JP3588447B2 - クランクシャフトの高周波低歪み焼入方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、ガソリンエンジン又はジーゼルエンジン用のクランクシャフトのピン部とジャーナル部を低歪みで高周波焼入する高周波低歪み焼入方法とその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図4に示すように、この種の4気筒(4L)のクランクシャフト100は、鍛造加工によりピン部1P(120),2P(140),3P(160),4P(180)とジャーナル部1J(110),2J(130),3J(150),4J(170),5J(190)とが一体成型されている。
従来、前記クランクシャフト100のピン部1P,2P,3P,4Pとジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jの高周波焼入は、該クランクシャフト100を、その中心軸Xのまわりに回転させながら、該ピン部1P,2P,3P,4Pとジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jに、それぞれ高周波誘導加熱コイルを載置し、前記回転に追従して誘導加熱後、冷却を行い高周波焼入れを施工している。
【0003】
前記ピン部1P,2P,3P,4P及びジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jの形状は、該ジャーナル部同士及び該ピン部同士は同じのため、前記ピン部4Pとジャーナル部5Jとを例に説明する。該ピン部4P(180)の形状は、図5に示すように円柱部181と、該円柱部181に続くR部182と、該R部182に続き前記クランクシャフト100の軸方向に直角に形成されたスラスト部183から成り、前記ジャーナル部5J(190)も同様に、円柱部191と、R部192と、スラスト部193から成る。
【0004】
図5に示す硬化層187は、前記円柱部181と、フィレット形状部を含む前記R部182と、スラスト部183が、連続して焼入れによって得られ、硬化層197は、前記円柱部191と、フィレット形状部を含む前記R部192と、スラスト部193が、連続して焼入れによって得られたものである。このような焼入れの仕方をフィレットR焼入れと称している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来、前記クランクシャフト100のフィレットR焼入れにおいて、通常の加工順序は、前記クランクシャフト100、すなわち被加工物であるワーク100の軸心から1/2ストローク離れたところに位置する前記ピン部1P,2P,3P,4Pを全て焼入れし、その後、該ワーク100の曲がりを吸収するように、該ワーク100の軸心に位置する前記ジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jを焼入れすることで、該ワーク100の曲がりを少なくしている。
【0006】
前記ワーク100は、前記ピン部1P,4Pとピン部2P,3Pとでは、そのピン部トップの向きが、180度異なることから、はじめに、同一向きである前記ピン部2P,3Pを焼入れし、次いで、他の同一向きである前記ピン部1P,4Pを焼入れしている。(この場合、はじめに、前記ピン部1P,4Pを焼入れし、次いで、前記ピン部2P,3Pを焼入れしてもよい。)
しかし、この焼入工程では、ピン部2P,3Pを同時に焼き入れしたもので、ワーク100の曲がりにかなりのバラツキを生じるものがあった。
【0007】
図6(a)及び図6(b)に示すように、前記ピン部1P,2P,3P,4Pにおける焼入前後の歪みが同程度であれば、ピン部2P,3Pは、ピン部1P,4Pよりもワーク100の長手方向で中央部分に位置することから、該ワーク100の曲がりは、大きくなる。従って、それぞれの偏心量(ワーク100の軸心とジャーナル部3Jの軸心間の距離)H1,H2は、H1<H2となる。これにより、ピン部2P,3Pの焼入後の曲がりが大きいものは、その次に、ピン部1P,4Pを焼入れしても、あまり小さくならず、その後、前記ワーク100軸心上にあるジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jを、全て焼入れしても曲がり量の基準値(TIR:0.3mm以下)を遙かに超えていた。
【0008】
