JP3543933B2 - インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を介して圧電素子を設けて、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
また、この場合、圧電材料層は振動板の表面全体に設けたままで少なくとも上電極のみを各圧力発生室毎に設けることにより、各圧力発生室に対応する圧電素子を駆動することができるが、単位駆動電圧当たりの変位量及び圧力発生室に対向する部分とその外部とを跨ぐ部分で圧電体層へかかる応力の問題から、圧電体層及び上電極からなる圧電体能動部を圧力発生室外に出ないように形成することが望ましい。
【0008】
そこで、各圧力発生室に対応する圧電体能動部から、例えば、圧電体層及び上電極を圧力発生室外に延設する構造が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の構造では、圧電体層及び上電極の引き出し側で振動板の剛性が低下し、圧力発生室の圧電体能動部端部の応力が大きくなり、圧電体層が破壊するという問題がある。
【0010】
また、ゾル−ゲル法で圧電体層を形成した場合、下電極除去部周辺で圧電体層の膜厚が薄くなり、下電極のパターンの端部で圧電体能動部が絶縁破壊を起こしてしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、圧電体層及び上電極を周壁上まで延設し且つ周壁との境界部分での圧電体層の破壊を防止したインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極が何れにも電気的に接続されていないことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0013】
かかる第1の態様では、圧電体層及び上電極が圧力発生室外の領域に引き出される部分の振動板の剛性が高く保持され、この部分での振動板及び圧電体層の破壊が防止される。
【0014】
本発明の第2の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極は、充電される時定数が駆動パルスよりも大きくなるように抵抗に接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0015】
かかる第2の態様では、圧電体層及び上電極が圧力発生室外の領域に引き出される部分の振動板の剛性が高く保持され、この部分での振動板及び圧電体層の破壊が防止される。また、不連続下電極と下電極とが確実に絶縁され、不連続下電極が過度の電位を持つのを妨げられる。
【0016】
本発明の第3の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極が、前記圧力発生室の長手方向に前記各圧電体能動部毎に分離されており、それぞれ前記各圧電体能動部の前記上電極と接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0017】
かかる第3の態様では、圧電体層及び上電極が圧力発生室外の領域に引き出される部分の振動板の剛性が高く保持され、この部分での振動板及び圧電体層の破壊が防止される。また、効率よく配線を引き出すことができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記各不連続下電極及び前記下電極が、それぞれ絶縁可能な程度の間隔を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0019】
かかる第4の態様では、各圧電体能動部が確実に駆動され、吐出特性が良好に保持される。
【0020】
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様において、隣接する前記不連続下電極の間には、何れにも接続されない中間電極を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0021】
かかる第5の態様では、下電極膜の除去を最小限に抑えることができ、より確実に振動板の剛性を高く保持することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記不連続下電極は、前記下電極の前記圧力発生室の長手方向端部近傍に設けられて少なくとも前記圧力発生室の並設方向に延びる下電極除去部によって、前記下電極と不連続となっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0023】
かかる第6の態様では、不連続下電極と下電極との間隔が狭くでき、振動板の剛性をより高く保持される。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記不連続下電極の前記下電極とは反対側の前記周壁上には、前記不連続下電極と不連続であり且つ一端が外部配線に接続される配線用下電極が前記各圧電素子毎に設けられており、前記圧電体層及び前記上電極は前記配線用下電極まで延設され、当該上電極が前記配線用下電極に接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0025】
かかる第7の態様では、圧電体能動部から配線を容易且つ効率よく引き出すことができる。
【0028】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記圧電素子に対応する領域以外の前記下電極膜除去部の少なくとも一部に、前記圧電体層が残留されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0029】
かかる第8の態様では、不連続除去部及び下電極が確実に絶縁され、信頼性を向上することができる。
【0030】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が薄膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0031】
かかる第9の態様では、高密度のノズル開口を有するインクジェット式記録ヘッドを大量に且つ比較的容易に製造することができる。
【0032】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかのインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0033】
かかる第10の態様では、ヘッドの特性が向上し、信頼性を向上したインクジェット式記録装置を実現することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、その平面図及び1つの圧力発生室の長手方向における断面図である。
【0036】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0037】
流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0038】
一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。
