JP3730817B2 - H型鉄骨梁の耐火構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物の鉄骨構造体を構成するH型鉄骨梁の耐火構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、集合住宅や戸建て住宅などにおいて、建築物の主要構造部を構成する梁、柱などに軽量鉄骨が用いられるようになっている。このような建築物の主要構造部を構成する鉄骨梁や鉄骨柱には、建設省告示第2999号やJIS A 1304により耐火性能基準が定められており、その基準を満たすために、鉄骨の表面を耐火性に優れた材料(耐火被覆材)で被覆する方法が一般的に実施されている。
【0003】
例えば、特開平6−32664号公報に記載されるように、水ガラスや水硬性セメントにバーミキュライト、ロックウールなどの無機成分を混合した耐火被覆材料を鉄骨梁や鉄骨柱に吹き付けて鉄骨梁や鉄骨柱の耐火性能を確保するものが知られている。
【0004】
また、フレキシブルな断熱材料を鉄骨に巻き付ける工法も知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、耐火被覆材料を吹き付けて耐火性能を確保するものでは、施工時に現場で吹き付ける必要があることから、作業環境が悪化するとともに、ムラが発生し易く、ある程度熟練した技能が必要となるため、施工性が低下するという問題があった。
【0006】
また、フレキシブルな断熱材料を鉄骨に巻き付けて耐火性能を確保するものでは、複雑な形状の部位は施工が有利であるが、一般部では施工性が悪く、また厚みも厚いといった問題があった。さらに、耐火被覆材料の厚みが厚いと、特に梁下部において、その分、天井高が低くなり、部屋が狭く見えたり、容積が減少するので部屋の収納利用空間が少なくなるという欠点がある。この場合、一定の天井高を確保しようとすると、階高が高くなり、構造体力的に不利に働く他、コスト高になるといった問題がある。
【0007】
なお、鉄骨構造体の鉄骨柱や鉄骨梁に耐火性能を確保する必要がある建築物においては、厚みが100mmの軽量気泡コンクリート板などの耐火性の高い外壁材や床材が使用されている。このような外壁材や床材が接する鉄骨梁Gの少なくとも一面は、耐火性の高い外壁材Wや床材B(図4参照)によって保護されているので、外壁材Wや床材Bを一つの耐火被覆材と見做して他の耐火被覆材Fとの合成耐火被覆構造とすることが認められている。このような合成耐火被覆構造を採用すると、鉄骨梁Gの一面乃至三面を被覆する必要がなくなるので、大きな経済的効果が得られるばかりでなく、作業性が大きく改善されるという利点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、施工性および耐火性に優れるとともに、梁下部の厚みを薄くすることのできるH型鉄骨梁の耐火構造を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、鉄骨構造体を構成するH型鉄骨梁と、H型鉄骨梁の上フランジに載置された耐火性床材と、H型鉄骨梁の上フランジを除く三面を被覆する耐火被覆材と、から構成され、木口が耐火性床材に突き合わされるとともに、H型鉄骨梁の上下フランジの端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材が無機系ボードであり、また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材が、厚み0.2〜0.8mmの金属板および金属板の内面に積層されてH型鉄骨梁の下フランジに接する熱膨張性シートから形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明は、鉄骨構造体を構成するH型鉄骨梁と、H型鉄骨梁の上フランジに載置された耐火性床材と、H型鉄骨梁の上フランジを除く三面を被覆する耐火被覆材と、から構成され、木口が耐火性床材に突き合わされるとともに、H型鉄骨梁の上下フランジの端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材が無機系ボードであり、また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材が、厚み0.2〜0.8mmの金属板と、金属板の内面に積層された熱膨張性シートと、熱膨張性シートの内面に積層されてH型鉄骨梁の下フランジに接する無機質板と、から形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、前記H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、無機系ボードの外面側端縁部に沿うように折り曲げられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、前記H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、熱膨張性シートを包み込むように折り曲げられていることを特徴とするものである。
【0013】
耐火性床材としては、軽量気泡コンクリート板(ALC板)、プレキャストコンクリート板(PC板)など、従来より用いられているものを採用することができる。
【0014】
無機系ボードとしては、不燃性を有する材料から構成され、ボード状であれば特に限定されず、例えば、ケイ酸カルシウム板、繊維混入ケイ酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、石膏ボード、繊維強化石膏ボード、パーライトセメント板、繊維強化セメント板、木片セメント板、木粉セメント板、スラグ石膏板、軽量気泡コンクリート板(ALC板)などが挙げられる。
【0015】
