JP3692629B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンの空燃比制御装置、特に壁流燃料に関する補正を行うとともに運転条件に応じてリッチ側の空燃比やリーン側の空燃比で運転するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エンジンの加減速時における空燃比の目標値からのずれは、吸気マニホールドや吸気ポートに付着し、液状のまま壁面を伝ってシリンダーへと流れ込む、いわゆる壁流燃料の量的変化に起因するものであり、この壁流燃料による過不足分を過渡補正量Kathosとして燃料補正を行うものが提案されている(特開平1−305142号公報参照)。
【0003】
このものでは、平衡付着量Mfhと分量割合Kmfとの2つの値を、エンジン負荷、エンジン回転数Nおよび冷却水温Twに基づいて予め定めており、そのときのエンジン負荷、エンジン回転数Nおよび燃料付着部の温度予測値Tfに基づいて平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを求め、これらから後述する(6)式を用いて単位周期当たり(一噴射当たり)の付着量(これを付着速度という)Vmfを求め、この付着速度Vmfで基本噴射パルス幅Tpを補正している。
【0004】
ここで、(6)式のMfは単位周期毎(1噴射毎)に後述する(8)式によりVmfの積算値としてサイクリックに求められる値(予測変数である)のことで、Mfhがステップ的に変化するとき、このMfhに対して一次遅れで応答する。また、分量割合KmfはMfhとその時点での付着量Mfの差(Mfh−Mf)の燃料を燃料噴射量の補正にどの程度反映させるのかを示す係数のことである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため、さらにはリーンバーンシステムにも適用可能とするため後述する(1)式で与えられる目標燃空比相当量Tfbyaを導入するものでは、
Ti=(Tp+Kathos)×Tfbya×α+Ts …(71)
ただし、Tfbya:目標燃空比相当量
α:空燃比フィードバック補正係数
Ts:無効噴射パルス幅
の計算式により燃料噴射弁に与える燃料噴射パルス幅Tiを与えている。
【0006】
ここで、目標燃空比相当量Tfbyaは1.0を中心とする値で、たとえば冷間始動直後のアイドル時のとき(燃空比補正係数Dml=1.0)、水温増量補正係数Ktwと始動後増量補正係数Kasとが0でない正の値を持つため目標燃空比相当量Tfbyaが1.0より大きくなり、空燃比がリッチ側になってエンジン安定性が高められる。また、暖機終了後(Ktw=0、Kas=0)の高負荷時にはDmlが1.0よりも大きな値(たとえば1.2)に切換わり、このときもリッチ側の空燃比(出力空燃比)で運転が行われる。さらに、リーン運転領域になったときには、燃空比補正係数Dmlがたとえば0.66(空燃比でほぼ22)となり、このリーン空燃比の運転により燃料消費が抑制される。
【0007】
このように目標燃空比相当量Tfbyaは運転条件の変化に応じて切換わるのであるが、出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時に上記の過渡補正量Kathosに不足を生じて空燃比が一時的にオーバーリッチやオーバーリーンになることがわかった。たとえば、出力空燃比域からの減速時(Tfbyaが1.2から1.0に切換わる)には、図37に示したように、過渡補正量Kathos(実線参照)に不足を生じて空燃比(図ではA/Fで略記、図17、図24、図38において同じ)がオーバーリッチになり、かつ理論空燃比への切換時間も遅くなっている。
【0008】
これを解析してみたところ、平衡付着量Mfhは負荷、回転数、燃料付着部の温度がすべて同一の条件でも目標燃空比相当量Tfbyaにほぼ比例しているのであるから、Mfhの要求値(一点鎖線で示す)はTfbya=1.2に対する値からTfbya=1.0に対する値へとステップ変化し、これに対してMfの要求値(二点鎖線で示す)が一次遅れで収束していくはずである。したがって、Mfhの要求値とMfの要求値の差から算出されるKathosの要求値は一点鎖線のように与えられることになる。これに対して上記(71)式のKathosを計算するフローにおいては、Tfbya=1.0(理論空燃比)に対するマッチングデータを用いて平衡付着量Mfhと分量割合Kmfが求められるため、このときのMfh(実線で示す)とMf(破線で示す)は図示のように変化し、したがって、Kathos(実線で示す)がKathosの要求値より少なく与えられる。この結果、要求値との差の面積分が不足して空燃比のオーバーリッチが生じるのである。
【0009】
同様にして、リーン運転領域からの加速時などTfbyaが大きくなる側への切換時にも過渡補正量Kathosが不足し、このときは空燃比がオーバーリーンになる。
【0010】
そこで、平衡付着量Mfhを目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして演算することにより、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に過渡補正量Kathosの不足によるオーバーリッチやオーバーリーンを防止するようにした装置を先に提案した(特願平8−96854号参照)。以下この装置を先願装置という。
【0011】
一方、上記の過渡補正量Kathosに加えて、気筒別の壁流補正量Chosnを導入するものがある(特開平1−305144号、特開平3−111639号公報参照)。
【0012】
ここで、壁流燃料には直接にシリンダに流入される分が少なく比較的応答の遅いもの(低周波成分という)と、直接にシリンダに流入される分が主で応答の速いもの(高周波成分という)とがあり、上記のKathosは低周波成分を対象とする壁流補正量、Chosnは高周波成分を対象とする補正量である。つまり、Kathosだけでは高周波成分に対して対処不可能なため、高周波成分に対する補正量であるChosnを、前回噴射からのAvtp変化量であるΔAvtpnを用いて、Avtpが増えているとき(加速時)であれば
Chosn=ΔAvtpn×Gztwp …(72)
ただし、Gztwp:増量ゲイン
の式により、またAvtpが減少しているとき(減速時)は
Chosn=ΔAvtpn×Gztwm …(73)
ただし、Gztwm:減量ゲイン
の式により計算し、これを気筒別に同期噴射の燃料噴射パルス幅に加算することによって、高周波成分に対する壁流補正を行うのである。なお、(72)、(73)式の増量ゲインGztwp、減量ゲインGztwmは水温補正を行うためのものである。また、上記のChosn、ΔAvtpn、Tinの最後に添付されているnは気筒番号を表す。
【0013】
さて、このように低周波成分に対する壁流補正量に加えて高周波成分に対する壁流補正量を導入しているものでは、上記の先願装置を適用したとしても、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnの演算にTfbya(目標空燃比)がいっさい考慮されていないため、特に出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時(目標空燃比の切換時)にChosnに不足を生じて一時的にオーバーリッチやオーバーリーンが生じることがわかった。たとえば、図33と同じに出力空燃比域からの減速時でみると、図38に示したように、Chosn(実線参照)に要求値(一点鎖線参照)からの不足を生じて空燃比がオーバーリッチになっている。
【0014】
そこで本発明は、壁流燃料に関する第1の壁流補正量としての低周波成分に対する壁流補正量、壁流燃料に関する第2の壁流補正量としての高周波成分に対する壁流補正量を導入しているものにおいて、低周波成分に対する壁流補正量であるKathosを上記の先願装置と同じに目標空燃比に応じた値とするとともに、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnについても目標空燃比に応じた値とすることにより、目標空燃比の切換時に高周波成分に対する壁流補正量の不足により生じる一時的なオーバーリッチやオーバーリーンを防止することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
第1の発明では、図39に示すように、運転条件に応じた基本噴射量Tpを演算する手段31と、目標燃空比相当量Tfbyaを運転条件に応じて演算する手段32と、この目標燃空比相当量Tfbya、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算する手段33と、前記目標燃空比相当量Tfbyaで前記基本噴射量Tpを補正する手段34と、この補正した基本噴射量の前回噴射からの変化量を演算する手段35と、この変化量と前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインAとから壁流燃料に関する第2の壁流補正量Chosn1を演算する手段36と、前記補正した基本噴射量と前記第1、第2の2つの壁流補正量とから燃料噴射量Tiを演算する手段37と、この噴射量の燃料を所定のタイミング毎に吸気管に供給する手段38とを設けた。
【0016】
