JP3605635B2 - アミノ基導入方法及びアミノ酸化合物合成方法 - Google Patents

アミノ基導入方法及びアミノ酸化合物合成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温高圧下で有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入する方法に関するものであり、更に詳しくは、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることによる有機酸及び有機酸エステルへのアミノ基導入方法、及び上記方法によって有機酸塩あるいは有機酸エステルからアミノ酸化合物を合成あるいは製造する方法に関するものである。
本発明は、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応基質として用い、合成過程に有機溶媒、触媒を関与させること無しに、連続的にあるいはバッチ方式によって高温高圧下でアミノ酸化合物を合成あるいは製造することを可能とするものであり、産業技術としては好適かつ有用な方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般的にアミノ酸化合物は、発酵法、加水分解法、有機合成法等の多様な方法により製造されているが、それらの方法のうち、例えば、アラニンの合成については、微生物発酵法、その加水分解物を利用する方法や有機試薬を用いた有機合成的な方法により生産されてきている。
従来のアラニン合成の代表的な例は以下に示される。
a)パラジウム電極を使用した硫酸中の3−アミノ−1−プロパノールの電気的酸化法によるアラニン合成
文献1:Jubilee Vol. Emil Barell 1946, 85−91.
b)エチレンシアノヒドリンからのアラニン合成
文献2:Boatright, U.S. Patent 2,734,081(1956 to Am. Cyanamid).
c)メチルアルデヒドからのアラニン合成
文献3:E.C. Kendall & B.F. Mckenzie, Org. Synth., 1, 21(1941).
文献4:R. Draudry, Can. J. Res., 26B, 773(1948).
d)β−プロピオラクトンからのβ−アラニン合成
文献5:Ford, Org. Sys. Coll. Vol. 3, 34(1955).
等の触媒を用いた電極合成や通常の有機合成による方法などがある。
【0003】
上記の合成方法のうち、例えば、文献3の合成に用いられた Strecker法はα―アミノ酸の合成法として歴史的には古いが、汎用性が大きく有用であることが知られている。この方法ではアルデヒドにアンモニアを、続いてシアン化水素を反応させて得られた中間生成物を酸またはアルカリで加水分解して炭素数の一つ多いα―アミノ酸を合成できる。またこの方法の改良法であるBucherer法を用いた文献4ではシアン化アルカリと炭酸アンモニウムを用いてアラニンを合成している。そのため、これらの2つの合成法では猛毒のシアン化水素が発生するため、特に細心の注意を払う必要性が認められている[新実験化学講座14、有機化合物の合成と反応(3)、pp1673−1675,丸善、(1978)]。また、β−アラニン(β−alanine)は、アセトニトリル溶媒中でβ−プロピオラクトン(β−propiolactone)にアンモニアを反応させることで合成されている(文献5)。このように、従来の化学合成方法では、合成反応に使用した有毒基質物質や有機溶媒の処理、使用触媒の処理や発生する副生成物の人体に対する有害性等に対する対策やそれらの使用にあたっての安全性等に対する数々の配慮等が必要となっている。また、合成規模が大きくなればなるほど、それらのウエートが増してくる。従って、使用した有毒基質物質、有機溶媒、触媒等の処理技術の開発が必要とされている。そのため、これらの有毒基質物質、有機溶媒、触媒等を使用しない全く新しい合成方法を開発できれば、上記諸問題の根本的な解決策となり得る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高温高圧下での有機酸あるいは有機酸エステルに対するアミノ基導入方法について種々研究を進める過程で、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることにより有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入することができることを見出し、かかる知見に基づいて更に研究を重ねて、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルにアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させてアミノ基を導入する新規のアミノ基導入方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記アミノ基導入方法により、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物からアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成する新規のアミノ酸化合物合成方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記アミノ基導入方法により、例えば、ヒドロキシ酸塩型の乳酸ナトリウム塩とアンモニアあるいはアンモニウム塩からアラニンを、グリコール酸塩からグリシンを、リンゴ酸塩からアスパラギン酸を、酒石酸塩からα, β―ジアミノコハク酸を、4−ヒドロキシ−n−酪酸ナトリウムから4−アミノ−n−酪酸を、あるいは3−ヒドロキシ−n−酪酸エステルから3−アミノ−n−酪酸エステルを合成する等の新規なアミノ酸合成方法を提供することを目的とするものである。
更に、本発明は、高温高圧水条件下で、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応器に導入し、バッチ方式によるアミノ酸化合物合成方法、あるいは連続的にアミノ酸化合物を合成するアミノ酸連続合成方法を提供することを目的とするものである。
