JP3687128B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明はエンジンの空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料噴射方式では、シリンダが1吸気行程ごとに吸入する空気量に応じた基本噴射量に対し各種の補正係数を乗じて算出された燃料噴射量がエンジン回転に同期して間欠的に供給される。
【0003】
この場合に、上記各種の補正係数の中に始動時水温と始動後の時間によって決まる始動後増量係数KASがある。冷機時には噴射された燃料のうち吸気管壁や吸気弁に付着していわゆる壁流として流れる燃料(以下付着燃料という)が存在し、かつ冷機時には付着燃料の蒸発もそれほど促進されないため、シリンダーに吸入される速度が遅くなる。そこで、要求燃料量の変化に応じて燃料を噴射した場合に実際にシリンダーに吸入される燃料の応答が遅くても、空燃比が乱れて運転性を損ねることのないようにKASによって燃料増量を行っているのである(株式会社 鉄道日本社発行の自動車工学・1991年4月号第62頁、第63頁参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、始動完了直後に与える上記KASの初期値は、HC,COといった有害排気成分の発生を増大させない(つまり過剰な燃料量を供給しない)ようにマッチングによって求められるが、その一方で良好な運転性をも確保しなければならないので、ある程度は十分な燃料増量となるようにしなければならない。したがって、マッチングに際しては、ギリギリまで必要最小限の燃料増量におさえていくという操作を施すことになる。
【0005】
しかしながら、上記の従来装置では、始動完了直後に与えるKASの初期値をを始動時水温により決定しているだけであり、始動完了のタイミングで吸気管壁や吸気弁に付着燃料がどのくらい残留しているのかを考慮していないので、エンジン始動にかかる時間のバラツキなどによってKASの初期値に過不足が生じ、HC,COの発生を増大させたり、運転性を悪くしたりすることがある。たとえば、エンジンの始動中に噴射された燃料が十分でなく、平衡付着燃料量にくらべて少ない付着燃料量しか吸気管壁や吸気弁に残留していないときには、始動完了直後において噴射燃料のうちから、かなりの割合で付着燃料の増加に奪われることになるので、KASの初期値を多めに設定しておかなければならない。このとき、エンジン始動にかかる時間のバラツキにより始動に長く時間を要したときは、設定値よりも多くの付着燃料が始動完了の時点で残留することになり、KASの初期値が過剰となってHC,COの発生量が増加してしまうのである。
【0006】
なお、定常時の付着燃料量が平衡付着燃料量であり、この値は燃料付着部の温度に依存して定まることが知られている。
【0007】
そこでこの発明では、始動中の噴射燃料量を積算するとともに、この始動中の噴射燃料量のシリンダへの吸入率を始動時の燃料付着部温度に応じて求め、この吸入率と始動中の噴射燃料量の積算値とから始動完了時における付着燃料量を推定し、この推定値に応じて始動後噴射量を調整することにより、始動完了のタイミングにおいて吸気管壁や吸気弁に残留する付着燃料の多少に関係なく、最適な始動後噴射量を与えることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、図7に示すように、エンジンの始動中の噴射燃料量を積算する手段21と、この始動中噴射燃料量のシリンダーへの吸入率Rを始動時の、前記噴射燃料が吸気管内に付着する部位である燃料付着部の温度に応じて算出する手段22と、この吸入率Rと前記始動中噴射燃料量の積算値STSTとに基づいて始動完了時における付着燃料量MFINITを推定する手段23と、この始動完了時付着燃料量MFINITに応じて始動後噴射量を調整する始動後噴射量調整手段24と、この噴射量の燃料を吸気管に供給する手段25とを設け、前記始動後噴射量調整手段24が、図8に示すように、始動時水温と始動完了後時間とに応じて第一の始動後増量係数KAS1を算出する手段31と、前記始動完了時付着燃料量MFINITに応じて第二の始動後増量係数の初期値KAS20を設定する手段32と、この初期値KAS20と所定の時定数Tとから第二の始動後増量係数KAS2を算出する手段33と、この第二の始動後増量係数KAS2で前記第一の始動後増量係数KAS1を補正して最終的な始動後増量係数KASを算出する手段34と、この最終的な始動後増量係数KASで運転条件に応じた基本噴射量Tpを増量補正した値を前記始動後噴射量として決定する手段35とからなる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記時定数Tを始動完了時の燃料付着部温度に応じた値とする。
