JP3704543B2 - Ait放出制御製剤,その製造方法およびその用途 - Google Patents

Ait放出制御製剤,その製造方法およびその用途 Download PDF

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Description

〔技術分野〕
本発明は、イソチオシアン酸アリル(以下、AITという。)の蒸気の放出が容易に制御でき、持続徐放的放出が可能なAIT放出制御製剤、すなわちAITとシェラックとを含有し、シェラックがAIT放出のバリアーになるように配されてなるAIT放出制御製剤、その製造方法およびその用途に関する。
〔従来技術〕
ワサビ等の成分であるAITは、優れた殺菌・防菌・防黴作用等の抗微生物作用を有しており、また人体に有害作用を示さないことから、食品類などに対する殺菌剤などとしての有用性が注目されている。
AITはそれ自体特有の強い刺激臭を有しており、高濃度で使用した場合に食品などにその刺激臭が付着するなどといった問題点を有している。このため、できるかぎり少ない量で効果的に抗微生物作用を発揮させることが必要である。好都合にも、揮発性の高いAITから蒸発するAIT蒸気にもまた高い抗微生物効果が認められており、当該蒸気によれば少ない量で効果的に抗微生物作用を発揮させることができる。
しかしながら、AITの揮発性は極めて高いため、そのままで使用すると被抗微生物処理物を接触せしめる雰囲気ガス中のAIT蒸気の濃度は短時間で高くなり、その効果の持続性に欠け、また被抗微生物処理物への着臭、またAIT蒸気の被抗微生物処理物への浸透による悪影響の懸念がある。
そこで、AITが抗微生物剤として有効に使用されるために、AIT蒸気の放出速度が自由にコントロールされ、被抗微生物処理物が接触する雰囲気ガス中のAIT蒸気の濃度が、被抗微生物処理物もしくは処理方法に応じて自由に制御できる製剤の開発が待望されている。就中、雰囲気ガス中のAIT濃度を長時間にわたって所望の濃度に保ちうる製剤の開発が待望されている。
この要求を満たす抗微生物剤の形態としては、使用する系に応じて使いやすいものであるともに、加工が容易なものが好ましい。かかる観点から、従来よりAITを担体に担持させてAIT蒸気の放出速度を調節する形態のもの、AITをAIT蒸気透過性のよいフィルムで包装してなるもの、またAITをサイクロデキストリン(以下、CDという。)で包接して揮発性を抑えて粉体状や粒体状にしたもの、該粉体状物等を樹脂に練込んでフィルム状に加工したもの、該粉体状物等を紙や不織布に抄き込んだり、コーティング加工した形態のもの、コアソルベーション法やスプレードライ法等の各種方法で、マイクロカプセル化して揮散性を抑えて粉体状や粒体状等にしたもの、および熱可塑性合成樹脂中に練込んでフィルム状もしくはシート状に加工したもの等が提案されている。
しかしながら、単にAITを担体に担持させた形態のものは、AITの強い揮発性を十分に抑制することができないばかりか、この担持物によると他の形態への加工が容易でない。またAIT蒸気透過性フィルムの場合は、AIT蒸気の放出速度がフィルムの厚みによって調節されるため放出速度の調節が制限され、また適用可能な系が限られてしまう。また、CD包接物はCD自体が高価であること、また一定の湿度以上の系でないとAIT蒸気は放出されず、逆に湿度が高すぎるとCDのAIT包接力が弱くなって急激にAITを放出してしまい、AIT蒸気の放出速度をコントロールできないという問題点がある。
また、AITのマイクロカプセル化は、製造工程でのAIT歩留りが極めて悪く量産が困難であるため工業的生産に適さないこと、またAIT蒸気の放出にはマイクロカプセル化物を外力を加えることにより破壊しなければならず、AIT蒸気の放出速度をコントロールできない等の問題がある。
さらに、AITの熱可塑性合成樹脂中への練込みもマイクロカプセル化と同様にAITの歩留りが極めて悪く工業的生産に適さない。また、AITは多くの合成樹脂を侵す性質を有しているため、かかる合成樹脂にAITを練込んで作ったシートまたはフィルムは膨潤しているか、もしくは経時的に膨潤してくるため実用的な材料として適さない。また、AITによって侵されない合成樹脂は、AIT蒸気不透過性ゆえにAITを練込んでもAIT蒸気をほとんど放出しないという欠点がある。
このように従来は、AIT蒸気の放出速度が自由にコントロールでき、かつ各種の系に対応できる実用的なAIT放出制御製剤はなかった。
〔発明の開示〕
本発明者らは上記問題を鑑みて鋭意研究を重ねた結果、シェラックをAIT放出のバリアーとなるように配することにより、特にシェラックにAITを取り込ませることによってAIT蒸気の放出が容易に制御できることを見出し、さらにこれらを含む製剤が容易にかつ経済的に作成でき、また各種の剤型に調製することが容易であることを確認して本発明を完成した。
すなわち、本発明はAITとシェラックとを含有し、シェラックがAIT放出のバリアーとなるように配されてなるAIT放出制御製剤、および下記の特徴を有するAIT放出制御製剤を提供するものである。
(1)AITを取り込んでなるシェラックを含むAIT放出制御製剤。
(2)AIT1重量部に対してシェラック1〜1000重量部を含有するAIT放出制御製剤。
(3)100℃以下の温度で溶融したシェラックにAITを混合する工程を経て作成されるAIT放出制御製剤。
(4)AITを取り込んでなるシェラックが板状,ブロック状,粒体状または粉末状であるAIT放出制御製剤。
(5)AITを取り込んでなるシェラックが基材〔例えば、プラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む)、紙、不織布、織布など〕に付着されてなるAIT放出制御製剤。
(6)AITを取り込んでなるシェラックが基材〔例えば、プラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む)、紙、不織布、織布など〕に混入されてなるAIT放出制御製剤。
(7)AITを取り込んでなるシェラックにおけるAITが担体に担持された態様のものであるAIT放出制御製剤。
また本発明は、上記AIT放出制御製剤の抗微生物剤,防虫剤,食品等の防腐剤や鮮度保持剤または保存剤としての用途を提供するとともに、本発明のAIT放出制御製剤の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1,2,5,6,9,10で調製したAIT放出制御製剤および比較例1,2で調製したAIT含有製剤のAITの残存率を経時的に測定した結果を示すグラフである。なお、図中の符号1〜8は下記のことを意味する。
