JP4161181B2 - コージオリゴ糖およびニゲロオリゴ糖を含む糖質の新規な製造方法およびそれに用いる菌体、酵素とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質の製造方法に関するものであり、更に詳細には、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、コージオリゴ糖やニゲロオリゴ糖を含む糖質を生成する作用を示す新規なα−グルコシダーゼとその製造方法、ならびにこのα−グルコシダーゼを産生するパエシロマイセス属に属する真菌およびその真菌の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
安価な澱粉を原料にしたオリゴ糖としてマルトオリゴ糖やイソマルトオリゴ糖が知られている。α−1,4−グルコシド結合よりなるマルトオリゴ糖は低甘味性や保湿性が高いなどの特徴を利用して甘味料や各種たれ、ソースなど食品に広く利用されている。
【0003】
α−1,6−グルコシド結合を分子内に有するイソマルトオリゴ糖は低甘味性や保湿性などのマルトオリゴ糖の特徴に加え、ビフィズス菌の選択増殖活性や虫歯になりにくいなどの生理効果が知られており、その特徴を生かして飲料や菓子など幅広く食品に応用されている。
【0004】
このように食品物性の改良および生理機能の付与を目的として幅広く利用されている澱粉由来のオリゴ糖であるが、α−1,2−グルコシド結合を有するコージオリゴ糖やα−1,3−グルコシド結合を有するニゲロオリゴ糖についてはその効率的な調製方法に関する報告がまだ少なく、マルトオリゴ糖やイソマルトオリゴ糖ほど広範囲な食品への利用に至っていない。
【0005】
一方、最近になってコージオリゴ糖やニゲロオリゴ糖が様々な機能性を有することが報告され、新規な澱粉由来のオリゴ糖としての可能性が注目されている。
【0006】
ニゲロオリゴ糖に特徴的な機能としては、食塩を含む食品の塩かどを緩和し、低食塩下での嗜好性を改良する食品風味改良剤(特許文献1)や、食品用の色素退色防止効果(特許文献2)などの物性改良剤としての用途のほか、生理機能として、ラクトバチルス属由来の菌と併用することによりインターロイキン12の産生を誘導する免疫賦活効果(特許文献3)やニゲロオリゴ糖を与えることにより、病原菌に暴露された植物が、病原菌に対する自己免疫作用として、抗菌作用を有するファイトアレキシンを植物体内に誘導蓄積させる機能(特許文献4)などが報告されている。
【0007】
コージオリゴ糖についても、最近になって還元力が弱くメイラード反応性が弱い、う蝕原性菌によって酸醗酵されないなどの機能性(非特許文献1)が報告されている。
【0008】
このような様々な機能性を有するコージオリゴ糖やニゲロオリゴ糖の効率的な製造方法として、コージオリゴ糖についてはβ−D−グルコース1-リン酸とグルコースにコージビオースホスホリラーゼを作用させて、コージオリゴ糖を製造する方法(特許文献5)、ニゲロオリゴ糖についてはα−1,4−グルコシド結合したポリサッカライド又はオリゴサッカライドを含む基質に、アクレモニウム属(Acremonium sp.)由来の真菌を培養した培養液から得られるα−グルコシダーゼの転移反応により、ニゲロオリゴ糖を製造する方法(特許文献6)が開示されている。
【0009】
しかし、このような製造方法は、コージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖いずれか一方を得るものであるが、両方を効率よく生成する方法ではない。
【0010】
【特許文献1】
特開平10−210949号公報
【特許文献2】
特開2000−189101号公報
【特許文献3】
特開平11−228425号公報
【特許文献4】
特開平10−36210号公報
【特許文献5】
特開平10−304882号公報
【特許文献6】
特開平7−59559号公報
【非特許文献1】
西本友之他,日本応用糖質科学会2001年度大会講演要旨集,第48巻、第413頁(2001年)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
コージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖を同時に生成する方法としてシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いる方法(特許第1725186号)や、スクロースホスホリラーゼ(特許第3073864号)による方法、ソバ由来のα-グルコシダーゼ(M. Takahashi et al., Agric. Biol. Chem. , Vol. 33. 1339-1410 (1969))による方法などが報告されているが、使用する酵素が多量に必要であったり、生成率が糖固形分含量の数%程度と少ないなどの問題点があり、その応用は考えられなかった。
上記のことからコージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖の有利な製造方法が求められている。本発明はこれらの要望に応えるためのものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは澱粉および澱粉の加水分解物よりコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を効率的に生成するα−グルコシダーゼを産生する菌株を探索した結果、大阪市内の土壌より本目的に適合する糸状菌、パエシロマイセス属に属する菌株を発見した。
