JP4044978B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明はエンジンの空燃比制御装置、特に壁流燃料に関する補正を行うとともに運転条件に応じてリッチ側の空燃比やリーン側の空燃比で運転するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エンジンの加減速時における空燃比の目標値からのずれは、吸気マニホールドや吸気ポートに付着し、液状のまま壁面を伝ってシリンダーへと流れ込む、いわゆる壁流燃料の量的変化に起因するものであり、この壁流燃料による過不足分を過渡補正量Kathosとして燃料補正を行うものが提案されている(特開平1−305142号公報参照)。
【0003】
このものでは、平衡付着量Mfhと分量割合Kmfとの2つの値を、エンジン負荷、エンジン回転数Nおよび冷却水温Twに基づいて予め定めており、そのときのエンジン負荷、エンジン回転数Nおよび燃料付着部の温度予測値Tfに基づいて平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを求め、これらから後述する(6)式を用いて単位周期当たり(一噴射当たり)の付着量(これを付着速度という)Vmfを求め、この付着速度Vmfで基本噴射パルス幅Tpを補正している。
【0004】
ここで、(6)式のMfは単位周期毎(1噴射毎)に後述する(8)式によりVmfの積算値としてサイクリックに求められる値(予測変数である)のことで、Mfhがステップ的に変化するとき、このMfhに対して一次遅れで応答する。また、分量割合KmfはMfhとその時点での付着量Mfの差(Mfh−Mf)の燃料を燃料噴射量の補正にどの程度反映させるのかを示す係数のことである。
【0005】
なお、正確には減速時のオーバーリーン防止のための補正率Ghf(加速時はGhf=1)を上記の付着速度Vmfに掛けた値が過渡補正量Kathosとなるのであるが、加速時に限ればKathos=Vmfより付着速度Vmfをそのまま過渡補正量Kathosとして考えてさしつかえない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、始動時の冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため、さらにはリーンバーンシステムにも適用可能とするため後述する(1)式で与えられる目標燃空比相当量Tfbyaを導入するものでは、
Ti=(Tp+Kathos)×Tfbya×α+Ts …(21)
ただし、Tfbya:目標燃空比相当量
α:空燃比フィードバック補正係数
Ts:無効噴射パルス幅
の計算式により燃料噴射弁に与える燃料噴射パルス幅Tiを与えている。
【0007】
ここで、目標燃空比相当量Tfbyaは1.0を中心とする値で、たとえば冷間始動直後のアイドル時のとき(燃空比補正係数Dml=1.0)、水温増量補正係数Ktwと始動後増量補正係数Kasとが0でない正の値を持つため目標燃空比相当量Tfbyaが1.0より大きくなり、空燃比がリッチ側になってエンジン安定性が高められる。また、暖機終了後(Ktw=0、Kas=0)の高負荷時にはDmlが1.0よりも大きな値(たとえば1.2)に切換わり、このときもリッチ側の空燃比(出力空燃比)で運転が行われる。さらに、リーン運転領域になったときには、燃空比補正係数Dmlがたとえば0.66(空燃比でほぼ22)となり、このリーン空燃比の運転により燃料消費が抑制される。
【0008】
このように目標燃空比相当量Tfbyaは運転条件の変化に応じて切換わるのであるが、出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時に上記の過渡補正量Kathosに不足を生じて空燃比が一時的にオーバーリッチやオーバーリーンになることがわかった。たとえば、出力空燃比域からの減速時(Tfbyaが1.2から1.0に切換わる)には、図20示したように、過渡補正量Kathos(実線参照)に不足を生じて空燃比(図ではA/Fで略記、図13において同じ)がオーバーリッチになり、かつ理論空燃比への切換時間も遅くなっている。
【0009】
これを解析してみたところ、平衡付着量Mfhは負荷、回転数、燃料付着部の温度がすべて同一の条件でも目標燃空比相当量Tfbyaにほぼ比例しているのであるから、Mfhの要求値(一点鎖線で示す)はTfbya=1.2に対する値からTfbya=1.0に対する値へとステップ変化し、これに対してMfの要求値(二点鎖線で示す)が一次遅れで収束していくはずである。したがって、Mfhの要求値とMfの要求値の差から算出されるKathosの要求値は一点鎖線のように与えられることになる。これに対して上記(21)式のKathosを計算するフローにおいては、Tfbya=1.0(理論空燃比)に対するマッチングデータを用いて平衡付着量Mfhと分量割合Kmfが求められるため、このときのMfh(実線で示す)とMf(破線で示す)は図示のように変化し、したがって、Kathos(実線で示す)がKathosの要求値より少なく与えられる。この結果、要求値との差の面積分が不足して空燃比のオーバーリッチが生じるのである。
【0010】
同様にして、リーン運転領域からの加速時などTfbyaが大きくなる側への切換時にも過渡補正量Kathosが不足し、このときは空燃比がオーバーリーンになる。
【0011】
そこで本発明は、平衡付着量Mfhを目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして演算することにより、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に過渡補正量Kathosの不足によるオーバーリッチやオーバーリーンを防止することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
