JP3610179B2 - 塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、重合反応中に新たな微小粒子の発生がなく、凝集物が少なく、ラテックスが安定で撹拌やポンプ等により機械的な力を受けても凝集しがたく、乾燥した重合体粉末から得られるプラスチゾルの粘度が低く取り扱いやすい塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニル系重合体のラテックスや、ペーストレジンを得る目的で、塩化ビニルの乳化重合が行われる。塩化ビニルの乳化重合は、水を分散媒、アニオン性又はノニオン性界面活性剤を乳化剤、水溶性の過酸化物を重合開始剤として用い、冷却ジャケット付き耐圧重合器中で比較的緩徐な撹拌を行いつつ、界面活性剤の作用によって塩化ビニル単量体を微細な液滴に乳化させ、単量体を包む界面活性剤ミセル層内で重合を進め、粒径0.05〜0.5μm程度の微小球形樹脂をラテックスとして得るものである。
乳化重合法よりも更に大きい粒径を有する粒子のラテックスを得るために、予備重合したラテックスを種子として加え、乳化剤量をポリマー粒子の全表面積を単分子層でカバーするのに必要な理論量の20〜60%に保ちつつ重合することにより、種子粒子のみを太らせて新たな微小粒子の生成を防ぐ播種乳化重合が行われている。
また、ラテックスやペーストレジンを得る別の方法としては、水を分散媒とし、単量体、界面活性剤、油溶性の重合開始剤等の混合物を、ホモジナイザ等を用いて微細な液滴に分散させたのち重合する微細懸濁重合や、微細懸濁重合で得られた重合体の懸濁液を種子粒子として更に被覆重合を行う播種微細懸濁重合等も行われている。
これらの乳化重合法、播種乳化重合、微細懸濁重合、播種微細懸濁重合においては、重合の進行とともに重合体粒子が成長し、その表面積が大きくなるので、乳化剤を追加して添加することが必要となるが、従来は乳化剤の添加速度は時間を基準として決められ、添加パターンも時間を基準として変更していた。そのため、重合速度が変動した場合は成長粒子に対し乳化剤の過不足が生じ、新たな微小粒子の発生や粒子の凝集が生じ、重合安定性や品質に悪影響を及ぼしていた。更に、樹脂の吸湿性、透明性、熱安定性、電気絶縁性等から、ラテックス中の乳化剤量はなるべく少ないことが望まれるが、少ない量の乳化剤で重合体粒子の分散性の低下を防止することができる乳化剤の添加方法は見いだされていなかった。
このため、少ない量の乳化剤で新たな微小粒子の発生を抑制し、安定な粒子の成長を実現させ、得られる重合体ラテックスの機械的安定性を低下させない乳化剤の添加方法の開発が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、少ない量の乳化剤を用いて、重合反応中に新たな微小粒子の発生がなく、安定に粒子が成長し、凝集物が少なく、ラテックスが安定で撹拌やポンプ等により機械的な力を受けても凝集しがたく、乾燥した重合体粉末から得られるプラスチゾルが低粘度で取り扱いやすいものとなる塩化ビニル系重合体ラテックスの製造を、製造設備等を改造することなく、追加添加乳化剤の添加量を重合率の変化に応じて設定することにより可能とする塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、乳化剤の添加方法を重合率を基準として定め、乳化重合において、重合率の変化に応じた追加添加乳化剤の添加量を設定する乳化剤添加方法を適用することにより、重合中の新たな微小粒子の発生を抑制し、安定な重合体ラテックスを得ることができることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)重合反応が乳化重合であり、重合率0〜a重量%の間は追加添加乳化剤を添加することなく、重合率a〜b重量%の間は第1段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.01〜0.03重量部の割合で連続添加し、重合率b〜c重量%の間は第2段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.007〜0.013重量部の割合で連続添加し、重合率c重量%以降は第3段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.02〜0.04重量部の割合で連続添加し、aが10〜25であり、bが26〜50であり、cが60〜85であることを特徴とする塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法
を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明方法は、塩化ビニル又は塩化ビニル及びこれと共重合し得るエチレン系不飽和単量体の乳化重合に適用することができる。本発明方法を塩化ビニル及びこれと共重合し得るエチレン系不飽和単量体の共重合に適用する場合には、単量体混合物中の塩化ビニルの量が50重量%以上であることが好ましく、75重量%以上であることがより好ましい。
本発明方法において、塩化ビニルと共重合し得るエチレン系不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−N,N−ジメチルアミノエチル等の不飽和モノカルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和アミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;マレイン酸、フマール酸等の不飽和ジカルボン酸;これらのエステル及びこれらの無水物;N−置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;更に塩化ビニリデン等のビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0006】
本発明方法においては、重合反応中の重合率を測定し、重合率の変化に応じてて追加添加乳化剤を重合率を基準として添加速度を設定して添加する。追加添加乳化剤の添加速度を重合率を基準として定めることにより、少ない量の乳化剤を用いて、重合系内における新たな微小粒子の発生を抑制し、粒子を安定に成長せしめ、かつ得られる重合体粒子の分散安定性を向上することができる。
