JP3636774B2 - 同調増幅器 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、同調周波数と最大減衰量とを互いに干渉することなく、任意に調整し得る同調増幅器に関する。
【0002】
【従来の技術】
同調増幅器として従来より能動素子およびリアクタンス素子を使用した各種の増幅回路が提案され実用化されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の同調増幅器においては、同調周波数を調整すると、LC回路に依存するQと利得が変化し、最大減衰量を調整すると同調周波数が変化したり、また、図46の特性曲線AおよびBに示すように、最大減衰量を調整すると同調周波数における利得が変化するので、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量C1、C2を互いに干渉しあうことなく調整することは極めて困難であった。
【0004】
さらに、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器を集積回路によって形成することも困難であった。
【0005】
そこで、この発明は、このような課題を解決するために考えられたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、この発明の同調増幅器は、
入力信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路を縦続接続し、これら縦続接続された2つの移相回路の中の前段の移相回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、後段の移相回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、前記第1および第2の移相回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0007】
また、この発明の同調増幅器は、
入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を変えずに出力する非反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記非反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0008】
また、この発明の同調増幅器は、
入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を反転して出力する位相反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記位相反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0009】
また、この発明の同調増幅器は、
入力側インピーダンス素子を介して入力された交流信号を同相で出力する非反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記非反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路とは反対方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還側インピーダンス素子を介して前記非反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、この発明の同調増幅器は、
入力抵抗を介して入力された交流信号を反転して出力する位相反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記位相反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路と同じ方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還抵抗を介して前記位相反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
【実施例】
以下、この発明を適用した一実施例の同調増幅器について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0012】
(第1実施例)
図1は、この発明を適用した第1実施例の同調増幅器の構成を示す回路図である。同図に示す同調増幅器1は、入力信号の位相を変えずに出力する非反転回路50と、それぞれが入力信号の位相を所定量シフトさせることにより所定の周波数において合計で0°の位相シフトを行う2つの移相回路10C、30Lと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路30Lから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。なお、非反転回路50はバッファ回路として機能するものであるが、基本動作のみに着目した場合には省略してもよい。
【0013】
図2は、図1に示した前段の移相回路10Cの構成を抜き出して示したものである。同図に示す前段の移相回路10Cは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器12と、入力端22に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器12の非反転入力端子に入力するキャパシタ14および可変抵抗16と、入力端22に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器12の反転入力端子に入力する抵抗18および20とを含んで構成されている。なお、可変抵抗16と抵抗20の接続点が接地されている場合を考えて以下の説明を行うものとする。
【0014】
このような構成を有する移相回路10Cにおいて、所定の交流信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の反転入力端子には、入力端22に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗18と抵抗20とによって分圧した電圧が印加される。抵抗18および20の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗18、20の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器12の反転入力端子に印加される。
【0015】
一方、入力信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の非反転入力端子には、キャパシタ14と可変抵抗16の接続点に現れる信号が入力される。キャパシタ14と可変抵抗16により構成されるCR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのCR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器12の非反転入力端子には印加される。
【0016】
差動増幅器12は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0017】
図3は、移相回路10Cの入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0018】
同図に示すように、可変抵抗16の両端に現れる電圧VR1とキャパシタ14の両端に現れる電圧VC1は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図3に示す半円の円周に沿って可変抵抗16の両端電圧VR1とキャパシタ14の両端電圧VC1とが変化する。
【0019】
また、差動増幅器12の非反転入力端子に印加される電圧(可変抵抗16の両端電圧VR1)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗20の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図3に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VR1と電圧VC1とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器12はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路10Cにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0020】
また、図3から明らかなように、電圧VR1と電圧VC1とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VR1との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って90°から0°まで変化する。そして、移相回路10C全体の位相シフト量φ1はその2倍であり、周波数に応じて180°から0°まで変化する。
【0021】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0022】
図4は、前段の移相回路10Cを等価的に表した図であり、差動増幅器12の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0023】
抵抗18および20により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、抵抗18、20のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図4に示す等価回路の閉ループに流れる電流Iは、キャパシタ14の静電容量をC、可変抵抗16の抵抗値をRとすると、
【数1】
となる。ここで、図4に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数2】
となる。上述した(2)式に(1)式を代入して計算すると、
【数3】
となる。また、この実施例の移相回路10Cの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数4】
となる。ここで、キャパシタ14と可変抵抗16からなるCR回路の時定数をT(=CR)とした。
【0024】
この(4)式においてs=jωを代入して変形すると、
【数5】
となる。(5)式から出力電圧Eoの絶対値を求めると、
【数6】
となる。すなわち、(6)式は、この実施例の移相回路10Cは入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は入力信号の振幅に等しく一定であることを表している。
【0025】
また、(5)式から出力電圧Eoの入力電圧Eiに対する位相シフト量φ1を求めると、
【数7】
となる。この(7)式から、例えばωがほぼ1/T(=1/(CR))となるような周波数における位相シフト量φ1はほぼ90°となり、入力信号の振幅を減衰させることなく位相のみをほぼ90°シフトさせることができる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量φ1がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0026】
図5は、図1に示した後段の移相回路30Lの構成を抜き出して示したものである。同図に示す後段の移相回路30Lは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器32と、入力端42に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器32の非反転入力端子に入力するインダクタ37および可変抵抗36と、入力端42に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器32の反転入力端子に入力する抵抗38および40とを含んで構成されている。
【0027】
なお、インダクタ37に直列に挿入されているキャパシタ39は直流電流阻止用であり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。
【0028】
このような構成を有する移相回路30Lにおいて、所定の交流信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の反転入力端子には、入力端42に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗38と抵抗40とによって分圧した電圧が印加される。抵抗38および40の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗38、40の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器32の反転入力端子に印加される。
【0029】
一方、入力信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の非反転入力端子には、インダクタ37と可変抵抗36の接続点に現れる信号が入力される。インダクタ37と可変抵抗36により構成されるLR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのLR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器32の非反転入力端子には印加される。
【0030】
差動増幅器32は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0031】
図6は、移相回路30Lの入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0032】
同図に示すように、可変抵抗36の両端に現れる電圧VR2とインダクタ37の両端に現れる電圧VL1は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図6に示す半円の円周に沿って可変抵抗36の両端電圧VR2とインダクタ37の両端電圧VL1とが変化する。
【0033】
また、差動増幅器32の非反転入力端子に印加される電圧(可変抵抗36の両端電圧VR2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗40の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図6に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VR2と電圧VL1とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器32はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路30Lにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0034】
また、図6から明らかなように、電圧VR2と電圧VL1とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VR2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って0°から90°まで変化する。そして、移相回路30L全体の位相シフト量φ2はその2倍であり、周波数に応じて0°から180°まで変化する。
【0035】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0036】
図7は、後段の移相回路30Lを等価的に表した図であり、差動増幅器32の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0037】
抵抗38および40により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、前段の移相回路10Cの場合と同様に、抵抗38、40のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図7に示す等価回路の閉ループに流れる電流I′は、インダクタ37のインダクタンスをL、可変抵抗36の抵抗値をRとすると、
【数8】
となる。ここで、図7に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数9】
となる。上述した(9)式に(8)式を代入して計算すると、
【数10】
となる。また、この実施例の移相回路30Lの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数11】
となる。ここで、説明を簡単なものとするために、移相回路10C内のCR回路の時定数と同様に移相回路30L内のLR回路の時定数をT(=L/R)とした。
【0038】
(11)式においてs=jωを代入して変形すると、
【数12】
となる。
【0039】
上述した(11)式および(12)式は、前段の移相回路10Cについて示した(4)式および(5)式と符号のみ異なっている。したがって、出力電圧Eoの絶対値は(6)式をそのまま適用することができ、後段の移相回路30Lは入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は入力信号の振幅に等しく一定であることがわかる。
【0040】
また、(12)式から出力電圧Eoの入力電圧Eiに対する位相シフト量φ2を求めると、
【数13】
となる。この(13)式から、例えばωがほぼ1/T(=R/L)となるような周波数における位相シフト量φ2はほぼ90°となり、入力信号の振幅を減衰させることなく位相のみをほぼ90°シフトさせることができる。しかも、可変抵抗36の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量φ2がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0041】
このようにして、2つの移相回路10C、30Lのそれぞれにおいて位相が所定量シフトされる。しかも、図3および図6に示すように、各移相回路10C、30Lにおける入出力電圧の相対的な位相関係は反対方向であって、ある周波数において2つの移相回路10C、30Lの全体により位相シフト量が0°の信号が出力される。
【0042】
また、後段の移相回路30Lの出力は、帰還抵抗70を介して移相回路10Cの前段に設けられた非反転回路50の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算される。この加算された信号は、バッファ回路として機能する非反転回路50を介して移相回路10Cの入力端(図2に示した入力端22)に入力される。
【0043】
このような帰還ループを形成することにより、ある周波数において帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、非反転回路50や2つの移相回路10C、30Lの各増幅度を調整して、同調増幅器1全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0044】
図8は、上述した構成を有する2つの移相回路10C、30Lおよび非反転回路50の全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えたシステム図であり、伝達関数K1を有する回路と並列に抵抗R0を有する帰還抵抗70が、直列に帰還抵抗70のn倍の抵抗値(nR0)を有する入力抵抗74が接続されている。図9は、図8に示すシステムをミラーの定理によって変換したシステム図であり、変換後のシステム全体の伝達関数Aは、
【数14】
で表すことができる。
【0045】
ところで、(4)式から明らかなように、前段の移相回路10Cの伝達関数K2は、
【数15】
であり、(11)式から明らかなように、後段の移相回路30の伝達関数K3は、
【数16】
である。したがって、移相回路10C、30Lを2段縦続接続した場合の全体の伝達関数K1は、
【数17】
となる。この(17)式を上述した(14)式に代入すると、
【数18】
となる。
【0046】
この(18)式によれば、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(2つの移相回路10、30の各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であることがわかる。換言すれば、図10に示すように、nの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0047】
このように、この実施例の同調増幅器1によれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10C、30L内の可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0048】
また、この実施例の同調増幅器1において、インダクタ37は、写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ37を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1の全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0049】
また、前段の移相回路10CのCR回路の時定数TはCRであり、後段の移相回路30LのLR回路の時定数TはL/Rであって、それぞれにおいて抵抗値Rが分母と分子に分かれるため、例えば半導体基板上に同調増幅器1の全体を形成するとともに各可変抵抗16、36をFETで形成したような場合には、この抵抗値の温度変化に対する同調周波数の変動を抑制する、いわゆる温度補償が可能となる。この温度補償が可能な点については、以下に示す各実施例の同調増幅器も同じである。
【0050】
なお、上述した第1実施例の同調増幅器1では、前段に移相回路10Cを、後段に移相回路30Lをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Lを、後段に移相回路10Cをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0051】
(第2実施例)
図11は、この発明を適用した第2実施例の同調増幅器の構成を示す回路図である。同図に示す同調増幅器1aは、第1実施例の同調増幅器1と同様に、入力信号の位相を変えずに出力する非反転回路50と、それぞれが入力信号の位相を所定量シフトさせることにより所定の周波数において合計で0°の位相シフトを行う2つの移相回路10L、30Cと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより移相回路30Cから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。なお、第1実施例の同調増幅器1と同様に、非反転回路50はバッファ回路として機能するものであるが、基本動作のみに着目した場合には省略してもよい。
【0052】
図12は、図11に示した前段の移相回路10Lの構成を抜き出して示したものである。同図に示す前段の移相回路10Lは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器12と、入力端22に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器12の非反転入力端子に入力する可変抵抗16およびインダクタ17と、入力端22に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器12の反転入力端子に入力する抵抗18および20とを含んで構成されている。
【0053】
なお、インダクタ17と可変抵抗16との間に挿入されているキャパシタ19は直流電流阻止用であり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。また、インダクタ17と抵抗20の接続点が接地されている場合を考えて以下の説明を行うものとする。
【0054】
このような構成を有する移相回路10Lにおいて、所定の交流信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の反転入力端子には、入力端22に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗18と抵抗20とによって分圧した電圧が印加される。抵抗18および20の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗18、20の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器12の反転入力端子に印加される。
【0055】
一方、入力信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の非反転入力端子には、インダクタ17と可変抵抗16の接続点(正確にはインダクタ17に直列に接続されたキャパシタ19と可変抵抗16の接続点であるが、上述したようにこのキャパシタ19は直流電流阻止用であって動作に影響を与えないため基本動作の説明を行う場合には省略することができる)に現れる信号が入力される。可変抵抗16とインダクタ17により構成されるLR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのLR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器12の非反転入力端子には印加される。
【0056】
差動増幅器12は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0057】
図13は、移相回路10Lの入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0058】
同図に示すように、インダクタ17の両端に現れる電圧VL2と可変抵抗16の両端に現れる電圧VR3は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図13に示す半円の円周に沿ってインダクタ17の両端電圧VL2と可変抵抗16の両端電圧VR3とが変化する。
【0059】
また、差動増幅器12の非反転入力端子に印加される電圧(インダクタ17の両端電圧VL2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗20の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図13に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VL2と電圧VR3とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器12はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路10Lにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0060】
