JP4015080B2 - 生体用超弾性チタン合金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超弾性チタン合金に関する。特に、医療用機器等に最適な生体用超弾性チタン合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超弾性特性を備えた合金材料が医療分野に用いられている。例えば、Ti−Ni系合金は、強度が高く、耐磨耗性が大きく、耐食性に優れており、生体とのなじみが良いなどの特徴があるため、一時的あるいは半永久的な生体用材料として多種多様の分野で用いられている。ここで、超弾性特性を備えた合金は、例えばカテーテル用ガイドワイヤとして用いる場合に、手術中に加工力を加えて変形しても加工力を除去すると元の形状に戻るため、便利に利用できる。
【0003】
しかし、Niを含む合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると推定されているNi元素が体内で溶出することが懸念されている。そこで、Niが主要な構成元素であるTi−Ni系合金は、人体にアレルギー症状を発生させる可能性があることから望ましくないとされている。そこで、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金への要求が高まっている。
【0004】
図13には、各種純金属元素の人体に対する影響を調査した結果を示す。図13において、横軸を鶏胚心筋繊維芽組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維芽組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として各種純金属元素の人体に対する影響を調査した結果(出典:Materials Science and Engineering A、 A243(1998)244-249)を示した。この図によればV、Cd、Co、Cu、Zn、Hgなどは細胞毒性が強い元素であること、Zr、Ti、Nb、Ta、Pd、Auなどは生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
さらに、図14には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内の耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果を示した(出展:図13に同じ)。この図によればPt、Ta、Nb、Ti、Zrは、分極抵抗が高く、そのため生体との溶解性が低く、生体適合性に優れていることが示されている。
【0006】
特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されているTi−Nb−Sn合金が生体用の形状記憶・超弾性合金として用い得ることが記載されている。
【0007】
上記のような生体用超弾性チタン合金は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、内視鏡のアクチュエータやステントのような生体用医療器具に、また、眼鏡フレーム、眼鏡ノーズパッドアームにも使用可能である。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda、他4名、Materials Science and Engineering A、 Elsevie r Science、1998年3月15日、243巻、P.244-249
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来、生体用超弾性合金材料として使用されるNi−Ti合金は、アレルギー症状に関与すると考えられるNi元素が添加されているため、人体に対する影響が懸念されていた。そのため、生体適合性に優れた元素で構成された超弾性合金材料の開発が望まれていたが、実用化に耐えうる超弾性特性を備えた合金材料はいまだ開発されていなかった。
【0010】
そこで、本発明者等は合金組成範囲と超弾性特性の関係を明らかにすることにより、生体適合性に優れた元素のみで構成された合金であり、十分な超弾性特性を備えた生体用超弾性合金を開発することに成功した。
【0011】
従って、本発明はNiなどの生体アレルギーが懸念される元素を含まない合金組成であり、より生体適合性の高い超弾性合金が望まれていることから生体適合性が良く、超弾性特性も兼ね備えた生体用合金を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様は、チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%含有し、残部がTi及び不可避不純物からなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0013】
発明の第2の態様は、下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下のInから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上の合計が30at%以下であり、
(d)かつ前記Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であり,
(e)残部がTi及び不可避不純物からなる。
【0014】
発明の第3の態様は、下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であり、
(d)残部がTi及び不可避不純物からなる。
【0015】
発明の第4の態様は、下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下のInから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)さらに15at%以下のSnを含有し、
(d)前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が30at%以下であり、
(e)かつ前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が60at%以下である
(f)残部がTi及び不可避不純物からなる。
【0016】
発明の第5の態様は、下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)さらに12at%以下のSnを含有し、
(d)前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が60at%以下であり、