第2の発明では、図40に示すように、運転条件に応じた基本噴射量Tpを演算する手段31と、目標燃空比相当量Tfbyaを運転条件に応じて演算する手段32と、この目標燃空比相当量Tfbya、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算する手段33と、この壁流燃料に関する第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量を演算する手段41と、この変化量と前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインAとから壁流燃料に関する第2の壁流補正量Chosn1を演算する手段42と、前記目標燃空比相当量Tfbyaで前記基本噴射量Tpを補正する手段34と、この補正した基本噴射量と前記第1、第2の2つの壁流補正量とから燃料噴射量Tiを演算する手段37と、この噴射量の燃料を所定のタイミング毎に吸気管に供給する手段38とを設けた。
【0017】
第3の発明では、第1または第2の発明において加速後半で前記第2の壁流補正量Chosn1の演算が禁止されるように前記第2の壁流補正量Chosn1の演算禁止条件を設けた。
【0018】
第4の発明では、第3の発明において前記加速後半が、前記第1の壁流補正量Kathosが正かつ前記第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量ΔKathosが正となる条件である。
【0019】
第5の発明では、第1または第2の発明において減速後半で前記第2の壁流補正量Chosn1の演算が禁止されるように前記第2の壁流補正量Chosn1の演算禁止条件を設けた。
【0020】
第6の発明では、第5の発明において前記減速後半が、前記第1の壁流補正量Kathosが負かつ前記第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量ΔKathosが負となる条件である。
【0021】
第7の発明では、第1から第6までのいずれか一つの発明において図41に示すように前記第1の壁流補正量を演算する手段33が、前記目標燃空比相当量Tfbya、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを演算する手段51と、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて分量割合Kmfを演算する手段52と、前記平衡付着量Mfhとその時点での付着量Mfとの差(Mfh−Mf)を演算する手段53と、この差(Mfh−Mf)の付着量と前記分量割合Kmfとに基づいて付着速度Vmfを演算する手段54と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記付着速度Vmfを今回噴射前の前記付着量Mfに加算することにより付着量Mfを更新する手段55と、前記付着速度Vmfを前記第1の壁流補正量として設定する手段56とからなる。
【0022】
第8の発明では、第7の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率Mfhtvoと前記目標燃空比相当量Tfbyaと前記基本噴射量Tpの積により求める。
【0023】
第9の発明では、第7の発明において前記目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhを、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率Mfhtvoと前記基本噴射量Tpと前記目標燃空比相当量Tfbyaをパラメータとする値であるゲインMfhtfaとの積により求める。
【0024】
第10の発明では、第9の発明において前記ゲインMfhtfaが、前記目標燃空比相当量Tfbyaがリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値Mfhgaiと前記目標燃空比相当量Tfbyaとの積からなる。
【0025】
第11の発明では、第8から第10までのいずれか一つの発明において前記平衡付着倍率Mfhtvoが回転項Mfhniを含む。
【0026】
第12の発明では、第11の発明において前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインAが前記平衡付着倍率Mfhtvoに応じた値である。
【0027】
第13の発明では、第8から第10までのいずれか一つの発明において前記平衡付着倍率Mfhtvoが回転項Mfhniを含み、かつ前記分量割合Kmfが回転補正率Kmfnを含む。
【0028】
第14の発明では、第13の発明において前記第1の壁流補正量に対するに関する壁流燃料の応答ゲインAが前記平衡付着倍率Mfhtvoと前記分量割合Kmfの積である。
【0029】
【発明の効果】
壁流燃料に関する第1の壁流補正量に加えて壁流燃料に関する第2の壁流補正量を導入する場合に、まず従来例のように目標燃空比相当量に関係なく、理論空燃比に対するマッチングデータを用いて壁流燃料に関する第1の壁流補正量を求めたのでは、出力空燃比より理論空燃比へと切換わるときなど小さい値への目標燃空比相当量の切換時(目標空燃比の切換時)に壁流燃料に関する第1の壁流補正量が不足して空燃比のオーバーリッチが生じる。これに対して、第1と第2の各発明では、先願装置と同じに目標燃空比相当量をもパラメータとして壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算するので、小さい値への目標燃空比相当量の切換時に空燃比のオーバーリッチが避けられるともに、目標空燃比への切換が素早く行われる。同様にして、リーン空燃比から理論空燃比へと切換わるときなど大きい値への目標燃空比相当量の切換時に、従来例では壁流燃料に関する第1の壁流補正量の不足により空燃比のオーバーリーンが生じるのであるが、目標燃空比相当量をもパラメータとして壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算するようにしている第1と第2の各発明では、先願装置と同じに大きい値への目標燃空比相当量の切換時に空燃比のオーバーリーンを避けることができる。
【0030】
また、従来例のように壁流燃料に関する第2の壁流補正量の演算に目標燃空比相当量を考慮していないことでも、特に、出力空燃比域からの減速時に、その減速に伴う空燃比の変化に応じられずに壁流燃料に関する第2の壁流補正量が不足して一時的にオーバーリッチが発生する。これに対して、第1の発明では壁流燃料に関する第2の壁流補正量を目標燃空比相当量により補正した基本噴射量の前回噴射からの変化量と第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインとから、また第2の発明では壁流燃料に関する第2の壁流補正量を壁流燃料に関する第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量と第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインとからそれぞれ演算するので、高周波成分壁流燃料に関する第2の壁流補正量が従来と相違して目標燃空比相当量(目標空燃比)の変化に応じた値となり、壁流燃料に関する第2の壁流補正量が従来と比較して負の値で大きくなることから、出力空燃比域からの減速時に、壁流燃料に関する第2の壁流補正量の不足に伴う一時的なオーバーリッチを防止できる。同様にして、リーン空燃比域からの加速時には、壁流燃料に関する第2の壁流補正量の不足に伴う一時的なオーバーリーンを防止できる。このように、第1と第2の各発明では壁流燃料に関する第2の壁流補正量が目標空燃比に応じた値で演算されることから、壁流燃料に関する第1の壁流補正量に加えて壁流燃料に関する第2の壁流補正量を導入しているものにおいても、目標空燃比の切換時に高周波成分に対する壁流補正量に過不足が生じることがないのである。
【0031】
さらに、従来の壁流燃料に関する第2の壁流補正量では水温補正ゲインにより冷却水温に応じた補正を行うだけで、エンジンの回転数や負荷に応じた補正を行っていないため、水温補正ゲインを適合したときのエンジン回転数、負荷と異なる回転数や負荷のときには、壁流燃料に関する第2の壁流補正量が不適切となる。そこで、新たに回転補正項、負荷補正項を付加して適合するのでは、適合工数が増加する。これに対して第1の発明では補正基本噴射量(目標燃空比相当量により補正した基本噴射量のこと)がエンジンの回転数と負荷に応じて変化し、この変化する補正基本噴射量に基づいて壁流燃料に関する第2の壁流補正量が演算されるので、また第2の発明では壁流燃料に関する第1の壁流補正量がエンジンの回転数と負荷に応じて変化し、この変化する壁流燃料に関する第1の壁流補正量に基づいて壁流燃料に関する第2の壁流補正量が演算されるので、壁流燃料に関する第2の壁流補正量も自動的にエンジンの回転数と負荷に対応した値となり、これによって、エンジンの回転数が変化したときでも壁流燃料に関する第2の壁流補正量に過不足が生じることがない。
【0032】
壁流燃料に関する第2の壁流補正量を用いて実験を行ってみたところ、加速後半で空燃比がややリーンに、また減速後半で空燃比がややリッチ側になり、過渡後半での空燃比制御性に改善の余地があることが判明したのであるが、第3の発明では加速後半で、また第5の発明では減速後半でそれぞれ壁流燃料に関する第2の壁流補正量の演算が禁止されるように壁流燃料に関する第2の壁流補正量の演算禁止条件を設けたので、壁流燃料に関する第2の壁流補正量による加速後半での燃料減量や減速後半での燃料増量がなくなり、これによって加速後半や減速後半で空燃比がややリーンやリッチに偏ることがなく空燃比制御性を改善できる。
【0033】
第8の発明では、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率と基本噴射量と目標燃空比相当量の積により求めるので、理論空燃比に対して得ている従来の平衡付着倍率のマッチングデータをそのまま用いることができ、これによって新たなマッチングを行う必要がない。
【0034】
