JP3673332B2 - 地下室構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は地下室構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、地下は地上と比べて温度変化が少ないので夏は涼しく冬は暖かい。また、周囲は土で囲まれており遮音性が高く、音が漏れにくく、外からの音も入りにくいので静寂な空間となり得る。このような快適住空間として、一般住宅においても地下室が注目されている。
【0003】
従来の地下室構造として、特公昭62-43013号公報に記載の如く、コンクリート製土留壁と底部とにより区画される地下ピットに、多層階建物の地下躯体を埋設するものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
然しながら、従来の地下室付き多層階建物では、地下躯体に地震力等に基づく大きな層剪断力(水平力)が作用する(図8)。即ち、地下躯体に作用する層剪断力(設計用地震力)QB は、地階に作用する地震力の大きさということになるが、地階の地震力QB は、地階の層剪断力係数CB ((1) 式)に、最上階から地階までの建物重量の総和Wを乗じて求められる。
【0005】
CB =Z・Rt ・AB ・C0 ……(1)
QB =CB ・W ……(2)
【0006】
但し、QB :地階の層剪断力(設計用地震力)
CB :地階の層剪断力係数
W :最上階から地階までの建物重量の総和
Z :地震地域係数
Rt :地盤の特性及び建物の固有周期に応じて決まる振動特性係数
AB :層剪断力係数の高さ方向の分布を表わす係数
C0 :標準層剪断力係数
【0007】
従って、地下室付き多層階建物では、地下躯体に大きな層剪断力が作用するため、地下躯体の柱を大断面にすると、地下躯体に大きな水平剛性を確保する必要がある。
【0008】
本発明の課題は、土留壁と底部とにより区画された地下ピットに、多層階建物の地下躯体を設置するに際し、地下躯体に確保すべき構造強度を軽減可能とすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の本発明は、土留壁と底部とにより区画された地下ピットに、多層階建物の地下躯体を設置してなる地下室構造において、地下躯体と土留壁との間にそれらの高さ方向全長に亘る空間部を設け、建物を地表相当部のみで土留壁に接続してなるようにしたものである。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の本発明において更に、前記土留壁に接続される建物の地表相当部が地下躯体の上端部まわりであるようにしたものである。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の本発明において更に、前記建物の地表相当部が、土留壁に植設されたアンカーに、接合プレートを介して接続されてなるようにしたものである。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の本発明において更に、前記地下躯体が建物ユニットにて構成されてなるようにしたものである。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の本発明において更に、前記地下ピットを環状に囲む土留壁の上端部に、該土留壁の倒れ込みを防止する倒れ込み防止部が設けられてなるようにしたものである。
【0014】
請求項6に記載の本発明は、請求項5に記載の本発明において更に、前記建物の地表相当部が前記土留壁の倒れ込み防止部に接続されてなるようにしたものである。
【0015】
請求項7に記載の本発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の本発明において更に、前記土留壁が前記底部を設ける地中を掘削するときの矢板を兼ねるようにしたものである。
【0016】
【作用】
請求項1、2に記載の本発明によれば下記(1)の作用がある。
(1)建物を地表相当部(地下躯体の上端部まわり等)のみで、地盤と一体の土留壁に接続したので、地下躯体は土留壁を介して地盤と同じ変位をするものとなり、地震力等に基づく層剪断力(水平力)が発生しない。即ち、地下躯体に層剪断力が作用しないため、地下躯体は水平力に対する剛性を確保することの考慮なしに、上階からの軸力負担のみを考慮して、柱の断面等の構造強度を決定できる。
