JP3645318B2 - 老化防止用皮膚外用剤 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
この発明は、ボタン抽出物と、ヒドロキシラジカル消去剤及びヒドロキシラジカル生成阻害剤より選ばれる1種又は2種以上を併用することにより、紫外線や生体内代謝により皮膚内に生じる活性酸素種の一種である過酸化水素を消去しさらに、細胞内で過酸化水素から生成されるヒドロキシラジカルを消去し、ヒドロキシラジカルの生成を阻害することによって、これら活性酸素種に起因する皮膚の老化を防止する皮膚外用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ボタン(Paeonia Suffruticosa Andr.)は、キンポウゲ科(Ranunculaceae)の植物で、その根皮は、ボタンピ(Moutan Cortex)という漢方の生薬であり、古くから鎮痛、浄血、消炎などを目的として使用されてきた。この、ボタンピ抽出物を肌荒れ,シミ,ソバカス,ニキビ,カユミなどの改善を目的として配合した化粧料(特開昭58−23612)及び、ボタンピの抽出物を有効成分とするスーパーオキシド消去剤(特開平4−5237)が知られている。
【0003】
また、紫外線照射や生体内代謝によって活性酸素種の1種である過酸化水素が細胞内に蓄積されることが実験的に証明されている。この過酸化水素から、皮膚組織内微量金属イオンである鉄イオン,銅イオンの存在下、フェントン反応により最も組織傷害性の高いヒドロキシラジカルが生成する。近年このヒドロキシラジカルが、皮膚のしわ形成,真皮構成成分の変性等、皮膚の老化現象に深くかかわることが示唆されてきた。
【0004】
それ故、かかる活性酸素種を消去し或いはこれらの生成を阻害する物質を皮膚外用剤に配合することが、皮膚の老化を防止するには有効であると考えられる。そこでビタミンE群化合物や、茶タンニンをはじめとする植物由来成分をヒドロキシラジカル消去剤として配合する試みがなされてきた。さらに、ヒドロキシラジカルの生成を阻害する物質として、金属キレート剤を配合することが知られている。
【0005】
しかしながら、ヒドロキシラジカルによる酸化傷害反応は短時間で急速に進行するため、ヒドロキシラジカルがいったん生成した後では、ヒドロキシラジカル消去剤による消去のみでは、満足な効果が得られなかった。
【0006】
また、ヒドロキシラジカル生成阻害剤は、組織内の微量金属イオンを金属キレート剤によって封鎖するものであるが、組織内に存在する金属イオンを効率よく封鎖することは困難であり、ヒドロキシラジカル生成阻害剤のみでヒドロキシラジカルの生成を完全に阻害することはできなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明においては、皮膚の老化に関与するヒドロキシラジカルに注目し、前駆体となる過酸化水素を消去する物質と、ヒドロキシラジカルの生成を阻害する物質及び/又は生成したヒドロキシラジカルを消去する物質を併用し、安全且つ安定で有効な、老化防止用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を解決するため、過酸化水素を消去する植物を検索したところ、ボタン抽出物に、非常に良好な過酸化水素消去能があり、しかも安全性が高いことを見出した。さらに、このボタン抽出物をヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤と併用することにより、活性酸素種に起因する皮膚の老化を効果的に防止することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明で用いられるボタン抽出物は、その植物のいずれの部分の抽出物でもよく、その根皮,葉,花,樹皮等の抽出物が挙げられる。その中でも古くから生薬として使用されている根皮部分であるボタンピの抽出物が、特に好ましい。
【0010】
本発明ではナラ (Quercus serasta Thunb.) ,オオナラ (Quercus crispula Blume) ,マロニエ (Aesculus hippocastanum L.) ,ワレモコウ (Sanguisorba officinalis L.) より選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出液及び/又は抽出成分を、ヒドロキシラジカル消去剤として配合する。