噴射弁の取り付け位置、噴射方向、噴射量、吸気弁形状、吸気ポート形状など平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性があるときにまで、目標燃空比相当量に比例させて目標燃空比相当量に対する平衡付着量の特性を定めるのでは目標燃空比相当量に対する平衡付着量が不適切になる場合が生じるが、第9の発明では、目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率と基本噴射量と目標燃空比相当量をパラメータとする値であるゲインとの積により求め、また第10の発明では前記ゲインが、目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値と目標燃空比相当量との積からなるので、目標燃空比相当量に応じたきめ細かい補正、適合が可能となり、平衡付着量に影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性がある場合にも、目標燃空比相当量の切換時にオーバーリッチやオーバーリーンを生じることがなく、これによって目標燃空比相当量に比例させて目標燃空比相当量に対する平衡付着量を求める場合より目標燃空比相当量の切換時の空燃比制御精度が向上する。
【0035】
第12と第14の各発明では、第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインがエンジンの回転数に応じた値となるので、壁流燃料に関する第2の壁流補正量が回転域の相違に伴う高周波成分の挙動によく対応したものとなる。たとえば、負荷が同一の条件においても高回転時になると、低回転時より回転項が小さくなることより、付着倍率が低回転時より小さくなる(第14の発明ではさらに低回転時より回転補正率が若干小さくなることより、分量割合が低回転時より若干小さくなる)。この結果、第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインが小さくなり、壁流燃料に関する第2の壁流補正量の演算結果が高回転時に適切な値となる。高回転域では、低周波成分の割合が小さくなるのに反して高周波成分が大きくなる現象に対応して、壁流燃料に関する第2の壁流補正量が求められるのである。
【0036】
【発明の実施の形態】
図1において、1はエンジン本体で、吸入空気はエアクリーナから吸気管8を通ってシリンダに供給される。燃料は、運転条件に応じて所定の空燃比となるようにコントロールユニット(図ではC/Uで略記)2よりの噴射信号に基づき燃料噴射弁7からエンジン1の吸気ポートに向けて噴射される。
【0037】
コントロールユニット2にはクランク角センサ4からのRef信号(4気筒では180°ごと、6気筒では120°ごとに発生)と1°信号、エアフローメータ6からの吸入空気量信号、三元触媒10の上流側に設置したO2センサ3からの空燃比(酸素濃度)信号、水温センサ11からの冷却水温信号、スロットルセンサ12からの絞り弁5開度信号等が入力され、これらに基づいてコントロールユニット2では、吸入空気量Qとエンジン回転数Nとから基本噴射パルス幅Tpを演算するとともに、加減速時にはこのTpに過渡補正量Kathosを加算することによって壁流燃料に関する補正を行う。過渡補正量Kathosは、加減速時に限らず、燃料壁流が大きく変化する始動時や燃料カット時、さらには後述する目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも働く。
【0038】
コントロールユニット2ではまた、冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため目標燃空比相当量Tfbyaを用いて燃料補正を行うほか、トランスミッションのギヤ位置センサ13からのギヤ位置信号、車速センサ(図示しない)からの車速信号等に基づいて運転状態を判断しながら条件に応じてリーン空燃比と理論空燃比との制御を行う。排気管9には三元触媒10が設置され、理論空燃比の運転時に最大の転換効率をもって、排気中のNOxの還元とHC、COの酸化を行う。この三元触媒10はリーン空燃比のときはHC、COは酸化するが、NOxの還元効率は低い。しかしながら、空燃比がリーン側に移行すればするほどNOxの発生量は少なくなり、所定の空燃比以上では三元触媒10で浄化するのと同じ程度にまで下げることができ、同時に、リーン空燃比になるほど燃費が改善される。したがって、負荷のそれほど大きくない所定の運転領域においては目標燃空比相当量Tfbyaを1.0より小さな値とすることによってリーン空燃比による運転を行い、それ以外の運転領域ではTfbyaを1.0とすることにより空燃比を理論空燃比に制御するのである。
【0039】
さて、基本噴射パルス幅Tpに乗算される目標燃空比相当量Tfbyaは運転条件の変化に応じて切換わるのであるが、上記の過渡補正量KathosをTfbya=1.0(つまり理論空燃比)に対する値として計算しているのでは、出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時に過渡補正量Kathosに不足を生じて空燃比が一時的にオーバーリッチやオーバーリーンになり、制御空燃比の追従性が悪くなる。
【0040】
これに対処するため先願装置では、平衡付着量Mfhを目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして演算する。
【0041】
コントロールユニット2で実行されるこの先願装置の制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0042】
図2のフローチャートは燃料噴射パルス幅を算出して出力する制御動作内容を示すもので、まずステップA)では目標燃空比相当量Tfbyaを、
Tfbya=Dml+Ktw+Kas …(1)
ただし、Dml;燃空比補正係数
Ktw;水温増量補正係数
Kas;始動後増量補正係数
の式により算出する。
【0043】
ここで、Tfbyaは1.0を中心とする値で、空燃比をリッチ化したりリーン化する。たとえば、(1)式の始動後増量補正係数Kasは冷却水温Twに応じた値を初期値として始動後時間とともに一定の割合で減少し最終的に0となる値、また(1)式の水温増量補正係数Ktwは冷却水温Twに応じた値であり、冷間始動時(ただしDml=1.0)にはこれら増量補正係数Kas、Ktwが0でない正の値を持ち、Tfbyaが1.0より大きな値となるため、空燃比がリッチ側に制御される。
【0044】
一方、(1)式の燃空比補正係数Dmlは、図5または図6の特性のマップに設定した燃空比Mdmlを検索した上、空燃比の切換時には所定のダンパ操作を行わせて求めるのであり、この場合リーン運転条件かどうかによりいずれかのマップが選択される。
【0045】
ここで、リーン運転条件の判定について図3,図4のフローチャートにしたがって説明する。
【0046】
これらの動作はバックグランドジョブとして行われるもので、図3のステップA)でリーン条件の判定を行うが、このための具体的な内容は図4に示す。リーン条件の判定は図4のステップA)〜F)の内容を一つづつチェックすることにより行い、各項目のすべてが満たされたときにリーン運転を許可し、一つでも反するときはリーン運転を禁止する。
【0047】
すなわち、
ステップA):空燃比(酸素)センサが活性化している、
ステップB):エンジンの暖機が終了している、
ステップC):負荷(Tp)が所定のリーン領域にある、
ステップD):回転数(N)が所定のリーン領域にある、
ステップE):ギヤ位置が2速以上にある、
ステップF):車速が所定の範囲にある、
ときに、ステップG)でリーン運転を許可し、そうでなければステップH)に移行してリーン運転を禁止する。上記のステップA)〜F)は運転性能を損なわずに安定してリーン運転を行うための条件である。
【0048】
このようにしてリーン条件を判定したら、図3のステップC),D)に戻り、リーン条件でないときは、ステップC)によって理論空燃比あるいはそれよりも濃い空燃比のマップ値(マップ燃空比)を、図6に示す特性のマップを回転数Nと負荷Tpとで検索することにより算出し、これに対してリーン条件のときは、ステップD)で理論空燃比よりも所定の範囲だけ薄い値のマップ燃空比Mdmlを図5に示す特性のマップにしたがって同じように検索する。なお、これらのマップに表した数値は、理論空燃比のときを1.0とする相対値であるため、これよりも数値が大きければリッチ、小さければリーンを示す。
【0049】
次に、図7は空燃比切換時のダンパ操作を示すフローで、これは空燃比を緩やかに切換えることによりトルクの急変を防いで、運転性能の安定性を確保するためのものである。
【0050】
ステップA)、B)ではスタートスイッチと先程得たマップ燃空比Mdmlをみて、スタートスイッチがONであるときまたはマップ燃空比Mdmlが上限値TDMLR#以上であるときは、ステップC)でマップ燃空比Mdmlを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0051】
スタートスイッチがONでなくかつマップ燃空比Mdmlが上限値TDMLR#未満であるときは、ステップD)で前回の燃空比補正係数であるDmloldとマップ燃空比Mdmlとの比較を行い、Dmlold≧Mdmlでないときは理論空燃比での運転への切換時であると判断し、ステップE)で燃空比リッチ化変化速度であるDdmlrを読み込み、ステップF)でマップ燃空比Mdmlと(Dmlold+Ddmlr)のいずれか小さいほうを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0052】
この逆に、Dmlold≧Mdmlのときは、リーン運転への切換時であると判断し、ステップI)で燃空比リーン化変化速度であるDdmllを読み込み、ステップJ)でマップ燃空比Mdmlと(Dmlold−Ddmll)のいずれか大きいほうを燃空比補正係数Dmlとして設定する。