(e)残部がTi及び不可避不純物からなる。
【0017】
本発明の第6の態様は、前記合金は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステント、内視鏡のアクチュエーター、眼鏡フレーム、眼鏡ノーズパッドアーム、内視鏡のアクチュエーターに用いられることを特長とする生体用超弾性チタン合金である。
【0018】
本発明の第7の態様は、前記生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする医療用ガイドワイヤである。
【0019】
本発明の第8の態様は、前記生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする歯列矯正ワイヤである。
【0020】
本発明の第9の態様は、前記生体用超弾性合金を用いたことを特徴とするステント、又は内視鏡のアクチュエーターである。
【0021】
本発明の第10の態様は、前記生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする眼鏡フレーム、又は眼鏡ノーズパッドアームである。
【0022】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態について説明する。本形態の合金は、Ti基合金のマルテンサイトを熱弾性化するために、β相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNbを添加したチタン合金である。すなわち、チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%含有し、残部がTi及び不可避不純物からなることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0023】
従来のTi−Ni系合金は、いわゆる形状記憶合金であり、ある形状の合金を、低温で元の形状と違った形状に変形した後に、高温相(この場合は母相)が安定になる温度以上に加熱すると逆変態(加熱及び除荷に伴って生ずる相変態)が起こり、変形前の形状に戻る、いわゆる形状記憶効果をもっている。
【0024】
ところで、マルテンサイト変態をする合金がすべて同じように形状記憶を示すわけではなく、熱弾性型マルテンサイト変態をする合金(Ti−Ni系合金も含まれる)は、変形量がある限度内であれば、加熱によりほぼ完全にもとの形に戻る性質をもっている。本形態の合金は、このような特性を備えたチタン合金である。
【0025】
本発明のTi−Nb合金は、Ti基合金のマルテンサイトを熱弾性化するために、β相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNbを添加する。Tiにβ相安定化元素であるNbを添加すると、α相/β相変態点が低温側に移り、室温でもβ相が安定な合金を得ることができる。すなわち、β相領域から急冷することによって、β相を残留させることが可能になるからである。Nb量が約20at%以下の合金は、急冷してもマルテンサイト変態を起こし、β相が完全に残留することはないと言われている。
【0026】
このマルテンサイトにはα’相とα’’相の2種類が存在し、結晶構造としてα’相が六方晶、α’’相が斜方晶とされる。超弾性効果を発現させるためにはマルテンサイト変態を熱弾性型にすることが必要であるが、この2つのマルテンサイトのうち、α’’相の場合、熱弾性型になり得ることが知られている。
【0027】
本形態では、超弾性を発現させるために、Nb量は5〜40at%とする。この理由は、5at%を下回っても、あるいは40at%を超えても超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。Nb5〜40at%含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0028】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について説明する。本形態の合金は、チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、更に10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下のInから選択される1種、又は2種以上を含有し、残部がTi及び不可避不純物からなり、前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上の合計が30at%以下であり、かつ前記Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0029】
本形態では、超弾性を発現させるために、Nb量は5〜40at%とする。この理由は、5at%を下回っても、あるいは40at%を超えても超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。Nb5〜40at%含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0030】
TiにNbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種又は2種以上とを添加するのは、超弾性を安定で良好なものにするためである。ここで、MoはNbと同じくβ相安定化元素であり、マルテンサイト変態温度を下げる元素である。Al、Ge、Ga、又はInを添加するとα相安定化元素として作用する。
【0031】
本形態では、Nbの添加量は5〜40at%、Moの添加量は10at%以下、Alの添加量は15at%以下、Geの添加量は10at%以下、Gaの添加量は10at%以下とする。この範囲を超えると超弾性が悪くなるためである。Inは加工性を良くするために添加し、添加量は15at%以下とする。15at%を超えると超弾性が現れなくなるためである。
【0032】
本形態では、Mo、Al、Ge、Ga、及びInから選択される1種、又は2種以上との合計を30at%以下とし、Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上との合計を60at%以下とする。この理由は、Mo、Al、Ge、Ga、及びInから選択される1種、又は2種以上の合計が30at%を超えると加工性が悪くなるからである。また、Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上の合計が60at%を越えると超弾性が悪くなるからである。
【0033】
本形態例であるTi−Nb−Mo系合金について以下に説明する。Ti−Nb系の合金にβ相安定化元素であるMoを添加すると、α相/β相変態点が低温側に移り、室温でもβ相が安定な合金を得ることができる。すなわち、β相領域から急冷することによって、β相を残留させることが可能になる。
