線図により表される。図にてρはリングギヤの歯数に対するサンギヤの歯数である(ρ<1)。Ncは機関回転数により定まり、Nrは車速により定まるので、Nsは機関回転数と車速の如何により
Ns=(1+1/ρ)Nc−(1/ρ)Nr
として定まる。
【0006】
一方、キャリアとサンギヤとリングギヤのトルクをTc、Ts、Trとすると、これらは
Ts:Tc:Tr=ρ/(1+ρ):1:1/(1+ρ)
の比にて互いに平衡し、従ってまた、これら3要素のいずれかがトルクを発生しあるいは吸収するときには、上記の平衡が成り立つまで相互間にトルクのやりとりが行なわれる。
【0007】
以上の如き駆動構造を備えたハイブリッド車に於いて、内燃機関、MG1、MG2の作動は、図には示されていない車輌運転制御装置により、運転者からの運転指令と車輌の運行状態とに基づいて制御される。即ち、車輌運転制御装置はマイクロコンピュータを備え、運転者からの運転指令と種々のセンサにより検出される車輌の運行状態とに基づいて目標車速および目標車輪駆動トルクを計算すると共に、蓄電装置の充電状態に基づいて蓄電装置に許される電流出力あるいは蓄電装置の充電のために必要な発電量を計算し、これらの計算結果に基づいて、内燃機関を休止を含む如何なる運転状態にて運転すべきか、またMG1およびMG2をいかなる電動状態あるいは発電状態にて運転すべきかを計算し、その計算結果に基づいて内燃機関、MG1、MG2の作動を制御する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
課題に関する関連出願
以上の如く内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造によれば、図2より理解される通り、内燃機関出力軸の回転数Ncと車速に対応する回転数Nrの各々の値およびその間の相対関係は、その変化を第一の電動発電機の回転数Nsにて吸収することにより大幅に変えることができるので、かかるハイブリッド車駆動構造に於いては、これまで変速機は不要とされていた。即ち、動力分配機構の調節次第で、NcとNrの間の関係を自由に変えることができ、また停車中(Nr=0)であっても機関運転(Nc>0)すること、逆に、前進中(Nr>0)であっても機関停止(Nc=0)すること、あるいは機関の運転または停止(Nc≧0)にかかわらず後進(Nr<0)することができる。
【0009】
しかし、MG2の回転数は車速の如何によって左右され、蓄電装置の充電度は車速とは一応無関係であるため、MG2が蓄電装置の充電のための発電機として作動するには大きな制約がある。そこで蓄電装置の充電は専らMG1に頼ることとなり、逆に車輪の電動駆動は専らMG2に頼ることとなる。そのため変速機を備えない上記の如きハイブリッド車駆動構造に於いて、低車速領域にても必要に応じて高い車輪駆動トルクを得ることができる車輌運転性能を確保しておくためには、畢竟MG2は大型化せざるを得ない。
【0010】
このことを車軸トルクの要求値の大きさを車速に対比させた車速対車軸トルクの座標系で示せば、図3の通りである。即ち、今、車輌の内燃機関を広い車速域に亙って高燃費にて運転し、しかも車輌の車速対車軸トルク性能として望まれる限界性能として線Aにて示す如き性能を車輌に持たせようとすれば、高燃費を得る内燃機関の車速対車軸トルク性能は領域Bの如くほぼ平らになるので、残りを専らMG2にて補わなければならず、その車速対車軸トルク性能は領域Cを賄うものでなければなない。そのためMG2は低回転速度にて高トルクを発生することができるよう、それ相当の大型のものとされなければならない。
【0011】
しかし、図3を吟味すれば、領域Cの深さは領域Bの深さに対比して些か深すぎるのではないかとの疑問がもたれる。これは、観点を変えれば、内燃機関と第一および第二の電動発電機なる三つの原動装置の大きさの相対的釣合い、特に内燃機関と第二の電動発電機の大きさの釣合いの問題である。かかる疑問に端を発し、この点に関し上記の如きハイブリッド車輌駆動構造を更に改良するものとして、本件出願人と同一人は、別途出願に係わる特願2001−323578号にて内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に於いて、前記車輪駆動軸の途中または該車輪駆動軸への前記第二の電動発電機の連結の途中の少なくとも一方に変速機を設けたことを特徴とするハイブリッド車駆動構造を提案した。
【0012】
上記別件特願2001−323578号による変速機付きハイブリッド車駆動構造は、車輪駆動軸の途中に変速機が設けられている場合にも、従来の変速機付き内燃機関駆動車輌におけると同様に、低車速域にては変速機を減速比が大きい低速段に切り換え、高車速域にては変速機を減速比が小さい高速段に切り換える要領にて運転されてよい。
【0013】
本願発明の課題