また、図13から明らかなように、電圧VL2と電圧VR3とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VL2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って90°から0°まで変化する。そして、移相回路10L全体の位相シフト量φ3はその2倍であり、周波数に応じて180°から0°まで変化する。
【0061】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0062】
図14は、前段の移相回路10Lを等価的に表した図であり、差動増幅器12の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0063】
抵抗18および20により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、第1実施例の同調増幅器1に含まれる移相回路10Cや30Lと同様に、抵抗18、20のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図14に示す等価回路の閉ループに流れる電流I′は、インダクタ17のインダクタンスをL、可変抵抗16の抵抗値をRとすると、上述した(8)式で表すことができる。
【0064】
ここで、図14に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数19】
となる。上述した(19)式に(8)式を代入して計算すると、
【数20】
となる。また、この実施例の移相回路10Lの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数21】
となる。ここで、移相回路10L内のLR回路の時定数を第1実施例で示した2つの移相回路10C、30L内のCR回路あるいはLR回路の各時定数と同じTとした。
【0065】
この(21)式は第1実施例で示した(4)式と同じであり、この実施例の移相回路10Lは、第1実施例の移相回路10Cと同じ入出力電圧間の関係を有していることがわかる。したがって、移相回路10Lでは、入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は一定となる。
【0066】
また、出力電圧Eoの入力電圧に対する位相シフト量φ3は上述した(7)式で表されたφ1がそのまま適用され、例えばωがほぼ1/T(=R/L)となるような周波数における位相シフト量はほぼ90°となる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0067】
図15は、図11に示した後段の移相回路30Cの構成を抜き出して示したものである。同図に示す後段の移相回路30Cは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器32と、入力端42に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器32の非反転入力端子に入力する可変抵抗36およびキャパシタ34と、入力端42に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器32の反転入力端子に入力する抵抗38および40とを含んで構成されている。
【0068】
このような構成を有する移相回路30Cにおいて、所定の交流信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の反転入力端子には、入力端42に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗38と抵抗40とによって分圧した電圧が印加される。抵抗38および40の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗38、40の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器32の反転入力端子に印加される。
【0069】
一方、入力信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の非反転入力端子には、可変抵抗36とキャパシタ34の接続点に現れる信号が入力される。可変抵抗36とキャパシタ34により構成されるCR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのCR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器32の非反転入力端子には印加される。
【0070】
差動増幅器32は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0071】
図16は、移相回路30Cの入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0072】
同図に示すように、キャパシタ34の両端に現れる電圧VC2と可変抵抗36の両端に現れる電圧VR4は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図16に示す半円の円周に沿ってキャパシタ34の両端電圧VC2と可変抵抗36の両端電圧VR4とが変化する。
【0073】
また、差動増幅器32の非反転入力端子に印加される電圧(キャパシタ34の両端電圧VC2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗40の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図16に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VC2と電圧VR4とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器32はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路30Cにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0074】
また、図16から明らかなように、電圧VC2と電圧VR4とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VC2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って0°から90°まで変化する。そして、移相回路30C全体の位相シフト量φ4はその2倍であり、周波数に応じて0°から180°まで変化する。
【0075】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0076】
図17は、後段の移相回路30Cを等価的に表した図であり、差動増幅器32の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0077】
抵抗38および40により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、前段の移相回路10Lの場合と同様に、抵抗38、40のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図17に示す等価回路の閉ループに流れる電流Iは、可変抵抗36の抵抗値をR、キャパシタ34の静電容量をCとすると、第1実施例で示した(1)式で表すことができる。
【0078】
ここで、図17に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数22】
となる。上述した(22)式に(1)式を代入して計算すると、
【数23】
となる。また、この実施例の移相回路30Cの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数24】
となる。ここで、移相回路30C内のCR回路の時定数を前段の移相回路10Lの場合と同様にT(=CR)とした。
【0079】
この(24)式は第1実施例で示した(11)式と同じであり、この実施例の移相回路30Cは、第1実施例の移相回路30Lと同じ入出力電圧間の関係を有していることがわかる。したがって、移相回路30Cでは、入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は一定となる。
【0080】
また、出力電圧Eoの入力電圧に対する位相シフト量φ4は上述した(13)式で表されたφ2がそのまま適用され、例えばωがほぼ1/T(=1/(CR))となるような周波数における位相シフト量はほぼ90°となる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0081】
このようにして、2つの移相回路10L、30Cのそれぞれにおいて位相が所定量シフトされる。しかも、図13および図16に示すように、各移相回路10L、30Cにおける入出力電圧の相対的な位相関係は反対方向であって、ある周波数において2つの移相回路10L、30Cの全体により位相シフト量が0°の信号が出力される。
【0082】
また、後段の移相回路30Cの出力は、帰還抵抗70を介して移相回路10Lの前段に設けられた非反転回路50の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算される。この加算された信号は、バッファ回路として機能する非反転回路50を介して移相回路10Lの入力端(図12に示した入力端22)に入力される。
【0083】
このような帰還ループを形成することにより、ある周波数において帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、非反転回路50や2つの移相回路10L、30Cの各増幅度を調整して、同調増幅器1a全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0084】
ところで、上述した2つの移相回路10L、30Cを含む第2実施例の同調増幅器1aは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0085】
また、(21)式および(24)式から明らかなように、この実施例の2つの移相回路10L、30Cの各伝達関数は、第1実施例の2つの移相回路10C、30Lの各伝達関数と同じであり、2つの移相回路10L、30Cを接続した全体の伝達関数K1は(17)式に示したものをそのまま適用することができる。このため、第2実施例の同調増幅器1aの全体の伝達関数も(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0086】
したがって、第2実施例の同調増幅器1aは、第1実施例の同調増幅器1と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(2つの移相回路10L、30Cの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0087】
このように、この実施例の同調増幅器1aによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10L、30C内の可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0088】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ17は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ17を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1aの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0089】
なお、上述した第2実施例の同調増幅器1aでは、前段に移相回路10Lを、後段に移相回路30Cをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Cを、後段に移相回路10Lをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0090】
(第3実施例)
上述した第1実施例の同調増幅器1や第2実施例の同調増幅器1aは、入出力間の相対的な位相関係が反対となる2つの移相回路を組み合わせて構成したが、この相対的な位相関係が同じとなる2つの移相回路を組み合わせて同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0091】
図1に示す同調増幅器1に含まれる一方の移相回路10Cや図11に示す同調増幅器1aに含まれる移相回路10Lのそれぞれの入出力電圧間には(4)式あるいは(21)式で表される関係が成立する。以下では、図2あるいは図12に示す構成を有する移相回路10Cあるいは10Lを(4)式中の分数の符号を用いて便宜上「−型の移相回路」と称して説明を行う。
【0092】
また、図1に示す同調増幅器1に含まれる移相回路30Lや図11に示す同調増幅器1aに含まれる移相回路30Cのそれぞれの入出力電圧間には(11)式あるいは(24)式で表される関係が成立する。以下では、図5あるいは図15に示す構成を有する移相回路30Cあるいは30Lを(11)式中の分数の符号を用いて便宜上「+型の移相回路」と称して説明を行う。
【0093】
このように各移相回路を便宜上2つのタイプに分類した場合には、第1実施例の同調増幅器1および第2実施例の同調増幅器1aは、タイプが異なる2つの移相回路を組み合わせることにより、全体としての位相シフト量が0°となる周波数において同調動作を行うようになっている。
【0094】
ところで、1つの−型の移相回路10C(あるいは10L)の後段に信号の位相を反転させる位相反転回路を接続した場合のその全体の入出力間の関係に着目すると、(4)式において分数の符号「−」を反転して「+」にすればよく、1つの−型の移相回路10Cの後段に位相反転回路を接続した構成が1つの+型の移相回路に等価であるといえる。同様に、1つの+型の移相回路30L(あるいは30C)の後段に信号の位相を反転させる位相反転回路を接続した場合のその全体の入出力間の関係に着目すると、(11)式において分数の符号「+」を反転して「−」にすればよく、1つの+型の移相回路の後段に位相反転回路を接続した構成が1つの−型の移相回路に等価であるといえる。
【0095】
したがって、第1実施例においてタイプが異なる2つの移相回路を用いて同調増幅器を構成する代わりに、同タイプの2つの移相回路と位相反転回路を組み合わせて同調増幅器を構成することができる。
【0096】
図18は、第3実施例の同調増幅器の構成を示す図である。同図に示す同調増幅器1bは、入力信号の位相を反転する位相反転回路80と、図2あるいは図12に示す−型の2つの移相回路10Cおよび10Lと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路10Lから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。
【0097】
このような構成を有する同調増幅器1bにおいて、ある周波数において2つの移相回路10C、10Lによって位相が180°シフトされるとともに、位相反転回路80によって位相が反転されるため、全体として信号の位相シフト量が0°となる。例えば、前段の移相回路10C内のCR回路の時定数と後段の移相回路10L内のLR回路の時定数が同じであると仮定し、その値をTとおくと、ω=1/Tの周波数では2つの移相回路10C、10Lのそれぞれにおける位相シフト量が90°となる。したがって、位相反転回路80によって位相が反転されるとともに、2つの移相回路10C、10Lの全体によって位相が180°シフトされ、全体として、位相が一巡して位相シフト量が0°となる信号が後段の移相回路10Cから出力される。
【0098】
また、後段の移相回路10Lの出力は、帰還抵抗70を介して位相反転回路80の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算され、この加算された信号が位相反転回路80に入力されている。
【0099】
このような帰還ループを形成することにより、位相反転回路80によって信号の位相が反転されるとともに、ある周波数において2つの移相回路10C、10Lによって位相が180°シフトされ、全体として帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、位相反転回路80や2つの移相回路10C、10Lの各増幅度を調整して、同調増幅器1b全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0100】
ところで、上述した位相反転回路80および2つの移相回路10C、10Lは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例や第2実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0101】
また、移相回路10Cおよび10Lの各伝達関数をともにK2とすると、このK2は(15)式で表されるため、位相反転回路80と移相回路10C、10Lとを接続した場合の全体の伝達関数K1は、
【数25】
となる。この(25)式で求めた伝達関数K1は、(17)式で求めた第1実施例の同調増幅器1の2つの移相回路10C、30Lの全体の伝達関数K1と同じであり、同調増幅器1bの全体の伝達関数は(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0102】
したがって、第3実施例の同調増幅器1bは、第1実施例の同調増幅器1等と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(移相回路10Cおよび10Lの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0103】
このように、この実施例の同調増幅器1bによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10C、10L内の可変抵抗16の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0104】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ17は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ17を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1bの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0105】
なお、この実施例の同調増幅器1bでは、前段に移相回路10Cを、後段に移相回路10Lをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路10Lを、後段に移相回路10Cをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0106】
(第4実施例)
上述した第3実施例の同調増幅器1bでは−型の2つの移相回路を接続した場合を説明したが、+型の移相回路を2段接続することにより同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0107】
図19は、第4実施例の同調増幅器の構成を示す図である。同図に示す同調増幅器1cは、入力信号の位相を反転する位相反転回路80と、図5あるいは図15に示す+型の2つの移相回路30L、30Cと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路30Cから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。
【0108】
上述した第1実施例および第2実施例で説明したように、+型の2つの移相回路30L、30Cのそれぞれは、入力信号の周波数ωが0から∞まで変化するにしたがって位相シフト量が0°から180°まで変化する。例えば、移相回路30L内のLR回路の時定数と移相回路30C内のCR回路の時定数が同じであると仮定し、その値をTとおくと、ω=1/Tの周波数では2つの移相回路30L、30Cのそれぞれにおける位相シフト量が90°となる。したがって、2つの移相回路30L、30Cの全体によって位相が180°シフトされるとともに、前段に設けられた位相反転回路80によって位相が反転されるため、全体として、位相が一巡して位相シフト量が0°となる信号が後段の移相回路30Cから出力される。
【0109】
また、後段の移相回路30Cの出力は、帰還抵抗70を介して位相反転回路80の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算され、この加算された信号が位相反転回路80に入力されている。
【0110】
このような帰還ループを形成することにより、位相反転回路80によって信号の位相が反転されるとともに、ある周波数において2つの移相回路30L、30Cによって位相が180°シフトされ、全体として帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、位相反転回路80や2つの移相回路30L、30Cの各増幅度を調整して、同調増幅器1c全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0111】
ところで、上述した位相反転回路80および2つの移相回路30L、30Cは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0112】
また、移相回路30Lおよび30Cの各伝達関数をともにK3とすると、このK3は(16)式で表される。この伝達関数K3は、(15)式に示す移相回路10C、10Lの伝達関数K2の符号「−」を「+」に変えただけであるため、位相反転回路80と移相回路30L、30Cを接続した場合の全体の伝達関数K1は、第3実施例と同様に(25)式に示したものをそのまま適用することができる。このため、同調増幅器1cの全体の伝達関数も(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0113】
したがって、第4実施例の同調増幅器1cは、第1実施例の同調増幅器1等と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(移相回路30Lおよび30Cの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0114】
このように、この実施例の同調増幅器1cによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路30L、30C内の可変抵抗36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0115】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ37は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ37を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1cの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0116】
なお、この実施例の同調増幅器1cでは、前段に移相回路30Lを、後段に移相回路30Cをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Cを、後段に移相回路30Lをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0117】
(その他の実施例)
上述した各実施例の同調増幅器に含まれる非反転回路50あるいは位相反転回路80は、トランジスタやオペアンプや抵抗等を組み合わせて簡単に構成することができる。
【0118】
図20は、オペアンプを用いて構成した非反転回路と位相反転回路の具体例を示す図である。同図(A)に示す非反転回路50は、反転入力端子が抵抗54を介して接地されているとともにこの反転入力端子と出力端子との間に抵抗56が接続されたオペアンプ52を含んで構成されており、2つの抵抗54、56の抵抗比によって定まる所定の増幅度を有するバッファとして機能する。オペアンプ52の非反転入力端子に交流信号が入力されると、オペアンプ52の出力端子からは同相の信号が出力される。
【0119】
また、同図(B)に示す位相反転回路80は、入力信号が抵抗84を介して反転入力端子に入力されるとともに非反転入力端子が接地されたオペアンプ82と、このオペアンプ82の反転入力端子と出力端子との間に接続された抵抗86とを含んで構成されている。この位相反転回路80は、2つの抵抗84、86の抵抗比によって定まる所定の増幅度を有しており、抵抗84を介してオペアンプ82の反転入力端子に交流信号が入力されると、オペアンプ82の出力端子からは位相が反転した逆相の信号が出力される。
【0120】
ところで、上述した各実施例の同調増幅器は、2つの移相回路と非反転回路あるいは位相反転回路によって構成されており、接続された複数の回路の全体によって所定の周波数において合計の位相シフト量を0°にすることにより所定の同調動作を行うようになっている。したがって、位相シフト量だけに着目すると、移相回路と非反転回路あるいは位相反転回路とをどのような順番で接続するかはある程度の自由度があり、必要に応じて接続順番を決めることができる。
【0121】
図21は、タイプが異なる2つの移相回路と非反転回路とを組み合わせて同調増幅器を構成した場合において、2つの移相回路と非反転回路50の接続状態を示す図である。なお、これらの図において、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、各同調増幅器の出力信号と入力信号とを所定の割合で加算するためのものであり、最も一般的には図1等に示すように、帰還側インピーダンス素子70aとして帰還抵抗70を、入力側インピーダンス素子74aとして入力抵抗74を使用する。
【0122】
但し、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、それぞれの素子に入力された信号の位相関係を変えることなく加算できればよいことから、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aをともにキャパシタにより、あるいは帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aをともにインダクタにより形成するようにしてもよい。または、抵抗やキャパシタあるいはインダクタを組み合わせることにより、インピーダンスの実数分および虚数分の比を同時に調整しうるようにして各インピーダンス素子を形成してもよい。
【0123】
図21(A)には、タイプが異なる(一方が−型であって他方が+型である)2つの移相回路の後段に非反転回路50を配置した構成が示されている。このように、後段に非反転回路50を配置した場合には、この非反転回路50に出力バッファの機能を持たせることにより、大きな出力電流を取り出すこともできる。
