JP5144269B2 - 加工性を改善した高強度Co基合金及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従来の強化法や材質改善は、何れもα単相又は第二相がα相に連続析出した金属組織を前提にしている(文献1,2)。しかし、使用環境の過酷化に加え,一層の細線化,小型化を進めた用途への適用が要求されており、従来法で強化したCo合金よりも一段と高い強度が必要になってきた。
他の合金系ではラメラー組織による強化も採用されており、代表的な例が鉄鋼材料にみられるパーライト変態である。パーライト変態によりフェライト,セメンタイトのラメラー組織が形成されると、ピアノ線としての要求特性を満足するまでに高強度化される。
ラメラー組織を利用した材質強化は、本発明者等もCu−Mn−Al−Ni系合金を文献3で紹介しており、Co−Al二元合金のラメラー組織化も文献4に報告されている。
文献1:JP 7−179967 A
文献2:JP 10−140279 A
文献3:JP 5−25568 A
文献4:P.Zieba,Acta mater.Vol.46,No.1(1998)pp.369−377
ラメラー組織化したCo−Al二元合金は、軟質のα相マトリックスに硬質の析出相が極めて微細な間隔で層状に積層された複相組織を有し、高レベルで強度,靭性の両立を期待できる。しかし、通常の金属材料に比較すると延性が極めて低く、加工度の高い冷間加工では析出相やα相/析出相界面を起点とするクラックが発生しやすい。難加工性を克服し圧延,引抜き,スエージング等の冷間加工で目標形状への加工を可能にする方策としては、加工工程を多段階に分割し、各工程間で中間焼鈍により歪みを除去することが考えられる。しかし、中間焼鈍を伴う多段階冷間加工は、製造工程の複雑化,製造コストの上昇を招き、実効的な解決策とはいえない。中間焼鈍でラメラー組織が崩れ、ラメラー組織本来の特性が損なわれることも懸念される。
そこで、Co−Al合金の加工性改善を第三成分の添加,熱処理条件・加工条件の改善等、種々の観点から調査・検討した。その結果、Ni,Fe,Mn等を添加するとCo−Al合金の延性が向上し、高加工率の冷間加工でもクラックの発生が抑えられることを見出した。
本発明は、かかる知見をベースに完成されたものであり、Ni,Fe,Mnの添加でCo−Al合金の延性,ひいては加工性を改善することにより、ラメラー組織の特性を損なうことなく種々の形状に冷間加工でき、各種部品・部材の素材として有用なCo基合金の提供を目的とする。
本発明のCo基合金は、Al:3〜13質量%の他にNi:0.01〜50質量%,Fe:0.01〜40質量%,Mn:0.01〜30質量%から選ばれた一種又は二種以上の加工性改善元素を合計含有量:0.01〜60質量%で含む成分系を基本とし、f.c.c.構造のα相とβ(B2)相が微小間隔で相互に重なり合ったラメラー組織になっている。Ni,Fe及び/又はMnの添加で加工性が改善されているので薄肉化,細線化でき、加工後にもラメラー組織に由来する優れた強度,耐摩耗性を呈する。
以下、合金成分の含有量については単に%で表示し、その他の割合に関しては体積%,面積%等と表示する。
ラメラー組織は、凝固過程での制御冷却や溶体化処理後の時効処理によって生成する。本成分系では、f.c.c.構造のα相とβ(B2)相が層間隔:100μm以下で相互に重なり合って繰り返される複相組織であり、金属組織全体に対する占有率が30体積%以上に調整されている。Ni,Fe,Mn添加で加工性が改善されているので、ラメラー組織化したCo基合金に10%以上の冷間加工を施すこともできる。
本発明のCo基合金は、Co−Al二元系にNi,Fe,Mn等の加工性改善元素を添加した基本組成を有するが、他の元素を任意成分として含むことができる。任意成分には、表1から選ばれた一種又は二種以上がある。任意成分は、合計:0.001〜60%の範囲で一種又は二種以上が添加される。表1では、加工性改善元素,任意成分と主な析出物との関係を示す。
