JP3540561B2 - カチオン可染性ポリエステル繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン染料により染色可能なだけでなく、高温処理した後でも潜在収縮力が残存し、最終的な布帛においても充分な風合効果が得られるような高収縮性能を有し、しかも繊維の強度・伸度特性にも優れるカチオン可染性改質ポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維は、耐熱性、耐薬品性及び機械的性質などに優れているので、衣料用途や産業用途に広く利用されている。しかしながらその反面、ポリエチレンテレフタレート繊維は他の繊維と比較して、繊維構造が強固であるため、染色は高温高圧下で行わねばならないという短所を持っている。
【0003】
ポリエステルの染色性改良の目的で、ポリエステルポリマーの改質により染色性を向上させる方法は数多く検討されている。例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分をポリエステルに共重合させることにより、鮮明性の高いカチオン染料で染色する方法が知られている(特公昭34−10497号公報参照)。更に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分等のカチオン可染成分に加えて、アジピン酸、イソフタル酸等他の成分を共重合することにより、常圧でカチオン染料にも染色可能なポリエステル繊維も得られている。例えば、特公昭57−32139号公報では、金属スルホネート基含有イソフタル酸に加えて、ランダム共重合タイプのジカルボン酸を共重合成分にすることにより、カチオン染料に常圧染色可能なポリエステル繊維を得ている。また、特開平8−269820号公報では、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分とアジピン酸成分を共重合したポリマーを、巻取速度5500〜9000m/分の高速で紡糸することにより、分散染料及びカチオン染料に常圧染色可能なポリエステル繊維を得ている。
【0004】
一方、近年の消費者ニーズの多様化の中で、上記例のようにカチオン染料に染色可能な性能に加えて、高収縮性能を有するいわゆるカチオン可染型高収縮性ポリエステル繊維への要求が高まってきた。
高収縮繊維とは、2本以上の糸条を流体処理、あるいは合糸により嵩高糸や潜在捲縮糸を得るときに、その特徴をより大きくするために収縮率の異なった原糸を用いるのであるが、この時の収縮率の大きい原糸を言う。
【0005】
カチオン可染型高収縮性ポリエステル繊維のこれまでの例としては、特公昭58−30412号公報に示されたメタ・ソジウムスルホイソフタル酸成分を3モル%以上、かつ他の共重合成分とメタ・スルホイソフタル酸成分の合計が5〜20モル%の共重合ポリエステルの高収縮繊維がある。しかし、この繊維はステープルファイバーであり、該ポリマーをフィラメントにした場合には、メタ・ソジウムスルホイソフタル酸成分の共重合量が多すぎる為、ポリエステルフィラメントとしては繊維強度が不十分になってしまう。
【0006】
一方、通常のポリエステル繊維から収縮率の大きい原糸を得る方法として延撚工程に於いて熱セットを施さない方法があり、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したカチオン可染型改質ポリエステル繊維についても、この方法で収縮率を大きくすることが可能である。
しかしながら、近年の工程合理化技術では特に糸を布帛にする際の高速化が要望されており、そのため各工程における熱処理も高温の条件が採用されている。例えば、糊付工程ではその乾燥工程の効率アップのため100℃〜150℃といった乾燥温度が用いられており、その他撚止セット、WJL製織による生機乾燥等の工程で高温の条件を採用し、工程の高速化に対応しているのが現状である。しかるに、従来の公知の手法で作ったカチオン可染型高収縮ポリエステル糸はこういった高温処理により、潜在収縮力が発現しきってしまい、その後の例えば染色仕上げ工程での熱処理では目的とする収縮力が発現せず、いわゆるヘタリのある布帛しか得られないという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、カチオン染料により染色可能なだけでなく、高温処理した後でも潜在収縮力が残存し最終布帛で充分な風合効果が得られるような高収縮性能を有し、しかも繊維の強度・伸度特性にも優れているカチオン可染性ポリエステル繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記本発明の課題は、ジカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.8〜1.8モル%、アジピン酸成分を7〜17モル%共重合し、繰り返し単位の81.2〜92.2モル%がエチレンテレフタレートであるポリエステルからなり、下記の要件(a),(b),(c)を満足することを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維、上記ポリエステルを、1,200〜3,000m/分の速度で紡糸して未延伸糸とし、残留伸度が25%〜35%になる倍率で延伸し、100℃〜150℃の熱板で熱セットすることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維の製造方法およびこの製造方法で得られ、下記の要件(a),(b),(c)を満足することを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維によって解決することができる。
