JP3812954B2 - イソマルトシルフラクトシドの製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、齲蝕誘発性を抑制する甘味料として知られるイソマルトシルフラクトシドを安価に効率よく製造するための新規な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シュクロースは味質の良い甘味を呈し、また極めて水に溶け易いことから、代表的な甘味料として広く使用されてきた。
しかしながら近年、シュクロースは齲蝕誘発性が高く、虫歯の原因となることが明らかにされてきた。すなわち、シュクロースは口腔内の微生物によって不溶性のグルカンに変換され、このグルカンに覆われた歯の表面で嫌気発酵が行われて乳酸等の有機酸が生成し、この有機酸が歯のエナメル質を溶解することによって虫歯が発生するということが解明された。こうしたことからシュクロースに代わり得る甘味料やシュクロースの齲蝕性を抑制する甘味料が望まれている。
【0003】
シュクロースの齲蝕誘発性を抑える甘味料の代表として、イソマルトシルフラクトシドが知られているが、このイソマルトシルフラクトシドは不溶性グルカンの生成を抑える作用を有することから、シュクロースの代替としてだけではなくシュクロースと併用できる利点を有している。
現在までに、イソマルトシルフラクトシドの製造方法としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のα−グルコシダーゼを用いる方法〔J.Chem.Soc.,2064(1957)〕とバチルス(Bacillus)属のしょ糖転移酵素を用いる方法(特開平4−30796号公報)およびムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)のα−グルコシダーゼを用いる方法(澱粉科学,第35巻,第2号,P93−102(1988)、特開平2−128652号公報、特開平4−287692号公報)が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらムコール属に属する菌株の中では、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)IFO4570のα−グルコシダーゼを用いるイソマルトシルフラクトシドの製造方法しかこれまでに知られていなかった。さらにこの方法では、工業的には生産し得るものの、安価なシュクロースに比べてはるかにコストが高く、従ってより生産性の高いイソマルトシルフラクトシドの製造方法の開発が望まれていた。
【0005】
本発明はこうした状況のもとになされたものであって、その目的は、イソマルトシルフラクトシドをより安価に、効率よく生産するための方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明者らはムコール属に属する菌株のなかで、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus) より更に、効率よくイソマルトシルフラクトシドを生成するという観点からムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus) 以外のムコール属菌株の探索を実施し、それらのイソマルトシルフラクトシド生成能を調査した。その結果、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させると、ムコール・ジャバニカスよりも更に効率よくイソマルトシルフラクトシドを生成することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、シュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)または、ムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)または、ムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物を作用させることを特徴とするイソマルトシルフラクトシドの製造方法に関する。
【0008】
本発明における基質溶液とは、α−グルコシダーゼ活性物によるグルコシル基の転移反応に於いて、グルコシル基の受容体となるシュクロースとグルコシル基供与体とを含有する溶液である。グルコシル基供与体とは、グルコシル基がグルコシド結合した二糖以上のオリゴ糖および多糖類であり、たとえば可溶性澱粉、澱粉部分加水分解物、アミロース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはそれらの混合物等があげられる。基質溶液中におけるシュクロースとグルコシル基供与体の比率は10:1から1:10程度が望ましい。また、基質濃度は5から70重量%程度が可能で、20から60重量%程度が望ましい。なお、基質溶液のpHは、2から8の範囲が可能で3から7が望ましい。基質溶液の温度は、5から70℃が可能で、15から55℃が望ましい。
【0009】
また、本発明において、上記基質溶液に作用させるα−グルコシダーゼ活性物とは、グルコシル基供与体のグルコシド結合が切断されて生じるグルコース残基を、シュクロースのグルコース残基の6位の炭素に転移させ、α−グルコシド結合で結合した三糖類、すなわちイソマルトシルフラクトシドを生成する作用を有する菌体または菌体抽出物を意味し、菌体とは、微生物を培養した培地中に存在する菌体および培地から常法に従って一旦分離された菌体の両方を意味する。また、菌体抽出物とは、菌体破砕物、常法に従って部分精製された上述のグルコシル基転移活性を有する酵素含有物を意味する。さらに、必要に応じて公知の方法で精製された上述のグルコシル基転移活性を有する酵素をも意味するものである。
【0010】
本α−グルコシダーゼ活性物は、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus) もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)に属する菌株を培養することにより得ることができる。この代表例としては、例えばムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO4575またはIFO5317、ムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4555またはIFO4556、ムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)IFO4585またはIFO6415を挙げることができる。これらの菌株は、財団法人発酵研究所(Institute of Fermentation, Osaka)から誰でも自由に入手することができる。