制御冷却又は時効処理でラメラー組織が生成したCo基合金に圧延,引抜き,スエージング等の冷間加工を加工率:10%以上で施すと、ラメラー組織が加工方向に伸長し、一層の組織微細化,加工硬化が図られ強度,耐磨耗性が向上する。しかも、Ni,Fe,Mnの添加で加工性が改善されているので、加工率:10%以上でもクラック等の加工欠陥が発生せず、目標形状に冷間加工できる。
図2は、実施例1の試料No.5が有するラメラー組織のSEM像
図3は、スエージングしたCo−Al−Ni合金のラメラー組織を示す光学顕微鏡像
α相は、f.c.c.(面心立方)の結晶構造をもち、Co−Al二元状態図(図1)からも判るようにCoにAlが固溶した相であり、低温でh.c.p.構造にマルテンサイト変態することもある。α相中に生成する晶出相又は析出相は、Ni,Fe,Mnを含むCo−Al系では結晶構造がB2型のβ相であるが、任意成分を含むCo−Al系ではL12構造のγ’相,D019型の相,M23C6型炭化物等も析出物となる。これら析出物は、X線回折,TEM観察等で同定できる。以下、L12構造のγ’相,D019型の相,M23C6型炭化物等をβ相で適宜代表させる。
ラメラー組織は、α相と晶出相又は析出相が層状に繰り返される複相組織であり、α相と晶出相又は析出相との層間隔(ラメラー間隔)が微細なほど優れた靭性を示す。
ラメラー組織は、α’→α+βで表される不連続析出により形成される。α’相とα相は同じ相であるが、界面に濃度ギャップが存在し、母相の溶質濃度は変化しない。図1のCo−Al二元系では、α単相域で熱処理し、その後、所定のα+β二相域で熱処理をすると不連続析出が生起する。
不連続析出では、ほとんどの場合は結晶粒界を起点として、二相がコロニーと呼ばれる集団を成して成長し、α相とβ相が層状に繰り返されるラメラー組織を形成する。
ラメラー組織が生成するメカニズムは種々提案されている。たとえば、
・ 粒界に析出した析出物が粒界とは非整合で、母相とは整合又は半整合であるために、そのエネルギーの不均衡に基づいて粒界が析出物/粒界の界面方向に移動し、これが繰り返されてラメラー組織を形成する説
・ 粒界移動が起こり、その過程で粒界に生成した析出物が更なる粒界移動によりラメラー組織となる説
母相と析出相との界面エネルギー,歪エネルギー,融点の差や温度等の様々な要素がラメラー組織化反応に関係するためメカニズムの解明は複雑になるが、何れにしても粒界反応型の析出である。0.75〜0.8Tm(Tm:融点の絶対温度)付近を境にして高温側では結晶格子上又は結晶格子間位置を占めながら原子がジャンプして拡散する体拡散(格子拡散)が支配的,低温側では粒界拡散が支配的になる一般則を前提にすると、粒界反応の結果であるラメラー組織を形成させるには比較的低温で熱処理する必要がある。しかし、析出の駆動力(換言すれば、単相域からの過冷度)が小さいと析出反応が緩慢になるため、過冷度をある程度大きくする必要がある。
Co−Al二元状態図(図1)は、磁気変態温度以下でα相の固溶度が大きく低下していることを示している。磁気変態温度を境とするα相の大幅な固溶度変化のため、Co−Al二元合金では固溶度の差が高温域と低温域で大きくなり、析出の駆動力増加をもたらす。その結果、低温での熱処理により十分にラメラー組織を形成できる。
ラメラー組織は共晶反応によっても生成することが知られている。共晶反応はL→α+βで表され、Co−Al二元系(図1)では約10%のAlを含む合金を凝固させると共晶反応が起こる。共晶反応では、α相とβ相が同時に晶出し、凝固面全域で溶質原子が拡散してお互いに隣接した二相が同時に成長するのでラメラー組織或いは棒状組織が形成される。両相の体積分率がほとんど等しい場合にはラメラー組織となり、体積分率に大きな差があるときは棒状組織になる傾向がある。Al:3〜13%のCo−Al合金では、金属組織が形成される高温領域でα相とβ相の体積分率に大きな差がないため、ラメラー組織が形成される。