(a)繊維の密度が1.372以下であること。
(b)DS×√DE≧20であること。
(但し、DSは繊維強度(g/d)、DEは破断伸度(%)を示す)
(c)120℃熱水収縮率(繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施した後の高圧下120℃の熱水で60分間処理したときの収縮率)が9%以上であること。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明におけるポリエステルポリマーについて説明する。
本発明でのポリエステルは、繰り返し単位の81.2〜92.2モル%がエチレンテレフタレートであり、ジカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が0.8〜1.8モル%、アジピン酸が7〜17モル%共重合されたものである。
【0010】
カチオン可染型ポリエステル繊維のカチオン可染性は、ダイサイトである5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量に依存する。しかしながら、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合が多すぎると、100%ポリエチレンテレフタレート繊維と比較して繊維強度が大きく低下してしまい、加工工程を限定せざるをえなくなる。このことから、本発明者等は5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量を極力減らすことを考えた。そこで、従来のカチオン可染型ポリエステル繊維のカチオン可染性と十分な繊維強度を維持するために、アジピン酸を共重合することを考えた。
ポリエステルの染色温度は、通常高圧下の120〜130℃であり、従来のカチオン可染型ポリエステル繊維についても同様である。120〜130℃での高圧染色では確かに、100℃の常圧染色と比較した場合には、染色レベルは十分に上がっているが、染着座席の全てが埋まっている状態ではない。すなわち、アジピン酸のような屈曲性のモノマーの共重合により、100℃での常圧染色だけでなく、120〜130℃の高圧染色においても、染色時にポリマー分子の運動性が活発化され、分子間空隙部が多くなり、その結果染料分子の染着座席への到達確率が高くなり、染料反応率即ち染色性が上がる。我々は上記の事実を突き止め、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量を減らしても、アジピン酸のような屈曲性のモノマーを追加することにより、染色性を維持できることを確認した。
【0011】
そして、本発明のポリエステル繊維を良好に製造するためには、ポリエチレンテレフタレートへのアジピン酸成分の共重合量を7〜17モル%にする必要がある。アジピン酸成分の共重合量が7モル%未満であると、120℃熱水収縮率(繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施した後の、高圧下120℃の熱水で60分間処理した時の収縮率)が9%未満となり、繊維製織後の実際の染色仕上工程における熱処理で目的とする収縮力が発現せず、ふくらみ感のある布帛が得られない。一方、アジピン酸の共重合量が17モル%を越えると、ポリエステルポリマーのガラス転移温度が著しく低下し、紡糸した後の未延伸糸のフィラメント間で融着を起こし、未延伸糸を解舒できず延伸糸とすることが不可能になる。
【0012】
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分の共重合量は0.8〜1.8モル%にする必要がある。5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分の共重合量が1.8モル%を越えると、本発明のポリエステル繊維の繊維強度と破断伸度の平方根との積が20未満となり、製織工程等での擦過に耐えられなくなり、糸切れ及び毛羽の発生といったトラブルの原因となる。0.8モル%未満であると、実用上カチオン染色が不可能なレベルまでカチオン可染性が低下する。
【0013】
本発明において、共重合させるアジピン酸成分は、ポリエステルポリマーを合成する任意の段階において添加できるが、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応開始時にアジピン酸の粉体を添加する方法、およびテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応によって、またはジメチルテレフタレートとエチレングリコールとのエステル交換反応によって得られるビスヒドロキシエチルテレフタレートに、アジピン酸またはビス(2−ヒドロキシ)アジペートの分散液または溶液として添加する方法が一般的である。
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分についても、アジピン酸と同様にポリマーを合成する任意の段階で添加でき、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応開始時に5−ナトリウムスルホイソフタル酸の粉体を添加する方法、及びジメチルテレフタレートとエチレングリコールとのエステル交換反応開始時にそれのジメチルエステルとして添加する方法が一般的である。
