JP3544780B2 - 反射板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主としてインジウムとスズからなる酸化物層によって安定化させた銀を用いた反射板に関し、さらに詳しくは高温環境においても反射率の低下が少ない銀を用いた、複写機に好適に使用できる反射板に関する。
【0002】
【従来の技術】
銀は、可視光領域における反射率が最も高い金属であり、反射用部材として優れた性能を有すると考えられる。反射体材料としては他にアルミニウムが挙げられるが、実用的には反射率90%が最も高い値である。従って、銀を反射体として使用するにおいて90%以上が実用性能の目安になる。しかしながら、銀自体は不安定な金属である為、大気中に暴露した状態で150℃以上の高温下に長時間放置すると、表面の反射率が低下することが知られている。そこで、銀の不変色化として様々な合金化が図られているが、反射率が本来銀の持つ値よりも低下する為、反射材としての価値が十分活かせないものであった。
【0003】
【課題を解決するための手段】
そこで、銀を用いた反射体の高温環境における安定性を向上させ、高温環境下で500時間以上の長期にわたって高い反射率を維持する方法を鋭意研究したところ、高酸素濃度雰囲気下でスパッタリング法により形成した、非晶質の、主としてインジウムとスズからなる酸化物層、つまり非晶質ITO(Indium Tin Oxide)薄膜層を、透明高分子フィルムと銀薄膜層の間に用いることにより、銀を用いた反射体の耐熱安定性を著しく向上させること、また該反射体を金属板にラミネートすることにより、複写機等に好適に使用できる反射板が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0004】
すなわち、本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、
(1) 少なくとも、透明高分子フィルム(A)、主としてインジウムとスズからなる酸化物層(B)、銀薄膜層(C)、接着層(D)、支持体(E)からなる構成ABCDEの透明高分子フィルム側を反射面とする反射板にして、150℃の温度において500時間大気中で加熱を行った後においても高分子フィルム側から測定した反射率が90%以上である反射板、
(2) 主としてインジウムとスズからなる酸化物層(B)が、高酸素濃度雰囲気下でスパッタリング法により形成された比抵抗1×10−2Ω・cm以上かつ非晶質の薄膜層である(1)記載の反射板、
(3) 透明高分子フィルム(A)が、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、またはポリアリレートである(1)又は(2)記載の反射板,
(4) 接着層(D)が、熱硬化型接着剤である(1)〜(3)のいずれかに記載の反射板に関するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明は図1に示すように、透明高分子フィルム10の上に、主としてインジウムとスズからなる酸化物層20、そして該酸化物層の上の銀薄膜層30、接着層40、支持体50からなる反射板である。
【0006】
本発明において銀薄膜を形成するための基板となる透明高分子フィルムは、透明で150℃以上の連続使用に耐えるものであれば特に限定するものではなく、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエテールケトン、フルオロエチレンプロピレン等のフッ素系フィルム、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート系フィルム等の高分子フィルムを用いることができる。その際、銀薄膜を形成する前に、基板表面を、化学洗浄処理、表面粗面化処理、グロー放電処理、コロナ放電処理等を行うことが密着性等を向上させるのに当業者には容易に理解できるであろう。
【0007】
上記高分子フィルムの厚みには限定的な値はないが、25〜100μm程度が好ましく用いられる。使用する高分子フィルムの光学特性は、波長550nmの光線透過率が80%以上であることが好ましい。より好ましくは、波長500〜700nmの範囲の光に対して光線透過率が80%以上であり、更に好ましくは波長350〜750nmの範囲の光に対して光線透過率が80%以上である。光線透過率が80%よりもあまり低いと、反射体とした時の反射率が90%を下回り、反射体としての性能上好ましくない。
【0008】