そして、本発明は、上記アミノ基導入方法により、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物からアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成し、得られた反応溶液に対してイオン交換樹脂を用いてアミノ酸化合物を分離精製することを特徴とする高純度のアミノ酸化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることにより有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入することを特徴とするアミノ基導入方法。
(2)250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させ、有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入してアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成することを特徴とするアミノ酸化合物合成方法。
(3)300〜420℃の温度範囲及び25〜50MPaの圧力範囲高温高圧水条件下で有機酸あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることを特徴とする前記(2)記載のアミノ酸化合物合成方法。
(4)高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニア水、炭酸アンモニウムあるいは酢酸アンモニウムを反応させることを特徴とする前記(2)又は(3)記載のアミノ酸化合物合成方法。
(5)有機酸塩あるいは有機酸エステルとして、ヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステルを使用することを特徴とする前記からのいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
(6)有機酸塩あるいは有機酸エステルとして、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、3−ヒドロキシ−n−酪酸及び4−ヒドロキシ−n−酪酸のナトリウム塩及びカリウム塩あるいはエステル化合物を使用することを特徴とする前記(2)から(5)のいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
(7)有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧水条件下の反応器に導入して連続的に反応させることを特徴とする前記(2)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
(8)250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応基質として用いるアミノ酸化合物を製造する方法であって、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧水条件下の反応器に導入して連続的に反応させ、反応後、得られた反応液を分離精製してアミノ酸化合物を得ることを特徴とするアミノ酸化合物製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の説明を容易にするために、以下、相当するヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステルにアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧下で反応させて、例えば、アミノ酸であるアラニン、グリシン、4−アミノ−n−酪酸、あるいはアミノ酸誘導体の3−アミノ−n−酪酸エチルエステルを合成した場合を例にとって詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
本発明者らが、種々の実験を経て開発した本発明の合成法の代表的な例として、例えば、乳酸ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液、炭酸アンモニウム水溶液あるいは酢酸アンモニウム水溶液を高温高圧水条件下の反応器に導入して高速で通過させることにより、アラニンを合成する方法が例示される。本発明の合成方法で使用する原料試薬は、有機酸塩あるいは有機酸エステル及びアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物だけである。本発明では高温高圧水を反応場あるいは反応溶媒として用いており、有機溶媒あるいは触媒は使用しないし、また、特に使用する必要はない。従って、この方法を用いれば、処理しなければならない有毒ガス、廃溶媒や廃触媒といった類の処理を必要とする廃棄物はほとんど排出されない。また、未反応の有機酸塩、有機酸エステル、アンモニア、アンモニウム化合物や使用水は本発明の反応に再使用することが可能である。更に、本発明の方法は、有用なアミノ酸やその誘導体等のアミノ酸化合物製品を連続的に高速で合成できることから、それらの製造方法の手段として最も好適な方法であると考えられる。なお、この反応はバッチ型反応器においても実施できる。
【0007】
本発明のアミノ基導入方法あるいはアミノ酸化合物合成方法について、以下に詳しく説明する。
本発明では、例えば、高温高圧水条件下でヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させ、ヒドロキシ酸あるいはヒドロキシ酸エステルにアミノ基を導入することによりアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成することができる。
一般に、アミノ酸は、主に生物体内で生産されているが、有機合成的にも製造できる。例えば、アラニン(alanine)はStrecker法によってメチルアルデヒドにアンモニアを、続いてシアン化水素を反応させて得られた中間生成物を酸またはアルカリで加水分解して炭素数の一つ多いα―アミノ酸を合成できる。またその改良法であるBucherer法によってシアン化アルカリと炭酸アンモニウムをメチルアルデヒドと反応させてアラニンが得られている。しかしいずれの方法も猛毒のシアン化水素が発生するため、特に細心の注意を払う必要性が認められている。