なお、本発明のポリエステル繊維を得るためのポリエステルポリマーには、適当な艶消剤、易滑剤、顔料等の添加剤が含有されていてもよい。
【0014】
次に、上述のポリエステルポリマーから本発明のポリエステル繊維を製造する方法について説明する。
本発明のポリエステル繊維を得るための製造方法は、紡速1,200〜3,000m/分の速度で紡糸して未延伸糸とし、残留伸度が25%〜35%になる倍率で延伸し、100℃〜150℃の熱板で熱セットする方法である必要があり、以下にその理由を示す。
紡速が1,200m/分未満であると生産性の低下を招き、3,000m/分を越えると巻取りが困難になる。また、延伸倍率については、残留伸度が25%未満になる延伸倍率では、延伸工程における糸切れが多発し、残留伸度が35%を越える延伸倍率では、十分な構造歪を発生できず、繊維の収縮特性の低下を招く。熱セット温度については、100℃未満であると、製品の熱による品質が不安定化し、150℃以上であると、繊維の収縮特性の低下を招く。
【0015】
さらに、このようにして製造されたポリエステル繊維は、まず(a)その密度が1.372以下でなければならない。密度が1.372を越えることは、後述のように紡糸および延伸工程において発生する構造歪が十分でないことを意味し、仕上工程等における熱処理で収縮力が得られなくなる。
また、得られたポリエステル繊維の強度、DS(g/d)と伸度、DE(%)の平方根との積(DS×√DE)が20以上である必要がある。この値が20未満では、製織工程等での擦過に耐えられなくなり、糸切れ及び毛羽の発生といったトラブルの原因となる。
また、得られた繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施したのち、この繊維を高圧下120℃の熱水で60分間処理したときの収縮率(120℃熱水収縮率)が9%以上であることが好ましい。この120℃熱水収縮率が9%未満では、仕上工程等での熱処理において目的とする収縮力が得られず、ふくらみ感のある布帛が得られなくなる。
【0016】
さらに本発明のポリエステル繊維は、中空部を有しない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよく、また、繊維の断面形状や中空部の形状は円形であっても異形であってもよい。
【0017】
このようにして得られた本発明のポリエステル繊維は、糊付工程、染色工程などの種々の仕上工程での100℃を越える高温の熱処理を受けても、高い潜在収縮力を残しており、最終の布帛で十分な風合を有するものとなる。以下、その理由を詳しく説明する。
【0018】
本発明者等は、通常の5−ナトリウムスルホイソフタル酸のみを共重合したポリエステルから公知の手法で得られた高収縮糸を用いると、その熱収縮挙動が図1のグラフの▲2▼に示す様な挙動であることをつきとめた。この時の収縮挙動は、まず試料を綛の状態にし、その一端を固定フックに掛け、その下端に0.05g/dの荷重を掛け、綛の全長(1)を測定する。次にその状態のまま乾熱ルームにより100℃×1分の熱処理を施し、その綛長(11)を測定する。更にこの試料を125℃×1分の処理をし綛長(12)を測定する。以下同様に150℃×1分(13)、175℃×1分(14)、200℃×1分(15)の時の綛長をそれぞれ測定し、収縮率(%)=(1−11〜5/1)×100の式により各々温度処理時の収縮率を測定する。
図1のグラフの▲2▼に示したように、延伸工程において熱セットを施さない方法で得られた従来糸は、100℃以下の収縮率は高いが、それ以上の各温度での収縮率は低くなっている。すなわち、実際の製織準備工程である糊付工程などの乾燥時に、例えば125℃の熱処理を受けると、200℃迄の残留収縮量は僅か4%内外であることが理解できる。
【0019】
一方、本発明のポリエステル繊維について同様に収縮挙動を測定したところ、図1のグラフの▲1▼の様な傾向を示した。
これによると、125℃の熱を受けた後200℃まで昇温する場合でも、さらに10%強の収縮率を得ていることがわかる。
本発明のポリエステル繊維が図1のグラフの▲1▼に示されるような収縮挙動を示すことは、120℃熱水収縮率(繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施した後の、高圧下120℃の熱水で60分間処理をした時の収縮率)が9%以上であることに対応している。
【0020】
このように、ポリエステル繊維の120℃熱水収縮率が9%以上であることは、図1のグラフの▲1▼に示されるように、十分な潜在収縮力を残していることになり、これによって、製織後の実際の染色仕上工程における熱処理で目的とする収縮力が発現でき、ふくらみ感のある布帛が得られることになる。
本発明において、ポリエステル繊維の収縮特性が向上するのは、共重合により繊維を構成するポリマー構造が乱れ、紡糸及び延伸工程において発生する構造歪が大きくなるためである。すなわち、アジピン酸の共重合量を高くすることによって、紡速1,200〜3,000m/分の速度で紡糸して未延伸糸とし、残留伸度が25%〜35%になる倍率で延伸し、100℃〜150℃の熱板で熱セットして得た繊維の密度を1.372以下にすることができ、収縮特性の起因となる構造歪を十分に大きくできるのである。該繊維の密度が1.372以下であることは、紡糸及び延伸工程において発生する構造歪を十分大きくすることを意味しており、昇温収縮挙動は図1のグラフの▲1▼のようになり、製織後の実際の染色仕上工程における熱処理で目的とする収縮力を発現でき、ふくらみ感のある布帛が得られることとなる。