1.実施例5で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
2.実施例1で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
3.実施例6で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
4.実施例2で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
5.実施例9で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
6.実施例10で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
7.比較例1で調製したAIT含有製剤のAITの残存率の経時的変化。
8.比較例2で調製したAIT含有製剤のAITの残存率の経時的変化。
図2は、実施例2,6,10,13,18で調製したAIT放出制御製剤および比較例3,4で調製したAIT含有製剤のAITの残存率を経時的に測定した結果を示すグラフである。なお、図中の符号9〜15は下記のことを意味する。
9.実施例18で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
10.実施例2で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
11.実施例13で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
12.実施例6で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
13.実施例10で調製したAIT放出制御製剤のAITの残存率の経時的変化。
14.比較例3で調製したAIT含有製剤のAITの残存率の経時的変化。
15.比較例4で調製したAIT含有製剤のAITの残存率の経時的変化。
〔発明の詳細な説明〕
以下、本発明のAIT放出制御製剤、その製造方法およびその用途について説明する。
本発明で使用されるシェラックとは、ある種の豆科植物や桑科植物などに寄生するラックカイガラ虫が分泌する樹脂状物質であり、通常はこれを漂白、精製して使用される。この化学組成は未解明であるが、主成分はオキシカルボン酸がラクトンとして互いに結合した天然縮合生成物であると考えられている。
シェラックはそのまま使用してもよいが、本発明の目的に反しない範囲において、通常使用される各種の添加剤、例えば可塑剤,着色剤,密着防止剤,付着防止剤などを含んでいてもよい。
本発明で使用されるAITは天然由来のもの、合成によるもののいずれでもよい。さらにAIT100%からなる単剤に限らず、AIT含有組成物でもよい。食品に使用する場合は、天然物由来のものを用いることが好ましい。また、AITの合成法についても特に限定されない。
本発明のAIT放出制御製剤は、AITとシェラックを含有し、シェラックがAIT放出のバリアーとなるように配されてなること、具体的にはAITを取り込んでなるシェラック(以下、「AIT取込シェラック」ともいう。)を含有することを特徴とするものである。ここで、AITがシェラックに取り込まれた状態とは、AITの全面またはその一部がシェラックで覆われている状態を意味し、好適にはその全面がシェラックで覆われているものである。かかる態様の「AIT取込シェラック」において、AITはシェラック中に本来の揮発性が抑制された状態で存在しており、取り込まれたAITがシェラックを透過して放出されることにより、またAIT蒸気が固形のシェラックに形成された微細孔を通過することによりAIT蒸気の放出速度が制御される。
本発明のAIT放出制御製剤における「AIT取込シェラック」のAITとシェラックとの配合割合は、AIT蒸気の放出速度を制御する重要な要素となるものである。従って、かかる配合割合を適宜変更することにより、本発明のAIT放出制御製剤のAIT蒸気の放出速度を目的・用途に応じて所望の速度に調節することができる。一般に、AIT量およびAIT放出表面積が同一である「AIT取込シェラック」で比較した場合、シェラックに対するAITの配合割合が大きい程AIT蒸気放出速度が大きくなる。これはAITの配合割合の増加によりシェラック本来の構造緻密性が損なわれてAIT透過性が増加すること、また「AIT取込シェラック」部のAIT濃度と外部との濃度差が大きくなってAIT蒸気放出量が増加することに起因するものと考えられる。
本発明のAIT放出制御製剤の「AIT取込シェラック」部におけるシェラックとAITとの配合割合は、好適にはAIT1重量部に対してシェラック1〜1000重量部である。AIT1重量部に対して、シェラックが1000重量部より大きい場合はAIT蒸気の放出速度が極めて小さくなり、またシェラックが1重量部より小さい場合はAIT蒸気の放出速度が極めて大きくなり徐放性が低下し、加えて「AIT取込シェラック」が柔らかくなる傾向にある。
また、この配合割合はAIT放出制御製剤の用途に応じて適宜選択される。例えば、AIT放出制御製剤を冷蔵庫の冷蔵室の抗菌,生鮮食品等の鮮度保持を目的として用いる場合はAIT放出量は微量であればよく、AIT1重量部に対してシェラックが100〜1000重量部であることが好ましい。また洋服ダンスにおいて防虫や防黴を目的に用いる場合または防黴壁紙や防虫シート・フィルターとして用いる場合は、AIT1重量部に対してシェラックが1〜50重量部であることが好ましい。
「AIT取込シェラック」において、シェラックは常温で固形状態にあり、その内部にAITが取り込まれている。シェラックに取り込まれて存在するAITの態様は特に限定されず、例えば液状(油液など),AITを担体に担持させた粉末状または粒体状物の態様であってもよい。
ここで用いられる担体としてはAITを担持できるものであり、かつAITに対して反応性等の影響がないものであればいかなるものであってもよい。例えば、パルプ,紙,セルロース粒子,ゼオライト,アルミナ,シリカゲル,ケイ酸カルシウムなど通常使用される不活性担体が挙げられる。
本発明のAIT放出制御製剤の形態は特に限定されない。好ましくは次のような剤型が例示される。
▲1▼「AIT取込シェラック」自体よりなる製剤であって、例えばその形態が板状(フィルム状,シート状を含む),ブロック状,粒体状または粉末状である製剤。