【0034】
本形態では、Moについては、含有量を10at%以下の範囲に限定する。この理由は、10at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0035】
従って、Nbを5〜40at%、Moを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0036】
本形態のTi−Nb−Al系合金について以下に説明する。TiにAlを添加する場合、Alはα相安定化元素として作用し、α相領域が拡大し、室温強度が上昇すると考えられる。そこで、β相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNbと、α安定化元素のAlとを添加した成分組成で、急冷により生じるマルテンサイトを熱弾性型とし、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金を得る。
【0037】
本形態では、Alの含有量を15at%以下とする。15at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0038】
従って、Nbを5〜40at%、Alを15at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0039】
本形態例であるTi−Nb−Ge系合金について以下に説明する。TiにGeを添加する場合、Geはα相安定化元素として作用する。本形態では、Geについては、含有量を10at%以下とする。この理由は、10at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0040】
従って、Nbを5〜40at%、Geを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0041】
本形態のTi−Nb−Ga系合金について以下に説明する。TiにGaを添加する場合、Gaはα相安定化元素として作用する。本形態では、Gaについては、含有量を10at%以下とする。この理由は、10at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0042】
従って、Nbを5〜40at%、Gaを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0043】
本形態例であるTi−Nb−In系合金について以下に説明する。TiにInを添加する場合、Inはα相安定化元素として作用する。本形態では、Inについては、含有量を15at%以下の範囲に限定する。この理由は、15at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0044】
従って、Nbを5〜40at%、Inを15at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0045】
本形態例であるTi−Nb−Mo−Al−Ga系合金について以下に説明する。Tiにβ相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNb、β相安定化元素であるMo、及びα相安定化元素として作用するAlおよびGaを添加すると、α相/β相変態点が低温側に移り、室温でもβ相が安定な合金を得ることができる。すなわち、β相領域から急冷することによって、β相を残留させることが可能になる。
【0046】
Nbの含有は、超弾性を発現させるために5〜40at%とする。この理由は、5at%を下回っても、あるいは40at%を超えても超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0047】
Moについては、含有量を10at%以下とする。この理由は、10at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0048】
Alについては、含有量を15at%以下とする。15at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0049】
Gaについては、含有量を10at%以下とする。この理由は、10at%を超えると超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0050】
従って、Nbを5〜40at%、Moを10at%以下、Alを15at%以下、Gaを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易で、Ti−Ni系合金よりも加工費が安くなる。
【0051】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態について詳細に説明する。本形態の合金は、Nbを5〜40at%と、7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaのから選択される1種、又は2種以上を含有し、残部がTi及び不可避不純物からなり、前期Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0052】
本形態では、超弾性を発現させるために、Nb量は5〜40at%とする。この理由は、5at%を下回っても、あるいは40at%を超えても超弾性が悪くなる、すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。Nb5〜40at%含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易となる。
【0053】
TiにNbと、Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上を添加するのは、超弾性特性を安定で良好なものにするためである。ここで、MoはNbと同じくβ相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げる元素である。Al、Ge、Gaを添加するとα相安定化元素として作用する。
【0054】
本形態では、加工性を良くするために、Mo添加量は7at%以下、Alの添加量は10at%以下、Geの添加量は6at%以下、Gaの添加量は6at%以下とする。
【0055】
また、本形態では、Nbと、Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上との合計を60at%以下とする。この理由は、Nbと、Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%を越えると超弾性が悪くなるからである。