無機系ボードの厚みは所望する耐火性能にもよるが、20〜50mmが好ましい。無機系ボードの厚みが20mm未満であると耐火性能が不十分であり、50mmを超えると重量が重くなり、施工性が悪くなる。
【0016】
無機系ボードは複数枚貼り合わせて所定の厚みにした構成でもよい。
金属板としては、耐熱性のある金属であれば特に限定されないが、例えば、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、アルミ・亜鉛合金板、アルミニウム板などが挙げられる。
【0017】
金属板は、熱膨張性シートが膨張する際に変形や湾曲することによって、破れや切断を起こさずに膨張を吸収する。
【0018】
金属板の厚みは、0.2〜0.8mmが好ましい。厚みが、0.2mm未満では防炎材料や形状保持材として機能せず、0.8mmを超えると湾曲し難くなり、熱膨張性シートの膨張によって形成される断熱層に追随して変形することができず、断熱層を破損するおそれがある。
【0019】
熱膨張性シートを構成する材料としては、ウレタン樹脂、熱膨張性黒鉛、クロロプレン、バーミキュライト、アクリル系樹脂、リン化合物、窒素化合物、多価アルコールなどの材料;これらと汎用の塗料組成物とを組合わせた組成物などが挙げられる。
【0020】
熱膨張性シートは、熱可塑性樹脂および/またはゴム物質/またはエポキシ樹脂から選ばれる樹脂に、リン化合物および無機充填材を含有する樹脂組成物からなり、膨張により十分な断熱性能を発揮し、シート状に形成でき、取扱性に優れている。
【0021】
熱可塑性樹脂および/またはゴム物質としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブテン、ポリクロロプレン、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴムなどが挙げられる。
【0022】
中でも、ポリクロロプレン、塩素化ブチルゴムなどのハロゲン化された樹脂は、それ自体難燃性が高く、さらに熱による脱ハロゲン化反応により、架橋が起こり、加熱後の燃焼残渣の強度が向上する点において好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂および/またはゴム物質として例示したものは、非常に柔軟でゴム的性質を持っていることから、無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂シートが柔軟でフレキシブルなものとなる。より柔軟でフレキシブルな樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0024】
熱可塑性樹脂および/またはゴム物質は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。樹脂の溶融粘度、柔軟性、粘着性などの調整のため、2種以上の樹脂をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0025】
熱可塑性樹脂および/またはゴム物質には、樹脂組成物の耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。このような架橋や変性を行う場合は、予め架橋、変性した熱可塑性樹脂および/またはゴム物質に、後述のリン化合物や無機充填材などの他の成分を配合してもよく、他の成分を配合する際同時に、または、配合した後で架橋や変性が施されてもよい。また、架橋方法については特に限定されず、熱可塑性樹脂またはゴム物質について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物などを使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、基本的にはエポキシ基を持つモノマーと硬化剤を反応させて得られる。
【0027】
エポキシ基を持つモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型として、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6−へキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイドービスフェノールA型、水添ビスフェノールA型などが、グリシジルエステル型として、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、P−オキシ安息香酸型などが、多官能のグリシジルエーテル型として、フェノールノボラツク型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型などが挙げられる。
【0028】
これらは、単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
硬化剤としては、重付加型として、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタンなどが、触媒型として、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体などが挙げられる。
【0029】
エポキシ樹脂の硬化方法は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0030】
このような樹脂成分より得られる樹脂組成物は非常に柔軟なものから硬いものまでその設計により自由に選択できる。
【0031】
リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどの各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;一般式R3(R2)PO(OR1)で表される化合物などが挙げられる。