本発明方法における追加添加乳化剤には特に制限はなく、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジへキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸カリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテル燐酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル等のノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。乳化重合では、追加添加乳化剤の総使用量は、仕込み単量体100重量部当たり0.3〜2.0重量部であり、好ましくは0.5〜1.5重量部である。追加添加乳化剤の量が上記の下限量未満であると、重合体粒子が凝集したり、重合体スケールが生成する傾向があり、逆に、上記の上限量を超えると、新たに微小重合体粒子が生成してラテックスがクリーム状になったり、得られる重合体を用いたプラスチゾルが高粘度になる傾向がある。また、補助乳化剤として高級アルコールや高級脂肪酸を使用することもできる。
本発明方法において、重合反応中の重合率を測定する方法には特に制限はなく、光散乱法による重合体粒子の粒子径、重合体粒子の濃度等から重合率を求めることができ、あるいは、重合器のジャケットの冷却水の水温、流量及び重合温度変化から重合器内の重合反応による発熱量を積算し、重合率を求めることもできる。これらの方法の中で、ジャケットの冷却水の水温、流量及び重合温度変化から重合率を求める方法は、時間的な遅れがなく重合器内の重合率を求め、かつそのデータを乳化剤水溶液の送液ポンプや送液速度制御バルブ開度等に伝達して、乳化剤水溶液の送液速度を直接制御することができるので、特に好適に使用することができる。
本発明方法に使用する重合器の形状には特に制限はなく、例えば、外部ジャケット又は内部ジャケットを有する重合器を用いることができる。また、還流凝縮器を設置することも可能である。これらの中で、内部ジャケットを有する重合器は、伝熱損失が小さく、重合器内の発熱量を正確に測定し、重合率を正確に求めることができるので、特に好適に使用することができる。重合器内の撹拌方法には特に制限はなく、例えば、ファウドラー翼、多段ファウドラー翼、パドル翼、多段パドル翼、ブルーマージン翼、アンカー翼、ループ翼、マックスブレンド翼、フルーゾーン翼等を使用することができる。
【0007】
本発明方法の乳化重合では、重合率0〜a(=10〜25)重量%の間は追加添加乳化剤を添加することなく、重合率がa(=10〜25)重量%に達したのちに追加添加乳化剤を連続的に添加する。なお、ここにいう追加添加乳化剤は、乳化重合開始後に添加する乳化剤であり、乳化重合開始前に水性媒体中に単量体とともに添加し、単量体を水中に乳化分散するために、通常単量体100重量部当たり0.01〜0.2重量部用いる乳化剤は含まない。
乳化重合においては、重合器に純水、乳化剤、重合開始剤等を仕込み、重合器内の脱気あるいは必要に応じて窒素等の不活性気体による置換を行い、塩化ビニル又は塩化ビニル及びこれと共重合し得る単量体の混合物を仕込み、撹拌して単量体を乳化したのち、重合器内の温度を上げて重合を開始する。重合温度は、30〜80℃であることが好ましい。該乳化剤としては、前記の追加添加乳化剤と同様のものが例示される。使用する開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、これらの開始剤又はクメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシドに、酸性亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等を挙げることができる。
【0008】
本発明方法においては、水中に単量体を乳化分散させて重合を開始したのち、重合率がa(=10〜25)重量%に達するまでは追加添加乳化剤の添加は行わず、重合率がa(=10〜25)重量%に達したときに乳化剤の添加を開始し、重合率がb(=26〜50)重量%に達するまでの第1段目において、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.01〜0.03重量部の割合で連続添加し、重合率がb(=26〜50)重量%からc(=60〜85)重量%である第2段目においては、追加添加乳化剤の添加速度を減少して、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.007〜0.013重量部の割合で連続添加し、重合率c(=60〜85重量%)以降の第3段目においては、追加添加乳化剤の添加速度を再び増大して、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.02〜0.04重量部の割合で連続添加する。第1段目と第2段目、第2段目と第3段目の切り替え時は、追加添加乳化剤の添加を休止することなく、添加速度のみを変更して連続して添加することが好ましい。重合体ラテックスの機械的安定性を一層高めるために、必要に応じて、前記の追加添加乳化剤の総使用量に納まる範囲内で、第3段目の最後に残余の乳化剤をさらに一度に添加することができる。
本発明方法においては、第1段目、第2段目、第3段目の追加添加乳化剤の添加速度は、各段中においてそれぞれ一定とすることができ、あるいは、各段中において変化させることもできる。例えば、重合率a〜b重量%の間に重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.02重量部を一定して添加することができ、あるいは、重合率がa重量%に達したとき重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.03重量部の割合で添加を始め、次第に添加速度を減少して、重合率がb重量%に達したときに乳化剤の添加が重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり0.01重量部とすることもできる。
【0009】
