JP3845723B2 - アルキルアミノ基導入法及びアミノ酸の合成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温高圧下で有機酸にアルキルアミノ基を導入する方法等に関するものであり、更に詳しくは、高温高圧水条件下で有機酸とアンモニアあるいはアミンを反応させることによる有機酸へのアルキルアミノ基導入方法、上記方法によって有機酸からアミノ酸を合成する方法、及び有機酸からアミノ酸を製造する方法に関するものである。
本発明は、有機酸及びアミンを反応基質として、合成過程に有機溶媒、触媒を関与させること無しに、バッチ方式であるいは連続的に高温高圧下でアミノ酸を合成あるいは製造することを可能とするものであり、産業技術として、好適、かつ有用な方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般的に、アミノ酸は、発酵法、加水分解法、有機合成法等の多様な生産手段により生産されているが、それらの方法のうち、例えば、アラニンの合成については、微生物発酵法、その加水分解物を利用する方法や有機試薬を用いた有機合成的な方法により生産されてきている。例えば、β−アラニンの合成についてはβ−プロピオラクトンからの合成法(Ford,Org.Sys.Coll.Vol.III,34(1955))が報告されている。この合成方法において、β−アラニンは、アセトニトリル溶媒中でβ−プロピオラクトンにアンモニアを反応させることで合成されており、操作上の危険性とともに、有毒な有機溶媒の処理が必要であった。また、N−アルキルアミノ酸の合成についても、有機合成による製造法が提案されている。例えば、有害なメチル化剤を使用した合成方法(S.Hunig,H.Quast,W.Brenninger,E.Franmenfeld,Org.Synthesis,V,1018(1973))が知られている。
【0003】
従来のこれらの合成方法では、例えば、使用した触媒の処理、合成反応に使用した有機溶媒の廃棄処理、有機溶媒の人体に対する有害性等に対する対策や、それらの使用にあたっての安全性等に対する数々の配慮等が必要である。また、合成規模が大きくなればなるほど、それらのウエートが増してくる。従って、使用した有害な有機溶媒、触媒等の処理技術の開発が必要とされている。一方、これらの有害な有機溶媒、触媒等を使用しない全く新しい合成方法を開発できれば、上記諸問題の根本的な解決策となり得る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高温高圧下での有機酸に対するアルキルアミノ基導入法について種々研究を進める過程で、高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応させることにより有機酸にアルキルアミノ基を導入することができることを見出し、かかる知見に基づいて、更に研究を重ねて、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、高温高圧水条件下で有機酸にアミンを反応させてアルキルアミノ基を導入する新規なアミノ基導入方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記アルキルアミノ基導入方法により、有機酸とアミンからアミノ酸を合成する新規なアミノ酸合成方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
また、本発明は、上記アミノ基導入方法により、例えば、ヒドロキシ酸型の乳酸とアミンからN−エチルアラニンを、リンゴ酸から2−N−メチルアミノコハク酸を合成する等の、有機酸からアミノ酸を合成する新規なアミノ酸合成方法を提供することを目的とするものである。
更に、本発明は、高温高圧水条件下で、有機酸とアミンを反応器に導入し、バッチ方式によるアミノ酸合成方法、あるいは連続的にアミノ酸を合成するアミノ酸連続合成方法を提供することを目的とするものである。
そして、本発明は、上記アルキルアミノ基導入方法により、有機酸とアミンからアミノ酸を合成し、得られた反応溶液に対してイオン交換樹脂等のアミノ酸分離材を用いてアミノ酸を分離精製することを特徴とする高純度のアミノ酸の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応系で有機酸とアミンを反応させることにより、有機酸にアルキルアミノ基を導入する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするアルキルアミノ基導入法。
(2)250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応系で有機酸とアミンを反応させ、有機酸にアルキルアミノ基を導入してアミノ酸を合成する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするアミノ酸合成方法。