【0124】
図21(B)には、タイプが異なる2つの移相回路の中間に非反転回路50を配置した構成が示されている。このように、中間に非反転回路50を配置した場合には、前段の移相回路10C等と後段の移相回路30L等の相互干渉を完全に防止することができる。
【0125】
図21(C)には、タイプが異なる2つの移相回路の前段に非反転回路50を配置した構成が示されており、図1に示した同調増幅器1や図11に示した同調増幅器1aに対応している。このように、前段に非反転回路50を配置した場合には、前段の移相回路10C等に対する帰還側インピーダンス素子70aや入力側インピーダンス素子74aの影響を最小限に抑えることができる。
【0126】
同様に、図22は、同タイプの2つの移相回路位相反転回路を組み合わせて同調増幅器を構成した場合において、2つの移相回路と位相反転回路80の接続状態を示す図である。なお、図21について説明したように、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、各同調増幅器の出力信号と入力信号とを所定の割合で加算するためのものであり、最も一般的には図1等に示すように、帰還側インピーダンス素子70aとして帰還抵抗70を、入力側インピーダンス素子74aとして入力抵抗74を使用する。但し、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、それぞれの素子に入力された信号の位相関係を変えることなく加算できればよいことから、キャパシタ等によって形成するようにしてもよい。
【0127】
図22(A)には、同タイプの2つの移相回路の後段に位相反転回路80を配置した構成が示されている。このように、後段に位相反転回路80を配置した場合には、この位相反転回路80に出力バッファの機能を持たせることにより、大きな出力電流を取り出すこともできる。
【0128】
図22(B)には、同タイプの2つの移相回路の間に位相反転回路80を配置した構成が示されている。このように、中間に位相反転回路80を配置した場合には、2つの移相回路間の相互干渉を完全に防止することができる。
【0129】
図22(C)には、2つの移相回路の前段に位相反転回路80を配置した構成が示されており、図18に示した同調増幅器1bや図19に示した同調増幅器1cに対応している。このように、前段に位相反転回路80を配置した場合には、前段の移相回路10C等に対する帰還側インピーダンス素子70aや入力側インピーダンス素子74aの影響を最小限に抑えることができる。
【0130】
また、上述した各実施例において示した移相回路には可変抵抗16あるいは36が含まれている。これらの可変抵抗16、36は、具体的には接合型あるいはMOS型のFETを用いて実現することができる。
【0131】
図23は、CR回路を有する2種類の移相回路10Cあるいは30C内の可変抵抗16あるいは36をFETに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、移相回路10Cにおいて可変抵抗16をFETに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、移相回路30Cにおいて可変抵抗36をFETに置き換えた構成が示されている。
【0132】
同様に、図24はLR回路を有する2種類の移相回路10Lあるいは30L内の可変抵抗16あるいは36をFETに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、移相回路10Lにおいて可変抵抗16をFETに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、移相回路30Lにおいて可変抵抗36をFETに置き換えた構成が示されている。
【0133】
このように、FETのソース・ドレイン間に形成されるチャネルを抵抗体として利用して可変抵抗16あるいは36の代わりに使用すると、ゲート電圧を可変に制御してこのチャネル抵抗をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができるため、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0134】
なお、図23あるいは図24に示した各移相回路は、可変抵抗を1つのFET、すなわちpチャネルあるいはnチャネルのFETによって構成したが、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのゲートとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加するようにしてもよい。抵抗値を可変する場合にはこのゲート電圧の大きさを変えればよい。このように、2つのFETを組み合わせて可変抵抗を構成することにより、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0135】
また、上述した各実施例において示した移相回路10Cあるいは30Cは、キャパシタ14あるいは34と直列に接続された可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変化させて位相シフト量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしたが、キャパシタ14、34を可変容量素子によって形成し、その静電容量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしてもよい。
【0136】
図25は、各実施例において示した移相回路10Cあるいは30C内のキャパシタ14あるいは34を可変容量ダイオードに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、図1等に示した移相回路10Cにおいて、可変抵抗16を固定抵抗に置き換えるとともにキャパシタ14を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、図11等に示した移相回路30Cにおいて、可変抵抗36を固定抵抗に置き換えるとともにキャパシタ34を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。
【0137】
なお、図25(A)、(B)において、可変容量ダイオードに直列に接続されたキャパシタは、可変容量ダイオードのアノード・カソード間に逆バイアス電圧を印加する際にその直流電流を阻止するためのものであり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。また、図25(A)、(B)に示したキャパシタの両端の電位は直流成分をみると一定であるため、交流成分の振幅より大きな逆バイアス電圧をアノード・カソード間に印加することにより、各可変容量ダイオードを容量可変のキャパシタとして機能させることができる。
【0138】
このように、キャパシタ14あるいは34を可変容量ダイオードで構成し、そのアノード・カソード間に印加する逆バイアス電圧の大きさを可変に制御してこの可変容量ダイオードの静電容量をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0139】
ところで、上述した図25(A)、(B)では可変容量素子として可変容量ダイオードを用いたが、ソースおよびドレインを直流的に固定電位に接続するとともにゲートに可変電圧を印加したFETを用いるようにしてもよい。上述したように、図25(A)、(B)に示した可変容量ダイオードの両端電位は直流的に固定されているため、これらの可変容量ダイオードを上述したFETに置き換えるだけでよく、ゲートに印加する電圧を可変することによりゲート容量、すなわちFETが有する静電容量を変えることができる。
【0140】
また、上述した図25(A)、(B)では可変容量ダイオードの静電容量のみを可変したが、同時に可変抵抗16あるいは36の抵抗値を可変するようにしてもよい。図25(C)には、図1等に示した移相回路10Cにおいて、可変抵抗16を用いるとともにキャパシタ14を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。同図(D)には、図11等に示した移相回路30Cにおいて、可変抵抗36を用いるとともにキャパシタ34を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。これらにおいて可変容量ダイオードをゲート容量可変のFETに置き換えてもよいことは当然である。
【0141】
また、図25(C)、(D)に示した可変抵抗を図23に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0142】
このように、可変抵抗と可変容量素子を組み合わせて移相回路を構成した場合であっても、可変抵抗の抵抗値および可変容量素子の静電容量をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0143】
同様に、上述した各実施例において示した移相回路10Lあるいは30Lは、インダクタ17あるいは37と直列に接続された可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変化させて位相シフト量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしたが、インダクタ17、37を可変インダクタによって形成し、そのインダクタンスを変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしてもよい。
【0144】
図26は、各実施例において示した移相回路10Lあるいは30L内のインダクタ17あるいは37を可変インダクタに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。
【0145】
同図(A)には、図11等に示した移相回路10Lにおいて、可変抵抗16を固定抵抗に置き換えるとともにインダクタ17を可変インダクタ17aに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、図1等に示した移相回路30Lにおいて、可変抵抗36を固定抵抗に置き換えるとともにインダクタ37を可変インダクタ37aに置き換えた構成が示されている。
【0146】
このように、インダクタ17あるいは37を可変インダクタ17aあるいは37aに置き換えて、それらが有するインダクタンスをある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調周波数を任意に変更することができる。
【0147】
ところで、上述した図26(A)、(B)では可変インダクタ17aあるいは37aのインダクタンスのみを可変したが、同時に可変抵抗16あるいは36の抵抗値を可変するようにしてもよい。図26(C)には、図11等に示した移相回路10Lにおいて、可変抵抗16を用いるとともにインダクタ17を可変インダクタ17aに置き換えた構成が示されている。同図(D)には、図1等に示した移相回路30Lにおいて、可変抵抗36を用いるとともにインダクタ37を可変インダクタ37aに置き換えた構成が示されている。
【0148】
また、図26(C)、(D)に示した可変抵抗を図24に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0149】
このように、可変抵抗と可変インダクタを組み合わせて移相回路を構成した場合であっても、可変抵抗の抵抗値および可変インダクタのインダクタンスをある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調周波数を任意に変更することができる。
【0150】
また、上述したように可変抵抗や可変容量素子あるいは可変インダクタを用いる場合の他、素子定数が異なる複数の抵抗やキャパシタあるいはインダクタを用意しておいて、スイッチを切り換えることにより、これら複数の素子の中から1つあるいは複数を選ぶようにしてもよい。この場合にはスイッチ切り換えにより接続する素子の個数および接続方法(直列接続、並列接続あるいはこれらの組み合わせ)によって、素子定数を不連続に切り換えることができる。
【0151】
例えば、可変抵抗の代わりに抵抗値がR、2R、4R、…といった2のn乗の系列の複数の抵抗を用意しておいて、1つあるいは任意の複数を選択して直列接続することにより、等間隔の抵抗値の切り換えをより少ない素子で容易に実現することができる。同様に、キャパシタの代わりに静電容量がC、2C、4C、…といった2のn乗の系列の複数のキャパシタを用意しておいて、1つあるいは任意の複数を選択して並列接続することにより、等間隔の静電容量の切り換えをより少ない素子で容易に実現することができる。このため、同調周波数が複数ある回路、例えばAMラジオに各実施例の同調増幅器を適用して、複数の放送局から1局を選局して受信するような用途に適している。
【0152】
図27は、図26に示した可変インダクタ17aの具体例を示す図であり、半導体基板上に形成された平面構造の概略が示されている。なお、同図に示す可変インダクタ17aの構造は、そのまま可変インダクタ37aにも適用することができる。
【0153】
同図に示す可変インダクタ17aは、半導体基板110上に形成された渦巻き形状のインダクタ導体112と、その外周を周回するように形成された制御用導体114と、これらインダクタ導体112および制御用導体114の両方を覆うように形成された絶縁性磁性体118とを含んで構成されている。
【0154】
上述した制御用導体114は、制御用導体114の両端に可変のバイアス電圧を印加するために可変電圧電源116が接続され、この可変電圧電源116によって印加する直流バイアス電圧を可変に制御することにより、制御用導体114に流れるバイアス電流を変化させることができる。
【0155】
また、半導体基板110は、例えばn型シリコン基板(n−Si基板)やその他の半導体材料(例えばゲルマニウムやアモルファスシリコン等の非晶質材料)が用いられる。また、インダクタ導体112は、アルミニウムや金等の金属薄膜あるいはポリシリコン等の半導体材料を渦巻き形状に形成されている。
【0156】
なお、図27に示した半導体基板110には、可変インダクタ17aの他に図11等に示した同調増幅器の他の構成部品が形成されている。
【0157】
図28は、図27に示した可変インダクタ17aのインダクタ導体112および制御用導体114の形状をさらに詳細に示す図である。
【0158】
同図に示すように、内周側に位置するインダクタ導体112は、所定ターン数(例えば約4ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの端子電極122、124が接続されている。同様に、外周側に位置する制御用導体114は、所定ターン数(例えば約2ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの制御電極126、128が接続されている。
【0159】
図29は、図28のA−A線拡大断面図であり、インダクタ導体112と制御用導体114を含む絶縁性磁性体118の横断面が示されている。
【0160】
同図に示すように、半導体基板110表面に絶縁性の磁性体膜118aを介してインダクタ導体112および制御用導体114が形成されており、さらにその表面に絶縁性の磁性体膜118bが被覆形成されている。これら2つの磁性体膜118a、118bによって図27に示した絶縁性磁性体118が形成されている。
【0161】
例えば、磁性体膜118a、118bとしては、ガンマ・フェライトやバリウム・フェライト等の各種磁性体膜を用いることができる。また、これらの磁性体膜の材質や形成方法については各種のものが考えられ、例えばFeO等を真空蒸着して磁性体膜を形成する方法や、その他分子線エピタキシー法(MBE法)、化学気相成長法(CVD法)、スパッタ法等を用いて磁性体膜を形成する方法等がある。
【0162】
なお、絶縁膜130は、非磁性体材料によって形成されており、インダクタ導体112および制御用導体114の各周回部分の間を覆っている。このようにして各周回部分間の磁性体膜118a、118bを排除することにより、各周回部分間に生じる漏れ磁束を最小限に抑えることができるため、インダクタ導体112が発生する磁束を有効に利用して大きなインダクタンスを有する可変インダクタ17aを実現することができる。
【0163】
このように、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114とを覆うように絶縁性磁性体118(磁性体膜118a、118b)が形成されており、制御用導体114に流す直流バイアス電流を可変に制御することにより、上述した絶縁性磁性体118を磁路とするインダクタ導体112の飽和磁化特性が変化し、インダクタ導体112が有するインダクタンスが変化する。
【0164】
したがって、インダクタ導体112のインダクタンスそのものを直接変化させることができ、しかも、半導体基板110上に薄膜形成技術や半導体製造技術を用いて形成することができるため製造が容易となる。さらに、半導体基板110上には同調増幅器1等の他の構成部品を形成することも可能であるため、各実施例の同調増幅器の全体を集積化によって一体形成する場合に適している。
【0165】
なお、図27等に示した可変インダクタ17aは、図30あるいは図31に示すように、インダクタ導体112と制御用導体114とを交互に周回させたり、インダクタ導体112と制御用導体114とを重ねて形成するようにしてもよい。いずれの場合であっても、制御用導体114に流す直流バイアス電流を変化させることにより絶縁性磁性体118の飽和磁化特性を変えることができ、インダクタ導体112が有するインダクタンスをある範囲で変化させることができる。
【0166】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、半導体基板110上にインダクタ導体112等を形成する場合を例にとり説明したが、セラミックス等の絶縁性あるいは導電性の各種基板上に形成するようにしてもよい。
【0167】
また、磁性体膜118a、118bとして絶縁性材料を用いたが、メタル粉(MP)のような導電性材料を用いるようにしてもよい。但し、このような導電性の磁性体膜を上述した絶縁性の磁性体膜118a等に置き換えて使用すると、インダクタ導体112等の各周回部分が短絡されてインダクタ導体として機能しなくなるため、各インダクタ導体と導電性の磁性体膜との間を電気的に絶縁する必要がある。この絶縁方法としては、インダクタ導体112等を酸化して絶縁酸化膜を形成する方法や、化学気相法等によりシリコン酸化膜あるいは窒化膜を形成する方法等がある。
【0168】
特に、メタル粉等の導電性材料は、ガンマ・フェライト等の絶縁性材料に比べると透磁率が大きいため、大きなインダクタンスを確保することができる利点がある。
【0169】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114の両方の全体を絶縁性磁性体118で覆うようにしたが、一部のみを覆って磁路を形成するようにしてもよい。
【0170】
図32は、絶縁性磁性体118を部分的に形成した可変インダクタを示す図である。同図に示すように、絶縁性磁性体118がインダクタ導体112と制御用導体114の一部を覆うように形成されており、この部分的に形成された絶縁性磁性体118によって磁路が形成される。このように、磁路となる絶縁性磁性体(あるいは導電性磁性体でもよい)118を部分的に形成した場合には、磁路が狭まることによりインダクタ導体112および制御用導体114によって生じる磁束が飽和しやすくなる。したがって、制御用導体114に少ないバイアス電流を流した場合であっても磁束が飽和し、少ないバイアス電流を可変に制御することによりインダクタ導体112のインダクタンスを変えることができる。このため、制御系の構造を簡略化することができる。
【0171】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114とを同心状に巻回して形成したが、これら各導体を半導体基板110表面の隣接した位置に形成してそれらの間を絶縁性あるいは導電性の磁性体によって形成した磁路によって磁気結合させてもよい。
【0172】
図33は、インダクタ導体と制御用導体とを隣接した位置に並べて形成した場合の可変インダクタ17bの概略を示す平面図である。
【0173】
同図に示す可変インダクタ17bは、半導体基板110上に形成された渦巻き形状のインダクタ導体112aと、このインダクタ導体112aと隣接した位置に形成された渦巻き形状の制御用導体114aと、インダクタ導体112aと制御用導体114aの各渦巻き中心を覆うように形成された絶縁性磁性体(あるいは導電性磁性体)119とを含んで構成されている。
【0174】
図27等に示した可変インダクタ17aと同様に、制御用導体114aにはその両端に可変のバイアス電圧を印加するために可変電圧電源116が接続されており、この可変電圧電源116によって印加するバイアス電圧を可変に制御することにより、制御用導体114aに流れる所定のバイアス電流を変化させることができる。
【0175】
図34は、図33に示した可変インダクタ17bのインダクタ導体112aおよび制御用導体114aの形状をさらに詳細に示した図である。
【0176】
同図に示すように、インダクタ導体112aは、所定ターン数(例えば約4ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの端子電極122、124が接続されている。同様に、インダクタ導体112aに隣接して配置された制御用導体114aは、所定ターン数(例えば約2ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの制御電極126、128が接続されている。
【0177】
図35は、図34のB−B線拡大断面図であり、インダクタ導体112aと制御用導体114aを含む絶縁性磁性体119の横断面が示されている。
【0178】
同図に示すように、半導体基板110表面に絶縁性の磁性体膜119aおよび絶縁性の非磁性体膜132が形成されており、その表面にインダクタ導体112aおよび制御用導体114aがそれぞれ形成されている。そして、これらインダクタ導体112aと制御用導体114aの各中心部を貫くようにさらに表面に絶縁性の磁性体膜119bが被覆形成されている。これら2つの磁性体膜119a、119bによってインダクタ導体112aと制御用導体114aの共通の磁路となる環状の磁性体119が形成されている。
【0179】
なお、図35に示した絶縁性の非磁性体膜132は、磁性体膜119aとほぼ同じ膜厚を有しており、さらにそれらの表面においてインダクタ導体112aと制御用導体114aのそれぞれをほぼ同じ高さに形成するためのものである。したがって、インダクタ導体112aおよび制御用導体114aに多少の段差が生じてもよい場合には、非磁性体膜132を形成せずに、半導体基板110上に直接インダクタ導体112aおよび制御用導体114aの一部を形成するようにしてもよい。
【0180】
また、磁性体膜119a表面のインダクタ導体112aおよび制御用導体114aの各周回部分の間には、図27等に示した可変インダクタ17aと同様に絶縁膜130が形成されている。このように部分的に絶縁膜130を充填して各周回部分間の磁性体膜119a、119bを排除することにより、各周回部分間に生じる漏れ磁束を最小限に抑えることができるため、インダクタ導体112aによって発生した磁束は、そのほとんどが磁性体膜119a、119bを通って制御用導体114aと交差するようになる。したがって、漏れ磁束を少なくすることにより、インダクタ導体112aが発生する磁束を有効に利用して大きなインダクタンスを得ることができる。
【0181】
このように、上述した可変インダクタ17bは、インダクタ導体112aと制御用導体114aの各渦巻き中心を通るように環状の絶縁性磁性体119(磁性体膜119a、119b)が形成されている。したがって、制御用導体114aに流す直流バイアス電流を可変に制御することにより、上述した磁性体119を磁路とするインダクタ導体112aの飽和磁化特性が変化し、インダクタ導体112aが有するインダクタンスも変化する。
【0182】
また、上述した各実施例の同調増幅器1等を半導体基板上に形成した場合には、移相回路10C、30C内のキャパシタ14あるいは34としてあまり大きな静電容量を設定することができない。したがって、半導体基板上に実際に形成したキャパシタの小さな静電容量を、回路を工夫することにより見かけ上大きくすることができれば、時定数Tを大きな値に設定して同調周波数の低周波数化を図る際に都合がよい。
【0183】
図36は、図1等に示した移相回路10C、30Cに用いたキャパシタ14あるいは34を素子単体ではなく回路によって構成した変形例を示す図であり、実際に半導体基板上に形成されるキャパシタの静電容量を見かけ上大きくみせる静電容量変換回路として機能する。なお、図36に示した回路全体が移相回路10Cあるいは30Cに含まれるキャパシタ14あるいは34に対応している。
【0184】
図36に示す静電容量変換回路14aは、所定の静電容量C0を有するキャパシタ210と、2つのオペアンプ212、214と、4つの抵抗216、218、220、222とを含んで構成されている。
【0185】
1段目のオペアンプ212は、出力端子と反転入力端子との間に抵抗218(この抵抗値をR18とする)が接続されており、さらにこの反転入力端子が抵抗216(この抵抗値をR16とする)を介して接地されている。
【0186】
1段目のオペアンプ212の非反転入力端子に印加される電圧E1と出力端子に現れる電圧E2との間には、
【数26】
の関係がある。この1段目のオペアンプ212は、主にインピーダンス変換を行うバッファとして機能するものであり、利得は1であってもよい。利得1の場合とはR18/R16=0のとき、すなわちR16を無限大(抵抗216を除去すればよい)、あるいはR18を0Ω(直結すればよい)に設定する。
【0187】
また、2段目のオペアンプ214は、出力端子と反転入力端子との間に抵抗222(この抵抗値をR22とする)が接続されているとともに反転入力端子と上述したオペアンプ212の出力端子との間に抵抗220(この抵抗値をR20とする)が接続されており、さらに非反転入力端子が接地されている。
【0188】
2段目のオペアンプ214の出力端子に現れる電圧をE3とすると、この電圧E3と1段目のオペアンプ212の出力端子に現れる電圧E2との間には、
【数27】
の関係がある。このように2段目のオペアンプ214は反転増幅器として機能するものであり、その入力側を高インピーダンスに設定するために1段目のオペアンプ212が使用されている。
【0189】
また、このような接続がなされた1段目のオペアンプ212の非反転入力端子と2段目のオペアンプ214の出力端子との間には、上述したように所定の静電容量を有するキャパシタ210が接続されている。
【0190】
図36に示した静電容量変換回路14aにおいて、キャパシタ210を除く回路全体の伝達関数をK4とすると、静電容量変換回路14aは図37に示すシステム図で表すことができる。図38は、これをミラーの定理によって変換したシステム図である。
【0191】
図37に示したインピーダンスZ0を用いて図38に示したインピーダンスZ1を表すと、
【数28】
となる。ここで、図36に示した静電容量変換回路14aの場合には、インピーダンスZ0=1/(jωC0)であり、これを(28)式に代入して、
【数29】
C=(1−K4)CO …(30)