該ワーク100である前記クランクシャフト100の曲がりが大きいものは、焼入後の研磨加工に支障を生じた。研磨後の完成寸法が決まっているため、研磨代に限りがあり、該ワーク100の曲がり量が大きいものは、研磨残りが生じ、製品として使用できないものがあるという問題点があった。
【0009】
図7(a)ないし図7(c)に示すように、前記ワーク100のピン部2P,3Pを、同時にフィレットR焼入れしたときの該ワーク100の伸び、縮みの状態を示す。該ワーク100は、その両端をチャック機構200のチャック201,202にて支持されている。このチャック機構200は、該ワーク100の伸び、縮みに追従できるように、該ワーク100の加熱、冷却中、前記チャック機構200の一方のチャック202側が、摺動自在(フリー)に支持するように、使用されている。これは、両チャック201,202の位置を固定した場合、加熱に伴う該ワーク100の伸びにより、ある方向に該ワーク100が曲がることを防止するためである。
しかしながら、冷却が終了しても、該ワーク100の全長が加熱前と同じではなく、僅かに伸びていた。しかも、この伸び量にバラツキを生じていたという問題点があった。
【0010】
次いで、図8に、前記ピン部2Pの硬化層147パターンと歪みの関係及び曲がり量への影響を示す。該ピン部2Pにおいて、軸心ら遠い頂部144と軸心に近い底部145との形状が大きく異なっている。頂部144は、スラスト部143の面の高さが低く、底部145はスラスト部143の面の高さが高い。さらに、底部145側には、振り子であるバランスウエイトを形造る場合もあるため、前記頂部144部に比べて、質量が多い。このため、ビン部1P,2P,3P,4Pを焼入れする場合、質量の違いから前記底部145に対して、前記頂部144の加熱出力を10%ないし30%程度下げて加熱している。
【0011】
前記頂部144側と底部145側との硬化層147の深さの違いと、ピン部2Pにおける形状の違いとにより、焼入後のスラスト部間の寸法Cが変化する。この寸法Cの変化に伴い、ピン部2PがA又はB方向に移動する。該ピン部2Pは中央ジャーナル部3Jのとなりに位置することから、該ピン部2Pの移動につられて、前記中央ジャーナル部3Jが移動することで、ワーク100全体の曲がってしまう(ピン部3Pの焼入れにおける曲がり量は、ピン部2Pと3Pは前記中央ジャーナル部3Jを中心に対称的に位置していることから、同様の傾向となる)という問題点があった。
【0012】
本発明はかかる点を鑑みなされたもので、その目的は前記問題点を解消し、クランクシャフトのピン部の焼入後、該ピン部の歪みを少なくして、該クランクシャフトの曲がり量を少なくし、かつそのバラツキが少ないクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法とその装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明の構成は、クランクシャフトのピン部及びジャーナル部の円柱部の外周上に高周波誘導加熱コイルを載置し、前記クランクシャフトをその中心軸を中心に回転せしめて前記高周波誘導加熱コイルを前記円柱部外周に追従させつつ、前記円柱部、フィレットR部及びフィレット部を高周波誘導加熱し、しかる後に前記ピン部及びジャーナル部を冷却して、前記ピン部及びジャーナル部の表面を焼入するに際し、前記クランクシャフトの長手方向の両端をチャック機構に取り付けて前記クランクシャフトのピン部を高周波誘導加熱した後の冷却焼入中に、押さえローラ機構により、前記クランクシャフトのほぼ中央位置にあるジャーナル部を径方向に押圧して前記クランクシャフトの曲がりを矯正するとともに、前記チャック機構を介して、前記クランクシャフトの長手方向の一端を、往復動機構により前記クランクシャフトの長手方向に押圧しながら、前記ピン部の歪みを少なくする方法である。
【0014】
前記往復動機構は、前記チャック機構に取り付けられた前記クランクシャフトの加熱時又は冷却時における、長手方向の伸び、縮みに追従して、後退、前進するとともに、冷却終了までに、前記クランクシャフトを加熱前の位置に押圧、固定する方法である。
【0015】
前記押さえローラ機構は、前記ピン部を高周波誘導加熱後、冷却時のみ、前記クランクシャフトを押圧を開始し、ある一定時間経過後、前記押圧を停止する方法である。
【0016】
