JP3559820B1 - 軟化加工魚肉の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】第1工程で、カツオまたはマグロなどの魚の生肉を至適温度が40℃以上のプロテアーゼの水溶液に浸漬させて10℃以下の温度で所定時間保った。生肉は水溶液に浸漬される前に針で複数の穴をあけてある。第1工程後の第2工程で、生肉を50℃乃至80℃の温度範囲で所定時間保ち、生肉中でプロテアーゼを活性化させた。軟化させた生肉をオーブンにより250℃で加熱した。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟化加工魚肉の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カツオとマグロは日本人がもっとも良く口にする魚とされている。しかしながら、その消費のほとんどが生の刺身に限られ、加熱加工品の消費は非常に少ない。カツオおよびマグロを加熱加工して利用するうえでもっとも妨げとなるのは、これらの筋肉が加熱により固くなるということである。軟らかい食感が好まれる現代の食生活で、この特性は消費者が倦厭するもっとも大きな要因となっていると考えられる。
【0003】
食肉の軟化を目的とした従来技術として、魚介類などの食肉にプロテアーゼを含有する調理素材を付着させ所定時間放置した後、油ちょう、煮焼き等の調理を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−252911号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に示す従来の技術では、カツオまたはマグロの軟化に関しては明らかでなかった。カツオまたはマグロは、魚肉の中でも特に加熱により硬化しやすい特徴をもっている。従って、鳥獣肉やアジなどの魚肉の軟化方法が必ずしもカツオやマグロに当てはまるとは限らなかった。また、プロテアーゼをカツオまたはマグロに付着させて放置した場合、魚肉中の細菌酵素によってヒスタミンが生成し、ときにはアレルギー症状を起こすという課題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、カツオやマグロなどの加熱した魚肉を軟化させることができ、また、ヒスタミンによるアレルギー症状の発生を抑制できる軟化加工魚肉の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る軟化加工魚肉の製造方法は、魚の生肉に至適温度が40℃以上のプロテアーゼを10℃以下の温度で浸透させる第1工程と、第1工程後、前記生肉中で前記プロテアーゼを活性化させて所定時間保つ第2工程とを、有することを特徴とする。
【0008】
魚の生肉を15℃乃至25℃の温度で保った場合、ヒスタミンが生成しやすい。ヒスタミンは、ヒスチジンが細菌酵素により脱炭酸化されて生成し、アレルギー様食中毒やアレルギー症状を発生するおそれがある。本発明では、第1工程でプロテアーゼを10℃以下の温度で浸透させることにより、ヒスタミンの生成を抑制しながらプロテアーゼを浸透させることができる。10℃以下の温度の低温で処理する場合、さらに魚肉臭や酵素臭を抑えることができる。
【0009】
しかしながら、低温のみで処理した場合、プロテアーゼの酵素作用が低く、軟化が不十分となる。そこで、第2工程では、第1工程で浸透させたプロテアーゼを活性化させることにより、生肉中のタンパク質を軟化させる。これにより、加熱しても固くならない軟化加工魚肉を製造することができる。
【0010】
図3に示すように、カツオ、マグロの筋肉は、アジ、イワシ、サンマ、トビウオ、タイ、コチ、カレイ、アユなどの筋肉に比べて、加熱により著しく硬化する性質がある。しかしながら、本発明に係るカツオまたはマグロの軟化加工魚肉の製造方法によれば、カツオまたはマグロの生肉にプロテアーゼを浸透させた後、活性化させることにより、加熱処理後の肉の軟化を図ることができる。
【0011】
本発明に係る軟化加工魚肉の製造方法において、処理する前記魚は、カツオ・サバ・サワラ・マルソウダ・マグロ・キハダ・メバチ・ビンナガ・クロマグロ・メカジキ・マカジキその他のサバ亜目の魚であることが好ましく、特にカツオまたはマグロが好ましい。スズキ目サバ亜目の魚には、カマスなどのカマス科、バラムツ・クロシビカマスなどのクロタチカマス科、タチウオなどのタチウオ科、マサバ・カツオ・クロマグロ・サワラ・マルソウダ・キハダ・メバチ・ビンナガなどのサバ科、マカジキなどのマカジキ科、メカジキなどのメカジキ科の魚が含まれる。
【0012】
前記第1工程は前記生肉に前記プロテアーゼを付着させて10℃以下の温度で所定時間保つ工程から成り、前記第2工程は前記生肉を50℃乃至80℃の温度範囲で所定時間保つ工程から成ることが好ましい。この場合、例えば、前記プロテアーゼとして粉末状のものを用い、前記生肉の表面にまぶして付着させることができる。また、例えば、前記プロテアーゼの水溶液を前記生肉に注入して生肉に付着させてもよい。
【0013】