上記別件特願2001−323578号にて、内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に変速機を組み込むことを提案したのは、特に高い車軸トルクが要求された場合に対する第二の電動発電機の必要容量を小さくするためである。しかし、一般の平地における自動車の運行においては、車輌発進時であってもさほど高い車軸トルクが要求されるわけではない。
【0014】
そこで、本発明は、上記の認識に基づき、内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結され、前記車輪駆動軸の途中に変速機を設けたハイブリッド車駆動構造を、変速機の切換制御に関し格別の考慮を払って運転する方法を提供することを課題としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するものとして、本発明は、内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結され、前記車輪駆動軸の途中に変速機が設けられたハイブリッド車駆動構造の運転方法にして、前記変速機を所定の高速段に設定し、前記内燃機関を高燃費にて運転して車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず該高速段を保持して運転することを特徴とするハイブリッド車駆動構造運転方法を提案するものである。
【0016】
尚、電動発電機なる語は、電動機および発電機の両機能を有する手段を指すが、本願発明は、内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造の、短期的車輌駆動性能に関するものであり、換言すれば、車輌のハイブリッド駆動における内燃機関駆動と、電動駆動と、蓄電装置に対する自己充電作用の相互関係が関与する長期的車輌駆動性能に関するものではないので、本願発明の作用および効果に関する限り、第一および第二の電動発電機は、いずれも単なる電動機であってよいものである。確かに、実働する車輌駆動装置としては、既に記した通り、第二の電動発電機は専ら電動機として作動せざるを得ず(しかし発電機として作動することも可能)、従って長期的に作動可能な車輌駆動装置を構成するためには、第一の電動発電機は発電機能を有している必要があるが、この必要性は本願発明の技術的思想とは関係ないことである。従って、本発明の構成に於いて、電動発電機と記載された手段は、発電機能を有しない電動機をその均等物として含むものとする。
【0017】
上記の如きハイブリッド車駆動構造運転方法は、更に変速機を前記高速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することが追加されてよい。
【0018】
上記の如きハイブリッド車駆動構造運転方法は、更に変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することが追加されてよい。
【0019】
更にまた、上記の如きハイブリッド車駆動構造運転方法は、変速機の速度段を切り換えたときには、所定の時間が経過するまで次の速度段の切換えを禁止するようにされてよい。
【0020】
更にまた、上記の如きハイブリッド車駆動構造運転方法は、車軸トルクの要求値に対応するのに変速段の変更を要するとき、所定の時間以内に限り変速段の変更に代えて前記第一および第二の電動発電機の少なくとも一方の出力変更により対応するようにされてよい。
【0021】
更にまた、上記の如きハイブリッド車駆動構造運転方法は、運転方法がノーマル運転モードとスポーツ運転モードとの間に切り換えられ、スポーツ運転モードに切り替えられたときには、変速機を車速の変化に拘わらず前記高速段に保持することは解除されるようになっていてよい。
【0022】
【発明の作用及び効果】
内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造では、全車速域にわたって車速の変化や内燃機関の運転状態の変化による車軸回転数と内燃機関回転数の各々およびその間の相対関係の変化は、第一の電動発電機回転数の調節にて吸収されるので、その車輪駆動軸の途中に変速機が設けられていても、かかるハイブリッド車駆動構造を運転するにあたっては、変速機を所定の高速段に設定し、内燃機関を高燃費にて運転して車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず該高速段を保持して運転するようにすれば、一般の平地における自動車の運行の場合の如く、車輌発進時にもさほどの車軸トルクは必要とされないとき、変速機が設けられていても、それを所定の高速段に保ったままとし、全車速域にわたって変速機切り換え制御を要することなく、必要に応じて内燃機関を高燃費にて運転して、変速ショックや変速遅れのないハイブリッド車の運転を行うことができる。
