JP3183970B2 - シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの製造方法 - Google Patents

シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、シクロマルトデキス
トリングルカノトランスフェラーゼの製造方法に関し、
より詳細には、バチルス属に属する新菌株を用いた糖転
移活性の強いシクロマルトデキストリングルカノトラン
スフェラーゼの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】シクロ
マルトデキストリングルカノトランスフェラーゼは、一
般にバチルスマセランス(Bacillus macerans) 、バチル
ス メガテリウム(Bacillus megaterium) 、バチルス
ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilu
s) 、バチルス サーキュランス(Bacillus circulan
s)、クレブシラ ニューモニエ(Klebsiella pneumonia
e) 等の細菌を適当な培地で培養して得られるものであ
る。例えば、生物化学実験法第25巻、澱粉・関連糖質
酵素実験法(学会出版センター、1989年)にその培
養方法及び条件等が記載されている。
【0003】このシクロマルトデキストリングルカノト
ランスフェラーゼは、主に澱粉又は澱粉系糖質を加水分
解して、α−、β−、γ−シクロデキストリン、主とし
てβ−シクロデキストリンを生成し、またこれを開環的
に加水分解する特異な酵素として知られている。この作
用により得られるシクロデキストリンとは、グルコース
が6分子以上α−1,4結合した環状のオリゴ糖であ
り、グルコース6分子、7分子、8分子のものが各々α
−、β−、γ−シクロデキストリンと呼ばれている。
【0004】シクロデキストリンは、外側が親水性、内
側が疎水性のドーナツ状の構造を有し、適当な大きさの
疎水性分子をその中に包接することができる。このため
に、物質の安定化、可溶化、酸化防止などの目的で、広
く食品、医薬品、化粧品、化学品分野で利用されてい
る。また、シクロマルトデキストリングルカノトランス
フェラーゼは、糖転移活性を有することが知られてお
り、各種の有用な特徴を持つオリゴ糖、配糖体等の糖鎖
の合成にも利用されている。
【0005】しかし、従来のシクロマルトデキストリン
グルカノトランスフェラーゼは、その糖転移活性があま
り強くないために、より糖転移活性の強いシクロマルト
デキストリングルカノトランスフェラーゼが求められて
いる。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明によれば、バチ
ルス属に属するDK−1139菌株又はその変異株を培
養し、その培養物からシクロマルトデキストリングルカ
ノトランスフェラーゼを採取することを特徴とするシク
ロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの製
造方法が提供される。
【0007】この発明に利用するバチルス属に属するD
K−1139菌株は、長野県大町市の畑土壌より分離さ
れたものであり、微工研菌寄第13199号として寄託
されている。バチルス属に属するDK−1139菌株の
菌学的性質は以下のとおりである。一般的な細菌用培地
には生育しにくいため、生育状態の観察には以下の培地
組成のものを使用した。
【0008】 可溶性デンプン 1.0 % 酵母エキス 0.5 % ペプトン 0.5 % リン酸2カリウム 0.1 % 硫酸マグネシウム・7水和物 0.02% 炭酸ナトリウム 1.0 % 形態 1)形 桿菌 2)大きさ 0.6〜0.9×2〜10μm 3)芽胞形態 卵円型 4)胞子嚢 膨脹しない 5)運動性 あり 6)グラム染色 陽性 7)コロニー 淡黄褐色でやや光沢があり、薄く平
滑で透明
【0009】生理学的性質 以下の生理学的検査に使用した培地は、試験用培地に炭
酸ナトリウムを1%加えておよそpH10に調整したもの
を使用した。 1)カタラーゼ 陽性 2)オキシダーゼ 陽性 3)VPテスト 陰性 4)クエン酸塩の利用 陰性 5)ゼラチン水解 陽性 6)デンプン水解 陽性 7)硝酸塩の還元 陽性 8)インドール生成 陰性 9)塩化ナトリウム存在下での生育 2%、5%で生育し、7%、10%では生育しない 10)生育温度 25℃、30℃、35℃で生育し、50℃、55℃では生育しない 11)生育pH pH7.0 では生育しない pH8.0 、9.0 で生育する pH10.0ではたいへんよく生育する 12)酸素に対する態度 好気性 以上の菌学的性質から、本菌はバチルス属に属する細菌
であると同定された。バージーズ マニュアル オブ
システマティック バクテリオロジー(Bergey's Manual
of Systematic Bacteriology)には、アルカリ性バチル
ス属に属する菌株として3種類が記載されているが、本
