JP3624730B2 - 改質ふっ素樹脂 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摺動部品、シール部品、パッキン、ガスケット、半導体製造用容器・治具等の幅広い分野に適用できる改質ふっ素樹脂、特に熱安定性に優れた改質ふっ素樹脂に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ふっ素樹脂は、低摩擦性、耐熱性、電気特性や耐薬品性に優れており、産業用、民生用の各種用途に広く利用されている。しかし、ふっ素樹脂は、摺動環境下や高温での圧縮環境下で、磨耗やクリープ変形が大きく、使用範囲は、限定されたものになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年、ふっ素樹脂にその融点以上の温度下に電離性放射線を照射して架橋させることにより、磨耗性やクリープ変形性が大幅に改善されることが明らかになった。しかし、この方法で架橋させたふっ素樹脂は、分子鎖中に不飽和基を生じ、その結果、高温での熱安定が劣るという問題が新たに指摘されるに至った。
【0004】
従って、本発明の目的は、優れた耐磨耗性、耐クリープ性を有し、しかも高温での熱安定性が良好な改質ふっ素樹脂を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水素、ふっ素及びふっ素化合物から選ばれる少なくとも一種である改質剤の存在下において、ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射してなる改質ふっ素樹脂である。
また、本発明は、ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射した後、水素、ふっ素及びふっ素化合物から選ばれる少なくとも一種である改質剤と接触させてなる改質ふっ素樹脂である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に使用されるふっ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン系重合体(以下PTFEという)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体(以下PFAという)、あるいはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(以下FEPという)があげられる。
【0007】
上記PTFEの中には、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロアルキル)エチレン、あるいはクロロトリフルオロエチレン等の共重合性モノマーに基づく重合単位を1モル%以下含有するものも含まれる。また、上記共重合体形式のふっ素樹脂の場合、その分子構造の中に少量の第3成分を含むことは有り得る。
【0008】
本発明に使用される改質剤としては、水素(H2 )、ふっ素(F2 )またはふっ素化合物(ClF3 、BrF3 、SF4 、CF3 COCF3 、CF3 CHO、CF4 、NF3 、SiF4 、CF4 、C3 F6 等)をあげることができる。これらの水素、ふっ素またはふっ素化合物をふっ素樹脂と接触させるときの濃度は、10−2torr以上とすることが好ましく、これ未満では、高温で熱安定性を付与する効果が小さくなる。上限は特に規定しないが、安全上から760torr以下とすることが好ましい。
【0009】
改質剤の存在下で電離性放射線を照射することにより、または電離放射線の照射後に改質剤と接触させることにより、ふっ素樹脂の照射架橋時に生じる不飽和結合部に改質剤が付加され、優れた熱安定性が実現されるものと推察される。
【0010】
本発明の改質ふっ素樹脂は、改質剤の存在下において、ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射することにより、または、ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射した後、改質剤と接触させることにより得ることができる。
【0011】
酸素濃度が10torrを越える雰囲気下では、十分な改質効果を達成できず、また、電離性放射線の照射線量が0.1KGy未満では、十分な改質効果を達成できず、10MGyを越えると伸び等の著しい低下を招く。
【0012】
本発明においては、電離性放射線としては、γ線、電子線、X線、中性子線、あるいは高エネルギーイオン等が使用される。電離性放射線を照射するに際しては、ふっ素樹脂をその結晶融点以上に加熱しておく必要がある。例えばふっ素樹脂としてPTFEを使用する場合には、この材料の結晶融点である327℃よりも高い温度にふっ素樹脂を加熱した状態で電離性放射線を照射する必要があり、また、PFAやFEPを使用する場合には、前者が310℃、後者が275℃に特定される融点よりも高い温度に加熱して照射する。ふっ素樹脂をその融点以上に加熱することは、ふっ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活発化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率良く促進させることが可能となる。但し、過度の加熱は、逆に分子主鎖の切断と分解を招くようになるので、このような解重合現象の発生を抑制する意味合いから、加熱温度はふっ素樹脂の融点よりも10〜30℃高い範囲内に抑えるべきである。
【0013】
本発明においては、ふっ素樹脂成形体に対して改質操作を行っても良く、また、改質操作を行ったふっ素樹脂粉体を機械的粉砕により微粉化してから加圧成形(圧縮成形あるいはラム成形)することによりふっ素樹脂成形体としてもよい。
【0014】
改質操作を行ったふっ素樹脂粉体を加圧成形する場合、単一のまたは2種以上の改質ふっ素樹脂粉体で成形してもよく、また、これら改質ふっ素樹脂粉体と未改質の高分子材料または無機材料を混合したものを成形してもよい。
【0015】