Co−Al二元系で、α相は室温でh.c.p.構造のマルテンサイト相に変態している。h.c.p.構造は一般的に加工性が劣りがちであるが、f.c.c.構造のα相は加工性に優れる。Ni,Fe,Mn等の加工性改善元素は、h.c.p.構造よりf.c.c.構造を安定化させる作用があり、h.c.p.構造のマルテンサイト相への変態を抑制して加工性を向上させる。一方、Co−Al基合金のβ相は、Co:Ni,Co:Fe,Co:Mnの比が大きくなるほど軟質化する傾向を示す。したがって、Ni,Fe,Mn等はα,β両相の加工性改善に寄与し、α相、β相のラメラー組織を有するCo−Al基合金の加工性が改善される。しかも、Ni,Fe,Mnは磁気変態温度を大きくは低下させないため、ラメラー組織の形成をあまり阻害しない。
Co−Al二元合金やNi,Fe,Mn等の加工性改善元素を添加したCo基合金では生じないが、前掲の任意成分を含む系においては共析反応や連続析出でもラメラー組織が形成される。通常の連続析出ではラメラー組織は得られないが、方向性をもった析出反応が進行するとラメラー組織になりやすい。
本発明のCo基合金は、Al:3〜13%を含むCo−Al二元系にNi,Fe,Mnの一種又は二種以上を加工性改善元素として添加した成分系を基本とする。最適な合金設計では、加工率が99.9%に達する冷間加工も可能で、目標形状を得るために必要な冷間加工の工数を大幅に減少できる。
Alは、β(B2)相が層状に晶出又は析出したラメラー組織の形成に必須の成分であり、3%以上のAl含有量でラメラー組織化がみられる。しかし、13%を超える過剰量のAlが含まれると、マトリックスがβ相になりラメラー組織の占める割合が著しく低下する。好ましくは、4〜10%の範囲でAl含有量を選定する。
Ni,Fe,Mnは、α相の安定化に有効な成分であり、延性の向上に寄与する。しかし、過剰添加はラメラー組織の生成に悪影響を及ぼすので、Ni:0.01〜50%(好ましくは、5〜40%),Fe:0.01〜40%(好ましくは、2〜30%),Mn:0.01〜30%(好ましくは、2〜20%)の範囲でNi,Fe,Mnの含有量を定める。Ni,Fe,Mnの二種又は三種を同時添加する場合、同様な理由から合計添加量を0.01〜60%(好ましくは、2〜40%,より好ましくは5〜25%)の範囲で選定する。
Cr,Mo,Siは耐食性の向上に有効な成分であるが、過剰添加は延性の著しい劣化を招く。Cr,Mo,Siを添加する場合、Cr:0.01〜40%(好ましくは、5〜30%),Mo:0.01〜30%(好ましくは、1〜20%),Si:0.01〜5%(好ましくは、1〜3%)の範囲で含有量を選定する。
W,Zr,Ta,Hfは強度向上に有効な成分であるが、過剰添加は延性の著しい劣化を招く。W,Zr,Ta,Hfを添加する場合、W:0.01〜30%(好ましくは、1〜20%),Zr:0.01〜10%(好ましくは、0.1〜2%),Ta:0.01〜15%(好ましくは、0.1〜10%),Hf:0.01〜10%(好ましくは、0.1〜2%)の範囲で含有量を選定する。
Ga,V,Ti,Nb,Cは析出物,晶出物の生成を促進させる作用を呈するが、過剰添加すると金属組織全体に対するラメラー組織の占有割合が低下する傾向を示す。添加する場合、Ga:0.01〜20%(好ましくは、5〜15%),V:0.01〜20%(好ましくは、0.1〜15%).Ti:0.01〜12%(好ましくは、0.1〜10%),Nb:0.01〜20%(好ましくは、0.1〜7%),C:0.001〜3%(好ましくは、0.05〜2%)の範囲でそれぞれの含有量を選定する。