第1の発明では、図21に示すように、燃料を吸気系に噴射供給する燃料噴射弁を備え、運転条件により変化する目標空燃比が得られるように前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御するエンジンの空燃比制御装置において、運転条件に応じた基本噴射量Tpを演算する手段31と、前記目標空燃比の逆数に応じた値である目標燃空比相当量Tfbyaを運転条件に応じて演算する手段32と、この目標燃空比相当量Tfbya、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて、前記吸気系に付着する平衡状態での燃料量である平衡付着量Mfhを、目標燃空比相当量が大きいほど大きくなる値に演算する手段33と、前記平衡付着量Mfhと、この平衡付着量Mfhに対して一次遅れで変化する値である付着量Mfとの差(Mfh−Mf)を演算する手段35と、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて、これらの値に応じた係数である分量割合Kmfを演算する手段34と、前記差(Mfh−Mf)の付着量と前記分量割合Kmfとに基づいて単位周期当たりの付着量を演算する手段36と、前記目標燃空比相当量Tfbyaで前記基本噴射量Tpを補正する手段37と、この補正した値と前記単位周期当たりの付着量とから燃料噴射量Tiを演算する手段38と、この噴射量の燃料が所定のタイミング毎に吸気系に供給されるように前記燃料噴射弁に噴射信号を与える手段39と、この燃料噴射に同期して今回噴射時の前記単位周期当たりの付着量を今回噴射前の前記一次遅れで変化する値である付着量Mfに加算することにより前記一次遅れで変化する値である付着量Mfを更新する手段40と、を設けた。
【0013】
第2の発明では、第1の発明において前記補正が前記目標燃空比相当量Tfbyaを前記基本噴射量Tpに乗算することである。
【0014】
第3の発明では、第2の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する手段33は、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と前記目標燃空比相当量Tfbyaとの積により求める。
第4の発明では、第3の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する手段33は、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを以下の式に基づいて算出する、Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya、ただし、Avtp:噴射弁部空気量相当パルス幅、Mfhtvo:付着倍率、Tfbya:目標燃空比相当量。
【0015】
第5の発明では、第2の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する手段33は、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と前記目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲインMfhtfaとの積により求める。
第6の発明では、第5の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する手段33は、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを以下の式に基づいて算出する、Mfh=Avtp×Mfhtvo×Mfhtfa、ただし、Avtp:噴射弁部空気量相当パルス幅、Mfhtvo:付着倍率、Mfhtfa:目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲイン。
【0016】
第7の発明では、第5又は第6の発明において前記ゲインMfhtfaが、前記目標燃空比相当量Tfbyaがリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値Mfhgaiと前記目標燃空比相当量Tfbyaとの積からなる。
第8の発明では、第5から第7までのいずれかひとつの発明において前記ゲインMfhtfaは、以下の式に基づいて算出する、Mfhtfa=Tfbya×Mfhgai、ただし、Mfhtfa:目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲイン、Tfbya:目標燃空比相当量、Mfhgai:目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値。
第9の発明では、第1から第8までのいずれかひとつの発明において前記分量割合演算手段34は、分量割合Kmfを、基本分量割合Kmfatと分量割合回転補正率Kmfnとの積から演算する。
第10の発明では、第1から第9までのいずれかひとつの発明において前記付着速度演算手段36は、付着速度Vmfを以下の式に基づいて算出する、Vmf=(Mfh−Mf)×Kmf、ただし、Mfh:平衡付着量、Mf:付着量、Kmf:分量割合。
第11の発明では、第1から第10までのいずれかひとつの発明において前記燃料噴射量演算手段38は、燃料噴射量Tiを以下の式に基づいて算出する、Ti=(Avtp×Tfbya+Kathos)×α×2+Ts、ただし、Avtp:噴射弁部空気量相当パルス幅、Tfbya:目標燃空比相当量、Kathos:過渡補正量、α:空燃比フィードバック補正係数、Ts:無効噴射パルス幅。
第12の発明では、第1から第11までのいずれかひとつの発明において前記付着量更新手段40は、付着量Mfを以下の式により更新する、Mf=Mf -1Ref +Vmf、ただし、Mf -1Ref :今回噴射の1噴射前のMf、Vmf:今回噴射時の付着速度。
【0017】
【作用】
従来例のように目標燃空比相当量Tfbyaに関係なく、理論空燃比に対するマッチングデータを用いて平衡付着量と分量割合を求めたのでは、出力空燃比より理論空燃比へと切換わるときなど小さい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に付着速度Vmfが不足して空燃比のオーバーリッチが生じるのであるが、第1の発明では、目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算するので、小さい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリッチが避けられるともに、目標空燃比への切換が素早く行われる。同様にして、リーン空燃比から理論空燃比へと切換わるときなど大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に、従来例では付着速度Vmfの不足により空燃比のオーバーリーンが生じるのであるが、目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する第1の発明では、大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリーンを避けることができる。
