JP3670879B2 - リチウム二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、正極と負極と非水電解質とを備えたリチウム二次電池に係り、特に、この正極又は負極に用いられる活物質を改良し、リチウム二次電池における充放電サイクル特性を向上させた点に特徴を有するものである
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器等の様々な分野において二次電池が利用されるようになり、特に、高出力,高エネルギー密度の新型電池として、リチウム二次電池が注目されており、このリチウム二次電池について従来より様々な開発が行われている。
【0003】
そして、このようなリチウム二次電池における充放電サイクル特性を向上させるため、特開平8−241707号公報に示されるように、負極の活物質に、あらかじめリチウム化した三酸化タングステン等の酸化物を用いるようにしたものが提案されている。
【0004】
ここで、上記の三酸化タングステンは、J.Guo,Y.J.Li and
M.S.Whittingham,J.Power.Sources.,54,461(1995)に示されているように、その結晶構造の安定性が低く、このような三酸化タングステンをリチウム二次電池における負極の活物質に用いた場合、この三酸化タングステンの結晶構造が変化してリチウムを吸蔵・放出する能力が低下し、依然としてリチウム二次電池における充放電サイクル特性を十分に向上させることができないという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、正極と負極と非水電解質とを備えたリチウム二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、この正極又は負極に用いる活物質を改良して、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようにすることを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明の請求項1におけるリチウム二次電池においては、上記のような課題を解決するために、正極と負極と非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、上記の正極又は負極の活物質に、MX W1-X OY (式中、Mは、Cu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属元素からなり、0<X<0.46,2.5≦Y≦3.5の条件を満たす。)の組成式で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いるようにしたのである。
【0007】
ここで、上記の組成式に示す複合酸化物中に含まれるCu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される金属元素Mは、何れも酸素原子Oと分解温度が1000℃以上の安定な化合物を形成することが、文献(Binary Alloy Phase Diagrams,(1986),American Society for MetalsのM−O二元状態図)において示されている。
【0008】
そして、このような金属元素Mを三酸化タングステンに加えて、上記の請求項1に示す組成式の複合酸化物を得ると、この複合酸化物が三酸化タングステンと同様の単斜晶系の結晶構造を有すると共に、上記の金属元素Mが三酸化タングステンの結晶格子の一部を占有して酸素原子Oと比較的強く化学結合し、この複合酸化物の結晶構造が安定する。
【0009】
このため、請求項1に示すように、上記の組成式に示す複合酸化物をリチウム二次電池の正極や負極の活物質に使用した場合、この複合酸化物の結晶構造が変化してリチウムを吸蔵・放出する能力が低下するのが抑制され、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようになる。
【0010】
また、請求項2に示すように、MX W1-X OY (式中、Mは、Cu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属元素からなり、0.02≦X≦0.45,2.5≦Y≦3.5の条件を満たす。)の組成式で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物を正極や負極の活物質に使用すると、複合酸化物の結晶構造がさらに安定になって、さらに優れた充放電サイクル特性を有するリチウム二次電池が得られるようになる。
【0011】
なお、上記のように酸素原子Oと安定性の高い化合物を形成する他の元素、例えば、Cd,La,Ce,Sm,Mo等を前記の複合酸化物中における金属元素Mとして用いた場合においても、リチウム二次電池における充放電サイクル特性を向上させる効果が期待できる。
【0012】
ここで、この発明におけるリチウム二次電池において、前記の組成式で表される複合酸化物を正極の活物質に用いた場合、負極の活物質としては、リチウム二次電池において一般に使用されている材料を用いることができ、例えば、Liを電気化学的に吸蔵放出できる天然黒鉛,人造黒鉛,コークス,有機物焼成体等の炭素材料や、Li−Al合金,Li−Mg合金,Li−In合金,Li−Al−Mn合金等のLi合金や、Li金属を使用することができる。しかし、負極の活物質にLi合金やLi金属を用いた場合、充放電に伴って樹枝状のデンドライト結晶が成長して、電池内部でショートするおそれが生じるため、請求項3に示すように、負極の活物質に炭素材料を用いることが好ましい。
