JP3748055B2 - ボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材およびボイスコイルモータ磁気回路用ヨーク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録装置におけるボイスコイルモータ等に適した磁気回路を提供するための、磁気回路を構成する高磁束密度、高耐蝕性のボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材、および、ボイスコイルモータ磁気回路用ヨークに関する。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクには、磁気記録膜を成膜したメディアとそのメディアを必要な回転数に回転させるスピンドルモータ、記録内容を読み書きする磁気ヘッドとそれを駆動するボイスコイルモータや、制御装置等が配置される。ボイスコイルモータの磁気回路は、磁束を発生させる永久磁石と、それらをつなぐヨークで構成され、ヘッド駆動用アクチュエーターとして使用される。また、CD、DVDドライブの磁気回路では、ピックアップ用レンズを駆動するアクチュエーターとして磁束を発生させる永久磁石とそれをつなぐヨークが使用される。近年、メーカーの激しい価格競争により、ボイスコイルモータにも更なる低コストが要求されている。
【0003】
これらに使用される部品においては、清浄で発塵性のないことが第一に求められる。ヨーク等鉄部品で容易に錆びてしまう恐れのある部品においては、発生した錆びがパーティクルコンタミネーションとなってハードディスク、ピックアップ用のヘッドやレンズを汚染するため、各種の耐蝕性表面処理を行って使用されるのが通常である。さらに、部品それぞれをクリーンな製造工程にて作製し、コスト的に高価となることは不可避ではあったが、磁気ヘッドとメディア間のクラッシュや、レンズの汚染を避けるために厳しいクリーン度管理が行われている。
【0004】
ボイスコイルモータを構成する磁気回路のヨーク材は、低コスト化の要求から、SPCC、SPCD、SPCEなどの安価な一般圧延鋼板が用いられる。これらの一般圧延鋼板は、打抜き、曲げ等の加工性が良く、安価なことが特長であるが、一般圧延鋼板である為に、錆の発生を抑制することはできず、前述の問題を解決するためにプレス機械等で加工後、高価な無電解Ni−Pメッキ等を施し、錆の発生を抑えているのが実状である。
【0005】
このように、磁気回路の低コスト化を実現するには、SPCC等の安価な材料を用いていたが、一般圧延鋼板の耐蝕性が期待できないため、Niメッキ等の高価な耐蝕性金属皮膜を形成する必要があった。したがって、コスト的に高価となることは不可避であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
先に延べたように、SPCC等の冷間圧延鋼板は、打抜き、型取り、穴あけや曲げ、エンボス加工などの生産性に優れることと、安価なために最も多く使用されている。しかしながら、これらの鋼材は充分な飽和磁化や耐蝕性を有しないため、前述の小型化、薄型化により、部分的なVCM磁気回路において磁気飽和をさけることが困難であり、高磁束密度を有する永久磁石からの磁束を磁気回路に十分に導くことができなかった。また、ヨークの厚み寸法も装置全体からの制約によって制限され、高性能磁石の磁束すべてを有効に活用することができず、磁気回路の途中で部分的に飽和したり、磁束の漏れが発生したりする。
【0007】
このような磁束の漏れは、磁気回路のギャップ磁束密度を低下させるだけでなく、周辺の磁気記録媒体や制御機器に対して影響を及ぼすことになる。VCM回路からの漏れ磁束量には一定の規定があり、製品の漏れ磁束量はこの規定値以下にしなければならない。
【0008】
また、さび等のパーティクルコンタミネーション発生を避けるために、表面処理膜を成膜することが必須であり、低コスト化が非常に困難であった。
【0009】
これらの漏れ磁束量を無くし、永久磁石の持つ高磁束密度の特性をすべて活用し、かつ、安価に製造することができるヨーク用磁性材料の開発が強く求められていた。
【0010】