【0053】
上記の変化速度DdmlrとDdmllは、運転領域の切換時に絞り弁開度の変化が早いほど大きな値を設定して素早く切換えさせる。一方のDdmlrで代表させると、図8が変化速度を設定するための流れ図である。ステップA)〜C)で絞り弁開度の変化速度ΔTVOと判定値DTVO3#、DTVO2#、DTVO1#を比較し、その比較結果よりステップD)〜G)でΔTVO≧DTVO3#のとき所定値DDMLR0#を、DTVO3#>ΔTVO≧DTVO2#のとき所定値DDMLR1#を、DTVO2#>ΔTVO≧DTVO1#のとき所定値DDMLR2#を、DTVO1#>ΔTVOのとき所定値DDMLR3#をそれぞれ選択する。ただし、DTVO3#>DTVO2#>DTVO1#、またDDMLR0>DDMLR1>DDMLR2>DDMLR3である。
【0054】
このように、絞り弁開度の変化速度ΔTVOに応じた大きさの変化速度Ddmlrを4段階に設定することで、図9に示したように、ΔTVOが大のときは立上がりが急となり、ΔTVOが小のときは立上がりが緩やかとなるわけである。このようにして、リーン運転領域(このときはKas、Ktwとも0)では燃空比補正係数Dmlが1.0よりも小さな値となり、これによってリーン側の空燃比でエンジン運転され、また暖機終了後(このときもKas、Ktwとも0)の高負荷時には燃空比補正係数Dmlが1.0より大きな値となりリッチ側の空燃比で制御されるのである。なお、目標燃空比相当量Tfbyaが1.0以外の値となって働くときにも空燃比フィードバック制御を行うと、空燃比をリッチ側やリーン側の値にすることができなくなるので、このときには空燃比フィードバック制御を停止している(αのクランプ)。
【0055】
図2に戻り、ステップB)でエアフローメータの出力をA/D変換し、リニアライズして吸入空気流量Qを算出する。そしてステップC)でこの吸入空気流量Qとエンジン回転数Nとから、ほぼ理論空燃比の得られる基本噴射パルス幅Tpを、Tp=K×Q/Nとして求める。なおKは定数である。
【0056】
ステップD)では
Avtp=Tp×Fload+Avtp-1×(1−Fload)…(2)
ただし、Fload:加重平均係数
Avtp-1:前回のAvtp
の式により噴射弁部空気量相当パルス幅Avtpを求める。(2)式の加重平均係数Floadは、回転数Nおよびシリンダ容積Vとの積N・Vと吸気管の総流路面積Aaから所定のマップを参照して求める。なお、Aaは絞り弁5の流路面積にアイドル調整弁やエアレギュレータの流路面積を足したものである。
【0057】
ステップE)では過渡補正量Kathosを計算する。この過渡補正量Kathosの計算については図10により説明する。
【0058】
まず、ステップA)では噴射弁部空気量相当パルス幅Avtp、目標燃空比相当量Tfbya(先に図2のステップA)、D)で得ている)を読み込み、ステップB)で
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya …(3)
ただし、Mfhtvo:付着倍率
の式により平衡付着量Mfhを計算する。
【0059】
ここで、付着倍率Mfhtvoを求めるためのデータ(後述する基準付着倍率負荷項Mfhqiのマップデータと基準付着倍率回転項Mfhniのテーブルデータ)は、目標燃空比相当量Tfbya=1.0に対するマッチングデータであるため、このマッチングデータを用いて得られる平衡付着量はTfbya=1.0に対しては適切であっても、目標燃空比相当量Tfbyaが1.0以外の値であるときにはその差の分だけ平衡付着量Mfhの演算に誤差が生じること、また図11に示すように、平衡付着量MfhはTfbyaにほぼ比例することから、(3)式に示したように、Tfbya=1.0に対する値(Avtp×Mfhtvo)をTfbya倍することによって、そのときのTfbyaに対応して過不足なく平衡付着量Mfhを与えるのである。この結果、暖機終了後の高負荷時に目標燃空比相当量Tfbyaが1.2になったときにはこのときの平衡付着量Mfhが従来より1.2倍され、またリーン運転領域で目標燃空比相当量Tfbyaが0.66になったときにはこのときの平衡付着量Mfhが従来より0.66倍される。
【0060】
(3)式の付着倍率Mfhtvoは従来(特開平3−111642号公報参照)と同様にして求める。Mfhtvoは単位噴射弁部流量相当パルス幅当たり、かつ1シリンダ当たりの平衡付着量のことであり、これは負荷(Avtp)と回転数Nと燃料付着部の温度予測値Tfを用いて求める。なお、燃料付着部の温度予測値Tfの演算については、特開平1−305142号公報に詳しいので説明は省略する。
【0061】
具体的には、温度予測値Tfの上下各基準温度TfiとTfi+1(iは1から4(あるいは5)までの整数)に対する基準付着倍率データMfhtfiとMfhtfi+1を用い、Tf、Tfi、Tfi+1による補間計算で求める。たとえば、Mfhtf1、Mfhtf2と、基準温度Tf1、Tf2、現在の温度予測値Tfを用いて
Mfhtvo=Mfhtf1+(Mfhtf2−Mfhtf1)×(Tf1−Tf)/(Tf1−Tf2) …(4)
の式(直線補間計算式)によりMfhtvoを計算する。
【0062】
上記の基準付着倍率データMfhtfiは
Mfhtfi=Mfhqi×Mfhni …(5)
ただし、Mfhqi:基準付着倍率負荷項
Mfhni:基準付着倍率回転項
の式により計算する。
【0063】
ここで、Mfhqiはα−N流量Qh0と温度予測値Tfを用い補間計算付きで所定のマップを参照して求める。なお、Qh0は絞り弁開度TVOと回転数Nから求められる絞り弁部の空気流量で、既に公知のものである。Mfhniは回転数Nから補間計算付きで所定のテーブルを参照して求める。Mfhqiのマップ(図12参照)とMfhniのテーブル(図13参照)は、後述するKmfatのマップとKmfnのテーブルとともに、理論空燃比のときにマッチングしたデータが格納されている。また、図12と後述する図14の各マップは本来、冷却水温Twに対してマッチングしたものであるが、このマップ参照する際に、冷却水温Twに代えて温度予測値Tfを用いるわけである。
【0064】
このようにして求めた平衡付着量Mfhに対して、現時点での付着量(予測変数)Mfが単位周期当たり(たとえばクランク軸1回転毎)にどの程度の割合で接近するかの割合を表す係数(つまり分量割合)KmfをステップC)において基本分量割合Kmfatと分量割合回転補正率Kmfnの積から演算する。
【0065】
ここで、Kmfatは温度予測値Tfを用いて求める。たとえば、α−N流量Qh0と温度予測値Tfとを用い、補間計算付きで所定のマップ(図14参照)を参照する。Kmfnは回転数Nから補間計算付きで所定のテーブル(図15参照)を参照する。
【0066】
なお、基準付着倍率回転項Mfhniと分量割合回転補正率Kmfnに添付されたnは気筒番号としてのn(後述する)ではなく、回転数Nを意味させている。
【0067】
このようにして求めた分量割合KmfをステップD)においてMfhと現時点での付着量Mfとの差に乗じる演算により、つまり
Vmf=(Mfh−Mf)×Kmf …(6)
の式により付着速度(単位周期あたりの付着量のこと)Vmfを計算する。
【0068】
Mfはその時点での付着量の予測変数であり、したがって(Mfh−Mf)の付着量は現サイクルにおける平衡付着量からの過不足量を示し、この値(Mfh−Mf)が分量割合Kmfにてさらに補正されるのである。
【0069】
このようにして付着速度Vmfを求めた後、ステップE)では付着速度Vmfを過渡補正量Kathosに入れて、図10のフローを終了する。
【0070】
過渡補正量Kathosの計算を終了したら図2に戻り、ステップF)で
ただし、α:空燃比フィードバック補正係数
Ts:無効噴射パルス幅
の式により燃料噴射弁に与える燃料噴射パルス幅Tinを気筒別に計算する。
【0071】
この(7)式を従来の(71)式と比較すればわかるように、この式では過渡補正量Kathosに対して目標燃空比相当量Tfbyaを乗算していない。これは、上記(3)式により目標燃空比相当量Tfbyaをすでに平衡付着量Mfhの計算に用いているからである。
【0072】
ここで、(7)式の空燃比フィードバック補正係数αは制御空燃比が理論空燃比を中心とするいわゆるウィンドウに収まるようにO2センサ出力に基づいて演算される値、無効噴射パルス幅Tsは噴射弁が噴射信号を受けてから実際に開弁するまでの作動遅れを補償するための値である。また、(7)式は従来の(71)式と相違してシーケンシャル噴射(4気筒ではエンジン2回転毎に1回、各気筒の点火順序に合わせて噴射)の場合の式であるため、数字の2が入っている。
【0073】
気筒別壁流補正量Chosn1については後で詳述する。これは気筒別の値(つまりnは気筒番号を表す)であるため、Tiも気筒別の値とする必要があることから、nをつけている。
【0074】
次にステップG)で燃料カットの判定を行い、ステップI),J)で燃料カット条件ならば無効噴射パルス幅Tsを、そうでなければTinを出力レジスタにストアすることでクランク角センサの出力にしたがって所定の噴射タイミングでの噴射に備える。
【0075】
図16のフローチャートは噴射タイミングに同期(具体的にはRef信号同期)したフローチャートで、所定の噴射タイミングになると、ステップA)において噴射を実行したあと、ステップB)では上記の(6)式で得た付着速度Vmfを用いて次回の処理時に用いる付着量Mfを、
Mf=Mf-1Ref+Vmf …(8)
ただし、Mf-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のMf
の式により更新し、このMfを次回処理のため、ステップC)においてMf-1Refに移しておく。
【0076】
