JP3585663B2 - 生分解性モノフィラメントの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度、高弾性率に優れた微生物分解性(以後、生分解性と記す)ポリ乳酸のモノフィラメントの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、繊維や成形品の材料としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等が用いられており、消費量が年々増加している。それに伴い、使用後の廃棄物の量も増加している。これら廃棄物は現在焼却あるいは土中埋設により処理されている。しかし、これらは生分解性がなく、放置された状態では永く残存する。今後の消費量から考慮すると、現在の処理方法では限界があり、新しい処理方法の開発が急務である。
【0003】
新しい処理方法の1つとして、リサイクル可能な樹脂を回収し、分別後再利用する方法がある。しかし、現実的には回収が困難な上、樹脂を分離するには高度な技術と高価な設備を必要とする。そして、それらを再利用するためには、用途が限定されるという欠点を持っている。そこで最近では地球環境保護の見地から、土中、水中に存在する微生物の作用により自然環境下で樹脂を分解させる種々の生分解性ポリマーが開発されている。これらのうち溶融成形が可能な生分解性ポリマーとして、たとえばポリヒドロキシブチレートやポリカプロラクトン、コハク酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分とエチレングリコールやブタンジオールなどのグリコール成分とからなる脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸等が知られている。その中でもポリ乳酸系生分解性ポリマーは、他の生分解性ポリマーに比べ、耐熱性および結晶性が高く、強度が高い等の優れた特徴を持っている。
【0004】
ポリ乳酸系生分解性樹脂を使用したモノフィラメントは、植生ネット、漁網、ロープをはじめ、さまざまな用途への展開が可能である。しかしこのようなモノフィラメントを好適に製造することは困難である。従来公知であるナイロンやポリエステルのモノフィラメント製造方法においては、一般的に1段目の延伸工程では熱水延伸で、2段目の延伸工程以降は熱風による乾熱延伸によって実施されている。しかしこの方法をポリ乳酸系生分解性樹脂に応用すると、延伸倍率7倍以上では繊維が白化し、物性が急激に低下するという欠点がある。また、特開平3−183478号公報には、ポリ乳酸からなるモノフィラメントを用いた釣り糸の製造法が記載されているものの、モノフィラメントの延伸方法の具体的な手法は述べられておらず、上記問題の改善された高強度のモノフィラメントを製造する方法に関する示唆は全くない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、高強度、高弾性率に優れたポリ乳酸系生分解性モノフィラメントの製造方法について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち上記課題は、融点140℃以上、かつ180℃以下の乳酸重合単位を主成分とする樹脂または樹脂組成物を用い、70〜100℃の熱水による延伸工程を2工程とし、延伸倍率は、一段目が5.5〜6.5倍、二段目が1.03〜3.0倍とすることを特徴とする生分解性モノフィラメントの製造方法によって解決される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のモノフィラメントの製造に使用される樹脂は乳酸重合単位を主成分としたポリ乳酸樹脂である。ポリ乳酸は、乳酸を直接脱水重縮合する方法、あるいはラクチドを開環重合する方法等公知の手段で得ることができる。ポリ乳酸にはL体、D体、DL(ラセミ)体の3種の光学異性体が存在するが、それらのいずれでも良く、またそれら光学異性体の共重合体も本発明共重合物の成分として用いられる。光学純度が低い場合にはポリマーの結晶性は低くなりポリマーの耐熱性、力学的特性が低下するため好ましくない。また原料の乳酸を発酵法で製造する場合はL−乳酸を製造する方が能率的、低コストであり、従ってPLLAまたはそれを主成分とする共重合体が好ましい。従って上述の面から考慮するとL体の含有率は95%以上であるものが好ましい。