【0039】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板を水酸化カリウム等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0040】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
【0041】
一方、各圧力発生室12の一端に連通する各ノズル開口11は、圧力発生室12より幅狭で且つ浅く形成されている。すなわち、ノズル開口11は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0042】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0043】
また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、後述する封止板20の各圧力発生室12の一端部に対応する位置にそれぞれ形成されたインク供給連通口21を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口21を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0044】
封止板20は、前述の各圧力発生室12に対応したインク供給連通口21が穿設された、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10−6/℃]であるガラスセラミックスからなる。なお、インク供給連通口21は、図3(a),(b)に示すように、各圧力発生室12のインク供給側端部の近傍を横断する一のスリット孔21Aでも、あるいは複数のスリット孔21Bであってもよい。封止板20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、封止板20は、他面で共通インク室31の一壁面を構成する。
【0045】
共通インク室形成基板30は、共通インク室31の周壁を形成するものであり、ノズル開口数、インク滴吐出周波数に応じた適正な厚みのステンレス板を打ち抜いて作製されたものである。本実施形態では、共通インク室形成基板30の厚さは、0.2mmとしている。
【0046】
インク室側板40は、ステンレス基板からなり、一方の面で共通インク室31の一壁面を構成するものである。また、インク室側板40には、他方の面の一部にハーフエッチングにより凹部40aを形成することにより薄肉壁41が形成され、さらに、外部からのインク供給を受けるインク導入口42が打抜き形成されている。なお、薄肉壁41は、インク滴吐出の際に発生するノズル開口11と反対側へ向かう圧力を吸収するためのもので、他の圧力発生室12に、共通インク室31を経由して不要な正又は負の圧力が加わるのを防止する。本実施形態では、インク導入口42と外部のインク供給手段との接続時等に必要な剛性を考慮して、インク室側板40を0.2mmとし、その一部を厚さ0.02mmの薄肉壁41としているが、ハーフエッチングによる薄肉壁41の形成を省略するために、インク室側板40の厚さを初めから0.02mmとしてもよい。
【0047】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体膜70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体膜70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体膜70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体膜70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0048】
ここで、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10上に、圧電体膜70等を形成するプロセスを図4〜図6を参照しながら説明する。なお、図4及び図6は、圧力発生室12の幅方向の断面図であり、図5は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。
【0049】
まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0050】
次に、図4(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成する。下電極膜60の材料としては、白金等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体膜70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0051】
次に、圧力発生室12の長手方向の断面図である図5に示すように、下電極膜60を所定の形状にパターニングする。すなわち、下電極膜60の圧力発生室12の一端部近傍に対向する領域に、例えば、圧力発生室12の並設方向に、その側壁に沿って所定幅の下電極膜除去部330を設けることにより、圧力発生室12の端部と周壁との境界部分に下電極膜60とは不連続の不連続下電極膜61を形成する。また、これと共に周壁に対向する領域の下電極膜60をパターニングして各圧力発生室12に対応してそれぞれ独立した配線用下電極膜62を形成する。
【0052】
次に、図4(c)に示すように、圧電体膜70を成膜する。本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体膜70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成した。圧電体膜70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体膜70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0053】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0054】
次に、図4(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0055】
その後、図6(a)に示すように、圧電体膜70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電体能動部320のパターニングを行う。以上が膜形成プロセスである。また、このようにして膜形成を行った後、図6(b)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12等を形成する。
【0056】
このように形成されたインクジェット式記録ヘッドの要部平面及び断面を図7に示す。
【0057】
図7に示すように、圧電体能動部320は基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられ、圧電体膜70及び上電極膜80が圧力発生室12の長手方向一端部から周壁に対向する領域まで連続的に延設されている。また、下電極膜60は、並設された複数の圧力発生室12に対応する領域に亘って設けられている。