(8)式中の右辺のMf-1Refは前回噴射終了時(エンジン2回転前)の付着量であり、これに今回の噴射時に加えられる付着速度Vmfを加算した値が今回の噴射終了時点での付着量Mf(左辺のMf)となる。この付着量Mfの値が次回のVmfの演算時に用いられる。(8)式の右辺のMf-1Refが付着速度Vmfの演算直前の値であるのに対して(8)式の左辺のMfは付着速度Vmfの演算直後の値である。したがって、内容的には(6)式の付着量Mfの値を(8)式右辺のMf-1Refに入れて(8)式左辺の付着量Mfを計算することになる。(8)式で左辺と右辺に付着量が出てくるのは、付着量をエンジン2回転毎(つまり1サイクル毎)にサイクリックに更新していく構成であるからである。なお、ステップD)、E)については後述する。
【0077】
ここで、1.2から1.0へのTfbyaの切換時について先願装置の作用を図17を参照しながら説明する。図には簡単のためステップ変化で示している。
【0078】
従来例のように目標燃空比相当量Tfbyaに関係なく、目標燃空比相当量Tfbya=1.0(理論空燃比)に対するマッチングデータを用いて求めた平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを目標燃空比相当量Tfbyaが1.0でないときにもそのまま用いるのでは、Mfh(二点鎖線で示す)とMf(破線で示す)が図示のように変化し、したがって、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にはKathos(破線で示す)が不足して空燃比のオーバーリッチが生じることを前述した。
【0079】
これに対して先願装置では、目標燃空比相当量Tfbyaが1.2のときにはこの目標燃空比相当量Tfbyaにより平衡付着量Mfhが従来より1.2倍されており、目標燃空比相当量Tfbyaの1.0への切換時にステップ変化するMfh(実線で示す)に対して付着量Mf(一点鎖線で示す)が一次遅れで追いかけるため、過渡補正量Kathos(実線で示す)が従来と比較して斜線で示した面積の分だけ負の値で大きくなり、これにより目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリッチが避けられるともに、理論空燃比への切換が素早く行われている。
【0080】
同様にして、リーン空燃比から理論空燃比へと切換わるときなど大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時に、従来例では過渡補正量Kathosが不足して空燃比のオーバーリーンが生じるのであるが、目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして平衡付着量Mfhを演算する本実施形態では、大きい値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比のオーバーリーンを避けることができ、かつ理論空燃比への戻りが遅くなることがない。
【0081】
これで先願装置の説明を終える。
【0082】
一方、壁流燃料に低周波成分と高周波成分があり、低周波分に対する壁流補正量である上記のKathosだけでは高周波成分に対して対処不可能なため、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnを導入する場合に、特開平1−305144号、同3−111639号の各公報の装置のように、Chosnの演算にTfbyaを考慮していないことでも、出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時にChosnに不足を生じて一時的にオーバーリッチやオーバーリーンが生じることがわかった。
【0083】
これに対処するため本発明の第1実施形態では、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnを
ただし、Chosn1:1サイクル目のChosn
Kathos-1Ref:1サイクル前のKathos
Gztwc:増量ゲインGztwpまたは減量ゲインGztwm
A:低周波成分の1サイクル目の応答ゲイン
の式により計算し、最終的な同期噴射の燃料噴射パルス幅Tinを前記(7)式により求める。具体的には、先願装置に対して、図18のフローチャートと図16のステップD)、E)、F)を追加して設けている。
【0084】
ここでは、フローチャートの説明に入る前に、(11)式を理論的にどのようにして導いたのかを説明する。なお、図10のステップE)に示したように、Vmf=Kathosであるため、(11)式に代えて
Chosn1=(Vmf−Vmf-1Ref)×(Gztwc−1)/A …(12)
ただし、Vmf-1Ref:1サイクル前のVmf
の式を用いてもかまわない。ただし、以下では(11)式のほうで説明する。
【0085】
図21は燃料噴射量をステップ的に1だけ増やしたときの低周波成分の応答ゲインGL()、低周波成分と高周波成分を合わせた総応答ゲインG()と、Kathos、Chosn1の各壁流補正量の変化を示したものである。ただし、サイクル数の1はステップ変化1サイクル目であることを、またGL(1)は低周波成分の1サイクル目の応答ゲインを、G(1)は1サイクル目の総応答ゲインをそれぞれ表す。
【0086】
なお、(11)式をスッキリさせるため、低周波成分の1サイクル目の応答ゲインAを導入しており、GL(1)との間には図より
A=1−GL(1) …(13)
の関係が成立する。
【0087】
さて、図21において、低周波成分は1−Aの分だけが気流に乗ってシリンダに流入し、残りのAの分が吸気ポート壁や吸気弁に付着するので、低周波成分としてシリンダに1の燃料を流入させるには、
1:1−A=1+Kathos1:1 …(14)
ただし、Kathos1:1サイクル目のKathos
の比例関係が成立しなければならない。(14)式より
実際の燃料噴射では、噴射量1のうち1サイクル目の総応答ゲインG(1)の分だけが気流に乗ってシリンダに流入し、残りの1−G(1)の分が吸気ポート壁や吸気弁に付着するので、低周波成分と高周波成分を合わせた合計としてシリンダに1の燃料を流入させるには、
1:G(1)=1+(Kathos1+Chosn1):1 …(16)
ただし、Chosn1:1サイクル目のChosn
の比例関係が成立しなければならない。(16)式より
このように、図21に示すステップ変化によれば、ステップ変化1サイクル目の壁流補正量(Kathos1、Chosn1)を考えやすいわけであるが、実際の過渡では図22に示すようにAvtp、Mfhが常に連続的に変化している。そこで、図22において、変化途中のi+1サイクル目のKathosを
▲1▼i→i+1サイクルのMfhの変化に起因するもの:Kathosi→i+1
▲2▼iサイクルまでのMfhとMfの差で決まるもの:Kathosi
に分けて考えると、これらはそれぞれ
Kathosi→i+1=(Mfhi+1−Mfhi)×Kmf …(18)
Kathosi=(Mfhi−Mfi-1)×Kmf …(19)
Mfhi+1:i+1サイクル目のMfh
Mfhi:iサイクル目のMfh
Mfi-1:i−1サイクル目のMf
であるから、i+1サイクル目のKathosは
ただし、Kathosi+1:i+1サイクル目のKathos
となる。
【0088】
なお、上記の(6)式から類推すれば、
Vmfi=Kathosi=(Mfhi−Mfi)×Kmf
となり、Mfのサイクル数が(19)式と異なるようにも思えるが、(6)式は演算ルーチン上における式、(19)式は理論式であるため、両者が矛盾するものではない。
【0089】
(20)式をサイクル数で1つずらせて、iサイクル目のKathosは
ただし、Kathosi:iサイクル目のKathos
である。
【0090】
ここで、ステップ変化1サイクル目のときは、(21)式の第2項が不要となるため、これを省略し
Kathos1=(Mfh1−Mfh1-1)×Kmf …(22)
の式を得る。
【0091】
(22)式は、連続するMfhの変化を各サイクル毎の微小なステップ変化とみたてたことにより、そのステップ変化毎に必要となる1サイクル目(1回目)のKathosを得るものである。
【0092】
(22)式をさらに
の式に変形すると、(23)式の第1項は1サイクル目のKathosの演算式そのもの、(23)式の第2項は1−1サイクルでの(つまり1サイクル前の)Kathosの演算式で近似することができる。したがって、
Kathos1≒Kathos−Kathos-1Ref …(24)
ただし、Kathos-1Ref:1サイクル前のKathos
の式を得る。
【0093】
繰り返しになるが、(24)式において、右肩に1がついているKathosは、連続するMfhの変化を各サイクル毎の微小なステップ変化にみたてた際にステップ変化毎に必要となる1サイクル目の補正量であり、これに対して1がついてないKathos、Kathos-1Refは従来と同様に連続したMfhとMfの差から演算される値である。
【0094】
ここで、増量ゲインGztwpを
とおくと、(25)式よりG(1)=(1−A)/Gztwpであるから、これを(17)式に代入する。
【0095】
このようにして、上記(11)式(近似式)が得られた。
【0096】
(11)式によれば低周波成分に対する壁流補正量であるKathosの前サイクルからの変化量と低周波成分の1サイクル目の応答ゲインAとから高周波成分に対する壁流補正量であるChosn1が演算されるわけである。
【0097】
次に、低周波成分の1サイクル目の応答ゲインAの算出方法について述べる。
【0098】
MPI(マルチポイントインジェクション)における過渡時の燃料応答を、
燃料噴射弁7からの燃料噴射量:
ただし、Gfi(k):kサイクル目の燃料噴射量
Gfst0:定常噴射量