上述の方法を実施する装置の一実施形態は、クランクシャフトのピン部及びジャーナル部の円柱部の外周上に高周波誘導加熱コイルを載置し、前記クランクシャフトをその中心軸を中心に回転せしめて前記高周波誘導加熱コイルを前記円柱部外周に追従させつつ、前記円柱部、フィレットR部及びフィレット部を高周波誘導加熱し、しかる後に前記ピン部及びジャーナル部を冷却して、前記ピン部及びジャーナル部の表面を焼入する装置において、前記高周波誘導加熱コイルは、半開放殼形で、前記円柱部のそれぞれを跨ぐように形成されるとともに、前記クランクシャフトの長手方向の両端を取り付けるためのチャック機構と、該チャック機構を介して、前記クランクシャフトの長手方向の一端を押圧する往復動機構と、該チャック機構に取り付けられた前記クランクシャフトのほぼ中央位置を径方向に押圧する押さえローラ機構とを備え、前記ピン部を高周波誘導加熱後、冷却焼入中に、前記押さえローラ機構により、該クランクシャフトの曲がりを矯正するとともに、前記チャック機構を介して、前記クランクシャフトの長手方向の一端を、前記往復動機構により押圧しながら、前記ピン部の歪みを少なくする装置である。
【0017】
また、前記往復動機構の一実施形態は、前記往復動機構は、前記チャック機構に取り付けられた前記クランクシャフトの加熱時又は冷却時における、長手方向の伸び又は縮みに追従して、流体圧シリンダにより、後退又は前進するとともに、冷却終了までに、前記クランクシャフトを加熱前の位置に押圧、固定するように構成される装置である。
【0018】
本発明のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法は、以上のように構成されているので、クランクシャフトのピン部の焼入後、該ピン部の歪みを少なくして、該クランクシャフトの曲がり量を少なく、かつそのバラツキを少なくする。このため、該クランクシャフトは、その曲がりが少なく安定することで、後工程における研磨加工において、研磨残りがなくなり、完成寸法の安定した製品に形成することができる。同時に、該クランクシャフトの高周波焼入の品質の向上を図ることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。図1は、本発明のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法とその装置の一実施の形態を示す、高周波低歪み焼入装置の構成外観図、図2は、前記クランクシャフトのピン部及ぴジャーナル部の円柱部をフィレットR焼入れするために使用されるフィレットR焼入用半開放殼形高周波誘導加熱コイル(以下、単に高周波加熱コイルという)の構成図、図3は、図1の押さえローラ機構を示す右側面図であり、図4及び図5に記載された構成要素と同一要素には、同一符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態に示す高周波低歪み焼入装置1により、4気筒エンジンのクランクシャフト(被加工物としてのワーク)100の全ピン部及びジャーナル部の高周波低歪み焼入処理を行う。
【0020】
図1において、前記高周波低歪み焼入装置1は、被加工物である、材質が鋼材または炭素鋼材からなる前記ワーク100を、高周波誘導加熱、冷却の工程の内で、該ワーク100の曲がりを矯正しながら、焼入処理を行う装置である。
該高周波低歪み焼入装置1は、該ワーク100の全ピン部及びジャーナル部のそれぞれを高周波焼入する、図1には省略の、図2に示す高周波加熱コイル2と、図1に示す該ワーク100を搬入し、所定位置に配置するとともに、焼入後、外部に搬出する搬送装置21と、該ワーク100を支持するチャック機構26と、前記チャック機構26のチャック26a,26bを保持するとともに、該ワーク100の中心軸を中心にある一定回転で回転駆動させる回転駆動装置31と、加熱された前記ワーク100を冷却焼入中、該ワーク100の曲がりを矯正する押さえローラ機構41と、前記チャック機構26を介して、前記ワーク100の長手方向の一端を押圧する往復動機構51とから構成される。
【0021】
前記高周波加熱コイル2は、図2に示すように、前記ワーク100のピン部1P,2P,3P,4Pとジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jのそれぞれの円柱部121,‥‥‥,181;111,131,‥‥‥,191をフィレットR焼入れするために、複数個(本実施の形態では、9個)、使用される。
【0022】