【0011】
【作用】
エンジン始動にかかる時間のバラツキにより始動に長く時間を要したときは、吸気管壁や吸気弁に所定値より多い付着燃料量が始動完了時に残存する。この逆に、始動がすぐに行われるときは所定値より少ない付着燃料量が始動完了時に残存する。このとき、第1の発明では所定値より多い付着燃料量が残存するとき始動後噴射量が少なくなる側に、また所定値より少ない付着燃料量が残存するとき始動後噴射量が多くなる側に調整されるので、始動完了時に残存する付着燃料量の多少に関係なく、始動後噴射量が最適値に収められる。これにより、始動後噴射量が不十分となったり、過剰となったりしないので、始動後の運転性を損ねることがなく、かつ有害成分の排出も抑制される。
【0012】
さらに、第2の発明では、第二の始動後増量係数KAS2の追加だけで足り、基本噴射量Tp、第一の始動後増量係数KAS1などは従来のものをそのまま用いることができる。
【0013】
吸気管壁などに残留する付着燃料は、始動完了の時点からも変化し、始動後のエンジン状態に応じた値へと収束していくので、このときの変化の程度(つまり応答)を一次遅れで近似することができる。この場合に、応答を定める時定数Tが始動完了時の燃料付着部温度に関係なく一定だと、時定数Tを適合したときの燃料付着部温度を外れる温度域でKAS2の算出精度が悪くなる。たとえば時定数Tを適合したときの燃料付着部温度より実際の燃料付着部温度のほうが高い場合にKAS2が過剰となり、この逆に時定数Tを適合したときの燃料付着部温度より実際の燃料付着部温度が低いときはKAS2が不足するのである。このとき第2の発明では、始動完了時の燃料付着部温度に応じて時定数Tを変化、たとえば燃料付着部温度が高いときは応答が早くなるように、また燃料付着部温度が低いときは応答がゆっくりになるように変化させるので、始動完了時の燃料付着部温度が異なってもKAS2の算出精度が悪くなることがない。
【0014】
【実施例】
図1において、1はエンジン本体で、その吸気通路8には吸気絞り弁5の下流に位置して燃料噴射弁7が設けられ、コントロールユニット(図ではC/Uで略記)2からの噴射信号により運転条件に応じて所定の空燃比となるように、吸気中に燃料を噴射供給する。コントロールユニット2にはクランク角センサー4からのREF信号とPOS信号、エアフローメーター6からの吸入空気量信号、排気通路8に設置した酸素センサー3からの空燃比(酸素濃度)信号、さらには水温センサー11からのエンジン冷却水温信号等が入力され、これらに基づいて空燃比制御を行う。
【0015】
詳細にはまず、スターター信号がON位置(つまりスターターが回っている状態)にあるときは始動時水温(イグニッションスイッチがONとなったときの冷却水温)によって始動時噴射パルス幅(噴射弁への出力パルス幅)TSTが決定される。良好な始動性が得られるように、予め実験等により適合された値がテーブル値としてメモリーに格納されており、スターターからのON信号の入力と同時にこれが読み出され、その読み出した値に応じた始動時燃料が噴射されるわけである。
【0016】
次に、スターター信号がOFF位置(つまり始動完了後)になると、エアフローメーターにより検出される吸入空気量Qとクランク角センサーにより検出されるエンジン回転数NとからTp=K×Q/N(Kは定数)の式で基本噴射パルス幅Tp(基本噴射量)が演算され、かつこれに各種の増量係数やフィードバック補正係数を加えて燃料噴射弁に与える燃料噴射パルス幅Tiが決定されるのであり、具体的にはTi=Tp×COEF×α+Tsの式によってTiが求められる。ここで、COEFは各種増量係数で、水温増量係数KTW、始動後増量係数KAS、混合比係数KMRなどからなる。αは酸素センサーに基づいて演算される空燃比フィードバック補正係数、Tsは燃料噴射弁の無効時間を補償するようにバッテリー電圧に応じて付加される電圧補正分である。
【0017】
さて、上記の始動後増量係数KASは、その初期値が始動時水温によって決定され、始動完了後時間(スタータースイッチがON→OFFとなってからの時間)とともに一定の割合で減少し、最終的に0になる値として設定されている。このKASはエンジンの始動完了のタイミングよりTpに乗じられるので、その値を大きくすれば、噴射量が増大して空燃比が理論空燃比よりリッチ側に向かい、燃焼が安定して良好な運転性が得られる。もちろん、過剰にリッチ側にすれば、かえって燃焼が安定せず運転性の悪化を招く事態もおこり得る。冷機時は、噴射燃料の多くが付着燃料として吸気ポートや吸気弁に残り、直接シリンダー(あるいは燃焼室)に吸入されないばかりか、吸気ポート壁温(燃料付着部温度)が低いために付着燃料の蒸発がはかばかしくなく、したがって、噴射した燃料にくらべて実際にシリンダーに吸入される燃料の割合が少ない状況であることや、吸気ポート壁温が低い状況下で絞り弁の急開によりシリンダーに吸入される空気量が急増した場合に、付着燃料の挙動の遅れで一時的にシリンダーに吸入される燃料量が空気量に比較して不足する、という状況になり空燃比がリーン側になりすぎることもあり、通常はKASによる燃料増量によって安定的な運転性を得ているのである。
