JP3753380B2 - 生体用超弾性チタン合金の製造方法及び生体用超弾性チタン合金 - Google Patents

生体用超弾性チタン合金の製造方法及び生体用超弾性チタン合金 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
従って、本発明は所定組成の合金の製造方法及びその製造方法により製造された生体用超弾性チタン合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
Ti−Ni系合金は、生体用の形状記憶合金や超弾性合金として人体に一時的あるいは半永久的に用いられてきた。しかし、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると思われるNi元素が体内で溶出することが懸念されている。そこで、Ti−Ni系合金は、Niが主要な構成元素であるため、アレルギー症状の面から問題視されており、そのため、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金への要求が高まっている。
【0003】
図11は、各種純金属元素に対する動物実験により生体に対する影響を示す図である。図11は、横軸を鶏胚心筋繊維芽組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維芽組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として純金属の人体に対する影響をまとめた結果(出典:Materials Science and Engineering A, A243(1998)244-249)を示した。この図によればV、Cu、Zn、Cd、Co、Hgなどは細胞毒性が強い元素であるが、Zr、Ti、Nb、Ta、Pt、Auなどは生体適合性に優れていることが示されている。
【0004】
さらに、図12には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内における耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果(出典:図11に同じ)を示した。この図によればPt、Ta、Nb,Ti、Zrは分極抵抗が高く、耐食性が高く、そのため生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
上記に基づいて、特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されるTi−Nb系合金に着目し、第3元素として毒性の指摘のないSnを加えた3元系合金を生体用の形状記憶合金として活用できることが提案されている。
【0006】
また、本発明者らは、特願2002−102531において、毒性がないとされるTiにMoと、Al、Ga、Geのうち何れかを添加して構成されるTi−Mo−Al系、Ti−Mo−Ga系、Ti−Mo−Ge系合金を生体用超弾性合金として提案する。
【0007】
上記のような生体用超弾性チタン合金は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステントのような生体用医療器具に、また、眼鏡のフレームにも使用可能である。
【0008】
【特許文献】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda,他4名,Materials Science and Engineering A, Elsevier Science,1998年3月15日,243巻,P.244-249
【非特許文献2】
舟久保煕康編、「形状記憶合金」、初版、産業図書株式会社、昭和59年6月7日、36ページ
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記のチタン合金は、溶体化処理することによりある成分組成で変形後の残留ひずみが小さくなる、つまり超弾性を得ることができる。しかし、従来の超弾性は、Ti−Ni系合金と比較して超弾性を示す限界のひずみ量が少なく、生体用医療器具に用いるには不十分であった。この原因としては、溶体化熱処理したために、すべり変形に対する臨界応力が低くなり、完全な超弾性発現する限界以上のすべり変形による永久変形が生じていることが考えられた。
【0010】
すべり変形に対する臨界応力を上昇させるためには、すべり変形を阻害する微細析出物を析出させるという方法が考えられる。Ti−Nb−Sn系合金を溶体化熱処理した後に時効熱処理させることにより、ω相を析出させて超弾性を得ている。しかし、ω相は析出させすぎると合金が脆くなるため、ω相の析出制御のみでは、ある程度以上の超弾性特性を得ることができない。
【0011】
また、すべり変形に対する臨界応力を上昇させるためには、すべり変形の起きにくい加工組織にするという方法が考えられる。チタン合金に所定の加工率以上の最終冷間加工を施し、ついで、所定温度で加熱処理することにより超弾性が得られるが、この方法では、ω相の析出を防ぐために比軽的高温で加熱処理するので、すべり変形に対する臨界応力が低くなり、実用的に必要と考えられるレベルの超弾性は得ることができなかった。
【0012】
従って、本発明は、所定組成の合金を用いて、優れた超弾性を有する生体用超弾性チタン合金とその製造方法を開発し、提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、下記の発明を提供する。
本発明の第1の態様は、TiにNbを必須成分として10〜40at%添加したチタン合金に、さらに、10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、および、15at%以下のInのなかから選択される1種又は2種以上を添加し、前記Mo、Al、Ge、GaおよびInのなかから選択される1種又は2種以上の成分の合計が30at%以下であり、かつ、前記必須成分のNbに、さらに前記Mo、Al、Ge、GaおよびInのなかから選択される1種又は2種以上の成分の合計を加えた総合計が60at%以下であって残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、
前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、
前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、
ついで、300℃〜700℃の温度で1分〜2時間にわたって再結晶させないか、もしくは再結晶による結晶粒粗大化が起きないような加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0015】
本発明の第の態様は、前記加熱処理の加熱温度が400〜500℃、加熱時間が1分〜2時間であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0016】