【0013】
また、この発明におけるリチウム二次電池において、前記の組成式で表される複合酸化物を負極の活物質に用いた場合、正極の活物質としては、リチウム二次電池において一般に使用されている材料を用いることができ、この正極の活物質として、請求項4に示すように、LiCoO2 ,LiNiO2 ,LiMn2 O4 ,LiMnO2 ,LiCo0.5 Ni0.5 O2 ,LiNi0.7 Co0.2 Mn0.1 O2 ,LiCo0.9 Ti0.1 O2 ,LiCo0.5 Ni0.4 Zr0.1 O2 等のLi含有遷移金属複合酸化物を用いると、充電電圧が約1.9V、放電電圧が約1.1Vのリチウム二次電池が得られる。
【0014】
ここで、前記の組成式で表される複合酸化物を正極の活物質に用いる場合と、負極の活物質に用いる場合とを比較すると、前記の組成式で表される複合酸化物を正極の活物質に用いた場合、充電電圧が高くなって非水電解質の分解が生じやすくなるため、リチウム二次電池における負極の活物質に前記の組成式で表される複合酸化物を用いることが好ましい。
【0015】
また、この発明におけるリチウム二次電池において、その正極や負極の活物質に用いる前記の組成式で表される複合酸化物は、この複合酸化物を構成する元素の単体や、その元素を含む化合物や、これらの混合物を焼成することにより合成することができる。
【0016】
ここで、これらを焼成する温度が、400℃未満では上記の金属元素Mが三酸化タングステンの結晶格子中に十分に拡散しないおそれがある一方、1400℃を超えた高温では、前記の文献(Binary Alloy Phase Diagrams,Vol.2,p1798(1986),American Society for Metals)におけるW−O二元状態図に示されるように、焼成体が融解してしまい、これを室温まで冷却すると、この複合酸化物の組成が不均一な状態になり、このような複合酸化物をリチウム二次電池における正極や負極の活物質に用いた場合、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を十分に向上させることが困難になる。このため、請求項5に示すように、400℃以上,1400℃以下の温度で焼成させて得た上記の組成式に示される複合酸化物を用いることが好ましく、さらに請求項6に示すように、600℃以上,1200℃以下の温度で焼成させて得た上記の組成式に示される複合酸化物を用いることがより好ましい。
【0017】
なお、この発明におけるリチウム二次電池は、前記の組成式で表される複合酸化物を正極や負極の活物質に用いることを特徴とするものであり、このリチウム二次電池に使用する非水電解質については特に限定されず、リチウム二次電池において一般に使用されている公知のものを用いることができる。
【0018】
そして、このような非水電解質としては、有機溶媒に溶質を溶解させた非水電解液や固体電解質を用いることができる。
【0019】
ここで、非水電解液に用いる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステルや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボート等の鎖状炭酸エステルや、スルホラン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の溶媒を単独若しくは2種以上混合させて用いることができる。
【0020】
また、上記の有機溶媒に溶解させる溶質としては、例えば、LiPF6 ,LiBF4 ,LiCF3 SO3 ,LiN(CF3 SO2 )2 ,LiN(C2 F5 SO2 )2 ,LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ),LiC(CF3 SO2 )3 ,LiC(C2 F5 SO2 )3 等のリチウム化合物を用いることができる。
【0021】
また、固体電解質としては、ポリエチレンオキシド,ポリアクリロニトリル等のポリマーに上記の溶質を含有させたポリマー電解質や、上記のポリマーに上記の非水電解液を含浸させたゲル状のポリマー電解質や、LiI,Li3 N等の無機固体電解質を用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下、この発明に係るリチウム二次電池について実施例を挙げて具体的に説明すると共に、この実施例におけるリチウム二次電池においては、正極や負極における活物質の安定性が高まって充放電サイクル特性が向上することを、比較例を挙げて明らかにする。なお、この発明に係るリチウム二次電池は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0023】
(実施例1)
この実施例においては、正極と負極とを下記のようにして作製すると共に、非水電解液を下記のようにして調製し、図1に示すような扁平型のリチウム二次電池を作製した。
【0024】
[正極の作製]