本発明は、上記要望に応えるためになされたもので、磁束密度が高く、かつ耐蝕性に優れて、耐蝕性金属皮膜の形成を省略することができ、安価に製造することができるボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材およびボイスコイルモータ磁気回路用ヨークを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明は、上記目的を達成するため、ボイスコイルモータ磁気回路に使用される板厚が0.1mm以上5mm以下、板内部の磁界強度変動が0〜10Hzであるヨーク用板材において、該板材がC:0.0001〜0.02重量%、Si:0.0001〜5重量%、Mn:0.001〜0.2重量%、P:0.0001〜0.05重量%、S:0.0001〜0.05重量%、Al:0.0001〜5重量%、O:0.001〜0.1重量%、N:0.0001〜0.03重量%、Co:0〜10重量%、Cr:6〜10重量%の各元素を含有し、さらに添加元素としてTi、Zr、Nb、Mo、V、Ni、W、Ta、Bから選ばれる少なくとも一種以上の合金元素を合計で0.01〜5重量%含有し、その他実用上不可避の不純物以外には残部がFeからなる鉄合金であって、かつその飽和磁束密度が1.7テスラ以上2.3テスラ以下、最大比透磁率が1200以上22000以下、保磁力が20A/m以上380A/m以下であることを特徴とするボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材、およびこの鉄合金板材を用いたボイスコイルモータ磁気回路用ヨークを提供する。この場合、このヨークは、上記鉄合金板材の耐蝕性が良好であるため、従来のように表面に耐蝕性金属皮膜、例えばNi、Cu、Sn、Au、Pt、Zn、Fe、Co、Al等の金属や、これらの金属を20重量%以上含む合金の皮膜の形成を省略することができる。
【0012】
すなわち、上記鉄合金板材を用いることによって、高特性を保持しつつ高耐蝕性のボイスコイルモータを製作することができる。特に、従来高価なためにその使用を控えられてきていたCoが飽和磁化の向上に有効であり、板材の高飽和磁化によって高性能永久磁石から発生する磁束を効率良く磁気回路へ導くことができ、またCrを添加することによって高耐蝕性を付加し、表面処理膜を必要としないために安価に製造できることが特徴である。さらに、添加元素として加えられたTi、Zr、Nb、Mo、V、Ni、W、Taから選ばれる少なくとも一種以上の合金元素からなる炭化物および/または酸化物が合金の粒界および/または粒内に微細に分散して析出していることが好ましい。
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0014】
本発明のボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材は、上述したように、C、Si、Mn、P、S、Al、O、Nを特定量含有すると共に、好ましくはCo、Crも特定量含有し、かつTi、Zr、Nb、Mo、V、Ni、W、Ta、Bの1種又は2種以上を特定量含有する鉄合金からなるものである。
【0015】
すなわち、本発明者らは、上述した目的を達成するべく種々の材料の検討を行い、耐蝕性を向上させる元素を調べた結果、SPCCなどの鉄鋼は空気中で加熱するとスケールを発生し酸化が早くなる。これは、FeO、Fe3O4が金属不足n型半導体でFe++の移動によって成長し、Fe2O3は金属過剰p型の半導体でOの移動によって成長するため、酸化物層を通して酸素が浸透し、酸化物層下の鉄の酸化を進める。酸化を進めないためには酸化物層が緻密で、割れなど生じることなく、よく密着して、内部への酸素を妨げるような作用を持たせればよい。Al、Cr、SiはFeよりも酸化しやすく、しかも安定な酸化物を作る金属を合金化するため、Feよりも選択的に酸化され、Al2O3、Cr2O3、SiO2の薄い緻密な被膜をつくり、酸化の進行を妨げる。詳しくは、Al、CrはFeO・Al2O3、FeO・Cr2O3の複合酸化物を、Siは2FeO・SiO2の複合酸化物を生成する。できた酸化物層は容積が小さく、表面を完全に覆わない場合は耐酸化性がなく、反対に容積が大きすぎると酸化物層が膨れたり、割れたりして同様に耐酸化性がない。適当な容積の緻密な酸化物層が表面を完全に覆う場合がもっとも良い。
【0016】
また、SPCC材等の成分から磁束密度の低下に影響を及ぼす元素を調べた。鉄に対しては、C、Al、Si、P、S、Mnは磁気モーメントを持っていないか、磁気モーメントが鉄母体と異なるために、これら元素の存在によって周囲の鉄の磁気モーメントを低下させる現象が起こる。特にP、Sは、磁束密度の低下以外に耐蝕性においても悪影響を及ぼす。しかし、これらの元素をむやみに低減させるのは、原料の製造コストの面から不利であり、性能的にも少量の範囲内であれば含有していても満足できる。
【0017】
