JP3653356B2 - 金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムに関し、更に詳しくは、特に保味性に優れ、耐レトルト性や成形加工性の良好な、飲料缶や食品缶などの金属缶を製造するのに適したポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止等の目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性樹脂フィルムによる被覆が試みられている。すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。この熱可塑性樹脂フィルムとしてポリオレフィンフィルムやポリアミドフィルムが試みられたが、成形加工性、耐熱性、保香性及び耐衝撃性の全てを満足するものでない。
【0003】
従来から、ポリエステルフィルム特にポリエチレンテレフタレートフィルムがバランスのとれた特性を有するとして注目され、これをベースとしたいくつかの提案がなされている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレートフィルムでは、耐熱性や保香性に優れていれば成形加工性が劣っていたり、成形加工性が優れていれば保香性や耐レトルト性が劣るなどの問題があることから、共重合ポリエステルフィルムが、成形加工性、耐熱性、耐レトルト性及び保香性に優れており、好適であることが判ってきている(特開平3―86729号公報等)
もっとも、このような共重合ポリエステルフィルムにおいては、飲料缶や食品缶などに用いた場合、保味性が不十分で、缶の内容物の味を悪くするという問題があることがわかってきた。
【0004】
一方、耐衝撃性を改善するために0.01〜1重量%のジエチレングリコールを添加した金属板ラミネート用ポリエステルフィルムが特開平6―263893号公報に、またフレーバー性を向上させるために0.05〜20重量%のポリオキシアルキレングリコール(ジエチレングリコールを含む)を添加した金属板貼合せ用共重合ポリエステルフィルムが特開平6―116486号公報に、それぞれ記載されており、ポリエチレンナフタレート及びポリエチレンナフタレート共重合体がそれぞれ例示されている。
【0005】
ところが、ポリエチレンナフタレートフィルムや共重合ポリエチレンナフタレートフィルムにジエチレングリコールを添加しただけでは、十分満足できる保味性は得られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、従来のポリエステルフィルムが持っている優れた特性(例えば、成形加工性、耐熱性、保香性、耐衝撃性など)を保持しながら、保香性に優れ、耐レトルト性の良好な金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムを提供することを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ジエチレングリコールを含有すると共に、抽出オリゴマー量が少なく、表面粗さ(Ra)が特定の範囲内にあるポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下、エチレン―2,6―ナフタレートと略記する)を主たる繰返し単位とするポリエステルが、特に優れた保味性を呈し、耐レトルト性、成形加工性も良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明はポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体からなり、ジエチレングリコール含有量が0.05〜8モル%、抽出オリゴマー量が0.5mg/inch2以下で、かつ粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤を含有し、表面粗さ(Ra)が4nm〜30nmである金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムである。この共重合体の第三成分の共重合量が5〜20モル%であるフィルムが好ましい。また、このポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体が、重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて製造されたものであることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体は、エチレン―2,6―ナフタレートを主たる繰返し単位とし、これに第三成分を共重合したものであり、共重合となる第三成分としては、2価のエステル官能基を有する化合物、例えばシュウ酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン―2,7―ジカルボン酸、コハク酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のジカルボン酸、p―オキシ安息香酸、p―オキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等の2価アルコールを挙げることができる。これらは、単独又は2種以上を使用することができる。なかでも、イソフタル酸が好ましく用いられる。
【0010】
第三成分の共重合量は、5〜20モル%であることが、保味性、成形性の向上のうえで好ましい。なお、ポリエチレン―2,6―ナフタレートホモポリマーでは、フィルムが硬くなり成形し難くなる傾向があるが、第三成分を共重合することによって、フィルムの成形加工性が改善される。
【0011】
本発明のポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体には、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0012】
本発明に用いるポリエチレン―2,6―ナフタレートは、機械的性質の点で、o―クロロフェノール中35℃で測定した固有粘度が0.35dl/g以上であることが望ましく、特に0.45〜0.80dl/gの範囲内のものが、加工性が良く、好適である。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、0.05〜8モル%のジエチレングリコールを含有していることが必要であり、0.1〜5モル%のジエチレングリコールを含有していることが好ましく、更に好ましくは0.5〜3モル%である。ジエチレングリコールの含有量が0.05モル%未満では、保味性向上の効果が不十分であり、8モル%を超えると融点が低くなりすぎて、耐熱性が悪化する。