【0032】
式中、R1およびR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基または炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0033】
これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類および前記一般式で表される化合物が好ましく、性能、安全性、費用などの点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0034】
赤リンは、少量の添加で難燃効果が向上する。赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しないなどの安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたものなどが好適に用いられる。
【0035】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられるが、取扱性などの点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」;住友化学工業社製「スミセーフP」;チッソ社製「テラージュC60」、「テラージュC70」、「テラージュC80」などが挙げられる。
【0036】
一般式R3(R2)PO(OR1)で表される化合物としては、特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチルーブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸などが挙げられる。なかでも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点においては好ましい。
【0037】
リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
無機充填材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類などの金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、けい酸カルシウムなどのカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、 活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥などが挙げられる。これらの中でも、含水無機物および金属炭酸塩が好ましい。
【0038】
水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点および燃焼残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られるので、併用することが好ましい。
【0039】
炭酸カルシウム、炭酸亜鉛などの金属炭酸塩は、リン化合物との反応で膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合に、高い膨張効果が得られる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い燃焼残渣を形成する。
【0040】
金属炭酸塩の中でも、さらに、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸亜鉛などの周期律表IIb族金属の炭酸塩が好ましい。
【0041】
一般的に、無機充填材は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。
【0042】
無機充填材は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機充填材の粒径としては、0.5〜100μmのものが使用でき、より好ましくは、約1〜50μmである。また、粒径の大きい無機充填材と粒径の小さい無機充填材を組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせて用いることによって、熱膨張性シートの力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。
【0043】
樹脂組成物には、熱可塑性樹脂および/またはゴム物質、リン化合物および無機充填材の他に、中和処理された熱膨張性黒鉛、多価アルコールなどが添加されていてもよい。
【0044】
中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイトなどの粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸などの無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素などの強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0045】
このように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、さらにアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などで中和することにより、中和処理された熱膨張性黒鉛とする。
【0046】
脂肪族低級アミンとしては、特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどが挙げられる。
【0047】
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウムなどの水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。
