JP3620893B2 - アルミニウム含有金属用表面処理組成物及び表面処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はアルミニウム含有金属、即ちアルミニウム材料及びアルミニウム合金材料(例えばAl−Mn,Al−Mg,Al−Si等の合金)を塗装する前に、この金属材料表面に優れた耐食性と塗料密着性を付与する新規なアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物及び表面処理方法に関するものである。本発明が特に効果的に適用される分野はアルミニウムDI缶の表面処理である。即ち、本発明の表面処理組成物及び表面処理方法により、アルミニウム合金板を絞りしごき加工(Drawing & Ironing)することにより形成されたアルミニウムDI缶に塗装・印刷を施す前に、この缶の表面に、従来方法に比べ優れた耐食性と塗料密着性、及び缶のコンベヤー移送の円滑化に必要な優れた滑り性(以下単に滑り性という)を付与することができる。
【0002】
【従来の技術】
従来認知のアルミニウム含有金属材料用表面処理液は、クロメートタイプとノンクロメートタイプに大別することができる。クロメートタイプの代表的なものとしては、クロム酸クロメート化成処理とりん酸クロメート化成処理とがあり、前記クロム酸クロメート化成処理は1950年頃に実用化され現在も熱交換器のフィン材などに広く使用されている。このクロム酸クロメート化成処理に用いられる処理液はクロム酸(CrO3 )とフッ化水素酸(HF)を主成分として含み、さらに促進剤が添加されているもので、若干の6価クロムを含有する皮膜を形成することができる。
【0003】
また前記りん酸クロメート化成処理は1945年のU.S.Patent 2,438,877の発明によるものであり、この化成処理液はクロム酸(CrO3 )、りん酸(H3 PO4 )、フッ化水素酸(HF)を含み、形成される皮膜は水和したりん酸クロム(CrPO4 ・4H2 O)を主成分として含むものである。この皮膜には6価クロムが含有されないことから、飲料缶のボディーおよび蓋材の塗装下地処理などに現在も広く使用されている。しかし、これらのクロメートタイプ表面処理液は有害な6価クロムを含有しているので、環境上の問題から6価クロムを含有していない処理液の使用が望まれている。
【0004】
このようなノンクロメートタイプ表面処理の代表的なものとしては、特開昭52−131937号公報に開示の処理液が挙げられる。この処理液はジルコニウムまたはチタン、あるいはこれらの混合物、ホスフェートおよびフッ化物を含有し、且つ、pHが約1.0〜4.0の酸性の水性コーティング溶液である。この化成処理液を用いて処理を行うと、アルミニウム含有金属材料表面上に、ジルコニウムあるいはチタンの酸化物を主成分とする化成皮膜が形成される。しかしながら、ノンクロメートタイプ処理液は、6価クロムを含有しないという利点を有しているが、しかし、クロメートタイプに比べると得られる皮膜の耐食性および塗料密着性が劣るという欠点を有している。
【0005】
一方、水溶性樹脂を含み、耐食性及び塗料密着性の付与を目的とする処理液や処理方法としては、特開昭61−91369号公報、特開平1−172406号公報、特開平1−177379号公報、特開平1−177380号公報、特開平2−608号公報、及び特開平2−609号公報などに開示されているものが知られている。これらの処理法は、金属表面を多価フェノール化合物の誘導体を含む溶液で処理するものである。しかし、これらの方法ではアルミニウム含有金属材料表面に充分に安定した皮膜を形成することが困難であり、満足した性能(耐食性)を有する皮膜が得られない。また、この多価フェノール化合物の誘導体を含む処理方法を改善した特開平4−66671号公報の記載の処理方法においても、その塗料には充分な密着性が得られないものが包含されているという問題を有している。
【0006】
現在、アルミニウムDI缶の表面処理には、上記のりん酸クロメート系処理液とジルコニウムを主成分とするノンクロメート系処理液が主に使用されている。一般にアルミニウムDI缶において、ボトム外面は塗装されずに沸騰水道水浸漬による高温殺菌が行われるが、この際に、耐食性が乏しいと水道水中の成分によりアルミニウムが酸化して外観が黒く変色してしまう。この現象は一般に黒変と言われている。
【0007】
一方、一部のアルミニウムDI缶では高圧水蒸気殺菌が施されているが、この際、水蒸気によりアルミニウムの酸化物の結晶が成長することによって外観が白く変色してしまうという問題が知られている。この問題を解決するためには、高圧水蒸気殺菌を施されたアルミニウムDI缶のボトム外面を塗装により保護しなければならない。そこで表面処理により形成される皮膜自身(未塗装)に高い耐食性が要求されている。
【0008】
