JP3570278B2 - 流体封入式防振装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、内部に封入された流体の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に複数のオリフィス通路を選択的に機能せしめることにより、複数の異なる振動に対して有効な防振効果を発揮し得る流体封入式防振装置に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体の一種として、特開平8−21480号公報等に記載されているように、入力振動によって弾性変形せしめられる本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室と、変形容易な可撓性膜で壁部の一部が構成されて容積変化が許容される平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら受圧室と平衡室をそれぞれ相互に連通する第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を設けて、第一のオリフィス通路を第二のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングすると共に、第一のオリフィス通路を連通状態と遮断状態に切り換えるバルブ手段を設けた流体封入式防振装置が、知られている。このような防振装置では、第一のオリフィス通路を遮断せしめた状態下では、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されると共に、第一のオリフィス通路を連通せしめた状態下では、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されることから、第一及び第二のオリフィス通路がそれぞれチューニングされた複数の異なる振動に対して、何れも有効な防振効果を得ることが出来るのであり、それ故、例えば、自動車用エンジンマウント等に適用し、第一のオリフィス通路を走行こもり音等の高周波振動にチューニングすると共に、第二のオリフィス通路をアイドリング振動等の中周波数振動にチューニングすることによって、車両の走行時と停車時に入力される異なる振動に対して、何れも有効な防振効果を得ることが可能となるのである。
【0003】
ところで、自動車の特性や指向性等によっては、エンジンマウント等に対してより高度な防振性能が要求される場合があり、例えば、第一のオリフィス通路による車両走行時のこもり音に対する防振効果を維持しつつ、第一のオリフィス通路が遮断される車両停車時において、アイドリング低次振動に対する防振効果と、アイドリング高次振動に対する防振効果が、同時に要求される場合がある。
【0004】
ところが、上述の如き従来構造の防振装置では、第二のオリフィス通路における流通抵抗が、チューニング周波数よりも高周波数域の振動入力時に著しく大きくなるために、例えば、該第二のオリフィス通路をアイドリング低次振動にチューニングすると、それよりも高周波数域となるアイドリング高次振動に対しては、有効な防振効果を得ることが極めて難しいという問題があった。
【0005】
なお、かかる問題に対処するために、例えば、第一及び第二のオリフィス通路に加えて、防振効果が要求される更に別の周波数域にチューニングされたオリフィス通路を、追加して形成することも考えられるが、新たなオリフィス通路を追加しようとすると、オリフィス通路の形成スペースの確保が難しく、また、互いに異なるチューニングが施されて同時に開口せしめられた複数のオリフィス通路における流体流量を十分に確保することが難しいという問題があり、必ずしも有効な方策ではなかったのである。
【0006】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、互いに異なる周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路をバルブ手段で切り換えて、第一のオリフィス通路による防振効果と第二のオリフィス通路による防振効果を選択的に発揮せしめるようにした流体封入式防振装置において、高周波側にチューニングされた第一のオリフィス通路による防振効果を維持しつつ、該第一のオリフィス通路の遮断状態下において、第二のオリフィス通路のチューニング周波数域の入力振動だけでなく、それとは別の又は広い周波数域の入力振動に対しても、有効な防振効果が、簡単で且つコンパクトな構造をもって発揮され得るようにすることにある。
【0007】
【解決手段】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下の記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載の発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0008】
本発明の第一の態様は、入力振動によって弾性変形せしめられる本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室と、変形容易な可撓性膜で壁部の一部が構成されて容積変化が許容される平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら受圧室と平衡室をそれぞれ相互に連通する第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を設けて、該第一のオリフィス通路を該第二のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングすると共に、該第一のオリフィス通路を連通状態と遮断状態に切り換えるバルブ手段を設けた流体封入式防振装置において、前記第一のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する第一の流量制限手段を、前記バルブ手段よりも前記受圧室側に位置して設けると共に、該バルブ手段による該第一のオリフィス通路の遮断状態下で、該第一のオリフィス通路における該第一の流量制限手段と該バルブ手段の間の領域を前記平衡室側に連通せしめる連通小孔を形成し、該連通小孔を前記第一のオリフィス通路と前記第二のオリフィス通路の中間周波数域にチューニングしたことを、特徴とする。
【0009】
このような第一の態様に係る流体封入式防振装置においては、第一のオリフィス通路をバルブ手段で連通/遮断することにより、第一のオリフィス通路の連通状態下では、第二のオリフィス通路よりも流通抵抗が小さい第一のオリフィス通路を通じての流体流動が積極的に生ぜしめられて、第一のオリフィス通路のチューニング周波数域の振動に対して、該第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が有効に発揮される一方、第一のオリフィス通路の遮断状態下では、第二のオリフィス通路を通じての流体流動が積極的に生ぜしめられて、該第二のオリフィス通路のチューニング周波数域の振動に対して、該第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が有効に発揮される。加えて、第一のオリフィス通路をバルブ手段で遮断せしめた状態下では、第一のオリフィス通路における第一の流量制限手段とバルブ手段の間の領域が、連通小孔を通じて、平衡室に連通されることにより、この連通小孔を通じての流体流動が許容された状態となる。そして、この連通小孔を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、第二のオリフィス通路よりも高周波数域の振動に対して有効な防振効果が発揮されるのであり、その際、連通小孔を通じての流体流動量が第一の流量制限手段で制限されることによって、第二のオリフィス通路による防振効果も有効に維持され得る。
