JP3620708B2 - 露出型柱脚の固定部 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄骨造の露出型柱脚の固定部に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、低層の鉄骨造の柱脚は、柱の下端部にベースプレートを設けて、基礎に埋め込んだアンカーボルトにより緊結する露出型柱脚とするのが一般的であり、基礎が回転変形することも考慮して柱脚はピン接合として設計されてきた。しかし、1995年兵庫県南部地震においてピン接合として設計された露出型柱脚の被害が多くみられたことから、露出型柱脚においても柱脚の回転剛性を評価した応力で柱脚、基礎を設計するようになってきた。
このため、特にスパンが大きいなどの理由で基礎梁を設けない基礎の場合、柱脚の回転剛性を考慮した応力で基礎を設計すると、柱脚をピン接合とした場合に比べて基礎の寸法が大きくなり、堀削土量や材料、工数の増大につながっている。そこで、回転剛性の小さな柱脚が求められている。
【0003】
露出型柱脚の回転剛性算定方法としては、日本建築学会「鋼管構造設計施工指針・同解説」に示されている下式が広く用いられている。
【0004】
【数1】
KBS=(E・nt・Ab(dt+dc)2)/2lb
ここで、KBS:柱脚の回転剛性(N・cm/rad)
E:アンカーボルトのヤング係数(102×N/mm2)
nt:引張側アンカーボルトの本数
Ab:アンカーボルト1本の断面積(cm2)
dt:柱断面図心より引張側アンカーボルト断面群の図心までの距離(cm)
dc:柱断面図心より圧縮側の柱フランジ外縁までの距離(cm)
lb:アンカーボルトの長さ(cm)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、回転剛性の小さな柱脚としては、橋梁の支承部に用いられるようなピンを用いた支承部がある。これは、完全なピン接合として扱えるが、機構が複雑で製作に多大な工数を要する上に柱を立てる際に自立しないため仮設の支持が必要となるという問題がある。
【0006】
一方、特開平10−292487号公報には、アンカーボルトのナットと柱脚のベースプレートとの間にばね座金を介在させて柱の可撓性を確保すること、つまり柱脚の回転剛性を小さくすることが提案されている。しかし、この構造では、アンカーボルトのナットを締め付けすぎるとばね座金が変形しきってしまって効果を失うという危険性があるため、ナットの締め付け管理に手間がかかるという問題がある。
【0007】
また、特開平10−299081号公報には、柱脚のベースプレートと基礎との間に弾性ばねを挿入して柱脚の回転剛性を小さくすることが提案されている。しかし、この方法では上部構造体の重量により弾性ばねが圧縮されてしまい、期待するばね変形が得られないという欠点と、柱脚に働くせん断力を剛性の小さい弾性ばねを介して基礎に伝えるため、水平方向の変形が過大になる欠点がある。これら提案されている2つの方法は、何れも上述の露出型柱脚の回転剛性算定方法において、アンカーボルトのヤング係数を小さくするものである。
【0008】
これら以外に柱脚の回転剛性を低くする方法としては、アンカーボルトの長さを長くすること、柱の成を小さくすること、アンカーボルトを柱図心に近づけて配置すること、あるいはアンカーボルトの断面積を小さくすることが考えられるが、アンカーボルトの長さは基礎の寸法により限りがあり、また柱の成を柱脚部だけ小さくしようとすると、柱に形鋼でなく溶接H形鋼などを用いる必要があり、製作に工数がかかるという問題がある。また、アンカーボルトを柱図心に近づけても、柱の成を小さくしない限りある程度以下には回転剛性を下げることができない。また、アンカーボルト断面積を小さくすると、柱脚に生じる応力に対してアンカーボルトの耐力が不足するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、簡便な構造で柱脚の回転剛性を小さくすることができる露出型柱脚の固定部を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の露出型柱脚の固定部は、ウェブの両端部にフランジを有する柱脚のベースプレートが基礎に埋設されたアンカーボルトにより前記基礎に固定されて成る露出型柱脚の固定部であって、前記アンカーボルトは前記柱脚の両フランジ間に配置されるとともに、弾性ばねを除く鋼製支持金物(以下、単に「鋼製支持金物」という。)