【0021】
また、本発明のポリエステル繊維は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分の共重合によって、カチオン染料により良好に染色可能となる。さらに、本発明のポリエステル繊維は、加工工程での強度低下も小さく、製織後の残留収縮力も大きいことから、流体処理などによる混織嵩高糸や潜在捲縮糸を得る際のカチオン可染型高収縮成分として好適である。
【0022】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の部は重量部を意味し、また、表中の○、△、×の印は各々、良好、やや良好、不良であることを示す。
(ガラス転移温度及び融点)
セイコー電子工業社製DSC220を用いて、昇温速度10℃/分で測定した値である。
(繊維の強度及び伸度)
島津製作所社製オートグラフSD−100−Cを用いて、試料長200mm、引張速度200mm/分で応力−伸長曲線を測定し、繊維の破断点の強度及び伸度を求めた。
(繊維の熱水収縮率(BWS))
原糸を綛取し、0.05g/dの荷重下での綛長がL0の試料を、無荷重下沸騰水中(100℃)で30分間処理し、処理前と同荷重での綛長L1を求め、以下の式により算出した。
BWS(%)=(L0−L1/L0)×100
【0023】
(繊維の密度)
繊維を200〜300dの束にして結び目を作り両端を切断して密度測定用試料とし、該試料を30℃でn−ヘプタン/四塩化炭素系の密度勾配管に投入し測定した値である。
(120℃熱水収縮率)
張力0.07g/d、温度120℃、時間0.2秒での熱処理を、図2に示すように行った。すなわち、パーン1から送り出されたポリエステル繊維2を供給ローラ3に巻回したのち、120℃の温度に加熱された熱板4の表面に接触させつつ走行させ、巻取ローラ5に巻回して巻き取るようにし、供給ローラ3の回転速度によりも巻取ローラ5の回転速度をわずかに遅くする方法によって行い、熱処理された繊維を綛取し、0.05g/dの荷重下での綛長がL0の試料を、高 圧下熱水中(120℃)で30分間処理し、処理前と同荷重での綛長L1を求め、以下の式により算出し た。
120℃熱水収縮率(%)=(L0−L1/L0)×100
【0024】
(カチオン可染性)
繊維の筒編地を以下の条件で染色し、比較例1に示した従来のカチオン可染型高収縮糸と比較して染色レベルを評価した。
【0025】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート(以下DMTと称す)100部、5−ナトリウムスルホキシジメチルイソフタレート(以下DMSと称す)1.68部(1.0モル%対全酸成分)、エチレングリコール75部をエステル交換釜に仕込み、150〜230℃にてエステル交換反応を行った。引き続き、得られた反応生成物を重合釜に供給し、ビス(2−ヒドロキシエチル)アジペート/エチレングリコール(以下ADEと称す)=2/1の溶液15.8部(8モル%対全酸成分)を添加し、さらにトリメチルフォスフェイトを全酸成分に対して0.06重量%、三酸化アンチモン及び艶消剤として酸化チタンを、生成ポリエステルに対して0.04重量%及び0.5重量%となるよう各々エチレングリコール溶液または分散液として加え、反応温度280℃で重縮合反応を行い、ポリエステルポリマーを得た。
このポリマーのガラス転移温度及び融点を表1に示した。さらに、このポリマーを常法にて乾燥し、孔径0.25mmの円形紡糸孔を36個有する紡糸口金を通して280℃にて溶融紡糸し、吐出糸条を冷却固化した後に油剤を付与し、1,400m/分の巻取速度で巻取り、未延伸糸を得た。次いで、この未延伸糸を常法に従って約3倍に延伸した後に熱板を通し110℃の熱処理をし、600m/分の速度で巻取り、75デニール/36フィラメントのマルチフィラメントを得た。
得られた繊維の強度、伸度、強度×√伸度、繊維の密度、BWS、120℃熱水収縮率及びカチオン可染性を表1に示したが、良好な強度伸度特性と収縮特性、及びやや良好なカチオン可染性を有しており、カチオン可染型高収縮繊維として使用可能であった。
【0026】
(実施例2〜8)
ポリエステルポリマーへのDMS及びADEの共重合量を変更して、表1のような物性のポリマーを得た。さらに、このポリマーを実施例1と同様に紡糸して未延伸糸を得、次いで、この未延伸糸を常法に従って2.5〜3倍に延伸、熱板による110℃の熱処理をし、600m/分の速度で巻取り、伸度25〜30%の75デニール/36フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示したが、強度伸度特性、120℃熱水収縮率、カチオン可染性いずれもやや良好以上で、カチオン可染型高収縮繊維として使用可能であった。
【0027】
(比較例1)