また製缶工程において、缶外面の摩擦係数が高い場合、缶をコンベヤー移送する際、缶表面の滑りが悪いため、缶が横転して移送障害の問題を引き起こし易くなる。特に缶の移送性の良し悪しは、缶をプリンターに搬送しようとするときに問題となる。したがって、製缶工業においては、その後に缶表面に塗装されるペイントやインクの密着性に悪影響を与えることなく、缶表面の静摩擦係数を低下させることが重要となってきている。この滑り性を向上させる方法としては、特開昭64−85292号公報の発明が知られている。この方法はりん酸エステル類、アルコール類、一価または多価脂肪酸、脂肪酸誘導体類およびそれらの混合物から選択された水溶性有機物質を含む金属缶用表面処理剤を用いるものである。この方法では滑り性の向上は認められているが、しかし、得られる皮膜の耐食性および塗料密着性の向上は認められないという問題を有している。また、他滑り性を向上させる方法として、りん酸エステルを使用する特開平5−239434号公報の方法があるが、この方法でも滑り性の向上は認められるが、得られる皮膜の耐食性および塗料密着性の向上は認められないという問題を有している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は従来技術の有する上記の問題点を解決するためのものであり、具体的にはアルミニウム含有金属材料の表面に、優れた耐食性と塗料密着性を付与することが可能であり、かつアルミニウムDI缶に適用した際に、それら優れた滑り性を付与することが可能な、新規な表面処理組成物および表面処理方法を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、従来技術の抱える前記問題点を解決するための手段について鋭意検討した。その結果、特定割合で配合されたりん酸イオンと、ジルコニウム化合物及びチタン化合物の少なくとも1種と、フッ化物と、特定の構造を持つ水溶性樹脂との配合物を含有する表面処理組成物を含む表面処理液をアルミニウム含有金属材料表面に接触させ、その後、この金属材料の表面処理した付着表面を水洗して加熱乾燥する表面処理方法を採用することによって、優れた耐食性及び塗料密着性を有し、且つ、アルミニウムDI缶に適用した際には、滑り性を向上させる皮膜をアルミニウム含有金属材料表面に形成し得る事を新たに見い出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明のアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物は、1〜100重量部のりん酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子の重量に換算して1〜50重量部のジルコニウム化合物およびチタン化合物から選ばれる少なくとも1種と、フッ素原子重量に換算して1〜100重量部のフッ化水素酸と、1〜200重量部の下記一般式(I):
【化3】
〔但し、式(I)において、nは平均重合度2〜50を表し、Xは水素原子、C1 〜C5 アルキル基、又はC1 〜C5 ヒドロキシアルキル基を表し、Yは水素原子又は下記式(II)又は(III)により表されるZ基:
【化4】
を表し、R1 ,R2 、およびR3 は、それぞれ他から独立に、C1 〜C10アルキル基、又はC1 〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、個々のベンゼン環に結合している前記Z基の数の平均値が0.2〜1.0である〕
により表される水溶性重合体からなる樹脂とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の表面処理組成物は、1〜100重量部の、過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、モリブデン酸及びその塩並びに、有機ペルオキソ酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤をさらに含んでいてもよい。
【0013】
本発明の前記表面処理組成物において、前記酸化剤は、過酸化水素及び有機ペルオキソ化合物から選ばれた1種以上からなるものであることが好ましい。
【0014】
本発明のアルミニウム含有金属材料の表面処理方法は、前記本発明のアルミニウム含有金属用表面処理組成物を含む表面処理液を、アルミニウム含有金属材料の表面に接触させて表面処理し、この処理面を水洗し、乾燥することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の表面処理方法において、前記表面処理液が0.01〜1.0g/リットルのりん酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子に換算して0.01〜0.5g/リットルのジルコニウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子に換算して0.01〜2.0g/リットルのフッ化水素酸と、0.01〜2.0g/リットルの前記一般式(I)で表される水溶性重合体からなる樹脂とを有効成分として含み、かつ1.0〜5.0のpHを有することが好ましい。
【0016】
前記表面処理において、前記表面処理液が、過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、モリブデン酸及びその塩並びに有機ペルオキソ酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤を、0.01〜1.0g/リットルの添加量でさらに含んでいてもよい。
【0017】
【作用】
本発明の表面処理組成物は、りん酸イオンと、ジルコニウム化合物またはチタン化合物と、フッ化水素酸と一般式(I)により表される水溶性樹脂を必須成分として含有する酸性処理液である。特に、本発明の表面処理組成物および表面処理方法に用いられる表面処理液においては、フッ化水素酸と特定構造の水溶性樹脂とが併用されていることが重要であって、それによって、表面処理液を安定化し、且つ得られる化成皮膜の耐食性(耐黒変性)、塗料密着性および、滑り性をともに著しく向上させることができる。更に、前記表面処理組成物に特定組成の酸化剤を配合することにより、より短時間に皮膜を形成することが可能になり、且つ、得られる皮膜により優れた耐食性を付与することができる。