(3)250〜450℃の温度範囲及び15〜50MPaの圧力の高温高圧水条件下で有機酸とアミンを0.001秒から30分の範囲の反応時間で反応させることを特徴とする上記(2)記載のアミノ酸合成方法。
(4)上記高温高圧水条件下で有機酸とメチルアミン、エチルアミン又はジメチルアミンを反応させることを特徴とする上記(2)記載のアミノ酸合成方法。
(5)上記有機酸が、脂肪族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする上記(2)から(4)のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
(6)上記有機酸が、乳酸又はリンゴ酸であることを特徴とする上記(2)から(5)のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
(7)上記有機酸とアミンを高温高圧水条件下の反応器において連続的に反応させることを特徴とする上記(2)から(6)のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
(8)高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応基質として用いてアミノ酸を製造する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であり、該有機酸とアミンを250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応器において0.001秒から30分の範囲の反応時間で連続的に反応させ、反応後、得られた反応液をイオン交換樹脂等のアミノ酸分離材を用いて分離精製処理してアミノ酸を得ることを特徴とするアミノ酸製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の説明を容易にするために、以下、相当するヒドロキシ酸にアミンを高温高圧下で反応させて、例えば、アミノ酸である2−N−メチルアミノコハク酸を合成した場合を例にとって詳細に説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
本発明者らが、種々の実験を経て開発した本発明の合成法の代表的な例として、例えば、リンゴ酸とメチルアミン水溶液を高温高圧水条件下の反応器に導入して高速で反応させることにより、2−N−メチルアミノコハク酸を合成する方法が例示される。本発明の合成方法で使用する原料試薬としては、有機酸及びアミンだけである。本発明では、高温高圧水を反応場あるいは反応溶媒として用いており、有機溶媒あるいは触媒は使用しないし、また、特に使用する必要はない。従って、この方法を用いれば、処理しなければならない廃有機溶媒や廃触媒といった類の処理を必要とする廃棄物は排出されない。また、未反応の有機酸や使用水は本発明の反応に再使用することが可能である。更に、本発明の方法は、有用なアミノ酸等の製品を連続的に高速で合成できることから、それらの製造方法の手段として最も好適な方法であると考えられる。なお、この反応は、バッチ型反応器においても実施できる。
【0008】
本発明のアルキルアミノ基導入法あるいはアミノ酸合成方法について、以下に詳しく説明する。
本発明では、例えば、高温高圧水条件下でα−ヒドロキシ酸とアミンを反応させて、α−ヒドロキシ酸にアルキルアミノ基を導入することによりアミノ酸を合成することができる。
一般に、アミノ酸は、主に生物体内で合成されるが、有機合成的にも合成できる。例えば、β−アラニンは、下記の化学式により、アセトニトリル溶媒中でβ−プロピオラクトンをアンモニアと反応させることで合成されている。
【0009】
【化1】
【0010】
これに対し、本発明者らは、高温高圧水条件下で、例えば、α−ヒドロキシ酸であるリンゴ酸あるいは乳酸等の有機酸とエチルアミンを反応させることにより、2−N−エチルアミノコハク酸あるいはN−エチルアラニン等のアミノ酸を合成できることを見出した。本発明によるアミノ酸合成の具体例として、リンゴ酸とメチルアミン、エチルアミン及びジメチルアミンを反応させ、それぞれ2−N−メチルアミノコハク酸、2−N−エチルアミノコハク酸及び2−N−ジメチルアミノコハク酸が得られる場合の合成反応式を下記の化2、化3及び化4に示す。また、乳酸とエチルアミンの反応によって得られるN−エチルアラニンの合成反応式を下記の化5に示す。
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
【化4】
【0014】
【化5】
【0015】