【0014】
ジエチレングリコールをポリエステルフィルムに含有させるには、公知の方法を用いることができる。例えば、ジエチレングリコールを、ポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体の出発原料の酸成分及び/又はグリコール成分にあらかじめ添加しておいてもよいし、重縮合反応中の任意の段階で添加してもよい。また、ジエチレングリコールは、エチレングリコールをグリコール成分とするポリエステルの重縮合に際して、通常副生するものであり、この副生量を制御することによって、ジエチレングリコールの含有量を所定量に設定してもよい。
【0015】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、抽出オリゴマー量が0.5mg/inch2 以下であることが必要であり、好ましくは0.3mg/inch2 以下、更に好ましくは0.1mg/inch2 以下である。ここで、抽出オリゴマー量とは、120℃のイオン交換水中に2時間浸漬した際に抽出されるオリゴマー量であり、この抽出オリゴマー量が0.5mg/inch2 を超えると、保味性が悪化するうえ、レトルト処理の際の減量が多くなり、耐レトルト性が低下する。
【0016】
抽出オリゴマー量を0.5mg/inch2 以下とするには、ポリエチレン―2,6―ナフタレートに含まれるオリゴマーの量そのものを低下させてもよいが、例えば溶融押出成形した未延伸フィルムを縦方向に多段延伸することにより、抽出オリゴマー量を低下させることも可能である。この縦方向の多段延伸は、フィルムの面配向性を低下させることになり、製缶、深絞り加工する際の成形加工性を向上させるという効果も有している。
【0017】
また、本発明のポリエステルフィルムは、表面粗さ(Ra)が4nm〜30nmであることが必要であり、好ましくは5nm〜20nmである。ここに表面粗さ(Ra)とは、後述する中心線平均粗さ(JIS―B 0601)をいう。
【0018】
ポリエステルフィルムの表面粗さと、飲料缶や食品缶における保味性とに相関性があることは、一見奇異に感ずるものであるが、原料の調整、製膜延伸、金属板との貼合せ及び成形加工に際し、保味性に関係のある潜在的性能が、表面粗さの特定範囲と強い相関があり、顕在的にフィルムの表面粗さが保味性と関係していると推測される。もっとも、潜在的性能が何であるかは、現時点では判明していない。しかしながら、表面粗さ(Ra)が4nm〜30nmであれば飲料缶や食品缶としての保味性が優れている。
【0019】
なお、ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)が4nm未満では、フィルムの取扱性(巻取性)が悪化し、逆に30nmを超える粗いものでは保味性が悪化する(即ち、缶の内容物の味を悪くする)原因となるらしい。
【0020】
もっとも、別の観点ではあるが、フィルムの表面粗さ(Ra)が4nm未満では、フィルムの取扱性(巻取性)が悪化し、逆に30nmを超えると、ピンホールができ易くなり、保香性が悪化する(即ち、缶の内容物の味を悪くする)ので不適当である。
【0021】
ポリエステルフィルムの表面粗さ(Ra)を4nm〜30nmとするには、ポリエチレン―2,6―ナフタレートに添加する滑剤の平均粒径、添加量を適宜選択すればよい。例えば、滑剤としてシリカを使用する場合は、平均粒径が0.05μm〜1.5μmのものを0.01〜1重量%添加すればよい。この場合、種類、平均粒径の異なる滑剤を混合して使用してもよい。
【0022】
ポリエチレン―2,6―ナフタレートに添加する滑剤は、無機系、有機系の如何を問わないが無機系が好ましい。無機系滑剤としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができ、有機系滑剤としてはシリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を例示することができる。特に、耐ピンホール性の点で、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤が用いられる。このような滑剤としては、真球状シリカ、真球状シリコーン樹脂粒子、球状架橋ポリスチレン等を例示することができる。
【0023】
なお、フィルムの表面粗さ(Ra)は、JIS―B0601に準じて求めた中心線平均粗さであり、フィルム表面粗さ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸とし、縦倍率の方向をY軸として、粗さ曲線Y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられる値(Ra:nm)をフィルム表面粗さとして定義する。
【0024】
【数1】
【0025】
本発明では、基準長を2.5mmとして5個測定し、値の大きい方から1個を除いた4個の平均値としてRaを表わす。
【0026】
本発明で用いるポリエステル(A)及びポリエステル(B)は、保味性を改善するうえで、重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて製造するものであることが好ましい。ゲルマニウム触媒としては、
(イ)無定形酸化ゲルマニウム、
(ロ)微細な結晶性酸化ゲルマニウム、
(ハ)酸化ゲルマニウムをアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属又はそれらの化合物の存在下にグリコールに溶解した溶液、或は
(ニ)酸化ゲルマニウムを水に溶解した溶液
等が用いられる。
【0027】
ゲルマニウム化合物触媒の量は、ポリエステル(A)とポリエステル(B)からなるポリエステル組成物中に残存するゲルマニウム原子量として40〜200ppmが好ましく、60〜150ppmが更に好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、前述のように、成形加工性を向上させるうえで縦方向に多段延伸して使用することが好ましい。縦方向に多段延伸することによって、面配向性が低下し、成形加工性が向上する。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは、好ましくは厚みが6〜75μmである。さらに10〜75μm、特に15〜50μmであることが好ましい。厚みが6μm未満では加工時に破れなどが生じ易くなり、一方75μmを超えるものは過剰品質であって不経済である。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムが貼合せられる金属板、特に製缶用金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の板が適切である。金属板へのポリエステルフィルムの貼合せは、例えば下記(イ)、(ロ)の方法で行うことができる。