【0018】
本発明の表面処理組成物は、下記成分を下記の重量割合で含む配合物の水性剤であり、そのpHは一般に0.8〜5.0の範囲内にある。
・りん酸イオン 1〜100重量部
・ジルコニウム化合物およびチタン化合物の少なくとも1種(ジルコニウム原子換算またはチタン原子の重量に換算) 1〜50重量部
・フッ化水素酸(フッ素原子重量に換算) 1〜200重量部
・式(I)の水溶性樹脂 1〜200重量部
【0019】
本発明において、前記表面処理組成物を含む表面処理液(水溶液)が調製される。この表面処理液の各成分の濃度は、下記のように調整される事が好ましい。
・りん酸イオン (0.01〜1.0g/リットル)
・ジルコニウム化合物およびチタン化合物の少なくとも1種(ジルコニウム原子換算またはチタン原子重量に換算) (0.01〜0.5g/リットル)
・フッ化水素酸(フッ素原子重量に換算) (0.01〜2.0g/リットル)
・式(I)の水溶性樹脂 (0.01〜2.0g/リットル)
またこの時の表面処理液のpHは、1.0〜5.0の範囲内に調整される事が好ましい。
【0020】
本発明の表面処理組成物にりん酸イオンを含有させるには、りん酸(H3 PO4 )、りん酸ナトリウム(Na3 PO4 )、および/又はりん酸アンモニウム((NH4 )3 PO4 )などを使用することができる。その配合量は式(I)の水溶性樹脂1〜200重量部に対し、1〜100重量部の範囲内にあり、好ましくは2〜40重量部である。前記成分配合におけるりん酸イオン配合量が1重量部未満では、得られる表面処理液の反応性が乏しくなるので皮膜が十分に形成されない。また、それが100重量部を超えると、良好な皮膜は形成されるが、その効果が飽和し処理液のコストが高くなり経済的に無駄である。
【0021】
本発明の表面処理組成物にジルコニウム化合物およびチタン化合物の少なくとも一種を含有させるには、例えば酸化ジルコニウム、酸化チタンのような酸化物、水酸化ジルコニウム、水酸化チタンのような水酸化物、フッ化ジルコニウム、フッ化チタンのようなフッ化物、硝酸ジルコニウム、硝酸チタンのような硝酸塩を使用できるが、上記以外の水溶性化合物を用いてもよい。これらのジルコニウム又はチタン化合物の配合量は、りん酸イオン1〜100重量部に対して、金属重量に換算(ジルコニウム、チタン)して1〜50重量部の範囲内にあり、好ましくは、2〜8重量部である。この配合量が1重量部未満では表面処理液により皮膜が充分に形成されない。またそれが50重量部を超える多量を用いると、良好な皮膜は形成されるが、その効果が飽和し、コストのみが高くなり経済的に無駄である。
【0022】
本発明の表面処理組成物にフッ化水素酸(HF)が含有される。フッ化水素酸の配合量は、りん酸イオン1〜100重量部に対して、フッ素として1〜200重量部の範囲が好ましく、特に3〜60重量部の範囲が好ましい。この配合量が1重量部未満ではそれから得られる表面処理液の反応性が乏しくなるので皮膜が十分に形成されない。またそれが200重量部を超えると、アルミニウム含有金属材料表面におけるエッチング量が過多となり皮膜外観が悪くなるので好ましくない。但し、フッ化水素酸の最適含有量は、素材より溶出するアルミニウム濃度に依存するので、このアルミニウム濃度により変動する。これは溶出したアルミニウムをフッ化アルミニウムとして処理液中に安定に存在させるためにフッ化水素酸が必要であるからである。例えば、アルミニウム濃度1.0g/リットルの処理液に対し、それを安定化するために必要なフッ化水素酸の量はフッ素を量に換算して約2g/リットルである。
【0023】
本発明の表面処理組成物中に、過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、並びにモリブデン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤を用いることができる。しかし、前記組成物を含む表面処理液の使用後の廃水処理性を考慮すると、酸化剤として過酸化水素を用いることが最も好ましく、次に有機ペルオクソ化合物を用いることが好ましい。表面処理液中にチタニウムが含有される場合において、過酸化水素は、チタニウムと錯化合物をつくり、チタニウム皮膜の形成が阻害されることがあり、この場合には有機ペルオクソ化合物を用いることが最も好ましい。前記特定組成の酸化剤はアルミニウム及びアルミニウム合金上におけるジルコニウム皮膜及びチタニウム皮膜の生成反応速度を促進させる働きを有している。酸化剤の配合量は、りん酸イオン1〜100重量部に対し、1〜100重量部の範囲が好ましく、特に2〜50重量部の範囲が好ましい。酸化剤の含有量が1重量部未満ではこれを含む表面処理剤による表面処理において反応促進の効果が不十分になる。またそれが100重量部を超える多量に用いても、問題はないが、その効果が飽和してしまい経済的に無駄である。
【0024】
次に本発明で用いる水溶性樹脂は、下記一般式(I)で示されるオリゴマーを含むポリマーである。
【化5】
式(I)において、nは平均重合度2〜50を表し、Xは水素原子あるいはC1 〜C5 のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基を表す。また、Yは水素原子またはZ基を表すが、Z基は、一般式(I)の分子中に必ず導入されており、その導入数は個々のベンゼン環1ケ当たり0.2〜1.0個である。Z基は下記(II)式または(III)式で示されるものである。
