JP2004124156A - 生体用超弾性TiNbSn合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】Ti−Ni系合金と比較して遜色のない超弾性特性を備えた合金を提供する。
【解決手段】成分組成がNb、Sn、残りがTi及び不可避不純物であるTi合金を、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理し、前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。また、前記Ti合金は、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】成分組成がNb、Sn、残りがTi及び不可避不純物であるTi合金を、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理し、前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。また、前記Ti合金は、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体用のTi合金に関する。詳しくは、超弾性特性を備えたTi−Nb−Sn系生体用Ti合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年,超弾性特性を備えた合金材料が医療分野に利用されている。例えば、Ti−Ni系合金は、強度があり、耐磨耗性が大きい、耐食性に優れている、また、生体とのなじみが良い、などの特徴があるため、生体用材料として、一時的あるいは半永久的に多種多様の分野で用いられている。
【0003】
ところで、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると思われるNi元素が体内で溶出することが懸念されている。Niが主要な構成元素であるTi−Ni系合金は、アレルギー症状に関与する面から不安視されており、そのため、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金の要求が高まっている。
【0004】
図5には、各種純金属元素に対して、横軸を鶏胚心筋繊維牙組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維牙組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として、まとめた結果(出典:Materials Science and Engineering A, A243(1998)244−249)を示した。この図によれば、V、Cd、Co、Cu、Zn、Hgなどは細胞毒性が強い元素であること、Zr、Ti、Nb、Ta、Pd、Auなどは、生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
さらに、図6には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内の耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果を示した(出典:図5に同じ)。この図によれば、Pt、Ta、Nb、Ti、Zrは生体適合性に優れていることが示されている。
【0006】
上記に基づいて、特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されるTi−Nb系合金に着目し、第3元素として毒性の指摘のないSnを加えた3元系合金を生体用の形状記憶合金として活用できることが提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda, 他4名, Materials Science and Engineering A, Elsevier Science, 1998年3月15日,243巻,P.244−249
【非特許文献2】
舟久保煕康編、「形状記憶合金」、初版、産業図書株式会社、昭和59年6月7日、P36
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前記、特開2001−329325号公報によれば、Ti−Nb−Sn系合金を溶体化熱処理することにより、ある成分組成で残留ひずみが小さくなる、つまり超弾性特性を得られることが示されている。しかし、この超弾性特性は、優れた超弾性特性を示すTi−Ni系合金と比較して、超弾性特性を示すひずみ量が小さく、実用レベルには不十分であった。この原因として、溶体化熱処理したためにすべりに対する臨界応力が低くなり、完全な超弾性特性発現の前にすべりによる永久変形が生じていることによると考えられた。
【0009】
そのため、本発明では、Ti−Nb−Sn系合金について、溶体化熱処理によりすべりに対する臨界応力が低くなり、超弾性特性発現の前にすべりによる永久変形が生じることを改良して、Ti−Ni系合金と比較して遜色のない超弾性特性を備えた合金を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、成分がNb、Sn、残りがTi及び不可避不純物であるTi合金を、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理し、