【0010】
従って、本態様に係る流体封入式防振装置においては、例えば、第一のオリフィス通路を走行こもり音等の高周波数域にチューニングすると共に、第二のオリフィス通路をアイドリング低次の中周波数域にチューニングし、更に連通小孔をアイドリング高次の中〜高周波数域にチューニングすることによって、車両走行時には、第一のオリフィス通路を連通状態とし、該第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて走行こもり音に対する有効な防振効果を得ることが出来ると共に、車両停止時には、第一のオリフィス通路を遮断状態とし、第二のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいてアイドリング低次振動に対する有効な防振効果を得ると共に、連通小孔を流動せしめられる流体の共振作用に基づいてアイドリング高次振動に対する有効な防振効果を得ることが出来るのである。
【0011】
特に、本態様では、第二のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数域における防振効果を得るための流体流路としての連通小孔が、第一のオリフィス通路やバルブ手段,第一の流量制限手段等を有効利用して形成されることから、簡単で且つコンパクトな構造をもって、複数のまたは広い周波数域の振動に対して有効な防振効果を発揮し得る流体封入式防振装置が有利に実現され得るのである。
【0012】
なお、上述の如き第一の態様において、バルブ手段は、第一のオリフィス通路を連通/遮断し得るものであれば良く、例えば、仕切弁やバタフライ弁,回転弁の如き、各種構造の弁機構などが好適に採用され得る。また、第一の流量制限手段としては、例えば、第一のオリフィス通路の流体流動方向への小変位が許容された状態で配設されて、変位量の制限位置で該第一のオリフィス通路を閉塞する可動板体や、外周縁部を固定的に支持されて配設され、弾性変形によって第一のオリフィス通路を通じての流体流動を許容するゴム弾性板等が、好適に採用され得る。
【0013】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記バルブ手段により、前記第一のオリフィス通路と前記第二のオリフィス通路を択一的に連通せしめるようにしたことを、特徴とする。このような本態様においては、第一のオリフィス通路の連通状態下、第二のオリフィス通路が遮断されることにより、第二のオリフィス通路を常時連通させておく場合に比して、第一のオリフィス通路を通じての流体流動量が有利に確保され得て、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が一層有利に発揮され得る。
【0014】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記連通小孔を、前記バルブ手段による前記第一のオリフィス通路の連通/遮断状態にかかわらず、常時開口せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、連通小孔の開閉手段を設ける必要がなく、構造の更なる簡略化と作動の安定化が図られ得る。しかも、連通小孔が単純な貫通孔として形成され得ることから、連通小孔の形成が容易であると共に、連通小孔の形成に際して、位置や長さ,断面積等の設定自由度が大きく確保され得るといった利点もある。
【0015】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記連通小孔を、前記第一及び第二のオリフィス通路の流路断面積よりも小さな流路断面積と、それら第一及び第二のオリフィス通路の流路長さよりも小さな流路長さで形成したことを、特徴とする。このような本態様においては、第一及び第二のオリフィス通路の特性に対する悪影響を回避しつつ、連通小孔のチューニング周波数を、第一のオリフィス通路のチューニング周波数より低く、且つ第二のオリフィス通路のチューニング周波数よりも高く、設定することが容易となる。
【0016】
また、本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記連通小孔を、前記第二のオリフィス通路上に開口せしめて、前記第一のオリフィス通路における前記第一の流量制限手段と前記バルブ手段の間の領域を、該第二のオリフィス通路を通じて、前記平衡室に連通せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、第一及び第二のオリフィス通路や連通小孔の流路長さや断面積等の設計自由度が有利に確保されるのであり、特に、第一及び第二のオリフィス通路の流路長さや断面積を大きく設定しつつ、流路長さや断面積の小さな連通小孔を、簡単で且つコンパクトな構造で形成することが可能となる。
【0017】
また、本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記第二のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する第二の流量制限手段を設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、第一のオリフィス通路の連通状態下、第二のオリフィス通路を通じての流体流動量が、単に流体流動抵抗だけでなく、第二の流量制限手段でも制限されることから、第一のオリフィス通路を通じての流体流動量が一層有利に確保され得て、第一のオリフィス通路による防振効果の向上が図られ得る。また、第一のオリフィス通路の遮断状態下では、第二のオリフィス通路を通じての流体流動量が第二の流量制限手段で制限されることにより、第一のオリフィス通路を利用して形成された連通小孔を通じての流体流動量も確保され易くなり、連通小孔による防振効果の向上も図られ得るのである。なお、第二の流量制限手段としては、第一の流量制限手段と同様、例えば、第二のオリフィス通路の流体流動方向への小変位が許容された状態で配設されて、変位量の制限位置で該第二のオリフィス通路を閉塞する可動板体や、外周縁部を固定的に支持されて配設され、弾性変形によって第二のオリフィス通路を通じての流体流動を許容するゴム弾性板等が、好適に採用され得る。
【0018】
また、本発明の第七の態様は、前記第六の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記第二の流量制限手段を、前記第二のオリフィス通路上で、前記バルブ手段よりも前記平衡室側に位置せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、バルブ手段に対して、第二の流量制限手段が、第一のオリフィス通路上に配された第一の流量制限手段とは反対側に位置して配されることから、第一の流量制限手段および第二の流量制限手段の配設スペースを有利に且つ効率的に確保することが可能となる。