【0013】
本菌株を適当な条件で培養し、回収された菌体より抽出したα−グルコシダーゼを、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液とともに共存させると、反応開始後、50時間程度で生成物としてコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖が反応液中に蓄積してくることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0014】
本発明はこのように、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液より、澱粉由来の機能性糖質であるコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を製造する方法に関するものである。
【0015】
詳細には、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、コージオリゴ糖やニゲロオリゴ糖を含む糖質を生成する作用を示す新規なα−グルコシダーゼとその製造方法、ならびにこのα−グルコシダーゼを産生するパエシロマイセス属に属する真菌およびその真菌の製造方法に関するものである。
【0016】
なお、本発明においてコージオリゴ糖とは、分子内にα−1,2−グルコシド結合を一箇所以上含むオリゴ糖を意味し、α−1,2−グルコシド結合のみからなるオリゴ糖の他、α−1,2−グルコシド結合とそれ以外の結合とからなるオリゴ糖も含む。具体的には、二糖であるコージビオース[O−α−D−グルコピラノシル-(1→2)−O−D−グルコピラノース]のほか、三糖類であるコージビオシルグルコース[O−α−D−グルコピラノシル-(1→2)−O−α−D− グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノース]などが例示できる。
【0017】
更に本発明においてニゲロオリゴ糖とは、分子内にα−1,3−グルコシド結合を一箇所以上含むオリゴ糖を意味し、α−1,3−グルコシド結合のみからなるオリゴ糖の他、α−1,3−グルコシド結合とそれ以外の結合とからなるオリゴ糖も含む。具体的には、二糖であるニゲロース[O−α−D− グルコピラノシル−(1→3)-O−D−グルコピラノース]のほか、三糖類であるニゲロシルグルコース[O−α−D−グルコピラノシル −(1→3)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノース]などが例示できる。
【0018】
本発明におけるα−グルコシダーゼは、微生物由来のものでα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、コージオリゴ糖やニゲロオリゴ糖を含む糖質を生成する作用を示す酵素であればよく、特にパエシロマイセス属に属する真菌、中でもパエシロマイセス ライラキナスHKS−124 (FERM P−18406)の有するα−グルコシダーゼなどが挙げられる。同酵素の酵素化学的性質は以下のとおりである。
【0019】
本酵素は基質の非還元末端のα−グルコシド結合をエキソ型に切断するα−グルコシダーゼで、α−1,4−グルコシド結合以外にα−1,2−グルコシド結合、α−1,3−グルコシド結合の加水分解を行う一方、糖供与体からのグルコース残基を糖受容体の非還元末端のグルコース残基の2、3、4位いずれかの水酸基に転移する糖転移反応も行う。また、高濃度のグルコース存在下において、加水分解の逆反応である糖縮合反応も行う。
【0020】
α−グルコシル基が4位の水酸基に転移した転移生成物は、本酵素によって再び分解されるため、最終的に転移生成物としてα−1,2−グルコシド結合を有するコージオリゴ糖、α−1,3−グルコシド結合を有するニゲロオリゴ糖が蓄積してくる。
【0021】
本酵素の加水分解反応の基質特異性を表1に示す。マルトースや、コージビオース、ニゲロースなどの二糖類、および、マルトトリオース、マルトペンタオースなどのマルトオリゴ糖、重合度の高い可溶性澱粉や、アミロースなどに作用し、グルコースを生成する。特にα−1,3−グルコシド結合を有するグルコ二糖類であるニゲロースが最も良好な基質である。グリコーゲンや、イソマルトース、パラニトロフェニルα−グルコシド、スクロースなどには作用しにくい。更に、α−シクロデキストリンや、トレハロース、パノースなどのオリゴ糖には全く作用しない。
【0022】
【表1】
【0023】
本酵素の触媒する転移反応における糖受容体としては、グルコースは勿論、マルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、イソマルトースなどのα−グルコ二糖類や、マルトトリオース、マルトテトラオースなどのα−グルコオリゴ糖、セロビオース、ラミナリビオース、ソホロース、ゲンチオビオースなどのβ−グルコ二糖類、スクロースなど、非還元末端にグルコース残基を有しているオリゴ糖が適している。
【0024】
本酵素の至適pHは図1、2に示したようにマルトース分解活性、糖転移活性ともpH5付近(40℃)と弱酸性側で、pH4−8まで安定(40℃、1時間インキュベート)であった。
【0025】
本酵素の至適温度は図3に示したように65℃(pH5.5)で、65℃までは、30分間のインキュベーション後において50%以上の残存活性を有する。
【0026】
ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200HR ファルマシアバイオテク社製)により、標準タンパク質との相対溶出時間から分子量を推定した結果、本酵素の分子量は約54,000であった。また、SDSゲル電気泳動により、標準タンパク質との相対移動度から分子量を求めた値は約50,000であった。これらの結果より、本酵素は、モノマータンパク質であると推定される。
【0027】
各金属イオン(Na+は50mM、その他のイオンについては1mM)およびEDTA(5mM)存在下でのマルトース分解活性に与える影響を調べた結果を表2に示す。本酵素は亜鉛イオンや、水銀イオンなどによりその活性を阻害される。EDTAは本酵素のマルトース分解活性には影響を与えない。
【0028】
【表2】
【0029】
本酵素を等電点既知の標準タンパク質とともに等電点電気泳動(ファストシステム, ファルマシア バイオテク(株))を行った結果、本酵素の等電点は約9.1であった。
【0030】
本酵素のマルトースを基質とした加水分解活性は、以下のように測定した。
【0031】
5mMマルトース0.1mLに対して、20mM酢酸緩衝液(pH5.5)を含む酵素液0.15mLを加え、50℃で10分間反応させた後、生成してきたグルコース量を、グルコースBテストワコー(和光純薬工業製)にて、測定した。1分間に1μmolのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義した。
【0032】
また、本酵素のマルトースを基質とした転移反応は、転移反応によって生じた糖質(コージビオース、コージビオシルグルコース、ニゲロース、ニゲロシルグルコース)を、糖の還元末端を標識化するプレカラム誘導体化法であるABEE標識化法(S. Yasuno et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 61, 1944-1946, (1997))により分析した。
具体的な分析方法は、以下のように行った。
【0033】
2%マルトース0.5mLに対して、50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)を含む酵素液0.5mLを加え、50℃、1時間反応させた。沸騰浴槽で10分間処理することにより、酵素を失活させた後、本反応液より10μL分取し、ABEE標識化キット(ホーネンコーポレーション社製)により、還元糖の標識化を行った。ABEE標識化された還元糖を含む反応液をHPLC分析に供し、あらかじめ同条件で分析した、入手可能な標準糖のそれぞれの溶出時間と比較して、それぞれの糖質を同定した。
HPLC測定条件:カラム ホーネンパック C18
カラム温度: 35℃
移動層組成: 10.5%アセトニトリルを含む0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)
検出: UV検出
流速: 1.0mL/分
【0034】
本発明におけるα−グルコシダーゼの生産に用いられる微生物としては、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種の糖質を基質としてコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を産生すればよく、具体的にはパエシロマイセス属に属する真菌、特にパエシロマイセス ライラキナスが挙げられる。本発明に使用できるパエシロマイセス ライラキナスとしては、ATCCなどに寄託されているNRRL895株、ATCC26839株、D218株などがあるが、特にオリゴ糖生産に適しているものとしては本発明者らが土壌より分離したパエシロマイセス ライラキナスHKS−124(FERMP−18406)株が挙げられる。
【0035】
HKS−124株の菌学的性質は以下に示すとおりである
生育可能培地:ポテトデキストロース寒天(PDA)、麦芽寒天、ツァペックー酵母エキス寒天(CYA)培地において、生育はやや早く、すべての培地において、25℃、2週間で直径60mm以上に達する。
菌糸:菌糸は、最初白色で、直立に盛り上がる。培養開始一週間あたりから、分生子形成に伴い、紫色に変化する。
形態観察:生育pHは4−10で、最適pHは中性付近、生育温度は、20−35℃で、最適生育温度は20-30℃である。
形態的特徴:ペニシラス様分生子形成構造が認められ、更にペニシリ様構造は不規則で、一部の分生子柄は柄中腹より分枝が観察される。
【0036】
以上の形態学的特徴より本菌をパエシロマイセス属の一種と同定した。
【0037】
更に、本菌株の28SrDNA塩基配列を決定し、類似の塩基配列をGenBankより検索した結果、パエシロマイセス ライラキナス(Paecilomyces lilacinus)の塩基配列と一致した。以上の結果より、本菌株をパエシロマイセス ライラキナスと同定し、パエシロマイセス ライラキナスHKS−124株と命名した。
【0038】
本菌は、平成12年7月5日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−18406として寄託されている。本発明で使用する微生物は野生株に限らず、上記野生株を紫外線、エックス線、放射線、各種薬品[NTG(N-メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、EMS(エチルメタンスルホネート)等]などを用いる人工的変異手段で変異した変異株もコージオリゴ糖およびニゲロオリゴ糖を含む糖質の産生能を有する限り使用できる。
【0039】
本酵素を産出する本菌株の培養に用いる培地は、微生物が生育可能で、本酵素を生成するものであればよく、合成培地、天然培地のいずれでもよい。