前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記Ti合金は、成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、下記工程を備えたことを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
(a)成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物となるようにインゴットを鋳造し、
(b)前記鋳造した前記インゴットに熱間加工を行い、続いて焼鈍及び冷間加工を繰返し行い、
(c)最終冷間加工後に、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理を行い、
(d)前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理を行う。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。まず、超弾性の発現に関して簡単に述べる。図7は、超弾性の発現条件を示した模式図である(出典:形状記憶合金 舟久保煕康編 36ページ)。図7は、すべりに対する臨界応力が(A)のように高ければ、斜線を引いた応力一温度範囲で超弾性が発現し、すべりに対する臨界応力が(B)のように低ければ、超弾性は発現しないことを示している。また、図7は、超弾性特性はAfからMdの温度範囲で発現することを示している。
【0014】
ここで、Msはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度を、Mfはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Asはオーステナイト変態開始温度あり、Afはオーステナイト変態終了温度である。Mdは応力誘起マルテンサイトが生成する最高温度である。
【0015】
生体材料は、体内、又は体に密着した状態で使用されるので、使用温度範囲は常温近傍といえる。このため、超弾性特性を得るためには、Afを室温以下にし、かつ、Mdを室温以上となるように制御する必要がある。一般に、Afは成分組成に大きく依存し、成分組成以外の因子により変化させることは難しい。そのため、Afは成分組成を変化させて制御することが望ましい。
【0016】
Mdは、すべりに対する臨界応力の向上により上昇し、Mdの上昇に伴い良好な超弾性特性が得られる。つまり、良好な超弾性特性を得るには、すべりに対する臨界応力を高くする必要がある。すべりに対する臨界応力を高める方法として、すべり変形を阻害する微細析出物を析出させる方法があげられる。Ti−Nb−Sn系合金においても、溶体化処理後に時効処理をして析出物を析出させ、すべりに対する臨界応力を高めることができる。
【0017】
ここで,本発明のTi−Nb−Sn系合金は、β安定型のTi合金である。β安定型Ti合金の微細析出相としてω相等がある。しかし、ω相等が析出すると脆化を招くことがある。このため、ω相等の析出によりすべりに対する臨界応力を上昇させるためには、ω相等の析出量をコントロールしてすべり変形は阻害するが脆化を抑えるようにする必要がある。
【0018】
そこで、本発明者らは鋭意研究を行い、その結果、脆化を招かずにすべりに対する臨界応力を上昇させて良好な超弾性が得られる熱処理条件を見出した。
【0019】
本発明では、Ti−Nb−Sn系合金の成分組成は、Nbは10〜20at%、Snは3〜6at%、残余がTi及び不可避不純物であることが望ましい。
【0020】
Nbが、10〜20at%であるのは、この範囲外では本発明による熱処理条件でも良好な超弾性が得られないためである。
【0021】
Snが、3〜6at%であるのは、低いとSnの効果が小さく、高いと加工性が圧下するからである。
【0022】
上記成分組成となるように用意した金属は、例えば、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製する。続いて、熱間加工を施し、焼鈍及び冷間加工を繰返し行う。
【0023】
最終冷間加工後に、溶体化処理、及びそれに続く加熱処理を施す。本発明では、溶体化処理温度を800℃以上1200℃以下とする。この理由は、800℃未満ではω相等の析出相の固溶や転位等の欠陥の消失には熱処理が不十分であり、1200℃を超えると経済的に効率が悪くなるためである。
【0024】
熱処理の時間は1分〜10時間が望ましい。長いと経済的に効率が悪く、短いと熱処理が不十分となるためである。
【0025】
熱処理の雰囲気は、真空もしくは不活性ガスが好ましい。理由は酸化防止のためである。本発明では、溶体化処理後の加熱処理温度を200℃以上700℃以下とする。この理由は、200℃未満および700℃を超えるとω相等が析出しないためである。
【0026】