【0056】
本形態例であるTi−Nb−Mo系合金について以下に説明する。Ti−Nb系の合金にβ相安定化元素であるMoを添加すると、α相/β相変態点が低温側に移り、室温でもβ相が安定な合金を得ることができる。すなわち、β相領域から急冷することによって、β相を残留させることが可能になる。
【0057】
本形態では、Moについては、含有量を7at%以下とする。この理由は、加工性を良好とするためである。従って、Nbを5〜40at%、Moを7at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0058】
本形態例であるTi−Nb−Al系合金について以下に説明する。TiにAlを添加する場合、Alはα相安定化元素として作用し、α相領域が拡大し、室温強度が上昇すると考えられる。そこで、β相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNbと、α安定化元素のAlとを添加した成分組成で、急冷により生じるマルテンサイトを熱弾性型とし、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金を得る。
【0059】
本形態では、Alの含有量を10at%以下とする。この理由は、加工性を良くするためである。従って、Nbを5〜40at%、Alを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0060】
本形態例であるTi−Nb−Ge系合金について以下に説明する。TiにGeを添加する場合、Geはα相安定化元素として作用する。本形態では、Geについては、含有量を6at%以下とする。この理由は、加工性を良くするためである。従って、Nbを5〜40at%、Geを10at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0061】
本形態例であるTi−Nb−Ga系合金について以下に説明する。TiにGaを添加する場合、Gaはα相安定化元素として作用する。本形態では、Gaについては、含有量を6at%以下とする。この理由は、加工性を良くするためである。従って、Nbが5〜40at%、Gaを6at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0062】
本形態例であるTi−Nb−Mo−Al−Ga系合金について以下に説明する。Tiにβ相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げるNb、β相安定化元素であるMo、及びα相安定化元素として作用するAlおよびGaを添加すると、α相/β相変態点が低温側に移り、室温でもβ相が安定な合金を得ることができる。すなわち、β相領域から急冷することによって、β相を残留させることが可能になる。
【0063】
本形態では、Moについては、含有量を7at%以下とする。この理由は、加工性を良好とするためである。Alについては、含有量を10at%以下とする。この理由は、やはり加工性を良好とするためである。Gaについては、含有量を6at%以下とする。この理由は、やはり加工性を良好とするためである。
【0064】
従って、Nbを5〜40at%、Moを7at%以下、Alを10at%以下、Geを6at%以下、Gaを6at%以下含有するTi合金は、超弾性を示すβ相型固溶体チタン合金となる。このため、急冷されたチタン合金の結晶構造は、変形能の優れた斜方晶であるため熱間加工、及び冷間加工が容易である。
【0065】
(第4の実施形態)
以下に本発明の第4の実施形態について詳細に説明する。本形態の合金は、Nbを5〜40at%と、10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下から選択される1種、又は2種以上を含有するほかに、さらに15at%以下のSnを含有し、残部がTi及び不可避不純物からなり、前期Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上と前記Snとの合計が30at%以下であり、かつ前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種又は2種以上と前記Snとの合計が60at%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0066】
TiにNbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とを添加するのは、超弾性特性を安定で良好なものにするためである。ここで、Moは、Nbと同じくβ相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げる元素である。Al、Ge、Ga、又はInを添加するとα相安定化元素として作用する。
【0067】
Snは、α相安定化元素として作用し、超弾性特性を安定で良好なものにする。本形態では、Snの添加量は15at%以下とする。この理由は、15at%を超えると超弾性が悪くなる。すなわち、変形したときに塑性ひずみが入り、元の状態に戻らなくなるためである。
【0068】
なお、本形態では、Nb、Mo、Al、Ge、Ga、Inそれぞれの数値範囲を限定した理由は前記第2の実施形態で説明した内容に準じるものである。また、本形態では、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計を30at%以下とし、Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計を60at%以下とする。この理由についても、前記第2の実施形態で説明した内容に準じるものである。
【0069】
(第5の実施形態)
以下に、本発明の第5の実施形態について説明する。本形態の合金は、Nbを5〜40at%と、7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaから選択される1種、又は2種以上を含有するほかに、さらに12at%以下のSnを含有し、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上と前記Snとの合計が60at%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0070】
TiにNbと、Mo、Al、Ge、Gaうちのいずれか1種又は2種以上とを添加するのは、超弾性特性を安定で良好なものにするためである。ここで、Moは、Nbと同じくβ相安定化元素でありマルテンサイト変態温度を下げる元素である。Al、Ge、Gaを添加するとα相安定化元素として作用する。