第1段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.01重量部未満であると、得られるラテックス中の凝集物の量が増加し、ラテックスの機械的安定性が低下するおそれがある。第1段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.03重量部を超えると、乳化剤過剰領域に入り、新たな微小粒子が発生するおそれがある。第2段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.007重量部未満であると、乳化剤不足領域に入り、得られるラテックス中の凝集物の量が増加し、ラテックスの機械的安定性が低下するおそれがある。第2段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.013重量部を超えると、新たな微小粒子が発生するおそれがある。第3段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.02重量部未満であると、得られるラテックス中の凝集物の量が増加し、ラテックスの機械的安定性が低下するおそれがある。第3段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加について仕込み単量体100重量部当たり0.04重量部を超えると、新たな微小粒子が発生するおそれがある。
本発明方法においては、重合条件により重合調整剤、連鎖移動剤、架橋剤、スケール防止剤等の公知の添加剤を適宜使用することができる。
【0010】
本発明方法によれば、重合の進行を常時把握し、追加添加乳化剤の添加を重合率にしたがって制御するので、重合体粒子の成長に必要な量だけを添加することができる。したがって、従来の添加方法のように、乳化剤の添加が過剰となって重合時に新たな微小粒子が発生したり、乳化剤の添加が不足して重合体粒子の分散が不安定となり凝集したりするおそれがない。本発明方法においては、重合初期には粒子の分散性が高いので追加添加乳化剤を添加することなく、あるいは追加添加乳化剤の添加速度を小さくして新たな微小粒子の発生を防止し、重合中期から末期にかけては粒子を凝集させることなく安定に成長させることを目的として、追加添加乳化剤の添加速度を上げる。重合末期には重合の進行にともなって重合体粒子の分散安定性は低下するが、追加添加乳化剤の添加速度を上げることにより、単位重合率当たりの追加添加乳化剤の添加量を増量し、得られる重合体粒子の分散性の低下を防止することができる。
本発明方法によれば、品質設計上限られた乳化剤量で重合時の新たな微小粒子の発生を有効に抑制し、粒子を凝集させることなく安定に成長させ、得られた重合体粒子の分散安定性を向上させ、更に得られる塩化ビニル系重合体ラテックスの品質の変動を防ぐことができる。なお、塩化ビニル系重合体ラテックスの品質は、ラテックスから得られる重合体粉末に可塑剤を添加して調製したプラスチゾルの粘度で代用することができる。ゾル粘度は、乳化剤量と粒子径、粒子径分布、微少粒子の発生の有無に影響され、ゾル粘度を制御することができれば品質を維持することができる。
本発明方法においては、追加添加乳化剤の添加を重合率を基準とした添加方法で実施することにより、いかなる場合でも粒子成長に対する乳化剤量を設定通りとし、また重合過程での最適添加パターンを設定することにより、少ない乳化剤の添加量で新たな微小粒子発生を抑制し、凝集することなく安定に粒子を成長させ、得られる重合体粒子分散の機械的安定性の低下を防止し、得られる塩化ビニル系重合体ラテックスの品質を変動させることがない。
【0011】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、塩化ビニル系重合体ラテックスの評価は下記の方法により行った。
(1)新たな微小粒子発生の有無
透過型電子顕微鏡により、ラテックス粒子を5,000倍及び10,000倍の条件で撮影し、定性的に評価した。
(2)凝集物量
得られたラテックスを、60メッシュの金網でろ過し、金網上の凝集物を取得し、また、重合器内壁の付着物をかき取り、合わせて乾燥後の重量を測定し、仕込み単量体に対する凝集物の重量%で表した。
(3)中心粒子径
レーザー散乱粒径分布測定装置[マルバーン社製、マスターサイザーMS−20]を用いて測定した。
(4)機械的安定性
撹拌翼の長さ85mmの撹拌機を備えた容量5リットル、内径158mmのフラスコにラテックス5リットルを入れ、70℃で、275rpmで撹拌し、撹拌開始から粒子が凝集しはじめるまでの時間を測定し、累積動力を計算した。
(5)ゾル粘度
得られたラテックスをスプレー乾燥し、得られた重合体100重量部に対してジ−2−エチルヘキシルフタレート60重量部を配合し、25℃、相対湿度55%の恒温恒湿室中で、らいかい機を用いて混練りしてプラスチゾルを調製し、4時間静置後の粘度を、ブルックフィールドBL型粘度計でロータ#4を6rpmとして測定した。
【0012】
実施例1
容量100リットルのグラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水39.0kg、塩化ビニル21.0kg、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液28g、ステアリルアルコール200g及び過硫酸カリウム21gを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合器のジャケットの水温、水流量及び重合温度変化から、重合率を測定しつつ重合を進めた。重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に29.8gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始3時間30分後、重合率が30重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について14.6gに減少した。
重合開始8時間50分後、重合率が75重量%に達するとほぼ同時に、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したので、撹拌速度を65rpmに落とすとともに、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について42.0gに増加した。重合率80.0重量%の時点でラウリル硫酸ナトリウムの水溶液の送り込みを止め、そのまま重合を続けたところ、重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。ラテックスの固形分濃度と下記の凝集物量とから重合率を求めると、85.1重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、新たな微小粒子の発生は認められなかった。凝集物量は、0.3重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は15kWh/m3であった。ゾル粘度は2,900cPであった。