【0018】
第3の発明では、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と目標燃空比相当量Tfbyaの積により求めるので、理論空燃比に対して得ている従来の平衡付着量、分量割合の各マッチングデータをそのまま用いることができ、これによって新たなマッチングを行う必要がない。
【0019】
噴射弁の取り付け位置、噴射方向、噴射量、吸気弁形状、吸気ポート形状など平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性があるときにまで、目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性を定めるのでは目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhが不適切になる場合が生じるが、第5の発明では、目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲインMfhtfaとの積により求め、また第7の発明では前記ゲインMfhtfaが、目標燃空比相当量Tfbyaがリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値Mfhgaiと目標燃空比相当量Tfbyaとの積からなるので、目標燃空比相当量Tfbyaに応じたきめ細かい補正、適合が可能となり、平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性がある場合にも、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にオーバーリッチやオーバーリーンを生じることがなく、これによって目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを求める場合より目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比制御精度が向上する。
【0020】
【実施例】
図1において、1はエンジン本体で、吸入空気はエアクリーナから吸気管8を通ってシリンダに供給される。燃料は、運転条件に応じて所定の空燃比となるようにコントロールユニット(図ではC/Uで略記)2よりの噴射信号に基づき燃料噴射弁7からエンジン1の吸気ポートに向けて噴射される。
【0021】
コントロールユニット2にはクランク角センサ4からのRef信号(4気筒では180°ごと、6気筒では120°ごとに発生)と1°信号、エアフローメータ6からの吸入空気量信号、三元触媒10の上流側に設置したO2センサ3からの空燃比(酸素濃度)信号、水温センサ11からの冷却水温信号、スロットルセンサ12からの絞り弁5開度信号等が入力され、これらに基づいてコントロールユニット2では、吸入空気量Qとエンジン回転数Nとから基本噴射パルス幅Tpを演算するとともに、加減速時にはこのTpに過渡補正量Kathosを加算することによって壁流燃料に関する補正を行う。過渡補正量Kathosは、加減速時に限らず、燃料壁流が大きく変化する始動時や燃料カット時、さらには後述する目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも働く。
【0022】
コントロールユニット2ではまた、冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため目標燃空比相当量Tfbyaを用いて燃料補正を行うほか、トランスミッションのギヤ位置センサ13からのギヤ位置信号、車速センサ(図示しない)からの車速信号等に基づいて運転状態を判断しながら条件に応じてリーン空燃比と理論空燃比との制御を行う。排気管9には三元触媒10が設置され、理論空燃比の運転時に最大の転換効率をもって、排気中のNOxの還元とHC、COの酸化を行う。この三元触媒10はリーン空燃比のときはHC、COは酸化するが、NOxの還元効率は低い。しかしながら、空燃比がリーン側に移行すればするほどNOxの発生量は少なくなり、所定の空燃比以上では三元触媒10で浄化するのと同じ程度にまで下げることができ、同時に、リーン空燃比になるほど燃費が改善される。したがって、負荷のそれほど大きくない所定の運転領域においては目標燃空比相当量Tfbyaを1.0より小さな値とすることによってリーン空燃比による運転を行い、それ以外の運転領域ではTfbyaを1.0とすることにより空燃比を理論空燃比に制御するのである。
【0023】
さて、基本噴射パルス幅Tpに乗算される目標燃空比相当量Tfbyaは運転条件の変化に応じて切換わるのであるが、上記の過渡補正量KathosをTfbya=1.0(つまり理論空燃比)に対する値として計算しているのでは、出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時に過渡補正量Kathosに不足を生じて空燃比が一時的にオーバーリッチやオーバーリーンになり、制御空燃比の追従性が悪くなる。
【0024】
これに対処するため本発明では、平衡付着量Mfhを目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして演算する。
【0025】
コントロールユニット2で実行されるこの制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0026】
図2のフローチャートは燃料噴射パルス幅を算出して出力する制御動作内容を示すもので、まずステップA)では目標燃空比相当量Tfbyaを、
Tfbya=Dml+Ktw+Kas …(1)
ただし、Dml;燃空比補正係数
Ktw;水温増量補正係数
Kas;始動後増量補正係数
の式により算出する。
【0027】