となる。この(30)式は、静電容量変換回路14aにおいてキャパシタ210が有する静電容量C0が見掛け上は(1−K4)倍になったことを示している。
【0192】
したがって、利得K4が負の場合には常に(1−K4)は1より大きくなるため、静電容量C0を大きいほうに変化させることができる。
【0193】
ところで、図36に示した静電容量変換回路14aにおける増幅器の利得、すなわちオペアンプ212と214の全体により構成される増幅器の利得K4は、(26)式および(27)式から、
【数31】
となる。この(31)式を(30)式に代入すると、
【数32】
となる。したがって、4つの抵抗216、218、220、222の抵抗値を所定の値に設定することにより、2つの端子224、226間の見掛け上の静電容量Cを大きくすることができる。
【0194】
また、1段目のオペアンプ212による増幅器の利得が1の場合、すなわち上述したようにR16を無限大(抵抗216を除去)、あるいはR18を0Ωに設定したときであってR18/R16=0の場合には、上述した(32)式は簡略化されて、
【数33】
となる。
【0195】
図39は、図36に示した第1のオペアンプ212の反転入力端子に接続されている抵抗216を除去した静電容量変換回路14bの構成を示す図である。この場合には、端子224、226間に現れる静電容量Cは(33)式により表されるため、R22とR20の比を変化させるだけでC0を大きいほうに変化させることができる。
【0196】
このように、上述した静電容量変換回路14aあるいは14bは、抵抗220と抵抗222との抵抗比R22/R20あるいは抵抗216と抵抗218との抵抗比R18/R16を変えることにより、実際に半導体基板上に形成するキャパシタ210の静電容量C0を見掛け上大きい方に変換することができる。そのため、半導体基板上に図1等に示した同調増幅器1等の全体を形成するような場合には、半導体基板上に小さな静電容量C0を有するキャパシタ210を形成しておいて、図36あるいは図39に示した回路によって大きな静電容量Cに変換することができ、集積化に際して好都合となる。
【0197】
また、抵抗216、218、220、222の中の少なくとも1つ(図39に示した静電容量変換回路14bの場合は抵抗220、222の少なくとも1つ)を可変抵抗により形成することにより、具体的には接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続して可変抵抗を形成することにより、容易に静電容量が可変の静電容量変換回路を形成することができる。したがって、この静電容量変換回路を図25に示した可変容量ダイオードの代わりに使用することにより、位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、各実施例の同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0198】
なお、上述したように第1段目のオペアンプ212は入力インピーダンスを高くするためのバッファとして用いているため、このオペアンプ212をエミッタホロワ回路あるいはソースホロワ回路に置き換えるようにしてもよい。
【0199】
図40は、1段目にエミッタホロワ回路を用いた静電容量変換回路14cの構成を示す図である。同図に示す静電容量変換回路14cは、図36に示した1段目のオペアンプ212および2つの抵抗216、218をバイポーラトランジスタと抵抗からなるエミッタホロワ回路228に置き換えた構成を有している。
【0200】
図41は、1段目にソースホロワ回路を用いた静電容量変換回路14dの構成を示す図である。同図に示す静電容量変換回路14dは、図36に示した1段目のオペアンプ212および2つの抵抗216、218をFETと抵抗からなるソースホロワ回路230に置き換えた構成を有している。
【0201】
また、上述した静電容量変換回路14c、14dのそれぞれは、オペアンプ214に接続されている抵抗220、222の抵抗比を変えることにより端子224、226間の見掛け上の静電容量Cを任意に変化させることができる点は図36等に示した静電容量変換回路14a等と同じである。したがって、抵抗220、222の少なくとも一方を、接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続した可変抵抗に置き換えることにより、静電容量が可変の静電容量変換回路を構成することができ、この静電容量変換回路を図25に示した可変容量ダイオードの代わりに使用することにより、位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、各実施例の同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0202】
ところで、上述した図36〜図41では、所定の利得を有する増幅器とキャパシタとを組み合わせることにより、見かけ上の静電容量を実際にキャパシタ素子が有する静電容量より大きくする場合を説明したが、キャパシタの代わりにインダクタを用い、このインダクタが有するインダクタンスを見かけ上大きくすることもできる。
【0203】
すなわち、上述したように図37に示したインピーダンスZ0を用いて図38に示したインピーダンスZ1を表すと(28)式のようになる。ここで、インダクタンスL0を有するインダクタの場合には、インピーダンスZ0=jωL0であり、これを(28)式に代入して、
【数34】
【数35】
となる。この(35)式は、実際にインダクタ素子が有するインダクタンスが見かけ上1/(1−K4)倍になったことを示しており、利得K4が0から1の間に設定されているときには見かけ上のインダクタンスが大きくなることがわかる。
【0204】
図42は、図11等に示した移相回路10L、30Lに用いたインダクタ17あるいは37を素子単体ではなく回路によって構成した変形例を示す図であり、実際に半導体基板上に形成されるインダクタ素子(インダクタ導体)のインダクタンスを見かけ上大きくみせるインダクタンス変換回路として機能する。なお、図42に示した回路全体が移相回路10L、30Lに含まれるインダクタ17あるいは37に対応している。
【0205】
図42に示すインダクタンス変換回路17cは、所定のインダクタンスL0を有するインダクタ260と、2つのオペアンプ262、264と、2つの抵抗266、268とを含んで構成されている。
【0206】
1段目のオペアンプ262は、出力端子が反転入力端子に接続された利得1の非反転増幅器であって、主にインピーダンス変換を行うバッファとして機能する。同様に、2段目のオペアンプ264も出力端子が反転入力端子に接続されており、利得1の非反転増幅器として機能する。また、これら2つの非反転増幅器の間には抵抗266と268による分圧回路が挿入されている。
【0207】
このように、間に分圧回路を挿入することにより、2つの非反転増幅器を含む増幅器全体の利得を0から1の間で自由に設定することができる。
【0208】
図42に示したインダクタンス変換回路17cにおいて、インダクタ260を除く回路(増幅器)全体の伝達関数をK4とすると、この利得K4は抵抗266と268によって構成される分圧回路の分圧比によって決まり、それぞれの抵抗値をR66、R68とすると、
【数36】
となる。この利得K4を(35)式に代入して見かけ上のインダクタンスLを計算すると、
【数37】
となる。したがって、抵抗266と268の抵抗比R68/R66を大きくすることにより、2つの端子254、256間の見かけ上のインダクタンスLを大きくすることができる。例えば、R68=R66の場合には、(37)式からインダクタンスLをL0の2倍にすることができる。
【0209】
このように、上述したインダクタンス変換回路17cは、2つの非反転増幅器の間に挿入された分圧回路の分圧比を変えることにより、実際に接続されているインダクタ260のインダクタンスL0を見かけ上大きくすることができる。そのため、半導体基板上に図1等に示した同調増幅器1等の全体を形成するような場合には、半導体基板上に小さなインダクタンスL0を有するインダクタ260をスパイラル状の導体等によって形成しておいて、図42に示したインダクタンス変換回路によって大きなインダクタンスLに変換することができ、集積化に際して好都合となる。特に、このようにして大きなインダクタンスを確保することができれば、図1に示した同調増幅器1等の同調周波数を比較的低い周波数領域まで下げることが容易となる。また、集積化を行うことにより、同調増幅器全体の実装面積を小型化して、材料コスト等の低減も可能となる。
【0210】
なお、抵抗266、268による分圧回路の分圧比を固定した場合の他、これら2つの抵抗266、268の少なくとも一方を可変抵抗により形成することにより、具体的には接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続して可変抵抗を形成することにより、この分圧比を連続的に変化させてもよい。この場合には、図42に示したオペアンプ262、264を含んで構成される増幅器全体の利得が変わり、端子254、256間のインダクタンスLも連続的に変化する。したがって、このインダクタンス変換回路17cを図26に示した可変インダクタ17a等の代わりに使用することにより、各移相回路における位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、上述した同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0211】
また、図42に示したインダクタンス変換回路17cは、2つのオペアンプ262、264を含む増幅器全体の利得が1以下に設定されているため、全体をエミッタホロワ回路あるいはソースホロワ回路に置き換えるようにしてもよい。
【0212】
図43は、オペアンプ262、264を含む増幅器全体をエミッタホロワ回路に置き換えたインダクタンス変換回路の構成を示す図である。同図(A)に示すインダクタンス変換回路17dは、エミッタに2つの抵抗274、276が接続されたバイポーラトランジスタ278と、この2つの抵抗274、276による分圧点とトランジスタ278のベースとの間に接続されたインダクタ260と、直流電流阻止用のキャパシタ280とを含んで構成されている。インダクタ260の一方端側に挿入されたキャパシタ280は、周波数特性に影響を与えないようにそのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量に設定されている。
【0213】
上述したエミッタホロワ回路の利得は、主に2つの抵抗274、276の抵抗比に応じて決まり、しかもその利得は常に1未満であるため、(35)式からわかるように、実際にインダクタ260が有するインダクタンスL0を見掛け上大きくすることができる。しかも、1つのエミッタホロワ回路を用いているだけであり、回路構成が簡略化でき、最高動作周波数も高く設定することができる。
【0214】
図43(B)はその変形例を示す図であり、同図(A)の2つの抵抗274、276を可変抵抗282に置き換えた点が異なっている。このように可変抵抗282を用いることにより、利得を任意にしかも連続的に変化させることができるため、見掛け上のインダクタンスLも任意にしかも連続的に変化させることができ、このインダクタンス変換回路17eを図26に示した可変インダクタ17aの代わりに使用することにより、各移相回路における位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、上述した同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0215】
なお、図43(B)に示したインダクタンス変換回路17eは、同図(A)の2つの抵抗274、276を1つの可変抵抗282に置き換えているが、これら2つの抵抗274、276の少なくとも一方を可変抵抗によって構成するようにしてもよい。
【0216】
図44は、図43(A)および(B)に示したインダクタンス変換回路17d、17eのそれぞれをソースホロワ回路によって実現したものであり、バイポーラトランジスタ278をFET284に置き換えたものである。図44(A)が図43(A)に、図44(B)が図43(B)にそれぞれ対応している。
【0217】
図45は、図42に示したインダクタンス変換回路17cの変形例を示す図である。図45に示すインダクタンス変換回路17fは、npn型のバイポーラトランジスタ286およびそのエミッタに接続された抵抗290と、pnp型のバイポーラトランジスタ288とそのエミッタに接続された抵抗292と、インダクタンスL0を有するインダクタ260とを含んで構成されている。
【0218】
上述した一方のトランジスタ286と抵抗290により第1のエミッタホロワ回路が、他方のトランジスタ288と抵抗292により第2のエミッタホロワ回路がそれぞれ形成され、それらが縦続接続されている。しかも、npn型のトランジスタ286とpnp型のトランジスタ288を用いているため、インダクタ260の一方端であるトランジスタ286のベース電位とトランジスタ288のエミッタ電位とをほぼ同じに設定することができ、直流電流阻止用のキャパシタが不要となる。
【0219】
なお、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0220】
例えば、上述した各実施例の同調増幅器においては、移相回路10C、10Lあるいは移相回路30C、30L内の差動増幅器12、32によって2入力の差分を2倍に増幅して各移相回路の出力とすることにより、同調増幅器のループゲインをほぼ1に設定するようにしたが、差動増幅器12、32の増幅度をこれ以外の値に設定してもよい。例えば、各差動増幅器12、32において2入力の差分を増幅せずに、あるいは2倍以外の増幅度で増幅して出力するとともに、非反転回路50あるいは位相反転回路80の増幅度を調整して同調増幅器のループゲインをほぼ1に設定するようにしてもよい。
【0221】
また、図1等に示した各同調増幅器においては、帰還側インピーダンス素子として抵抗値が固定の帰還抵抗70を用い、入力側インピーダンス素子として抵抗値が固定の入力抵抗74を用いるようにしたが、少なくとも一方の抵抗を可変抵抗により構成して最大減衰量を任意に変更可能に形成してもよい。この場合に、可変抵抗を図23に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0222】
同様に、帰還側インピーダンス素子および入力側インピーダンス素子をキャパシタとした場合には少なくとも一方を可変容量ダイオードやゲート容量可変のFETにより構成して最大減衰量を任意に変更可能に形成してもよい。
【0223】
また、上述した実施例の同調増幅器1等には2つの移相回路が含まれているが、同調周波数を可変する場合には、両方の移相回路に含まれるCR回路あるいはLR回路を構成する抵抗とキャパシタあるいはインダクタの少なくとも1つの素子定数を変える場合の他、一方の移相回路に含まれるCR回路あるいはLR回路を構成する抵抗とキャパシタあるいはインダクタの少なくとも1つの素子定数を変える場合が考えられる。あるいは、図1等に示した各移相回路内の可変抵抗16、36等を抵抗値が固定の抵抗に置き換えて、同調周波数が固定の同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0224】
【発明の効果】
以上の各実施例に基づく説明から明らかなように、同調周波数が高い場合にはこの発明の同調増幅器を構成する各素子は集積回路の製法によって形成することが可能であるから、同調増幅器を半導体ウエハ上に集積回路として小型に形成でき、大量生産によって安価に作ることができる。また、各移相回路内のインダクタのインダクタンスをインダクタンス変換回路を用いて、あるいはキャパシタの静電容量を静電容量変換回路を用いて大きいほうに変換することができ、同調周波数を低周波化することもできる。
【0225】
特に、各移相回路におけるCR回路あるいはLR回路の可変抵抗としてFETのソース・ドレイン間のチャネルを使用し、このFETのゲートに印加する制御電圧を変化させてチャネルの抵抗を変化させるように構成すると、制御電圧を印加する配線のインダクタンスや静電容量の影響を回避することができ、ほぼ設計どおりの理想的な特性を備えた同調増幅器を得ることができる。
【0226】
また、この発明の同調増幅器は、最大減衰量が入力側インピーダンス素子と帰還側インピーダンス素子の抵抗比によって決まるとともに、同調周波数が各移相回路におけるCR回路あるいはLR回路の時定数によって決まるため、最大減衰量や同調周波数および同調周波数における利得を互いに干渉しあうことなく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を適用した第1実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図2】図1に示した前段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図3】前段の移相回路の入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図4】図2に示した移相回路を等価的に表した図、
【図5】図1に示した後段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図6】後段の移相回路の入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図7】図5に示した移相回路を等価的に表した図、
【図8】2つの移相回路および非反転回路の全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えたシステム図、
【図9】図8に示すシステムをミラーの定理によって変換したシステム図、
【図10】この実施例の同調増幅器の同調特性を示す図、
【図11】この発明を適用した第2実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図12】図11に示した前段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図13】前段の移相回路の入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図14】図12に示した移相回路を等価的に表した図、
【図15】図11に示した後段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図16】後段の移相回路の入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図17】図15に示した移相回路を等価的に表した図、
【図18】第3実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図19】第4実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図20】非反転回路および位相反転回路の具体例を示す図、
【図21】移相回路と非反転回路との接続形態を示す図、
【図22】移相回路と位相反転回路との接続形態を示す図、
【図23】移相回路の可変抵抗をFETに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図24】移相回路の可変抵抗をFETに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図25】移相回路のキャパシタを可変容量ダイオードに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図26】移相回路のインダクタを可変インダクタに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図27】可変インダクタの一例を示す図、
【図28】図27に示した可変インダクタのインダクタ導体および制御用導体の形状をさらに詳細に示す図、
【図29】図28のA−A線拡大断面図、
【図30】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図31】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図32】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図33】可変インダクタの他の例を示す図、
【図34】図33に示した可変インダクタのインダクタ導体および制御用導体の形状をさらに詳細に示す図、
【図35】図34のB−B線拡大断面図、
【図36】キャパシタが実際に有する静電容量を見かけ上大きくする静電容量変換回路の構成を示す図、
【図37】図36に示した回路を伝達関数を用いて表した図、
【図38】図37に示す構成をミラーの定理によって変換した図、
【図39】図36の回路を簡略化した静電容量変換回路の構成を示す図、
【図40】1段目にエミッタホロワ回路を用いた静電容量変換回路の構成を示す図、
【図41】1段目にソースホロワ回路を用いた静電容量変換回路の構成を示す図、
【図42】インダクタが実際に有するインダクタンスを見かけ上大きくするインダクタンス変換回路の構成を示す図、
【図43】図42に含まれる2つのオペアンプを含む増幅器全体をエミッタホロワ回路に置き換えたインダクタンス変換回路の構成を示す図、
【図44】図43の回路をソースホロワ回路によって実現した構成を示す図、
【図45】インダクタンス変換回路の変形例を示す図、
【図46】従来の同調増幅器における同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量の関係の一例を示す特性曲線図である。
【符号の説明】
1 同調増幅器
10C、30L 移相回路
12、32 差動増幅器
14、39 キャパシタ
16、36 可変抵抗
37 インダクタ
18、20、38、40 抵抗
50 非反転回路
70 帰還抵抗
74 入力抵抗
90 入力端子
92 出力端子
【産業上の利用分野】
この発明は、同調周波数と最大減衰量とを互いに干渉することなく、任意に調整し得る同調増幅器に関する。
【0002】
【従来の技術】
同調増幅器として従来より能動素子およびリアクタンス素子を使用した各種の増幅回路が提案され実用化されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の同調増幅器においては、同調周波数を調整すると、LC回路に依存するQと利得が変化し、最大減衰量を調整すると同調周波数が変化したり、また、図46の特性曲線AおよびBに示すように、最大減衰量を調整すると同調周波数における利得が変化するので、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量C1、C2を互いに干渉しあうことなく調整することは極めて困難であった。
【0004】
さらに、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器を集積回路によって形成することも困難であった。
【0005】
そこで、この発明は、このような課題を解決するために考えられたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、この発明の同調増幅器は、
入力信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路を縦続接続し、これら縦続接続された2つの移相回路の中の前段の移相回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、後段の移相回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、前記第1および第2の移相回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0007】
また、この発明の同調増幅器は、
入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を変えずに出力する非反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記非反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0008】
また、この発明の同調増幅器は、
入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を反転して出力する位相反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記位相反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする。
【0009】
また、この発明の同調増幅器は、
入力側インピーダンス素子を介して入力された交流信号を同相で出力する非反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記非反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路とは反対方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還側インピーダンス素子を介して前記非反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、この発明の同調増幅器は、
入力抵抗を介して入力された交流信号を反転して出力する位相反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記位相反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路と同じ方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還抵抗を介して前記位相反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
【実施例】
以下、この発明を適用した一実施例の同調増幅器について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0012】
(第1実施例)
図1は、この発明を適用した第1実施例の同調増幅器の構成を示す回路図である。同図に示す同調増幅器1は、入力信号の位相を変えずに出力する非反転回路50と、それぞれが入力信号の位相を所定量シフトさせることにより所定の周波数において合計で0°の位相シフトを行う2つの移相回路10C、30Lと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路30Lから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。なお、非反転回路50はバッファ回路として機能するものであるが、基本動作のみに着目した場合には省略してもよい。
【0013】
図2は、図1に示した前段の移相回路10Cの構成を抜き出して示したものである。同図に示す前段の移相回路10Cは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器12と、入力端22に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器12の非反転入力端子に入力するキャパシタ14および可変抵抗16と、入力端22に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器12の反転入力端子に入力する抵抗18および20とを含んで構成されている。なお、可変抵抗16と抵抗20の接続点が接地されている場合を考えて以下の説明を行うものとする。