▲2▼「AIT取込シェラック」がプラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む),紙,不織布,織布などの基材に付着されてなる製剤。
▲3▼「AIT取込シェラック」、特に粉末状,粒体状の「AIT取込シェラック」がプラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む),紙,不織布,織布などの基材に混入されてなる製剤。
▲4▼上記▲1▼〜▲3▼の製剤において、AITが担体に担持されたものである製剤。
次に上記例示の製剤について、説明する。
(a)▲1▼の製剤
当該製剤、すなわち「AIT取込シェラック」の調製方法としては、有機溶媒に溶解したシェラックにAITを添加混合し、その後該溶解混合液から有機溶媒を蒸発等により除去する(脱溶媒)ことによってシェラックを固化・成形する方法(以下、溶媒法という)、または加熱溶融したシェラックにAITを添加混合し、その後該溶融混合液を冷却固化・成形する方法(以下、溶融法という)などが例示される。ここで、配合に用いるAITの態様は特に限定されず、液状(油液など)、担体に担持させた態様の粉末状,粒体状、AIT含有組成物などが挙げられる。
(i)溶媒法
溶媒法は、シェラックを有機溶媒に溶解する工程を有するものであり、ここで用いられる有機溶媒としては、通常アルコール、好ましくはエタノールが例示される。
有機溶媒に溶解させるシェラックの濃度は、所望とする製剤のAIT蒸気の放出速度などに応じて適宜選択される。通常、溶解に使用する有機溶媒の量が少ない方が微細孔の少ないシェラック部が形成されるため、より徐放性とするためにはシェラックが比較的高濃度であることが好ましい。
一般に有機溶媒中のシェラック濃度が30重量%未満であると、AITの歩留りが悪くなり、また出来る「AIT取込シェラック」のAIT蒸気の放出速度は極めて早くなる傾向にある。従って、作業性が悪くならない範囲で極力高濃度で作成することが好ましい。一方、シェラックの濃度が60重量%を越えると粘度が高くなり、処理作業がしにくくなる傾向にある。よって、有機溶媒に溶解させるシェラックの好ましい濃度は30〜60重量%であり、より好ましくは40〜60重量%である。また、かかる濃度範囲ならば「AIT取込シェラック」のAIT蒸気の放出速度に対する該濃度の変動による影響が少ない。
ついで、このシェラック溶解液にAITを液状のまま、または担体担持の状態で添加混合する。この際のAITとシェラックとの混合比率(重量比を意味する。以下、これを仕込みAIT/シェラック比という。)は、所望するAIT蒸気の放出速度に応じた「AIT取込シェラック」のシェラックとAITとの配合割合及び工程中のAITの歩留り等を考慮して適宜選択されるが、通常0.2〜200%、好ましくは3〜80%である(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラック0.5〜500重量部、好ましくは1.25〜33.4重量部である。)。より徐放性とするためにはAITの比率が低いほうが好ましい。一般に仕込みAIT/シェラック比が3%未満であるとAIT蒸気の放出速度は遅くなり、また80%を越えると作成する「AIT取込シェラック」が軟らかくなる傾向がある。特にそれらの傾向は、該比が0.2%未満もしくは200%より大きい程強くなる。
なお、得られた混合溶液から有機溶媒を除去する方法としては、一般には熱風乾燥や真空乾燥などが例示される。
(ii)溶融法
溶融法は、シェラックを加熱溶融した後にAITを添加混合することを特徴とするものである。具体的にはシェラックを100℃以下、好ましくは70〜100℃、より好ましくは80〜90℃の温度で溶融させて、AITを液状のまま、または担体担持の状態でこれに投入し、冷却固化させることによって「AIT取込シェラック」を調製する。
溶融温度として100℃より高い温度を用いると、AITの歩留りが悪化し、できあがる「AIT取込シェラック」のAIT蒸気の放出速度が大きくなり、さらに表面もあばた状に汚くなる傾向がある。また、冷却固化はAITの歩留りが多くなるという理由から、できるだけ早く行うことが好ましい。
作成時における仕込みAIT/シェラック比は通常0.125〜125%、好ましくは3〜100%であり(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラック0.8〜800重量部、好ましくは1〜33.4重量部である。)、AITの歩留りおよび最終製品であるAIT放出制御製剤におけるシェラックとAITとの配合割合を考慮して、所望のAIT蒸気の放出速度などに応じて適宜選択される。
溶媒法の場合、シェラックはアルコールに高濃度で溶解するため、残留溶媒が少なくまたAIT歩留りが良い。一方溶融法の場合は、溶媒を使用しないため残留溶媒がなく、また溶媒を蒸発させる工程が不必要なためAIT歩留りがよいという長所がある。一般に、AIT量およびAIT放出表面積が同一の場合、溶媒法のほうが溶融法に比してAIT蒸気の放出速度が大きい「AIT取込シェラック」が作成できる傾向にある。これは溶媒法によると溶媒蒸発により沢山の微細孔ができるためであると考えられる。いずれの方法によっても各種形態への加工が容易であり、どちらの方法を用いるかはAIT放出制御製剤の使用目的、用途に応じて適宜選択することができる。好ましくは残留溶媒がない溶融法である。
粉体状,粒体状の製剤は、例えば板状またはブロック状等に成形された「AIT取込シェラック」を粉砕することにより、また有機溶媒に溶解もしくは熱溶融させたシェラックと液状のAITの組成物をノズルから吐出させることにより製造することができる。また、有機溶媒に溶解もしくは熱溶融させた液状のシェラックを用いてAITを担体に担持させた粉末状物や粒体状物をコーティング処理することによっても作成することができる。
(b)▲2▼の製剤
当該製剤において、「AIT取込シェラック」が基材に付着した状態とは、基材の表面に「AIT取込シェラック」層が形成されてなる状態のみならず、基材中に「AIT取込シェラック」層が形成されてなる状態をも包含するものである。
かかる製剤は、例えば前述の溶媒法における有機溶媒に溶解したシェラックとAITの溶解混合液または溶融法における加熱溶融したシェラックとAITの溶融混合液を基材の表面に塗布することにより、また基材を該混合液に浸漬し、基材の間隙に該混合液を含浸せしめることにより作成できる。特に、塗布するタイプは小ロット生産が可能であり、品質も安定したものが得られる点で好ましい。