【0019】
また、本発明の第八の態様は、前記第七の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記第二の流量制限手段を、前記第二のオリフィス通路上における前記平衡室側への開口部に変位可能に配設されて、変位量が制限されることにより、該第二のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する可動部材で構成すると共に、該可動部材を、前記第一のオリフィス通路における前記平衡室側への開口部にまで広がって、該第一のオリフィス通路および該第二のオリフィス通路の両開口部を一体的に覆うように配設したことを、特徴とする。このような本態様においては、第一及び第二のオリフィス通路における平衡室側への各開口部の形成スペースと、第二の流量制限手段の配設スペースを、共に効率的に確保することが出来、全体として防振装置のコンパクト化が可能となる。
【0020】
また、本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式防振装置において、前記受圧室と前記平衡室を相互に連通する第三のオリフィス通路を、前記第一のオリフィス通路および前記第二のオリフィス通路から独立して形成し、該第三のオリフィス通路を該第二のオリフィス通路よりも低周波数域にチューニングしたことを、特徴とする。このような本態様においては、第三のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、第二のオリフィス通路による防振効果が発揮される周波数域よりも更に低周波数域において有効な防振効果を得ることが出来る。それ故、例えば、第一のオリフィス通路を走行こもり音等の高周波数域にチューニングすると共に、第二のオリフィス通路をアイドリング低次の中周波数域にチューニングし、更に連通小孔をアイドリング高次の中〜高周波数域にチューニングする一方、第三のオリフィス通路をシェイク等の低周波数域にチューニングすることによって、車両停止時(アイドリング状態)には、第二のオリフィス通路と連通小孔を流動せしめられる流体の共振作用に基づいてアイドリング低次と高次の振動に対する防振効果を得ることが出来ると共に、車両走行時には、第一のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく、走行こもり音等の高周波振動に対する防振効果と、第三のオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく、シェイク等の低周波振動に対する防振効果を、それぞれ有効に得ることが可能となるのである。
【0021】
なお、かかる第九の態様において、第三のオリフィス通路を連通/遮断するバルブ手段を設けても良いが、かかる第三のオリフィス通路は、第一のオリフィス通路や第二のオリフィス通路の連通/遮断状態にかかわらず、常時連通状態としても良く、その場合でも、各通路の流通抵抗の差等によって、第二及び第三のオリフィス通路や連通小孔における流体流量も有利に確保され得る。また、第一のオリフィス通路を通じての流体流動量は、第一の流量制限手段で制限されることから、第一のオリフィス通路と第三のオリフィス通路を同時に連通させても、第三のオリフィス通路を通じての流体流動量も十分に確保することが可能であり、第一のオリフィス通路の遮断状態下では、連通小孔と第三のオリフィス通路における流体流動量が共に有利に確保され得る。
【0022】
さらに、かかる第九の態様においては、前記第六の態様を組み合わせて採用し、第二のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する第二の流量制限手段を設けた構成が、好適に採用される。このような構成に従えば、第一のオリフィス通路を遮断して、第二及び第三のオリフィス通路を連通せしめた状態下、流通抵抗が小さい第二のオリフィス通路と連通小孔を通じての流体流動量が、第二の流量制限手段と第一の流量制限手段でそれぞれ制限されて、第三のオリフィス通路を通じての流体流動量が有利に確保される。その結果、それら第二のオリフィス通路と第三のオリフィス通路、更に連通小孔による防振効果が、互いに異なる周波数域の振動に対して有効に発揮され得るのである。具体的には、例えば、第三のオリフィス通路をアイドリング1次振動の周波数域にチューニングすると共に、第二のオリフィス通路をアイドリング3次振動の周波数域にチューニングし、更に連通小孔をアイドリング6次振動の周波数域にチューニングすることによって、車両停止時(アイドリング状態)には、第三のオリフィス通路と第二のオリフィス通路および連通小孔を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、アイドリング低次〜高次に亘る広い周波数域のアンドリング振動に対して、有効な防振効果を得ることが可能となるのである。
【0023】
また、本発明の第十の態様は、振動入力方向に離間して配された第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結し、該第二の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に前記受圧室を形成すると共に、他方の側に前記平衡室を形成する一方、該仕切部材において、前記第一のオリフィス通路を、前記受圧室と前記平衡室の対向方向に直線的に貫通して形成すると共に、前記第二のオリフィス通路を、該第一のオリフィス通路に直交して交差する方向に形成し、該第一のオリフィス通路と該第二のオリフィス通路の交差点に前記バルブ手段を配設して、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を該バルブ手段で択一的に連通せしめるようにする一方、前記第三のオリフィス通路を、該仕切部材の外周部分を周方向に延びるように形成したことを、特徴とする。
【0024】
このような本態様においては、高周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路とそれよりも低い周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路が、優れたスペース効率をもって形成され得ると共に、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を択一的に連通せしめるバルブ手段も、優れたスペース効率をもって組み付けることが出来る。特に、本態様においては、バルブ手段として、ロータリ弁等の回転バルブが好適に採用され、それによって、バルブ手段の配設スペースの更なる効率化が可能となる。また、本態様においては、連通小孔を、第一のオリフィス通路上でバルブ手段よりも受圧室側に位置する部分と、第二のオリフィス通路上でバルブ手段よりも平衡室側に位置する部分の間に跨がって形成した構成が好適に採用され、それによって、流体流路の全体をコンパクトに形成することが可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