【0014】
このような構成を有する移相回路10Cにおいて、所定の交流信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の反転入力端子には、入力端22に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗18と抵抗20とによって分圧した電圧が印加される。抵抗18および20の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗18、20の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器12の反転入力端子に印加される。
【0015】
一方、入力信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の非反転入力端子には、キャパシタ14と可変抵抗16の接続点に現れる信号が入力される。キャパシタ14と可変抵抗16により構成されるCR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのCR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器12の非反転入力端子には印加される。
【0016】
差動増幅器12は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0017】
図3は、移相回路10Cの入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0018】
同図に示すように、可変抵抗16の両端に現れる電圧VR1とキャパシタ14の両端に現れる電圧VC1は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図3に示す半円の円周に沿って可変抵抗16の両端電圧VR1とキャパシタ14の両端電圧VC1とが変化する。
【0019】
また、差動増幅器12の非反転入力端子に印加される電圧(可変抵抗16の両端電圧VR1)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗20の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図3に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VR1と電圧VC1とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器12はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路10Cにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0020】
また、図3から明らかなように、電圧VR1と電圧VC1とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VR1との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って90°から0°まで変化する。そして、移相回路10C全体の位相シフト量φ1はその2倍であり、周波数に応じて180°から0°まで変化する。
【0021】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0022】
図4は、前段の移相回路10Cを等価的に表した図であり、差動増幅器12の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0023】
抵抗18および20により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、抵抗18、20のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図4に示す等価回路の閉ループに流れる電流Iは、キャパシタ14の静電容量をC、可変抵抗16の抵抗値をRとすると、
【数1】
となる。ここで、図4に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数2】
となる。上述した(2)式に(1)式を代入して計算すると、
【数3】
となる。また、この実施例の移相回路10Cの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数4】
となる。ここで、キャパシタ14と可変抵抗16からなるCR回路の時定数をT(=CR)とした。
【0024】
この(4)式においてs=jωを代入して変形すると、
【数5】
となる。(5)式から出力電圧Eoの絶対値を求めると、
【数6】
となる。すなわち、(6)式は、この実施例の移相回路10Cは入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は入力信号の振幅に等しく一定であることを表している。
【0025】
また、(5)式から出力電圧Eoの入力電圧Eiに対する位相シフト量φ1を求めると、
【数7】
となる。この(7)式から、例えばωがほぼ1/T(=1/(CR))となるような周波数における位相シフト量φ1はほぼ90°となり、入力信号の振幅を減衰させることなく位相のみをほぼ90°シフトさせることができる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量φ1がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0026】
図5は、図1に示した後段の移相回路30Lの構成を抜き出して示したものである。同図に示す後段の移相回路30Lは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器32と、入力端42に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器32の非反転入力端子に入力するインダクタ37および可変抵抗36と、入力端42に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器32の反転入力端子に入力する抵抗38および40とを含んで構成されている。
【0027】
なお、インダクタ37に直列に挿入されているキャパシタ39は直流電流阻止用であり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。
【0028】
このような構成を有する移相回路30Lにおいて、所定の交流信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の反転入力端子には、入力端42に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗38と抵抗40とによって分圧した電圧が印加される。抵抗38および40の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗38、40の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器32の反転入力端子に印加される。
【0029】
一方、入力信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の非反転入力端子には、インダクタ37と可変抵抗36の接続点に現れる信号が入力される。インダクタ37と可変抵抗36により構成されるLR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのLR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器32の非反転入力端子には印加される。
【0030】
差動増幅器32は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0031】
図6は、移相回路30Lの入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0032】
同図に示すように、可変抵抗36の両端に現れる電圧VR2とインダクタ37の両端に現れる電圧VL1は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図6に示す半円の円周に沿って可変抵抗36の両端電圧VR2とインダクタ37の両端電圧VL1とが変化する。
【0033】
また、差動増幅器32の非反転入力端子に印加される電圧(可変抵抗36の両端電圧VR2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗40の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図6に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VR2と電圧VL1とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器32はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路30Lにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0034】
また、図6から明らかなように、電圧VR2と電圧VL1とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VR2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って0°から90°まで変化する。そして、移相回路30L全体の位相シフト量φ2はその2倍であり、周波数に応じて0°から180°まで変化する。
【0035】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0036】
図7は、後段の移相回路30Lを等価的に表した図であり、差動増幅器32の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0037】
抵抗38および40により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、前段の移相回路10Cの場合と同様に、抵抗38、40のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図7に示す等価回路の閉ループに流れる電流I′は、インダクタ37のインダクタンスをL、可変抵抗36の抵抗値をRとすると、
【数8】
となる。ここで、図7に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数9】
となる。上述した(9)式に(8)式を代入して計算すると、
【数10】
となる。また、この実施例の移相回路30Lの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数11】
となる。ここで、説明を簡単なものとするために、移相回路10C内のCR回路の時定数と同様に移相回路30L内のLR回路の時定数をT(=L/R)とした。
【0038】
(11)式においてs=jωを代入して変形すると、
【数12】
となる。
【0039】
上述した(11)式および(12)式は、前段の移相回路10Cについて示した(4)式および(5)式と符号のみ異なっている。したがって、出力電圧Eoの絶対値は(6)式をそのまま適用することができ、後段の移相回路30Lは入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は入力信号の振幅に等しく一定であることがわかる。
【0040】
また、(12)式から出力電圧Eoの入力電圧Eiに対する位相シフト量φ2を求めると、
【数13】
となる。この(13)式から、例えばωがほぼ1/T(=R/L)となるような周波数における位相シフト量φ2はほぼ90°となり、入力信号の振幅を減衰させることなく位相のみをほぼ90°シフトさせることができる。しかも、可変抵抗36の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量φ2がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0041】
このようにして、2つの移相回路10C、30Lのそれぞれにおいて位相が所定量シフトされる。しかも、図3および図6に示すように、各移相回路10C、30Lにおける入出力電圧の相対的な位相関係は反対方向であって、ある周波数において2つの移相回路10C、30Lの全体により位相シフト量が0°の信号が出力される。
【0042】
また、後段の移相回路30Lの出力は、帰還抵抗70を介して移相回路10Cの前段に設けられた非反転回路50の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算される。この加算された信号は、バッファ回路として機能する非反転回路50を介して移相回路10Cの入力端(図2に示した入力端22)に入力される。
【0043】
このような帰還ループを形成することにより、ある周波数において帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、非反転回路50や2つの移相回路10C、30Lの各増幅度を調整して、同調増幅器1全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0044】
図8は、上述した構成を有する2つの移相回路10C、30Lおよび非反転回路50の全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えたシステム図であり、伝達関数K1を有する回路と並列に抵抗R0を有する帰還抵抗70が、直列に帰還抵抗70のn倍の抵抗値(nR0)を有する入力抵抗74が接続されている。図9は、図8に示すシステムをミラーの定理によって変換したシステム図であり、変換後のシステム全体の伝達関数Aは、
【数14】
で表すことができる。
【0045】
ところで、(4)式から明らかなように、前段の移相回路10Cの伝達関数K2は、
【数15】
であり、(11)式から明らかなように、後段の移相回路30の伝達関数K3は、
【数16】
である。したがって、移相回路10C、30Lを2段縦続接続した場合の全体の伝達関数K1は、
【数17】
となる。この(17)式を上述した(14)式に代入すると、
【数18】
となる。
【0046】
この(18)式によれば、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(2つの移相回路10、30の各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であることがわかる。換言すれば、図10に示すように、nの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0047】
このように、この実施例の同調増幅器1によれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10C、30L内の可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0048】
また、この実施例の同調増幅器1において、インダクタ37は、写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ37を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1の全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0049】
また、前段の移相回路10CのCR回路の時定数TはCRであり、後段の移相回路30LのLR回路の時定数TはL/Rであって、それぞれにおいて抵抗値Rが分母と分子に分かれるため、例えば半導体基板上に同調増幅器1の全体を形成するとともに各可変抵抗16、36をFETで形成したような場合には、この抵抗値の温度変化に対する同調周波数の変動を抑制する、いわゆる温度補償が可能となる。この温度補償が可能な点については、以下に示す各実施例の同調増幅器も同じである。
【0050】
なお、上述した第1実施例の同調増幅器1では、前段に移相回路10Cを、後段に移相回路30Lをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Lを、後段に移相回路10Cをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0051】
(第2実施例)
図11は、この発明を適用した第2実施例の同調増幅器の構成を示す回路図である。同図に示す同調増幅器1aは、第1実施例の同調増幅器1と同様に、入力信号の位相を変えずに出力する非反転回路50と、それぞれが入力信号の位相を所定量シフトさせることにより所定の周波数において合計で0°の位相シフトを行う2つの移相回路10L、30Cと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより移相回路30Cから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。なお、第1実施例の同調増幅器1と同様に、非反転回路50はバッファ回路として機能するものであるが、基本動作のみに着目した場合には省略してもよい。
【0052】
図12は、図11に示した前段の移相回路10Lの構成を抜き出して示したものである。同図に示す前段の移相回路10Lは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器12と、入力端22に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器12の非反転入力端子に入力する可変抵抗16およびインダクタ17と、入力端22に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器12の反転入力端子に入力する抵抗18および20とを含んで構成されている。
【0053】
なお、インダクタ17と可変抵抗16との間に挿入されているキャパシタ19は直流電流阻止用であり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。また、インダクタ17と抵抗20の接続点が接地されている場合を考えて以下の説明を行うものとする。
【0054】
このような構成を有する移相回路10Lにおいて、所定の交流信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の反転入力端子には、入力端22に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗18と抵抗20とによって分圧した電圧が印加される。抵抗18および20の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗18、20の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器12の反転入力端子に印加される。
【0055】
一方、入力信号が入力端22に入力されると、差動増幅器12の非反転入力端子には、インダクタ17と可変抵抗16の接続点(正確にはインダクタ17に直列に接続されたキャパシタ19と可変抵抗16の接続点であるが、上述したようにこのキャパシタ19は直流電流阻止用であって動作に影響を与えないため基本動作の説明を行う場合には省略することができる)に現れる信号が入力される。可変抵抗16とインダクタ17により構成されるLR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのLR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器12の非反転入力端子には印加される。
【0056】
差動増幅器12は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0057】
図13は、移相回路10Lの入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0058】
同図に示すように、インダクタ17の両端に現れる電圧VL2と可変抵抗16の両端に現れる電圧VR3は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図13に示す半円の円周に沿ってインダクタ17の両端電圧VL2と可変抵抗16の両端電圧VR3とが変化する。
【0059】
また、差動増幅器12の非反転入力端子に印加される電圧(インダクタ17の両端電圧VL2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗20の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図13に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VL2と電圧VR3とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器12はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路10Lにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0060】
また、図13から明らかなように、電圧VL2と電圧VR3とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VL2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って90°から0°まで変化する。そして、移相回路10L全体の位相シフト量φ3はその2倍であり、周波数に応じて180°から0°まで変化する。
【0061】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0062】
図14は、前段の移相回路10Lを等価的に表した図であり、差動増幅器12の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0063】
抵抗18および20により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、第1実施例の同調増幅器1に含まれる移相回路10Cや30Lと同様に、抵抗18、20のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図14に示す等価回路の閉ループに流れる電流I′は、インダクタ17のインダクタンスをL、可変抵抗16の抵抗値をRとすると、上述した(8)式で表すことができる。
【0064】
ここで、図14に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数19】
となる。上述した(19)式に(8)式を代入して計算すると、
【数20】
となる。また、この実施例の移相回路10Lの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数21】
となる。ここで、移相回路10L内のLR回路の時定数を第1実施例で示した2つの移相回路10C、30L内のCR回路あるいはLR回路の各時定数と同じTとした。
【0065】
この(21)式は第1実施例で示した(4)式と同じであり、この実施例の移相回路10Lは、第1実施例の移相回路10Cと同じ入出力電圧間の関係を有していることがわかる。したがって、移相回路10Lでは、入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は一定となる。
【0066】
また、出力電圧Eoの入力電圧に対する位相シフト量φ3は上述した(7)式で表されたφ1がそのまま適用され、例えばωがほぼ1/T(=R/L)となるような周波数における位相シフト量はほぼ90°となる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0067】
図15は、図11に示した後段の移相回路30Cの構成を抜き出して示したものである。同図に示す後段の移相回路30Cは、2入力の差分電圧を所定の増幅度(例えば約2倍)で増幅して出力する差動増幅器32と、入力端42に入力された信号の位相を所定量シフトさせて差動増幅器32の非反転入力端子に入力する可変抵抗36およびキャパシタ34と、入力端42に入力された信号の位相を変えずにその電圧レベルを約1/2に分圧して差動増幅器32の反転入力端子に入力する抵抗38および40とを含んで構成されている。
【0068】
このような構成を有する移相回路30Cにおいて、所定の交流信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の反転入力端子には、入力端42に印加される電圧(入力電圧Ei)を抵抗38と抵抗40とによって分圧した電圧が印加される。抵抗38および40の各抵抗値はほぼ等しく設定されており、これら2つの抵抗38、40の直列回路により構成される分圧回路によって約1/2に分圧された電圧Ei/2が差動増幅器32の反転入力端子に印加される。
【0069】
一方、入力信号が入力端42に入力されると、差動増幅器32の非反転入力端子には、可変抵抗36とキャパシタ34の接続点に現れる信号が入力される。可変抵抗36とキャパシタ34により構成されるCR回路(直列回路)の一方端には入力信号が入力されているため、入力信号の位相をこのCR回路によって所定量シフトした信号の電圧が差動増幅器32の非反転入力端子には印加される。
【0070】
差動増幅器32は、このようにして2つの入力端子に印加される電圧の差分を所定の増幅度、例えば約2倍に増幅した信号を出力する。
【0071】
図16は、移相回路30Cの入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図である。
【0072】
同図に示すように、キャパシタ34の両端に現れる電圧VC2と可変抵抗36の両端に現れる電圧VR4は、互いに位相が90°ずれており、これらをベクトル的に合成(加算)したものが入力電圧Eiとなる。したがって、入力信号の振幅が一定で周波数のみが変化した場合には、図16に示す半円の円周に沿ってキャパシタ34の両端電圧VC2と可変抵抗36の両端電圧VR4とが変化する。
【0073】
また、差動増幅器32の非反転入力端子に印加される電圧(キャパシタ34の両端電圧VC2)から反転入力端子に印加される電圧(抵抗40の両端電圧Ei/2)をベクトル的に減算したものが差分電圧Eo′となる。この差分電圧Eo′は、図16に示した半円において、その中心点を始点とし、電圧VC2と電圧VR4とが交差する円周上の一点を終点とするベクトルで表すことができ、その大きさは半円の半径Ei/2に等しくなる。実際には、差動増幅器32はこの差分電圧Eo′を2倍に増幅しており、出力電圧Eo=Eo′×2=Eiとなる。したがって、この実施例の移相回路30Cにおいて、入力信号の振幅と出力信号の振幅とは等しく、入出力信号間で信号の減衰が生じないことがわかる。
【0074】