以上の観点から、本発明のボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材は、C:0.0001〜0.02重量%、Si:0.0001〜5重量%、Mn:0.001〜0.2重量%、P:0.0001〜0.05重量%、S:0.0001〜0.05重量%、Al:0.0001〜5重量%、残部がFeの範囲とするものであり、より好ましくはC:0.0005〜0.015重量%、特に0.001〜0.01重量%、Si:0.0005〜5重量%、特に0.001〜5重量%、Mn:0.001〜0.2重量%、特に0.01〜0.2重量%、P:0.0001〜0.05重量%、特に0.001〜0.05重量%、S:0.0001〜0.05重量%、特に0.001〜0.05重量%、Al:0.0005〜5重量%、特に0.001〜5重量%とする。
【0018】
また、OおよびNは同様に磁気特性に影響し、O:0.001〜0.1重量%およびN:0.0001〜0.03重量%とすることが好ましく、この範囲であれば、飽和磁束密度を特には劣化させない。より好ましくは、O:0.005〜0.09重量%、特に0.005〜0.08重量%、N:0.0005〜0.03重量%、特に0.0005〜0.02重量%である。
【0019】
Coは0〜10重量%、Crは6〜10重量%とする。特にFe−Cr合金はほぼ直線的に自発磁気モーメントを低下させることがわかっており、多量の添加は磁束の低下につながる。また、この合金の10〜80重量%の組成のものは焼きなましによって物理的性質が著しく変化する。たとえば、475℃での焼きなましでは機械的に固く、脆くなり、切削や打抜き加工などの塑性加工能が著しく低下し、脆性と共に耐蝕性も劣化する。また、700℃前後で長時間加熱されると粒界にσ相が析出し、耐粒界腐蝕性や機械強度が低下する。したがって、Crの範囲は10重量%以下とする。本発明のボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材およびボイスコイルモータ磁気回路用ヨークはその使用される環境がステンレス鋼が使用されると塩害環境や薬品等が存在する環境とは異なるためにCr量は少なくて良い。
【0020】
一方、鉄原子よりも外殻電子数が多いCoは、磁束密度を増大させることから、本発明において重要な元素である。Co量は、最大10重量%まで添加することができ、合金の飽和磁束密度を増加させるが、それ以上は、合金の強度が大きく硬くなりすぎるために圧延加工が難しく、または同時に高価な金属であるためにコストの点から不利となる。よってCo量は、0.1〜10重量%、特に4〜10重量%の範囲とすることが好ましい。また、磁束密度を低下させる元素の添加と見合った分のCoを添加させることによって、従来のSPCCなどの材料に劣らない磁束密度を発現することが可能となる。
【0021】
添加元素として添加されるTi、Zr、Nb、Mo、Cr、V、Ni、W、Taから選ばれる少なくとも一種以上の元素は、材料中のフェライト相内に固溶した場合、磁束密度の低下を起こすが、不可避に混入するC、O、Nとの間で金属間化合物を生成し、炭化物、酸化物、窒化物を作る。その結果、これらの析出物は合金組織中に微細に均一に析出し、塑性加工中の転移の移動を阻害することができる。このため合金の過剰な延性が小さくなり、板材の打抜き時に、せん断面のバリ発生を抑えることができる。またこれらC、O、Nを固定化する元素を含有するものは焼きなまし温度から急冷しても鋭敏化されることはなく、耐粒界腐蝕性が良く且つ結晶粒の粗大化も起こりがたい。
【0022】
Mo、V、Niはステンレスなどの例に見られるように、鉄合金板材の耐蝕性を向上させる効果がある。低炭素の場合、440〜540℃の焼戻しで著しく脆化し、かつ2次硬化が生じるが焼戻し脆性はCrとの炭化物によるものであり、これら元素の添加による炭素トラップより焼戻し軟化抵抗性が改善される。W、Ta、Bは、板材の圧延加工性を向上させる効果があり、加工費の低減に貢献できる。しかし、これらの元素はいずれも飽和磁化を減少させるので、合計でも5重量%を超えて添加することは好ましくない。従って、これらの添加元素は、0.01〜5重量%の割合で添加される。
【0023】
Feは残部であるが、鉄合金中、50重量%以上、特に75重量%以上含有することが好ましい。
【0024】
さらに、本発明では、飽和磁束密度を1.7〜2.3テスラとすることが特徴であり、飽和磁束密度が高くても最大比透磁率が小さいか、または保磁力が大きすぎてしまっては、磁気回路の磁気抵抗が増大し、ギャップ磁束密度が低くなってしまう。このため、最大比透磁率は1200以上22000以下の範囲とし、保磁力は20A/m以上380A/m以下の範囲とする。より好ましくは、飽和磁束密度は1.8〜2.3テスラ、特に2.0〜2.3テスラであり、最大比透磁率は1500〜22000、特に2000〜22000であり、保磁力は20〜350A/m、特に20〜300A/mである。