先ず、図1〜4には、本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が、互いに離間して対向配置されていると共に、対向面間に介装された本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。そして、かかるエンジンマウント10は、第一の取付金具12と第二の取付金具14において、それらの一方がパワーユニット側に、他方がボデー側に、それぞれ固定的に取り付けられることによって、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、このエンジンマウント10には、第一の取付金具12と第二の取付金具14の略対向方向である図1中の略上下方向にパワーユニット重量が及ぼされて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が互いに接近する方向に本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の略対向方向に、防振すべき主たる振動が入力される。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として図1中の上下方向をいう。
【0027】
より詳細には、第一の取付金具12は、略円板形状を有しており、その外周縁部には、周上の一箇所において、径方向外方に突出して第二の取付金具14側に向かって屈曲して延び出し、先端部分が鉤状に屈曲されたストッパ突部18が一体形成されている。また、第一の取付金具12の下面中央には、略カップ形状の支持金具20が、開口部において重ね合わされて溶着されている。更にまた、第一の取付金具12の中央には、上方に向かって突出する取付ボルト22が固設されており、この取付ボルト22によって、第一の取付金具12が、図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0028】
一方、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状を有する筒金具24と、大径浅底の略有底円筒形状を有する底金具26によって形成されている。筒金具24は、軸方向上端部が上方に向かって拡径するテーパ部28とされている一方、軸方向下端部には、径方向外方に広がる段差部30が形成されていると共に、該段差部30の外周縁部から軸方向下方に延びる大径筒状のかしめ部32が一体形成されている。また、筒金具24におけるテーパ部28の開口周縁部には、周上の一箇所において、径方向外方に突出して補強金具34で補強された当接突部36が一体形成されている。また一方、底金具26の開口周縁部には、径方向外方に広がるフランジ状部38が一体形成されている。そして、筒金具24の下側開口部に底金具26が重ね合わされて、底金具26のフランジ状部38に対して、筒金具24のかしめ部32がかしめ固定されており、以て、第二の取付金具14が、全体として深底の略有底円筒形状をもって形成されている。なお、底金具26の底部中央には、下方に向かって突出する取付ボルト40が固設されており、この取付ボルト40によって、第二の取付金具14が、図示しない自動車のボデーに取り付けられるようになっている。
【0029】
そして、第二の取付金具14が、軸方向上方に向かって開口するように配設されていると共に、この第二の取付金具14の開口部側に離間して、第一の取付金具12が、第二の取付金具14と略同一中心軸上に配設されている。而して、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に本体ゴム弾性体16が配設されており、この本体ゴム弾性体16によって、第一の取付金具12と第二の取付金具14が弾性的に連結されている。かかる本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状を有しており、その小径側端面に第一の取付金具12が重ね合わされ、支持金具20が小径側端面から差し込まれて埋入された状態で、それら第一の取付金具12と支持金具20が本体ゴム弾性体16に加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面には、第二の取付金具14を構成する筒金具24におけるテーパ部28の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。要するに、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、第一の取付金具12および支持金具20と筒金具24を備えた一体加硫成形品として形成されており、筒金具24の軸方向上側の開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されているのである。
【0030】
なお、かかる一体加硫成形品において、第一の取付金具12側における支持金具20のテーパ付外周面と、第二の取付金具14側における筒金具24のテーパ部28は、離間して対向する略平行面とされており、それらの対向面間に本体ゴム弾性体16が介在されることにより、パワーユニット重量等の荷重が本体ゴム弾性体16に対して圧縮力として有効に作用せしめられるようにされている。また、かかる一体加硫成形品において、本体ゴム弾性体16の大径側端面には、大径凹所42が形成されて、筒金具24内に開口せしめられていると共に、筒金具24の内周面には、略全面に亘って広がる薄肉のシールゴム層42が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている。更にまた、第二の取付金具14の当接突部36の表面には、緩衝ゴム44が形成されていると共に、この当接突部36を覆うように、第一の取付金具12のストッパ突部18が位置合わせされている。そして、入力される振動荷重等によって第一の取付金具12と第二の取付金具14が、大きく相対変位せしめられた際、ストッパ突部18が、緩衝ゴム44を介して、当接突部36に当接せしめられることによって、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の相対変位量、ひいては本体ゴム弾性体16の弾性変形量を制限するストッパ機能が発揮されるようになっている。
【0031】
さらに、かかる一体加硫成形品には、筒金具24の軸方向下側開口部から仕切部材46と、可撓性膜としてのダイヤフラム48が、順次、挿入されて嵌め込まれ、第二の取付金具14に対して固定的に組み付けられている。仕切部材46は、金属や合成樹脂等の硬質材で形成されており、筒金具24よりも僅かに小径の略円形ブロック形状を有している。また、仕切部材46における軸方向下端の外周縁部には、軸方向下方に向かって円筒状に延び出し、その突出先端部が径方向外方に屈曲されることにより、フランジ状部50が一体形成されている。そして、この仕切部材46は、筒金具24に挿入されて、外周面がシールゴム層42を介して筒金具24に密着されていると共に、フランジ状部50が、筒金具24の段差部30に重ね合わされて、底金具26のフランジ状部38と共にかしめ部32でかしめ固定されることにより、第二の取付金具14に対して固定的に取り付けられている。また、ダイヤフラム48は、変形容易な薄肉のゴム膜で形成されており、中央部分には、容易に変形するように弛みをもたせてあると共に、外周縁部には、略円環板形状の固定金具52が加硫接着されている。そして、このダイヤフラム48は、筒金具24に挿入されて、固定金具52が、筒金具24の段差部30に重ね合わされ、底金具26のフランジ状部38と共にかしめ固定されることにより、第二の取付金具14の下側開口部を流体密に覆蓋する状態で取り付けられている。なお、固定金具52の表面には、第二の取付金具14によるかしめ固定部位を流体密にシールするシールゴム層53が形成されている。