プロテアーゼの至適温度は、種類により異なるが通常、30℃乃至60℃の範囲にある。このため、第2工程で50℃乃至80℃の温度範囲で保つことによりプロテアーゼを活性化させ、生肉の軟化を促進することができる。また、50℃乃至80℃の温度範囲で保つことにより、ヒスタミン生成微生物の活動を抑え、ヒスタミンの生成を抑制しながら生肉の軟化を促進することができる。第2工程の温度範囲は、特に至適温度付近が好ましい。
【0014】
10℃以下の温度で所定時間保つ工程を省略して50℃乃至80℃の温度範囲のみで処理した場合、酵素作用が強すぎて短時間の処理で筋肉は軟化してしまう。この場合、軟化しすぎるのを防ぐために酵素処理の時間を短くすると、プロテアーゼの浸透が不十分となり、魚肉臭、酵素製剤臭が強く残ることとなる。従って、この問題を解消するため、第1工程は重要な工程である。
【0015】
特に、前記第1工程は前記生肉を前記プロテアーゼの水溶液に浸漬させて10℃以下の温度で所定時間保つ工程から成ることが好ましい。この場合、プロテアーゼの生肉への浸透を容易にすることができる。また、浸漬させる方法は、経済的で、製品の品質を安定させるうえで好ましい。
前記水溶液は調味料を含んでいてもよい。この場合、調理を容易にすることができる。調味料は、醤油ベース、味噌ベースその他、適宜、選択することができる。プロテアーゼの水溶液が調味料を含んだ調味液から成る場合には、第1工程で、調味液の味をなじませるとともに魚臭を抑えることができる。
【0016】
前記第1工程で前記プロテアーゼを浸透させる温度は5℃以下の温度であることが好ましい。ヒスタミンは特に5℃以下の温度では生成しにくいので、この場合、ヒスタミンの生成を抑制する効果を高めることができる。このとき、プロテアーゼの浸透処理を5℃以下に設定した冷蔵庫内で保管することにより行うことが好ましい。
【0017】
前記プロテアーゼは至適温度が80℃以上であってもよい。このような耐熱酵素としては、例えば、パパイン(商品名「パパインW−40」)などを用いることができる。至適温度が80℃以上の場合、第2工程で所定の温度範囲で保つことにより、殺菌および調理を兼ねることができる。第2工程で、80℃以上の温度で20分乃至90分保った場合には、通常、食することが可能な程度まで、生肉の内部に熱を通すことができる。
【0018】
前記第1工程の前または間に、前記生肉に針で複数の穴をあけることが好ましい。生肉に針で複数の穴をあける方法としては、特にテンダライズ法が好ましい。穴は、剣山のようなもので生肉の全体に均等に多数あけられることが好ましい。穴をあけることにより、プロテアーゼが浸透しやすくなり、軟化を促進することができる。
【0019】
前記第1工程の前記所定時間は12時間乃至24時間が好ましい。前記第2工程の前記所定時間は20分乃至90分、特に30分乃至60分であることが好ましい。20分より短いと軟化効果が低く、90分より長いと軟化が進みすぎるからである。前記第2工程は、例えば、生肉を食品包装用フィルムで包装し、温度設定した保温器または乾燥機で加熱して行うことができる。
【0020】
さらに、前記第2工程後の肉を80℃以上の温度で加熱調理する第3工程を有していてもよい。この場合、第3工程により、軟らかく食べやすい魚の加工肉を製造することができる。また、第3工程により、プロテアーゼの失活を行うことが好ましい。加熱調理は、蒸煮、蒸煮後焙焼、焙焼、湯煮、油ちょう、電子レンジ加熱その他いかなる方法で行ってもよく、たとえば、250℃に加熱するオーブンで行うことができる。
【0021】
本発明において、プロテアーゼは、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼのいずれであってもよく、例えば、コラゲナーゼ、グルタミナーゼ、細菌プロテアーゼ(商品名「ビオプラーゼ」など)、パパイン、商品名「プロレザー」、ブロメライン、ペプチダーゼのほか、パンクレアチンのような酵素混合物を用いてもよいが、特にパパインが好ましい。本発明において、プロテアーゼは、粉末または水溶液であることが好ましいが、それ以外の形態であってもよい。
【0022】
プロテアーゼの付着量は、適宜、選択することができる。プロテアーゼを水溶液にして付着させる場合にも、濃度を適宜、選択することができるが、明確な軟化効果をもたらすため、0.1重量%以上の濃度が好ましく、例えば、1重量%の濃度で使用することができる。プロテアーゼには、小麦粉、砂糖、食塩、しょうゆその他の調味料または食材を添加してもよい。
【0023】
商品を流通させる場合、第3工程後に出荷しても、第1工程後に出荷し、販売店で第2工程および必要に応じて第3工程を行ってもよい。
【0024】
【実施例】
ビンナガマグロを試料とし、プロテアーゼを付着させた後、レオメータを用いて破断強度を測定した。プロテアーゼには、表1に示す17種を用いた。なお、表1および図1において、各プロテアーゼは、商品名で示されている。
【0025】
【表1】
【0026】
試料を厚さ1cm、長さ5cm、幅3cmに整形してプロテアーゼによる酵素処理を施した。酵素の付着方法は、粉まぶし法(試料表面に均一にプロテアーゼ粉末を振りかける方法)、浸漬法(プロテアーゼ水溶液に試料を浸す方法)、テンダライズ法(試料に針で多数の穴をあけてプロテアーゼ水溶液に浸漬させる方法)、インジェクター法(注射針でプロテアーゼ水溶液を試料に注入する方法)の4種の方法で行った。浸漬法、テンダライズ法およびインジェクター法で用いたプロテアーゼ水溶液は、一律にプロテアーゼ濃度を1重量%とした。