また、図16から明らかなように、電圧VC2と電圧VR4とは円周上で直角に交わるため、入力電圧Eiと電圧VC2との位相差は、周波数ωが0から∞まで変化するに従って0°から90°まで変化する。そして、移相回路30C全体の位相シフト量φ4はその2倍であり、周波数に応じて0°から180°まで変化する。
【0075】
次に、上述した入出力電圧間の関係を定量的に検証する。
【0076】
図17は、後段の移相回路30Cを等価的に表した図であり、差動増幅器32の入力側に設けられた2つの直列回路に対応する構成が示されている。
【0077】
抵抗38および40により構成される直列回路の両端には入力電圧Eiが印加されるため、前段の移相回路10Lの場合と同様に、抵抗38、40のそれぞれは電圧Ei/2を発生する2つの電圧源27、28に置き換えて考えることができる。このとき、図17に示す等価回路の閉ループに流れる電流Iは、可変抵抗36の抵抗値をR、キャパシタ34の静電容量をCとすると、第1実施例で示した(1)式で表すことができる。
【0078】
ここで、図17に示す2点間の電位差(差分)Eo′を求めると、
【数22】
となる。上述した(22)式に(1)式を代入して計算すると、
【数23】
となる。また、この実施例の移相回路30Cの出力電圧Eoは、上述した差分Eo′を2倍したものであるから、
【数24】
となる。ここで、移相回路30C内のCR回路の時定数を前段の移相回路10Lの場合と同様にT(=CR)とした。
【0079】
この(24)式は第1実施例で示した(11)式と同じであり、この実施例の移相回路30Cは、第1実施例の移相回路30Lと同じ入出力電圧間の関係を有していることがわかる。したがって、移相回路30Cでは、入出力間の位相がどのように回転しても、その出力信号の振幅は一定となる。
【0080】
また、出力電圧Eoの入力電圧に対する位相シフト量φ4は上述した(13)式で表されたφ2がそのまま適用され、例えばωがほぼ1/T(=1/(CR))となるような周波数における位相シフト量はほぼ90°となる。しかも、可変抵抗16の抵抗値Rを可変することにより、位相シフト量がほぼ90°となる周波数ωを変化させることができる。
【0081】
このようにして、2つの移相回路10L、30Cのそれぞれにおいて位相が所定量シフトされる。しかも、図13および図16に示すように、各移相回路10L、30Cにおける入出力電圧の相対的な位相関係は反対方向であって、ある周波数において2つの移相回路10L、30Cの全体により位相シフト量が0°の信号が出力される。
【0082】
また、後段の移相回路30Cの出力は、帰還抵抗70を介して移相回路10Lの前段に設けられた非反転回路50の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算される。この加算された信号は、バッファ回路として機能する非反転回路50を介して移相回路10Lの入力端(図12に示した入力端22)に入力される。
【0083】
このような帰還ループを形成することにより、ある周波数において帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、非反転回路50や2つの移相回路10L、30Cの各増幅度を調整して、同調増幅器1a全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0084】
ところで、上述した2つの移相回路10L、30Cを含む第2実施例の同調増幅器1aは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0085】
また、(21)式および(24)式から明らかなように、この実施例の2つの移相回路10L、30Cの各伝達関数は、第1実施例の2つの移相回路10C、30Lの各伝達関数と同じであり、2つの移相回路10L、30Cを接続した全体の伝達関数K1は(17)式に示したものをそのまま適用することができる。このため、第2実施例の同調増幅器1aの全体の伝達関数も(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0086】
したがって、第2実施例の同調増幅器1aは、第1実施例の同調増幅器1と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(2つの移相回路10L、30Cの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0087】
このように、この実施例の同調増幅器1aによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10L、30C内の可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0088】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ17は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ17を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1aの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0089】
なお、上述した第2実施例の同調増幅器1aでは、前段に移相回路10Lを、後段に移相回路30Cをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Cを、後段に移相回路10Lをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0090】
(第3実施例)
上述した第1実施例の同調増幅器1や第2実施例の同調増幅器1aは、入出力間の相対的な位相関係が反対となる2つの移相回路を組み合わせて構成したが、この相対的な位相関係が同じとなる2つの移相回路を組み合わせて同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0091】
図1に示す同調増幅器1に含まれる一方の移相回路10Cや図11に示す同調増幅器1aに含まれる移相回路10Lのそれぞれの入出力電圧間には(4)式あるいは(21)式で表される関係が成立する。以下では、図2あるいは図12に示す構成を有する移相回路10Cあるいは10Lを(4)式中の分数の符号を用いて便宜上「−型の移相回路」と称して説明を行う。
【0092】
また、図1に示す同調増幅器1に含まれる移相回路30Lや図11に示す同調増幅器1aに含まれる移相回路30Cのそれぞれの入出力電圧間には(11)式あるいは(24)式で表される関係が成立する。以下では、図5あるいは図15に示す構成を有する移相回路30Cあるいは30Lを(11)式中の分数の符号を用いて便宜上「+型の移相回路」と称して説明を行う。
【0093】
このように各移相回路を便宜上2つのタイプに分類した場合には、第1実施例の同調増幅器1および第2実施例の同調増幅器1aは、タイプが異なる2つの移相回路を組み合わせることにより、全体としての位相シフト量が0°となる周波数において同調動作を行うようになっている。
【0094】
ところで、1つの−型の移相回路10C(あるいは10L)の後段に信号の位相を反転させる位相反転回路を接続した場合のその全体の入出力間の関係に着目すると、(4)式において分数の符号「−」を反転して「+」にすればよく、1つの−型の移相回路10Cの後段に位相反転回路を接続した構成が1つの+型の移相回路に等価であるといえる。同様に、1つの+型の移相回路30L(あるいは30C)の後段に信号の位相を反転させる位相反転回路を接続した場合のその全体の入出力間の関係に着目すると、(11)式において分数の符号「+」を反転して「−」にすればよく、1つの+型の移相回路の後段に位相反転回路を接続した構成が1つの−型の移相回路に等価であるといえる。
【0095】
したがって、第1実施例においてタイプが異なる2つの移相回路を用いて同調増幅器を構成する代わりに、同タイプの2つの移相回路と位相反転回路を組み合わせて同調増幅器を構成することができる。
【0096】
図18は、第3実施例の同調増幅器の構成を示す図である。同図に示す同調増幅器1bは、入力信号の位相を反転する位相反転回路80と、図2あるいは図12に示す−型の2つの移相回路10Cおよび10Lと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路10Lから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。
【0097】
このような構成を有する同調増幅器1bにおいて、ある周波数において2つの移相回路10C、10Lによって位相が180°シフトされるとともに、位相反転回路80によって位相が反転されるため、全体として信号の位相シフト量が0°となる。例えば、前段の移相回路10C内のCR回路の時定数と後段の移相回路10L内のLR回路の時定数が同じであると仮定し、その値をTとおくと、ω=1/Tの周波数では2つの移相回路10C、10Lのそれぞれにおける位相シフト量が90°となる。したがって、位相反転回路80によって位相が反転されるとともに、2つの移相回路10C、10Lの全体によって位相が180°シフトされ、全体として、位相が一巡して位相シフト量が0°となる信号が後段の移相回路10Cから出力される。
【0098】
また、後段の移相回路10Lの出力は、帰還抵抗70を介して位相反転回路80の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算され、この加算された信号が位相反転回路80に入力されている。
【0099】
このような帰還ループを形成することにより、位相反転回路80によって信号の位相が反転されるとともに、ある周波数において2つの移相回路10C、10Lによって位相が180°シフトされ、全体として帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、位相反転回路80や2つの移相回路10C、10Lの各増幅度を調整して、同調増幅器1b全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0100】
ところで、上述した位相反転回路80および2つの移相回路10C、10Lは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例や第2実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0101】
また、移相回路10Cおよび10Lの各伝達関数をともにK2とすると、このK2は(15)式で表されるため、位相反転回路80と移相回路10C、10Lとを接続した場合の全体の伝達関数K1は、
【数25】
となる。この(25)式で求めた伝達関数K1は、(17)式で求めた第1実施例の同調増幅器1の2つの移相回路10C、30Lの全体の伝達関数K1と同じであり、同調増幅器1bの全体の伝達関数は(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0102】
したがって、第3実施例の同調増幅器1bは、第1実施例の同調増幅器1等と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(移相回路10Cおよび10Lの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0103】
このように、この実施例の同調増幅器1bによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路10C、10L内の可変抵抗16の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0104】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ17は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ17を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1bの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0105】
なお、この実施例の同調増幅器1bでは、前段に移相回路10Cを、後段に移相回路10Lをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路10Lを、後段に移相回路10Cをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0106】
(第4実施例)
上述した第3実施例の同調増幅器1bでは−型の2つの移相回路を接続した場合を説明したが、+型の移相回路を2段接続することにより同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0107】
図19は、第4実施例の同調増幅器の構成を示す図である。同図に示す同調増幅器1cは、入力信号の位相を反転する位相反転回路80と、図5あるいは図15に示す+型の2つの移相回路30L、30Cと、帰還抵抗70および入力抵抗74(入力抵抗74は帰還抵抗70の抵抗値のn倍の抵抗値を有しているものとする)のそれぞれを介することにより後段の移相回路30Cから出力される信号(帰還信号)と入力端子90に入力される信号(入力信号)とを所定の割合で加算する加算回路とを含んで構成されている。
【0108】
上述した第1実施例および第2実施例で説明したように、+型の2つの移相回路30L、30Cのそれぞれは、入力信号の周波数ωが0から∞まで変化するにしたがって位相シフト量が0°から180°まで変化する。例えば、移相回路30L内のLR回路の時定数と移相回路30C内のCR回路の時定数が同じであると仮定し、その値をTとおくと、ω=1/Tの周波数では2つの移相回路30L、30Cのそれぞれにおける位相シフト量が90°となる。したがって、2つの移相回路30L、30Cの全体によって位相が180°シフトされるとともに、前段に設けられた位相反転回路80によって位相が反転されるため、全体として、位相が一巡して位相シフト量が0°となる信号が後段の移相回路30Cから出力される。
【0109】
また、後段の移相回路30Cの出力は、帰還抵抗70を介して位相反転回路80の入力側に帰還されており、この帰還された信号と入力抵抗74を介して入力される信号とが加算され、この加算された信号が位相反転回路80に入力されている。
【0110】
このような帰還ループを形成することにより、位相反転回路80によって信号の位相が反転されるとともに、ある周波数において2つの移相回路30L、30Cによって位相が180°シフトされ、全体として帰還ループを一巡する信号の位相シフト量が0°となる。このとき、位相反転回路80や2つの移相回路30L、30Cの各増幅度を調整して、同調増幅器1c全体のループゲインをほぼ1に設定することにより、同調動作が行われる。
【0111】
ところで、上述した位相反転回路80および2つの移相回路30L、30Cは、その全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えると、第1実施例の場合と同様に、図8に示すシステム図で表すことができる。したがって、ミラーの定理によって変換することにより図9に示すシステム図で表すことができ、変換後のシステム全体の伝達関数Aは(14)式で表すことができる。
【0112】
また、移相回路30Lおよび30Cの各伝達関数をともにK3とすると、このK3は(16)式で表される。この伝達関数K3は、(15)式に示す移相回路10C、10Lの伝達関数K2の符号「−」を「+」に変えただけであるため、位相反転回路80と移相回路30L、30Cを接続した場合の全体の伝達関数K1は、第3実施例と同様に(25)式に示したものをそのまま適用することができる。このため、同調増幅器1cの全体の伝達関数も(18)式に示したAをそのまま適用することができる。
【0113】
したがって、第4実施例の同調増幅器1cは、第1実施例の同調増幅器1等と同様の特性を有しており、ω=0(直流の領域)のときにA=−1/(2n+1)となって、最大減衰量を与えることがわかる。また、ω=∞のときにも最大減衰量を与えることがわかる。さらに、ω=1/Tの同調点(移相回路30Lおよび30Cの各時定数が異なる場合であってそれぞれをT1、T2とした場合には、ω=1/√(T1・T2)の同調点)においてはA=1であって帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nに無関係であって、図10に示すようにnの値を変化させても同調点がずれることなく、かつ同調点の減衰量も変化しない。
【0114】
このように、この実施例の同調増幅器1cによれば、帰還抵抗70と入力抵抗74の抵抗比nを変えても同調周波数および同調時の利得が一定であり、最大減衰量のみを変化させることができる。反対に、最大減衰量は上述した抵抗比nによって決定されるため、各移相回路30L、30C内の可変抵抗36の抵抗値を変えて同調周波数を変えた場合であっても、この最大減衰量に影響を与えることはなく、同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量を互いに干渉しあうことなく調整することができる。
【0115】
また、第1実施例等と同様に、インダクタ37は写真触刻法等によりスパイラル状の導体を形成することによって半導体基板上へ形成することが可能となるが、このようなインダクタ37を用いることにより、それ以外の構成部品(差動増幅器や抵抗等)とともに半導体基板上に形成することができることから、同調周波数および最大減衰量を調整し得る同調増幅器1cの全体を半導体基板上に形成して集積回路とすることも容易である。
【0116】
なお、この実施例の同調増幅器1cでは、前段に移相回路30Lを、後段に移相回路30Cをそれぞれ配置したが、これらの全体によって入出力信号間の位相シフト量が0°となればよいことから、これらの前後を入れ換えて前段に移相回路30Cを、後段に移相回路30Lをそれぞれ配置して同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0117】
(その他の実施例)
上述した各実施例の同調増幅器に含まれる非反転回路50あるいは位相反転回路80は、トランジスタやオペアンプや抵抗等を組み合わせて簡単に構成することができる。
【0118】
図20は、オペアンプを用いて構成した非反転回路と位相反転回路の具体例を示す図である。同図(A)に示す非反転回路50は、反転入力端子が抵抗54を介して接地されているとともにこの反転入力端子と出力端子との間に抵抗56が接続されたオペアンプ52を含んで構成されており、2つの抵抗54、56の抵抗比によって定まる所定の増幅度を有するバッファとして機能する。オペアンプ52の非反転入力端子に交流信号が入力されると、オペアンプ52の出力端子からは同相の信号が出力される。
【0119】
また、同図(B)に示す位相反転回路80は、入力信号が抵抗84を介して反転入力端子に入力されるとともに非反転入力端子が接地されたオペアンプ82と、このオペアンプ82の反転入力端子と出力端子との間に接続された抵抗86とを含んで構成されている。この位相反転回路80は、2つの抵抗84、86の抵抗比によって定まる所定の増幅度を有しており、抵抗84を介してオペアンプ82の反転入力端子に交流信号が入力されると、オペアンプ82の出力端子からは位相が反転した逆相の信号が出力される。
【0120】
ところで、上述した各実施例の同調増幅器は、2つの移相回路と非反転回路あるいは位相反転回路によって構成されており、接続された複数の回路の全体によって所定の周波数において合計の位相シフト量を0°にすることにより所定の同調動作を行うようになっている。したがって、位相シフト量だけに着目すると、移相回路と非反転回路あるいは位相反転回路とをどのような順番で接続するかはある程度の自由度があり、必要に応じて接続順番を決めることができる。
【0121】
図21は、タイプが異なる2つの移相回路と非反転回路とを組み合わせて同調増幅器を構成した場合において、2つの移相回路と非反転回路50の接続状態を示す図である。なお、これらの図において、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、各同調増幅器の出力信号と入力信号とを所定の割合で加算するためのものであり、最も一般的には図1等に示すように、帰還側インピーダンス素子70aとして帰還抵抗70を、入力側インピーダンス素子74aとして入力抵抗74を使用する。
【0122】
但し、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、それぞれの素子に入力された信号の位相関係を変えることなく加算できればよいことから、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aをともにキャパシタにより、あるいは帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aをともにインダクタにより形成するようにしてもよい。または、抵抗やキャパシタあるいはインダクタを組み合わせることにより、インピーダンスの実数分および虚数分の比を同時に調整しうるようにして各インピーダンス素子を形成してもよい。
【0123】
図21(A)には、タイプが異なる(一方が−型であって他方が+型である)2つの移相回路の後段に非反転回路50を配置した構成が示されている。このように、後段に非反転回路50を配置した場合には、この非反転回路50に出力バッファの機能を持たせることにより、大きな出力電流を取り出すこともできる。
【0124】
図21(B)には、タイプが異なる2つの移相回路の中間に非反転回路50を配置した構成が示されている。このように、中間に非反転回路50を配置した場合には、前段の移相回路10C等と後段の移相回路30L等の相互干渉を完全に防止することができる。
【0125】
図21(C)には、タイプが異なる2つの移相回路の前段に非反転回路50を配置した構成が示されており、図1に示した同調増幅器1や図11に示した同調増幅器1aに対応している。このように、前段に非反転回路50を配置した場合には、前段の移相回路10C等に対する帰還側インピーダンス素子70aや入力側インピーダンス素子74aの影響を最小限に抑えることができる。
【0126】
同様に、図22は、同タイプの2つの移相回路位相反転回路を組み合わせて同調増幅器を構成した場合において、2つの移相回路と位相反転回路80の接続状態を示す図である。なお、図21について説明したように、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、各同調増幅器の出力信号と入力信号とを所定の割合で加算するためのものであり、最も一般的には図1等に示すように、帰還側インピーダンス素子70aとして帰還抵抗70を、入力側インピーダンス素子74aとして入力抵抗74を使用する。但し、帰還側インピーダンス素子70aおよび入力側インピーダンス素子74aは、それぞれの素子に入力された信号の位相関係を変えることなく加算できればよいことから、キャパシタ等によって形成するようにしてもよい。
【0127】
図22(A)には、同タイプの2つの移相回路の後段に位相反転回路80を配置した構成が示されている。このように、後段に位相反転回路80を配置した場合には、この位相反転回路80に出力バッファの機能を持たせることにより、大きな出力電流を取り出すこともできる。
【0128】
図22(B)には、同タイプの2つの移相回路の間に位相反転回路80を配置した構成が示されている。このように、中間に位相反転回路80を配置した場合には、2つの移相回路間の相互干渉を完全に防止することができる。
【0129】
図22(C)には、2つの移相回路の前段に位相反転回路80を配置した構成が示されており、図18に示した同調増幅器1bや図19に示した同調増幅器1cに対応している。このように、前段に位相反転回路80を配置した場合には、前段の移相回路10C等に対する帰還側インピーダンス素子70aや入力側インピーダンス素子74aの影響を最小限に抑えることができる。
【0130】
また、上述した各実施例において示した移相回路には可変抵抗16あるいは36が含まれている。これらの可変抵抗16、36は、具体的には接合型あるいはMOS型のFETを用いて実現することができる。
【0131】
図23は、CR回路を有する2種類の移相回路10Cあるいは30C内の可変抵抗16あるいは36をFETに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、移相回路10Cにおいて可変抵抗16をFETに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、移相回路30Cにおいて可変抵抗36をFETに置き換えた構成が示されている。
【0132】
同様に、図24はLR回路を有する2種類の移相回路10Lあるいは30L内の可変抵抗16あるいは36をFETに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、移相回路10Lにおいて可変抵抗16をFETに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、移相回路30Lにおいて可変抵抗36をFETに置き換えた構成が示されている。
【0133】
このように、FETのソース・ドレイン間に形成されるチャネルを抵抗体として利用して可変抵抗16あるいは36の代わりに使用すると、ゲート電圧を可変に制御してこのチャネル抵抗をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができるため、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0134】
なお、図23あるいは図24に示した各移相回路は、可変抵抗を1つのFET、すなわちpチャネルあるいはnチャネルのFETによって構成したが、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのゲートとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加するようにしてもよい。抵抗値を可変する場合にはこのゲート電圧の大きさを変えればよい。このように、2つのFETを組み合わせて可変抵抗を構成することにより、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0135】
また、上述した各実施例において示した移相回路10Cあるいは30Cは、キャパシタ14あるいは34と直列に接続された可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変化させて位相シフト量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしたが、キャパシタ14、34を可変容量素子によって形成し、その静電容量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしてもよい。
【0136】
図25は、各実施例において示した移相回路10Cあるいは30C内のキャパシタ14あるいは34を可変容量ダイオードに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。同図(A)には、図1等に示した移相回路10Cにおいて、可変抵抗16を固定抵抗に置き換えるとともにキャパシタ14を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、図11等に示した移相回路30Cにおいて、可変抵抗36を固定抵抗に置き換えるとともにキャパシタ34を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。