【0031】
(イ)金属板をフィルムの融点以上に加熱しておいてフィルムを貼合せた後急冷し、金属板に接するフィルムの表層部(薄層部)を非晶化して密着させる。
【0032】
(ロ)フィルムに予め接着剤層をプライマーコートしておき、この面と金属板を貼合せる。接着剤層としては公知の樹脂接着剤、例えばエポキシ系接着剤、エポキシ―エステル系接着剤、アルキッド系接着剤などを用いることができる。
【0033】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に説明する。
【0034】
[実施例1〜12及び比較例1〜5]
重合触媒として二酸化ゲルマニウムを用い、重合条件、ジエチレングリコールの添加量、滑剤としての真球状シリカの粒径、添加量を変更して、12モル%のイソフタル酸を共重合した、固有粘度が0.65のポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体を製造し、300℃で溶融して、ダイから押し出し、急冷固化して未延伸フィルムを作成し、次いで縦方向に150℃で1.7倍に延伸した後、更に160℃で1.8倍に2段延伸し、ついで横方向に3.0倍延伸し、180℃にて熱固定して、表1に示すようにジエチレングリコール含有量、抽出オリゴマー量及び表面粗さ(Ra)の異なる種々のフィルムを得た。
【0035】
残存ゲルマニウム量は、いずれもゲルマニウム原子量として90〜100ppmであった。また、得られたフィルムの厚みは、いずれも約25μmであった。
【0036】
なお、表面粗さ(Ra)は、(株)小坂研究所製、触針式表面粗さ計(SURFCORDER SE―30C)を用いて、触針半径2μm、測定圧0.03g、カットオフ値0.25mmの条件下で測定した。
【0037】
このようにして得た、ジエチレングリコール含有量、抽出オリゴマー量及び表面粗さ(Ra)が異なる各種フィルムを、230℃に加熱した厚み0.25mmのティンフリースチールの両面に貼り合せ、水冷した後、150mm径の円形状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、缶と略す)を作成した。
【0038】
この缶について、下記の方法によりフィルム特性を測定、評価した。
【0039】
(1) 深絞り加工性―1
○:フィルムに異常なく加工され、フィルムに白化や破断が認められない。
△:フィルムの缶上部に白化が認められる。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められる。
【0040】
(2) 深絞り加工性―2
○:異常なく加工され、缶内フィルム面の防錆性試験(1%NaCl水を缶内に入れ、電極を挿入し、缶体を陽極にして6Vの電圧をかけた時の電流値を測定する。以下ERV試験と略す)において0.1mA未満を示す。
×:フィルムに異常はないが、ERV試験で電流値が0.1mA以上であり、通電個所を拡大観察するとフィルムに粗大滑剤を起点としたピンホール状の割れが認められる。
【0041】
(3) 耐レトルト性
深絞り成形が良好な缶について、水を満注し、上記滅菌器で、120℃、1時間レトルト処理を行い、しかる後、50cmで30日間保存した。得られた缶を各テストにつき10個ずつ高さ50cmからポリ塩化ビニル製タイル床面に落とした後、缶内のERV試験を行った。
○:全10個について0.1mA以下であった。
△:1〜5個について0.1mA以上であった。
×:6個以上について0.1mA以上であるかあるいは、落下後既にフィルムのひび割れが認められた。
【0042】
(4) 保味性
深絞り成形が良好な缶について、サイダーを充填し、密封した。37℃で60日間保持した後、開缶し、味の変化を官能検査により調べた。
◎:味の変化はまったくなかった。
○:ほとんど味の変化はなかった。
△:わずかに味の変化が認められた。
×:味の変化が認められた。
【0043】
結果は表1に示す通りであり、本発明のポリエステルフィルムを使用した缶では、深絞り加工性、耐レトルト性、保味性が優れており、清涼飲料水などの味を悪化させることがなく、フィルム製造に際しての巻取性も良好であった。
【0044】
【表1】
【0045】
[実施例13〜17及び比較例6]
実施例3において、共重合する第三成分の種類及び共重合量を表2に示すように変更した。
【0046】
結果は表2に示すとおりであり、本発明のポリエステルフィルムを使用した缶では、深絞り加工性、耐レトルト性、保味性が優れており、清涼飲料水などの味を悪化させることがなく、巻取性も良好であった。これに対し、ポリエチレン―2,6―ナフタレートホモポリマーからなるフィルム(比較例6)の場合は、深絞り加工性が悪く、缶にできないため、耐レトルト性、保味性は試験できなかった。
【0047】
なお、共重合成分のモル%が5モル%未満(実施例13)では成形加工がやや難しく、20モル%を超えると(実施例16)保味性がやや悪くなった。
【0048】
【表2】
【0049】
【発明の効果】
本発明の金属板貼合せ加工用フィルムは、優れた成形加工性、耐レトルト性、保味性を有し、清涼飲料水など味を悪くすることがなく、取扱性も良好である。
Claims (3)
- ポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体からなり、ジエチレングリコール含有量が0.05〜8モル%、抽出オリゴマー量が0.5mg/inch2以下で、かつ粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤を含有し、表面粗さ(Ra)が4nm〜30nmである金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
- 第三成分の共重合量が5〜20モル%である請求項1記載の金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
- ポリエチレン―2,6―ナフタレート共重合体が、重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて製造されたものである請求項1又は2記載の金属貼合せ成形加工用ポリエステルフィルム。
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