【0018】
しかしながら、KASの初期値は始動時水温により決定しているだけであり、始動完了時に吸気ポートおよび吸気弁にどのくらいの付着燃料が残留するのかを考慮していないので、エンジン始動にかかる時間のバラツキなどによってKASの初期値に過不足が生じ、HC,COの発生を増大させたり、運転性を悪くしたりすることがある。
【0019】
これに対処するため本発明では、始動中の噴射燃料量を積算するとともに、この始動中の噴射燃料量のシリンダーへの吸入率を始動時の燃料付着部温度に応じて求め、この吸入率と始動中の噴射燃料量の積算値とに基づいて始動完了時における付着燃料量を推定し、この推定値に応じて始動後増量係数を調整する。
【0020】
詳細には、従来のKASを第一の始動後増量係数KAS1とおき、これを補正するための第二の増量係数KAS2を新たに導入し、これら2つの増量係数の和を最終的な始動後増量係数KASとして決定するとともに、上記の始動完了時における付着燃料量の推定値を用いて第二の増量係数KAS2を調整する。
【0021】
コントロールユニット2で実行されるこの制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0022】
図2は始動時噴射を行うためのフローチャートである。始動時噴射を行うためのルーチンは、一定時間ごとやエンジン一回転ごとに繰り返し実行すればよいのであるが、説明を簡単にするため、図2はエンジン一回転に一回、始動時噴射パルス幅TSTの出力が実行されるルーチンとして記述しており、イグニッションスイッチがOFF位置からON位置に切換えられたところで図2のルーチンをスタートさせる。
【0023】
まず、ステップ1ではこのルーチンを初めて実行するのかどうかをフラグF0(初期値は“0”)をみて判断し、F0=0(つまり初めて)であれば、ステップ2に進んで冷却水温TWを始動時水温TWINTとして取り込み、ステップ3では始動時噴射パルス幅の総和STSTをクリアする。
【0024】
ステップ4ではフラグF0に“1”を代入し、このルーチンを経験したことを表示する。したがって、以降はステップ2、ステップ3、ステップ4を飛ばしてステップ5に進むことになり、始動時水温TWINTのメモリー値が保存される。
【0025】
ステップ5ではフラグF0(初期値は“0”)をみて、F1=0であればステップ6に進んでスタータースイッチ(図ではST/SWで略記)がON位置であるかOFF位置であるかをみる。
【0026】
スタータースイッチがON位置であればステップ7に進んで始動時水温TWINTから所定のテーブルを参照して始動時噴射パルス幅TSTを求め、これをステップ9において駆動信号に変換し、噴射弁に向け出力する。また、ステップ8ではテーブル参照した始動時噴射パルス幅TSTを総和STSTに加算する。
【0027】
ステップ10ではエンジン回転数Nが所定値以上に立ち上がったかどうかをみることなどにより始動が完了した(つまりエンジンがかかった)かどうかを判断し、始動完了前であれば図2の最初に戻ってTSTの出力を繰り返し、始動完了のタイミングでステップ10から11に進み、フラグF1を“1”として図2のフローを終了する。
【0028】
このようにして、始動までには何度かTSTが繰り返して出力され、このTSTの積算値が総和STSTにストアされることになる。
【0029】
図3のフローチャートは第二の始動後増量係数の初期値KAS20を算出するためのものである。
【0030】
まず、ステップ21と22で2つのフラグF1とF0をみてF1=1かつF0=1であるときは、始動完了のタイミングであると判断してステップ23に進み、総和STSTを読み込む。
【0031】
ステップ24では燃料付着部温度を推定する。燃料付着部温度の推定は、始動時水温TWINTに対する燃料付着部温度の関係を予め実験により求めておいてもよいし、エンジン停止後の経過時間を計測しておき、エンジンの冷却特性にしたがって推定してもよい。さらに外気温度によって推定値を修正してもよい。
【0032】
ステップ25では燃料付着部温度から始動中噴射燃料量のシリンダーへの吸入率Rを推定する。燃料付着部温度と吸入率との関係は、たとえば燃料の噴霧角や吸気ポートの形状から計算によって、あるいは予め実験により測定しておくことによって求めることができる。
【0033】