本発明においては、上記高分子フィルム上に主としてインジウムとスズからなる酸化物層を形成する。主としてインジウムとスズからなる酸化物(Indium TinOxide:ITO)は、透明導電膜の一種である。導電性、透明性が特に優れ、更に電極のパターンをエッチングにより形成することが容易である等の特長を持つことから広く利用されている。ITO膜の比抵抗は、通常、5×10−5〜1×10−3Ω・cm程度、透過率は80〜90%である。
【0009】
ITO層の膜厚は、1nm〜200nmが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmである。1nmよりあまり薄いと、透明高分子フィルムと銀薄膜との密着性を十分に向上することができない。一方、膜厚が200nmよりあまり厚いと、ITO薄膜層の光の吸収により反射体としての反射率が低下するとともに、透明高分子フィルムに対する密着性が低下するので好ましくない。なお、光学計算により膜厚を最適化することも好ましい。
【0010】
ITO膜の成膜方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法といった従来公知の物理的気相成長法のいずれも採用できる。なかでもスパッタリング法は、膜中の酸素含有量の制御が容易に行えるため好適に使用できる。通常は、ITO膜はスパッタリングガスにアルゴン、反応性ガスに酸素を用いた反応性スパッタリング法により形成する。ITO膜の電気抵抗率が最小となるアルゴン・酸素分圧比が存在し、一般的にITO膜を形成する際にはアルゴン・酸素分圧比をその比抵抗が最小となるような値に制御して行い、低抵抗のITO膜を得ている。しかしながら、本発明者らは従来の電気抵抗率が最小となるアルゴン・酸素分圧比において形成したITO膜は、酸素欠陥等の構造欠陥を多く含み、化学的にも物理的にも不安定で、脆い膜であることを見いだした。耐環境性に優れるには、ITO膜が構造欠陥の少ない、安定な非晶質である必要がある。
【0011】
本発明者らはこのようなITO膜を得るには、スパッタリング法においてスパッタガスであるアルゴン・酸素の分圧比を、比抵抗が最小となるアルゴン・酸素分圧比よりも酸素を多くし、比抵抗1×10−2Ω・cm以上のITO膜を形成することが好ましいことを見いだした。酸素分圧を比抵抗が最小となる値よりも多くすることによって酸素欠陥等の構造欠陥の少ない安定な非晶質構造のITO膜が得られるのである。
【0012】
スパッタリング法においては、ターゲットにインジウム・スズ合金、あるいはインジウム・スズ酸化物を、スパッタガスにアルゴン等の不活性ガスを用い、反応性ガスに酸素を用い、通常圧力0.1〜20mTorr、成膜中の基体温度20〜150℃の条件下で、直流(DC)あるいは高周波(RF)マグネトロンスパッタ法が利用できる。
【0013】
透明非晶質ITO薄膜の組成は、電気特性や透過性に影響するが、通常インジウムに対するスズ含有量が3〜50重量%程度、またインジウム1原子に対する酸素原子数は1.3〜1.8倍程度である。
【0014】
上記の方法により形成した透明導電層の原子組成は、オージェ電子分光法(AES)、誘導結合プラズマ法(ICP)、ラザフォード後方散乱法(RBS)等により測定できる。また、これらの膜厚は、オージェ電子分光の深さ方向観察、透過型電子顕微鏡による断面観察等により測定できる。また、ITO膜の結晶性はX線回折法(XRD)や電子線回折法によって判定できる。
【0015】
本発明で言うところの非晶質のITO膜とは、θ−2θ法によるX線回折パターンにおいて、結晶質であることを示す2θ=30°〜31°のIn2 O3 (222)ピーク、及び2θ=35°〜36°のIn2 O3 (400)ピークを示さないものである。
【0016】
なお、非晶質ITO薄膜層と銀薄膜層の間に膜厚が0.1〜5nm程度のTi、W、Cu、V、Zn等の微量金属層を用いることは、銀薄膜層の光劣化を抑制する上で好ましい態様である。
【0017】
本発明で言うところの銀薄膜層とは、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等真空を用いて成膜するものであることが好ましい。真空蒸着法では、銀をルツボの中で、抵抗加熱や電子ビーム加熱で溶融させ、蒸気圧を上げて、所望する基板上に薄膜を形成する。スパッタリング法には、高周波スパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波マグネトロンスパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング法等がある。スパッタリング法では、固体の銀のターゲットを通常はアルゴンガスを1〜10mTorr程度真空容器内に導入してをスパッタガスとして用いるが、クリプトンやネオンを使用してもかまわない。ターゲットの銀の純度は特に限定するわけではないが、99.9%以上が好ましく、更に好ましくは99.99%以上である。