正極を作製するにあたっては、それぞれ純度が99.9%以上になったCuCO3 とWとWO3 の各試薬を用い、Cu:W:Oの原子比が0.2:0.8:3になるように秤量した後、これらを乳鉢で混合し、この混合物を直径17mmの金型を用いて115kg/cm2 の圧力で圧縮して成形し、これを酸素ガスと窒素ガスとを体積比2:3の割合で混合した混合ガス雰囲気下において、1000℃の温度で10時間焼成してCu0.2 W0.8 O3 の焼成体を得た。次いで、このCu0.2 W0.8 O3 の焼成体を乳鉢で粉砕して平均粒径10μmになったCu0.2 W0.8 O3 の粉末を正極活物質として用いるようにした。なお、このようにして得たCu0.2 W0.8 O3 の粉末をX線回折により分析したところ、三酸化タングステンと同様の単斜晶系の結晶構造を有していた。
【0025】
そして、このCu0.2 W0.8 O3 の粉末と、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末とを85:10:5の重量比になるように混合し、この混合物にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えてスラリー化させ、このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面にドクターブレード法により塗布し、これを150℃で乾燥させた後、これを打ち抜いて直径が17mm、厚みが1.0mmの円板状になった正極を得た。
【0026】
そして、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1の体積比で混合した混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 を1mol/lの割合で溶解させた電解液中において、上記のようにして作製した正極とLi金属とをポリプロピレン製の微多孔膜を介して配置させ、この状態で100μAの定電流で1.6V(vs.Li/Li+ )まで電解させて、上記の正極中にLiを挿入させた。
【0027】
[負極の作製]
負極を作製するにあたっては、負極活物質に天然黒鉛粉末を用い、この天然黒鉛粉末と結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを95:5の重量比になるように混合させ、この混合物にNMP溶液を加えてスラリー化させ、このスラリーを厚さ20μmの銅箔からなる負極集電体の片面にドクターブレード法により塗布し、これを150℃で乾燥させた後、これを打ち抜いて直径が17mm、厚みが1.0mmの円板状になった負極を作製した。
【0028】
[非水電解液の調製]
非水電解液を調製するにあたっては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1の体積比で混合させた混合溶媒に、溶質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 を1mol/lの割合で溶解させて非水電解液を調製した。
【0029】
[電池の作製]
電池を作製するにあたっては、図1に示すように、上記のようにして作製した正極1と負極2との間に、セパレータ3としてポリプロピレン製の微多孔膜に上記の非水電解液を含浸させたものを介在させ、これらを正極缶4aと負極缶4bとで形成される電池ケース4内に収容させ、正極集電体5を介して正極1を正極缶4aに接続させる一方、負極集電体6を介して負極2を負極缶4bに接続させ、この正極缶4aと負極缶4bとをポリプロピレン製の絶縁パッキン7によって電気的に絶縁させてリチウム二次電池を得た。
【0030】
(実施例2〜7)
実施例2〜7においては、上記の実施例1における正極の作製において使用した正極活物質の種類だけを変更させ、下記の表1に示すように、正極活物質として、実施例2においてはV0.2 W0.8 O3 の粉末を、実施例3においてはCr0.2 W0.8 O3 の粉末を、実施例4においてはMn0.2 W0.8 O3 の粉末を、実施例5においてはFe0.2 W0.8 O3 の粉末を、実施例6においてはCo0.2 W0.8 O3 の粉末を、実施例7においてはNi0.2 W0.8 O3 の粉末を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、各リチウム二次電池を作製した。なお、上記の各正極活物質の粉末をX線回折により分析したところ、上記のCu0.2 W0.8 O3 の粉末と同様に、三酸化タングステンと同様の単斜晶系の結晶構造を有していた。
【0031】
(比較例1)
比較例1においては、上記の実施例1における正極の作製において使用した正極活物質の種類だけを変更させ、下記の表1に示すように、正極活物質としてWO3 を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0032】
次に、上記のようにして作製した実施例1〜7及び比較例1の各リチウム二次電池を、それぞれ25℃の温度雰囲気下において、充電電流100μAの定電流で充電終止電圧2.4Vまで充電した後、放電電流100μAの定電流で放電終止電圧1.2Vまで放電し、これを1サイクルとして、50サイクルの充放電試験を行い、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定し、容量維持率(%)として、1サイクル目の放電容量Q1に対する50サイクル目の放電容量Q50の比率[(Q1/Q50)×100]を求め、その結果を下記の表1に合わせて示した。なお、実施例1〜7及び比較例1の各リチウム二次電池においては、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧が約1.6Vであった。