ΔGfst:定常噴射量の変化分
Tfbya:目標燃空比相当量
Gftr(k):kサイクル目の過渡補正量
A:低周波成分の応答ゲイン
Gfc(k):kサイクル目のシリンダ吸入燃料量
Gwf(k−1):k−1サイクル目の壁流燃料量
Δt:制御周期
τ:低周波成分の応答の時定数
の各基本式で表す。
【0099】
ここで、(31)式は今回新たに作成したモデルで、第1項の定常分と第2項の過渡補正分とに分けている。これに対して(32)式はH.Wuらが用いた簡易モデルで(1990年10月発行 自動車技術会論文集「燃料噴射機関における吸気ポート内燃料挙動の解析」第76頁参照)、壁流のシリンダ内吸入を一次遅れで表したものである(図23参照)。つまり、(32)式の第2項は、壁流燃料のうちΔt/τの割合の分がシリンダ内に流入することを表している。なお、(31)、(32)式においてGfst0、ΔGfst、Gftr(k)、Gfi(k)、Gwf(k−1)の単位は1サイクル当たりの燃料質量である。
【0100】
ここで、要求シリンダ吸入燃料量は
ただし、Gbc(k):kサイクル目の要求シリンダ吸入燃料量
であることより、このGbc(k)の燃料量がシリンダ内に吸入されるためには、Gbc(k)=Gfc(k)となればよいから、
この式をGftr(k)について整理する。
【0101】
(34)式に対して、
Gftr(k)→Kathosi
(A×τ/Δt)→Mfhtvo
(Gfst0+ΔGfst)→Avtp
Gwf(k−1)→Mfi-1
(1/(1−A))×Δt/τ→Kmf
の置き換えを行うと、(34)式は
となる。
【0102】
ここで、Mfhtvo×Kmfを計算してみると、
となることより、
となり、(38)式によれば、マッチングするまでもなく低周波分の応答ゲインAを計算することができることになった。
【0103】
なお、SPI(シングルポイントインジェクション)においては上記の(3)式に代えて
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya×CYLNDR…(3a)
ただし、CYLNDR:シリンダ数
の式を用いる。上記(3)式においてMfh、Mfhtvoは1気筒分であるため、全気筒分の燃料を同時に噴射供給するするSPIにおいては全気筒分のMfhを演算する必要があるわけである。また、SPIでは、(36)、(38)式に代えて、
の式を用いればよい。
【0104】
これで、ステップ変化1サイクル目の気筒別壁流補正量Chosn1の算出方法と低周波成分の応答ゲインAの算出方法の説明を終了し、フローチャートの説明に入る。
【0105】
まず、図18のフローチャートはChosn1を算出するためのもので、10ms毎に実行する。
【0106】
ステップA)では冷却水温Twを読み込む。なお、Chosn1の算出には、Tw以外に付着倍率Mfhtvo、分量割合Kmf、過渡補正量Kathos、1噴射前(1サイクル前)の過渡補正量を表すKathos-1Refが必要となるが、このうちMfhtvo、Kmf、Kathosは図10のフローにより得られている。また、Kathos-1Refは、図16のステップE)に示したように、噴射タイミングでKathosの値をKathos-1Refに移しておくことによって得られる。
【0107】
図18のステップB)では
ΔKathos=Kathos−Kathos-1Ref …(41)
ただし、Kathos-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のKathosの式により前回噴射からのKathos変化量であるΔKathosを計算し、このΔKathosと0を比較する。
【0108】
ΔKathos>0(加速時)であれば、ステップC)に進んで増量ゲインGztwpを求め、このGztwpをステップD)において水温補正ゲインGztwcに入れる。同様にして、ΔKathos<0(減速時)であるときは、ステップE)に進んで減量ゲインGztwmを求め、このGztwmをステップF)においてGztwcに入れる。ゲインGztwpとGztwmは水温補正を行うためのもので、冷却水温Twを用い補間計算付きで図19、図20を内容とするテーブルをそれぞれ参照する。
【0109】
ステップG)ではA/(1−A)の値を上記の(36)式により計算し、このA/(1−A)の値を、ステップH)において
1/A=1/{A/(1−A)}+1
の式の右辺に代入することにより左辺の1/Aの値を計算する。この1/Aの値とKathos、Kathos-1Ref、Gztwcの値を用い、ステップI)において、上記の(11)式によりChosn1を計算する。
【0110】
ステップJ)では全気筒分が終了したかどうかをみて、終了してなければ、ステップB)に戻って、ステップI)までを繰り返す。
【0111】
また、図16のステップD)ではChosn1に0を入れ、ステップE)、F)では次回処理のためKathosの値をKathos-1Refに、Avtpの値をAvtpoinに移す。
【0112】
ここで、上記(11)式によりChosn1を演算する場合の本発明の作用を図24を参照しながら説明する。
【0113】
低周波成分に対する壁流補正量であるKathosに加えて、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnを導入する場合に、図17と同じに出力空燃比域からの減速時で考えると、Chosnの演算に目標燃空比相当量Tfbya(目標空燃比)を考慮していない従来例では、特に、出力空燃比域からの減速時に、その減速に伴う空燃比の変化に応じられずにCHOSnが不足して一時的にオーバーリッチが発生する(最悪の場合にはリッチ失火が生じることもある)ことを前述した。
【0114】
これに対して本発明では、先願装置と同じに平衡付着量Mfhを目標燃空比相当量Tfbyaをもパラメータとして演算し、このMfhに基づいてKathosを演算するとともに、そのKathosとそのKathosを得たサイクルより1つ前のサイクルのKathosとの差と低周波成分の応答ゲインAから高周波成分に対する壁流補正量であるChosn1を演算するので、Chosn1が従来と相違してTfbyaの変化に応じた値となる。この結果、本発明のChosn1(実線参照)が従来のChosn(破線参照)より負の値で大きくなることから、出力空燃比域からの減速時に高周波成分に対する壁流補正量の不足に伴う一時的なオーバーリッチを防止できる。
【0115】
図示しないが、Tfbyaが大きな値へと切換わる場合も同様であり、リーン空燃比域からの加速時に高周波成分に対する壁流補正量の不足に伴う一時的なオーバーリーンを防止できる。
【0116】
このように、本発明ではChosn1がTfbyaに応じた値で設定されることから、壁流燃料のうちの低周波成分に対する壁流補正量に加えて高周波成分に対する壁流補正量を加えているものにおいても、Tfbyaの切換時(目標空燃比の切換時)に高周波成分に対する壁流補正量に過不足が生じることがないのである。
【0117】
また、従来の高周波成分に対する壁流補正量ではGztwp、Gztwmにより冷却水温Twに応じた補正を行うだけで、回転数や負荷に応じた補正を行っていないため、Gztwp、Gztwmを適合したときの回転数、負荷から離れたときには、高周波成分に対する壁流補正量が不適切となる。新たに回転補正項、負荷補正項を付加して適合するとなると、適合要素が増え、適合工数が増加するという問題が生じる。
【0118】
これに対して本発明の高周波成分に対する壁流補正量であるChosn1は、(11)式で示したようにエンジンの回転数と負荷に応じて変化するKathosに基づいて演算されるので、Chosn1も自動的にエンジンの回転数と負荷に対応した補正量となる。
【0119】
さらに、低周波成分の応答ゲインAについても、エンジンの回転数と負荷に応じた値となるので、Chosn1が回転域の相違に伴う高周波成分の挙動によく対応したものとなる。たとえば、負荷が同一の条件においても高回転時になると、低回転時より基準付着倍率回転項Mfhniが小さくなる(図13参照)ことより、付着倍率Mfhtvo(=Mfhqi×Mfhni)が低回転時より小さくなり、かつ低回転時より分量割合回転補正率Kmfnが若干小さくなる(図15参照)ことより、分量割合Kmf(=Kmfat×Kmfn)が低回転時より若干小さくなる。この結果、Mfhtvo×Kmf(=A/(1−A))が小さくなることからAが小さくなる。一般に高回転側のほうが1サイクル目の応答もその後の応答もよい(GL(1)、G(1)とも大きくなり、Gztwp(=GL(1)/G(1))は大きくは変わらない)ことから、Aが小さくなることによって高回転時に適切なChosn1が演算される。高回転域では、低周波成分の割合が小さくなるのに反して高周波成分が大きくなる現象に対応して、Chosn1が求められるのである。
【0120】
図25と図26のフローチャートは第2実施形態で、図25、図26はそれぞれ第1実施形態の図16、図18に対応する。第1実施形態とは図25のステップE1)と図26のステップH1)、I1)とが相違している。
【0121】
上記の(11)式が近似式であったのに対し、この実施形態は
の式(厳密式)によりChosn1を計算するようにしたものである。
【0122】
ここで、(51)式は次のようにして導いたものである。Kathos1を与える上記の(22)式に
ただし、Avtpoin:1噴射前(1サイクル前)のAvtp
Tfbya-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のTfbya
を代入すると、Kathos1は
となる。
【0123】
この(54)式を上記の(26)式に代入する。
【0124】
となり、上記(51)式が得られた。
【0125】
フローチャートでは第1実施形態と異なる部分を主に説明すると、図26のステップG)で求めたA/(1−A)の値を図26のステップH1)において