それぞれの該高周波加熱コイル2は、黄銅製の一対の側板(コイル保持板)3a,3bと、この側板3a,3b間に取付けられた半開放殼形の高周波加熱コイル頭部4,4と、該高周波加熱コイル頭部4,4に給電線5,5を介して、1kHz〜30kHzの高周波電力を供給する高周波電源6と、前記側板3a,3bの下端に取付られて前記高周波加熱コイル頭部4,4の下方位置に配置された焼入冷却用の一対の冷却液噴射環7,7と、前記高周波電源6と前記給電線5とを接続するための一対の接続端子8,8と、接続端子8,8および給電線5,5を保持するために前記側板3a,3bの上端側に取付けられた絶縁性材料からなるブロック9と、前記ワーク100の誘導加熱される円柱部(例えば、前記ジャーナル部5J(190))と前記高周波加熱コイル頭部4,4との間を、僅かな隙間で保つための複数箇所(本実施の形態では、3箇所で、前記高周波加熱コイル頭部4,4のほぼ真上の中央部分と、それらの両端部分)に添うように装着される、セラミック製又は超硬製の接触部10,10とをそれぞれ具備している。
【0023】
ここで、前記高周波加熱コイル2は、前記それぞれの上方で、図示しない支持機構によって直下状態で保持されている。そして、前記ワーク100の中心軸Xを中心に回転されるのに伴い、図示しないワーク追従機構により、前記高周波加熱コイル頭部4,4が、前記誘導加熱される円柱部、例えば、ジャーナル部5J(190)の円柱部191上に載置された状態のまま、前記高周波加熱コイル2が該円柱部191に追従して移動し得るように構成されている。(以下、代表的に、前記ジャーナル部5Jについて説明する)
【0024】
なお、前記誘導加熱される前記ジャーナル部5Jの円柱部191の外周面には、前記3箇所に前記接触子10,10が当接され、これにより高周波加熱コイル頭部4,4の半円状部と、前記円柱部191の外周面とが、僅かな所定間隔を隔てられており、この状態で、該円柱部191が前記高周波誘導加熱コイル頭部4,4により高周波誘導加熱されるようになっている。
【0025】
また、前記一対の冷却液噴射環7,7には、冷却液供給用バイブ20がそれぞれ接続されており、図示しない冷却供給源から、これらの前記パイプ20を通してそれぞれの冷却液噴射環7,7に供給されるので、前記円柱部191を誘導加熱後、前記冷却液噴射環7,7から所定のタイミングで冷却液が、加熱された前記ジャーナル部5Jに向けて噴射され、これを冷却するように構成されている。
【0026】
図1において、前記チャック機構26は、チャック26a,26bからなり、前記ワーク100は、その長手方向の両端を、前記チャック26a,26bにより、固定、支持される。そして、前記一方のチャック26aは、回転駆動装置31のヘッドセンタユニット32に、前記他方のチャック26bは、前記回転駆動装置31のテールセンタユニット33にそれぞれ回転自在に保持される。なお、前記回転駆動装置31のヘッドセンタユニット32とテールセンタユニット33は、前記ワーク100の長手方向に、往復動機構51のそれぞれの流体圧シリンダ装置(流体圧によりピストンを駆動させる)52,53により駆動可能になっている。高周波焼入中は、前記流体圧シリンダ装置52は、固定位置に静止状態にある。
【0027】
特に、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53は、前記ワーク100の高周波加熱及び冷却による伸び、縮みに追従できるように、該シャフト100の長手方向に、前記回転駆動装置31のテールセンタユニット33を駆動する。
つまり、前記流体圧シリンダ装置53により、該ワーク100のピン部が加熱中は、その伸びにより、テールセンタユニツト33が摺動しながら後退し、該ピン部が前記高周波加熱コイル2の冷却液噴射環7,7による冷却中は、その縮みにより、該テールセンタユニツト33が摺動しながら前進させる。さらに、冷却を開始して、ある一定時間経過後、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53は、前記テールセンタユニット33を押圧するように、前進させて、前記ワーク100を、加熱前の位置に移動し、固定するように構成されている。
このような構成により、冷却後の該シャフト100伸び量のバラツキが低減されている。
【0028】
図3に示す前記押さえローラ機構41は、冷却焼入中の前記ワーク100の径方向の曲がりを矯正する機構で、該ワーク100の長手方向のほぼ中央位置にあるジャーナル部3Jの径方向を、2個のローラ42a,42bで押圧するため、該ローラ42a,42bが回転自在に配設される押圧軸43と、前記押圧軸43を垂直方向に駆動するため、本装置1の下面に装着される流体圧シリンダ装置44とからなる。前記押さえローラ機構41は、該ワーク100の長手方向の中央に位置するジャーナル部3Jの下部に配置され、図3に示すように、駆動時、上昇する前記押圧軸43により、前記ローラ42a,42bの当接点が、焼入前の状態で、僅かな隙間をもって設置されている。