【0025】
更にヨーク材の硬さが大きくなると、打抜きや曲げ等の加工に必要な力が大きくなるのでプレス機等の能力が不足する場合があり、また金型にかかる負担が大きくなるため金型の寿命が低下するので硬さ(ロックウェル)をHRB90以下、好ましくは85以下にすることがよい。
【0026】
合金成分は、原料材料や製鋼方法によって目的とする範囲に調整されるが、生産性、品質上からは連続鋳造法が好ましく、また小ロット生産には真空溶解法などが適する。鋳造後、所定板厚の鋼材とするために、熱間圧延、冷間圧延などが実施される。このようにして得られた鉄合金板材は、機械式プレスや、油圧式プレスもしくはファインブランキングプレス等にて、打抜き、型取り、穴あけ、曲げ、エンボスなどの塑性加工により、所定のヨーク形状に加工処理され、バリ取り、面取り、機械研磨、化学研磨、電解研磨などの後、ボイスコイルモータに用いる板厚が0.1mm以上5mm以下、好ましくは0.5〜4.5mm、板内部の磁界強度変動が0〜10Hz、好ましくは0〜5Hzであるヨーク材として製造することができる。
【0027】
ヨーク材の板厚が0.1mm未満の場合は、薄すぎて板材の飽和磁化を多少向上させても磁気回路の特性向上効果があまり見られず、また5mmを超える場合は、逆に充分に厚いため、本発明によらなくても磁気回路が飽和する問題は生じない。ヨーク材板内部の磁界強度の変動が10Hzを超える場合は、周波数の自乗に比例する渦電流が発生し、ヨーク材が加熱されることから酸化が加速されるため、十分な耐蝕性を得ることができない。
【0028】
ここで、ヨーク材に発生するバリ取りには、爆発燃焼式、バレル研磨などが用いられる。仕上げには、機械研磨であるバフ研磨、化学研磨、電解研磨が採用される。特に、機械研磨を行った表面は無定形な極微粒子の集合体のベイルビー層、金属結晶が微細化された破砕結晶、加工によって変形した塑性変形の領域からなる数ミクロン程度以下の加工変質層が存在し、バフ研磨による鏡面加工のみでは、加工変質層が残存するために、所定の性能が得られないので、化学研磨、好ましくは電解研磨が必要となる。電解研磨は表面の突起を優先して溶解し、かつ全体にわたり溶解するために、加工変質層を完全に除去できる。これにより、平滑な面が得られ、記録情報を破壊してしまうパーティクル発生を低減するには最適の処理である。電解研磨液には、過塩素酸、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、ロダンソーダ、尿素、硝酸コバルト、硝酸第二鉄などに、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、ブチルセロソルブ、グリセリン、純水などを適宜調合する。
【0029】
以上の工程で作成されたボイスコイルモータ磁気回路用ヨークは、その耐蝕性が優れるために、ヨーク表面に耐蝕性皮膜をコーティングする必要がない。逆にこのヨークに金属あるいは各種合金からなる耐蝕性皮膜を、電気メッキ、無電解メッキ、イオンプレーティング等の各種方法でコートすることは、ヨークのコストアップを招くことから好ましくない。すなわち本発明の鉄合金においては、該板材合金の表面にNi、Cu、Sn、Au、Pt、Zn、Fe、Co、Alなどの金属の皮膜又はこれらの金属の少なくとも一種以上の金属を20重量%以上含む合金皮膜を存在させないことにより、製品のコストアップを防止することが出来る。
【0030】
【実施例】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[参考例1〜14]
表1に示す参考例1〜14に示す成分組成の鋼合金塊を溶解・連続鋳造して、幅200mm、長さ500mm、板厚50mmの合金塊を得た。
【0032】
その合金塊を大気雰囲気で1200℃に加熱して熱間圧延を開始し、950℃以下で60%の累積圧下率とし、850℃で熱間圧延を終了した。熱間圧延終了後は、室温まで空冷した。その後、冷間圧延した後、900℃で仕上焼鈍、酸洗を実施し、厚さ1mmの鋼板とした。
【0033】
得られた鋼板を機械式打抜きプレス機にてヨーク形状に打抜き加工し、上下ヨーク2種のヨーク材を得た。
【0034】
得られたヨークにバレル面取り、電解研磨を施した。それら上下ヨークの内側に、最大エネルギー積400kJ/m3の永久磁石をヨークの中央位置に接着し、磁気回路を作製した。
【0035】
作製したヨーク材を約4mm角に切断し、最大磁界1.9MA/mの振動試料型磁力計にて飽和磁束密度を測定した。
【0036】