ここで、Tfbyaは1.0を中心とする値で、空燃比をリッチ化したりリーン化する。たとえば、(1)式の始動後増量補正係数Kasは冷却水温Twに応じた値を初期値として始動後時間とともに一定の割合で減少し最終的に0となる値、また(1)式の水温増量補正係数Ktwは冷却水温Twに応じた値であり、冷間始動時(ただしDml=1.0)にはこれら増量補正係数Kas、Ktwが0でない正の値を持ち、Tfbyaが1.0より大きな値となるため、空燃比がリッチ側に制御される。
【0028】
一方、(1)式の燃空比補正係数Dmlは、図5または図6の特性のマップに設定した燃空比Mdmlを検索した上、空燃比の切換時には所定のダンパ操作を行わせて求めるのであり、この場合リーン運転条件かどうかによりいずれかのマップが選択される。
【0029】
ここで、リーン運転条件の判定について図3,図4のフローチャートにしたがって説明する。
【0030】
これらの動作はバックグランドジョブとして行われるもので、図3のステップA)でリーン条件の判定を行うが、このための具体的な内容は図4に示す。リーン条件の判定は図4のステップA)〜F)の内容を一つづつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときにリーン運転を許可し、一つでも反するときはリーン運転を禁止する。
【0031】
すなわち、
ステップA):空燃比(酸素)センサが活性化している、
ステップB):エンジンの暖機が終了している、
ステップC):負荷(Tp)が所定のリーン領域にある、
ステップD):回転数(N)が所定のリーン領域にある、
ステップE):ギヤ位置が2速以上にある、
ステップF):車速が所定の範囲にある、
ときに、ステップG)でリーン運転を許可し、そうでなければステップH)に移行してリーン運転を禁止する。上記のステップA)〜F)は運転性能を損なわずに安定してリーン運転を行うための条件である。
【0032】
このようにしてリーン条件を判定したら、図3のステップC),D)に戻り、リーン条件でないときは、ステップC)によって理論空燃比あるいはそれよりも濃い空燃比のマップ値(マップ燃空比)を、図6に示す特性のマップを回転数Nと負荷Tpとで検索することにより算出し、これに対してリーン条件のときは、ステップD)で理論空燃比よりも所定の範囲だけ薄い値のマップ燃空比Mdmlを図5に示す特性のマップにしたがって同じように検索する。なお、これらのマップに表した数値は、理論空燃比のときを1.0とする相対値であるため、これよりも数値が大きければリッチ、小さければリーンを示す。
【0033】
次に、図7は空燃比切換時のダンパ操作を示すフローで、これは空燃比を緩やかに切換えることによりトルクの急変を防いで、運転性能の安定性を確保するためのものである。
【0034】
ステップA)、B)ではスタートスイッチと先程得たマップ燃空比Mdmlをみて、スタートスイッチがONであるときまたはマップ燃空比Mdmlが上限値TDMLR#以上であるときは、ステップC)でマップ燃空比Mdmlを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0035】
スタートスイッチがONでなくかつマップ燃空比Mdmlが上限値TDMLR#未満であるときは、ステップD)で前回の燃空比補正係数であるDmloldとマップ燃空比Mdmlとの比較を行い、Dmlold≧Mdmlでないときは理論空燃比での運転への切換時であると判断し、ステップE)で燃空比リッチ化変化速度であるDdmlrを読み込み、ステップF)でマップ燃空比Mdmlと(Dmlold+Ddmlr)のいずれか小さいほうを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0036】
この逆に、Dmlold≧Mdmlのときは、リーン運転への切換時であると判断し、ステップI)で燃空比リーン化変化速度であるDdmllを読み込み、ステップJ)でマップ燃空比Mdmlと(Dmlold−Ddmll)のいずれか大きいほうを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0037】
上記の変化速度DdmlrとDdmllは、運転領域の切換時に絞り弁開度の変化が早いほど大きな値を設定して素早く切換えさせる。一方のDdmlrで代表させると、図8が変化速度を設定するための流れ図である。ステップA)〜C)で絞り弁開度の変化速度ΔTVOと判定値DTVO3#、DTVO2#、DTVO1#を比較し、その比較結果よりステップD)〜G)でΔTVO≧DTVO3#のとき所定値DDMLR0#を、DTVO3#>ΔTVO≧DTVO2#のとき所定値DDMLR1#を、DTVO2#>ΔTVO≧DTVO1#のとき所定値DDMLR2#を、DTVO1#>ΔTVOのとき所定値DDMLR3#をそれぞれ選択する。ただし、DTVO3#>DTVO2#>DTVO1#、またDDMLR0>DDMLR1>DDMLR2>DDMLR3である。
【0038】
このように、絞り弁開度の変化速度ΔTVOに応じた大きさの変化速度Ddmlrを4段階に設定することで、図9に示したように、ΔTVOが大のときは立上がりが急となり、ΔTVOが小のときは立上がりが緩やかとなるわけである。このようにして、リーン運転領域(このときはKas、Ktwとも0)では燃空比補正係数Dmlが1.0よりも小さな値となり、これによってリーン側の空燃比でエンジン運転され、また暖機終了後(このときもKas、Ktwとも0)の高負荷時には燃空比補正係数Dmlが1.0より大きな値となりリッチ側の空燃比で制御されるのである。なお、目標燃空比相当量Tfbyaが1.0以外の値となって働くときにも空燃比フィードバック制御を行うと、空燃比をリッチ側やリーン側の値にすることができなくなるので、このときには空燃比フィードバック制御を停止している(αのクランプ)。
【0039】
図2に戻り、ステップB)でエアフローメータの出力をA/D変換し、リニアライズして吸入空気流量Qを算出する。そしてステップC)でこの吸入空気流量Qとエンジン回転数Nとから、ほぼ理論空燃比の得られる基本噴射パルス幅Tpを、Tp=K×Q/Nとして求める。なおKは定数である。
【0040】
ステップD)では
Avtp=Tp×Fload+Avtp-1×(1−Fload)…(2)
ただし、Fload:加重平均係数
Avtp-1:前回のAvtp