Rh,Pd,Ir,Pt,Auは、X線造影性,耐食性,耐酸化性の改善に有効な成分であるが、過剰添加するとラメラー組織の生成が抑制される傾向がみられる。添加する場合、Rh:0.01〜20%(好ましくは、1〜15%),Pd:0.01〜20%(好ましくは、1〜15%),Ir:0.01〜20%(好ましくは、1〜15%),Pt:0.01〜20%(好ましくは、1〜15%),Au:0.01〜10%(好ましくは、1〜5%)の範囲で含有量を選定する。
Bは結晶粒微細化に有効な成分であるが、過剰量のBが含まれると延性が著しく低下する。そこで、添加する場合には0.001〜1%(好ましくは、0.005〜0.1%)の範囲でB含有量を選定する。
Pは、脱酸に有効な成分であるが、過剰量のPが含まれると延性が著しく低下する。添加する場合には、0.001〜1%(好ましくは、0.01〜0.5%)の範囲でP含有量を選定する。
所定組成に調整されたCo基合金を溶解した後、鋳造し冷却すると、凝固時にf.c.c.構造のα相とβ(B2)相がラメラー組織を形成しながら晶出する。成長速度をVとするとラメラー間隔はV−1/2に比例するため、冷却速度により成長速度V,ひいてはラメラー間隔を制御できる。冷却速度とラメラー間隔との関係から冷却速度が速いほどラメラー間隔が微細化されるといえるが、安定的にラメラー組織を形成するためには、1500〜600℃の温度域を平均500℃/分以下(好ましくは、10〜450℃/分)の冷却速度で凝固させることが好ましい。
鋳造材でも十分満足できる特性が得られるが、熱間加工,冷間加工,歪除去焼鈍等で特性を改善することも可能である。鋳造材は、必要に応じ鍛造,熱間圧延を経て、圧延,引抜き,スエージング等の冷間加工によって目標サイズの板材,線材,管材等に成形される。
ラメラー組織を熱処理で生成させる場合、溶体化,時効処理の工程を経る。
先ず、冷間加工されたCo基合金を温度:900〜1400℃で溶体化処理する。溶体化処理により析出物がマトリックスに固溶し、冷間加工までの工程で導入された歪が除去され材質が均質化される。溶体化温度は再結晶温度より十分高く設定する必要があるので、900℃以上で融点(1400℃)以下とする。好ましくは、1000〜1300℃の範囲に溶体化温度が設定される。
溶体化処理されたCo基合金を温度:500〜900℃で時効処理すると、α相マトリックスにβ(B2)相等が層状析出したラメラー組織が形成される。層状析出を促進させるため時効温度を十分に拡散が起きる500℃以上とするが、900℃を超える高温加熱では体拡散支配となり結晶粒内を中心に析出物が形成され、粒界反応で生成する層状析出物と異なる形態の析出物が形成されやすくなる。そのため、500〜900℃(好ましくは、550〜750℃)の範囲で時効温度を選定する。時効処理に先立って、ラメラー組織形成を促進させるため冷間加工してもよい。一般的に、時効温度を下げると層間隔が微細になり、β(B2)相を初めとする析出物の体積分率が増加する。層間隔の微細化は、時効時間の短縮によっても達成される。
更に、ラメラー組織が形成されたCo基合金に圧延,引抜き,スエージング等の冷間加工を施すと、ラメラー組織が加工方向に沿って伸長し、組織微細化,加工硬化が一層進行するので、高強度が付与される。強度向上に及ぼす冷間加工の影響は、加工率:10%以上でみられるが、過剰な加工率は加工設備にかかる負担が大きくなるので上限を99%程度に設定することが好ましい。
ラメラー組織化後の冷間加工により目標形状に成形できることがNi,Fe,Mn等の加工性改善元素を添加した効果であり、強度,耐磨耗性に優れたCo基合金の用途展開にとって重要な性能付与となる。加工途中で焼鈍し、或いは焼鈍しながら加工することもあるが、最終形状は加工まま,熱処理ままの何れでも良い。具体的には、用途に応じて要求特性が異なるが、その要求特性に必要なラメラー組織の微細化度を冷間加工時の加工度やその前後の熱処理条件で調整できる。
鋳造時の制御冷却,時効処理の何れによる場合でも、加熱条件を制御して金属組織全体に占めるラメラー組織の割合を30体積%以上とすることにより、ラメラー組織に由来する高強度,高靭性等の特性が付与される。また、f.c.c.構造のα相とβ(B2)相との層間隔を100μm以下にすると、ラメラー組織に起因する特性を有効活用できる。