本発明の方法において、高温高圧水は反応器の外からヒーターや溶融塩等を用いて温度を制御することが可能であり、あるいは反応器内で内熱方式で制御することも可能である。また、予め高温高圧水を製造しておき、外部から反応器内に注入して反応させることもできる。温度圧力条件の異なる2種類以上の高温高圧水を反応系に供給して反応条件を制御することも可能である。反応容器内での圧力は、流通式であれば圧力調整弁で制御することができる。また、バッチ方式による反応圧力は、例えば、使用温度における自生圧力を計算することができる。更に、窒素ガスなど他の気体を注入することによって圧力をコントロールすることもできる。一般的には、使用する圧力は使用温度における自生圧力以上であればよい。
【0016】
基本的には、温度250℃以上及び圧力10MPa以上の高温高圧水条件下であれば本発明は達成されるが、温度300℃以上及び圧力15MPa以上の高温高圧水条件下では、より好適に本発明を達成できる。更に、300〜420℃の温度範囲及び15〜50MPaの圧力範囲の高温高圧水条件を選択すれば、最も好適に本発明は達成される。最適の温度条件は処理時間によっても変化するが、一般に、好適には250℃から450℃の温度範囲を選択できる。また、処理量や反応装置によって適宜の温度及び圧力条件を採用すればよい。
反応装置としては、例えば、高温・高圧反応装置が使用されるが、これに限らず、高温高圧水条件下の反応系を設定できる装置であれば、その種類は制限されない。ここで、好適な反応装置として、例えば、流通式の高温高圧反応装置が例示される。市販のオートクレーブは好適に用いられる。
【0017】
本発明の方法において、反応条件は、使用する有機酸の種類及び濃度、アミンの種類及び濃度、反応時間、高温高圧水条件によって変化する。
本発明では、反応基質の有機酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ−n−酪酸、マンデル酸、2−ヒドロキシ−3−メチルブチル酸、クエン酸、グリセリン酸、トロパ酸、ベンジル酸、ヒドロキシ吉草酸等の1分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基とを有するヒドロキシ酸が例示される。ヒドロキシ酸であれば、α−ヒドロキシ酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸等はいずれも本発明の反応に好適に用いることができる。本発明では、反応に用いる有機酸は1種類に限定されるものでなく、2種類以上の混合物を用いても反応は好適に進行する。また、脂肪族飽和ヒドロキシカルボン酸、脂肪族不飽和ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の様なヒドロキシカルボン酸、ステロイド等の有機酸も本発明の反応基質として好適に用いられる。
【0018】
また、上記有機酸の金属塩やエステルも本発明の基質として用いることが可能である。反応基質の有機酸塩あるいは有機酸エステルとしては、例えば、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、酒石酸、4−ヒドロキシ−n−酪酸、3−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチルブチル酸、クエン酸、グリセリン酸、トロパ酸、ベンジル酸、ヒドロキシ吉草酸等のナトリウムあるいはカリウム塩及びそれらのエステルが例示できる。また、1分子内に1個以上のカルボキシル基と1個以上の水酸基とを有するヒドロキシ酸の塩及びエステルが例示される。ヒドロキシ酸であれば、α−ヒドロキシ酸、β−ヒドロキシ酸、γ−ヒドロキシ酸、δ−ヒドロキシ酸、ε−ヒドロキシ酸等の塩やエステルはいずれも好適に本発明に用いることができる。有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩はいずれも好適に用いることができる。
【0019】
エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、ヘプチルエステル、ヘキシルエステル等の炭素数1〜20のアルキルエステルが好適に用いられるが、本発明では、エステル化合物であればよく、これらのエステルに限定されるものではない。
本発明では、反応に用いる有機酸塩及び有機酸エステルは1種類に限定される物ではなく、有機酸を含む2種類以上の混合物を用いても反応は好適に進行する。また、脂肪族飽和ヒドロキシカルボン酸、脂肪族不飽和ヒドロキシカルボン酸、マンデル酸等の芳香族系カルボン酸の様なヒドロキシカルボン酸、ステロイド等の有機酸塩及び有機酸エステルは、いずれも本発明の反応基質として好適に用いられる。
【0020】