【0011】
上記ボタン抽出物及びヒドロキシラジカル消去剤として使用される植物抽出液の抽出物は、極性溶媒(たとえば水,エタノール,メタノール,プロピレングリコール,1,3-ブチレングリコール等)を単独あるいは混合して用い、室温あるいは加熱して定法により抽出し、ろ過して得られる。抽出前に必要に応じてアセトン等で脱脂しても良い。このようにして得られた抽出物は溶媒を留去後さらに1,3-ブチレングリコールのような溶媒に溶解したり、または得られた液を適当に濃縮した濃縮物として、本発明に使用することができる。別の方法として、得られた抽出物をシリカクロマトグラフィーなどの吸着系クロマトカラムを用いて分画して得られる抽出物を用いることもできる。
【0012】
本発明で用いられるヒドロキシラジカル生成阻害剤としては、金属キレート剤が用いられる。この中でも、皮膚外用剤に配合する安全性を考慮すると、デフェロキサミン、エデト酸塩、アゼライン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フィチン酸より選ばれる1種又は2種以上の金属キレート剤を配合することが好ましい。
【0013】
上記のボタン抽出物,ヒドロキシラジカル消去剤,ヒドロキシラジカル生成阻害剤を通常の皮膚外用剤基剤中に配合して、老化防止用皮膚外用剤とする。配合量は、製剤中の有効濃度や製剤の安定性等を考慮して0.01〜10重量%程度が適当である。外用剤の形態としては、ローション,乳剤,クリーム,軟膏等、種々の形態をとることができる。また、化粧水,美容液,乳液等の老化防止用化粧料としても提供することができる。
【0014】
【作用】
ボタン抽出物の過酸化水素に起因する細胞傷害の防御作用をニュートラルレッド法を用いて測定した。ボタン抽出物はボタンピの50%エタノール抽出液を使用した。まず、ヒト由来線維芽細胞を2万cells/wellで96穴マイクロプレートに播種した。24時間後、ボタン抽出物をそれぞれ0,5,15,50μg/ml含み、さらに1mMの過酸化水素を1μl添加したHanks液を細胞に接触させ、37℃で2時間培養した。さらにニュートラルレッドを20μg/ml含有する培地で2時間培養し、細胞に取り込まれたニュートラルレッドを抽出し550nmでの吸光度(AH)を測定した。さらにボタン抽出物のみを添加し、過酸化水素を添加しないで同様の処理を行って、測定した吸光度をASとした。細胞の生存率は式1により求めた。
【数1】
【0015】
その結果、図1にボタン抽出物の細胞傷害作用を示した。図1からボタン抽出物が、過酸化水素存在下での細胞の生存率を向上させることが認められる。なおボタン抽出物の濃度が15μg/ml前後で過酸化水素による細胞傷害防御作用は、定常状態となっていた。
【0016】
ボタン抽出物とヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤を併用した場合の、過酸化水素及びヒドロキシラジカルに起因する細胞傷害の防御作用を上記同様ニュートラルレッド法を用いて測定した。活性酸素供給源としては、過酸化水素に加えて、ヒドロキシラジカルを生成するフェントン反応に関与する硫酸鉄(II)を添加した。また、ボタン抽出物として、ボタンピ・50%エタノール抽出物を、ヒドロキシラジカル消去剤としてマロニエ・50%エタノール抽出物を、ヒドロキシラジカル消去剤としてデフェロキサミンを用いた。各サンプルの有効成分添加濃度を表1に示した。
【0017】
【表1】
その結果図2に、ボタン抽出物とヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤の過酸化水素及びヒドロキシラジカルに起因する細胞傷害の防御作用を示した。図2から明らかなようにボタン抽出物のみを配合する場合よりも、ボタン抽出物とヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤を併用することにより、活性酸素種存在下での細胞の生存率は、ほぼ90%と約2倍となり、活性酸素による細胞傷害をより有効に防止することが示された。
【0018】