【0029】
前記高周波加熱コイル2による加熱及び冷却、前記回転駆動装置の駆動及び停止、前記押さえローラ機構41の流体圧シリンダ装置44の駆動及び停止、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53の駆動及び停止などについては、全て、図示しない制御装置61により制御されている。
【0030】
従来は、図6に示すように、該ワーク100のピン部2P,3Pを同時加熱するときには、該ワーク100の長手中央に位置するジャーナル部3Jが、該ワーク100の軸心からかなり変化、移動することから、加熱時に従来の押さえローラ機構を使用して該シャフトを矯正した場合、該ワーク100に変形応力を及ぼす可能性があった。
このため、本実施の形態では、高周波加熱コイル2内において、加熱後、焼入するための冷却液を噴射し、ある一定時間経過後、前記押さえローラ機構41を前記装置1の下部より上昇させ、該ワーク100の径方向を押圧して矯正している。
【0031】
前記ワーク100の長手方向の両端を、前記チャック機構26により固定して、該ワーク100の長手方向の一端を、前記チャック26bを介して、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53により押圧するとともに、その径方向に前記押さえローラ機構41により、該ワーク100を冷却しながら矯正することで、焼入後に該前記ワーク100に発生する曲がりのバラツキを少なくし、かつ、曲がり量をも少なくしている。
【0032】
次いで、前記高周波低歪み焼入装置1により、前記ワーク100の全ピン部及びジャーナル部の高周波誘導加熱と焼入処理を行う際の操作手順について説明する。
(1)まず、前記ワーク100を、その軸方向を水平にして、図示しないガイドビームに載置する。
(2)次に、搬送装置31により前記ワーク100を上昇させ、前記高周波低歪み焼入装置1の前記高周波加熱コイル2の位置まで前進させ、該ワーク100の両端を前記チャック機構26のチャック26a,26bに支持させ、前記回転駆動装置31のヘッドセンタユニット32とテールセンタユニット33を介して、該装置1に水平に配置する。
【0033】
(3)前記ワーク100を保持した状態で、そのピン部2P,3Pのそれぞれに対応する、前記高周波加熱コイル2のユニットを下降し、該高周波加熱コイル2内に前記ワーク100を挿入、配置させる。
(4)〜(9)までの一連の制御は、前記制御装置61により行われる。
(4)前記ワーク100を搬入、配置後、前記回転駆動装置31により、該ワーク100を、その中心軸を中心にある一定回転で回転駆動させる。
【0034】
(5)前記ピン部2P,3Pを、前記高周波加熱コイル2,2により、ある一定時間、同時に誘導加熱する。すなわち、所定周波数の高周波電流により同時に誘導加熱し、その表面が所定の焼入温度まで加熱される。このとき、加熱された前記ワーク100の長手方向の伸びに応じて、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53を駆動しながら、前記テールセンタユニット33を前記チャック26bとともに、後退させる。
(6)所要時間回転、加熱後、該ワーク100を回転したまま、前記高周波加熱コイル2,2ヘの通電を遮断し、高周波誘導加熱を停止する。
【0035】
(7)前記加熱工程終了後、加熱された前記ワーク100を保持した状態で、該高周波加熱コイル2,2の冷却液噴射環7,7から冷却液を、前記ピン部2P,3Pに向けて噴射し、冷却焼入を開始する。ある一定時間経過後、前記押さえローラ機構41の流体圧シリンダ装置44を駆動させて、前記押圧軸43を介して前記ローラ42a,42bを、該ワークl00の長手方向のほぼ中央位置にあるジャーナル部3Jに当接させ、該ワーク100の長手方向の曲がりの矯正を開始する。
(8)前記冷却の開始から、前記一定時間と同じか、又は異なる他の一定時間経過後、前記往復動機構51の流体圧シリンダ装置53を駆動して、前記ワーク100の冷却による縮みに追従するように、前記回転駆動機構31のテールセンタユニット33を前進させるとともに、チャック機構26を介して、ワーク(クランクシャフト)100の長手方向の一端を、往復動機構51の流体圧シリンダ装置53により該ワーク100の長手方向に押圧する。そして、前記冷却焼入処理の終了までに、該ワーク100を、加熱前の位置に移動させ、固定する。前記押さえローラ機構41の流体圧シリンダ装置44を、前記冷却焼入処理の終了までに後退させる。