【0033】
【表1】
【0034】
この結果から明らかなように、正極活物質として、M0.2 W0.8 O3 (MはCu,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni)を用いた実施例1〜7の各リチウム二次電池は、正極活物質としてWO3 を用いた比較例1のリチウム二次電池に比べて、容量維持率が遥かに高くなっており、充放電サイクル特性が著しく向上していた。
【0035】
(実施例8〜13及び比較例2)
実施例8〜13及び比較例2においては、正極活物質として、CuX W1-x O
2 で表されるCuとWとの複合酸化物におけるCuとWとのモル比を変更させたものを用いるようにし、下記の表2に示すように、実施例8においてはCu0.02W0.98O3を、実施例9においてはCu0.05W0.95O3 を、実施例10においてはCu0.1W0.9 O3 を、実施例11おいてはCu0.3 W0.7 O3を、実施例12においてはCu0.4 W0.6 O3 を、実施例13においてはCu0.45W0.55O3を用いる一方、比較例2においてはCu0.47W0.5 O3 を用い、それ以外については、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例8〜13及び比較例2の各リチウム二次電池を作製した。
【0036】
そして、これらの実施例8〜13及び比較例2の各リチウム二次電池についても、上記の実施例1〜7の場合と同様にして、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定して、各リチウム二次電池における容量維持率(%)を求め、その結果を、上記の実施例1の結果と合わせて下記の表2及び図2に示した。また、実施例8〜13及び比較例2の各リチウム二次電池においても、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧はそれぞれ約1.6Vであった。
【0037】
【表2】
【0038】
この結果から明らかなように、正極活物質に用いるCuとWとの複合酸化物中におけるCuのモル比(X)を0.45以下の範囲にした実施例1,8〜13の各リチウム二次電池は、CuとWとの複合酸化物中におけるCuのモル比(X)が0.47になった正極活物質を用いた比較例2のリチウム二次電池に比べ、容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が向上していた。特に、CuとWとの複合酸化物中におけるCuのモル比(X)が0.05〜0.4の範囲になった正極活物質を用いた実施例1,9〜12の各リチウム二次電池においては、さらに容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が著しく向上していた。
【0039】
なお、ここではCuとWとの複合酸化物を用いた場合について示したが、Wと他のV,Cr,Mn,Fe,Co,Niとの複合酸化物についても同様の結果が得られる。
【0040】
(実施例14,15)
実施例14,15においては、正極活物質として、上記の実施例1の場合と同じCu0.2 W0.8 O3 を使用して正極を作製する一方、この正極中にLiを挿入させないようにした。
【0041】
また、負極として、実施例14においては、Li金属のシートをアルゴン雰囲気中で直径17mm,厚さ1.0mmの円板状に打ち抜いたものを、実施例15においては、Liが20.6重量%になったLi−Al合金のシートをアルゴン雰囲気中で直径17mm,厚さ1.0mmの円板状に打ち抜いたものを用いるようにした。
【0042】
そして、それ以外については、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例14,15の各リチウム二次電池を作製した。
【0043】
次に、上記のようにして作製した実施例14,15の各リチウム二次電池を、25℃の温度雰囲気下において放電電流100μAの定電流で1.2Vまで放電させた。その後、これらの各リチウム二次電池をそれぞれ充電電流100μAの定電流で充電終止電圧2.4Vまで充電させた後、放電電流100μAの定電流で放電終止電圧1.2Vまで放電させ、これを1サイクルとして、50サイクルの充放電試験を行い、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定し、容量維持率(%)として、1サイクル目の放電容量Q1に対する50サイクル目の放電容量Q50の比率[(Q1/Q50)×100]を求め、その結果を下記の表3に示した。なお、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧は、上記の実施例8のリチウム二次電池においては約1.6V、実施例9のリチウム二次電池においては約1.4Vであった。
【0044】
【表3】
【0045】
この結果から明らかなように、負極活物質にLi金属やLi−Al合金を用いた場合においても、正極活物質にCu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例14,15の各リチウム二次電池は、上記の比較例1,2の各リチウム二次電池に比べ、容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が向上していた。