比較例1
実施例1と同様にして、グラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水、塩化ビニル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルアルコール及び過硫酸カリウムを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に29.8gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始7時間5分後、重合率が60重量%に達したとき、ラウリル量ナトリウムの水溶液の送り込みを止め、そのまま重合を続け、重合開始8時間50分後、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したとき、撹拌速度を65rpmに落とした。
更に、重合を続けたところ、重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。重合率は、下記の凝集物量を加味すると85.5重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、粒径0.001〜0.1μmの新たな微小粒子の発生が認められた。凝集物量は、1.0重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は7kWh/m3であった。ゾル粘度は4,100cPであった。
比較例2
実施例1と同様にして、グラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水、塩化ビニル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルアルコール及び過硫酸カリウムを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に2.2gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始5時間55分後、重合率が50重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について11.4gに増加した。
重合開始8時間50分後、重合率が75重量%に達するとほぼ同時に、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したので、撹拌速度を65rpmに落とすとともに、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加毎に42.0gに増加した。
更に、重合を続けたところ、重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液378.0gを一気に添加して重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。重合率は、下記の凝集物量も加味すると86.0重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、新たな微小粒子の発生は認められなかった。凝集物量は、2.5重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は5kWh/m3であった。ゾル粘度は3,100cPであった。
比較例3
実施例1と同様にして、グラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水、塩化ビニル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルアルコール及び過硫酸カリウムを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に29.8gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始3時間30分後、重合率が30重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について8.4gに減少した。
重合開始8時間50分後、重合率が75重量%に達するとほぼ同時に、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したので、ラウリル量ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について51.8gの割合に増加し、撹拌速度を65rpmに落とした。
そのまま重合を続けたところ、重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。重合率は、下記の凝集物量を加味すると85.0重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、新たな微小粒子の発生は認められなかった。凝集物量は、2.8重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は4kWh/m3であった。ゾル粘度は3,100cPであった。
比較例4
実施例1と同様にして、グラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水、塩化ビニル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルアルコール及び過硫酸カリウムを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に29.8gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始3時間30分後、重合率が30重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について14.6gに減少した。