本発明において、溶体化処理後の加熱処理時間を1分以上2時間以下とする。この理由は、1分未満ではω相等の析出量が少ないことによりすべりに対する臨界応力を上昇させる事ができないために良好な超弾性が得られない。また、2時間を超えるとω相等の析出量が多すぎて脆くなるためである。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
以下,本発明を実施例に基づいて説明する。
Nb:16at%、Sn:4.9at、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Nb−Sn系合金となるように、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製した。インゴットには熱間加工および冷間圧延加工を施した。前記冷間圧延加工時、最終焼鈍後の圧延加工率を90%として厚さ1mmの加工上がり板材を製造した。
【0028】
この板材から放電加工機を用いて試験片を切り出し、図1としての表1に示す温度で真空中で溶体化処理を行った。No.a〜No.iまでは、溶体化処理温度を950℃とし、溶体化処理時間は30分の一定とした。引き続いて、加熱処理を施した。加熱処理の温度は、溶体化処理を施したままのものから、800℃へと段階的に変えた。加熱処理時間は、5分の一定時間とした。
【0029】
No.jは、溶体化処理温度を700℃、溶体化熱処理時間を30分とし、溶体化処理後の加熱温度を400℃、溶体化処理後の加熱時間を5分としたものである。
【0030】
次に、熱処理後の合金板に対し、室温にて引張試験を行った。図2には、図1としての表1に示したNo.a〜iについての応力−ひずみ曲線を示した。縦軸は応力(単位:MPa)を示し、横軸はひずみ(単位:%)を示している。図3には、No.jについての応力−歪曲線を示した。また、図2、図3に示した応力−歪曲線の測定値から求めた2%引張後の残留ひずみも表1に示した。
【0031】
表1、図2、図3について以下に説明する。No.c〜No.hは本発明例を示したものであり、No.a、No.b、No.i及びNo.jは比較例を示したものである。No.aは、溶体化処理を施しただけのものであり、残留ひずみが0.21%と高い。No.bは、加熱処理温度が100℃とが低いために、残留ひずみが0.19%と、No.aと同程度に大きい値を示している。No.c〜No.hの残留ひずみについては、0.06〜0.14%とNo.a、No.bに比べて小さい値を示している。
【0032】
No.iは、加熱処理温度が800℃と高いために残留ひずみが0.19%と大きい値を示している。No.jは、溶体化熱処理温度が700℃と低いために、溶体化が不十分であり、強度が高く、残留ひずみも0.28%と大きい値を示している。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にして板厚1mmの加工上がり板材を製造した。この板材から放電加工機を用いて試験片を切り出し、真空中で950℃で30分の溶体化熱処理を施した。つづいて、温度を500℃一定とし、図4としての表2に示す時間の溶体化処理後の加熱処理を施した。
【0034】
次に、熱処理後の合金板に対し、室温にて引張試験を行った。2%引張後の残留ひずみについても図4としての表2に示した。No.2〜5は、本発明例を示したものであり、No.1、No.2、No.7は、比較例を示したものである。
【0035】
No.1は、溶体化処理を施しただけのものであり、残留ひずみが0.21%と高い。No.2は、加熱処理時間が0.5分と短いために、残留ひずみが0.19%と、No.1と同程度に大きい値を示している。本発明例のNo.2〜5の残留ひずみについては、0.06〜0.11%とNo.1、No.2に比べて小さい値を示している。No.7は、加熱処理時間が240分と本発明で規定する時間に比べて長いため、脆化してしまい、2%ひずみを与える前に破断した。
【0036】
以上、本発明例では板材を用いて説明したが、これらの方法は板材だけでなく、線材、条材、テープ材、パイプ材、異形線材、その他冷間加工の可能な形態であれば、何れも適用することができる。このような結果から、ω相等を析出させ、すべり臨界応力を高めたため、本発明の合金は超弾性特性にすぐれていることが言える。
【0037】
【発明の効果】
生体適合性に優れているTi−Nb−Sn系合金に対して,適切な熱処理を施すことにより良好な超弾性特性を発現させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、本発明実施例1の結果一覧表である。
【図2】本発明実施例1の応力−ひずみ測定結果である。
【図3】本発明実施例1の、別の応力−ひずみ測定結果である。
【図4】図4として示した表2であり、本発明実施例2の結果一覧表である。
【図5】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図6】分極抵抗および純金属、Co−Cr合金およびステンレス鋼の生体適合性の相互関係を示した図である。