1/(1−A)=A/(1−A)+1 …(56)
の式の右辺により計算し、左辺の1/(1−A)の値を得る。ステップI1)ではこの1/(1−A)、Gztwc、Avtp、Avtpoin、Tfbya、Tfbya-1Refを用い上記(51)式によりChosn1を計算する。
【0126】
ここで、Tfbya-1Refは、図25のステップE1)においてTfbyaの値をTfbya-1Refに移しておくことによって得られる。
【0127】
第2実施形態では、Chosn1を求める式が近似式でないぶん目標空燃比の切換時の目標空燃比への制御精度が向上するものの、RAMが増加するので、あまり得策でない。実験した結果では、(11)の近似式でも目標空燃比への制御精度上、問題ないことを確認している。
【0128】
図27のフローチャートは第3実施形態、図30のフローチャートは第4実施形態で、それぞれ第1実施形態の図10に対応する。図10と相違するのは、第3実施形態においてステップB1)、B2)、第4実施形態においてステップB11)、B12)である。なお、図10と同一の部分には同一のステップ番号をつけて説明は省略する。
【0129】
図27の第2実施形態は、ステップB1)、B2)で目標燃空比相当量Tfbyaから図28を内容とするテーブルを参照してゲインMfhtfaを求め、このゲインMfhtfaを用いて
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Mfhtfa …(61)
の式により平衡付着量Mfhを、また図30の第4実施形態はステップB11)、B12)で目標燃空比相当量Tfbyaから図31を内容とするテーブルを参照してゲインMfhgaiを求め、このゲインMfhgaiを用いて
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya×Mfhgai…(62)
の式により平衡付着量Mfhをそれぞれ計算するようにしたものである。
【0130】
燃料噴射弁の取り付け位置、噴射方向、噴射量、吸気弁形状、吸気ポート形状など平衡付着量Mfhに影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性があるときには、たとえば図29や図32に示した平衡付着量Mfhの特性が要求されるのであるが、このときにまで目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhの特性を定めるのでは平衡付着量Mfhに過不足が生じることがある。これに対して、第3、第4の各実施形態では、一例を図29、図32に示したように、目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhを求める第1実施形態より目標燃空比相当量Tfbyaに応じたきめ細かい補正、適合が可能となるため、平衡付着量Mfhに影響を与える因子がエンジン機種毎に変わる可能性がある場合にも、目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にオーバーリッチやオーバーリーンを生じることがなく、目標燃空比相当量Tfbyaに比例させて平衡付着量Mfhを求める第1実施形態より目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の空燃比制御精度が向上する。
【0131】
図33、図34のフローチャートはそれぞれ第5、第6の各実施形態で、図33は第1実施形態の図18に、図34は第2実施形態の図26に対応する。なお、図18、図26と同一部分には同一のステップ番号をつけている。
【0132】
さて、上記のChosn1を用いて引き続き実験を行ってみたところ、加速後半で空燃比がややリーンに、また減速後半で空燃比がややリッチ側になり、過渡後半での空燃比制御性に改善の余地があることが判明した。
【0133】
これをTfbyaが一定の条件(たとえばNとAvtpがリーン運転領域や出力空燃比領域にあるとき)でアクセルペダルを踏み込んでの加速時で解析してみたところ、加速後半で空燃比がややリーンに傾くのは、図35、図36に示したようにKathosが加速初期に大きくその後に減少してゆく特性であることから、Kathosが減少に転じたタイミング以降(つまり加速後半)で、前回噴射からのKathosの変化量ΔKathos(=Kathos−Kathos-1Ref)が負となってChosn1も負の値で演算され、このChosn1による燃料減量が原因であろうと思われる。同様にして、減速時にKathosが増加に転じたタイミング以降(つまり減速後半)では、ΔKathosが正となってChosn1も正の値で演算され、このChosn1による燃料増量により空燃比がややリッチになるわけである。
【0134】
そこで、第5、第6の各実施形態では、加速後半と減速後半でChosn1の演算が禁止されるようにChosn1の演算禁止条件を設け、この演算禁止条件の成立時にChosn1の演算を禁止する(つまりChosn1=0とする)。具体的には、図33、図34に示したように、ステップL)〜P)を追加して設けている。このうちステップL)〜O)がChosn1の演算禁止条件の判定を行う部分で、ステップL)、M)ではKathosそのものの正負、ステップN)、O)では前回噴射からのKathosの変化量ΔKathosの正負を判定する。この判定結果より、
▲1▼Kathos>0かつΔKathos>0のとき、
▲2▼Kathos<0かつΔKathos<0のとき
はChosn1の演算禁止条件の不成立時と判断してそれぞれステップC)、D)に進ませ、それ以外のときにはChosn1の演算禁止条件の成立時と判断し、このときにはChosn1の演算を禁止するためステップP)でChosn1に0を入れるのである。
【0135】
したがって、Kathos>0である加速時にKathosが減少に転じた後ΔKathosが負より0に切換わったタイミングで、あるいはKathos<0である減速時にKathosが増加に転じたあとΔKathosが正から0に切換わったタイミングでそれぞれChosn1の演算禁止条件が成立する。なお、図36において▲1▼ab間、▲2▼cd間だけなく▲3▼bc間もChosn1の演算領域である。ただし、図33のフローチャートには▲1▼と▲2▼の場合だけに対応させたフローとしている。この結果、加速時であれば、図36に示したように、加速後半でChosn1の演算が許可されずChosn1=0となることから(実線参照)、加速後半で空燃比がややリーンに偏ることが避けられる。
【0136】
このようにして、第5、第6の各実施形態では、加速後半と減速後半でChosn1の演算が禁止されるようにChosn1の演算禁止条件を設けたので、加速後半や減速後半で空燃比がややリーンやリッチに偏ることがなく、これによって空燃比制御性が改善される。
【0137】
なお、第5、第6の各実施形態では
▲1▼Tfbyaが一定の条件でアクセルペダルを踏み込んでの加速時
で説明したが、
▲2▼アクセルペダルを踏み込みかつTfbyaが変化する場合(たとえばリーン運転領域から理論空燃比領域へと変化する場合)の加速時
にも適用がある。
【0138】
さらに、本発明では
▲3▼Avtpが一定(つまりΔAvtpn=0)でTfbyaだけが変化する場合が考えられる。この場合に、従来例と同じにΔAvtpnを用いて加速時(ΔAvtpn>0)であるのか減速時(ΔAvtpn<0)であるのかを判定し、その判定結果に応じてGztwp、Gztwmのいずれかを選択するのでは、ΔAvtpn=0よりGztwp、Gztwmのどちらを選択するのか判断がつかない。このため、第5実施形態では▲3▼の場合があることを考慮して、図33に示したようにKathos>0かつΔKathos>0の場合にGztwpを、Kathos<0かつΔKathos<0の場合にGztwmをそれぞれ選択させることにより、Avtpが一定でTfbyaだけが変化する場合にも、Gztwp、Gztwmのいずれかの選択を可能としている。同様にして、第6実施形態では、図34のステップB1)においてΔ|Avtp×Tfbya|と0を比較し、Δ|Avtp×Tfbya|>0のときはステップC)でGztwpを、Δ|Avtp×Tfbya|<0のときはステップE)でGztwmを選択させることにより、Avtpが一定でTfbyaだけが変化する場合にもGztwp、Gztwmのいずれかの選択を可能としている。
【0139】
実施形態では、出力空燃比から理論空燃比への切換時とリーン空燃比から理論空燃比への切換時で説明したが、これに限られるものでない。たとえば、冷間始動により水温増量補正係数Ktwが0でない正の値をもち、これによってリッチ側の空燃比で運転されている場合において、一刻も早く空燃比フィードバック制御を行うためO2センサが活性化したタイミングで空燃比フィードバック制御を開始するものがあり、このものでは、O2センサの活性化終了タイミングで水温増量補正係数Ktwを0に戻している。つまり、水温増量補正係数Ktwが0でない正の値から0へと切換わるときも、小さな値への目標燃空比相当量Tfbyaの切換時の一つであり、本発明の適用がある。また、アイドルスイッチのON状態とOFF状態とで始動後増量補正係数Kasの値を相違させているものがあり、この場合にアイドルスイッチをON状態からOFF状態へあるいはその逆へと変化させたとき目標燃空比相当量Tfbyaが切換わる。この目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも本発明の適用がある。理論空燃比から出力空燃比やリーン空燃比への切換時、リーン運転領域における目標燃空比相当量Tfbyaの切換時にも適用があることはいうまでもない。
【0140】
実施形態では付着倍率Mfhtvoを導入するもので説明したが、これに限らず、エンジン負荷、回転数、温度から直接に理論空燃比に対する平衡付着量を演算するものにも適用することができる。