本発明の第3の態様は、4%引張後の残留ひずみが1.5%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。まず、超弾性の発現に関して簡単に述べる。図13は超弾性の発現条件を示した模式図(出典:形状記憶合金、舟久保煕康編、36ページ)である。ここで、Mfはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Asはオーステナイト変態開始温度であり、Afはオーステナイト変態終了温度である。Msはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度であり、MsとMdを結ぶ線は、応力誘起マルテンサイトが生成する臨界応力である。
【0018】
従って、すべり変形に対する臨界応力が(A)のように高ければ、この臨界応力以下の斜線を引いた応力−温度範囲で超弾性が発現する。すべり変形に対する臨界応力が(B)のように低ければ、超弾性は発現しないことを示している。また、図13は、超弾性はAsからMdの温度範囲で発現することを示している。
【0019】
ところで、生体材料は、体内で、又は体に密着した状態で使用されるので、使用温度範囲は常温近傍といえる。このため、超弾性を得るためには、Afを室温以下にし、かつ、Mdを十分に室温以上、例えば人体の温度程度となるように制御する必要がある。一般に、Afは合金組成に大きく依存し、成分組成以外の因子により大きく変化させることは難しい。そのため、Afは成分組成を変化させて制御することが望ましい。
【0020】
dは、すべり変形に対する臨界応力の向上により上昇し、Mdの上昇に伴い良好な超弾性が得られる。つまり、良好な超弾性を得るには、すべり変形に対する臨界応力を高くする必要がある。
【0021】
すべり変形に対する臨界応力を高める方法として、すべり変形が生じにくい加工組織にするという方法があげられる。チタン合金においても冷間加工を施して加工組織にし,転位の動きにくい組織にすることにより臨界応力を上昇させることができると考えられる。
【0022】
また、本発明のチタン合金はβ安定型のチタン合金であり、β安定型チタン合金の微細析出相としてα相がある。すべり変形に対する臨界応力を高める方法として、すべり変形を阻害するために、微細析出物であるα相を析出させるという方法があげられる。
【0023】
また、本発明のチタン合金はβ安定型のチタン合金であり、β安定型チタン合金の微細析出相としてω相がある。このω相の析出は脆化を招くことがある。このため、超弾性を付与するための熱処理時には脆化を防ぐためにω相の析出をなるべく抑える必要がある。
【0024】
上記について鋭意研究の結果、TiにNbを添加したβ安定型チタン合金は他のβ安定型チタン合金とは異なり、300〜500℃の中間温度で加熱処理してもω相の析出が少なく、同時にこの温度領域でα相が析出することを見出した。また、前記300〜500℃に比べ、300〜700℃のより広い熱処理温度範囲でも、α相が析出することも見出した。このため、超弾性を付与するための熱処理時に、α相の析出によりすべりに対する臨界応力を高いままに保つことができ、良好な超弾性が得られた。
【0025】
すなわち、本発明の生体用超弾性チタン合金の製造方法は、TiにNbを添加したチタン含金、又は前記チタン合金に更にMo、Al、Ge、Ga、Inのうち何れか1種又は2種以上を添加したチタン合金であって残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、ついで、300℃以上の温度で再結晶させないかもしくは再結晶による結晶粒粗大化が起きないような加熱処理する。
【0026】
すなわち、TiにNbを添加し、更にMo、Al、Ge、Ga、Inのうちのいずれか1種、又は2種以上を添加したチタン合金においても、添加量を制御することにより300〜500℃の中間温度で加熱処理してもω相の析出が少なく、同時にこの温度領域でα相が析出することができる。また、前記300〜500℃に比べ、300〜700℃のより広い熱処理温度範囲でも、α相が析出することができる。従って、本発明ではTiにNbを添加したチタン合金、又は前記チタン合金に更にMo、Al、Ge、Ga、Inのうちのいずれか1種、又は2種以上を添加したチタン合金を用いる。
【0027】
ここで、Mo、Al、Ge、Gaを添加する理由は、これらの元素を添加することにより強度を上げることができ、超弾性特性が良くなるという効果が得られるためである。Inを添加する理由は、加工性が良くなるためである。
【0028】
また、本発明では、チタン合金の成分組成はNbが10〜40at%、Moが10at%以下、Alが15at%以下、Geが10at%以下、Gaが10at%以下、Inが15at%以下であることが望ましい。
【0029】
ここで、必須成分であるNbの下限を10at%、上限を40at%としたのは、その範囲を超えると超弾性特性が悪くなるためである。Moの上限を10at%、Alの上限を15at%、Geの上限を10at%、Gaの上限を10at%、Inの上限を15at%とした理由は、その値を超えると加熱処理した時にω相の析出が多くて脆化してしまうためである。
【0030】
ω相の析出を抑えて脆化を防ぐためには、Moが3at%以下、Alが5at%以下、Geが3at%以下、Gaが3at%以下、Inが5at%以下であることがより望ましい。
【0031】
更に、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種又は2種以上の成分の合計を30at%以下とする。この理由は、Mo、Al,Ge,Ga,又はInから選択される1種又は2種以上の元素の合計が30at%を超えると、加工性が低下するためである。
【0032】
ここで、前記必須成分のNbに、さらにMo、Al,Ge,Ga,又はInから選択される1種又は2種以上の成分の合計を加えた総合計が60at%以下とする。この理由は、前記必須成分のNbに、さらにMo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種又は2種以上の元素の合計を加えた総合計が60at%を超えると超弾性が劣るためである。
【0033】
本発明では、焼鈍後の冷間加工率を20%以上とする。焼鈍後の冷間加工率を20%以上としたのは、すべり変形の起きにくい加工組織とするためであり、20%未満では必要とされる加工組織が得られないためである。上記冷間加工率の上限は特に定めないが線引きの場合は70〜80%,圧延の場合は90%以上の加工を行なうことが可能である。
【0034】
本発明では、焼鈍は材料が軟化するのに十分な温度の700℃以上で行うが、表面の酸化を考慮すると700〜900℃で、望ましくは700〜800℃で所定時間行えば良い。本発明では、700℃で10分の焼鈍を行なった。
【0035】
加熱温度は300℃以上とする。300℃以上とした理由は、300℃未満では長時間熱処理を行っても良好な超弾性が得られないためである。特に、400〜500℃の温度で加熱処理することが望ましい。しかし、500℃を超える温度でも、再結晶させない、または再結晶しても結晶粒粗大化が起きないような短時間の熱処理であれば、すべり変形に対する臨界応力を高いままに保つことができ、優れた超弾性が得られる。