ボタン抽出物,ヒドロキシラジカル消去剤,ヒドロキシラジカル生成阻害剤を配合してなる皮膚外用剤は、生体内代謝や太陽紫外線により皮膚内に生じる過酸化水素及びヒドロキシラジカルを効率的に消去し、さらにヒドロキシラジカルの生成を阻害することができるので、これら活性酸素種による皮膚の老化を有効に防止することができる。そして、上記ボタン抽出物と、ヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤を併用することにより、少量の添加で十分な効果が得られ、製剤の安定性に及ぼす影響も少なく、皮膚刺激性や感作性といった副作用もなく、きわめて安全性に優れる皮膚外用剤を得ることができる。
【0019】
【実施例】
さらに本発明の特徴について、実施例により詳細に説明する。
【0020】
[実施例1]液状皮膚外用剤
(1)グリセリン 5.0(重量%)
(2)プロピレングリコール 4.0
(3)エタノール 10.0
(4)ボタンピ・50%エタノール抽出物 0.5
(5)酒石酸 0.5
(6)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(7)精製水 79.9
(6)を(3)に溶解して(7)に加え、(1),(2),(4),(5)を順次添加し、混合,均一化する。
【0021】
[実施例2]化粧水
(1)1,3-ブチレングリコール 3.0(重量%)
(2)ソルビトール 2.0
(3)エタノール 10.0
(4)カルボキシビニルポリマー1重量%水溶液 10.0
(5)ボタンピ・75%エタノール抽出物 0.5
(6)ナラ・75%エタノール抽出物 0.5
(7)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(8)香料 0.1
(9)精製水 73.8
(7),(8)を(3)に溶解して(9)に加え、(1),(2),(5),(6)を順次添加して混合した後、(4)を加え、混合,均一化する。
【0022】
[実施例3]O/W型乳剤性軟膏
(1)白色ワセリン 25.0(重量%)
(2)ステアリルアルコール 15.0
(3)ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
(4)パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
(5)ボタンピ・98%エタノール抽出物 0.5
(6)マロニエ・25%エタノール抽出物 0.5
(7)酒石酸 0.5
(8)精製水 57.4
(1)〜(4)の油相成分を混合し75℃に加熱して溶解,均一化する。75℃に加熱した(8)に油相成分を添加して乳化し、冷却後40℃にて(5)〜(7)を順次添加,混合,均一化する。
【0023】
[実施例4]O/W乳化型美容液
(1)スクワラン 5.0(重量%)
(2)白色ワセリン 2.0
(3)ミツロウ 0.5
(4)ソルビタンセスキオレエート 0.8
(5)ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20EO) 1.2
(6)プロピレングリコール 5.0
(7)エタノール 5.0
(8)ボタンピ・水抽出物 0.5
(9)ワレモコウ・水抽出物 0.5
(10)デフェロキサミン 0.5
(11)カルボキシビニルポリマー1.0重量%水溶液 20.0
(12)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(13)水酸化カリウム 0.1
(14)香料 0.2
(15)精製水 58.6
(1)〜(5)の油相成分を混合し75℃に加熱して溶解,均一化する。一方(6),(12)及び(15)の水相成分を混合,溶解して75℃に加熱し、前記の油相成分を添加して予備乳化する。(11)を添加した後ホモミキサーにて均一に乳化し、(13)を加えてpHを調整する。冷却後40℃にて(7)〜(10)及び(14)を添加,混合,均一化する。
【0026】
本発明の実施例について、皮膚の老化防止効果を、皮膚のしわ発生防止効果の評価により検討した。ヘアレスマウス5匹を一群とし、各群について本発明の実施例及び比較例をそれぞれ1日1回背部に塗布し、1J/平方cm/週のUVAを50週間照射し、しわの発生状況を経時的に肉眼観察により評価した。実施例1〜5における比較例は、ボタン抽出物,ヒドロキシラジカル消去剤及びヒドロキシラジカル生成阻害剤を全て精製水に代替して調製した。しわの発生状況は、「発生せず;0点」,「微小なしわがわずかに発生;1点」,「軽微なしわが明確に発生;2点」,「中程度のしわが発生;3点」,「深いしわが発生;4点」として点数化し、各群の平均点を算出して、表3及び表4に示した。その際、精製水を塗布した群を対照とした。