基材としては、「AIT取込シェラック」を付着しえるものであれば特に制限はなく、例えばプラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む),紙,不織布および織布などが例示される。
プラスチック板状体(プラスチックフィルムまたはシート)としては、例えばセロハン,ポリオレフィン(ポリエチレン,ポリプロピレンなど),ポリエステル,ナイロン,塩化ビニルなどが挙げられる。かかるプラスチック板状体の厚みは特に限定されず、通常12μm〜500μmである。
紙としては、洋紙,板紙などの汎用品が使用できる。
不織布を構成する繊維材質についても特に制限はなく、レーヨン,ポリプロピレン,ポリエステル,木材,木材パルプ,麻繊維などが例示される。織布としても特に制限はなく、公知の織布を使用することができる。
なお、「AIT取込シェラック」は、上記の如き基材との親和度が高い(付着性が高い)ため、基材上に薄く均一な膜を形成することができ、また塗着後、塗膜の離脱が少ない点で優れている。また、「AIT取込シェラック」に配合されるAITの態様は特に限定されず、液状(油状等),担体に担持させた態様の粉末状物や粒体状物,AIT含有組成物等が例示される。
(c)▲3▼の製剤
プラスチックフィルムまたはシート状の基材に「AIT取込シェラック」が混入されてなる製剤は、その基材の原料樹脂中に前述の溶媒法または溶融法等で作成される粉末状,粒体状の「AIT取込シェラック」を練込んだものをプラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む)に成形することによって製造することができる。その際、AITとしては担体に担持されたAITのシェラック被覆物を使用してもよい。
紙,不織布,織布などの基材に「AIT取込シェラック」が混入されてなる製剤としては、紙,不織布,織布などを構成する繊維中に上記粉体状もしくは粒体状の「AIT取込シェラック」が練込まれているものが例示される。かかる態様の製剤は、例えば紙,不織布,織布などを構成する繊維、接着剤中にあらかじめ粉末状もしくは粒体状の「AIT取込シェラック」を練込んでおき、該繊維を用いて紙,不織布などを作成することによって調製できる。
本発明のAIT放出制御製剤によれば、AIT蒸気の放出速度を制御することができ、その制御態様により徐放的・持続的に抗微生物作用,鮮度保持作用,防虫作用等を発揮させることができる。
本発明のAIT放出制御製剤から放出されるAIT蒸気の速度は、「AIT取込シェラック」のシェラック部のAIT透過特性、及び該シェラック部に形成される微細孔の径および数等により変化し、これらの特性は「AIT取込シェラック」の作成方法および作成条件などにより調節することができる。従って、「AIT取込シェラック」の作成方法,作成条件およびAITの含有量を調節することにより、様々な態様のAIT蒸気の放出速度を有する様々なAIT放出制御製剤を作成することができる。
AIT透過特性等の調節要因となり得る「AIT取込シェラック」の作成条件としては、例えば、溶媒法においては、溶解させるシェラックの濃度,乾燥温度およびその時間など、溶融法においては、溶融温度,冷却温度およびその時間など、また両法共通の条件として「AIT取込シェラック」を作成する際の仕込みのAIT/シェラック比が挙げられる。通常「AIT取込シェラック」作成時の乾燥温度,溶融温度が高ければ形成される微細孔の有効径は大きく、AIT蒸気の放出速度が早くなる傾向にある。また、乾燥温度を低くして時間をかけて乾燥させることにより、緻密度の高いシェラック部が形成されるため、AIT蒸気の放出速度が遅くなる傾向にある。また、通常「AIT取込シェラック」におけるシェラックに対するAITの配合比、すなわち該「AIT取込シェラック」を作成する際の仕込みのAIT/シェラック比が大きい程AIT蒸気の放出速度が早くなり、AIT/シェラック比が小さい程AIT蒸気の放出速度が遅く、またAIT蒸気は持続的に放出される傾向にある。
本発明のAIT放出制御製剤のAIT蒸気の放出速度は、上記の様々な条件をかえることにより様々な所望の態様に調節することができる。これらの条件のうち、溶媒法においては有機溶媒に溶解させるシェラックの濃度は先述の通り30〜60重量%、特に40〜60重量%の範囲にあることが好ましく、また乾燥温度はAIT歩留りの観点から低温、好ましくは80℃程度であることが好ましい。また溶融法においては、溶融温度は先述の通り100℃以下であることが好ましい。よって、本発明AIT放出制御製剤のAIT蒸気の放出速度は、これらの条件を一定にして「AIT取込シェラック」におけるシェラックに対するAITの配合比、即ち該「AIT取込シェラック」を作成する際の仕込みAIT/シェラック比を変えることによって調節することが好ましい。かかる方法によれば、広範囲にわたって様々なAIT蒸気の放出速度を有する多様のAIT放出制御製剤を簡便にかつ再現性よく作成できる。
なお、放出させるAIT蒸気の速度および量は、所望とする作用持続時間および用いる系内(被処理系)のAIT蒸気濃度との兼ね合いから適宜選択することができる。
本発明のAIT放出制御製剤は、抗微生物,防虫,鮮度保持,防腐または保存等を目的として用いることができる。すなわち、本発明のAIT放出制御製剤は、例えば好気性菌や嫌気性菌等に対する殺菌,静菌,防菌作用等、黴に対する殺黴,静黴,防黴作用等を有し、食品の他、有害微生物の増繁殖が問題となっている各種の物品に対する抗微生物剤として有用である。また、本発明のAIT放出制御製剤は食品等の腐敗や醗酵の防止および鮮度劣化の防止等の作用をも有しており、食品等の鮮度保持または腐敗の防止等に有効な保存剤として、また皮革製品,書籍および美術品(特に、古美術品)の保存剤として有用である。さらに、本発明のAIT放出制御製剤は、害虫を死滅もしくは忌避させる作用をも有しており、建材,農産物,衣料品等に対する防虫剤としても有用である。
抗微生物の対象となる微生物としては、例えばカビ,酵母等の真菌、ブドウ球菌,大腸菌,サルモネラ菌,ビブリオなどの細菌、胞子、藻、その他有害微生物が挙げられる。
本発明のAIT放出制御製剤を用いる処理対象物としては、有害微生物の増繁殖が問題となっている各種の物品、例えば畜産加工品,水産加工品,農産物,調理食品,食品加工物,飼料,包装材料,建築材料等、鮮度の劣化が問題となる農産物,生花,水産物等、および害虫による影響が問題となる建築材料、農産物,食品材料,衣料品等が挙げられる。
本発明のAIT放出制御製剤によれば、「AIT取込シェラック」の作成方法およびシェラックに対するAITの配合割合などを選択することにより、AIT蒸気の放出速度を簡便にコントロールすることができるので、例えば長期にわたるAIT蒸気の徐放的放出も可能である。また、当該製剤の「AIT取込シェラック」部は種々の形態に容易に加工できるので、種々の剤形のAIT放出制御製剤を提供することができる。