の式により噴射弁部空気量相当パルス幅Avtpを求める。(2)式の加重平均係数Floadは、回転数Nおよびシリンダ容積Vとの積N・Vと吸気管の総流路面積Aaから所定のマップを参照して求める。なお、Aaは絞り弁5の流路面積にアイドル調整弁やエアレギュレータの流路面積を足したものである。
【0041】
ステップE)では過渡補正量Kathosを計算する。この過渡補正量Kathosの計算については図10により説明する。
【0042】
まず、ステップA)では噴射弁部空気量相当パルス幅Avtp、目標燃空比相当量Tfbya(先に図2のステップA)、D)で得ている)を読み込み、ステップB)で
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya …(3)
ただし、Mfhtvo:付着倍率
の式により平衡付着量Mfhを計算する。
【0043】
ここで、付着倍率Mfhtvoを求めるためのデータ(後述する基準付着倍率負荷項Mfhqiのマップデータと基準付着倍率回転項Mfhniのテーブルデータ)は、目標燃空比相当量Tfbya=1.0に対するマッチングデータであるため、このマッチングデータを用いて得られる平衡付着量はTfbya=1.0に対しては適切であっても、目標燃空比相当量Tfbyaが1.0以外の値であるときにはその差の分だけ平衡付着量Mfhの演算に誤差が生じること、また図11に示すように、平衡付着量MfhはTfbyaにほぼ比例することから、(3)式に示したように、Tfbya=1.0に対する値(Avtp×Mfhtvo)をTfbya倍することによって、そのときのTfbyaに対応して過不足なく平衡付着量Mfhを与えるのである。この結果、暖機終了後の高負荷時に目標燃空比相当量Tfbyaが1.2になったときにはこのときの平衡付着量Mfhが従来より1.2倍され、またリーン運転領域で目標燃空比相当量Tfbyaが0.66になったときにはこのときの平衡付着量Mfhが従来より0.66倍される。
【0044】
(3)式の付着倍率Mfhtvoは従来と同様にして求める。Mfhtvoは単位噴射弁部流量相当パルス幅当たりの平衡付着量のことであり、これは負荷(Avtp)と回転数Nと燃料付着部の温度予測値Tfを用いて求める。なお、燃料付着部の温度予測値Tfの演算については、特開平1−305142号公報に詳しいので説明は省略する。
【0045】
具体的には、温度予測値Tfの上下各基準温度TfiとTfi+1(iは1から4(あるいは5)までの整数)に対する基準付着倍率データMfhtfiとMfhtfi+1を用い、Tf、Tfi、Tfi+1による補間計算で求める。たとえば、Mfhtf1、Mfhtf2と、基準温度Tf1、Tf2、現在の温度予測値Tfを用いて
Mfhtvo=Mfhtf1+(Mfhtf2−Mfhtf1)
×(Tf1−Tf)/(Tf1−Tf2) …(4)
の式(直線補間計算式)によりMfhtvoを計算する。
【0046】
上記の基準付着倍率データMfhtfiは
Mfhtfi=Mfhqi×Mfhni …(5)
ただし、Mfhqi:基準付着倍率負荷項
Mfhni:基準付着倍率回転項
の式により計算する。
【0047】
ここで、Mfhqiはα−N流量Qh0と温度予測値Tfを用い補間計算付きで所定のマップを参照して求める。なお、Qh0は絞り弁開度TVOと回転数Nから求められる絞り弁部の空気流量で、既に公知のものである。Mfhniは回転数Nから補間計算付きで所定のテーブルを参照して求める。MfhqiのマップとMfhniのテーブルは、後述するKmfatのマップとKmfnのテーブルとともに、理論空燃比のときにマッチングしたデータが格納されている。
【0048】
このようにして求めた平衡付着量Mfhに対して、現時点での付着量(予測変数)Mfが単位周期当たり(たとえばクランク軸1回転毎)にどの程度の割合で接近するかの割合を表す係数(つまり分量割合)KmfをステップC)において基本分量割合Kmfatと分量割合回転補正率Kmfnの積から演算する。
【0049】
ここで、Kmfatは温度予測値Tfを用いて求める。たとえば、α−N流量Qh0と温度予測値Tfとを用い、補間計算付きで所定のマップを参照する。Kmfnは回転数Nから補間計算付きで所定のテーブルを参照する。
【0050】
このようにして求めた分量割合KmfをステップD)においてMfhと現時点での付着量Mfとの差に乗じる演算により、つまり
Vmf=(Mfh−Mf)×Kmf …(6)
の式により付着速度(単位周期あたりの付着量のこと)Vmfを計算する。
【0051】
Mfはその時点での付着量の予測変数であり、したがって(Mfh−Mf)の付着量は平衡付着量からの過不足量を示し、この値(Mfh−Mf)が分量割合Kmfにてさらに補正されるのである。
【0052】
このようにして付着速度Vmfを求めた後、ステップE)では付着速度Vmfをさらに軽質燃料使用時における減速時のオーバーリーン防止のための補正率Ghfによって補正することにより過渡補正量Kathosを求めて、図10のフローを終了する。
【0053】
過渡補正量Kathosの計算を終了したら図2に戻り、ステップF)で
Ti=(Avtp×Tfbya+Kathos)×α×2+Ts…(7)
ただし、α:空燃比フィードバック補正係数
Ts:無効噴射パルス幅
の式により燃料噴射弁に与える燃料噴射パルス幅Tiを計算する。
【0054】
この(7)式を従来の(21)式と比較すればわかるように、この式では過渡補正量Kathosに対して目標燃空比相当量Tfbyaを乗算していない。これは、上記(3)式により目標燃空比相当量Tfbyaをすでに平衡付着量Mfhの計算に用いているからである。
【0055】
ここで、(7)式の空燃比フィードバック補正係数αは制御空燃比が理論空燃比を中心とするいわゆるウィンドウに収まるようにO2センサ出力に基づいて演算される値、無効噴射パルス幅Tsは噴射弁が噴射信号を受けてから実際に開弁するまでの作動遅れを補償するための値である。また、(7)式は従来の(21)式と相違してシーケンシャル噴射(4気筒ではエンジン2回転毎に1回、各気筒の点火順序に合わせて噴射)の場合の式であるため、数字の2が入っている。
【0056】
次にステップG)で燃料カットの判定を行い、ステップI),J)で燃料カット条件ならば無効噴射パルス幅Tsを、そうでなければTiを出力レジスタにストアすることでクランク角センサの出力にしたがって所定の噴射タイミングでの噴射に備える。
【0057】