が該アンカーボルトに挿入され前記柱脚の前記ベースプレートと前記基礎との間に前記柱脚の回転が可能に介在されていることを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明においては、アンカーボルトを柱脚の両フランジ間に配置し、鋼製支持金物をアンカーボルトに挿入して柱脚のベースプレートと基礎との間に柱脚の回転が可能なように介在させたので、柱脚の両フランジ直下のベースプレートと基礎との間に空間を形成することができるため、圧縮反力の作用位置を圧縮側フランジ外縁でなく、圧縮側アンカーボルト群図心付近にして柱脚中心に近づけることができ、これにより柱脚の回転剛性を小さくすることができる。したがって、大幅な材料や工数の増加なしに、簡便な構造で柱脚の回転剛性の小さい露出型柱脚の固定部を製作・施工することができる。また、ばねなどの弾性体を用いないため、アンカーボルトのナット締め付け管理が容易である。また、鋼製支持金物を使用するので安価に製作することができる。
【0012】
ここで、鋼製支持金物は、各アンカーボルト毎に用意するようにしてもよいし、あるいは数本のアンカーボルト毎に用意するようにしてもよいし、あるいは1つの鋼製支持金物ですべてのアンカーボルトを挿通させるようにしてもよい。
【0013】
請求項2に記載の露出型柱脚の固定部は、請求項1の発明において、前記鋼製支持金物は、上面および/または下面のアンカーボルト群図心の外側に傾斜面または円弧面を有していることを特徴とする。
請求項2の発明においては、ベースプレートおよび/または基礎と鋼製支持金物との間に、アンカーボルト群図心より外側において間隙が生じるので、柱脚が回転する際の圧縮反力位置をアンカーボルトの図心に近づけることができるため、鋼製支持金物の端部による圧縮反力位置の外側への移動によって回転剛性が上昇するのを抑制することができる。ここで、鋼製支持金物の上面および/または下面のアンカーボルト群図心より外側のすべてを傾斜面または円弧面に形成すれば、鋼製支持金物の端部による圧縮反力位置の外側への移動によって回転剛性が上昇するのを防止することができるが、外側すべてではなく外周部のみを傾斜面または円弧面に形成しても、鋼製支持金物の端部による圧縮反力位置の外側への移動によって回転剛性が上昇するのを抑制することができる。なお、製作上の都合等のために、鋼製支持金物の上面および/または下面のアンカーボルトボルト群図心の内側にも傾斜面または円弧面を形成してもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、各図において同一構成要素には同一符号を付してその説明を簡略化する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部を示す断面図、図2はその要部の拡大断面図である。この露出型柱脚の固定部は、鉄骨造の柱脚1と、基礎2に埋設された複数本のアンカーボルト3と、柱脚1と基礎2との間に介在された複数個の平板状の鋼製支持金物(支持部材)4とを備えている。柱脚1は、H形鋼からなるものであって、ウェブ1aとこの両側のフランジ1b,1bとを備えており、これらの下端には平板状のベースプレート5が溶接により固着されている。複数本のアンカーボルト3は、柱脚1の両フランジ1b,1b間に配置されており、各アンカーボルト3は、ベースプレート5の貫通孔に挿通され、そして上端部にワッシャー6が挿入され、さらにナット7が螺合されている。また、各鋼製支持金物4は、それぞれ各アンカーボルト3に挿入され、柱脚1のベースプレート5と基礎2との間に介在されている。柱脚1は、ナット7が締め付けられることにより、アンカーボルト3を介して基礎2に固定されている。アンカーボルト3を埋め込む前にアンカーボルト位置決め用の型板を兼ねて鋼製支持金物4を設置することもできる。
【0015】