さらに本発明のAIT放出制御製剤によれば、その使用系で必要とされる量のAIT蒸気だけを放出させることができるので、AIT蒸気による環境汚染および被処理物のダメージを最小限に抑えながら、少量のAITで長期間にわたって抗微生物作用,防虫作用,鮮度保持作用または保存作用などを有効に発揮させることができるため極めて実用的である。また本発明のAIT放出制御製剤はCD包接化合物と異なり、湿度による影響を殆ど受けないという利点がある。
本発明で用いられるシェラックは、従来から食品分野や医薬品分野において広く安全に使用されて来た天然樹脂であるから、本発明のAIT放出制御製剤は食品用などの用途に好適に使用しえる。さらにシェラックには、生分解性があり、環境問題が少ない。またシェラックは、アルコールに高濃度に溶解するので低温で乾燥可能であり蒸発させるアルコールの量も少なくて済み、「AIT取込みシェラック」製造時のAITの歩留りが良いという利点がある。さらに、シェラックは低温で溶融し、またAITの添加により流動化しやすいため、低温で「AIT取込みシェラック」の液が得られる。このことはAITの揮散の抑制およびAIT変質の抑制にもつながり、またAIT含量の多い「AIT取込みシェラック」の作成も容易であり、これによって適用範囲の拡大を図ることができる。また、熱硬化したシェラックは、水やアルコールをはじめとする有機溶媒に不溶であり、また軟化温度も高くなるため、本発明のAIT放出制御製剤を極めて安定にすることができる。
次に、本発明を実施例,比較例および実験例によって説明する。
なお、各実施例で作成されたAIT放出制御製剤のAITとシェラックとの配合割合は、シート,フィルム,紙及び不織布は1m2あたりのものとして、粉末及び粒体状物は10ccあたりのものとして、またブロック状物は1cm3のブロック10個あたりのもの(即ち、AIT放出面積60cm2)として表す(以下、これを基準量ともいう。)。また、この値は3サンプルの平均値として表す。
実施例1
シェラック500g(脱色セラック:岐阜シェラック製、以下の実施例についても同じ)とエタノール400gとを混合して均一な溶液とし、その中に60gのAITを投入,混合して、AITとシェラックのエタノール溶液を作成した。仕込みAIT/シェラック比は12/100(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約8.33重量部)であった。当該溶液をマイヤーバーにて20μm厚さのポリプロピレンフィルム表面にコーティングして、50℃で5分間熱風乾燥を行って表面に「AIT取込シェラック」層を有するフィルムタイプのAIT放出制御製剤を作成した。
AIT放出制御製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが10.2g/m2でAITが0.7g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約14.6重量部であった。また、AITの歩留りは57%であった。
実施例2
シェラック500gとエタノール400gとを混合して均一な溶液とし、その中に30gのAITを投入,混合して、AITとシェラックのエタノール溶液を作成した。この場合、仕込みAIT/シェラック比は6%(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約17重量部)であった。得られた溶液をマイヤーバーにて20μm厚さのポリプロピレンフィルム表面にコーティングして、その後50℃で5分間熱風乾燥を行って、表面に「AIT取込シェラック」層を有するフィルムタイプのAIT放出制御製剤を作成した。
該AIT放出制御製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが9.5g/m2でAITが0.27g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約35重量部であった。またAITの歩留りは47%であった。
実施例3
シェラック1000g、エタノール670g、AITを2.2g使用する以外は実施例1と同じ方法で、表面に「AIT取込シェラック」層を有するフィルムタイプのAIT放出制御製剤を作成した。
該AIT放出制御製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが27g/m3でAITが0.03g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック900重量部であった。
実施例4
シェラック100g、エタノール100g、AITを160g使用する以外は実施例1と同じ方法で、表面に「AIT取込シェラック」層を有するフィルムタイプのAIT放出制御製剤を作成した。
該AIT放出制御製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが3.52g/m2でAITが2.2g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック1.6重量部であった。
以上実施例1〜4で作成したAIT放出制御製剤は、フィルムもしくはシートタイプの製剤として押入れ、洋服ダンスにおける防黴や防虫,靴の防黴,食品の抗菌や防腐を目的とする抗微生物剤,保存剤や防虫剤等、または花,果物,野菜等の鮮度保持剤等として好適に用いることができる。
実施例5
実施例1で調製したAITとシェラックのエタノール溶液をマングルを用いてサーマルボンドタイプの坪量40g/m2のポリプロピレン不織布に含浸させ、その後50℃で5分間熱風乾燥を行って、「AIT取込シェラック」層を有するAIT放出制御製剤を作成した。
該製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが7.5g/m2でAITが0.5g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約15重量部であった。また、AITの歩留りは56%であった。
実施例6
実施例2で調製したAITとシェラックのエタノール溶液をマングルを用いてサーマルボンドタイプの坪量40g/m2のポリプロピレン不織布に含浸させ、その後50℃で5分間熱風乾燥を行って、「AIT取込シェラック」層を有するAIT放出制御製剤を作成した。