【0008】
これに対し、本発明者らは、高温高圧水条件下でヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステルである乳酸ナトリウム(lactic acid sodium salt)、グリコール酸ナトリウム(glycolic acid sodium salt)、リンゴ酸ナトリウム(malic acid sodium saly)、酒石酸ナトリウムカリウム(tartaric acid sodium potassium salt)、4−ヒドロキシ酪酸ナトリウム(4−hydroxy−n−butyric acid sodium salt)あるいは3−ヒドロキシ−n−酪酸エチル(3−hydroxy−n−butyric acid ethyl ester)等の有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニア(ammonia)あるいはアンモニウム塩化合物(ammonium salt)を反応させることにより、それぞれアラニン(alanine)、グリシン(glycine)、アスパラギン酸(aspartic acid)、α, β―ジアミノコハク酸(α,β−diaminosuccinic acid)、4−アミノ−n−酪酸(4−amino−n−butyric acid)あるいは3−アミノ−n−酪酸エチルエステル(3−amino−n−butyric acid ethyl ester)等のアミノ酸あるいはその誘導体であるアミノ酸エステルを合成できることを見出した。
本発明によるアミノ酸合成の具体例として、アラニン、グリシン、4−アミノ−n−酪酸及び3−アミノ−n−酪酸エチルエステルのそれぞれの合成反応式を以下に示す。
【0009】
【化1】
Figure 0003605635
【0010】
【化2】
Figure 0003605635
【0011】
【化3】
Figure 0003605635
【0012】
【化4】
Figure 0003605635
【0013】
高温高圧水は反応器の外からヒーターや溶融塩等を用いて温度を制御できる。あるいは反応器内で内熱方式で温度制御することも可能である。また、予め高温高圧水を製造しておき、外部から反応器内に注入して反応させることもできる。温度圧力条件の異なる2種類以上の高温高圧水を反応系に供給して反応条件を制御することも可能である。反応容器内での圧力は流通式であれば圧力調整弁で制御することができる。また、バッチ方式による反応圧力は、例えば、使用温度における自生圧力を計算することができる。更に、窒素ガスなど他の気体を注入することによって圧力をコントロールすることもできる。一般的には使用する圧力は使用温度における自生圧力以上であればよい。
基本的には、温度250℃以上及び圧力20MPa以上の高温高圧水条件下であれば本発明は達成される。温度300℃以上及び圧力25MPa以上の高温高圧水条件下では、より好適に本発明を達成できる。更に、300〜420℃の温度範囲及び25MPa〜50MPaの圧力範囲の高温高圧水条件を選択すれば、最も好適に本発明は達成される。最適の温度条件は処理時間によっても変化するが、一般に、250℃から450℃の温度範囲を好適に選択できる。また、処理量や反応装置によって適宜の温度及び圧力条件を採用することができる。
反応装置としては、例えば、高温・高圧反応装置が使用されるが、これに限らず、高温高圧水条件下の反応系を設定できる装置であれば、その種類は制限されない。
ここで、好適な反応装置として、例えば、本発明で使用した流通式の高温高圧反応装置やバッチ式の反応装置が例示される。市販のオートクレーブは好適に用いられる。
【0014】
反応条件は、使用する有機酸塩や有機酸エステルの種類及び濃度、アンモニアやアンモニウム塩化合物の種類及び濃度、反応時間、高温高圧水条件によって変化する。
本発明では、反応基質の有機酸塩あるいは有機酸エステルとしては、例えば、4−ヒドロキシ−n−酪酸、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、4−ヒドロキシ−n−酪酸、3−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチルブチル酸、クエン酸、グリセリン酸、トロパ酸、ベンジル酸、ヒドロキシ吉草酸等のナトリウムあるいはカリウム塩及びそれらのエステルが例示できる。また1分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基とを有するヒドロキシ酸の塩及びエステルが例示される。ヒドロキシ酸であれば、α―ヒドロキシ酸、β―ヒドロキシ酸、γ―ヒドロキシ酸、δ―ヒドロキシ酸、ε―ヒドロキシ酸等の塩やエステルはいずれも好適に反応に用いることができる。標記の有機酸の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ塩あるいはアルカリ金属塩はいずれも好適に用いることができる。
エステルとしてはメチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、ヘプチルエステル、ヘキシルエステル等のアルキルエステルが好適に用いられるが、本発明ではエステル化合物であればこれらのエステルに限定されるものではない。本発明では反応に用いる有機酸塩及び有機酸エステルは1種類に限定される物ではなく、2種類以上の混合物を用いても反応は好適に進行する。また、脂肪族飽和ヒドロキシカルボン酸、脂肪族不飽和ヒドロキシカルボン酸、マンデル酸等の芳香族系カルボン酸の様なヒドロキシカルボン酸、ステロイド等の有機酸塩及び有機酸エステルはいずれも本発明の反応基質として好適に用いられる。
【0015】