【化6】
式(II)、および(III)において、R1 ,R2 、およびR3 は、それぞれ他から独立にC1 〜C10のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基を表す。
【0025】
上記式(I)の水溶性樹脂において、nの平均値は2〜50であり、nの値が2未満では、得られる重合体の分子量が低すぎて、得られる皮膜における耐食性の向上は認められない。また、それが50を超えると、得られる水溶性樹脂含有水溶液の安定性が低くなり、実際の使用上に問題を生ずる。Xは、前述のように、水素原子あるいは、C1 〜C5 のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基を表す。XがC5 を超えるアルキル基又はヒドロキシアルキル基であると、得られる樹脂がバルキーとなり、立体障害を引き起こしこのため耐食性に優れた均一で緻密な皮膜が得られない。
【0026】
式(I)において、前述のように、Yは水素原子またはZ基を表す。Z基は式(I)の重合体中に必ず導入されており、その導入数は個々のベンゼン環に0.2〜1.0個である。換言すれば、式(I)の重合体の各ベンゼン環に結合しているZ基の数の平均値は0.2〜1である。例えば、nが10の高分子(ベンゼン環の数は20個)に、10個のZ基が導入されている場合、その導入率は0.5である。導入率が0.2未満では得られる樹脂の水溶性が低く、処理液の安定性が不良になる。また、その導入率が1以上では得られる樹脂の水溶性が過度に高くなり、皮膜を充分に形成しなくなる。
Z基中のR1 ,R2 ,R3 はC1 〜C10のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基である。その炭素原子数が10を超えると得られるZ基がバルキーすぎて得られる皮膜が粗くなり、かつ耐食性が低下するので好ましくない。
【0027】
本発明の表面処理組成物に用いられる水溶性樹脂の含有量は、有効成分として、りん酸イオン1〜100重量部に対して1〜200重量部である。その含有率が1重量部未満では濃度が低すぎるため、アルミニウム含有金属表面に安定して皮膜を形成することが困難となる。また、それが200重量部を超えると処理液のコストが高くなり経済的に不利になる。
【0028】
本発明の表面処理組成物のpHは0.8〜5.0であることが好ましい。また本発明方法において用いられる表面処理液のpHは1.0〜5.0であることが好ましい。このpHが1.0未満では、アルミニウム含有金属材料表面に対するエッチング効果が過大となり、このため化成皮膜を形成することが困難となることがある。またそれが5.0を超えると樹脂が析出沈澱しやすくなるために処理液の寿命も短くなり皮膜形成が困難になる。したがって、pHは1.0〜5.0の範囲に制御されることが好ましい。より好ましくは2.0〜4.0である。
【0029】
本発明方法において表面処理液のpHは、硝酸、水酸化アンモニウムを用いて調整されることが最も好ましい。また、表面処理液中に素材より溶解したアルミニウムイオンが混入すると、樹脂と金属とが錯体を形成し、沈澱を生ずる場合がある。このような場合には、処理液にアルミニウム封鎖剤を添加することが有効である。またこの様な場合には、フッ化水素酸を添加してアルミニウムイオンをアルミ・フッ素錯体として封鎖すればよい。フッ化水素酸の過剰な添加は、ジルコニウム及びチタニウムの析出を妨げるので避けなければならない。またEDTA、Cy−DTA、トリエタノールアミン、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、しゅう酸、酒石酸、りんご酸および有機ホスホン酸等もアルミニウム封鎖剤として加えることも有効である。
【0030】
本発明のアルミニウム含有金属材料の表面処理方法において、前記本発明のアルミニウム含有金属用表面処理組成物を含む表面処理液を、アルミニウム含有金属材料の表面に接触させて表面処理し、この処理面を水洗し、乾燥する。このとき、接触温度および時間は適宜に設定することができる。
本発明の表面処理方法において、前記表面処理液は0.01〜1.0g/リットルのりん酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子に換算して0.01〜0.5g/リットルのジルコニウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子に換算して0.01〜2.0g/リットルのフッ化水素酸と、0.01〜2.0g/リットルの前記一般式(I)で表される水溶性重合体からなる樹脂とを有効成分として含み、かつ1.0〜5.0のpHを有することが好ましい。
また、前記表面処理において、前記表面処理液が、さらに0.01〜1.0g/リットルの、過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、モリブデン酸及びその塩、並びに有機ペルオキソ酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化物を含んでいてもよい。
【0031】
前記表面処理方法において、前記表面処理液と前記金属材料表面との接触が前記表面処理液中に前記金属材料を2〜100秒間浸漬する事により施されてもよい。
また、本発明の表面処理方法において、前記表面処理液と前記金属材料表面との接触が、前記表面処理液を、前記金属材料表面に、少なくとも1回スプレーし、前記表面処理液と、前記金属材料表面との接触時間を2〜100秒内にコントロールする事によって施されてもよい。