【図7】超弾性の出現条件を示す模式図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体用のTi合金に関する。詳しくは、超弾性特性を備えたTi−Nb−Sn系生体用Ti合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年,超弾性特性を備えた合金材料が医療分野に利用されている。例えば、Ti−Ni系合金は、強度があり、耐磨耗性が大きい、耐食性に優れている、また、生体とのなじみが良い、などの特徴があるため、生体用材料として、一時的あるいは半永久的に多種多様の分野で用いられている。
【0003】
ところで、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると思われるNi元素が体内で溶出することが懸念されている。Niが主要な構成元素であるTi−Ni系合金は、アレルギー症状に関与する面から不安視されており、そのため、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金の要求が高まっている。
【0004】
図5には、各種純金属元素に対して、横軸を鶏胚心筋繊維牙組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維牙組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として、まとめた結果(出典:Materials Science and Engineering A, A243(1998)244−249)を示した。この図によれば、V、Cd、Co、Cu、Zn、Hgなどは細胞毒性が強い元素であること、Zr、Ti、Nb、Ta、Pd、Auなどは、生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
さらに、図6には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内の耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果を示した(出典:図5に同じ)。この図によれば、Pt、Ta、Nb、Ti、Zrは生体適合性に優れていることが示されている。
【0006】
上記に基づいて、特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されるTi−Nb系合金に着目し、第3元素として毒性の指摘のないSnを加えた3元系合金を生体用の形状記憶合金として活用できることが提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda, 他4名, Materials Science and Engineering A, Elsevier Science, 1998年3月15日,243巻,P.244−249
【非特許文献2】
舟久保煕康編、「形状記憶合金」、初版、産業図書株式会社、昭和59年6月7日、P36
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前記、特開2001−329325号公報によれば、Ti−Nb−Sn系合金を溶体化熱処理することにより、ある成分組成で残留ひずみが小さくなる、つまり超弾性特性を得られることが示されている。しかし、この超弾性特性は、優れた超弾性特性を示すTi−Ni系合金と比較して、超弾性特性を示すひずみ量が小さく、実用レベルには不十分であった。この原因として、溶体化熱処理したためにすべりに対する臨界応力が低くなり、完全な超弾性特性発現の前にすべりによる永久変形が生じていることによると考えられた。
【0009】
そのため、本発明では、Ti−Nb−Sn系合金について、溶体化熱処理によりすべりに対する臨界応力が低くなり、超弾性特性発現の前にすべりによる永久変形が生じることを改良して、Ti−Ni系合金と比較して遜色のない超弾性特性を備えた合金を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、成分がNb、Sn、残りがTi及び不可避不純物であるTi合金を、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理し、
前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記Ti合金は、成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、下記工程を備えたことを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
(a)成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物となるようにインゴットを鋳造し、
(b)前記鋳造した前記インゴットに熱間加工を行い、続いて焼鈍及び冷間加工を繰返し行い、
(c)最終冷間加工後に、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理を行い、
(d)前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理を行う。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。まず、超弾性の発現に関して簡単に述べる。図7は、超弾性の発現条件を示した模式図である(出典:形状記憶合金 舟久保煕康編 36ページ)。図7は、すべりに対する臨界応力が(A)のように高ければ、斜線を引いた応力一温度範囲で超弾性が発現し、すべりに対する臨界応力が(B)のように低ければ、超弾性は発現しないことを示している。また、図7は、超弾性特性はAfからMdの温度範囲で発現することを示している。