また、ヨーク形状に打抜いた残りの板材から、外径45mm、内径33mmのリング試料を作製し、JIS C 2531(1999)に記載される方法に準拠し、前述のリング試料を、間に紙を挟み2枚重ね、絶縁テープを巻いた後、励磁用コイル、磁化検出用コイルとしてそれぞれ50ターンづつ0.26mmφの銅線を巻き、最大磁界±1.6kA/mの直流磁化特性自動記録装置にて磁気ヒステリシス曲線を描き、最大比透磁率及び保磁力を測定した。
【0037】
さらに、作製したボイスコイルモータ用磁気回路の性能を調べるために、実際の磁気記録装置に使用されている平面コイルを用い、磁束計(Lakeshore製 480Fluxmeter)を用いて、その磁気回路ギャップ間の総磁束量を測定した。また、硬さについてもJIS Z 2245に準拠し、測定した。
【0038】
耐蝕性を評価するために、温度80℃、相対湿度90%の環境下で、200時間試験し、発錆なしを◎、変色を○、発錆ありを×とし、判定した。
【0039】
[比較例1〜6]
比較例として、一般的な市販のSPCC−SD品、板厚1mmの材料(比較例1)と、表2に示す比較例2〜6に示す成分組成の鋼合金塊を参考例1と同様にして得た厚さ1mmの鋼板について、参考例1と同様に、磁気特性を測定した。
【0040】
結果を表1に示す。なお、表1において、対SPCCは、比較例1の磁束量に対する増減率を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[実施例1〜10、参考例15〜20]
同じく表2に示す実施例1〜10、参考例15〜20の成分組成の鋼塊を電炉、転炉−脱ガス、連続鋳造工程を経て溶解・鋳造し、厚さ200mmのスラブを得た。溶銑はRH脱ガスおよびVOD法(真空−酸素脱炭法)により精製した。
【0043】
得られた200mm板厚のスラブを1100〜1200℃に加熱・均熱し、熱間圧延機で圧延し、仕上げ温度850〜950℃で板厚約10mmとした。再結晶焼鈍(850〜900℃)後、酸洗、冷間圧延により約4mmの板厚とした。その後約850℃で仕上焼鈍後酸洗して供試用鋼板を得た。
【0044】
得られた鋼板を機械式打抜きプレス機にてヨーク形状に打抜き加工し、上下ヨーク2種を得た。得られたヨークは爆発燃焼式バリ取り、化学研磨を施した。
【0045】
それら上下ヨークの内側に、最大エネルギー積400kJ/m3の永久磁石をヨークの中央位置に接着し、磁気回路を作製した。
【0046】
作製したヨーク板材の磁気特性を上記と同様にして測定した。
【0047】
以上の実験結果を表2に示す。
【0048】
なお、表2における対SPCCも、比較例1の磁束量に対するそれぞれの増加率を%で表している。
【0049】
【表2】
【0050】
表1、2から、実施例の組成の鋼板は、いずれも、比較例に対して比透磁率は上昇、保磁力は減少し、磁気回路ギャップにおける総磁束量もSPCCに対し遜色ないことが判る。また、明らかな発錆はなく、パーティクルコンタミネーションは無いことが判る。
【0051】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、磁気記録装置ボイスコイルモータ用磁気回路部材として使用される厚さ0.5mmから5mmのヨーク材の磁気特性、及び、耐蝕性を向上させることによって、構成する磁気回路に磁石から投入される磁束を有効に利用してギャップ間の磁束密度を維持し、母材の耐蝕性を向上させ、バリ取り、面取り後の仕上げに化学研磨、電解研磨するだけで、耐蝕性金属皮膜の形成を必要としない安価な磁気回路の提供が可能となる。
Claims (3)
- ボイスコイルモータ磁気回路に使用される板厚が0.1mm以上5mm以下、板内部の磁界強度変動が0〜10Hzであるヨーク用板材において、該板材がC:0.0001〜0.02重量%、Si:0.0001〜5重量%、Mn:0.001〜0.2重量%、P:0.0001〜0.05重量%、S:0.0001〜0.05重量%、Al:0.0001〜5重量%、O:0.001〜0.1重量%、N:0.0001〜0.03重量%、Co:0〜10重量%、Cr:6〜10重量%の各元素を含有し、さらに添加元素としてTi、Zr、Nb、Mo、V、Ni、W、Ta、Bから選ばれる少なくとも一種以上の合金元素を合計で0.01〜5重量%含有し、その他実用上不可避の不純物以外には残部がFeからなる鉄合金であって、かつその飽和磁束密度が1.7テスラ以上2.3テスラ以下、最大比透磁率が1200以上22000以下、保磁力が20A/m以上380A/m以下であることを特徴とするボイスコイルモータ磁気回路ヨーク用鉄合金板材。
- 請求項1に記載の鉄合金板材を用いたボイスコイルモータ磁気回路用ヨーク。
- 表面に耐蝕性金属皮膜を有さない請求項2記載のヨーク。
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