【0032】
尚、スプレー処理を行う場合に、処理液が発泡し問題を生ずる場合がある。発泡は装置条件に大きく依存するが、この装置条件の変更で改善し得ない場合には、処理液に消泡剤を添加すればよい。消泡剤の種類には特に限定はなく、後の塗料密着性を損なうようなものでなければ何を用いてもよい。
【0033】
次に本発明の表面処理方法について説明する。本発明の表面処理組成物が、本発明方法において用いられる。この時、表面処理組成物が濃厚である場合には、これを所望濃度に希釈し本発明方法に供される。以下に本発明で適用できる表面処理工程の好ましい例をいくつか記す。但し、本発明は、これらの例により制限されるものではない。
【0034】
<表面処理工程1>
(1)DI缶の表面洗浄:脱脂(酸系、アルカリ系、溶剤系のいずれでも良い)
処理温度:40〜80℃
処理方法:スプレー
処理時間:25〜60秒
(2)水洗
(3)表面処理(本発明表面処理液の適用)
処理温度:25〜60℃
処理方法:スプレー
処理時間:15〜100秒
(4)水洗
(5)脱イオン水洗
(6)乾燥
【0035】
<表面処理工程2>
(1)DI缶の表面洗浄:脱脂(酸系、アルカリ系、溶剤系のいずれでも良い)
処理温度:40〜80℃
処理方法:スプレー
処理時間:25〜60秒
(2)水洗
(3)化成処理(りん酸塩表面処理剤使用)
処理温度:25〜60℃
処理方法:スプレー
処理時間:8〜30秒
(4)表面処理(本発明表面処理液の適用)
処理温度:25〜60℃
処理方法:スプレー
処理時間:2〜30秒
(5)水洗
(6)脱イオン水洗
(7)乾燥
【0036】
<表面処理工程3>
(1)DI缶の表面洗浄:脱脂(酸系、アルカリ系、溶剤系のいずれでも良い)
処理温度:40〜80℃
処理方法:スプレー
処理時間:25〜60秒
(2)水洗
(3)化成処理(りん酸塩表面処理剤使用)
処理温度:30〜50℃
処理方法:スプレー
処理時間:8〜30秒
(4)水洗
(5)化成処理(本発明表面処理液の適用)
処理温度:25〜60℃
処理方法:スプレー
処理時間:2〜30秒
(6)水洗
(7)脱イオン水洗
(8)乾燥
【0037】
本発明表面処理方法において、表面処理液と、金属材料表面との接触は、浸漬法、又はスプレー法により行われる。処理温度に制限はないが、DI缶の場合には25〜60℃であることが好ましい。
【0038】
本発明方法において、接触時間に制限はないが表面処理液中に金属材料が浸漬される場合、その処理時間は2〜100秒であることが好ましく、より好ましくは3〜50秒である。浸漬処理時間が2秒未満では処理液と金属材料表面が充分に反応せず、耐食性の優れた皮膜は得られないことがある。またこれが100秒を超えても得られる化成皮膜の性能の向上は見られない。特に好ましい処理時間は5〜20秒の範囲である。
【0039】
本発明方法において、処理液を金属表面にスプレーし、両者を接触させる場合、処理液が連続してスプレーされると、金属表面と、処理液層との界面近傍におけるpH上昇が起きにくくなり皮膜が充分に形成されなくなることがある。このため、1〜5秒の間隔をおいて2回以上の間欠スプレーを施すことが好ましい。
【0040】
前記表面処理工程2、または3を適用する場合、その処理時間は2〜30秒が適当である。処理時間が2秒未満では表面処理液と金属表面の反応性が乏しく、耐食性の優れた皮膜は形成されない。また30秒を超える時間処理を行っても性能の向上は認められない。特に好ましい接触時間は、5〜15秒の範囲である。前記表面処理工程2または3の様な2段処理で使用できる化成処理剤(りん酸塩処理剤)としては、公知のアルミニウム化成処理剤が適用できる。具体的には特公昭52−131937号公報、および特公昭57−39314号公報等に記載されている化成処理液が挙げられる。これらの化成処理液に本発明の効果を阻害する成分を含まない場合は、化成処理後に水洗をすることなく直ちに本発明の処理を行う事ができる。また化成処理液に本発明の効果を阻害する成分を含む場合は、化成処理後に水洗を行ってから本発明の表面処理を施す事が好ましい。なお本発明処理方法によってアルミニウム含有金属材料表面上に形成される表面皮膜の付着量は、ジルコニウム原子またはチタン原子の重量に換算して6〜20mg/m2 であることが好ましい。それが6mg/m2 未満では得られる皮膜の耐食性が不充分になることがあり、またそれが20mg/m2 を超えると得られる皮膜の塗料密着性が不充分になることがある。
【0041】
【実施例】
本発明の表面処理液に関し、下記に幾つかの実施例を挙げ、その有用性を比較例と対比して詳しく説明する。
【0042】
1.供試材
アルミニウム板をDI加工して作製したアルミニウムDI缶を、酸性脱脂剤(登録商標パルクリーン500、日本パーカライジング株式会社製)の加熱水溶液を用いて清浄にした後、表面処理に供した。
【0043】
2.評価方法
<耐食性>
アルミニウムDI缶の耐食性は、耐黒変性と耐レトルト性により、下記のように評価した。
(1)耐黒変性
表面処理されたアルミニウムDI缶を、沸騰した水道水に30分間浸漬し、それにより発生した変色(黒変)の度合を目視により判定した。上記の試験結果において、「黒変なし」を○、「一部黒変」を△、「全面黒変」を×で示した。
(2)耐レトルト性
表面処理されたアルミニウムDI缶を、121℃の高圧蒸気中に30分間放置し、その後のレトルト性を評価した。上記試験結果において、「白変なし」を○、「一部白変」を△、「全面白変」を×で示した。