【0011】
本発明において、使用することのできる培地としては、前述した微生物が培養により増殖できるものであれば、任意の天然培地または合成培地でよい。たとえば、炭素源としては、グルコース、糖密、シュクロース、澱粉、澱粉糖化液、セルロース分解物などが用いられる。窒素源としては、アンモニア、硫安、硝安、燐安等のアンモニウム塩や尿素、硝酸塩類等が適宜用いられる。無機塩としては、燐酸、カリウム、マグネシウム等の塩類、例えば、燐酸アンモニウム、燐酸カリウム、燐酸ソーダ、燐酸マグネシウム等の通常の工業用薬品でよく、他に微量元素を加えてもよい。また、微量有機栄養素として、ビタミン類、アミノ酸、核酸関連物質等は、菌の生育上は特別に必要なものではないが、これらを添加したり、コーンスチープリカー、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の有機物を加えてもよい。これらの培地は、液体培地、固体培地のいずれの形でも使用することができる。代表的な培地組成としては、例えば、可溶性澱粉40g、コーンスチープリカー30g、硝酸ナトリウム0.5g、燐酸二水素カリウム0.1g、硫酸マグネシウム7水和物0.05g、塩化カリウム0.05gからなる天然培地(各成分を蒸留水に溶解して1Lとする。)が挙げられる。
【0012】
培養は、振盪、通気攪拌等による好気条件で行うのが好ましいが、静置状態で行うこともできる。培養温度は、15℃から35℃の範囲が可能で、25℃から30℃付近が望ましい。培養液中のpHは、3から8とすることが可能で、pH4から6付近が望ましい。本発明によれば、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させることにより、イソマルトシルフラクトシドを安価に生産することができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0014】
【実施例1】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO4575を、100mlの天然培地(可溶性澱粉40g、コーンスチープリカー30g、硝酸ナトリウム0.5g、燐酸二水素カリウム0.1g、硫酸マグネシウム7水和物0.05g、塩化カリウム0.05gを蒸留水に溶解して1Lとする)を含む500mlフラスコの中で、25℃で2日間振盪培養した。同培養液100mlを、2Lの前記天然培地を入れた5Lフラスコに移植して、25℃で2日間培養した。培養終了後、ろ過により集菌し、脱イオン水で洗浄後再び集菌し、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
【0015】
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、下記の分析条件で高速液体クロマトグラフィー装置を使って分析した結果、3.33gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0016】
(分析条件)
カラム:東ソー株式会社製 アミド80(4.6×250mm)
溶離液:アセトニトリル:水=75:25
流速 :1.0ml/min
温度 :70℃
検出器:示差屈折計
【0017】
【実施例2】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO5317を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.93gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0018】
【実施例3】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4555を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.86gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0019】
【実施例4】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4556を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.83gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0020】
【実施例5】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)IFO4585を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、3.01gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0021】
【比較例】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)IFO4570を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、生成したイソマルトシルフラクトシドの重量は2.28gであった。
【0022】
この結果から明らかなように、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)のα−グルコシダーゼを用いるイソマルトシルフラクトシドの製造方法に対し、本発明の製造方法は、非常にすぐれた生産性を示す。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、ムコール・スピノサス(Mucor spinosu) もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)の生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させることにより、シュクロースの齲蝕誘発性を抑制する代表的甘味料イソマルトシルフラクトシドを、工業的に効率よく、安価に生産することができる。
【産業上の利用分野】
本発明は、齲蝕誘発性を抑制する甘味料として知られるイソマルトシルフラクトシドを安価に効率よく製造するための新規な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シュクロースは味質の良い甘味を呈し、また極めて水に溶け易いことから、代表的な甘味料として広く使用されてきた。