【0008】
また、乳酸重合単位とそれ以外の生分解性あるいは非生分解性重合単位とのランダムあるいはブロックした共重合物またはポリ乳酸樹脂と他の樹脂とブレンドした樹脂組成物に対してもこの製造方法を適用することが可能である。このような共重合物やブレンド物は、融点が140℃以上かつ180℃以下であって、乳酸重合単位を50重量%以上含有することが好ましい。これ以下であると、むしろポリ乳酸の延伸特性が低くなるため、本発明の製造方法を使用しても十分な効果が得られないことがある。またポリ乳酸樹脂およびそれ以外の樹脂からなる樹脂組成物が2個の融点を有する場合、ポリ乳酸樹脂由来の融点が140℃以上170℃以下であることを意味する。なお、融点とは示差熱分析にて10℃/分の昇温速度で測定し、融点ピークの極値の温度を指す。
【0009】
ポリ乳酸は単独の重合体でも使用できるが、単独では粘度が高く、かつ粘度の制御が困難であるため成形が難しい場合がある。その対策として、例えばポリオール、グリコール、酸の添加でポリ乳酸の末端を封鎖し、分子量を調整することが可能である。一例を示すと、ポリエチレングリコールをポリ乳酸に0.5〜10重量%共重合することにより得られた樹脂を用いて、本発明のモノフィラメントの製造方法を適用することによって、高強度のモノフィラメントを安定して得ることができる。
【0010】
またポリ乳酸樹脂に他の樹脂を混合した樹脂組成物に対しても本発明の方法は好適に用いることができる。この場合、混合する樹脂は特に限定されるものではなく、各種樹脂を使用することが可能であるが、ポリ乳酸重合単位を50重量%含有することが好ましい。
【0011】
さらに、これらの組成物に対し機能を付与するために顔料、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、艶消剤、劣化防止剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、滑り剤、結晶核剤、金属粉、無機フィラー、カーボンブラック、増粘剤、粘度安定剤等を任意の割合で添加することができる。
【0012】
本発明のモノフィラメント製造方法の特徴は、熱水による延伸工程が少なくとも2段以上から構成される点にある。ポリ乳酸系樹脂を延伸する際、熱水による延伸工程を1段のみとした場合、延伸倍率が7倍を越えると繊維が白化し物性が急低下し、延伸倍率が7倍以下の時は延伸配向が不十分で好適な強度が得られないため好ましくない。さらに、ナイロンやポリエステルのモノフィラメントの製造方法で使用されるように2段目以降を熱風による乾熱延伸にすると、ほとんど延伸できない上、繊維が容易に切れてしまい、高強度・高弾性率のモノフィラメントを得ることができない。従って、本発明におけるように1段目で白化する直前まで延伸し、次いで2段目以降も熱風ではなく熱水により延伸する方法を用いることにより、延伸倍率を大幅に上げることができ、高強度かつ高弾性率のモノフィラメントを得ることができる。即ち本発明の製造方法を用いることによってはじめて引張強度4.5g/d以上の高強度モノフィラメントを得ることができる。
【0013】
上記製造方法において、延伸倍率は一段目が5.5〜6.5倍、二段目が1.03〜3.0倍であることが必要である。またここで熱水とは水温70℃以上の水を言い、水温は70℃〜100℃が必要である。熱水温度はポリ乳酸の組成(共重合比率)によっても異なるが、温度が低すぎると低倍率でフィラメントが白化しやすくなり、物性が向上しない
。
【0014】
この方法を用いることによって可能なモノフィラメントの太さは、断面の直径で0.100mm(90d)〜0.400mm(1440d)であり、0.100mm以下であるとこの方法による製造は困難で、0.400mm以上であるとフィラメントが太いため、延伸することができず、この方法によって引張強度4.5g/d以上のものを得ることは困難である。
【0015】