凝固過程で生成するラメラー組織は比較的粗大であり、時効処理で生成するラメラー組織は比較的微細である。そこで、凝固及び時効によるラメラー組織の形成を組み合わせるとき、粗大ラメラー組織と微細ラメラー組織を併せ持つ複合組織化も可能である。しかし、層間隔が100μmを超える組織では、ラメラー組織特有の性能を十分発揮できなくなる虞がある。
優れた特性は微細なラメラー組織に拠るところが多く、Co基合金全体にわたって均質化されている。しかも、オーステナイト系ステンレス鋼よりも優れたCo基合金本来の耐食性も活用できる。そのため、細線化,小型化しても一定した特性が得られるので、ゼンマイ,バネ,ワイヤ,ケーブルガイド,スチールベルト,軸受,肉盛材料やガイドワイヤ,ステント,カテーテル等の医療用器具,人工歯根,人工骨等の生体材料等、品質信頼性の高い製品として使用される。
次いで、図面を参照しながら、実施例によって本発明を具体的に説明する。
時効処理されたCo−Al合金板を顕微鏡観察し、β(B2)相の析出状態を調査した。表2の調査結果にみられるように、Al含有量を3〜13%の範囲に維持した試験No.2〜6のCo−Al合金では、f.c.c.構造のα相マトリックスにβ(B2)相が層状析出した。その結果、試験No.5のCo基合金をSEM観察した図2にみられるように、明確なラメラー組織が生成した。
試験No.7,8のCo−Al合金では、凝固過程の冷却条件により晶出反応を制御しているので、f.c.c.構造のα相とβ(B2)相が繰り返されるラメラー組織になっていた。試験No.7に比較して冷却速度の遅い試験No.8では、層間隔が広がっていた。
他方、Al含有量が3%未満の試験No.1のCo−Al合金では、β(B2)相の析出が不十分で実質的にはα単相の組織であった。逆に13%を超える過剰量のAlを含むNo.9,10のCo−Al合金では、マトリックスがβ(B2)相となり、鋳造凝固過程での制御冷却,時効処理の何れに拠る場合もラメラー組織の割合が極端に低下した。
SEM像の画像処理で求めたラメラー組織の面積比率から換算された体積比率,層間隔を表2に併せ示す。
表3にみられるように、ラメラー組織がSEM像の視野全域に生成したCo−Al合金を冷間加工するとラメラー組織の層間隔が狭まり、強度,耐摩耗性の改善が図られた。強度,耐磨耗性向上に及ぼす加工性の影響は10%以上の加工率が必要であるが、所定量のNi,Fe,Mn添加によりクラック等の加工欠陥なく目標形状に加工できることが判る。これは、Ni,Fe,Mn等でα相が軟質化されて加工時に必要なメタルフローが確保された結果と推察される。
表3中、強度に関してはJIS Z2241に準拠した引張試験で求めた。
耐摩耗性に関しては、SUJ−2を相手材とし大越式摩耗試験機で摩耗量を測定し、摩耗量の測定値から演算された比摩耗量を指標とした。比摩耗量:1×10−6mm2/kg以下を◎,(1.0〜5.0)×10−6mm2/kgを○,(5.0〜10)×10−6mm2/kgを△,10×10−6mm2/kg以上を×として耐摩耗性を評価した。
冷間加工性試験では、冷間圧延,引抜き,据込み鍛造で試験片が破断するまで加工率を上げ、破断時の加工率を求めた。何れの加工法による場合も、圧下率,断面減少率,減厚率が20%未満を×,20%以上で40%未満を△,40%以上を○として加工性を評価した。
表4の調査結果にみられるように、溶体化温度:900〜1400℃、時効温度:500〜900℃を満足する条件下でβ(B2)相の層状析出が促進され、目標のラメラー組織が得られた。また、Niの配合により延性に富むα相が安定化し、β(B2)相も軟化したため延性が大幅に改善され、加工率:40%で所定形状に冷間圧延した後でもミクロクラックのないラメラー組織が観察された。