図12のフローチャートは噴射タイミングに同期(具体的にはRef信号同期)したフローチャートで、所定の噴射タイミングになると、ステップA)において噴射を実行したあと、ステップB)では上記の(6)式で得た付着速度Vmfを用いて次回の処理時に用いる付着量Mfを、
Mf=Mf-1Ref+Vmf …(8)
ただし、Mf-1Ref:1噴射前のMf
の式により更新する。
【0058】
(8)式中の右辺のMf-1Refは前回噴射終了時(エンジン2回転前)の付着量であり、これに今回の噴射時に加えられる付着速度Vmfを加算した値が今回の噴射終了時点での付着量Mf(左辺のMf)となる。この付着量Mfの値が次回のVmfの演算時に用いられる。(8)式の右辺のMf-1Refが付着速度Vmfの演算直前の値であるのに対して(8)式の左辺のMfは付着速度Vmfの演算直後の値である。したがって、内容的には(6)式の付着量Mfの値を(8)式右辺のMf-1Refに入れて(8)式左辺の付着量Mfを計算することになる。(8)式で左辺と右辺に付着量が出てくるのは、付着量をエンジン2回転毎にサイクリックに更新していく構成であるからである。
【0059】
ここで、1.2から1.0へのTfbyaの切換時についてこの実施形態の作用を図13を参照しながら説明する。図には簡単のためステップ変化で示している。また、上記の補正率Ghfは考えない。
【0060】
従来例のように目標燃空比相当量Tfbyaに関係なく、目標燃空比相当量Tfbya=1.0(理論空燃比)に対するマッチングデータを用いて求めた平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを目標燃空比相当量Tfbyaが1.0でないときにもそのまま用いるのでは、Mfh(二点鎖線で示す)とMf(破線で示す)が図示のように変化し、したがって、Kathos(破線で示す)が不足して空燃比のオーバーリッチが生じることを前述した。
【0061】
これに対して本実施形態では、目標燃空比相当量Tfbyaが1.2のときにはこの目標燃空比相当量Tfbyaにより平衡付着量Mfhが従来より1.2倍されており、目標燃空比相当量Tfbyaの1.0への切換時にステップ変化するMfh(実線で示す)に対して付着量Mf(一点鎖線で示す)が一次遅れで追いかけるため、過渡補正量Kathos(実線で示す)が従来と比較して斜線で示した面積の分だけ負の値で大きくなり、これにより目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリッチが避けられるともに、理論空燃比への切換が素早く行われている。
【0062】
同様にして、リーン空燃比から理論空燃比へと切換わるときなど大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に、従来例では過渡補正量Kathosが不足して空燃比のオーバーリーンが生じるのであるが、目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして平衡付着量Mfhを演算する本実施形態では、大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリーンを避けることができ、かつ理論空燃比への戻りが遅くなることがない。
【0063】
図14のフローチャートは第2実施形態、図17のフローチャートは第3実施形態で、それぞれ第1実施形態の図10に対応する。図10と相違するのは、第2実施形態においてステップB1)、B2)、第3実施形態においてステップB11)、B12)である。なお、図10と同一の部分には同一のステップ番号をつけて説明は省略する。
【0064】
図14の第2実施形態は、ステップB1)、B2)で目標燃空比相当量Tfbyaから図15を内容とするテーブルを参照してゲインMfhtfaを求め、このゲインMfhtfaを用いて
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Mfhtfa …(11)
の式により平衡付着量Mfhを、また図17の第2実施形態はステップB11)、B12)で目標燃空比相当量Tfbyaから図18を内容とするテーブルを参照してゲインMfhgaiを求め、このゲインMfhgaiを用いて
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya×Mfhgai…(12)
の式により平衡付着量Mfhをそれぞれ計算するようにしたものである。
【0065】
燃料噴射弁の取り付け位置、噴射方向、噴射量、吸気弁形状、吸気ポート形状など平衡付着量Mfhに影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性があるときには、たとえば図16や図19に示した平衡付着量Mfhの特性が要求されるのであるが、このときにまで目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhの特性を定めるのでは平衡付着量Mfhに過不足が生じることがある。これに対して、第2、第3の各実施形態では、一例を図16、図19に示したように、目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhを求める第1実施形態より目標燃空比相当量Tfbyaに応じたきめ細かい補正、適合が可能となるため、平衡付着量Mfhに影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性がある場合にも、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にオーバーリッチやオーバーリーンを生じることがなく、目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhを求める第1実施形態より目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比制御精度が向上する。
【0066】