【0018】
銀薄膜層の厚さは、70nm〜300nmが好ましく、より好ましくは100nm〜200nmである。70nmよりあまり薄いと、銀の膜厚が十分でないために、透過する光が存在し、反射率が低下する。一方、膜厚を300nmを越えてあまり厚くしても反射率は上昇せず飽和傾向を示す上に、銀層の高分子フィルムに対する密着性が低下するので好ましくない。
【0019】
銀薄膜層を形成した後、さらに銀薄膜層の保護やフィルムの滑り性の向上の目的のため、インコネル、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、モリブデン、タングステン等の単金属もしくは合金の金属層を10nm〜30nm積層することが有効であることは、当業者が理解しているところである。
【0020】
上記金属層の膜厚の測定には、触針粗さ計、繰り返し反射干渉計、マイクロバランス、水晶振動子法等があるが、水晶振動子法では成膜中に膜厚測定が可能なので、所望の膜厚を得るのに適している。また、前もって成膜の条件を定めておき、試料基材上に成膜を行い、成膜時間と膜厚の関係を調べた上で、成膜時間により膜を制御する方法もある。
【0021】
本発明で用いられる接着剤(粘着剤も含む)としては、熱硬化型接着剤が適切で、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤、メラミン系接着剤、シリコン系接着剤、フェノール系接着剤、エポキシ系接着剤等の単体、または混合物があげられるが、必ずしもこれらの種類に限定されるわけではなく、実用上の接着強度があればいずれも使用できる。接着90℃以上で加熱後、180度ピール強度を測定して100g/cmあれば十分であり、好ましくは500g/cmであり、より好ましくは1000g/cmである。100g/cmに達しない場合には、反射体として曲率半径1〜5mm程度に曲げた時に、透明高分子フィルム側が支持体である金属板より浮き上がる等の事態を引き起こす。
【0022】
接着剤層の厚みは、0.5μm〜50μm、好ましくは、1μm〜20μmである。
接着剤の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、メイヤーバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法等があげられるが、これらは使用する接着剤の種類、粘度、塗布量、塗布速度、得られる面状態等を考慮して選定される。
接着剤の硬化に要する温度、時間等は接着剤により異なるが、80℃〜300℃、0.1秒〜2時間で、好ましくは100℃〜250℃、0.1秒〜10分である。
【0023】
支持体には、アルミニウム、アルミ合金、ステンレス鋼、鋼亜鉛合金、鋼等の金属板があげられる。これらの金属にはそれぞれ長所があり次の様に使い分けることができる。アルミニウムは軽量かつ加工性に優れ、また、熱伝導率が高くそれにかかる熱を効果的に大気に逃がすことができるため、ランプ発光によって反射板が加熱されるコピー機に好適に利用できる。アルミ合金は軽量かつ機械的強度が強いため、好適に利用できる。ステンレス鋼は機械的強度が高度にあり、また、耐蝕性に優れているため好適に利用できる。鋼亜鉛合金すなわち黄銅または真鍮は、機械的強度の強いことに加え、はんだ付けが容易なため、好適に利用できる。支持板の厚みは、0.1〜1mmが好ましい。
【0024】
150℃の加熱試験は、通常の電気炉で行うことができるものであって、雰囲気は大気中である。ここでいう大気中と言うのは、反射体が使用される通常の生活環境の範躊に入るものであり、特殊な環境を特定するものではない。
【0025】
本発明で言う反射板の反射率は、積分球を用いた反射率、即ち、正反射と拡散反射の和を示すものである。反射率は、例えば、日立の分光光度計U3400に積分球ユニットを装着したもので測定できる。
【0026】
【実施例】
以下実施例を用いて本発明について説明する。尚、実施例及び比較例中の反射率、比抵抗、及び結晶性は以下の方法で評価した。
1)反射率
反射率は、日立自動自記分光光度計(U−3400)に150φ積分球を設置し測定した。金属面でない側、つまり、高分子フィルム側からの反射率すなわち、鏡面反射率+拡散反射率を測定した。
2)比抵抗
比抵抗r[Ω・cm]は、シート抵抗R[Ω/□]と膜厚t[cm]の積、r=R×tにより求めた。シート抵抗値は4端子法で、膜厚は触針粗さ計にて求めた。
3)結晶性
結晶性は、θ−2θ法によるX線パターンをとり、2θ=30゜〜31゜のIn2 O3 (222)ピーク、及び2θ=35゜〜36゜のIn2 O3 (400)ピークの有無により判定した。