流通方式の装置を用いる場合は、例えば、キャリヤー水として用いる高温高圧水の流速及び反応基質である有機酸塩及び有機酸エステルの導入流速を制御することによって反応器に導入する有機酸塩及び有機酸エステルの濃度をコントロールできる。有機酸塩及び有機酸エステルやアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を、同時にあるいは個別に、予めキャリヤー水中に溶解して反応に供してもよい。通常、反応器に導入する有機酸塩及び有機酸エステルの濃度としては1mMから10Mの濃度範囲で選択できる。好適には5mMから5Mの間の適宜な濃度の値を選択でき、最も好適には10mMから2Mの間の適宜な濃度の値が選択されるが、本発明は、これらの濃度の値に限定されるものではない。バッチ法の場合は単に仕込みの有機酸塩及び有機酸エステルの濃度を制御すればよい。反応器内の有機酸塩及び有機酸エステルの濃度は反応に関与する高温高圧水の密度によって変化する。
本発明では、有機酸塩及び有機酸エステルの種類に応じて、反応系の温度、圧力、反応時間、反応基質の濃度とアンモニア及びアンモニウム塩の濃度を調節することによって、アミノ基の導入量、アミノ基の導入位置、アミノ酸化合物の生成種、生成量あるいは反応収率を操作することができる。
【0016】
反応に用いるアンモニアとしては、通常、濃度28%のアンモニア水が好適に用いられるが、気体状のアンモニアを高温高圧水に導入しても反応は進行する。アンモニウム塩化合物としては、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が好適に用いられる。
アンモニアやアンモニウム塩化合物は、通常、反応基質である有機酸塩や有機酸エステルと混合して反応器内に導入される場合が多い。その際、アンモニアやアンモニウム塩化合物は、通常、水溶液として用いられ、反応濃度は、有機酸塩及び有機酸エステル濃度の1−20倍の濃度範囲の間の適宜な値から選択できる。例えば、アンモニア水溶液及びアンモニウム水溶液の濃度は、1mMから20M、好適には5mMから10Mの値を選択できる。最も好適には10mMから8Mの間の適宜な値を選択できるが、本発明は、これらの濃度の値に限定されるものではない。なお、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアやアンモニウム塩化合物は、別々に反応器に導入しても、また、キャリヤー水に直接混合して使用しても本発明の反応は進行する。また、アンモニアとアンモニウム塩を混合して用いても本発明の反応は達成される。
【0017】
本発明の反応系は、温度250℃以上、あるいは圧力20MPa以上の高温高圧水中に上記反応基質の有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を存在させればよく、その際、例えば、金属イオン、酸、あるいは塩基等のような水溶性の触媒、イオン性流体、または金属担持触媒、固体酸、固体塩基等の固体触媒あるいは酵素等は特に添加する必要がなく、また、有機溶媒を使用する必要もない。
本発明は、基本的には、高温高圧水中に上記反応基質を存在させて、無触媒条件下で、あるいは有機溶媒を反応に関与させることなく、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させて有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入すること、及びそれによりアミノ酸化合物を合成することを最大の特徴としているが、必要により、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒、金属イオン、酸、あるいは塩基等のような水溶性の触媒、イオン性流体、または金属担持触媒、固体酸、固体塩基等の固体触媒あるいは酵素を添加して反応させても一向にさしつかえない。
【0018】
本発明では、上記反応系により、例えば、反応時間0.001秒から10分程度の短時間で有機酸や有機酸エステルにアミノ基が導入され、あるいはアミノ酸化合物が合成される。例えば、流通式反応装置を用いる場合、反応時間は、反応温度、反応圧力、高温高圧水の流速、反応気質の導入流速、反応器の大きさ、反応器の流通経路の長さ等を制御することによって反応時間をコントロールできる。好適には反応時間は0.01秒から5分の範囲の値を選択でき、より好適には0.03秒から3分の範囲の値を選択でき、最も好適には0.03秒から1分の範囲の値を選択できるが、本発明はこれらの値に限定されるものではない。
【0019】
本発明者らは、後記する実施例に示されるように、高温高圧水条件下では、短時間(例えば、反応時間0.2秒前後)で有機酸あるいは有機酸エステルへのアミノ基の導入が可能であることを、高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC−MS装置)やフリエー赤外分光光度計(FTIR装置)を用いて確認している。さらにLC−MS装置を用いることにより、有機酸塩。有機酸及び有機酸エステルやアミノ酸の種類を分離して同定でき、それらの含有量を正確に定量できる。また、連続的に得られるアミノ酸化合物をイオン交換樹脂等を用いて分離精製して、FTIR装置により赤外線吸収スペクトルを計測し、純度の高い特級試薬製品のそれと比較することにより、アミノ酸化合物の種類を正確に同定できる。同様にNMR測定によってもアミノ酸化合物の種類や純度を確認できる。
例えば、流通式装置を用いて300℃〜400℃、圧力30MPa及び反応時間0.10秒〜0.38秒の条件下で、0.181M〜0.555M濃度の乳酸ナトリウムとアンモニア水から0.7mM〜6.9mM濃度のアラニンが合成できた。反応の際、乳酸ナトリウムはイオン交換されて乳酸に変化しているのが確認された。また同じ流通装置を用いて温度374℃、圧力30MPa及び反応時間0.20秒の条件で、0.241M濃度の3−ヒドロキシーn―酪酸エチルエステルとアンモニア水から3.3mM濃度の3−アミノ酪酸エチルエステルが合成された。更に、同様にバッチ方式では乳酸ナトリウムとアンモニア水から温度350℃、圧力30MPa及び反応時間40秒で12.8mM濃度のアラニンを合成した。これらの反応の結果、アンモニアあるいはアンモニウム化合物がが標記の有機酸塩から変化した有機酸あるいは有機酸エステルの水酸基と反応し、その位置にアミノ基が導入されていることがLC−MS装置、NMR測定装置やFTIR装置で確認された。アミノ基の導入に伴い水が副生していると考えられる。
【0020】