【0032】
これにより、筒金具24の両側開口部が、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム48で流体密に覆蓋されて、内部に非圧縮性流体が封入された流体室54が形成されている。なお、封入される非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等が採用され得、特に後述する流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。また、非圧縮性流体の注入は、例えば、一体加硫成形品に対する仕切部材46とダイヤフラム48の組付けを流体中で行うことによって、流体室54の形成と同時に行うことも可能であるが、本実施形態では、一体加硫成形品に対する仕切部材46およびダイヤフラム48の組付けを大気中に行った後、ダイヤフラム48に加硫接着された固定金具52に穿孔された注入孔56を通じて非圧縮性流体を流体室54に注入し、その後、該注入孔56をブラインドリベット58で封止することによって、非圧縮性流体が充填されている。
【0033】
また、かかる流体室54は、筒金具24の軸方向中間部分に配された仕切部材46によって流体密に二分されており、以て、仕切部材46の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室60が形成されている一方、仕切部材46の下側には、壁部の一部がダイヤフラム48で構成された平衡室62が形成されている。即ち、受圧室60は、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて振動が入力されて圧力変化が生ぜしめられる一方、平衡室62は、ダイヤフラム48の変形によって容積変化が容易に許容されることにより圧力変化が吸収,回避されるようになっているのである。なお、ダイヤフラム48を挟んで平衡室62と反対側には、ダイヤフラム48と底金具26の間に位置して、ダイヤフラム48の変形を許容する空気室64が形成されている。
【0034】
さらに、受圧室60と平衡室62を仕切る仕切部材46には、それら受圧室60と平衡室62を相互に連通して両室60,62間での流体流動を許容する第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68,第三のオリフィス通路70が、互いに実質的に独立して形成されている。そして、振動入力時に受圧室60と平衡室62の間に生ぜしめられる圧力差に基づいて、各オリフィス通路66,68,70を通じての流体流動が生ぜしめられることにより、各オリフィス通路66,68,70のチューニングに応じた周波数域の入力振動に対して、流体の共振作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0035】
詳細には、先ず、仕切部材46の上面および下面の中央部分には、上凹所72および下凹所74が形成されていると共に、仕切部材46の上面には、薄肉円板形状の蓋金具78が重ね合わされて、上凹所72が覆蓋されている。なお、蓋金具78には、上凹所72を受圧室60に開口せしめる開口窓80,80が形成されている。また、上凹所72には、第一の流量制限手段としての第一のゴム膜76が配設されており、厚肉の外周縁部が、凹所72の底面と蓋金具78の間で挟持されることにより、該第一のゴム膜76の中央部分が、上凹所72内で弾性変形可能に配設されている。これにより、上凹所72内が、第一のゴム膜76によって、底部側と開口部側とに流体密に二分されていると共に、該第一のゴム膜76の上面に対して、受圧室60の内圧が、開口窓80,80を通じて及ぼされるようになっている。
【0036】
また一方、下凹所74には、第二の流量制限手段としての第二のゴム膜82が配設されている。この第二のゴム膜82は、外周縁部に略環状の固定板金具84が加硫接着されており、該固定板金具84が下凹所74の底面に重ね合わされて固定ボルト85で固着されることにより、第二のゴム膜82が、下凹所74の底面から所定距離だけ離間して該下凹所74の開口を流体密に覆う状態で、固定板金具84で支持されている。そして、かかる配設状態下、第二のゴム膜82は、弾性変形が許容されていると共に、その下面が、平衡室62に直接に晒されている。
【0037】
ここにおいて、本実施形態では、第一のゴム膜76の中央部分が、厚肉化されて、仕切部材46の上凹所72の底面と蓋金具78に略当接され変位規制されていると共に、第一のゴム膜76よりも第二のゴム膜82の方が、肉厚寸法が小さく、且つ自由長が大きくされている。これにより、第一のゴム膜76よりも第二のゴム膜82の方が、ばね定数が小さく、容易に弾性変形が許容されるようになっている。また、これら第一のゴム膜76および第二のゴム膜82は、主にそれ自身のばね剛性によって、変形に伴う変位量が制限されるようになっており、第一のゴム膜76よりも第二のゴム膜82には、大きな変位量が許容され得るようになっている。
【0038】
また、仕切部材46には、中心軸上を略矩形断面をもって直線的に延びる軸方向孔86が形成されており、該軸方向孔86の両側が、上凹所72と下凹所74の各中央に開口せしめられている。これにより、軸方向孔86と上下凹所72,74を含んで、受圧室60と平衡室62の間に跨がって延び、第一及び第二のゴム膜76,82の弾性変形に基づいて、それら両室60,62間での流体流動を許容する第一のオリフィス通路66が形成されている。特に、本実施形態では、かかる第一のオリフィス通路66が、その内部を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、走行こもり音等の高周波振動に対して有効な防振効果を発揮し得るようにチューニングされている。なお、かかるチューニングは、例えば、受圧室60や平衡室62の壁ばね剛性と、第一及び第二のゴム膜76,82のばね剛性、封入流体の密度等を考慮して、軸方向孔86の断面積:A1と長さ:L1の比:A1/L1を調節することによって、行うことが出来る。また、第一のオリフィス通路66を通じての流体流動量は、第一及び第二のゴム膜76,82の弾性、特にばね定数が大きい第一のゴム膜76の弾性によって、制限されるようになっている。
【0039】