菌とは細胞の形態、塩化ナトリウムに対する耐性、硝酸
塩還元性等が異なり、上記特徴を有する菌種の記載はな
く、新規な菌株であると考えられる。
【0010】この発明のシクロマルトデキストリングル
カノトランスフェラーゼの製造方法には、上記のバチル
ス属に属するDK−1139菌株又はその変異株が用い
られる。ここに使用された“変異株”とは、自然に又は
故意もしくはその他で適用されるかにかかわりなく外部
の剤により生ずる変異菌を含むものである。変異株を作
る適当な方法としては、H.I.ラドラー氏、国際原子
力エネルギー局、ウィンでのシンポジウムの議事録、1
973年、第241頁の“工業用微生物への照射と放射
性同位性元素”の中での「微生物の発展技術」に述べら
れた方法が含まれる。これには次のことが含まれてい
る。 i)イオン化照射(例えばX線やγ線照射)、紫外線
光、紫外線光と感光剤(例えば8−メトキシプソラレ
ン)、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、ピリミジン塩基同
族体(例えば5−ブロムウラシル)、アクリジン類、ア
ルキル化剤(例えばマスタードガス、エチルメタンスル
ホン酸塩)、過酸化水素、フェノール類、ホルムアルデ
ヒド、熱など。 ii)くみかえ、形質変換、形質導入、溶原化、溶原的変
換や突然変異用の選択的手法のような遺伝学的手法。
【0011】この発明のバチルス属に属するDK−11
39菌株又はその変異株を培養する方法としては、好気
的表面培養又は深部培養のいずれでもよく、その中で深
部培養が望ましい。培地としては、微生物の培養の一般
に使用される炭素源、窒素源、無機塩類を適切に組み合
わせたものを用いることができる。例えば、炭素源とし
てはデンプン、デキストリン、グルコース等、窒素源と
してはコーンスティープリカー、ペプトン、肉エキス、
酵母エキス、大豆粉、硝酸塩、アンモニウム塩等、無機
塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム
塩、カリウム塩等があげられる。
【0012】培養は、25〜45℃、好ましくは30〜40℃の
温度範囲で、pH8〜12で行うのが適切であり、pH9
〜11で行うのが好ましい。培養期間は通常1〜7日間で
あるが、シクロマルトデキストリングルカノトランスフ
ェラーゼ産生が最大に達したときに培養を終了すればよ
い。この発明のシクロマルトデキストリングルカノトラ
ンスフェラーゼを培養終了後の培養液から抽出、精製す
る方法としては、通常、種々の酵素を抽出、精製する際
に用いられる方法のいずれを使用してもよい。例えば、
培養液を遠心分離又は濾過することにより菌体等を分離
した後、限外濾過、塩析、溶媒沈澱、透析、ゲル濾過、
イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィ
ー、電気泳動、凍結乾燥、噴霧乾燥等の方法を適宜組み
合わせて使用することができる。その中で特に、β−シ
クロデキストリンポリマーカラムを用いた吸着クロマト
グラフィーとセファデックスG−200 を用いたゲル濾過
を組み合わせて使用する方法が好ましい。
【0013】上記の方法によって得られるシクロマルト
デキストリングルカノトランスフェラーゼは、澱粉又は
澱粉系糖質を加水分解してα−、β−、γ−シクロデキ
ストリン及びデキストリンを生成する作用を有し、かつ
グルコシル基供与体からグルコシル基受容体にグルコー
ス残基を転移して種々のオリゴ糖や配糖体等を生成する
作用を有している。グルコシル基供与体としてはグルコ
ースリン酸、オリゴ糖等が含まれ、グルコシル基受容体
としては単糖、オリゴ糖、アルコール、フェノール、リ
ン酸、ヌクレオチド等が含まれる。
【0014】そこで、この発明のシクロマルトデキスト
リングルカノトランスフェラーゼの糊精化力(澱粉分解
力)に対するショ糖を受容体とした糖転移活性化(糊精
化力が活性1単位のときのショ糖を受容体とした糖転移
活性の活性単位数)を求めると8.36であり、これは、従
来糖転移活性が強いことで知られていた特公昭53-27791
号に開示のバチルス ステアロサーモフィラス(Bacillu
s stearothermophilus) の産生するシクロマルトデキス
トリングルカノトランスフェラーゼが1.84であったのに
比べ、著しく高い値となっている。従って、この発明の
方法により得られるシクロマルトデキストリングルカノ
トランスフェラーゼは、従来公知のものに比べ、非常に
強い糖転移活性を示すという顕著な作用を有するもので
ある。
【0015】
【実施例】この発明のシクロマルトデキストリングルカ
ノトランスフェラーゼの製造方法及び得られたシクロマ
ルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの酵素特
性を実施例で説明する。シクロマルトデキストリングル
カノトランスフェラーゼの糊精化力とショ糖を受容体と
した糖転移活性力は、以下の方法で測定した。 測定方法1(糊精化力) 1mMの塩化カルシウムを含む 0.02M酢酸緩衝液(pH5.