500℃未満の時効温度ではβ(B2)相の生成・成長が不十分でラメラー組織化せず、900℃を超える時効温度ではβ(B2)相の析出形態が層状析出でなくなった。また、溶体化温度に達していない試験No.21では、析出物が十分に固溶されずに時効処理されたため、析出物の残渣でラメラー組織の生成が阻害されていた。しかし、1400℃を超える高温で溶体化処理した場合、部分溶融して液相が出現したので液状由来の塊状が層状と混在する組織になっていた。
表5の調査結果にみられるように、ラメラー組織がスエージング方向に伸長し、ラメラー組織が一層微細化した(図3)。ラメラー組織の微細化は加工硬化と相俟って、Co基合金の物性向上にも有効であった。このような冷間加工の効果は、10%以上の断面減少率でみられ、断面減少率が大きくなるほど顕著になった。
また、実施例1と同じ基準で加工性を評価した。
表6の調査結果にみられるように、本発明例では何れの試験においてもラメラー組織が維持されており、任意成分の添加により耐食性,強度,伸び等が改善されていた。そのため、10%を超える加工率で冷間加工しても、クラック等の加工欠陥がなく目標形状に加工できた。
Claims (5)
- 質量比でAl:3〜13%を含み、残部がCo及び不可避的不純物からなる組成を有し、さらに、Ni:5〜21.6%、Fe:2〜10.7%、Mn:2〜5.2%から選ばれた一種は二種以上の加工性改善元素:2〜37.5%からなる組成をもつCo−Al合金であって、
f.c.c.構造のα相中の結晶粒界に沿って、
f.c.c.構造のα相とB2型のβ相が層間隔:100μm以下で繰り返されるラメラー組織が析出して、30体積%以上を占めるコロニーを形成する金属組織を有する
ことを特徴とするCo−Al合金。 - 請求項1に記載のCo−Al合金において、
前記Co−Al合金は、さらに、
Cr:5〜19.4%、
Μo:1〜16.2%、
W :1〜27%、
Ta:0.1〜6.2%、
Ti:0.1〜7.0%、
C :0.05〜0.7%、
Ir:1〜1.7%、
B :0.005〜0.04%、
P :0.01〜0.5%から選ばれた一種、
またはC :0.05〜0.7%と、Cr及び/又はMoとの組み合わせで8.5%以下からなる組成で、
前記ラメラー組織が、
f.c.c.構造のα相と、
B2型のβ相とL12型のγ´相、DO19型の析出物、M23C6型の炭化物との群から選択される1以上とからなるものと、によって形成されている
ことを特徴とするCo−Al合金。 - Co−Al合金の製造方法において、
請求項1又は2記載の組成をもつCo−Al合金を溶解した後、1500〜600℃の温度域を平均冷却速度:500℃/分以下で冷却・凝固し、
f.c.c.構造のα相中の結晶粒界に沿って、
f.c.c.構造のα相とB2型のβ相、L12型のγ´相、DO19型の析出物、M23C6型の炭化物のいずれかの相とで層間隔:100μm以下で繰り返されるラメラー組織が析出して、30体積%以上を占めるコロニーを形成する金属組織を有する
ことを特徴とするCo−Al合金の製造方法。 - Co−Al合金の製造方法において、
請求項1又は2記載の組成をもつCo−Al合金を溶解した後、900〜1400℃で溶体化処理した後、直接に500〜900℃の時効処理により、
f.c.c.構造のα相中の結晶粒界に沿って、
f.c.c.構造のα相とB2型のβ相、L12型のγ´相、DO19型の析出物、M23C6型の炭化物のいずれかの相とで層間隔:100μm以下で繰り返されるラメラー組織が析出して、30体積%以上を占めるコロニーを形成する金属組織を有する
ことを特徴とするCo−Al合金の製造方法。 - 請求項3又は4に記載のCo−Al合金の製造方法において、
ラメラー組織形成後に加工率:10%以上の冷間加工を施す
ことを特徴とするCo−Al合金の製造方法。
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