【0027】
(実施例1)
ポリエーテルサルフォンフィルム(三井東圧TALPA1000:厚さ50μm)にDCマグネトロンスパッタ法で、酸化インジウムと酸化スズ(組成比In2 O3 :SnO2 =80:20WT%)の焼結体をターゲットとし、純度99.5%のアルゴンをスパッタガスとして、純度99.5%の酸素を反応性ガスとしてITOを膜厚70nmになるように形成した。このとき全圧266mPaに対して酸素分圧を13.3mPa(酸素濃度5%)とし高酸素濃度雰囲気とした。そのフィルムをスパッタ装置から取り出し、ITO薄膜の比抵抗を求めたところ4.5×10−2Ω・cmであった。また、X線回折法にて結晶性を調べたところ非晶質であった。上記操作をやり直してITOをポリプロピレンフィルム上に成膜し、今度は真空装置から取り出すことなく、純度99.9%の銀をターゲットとし、純度99.5%のアルゴンをスパッタガスとして、さらに銀を150nm厚積層した。バーコート法にてエポキシ樹脂接着剤を塗布し、厚さ0.2mmのアルミニウム板とラミネートして反射板が得られた。
【0028】
(実施例2)
フィルムにポリエーテルエーテルケトン(三井東圧TALPA2000:厚さ50μm)を使用し、酸素分圧を21.3mPa(酸素濃度8%)とする以外は実施例1と同じ方法で反射板を作製した。ITO薄膜の比抵抗は8.9Ω・cmであり、また非晶質であった。
【0029】
(比較例1)
ポリエーテルサルフォン(三井東圧TALPA1000:厚さ50μm)にDCマグネトロンスパッタ法で、純度99.9%の銀をターゲットとし、純度99.5%のアルゴンをスパッタガスとして、銀を150nm厚積層した。バーコート法にてエポキシ樹脂接着剤を塗布し、厚さ0.2mmのアルミニウム板とラミネートして反射板が得られた。
【0030】
(比較例2)
フィルムにポリエーテルエーテルケトン(三井東圧TALPA2000:厚さ50μm)を使用する以外は比較例1と同じ方法で反射板を作製した。
【0031】
上記、実施例1、2で作製した試料と、比較例1、2で作製した試料を、150℃に設定した電気炉に設置し、500時間保持後取り出し、反射率の測定を行い、加熱前後での反射率の測定を行った。その結果を表1に示す。
また、実施例1、2で作製した試料と、比較例1、2で作製した試料を、150℃に加熱した台に置き、100Wのハロゲンランプを薄膜から10cm離したところに設置し、光照射と加熱を同時に行い銀薄膜の安定性を反射率を測定することにより加熱前および500時間後の反射率を評価した。その結果を表2に示す。なお、示した値は表1、表2共に波長550nmに於ける反射率である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【発明の効果】
透明高分子フィルム(A)、銀薄膜層(C)の間に、好ましくは高酸素濃度雰囲気下においてスパッタリングにより成膜した、比抵抗が1×10−2Ω・cm以上の非晶質の主としてインジウムとスズからなる酸化物層(B)を用いて、かつ接着層に熱硬化型接着剤を用い、金属板にラミネートすることにより、高温環境下においても安定な反射板を得ることができた。これにより、該反射板を150℃の温度において500時間大気中で加熱を行った後も、90%以上の反射率を保ち複写機に好適に使用できる反射板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反射板の一例を示す断面図
【符号の説明】
10 透明高分子フィルム
20 主としてインジウムとスズからなる酸化物層
30 銀薄膜層
40 接着層
50 支持体
Claims (3)
- 少なくとも、透明高分子フィルム(A)、主としてインジウムとスズからなる酸化物層(B)、銀薄膜層(C)、接着層(D)、支持体(E)からなる構成ABCDEの透明高分子フィルム側を反射面とする反射板にして、酸化層(B)が高酸素濃度雰囲気下でスパッタリング法により形成された比抵抗1×10 -2 Ω・ cm 以上かつ非晶質の薄膜層であり、150℃の温度において500時間大気中で加熱を行った後においても高分子フィルム側から測定した波長550nmにおける反射率が90%以上である反射板。
- 透明高分子フィルム(A)が、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、またはポリアリレートである請求項1記載の反射板。
- 接着層(D)が、熱硬化型接着剤である請求項1〜2のいずれかに記載の反射板。
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