該製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが7.7g/m2でAITが0.23g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約33.5重量部であった。また、AITの歩留りは49%であった。
実施例7
シェラック1000g、エタノール700g、AITを2.2g使用する以外は実施例5と同じ方法を用いて、「AIT取込シェラック」層を有するAIT放出制御製剤を作成した。
該製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが31.35g/m2でAITが0.033g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが950重量部であった。
実施例8
シェラック100g、エタノール100g、AITを175g使用する以外は実施例5と同じ方法を用いて、「AIT取込シェラック」層を有するAIT放出制御製剤を作成した。
該製剤の「AIT取込シェラック」層の組成は、シェラックが3.13g/m2でAITが2.5g/m2、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約1.25重量部であった。
実施例5〜8で作成された製剤は、不織布,紙タイプもしくはフィルム,シートタイプの製剤として押入れ、洋服ダンスにおける防黴や防虫,靴の防黴,食品の抗菌や防腐を目的とする抗微生物剤,保存剤や防虫剤等、または花,果物,野菜等の鮮度保持剤等として好適に用いることができる。
実施例9
シェラック100gをニーダーにて100℃に加温しながら軟化溶融させ、これにAITを30g投入し混合した。仕込みAIT/シェラック比は30%(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約3.3重量部)であった。その後、加温を停止して室温で1昼夜放置して冷却してブロック状の「AIT取込シェラック」を得た。これを粉砕機にて粉砕し0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。
該製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが85部でAITが15部(シェラックが2.55g/10ccでAITが0.45g/10cc)、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約5.7重量部であった。またAITの歩留りは60%であった。
実施例10
シェラック100gに対してAITを15g使用する以外は、全て実施例9と同じ操作を行い、0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。AITとシェラックの軟化溶融物の仕込みAIT/シェラック比は15/100(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約6.7重量部)であった。得られた製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが91部でAITが9部(シェラックが2.73g/10ccでAITが0.27g/10cc)、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約10重量部であった。また、AITの歩留りは66%であった。
実施例11
シェラック300g、AITを0.4g使用する以外は、全て実施例9と同じ操作を行い、0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。得られた製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが3g/10ccでAITが0.003g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラック1000重量部であった。
実施例12
シェラック50g、AITを65g使用する以外は、全て実施例9と同じ操作を行い、0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。得られた製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが1.62g/10ccでAITが1.54g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約1.1重量部であった。
実施例13
シェラック300gをニーダーにて80℃に加温しながら軟化溶融させ、これにAITを75g投入し混合した。仕込みAIT/シェラック比は25%(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは4重量部)であった。その後、加温を停止して室温で1昼夜放置して冷却してブロック状の「AIT取込シェラック」を得た。これを粉砕機にて粉砕し0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。該製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが2.56g/10ccでAITが0.44g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約6重量部であった。
実施例14
シェラック300g、AITを0.4g使用する以外は、全て実施例13と同じ操作を行い、0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。得られた製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが2.72g/10ccでAITが0.003g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約907重量部であった。
実施例15
シェラック50g、AITを65g使用する以外は、全て実施例13と同じ操作を行い、0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。該製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが1.51g/10ccでAITが1.49g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約1.01重量部であった。