本発明で生成したアミノ酸化合物の反応収率は、温度、圧力、反応時間等の反応条件、有機酸塩あるいは有機酸エステルの種類、有機酸塩あるいは有機酸エステルの濃度、アンモニアやアンモニウム化合物の濃度、反応装置の形態、反応器の大きさ等によって変動する。例えば、流通式装置を用いたアスパラギン酸合成の場合の反応収率は1.1%から2.5%であった。これらのアスパラギン酸は、原料のリンゴ酸等と混合して回収される。同様に、本発明によって種々の有機酸塩、有機酸または有機酸エステルあるいはそれらの混合物から多種のアミノ酸化合物が原料基質とともに回収されるが、反応後、得られた反応液をイオン交換樹脂、例えば、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂あるいはそれらの併用によってアミノ酸化合物と原料基質を分離精製でき、更に、アミノ酸化合物同士の分離も可能なので、アミノ酸化合物は、その種類毎に精製濃縮できる。また、同時に回収された有機酸塩、有機酸や有機酸エステルは再度原料として用いることができる。イオン交換樹脂の代わりに、セライト、逆相用シリカゲル、アルミナ、セルロース粉末、活性炭等から作製され、商品化されている一般的なアミノ酸分離用資材が利用できる。
従って、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させてアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成し、得られた反応溶液に対してイオン交換樹脂あるいはセライト、逆相用シリカゲル、アルミナ、セルロース粉末等の一般的なアミノ酸分離用資材を用いてアミノ酸やアミノ酸エステルを分離精製して、高純度のアミノ酸化合物を好適に製造できる。
【0021】
【作用】
本発明では、高温高圧水条件下の高温熱水中に、反応基質として所定の濃度の有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を存在させることにより、例えば、ヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステル型の4−ヒドロキシ酪酸ナトリウム及びアンモニアから4−アミノ−n−酪酸が、あるいは3−ヒドロキシ酪酸エチルエステルから3−アミノ−n−酪酸エチルエステルが合成される。この場合、4−ヒドロキシ−n−酪酸ナトリウムに代えて、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸及び酒石酸の塩とアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることによりアミノ基がこれらの有機酸に導入され、アラニン、グリシン、アスパラギン酸あるいはα, β―ジアミノコハク酸が合成される。有機酸塩は反応中に有機酸に変換する場合が多い。また、これらの有機酸塩あるいは有機酸エステル等とアンモニア水溶液あるいはアンモニウム塩化合物を反応器に連続的に導入することにより、連続的にそれぞれの有機酸塩あるいは有機酸エステルに対応した種々のアミノ酸やアミノ酸エステルを合成することができる。
これらのことから、本発明は、上記反応系において、反応条件、反応基質の有機酸塩や有機酸エステルの種類、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニア水溶液あるいはアンモニウム塩化合物の濃度を調節することにより、有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入すること、それによりアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを短時間で合成することを可能とし、新規のアミノ基導入方法及びアミノ酸化合物合成方法あるいはアミノ酸化合物製造方法として有用である。
【0022】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
図1に示す連続式反応装置を用い、温度374℃、圧力30MPa及び密度0.558g/cmの高温高圧水条件下で乳酸ナトリウム(和光純薬社製試薬)とアンモニア水(和光純薬社製特級試薬)を反応させ、アミノ基の導入によるアラニンの連続合成を試みた。
反応器材料は合金C−276であり、反応器内径:0.65mm及び反応器長さ:25cmで、従って、反応器容積は0.083cmと算出された。各導入調製液は高圧ポンプで注入した。反応に使用した水は蒸留水を使用し、窒素ガスでバブリングして溶存酸素を追い出したキャリヤー水を9.3ml/minの流速で通水した。同様に処理した蒸留水を用い、1.08M乳酸ナトリウム及び5Mアンモニア水を含有した基質溶液を調製し、この基質溶液を4.5ml/minの流速で反応器に導入した。反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウムが0.352M、及びアンモニア水が1.630Mであり、反応時間は0.201秒であった。反応後得られた水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は6.6mMであり、その反応収率は1.9%であった。
【0023】
実施例2
実施例1と同じ連続式反応装置を用い、全く同じ条件で一時間、連続して乳酸ナトリウムとアンモニア水を反応させた。得られた反応溶液を陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製50W−X8)カラムに通して乳酸ナトリウム及び乳酸と生成したアラニンを分離し、アラニン含有溶液を濃縮精製後、エタノールにて析出させ、濾過、乾燥して、本発明製品0.47gを得た。得られた本発明製品は、純白の粉末状をしており、FTIR吸収スペクトル測定結果及びNMR測定結果から不純物をほとんど含まない高純度のアラニンであることを確認した。
【0024】
実施例3
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムとアンモニア水からアラニンの連続合成を試みた。また、図2に示した連続反応装置を用い、別々に調製した1.08M乳酸ナトリウム水溶液と5Mアンモニア水溶液を異なった2つの送水ポンプで反応器に注入した。反応器材料は合金C−276であり、反応器内径:0.65mm及び反応器長さ:25cmであり、反応器容積は0.083cmと算出された。各導入調製液は高圧ポンプで異なった流速で注入することにより、濃度比を所望により制御ができる。。
ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:383℃
高温高圧水密度0.504g/cm
キャリヤー水流速:10ml/min
1.08M乳酸ナトリウム水溶液流速:1.7ml/min
5Mアンモニア水溶液流速:2.5ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウム:0.129M及びアンモニア水:0.880Mであった。反応時間は0.177秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は3.1mMであり、その反応収率は2.4%であった。
【0025】
実施例4
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムとアンモニア水からアラニンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応圧力:35MPa
高温高圧水密度0.588g/cm
キャリヤー水流速:1.4ml/min
基質溶液流速:0.6ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウム:0.324M及びアンモニア水:1.5Mであった。反応時間は1.464秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は15.3mMであり、その反応収率は4.7%であった。
【0026】
比較例
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムとアンモニア水からアラニンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:200℃
反応圧力:15MPa
高温高圧水密度0.8746g/cm
キャリヤー水流速:2.6ml/min
基質溶液流速:4.5ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウム:0.685M及びアンモニア水:3.169Mであった。反応時間は0.613秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、アラニンは全く得られなかった。
【0027】
実施例5
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムとアンモニア水からアラニンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応圧力:25MPa
高温高圧水密度0.4851g/cm
キャリヤー水流速:6.7ml/min
基質溶液流速:2ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウム:0.248M及びアンモニア水:1.149Mであった。反応時間は0.278秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は4.0mMであり、その反応収率は1.6%であった。
【0028】
実施例6
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムと炭酸アンモニウム(国産化学社製特級試薬)からアラニンの連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、4.630M炭酸アンモニウム水溶液を調整し、キャリアー水として用いた。また溶存酸素を除去した蒸留水を用いて1.08M乳酸ナトリウム基質溶液を調製し反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:300℃
反応圧力:35MPa
高温高圧水密度:0.758g/cm
キャリヤー水流速:4.5ml/min
基質溶液流速:4.5ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウムが0.540M及び炭酸アンモニウム水溶液:2.315Mであった。反応時間は0.419秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は1.9mMであり、その反応収率は0.4%であった。
【0029】
実施例7
実施例6と同様に反応させて、乳酸ナトリウムと炭酸アンモニウムからアラニンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:400℃
反応圧力:25MPa
高温高圧水密度0.1486g/cm
キャリヤー水流速:18ml/min
基質溶液流速:2ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウムが0.108M、及び炭酸アンモニウム水溶液が0.463Mであった。反応時間は0.037秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は0.8mMであり、その反応収率は0.7%であった。
【0030】
実施例8
実施例6と同様に反応させて、乳酸ナトリウムと炭酸アンモニウムからアラニンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:374℃
反応圧力:40MPa
高温高圧水密度0.6090g/cm
キャリヤー水流速:3.5ml/min
基質溶液流速:1ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウムが0.240M、及び炭酸アンモウム水溶液が1.029Mであった。反応時間は0.674秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は6.9mMであり、その反応収率は2.9%であった。
【0031】
実施例9
実施例1と同様に反応させて、乳酸ナトリウムと酢酸アンモニウム(和光純薬社製特級試薬)からアラニンの連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.10M乳酸ナトリウム及び0.15M酢酸アンモニウム水溶液を含有した基質溶液を調製し反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:383℃