更にまた、仕切部材46には、軸方向中間部分を直径方向に向かって略矩形断面で直線的に延びる径方向孔90が形成されており、該径方向孔90の両端開口が筒金具24で流体密に覆蓋されていると共に、該径方向孔90の径方向両端部近くには、径方向孔90から分岐して軸方向に延びる接続孔92,94が形成されている。そして、径方向孔90の一方の端部側が、接続孔92を通じて、蓋金具78に開口形成された窓部96から受圧室60に開口されていると共に、径方向孔90の他方の端部側が、接続孔94を通じて、下凹所74に開口せしめられている。これにより、径方向孔90と接続孔92,94および下凹所74を含んで、受圧室60と平衡室62の間に跨がって延び、第二のゴム膜82の弾性変形に基づいて、それら両室60,62間での流体流動を許容する第二のオリフィス通路68が形成されている。特に、本実施形態では、かかる第二のオリフィス通路68が、その内部を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、例えばアイドリング低次振動に対して有効な防振効果を発揮し得るようにチューニングされている。なお、かかるチューニングは、第一のオリフィス通路66と同様、例えば、受圧室60や平衡室62の壁ばね剛性と、第二のゴム膜82のばね剛性、封入流体の密度等を考慮して、径方向孔90や接続孔92,94の断面積:A2と長さ:L2の比:A2/L2を調節することによって、行うことが出来る。また、第二のオリフィス通路68を通じての流体流動量は、第二のゴム膜82の弾性によって、制限されるようになっている。
【0040】
また、仕切部材46においては、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68が、各通路長さ方向略中央部分で互いに直交して交差しており、この交差点上を、それら第一及び第二のオリフィス通路66,68の何れとも直交する径方向に、仕切部材46を貫通して直線的に延びるバルブ装着孔100が形成されている。そして、このバルブ装着孔100に対して、バルブ手段としてのロータリバルブ本体102が挿入されて組み付けられている。このロータリバルブ本体102は、中空円筒形状を有しており、バルブ装着孔100に嵌め込まれて、バルブ装着孔100に圧入されたバルブ押え板103で抜け出し不能に、且つ中心軸回りに回動可能に組み付けられている。また、ロータリバルブ本体102の筒壁部には、径方向一方向で対向位置する部分を内外に貫通する略矩形状の連通孔104,104が形成されており、ロータリバルブ本体102の回動位置に応じてこれらの連通孔104,104が、バルブ装着孔100の内周面における軸方向孔86の開口部と、径方向孔90の開口部との、何れかに択一的に位置合わせされて連通せしめられるようになっている。
【0041】
さらに、ロータリバルブ本体102には、軸方向一方の側に延びる駆動軸105が一体形成されており、この駆動軸105が、仕切部材46を貫通して外周面に突設されている。また、ステッピングモータ106が、第二の取付金具14の外部に配設されて、ブラケット108を介して、筒金具24に固着されており、このステッピングモータ106の出力軸110が、筒金具24に設けられた挿通窓111を通じて挿入されて、ロータリバルブ本体102の駆動軸105に連結されている。これにより、ロータリバルブ本体102が、ステッピングモータ106で回動せしめられて、第一のオリフィス通路66を連通し且つ第二のオリフィス通路68を遮断する回動位置と、第二のオリフィス通路68を連通し且つ第一のオリフィス通路66を遮断する回動位置とに、択一的に位置決めされるようになっている。なお、ステッピングモータ106の作動は、防振すべき振動の入力状態に応じて、例えば、自動車の走行状態に対応した信号(例えば、速度信号やシフトポジション信号等)に基づいて制御されることとなる。
【0042】
また、仕切部材46には、上面に開口して外周部分を周方向に一周弱の長さで延びる凹溝112が設けられており、この凹溝112が蓋金具78で覆蓋されると共に、該凹溝112の周方向一端部が、蓋金具78に貫設された連通孔114を通じて受圧室60に開口されている一方、該凹溝112の周方向他端部が、仕切部材46の軸方向に貫設された接続孔116を通じて、平衡室62に開口せしめられている。これにより、凹溝112と連通孔114,接続孔116を含んで、受圧室60と平衡室62の間に跨がって延び、それら両室60,62間での流体流動を許容する第三のオリフィス通路70が形成されている。なお、この第三のオリフィス通路70は、本実施形態では、常時、連通状態で形成されている。
【0043】
特に、本実施形態では、かかる第三のオリフィス通路70が、その内部を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、例えばシェイク振動に対して有効な防振効果を発揮し得るようにチューニングされている。特に、本実施形態では、シェイク振動とアイドリング1次振動が近い周波数域に存在することを考慮し、かかる第三のオリフィス通路70が、その内部を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、シェイク振動に対する減衰効果を発揮し得ると共に、アイドリング1次振動に対しても低動ばねによる振動絶縁効果を発揮し得るように、チューニングされている。なお、かかるチューニングは、第一及び第二のオリフィス通路66,68と同様、例えば、受圧室60や平衡室62の壁ばね剛性と、封入流体の密度等を考慮して、凹溝112や連通孔114,接続孔116の断面積:A3と長さ:L3の比:A3/L3を調節することによって、行うことが出来る。
【0044】
加えて、仕切部材46には、第一のオリフィス通路66を構成する上凹所72の底壁部を軸方向に直線的に貫通して延び、第一のゴム膜76で覆蓋された上凹所の内部を、第二のオリフィス通路68を構成する径方向孔90上に直接に連通せしめる連通小孔120が形成されている。即ち、径方向孔90は、上凹所72の下方を横切るように形成されており、それら上凹所72と径方向孔90の隔壁部分に対して、連通小孔120が形成されているのである。また、第二のオリフィス通路68上における連通小孔120の開口は、バルブ装着孔100よりも平衡室62側に位置せしめられている。これにより、連通小孔120によって、第一のオリフィス通路66におけるロータリバルブ本体102の配設位置よりも受圧室60側と、第二のオリフィス通路68におけるロータリバルブ本体102の配設位置よりも平衡室62側とが、常時連通されている。
【0045】
従って、ロータリバルブ本体102で第一のオリフィス通路66を遮断し、第二のオリフィス通路68を連通せしめた状態下においても、第一のオリフィス通路66の上凹所72が、連通小孔120を通じ、第二のオリフィス通路68の一部を利用して、下凹所74内に連通されている。そして、振動入力時に、受圧室60と平衡室62の圧力差により、第二のオリフィス通路68を通じての流体流動と共に、第一及び第二のゴム膜76,82の弾性変形に基づいて、連通小孔120を通じての流体流動も生ぜしめられるようになっている。
【0046】
ここにおいて、かかる連通小孔120は、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68の中間の周波数域にチューニングされており、特に本実施形態では、連通小孔120の内部を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、アイドリング6次等のアイドリンク高次振動に対して有効な防振効果が発揮されるように、チューニングされている。なお、かかるチューニングは、第一及び第二のオリフィス通路66,68と同様、例えば、受圧室60や平衡室62の壁ばね剛性と、第一及び第二のゴム膜76,82のばね剛性や封入流体の密度等を考慮して、連通小孔120の断面積:A4と長さ:L4の比:A4/L4を調節することによって、行うことが出来る。また、連通小孔120を通じての流体流動量は、第一及び第二のゴム膜76,82の弾性、特にばね定数が大きい第一のゴム膜76の弾性によって、制限されるようになっている。即ち、第二のオリフィス通路68と連通小孔120の両方が連通状態とされた場合には、流通抵抗が小さい連通小孔120を通じての流体流動量が第一のゴム膜76で制限されることにより、第二のオリフィス通路68を通じての流体流動量も十分に確保されるようになっているのである。