実施例9〜15のAIT放出制御製剤は、粒体状物として、もしくはさらに粉砕して粉末状に調製して、塗料,接着剤または樹脂などに混合させて抗微生物剤,防虫剤,鮮度保持剤,防腐剤または保存剤として好適に用いることができる。
実施例16
シェラック100gをニーダーにて100℃に加温しながら軟化溶融させ、これにあらかじめ30gのAITをA型ゼオライト粒子(東ソー(株)社製、平均粒径10μ、以下同じ)60gに担持させたものを投入し混合した。その後、加温を停止して室温で1昼夜放置して冷却してブロック状の「AIT取込シェラック」を得た。これを粉砕機にて粉砕し0.5〜1m/m径の粒体状のAIT放出制御製剤を作成した。該製剤の「AIT取込シェラック」の組成は、シェラックが1.95g/10ccでAITが0.38g/10cc、ゼオライト1.17g/10cc、すなわちAIT1重量部に対してシェラックが約5.1重量部であった。
実施例17
ニーダー中で押出ラミネート用低密度ポリエチレン樹脂(スミカセンL402、住友化学社製)100gを250℃にて加熱溶融して、実施例13で作成した粒体状のAIT放出制御製剤40gを投入し、速やかに混合した。これをホットメルトラボコーターCL2016(メルテックス社製)のメルター中に落下投入し、その後直ちに同機でサーマルボンドタイプの坪量40g/m2のポリプロピレン不織布上にホットメルトコーティングを行った。得られた不織布のAIT含有量は0.55g/m2であった。
実施例18
シェラック300gをニーダーにて80℃に加温しながら軟化溶融させ、これにAITを6.5g投入し混合した。仕込みAIT/シェラック比は2.2%(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約46重量部)であった。その後、加温を停止して室温で1昼夜放置して冷却してブロック状の「AIT取込シェラック」を得た。これをナイフで1cm3の形態に切り揃えてAIT放出制御製剤を作成した。該製剤の10個におけるシェラックとAITとの配合割合は、シェラック11g/10個でAIT0.22g/10個、すなわちAIT1重量部に対してシェラック50重量部であった。
実施例19
AITの量を0.33gとした以外は実施例18と同じ操作を行い、1cm3ブロック状のAIT放出制御製剤を作成した。該製剤10個におけるシェラックとAITとの含有割合は、シェラック9.5g/10個でAIT0.01g/10個、すなわちAIT1重量部に対してシェラック950重量部であった。
実施例20
シェラック50gをニーダーにて100℃に加温しながら軟化溶融させ、これにAITを50g投入し混合した。仕込みAIT/シェラック比は100%(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、シェラックは約1重量部)であった。その後、加温を停止して室温で1昼夜放置して冷却してブロック状の「AIT取込シェラック」を得た。これをナイフで1cm3の形態に切り揃えてAIT放出制御製剤を作成した。該製剤10個におけるシェラックとAITとの配合割合は、シェラック5.54g/10個でAIT5.1g/10個、すなわちAIT1重量部に対してシェラック約1.09重量部であった。
比較例1
ポリ塩化ビニリデン樹脂(以下、PVDCという。;商品名:サランレジンF216、旭化成製)300gとテトラヒドロフラン(THF)400gを混合して、その中に40gのAITを投入してAITとPVDCのTHF溶液を作成した。この場合の仕込みAIT/PVDC比は13/100(AIT1重量部あたりの割合に換算すれば、PVDCが約7.7重量部)であった。その後の処理は、熱風乾燥を100℃で3分間行う以外は実施例1に記載した方法に準じて行い、ポリプロピレンフィルムの表面にAIT/PVDC層を有するフィルムタイプのAIT含有製剤を作成した。コート層の組成は、PVDCが8.3g/m2でAITが0.02g/m2すなわちAIT1重量部に対してPVDCが約415重量部であった。また、AITの歩留りは約2%であった。
比較例2
混合するAITの量を20gとする以外は、全て比較例1に記載の方法を用いて、ポリプロピレンフィルムの表面に「AIT取込PVDC」層を有するフィルムタイプのAIT含有製剤を作成した。なお、AITとPVDCのTHF溶液の仕込みAIT/PVDC比は6.7/100(AIT1重量部当たりの割合に換算すれば、PVDCは約15重量部)であった。コート層の組成はPVDCが7.6g/m2でAITが0.03g/m2、すなわちAIT1重量部に対してPVDCが約253重量部であった。また、AITの歩留りは約3%であった。
比較例3
混合するAITの量を500gとする以外は、全て比較例1に記載の方法を用いて、ポリプロピレンフィルムの表面に「AIT取込PVDC」層を有するフィルムタイプのAIT含有製剤を作成した。コート層の組成は、PVDCが8.5g/m2でAITが0.21g/m2、すなわちAIT1重量部に対してPVDCが40重量部であった。
比較例4
A型ゼオライト粒子950gとAIT50gをニーダーに入れ、室温で混合してAITを担持したゼオライト粒子を得た。該粒子のAIT含有量は0.15g/10ccであった。
比較例5
A型ゼオライト粒子50gとAIT50gをニーダーに入れ、室温で混合してAITを担持したゼオライト粒子を得た。該粒子のAIT含有量は、1.05g/10ccであった。
実験例1 AITの放出試験(1)
実施例1,2,5及び6で調製したAIT放出制御製剤(20cm×30cm)を3枚づつ20℃65%RHの恒温恒湿に放置しておき、一定日数経過毎に各々から、10cm×10cmを切り出して、そのサンプル断片に含有されるAITをエタノールで抽出し、ガスクロマトグラフィーによる分析で残存AIT量を算出し、それぞれの平均値(n=3)を求めた。
実施例9,10で調製したAIT放出制御製剤は、1gづつを放置しておき、一定日数経過毎に0.05gづつを取り出して、AITをエタノールで抽出してガスクロマトグラフィーで残存AIT量を測定し、それぞれの平均値(n=3)を求めた。比較例1〜2で調製したAIT含有製剤については、10枚づつサンプルを放置しておき、一定の日数経過毎にそのうちの各5枚について各々から10cm×10cm断片を切り出し、5枚分をまとめてエタノール抽出してAIT量を測定した。残りの5枚についても同様に操作して、2つの測定値の平均残存AIT量とした。この結果を図1に示す。
実験例2 AITの放出試験(2)