【0048】
中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」などが挙げられる。
【0049】
中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、所定の耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きくなるという利点はあるが、樹脂組成物と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0050】
多価アルコールは、分子中に水酸基を2つ以上有する炭化水素化合物であり、その炭素数は1〜50が好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−へキサンジオール、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、グルコース、フルクトース、デンプン、セルロースなどが挙げられる。
【0051】
多価アルコールは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
多価アルコールとしては、分子中の水酸基数と炭素数との比〔(水酸基数)/(炭素数)〕が、0.2〜2.0であるものが好ましく、より好ましくは、ペンタエリスリトール類、ソルビトール、マンニトールなどに代表されるような、〔(水酸基数)/(炭素数)〕が、0.7〜1.5のものである。中でも、ペンタエリスリトール類は、水酸基含有率が高いため炭化促進効果が高く、最も好ましいものである。
【0052】
分子中の水酸基数と炭素数との比〔(水酸基数)/(炭素数)〕が0.2〜2.0の範囲にある多価アルコールは、燃焼時に脱水縮合して効果的に炭化層を形成する。上記比〔(水酸基数)/(炭素数)〕が0.2未満であると、燃焼時には脱水縮合よりも炭素鎖の分解が起こり易くなるため、充分な炭化層を形成することができず、2.0を超えると、炭化層の形成には差し支えないが、耐水性が大幅に低下する。耐水性が低下すると、成形直後の樹脂組成物を水冷する際に、多価アルコールが溶出したり、成形体の保管中の湿度によって、上記多価アルコールがブリードアウトするなどの問題点がある。
【0053】
熱膨張性シートに粘着性を付与するためには、例えば、熱可塑性樹脂および/またはゴム物質に粘着付与剤を添加すればよい。
【0054】
粘着付与剤としては、特に限定されず、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、油脂類、高分子低重合物などが挙げられる。
【0055】
また、樹脂組成物の樹脂成分にエポキシ樹脂を用いる場合は、粘着性を有する熱膨張性シートとして用いる以外に、金属板にエポキシ樹脂組成物を直接キュアしても構わない。
【0056】
熱膨張性シートを構成する樹脂組成物に、樹脂組成物の物性を損なわない範囲で、難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料などが添加されてもよい。
【0057】
樹脂組成物は、前述した各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロールなど従来から公知の混練装置を用いて混練することにより得ることができる。得られた樹脂組成物は、例えば、プレス成型、押出成型、カレンダー成型などの従来公知の方法により、熱膨張性シートに成型することができる。
【0058】
熱膨張性シートの厚みは、0.3〜5.0mmが好ましい。厚みが0.3mm未満では膨張しても十分な断熱性を発現せず、5.0mmを超えると施工の自由度が低下するばかりでなく、重くなって取扱性が悪くなる。より好ましくは1.0〜3.0mmである。
【0059】
熱膨張性シートは、25℃における初期のかさ密度が0.8〜2.0g/cm3 であるものが好ましく、より好ましくは、1.0〜1.8g/cm3 である。25℃での初期のかさ密度を0.8〜2.0g/cm3 の範囲内とすることによって、熱膨張性シートに要求される断熱性、耐火性などの物性を損なわず、しかも、作業性に優れたものとすることができる。
【0060】
25℃における初期のかさ密度が、0.8g/cm3 未満であると、樹脂組成物中に充分な量の膨張剤、炭化剤、不燃性充填剤などを添加することができず、加熱後の膨張倍率、残渣量が不充分となり、十分な耐火断熱層を形成することができない。25℃における初期のかさ密度が、2.0g/cm3 を超えると、熱膨張性シートの重量が大きくなり過ぎるために、施工現場での作業性が低下する。
【0061】
熱膨張性シートは、500℃で1時間加熱したときのかさ密度が0.05〜0.5g/cm3 であるものが好ましく、より好ましくは、0.1〜0.3g/cm3 である。500°Cで1時間加熱したときのかさ密度が、0.05g/cm3 未満であると、隙間が多すぎるため、膨張時の崩れにより耐火断熱層を層として形成することができなくなり、0.5g/cm3 を超えると、膨張倍率が不充分となり、耐火性能を充分に発揮することができず、耐火断熱層を形成することができなくなる。
【0062】
熱膨張性シートは、50kW/m2 の加熱条件下で30分間体積膨張させた後の熱伝導
率が、0.01〜0.3kca1/m・h・℃であることが好ましい。50kW/m2 の加熱条件下で30分間体積膨張させた後の熱伝導率が、0.3kca1/m・h・℃を超えると、断熱性能が不充分であるため充分な耐火性能を発揮することができず、0.01kca1/m・h・℃未満であるものは、有機物および無機物の混合物では作ることができない。
【0063】
熱膨張性シートは、示差走査熱量計(DSC)により測定される、10°C/分の昇温速度で600°Cまで昇温した場合の総吸熱量が、100J/g以上であることが好ましい。総吸熱量が100J/g以上であると温度上昇が遅くなるため、断熱性能がより良好となる。