【0046】
また、実施例14,15の各リチウム二次電池と同じ正極活物質Cu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例1のリチウム二次電池とを比較すると、負極活物質に天然黒鉛粉末を用いた実施例1のリチウム二次電池の方が容量維持率が高くなっていた。これは、負極活物質に天然黒鉛粉末のような炭素材料を用いた場合、Li金属及びLi合金のように充放電によって樹枝状のデンドライト結晶が成長して、電池内部においてショートすることがないためであると考えられる。
【0047】
(実施例16〜20及び比較例3〜5)
実施例16〜20及び比較例3〜5においては、正極活物質として、Cu0.2 W0.8 OY で表されるCuとWとの複合酸化物に含有させる酸素原子Oのモル比(Y)だけを変更させたものを用いるようにし、下記の表4に示すように、実施例16においてはCu0.2 W0.8 O2.5 を、実施例17においてはCu0.2 W0.8 O2.6 を、実施例18においてはCu0.2 W0.8 O2.8 を、実施例19においてはCu0.2 W0.8 O3.2 を、実施例20においてはCu0.2 W0.8 O3.5 を用いる一方、比較例3においてはCu0.2 W0.8 O2.3 を、比較例4においてはCu0.2 W0.8 O2.4 を用い、比較例5においてはCu0.2 W0.8 O3.6 を用いるようにし、それ以外については、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例16〜20及び比較例3〜5の各リチウム二次電池を作製した。
【0048】
そして、これらの実施例16〜20及び比較例3〜5における各リチウム二次電池についても、上記の実施例1〜7の場合と同様にして、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定して、各リチウム二次電池における容量維持率(%)を求め、その結果を上記の実施例1の結果と合わせて下記の表4及び図3に示した。なお、実施例16〜20及び比較例3〜5の各リチウム二次電池においても、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧はそれぞれ約1.6Vであった。
【0049】
【表4】
【0050】
この結果から明らかなように、正極活物質に用いるCuとWとの複合酸化物中における酸素原子Oのモル比(Y)を2.5〜3.5の範囲にした実施例1,16〜20の各リチウム二次電池は、CuとWとの複合酸化物中における酸素原子Oのモル比(Y)が上記の範囲外になった正極活物質を用いた比較例3〜5の各リチウム二次電池に比べ、容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が向上していた。特に、CuとWとの複合酸化物中における酸素原子Oのモル比(Y)が2.8〜3.2の範囲になった正極活物質を用いた実施例1,18,19の各リチウム二次電池においては、さらに容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が著しく向上していた。
【0051】
なお、ここではCuとWとの複合酸化物を用いた場合について示したが、Wと他のV,Cr,Mn,Fe,Co,Niとの複合酸化物についても同様の結果が得られる。
【0052】
(実施例21〜28)
これらの実施例21〜28においては、上記の実施例1における正極の作製において、Cu0.2 W0.8 O3.0 からなる正極活物質を得るにあたり、その焼成温度だけを変更させ、下記の表5に示すように、その焼成温度を、実施例21においては300℃に、実施例22においては400℃に、実施例23においては600℃に、実施例24においては800℃に、実施例25においては1200℃に、実施例26においては1400℃に、実施例27においては1500℃に、実施例28においては1600℃にし、それ以外については、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例21〜28の各リチウム二次電池を作製した。
【0053】
そして、これらの実施例21〜28における各リチウム二次電池についても、上記の実施例1〜7の場合と同様にして、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定して、各リチウム二次電池における容量維持率(%)を求め、その結果を上記の実施例1の結果と合わせて下記の表5及び図4に示した。なお、これらの実施例21〜28の各リチウム二次電池においても、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧はそれぞれ約1.6Vであった。
【0054】
【表5】
【0055】
この結果から明らかなように、リチウム二次電池の正極活物質に用いるCu0.2 W0.8 O3.0 を得るにあたり、その焼成温度を400〜1400℃の範囲にして得たCu0.2 W0.8 O3.0 を用いた実施例1,22〜26の各リチウム二次電池は、その焼成温度を300℃にして得たCu0.2 W0.8 O3.0 を用いた実施例21のリチウム二次電池や、その焼成温度を1500℃以上にして得たCu0.2 W0.8 O3.0 を用いた実施例27,28の各リチウム二次電池に比べ、容量維持率が高くなって、充放電サイクル特性が向上していた。特に、焼成温度を600〜1200℃の範囲にして得たCu0.2 W0.8 O3.0 を用いた実施例1,23〜25の各リチウム二次電池においては、容量維持率がさらに高くなって、充放電サイクル特性が著しく向上していた。