【0027】
【表3】
表3より、ボタン抽出物と、ヒドロキシラジカル消去剤及びヒドロキシラジカル生成阻害剤を併用した実施例1〜5塗布群においては、いずれもしわの発生が顕著に抑制されており、UVAを50週間照射した後においても、各群とも微小なしわの発生を認めただけであった。これに対して、比較例1〜5塗布群においては、対照群に比べ若干のしわ発生抑制効果は認められるが、いずれにおいても明確なしわの形成が見られ、形成されたしわはほぼ中程度の深さにまで達していた。
【0029】
続いて、本発明の実施例及び比較例について使用試験を行った。皮膚のしわ及び弾性の低下を主な症状として有するパネラー20名を一群とし、各群にそれぞれ実施例及び比較例をブラインドにて顔面及び手に使用させ、しわ及び皮膚弾性の変化を観察し、評価した。使用期間は4月〜翌年3月の1年間とした。しわについては、「減少」,「やや減少」,「変化なし」,「増加」の4段階、皮膚弾性については「上昇」,「やや上昇」,「変化なし」,「低下」の4段階にて評価をし、各評価を得たパネラー数にて表5,6に示した。
【0030】
表5より明らかなように、ボタン抽出物と、ヒドロキシラジカル消去剤及びヒドロキシラジカル生成阻害剤を併用した実施例1〜5を使用したパネラーについては全員、しわの減少及び皮膚弾性の上昇が認められている。これに対し、比較例1〜5を使用したパネラーでは、しわがやや減少したパネラーもいるが、ほとんど変化無く、皮膚弾性もはっきり増加したのは、比較例4,5で各1名いるだけであり、比較例を使用したパネラーのほとんどで、皮膚の老化が進行していることが示された。
【表5】
【0032】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明により、生体内代謝や太陽紫外線曝露により皮膚内に生じる活性酸素種であるヒドロキシラジカル及び過酸化水素を消去し、かつヒドロキシラジカルの生成を阻害し、これらに起因する皮膚の老化を良好に防止することができる。本発明において配合するボタン抽出物、ヒドロキシラジカル消去剤及びヒドロキシラジカル生成阻害剤は、非常に低濃度で優れた老化防止作用を示すため、少量配合するだけで有効な効果を発揮させることができ、安全性,安定性ともに優れた老化防止用皮膚外用剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いるボタン抽出物の、細胞傷害防御作用を示す図である。
【図2】ボタン抽出物とヒドロキシラジカル消去剤及び/又はヒドロキシラジカル生成阻害剤の過酸化水素及びヒドロキシラジカルに起因する細胞傷害の防御作用を示す図である。
【表1】 【符号の説明】
A ボタンピ・50%エタノール抽出物 無添加,マロニエ・50%エタノール抽出物 無添加,デフェロキサミン 無添加
B ボタンピ・50%エタノール抽出物 5μg/ml添加,マロニエ・50%エタノール抽出物 無添加,デフェロキサミン 無添加
C ボタンピ・50%エタノール抽出物 5μg/ml添加,マロニエ・50%エタノール抽出物 5μg/ml添加,デフェロキサミン 1μg/ml添加
D ボタンピ・50%エタノール抽出物 7μg/ml添加,マロニエ・50%エタノール抽出物 7μg/ml添加,デフェロキサミン 無添加
E ボタンピ・50%エタノール抽出物 10μg/ml添加,マロニエ・50%エタノール抽出物 無添加,デフェロキサミン 1μg/ml添加
Claims (4)
- ボタンピ抽出物と、マロニエ (Aesculus hippocastanum L.) の抽出物を併用してなる、老化防止用皮膚外用剤。
- ボタンピ抽出物と、デフェロキサミンを併用してなる、老化防止用皮膚外用剤。
- ボタンピ抽出物と、マロニエ (Aesculus hippocastanum L.) の抽出物と、デフェロキサミンを併用してなる、老化防止用皮膚外用剤。
- 皮膚外用剤が化粧料であることを特徴とする請求項1〜3の一つに記載の老化防止用皮膚外用剤。
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