流通方式の装置を用いる場合は、例えば、キャリヤー水として用いる高温高圧水の流速及び反応基質である有機酸の導入流速を制御することによって、反応器に導入する有機酸の濃度をコントロールできる。有機酸やアミンを、同時にあるいは別個に、予めキャリヤー水中に溶解して反応に供してもよい。通常、反応器に導入する有機酸の濃度としては1mMから10Mの濃度範囲で選択できる。好適には5mMから10Mの間の適宜な濃度の値を選択でき、最も好適には10mMから10Mの間の適宜な濃度の値が選択されるが、本発明は、これらの濃度の値に限定されるものではない。バッチ法の場合は、単に仕込みの有機酸の濃度を制御すればよい。反応器内の有機酸の濃度は反応に関与する高温高圧水の密度によって変化する。
【0021】
本発明では、有機酸の種類に応じて、反応系の温度、圧力、反応時間、反応基質の濃度とアミンの濃度を調節することによって、アルキルアミノ基の導入量、アルキルアミノ基の導入位置、アミノ酸の生成種、生成量あるいは反応収率を操作することができる。本発明で用いられるアミンは、アンモニアの水素原子をアルキル基で置換した化合物で、置換された水素原子の数が1個、2個及び3個の場合をそれぞれ一級アミン、二級アミン及び三級アミンと称しており、いずれも本発明に有効に用いることができる。本発明で好適に用いられる一級アミンはRNH2 で示すことができ、Rはアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のものはいずれも使用することができる。
【0022】
反応に用いるアミンとして、一級アミン、二級アミン、三級アミンあるいはアルキル第四級アンモニウム塩は、いずれも本発明に用いることができる。アルキル基としては、炭素数1〜20の物であれば好適に使用できる。例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、メチル第四級アンモニウム塩、ジメチル第四級アンモニウム塩、トリメチル第四級アンモニウム塩、エチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどを例示することができるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0023】
アミンは、通常、反応基質である有機酸と混合して反応器内に導入される場合が多い。その際、アミンは、通常、水溶液として用いられ、反応濃度は、有機酸の基質の1〜1000倍の濃度範囲の適宜な値から選択できる。好適には有機酸の基質の1〜100倍の濃度範囲の適宜な値から選択できる。最も好適には有機酸の基質の1〜50倍の濃度範囲の適宜な値から選択できる。例えば、アミン水溶液の濃度は、1mMから30M、好適には5mMから30Mの値を選択できる。最も好適には10mMから20Mの間の適宜な値を選択できるが、本発明は、これらの濃度の値に限定されるものではない。なお、有機酸とアミンは、同一の基質溶液として反応させてもよいが、別々に反応器に導入しても、また、キャリヤー水に直接混合して使用しても本発明の反応は進行する。また、アミンは、一種類に限定して使用する必要は無く、2種類以上のアミンを適宜に混合して用いても本発明の反応は達成される。
【0024】
本発明では、キャリヤー流体と基質流体の混合割合の設定が反応温度を決定するのに重要であり、通常は、キャリヤー流体と基質流体の送液速度をコントロールすることによって混合比を制御することができる。キャリヤー流体の流速を1とした場合、通常、基質流体の流速は0.001〜100の範囲の値を適宜選択できるが、好適には0.01〜50、より好適には0.05〜50及び最も好適には0.1〜50の範囲の値を選択するのがよい。
【0025】
同じ流速を用いても、反応容器の大きさ、断面積、長さ等によって使用する流量が変動するので、流速の代わりに線速度を用いることができる。本発明では、キャリヤー流体や基質流体の流量は、通常、10-4〜104 m/secの線速度の流量を用いることができる。好適には10-3〜103 m/secの線速度の流量を、より好適には10-3〜102 m/sec の線速度の流量を、及び最も好適には10-2〜102 m/secの線速度の流量を用いるのが望ましい。また、キャリヤー流体と基質流体の混合比は、線速度の比で表すこともできる。キャリヤー流体の線速度を1とした場合、通常、基質流体の線速度は0. 001〜100の範囲の値を適宜選択できるが、好適には0.01〜50、より好適には0.05〜50及び最も好適には0.1〜50の範囲の値を選択するのがよい。
【0026】