【0047】
従って、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、ロータリバルブ本体102の回動位置を切り換えることによって、マウント防振特性を変更することが出来るのである。具体的には、車両走行状態下では、ロータリバルブ本体102を、図示されている如き、第一のオリフィス通路66を連通し、且つ第二のオリフィス通路68を遮断する回動位置に保持せしめる一方、車両停止(アイドリング)状態下では、ロータリバルブ102を、図示された位置から90度だけ回動させて、第二のオリフィス通路68を連通し、且つ第一のオリフィス通路66を遮断する回動位置に保持せしめる。
【0048】
それにより、車両走行状態下では、第一のオリフィス通路66を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、走行こもり音等の高周波振動に対して有効な防振効果(振動絶縁効果)が発揮されると共に、第三のオリフィス通路70を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、シェイク等の低周波振動に対して有効な防振効果(減衰効果)が発揮されるのである。なお、第一のオリフィス通路66よりも第三のオリフィス通路70の方が流体流動抵抗が大きいが、第一及び第二のゴム膜76,82で第一のオリフィス通路66の流体流量が制限されることにより、第三のオリフィス通路70を通じての流体流量も有利に確保され得る。
【0049】
また一方、車両停止状態下では、受圧室60と平衡室62の間において、第三のオリフィス通路70と第二のオリフィス通路68および連通小孔120の、三つの流体流路を通じての流体流動が許容される。また、第三のオリフィス通路70よりも流体流動抵抗が小さい第二のオリフィス通路68を通じての流体流量が第二のゴム膜82で制限されると共に、第二のオリフィス通路68よりも更に流体流動抵抗が小さい連通小孔120を通じての流体流量が第一及び第二のゴム膜76,82でより小さく制限されることにより、それら第三のオリフィス通路70と第二のオリフィス通路68および連通小孔120の、三つの流体流路における流体流動量が、何れも有利に確保され得ることとなる。
【0050】
その結果、第三のオリフィス通路70を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、アイドリング1次振動等のアイドリング低周波振動に対して有効な防振効果が発揮されると共に、第二のオリフィス通路68を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、アイドリング3次振動等のアイドリング中周波振動に対して有効な防振効果が発揮されるのであり、更に、連通小孔120を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、アンドリング6次振動等のアイドリング高周波振動に対して有効な防振効果が発揮されるのである。それ故、これら三つの流体流路による防振効果が何れも有効に発揮されることにより、極めて広い周波数域に亘る振動に対して、優れた防振効果を安定して得ることが出来るのである。
【0051】
また、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、連通小孔120を含む流体流路が、第三のオリフィス通路70を構成する上凹所72や第一のゴム膜76等を利用して形成されていることに加えて、連通小孔120が、特定の相対位置構造をもって形成された第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68を短絡する構造をもって形成されていること、更に、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68が交差する形態をもって形成されて、それらの交差点上にロータリバルブ本体102が配設されていること等によって、第一,第二及び第三のオリフィス通路66,68,70と連通小孔120が、コンパクトで且つ簡単な構造をもって有利に形成されているのである。
【0052】
更にまた、かかるエンジンマウント10においては、仕切部材46の上面側に第一のゴム膜76が配設されていると共に、仕切部材46の下面側に第二のゴム膜82が配設されていることから、それら第一及び第二のゴム膜76,82の厚さや面積(自由長)等を、仕切部材46の大型化等を伴うことなく、有利に確保することが出来、チューニング自由度とコンパクト化の両立が有利に図られ得る。
【0053】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0054】
例えば、第一,第二及び第三のオリフィス通路66,68,70や連通小孔120は、要求される防振特性等に応じて、長さや断面積等を含む形状や構造を適宜に変更されるものであり、決して前記実施形態のものに限定されるものでない。
【0055】
また、連通小孔は、第一のオリフィス通路66の遮断状態下で形成されれば良く、例えば、第二のオリフィス通路68を介することなく、かかる連通小孔を、直接に、下凹所74内や平衡室62に開口,連通させても良い。
【0056】
或いは、ロータリバルブ本体102を中実ロッド形状とすると共に、第一のオリフィス通路66を連通せしめる接続孔と直交する径方向に延びる小径の貫通小孔を形成し、第一のオリフィス通路66のロータリバルブ本体102による遮断状態下で、該ロータリバルブ本体102に形成された貫通小孔により、第一のオリフィス通路66上に連通小孔を発現せしめるようにすることも可能である。なお、その場合には、第二のオリフィス通路68をロータリバルブ本体102で遮断せしめた状態下で、第二のオリフィス通路68上に連通小孔が形成されないように、第一のオリフィス通路66と第二のオリフィス通路68をロータリバルブ本体102の軸方向にずらせて交差しないようにし、ロータリバルブ本体102に対して、第一のオリフィス通路66を連通/遮断するための接続孔と、第二のオリフィス通路68を連通/遮断するための接続孔を、互いに軸方向にずらせて独立して形成することが望ましい。
【0057】
また、第三のオリフィス通路70や、第二のゴム膜82等は、何れも、マウントに要求される防振特性等に応じて採用されるものであり、必ずしも設ける必要はない。
【0058】
更にまた、第二のオリフィス通路68は、必ずしもバルブ手段で開閉される必要はなく、常時、連通状態とされていても良い。特に、第三のオリフィス通路70を形成しない場合や、本実施形態の如く第二のオリフィス通路68を通じての流体流動量を制限する第二のゴム膜82を採用する場合には、第二のオリフィス通路68を、第一のオリフィス通路66と択一的に連通しなくても、各流体流路によって或る程度の防振効果を得ることが可能である。