延伸方法については、1ラインで熱水による延伸工程を2工程以上含めて(インライン法で)実施しても良いし、熱水で1段延伸したものを一度巻き取っておき、さらにその巻き取ったフィラメントに対し、同様の熱水延伸工程をさらに1段以上すなわち合計2段以上の熱水延伸工程を経る方法(オフライン法)でも良い。いずれの場合でもモノフィラメントを延伸する際に熱水による延伸工程が全部で2段以上含むことが肝要である。
【0016】
このようなモノフィラメントの製造方法の一例を具体的に示す。まず、ポリエチレングリコールを4%共重合したポリ乳酸系樹脂を単軸の押出機を使用し、220℃で溶融させ、口金ノズル径1.2mm×18本から吐出させ、冷却バスを通過した後に熱水98℃で6.5 倍に一段延伸、さらに熱水98℃で2.0倍に二段延伸して120℃熱風でヒートセットして断面直径0.210mm(400d)のモノフィラメントを得る方法が挙げられる。
【0017】
【発明の効果】
本発明の生分解性モノフィラメントの製造方法を用いればポリ乳酸系の生分解性モノフィラメントを製造する際に、高い倍率で延伸することができるので、高強度かつ高弾性率のフィラメントを得ることができる。
【0018】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明する。
〔モノフィラメントの評価方法〕
(1) 物性評価
引張強度と引張伸度等の各種機械物性は、JIS法(L1013)に準じた方法で物性を測定した。
(2) 生分解性評価
活性汚泥中に埋設し、埋設前と3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月埋設後の強度保持率を測定した。
(3) 融点
Perkin Elmer 社製DSC7を用い、10℃/分の昇温速度で測定した時の融点ピークの極値である。
【0019】
実施例1、2、4、5、6、参考例
表1に示す樹脂組成と条件で2段以上の熱水による延伸工程を実施した。結果は、いずれにおいても糸が白化する現象はなく、透明なモノフィラメントを得た。モノフィラメントの繊度は、いずれの場合においても断面直径0.210mm(400d)になるようにした。そして、得られたモノフィラメントの物性を測定した。
【0020】
実施例7、8
実施例7ではフィラメントの断面直径0.100mm(90d)、実施例8では断面直径0.400mm(1440d)のものを同条件で製造し、物性を測定した。
【0021】
比較例1〜8
表1に示す樹脂組成で延伸工程を実施した。得られたモノフィラメントの繊度は、いずれの場合においても断面直径0.210mm(400d)になるようにして、この物性を測定した。比較例1、2、5は白化直前の1段延伸倍率のみによって得られたモノフィラメントであるが、強度は実施例よりも低い。比較例3は、ナイロンやポリエステルに使用されている一段目熱水で、二段目を熱風で延伸した。これ以上の延伸倍率は困難で、しかも物性は低かった。比較例4は熱水1段延伸のみで、延伸倍率を上げたが、フィラメントが白化したため、物性は低下した。比較例7および8は熱風延伸のみにて実施した。延伸倍率4.5倍では、糸切れはないが、強度・弾性率ともに低くなった。また延伸倍率5倍以上では、糸切れが発生し採取できなかった。
【0022】
比較例9,10
比較例9では、本発明請求範囲外であるフィラメントの断面直径0.090mm(73d)、比較例10では断面直径0.450mm(1820d)のものを製造した。比較例9ではすぐにフィラメントが糸切れしたため、製造が困難であった。比較例10では十分に延伸することができず、物性は低くなった。
【0023】
得られたモノフィラメントの物性および生分解性を表1にあわせて表記した。
【0024】
【表1】
Claims (2)
- 乳酸重合単位を主成分とする融点が140℃以上180℃以下の樹脂または樹脂組成物からなるモノフィラメントを製造するに際し、70〜100℃の熱水による延伸工程を2工程とし、延伸倍率は、一段目が5.5〜6.5倍、二段目が1.03〜3.0倍とすることを特徴とする生分解性モノフィラメントの製造方法。
- ポリ乳酸重合単位を50重量%以上含有する共重合樹脂または樹脂組成物を使用することを特徴とする請求項1記載の生分解性モノフィラメントの製造方法。
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