(ここで、前記ある一定時間とは、前記ワーク100の種類又はロットにおいて、それぞれ任意に時間に設定することができる。)
【0036】
(9)次いで、所定の冷却時間後、冷却液の噴射を停止するとともに、該ワーク100の回転を停止する。
(10)前記ピン部1P,4Pは、前記ピン部2P,3Pと同様に焼入れされる。この工程の終了で、該ワーク100の前記全ピン部1P,2P,3P,4Pの焼入れが完了する。
(11)前記チャック機構26のチャック26a,26bにより、該ワーク100の支持を解除し、該搬送装置31により該ワーク100を下降させ、次の所定位置に搬出する。
(12)前記全ピン部1P,2P,3P,4Pの焼入後のワーク100を、本装置1又は他の高周波焼入装置にて、前記ジャーナル部1J,2J,3J,4J,5Jの焼入れ行う。(この場合の焼入順序としては、ジャーナル部2Jの後,4Jを焼入れし、次いで、1J,3J,5Jを同時に焼入をする。)
焼入完了後、外部の所定位置に搬出する。
【0037】
[実施例] 本実施の形態における具体的な実施例を、以下に示す。
(1)ワーク(被加工物):4気筒クランクシャフト
(a)材質:S37C
(b)ピン部寸法:ピン径φ45mm、ピン幅20mm
(2)高周波誘導加熱条件(ピン部2P,3Pの同時焼入れ)
(a)周波数:20kHz
(b)出力:111kW
(c)加熱時間:12sec
(d)回転数:30rpm
(3)冷却条件
(a)冷却液:ユーコンクェンチャントA(7%)
(b)液温:30℃
(c)流量:12L/min
(d)冷却時間:20sec
【0038】
前記加工条件によりビン部を全てフィレットR焼入れを施したときの、前記クランクシャフト100の試料数N=10本での曲が量とその方向を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1によれば、曲がり量の測定は、検心台を使用し、該クランクシャフト100を両センタで受け、該ワーク100を回転させ、ジャーナル部3Jの外径部にダイヤルゲージを当て、そのダイヤルゲージの目盛の最大値(MAX)と最小値(MIN)の差より求めた。その曲がりの方向は、ピン部1Pを時計文字盤の12時として、ダイヤルゲージでの値が最大値(MAX)を示す部位を、ジャーナル部1J側から見た時の方向であり、1時単位で測定した。曲がり値は、焼入前でTIRが0.05mmから0.11mmであり、全ピン部の焼入後は、TIRが0.16mmから0.20mmになった。前記試料数の中の曲がり量の幅(最大値−最小値)は、焼入前で、0.09mmに対して、全ピン部の焼入後で、0.04mmと少なくなった。
【0041】
さらに、従来の方法と比較すると、曲がり量及ぴその幅において、本発明の方法の方が少なくなっている。ピン部での曲がり量が安定することで、次ぎに加工されるジャーナル部の焼入れにおいても、曲がりのバラツキが少なくなり、後工程における研磨加工に問題を生じるレベルではなくなった。
【0042】
以上、本発明の技術は、前記実施の形態における技術に限定されるものではなく、同様な機能を果たす他の態様の手段によってもよく、また、本発明の技術は、前記構成の範囲内において、押さえローラ機構の上昇とチャック機構の押圧するタイミングを、それぞれ前記ワークの種類又はロットに対応して、任意の時間に設定することが可能である。また、前記押さえローラ機構の下降とチャック機構の押圧を解除するタイミングもまた、それぞれに応じて、任意の時間に設定することが可能である。その他、前記構成の範囲内において、種々の変更、付加が可能である。
【0043】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法によれば、クランクシャフトの長手方向の両端をチャック機構に取り付けてクランクシャフトのピン部を高周波誘導加熱するときにはクランクシャフトの曲がりの矯正を行うことなく、高周波誘導加熱する期間の経過後の冷却焼入中にのみ、押さえローラ機構により、クランクシャフトのほぼ中央立置にあるジャーナル部を径方向に押圧してクランクシャフトの曲がりを矯正する(すなわち、ピン部を高周波誘導加熱するときはクランクシャフトの曲がりの矯正を行うことなく、高周波誘導加熱後における冷却焼入中にのみ、クランクシャフトを冷却しながら曲がりの矯正を行う)とともに、チャック機構を介して、クランクシャフトの長手方向の一端を、往復動機構によりクランクシャフトの長手方向に押圧しながら、ピン部の歪みを少なくするようにしているので、高周波誘導加熱時にクランクシャフトに変形応力(矯正に伴って発生する残留応力)が生じるのを回避することができることとなり、クランクシャフトの焼入後のピン部に歪みを少なくし得て、該クランクシャフトの曲がり量を少なく、かつそのバラツキを少なくすることができる。