【0023】
更に、変速機を前記高速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に保持して車輌の運転を行い、また同様に、変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に保持して車輌の運転を行うことにより、変速回数を減らし、変速ショックや変速遅れのないハイブリッド車の運転を行うことができる。
【0024】
また、この型のハイブリッド車駆動構造では、全車速域にわたって車軸回転数と内燃機関回転数の各々およびその間の相対関係の変化は、第一の電動発電機回転数の調節にて吸収でき、変速機は車軸トルク要求値が特に大きくなったときそれに対応するために設けられているので、車軸トルク要求値の変化に対する速度段の切り換えの対応は、従来の単に内燃機関に変速機を組み合わせた車輌駆動構造におけるほど厳しくはない。従って、変速機の速度段を切り換えたときには、適当な所定時間を設定し、そのような所定時間が経過するまで次の速度段への切換えを禁止することにより、変速機の変速機能発揮を損なうことなく、変速段切り換えの境界近傍にて車軸トルク要求値が変動することにより変速機の作動が不安定になることを防止することができる。また、かかる切換え禁止時間を設けることにより、変速境界線をアップシフト用とダウンシフト用とに分け、両境界線を互いに引き離してその間にヒステリシスを持たせる対策を行わなくても、変速ハンチングが生ずることを回避できる。
【0025】
また、この型のハイブリッド車駆動構造では、全車速域にわたって車軸回転数と内燃機関回転数の各々およびその間の相対関係の変化は、第一の電動発電機回転数の調節にて吸収でき、また第一または第二の電動発電機は短時間であればその定格出力を越えて運転されても問題はないので、車軸トルクの要求値に対応するのに変速段の変更を要するとき、所定の時間以内に限り変速段の変更に代えて第一および第二の電動発電機の少なくとも一方の出力を変更することにより対応することができ、かかる要領によっても変速機の切り換え頻度を低減し、また変速ハンチングの発生を回避することができる。
【0026】
また、運転方法がノーマル運転モードとスポーツ運転モードとの間に切り換え可能とされ、スポーツ運転モードに切り換えられたときには、変速機を車速の変化に拘わらず前記高速段を保持することを解除するようになっていれば、運転者の好みや運転地域の起伏状態に応じて、折角設けられた変速機の作動を抑制することなく、それを従来通りの作動態様にて作動せしめ、車輌の運転特性を広げることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
図4および図5は、図1に示す如く内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に、上記別件特願2001−323578号により変速機を組み込み、本発明による運転方法の対象となるハイブリッド車駆動構造を構成した二つの実施例を示す図1と同様の概略図である。図4および図5に於いて、図1に示す部分に対応する部分は対応する符号により示されている。
【0028】
図4に示す第一のハイブリッド車駆動構造に於いては、変速機100は車輪駆動軸の途中であって第二の電動発電機MG2の連結部より内燃機関の側に設けられており、図1についての説明の文言でいえば、車輪駆動軸の一部をなすプロペラ軸11の一部であってMG2の連結部をなす歯車15よりも内燃機関の側に設けられている。変速機100は2段ないし3段のものであってよく、更に後進段を含むものであってよい。そのような変速機は既に公知の技術により種々の態様にて得られるが、前進3段と後進段を有するものについてその一例を解図的に示せば、図6の通りである。
【0029】
図6に於いて、20、22、24、26は一つの遊星歯車機構を構成するサンギヤ、リングギヤ、プラネタリピニオン、キャリアであり、また21、23、25、27は他の一つの遊星歯車機構を構成するサンギヤ、リングギヤ、プラネタリピニオン、キャリアであり、28(C1)、29(C2)はクラッチであり、30(B1)、31(B2)はブレーキであり、32(F1)はワンウェイクラッチである。そしてこれらの回転要素が、33を入力軸とし、34を出力軸として、その間に図示の如く組み合わされていると、クラッチC1が係合されることにより減速比が最も大きい第1速段が達成され、クラッチC1とブレーキB1とが係合されることにより減速比が中程の第2速段が達成され、クラッチC1とC2とが係合されることにより減速比が最も小さい(減速比=1)第3速段が達成され、クラッチC2とブレーキB2とが係合されることにより後進段が達成される。
【0030】