本発明の反応系は、250℃以上の温度、及び10MPa以上の圧力の高温高圧水中に上記反応基質の有機酸とアミンを存在させればよく、その際、例えば、金属イオン、酸、あるいは塩基等のような水溶性の触媒、金属担持触媒、固体酸、固体塩基等の固体触媒あるいは酵素等は特に添加する必要がなく、また、有機溶媒を使用する必要もない。本発明は、基本的には、高圧水中に上記反応基質を存在させて、無触媒条件下で、あるいは有機溶媒を反応に関与させることなく、有機酸とアミンを反応させて有機酸にアルキルアミノ基を導入すること、及びそれによりアミノ酸を合成することを最大の特徴としているが、必要により、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の有機溶媒、金属イオン、酸、あるいは塩基等のような水溶性の触媒、金属担持触媒、固体酸、固体塩基等の固体触媒あるいは酵素を添加して反応させても一向にさしつかえない。
【0027】
本発明では、上記反応系により、例えば、反応時間0.001秒から30分程度の時間で有機酸にアルキルアミノ基が導入され、それによって、アミノ酸が合成される。例えば、流通式反応装置を用いる場合、反応時間は、反応温度、反応圧力、高圧水の流速、反応基質の導入流速、反応器の大きさ、反応器の流通経路の長さ等を制御することによって、反応時間をコントロールできる。好適には反応時間は0.01秒から20分の範囲の値を選択でき、最も好適には0.01秒から10分の範囲の値を選択できるが、本発明は、これらの値に限定されるものではない。
【0028】
本発明者らは、後記する実施例に示されるように、高温高圧水条件下では、短時間(例えば、反応時間0.3秒前後)で有機酸へのアルキルアミノ基の導入が可能であることを、高速液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC−MS装置)やフリエー赤外分光光度計(FTIR装置)を用いて確認している。更に、LC−MS装置を用いることにより、アミノ酸の種類を分離して同定でき、それらの含有量を正確に定量できる。また、連続的に得られるアミノ酸をイオン交換樹脂等を用いて分離精製して、FTIR装置により赤外線吸収スペクトルを計測し、純度の高い特級試薬製品のそれと比較することにより、アミノ酸の種類や純度を正確に知ることができる。同様に、NMR測定によってもアミノ酸の種類や純度を確認できる。
【0029】
例えば、流通式装置を用いて、300〜374℃、圧力15〜40MPa及び反応時間0.188〜0.549秒の条件下で、9.3〜141mM濃度のリンゴ酸とメチルアミンあるいはエチルアミンを反応させて、0.3〜4.7mM濃度のアミノ酸を合成できた。これらの反応の結果、アミンがこれらの有機酸の水酸基と反応して水酸基を引き抜き、その位置にアルキルアミノ基が導入されていることがLC−MS装置、NMR測定装置やFTIR装置より得られた測定結果から確認された。
【0030】
本発明で生成したアミノ酸の反応収率は、温度、圧力等の反応条件、有機酸の種類、有機酸の濃度、アミンの濃度、反応装置の形態、反応器の大きさ等によって変動する。例えば、流通式装置を用いた2−N−メチルアミノコハク酸合成の場合の反応収率は1.7%から5.7%であった。これらの2−N−メチルアミノコハク酸は、原料のリンゴ酸等と混合して回収される。同様に、本発明によって種々の有機酸あるいはそれらの混合物から多種のアミノ酸が原料基質とともに回収されるが、反応後、得られた反応液をイオン交換樹脂、例えば、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂あるいはそれらの併用によってアミノ酸と原料基質を分離精製でき、更に、アミノ酸同士の分離も可能なので、アミノ酸は、その種類毎に精製濃縮できる。また、同時に回収された原料基質は、再度、原料として用いることができる。また、イオン交換樹脂の代わりに、アルミナ、逆相用シリカゲル、ゼオライト、セルロース、カーボン等の一般的な適宜のアミノ酸分離用資材を利用してアミノ酸を分離精製することもできる。従って、高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応させてアミノ酸を合成し、得られた反応溶液に対して、イオン交換樹脂、アルミナ、逆相用シリカゲル、セルロース等のアミノ酸分離材を用いて、アミノ酸を分離精製して、高純度のアミノ酸を好適に製造できる。
【0031】
【作用】
本発明では、高温高圧水条件下の高温熱水中に、反応基質として所定の濃度の有機酸及びアミンを存在させることにより、例えば、α−ヒドロキシ酸型のリンゴ酸及びエチルアミンから2−N−エチルアミノコハク酸が合成される。この場合、リンゴ酸に代えて、乳酸等の有機酸とエチルアミンを反応させることにより、エチルアミノ基が同様に乳酸等の有機酸に導入される。また、これらの有機酸等とアミンを反応器に連続的に導入することにより、連続的にそれぞれの有機酸及びアミンの種類に対応した種々のアミノ酸を合成することができる。