【0058】
また、圧力発生室12の圧電体膜70及び上電極膜80が延設される側の端部近傍には、下電極膜60が除去された下電極膜除去部330が、例えば、圧力発生室12の形状に沿ってその並設方向に延びる細溝状に設けらており、圧力発生室12の端部と周壁との境界部分の下電極膜は、圧電体能動部の下電極膜60とは不連続な不連続下電極膜61となっている。
【0059】
ここで、下電極膜60と不連続下電極膜61とを分離する下電極膜除去部330の幅は、少なくとも下電極膜60と不連続下電極膜61との絶縁強度を保持可能な幅とする必要があるが、できるだけ狭い幅として振動板の剛性を保持することが好ましい。
【0060】
また、この不連続下電極膜61の圧力発生室12とは反対側の周壁上には、下電極膜60とは不連続で、一端が図示しない外部端子に接続されるリード電極として用いられる配線用下電極膜62が設けられている。この配線用下電極膜62は、下電極膜除去部330によって不連続下電極61とは不連続となり、各圧電体能動部320毎にパターニングされている。そして、圧電体膜70及び上電極膜80がこの配線用下電極膜62まで延設されており、連結配線90によって上電極膜80と配線用下電極膜62とが接続されている。
【0061】
これにより、不連続下電極膜61は、本実施形態では、他の何れにも電気的に接続されないフローティング電極となり、下電極膜60上に存在する圧電体膜70及び上電極膜80が実質的な駆動部となる圧電体能動部320を構成し、不連続下電極膜61上の圧電体膜70及び上電極膜80は強く駆動されることがない。
【0062】
このような構成により、圧力発生室12と周壁との境界部分は、圧電体能動部320への電圧印加によっても強く駆動されることがないため、圧力発生室12の長手方向端部での振動板の剛性が高く、この部分での振動板の破壊あるいは圧電体膜70の破壊等を防止することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、不連続下電極膜61を複数の圧力発生室12の並設方向に亘って形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図8に示すように、各圧電体能動部320毎に分離するようにしてもよい。これにより、不連続下電極61上の圧電体膜70及び上電極膜80が完全に駆動されることがなく、振動板又は圧電体膜70の破壊等をより確実に防止することができる。
【0064】
また、本実施形態では、不連続下電極膜61を、他の部分とは電気的に接続されることのないフローティング電極としたが、これに限定されず、例えば、充電される時定数が圧電体能動部320の駆動パルスよりも大きくなるように、所定の抵抗値の抵抗を介して電極層と接続するようにしてもよい。
【0065】
以上説明した圧電体能動部320及び圧力発生室12等の一連の膜形成及び異方性エッチングは、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。また、分割した流路形成基板10を、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0066】
また、このように構成したインクジェットヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口42からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、上電極膜80と下電極膜60との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体膜70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0067】
(実施形態2)
図9は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。
【0068】
本実施形態では、図9に示すように、不連続下電極膜61は、圧力発生室12の端部近傍に下電極膜除去部330が圧力発生室の並設方向に直線的に設けられて下電極膜60と不連続となっている。また、下電極膜除去部330は各圧力発生室12の幅方向の周壁上で圧力発生室12の長手方向に延設されており、不連続下電極膜61が各圧電体能動部320に対応して分離されている。すなわち、これらの分離された不連続下電極膜61は、それぞれ、各圧電体能動部320に対応する配線を構成するようにパターニングされた状態で残存されている。
【0069】
ここで、各不連続下電極膜61を分離する下電極膜除去部330の幅は、少なくともこれらの絶縁強度を保持可能な程度の狭い幅で形成されている。勿論、下電極膜60及び不連続下電極膜61も、実施形態1と同様、絶縁強度が保持されている。
【0070】
また、各圧電体能動部320から延設された圧電体膜70及び上電極膜80は、この不連続下電極膜61上まで延設され、上電極膜80と不連続下電極膜61とが連結配線90によって接続されている。そして、この不連続下電極膜61は、その端部近傍で外部配線と接続されており、リード電極として使用されている。
【0071】
このような構成では、不連続下電極膜61を有効に利用することができ、製造工程の簡略化及び製造コストの低減を図ることができる。勿論、本実施形態においても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0072】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。
【0073】
本実施形態は、図10に示すように、各不連続下電極膜61の間に下電極膜除去部330によって分離され他の何れにも接続されない中間電極膜340が設けられている以外は、実施形態2と同様の構成である。
【0074】
このような構成により、各不連続下電極膜61を分離する下電極膜除去部330の幅を狭くすることができる。すなわち、各不連続下電極膜61の間には中間電極膜340が設けられているため、下電極膜除去部330の幅を狭くしてもこれらの絶縁強度を確実に保持することができる。これにより、振動板の剛性がより高くなり、上述の実施形態と同様、圧力発生室12と周壁との境界部分で、振動板の破壊あるいは圧電体膜70の破壊等を防止することができる。
【0075】
なお、上述の実施形態では、下電極膜60及び不連続下電極膜61の間の下電極膜除去部330は、各下電極膜60及び不連続下電極膜61間の絶縁強度を保持可能な程度の幅で形成されているが、例えば、図11に示すように、圧電素子300の幅方向両側等の絶縁破壊の起こりやすい部分に、例えば、上電極膜80を除去して、実質的に駆動されない圧電体膜70を残留させた不活性部350を設けるようにしてもよい。これにより、さらに確実に絶縁強度を保持することができる。なお、勿論、圧電体膜70が駆動されなければ、上電極膜80を除去しなくてもよいことは言うまでもない。
【0076】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0077】