【0044】
<潤滑性>
図1に示すような缶滑り性試験機の傾斜板上に、表面処理を施した多数のアルミニウムDI缶1を、その3缶の内の2缶のボトム側が正面を向く様に固定して、その上に残りの1缶を、その開口部側が正面に向く様にセットした。この状態で、傾斜板2をモーター3により一定速度(3°/sec )で傾斜させ、アルミニウム缶1が落下するまでに要した時間から、傾斜角度を求め静摩擦係数を算出した。上記試験結果において静摩擦係数が「1.0未満」を○、「1.0以上1.5未満」を△、「1.5以上」を×で示した。
【0045】
<塗料密着性試験>
塗料密着性は、表面処理されたアルミニウム缶の表面に、エポキシ尿素系の缶用塗料を塗膜厚5〜7μmに塗装し、215℃で4分間焼付け、評価面にカッターナイフで碁盤目カット(2mm×2mm×100個)をいれ、セロテープ剥離試験を行って評価した(1次密着性)。その後、下記に示す組成の沸騰したモデルジュース試験液に60分間浸漬後、再度セロテープ剥離試験を実施した(2次密着性)。尚、密着性評価は塗膜剥離の有無で評価した。
モデルジュース液組成
塩化ナトリウム(5g)
クエン酸 (5g)
脱イオン水により全量を1リットルとした。
【0046】
実施例1
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を行った後、これに下記組成の表面処理液1を35℃に加温して10秒スプレー処理した。次にこれを水道水で水洗し、さらに3000,000Ωcm以上の抵抗を有する脱イオン水で10秒間スプレーした後、これを200℃の熱風乾燥炉内で2分間乾燥した。その後、このアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0047】
表面処理液1の組成
評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例2
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を行った後、これに下記組成の表面処理液2を35℃以上に加温して10秒間スプレー処理した。次にこれを実施例1と同様に水道水により水洗し、脱イオン水により洗浄し、熱風乾燥した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0049】
表面処理液2の組成
評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例3
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を行った後、これに下記組成の表面処理液3を45℃に加温して5秒間スプレー処理を行った。次にこれを実施例1と同様に水道水により水洗し、脱イオン水により水洗し、熱風乾燥した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を、前記方法により評価した。
【0051】
表面処理液3の組成
評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を行った後、これに下記組成の表面処理液4を50℃に加温して30秒間浸漬処理を行った。次にこれに実施例1と同様に水道水により水洗し、脱イオン水により水洗し、熱風乾燥した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0053】
表面処理液4の組成
評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例5
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を行った後、これに下記表面処理液5を35℃に加温して8秒間スプレー処理を施した。次にこれを実施例1と同様にして水道水により水洗し、脱イオン水により水洗し、熱風乾燥した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0055】
表面処理液5の組成
評価結果を表1に示す。
【0056】
実施例6
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して20秒間スプレー処理を施した後、これに下記表面処理液6を35℃に加温して15秒間スプレー処理を施した。次にこれを実施例1と同様に水道水により水洗し、脱イオン水により水洗し、熱風乾燥した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0057】
表面処理液6の組成
評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例7
清浄処理したアルミニウムDI缶に、下記組成の表面処理液7を35℃に加温して15秒間スプレー処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0059】
表面処理液7の組成
評価結果を表1に示す。
【0060】
実施例8
清浄処理したアルミニウムDI缶に、下記組成の表面処理液8を35℃に加温して40秒間スプレー処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0061】
表面処理液8の組成
評価結果を表1に示す。
【0062】
実施例9
清浄処理したアルミニウムDI缶に、下記組成の表面処理液9を40℃に加温して15秒間スプレー処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0063】