高温高圧水密度0.504g/cm
キャリヤー水流速:10ml/min
基質溶液流速:3.9ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は乳酸ナトリウムが0.028M、及び酢酸アンモニウム水溶液が0.042Mであった。反応時間は0.181秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、アラニンが生成していることを確認した。アラニンの含有濃度は0.6mMであり、その反応収率は2.1%であった。
【0032】
実施例10
実施例1と同様に反応させて、リンゴ酸ナトリウムとアンモニア水からアスパラギン酸の連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.597Mリンゴ酸ナトリウム溶液及び6.405Mアンモニア水を含有した基質溶液を調製し、反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:383℃
高温高圧水密度0.504g/cm
キャリヤー水流速:10ml/min
基質溶液流速:3.9ml/min
反応器に入る前の各基質濃度はリンゴ酸ナトリウム:0.168M及びアンモニア水:1.797Mであった。反応時間は0.181秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にアミノ基が導入され、アスパラギン酸が生成していることを確認した。アスパラギン酸の含有濃度は4.2mMであり、その反応収率は2.5%であった。
【0033】
実施例11
実施例1と同様に反応させて、グリコール酸ナトリウム(和光純薬社製一級試薬)とアンモニア水からグリシンの連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.694Mグリコール酸ナトリウム及び6.405Mアンモニア水を含有した基質溶液を調製し反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応圧力:25MPa
高温高圧水密度0.4851g/cm
キャリヤー水流速:6.7ml/min
基質溶液流速:2.0ml/min
反応器に入る前の各基質濃度はグリコール酸ナトリウム:0.160M及びアンモニア水:1.472Mであった。反応時間は0.278秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、グリコール酸にアミノ基が導入され、グリシンが生成していることを確認した。グリシンの含有濃度は4.4mMであり、その反応収率は2.8%であった。
【0034】
実施例12
実施例11と同様に反応させて、グリコール酸ナトリウムとアンモニア水からグリシンの連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:400℃
反応圧力:40MPa
高温高圧水密度0.5237g/cm
キャリヤー水流速:6ml/min
基質溶液流速:1ml/min
反応器に入る前の各基質濃度はグリコール酸ナトリウム:0.099M及びアンモニア水:0.915Mであった。反応時間は0.373秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、グリコール酸にアミノ基が導入され、グリシンが生成していることを確認した。グリシンの含有濃度は5.4mMであり、その反応収率は5.5%であった。
【0035】
実施例13
実施例1と同様に反応させて、4−ヒドロキシ−n−酪酸ナトリウム(東京化成社製試薬)とアンモニア水(和光純薬社製特級試薬)から、4−アミノ−n−酪酸の連続合成を試みた。0.77M4−ヒドロキシ−n−酪酸ナトリウム及び5Mアンモニア水を含有した基質溶液を調製し、反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:383℃
高温高圧水密度0.5040g/cm
キャリヤー水流速:10ml/min
基質溶液流速:3.9ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は4−ヒドロキシ−n−酪酸ナトリウムは0.216M及びアンモニア水:1.403Mであった。反応時間は0.181秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、4−ヒドロキシ−n−酪酸にアミノ基が導入され、4−アミノ−n−酪酸が生成していることを確認した。4−アミノ−n−酪酸の含有濃度は4.2mMであり、その反応収率は1.9%であった。
【0036】
実施例14
実施例1と同様に反応させて、(+)酒石酸ナトリウムカリウム(和光純薬社製特級試薬)とアンモニア水からα, β―ジアミノコハク酸の連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.57M(+)酒石酸ナトリウムカリウム及び5Mアンモニア水とした基質溶液を調整し反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
変更した反応条件
反応温度:383℃
高温高圧水密度0.504g/cm
キャリヤー水流速:10ml/min
基質溶液流速:3.9ml/min
反応器に入る前の各基質濃度は酒石酸ナトリウムカリウムが0.160M、及びアンモニア水が1.403Mであった。反応時間は0.181秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、酒石酸に2個のアミノ基が導入され、α, β―ジアミノコハク酸が生成していることを確認した。α, β―ジアミノコハク酸の含有濃度は2.0mMであり、その反応収率は1.3%であった。
【0037】
実施例15
実施例1と同様に反応させて、3−ヒドロキシ−n−酪酸エチル(東京化成社製試薬)とアンモニア水から3−アミノ−n−酪酸エチルの連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.694M3−ヒドロキシ−n−酪酸エチル及び5Mアンモニア水とした基質溶液を調製し反応に供した。