例えば、上述した封止板20の他、共通インク室形成板30をガラスセラミックス製としてもよく、さらには、薄肉膜41を別部材としてガラスセラミックス製としてもよく、材料、構造等の変更は自由である。
【0078】
また、上述した実施形態では、ノズル開口を流路形成基板10の端面に形成しているが、面に垂直な方向に突出するノズル開口を形成してもよい。
【0079】
このように構成した実施形態の分解斜視図を図12、その流路の断面を図13にぞれぞれ示す。この実施形態では、ノズル開口11が圧電振動子とは反対のノズル基板120に穿設され、これらノズル開口11と圧力発生室12とを連通するノズル連通口22が、封止板20,共通インク室形成板30及び薄肉板41A及びインク室側板40Aを貫通するように配されている。
【0080】
なお、本実施形態は、その他、薄肉板41Aとインク室側板40Aとを別部材とし、インク室側板40Aに開口40bを形成した以外は、基本的に上述した実施形態と同様であり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0081】
勿論、以上説明した各実施形態は、適宜組み合わせて実施することにより、より一層の効果を奏するものであることは言うまでもない。
【0082】
また、以上説明した各実施形態は、成膜及びリソグラフィプロセスを応用することにより製造できる薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、基板を積層して圧力発生室を形成するもの、あるいはグリーンシートを貼付もしくはスクリーン印刷等により圧電体膜を形成するもの、又は水熱法等の結晶成長により圧電体膜を形成するもの等、各種の構造のインクジェット式記録ヘッドに本発明を採用することができる。
【0083】
このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。
【0084】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図14は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0085】
図14に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0086】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモータの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0087】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、圧電体能動部から延設される圧電体膜の下側に、圧電体能動部の下電極膜とは不連続の不連続下電極膜を設けるようにしたので、圧力発生室の端部と周壁との境界部分での振動板の剛性が高くなり、この部分での振動板の破壊あるいは圧電体層の破壊を防止することができる。また、圧電体層の膜厚が均一となり、絶縁耐圧の低下を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の平面図及び断面図である。
【図3】図1の封止板の変形例を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図8】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図10】本発明の実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
12 圧力発生室
50 弾性膜
60 下電極膜
61 不連続下電極膜
62 配線用下電極膜
70 圧電体膜
80 上電極膜
300 圧電素子
320 圧電体能動部
330 下電極膜除去部
340 中間電極膜
350 不活性部
Claims (10)
- ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極が何れにも電気的に接続されていないことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極は、充電される時定数が駆動パルスよりも大きくなるように抵抗に接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に設けられた下電極、該下電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層の表面に設けられた上電極からなり、前記圧力発生室に対向する領域に実質的な駆動部となる圧電体能動部を有する圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記圧電体能動部を構成する前記圧電体層及び前記上電極が前記圧力発生室に対向する領域内から領域外まで延設されており、前記圧力発生室の端部と周壁との境界部分に対向する領域の前記圧電体層の下側には、前記下電極とは不連続の不連続下電極が設けられ、且つ該不連続下電極が、前記圧力発生室の長手方向に前記各圧電体能動部毎に分離されており、それぞれ前記各圧電体能動部の前記上電極と接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 請求項3において、前記各不連続下電極及び前記下電極が、それぞれ絶縁可能な程度の間隔を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項3又は4において、隣接する前記不連続下電極の間には、何れにも接続されない中間電極を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜5の何れかにおいて、前記不連続下電極は、前記下電極の前記圧力発生室の長手方向端部近傍に設けられて少なくとも前記圧力発生室の並設方向に延びる下電極除去部によって、前記下電極と不連続となっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜6の何れかにおいて、前記不連続下電極の前記下電極とは反対側の前記周壁上には、前記不連続下電極と不連続であり且つ一端が外部配線に接続される配線用下電極が前記各圧電素子毎に設けられており、前記圧電体層及び前記上電極は前記配線用下電極まで延設され、当該上電極が前記配線用下電極に接続されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜7の何れかにおいて、前記圧電素子に対応する領域以外の前記下電極膜除去部の少なくとも一部に、前記圧電体層が残留されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜8の何れかにおいて、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が薄膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜9の何れかのインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
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