これらのことから、本発明は、上記反応系において、反応条件、反応基質である有機酸の種類、有機酸及びアミンの濃度を調節することにより、有機酸にアルキルアミノ基を導入すること、それにより、種々のアミノ酸を短時間で合成することを可能とし、新規のアルキルアミノ基導入法及びアミノ酸合成方法あるいはアミノ酸製造方法として有用である。
【0032】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
図1に示す連続式反応装置を用い、温度350℃、圧力40MPa及び密度0.6721g/cm3 の高温高圧水条件下でリンゴ酸(和光純薬社製特級試薬)とメチルアミン(和光純薬社製特級試薬)を反応させ、メチルアミノ基の導入による2−N−メチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。
反応器材料は、合金C−276であり、反応器内径:0.65mm及び反応器長さ:25cmであり、従って、反応器容積は0.083cm3 と算出された。各導入調製液は高圧送液ポンプで注入した。反応に使用した水は蒸留水を使用し、窒素ガスでバブリングして溶存酸素を追い出したキャリヤー水を4.1ml/min(線速度:0.21m/sec)の流速で通水した。
【0033】
同様に処理した蒸留水を用い、0.246Mリンゴ酸及び1.032Mメチルアミンを含有した基質溶液を調製し、この基質溶液を2.0ml/min(線速度:0.10m/sec)の流速で反応器に導入した。従って、反応に用いられた高温高圧水の流速は6.1ml/min(線速度:0.31m/sec)であった。反応器に入る前の各基質濃度はリンゴ酸:80.7mM及びメチルアミン:0.338Mであった。反応時間は0.549秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にメチルアミノ基が導入され、2−N−メチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−メチルアミノコハク酸の含有濃度は4.6mMであり、その反応収率は5.7%であった。
【0034】
実施例2
実施例1と全く同じ条件で、2時間、連続してリンゴ酸とメチルアミンを反応させた。得られた反応溶液を陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製50W−X8)カラムに通して原料のリンゴ酸と生成した2−N−メチルアミノコハク酸を分離し、2−N−メチルアミノコハク酸含有溶液を濃縮精製後、エタノールにて析出させ、濾過、乾燥して、本発明製品0.47gを得た。得られた本発明製品は、純白の粉末状をしており、FTIR吸収スペクトル結果及びNMR測定結果から不純物をほとんど含まない高純度の2−N−メチルアミノコハク酸であることを確認した。
【0035】
実施例3
実施例1と同様に反応させて、リンゴ酸とメチルアミンから2−N−メチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:374℃
反応圧力:40MPa
高温高圧水密度:0.6096g/cm3
キャリヤー水流速:5.5ml/min(線速度:0.28m/sec)
基質溶液流速:2.0ml/min(線速度:0.10m/sec)
高温高圧水流速:7.5ml/min(線速度:0.38m/sec)
【0036】
反応器に入る前の各基質濃度は、リンゴ酸:65.7mM及びメチルアミン:0.275Mであった。反応時間は0.405秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にメチルアミノ基が導入され、2−N−メチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−メチルアミノコハク酸の含有濃度は3.4mMであり、その反応収率は5.2%であった。
【0037】
実施例4
実施例1と同様に反応させて、リンゴ酸とメチルアミンから2−N−メチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。また、図2に示した連続反応装置を用い、別々に調製した0.493Mリンゴ酸水溶液と2.065Mメチルアミン水溶液を異なった2つの送液ポンプで反応器に注入した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:300℃
反応圧力:15MPa
高温高圧水密度:0.7259g/cm3
キャリヤー水流速:4.5ml/min(線速度:0.23m/sec)基質溶液(0.493Mリンゴ酸水溶液)流速:3.0ml/min(線速度:0.15m/sec)
基質溶液(2.065Mメチルアミン水溶液)流速:3.0ml/min(線速度:0.15m/sec)
高温高圧水流速:10.5ml/min(線速度:0.53m/sec)