【0045】
そして、前記クランクシャフトの曲がり量を安定させて、次工程である研磨加工に支障が生じなく、安定した精度により該クランクシャフトを加工することができ、全体の作業性を向上させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法とその装置の一実施の形態を示す、高周波低歪み焼入装置の構成外観図である。
【図2】前記クランクシャフトのピン部及ぴジャーナル部の円柱部をフィレットR焼入れするために使用されるフィレットR焼入用の半開放殼形高周波誘導加熱コイル(高周波加熱コイル)の構成図である。
【図3】図1の押さえローラ機構を示す右側面図である。
【図4】4気筒エンジン用のクランクシャフトの正面図である。
【図5】図4のクランクシャフトの従来の焼入部の形状とフィレットR焼入れの硬化層パターンを示す部分断面図である。
【図6】図4のクランクシャフトの従来のピン部の焼入後の曲がりへの影響を示す断面図で、図6(a)は、ピン部1P,4Pを同時に焼入れしたときの偏心量H1を示し、図6(b)は、ピン部2P,3Pを同時に焼入れしたときの偏心量H2を示す。
【図7】図4のクランクシャフトを従来のチャック機構に取り付け、ピン部2P,3Pを同時に、加熱、冷却したときの該クランクシャフト(ワーク)の伸び、縮みを示す図で、図7(a)は加熱前、図6(b)は加熱直後、図6(c)は冷却後の状態を示す図である。
【図8】図7のピン部2Pの硬化層パターンと歪みの関係及び曲がりを示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 高周波低歪み焼入装置
2 高周波加熱コイル
4 高周波加熱コイル頭部
6 高周波電源
7 冷却液噴射環
10 接触部
21 搬送装置
26 チャック機構
26a,26b チャック
31 回転駆動機構
32 ヘッドセンタユニット
33 テールセンタユニット
41 押さえローラ機構
42a,42b ローラ
43 駆動軸
44,52,53 流体圧シリンダ装置
51 往復動機構
61 制御装置
Claims (3)
- クランクシャフトのピン部の円柱部の外周上に高周波誘導加熱コイルを載置し、前記クランクシャフトをその中心軸を中心に回転せしめて前記高周波誘導加熱コイルを前記円柱部外周に追従させつつ、前記円柱部、フィレットR部及びフィレット部を高周波誘導加熱し、しかる後に前記ピン部を冷却して、前記ピン部の表面を焼入するに際し、
前記クランクシャフトの長手方向の両端をチャック機構に取り付けて前記クランクシャフトのピン部を高周波誘導加熱するときには前記クランクシャフトの曲がりの矯正を行うことなく、前記高周波誘導加熱する期間の経過後の冷却焼入中にのみ、押さえローラ機構により、前記クランクシャフトのほぼ中央立置にあるジャーナル部を径方向に押圧して前記クランクシャフトの曲がりを矯正するとともに、
前記チャック機構を介して、前記クランクシャフトの長手方向の一端を、往復動機構により前記クランクシャフトの長手方向に押圧しながら、前記ピン部の歪みを少なくすること、
を特徴とするクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法。 - 前記往復動機構は、前記チャック機構に取り付けられた前記クランクシャフトの加熱時又は冷却時における、長手方向の伸び、縮みに追従して、後退、前進するとともに、冷却終了までに、前記クランクシャフトを加熱前の位置に押圧、固定することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法。
- 前記押さえローラ機構は、前記ピン部を高周波誘導加熱後、冷却焼入時のみ、前記クランクシャフトの押圧を開始し、ある一定時間経過後、前記押圧を停止することを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波低歪み焼入方法。
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