【0014】
ここで、Msはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度を、Mfはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Asはオーステナイト変態開始温度あり、Afはオーステナイト変態終了温度である。Mdは応力誘起マルテンサイトが生成する最高温度である。
【0015】
生体材料は、体内、又は体に密着した状態で使用されるので、使用温度範囲は常温近傍といえる。このため、超弾性特性を得るためには、Afを室温以下にし、かつ、Mdを室温以上となるように制御する必要がある。一般に、Afは成分組成に大きく依存し、成分組成以外の因子により変化させることは難しい。そのため、Afは成分組成を変化させて制御することが望ましい。
【0016】
Mdは、すべりに対する臨界応力の向上により上昇し、Mdの上昇に伴い良好な超弾性特性が得られる。つまり、良好な超弾性特性を得るには、すべりに対する臨界応力を高くする必要がある。すべりに対する臨界応力を高める方法として、すべり変形を阻害する微細析出物を析出させる方法があげられる。Ti−Nb−Sn系合金においても、溶体化処理後に時効処理をして析出物を析出させ、すべりに対する臨界応力を高めることができる。
【0017】
ここで,本発明のTi−Nb−Sn系合金は、β安定型のTi合金である。β安定型Ti合金の微細析出相としてω相等がある。しかし、ω相等が析出すると脆化を招くことがある。このため、ω相等の析出によりすべりに対する臨界応力を上昇させるためには、ω相等の析出量をコントロールしてすべり変形は阻害するが脆化を抑えるようにする必要がある。
【0018】
そこで、本発明者らは鋭意研究を行い、その結果、脆化を招かずにすべりに対する臨界応力を上昇させて良好な超弾性が得られる熱処理条件を見出した。
【0019】
本発明では、Ti−Nb−Sn系合金の成分組成は、Nbは10〜20at%、Snは3〜6at%、残余がTi及び不可避不純物であることが望ましい。
【0020】
Nbが、10〜20at%であるのは、この範囲外では本発明による熱処理条件でも良好な超弾性が得られないためである。
【0021】
Snが、3〜6at%であるのは、低いとSnの効果が小さく、高いと加工性が圧下するからである。
【0022】
上記成分組成となるように用意した金属は、例えば、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製する。続いて、熱間加工を施し、焼鈍及び冷間加工を繰返し行う。
【0023】
最終冷間加工後に、溶体化処理、及びそれに続く加熱処理を施す。本発明では、溶体化処理温度を800℃以上1200℃以下とする。この理由は、800℃未満ではω相等の析出相の固溶や転位等の欠陥の消失には熱処理が不十分であり、1200℃を超えると経済的に効率が悪くなるためである。
【0024】
熱処理の時間は1分〜10時間が望ましい。長いと経済的に効率が悪く、短いと熱処理が不十分となるためである。
【0025】
熱処理の雰囲気は、真空もしくは不活性ガスが好ましい。理由は酸化防止のためである。本発明では、溶体化処理後の加熱処理温度を200℃以上700℃以下とする。この理由は、200℃未満および700℃を超えるとω相等が析出しないためである。
【0026】
本発明において、溶体化処理後の加熱処理時間を1分以上2時間以下とする。この理由は、1分未満ではω相等の析出量が少ないことによりすべりに対する臨界応力を上昇させる事ができないために良好な超弾性が得られない。また、2時間を超えるとω相等の析出量が多すぎて脆くなるためである。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
以下,本発明を実施例に基づいて説明する。
Nb:16at%、Sn:4.9at、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Nb−Sn系合金となるように、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製した。インゴットには熱間加工および冷間圧延加工を施した。前記冷間圧延加工時、最終焼鈍後の圧延加工率を90%として厚さ1mmの加工上がり板材を製造した。
【0028】
この板材から放電加工機を用いて試験片を切り出し、図1としての表1に示す温度で真空中で溶体化処理を行った。No.a〜No.iまでは、溶体化処理温度を950℃とし、溶体化処理時間は30分の一定とした。引き続いて、加熱処理を施した。加熱処理の温度は、溶体化処理を施したままのものから、800℃へと段階的に変えた。加熱処理時間は、5分の一定時間とした。
【0029】
No.jは、溶体化処理温度を700℃、溶体化熱処理時間を30分とし、溶体化処理後の加熱温度を400℃、溶体化処理後の加熱時間を5分としたものである。
【0030】