【0071】
Snは、α相安定化元素として作用し、超弾性特性を安定で良好なものにする。本形態では、Snの添加量は12at%以下とする。この理由は、加工性を良くするためである。
【0072】
なお、本形態では、Nb、Mo、Al、Ge、Ga、それぞれの数値範囲を限定した理由は前記第3の実施形態で説明した内容に準じるものである。また、本形態では、Nbと、Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が60at%以下とする。この理由についても、前記第3の実施形態で説明した内容に準じるものである。
【0073】
(第6の実施形態)
本形態に係る上記説明の生体用超弾性チタン合金は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステント、内視鏡のアクチュエーターのような生体用医療器具に使用できる。また、眼鏡フレーム、眼鏡のノーズパッドアーム用にも使用できる。これらの医療器具は、人体に接触して使用された際、アレルギを発生させず、また広く生体適合性がよいためである。
【0074】
(第7の実施形態)
上記生体用超弾性チタン合金は、医療用ガイドワイヤとして利用できるが、その理由は、上記合金が十分な超弾性特性と加工性及び十分な生体適合性を備えているためである。
【0075】
(第8の実施形態)
上記生体用超弾性チタン合金は、歯列矯正用ワイヤとして利用できるが、その理由は、この合金が十分な超弾性特性と加工性及び十分な生体適合性を備えているためである。
【0076】
(第9の実施形態)
上記生体用超弾性チタン合金は、ステントとして利用できるが、その理由は、この合金が十分な超弾性特性と加工性及び十分な生体適合性を備えているためである。
【0077】
(第10の実施形態)
上記生体用超弾性チタン合金は、眼鏡フレーム、又は眼鏡のノーズパッドアームなどの眼鏡部品として利用できるが、その理由は、この合金が十分な超弾性特性と加工性及び十分な生体適合性を備えているためである。
【0078】
(第11の実施形態)
上記生体用超弾性チタン合金は、内視鏡のアクチュエーターとして利用できるが、その理由は、この合金が十分な超弾性特性と加工性及び十分な生体適合性を備えているためである。
【実施例】
(実施例1)
図2としての表1に示す組成のTi−Nb合金インゴットを、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解、鋳造した。得られたインゴットに熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し施して、焼鈍後の伸線加工率を40%として、直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。焼鈍は、これらの材料が軟化するのに十分な700℃で10分の熱処理を施して行った。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分の溶体化処理を施した。なお、加工性が低く、焼鈍後の加工率が40%に満たない材料については、焼鈍回数を標準の場合より増やすことにより、直径1.0mmの線材を得た。
【0079】
この超弾性チタン合金線材の形状回復特性を評価するため、上記線材をまず高温槽内に保持する等の方法により37℃に保ちながら、直径10mmのステンレス鋼製丸棒に巻きつけて1回曲げ、180℃曲げた状態で30秒間保持した。回復特性は、巻きつけた線をステンレス鋼製丸棒からはずし、直線からの曲がり角度を測定して評価した。
【0080】
曲がり角度の測定方法を図1を用いて説明する。ステンレス鋼製丸棒に巻きつけた超弾性チタン合金線1が、塑性変形して、巻きつける前の形状に戻らない場合、その変形度合いを水平面に対する角度(θ)2で表したものである。形状回復特性については角度が5度以下を良品とし、表には○印で示した。角度が5度を超える場合には不良品とし、表には×印で示した。
【0081】
また、加工性を評価するために、直径1.0mmの加工上がり線材に対して、700℃で10分の焼鈍を施した後に、破断により伸線できなくなるまで冷間加工を施した。そして、伸線できた最大加工率で加工性を評価した。加工性について、伸線できた最大加工率が30%以上の場合は加工性良好とみなし、表には○印で示した。最大加工率が30%未満の場合は、加工性やや不良とみなし、表には△印で示した。1mmまで伸線できなかった場合も加工性不良とみなし、表には×印で示した。
【0082】
加工性及び形状回復特性についての評価結果は、図2としての表1に併せて示した。表1において、追番a−6、a−7は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状が回復しない。それに対し、本発明条件で製造された追番a−1〜a−5は形状が回復する。
【0083】
(実施例2)
図3としての表2に示す組成のTi−Nb−Mo合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工線材を製造した。加工線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図3としての表2に示した。
【0084】
表2において、追番b−10〜b−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番b−1〜b−9は形状回復した。追番b−1、b−2、b−4、b−5、b−7、b−8は、追番b−3、b−6、b−9と比較して加工性が良好であった。
【0085】
(実施例3)
図4としての表3に示す組成のTi−Nb−Al合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図4としての表3に示した。
【0086】
表3において、追番c−10〜c−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番c−1〜c−9は形状回復した。追番c−1、c−2、c−4、c−5、c−7、c−8は、追番c−3、c−6、c−9と比較して加工性が良好であった。
【0087】
(実施例4)
図5としての表4に示す組成のTi−Nb−Ge合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図5としての表4に示した。
【0088】
表4において、追番d−10〜d−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番d−1〜d−9は形状回復した。追番d−1、d−2、d−4、d−5、d−7、d−8は、追番d−3、d−6、d−9と比較して加工性が良好であった。
【0089】
(実施例5)