実施形態では、出力空燃比から理論空燃比への切換時とリーン空燃比から理論空燃比への切換時で説明したが、これに限られるものでない。たとえば、冷間始動により水温増量補正係数Ktwが0でない正の値をもち、これによってリッチ側の空燃比で運転されている場合において、一刻も早く空燃比フィードバック制御を行うためO2センサが活性化したタイミングで空燃比フィードバック制御を開始するものがあり、このものでは、O2センサの活性化終了タイミングで水温増量補正係数Ktwを0に戻している。つまり、水温増量補正係数Ktwが0でない正の値から0へと切換わるときも、小さな値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の一つであり、本発明の適用がある。また、アイドルスイッチのON状態とOFF状態とで始動後増量補正係数Kasの値を相違させているものがあり、この場合にアイドルスイッチをON状態からOFF状態へあるいはその逆へと変化させたとき目標燃空比相当量Tfbyaが切換わる。この目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも本発明の適用がある。理論空燃比から出力空燃比やリーン空燃比への切換時、リーン運転領域における目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも適用があることはいうまでもない。
【0067】
実施形態では付着倍率Mfhtvoを導入するもので説明したが、これに限らず、エンジン負荷、回転数、温度から直接に理論空燃比に対する平衡付着量を演算するものにも適用することができる。
【0068】
実施形態では平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを求めるのに温度予測値Tfを用いる場合で説明したが、冷却水温Twを用いるものや特開平3−134237号公報のように壁流補正用温度Twfを用いるものにも適用できる。
【0069】
【発明の効果】
従来例のように目標燃空比相当量に関係なく、理論空燃比に対するマッチングデータを用いて平衡付着量と分量割合を求めたのでは、出力空燃比より理論空燃比へと切換わるときなど小さい値への目標燃空比相当量の切換時に付着速度が不足して空燃比のオーバーリッチが生じるのであるが、第1の発明では、目標燃空比相当量をもパラメータとして目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算するので、小さい値への目標燃空比相当量の切換時の空燃比のオーバーリッチが避けられるともに、目標空燃比への切換が素早く行われる。同様にして、リーン空燃比から理論空燃比へと切換わるときなど大きい値への目標燃空比相当量の切換時に、従来例では付着速度の不足により空燃比のオーバーリーンが生じるのであるが、目標燃空比相当量をもパラメータとして目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する第1の発明では、大きい値への目標燃空比相当量の切換時の空燃比のオーバーリーンを避けることができる。
【0070】
第3の発明では、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と目標燃空比相当量の積により求めるので、理論空燃比に対して得ている従来の平衡付着量、分量割合の各マッチングデータをそのまま用いることができ、これによって新たなマッチングを行うことが不要である。
【0071】
噴射弁の取り付け位置、噴射方向、噴射量、吸気弁形状、吸気ポート形状など平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性があるときにまで、目標燃空比相当量に比例させて目標燃空比相当量に対する平衡付着量の特性を定めるのでは目標燃空比相当量に対する平衡付着量が不適切になる場合が生じるが、第5の発明では、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と目標燃空比相当量をパラメータとする値であるゲインとの積により求め、また第7の発明では前記ゲインが、目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値と目標燃空比相当量との積からなるので、目標燃空比相当量に応じたきめ細かい補正、適合が可能となり、平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性がある場合にも、目標燃空比相当量の切換時にオーバーリッチやオーバーリーンを生じることがなく、これによって目標燃空比相当量に比例させて目標燃空比相当量に対する平衡付着量を求める場合より目標燃空比相当量の切換時の空燃比制御精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の制御システム図である。
【図2】10msecジョブの流れ図である。
【図3】バックグラウンドジョブの流れ図である。
【図4】リーン条件の判定を説明するための流れ図である。
【図5】リーンマップの内容を示す特性図である。
【図6】非リーンマップの内容を示す特性図である。
【図7】180度ジョブの流れ図である。
【図8】空燃比リッチ化変化速度Ddmlrの設定を説明するための流れ図である。
【図9】空燃比切換時のダンパ操作を説明するための波形図である。
【図10】過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図11】目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図12】噴射タイミングに同期するフローチャートである。
【図13】第1実施形態の作用を説明するための波形図である。
【図14】第2実施形態の過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図15】第2実施形態のゲインMfhtfaの特性図である。
【図16】第2実施形態の目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図17】第3実施形態の過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図18】第3実施形態のゲインMfhgaiの特性図である。
【図19】第3実施形態の目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図20】従来例の作用を説明するための波形図である。
【図21】第1の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2 コントロールユニット