【0064】
無機断熱層としては、断熱性を有するのであれば特に限定されず、汎用のものを用いることができ、例えば、ケイ酸カルシウム板、繊維混入ケイ酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、石膏ボード、繊維強化石膏ボード、パーライトセメント板、繊維強化セメント板、木片セメント板、木粉セメント板、スラグ石膏板などの無機質板が挙げられる。
【0065】
無機断熱層の厚みは、5〜50mmが好ましい。厚みが5mm未満では断熱効果が不十分であり、50mmを超えると重量が重くなって施工性が低下する。
【0066】
本発明によれば、H型鉄骨梁は、耐火性床材と耐火被覆材とで被覆された合成耐火被覆構造に形成されているため、H型鉄骨梁に火災による熱が伝わることを確実に防止することができ、また、耐火被覆材をH型鉄骨梁に取り付けるだけの簡単な作業で施工することができる。しかも、H型鉄骨梁の下フランジに金属板および熱膨張性シートからなる厚みの薄い耐火被覆材を配設することにより、その厚みの減少分だけ、梁下部において、階高を高くすることなく天井高を確保することができ、部屋が狭く見えたり、容積を減少させることがない。
【0067】
また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、無機系ボードの外面側端縁部に沿うように折り曲げられていると、無機系ボードに対する金属板および熱膨張性シートからなる耐火被覆材の位置決めが容易となるとともに、無機系ボードに対する釘固定の選択肢が広がる他、無機系ボードの木口と金属板および熱膨張性シートからなる耐火被覆材との接合部に形成される目地を覆うことができる。
【0068】
さらに、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、熱膨張性シートを包み込むように折り曲げられていると、熱膨張性シートの端縁部が露出するのを防止することができる。
【0069】
また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の熱膨張性シートの内面にさらに無機断熱層が積層されていると、さらに優れた耐火性能を得ることができるとともに、耐火被覆材の施工が良好となる。
【0070】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(実施例1)
図1に本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例1を示す。
【0071】
この実施例1の耐火構造は、H型鉄骨梁Gと、H型鉄骨梁Gの上フランジg1に載置された床材Bと、木口が床材Bに突き合わされるとともに、H型鉄骨梁Gの上下フランジg1,g2の端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材F1と、H型鉄骨梁Gの下フランジg2に沿って配設された耐火被覆材F2と、から構成されている。
【0072】
ここで、床材Bとしては、厚み100mmのALC板が採用され、耐火被覆材F1としては、厚み25mmのケイ酸カルシウム板が採用されている。また、耐火被覆材F2は、厚み0.3mmの亜鉛メッキ鋼板f21と、亜鉛メッキ鋼板f21の内面に貼着された熱膨張性シートf22と、から形成されている。
【0073】
なお、熱膨張性シートf22は、下記の表1に示す組成を表1に示す配合A(重量部)で厚み5mmに形成したものである。
【0074】
【表1】
そして、鉄骨梁Gの耐火性床材Bに面する一面を除く三面に対応して、耐火被覆材F1,F1および耐火被覆材F2を耐火接着剤(アスク社製「キルボンド」)と釘を用いてコ字状に形成し、鉄骨梁Gに被せて取り付けた。
(実施例2)
図2に本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例2を示す。
【0075】
この実施例2の耐火構造は、実施例1と同様に、H型鉄骨梁Gと、H型鉄骨梁Gの上フランジg1に載置された床材Bと、木口が床材Bに突き合わされるとともに、H型鉄骨梁Gの上下フランジg1,g2の端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材F1と、H型鉄骨梁Gの下フランジg2に沿って配設された耐火被覆材F3と、から構成されている。
【0076】
ここで、床材Bとしては、厚み100mmのALC板が採用され、耐火被覆材F1としては、厚み25mmのケイ酸カルシウム板が採用されている。また、耐火被覆材F3は、厚み0.3mmの亜鉛メッキ鋼板f31と、亜鉛メッキ鋼板f31の内面に貼着された熱膨張性シートf32と、から形成されている。また、亜鉛メッキ鋼板f31は、その端縁部が耐火被覆材F1の外面側端縁部に沿うように直角に折り曲げられている。
【0077】
なお、熱膨張性シートf32は、前記表1に示す組成を表1に示す配合B(重量部)で厚み5mmに形成したものである。
【0078】
そして、実施例1の場合と同様に、鉄骨梁Gの耐火性床材Bに面する一面を除く三面に対応して、耐火被覆材F1,F1および耐火被覆材F3を耐火接着剤(アスク社製「キルボンド」)と釘を用いてコ字状に形成し、鉄骨梁Gに被せて取り付けた。
(実施例3)
図3に本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例3を示す。
【0079】
この実施例3の耐火構造は、実施例1と同様に、H型鉄骨梁Gと、H型鉄骨梁Gの上フランジg1に載置された床材Bと、木口が床材Bに突き合わされるとともに、H型鉄骨梁Gの上下フランジg1,g2の端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材F1と、H型鉄骨梁Gの下フランジg2に沿って配設された耐火被覆材F4と、から構成されている。