使用される燃料の揮発特性(重質燃料であるか軽質燃料であるか)を考慮する必要があるときは、使用燃料の揮発性に応じた吸入率を与えればよい。重質燃料、軽質燃料といった揮発性の判定は、種々の燃料センサーを用いてもよいし、同一噴射量のときのエンジン安定性を回転変動を測定するなどして把握し、判断してもよい。
【0034】
このようにして求めた吸入率Rと総和STSTを用いてステップ26では始動完了直後において吸気ポート壁と吸気弁に残留する付着燃料量MFINITを、
MFINIT=STST×(1−R)
の式により算出する。同式において、始動中の噴射燃料量の総和であるSTSTに吸入率Rを乗じた値が噴射燃料のうちからシリンダーに吸入される分であり、残りが始動完了のタイミングで吸気ポート壁と吸気弁に残留する付着燃料となるわけである。
【0035】
この付着燃料量MFINITからステップ27では第二始動後増量係数の初期値KAS20を算出する。KAS20の値は、図4に示したように、所定値MFINIT0のときを0として、これよりMFINITが多いときは負の値で、この逆に基準値よりMFINITが少ないときは正の値で与える。たとえば、始動にかかる時間のバラツキにより、実際に始動に要した時間が所定値より長引いたときは、MFINITがMFINIT0より大きくなる。このときは、始動完了タイミングにおける付着燃料量が所定値よりも多くなっているのであるから、その過多の分をKAS2に負の値を与えることによってKAS1を減量するのである。具体的には、KAS20の最適な値を予め実験により測定してメモリー上にテーブルとして割り付けた番地に格納しておき、そのテーブルを参照することによってKAS20を求める。
【0036】
ステップ28ではフラグF0に“0”を入れることにより以降は始動完了直後でないことを表示する。
【0037】
図5のフローチャートは、第二始動後増量係数KAS2の算出を行うものである。
【0038】
まず、ステップ31でフラグF1より始動完了しているかどうかをみて、F1=1であれば始動完了していると判断し、ステップ32以降に進む。図5では、初期値KAS20を求めたどうかの判定を行っていないので、フローチャートの実行の順番は、図3を先に、図5を後にする。
【0039】
ステップ32では始動完了からの時間tを、またステップ33でKAS2を減少させるための時定数Tを読み込む。KAS2は始動中の噴射燃料の多少によってこれを補正するための値であるから、始動中の噴射燃料の吸気ポート壁や吸気弁への付着燃料の減少にしたがってKAS2も減少させるほうがよい。そこで、時定数TによりKAS2の減少特性を表すこととする。つまり始動完了からの付着燃料の減少を一次遅れで近似し、これに合わせてKAS2も一次遅れで変化させるわけである。
【0040】
ステップ35では第一の始動後増量係数KAS1(従来のKASに相当)を求める。KAS1は始動時水温TWINTによってその初期値が決定され、始動完了後時間とともに、その値を減少させる特性を持つ。
【0041】
ステップ36では2つの始動後増量係数KAS1とKAS2の和を最終的な始動後増量補正係数KASとして計算する。
【0042】
ここで、本発明の作用を図6を参照しながら説明すると、同図はTpを基準とする燃料増量率の時間的推移を従来例と比較して表した波形図である。
【0043】
エンジン始動にかかる時間のバラツキにより設定値より始動に長く時間を要したときは、始動完了タイミングでの付着燃料量MFINITが所定値MFINIT0より多くなるので、第一の始動後増量係数KAS1だけを与えてTpを増量補正したのでは燃料供給過多となって、HC,COの排出量が増加する。
【0044】
このとき、本発明によれば始動完了タイミングでの付着燃料量MFINITが所定値FINT0より多いことから、KAS2が負の値で算出される。この負の値のKAS2によりKAS1が減量されると、KAS1とKAS2の和である本発明のKASは従来のKASより減量されるので、始動に長く時間を要したときにも、HC,COの排出量が増加することがない。
【0045】
同様にして、始動がすぐに行われるときは始動完了タイミングでの付着燃料量が所定値MFINIT0より少なくなり、KAS1だけだと燃料供給不足となって、運転性が悪くなるのであるが、このときには正の値のKAS2が算出されてKAS1が増量されることから、本発明のKASによれば従来のKASより増量される。これによって、始動に要する時間が短かすぎたときでも、十分な始動後増量を行うことができるので、運転性が悪くなることがない。
【0046】
このようにして、本発明では、始動中の噴射燃料量のうち始動完了時に残留する付着燃料量に応じて始動後増量係数を調整することにしたので、不十分な始動後増量によって運転性を損ねることがなく、かつ過剰な始動後増量に伴う有害成分の排出も抑制できる。