未改質の高分子材料としては、改質ふっ素樹脂粉体に使用されるふっ素樹脂同様耐熱性を有するものであることが好ましく、具体的には、テトラフルオロエチレン系重合体、あるいはテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン系共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体等の含ふっ素共重合体、あるいはポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド、芳香族ポリエステル等をあげることができる。
【0016】
本発明による改質ふっ素樹脂成形体の用途としては、摺動部品、半導体関連製造部品、酸化性の強い薬品を入れる容器等、幅広い用途が期待できる。
【0017】
【実施例】
[実施例1〜3]
PTFE粉体(商品名:G−163、旭硝子社製)を360℃、圧力50MPaで1時間圧縮成形し、縦60mm、横30mm、厚さ1mmのシートを得た。このシートに対し、酸素濃度0.5torr、F2 濃度0.1torrの窒素(800torr)雰囲気下、340°Cの加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量50KGy(実施例1)、100KGy(実施例2)、150KGy(実施例3)照射し、供試試料とした。
【0018】
[実施例4]
PFA(商品名:P−63P、旭硝子社製)を、東洋精機製小型押出機ラボプラストミルを用い、360℃の設定温度でもって幅30mm、厚さ1mmのTダイを使用して帯状シートを押出し、これを縦60mm、横30mm、厚さ1mmに裁断して試料シートとした。このシートに対し、酸素濃度0.5torr、F2 濃度0.1torrの窒素(800torr)雰囲気下、320℃の加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量50KGy照射し、これを供試試料とした。
【0019】
[実施例5]
FEP(商品名:N−20、ダイキン工業製)を、東洋精機製小型押出機ラボプラストミルを用い、340℃の設定温度でもって幅30mm、厚さ1mmのTダイを使用して帯状シートを押出し、これを縦60mm、横30mm、厚さ1mmに裁断して試料シートとした。このシートに対し、酸素濃度0.5torr、F2 濃度0.1torrの窒素(800torr)雰囲気下、275℃の加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量40KGy照射し、これを供試試料とした。
【0020】
[実施例6]
PTFE粉体(商品名:G−163、旭硝子社製)を360℃、圧力50MPaで1時間圧縮成形し、縦60mm、横30mm、厚さ1mmのシートを得た。このシートに対し、酸素濃度0.5torrの窒素(760torr)雰囲気下、340°Cの加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量100KGy照射し、その後、オートクレーブに入れ、F2 濃度10torrの窒素(760torr)雰囲気中で、20℃で2時間反応させ、供試試料とした。
【0021】
[比較例1]
PTFE粉体(商品名:G−163、旭硝子社製)を360℃、圧力50MPaで1時間圧縮成形し、縦60mm、横30mm、厚さ1mmのシートを得、これを供試試料とした。
【0022】
[比較例2]
PTFE粉体(商品名:G−163、旭硝子社製)を360℃、圧力50MPaで1時間圧縮成形し、縦60mm、横30mm、厚さ1mmのシートを得た。このシートに対し、酸素濃度0.5torrの窒素(800torr)雰囲気下、340℃の加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量100KGy照射し、これを供試試料とした。
【0023】
[比較例3]
PTFE粉体(商品名:G−163、旭硝子社製)を360℃、圧力50MPaで1時間圧縮成形し、縦50mm、横50mm、厚さ1mmのシートを得た。このシートに対し、酸素濃度0.5torr、F2 濃度0.1torrの窒素(800torr)雰囲気下、300℃の加熱温度のもとで電子線(加速電圧2MeV)を照射線量100KGy照射し、供試試料とした。
【0024】
実施例及び比較例の各試料の特性評価を表1に示した。なお、測定は、各試料3点とし、これらの算術平均値示した。
【0025】
(1)比摩耗量
試験には、スラスト摩耗試験装置を使用し、JISK7218に準じ、SUS304製の円筒リング(外径25.6mm、内径20.6mm)に試験片(外径25.6mm、内径20.6mm、厚さ1mm)を貼り合せ、相手材には、SUS304板(縦30mm、横30mm、厚さ5mm)を用い、圧力0.4MPa、速度130m/min の条件で行った。
【0026】
24時間後重量減少を測定し、比摩耗量VSAは、下記の式から求めた。
【0027】
VSA=V/(P・L)
V:摩耗量、P:試験荷重、L:平均滑り距離
(2)引張特性
JISK6891に準じ、引張速度200mm/min で測定した。ダンベルには、JISK7113記載の2(1/5)号形を用いた。
【0028】
(3)耐熱性
引張試験片を350℃の空気雰囲気下の恒温槽に24時間入れ、その後取出した。24時間放置して空冷後、180°の折り曲げ試験を行い、割れを生じないものを良、割れるものを破断とした。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
以上説明してきた本発明によれば、実施例と比較例との対比からも明らかなように、優れた熱安定性を実現することが可能となり、ふっ素樹脂の応用範囲を広げる上で大きく貢献するものである。
Claims (3)
- 水素、ふっ素及びふっ素化合物から選ばれる少なくとも一種である改質剤の存在下において、ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射してなることを特徴とする改質ふっ素樹脂。
- ふっ素樹脂に酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量0.1KGy〜10MGyの範囲で照射した後、水素、ふっ素及びふっ素化合物から選ばれる少なくとも一種である改質剤と接触させてなることを特徴とする改質ふっ素樹脂。
- ふっ素樹脂が、テトラフルオロエチレン系重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1または請求項2記載の改質ふっ素樹脂。
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