5 )に、0.3 %( w/v) となるように可溶性澱粉を溶解
させたものを基質溶液とし、この基質溶液5mlにこの発
明の酵素液0.2ml を加え、40℃で10分間反応させた。そ
の後、その反応液0.5ml を 0.02N硫酸15mlの中に入れ、
反応を停止させた。反応停止後、0.1Nヨード液0.2ml を
加えて混合し、660nm における吸光度を測定した。予め
作成しておいた検量線から残存澱粉量を求め、糊精化力
を決定した。なお、活性1単位は、40℃、10分間で可溶
性澱粉15mgのヨウ素呈色を完全に消失させる酵素量とし
た。
【0016】 測定方法2(ショ糖を受容性とした糖転移活性力) この方法は、特公昭53-27791号に開示の方法に準じてい
る。2mMの塩化カルシウムを含む 0.03M酢酸緩衝液(p
H5.5 )に、各々6.7 %(w/v ) となるように可溶性澱
粉及びショ糖を溶解させたものを基質溶液とし、この基
質溶液3mlにこの発明の酵素液1mlを加え、40℃で10分
間反応させた。その後、その反応液0.5ml を1N塩酸9ml
の中に入れ、反応を停止させた。反応停止後、0.5ml を
サンプリングし、 0.02N硫酸15mlの中に入れ、さらに0.
1Nのヨード液0.2ml を加えて混合した後、660nm の吸光
度を測定した。予め作成しておいた検量線から残存澱粉
量を求め、ショ糖を受容性とした糖転移活性力を決定し
た。なお、活性1単位は、40℃、10分間で可溶性デンプ
ン200mg のヨウ素呈色を10%減少させる酵素量とした。
【0017】実施例1 可溶性デンプン 1.0%( w/v 以下同じ) 、ペプトン 0.5
%、酵母エキス 0.5%、燐酸水素二カリウム 0.1%、硫
酸マグネシウム0.01%、炭酸ナトリウム 1.0%を含む滅
菌された培地(pH10.0)7L を 10L容培養槽に入れ、
これにバチルス属に属するDK−1139菌株の前培養
液100ml を植菌し、温度35℃、攪拌回転数300rpm、通気
量 3.5L/分で4日間培養した。
【0018】培養液を遠心分離し、上澄液を粗酵素とし
て酵素力価(糊精化力)を測定したところ11.7U/mgタン
パクの比活性であった。この粗酵素液に終濃度10%とな
るように硫酸ナトリウムを溶解し、予め10%硫酸ナトリ
ウムにて平衡化したβ−シクロデキストリンポリマーカ
ラム( 1.5×30cm)に吸着させ、蒸留水にて溶出させ
た。
【0019】得られた活性画分を、予め10mM燐酸緩衝液
(pH6.8 )で平衡化したセファデックスG−200 でゲ
ル濾過した。ゲル濾過により得られた活性画分は、電気
泳動的にほぼ単一のバンドを示し、精製酵素(172U/mg
タンパク)であると考えられた。得られた酵素の酵素特
性を測定し、以下の結果を得た。
【0020】1.作用 澱粉またはその部分分解物等の澱粉系糖質を作用させる
と、種々のシクロデキストリンが生成した。生成したシ
クロデキストリンの組成を以下のようにして決定した。
10%(w/v) となるように、可溶性澱粉を溶解した酢酸緩
衝液(pH6.0 )に、得られた酵素を添加して50℃で反
応させ、各時間ごとにサンプリングし、沸騰水中で酵素
を失活させ試料溶液とした。この試料溶液中のα−、β
−、γ−シクロデキストリンを高速液体クロマトグラフ
ィーで分離、定量した。図1は、上記により得られた試
料溶液中の各シクロデキストリンの濃度と反応時間の関
係を示したグラフである。図中、はβ−シクロデキスト
リン、△はγ−シクロデキストリン、□はα−シクロデ
キストリンを示す。図1から明らかなように、反応直後
からβ−シクロデキストリンが多く生成し、α−シクロ
デキストリンの生成が最も少なかった。
【0021】2.至適pH 至適pHは、測定方法1(糊精化力)に従って、酢酸緩