【0017】
従って、構造強度の設計条件において、軸力に対する剛性確保よりも、水平力に対する剛性確保の条件の方が厳しい、低層建物等にあっては、本発明により地下躯体の柱を合理的な小断面に決定できる。
【0018】
請求項3に記載の本発明によれば下記(2)の作用がある。
(2)建物の地表相当部(地下躯体の上端部まわり等)が、土留壁に植設されたアンカーに、接合プレートを介して接続されるものとした。従って、建物の地表相当部(地下躯体の上端部まわり等)と土留壁とを簡易に接続できる。
【0019】
請求項4に記載の本発明によれば下記(3)の作用がある。
(3)地下躯体を建物ユニットとすることにより、地下室用建物ユニットの柱を合理的な小断面とし、該建物ユニットの構造強度を軽減できる。
【0020】
請求項5に記載の本発明によれば下記(4)の作用がある。
(4)地下ピットを環状に囲む土留壁の上端部に、該土留壁の倒れ込みを防止する倒れ込み防止部を設けた。従って、互いに対向する土留壁間に、倒れ込み防止のスラブや梁を架け渡すことなく、土留壁の構造強度を向上できる。従って、土留壁は大きな地震力等に対しても崩壊の虞れなく、地盤と同じ変位を行ない、結果として、地下躯体はこの土留壁を介して確実に地盤と同じ変位を行ない、地震力等に基づく層剪断力を発生させるところがない。
【0021】
請求項6に記載の本発明によれば下記(5)の作用がある。
(5)建物の地表相当部(地下躯体の上端部まわり等)が土留壁の倒れ込み防止部に接続される。従って、建物の地表相当部(地下躯体の上端部まわり等)の土留壁に対する接続部分が、倒れ込み防止部として補強されており、その接続強度を安定維持できる。
【0022】
請求項7に記載の本発明によれば下記(6)の作用がある。
(6)土留壁が地下ピットの底部を設ける地中を掘削するときの矢板を兼ねるので、矢板が不要となる。従って、地下ピットを設けるための地中掘削時の矢板を用いる山止め工事、地下ピット完成後の矢板の撤去及び土の埋め戻しが不要となり、現場の作業効率が良好となる。このように作業効率を向上させることで、地中掘削後に地下室の躯体の構築までにかかる時間を短縮することができるので、近隣建物などへの不同沈下の悪影響を回避することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1は地下室付建物の構築状態の一例を示す模式図、図2は地下ピットの施工手順の一例を示す模式図、図3は土留壁の一例を示す模式図、図4は建物ユニットの一例を示す模式図、図5は地下躯体の土留壁への接続構造の一例を示す模式図、図6は接合プレートの一例を示す模式図、図7は地下ピットの施工手順の他の例を示す模式図、図8は多層階建物における地階層剪断力の発生原理を示す模式図である。
【0024】
図1の建物は、地下室付多層階ユニット建物10であり、ユニット建物10は、工場生産された複数の建物ユニット11を、施工現場に予め構築された地下ピット20に設けた基礎1及び地盤表面に設けた基礎2の上で、上下左右に隣接設置したものである。
【0025】
建物ユニット11は、図4に示す如く、例えば箱型の骨組構造体であり、本実施形態では、4本の形鋼製床梁12と、4本の角鋼管製柱13と、4本の形鋼製天井梁14を接合した骨組構造体である。そして、建物ユニット11は、その骨組構造体に床面材、天井面材、壁面材、窓等を取付けて生産される。
【0026】
地下ピット20は土留壁21と床版22(底部)とにより区画形成さる。そして、建物ユニット11である地下躯体11Aがこの地下ピット20に設置される。
【0027】
ここで、地下ピット20は以下の如くに構築される。(図2)
(1) 地盤のうち、土留壁21が位置することとなる地中部分23Aが掘削される(図2(A))。
【0028】
(2) 地中部分23Aに防水シート24を敷き込む(図2(B))。この防水シート24は、後述するコンクリート打設時に、その水分が地中に浸出するのを防止するとともに、掘削箇所(地中部分23A)の表面を保護する。
【0029】
(3) 掘削箇所(地中部分23A)に、地上から鉄筋等の構造材25を配設する(図2(C))。
【0030】
(4) 構造材25の姿勢を安定化させながら、コンクリート26を掘削箇所(地中部分23A)に注入してコンクリートの打設を行なう(図2(D))。コンクリート26及び構造材25は、土留壁21を構成し、上述の如くにより、掘削箇所(地中部分23A)に埋設されて据付けられる。
【0031】