図4のハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機100が3段の変速を与えるようになっているとすると、車速対車軸トルク座標系で見たトルク分担は、変速機を内燃機関回転数と車軸回転数との間に調和をもたらすよう切り換えるという従来の変速段切り換えの概念に従えば、変速機がない場合の図3に対比して、例えば、図7の如く変更されてよい。この線図に於いて、領域B1、B2、B3は、それぞれ変速機を第1速段、第2速段、第3速段にすることにより内燃機関にて車軸トルクを賄うことができるトルクの大きさを示しており、MG2は残る領域Cを賄うことができるようになっていればよい。(図7はいわゆる変速線図ではなく、従って、例えば、車速と車軸トルク要求値とが座標に沿った値で領域B1内にあることにより、変速段が第1速段に設定されることを意味するものではない。)
【0031】
図5に示すハイブリッド車駆動構造に於いては、変速機101は車輪駆動軸の途中であって第二の電動発電機MG2の連結部より内燃機関とは隔たる側に設けられており、図1についての説明の文言でいえば、車輪駆動軸の一部をなすプロペラ軸11の一部であってMG2の連結部をなす歯車15よりも内燃機関とは隔たる側に設けられている。変速機101もまた2段ないし3段のものであってよく、更に後進段を含むものであってよく、図6に示す如きものであってよい。
【0032】
図5のハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機101が3段の変速を与えるようになっているとすると、車速対車軸トルクの座標系に於ける変速段に応じたトルクの分担領域は、同じく従来の変速段切り換えの概念に従えば、かかる変速機がない場合の図3に比して、例えば、図8の如く変更されてよい。この線図に於いては、領域B1、B2、B3が、それぞれ変速機を第1速段、第2速段、第3速段にすることにより内燃機関よって賄われるトルクの大きさを示し、領域C1、C2、C3が、それぞれ変速機を第1速段、第2速段、第3速段にすることによりMG2によって賄われるトルクの大きさを示している。この場合にも、図8より分かる通り、MG2に求められる最大トルクは、図3の場合に比して大幅に低減される。
【0033】
しかし、本発明は、図4および図5に示されている如きハイブリッド車駆動構造を、車速に対応した車軸トルク要求を示す車速対車軸トルクの座標系で見て、それぞれ図9および図10に示すよう変速段に応じた分担にして運転することを提案するものである。即ち、いずれの場合にも、かかる車速対車軸トルクの座標系で見て、線Aにて縁取られた運転可能領域内を車軸トルク要求値の大きさに応じて車速軸に平行な境界線により仕切るものである。これは、図9の場合には、変速機が第3速段に切り換えられているときには、車速に対応して領域B3と領域Cとを加算した大きさの車軸トルクを賄うことができ、変速機が第2速段に切り換えられているときには、更にそれに車速に対応して領域B2を加算した大きさの車軸トルクを賄うことができ、変速機が第1速段に切り換えられているときには、更にそれに車速に対応して領域B1を加算した大きさの車軸トルクを賄うことができることを意味する。
【0034】
また図10の場合には、変速機が第3速段に切り換えられているときには、車速に対応して領域B3と領域C3とを加算した大きさの車軸トルクを賄うことができ、変速機が第2速段に切り換えられているときには、更にそれに車速に対応して領域B2と領域C2とを加算した大きさの車軸トルクを賄うことができ、変速機が第1速段に切り換えられているときには、更にそれに車速に対応して領域B1と領域C1とを加算した大きさの車軸トルクを賄うことができることを意味する。こうすることにより、車軸の要求駆動トルクが高くない限り、内燃機関回転数と車速の間の相違の調整は変速機の変速段切り替えによらずとも動力配分機構により行い、車軸の要求駆動トルクが高くなった場合にのみ変速機によるトルク増大機能の助けを得てこれに対処することができる。
【0035】
但し、図4および図5に示されている如きハイブリッド車駆動構造は、それぞれ図7および図8に示すような変速区分にて運転されてもよいものである。そこで、例えばノーマル運転モードとスポーツ運転モードの如き異なる運転モードの間で切り換えができるようにし、運転者の好みや車輌が運転される地域の路面の起伏状態等に応じて運転モードを切り換えて作動させることができるようにし、ノーマル運転モードのときには図9あるいは図10に従ってハイブリッド車駆動構造を作動させ、スポーツ運転モードのときには例えば図7あるいは図8に従ってハイブリッド車駆動構造作動させるようにしてよい。
【0036】