【0141】
実施形態では平衡付着量Mfhと分量割合Kmfを求めるのに温度予測値Tfを用いる場合で説明したが、冷却水温Twを用いるものや特開平3−134237号公報のように壁流補正用温度Twfを用いるものにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の制御システム図である。
【図2】10msecジョブのフローチャートである。
【図3】バックグラウンドジョブのフローチャートである。
【図4】リーン条件の判定を説明するためのフローチャートである。
【図5】リーンマップの内容を示す特性図である。
【図6】非リーンマップの内容を示す特性図である。
【図7】180度ジョブのフローチャートである。
【図8】空燃比リッチ化変化速度Ddmlrの設定を説明するためのフローチャートである。
【図9】空燃比切換時のダンパ操作を説明するための波形図である。
【図10】過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図11】目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図12】Mfhq1マップの内容を示す特性図である。
【図13】Mfhn1テーブルの内容を示す特性図である。
【図14】Kmfatマップの内容を示す特性図である。
【図15】Kmfnテーブルの内容を示す特性図である。
【図16】噴射タイミングに同期するフローチャートである。
【図17】先願装置の作用を説明するための波形図である。
【図18】Chosn1の演算を説明するためのフローチャートである。
【図19】Gztwpテーブルの内容を示す特性図である。
【図20】Gztwmテーブルの内容を示す特性図である。
【図21】燃料噴射量をステップ的に1だけ増やしたときの低周波成分の応答ゲインGL()、高周波成分と低周波成分の合計の総応答ゲイン、Kathos、Chosnの各壁流補正量の変化を示す特性図である。
【図22】実際の過渡でのAvtp、Mfhの連続変化を示す波形図である。
【図23】H.Wuらが用いた簡易モデル図である。
【図24】第1実施形態の作用を説明するための波形図である。
【図25】第2実施形態の噴射タイミングに同期するフローチャートである。
【図26】第2実施形態のChosn1の演算を説明するためのフローチャートである。
【図27】第3実施形態の過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図28】第3実施形態のゲインMfhtfaの特性図である。
【図29】第3実施形態の目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図30】第4実施形態の過渡補正量Kathosの演算を説明するためのフローチャートである。
【図31】第4実施形態のゲインMfhgaiの特性図である。
【図32】第4実施形態の目標燃空比相当量Tfbyaに対する平衡付着量Mfhの特性図である。
【図33】第5実施形態のChosn1の演算を説明するためのフローチャートである。
【図34】第6実施形態のChosn1の演算を説明するためのフローチャートである。
【図35】過渡時のAvtp、Kathos、ΔKathosの各変化を示す波形図である。
【図36】第5、第6の各実施形態の加速時の作用を説明するための波形図である。
【図37】従来例の作用を説明するための波形図である。
【図38】従来例の作用を説明するための波形図である。
【図39】第1の発明のクレーム対応図である。
【図40】第2の発明のクレーム対応図である。
【図41】第7の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2 コントロールユニット
4 クランク角センサ
6 エアフローメータ
7 燃料噴射弁
Claims (14)
- 運転条件に応じた基本噴射量を演算する手段と、
目標燃空比相当量を運転条件に応じて演算する手段と、
この目標燃空比相当量、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算する手段と、
前記目標燃空比相当量で前記基本噴射量を補正する手段と、
この補正した基本噴射量の前回噴射からの変化量を演算する手段と、
この変化量と前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインとから壁流燃料に関する第2の壁流補正量を演算する手段と、
前記補正した基本噴射量と前記第1、第2の2つの壁流補正量とから燃料噴射量を演算する手段と、
この噴射量の燃料を所定のタイミング毎に吸気管に供給する手段と
設けたことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - 運転条件に応じた基本噴射量を演算する手段と、
目標燃空比相当量を運転条件に応じて演算する手段と、
この目標燃空比相当量、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて壁流燃料に関する第1の壁流補正量を演算する手段と、
この壁流燃料に関する第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量を演算する手段と、
この変化量と前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインとから壁流燃料に関する第2の壁流補正量を演算する手段と、
前記目標燃空比相当量で前記基本噴射量を補正する手段と、
この補正した基本噴射量と前記第1、第2の2つの壁流補正量とから燃料噴射量を演算する手段と、
この噴射量の燃料を所定のタイミング毎に吸気管に供給する手段と
設けたことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - 加速後半で前記第2の壁流補正量の演算が禁止されるように前記第2の壁流補正量の演算禁止条件を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記加速後半は、前記第1の壁流補正量が正かつ前記第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量が正となる条件であることを特徴とする請求項3に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 減速後半で前記第2の壁流補正量の演算が禁止されるように前記第2の壁流補正量の演算禁止条件を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記減速後半は、前記第1の壁流補正量が負かつ前記第1の壁流補正量の前回噴射からの変化量が負となる条件であることを特徴とする請求項5に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記第1の壁流補正量を演算する手段は、前記目標燃空比相当量、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を演算する手段と、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて分量割合を演算する手段と、前記平衡付着量とその時点での付着量との差を演算する手段と、この差の付着量と前記分量割合とに基づいて付着速度を演算する手段と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記付着速度を今回噴射前の前記付着量に加算することにより付着量を更新する手段と、前記付着速度を前記第1の壁流補正量として設定する手段とからなることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率と前記目標燃空比相当量と前記基本噴射量の積により求めることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記目標燃空比相当量に対する平衡付着量を、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいて演算した理論空燃比に対する平衡付着倍率と前記基本噴射量と前記目標燃空比相当量をパラメータとする値であるゲインとの積により求めることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記ゲインは、前記目標燃空比相当量がリッチ側の空燃比を与える場合とリーン側の空燃比を与える場合とで異なる値を持つ所定値と前記目標燃空比相当量との積からなることを特徴とする請求項9に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記平衡付着倍率は回転項を含むことを特徴とする請求項8から10までのいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインは前記平衡付着倍率に応じた値であることを特徴とする請求項11に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記平衡付着倍率は回転項を含み、かつ前記分量割合は回転補正率を含むことを特徴とする請求項8から10までのいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記第1の壁流補正量に対する壁流燃料の応答ゲインは前記平衡付着倍率と前記分量割合の積であることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの空燃比制御装置。
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