【0059】
さらに、前記実施形態では、第一の取付金具12と第二の取付金具14が、振動入力方向一方向に離間して対向位置せしめられると共に、それらの対向面間に本体ゴム弾性体16が介装された構造の防振装置に対して、本発明を適用したものの一具体例を示したが、その他、本発明は、軸部材と、該軸部材の径方向外方に離間して配された外筒部材を、それらの径方向対向面間に介在せしめた本体ゴム弾性体で弾性連結せしめた構造を有し、FF型自動車用エンジンマウント等に好適に用いられる流体封入式の筒型マウントに対しても、適用可能である。
【0060】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの一具体例を示したが、その他、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント等、或いは自動車以外の各種装置等における防振装置に対して、何れも、同様に適用可能であることは、勿論である。
【0061】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0062】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、互いに異なる周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路によるそれぞれの防振効果を、何れも、十分に確保しつつ、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路の中間の周波数域にチューニングされて、第一のオリフィス通路の遮断状態下で機能せしめられる連通小孔を、第一のオリフィス通路を有効に利用して形成せしめ得たのであり、それによって、コンパクトで簡単な構造を維持しつつ、より広い又は複数の周波数域に亘る振動に対して、流体の共振作用に基づく防振効果を得ることが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】図1におけるIII −III 断面図である。
【図4】図1におけるIV−IV断面図である。
【符号の説明】
10 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
46 仕切部材
48 ダイヤフラム
60 受圧室
62 平衡室
66 第一のオリフィス通路
68 第二のオリフィス通路
70 第三のオリフィス通路
76 第一のゴム膜
82 第二のゴム膜
102 ロータリバルブ本体
120 連通小孔

Claims (10)

  1. 入力振動によって弾性変形せしめられる本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動が入力される受圧室と、変形容易な可撓性膜で壁部の一部が構成されて容積変化が許容される平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、それら受圧室と平衡室をそれぞれ相互に連通する第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を設けて、該第一のオリフィス通路を該第二のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングすると共に、該第一のオリフィス通路を連通状態と遮断状態に切り換えるバルブ手段を設けた流体封入式防振装置において、
    前記第一のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する第一の流量制限手段を、前記バルブ手段よりも前記受圧室側に位置して設けると共に、該バルブ手段による該第一のオリフィス通路の遮断状態下で、該第一のオリフィス通路における該第一の流量制限手段と該バルブ手段の間の領域を前記平衡室側に連通せしめる連通小孔を形成し、該連通小孔を前記第一のオリフィス通路と前記第二のオリフィス通路の中間周波数域にチューニングしたことを特徴とする流体封入式防振装置。
  2. 前記バルブ手段が、前記第一のオリフィス通路と前記第二のオリフィス通路を択一的に連通せしめる請求項1に記載の流体封入式防振装置。
  3. 前記連通小孔を、前記バルブ手段による前記第一のオリフィス通路の連通/遮断状態にかかわらず、常時開口せしめた請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
  4. 前記連通小孔を、前記第一及び第二のオリフィス通路の流路断面積よりも小さな流路断面積と、それら第一及び第二のオリフィス通路の流路長さよりも小さな流路長さで形成した請求項1乃至3の何れかに記載の流体封入式防振装置。
  5. 前記連通小孔を、前記第二のオリフィス通路上に開口せしめて、前記第一のオリフィス通路における前記第一の流量制限手段と前記バルブ手段の間の領域を、該第二のオリフィス通路を通じて、前記平衡室に連通せしめた請求項1乃至4の何れかに記載の流体封入式防振装置。
  6. 前記第二のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する第二の流量制限手段を設けた請求項1乃至5の何れかに記載の流体封入式防振装置。
  7. 前記第二の流量制限手段を、前記第二のオリフィス通路上において、前記バルブ手段よりも前記平衡室側に位置せしめた請求項6に記載の流体封入式防振装置。
  8. 前記第二の流量制限手段を、前記第二のオリフィス通路上における前記平衡室側への開口部に変位可能に配設されて、変位量が制限されることにより、該第二のオリフィス通路を通じての流体流動量を制限する可動部材で構成すると共に、該可動部材を、前記第一のオリフィス通路における前記平衡室側への開口部にまで広がって、該第一のオリフィス通路および該第二のオリフィス通路の両開口部を一体的に覆うように配設した請求項7に記載の流体封入式防振装置。
  9. 前記受圧室と前記平衡室を相互に連通する第三のオリフィス通路を、前記第一のオリフィス通路および前記第二のオリフィス通路から独立して形成し、該第三のオリフィス通路を該第二のオリフィス通路よりも低周波数域にチューニングした請求項1乃至8の何れかに記載の流体封入式防振装置。
  10. 振動入力方向に離間して配された第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結し、該第二の取付部材によって支持された仕切部材を挟んで一方の側に前記受圧室を形成すると共に、他方の側に前記平衡室を形成する一方、該仕切部材において、前記第一のオリフィス通路を、前記受圧室と前記平衡室の対向方向に直線的に貫通して形成すると共に、前記第二のオリフィス通路を、該第一のオリフィス通路に直交して交差する方向に形成し、該第一のオリフィス通路と該第二のオリフィス通路の交差点に前記バルブ手段を配設して、それら第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を該バルブ手段で択一的に連通せしめるようにする一方、前記第三のオリフィス通路を、該仕切部材の外周部分を周方向に延びるように形成した請求項9に記載の流体封入式防振装置。
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