(5) コンクリート26が完全に固化した後、土留壁21に包囲された地中部分23Bを掘削する(図2(E))。このとき、掘削底面27を土留壁21の下端部21Aより上方に設定する。これは、掘削によって形成された地中空間28への土留壁21の倒れ込みを、掘削底面27より下方の土の支持により防止するためである。
【0032】
(6) 地中空間28の掘削底面27に地下ピット20の床版22を設置する。床版22は、地下躯体11Aのための前述した基礎1を備えるとともに、この地下躯体11Aのための基礎1と土留壁21との間に排水路22A(排水部)を備える。床版22は、工場生産されたPC版であるが、現場打設のコンクリート或いは工場生産された軸組版であっても良い。
【0033】
土留壁21と床版22は、図3に示す如くであり、地下ピット20を環状に囲む土留壁21の上端部には、各土留壁21が互いに協働して地中空間28への倒れ込みを阻止する倒れ込み防止部としての犬走り(バーム)29を備える。犬走り29は、構造的にはリブとして機能する。犬走り29の上端面は地表面(GL)より上位に設定され、地中空間28への土砂の落下を極力防止する。
【0034】
尚、土留壁21は、前述の地下ピット施工手順の(5) で床版22を設置するための地中部分23Bを掘削するときの矢板を兼ねる。
【0035】
然るに、地下躯体11Aは地下ピット20に以下の如く据付けられる(図1、図5、図6)。
(1)建物ユニット11からなる地下躯体11Aに予め工場生産段階で外壁材30が取付けられる。そして、この地下躯体11Aを地下ピット20内に吊下げ、地下躯体11Aをスペース31で示す、高さ方向全長に亘る空間部により土留壁21と離して床版22上の位置に配置する(図1)。
【0036】
(2) 地下躯体11Aが床版22上の基礎1に設けたアンカーボルトに固定されたとき、土留壁21と地下躯体11Aの間の床版22に前述の排水溝22Aが位置するものとなる。
【0037】
(3) 地下躯体11Aの上端部と土留壁21の上端部とが接合プレート40により接続される。接合プレート40は、具体的には図5、図6に示す如く、(a) 地下躯体11Aの柱13の上端面と上階建物ユニット11Bの柱13の下端面との間に挟まれ、地下躯体11Aの柱13の上端面に突設されていて上階建物ユニット11Bの柱13の下端面のガイド孔41Bに挿入されるガイドピン41Aに係入せしめられ、地下躯体11Aの上端部にその一端を接続されるとともに、(B) 土留壁21の前述した犬走り(倒れ込み防止部)の上端面に植設されているアンカーボルト42にその他端を接続される。
【0038】
図6は、相隣なる2個の地下躯体11A、11Aを1枚の接合プレート40により土留壁21の上端部に接続した例である。
【0039】
尚、ユニット建物10にあっては、ユニット建物10を地表相当部のみで土留壁21に接続するものであれば良く、土留壁21に接続される建物10の地表相当部としては、地下躯体11Aの上端部回りの他、上階建物ユニット11Bの下端部回りであっても良い。
【0040】
図7は、上述した地下ピット20の他の構築方法(ソイルミキシング法)を示すものである。図7では、(1) 土留壁21が位置することとなる地中部分23Aを掘削しながら、その掘削土砂にソイルミキシングセメントを攪拌混合し、このソイルミキシングセメントの固化により土留壁21を形成する(図7(A))。このとき、土留壁21の上端部は、倒れ込み防止部としての犬走り29を備える。次に、(2) 土留壁21に包囲された地中部分23Bを掘削し、地中空間28を形成する(図7(B))。最後に、(3) 地中空間28の掘削底面27に床版22を設置し、地下ピット20を形成する。
【0041】
以下、本実施形態の作用について説明する。
(1)建物10を地表相当部(地下躯体11Aの上端部まわり等)のみで、地盤と一体の土留壁に接続したので、地下躯体11Aは土留壁21を介して地盤と同じ変位をするものとなり、地震力等に基づく層剪断力(水平力)が発生しない。即ち、地下躯体11Aに層剪断力が作用しないため、地下躯体11Aは水平力に対する剛性を確保することの考慮なしに、上階からの軸力負担のみを考慮して、柱の断面等の構造強度を決定できる。
【0042】
従って、構造強度の設計条件において、軸力に対する剛性確保よりも、水平力に対する剛性確保の条件の方が厳しい、低層建物10等にあっては、本発明により地下躯体11Aの柱13を合理的な小断面に決定できる。
【0043】