重合開始8時間50分後、重合率が75重量%に達するとほぼ同時に、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したので、撹拌速度を65rpmに落とすとともに、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加毎に14.0gの割合とした。さらに、重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液99.0gを一度に添加して重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。ラテックスの固形分濃度と、下記の凝集物量とから重合率を求めると、84.8重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、新たな微小粒子の発生は認められなかった。凝集物量は、2.3重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は12kWh/m3であった。ゾル粘度は3,000cPであった。
比較例5
実施例1と同様にして、グラスライニング製重合器を脱気し、脱イオン水、塩化ビニル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルアルコール及び過硫酸カリウムを仕込み、撹拌速度100rpmで撹拌を開始し、55℃まで昇温した。重合器内の圧力は8.0kg/cm2Gになり、55℃に達してから5分後に重合が開始した。
重合開始2時間20分後、重合率が20重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液を、重合率1重量%増加毎に29.8gの割合で重合器内に送り込み始めた。
重合開始3時間30分後、重合率が30重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について14.6gに減少した。
重合開始8時間50分後、重合率が75重量%に達するとほぼ同時に、重合器内の圧力が7.5kg/cm2Gに低下したので、撹拌速度を65rpmに落とすとともに、ラウリル硫酸ナトリウムの15重量%水溶液の送り込み量を、重合率1重量%増加について70.0gに増加し、重合率が78.5重量%に達したとき、ラウリル硫酸ナトリウムの水溶液の送り込みを停止した。
重合開始10時間5分後に重合器内の圧力が5.0kg/cm2Gまで低下したので、重合を終了し、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを取り出した。重合率は、下記の凝集物量を加味すると85.1重量%であった。
電子顕微鏡撮影の結果から、粒径約0.01μmの新たな微小粒子の発生が認められた。凝集物量は0.8重量%であり、中心粒子径は0.25μmであった。ラテックス粒子が凝集しはじめるまでの累積動力は11kWh/m3であった。ゾル粘度は3,700cPであった。
実施例1及び比較例1〜5の乳化剤の添加方法を第1表に、得られた塩化ビニル系重合体ラテックスの特性を第2表に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】
本発明方法により製造した実施例1のラテックスには、新たな微小粒子の発生が認められず、凝集物量は0.3重量%と少なく、累積動力15kWh/m3に達するまで凝集がはじまらず機械的に安定であり、得られる重合体粉末から調製したプラスチゾルの粘度は3,000cPと低く安定している。
これに対して、第2段目における追加添加乳化剤の添加速度を、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり0.0213重量部と規定より大きくし、第3段目においては乳化剤を添加しない比較例1のラテックスには、新たな微小粒子の発生が認められ、凝集物量が1.0重量%とやや多く、累積動力7kWh/m3で凝集がはじまるように機械的安定性が悪く、ゾル粘度も4,100cPと高い。
第1段目における追加添加乳化剤の添加速度が、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり0.0016重量部と規定より小さい比較例2のラテックスは、凝集物量が2.5重量%と多く、累積動力5kWh/m3で凝集がはじまるように機械的安定性が悪い。
また、第2段目における追加添加乳化剤の添加速度を、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり0.0060重量部と規定より小さくし、第1段目及び第3段目における添加速度を規定範囲内とした比較例3のラテックスは、凝集物量が2.8重量%と多く、累積動力4kWh/m3で凝集がはじまり、機械的安定性が極めて悪い。
実施例1との相違点として、第3段目の追加添加乳化剤の添加速度が小さい比較例4のラテックスは、新たな微小粒子の発生は認められないものの、凝集物量が2.3重量%と多い。
また、反対に、実施例1との相違点として、第3段目の追加添加乳化剤の添加速度が大きい比較例5のラテックスは、新たな微小粒子が発生し、凝集物量は0.8重量%とやや多く、ゾル粘度が3,700cPと高い。
【0016】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、重合反応中に新たな微小粒子の発生がなく、凝集物が少なく、ラテックスが安定で機械的な力を受けても凝集しがたく、乾燥した重合体粉末から得られるプラスチゾルの粘度が低く取り扱いやすい塩化ビニル系重合体ラテックスを、再現性よく容易かつ確実に製造することができる。
Claims (1)
- 重合反応が乳化重合であり、重合率0〜a重量%の間は追加添加乳化剤を添加することなく、重合率a〜b重量%の間は第1段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.01〜0.03重量部の割合で連続添加し、重合率b〜c重量%の間は第2段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.007〜0.013重量部の割合で連続添加し、重合率c重量%以降は第3段目の追加添加乳化剤として、重合率1重量%増加毎に仕込み単量体100重量部当たり乳化剤0.02〜0.04重量部の割合で連続添加し、aが10〜25であり、bが26〜50であり、cが60〜85であることを特徴とする塩化ビニル系重合体ラテックスの製造方法。
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