ポリエステルポリマーへのDMS及びADEの共重合量を変更して、表1のような物性のポリエステルポリマーを得た。さらに、このポリマーを実施例1〜8と同様に紡糸して未延伸糸を得、次いで、この未延伸糸を常法に従って2.5倍に延伸、実施例1〜8と異なり熱板による熱処理をせず、600m/分の速度で巻取り、伸度34%の75デニール/36フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示したが、BWSは高かったが、120℃熱水収縮率は低く、高収縮糸としての使用は不可能であった。
【0028】
(比較例2)
ポリエステルポリマーへのDMS及びADEの共重合量を変更し、表1のような物性のポリマーを得た。さらに、このポリマーを実施例1〜8と同様に紡糸して未延伸糸を得、次いでこの未延伸糸を常法に従って2.5倍に延伸、熱板による110℃の熱処理をし、600m/分の速度で巻取、伸度31%の75デニール/36フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示したが、BWS及び120℃熱水収縮率は低く、高収縮糸としての使用は不可能であった。
【0029】
(比較例3)
ポリエステルポリマーへのDMS及びADEの共重合量を変更して表1のような物性のポリマーを得た。さらに、このポリマーを実施例1〜8と同様に紡糸して未延伸糸を得、次いでこの未延伸糸を常法に従って3倍に延伸、熱板による110℃の熱処理をし、600m/分の速度で巻取、伸度32%の75デニール/36フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示したが、カチオン可染性が不十分で、カチオン可染糸としての使用は不可能であった。
【0030】
(比較例4)
ポリエステルポリマーへのDMS及びADEの共重合量を変更して表1のような熱物性のポリエステルポリマーを得た。さらに、このポリマーを実施例1〜8と同様に紡糸して未延伸糸を得、常法に従って延伸を試みたが、ポリマーのガラス転移温度が27℃と室温並であるため、未延伸糸のフィラメント間で融着が起こり、解舒することができず、延伸糸を得ることができなかった。
【0031】
【表1】
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリエステル繊維は、カチオン染料により染色可能なだけでなく、高温処理した後でも潜在収縮力が残存し、最終的な布帛においても充分な風合効果が得られるような高収縮性能を有し、しかも繊維の強度・伸度特性にも優れたカチオン可染型高収縮ポリエステル繊維として広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】乾熱昇温過程におけるポリエステル糸の収縮率の例を示すグラフである。
【図2】120℃熱水収縮率測定用試料に予め熱処理を施すための熱処理装置の概略図である。
【符号の説明】
1 パーン
2 ポリエステル繊維
3 供給ローラ
4 熱板
5 巻取ローラ
Claims (3)
- ジカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.8〜1.8モル%、アジピン酸成分を7〜17モル%共重合し、繰り返し単位の81.2〜92.2モル%がエチレンテレフタレートであるポリエステルからなり、下記の要件(a),(b),(c)を満足することを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維。
(a)繊維の密度が1.372以下であること。
(b)DS×√DE≧20であること。
(但し、DSは繊維強度(g/d)、DEは破断伸度(%)を示す)
(c)120℃熱水収縮率が9%以上であること。
(但し、120℃熱水収縮率は、繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施した後の、高圧下120℃の熱水で60分間処理した時の収縮率である。) - 繰り返し単位の81.2〜92.2モル%がエチレンテレフタレートであり、ジカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.8〜1.8モル%、アジピン酸成分を7〜17モル%共重合したポリエステルを、紡速1,200〜3,000m/分の速度で紡糸して未延伸糸とし、残留伸度が25%〜35%になる倍率で延伸し、100℃〜150℃の熱板で熱セットすることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維の製造方法。
- 繰り返し単位の81.2〜92.2モル%がエチレンテレフタレートであり、ジカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.8〜1.8モル%、アジピン酸成分を7〜17モル%共重合したポリエステルを、紡速1,200〜3,000m/分の速度で紡糸して未延伸糸とし、残留伸度が25%〜35%になる倍率で延伸し、100℃〜150℃の熱板で熱セットして得られ、下記の要件(a),(b),(c)を満足することを特徴とするカチオン可染性ポリエステル繊維。
(a)繊維の密度が1.372以下であること。
(b)DS×√DE≧20であること。
(但し、DSは繊維強度(g/d)、DEは破断伸度(%)を示す)
(c)120℃熱水収縮率が9%以上であること。
(但し、120℃熱水収縮率は、繊維を0.07g/dの張力下、乾熱温度120℃で0.2秒間の熱処理を施した後の、高圧下120℃の熱水で60分間処理した時の収縮率である。)
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