(2)建物10の地表相当部(地下躯体11Aの上端部まわり等)が、土留壁21に植設されたアンカーボルト42、接合プレート40を介して接続されるものとした。従って、建物10の地表相当部(地下躯体11Aの上端部まわり等)と土留壁21とを簡易に接続できる。
【0044】
(3)地下躯体11Aを建物ユニット11とすることにより、地下室用建物ユニット11の柱13を合理的な小断面とし、該建物ユニット11の構造強度を軽減できる。
【0045】
(4)地下ピットを環状に囲む土留壁21の上端部に、該土留壁21の倒れ込みを防止する犬走り29(倒れ込み防止部)を設けた。従って、互いに対向する土留壁21間に、倒れ込み防止のスラブや梁を架け渡すことなく土留壁21の構造強度を向上できる。従って、土留壁21は大きな地震力等に対しても崩壊の虞れなく、地盤と同じ変位を行ない、結果として、地下躯体11Aはこの土留壁21を介して確実に地盤と同じ変位を行ない、地震力等に基づく層剪断力を発生させるところがない。
【0046】
(5)建物10の地表相当部(地下躯体11Aの上端部まわり等)が土留壁21の犬走り29(倒れ込み防止部)に接続される。従って、建物10の地表相当部(地下躯体11Aの上端部まわり等)の土留壁21に対する接続部分が、犬走り29(倒れ込み防止部)として補強されており、その接続強度を安定維持できる。
【0047】
(6)土留壁21が地下ピットの底部を設ける地中を掘削するときの矢板を兼ねるので、矢板が不要となる。従って、地下ピットを設けるための地中掘削時の矢板を用いる山止め工事、地下ピット完成後の矢板の撤去及び土の埋め戻しが不要となり、現場の作業効率が良好となる。このように作業効率を向上させることで、地中掘削後に地下室の躯体の構築までにかかる時間を短縮することができるので、近隣建物10などへの不同沈下の悪影響を回避することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明の地下室構造は、ユニット建物に限らず、広く一般の建物に適用できる。
【0050】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、土留壁と底部とにより区画された地下ピットに、多層階建物の地下躯体を設置するに際し、地下躯体に確保すべき構造強度を軽減可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は地下室付建物の構築状態の一例を示す模式図である。
【図2】図2は地下ピットの施工手順の一例を示す模式図である。
【図3】図3は土留壁の一例を示す模式図である。
【図4】図4は建物ユニットの一例を示す模式図である。
【図5】図5は地下躯体の土留壁への接続構造の一例を示す模式図である。
【図6】図6は接合プレートの一例を示す模式図である。
【図7】図7は地下ピットの施工手順の他の例を示す模式図である。
【図8】図8は多層階建物における地階層剪断力の発生原理を示す模式図である。
【符号の説明】
10 ユニット建物(建物)
11 建物ユニット
11A 地下躯体
20 地下ピット
21 土留壁
22 床版(底部)
29 犬走り(倒れ込み防止部)
40 接合プレート
42 アンカーボルト(アンカー)
Claims (7)
- 土留壁と底部とにより区画された地下ピットに、多層階建物の地下躯体を設置してなる地下室構造において、
地下躯体と土留壁との間にそれらの高さ方向全長に亘る空間部を設け、
建物を地表相当部のみで土留壁に接続してなることを特徴とする地下室構造。 - 前記土留壁に接続される建物の地表相当部が地下躯体の上端部まわりである請求項1記載の地下室構造。
- 前記建物の地表相当部が、土留壁に植設されたアンカーに、
接合プレートを介して接続されてなる請求項1又は2記載の地下室構造。 - 前記地下躯体が建物ユニットにて構成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の地下室構造。
- 前記地下ピットを環状に囲む土留壁の上端部に、該土留壁の倒れ込みを防止する倒れ込み防止部が設けられてなる請求項1〜4のいずれかに記載の地下室構造。
- 前記建物の地表相当部が前記土留壁の倒れ込み防止部に接続されてなる請求項5記載の地下室構造。
- 前記土留壁が前記底部を設ける地中を掘削するときの矢板を兼ねる請求項1〜6のいずれかに記載の地下室構造。
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