【0038】
反応器に入る前の各基質濃度はリンゴ酸:140.9mM及びメチルアミン:0.590Mであった。反応時間は0.344秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にメチルアミノ基が導入され、2−N−メチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−メチルアミノコハク酸の含有濃度は2.3mMであり、その反応収率は1.6%であった。
【0039】
比較例
実施例1と同様に反応させて、0.0746Mリンゴ酸水溶液と1.0323Mメチルアミン水溶液から2−N−メチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:200℃
反応圧力:15MPa
反応高圧水密度:0.8746g/cm3
キャリヤー水流速:7.8ml/min(線速度:0.39m/sec)
基質溶液流速:4.0ml/min(線速度:0.20m/sec)
反応高圧水流速:11.8ml/min(線速度:0.59m/sec)
【0040】
反応器に入る前の各基質濃度はリンゴ酸:25.3mM及びメチルアミン:0.350Mであった。反応時間は0.369秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、原料のリンゴ酸だけが検出され、2−N−メチルアミノコハク酸は全く得られなかった。
【0041】
実施例5
実施例1と同様に反応させて、0.0616Mリンゴ酸水溶液と0.4667Mエチルアミン水溶液から2−N−エチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:350℃
反応圧力:30MPa
高温高圧水密度:0.6443g/cm3
キャリヤー水流速:7.0ml/min(線速度:0.35m/sec)
基質溶液流速:4.5ml/min(線速度:0.23m/sec)
高温高圧水流速:11.5ml/min(線速度:0.58m/sec)
【0042】
反応器に入る前の各基質濃度は、リンゴ酸:24.1mM及びエチルアミン:0.1826Mであった。反応時間は0.279秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にエチルアミノ基が導入され、2−N−エチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−エチルアミノコハク酸の含有濃度は1.8mMであり、その反応収率は7.5%であった。
【0043】
実施例6
実施例5と同様に反応させて、0.0616Mリンゴ酸と0.4667Mエチルアミンから2−N−エチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:400℃
反応圧力:40MPa
高温高圧水密度:0.5237g/cm3
キャリヤー水流速:11.8ml/min(線速度:0.59m/sec)
基質溶液流速:2.1ml/min(線速度:0.11m/sec)
高温高圧水流速:13.9ml/min(線速度:0.70m/sec)
【0044】
反応器に入る前の各基質濃度は、リンゴ酸:9.3mM及びエチルアミン:70.5mMであった。反応時間は0.188秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にエチルアミノ基が導入され、2−N−エチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−エチルアミノコハク酸の含有濃度は0.3mMであり、その反応収率は3.2%であった。
【0045】
実施例7
実施例6と同様に反応させて、0.2463Mリンゴ酸と0.7111Mジメチルアミンから2−N−ジメチルアミノコハク酸の連続合成を試みた。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:374℃
反応圧力:30MPa
高温高圧水密度:0.558g/cm3
キャリヤー水流速:8.6ml/min(線速度:0.43m/sec)
基質溶液流速:4.0ml/min(線速度:0.20m/sec)
高温高圧水流速:12.6ml/min(線速度:0.63m/sec)
【0046】
反応器に入る前の各基質濃度は、リンゴ酸:78.2mM及びジメチルアミン:0.2257Mであった。反応時間は0.321秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、リンゴ酸にジメチルアミノ基が導入され、2−N−ジメチルアミノコハク酸が生成していることを確認した。2−N−ジメチルアミノコハク酸の含有濃度は1.1mMであり、その反応収率は1.4%であった。