反応器に入る前の各基質濃度は3−ヒドロキシ−n−酪酸エチルが0.226M及びアンモニア水:1.630Mであった。反応時間は0.201秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、3−ヒドロキシ−n−酪酸エチルにアミノ基が導入され、3−アミノ−n−酪酸エチルが生成していることを確認した。3−アミノ−n−酪酸エチルの含有濃度は3.3mMであり、その反応収率は1.5%であった。
【0038】
実施例16
乳酸ナトリウムとアンモニア水を反応基質として用い、高温高圧水条件下で乳酸に対してアミノ基の導入を試みた。反応は図3に示した反応中に振とう攪拌ができるバッチ反応装置で行った。反応器として内容積10.5cm3の反応管を用いて、温度350℃、圧力30MPaになるように設定し、硝酸ナトリウム/硝酸カリウム混合塩の塩浴槽温度に60秒投入してアミノ基導入反応を行った。反応温度まで上昇するのに20秒を要し、反応時間は40秒であった。反応前の反応溶液中の乳酸ナトリウム濃度は1.085M及びアンモニア水濃度は5.002Mであった。反応後、得られた溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、12.8mMのアラニンが生成していることを確認した。アラニンの反応収率は1.2%であった。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明は、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることにより有機酸及び有機酸エステルにアミノ基を導入することを特徴とするアミノ基導入方法、高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させ、有機酸塩あるいは有機酸エステルからアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成することを特徴とするアミノ酸合成方法に係り、本発明により、1)高温高圧下での新規のアミノ基導入方法を提供することができる、2)有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧下で反応させてアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成することができる、3)上記アミノ基導入方法を流通式に適用して、有機酸塩あるいは有機酸エステルからアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを連続的に高速で合成することができる、4)有機溶媒、触媒を一切使用しないアミノ酸合成方法を提供することができる、5)高純度のアミノ酸化合物を製造することができる、6)環境に優しい化学物質生産システムであるという格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いた送水ポンプ2台付属の流通式反応装置のフローシートを示す。
【図2】本発明に用いた送水ポンプ3台付属の流通式反応装置のフローシートを示す。
【図3】バッチ式反応に用いたバッチ式反応管及び硝酸ナトリウム/硝酸カリウム混合塩を使用した攪拌式塩浴槽の概要を示す。

Claims (8)

  1. 250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることにより有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入することを特徴とするアミノ基導入方法。
  2. 250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させ、有機酸あるいは有機酸エステルにアミノ基を導入してアミノ酸あるいはアミノ酸エステルを合成することを特徴とするアミノ酸化合物合成方法。
  3. 300〜420℃の温度範囲及び25〜50MPaの圧力範囲高温高圧水条件下で有機酸あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応させることを特徴とする請求項2記載のアミノ酸化合物合成方法。
  4. 高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニア水、炭酸アンモニウムあるいは酢酸アンモニウムとを反応させることを特徴とする請求項2又は請求項3記載のアミノ酸化合物合成方法。
  5. 有機酸塩あるいは有機酸エステルとして、ヒドロキシ酸塩あるいはヒドロキシ酸エステルを使用することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
  6. 有機酸塩あるいは有機酸エステルとして、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、3−ヒドロキシ−n−酪酸及び4−ヒドロキシ−n−酪酸のナトリウム塩及びカリウム塩あるいはエステル化合物を使用することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
  7. 有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧水条件下の反応器に導入して連続的に反応させることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載のアミノ酸化合物合成方法。
  8. 250℃以上の温度範囲及び20MPa以上の圧力範囲である高温高圧水条件下で有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を反応基質として用いるアミノ酸化合物を製造する方法であって、有機酸塩あるいは有機酸エステルとアンモニアあるいはアンモニウム塩化合物を高温高圧水条件下の反応器に導入して連続的に反応させ、反応後、得られた反応液を分離精製してアミノ酸化合物を得ることを特徴とするアミノ酸化合物製造方法。
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