【0137】
なお、図25(A)、(B)において、可変容量ダイオードに直列に接続されたキャパシタは、可変容量ダイオードのアノード・カソード間に逆バイアス電圧を印加する際にその直流電流を阻止するためのものであり、そのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量を有している。また、図25(A)、(B)に示したキャパシタの両端の電位は直流成分をみると一定であるため、交流成分の振幅より大きな逆バイアス電圧をアノード・カソード間に印加することにより、各可変容量ダイオードを容量可変のキャパシタとして機能させることができる。
【0138】
このように、キャパシタ14あるいは34を可変容量ダイオードで構成し、そのアノード・カソード間に印加する逆バイアス電圧の大きさを可変に制御してこの可変容量ダイオードの静電容量をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0139】
ところで、上述した図25(A)、(B)では可変容量素子として可変容量ダイオードを用いたが、ソースおよびドレインを直流的に固定電位に接続するとともにゲートに可変電圧を印加したFETを用いるようにしてもよい。上述したように、図25(A)、(B)に示した可変容量ダイオードの両端電位は直流的に固定されているため、これらの可変容量ダイオードを上述したFETに置き換えるだけでよく、ゲートに印加する電圧を可変することによりゲート容量、すなわちFETが有する静電容量を変えることができる。
【0140】
また、上述した図25(A)、(B)では可変容量ダイオードの静電容量のみを可変したが、同時に可変抵抗16あるいは36の抵抗値を可変するようにしてもよい。図25(C)には、図1等に示した移相回路10Cにおいて、可変抵抗16を用いるとともにキャパシタ14を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。同図(D)には、図11等に示した移相回路30Cにおいて、可変抵抗36を用いるとともにキャパシタ34を可変容量ダイオードに置き換えた構成が示されている。これらにおいて可変容量ダイオードをゲート容量可変のFETに置き換えてもよいことは当然である。
【0141】
また、図25(C)、(D)に示した可変抵抗を図23に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0142】
このように、可変抵抗と可変容量素子を組み合わせて移相回路を構成した場合であっても、可変抵抗の抵抗値および可変容量素子の静電容量をある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0143】
同様に、上述した各実施例において示した移相回路10Lあるいは30Lは、インダクタ17あるいは37と直列に接続された可変抵抗16あるいは36の抵抗値を変化させて位相シフト量を変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしたが、インダクタ17、37を可変インダクタによって形成し、そのインダクタンスを変化させることにより全体の同調周波数を変えるようにしてもよい。
【0144】
図26は、各実施例において示した移相回路10Lあるいは30L内のインダクタ17あるいは37を可変インダクタに置き換えた場合の移相回路の構成を示す図である。
【0145】
同図(A)には、図11等に示した移相回路10Lにおいて、可変抵抗16を固定抵抗に置き換えるとともにインダクタ17を可変インダクタ17aに置き換えた構成が示されている。同図(B)には、図1等に示した移相回路30Lにおいて、可変抵抗36を固定抵抗に置き換えるとともにインダクタ37を可変インダクタ37aに置き換えた構成が示されている。
【0146】
このように、インダクタ17あるいは37を可変インダクタ17aあるいは37aに置き換えて、それらが有するインダクタンスをある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調周波数を任意に変更することができる。
【0147】
ところで、上述した図26(A)、(B)では可変インダクタ17aあるいは37aのインダクタンスのみを可変したが、同時に可変抵抗16あるいは36の抵抗値を可変するようにしてもよい。図26(C)には、図11等に示した移相回路10Lにおいて、可変抵抗16を用いるとともにインダクタ17を可変インダクタ17aに置き換えた構成が示されている。同図(D)には、図1等に示した移相回路30Lにおいて、可変抵抗36を用いるとともにインダクタ37を可変インダクタ37aに置き換えた構成が示されている。
【0148】
また、図26(C)、(D)に示した可変抵抗を図24に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0149】
このように、可変抵抗と可変インダクタを組み合わせて移相回路を構成した場合であっても、可変抵抗の抵抗値および可変インダクタのインダクタンスをある範囲で任意に変化させて各移相回路における位相シフト量を変えることができる。したがって、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、同調周波数を任意に変更することができる。
【0150】
また、上述したように可変抵抗や可変容量素子あるいは可変インダクタを用いる場合の他、素子定数が異なる複数の抵抗やキャパシタあるいはインダクタを用意しておいて、スイッチを切り換えることにより、これら複数の素子の中から1つあるいは複数を選ぶようにしてもよい。この場合にはスイッチ切り換えにより接続する素子の個数および接続方法(直列接続、並列接続あるいはこれらの組み合わせ)によって、素子定数を不連続に切り換えることができる。
【0151】
例えば、可変抵抗の代わりに抵抗値がR、2R、4R、…といった2のn乗の系列の複数の抵抗を用意しておいて、1つあるいは任意の複数を選択して直列接続することにより、等間隔の抵抗値の切り換えをより少ない素子で容易に実現することができる。同様に、キャパシタの代わりに静電容量がC、2C、4C、…といった2のn乗の系列の複数のキャパシタを用意しておいて、1つあるいは任意の複数を選択して並列接続することにより、等間隔の静電容量の切り換えをより少ない素子で容易に実現することができる。このため、同調周波数が複数ある回路、例えばAMラジオに各実施例の同調増幅器を適用して、複数の放送局から1局を選局して受信するような用途に適している。
【0152】
図27は、図26に示した可変インダクタ17aの具体例を示す図であり、半導体基板上に形成された平面構造の概略が示されている。なお、同図に示す可変インダクタ17aの構造は、そのまま可変インダクタ37aにも適用することができる。
【0153】
同図に示す可変インダクタ17aは、半導体基板110上に形成された渦巻き形状のインダクタ導体112と、その外周を周回するように形成された制御用導体114と、これらインダクタ導体112および制御用導体114の両方を覆うように形成された絶縁性磁性体118とを含んで構成されている。
【0154】
上述した制御用導体114は、制御用導体114の両端に可変のバイアス電圧を印加するために可変電圧電源116が接続され、この可変電圧電源116によって印加する直流バイアス電圧を可変に制御することにより、制御用導体114に流れるバイアス電流を変化させることができる。
【0155】
また、半導体基板110は、例えばn型シリコン基板(n−Si基板)やその他の半導体材料(例えばゲルマニウムやアモルファスシリコン等の非晶質材料)が用いられる。また、インダクタ導体112は、アルミニウムや金等の金属薄膜あるいはポリシリコン等の半導体材料を渦巻き形状に形成されている。
【0156】
なお、図27に示した半導体基板110には、可変インダクタ17aの他に図11等に示した同調増幅器の他の構成部品が形成されている。
【0157】
図28は、図27に示した可変インダクタ17aのインダクタ導体112および制御用導体114の形状をさらに詳細に示す図である。
【0158】
同図に示すように、内周側に位置するインダクタ導体112は、所定ターン数(例えば約4ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの端子電極122、124が接続されている。同様に、外周側に位置する制御用導体114は、所定ターン数(例えば約2ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの制御電極126、128が接続されている。
【0159】
図29は、図28のA−A線拡大断面図であり、インダクタ導体112と制御用導体114を含む絶縁性磁性体118の横断面が示されている。
【0160】
同図に示すように、半導体基板110表面に絶縁性の磁性体膜118aを介してインダクタ導体112および制御用導体114が形成されており、さらにその表面に絶縁性の磁性体膜118bが被覆形成されている。これら2つの磁性体膜118a、118bによって図27に示した絶縁性磁性体118が形成されている。
【0161】
例えば、磁性体膜118a、118bとしては、ガンマ・フェライトやバリウム・フェライト等の各種磁性体膜を用いることができる。また、これらの磁性体膜の材質や形成方法については各種のものが考えられ、例えばFeO等を真空蒸着して磁性体膜を形成する方法や、その他分子線エピタキシー法(MBE法)、化学気相成長法(CVD法)、スパッタ法等を用いて磁性体膜を形成する方法等がある。
【0162】
なお、絶縁膜130は、非磁性体材料によって形成されており、インダクタ導体112および制御用導体114の各周回部分の間を覆っている。このようにして各周回部分間の磁性体膜118a、118bを排除することにより、各周回部分間に生じる漏れ磁束を最小限に抑えることができるため、インダクタ導体112が発生する磁束を有効に利用して大きなインダクタンスを有する可変インダクタ17aを実現することができる。
【0163】
このように、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114とを覆うように絶縁性磁性体118(磁性体膜118a、118b)が形成されており、制御用導体114に流す直流バイアス電流を可変に制御することにより、上述した絶縁性磁性体118を磁路とするインダクタ導体112の飽和磁化特性が変化し、インダクタ導体112が有するインダクタンスが変化する。
【0164】
したがって、インダクタ導体112のインダクタンスそのものを直接変化させることができ、しかも、半導体基板110上に薄膜形成技術や半導体製造技術を用いて形成することができるため製造が容易となる。さらに、半導体基板110上には同調増幅器1等の他の構成部品を形成することも可能であるため、各実施例の同調増幅器の全体を集積化によって一体形成する場合に適している。
【0165】
なお、図27等に示した可変インダクタ17aは、図30あるいは図31に示すように、インダクタ導体112と制御用導体114とを交互に周回させたり、インダクタ導体112と制御用導体114とを重ねて形成するようにしてもよい。いずれの場合であっても、制御用導体114に流す直流バイアス電流を変化させることにより絶縁性磁性体118の飽和磁化特性を変えることができ、インダクタ導体112が有するインダクタンスをある範囲で変化させることができる。
【0166】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、半導体基板110上にインダクタ導体112等を形成する場合を例にとり説明したが、セラミックス等の絶縁性あるいは導電性の各種基板上に形成するようにしてもよい。
【0167】
また、磁性体膜118a、118bとして絶縁性材料を用いたが、メタル粉(MP)のような導電性材料を用いるようにしてもよい。但し、このような導電性の磁性体膜を上述した絶縁性の磁性体膜118a等に置き換えて使用すると、インダクタ導体112等の各周回部分が短絡されてインダクタ導体として機能しなくなるため、各インダクタ導体と導電性の磁性体膜との間を電気的に絶縁する必要がある。この絶縁方法としては、インダクタ導体112等を酸化して絶縁酸化膜を形成する方法や、化学気相法等によりシリコン酸化膜あるいは窒化膜を形成する方法等がある。
【0168】
特に、メタル粉等の導電性材料は、ガンマ・フェライト等の絶縁性材料に比べると透磁率が大きいため、大きなインダクタンスを確保することができる利点がある。
【0169】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114の両方の全体を絶縁性磁性体118で覆うようにしたが、一部のみを覆って磁路を形成するようにしてもよい。
【0170】
図32は、絶縁性磁性体118を部分的に形成した可変インダクタを示す図である。同図に示すように、絶縁性磁性体118がインダクタ導体112と制御用導体114の一部を覆うように形成されており、この部分的に形成された絶縁性磁性体118によって磁路が形成される。このように、磁路となる絶縁性磁性体(あるいは導電性磁性体でもよい)118を部分的に形成した場合には、磁路が狭まることによりインダクタ導体112および制御用導体114によって生じる磁束が飽和しやすくなる。したがって、制御用導体114に少ないバイアス電流を流した場合であっても磁束が飽和し、少ないバイアス電流を可変に制御することによりインダクタ導体112のインダクタンスを変えることができる。このため、制御系の構造を簡略化することができる。
【0171】
また、図27等に示した可変インダクタ17aは、インダクタ導体112と制御用導体114とを同心状に巻回して形成したが、これら各導体を半導体基板110表面の隣接した位置に形成してそれらの間を絶縁性あるいは導電性の磁性体によって形成した磁路によって磁気結合させてもよい。
【0172】
図33は、インダクタ導体と制御用導体とを隣接した位置に並べて形成した場合の可変インダクタ17bの概略を示す平面図である。
【0173】
同図に示す可変インダクタ17bは、半導体基板110上に形成された渦巻き形状のインダクタ導体112aと、このインダクタ導体112aと隣接した位置に形成された渦巻き形状の制御用導体114aと、インダクタ導体112aと制御用導体114aの各渦巻き中心を覆うように形成された絶縁性磁性体(あるいは導電性磁性体)119とを含んで構成されている。
【0174】
図27等に示した可変インダクタ17aと同様に、制御用導体114aにはその両端に可変のバイアス電圧を印加するために可変電圧電源116が接続されており、この可変電圧電源116によって印加するバイアス電圧を可変に制御することにより、制御用導体114aに流れる所定のバイアス電流を変化させることができる。
【0175】
図34は、図33に示した可変インダクタ17bのインダクタ導体112aおよび制御用導体114aの形状をさらに詳細に示した図である。
【0176】
同図に示すように、インダクタ導体112aは、所定ターン数(例えば約4ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの端子電極122、124が接続されている。同様に、インダクタ導体112aに隣接して配置された制御用導体114aは、所定ターン数(例えば約2ターン)の渦巻き形状に形成されており、その両端には2つの制御電極126、128が接続されている。
【0177】
図35は、図34のB−B線拡大断面図であり、インダクタ導体112aと制御用導体114aを含む絶縁性磁性体119の横断面が示されている。
【0178】
同図に示すように、半導体基板110表面に絶縁性の磁性体膜119aおよび絶縁性の非磁性体膜132が形成されており、その表面にインダクタ導体112aおよび制御用導体114aがそれぞれ形成されている。そして、これらインダクタ導体112aと制御用導体114aの各中心部を貫くようにさらに表面に絶縁性の磁性体膜119bが被覆形成されている。これら2つの磁性体膜119a、119bによってインダクタ導体112aと制御用導体114aの共通の磁路となる環状の磁性体119が形成されている。
【0179】
なお、図35に示した絶縁性の非磁性体膜132は、磁性体膜119aとほぼ同じ膜厚を有しており、さらにそれらの表面においてインダクタ導体112aと制御用導体114aのそれぞれをほぼ同じ高さに形成するためのものである。したがって、インダクタ導体112aおよび制御用導体114aに多少の段差が生じてもよい場合には、非磁性体膜132を形成せずに、半導体基板110上に直接インダクタ導体112aおよび制御用導体114aの一部を形成するようにしてもよい。
【0180】
また、磁性体膜119a表面のインダクタ導体112aおよび制御用導体114aの各周回部分の間には、図27等に示した可変インダクタ17aと同様に絶縁膜130が形成されている。このように部分的に絶縁膜130を充填して各周回部分間の磁性体膜119a、119bを排除することにより、各周回部分間に生じる漏れ磁束を最小限に抑えることができるため、インダクタ導体112aによって発生した磁束は、そのほとんどが磁性体膜119a、119bを通って制御用導体114aと交差するようになる。したがって、漏れ磁束を少なくすることにより、インダクタ導体112aが発生する磁束を有効に利用して大きなインダクタンスを得ることができる。
【0181】
このように、上述した可変インダクタ17bは、インダクタ導体112aと制御用導体114aの各渦巻き中心を通るように環状の絶縁性磁性体119(磁性体膜119a、119b)が形成されている。したがって、制御用導体114aに流す直流バイアス電流を可変に制御することにより、上述した磁性体119を磁路とするインダクタ導体112aの飽和磁化特性が変化し、インダクタ導体112aが有するインダクタンスも変化する。
【0182】
また、上述した各実施例の同調増幅器1等を半導体基板上に形成した場合には、移相回路10C、30C内のキャパシタ14あるいは34としてあまり大きな静電容量を設定することができない。したがって、半導体基板上に実際に形成したキャパシタの小さな静電容量を、回路を工夫することにより見かけ上大きくすることができれば、時定数Tを大きな値に設定して同調周波数の低周波数化を図る際に都合がよい。
【0183】
図36は、図1等に示した移相回路10C、30Cに用いたキャパシタ14あるいは34を素子単体ではなく回路によって構成した変形例を示す図であり、実際に半導体基板上に形成されるキャパシタの静電容量を見かけ上大きくみせる静電容量変換回路として機能する。なお、図36に示した回路全体が移相回路10Cあるいは30Cに含まれるキャパシタ14あるいは34に対応している。
【0184】
図36に示す静電容量変換回路14aは、所定の静電容量C0を有するキャパシタ210と、2つのオペアンプ212、214と、4つの抵抗216、218、220、222とを含んで構成されている。
【0185】
1段目のオペアンプ212は、出力端子と反転入力端子との間に抵抗218(この抵抗値をR18とする)が接続されており、さらにこの反転入力端子が抵抗216(この抵抗値をR16とする)を介して接地されている。
【0186】
1段目のオペアンプ212の非反転入力端子に印加される電圧E1と出力端子に現れる電圧E2との間には、
【数26】
の関係がある。この1段目のオペアンプ212は、主にインピーダンス変換を行うバッファとして機能するものであり、利得は1であってもよい。利得1の場合とはR18/R16=0のとき、すなわちR16を無限大(抵抗216を除去すればよい)、あるいはR18を0Ω(直結すればよい)に設定する。
【0187】
また、2段目のオペアンプ214は、出力端子と反転入力端子との間に抵抗222(この抵抗値をR22とする)が接続されているとともに反転入力端子と上述したオペアンプ212の出力端子との間に抵抗220(この抵抗値をR20とする)が接続されており、さらに非反転入力端子が接地されている。
【0188】
2段目のオペアンプ214の出力端子に現れる電圧をE3とすると、この電圧E3と1段目のオペアンプ212の出力端子に現れる電圧E2との間には、
【数27】
の関係がある。このように2段目のオペアンプ214は反転増幅器として機能するものであり、その入力側を高インピーダンスに設定するために1段目のオペアンプ212が使用されている。
【0189】
また、このような接続がなされた1段目のオペアンプ212の非反転入力端子と2段目のオペアンプ214の出力端子との間には、上述したように所定の静電容量を有するキャパシタ210が接続されている。
【0190】
図36に示した静電容量変換回路14aにおいて、キャパシタ210を除く回路全体の伝達関数をK4とすると、静電容量変換回路14aは図37に示すシステム図で表すことができる。図38は、これをミラーの定理によって変換したシステム図である。
【0191】
図37に示したインピーダンスZ0を用いて図38に示したインピーダンスZ1を表すと、
【数28】
となる。ここで、図36に示した静電容量変換回路14aの場合には、インピーダンスZ0=1/(jωC0)であり、これを(28)式に代入して、
【数29】
C=(1−K4)CO …(30)
となる。この(30)式は、静電容量変換回路14aにおいてキャパシタ210が有する静電容量C0が見掛け上は(1−K4)倍になったことを示している。
【0192】
したがって、利得K4が負の場合には常に(1−K4)は1より大きくなるため、静電容量C0を大きいほうに変化させることができる。
【0193】
ところで、図36に示した静電容量変換回路14aにおける増幅器の利得、すなわちオペアンプ212と214の全体により構成される増幅器の利得K4は、(26)式および(27)式から、
【数31】
となる。この(31)式を(30)式に代入すると、
【数32】
となる。したがって、4つの抵抗216、218、220、222の抵抗値を所定の値に設定することにより、2つの端子224、226間の見掛け上の静電容量Cを大きくすることができる。
【0194】
また、1段目のオペアンプ212による増幅器の利得が1の場合、すなわち上述したようにR16を無限大(抵抗216を除去)、あるいはR18を0Ωに設定したときであってR18/R16=0の場合には、上述した(32)式は簡略化されて、
【数33】
となる。
【0195】
図39は、図36に示した第1のオペアンプ212の反転入力端子に接続されている抵抗216を除去した静電容量変換回路14bの構成を示す図である。この場合には、端子224、226間に現れる静電容量Cは(33)式により表されるため、R22とR20の比を変化させるだけでC0を大きいほうに変化させることができる。
【0196】
このように、上述した静電容量変換回路14aあるいは14bは、抵抗220と抵抗222との抵抗比R22/R20あるいは抵抗216と抵抗218との抵抗比R18/R16を変えることにより、実際に半導体基板上に形成するキャパシタ210の静電容量C0を見掛け上大きい方に変換することができる。そのため、半導体基板上に図1等に示した同調増幅器1等の全体を形成するような場合には、半導体基板上に小さな静電容量C0を有するキャパシタ210を形成しておいて、図36あるいは図39に示した回路によって大きな静電容量Cに変換することができ、集積化に際して好都合となる。
【0197】
また、抵抗216、218、220、222の中の少なくとも1つ(図39に示した静電容量変換回路14bの場合は抵抗220、222の少なくとも1つ)を可変抵抗により形成することにより、具体的には接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続して可変抵抗を形成することにより、容易に静電容量が可変の静電容量変換回路を形成することができる。したがって、この静電容量変換回路を図25に示した可変容量ダイオードの代わりに使用することにより、位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、各実施例の同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0198】
なお、上述したように第1段目のオペアンプ212は入力インピーダンスを高くするためのバッファとして用いているため、このオペアンプ212をエミッタホロワ回路あるいはソースホロワ回路に置き換えるようにしてもよい。
【0199】
図40は、1段目にエミッタホロワ回路を用いた静電容量変換回路14cの構成を示す図である。同図に示す静電容量変換回路14cは、図36に示した1段目のオペアンプ212および2つの抵抗216、218をバイポーラトランジスタと抵抗からなるエミッタホロワ回路228に置き換えた構成を有している。
【0200】
図41は、1段目にソースホロワ回路を用いた静電容量変換回路14dの構成を示す図である。同図に示す静電容量変換回路14dは、図36に示した1段目のオペアンプ212および2つの抵抗216、218をFETと抵抗からなるソースホロワ回路230に置き換えた構成を有している。
【0201】
また、上述した静電容量変換回路14c、14dのそれぞれは、オペアンプ214に接続されている抵抗220、222の抵抗比を変えることにより端子224、226間の見掛け上の静電容量Cを任意に変化させることができる点は図36等に示した静電容量変換回路14a等と同じである。したがって、抵抗220、222の少なくとも一方を、接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続した可変抵抗に置き換えることにより、静電容量が可変の静電容量変換回路を構成することができ、この静電容量変換回路を図25に示した可変容量ダイオードの代わりに使用することにより、位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、各同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、各実施例の同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0202】
ところで、上述した図36〜図41では、所定の利得を有する増幅器とキャパシタとを組み合わせることにより、見かけ上の静電容量を実際にキャパシタ素子が有する静電容量より大きくする場合を説明したが、キャパシタの代わりにインダクタを用い、このインダクタが有するインダクタンスを見かけ上大きくすることもできる。
【0203】
すなわち、上述したように図37に示したインピーダンスZ0を用いて図38に示したインピーダンスZ1を表すと(28)式のようになる。ここで、インダクタンスL0を有するインダクタの場合には、インピーダンスZ0=jωL0であり、これを(28)式に代入して、
【数34】
【数35】
となる。この(35)式は、実際にインダクタ素子が有するインダクタンスが見かけ上1/(1−K4)倍になったことを示しており、利得K4が0から1の間に設定されているときには見かけ上のインダクタンスが大きくなることがわかる。
【0204】
図42は、図11等に示した移相回路10L、30Lに用いたインダクタ17あるいは37を素子単体ではなく回路によって構成した変形例を示す図であり、実際に半導体基板上に形成されるインダクタ素子(インダクタ導体)のインダクタンスを見かけ上大きくみせるインダクタンス変換回路として機能する。なお、図42に示した回路全体が移相回路10L、30Lに含まれるインダクタ17あるいは37に対応している。
【0205】