【0080】
ここで、床材Bとしては、厚み100mmのALC板が採用され、耐火被覆材F1としては、厚み25mmのケイ酸カルシウム板が採用されている。また、耐火被覆材F4は、厚み0.3mmの亜鉛メッキ鋼板f41と、亜鉛メッキ鋼板f41の内面に貼着された熱膨張性シートf42と、熱膨張性シートf42の内面に積層された厚み9.5mmの無機断熱層(石膏ボード;吉野石膏製)f43と、から形成されている。また、亜鉛メッキ鋼板f41は、その端縁部が無機断熱層f43の表面側端縁部に沿うようにコ字状に折り曲げられている。
【0081】
なお、熱膨張性シートf42は、前記表1に示す組成を表1に示す配合C(重量部)で厚み1.5mmに形成したものである。
【0082】
そして、実施例1の場合と同様に、鉄骨梁Gの耐火性床材Bに面する一面を除く三面に対応して、耐火被覆材F1,F1および耐火被覆材F4を耐火接着剤(アスク社製「キルボンド」)と釘を用いてコ字状に形成し、鉄骨梁Gに被せて取り付けた。
(比較例)
比較例は、H型鉄骨梁Gの下フランジg2に沿って配設された耐火被覆材として、実施例3の耐火被覆材F4の熱膨張性シートf42がないものを用いた。その他の構成は、実施例1乃至実施例3と同一である。
【0083】
これらの実施例1乃至実施例3および比較例について、JIS A 1304に準じて耐火加熱試験を行い、1時間後の鉄骨梁Hの表面温度を鉄骨梁Hに取り付けた熱電対により測定した。そして、平均温度が350℃以下のものを○とした。
【0084】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、H型鉄骨梁は、耐火性床材と耐火被覆材とで被覆された合成耐火被覆構造に形成されているため、H型鉄骨梁に火災による熱が伝わることを確実に防止することができ、また、耐火被覆材をH型鉄骨梁に取り付けるだけの簡単な作業で施工することができる。しかも、H型鉄骨梁の下フランジに金属板および熱膨張性シートからなる厚みの薄い耐火被覆材を配設することにより、その厚みの減少分だけ、梁下部において、階高を高くすることなく天井高を確保することができ、部屋が狭く見えたり、容積を減少させることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例1を示す縦断面図である。
【図2】本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例2を示す縦断面図である。
【図3】本発明のH型鉄骨梁の耐火構造の実施例3を示す縦断面図である。
【図4】鉄骨梁の合成耐火被覆構造の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
G H型鉄骨梁
g1 上フランジ
g2 下フランジ
B 耐火性床材
F1 耐火被覆材(ケイ酸カルシウム板)
F2,F3,F4 耐火被覆材
f21,f31,f41 金属板(亜鉛メッキ鋼板)
f22,f32,f42 熱膨張性シート
f43 無機断熱層(石膏ボード)
Claims (6)
- 鉄骨構造体を構成するH型鉄骨梁と、H型鉄骨梁の上フランジに載置された耐火性床材と、H型鉄骨梁の上フランジを除く三面を被覆する耐火被覆材と、から構成され、木口が耐火性床材に突き合わされるとともに、H型鉄骨梁の上下フランジの端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材が無機系ボードであり、また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材が、厚み0.2〜0.8mmの金属板および金属板の内面に積層されてH型鉄骨梁の下フランジに接する熱膨張性シートから形成されていることを特徴とするH型鉄骨梁の耐火構造。
- 鉄骨構造体を構成するH型鉄骨梁と、H型鉄骨梁の上フランジに載置された耐火性床材と、H型鉄骨梁の上フランジを除く三面を被覆する耐火被覆材と、から構成され、木口が耐火性床材に突き合わされるとともに、H型鉄骨梁の上下フランジの端面に沿って配設された2枚の耐火被覆材が無機系ボードであり、また、H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材が、厚み0.2〜0.8mmの金属板と、金属板の内面に積層された熱膨張性シートと、熱膨張性シートの内面に積層されてH型鉄骨梁の下フランジに接する無機質板と、から形成されていることを特徴とするH型鉄骨梁の耐火構造。
- 前記H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、無機系ボードの外面側端縁部に沿うように折り曲げられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のH型鉄骨梁の耐火構造。
- 前記H型鉄骨梁の下フランジに沿って配設された耐火被覆材の金属板の両端が、熱膨張性シートを包み込むように折り曲げられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のH型鉄骨梁の耐火構造。
- 前記熱膨張性シートが、熱可塑性樹脂および/またはゴム物質/またはエポキシ樹脂から選ばれる樹脂に、リン化合物および無機充填材を含有させた樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載のH型鉄骨梁の耐火構造。
- 前記無機系ボードが、ケイ酸カルシウム板、繊維強化石膏ボード、軽量気泡コンクリート板、木片セメント板から選択されることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5記載のH型鉄骨梁の耐火構造。
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