実施例1〜20、比較例1、3〜5で調製したAIT放出制御製剤を25℃70%RHの恒温恒湿室に放置しておき、一定日数経過毎に各々から所定量のサンプルを採取し、そのサンプルに含有されるAITをエタノールで抽出し、ガスクロマトグラフィーによる分析で残存AIT量を算出し、それぞれの平均値(n=3)を求めた。各製剤(基準量)の1日当たりのAIT放出量をAIT放出速度として表1及び表2に示す。これは所定量の各製剤の10日間での放出量から算出したものである。なお、放置しておくサンプルは、フィルム,不織布は20cm×30cmのものを20枚ずつ吊るして放置しておき、粒体状のものは200cc位をプラスチックのバッドの上に拡げて放置しておいた。
Figure 0003704543
Figure 0003704543
Figure 0003704543
また、図2に製剤の基準量当たりのAIT量が大体同じである製剤(実施例2,6,10,13及び18、比較例3及び4)についてAIT放出試験を行い、経日毎のAIT量の残存率(%)を比較した結果を示す。
これらの結果からわかるように、本発明のAIT放出制御製剤によるとAITの放出速度を制御することができ、所望の用途に応じて必要なAIT量を持続的に、また安定的に放出・供給することができる。
実験例3 AIT放出制御製剤の抗微生物剤としての効果
実施例1のAIT放出制御製剤フィルムを総量6mgのAITを含有するように切断して抗微生物剤として調製した。また、デソキシコレート寒天培地をいれたシャーレを準備して、培地表面に大腸菌の希釈液を塗布した物を被験材料とした。
弁当箱に被験材料(シャーレ)を置き、抗微生物剤を該シャーレの上に置き、弁当箱を施蓋後25℃下で24時間培養した。
コントロールとして抗微生物剤を置かない被験材料で同様に実験を行った。培養から24時間後の結果を次表に示す。
Figure 0003704543
実験例4 AIT放出制御製剤の防黴剤としての効果
▲1▼畳敷き
実施例6で作成したAIT放出制御製剤(不織布)を畳(大きさ20cm×20cm、岡山民芸品)と合板の間に敷き、高温多湿の場所に放置した。対照として未加工の不織布を使用しものを用意した。放置後、3カ月後並びに6カ月後に黴の発生を観察した。
Figure 0003704543
▲2▼台所防黴シート
流し台を想定し、合板を用いて箱(50×50×50cm)を2個作成した。実施例5で調製したシート状のAIT放出制御製剤を底面に敷いたコントロールとして未加工の不織布を用いた。底面、各側面および天面に黴をPDA培地の表面に塗布したシャーレを貼りつけて室温(25℃前後)高湿(約95%)下で保存した。最長2カ月間、1週間毎に黴の発育度合いを観察した。
Figure 0003704543
なお、コントロールについては7週間以降は観察しなかった。
▲3▼塗料への練込み
実施例15で作成した粒体状のAIT放出制御製剤をアクリル系の水性塗料に1%の割合で混合したものを被験試料とした。黴抵抗性試験(JIS Z 2911)に準じて評価した。対照として無添加の塗料を用いた。
Figure 0003704543
実験例5 AIT放出制御製剤の防虫剤としての効果
シャーレにヤケヒョウダニを10匹入れ、通気性のある不織布で蓋を施した。容量約20lのデシケーター中に該シャーレ並びに実施例16で調製した粒体状のAIT放出制御製剤1gを不織布で包装したものを入れた。対照としてヤケヒョウダニ入りのシャーレのみを入れたデシケーターを準備した。24時間後にそれぞれのヤケヒョウダニの生存を観察した。
Figure 0003704543
実験例6 AIT放出制御製剤の鮮度保持剤としての効果
イチゴを2ケース(各30個入り)用意し、一方のケースは実施例1で作成したフィルムタイプのAIT放出制御製剤でケースごと包み、他方は未処理のポリプロピレンフィルムで同様に包んだ。これらを約20℃で保存してイチゴの変化を観察した。結果を下表に示す。
Figure 0003704543

Claims (9)

  1. 100℃以下の温度で溶融したシェラックにイソチオシアン酸アリルを混合した混合物を固化することにより作成された、シェラックがイソチオシアン酸アリル放出のバリアーとなるようにイソチオシアン酸アリルを取り込んでなることを特徴とするイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  2. ソチオシアン酸アリル1重量部に対してシェラック1〜1000重量部含有することを特徴とする請求の範囲第項記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  3. イソチオシアン酸アリルを取り込んでなるシェラックが板状,ブロック状,粉末状または粒体状であることを特徴とする請求の範囲第1または2項に記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  4. イソチオシアン酸アリルを取り込んでなるシェラックが基材に付着されてなる請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  5. イソチオシアン酸アリルを取り込んでなるシェラックが基材に混入されてなる請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  6. 基材がプラスチック板状体(フィルムまたはシートを含む)、紙、不織布および織布から選ばれるものである請求の範囲第項または第項記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  7. イソチオシアン酸アリルを取り込んでなるシェラックにおけるイソチオシアン酸アリルが担体に担持された態様のものである請求の範囲第1〜6項のいずれかに記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  8. イソチオシアン酸アリル放出制御製剤が抗微生物,防虫,防腐,鮮度保持および保存からなる群から選択されるいずれかの目的で用いられるものであることを特徴とする請求の範囲第1〜7項のいずれかに記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤。
  9. シェラックを100℃以下の温度にて溶融して、これにイソチオシアン酸アリルを配合する工程を経ることを特徴とする請求の範囲第1項記載のイソチオシアン酸アリル放出制御製剤の製造方法。
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