しかしながら近年、シュクロースは齲蝕誘発性が高く、虫歯の原因となることが明らかにされてきた。すなわち、シュクロースは口腔内の微生物によって不溶性のグルカンに変換され、このグルカンに覆われた歯の表面で嫌気発酵が行われて乳酸等の有機酸が生成し、この有機酸が歯のエナメル質を溶解することによって虫歯が発生するということが解明された。こうしたことからシュクロースに代わり得る甘味料やシュクロースの齲蝕性を抑制する甘味料が望まれている。
【0003】
シュクロースの齲蝕誘発性を抑える甘味料の代表として、イソマルトシルフラクトシドが知られているが、このイソマルトシルフラクトシドは不溶性グルカンの生成を抑える作用を有することから、シュクロースの代替としてだけではなくシュクロースと併用できる利点を有している。
現在までに、イソマルトシルフラクトシドの製造方法としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のα−グルコシダーゼを用いる方法〔J.Chem.Soc.,2064(1957)〕とバチルス(Bacillus)属のしょ糖転移酵素を用いる方法(特開平4−30796号公報)およびムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)のα−グルコシダーゼを用いる方法(澱粉科学,第35巻,第2号,P93−102(1988)、特開平2−128652号公報、特開平4−287692号公報)が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらムコール属に属する菌株の中では、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)IFO4570のα−グルコシダーゼを用いるイソマルトシルフラクトシドの製造方法しかこれまでに知られていなかった。さらにこの方法では、工業的には生産し得るものの、安価なシュクロースに比べてはるかにコストが高く、従ってより生産性の高いイソマルトシルフラクトシドの製造方法の開発が望まれていた。
【0005】
本発明はこうした状況のもとになされたものであって、その目的は、イソマルトシルフラクトシドをより安価に、効率よく生産するための方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明者らはムコール属に属する菌株のなかで、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus) より更に、効率よくイソマルトシルフラクトシドを生成するという観点からムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus) 以外のムコール属菌株の探索を実施し、それらのイソマルトシルフラクトシド生成能を調査した。その結果、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させると、ムコール・ジャバニカスよりも更に効率よくイソマルトシルフラクトシドを生成することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、シュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)または、ムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)または、ムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物を作用させることを特徴とするイソマルトシルフラクトシドの製造方法に関する。
【0008】
本発明における基質溶液とは、α−グルコシダーゼ活性物によるグルコシル基の転移反応に於いて、グルコシル基の受容体となるシュクロースとグルコシル基供与体とを含有する溶液である。グルコシル基供与体とは、グルコシル基がグルコシド結合した二糖以上のオリゴ糖および多糖類であり、たとえば可溶性澱粉、澱粉部分加水分解物、アミロース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはそれらの混合物等があげられる。基質溶液中におけるシュクロースとグルコシル基供与体の比率は10:1から1:10程度が望ましい。また、基質濃度は5から70重量%程度が可能で、20から60重量%程度が望ましい。なお、基質溶液のpHは、2から8の範囲が可能で3から7が望ましい。基質溶液の温度は、5から70℃が可能で、15から55℃が望ましい。
【0009】
また、本発明において、上記基質溶液に作用させるα−グルコシダーゼ活性物とは、グルコシル基供与体のグルコシド結合が切断されて生じるグルコース残基を、シュクロースのグルコース残基の6位の炭素に転移させ、α−グルコシド結合で結合した三糖類、すなわちイソマルトシルフラクトシドを生成する作用を有する菌体または菌体抽出物を意味し、菌体とは、微生物を培養した培地中に存在する菌体および培地から常法に従って一旦分離された菌体の両方を意味する。また、菌体抽出物とは、菌体破砕物、常法に従って部分精製された上述のグルコシル基転移活性を有する酵素含有物を意味する。さらに、必要に応じて公知の方法で精製された上述のグルコシル基転移活性を有する酵素をも意味するものである。
【0010】
本α−グルコシダーゼ活性物は、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus) もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)に属する菌株を培養することにより得ることができる。この代表例としては、例えばムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO4575またはIFO5317、ムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4555またはIFO4556、ムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)IFO4585またはIFO6415を挙げることができる。これらの菌株は、財団法人発酵研究所(Institute of Fermentation, Osaka)から誰でも自由に入手することができる。
【0011】