このような露出型柱脚の固定部にあっては、柱脚1のフランジ2b,2b直下のベースプレート5と基礎2との間に空間があるので、ベースプレート5下面と基礎2との間に挟まれた鋼製支持金物4上面の接触面を中心にして柱脚1が回転し、圧縮反力は鋼製支持金物4とベースプレート5下面の接触面に作用する。これにより、上述の露出型柱脚の回転剛性算定式中の柱図心からの圧縮反力の作用位置を示すdcの寸法が、柱図心から柱フランジ外縁の距離ではなく、柱図心から圧縮側アンカーボルト図心付近の距離となって小さくなり、その結果柱脚1の回転剛性が低くなる。
【0016】
表1は、スパン15m、軒高6m、大梁勾配1/25、柱梁断面H−350×175×7×11の山形ラーメン架構について、従来技術による露出型柱脚と、図1の本発明の露出型柱脚の場合の応力計算結果をまとめたものである。従来技術は、鋼製支持金物4が介在されておらず、柱脚1のベースプレート5の下面が基礎2に直接接触している点で、図1の本発明と相違しているものである。従来技術および本発明とも、アンカーボルトは鋼棒とし、本数は全部で4本、径はM16(軸断面積1.64cm2)、アンカーボルト長さは50cm、圧縮側と引張側アンカーボルト群の中心間の距離は7cmとした。荷重は柱頭水平方向に10kNを作用させた。
【0017】
【表1】
【0018】
本発明による柱脚は、柱脚の回転剛性が従来技術の1割程度に、また柱脚に働く曲げモーメントが従来技術の2割程度に、それぞれ小さくなることが分かる。
【0019】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部を示す断面図である。この露出型柱脚の固定部では、溶接により固定されたベースプレート5の代わりに、アングル形状のベースプレート5Aが柱脚1の下端部にボルトにより固定されている点で、図1の固定部と異なっている。すなわち、この露出型柱脚の固定部では、ベースプレート5Aが柱脚1のウェブ1aの両側に高力ボルト8により取り付けられ、これらのベースプレート5Aの水平部にアンカーボルト3が挿通されている。
【0020】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部の要部を示す断面図である。この露出型柱脚の固定部では、図2の複数個の鋼製支持金物4の代わりに、1個の平板状の鋼製支持金物(支持部材)14が用いられ、これにすべてのアンカーボルト3が挿入されている点で、図2の固定部と異なっている。すなわち、この1個の鋼製支持金物14に圧縮側アンカーボルト群および引張側アンカーボルト群が挿入されている。
【0021】
図1〜図4のように、鋼製支持金物4,14上面が平面の場合は製作が容易であるが、柱脚1が回転すると実際には圧縮反力位置は鋼製支持金物端部になり、アンカーボルト群の図心より若干外側に移動し、回転剛性が大きくなる。そこで、図5〜図8に示すように、図2または図4の鋼製支持金物4,14の上面端部に円弧面20または傾斜面21が形成された鋼製支持金物(支持部材)4A,14A,4B,14Bを用いるのが望ましい。これらの鋼製支持金物4A,14A,4B,14Bは、これらの上面の少なくともアンカーボルト群図心より外側のすべてが円弧面20または傾斜面21に形成されているので、鋼製支持金物の端部による圧縮反力位置の外側への移動によって回転剛性が上昇することがない。
【0022】
鋼製支持金物としては、例えば、図9に示すように鋼棒に孔をあけた鋼製支持金物(支持部材)24、図10に示すように図2の鋼製支持金物4の基礎2側の面の端部に円弧面20を有する鋼製支持金物(支持部材)4C、あるいは図11に示すように上下両面の端部に傾斜面21を設けた鋼製支持金物(支持部材)4Dのほか、角座金、丸座金などを用いることができる。鋼製支持金物は、この金物に働く圧縮反力に対して十分な剛性・強度を持つものであればよく、形状は特に限定されない。また、鋼製支持金物は、上面および/または下面のアンカーボルト群図心の外側に円弧面20または傾斜面21が形成されていれば、鋼製支持金物の端部による圧縮反力位置の外側への移動によって回転剛性が上昇するのを抑制することができる。
【0023】
基礎2は、一般的な鉄筋コンクリート構造の他、鉄骨造や鉄骨と鉄筋コンクリート造の複合構造、あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造などが考えられる。基礎2は、アンカーボルト3が定着でき、鋼製支持金物からの圧縮反力に耐えられる構造であればよく、特に構造は限定されない。
【0024】