表面処理液9の組成
評価結果を表1に示す。
【0064】
実施例10
清浄処理したアルミニウムDI缶に、下記組成の表面処理液10を40℃に加温して40秒間スプレー処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0065】
表面処理液10の組成
評価結果を表1に示す。
【0066】
実施例11
清浄処理したアルミニウムDI缶を、40℃に加温された下記組成の表面処理液11中に、15秒間浸漬し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0067】
表面処理液11の組成
評価結果を表1に示す。
【0068】
実施例12
清浄処理したアルミニウムDI缶に、40℃に加温された下記組成の表面処理液12による50秒間の浸漬処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0069】
表面処理液12の組成
評価結果を表1に示す。
【0070】
実施例13
清浄処理したアルミニウムDI缶に、40℃に加温された下記組成の表面処理液13による15秒間の浸漬処理を施し、実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0071】
表面処理液13の組成
評価結果を表1に示す。
【0072】
実施例14
清浄処理したアルミニウムDI缶を、40℃に加温された下記組成の表面処理液14中に50秒間浸漬し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、アルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0073】
表面処理液14の組成
評価結果を表1に示す。
【0074】
比較例1
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して25秒間スプレー処理を施し、これに実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施し、その後得られたアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
評価結果を表1に示す。
【0075】
比較例2
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(商標:アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して25秒間スプレー処理を施し、これに下記組成の表面処理液15を35℃に加温して2秒間スプレー処理を施し、実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施し、その後得られたアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0076】
表面処理液15の組成
評価結果を表1に示す。
【0077】
比較例3
清浄処理したアルミニウムDI缶に、市販のアルミニウムDI缶用りん酸ジルコニウム系表面処理液(商標:アロジン404、日本パーカライジング株式会社製)を35℃に加温して25秒間スプレー処理を施し、これに下記組成の表面処理液16を35℃に加温して120秒間スプレー処理を施し、実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施し、その後得られたアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0078】
表面処理液16の組成
評価結果を表1に示す。
【0079】
比較例4
清浄処理したアルミニウムDI缶に、下記組成の表面処理液17を35℃に加温して20秒間スプレー処理を施し実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施し、その後、得られたアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0080】
表面処理液17の組成
評価結果を表1に示す。
【0081】
比較例5
清浄処理したアルミニウムDI缶に、前記表面処理液8を35℃に加温して1秒間スプレー処理を施し、実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を施した。その後、得られたアルミニウムDI缶の耐食性、密着性を前記方法により評価した。
【0082】
比較例6
清浄処理したアルミニウムDI缶に、リン酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング製)を35℃に加温して25秒間スプレー処理を施した後、特開昭64−85292号公報に開示されている表面処理を施した。その後、得られたアルミニウムDI缶の耐食性、塗料密着性および滑り性を前記方法により評価した。
【0083】
比較例7