図6に例示した如き変速機をそのクラッチC1、C2およびブレーキB1、B2の係合または解除の制御により第1変段、第2変段,第3変段の間に切り換える制御は、図には示されていないが、マイクロコンピュータを備え、運転者からの運転指令と車輌の運行状態を検出する各種センサからの信号に基づいて車輌の運転を制御する任意の公知の車輌運転制御装置によって行われてよく、図7あるいは図8図および9あるいは図10の如き車速対車軸トルクの変速による車軸トルク分担マップが与えられれば、これに沿って変速機を作動させることは当業者にとって容易である。
【0037】
また、そのような車輌運転制御装置による図4または図5に示すハイブリッド車駆動構造の図9または図10に示す車軸トルク分担マップに沿った運転において、速度段を切り換えたときには、所定の時間が経過するまで次の速度段への切換えを禁止することは、特に実施例を図示するまでもなく当業者にとって自明であろう。
【0038】
また、内燃機関とMG1およびMG2とを遊星歯車機構にて組み合わせた図示のハイブリッド車駆動構造より理解される通り、内燃機関がある一定の出力状態にて運転されていて、車軸トルクの要求値が急に上昇したとき、わざわざ変速機の変速段を低速側へ切り換えることによって車輪駆動軸への出力トルクを増大させなくても、MG1またはMG2の少なくとも一方の出力を上げることにより車軸トルク要求値の増大に対処することができる。ただその場合、車軸トルク要求値の上昇が領域B3より領域B2へあるいは領域B2より領域B1への遷移を促すものであるときには、そのような車軸トルクの増大は変速機の切り換えによって対処されるのが、MG1およびMG2を定格負荷内にて運転する上で好ましい。従って、そのような場合にMG1またはMG2の出力増大により対処したのでは、MG1またはMG2を定格出力以上で作動させる恐れがある。しかし、たとえMG1またはMG2に定格出力以上の負荷をかけることがあっても、それが所定の時間内であれば許されると考えられる。
【0039】
そこで、車軸トルクの要求値が領域B3より領域B2への遷移を促すよう増大したとき、所定の時間が経過するまで変速段を切り換える代わりにMG1およびMG2の少なくとも一方により車軸トルクを増大させるようにすれば、極く一時的な車軸トルク要求値の増大に対し変速機が頻繁に切り換えられることを防止し、ハイブリッド車駆動構造の運転をより滑らかで静粛なものとすることができる。かかるハイブリッド車駆動構造の運転制御も、図1およびその作動に関する上記の記載によれば、特に制御のシーケンスをフローチャート等により図示して説明しなくても、この技術の分野における公知の車輌運転制御装置を用いて容易に行なえることは当業者にとって明らかであろう。
【0040】
以上に於いては本発明をいくつかの実施例について詳細に説明したが、本発明がこれらの実施例にのみ限られるものではなく、本発明の範囲内にて他に種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による運転方法の対象となるハイブリッド車駆動構造の原型を示す概略図。
【図2】図1に示すハイブリッド車駆動構造に於ける内燃機関と二つの電動発電機MG1、MG2の回転数Nc、Ns、Nrの間の関係を示す線図。
【図3】図1に示すハイブリッド車駆動構造に於いて内燃機関および電動発電機MG2の各々により分担されるべき車軸トルクの大きさを車速に対して示す線図。
【図4】図1に示すハイブリッド車駆動構造について本発明による運転方法の対象となる改良の第一の実施例を示す概略図。
【図5】図1に示すハイブリッド車駆動構造について本発明による運転方法の対象となる改良の第二の実施例を示す概略図。
【図6】三つの変速段と後進段とを提供する変速機の一例を示す概略図。
【図7】図4に示すハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機が従来の変速態様にて作動される場合の内燃機関および電動発電機MG2の各々により分担されるべき車軸トルクの大きさを車速に対して示す線図。
【図8】図5に示すハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機が従来の変速態様にて作動される場合の内燃機関および電動発電機MG2の各々により分担されるべき車軸トルクの大きさを車速に対して示す線図。
【図9】図4に示すハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機が本発明の変速態様にて作動される場合の内燃機関および電動発電機MG2の各々により分担されるべき車軸トルクの大きさを車速に対して示す線図。
【図10】図5に示すハイブリッド車駆動構造に於いて、変速機が本発明の変速態様にて作動される場合の内燃機関および電動発電機MG2の各々により分担されるべき車軸トルクの大きさを車速に対して示す線図。
【符号の説明】
1…内燃機関
2…内燃機関の出力軸
3…遊星歯車装置
4…サンギヤ
5…リングギヤ
6…プラネタリピニオン
7…キャリア
8…第一の電動発電機(MG1)
9…コイル