本発明の柱脚について、実大曲げ試験により構造特性を確認した。すなわち、鋼製支持金物の形状が図2に示す上下平面のものと図5に示す上面に半径120mmの円弧面を持つものの2種類について実験した。
試験体と試験装置を図12、図13に示す。図14に示すように、加力は回転角1/60,1/30,1/15にて2回ずつ正負交番繰り返し戴荷を行った後、単調に一方向戴荷した。
試験結果を表2に示す。また、曲げモーメントM(kN・m)と回転角θ(rad)との関係を図15および図16に示す。図15は図2に示す鋼製支持金物、図16は図5に示す鋼製支持金物についてのものである。
【0025】
【表2】
ここで、
eKb:実験回転剛性
Kb:計算回転剛性
eMy:実験降伏曲げモーメントで、実験回転剛性と実験回転剛性の1/3の勾配の接線の交わる点の値とした。
My:アンカーボルトの引張試験による降伏荷重を用いた計算降伏曲げモーメント
dMy:アンカーボルトの基準強度による降伏荷重を用いた設計降伏曲げモーメント
eMu:実験最大曲げモーメント、柱フランジが反力梁に接触する直前の値とした。
Mu:計算最大曲げモーメントで、Myのアンカーボルト降伏荷重を最大荷重に置き換えた値
【0026】
本発明による柱脚は計算値に近い低い回転剛性を持っている。また、繰り返し荷重に対しても安定した性状を示し、強度的にも問題がない。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の露出型柱脚の固定部によれば、簡便な構造で柱脚の回転剛性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部を示す断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部を示す断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る露出型柱脚の固定部の要部を示す断面図である。
【図5】鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図6】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図7】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図8】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図9】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図10】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図11】同じく、鋼製支持金物の例を示す断面図である。
【図12】試験体を示す正面図である。
【図13】試験体および試験装置を示す正面図である。
【図14】試験方法を説明するための図である。
【図15】図2の鋼製支持金物を用いた試験体の曲げモーメントと回転角との関係を示す図である。
【図16】図5の鋼製支持金物を用いた試験体の曲げモーメントと回転角との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…柱脚、
1a…ウェブ、
1b…フランジ、
2…基礎、
3…アンカーボルト、
4,4A,4B,4C,4D,14,14A,14B,24…鋼製支持金物(支持部材)、
5,5A…ベースプレート、
6…ワッシャー、
7…ナット、
8…高力ボルト、
20…円弧面、
21…傾斜面
Claims (2)
- ウェブの両端部にフランジを有する柱脚のベースプレートが基礎に埋設されたアンカーボルトにより前記基礎に固定されて成る露出型柱脚の固定部であって、
前記アンカーボルトは前記柱脚の両フランジ間に配置されるとともに、弾性ばねを除く鋼製支持金物が該アンカーボルトに挿入され前記柱脚の前記ベースプレートと前記基礎との間に前記柱脚の回転が可能に介在されていることを特徴とする露出型柱脚の固定部。 - 前記鋼製支持金物は、上面および/または下面のアンカーボルト群図心の外側に傾斜面または円弧面を有していることを特徴とする請求項1に記載の露出型柱脚の固定部。
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