清浄処理したアルミニウムDI缶に、リン酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング製)を35℃に加温して25秒間スプレー処理を施した後、特開平4−66671号公報に開示されている表面処理を施し、実施例1と同様の水洗、脱イオン水洗、熱風乾燥を行った。その後、得られたアルミニウムDI缶の耐食性、塗料密着性および滑り性を前記方法により評価した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1の結果より明らかなように本発明の表面処理液および表面処理方法を用いた実施例1〜14は、得られた表面皮膜の耐食性、潤滑性および塗料密着性ともに優れていた。一方、本発明の範囲外の表面処理液および表面処理方法を用いた比較例1〜4の表面皮膜は、黒変性、レトルト性、滑り性、塗料密着性いずれか1つ以上においても劣っていた。
比較例1:本発明の表面処理液に水溶性樹脂が入っていないため、充分なレトルト性および滑り性が得られなかった。
比較例2:りん酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング製)をアルミニウム含有金属に接触させた後、水洗を行わずに本発明の表面処理液を形成された表面皮膜上に1秒間接触させたが、アルミニウム含有金属と本発明表面処理液との接触時間が範囲外のため優れたレトルト性および滑り性は、得られなかった。
比較例3:リン酸ジルコニウム系表面処理液(登録商標アロジン404、日本パーカライジング製)をアルミニウム含有金属に25秒間接触させた後、水洗を行わず、表面処理液16を20秒間接触させた。表面処理液16は、本発明の水溶性樹脂を含まないため、優れたレトルト性が得られなかった。またアルミニウム含有金属に対するジルコニウムの付着量も過剰なため優れた塗料密着性が得られなかった。
比較例4:本発明の表面処理液のpHが0.8と低く、アルミニウム含有金属表面に対するエッチング効果が過大となり表面皮膜が形成されにくくなり優れた黒変性、レトルト性および滑り性は得られなかった。
比較例5:本発明表面処理液とアルミニウム含有金属との接触時間が1秒と短く充分な表面皮膜が形成されず優れた黒変性、およびレトルト性、滑り性の向上は認められなかった。
比較例6:特開昭64−85292号公報にて開示の表面処理では、滑り性のみを向上させる物であり、レトルト性の向上は認められなかった。
比較例7:特開平4−66671号公報にて開示の表面処理では、優れた塗料の密着性が得られなかった。
【0086】
【発明の効果】
上記の説明から明らかなように、本発明に係る表面処理液及び表面処理方法により、塗装前のアルミニウム含有金属材料表面に優れた耐食性と潤滑性及び塗料密着性を有する皮膜を形成することができる。
また、本発明の表面処理液によりアルミニウムDI缶表面を処理することにより、塗装、印刷前のアルミニウムDI缶の表面に優れた耐食性と塗料密着性を付与することができ、さらに、この缶のコンベアー移送の円滑化も可能になる。
従って、本発明のアルミニウム含有金属材料用表面処理液および表面処理方法は、ともに実用上きわめて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)はDIアルミニウム缶の滑り性測定試験機の平面説明図、
図1(B)は、上記試験機の正面説明図、
図1(C)は、上記試験機の側面説明図。
【符号の説明】
1…DI缶
2…傾斜板
3…モーター
Claims (6)
- 1〜100重量部のりん酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子の重量に換算して1〜50重量部のジルコニウム化合物及びチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子重量に換算して1〜200重量部のフッ化水素酸と、1〜200重量部の下記一般式(I)
により表される水溶性重合体からなる樹脂とを含有することを特徴とするアルミニウム含有金属材料表面処理組成物。 - 1〜100重量部の過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、並びにモリブデン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤をさらに含む、請求項1に記載の表面処理組成物。
- 前記酸化剤が、過酸化水素および有機ペルオキソ化合物から選ばれた1種以上からなる請求項2に記載の表面処理組成物。
- 請求項1に記載のアルミニウム含有金属用表面処理組成物を含む表面処理液を、アルミニウム含有金属材料の表面に接触させて表面処理し、この処理面を水洗し、乾燥することを特徴とするアルミニウム含有金属材料の表面処理方法。
- 前記表面処理液が0.01〜1.0g/リットルのりん酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子に換算して0.01〜0.5g/リットルのジルコニウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子に換算して0.01〜2.0g/リットルのフッ化水素酸と、0.01〜2.0g/リットルの前記一般式(I)で表される水溶性重合体からなる樹脂とを有効成分として含み、かつ1.0〜5.0のpHを有する、請求項4に記載の表面処理方法。
- 前記表面処理液が、過酸化水素、有機ペルオキソ化合物、亜硝酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、並びにモリブデン酸及びその塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤を0.01〜1.0g/リットルの添加量でさらに含む、請求項5に記載の表面処理方法。
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