【0047】
この例では、上記の時定数Tを一定値で説明したが、実験的に他の特性が求められるならば、この例に従わなくともよいことはいうまでもない。たとえば、時定数Tを燃料付着部温度の関数としてもよいし、燃料付着部温度の推移の推定が困難な場合には、時定数Tを時間経過にしたがって増加させる特性を与え、その増加の速度を実験で求めておいてもよい。
【0048】
【発明の効果】
第1の発明は、エンジンの始動中の噴射燃料量を積算する手段と、この始動中噴射燃料量のシリンダーへの吸入率を始動時の、前記噴射燃料が吸気管内に付着する部位である燃料付着部の温度に応じて算出する手段と、この吸入率と前記始動中噴射燃料量の積算値とに基づいて始動完了時における付着燃料量を推定する手段と、この始動完了時付着燃料量に応じて始動後噴射量を調整する始動後噴射量調整手段と、この噴射量の燃料を吸気管に供給する手段とを設けたので、エンジン始動にかかる時間にバラツキがあるときでも、始動後の運転性を損ねることがなく、かつ有害成分の排出も抑制することができる。
【0049】
さらに、第1の発明では、前記始動後噴射量調整手段が、始動時水温と始動完了後時間とに応じて第一の始動後増量係数を算出する手段と、前記始動完了時付着燃料量に応じて第二の始動後増量係数の初期値を設定する手段と、この初期値と所定の時定数とから第二の始動後増量係数を算出する手段と、この第二の始動後増量係数で前記第一の始動後増量係数を補正して最終的な始動後増量係数を算出する手段と、この最終的な始動後増量係数で運転条件に応じた基本噴射量を増量補正した値を前記始動後噴射量として決定する手段とからなるので、第二の始動後増量係数の追加だけで足り、基本噴射量、第一の始動後増量係数などは従来のものをそのまま用いることができる。
【0050】
第2の発明は、第1発明において、前記時定数を始動完了時の燃料付着部温度に応じた値とするので、始動完了時の燃料付着部温度が異なるときでも第二の始動後増量係数の算出精度が悪くなることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の制御システム図である。
【図2】始動時噴射に関するフローチャートである
【図3】始動後増量補正係数KAS2の初期値を算出するためのフローチャートである。
【図4】始動完了直後の付着燃料量MFINITに対する初期値KAS20の特性図である。
【図5】始動後増量補正係数KAS2を算出するためのフローチャートである。
【図6】実施例の作用を説明するための波形図である。
【図7】第1の発明のクレーム対応図である。
【図8】 第1の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2 コントロールユニット
3 酸素センサー
4 クランク角センサー
6 エアフローメーター
7 燃料噴射弁(燃料供給手段)
11 水温センサー
21 始動中噴射燃料量積算手段
22 吸入率算出手段
23 始動完了時付着燃料量推定手段
24 始動後噴射量調整手段
25 燃料供給手段
31 第一始動後増量係数算出手段
32 初期値設定手段
33 第二始動後増量係数算出手段
34 最終的始動後増量係数算出手段
35 始動後噴射量決定手段
Claims (2)
- エンジンの始動中の噴射燃料量を積算する手段と、
この始動中噴射燃料量のシリンダーへの吸入率を始動時の、前記噴射燃料が吸気管内に付着する部位である燃料付着部の温度に応じて算出する手段と、
この吸入率と前記始動中噴射燃料量の積算値とに基づいて始動完了時における付着燃料量を推定する手段と、
この始動完了時付着燃料量に応じて始動後噴射量を調整する始動後噴射量調整手段と、
この噴射量の燃料を吸気管に供給する手段と
を設け、
前記始動後噴射量調整手段は、始動時水温と始動完了後時間とに応じて第一の始動後増量係数を算出する手段と、前記始動完了時付着燃料量に応じて第二の始動後増量係数の初期値を設定する手段と、この初期値と所定の時定数とから第二の始動後増量係数を算出する手段と、この第二の始動後増量係数で前記第一の始動後増量係数を補正して最終的な始動後増量係数を算出する手段と、この最終的な始動後増量係数で運転条件に応じた基本噴射量を増量補正した値を前記始動後噴射量として決定する手段とからなる
ことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - 前記時定数を始動完了時の燃料付着部温度に応じた値とすることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
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