次に、熱処理後の合金板に対し、室温にて引張試験を行った。図2には、図1としての表1に示したNo.a〜iについての応力−ひずみ曲線を示した。縦軸は応力(単位:MPa)を示し、横軸はひずみ(単位:%)を示している。図3には、No.jについての応力−歪曲線を示した。また、図2、図3に示した応力−歪曲線の測定値から求めた2%引張後の残留ひずみも表1に示した。
【0031】
表1、図2、図3について以下に説明する。No.c〜No.hは本発明例を示したものであり、No.a、No.b、No.i及びNo.jは比較例を示したものである。No.aは、溶体化処理を施しただけのものであり、残留ひずみが0.21%と高い。No.bは、加熱処理温度が100℃とが低いために、残留ひずみが0.19%と、No.aと同程度に大きい値を示している。No.c〜No.hの残留ひずみについては、0.06〜0.14%とNo.a、No.bに比べて小さい値を示している。
【0032】
No.iは、加熱処理温度が800℃と高いために残留ひずみが0.19%と大きい値を示している。No.jは、溶体化熱処理温度が700℃と低いために、溶体化が不十分であり、強度が高く、残留ひずみも0.28%と大きい値を示している。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にして板厚1mmの加工上がり板材を製造した。この板材から放電加工機を用いて試験片を切り出し、真空中で950℃で30分の溶体化熱処理を施した。つづいて、温度を500℃一定とし、図4としての表2に示す時間の溶体化処理後の加熱処理を施した。
【0034】
次に、熱処理後の合金板に対し、室温にて引張試験を行った。2%引張後の残留ひずみについても図4としての表2に示した。No.2〜5は、本発明例を示したものであり、No.1、No.2、No.7は、比較例を示したものである。
【0035】
No.1は、溶体化処理を施しただけのものであり、残留ひずみが0.21%と高い。No.2は、加熱処理時間が0.5分と短いために、残留ひずみが0.19%と、No.1と同程度に大きい値を示している。本発明例のNo.2〜5の残留ひずみについては、0.06〜0.11%とNo.1、No.2に比べて小さい値を示している。No.7は、加熱処理時間が240分と本発明で規定する時間に比べて長いため、脆化してしまい、2%ひずみを与える前に破断した。
【0036】
以上、本発明例では板材を用いて説明したが、これらの方法は板材だけでなく、線材、条材、テープ材、パイプ材、異形線材、その他冷間加工の可能な形態であれば、何れも適用することができる。このような結果から、ω相等を析出させ、すべり臨界応力を高めたため、本発明の合金は超弾性特性にすぐれていることが言える。
【0037】
【発明の効果】
生体適合性に優れているTi−Nb−Sn系合金に対して,適切な熱処理を施すことにより良好な超弾性特性を発現させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、本発明実施例1の結果一覧表である。
【図2】本発明実施例1の応力−ひずみ測定結果である。
【図3】本発明実施例1の、別の応力−ひずみ測定結果である。
【図4】図4として示した表2であり、本発明実施例2の結果一覧表である。
【図5】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図6】分極抵抗および純金属、Co−Cr合金およびステンレス鋼の生体適合性の相互関係を示した図である。
【図7】超弾性の出現条件を示す模式図である。
Claims (3)
- 成分がNb、Sn、残りがTi及び不可避不純物であるTi合金を、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理し、
前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理をすることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。 - 前記Ti合金は、成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法。
- 下記工程を備えたことを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。
(a)成分組成でNbが10〜20at%、Snが3〜6at%、残りがTi及び不可避不純物となるようにインゴットを鋳造し、
(b)前記鋳造したインゴットに熱間加工を行い、続いて焼鈍及び冷間加工を繰返し行い、
(c)最終冷間加工後に、温度が800℃〜1200℃、時間が1分〜10時間、雰囲気を真空又は不活性ガスとして溶体化処理を行い、
(d)前記溶体化処理の後に、温度が200℃〜700℃、時間を1分〜2時間として加熱処理を行う。
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- 2002-10-01 JP JP2002289010A patent/JP2004124156A/ja active Pending
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