図6としての表5に示す組成のTi−Nb−Ga合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図6としての表5に示した。
【0090】
表5において、追番e―10〜e−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番e−1〜e−9は形状回復した。追番e−1、e−2、e−4、e−5、e−7、e−8は、追番e−3、e−6、e−9と比較して加工性が良好であった。
【0091】
(実施例6)
図7としての表6に示す組成のTi−Nb−In合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図7としての表6に示した。
【0092】
表6において、追番f−10〜f−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番f−1〜f−9は形状回復した。加工性は追番f−1〜f−12のどれも良好であった。
【0093】
(実施例7)
図8としての表7に示す組成のTi−Nb−Mo−Al合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図8としての表7に示した。
【0094】
表7において、追番g−9とg−11〜g−12は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。成分組成が本発明外の追番g−10については、加工性が不良で1mmまで伸線できなかった。そのため、形状回復特性についても測定できなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番g−1〜g−8は形状回復した。追番g−1、g−2、g−4、g−5、g―7、g―8は、追番g−3、g−6と比較して加工性が良好であった。
【0095】
(実施例8)
図9としての表8に示す組成のTi−Nb−Mo−Al−Ga合金について実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図9としての表8に示した。
【0096】
表8において、追番h−12〜h−14は成分組成が本発明範囲外であるために超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。それに対し、本発明条件で製造された追番h−1〜h−10は形状回復した。成分組成が本発明外の追番h−11については、加工性が不良で1mmまで伸線できなかった。そのため、形状回復特性についても測定できなかった。追番h−1、h−2、h−4、h−5、h−7、h−8、h−10は、追番h−3、h−6、h−9と比較して加工性が良好であった。
【0097】
(実施例9)
図10としての表9に示す組成のTi−Nb−Mo−Sn合金を実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図10としての表9に示した。
【0098】
表9において、成分組成が本発明外の追番i−10、i−12〜i−13については、超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。i−11については、加工性が不良で1mmまで伸線できなかった。そのため、形状回復特性についても測定できなかった。本発明条件で製造された追番i−1〜i−9は形状回復した。i−1、i−2、i−4、i−5、i−7、i−8、はi−3、i−6、i−9と比較して加工性が良好であった。
【0099】
(実施例10)
図11としての表10に示す組成のTi−Nb−Mo−Al−Sn合金を実施例1と同様の方法を用いて直径1.0mmの加工上がり線材を製造した。加工上がり線材は、形状を直線に保持して500℃で30分間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した線材に対して、実施例1と同様の方法にて加工性及び形状回復特性を評価した。その結果は、図11としての表10に示した。
【0100】
表10において、成分組成が本発明外の追番j−9とj−11〜j−12については、超弾性特性が不良であり、形状回復しなかった。j−10については、加工性が不良で1mmまで伸線できなかった。そのため、形状回復特性についても測定できなかった。本発明条件で製造された追番j−1〜j−8は形状回復した。j−1、j−2、j−4、j−5、j−7、j−8、はj−3、j−6と比較して加工性が良好であった。
【0101】
(実施例11)
医療用ガイドワイヤを試作した。非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解、鋳造したTi−20at%Nb−5at%Mo合金インゴットに対し熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し施し、最終焼鈍後の冷間伸線加工率40%として線径0.5mmの加工仕上がり線材を製造した。
【0102】
そして、この線材を500℃で30分の記憶熱処理を行うことにより、表2のb−4材と同一材料を得た。試作した0.5mmの線材は超弾性特性、加工性ともに良好で十分な生体適合性を備えており、医療用ガイドワイヤに使用したところ良好であった。組成等の一覧を図12としての表11にまとめて示した。
【0103】
(実施例12)
歯列矯正ワイヤを試作した。非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解、鋳造したTi−20at%Nb−5at%Mo合金インゴットに対し熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し施し、最終焼鈍後の冷間伸線加工率40%として線径0.5mmの加工仕上がり線材を製造した。
【0104】
そして、この線材を500℃で30分の記憶熱処理を行うことにより、表2のb−4材と同一材料を得た。試作した0.5mmの線材は超弾性特性、加工性ともに良好で十分な生体適合性を備えており、歯列矯正ワイヤに使用したところ良好であった。組成等の一覧を図12としての表11にまとめて示した。
【0105】
(実施例13)
ステントおよび内視鏡のアクチュエータは製品を試作する際、線径が0.2mmと同一であるため、同時に試作した。非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解、鋳造したTi−20at%Nb−5at%Mo合金インゴットに対し熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し施し、最終焼鈍後の冷間伸線加工率40%として線径0.2mmの加工仕上がり線材を製造した。
【0106】