【0036】
熱処理時間は1分〜2時間の範囲で行うことが望ましい。これは、1分未満では加熱が不十分で良好な超弾性が得られず、2時間を越えると効率が悪いためである。
【0037】
本発明の生体用超弾性チタン合金は、4%引張後の残留ひずみが1.5%以下である。その理由は、1.5%を超えると残留ひずみが大きく、生体用医療器具に用い難いためである。なお、引張り試験はJISH7103に準じて行ったものである。
【0038】
【実施例】
以下,本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
Nb:27at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb合金となるように、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製した。インゴットには熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間加工を繰り返し施した。最終冷間加工の加工率を60%とし、直径1.0mmの加工上がり線材を得た。なお、比較のために、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0039】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0040】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図1としての表1に示した。本発明例であるA−2〜10については、残留ひずみの値が小さく、約1.5以下であるとの結果が得られた。比較例の溶体化処理材A−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のA−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のA−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0041】
応力−ひずみ曲線の例として、本発明例であるA−5についての曲線を図9に示した。縦軸は引張応力(MPa)であり、横軸はひずみ(%)である。横軸には、矢印によりA−5の残留ひずみ(1.13%)を示した。比較例である溶体化処理材A−11の曲線を図10に示した。横軸には、矢印によりA−11の残留ひずみ(2.53%)を示した。
【0042】
(実施例2)
Nb:20at%、Mo:2at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Mo合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0043】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0044】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図2としての表2に示した。本発明例であるB−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材B−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のB−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のB−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0045】
(実施例3)
Nb:20at%、Al:3at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Al合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0046】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0047】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図3としての表3に示した。本発明例であるC−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材C−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のC−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のC−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0048】
(実施例4)
Nb:20at%、Ge:2at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Ge合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0049】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0050】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図4としての表4に示した。本発明例であるD−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材D−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のD−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のD−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0051】
(実施例5)
Nb:20at%、Ga:2at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Ga合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0052】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0053】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図5としての表5に示した。本発明例であるE−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材E−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のE−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のE−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0054】