【0056】
(実施例29〜31)
実施例29〜31においては、正極を作製するにあたり、下記の表6に示すように、正極活物質として、実施例29においては平均粒径が10μmになったLiCoO2 粉末を、実施例30においては平均粒径が10μmになったLiNiO2 粉末を、実施例31においては平均粒径が10μmになったLiMn2 O4 粉末を用いるようにした。
【0057】
そして、上記の各正極活物質の粉末と、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末とをそれぞれ85:10:5の重量比になるように混合し、これらの混合物にNMP溶液を加えてスラリー化させ、このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面にドクターブレード法により塗布し、これを150℃で乾燥させた後、これを打ち抜いて直径が17mm、厚みが1.0mmの円板状になった各正極を得た。なお、このようにして作製した各正極に対してはLiを挿入させないようにした。
【0058】
一方、負極を作製するにあたっては、負極活物質として、上記の実施例1において正極活物質として用いたCu0.2 W0.8 O3 の粉末を使用し、このCu0.2 W0.8 O3 粉末と、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末とを85:10:5の重量比になるように混合し、この混合物にNMP溶液を加えてスラリー化させ、このスラリーを厚さ20μmの銅箔からなる負極集電体の片面にドクターブレード法により塗布し、これを150℃で乾燥させた後、これを打ち抜いて直径が17mm、厚みが1.0mmの円板状になった負極を作製した。
【0059】
そして、上記のようにして作製した各正極と負極とを使用し、それ以外については、上記の実施例1の場合と同様にして、実施例29〜31の各リチウム二次電池を作製した。
【0060】
(比較例6)
比較例6においては、上記の実施例20の場合と同様に、平均粒径が10μmになったLiCoO2 粉末を正極活物質に使用して作製した正極を用いる一方、その負極としては、負極活物質にWO3 を使用して作製したものを用いるようにした。
【0061】
そして、上記の正極と負極とを用いる以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、比較例6のリチウム二次電池を作製した。
【0062】
(比較例7〜9)
比較例7〜9においては、上記の実施例29〜31の場合と同じ正極を用いるようにし、下記の表6に示すように、比較例7においては、上記の実施例29の場合と同様に平均粒径が10μmになったLiCoO2 粉末を正極活物質に使用して作製した正極を、比較例8においては、上記の実施例30の場合と同様に平均粒径が10μmになったLiNiO2 粉末を正極活物質に使用して作製した正極を、比較例9においては、上記の実施例31の場合と同様に平均粒径が10μmになったLiMn2 O4 粉末を正極活物質に使用して作製した正極を用いるようにした。
【0063】
また、比較例7〜9においては、負極活物質として、WO3 に対して電気化学的にLiを添加させたリチウム・タングステン複合酸化物(Li・W複合酸化物)を用いるようにした。ここで、WO3 に対して電気化学的にLiを添加させるにあたっては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1の体積比で混合した混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 を1mol/lの割合で溶解させた電解液中において、上記のWO3 とLi金属とをポリプロピレン製の微多孔膜を介して配置させ、この状態で100μAの定電流で電解させて、LiとWとのモル比がLi:W=1.2:1になるようにした。
【0064】
そして、上記の正極と負極とを用いる以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、比較例7〜9の各リチウム二次電池を作製した。
【0065】
次に、上記のようにして作製した実施例29〜31及び比較例6〜9の各リチウム二次電池を、それぞれ25℃の温度雰囲気下において、充電電流100μAの定電流で充電終止電圧2.3Vまで充電した後、放電電流100μAの定電流で放電終止電圧0.7Vまで放電し、これを1サイクルとして、50サイクルの充放電試験を行い、1サイクル目と50サイクル目とにおける放電容量を測定し、容量維持率(%)として、1サイクル目の放電容量Q1に対する50サイクル目の放電容量Q50の比率[(Q1/Q50)×100]を求め、その結果を下記の表6に合わせて示した。なお、放電終止電圧迄の電圧の積分値を時間で割った平均放電電圧は、実施例29〜31及び比較例6,7の各リチウム二次電池においてはそれぞれ約1.1V、比較例8のリチウム二次電池においては約1.0V、比較例9のリチウム二次電池においては1.2Vであった。