そして、この線材を500℃で30分の記憶熱処理を行った。表2のb−4材と線径は異なるが、最終焼鈍後の冷間加工率と記憶熱処理温度を一致させたので、試作した0.2mmの線材は超弾性特性、加工性ともに良好で十分な生体適合性を備えており、ステントおよび内視鏡のアクチュエータに使用したところ良好であった。組成等の一覧を図12としての表11にまとめて示した。
【0107】
(実施例14)
眼鏡フレームおよび眼鏡ノーズパッドアームを試作した。非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解、鋳造したTi−20at%Nb−5at%Mo合金インゴットに対し熱間加工を施し、更に焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し施し、最終焼鈍後の冷間伸線加工率40%として線径2.0mmの加工仕上がり線材を製造した。
【0108】
そして、この線材を500℃で30分の記憶熱処理を行った。表2のb−4材と線径は異なるが、最終焼鈍後の冷間加工率と記憶熱処理温度を一致させたので、試作した2.0mmの線材は超弾性特性、加工性ともに良好で十分な生体適合性を備えており、眼鏡フレームおよび眼鏡ノーズパッドアームに使用したところ良好であった。組成等の一覧を図12としての表11にまとめて示した。
【0109】
【発明の効果】
本発明は、TiにNb、もしくはNbに加えてMo、Al、Ge、Ga、Inのうちのどれか1種又は2種以上、もしくはこれに更にSnを適量添加することにより、超弾性効果を発現させることができる。Ti、Nb、Mo、Al、Ge、Ga、In、Snは全て生体に安全な元素であり、これらの元素から構成された本発明の合金は、Niを含まないことから、アレルギーの懸念が無く、生体用に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】曲がり角度の測定法を説明する図である。
【図2】図2として示した表1であり、Ti−Nb系合金の組成、評価結果一覧表である。
【図3】図3として示した表2であり、Ti−Nb−Mo系合金の組成、評価結果一覧表である。
【図4】図4として示した表3であり、Ti−Nb−Al系合金の組成、評価一覧表である。
【図5】図5として示した表4であり、Ti−Nb−Ge系合金の組成、評価一覧表である。
【図6】図6として示した表5であり、Ti−Nb−Ga系合金の組成、評価一覧表である。
【図7】図7として示した表6であり、Ti−Nb−In系合金の組成、評価一覧表である。
【図8】図8として示した表7であり、Ti−Nb−Mo−Al系合金の組成、評価一覧表である。
【図9】図9として示した表8であり、Ti−Nb−Mo−Al−Ga系の組成、評価一覧表である。
【図10】図10として示した表9であり、Ti−Nb−Mo−Sn系合金の組成、評価一覧表である。
【図11】図11として示した表10であり、Ti−Nb−Mo−Al−Sn系合金の組成、評価一覧表である。
【図12】図12として示した表11であり、生体用医療器具等への加工例をしめした。
【図13】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図14】分極抵抗及び純金属等の生体適合性の相互関係を示した図である。
【符号の説明】
1 超弾性合金試験線材
2 曲がり角度(θ)
Claims (10)
- 下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下のInから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上の合計が30at%以下であり、
(d)かつ前記Nbと、Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であり,
(e)残部がTi及び不可避不純物からなる。 - 下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上との合計が60at%以下であり、
(d)残部がTi及び不可避不純物からなる。 - 下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)10at%以下のMo、15at%以下のAl、10at%以下のGe、10at%以下のGa、15at%以下のInから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)さらに15at%以下のSnを含有し、
(d)前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が30at%以下であり、
(e)かつ前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、Ga、又はInから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が60at%以下である
(f)残部がTi及び不可避不純物からなる。 - 下記の成分組成を有することを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
(a)チタンのβ相安定化元素であるNbを5〜40at%と、
(b)7at%以下のMo、10at%以下のAl、6at%以下のGe、6at%以下のGaから選択される1種、又は2種以上を含有し、
(c)さらに12at%以下のSnを含有し、
(d)前記Nbと、前記Mo、Al、Ge、又はGaから選択される1種、又は2種以上とSnとの合計が60at%以下であり、
(e)残部がTi及び不可避不純物からなる。 - 医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステント、眼鏡フレーム、眼鏡ノーズパッドアーム、内視鏡のアクチュエーターの何れかに用いられることを特長とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体用超弾性チタン合金。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする歯列矯正ワイヤ。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の生体用超弾性合金を用いたことを特徴とするステント。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする眼鏡フレーム、又は眼鏡ノーズパッドアーム。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の生体用超弾性合金を用いたことを特徴とする内視鏡のアクチュエータ。
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