(実施例6)
Nb:20at%、In:3at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Mo合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0055】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0056】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図6としての表6に示した。本発明例であるF−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材F−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のF−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のF−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0057】
(実施例7)
Nb:18at%、Mo:2at%、Al:3at%、Ga:2at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Nb―Mo−Al−Ga合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。また、実施例1と同様に、最終冷間加工率10%、20%、40%に調整した線材も製造した。
【0058】
加工上がり線材に200〜700℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が400℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。さらに、最終冷間加工率の影響を見るために、最終冷間加工率を10%、20%、40%と変えた材料は、いずれも400℃で30分の熱処理を施した。
【0059】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図7としての表7に示した。本発明例であるG−2〜10については、残留ひずみの値が小さい結果が得られた。比較例の溶体化処理材G−11は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きくなった。比較例のG−1は、熱処理温度が低いために残留ひずみが大きくなった。比較例のG−12は、最終冷間加工率が10%と低いために、残留歪みが大きくなった。
【0060】
(実施例8)
Mo:6at%、Al:7at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi―Mo―Al合金を用意し、実施例1と同様にして直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材に200〜600℃の温度範囲内で100℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。
【0061】
この合金線材について室温で引張試験を行い、4%引張後の残留ひずみを図8としての表8に示した。H−1〜3については、熱処理温度が低いためにω相が析出して脆化し、ひずみ1%程度で破断した。H−4、5は、熱処理温度が高く、再結晶により結晶粒が粗大化したために残留ひずみが大きい。
【0062】
【発明の効果】
以上のように本発明は、TiにNbを添加したチタン合金、又はNbに加えてMo、Al、Ge、Ga、Inのうちのどれか1積又は2種以上を適量添加したチタン合金に対し,適切な熱処理を施すことにより良好な超弾性効果を発現させることができる。また、Niを含まず生体に安全な元素のみで構成されているため、生体に対するアレルギーの懸念か無く、生体用に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、Ti−Nb合金の評価結果である。
【図2】図2として示した表2であり、Ti−Nb−Mo合金の評価結果である。
【図3】図3として示した表3であり、Ti−Nb−Al合金の評価結果である。
【図4】図4として示した表4であり、Ti−Nb−Ge合金の評価結果である。
【図5】図5として示した表5であり、Ti−Nb−Ga合金の評価結果である。
【図6】図6として示した表6であり、Ti−Nb−In合金の評価結果である。
【図7】図7として示した表7であり、Ti−Nb−Mo−Al−Ga合金の評価結果である。
【図8】図8として示した表8であり、Ti−Mo−Al合金の評価結果である。
【図9】本発明例の応力−ひずみ曲線である。
【図10】比較例の応力−ひずみ曲線である。
【図11】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図12】分極抵抗及び純金属等の生体適合性の相互関係を示した図である。
【図13】超弾性の出現状況を示す模式図である。

Claims (3)

  1. 下記の工程を備えたことを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。
    (a)TiにNbを必須成分として10〜40at%添加したチタン合金、または前記チタン合金に、さらに、10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、および、15at%以下のInのなかから選択される1種又は2種以上を添加し、前記Mo、Al、Ge、GaおよびInのなかから選択される1種又は2種以上の成分の合計が30at%以下であり、かつ、前記必須成分のNbに、さらに前記Mo、Al、Ge、GaおよびInのなかから選択される1種又は2種以上の成分の合計を加えた総合計が60at%以下であって残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、
    (b)前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、
    (c)前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、
    (d)ついで、300℃〜700℃の温度で1分〜2時間にわたって再結晶させないか、もしくは再結晶による結晶粒粗大化が起きないような加熱処理をする。
  2. 前記加熱処理は、加熱温度が400〜500℃、加熱時間が1分〜2時間であることを特徴とする請求項1に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法により製造したチタン合金であって、4%引張後の残留ひずみが1.5%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
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