【0066】
【表6】
【0067】
この結果から明らかなように、正極活物質にLi含有遷移金属酸化物であるLiCoO2 ,LiNiO2 及びLiMn2 O4 を用いる一方、負極活物質にCu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例29〜31の各リチウム二次電池は、負極活物質にWO3 やLi・W複合酸化物を用いた比較例6〜9の各リチウム二次電池に比べて容量維持率が高くなっており、充放電サイクル特性が向上していた。
【0068】
また、実施例29〜31の各リチウム二次電池と同じCu0.2 W0.8 O3 を正極活物質に使用した実施例1のリチウム二次電池を比較すると、負極活物質にCu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例29〜31の各リチウム二次電池の方が容量維持率が高くなっていた。これは、負極活物質にCu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例29〜31の各リチウム二次電池の場合、その平均放電電圧が約1.1Vと正極活物質にCu0.2 W0.8 O3 を用いた実施例1のリチウム二次電池に比べて低くなっており、非水電解液の分解が抑制されたためであると考えられる。
【0069】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明におけるリチウム二次電池においては、正極又は負極の活物質に、MX W1-X OY (式中、Mは、Cu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属元素からなり、0<X<0.46,2.5≦Y≦3.5の条件を満たす。)の組成式で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いるようにしたため、このような活物質を用いた正極や負極においてリチウムを吸蔵・放出する能力が向上すると共に、活物質における結晶構造の変化が少なくなり、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例及び比較例において作製したリチウム二次電池の内部構造を示した断面説明図である。
【図2】正極活物質に用いるCuX W1-x O3 におけるCuのモル比(X)と得られたリチウム二次電池における容量維持率との関係を示した図である。
【図3】正極活物質に用いるCu0.2 W0.8 OY における酸素のモル比(Y)と得られたリチウム二次電池における容量維持率との関係を示した図である。
【図4】正極活物質に用いるCu0.2 W0.8 O3.0 を得る場合における焼成温度と得られたリチウム二次電池における容量維持率との関係を示した図である。
【符号の説明】
1 正極
2 負極
Claims (6)
- 正極と負極と非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、上記の正極又は負極の活物質に、MX W1-X OY (式中、Mは、Cu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属元素からなり、0<X<0.46,2.5≦Y≦3.5の条件を満たす。)の組成式で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1に記載したリチウム二次電池において、上記の正極又は負極の活物質に、MX W1-X OY (式中、Mは、Cu,V,Cr,Mn,Fe,Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属元素からなり、0.02≦X≦0.45,2.5≦Y≦3.5の条件を満たす。)の組成式で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1又は2に記載したリチウム二次電池において、正極の活物質に上記の組成式に示される複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いる一方、負極の活物質に炭素材料又はこれにLiを含有させたものを用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1又は2に記載したリチウム二次電池において、負極の活物質に上記の組成式に示される複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いる一方、正極の活物質にLi含有遷移金属酸化物を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載したリチウム二次電池において、正極又は負極の活物質に、400℃以上,1400℃以下の温度で焼成させて得た上記の組成式に示される複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項5に記載したリチウム二次電池において、正極又は負極の活物質に、600℃以上,1200℃以下の温度で焼成させて得た上記の組成式に示される複合酸化物又はこれにLiを含有させたものを用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
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