本発明において、使用することのできる培地としては、前述した微生物が培養により増殖できるものであれば、任意の天然培地または合成培地でよい。たとえば、炭素源としては、グルコース、糖密、シュクロース、澱粉、澱粉糖化液、セルロース分解物などが用いられる。窒素源としては、アンモニア、硫安、硝安、燐安等のアンモニウム塩や尿素、硝酸塩類等が適宜用いられる。無機塩としては、燐酸、カリウム、マグネシウム等の塩類、例えば、燐酸アンモニウム、燐酸カリウム、燐酸ソーダ、燐酸マグネシウム等の通常の工業用薬品でよく、他に微量元素を加えてもよい。また、微量有機栄養素として、ビタミン類、アミノ酸、核酸関連物質等は、菌の生育上は特別に必要なものではないが、これらを添加したり、コーンスチープリカー、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の有機物を加えてもよい。これらの培地は、液体培地、固体培地のいずれの形でも使用することができる。代表的な培地組成としては、例えば、可溶性澱粉40g、コーンスチープリカー30g、硝酸ナトリウム0.5g、燐酸二水素カリウム0.1g、硫酸マグネシウム7水和物0.05g、塩化カリウム0.05gからなる天然培地(各成分を蒸留水に溶解して1Lとする。)が挙げられる。
【0012】
培養は、振盪、通気攪拌等による好気条件で行うのが好ましいが、静置状態で行うこともできる。培養温度は、15℃から35℃の範囲が可能で、25℃から30℃付近が望ましい。培養液中のpHは、3から8とすることが可能で、pH4から6付近が望ましい。本発明によれば、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させることにより、イソマルトシルフラクトシドを安価に生産することができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0014】
【実施例1】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO4575を、100mlの天然培地(可溶性澱粉40g、コーンスチープリカー30g、硝酸ナトリウム0.5g、燐酸二水素カリウム0.1g、硫酸マグネシウム7水和物0.05g、塩化カリウム0.05gを蒸留水に溶解して1Lとする)を含む500mlフラスコの中で、25℃で2日間振盪培養した。同培養液100mlを、2Lの前記天然培地を入れた5Lフラスコに移植して、25℃で2日間培養した。培養終了後、ろ過により集菌し、脱イオン水で洗浄後再び集菌し、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
【0015】
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、下記の分析条件で高速液体クロマトグラフィー装置を使って分析した結果、3.33gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0016】
(分析条件)
カラム:東ソー株式会社製 アミド80(4.6×250mm)
溶離液:アセトニトリル:水=75:25
流速 :1.0ml/min
温度 :70℃
検出器:示差屈折計
【0017】
【実施例2】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・スピノサス(Mucor spinosus)IFO5317を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.93gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0018】
【実施例3】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4555を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.86gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0019】
【実施例4】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)IFO4556を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、2.83gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0020】
【実施例5】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)IFO4585を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、3.01gイソマルトシルフラクトシドの生成が認められた。
【0021】
【比較例】
財団法人発酵研究所より分譲を受けたムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)IFO4570を前記実施例1と同様の方法で菌体培養を実施して、湿菌体重量および乾燥菌体重量を測定した。
シュクロース20%、テトラップ−Hシロップ(林原商事株式会社より購入)6.7%(固形分5%)を含む0.05M燐酸緩衝液(pH7)50mlに乾燥菌体重量1g分の湿菌体を加えて、20℃で5時間反応させた。得られた反応液を、95℃以上で10分間加熱処理した後、遠心分離によって反応液上清を得た。得られた反応液上清を、実施例1と同様の方法で分析した結果、生成したイソマルトシルフラクトシドの重量は2.28gであった。
【0022】
この結果から明らかなように、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)のα−グルコシダーゼを用いるイソマルトシルフラクトシドの製造方法に対し、本発明の製造方法は、非常にすぐれた生産性を示す。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、ムコール・スピノサス(Mucor spinosu) もしくはムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)もしくはムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)の生産するα−グルコシダーゼ活性物をシュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に作用させることにより、シュクロースの齲蝕誘発性を抑制する代表的甘味料イソマルトシルフラクトシドを、工業的に効率よく、安価に生産することができる。
Claims (1)
- シュクロースとグルコシル基供与体を含む基質溶液に、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)または、ムコール・ジモルフォスポラス(Mucor dimorphosporus)または、ムコール・ゲネベンシス(Mucor genevensis)のいずれかの生産するα−グルコシダーゼ活性物を作用させることを特徴とするイソマルトシルフラクトシドの製造方法。
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