4 クランク角センサ
6 エアフローメータ
7 燃料噴射弁
Claims (12)
- 燃料を吸気系に噴射供給する燃料噴射弁を備え、
運転条件により変化する目標空燃比が得られるように前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御するエンジンの空燃比制御装置において、
運転条件に応じた基本噴射量を演算する手段と、
前記目標空燃比の逆数に応じた値である目標燃空比相当量を運転条件に応じて演算する手段と、
この目標燃空比相当量、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて、前記吸気系に付着する平衡状態での燃料量である平衡付着量を、目標燃空比相当量が大きいほど大きくなる値に演算する手段と、
前記平衡付着量と、この平衡付着量に対して一次遅れで変化する値である付着量との差を演算する手段と、
エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて、これらの値に応じた係数である分量割合を演算する手段と、
前記差の付着量と前記分量割合とに基づいて単位周期当たりの付着量を演算する手段と、
前記目標燃空比相当量で前記基本噴射量を補正する手段と、
この補正した値と前記単位周期当たりの付着量とから燃料噴射量を演算する手段と、
この噴射量の燃料が所定のタイミング毎に吸気系に供給されるように前記燃料噴射弁に噴射信号を与える手段と、
この燃料噴射に同期して今回噴射時の前記単位周期当たりの付着量を今回噴射前の前記一次遅れで変化する値である付着量に加算することにより前記一次遅れで変化する値である付着量を更新する手段と、
を設けたことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - 前記補正は前記目標燃空比相当量を前記基本噴射量に乗算することである
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する手段は、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と前記目標燃空比相当量との積により求める、
ことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する手段は、目標燃空比相当量に対する平衡付着量Mfhを以下の式に基づいて算出する、
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya
ただし、
Avtp:噴射弁部空気量相当パルス幅、
Mfhtvo:付着倍率、
Tfbya:目標燃空比相当量、
ことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する手段は、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着量と前記目標燃空比相当量をパラメータとする値であるゲインとの積により求める、
ことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する手段は、目標燃空比相当量に対する平衡付着量Mfhを以下の式に基づいて算出する、
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Mfhtfa
ただし、
Avtp:噴射弁部空気量相当パルス幅、
Mfhtvo:付着倍率、
Mfhtfa:目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲイン、
ことを特徴とする請求項5に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記ゲインは、前記目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値と前記目標燃空比相当量との積からなる、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記ゲインは、以下の式に基づいて算出する、
Mfhtfa=Tfbya×Mfhgai
ただし、
Mfhtfa:目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲイン、
Tfbya :目標燃空比相当量、
Mfhgai:目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合と
リーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値、
ことを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記分量割合演算手段は、分量割合Kmfを、基本分量割合Kmfatと分量割合回転補正率Kmfnとの積から演算する、
ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記付着速度演算手段は、付着速度Vmfを以下の式に基づいて算出する、
Vmf=(Mfh−Mf)×Kmf
ただし、
Mfh:平衡付着量、
Mf :付着量、
Kmf:分量割合、
ことを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記燃料噴射量演算手段は、燃料噴射量Tiを以下の式に基づいて算出する、
Ti=(Avtp×Tfbya+Kathos)×α×2+Ts
ただし、
Avtp :噴射弁部空気量相当パルス幅、
Tfbya :目標燃空比相当量、
Kathos:過渡補正量、
α :空燃比フィードバック補正係数、
Ts :無効噴射パルス幅、
ことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 前記付着量更新手段は、付着量Mfを以下の式により更新する、
Mf=Mf-1Ref+Vmf
ただし、
Mf-1Ref:今回噴射の1噴射前のMf、
Vmf :今回噴射時の付着速度、
ことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
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