10…回転子
11…プロペラ軸
12…第二の電動発電機(MG2)
13…コイル
14…回転子
15,16…歯車
17…ディファレンシャル装置
18…車軸
19…車輪
20…サンギヤ
22…リングギヤ
24…プラネタリピニオンヤ
26…キャリア
21…サンギヤ
23…リングギヤ
25…プラネタリピニオン
27…キャリア
28,29…クラッチ
28,29…ブレーキ
32…ワンウェイクラッチ
100,101…変速機

Claims (11)

  1. 内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結され、前記車輪駆動軸の途中に変速機が設けられたハイブリッド車駆動構造の運転方法にして、前記変速機を所定の高速段に設定し、前記内燃機関を高燃費にて運転して車軸トルク要求値に対応できる限り、全車速域にわたって車速の変化に拘わらず該高速段を保持して運転することを特徴とするハイブリッド車駆動構造運転方法。
  2. 前記変速機を前記高速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず前記変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  3. 前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず前記変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  4. 前記変速機の速度段を切り換えたときには、所定の時間が経過するまで次の速度段の切換えを禁止することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  5. 車軸トルクの要求値に対応するのに変速段の変更を要するとき、所定の時間以内に限り変速段の変更に代えて前記第一および第二の電動発電機の少なくとも一方の出力変更により対応することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  6. ノーマル運転モードとスポーツ運転モードとの間に切り換えられ、前記スポーツ運転モードに切り替えられたときには、前記変速機を車速の変化に拘わらず前記高速段を保持することを解除することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  7. 内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結され、前記車輪駆動軸の途中に変速機が設けられたハイブリッド車駆動構造の運転方法にして、前記変速機を所定の高速段に設定し、前記内燃機関を高燃費にて運転して車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず該高速段を保持して運転し、車軸トルクの要求値に対応するのに変速段の変更を要するとき、所定の時間以内に限り変速段の変更に代えて前記第一および第二の電動発電機の少なくとも一方の出力変更により対応することを特徴とするハイブリッド車駆動構造運転方法。
  8. 前記変速機を前記高速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず前記変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  9. 前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に設定した状態では車軸トルク要求値に対応できないが、前記変速機を前記高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に設定すれば車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず前記変速機を該高速段に次ぐ下の変速段に次ぐ下の変速段に保持して運転することを特徴とする請求項8に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  10. 前記変速機の速度段を切り換えたときには、所定の時間が経過するまで次の速度段の切換えを禁止することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
  11. ノーマル運転モードとスポーツ運転モードとの間に切り換えられ、前記スポーツ運転モードに切り替えられたときには、前記変速機を車速の変化に拘わらず前記高速段を保持することを解除することを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
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