衝液(pH 3.5〜6.5)又はトリス−マレイン酸緩衝液
(pH 6.0〜8.5 )を用いて基質溶液を調整し、得られ
た酵素の糊精化力を測定することにより決定した。図2
は、上記により得られた酵素の糊精化力(相対活性を%
で示した)とpHの関係を示したグラフである。図2か
ら明らかなように、得られた酵素はpH 4.5〜8.5 の範
囲で強い活性を示し、至適pHは 4.5〜6.5 であり、広
い至適pH範囲を有していた。
【0022】3.pH安定性 pH安定性は、得られた酵素を20mMのリン酸緩衝液(p
H 5.0〜8.0 )又はグリシン・塩化ナトリウム・水酸化
ナトリウム緩衝液(pH 8.5〜10.5)で緩衝化し、その
緩衝化した酵素0.5ml を40℃で2時間処理した後、測定
方法1(糊精化力)に従って糊精化力を測定することに
より決定した。図3は、上記により得られた酵素の糊精
化力(相対活性を%で示した)とpHの関係を示したグ
ラフである。図3から明らかなように、得られた酵素は
pH 6.0〜10.0で安定であった。
【0023】4.熱安定性 熱安定性は、得られた酵素を20mMのトリス−塩酸緩衝液
に加えて各温度で15分間熱処理し、その後冷却して測定
方法1(糊精化力)に従って糊精化力を測定することに
より決定した。図4は、得られた酵素の糊精化力(相対
活性を%で示した)と温度の関係を示したグラフ(破線
は 0.01M塩化カルシウム添加の場合を示す)である。図
4から明らかなように、得られた酵素は60℃の熱処理で
も全く失活することなく、65℃の使用も十分可能である
と考えられた。
【0024】5.分子量 SDSポリアクリルアミド電気泳動法により、分子量を
決定した。分子量の決定には、日本バイオ・ラッド ラ
ボラトリーズ(株)社製の標準分子量マーカー( 14400
〜97400 )を使用した。その結果、得られた酵素の分子
量は約94000 であった。
【0025】6.等電点 等電点電気泳動法により、等電点を決定した。その結
果、得られた酵素の等電点は4.1 であった。
【0026】7.糊精化力に対するショ糖を受容体とし
た糖転移活性比 得られた酵素の糊精化力と糖転移活性力を測定し、糊精
化力が活性1単位のときのショ糖を受容体とした糖転移
活性の活性単位数を求めて、糊精化力に対するショ糖を
受容体とした糖転移活性比を決定した。その結果、得ら
れた酵素の糊精化力に対するショ糖を受容体とした糖転
移活性比は、8.36であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明により得られる酵素により生成した各
シクロデキストリンの濃度と反応時間の関係を示したグ
ラフである。
【図2】この発明により得られる酵素の糊精化力とpH
の関係を示したグラフである。
【図3】この発明により得られる酵素の糊精化力とpH
の関係を示したグラフである。
【図4】この発明により得られる酵素の糊精化力と温度
の関係を示したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 9/10 BIOSIS(DIALOG) JICSTファイル(JOIS) MEDLINE(STN) WPI(DIALOG)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 バチルス(Bacillus)属に属するDK-1
    139菌株(寄託番号FERMP‐13199)又はその
    変異株を培養し、その培養物からシクロマルトデキスト
    リングルカノトランスフェラーゼを採取することを特徴
    とするシクロマルトデキストリングルカノトランスフェ
    ラーゼの製造方法。
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