【0047】
実施例8
実施例1と同様に反応させて、乳酸(和光純薬社製特級試薬)とエチルアミンからN−エチルアラニンの連続合成を試みた。溶存酸素を除去した蒸留水を用い、0.100M乳酸及び5.060Mエチルアミンとした基質溶液を調製し、反応に供した。ただし、反応条件を一部下記の様に変更して実施した。
(反応条件)
反応温度:383℃
反応圧力:30MPa
高温高圧水密度:0.5040g/cm3
キャリヤー水流速:8.5ml/min(線速度:0.43m/sec)
基質溶液流速:3.5ml/min(線速度:0.18m/sec)
高温高圧水流速:12.0ml/min(線速度:0.60m/sec)
【0048】
反応器に入る前の各基質濃度は、乳酸:29.2mM及びエチルアミン:1.476Mであった。反応時間は0.209秒であり、反応後の水溶液を高速液体クロマトグラフィー質量分析装置で調べた所、乳酸にアミノ基が導入され、N−エチルアラニンが生成していることを確認した。N−エチルアラニンの含有濃度は0.9mMであり、その反応収率は3.1%であった。
【0049】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明は、高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応させることにより、有機酸にアルキルアミノ基を導入することを特徴とするアルキルアミノ基導入法、高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応させ、有機酸からアミノ酸を合成することを特徴とするアミノ酸合成方法に係り、本発明により、1)高温高圧下での新規のアルキルアミノ基導入法を提供することができる、2)有機酸及びアミンを高温高圧水条件下で反応させてアミノ酸を合成することができる、3)上記アルキルアミノ基導入法を流通式反応装置に適用して、有機酸からアミノ酸を連続的に高速で合成することができる、4)有機溶媒、触媒を一切使用しないアミノ酸合成方法を提供することができる、5)高純度のアミノ酸を製造することができる、6)環境に優しい化学物質生産システムとして有用である、という格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いた送水ポンプ2台付属の流通式反応装置及び本発明の方法のフローを示す。
【図2】本発明に用いた送水ポンプ3台付属の流通式反応装置及び本発明の方法のフローを示す。
Claims (8)
- 250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応系で有機酸とアミンを反応させることにより、有機酸にアルキルアミノ基を導入する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするアルキルアミノ基導入法。
- 250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応系で有機酸とアミンを反応させ、有機酸にアルキルアミノ基を導入してアミノ酸を合成する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であることを特徴とするアミノ酸合成方法。
- 250〜450℃の温度範囲及び15〜50MPaの圧力の高温高圧水条件下で有機酸とアミンを0.001秒から30分の範囲の反応時間で反応させることを特徴とする請求項2記載のアミノ酸合成方法。
- 上記高温高圧水条件下で有機酸とメチルアミン、エチルアミン又はジメチルアミンを反応させることを特徴とする請求項2記載のアミノ酸合成方法。
- 上記有機酸が、脂肪族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
- 上記有機酸が、乳酸又はリンゴ酸であることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
- 上記有機酸とアミンを高温高圧水条件下の反応器において連続的に反応させることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載のアミノ酸合成方法。
- 高温高圧水条件下で有機酸とアミンを反応基質として用いてアミノ酸を製造する方法であって、上記有機酸がヒドロキシカルボン酸であり、該有機酸とアミンを250℃以上の温度及び10MPa以上の圧力の高温高圧水条件下の反応器において0.001秒から30分の範囲の反応時間で連続的に反応させ、反応後、得られた反応液をイオン交換樹脂等のアミノ酸分離材を用いて分離精製処理してアミノ酸を得ることを特徴とするアミノ酸製造方法。
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