図42に示すインダクタンス変換回路17cは、所定のインダクタンスL0を有するインダクタ260と、2つのオペアンプ262、264と、2つの抵抗266、268とを含んで構成されている。
【0206】
1段目のオペアンプ262は、出力端子が反転入力端子に接続された利得1の非反転増幅器であって、主にインピーダンス変換を行うバッファとして機能する。同様に、2段目のオペアンプ264も出力端子が反転入力端子に接続されており、利得1の非反転増幅器として機能する。また、これら2つの非反転増幅器の間には抵抗266と268による分圧回路が挿入されている。
【0207】
このように、間に分圧回路を挿入することにより、2つの非反転増幅器を含む増幅器全体の利得を0から1の間で自由に設定することができる。
【0208】
図42に示したインダクタンス変換回路17cにおいて、インダクタ260を除く回路(増幅器)全体の伝達関数をK4とすると、この利得K4は抵抗266と268によって構成される分圧回路の分圧比によって決まり、それぞれの抵抗値をR66、R68とすると、
【数36】
となる。この利得K4を(35)式に代入して見かけ上のインダクタンスLを計算すると、
【数37】
となる。したがって、抵抗266と268の抵抗比R68/R66を大きくすることにより、2つの端子254、256間の見かけ上のインダクタンスLを大きくすることができる。例えば、R68=R66の場合には、(37)式からインダクタンスLをL0の2倍にすることができる。
【0209】
このように、上述したインダクタンス変換回路17cは、2つの非反転増幅器の間に挿入された分圧回路の分圧比を変えることにより、実際に接続されているインダクタ260のインダクタンスL0を見かけ上大きくすることができる。そのため、半導体基板上に図1等に示した同調増幅器1等の全体を形成するような場合には、半導体基板上に小さなインダクタンスL0を有するインダクタ260をスパイラル状の導体等によって形成しておいて、図42に示したインダクタンス変換回路によって大きなインダクタンスLに変換することができ、集積化に際して好都合となる。特に、このようにして大きなインダクタンスを確保することができれば、図1に示した同調増幅器1等の同調周波数を比較的低い周波数領域まで下げることが容易となる。また、集積化を行うことにより、同調増幅器全体の実装面積を小型化して、材料コスト等の低減も可能となる。
【0210】
なお、抵抗266、268による分圧回路の分圧比を固定した場合の他、これら2つの抵抗266、268の少なくとも一方を可変抵抗により形成することにより、具体的には接合型やMOS型のFETあるいはpチャネルFETとnチャネルFETとを並列に接続して可変抵抗を形成することにより、この分圧比を連続的に変化させてもよい。この場合には、図42に示したオペアンプ262、264を含んで構成される増幅器全体の利得が変わり、端子254、256間のインダクタンスLも連続的に変化する。したがって、このインダクタンス変換回路17cを図26に示した可変インダクタ17a等の代わりに使用することにより、各移相回路における位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、上述した同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0211】
また、図42に示したインダクタンス変換回路17cは、2つのオペアンプ262、264を含む増幅器全体の利得が1以下に設定されているため、全体をエミッタホロワ回路あるいはソースホロワ回路に置き換えるようにしてもよい。
【0212】
図43は、オペアンプ262、264を含む増幅器全体をエミッタホロワ回路に置き換えたインダクタンス変換回路の構成を示す図である。同図(A)に示すインダクタンス変換回路17dは、エミッタに2つの抵抗274、276が接続されたバイポーラトランジスタ278と、この2つの抵抗274、276による分圧点とトランジスタ278のベースとの間に接続されたインダクタ260と、直流電流阻止用のキャパシタ280とを含んで構成されている。インダクタ260の一方端側に挿入されたキャパシタ280は、周波数特性に影響を与えないようにそのインピーダンスは動作周波数において極めて小さく、すなわち大きな静電容量に設定されている。
【0213】
上述したエミッタホロワ回路の利得は、主に2つの抵抗274、276の抵抗比に応じて決まり、しかもその利得は常に1未満であるため、(35)式からわかるように、実際にインダクタ260が有するインダクタンスL0を見掛け上大きくすることができる。しかも、1つのエミッタホロワ回路を用いているだけであり、回路構成が簡略化でき、最高動作周波数も高く設定することができる。
【0214】
図43(B)はその変形例を示す図であり、同図(A)の2つの抵抗274、276を可変抵抗282に置き換えた点が異なっている。このように可変抵抗282を用いることにより、利得を任意にしかも連続的に変化させることができるため、見掛け上のインダクタンスLも任意にしかも連続的に変化させることができ、このインダクタンス変換回路17eを図26に示した可変インダクタ17aの代わりに使用することにより、各移相回路における位相シフト量をある範囲で任意に変化させることができる。このため、同調増幅器において一巡する信号の位相シフト量が0°となる周波数を変えることができ、上述した同調増幅器の同調周波数を任意に変更することができる。
【0215】
なお、図43(B)に示したインダクタンス変換回路17eは、同図(A)の2つの抵抗274、276を1つの可変抵抗282に置き換えているが、これら2つの抵抗274、276の少なくとも一方を可変抵抗によって構成するようにしてもよい。
【0216】
図44は、図43(A)および(B)に示したインダクタンス変換回路17d、17eのそれぞれをソースホロワ回路によって実現したものであり、バイポーラトランジスタ278をFET284に置き換えたものである。図44(A)が図43(A)に、図44(B)が図43(B)にそれぞれ対応している。
【0217】
図45は、図42に示したインダクタンス変換回路17cの変形例を示す図である。図45に示すインダクタンス変換回路17fは、npn型のバイポーラトランジスタ286およびそのエミッタに接続された抵抗290と、pnp型のバイポーラトランジスタ288とそのエミッタに接続された抵抗292と、インダクタンスL0を有するインダクタ260とを含んで構成されている。
【0218】
上述した一方のトランジスタ286と抵抗290により第1のエミッタホロワ回路が、他方のトランジスタ288と抵抗292により第2のエミッタホロワ回路がそれぞれ形成され、それらが縦続接続されている。しかも、npn型のトランジスタ286とpnp型のトランジスタ288を用いているため、インダクタ260の一方端であるトランジスタ286のベース電位とトランジスタ288のエミッタ電位とをほぼ同じに設定することができ、直流電流阻止用のキャパシタが不要となる。
【0219】
なお、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0220】
例えば、上述した各実施例の同調増幅器においては、移相回路10C、10Lあるいは移相回路30C、30L内の差動増幅器12、32によって2入力の差分を2倍に増幅して各移相回路の出力とすることにより、同調増幅器のループゲインをほぼ1に設定するようにしたが、差動増幅器12、32の増幅度をこれ以外の値に設定してもよい。例えば、各差動増幅器12、32において2入力の差分を増幅せずに、あるいは2倍以外の増幅度で増幅して出力するとともに、非反転回路50あるいは位相反転回路80の増幅度を調整して同調増幅器のループゲインをほぼ1に設定するようにしてもよい。
【0221】
また、図1等に示した各同調増幅器においては、帰還側インピーダンス素子として抵抗値が固定の帰還抵抗70を用い、入力側インピーダンス素子として抵抗値が固定の入力抵抗74を用いるようにしたが、少なくとも一方の抵抗を可変抵抗により構成して最大減衰量を任意に変更可能に形成してもよい。この場合に、可変抵抗を図23に示したようにFETのチャネル抵抗を利用して形成することができることはいうまでもない。特に、pチャネルのFETとnチャネルのFETとを並列接続して1つの可変抵抗を構成し、各FETのベースとサブストレート間に大きさが等しく極性が異なるゲート電圧を印加した場合には、FETの非線形領域の改善を行うことができるため、同調信号の歪みを少なくすることができる。
【0222】
同様に、帰還側インピーダンス素子および入力側インピーダンス素子をキャパシタとした場合には少なくとも一方を可変容量ダイオードやゲート容量可変のFETにより構成して最大減衰量を任意に変更可能に形成してもよい。
【0223】
また、上述した実施例の同調増幅器1等には2つの移相回路が含まれているが、同調周波数を可変する場合には、両方の移相回路に含まれるCR回路あるいはLR回路を構成する抵抗とキャパシタあるいはインダクタの少なくとも1つの素子定数を変える場合の他、一方の移相回路に含まれるCR回路あるいはLR回路を構成する抵抗とキャパシタあるいはインダクタの少なくとも1つの素子定数を変える場合が考えられる。あるいは、図1等に示した各移相回路内の可変抵抗16、36等を抵抗値が固定の抵抗に置き換えて、同調周波数が固定の同調増幅器を構成するようにしてもよい。
【0224】
【発明の効果】
以上の各実施例に基づく説明から明らかなように、同調周波数が高い場合にはこの発明の同調増幅器を構成する各素子は集積回路の製法によって形成することが可能であるから、同調増幅器を半導体ウエハ上に集積回路として小型に形成でき、大量生産によって安価に作ることができる。また、各移相回路内のインダクタのインダクタンスをインダクタンス変換回路を用いて、あるいはキャパシタの静電容量を静電容量変換回路を用いて大きいほうに変換することができ、同調周波数を低周波化することもできる。
【0225】
特に、各移相回路におけるCR回路あるいはLR回路の可変抵抗としてFETのソース・ドレイン間のチャネルを使用し、このFETのゲートに印加する制御電圧を変化させてチャネルの抵抗を変化させるように構成すると、制御電圧を印加する配線のインダクタンスや静電容量の影響を回避することができ、ほぼ設計どおりの理想的な特性を備えた同調増幅器を得ることができる。
【0226】
また、この発明の同調増幅器は、最大減衰量が入力側インピーダンス素子と帰還側インピーダンス素子の抵抗比によって決まるとともに、同調周波数が各移相回路におけるCR回路あるいはLR回路の時定数によって決まるため、最大減衰量や同調周波数および同調周波数における利得を互いに干渉しあうことなく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を適用した第1実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図2】図1に示した前段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図3】前段の移相回路の入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図4】図2に示した移相回路を等価的に表した図、
【図5】図1に示した後段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図6】後段の移相回路の入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図7】図5に示した移相回路を等価的に表した図、
【図8】2つの移相回路および非反転回路の全体を伝達関数K1を有する回路に置き換えたシステム図、
【図9】図8に示すシステムをミラーの定理によって変換したシステム図、
【図10】この実施例の同調増幅器の同調特性を示す図、
【図11】この発明を適用した第2実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図12】図11に示した前段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図13】前段の移相回路の入出力電圧とインダクタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図14】図12に示した移相回路を等価的に表した図、
【図15】図11に示した後段の移相回路の構成を抜き出して示した図、
【図16】後段の移相回路の入出力電圧とキャパシタ等に現れる電圧との関係を示すベクトル図、
【図17】図15に示した移相回路を等価的に表した図、
【図18】第3実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図19】第4実施例の同調増幅器の構成を示す回路図、
【図20】非反転回路および位相反転回路の具体例を示す図、
【図21】移相回路と非反転回路との接続形態を示す図、
【図22】移相回路と位相反転回路との接続形態を示す図、
【図23】移相回路の可変抵抗をFETに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図24】移相回路の可変抵抗をFETに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図25】移相回路のキャパシタを可変容量ダイオードに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図26】移相回路のインダクタを可変インダクタに置き換えた移相回路の構成を示す図、
【図27】可変インダクタの一例を示す図、
【図28】図27に示した可変インダクタのインダクタ導体および制御用導体の形状をさらに詳細に示す図、
【図29】図28のA−A線拡大断面図、
【図30】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図31】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図32】図27に示した可変インダクタの変形例を示す図、
【図33】可変インダクタの他の例を示す図、
【図34】図33に示した可変インダクタのインダクタ導体および制御用導体の形状をさらに詳細に示す図、
【図35】図34のB−B線拡大断面図、
【図36】キャパシタが実際に有する静電容量を見かけ上大きくする静電容量変換回路の構成を示す図、
【図37】図36に示した回路を伝達関数を用いて表した図、
【図38】図37に示す構成をミラーの定理によって変換した図、
【図39】図36の回路を簡略化した静電容量変換回路の構成を示す図、
【図40】1段目にエミッタホロワ回路を用いた静電容量変換回路の構成を示す図、
【図41】1段目にソースホロワ回路を用いた静電容量変換回路の構成を示す図、
【図42】インダクタが実際に有するインダクタンスを見かけ上大きくするインダクタンス変換回路の構成を示す図、
【図43】図42に含まれる2つのオペアンプを含む増幅器全体をエミッタホロワ回路に置き換えたインダクタンス変換回路の構成を示す図、
【図44】図43の回路をソースホロワ回路によって実現した構成を示す図、
【図45】インダクタンス変換回路の変形例を示す図、
【図46】従来の同調増幅器における同調周波数、同調周波数における利得、最大減衰量の関係の一例を示す特性曲線図である。
【符号の説明】
1 同調増幅器
10C、30L 移相回路
12、32 差動増幅器
14、39 キャパシタ
16、36 可変抵抗
37 インダクタ
18、20、38、40 抵抗
50 非反転回路
70 帰還抵抗
74 入力抵抗
90 入力端子
92 出力端子
Claims (31)
- 入力信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路を縦続接続し、これら縦続接続された2つの移相回路の中の前段の移相回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、後段の移相回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、前記第1および第2の移相回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする同調増幅器。 - 入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を変えずに出力する非反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記非反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1または2において、
前記第2の直列回路を構成する前記キャパシタあるいは前記インダクタからなるリアクタンス素子と前記第3の抵抗の接続の仕方を、前記2つの移相回路において反対にしたことを特徴とする同調増幅器。 - 入力端子に入力される交流信号が一方端に入力される入力側インピーダンス素子と、帰還信号が一方端に入力される帰還側インピーダンス素子とを含んでおり、前記入力端子に入力される交流信号と前記帰還信号とを加算する加算回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とキャパシタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記キャパシタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第1の移相回路と、
入力される交流信号が両端に印加される抵抗値がほぼ等しい第1および第2の抵抗により構成された第1の直列回路と、前記交流信号が両端に印加される第3の抵抗とインダクタにより構成された第2の直列回路と、前記第1の直列回路を構成する前記第1および第2の抵抗の接続点の電位と前記第2の直列回路を構成する前記第3の抵抗と前記インダクタの接続点の電位との差分を所定の増幅度で増幅して出力する差動増幅器とを含む第2の移相回路と、
入力される交流信号の位相を反転して出力する位相反転回路と、
を備え、前記第1および第2の移相回路と前記位相反転回路のそれぞれを縦続接続し、これら縦続接続された複数の回路の中の初段の回路に対して前記加算回路によって加算された信号を入力するとともに、最終段の回路から出力される信号を前記帰還信号として前記帰還側インピーダンス素子の一方端に入力し、これら複数の回路のいずれかの出力を同調信号として取り出すことを特徴とする同調増幅器。 - 請求項4において、
前記第2の直列回路を構成する前記キャパシタあるいは前記インダクタからなるリアクタンス素子と前記第3の抵抗の接続の仕方を、前記2つの移相回路において同じにしたことを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記入力側インピーダンス素子および前記帰還側インピーダンス素子のそれぞれは抵抗であることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項6において、
前記入力側インピーダンス素子および前記帰還側インピーダンス素子の少なくとも一方を可変抵抗により形成し、前記入力側インピーダンス素子および前記帰還側インピーダンス素子の抵抗比を変えることにより、最大減衰量を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の少なくとも一方に含まれる前記第3の抵抗を可変抵抗により形成し、この抵抗値を変えることにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項7または8において、
前記可変抵抗をFETのチャネルによって形成し、ゲート電圧を変えてチャネル抵抗を変えることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項7または8において、
前記可変抵抗をpチャネル型のFETとnチャネル型のFETとを並列接続することにより形成し、極性が異なる各FETのゲート電圧の大きさを変えてチャネル抵抗を変えることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記キャパシタを可変容量素子により形成し、この静電容量を変えることにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項11において、
前記可変容量素子を逆バイアス電圧が変更可能な可変容量ダイオード、あるいはゲート電圧可変によってゲート容量が変更可能なFETによって形成することを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記インダクタが有するインダクタンスを変えることにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項13において、
前記インダクタは、
基板上にほぼ平面状に渦巻き形状に形成されたインダクタ導体と、
前記基板上であって前記インダクタ導体とほぼ同心状に形成されており、所定の直流バイアス電流が流される制御用導体と、
前記インダクタ導体と前記制御用導体とを覆うように形成された磁性体と、
を備え、前記制御用導体に流す直流バイアス電流を変えて前記インダクタ導体の両端に現れるインダクタンスを変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項13において、
前記インダクタは、
基板上にほぼ平面状に渦巻き形状に形成されたインダクタ導体と、
前記基板上であって前記インダクタ導体に隣接する位置にほぼ平面状で渦巻き形状に形成されており、所定の直流バイアス電流が流される制御用導体と、
前記インダクタ導体と前記制御用導体の各渦巻き中心を貫通するように環状に形成された磁性体と、
を備え、前記制御用導体に流す直流バイアス電流を変えて前記インダクタ導体の両端に現れるインダクタンスを変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の少なくとも一方に含まれる前記第3の抵抗として抵抗値が固定の複数の抵抗を有しており、スイッチ切り換えにより選択的に接続することにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記キャパシタとして静電容量が固定の複数のキャパシタを有しており、スイッチ切り換えにより選択的に接続することにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記インダクタとしてインダクタンスが固定の複数のインダクタを有しており、スイッチ切り換えにより選択的に接続することにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記キャパシタを、利得が負の値を有する増幅器と、前記増幅器の入出力間に並列接続されたキャパシタ素子に置き換えることにより、前記増幅器の入力側からみた静電容量を実際に前記キャパシタ素子が有する静電容量よりも大きくすることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項19において、
前記増幅器の利得を可変して前記増幅器の入力側からみた静電容量を変えることにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記2つの移相回路の一方に含まれる前記インダクタを、利得を0から1の間に設定した増幅器と、前記増幅器の入出力間に並列接続されたインダクタ素子に置き換えることにより、前記増幅器の入力側からみたインダクタンスを実際に前記インダクタ素子が有するインダクタンスよりも大きくすることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項21において、
前記増幅器の利得を可変して前記増幅器の入力側からみたインダクタンスを変えることにより、同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 入力側インピーダンス素子を介して入力された交流信号を同相で出力する非反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記非反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路とは反対方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還側インピーダンス素子を介して前記非反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項23において、
前記第1の移相回路の前記キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と直列接続された抵抗の抵抗値および/または前記第2の移相回路の前記キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と直列接続された前記抵抗の抵抗値を変化させて同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項23において、
前記入力側インピーダンス素子および前記帰還側インピーダンス素子の素子定数の比を変化させて最大減衰量を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項23において、
各抵抗をFETのチャネルで形成し、このチャネル抵抗を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 入力抵抗を介して入力された交流信号を反転して出力する位相反転回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と抵抗との直列接続とよりなり、前記位相反転回路の出力が印加される第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第1の差動増幅器とを有し、前記第1のブリッジ回路に入力された信号を移相する第1の移相回路と、
2つの抵抗の直列接続と、キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と抵抗との直列接続とよりなり、前記第1の移相回路の出力が印加される第2のブリッジ回路と、前記第2のブリッジ回路の2つの出力の差を得る第2の差動増幅器とを有し、前記第2のブリッジ回路に入力された信号を前記第1の移相回路と同じ方向に移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力を帰還抵抗を介して前記位相反転回路の入力へ帰還する回路と、
を備えることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項27において、
前記第1の移相回路の前記キャパシタあるいはインダクタのいずれか一方と直列接続された抵抗の抵抗値および/または前記第2の移相回路の前記キャパシタあるいはインダクタのいずれか他方と直列接続された抵抗の抵抗値を変化させて同調周波数を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項27において、
前記入力抵抗および前記帰還抵抗の抵抗値の比を変化させて最大減衰量を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項27において、
各抵抗をFETのチャネルで形成し、このチャネル抵抗を変化させることを特徴とする同調増幅器。 - 請求項1〜30のいずれかにおいて、
半導体集積回路として形成することを特徴とする同調増幅器。
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