【0027】
酵素処理をする際に、同じビンナガマグロのブロックから切り出した、できうる限り同じ大きさの試料を2つ用意して、ひとつに酵素処理を行い、もう一方には比較のため酵素無添加で前者と同じ処理を行った。酵素を付着後、5℃に保った冷蔵庫内で12時間冷蔵した。12時間後、40℃に設定したインキュベータで1時間反応させた。
【0028】
なお、それぞれの酵素の最適温度、最適pHは異なるが、試料の食品としての劣化を考慮に入れて、この温度および時間の条件を決定した。図2に示すように、インキュベートの温度を40℃に設定した場合、試料温度は30℃にしか達しなかった。しかしながら、インキュベータの温度を50℃に設定した場合、試料温度は40℃に達したが、1時間後には試料は半分加熱されたような状態になったため、実験条件は40℃に設定した。
【0029】
インキュベート後、レオメータを用いて両者の破断強度を測定し、その破断加重の減少率を算出した。なお、破断強度は、筋繊維の並びに対して直角に破断したときの荷重を測定することにより求めた。
【0030】
その結果を図1に示す。
図1に示すように、酵素を付着させたすべての試料で、かなりの破断荷重の低下が見られた。このことから、ビンナガマグロの生肉にプロテアーゼを付着させることにより、生肉が軟化することがわかる。酵素の添加方法ごとにその結果を見ると、テンダライズ法では、コンスタントにどの酵素でも筋肉を軟化させた。粉まぶし法では、筋表面に均一に酵素をまぶすことが難しく、対照試料よりも硬くなってしまうこともあった。インジェクター法も、多くの種類のプロテアーゼで軟化に対する効果が顕著であった。なお、いずれの酵素付着方法でも、筋表面にプロテアーゼの影響が強く見られた。
酵素により軟化させた生肉で、ヒスタミンの顕著な増加はみられなかった。酵素により軟化させた生肉をオーブンにより250℃で加熱した。その結果、固くならず、軟らかい食感の製品を得ることができた。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、カツオやマグロなどの加熱した魚肉を軟化させることができ、また、ヒスタミンによるアレルギー症状の発生を抑制できる軟化加工魚肉の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の試料の酵素処理による破断荷重減少率を示すグラフである。
【図2】インキュベート中の試料温度の時間との関係を示すグラフである。
【図3】加熱および非加熱魚肉の破断点における破断荷重を示すグラフである。
Claims (10)
- 魚の生肉に至適温度が40℃以上のプロテアーゼを10℃以下の温度で浸透させる第1工程と、第1工程後、前記生肉中で前記プロテアーゼを活性化させて所定時間保つ第2工程とを、有することを特徴とする軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記第1工程は前記生肉に前記プロテアーゼを付着させて10℃以下の温度で所定時間保つ工程から成り、前記第2工程は前記生肉を50℃乃至80℃の温度範囲で所定時間保つ工程から成ることを、特徴とする請求項1記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記第1工程は前記生肉を前記プロテアーゼの水溶液に浸漬させて10℃以下の温度で所定時間保つ工程から成ることを特徴とする請求項1または2記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記水溶液は調味料を含むことを特徴とする請求項3記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記第1工程で前記プロテアーゼを浸透させる温度は5℃以下の温度であることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記プロテアーゼは至適温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記第1工程の前または間に、前記生肉に針で複数の穴をあけることを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記第2工程の前記所定時間は20分乃至90分であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6または7記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- さらに、前記第2工程後の肉を80℃以上の温度で加熱調理する第3工程を有することを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7または8記載の軟化加工魚肉の製造方法。
- 前記魚はカツオ・サバ・サワラ・マルソウダ・マグロ・キハダ・メバチ・ビンナガ・クロマグロ・メカジキ・マカジキその他のサバ亜目の魚であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8または9記載の軟化加工魚肉の製造方法。
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