【0040】
培地中に添加する炭素源については、微生物が資化可能なものであればよく、例えばグルコースや澱粉およびその分解物が最も適しているが、それ以外にも、フルクトース、トレハロース、ラクトース、ショ糖、糖蜜なども利用できる。
窒素源としては、例えば硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸塩などの無機窒素化合物や、例えば尿素、酵母エキス、大豆ペプトン、カゼイン、ポリペプトン、麦芽エキス、コーンスティープリカーなどの有機窒素含有物などが用いられる。
また、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩などの無機塩がその他に適宜用いられる。
【0041】
培養条件は微生物が生育し、本酵素が良好に生成する条件であればよく、通常、温度は15℃から35℃の範囲で、望ましくは20℃から30℃付近でおこなう。培養液のpHはpH3.0−9.0の間にあれば敢えて調整する必要がない。培養中は、振とう、通気攪拌などで好気的に行うのが望ましい。培養時間は微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは、72時間から、150時間である。このようにして培養を行った微生物は、遠心分離や、ろ紙、ガラスフィルターによるろ過法などで、菌体と培養液を分離回収する。
【0042】
【発明の実施の形態】
本発明におけるコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を産出するためには、このように培養した菌体をそのまま基質であるα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種に作用させてもよい。その場合、回収された菌体は、分離後直ちに使用しても良いし、−20−−40℃で冷凍保存後に、適時解凍し、使用することもできる。
また、以下に示すような手順によって当該酵素を抽出、精製した酵素を用いても良い。
【0043】
コージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を産出する活性を有するα−グルコシダーゼは、本菌株の培養後期において菌体外の培養液、菌体内抽出液両方にその活性が確認される。しかし、より短期間の培養によって得られる菌体内部に、本目的を達するのに十分な活性が保持されているため、通常菌体内の酵素を用いることとする。
【0044】
菌体内の酵素は、通常の超音波による破砕法、ガラスビーズなどによる機械的破砕法、フレンチプレスなどによる破砕法などを用いて菌体から抽出してもよいが、本酵素は菌体をpH6.0−10.0、望ましくはpH7.0−9.0の弱アルカリ性の緩衝液に懸濁し、一晩5−10℃の低温で放置することにより、酵素液として容易かつ、夾雑物質(タンパク、色素など)を含まない状態で菌体外に抽出することができる。その後ろ過または遠心分離により菌体残渣を除いて得られた菌体内酵素粗抽出液は、各菌体破砕法に比べ、比活性が高くそのままでも十分糖質合成に用いることが可能であるが、必要ならばこれを出発原料として、塩析、アルコール沈殿法、膜濃縮などの通常の手段で濃縮して粗酵素として用いても良いし、更にイオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなど各種クロマトグラフィーを用いて精製した後、使用しても良い。本発明におけるコージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖を含む糖質を産生する酵素の単離、精製の具体例を実施例1に示す。
【0045】
このようにして菌体から取得したα−グルコシダーゼを、基質であるα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種に作用させることにより、本発明におけるオリゴ糖を取得することができる。
【0046】
コージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖を効率よく生産することのできる基質としてはマルトオリゴ糖、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトトリオース、ニゲロース、コージビオース、マルトースなどα−グルコオリゴ糖、澱粉、アミロース、アミロペクチン,グリコーゲン、粉飴などのα−グルカン、グルコースを使用することができる。
【0047】
グルコースを基質として用いた場合、他の基質の場合と異なり,加水分解反応の逆反応である縮合反応によって,コージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖を生産することができるが,その収率は転移反応に比べて低いため、望ましくは、経済性および水への溶解度の点からマルトースを用いるのがよい。
【0048】
また、α−グルコシル基の受容体としては、非還元末端にグルコース残基を有していればよく、具体的にはグルコース、マルトトリオース、マルトース、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、ニゲロース,ニゲロシルグルコース、ニゲロトリオース、コージビオース、コージビオシルグルコース、コージトリオース、セロビオース、ラミナリビオース、ソホロース、ゲンチオビオース、トレハロース、スクロースなどが挙げられる。
【0049】
基質の濃度は、反応液中に溶解する濃度であればよく、マルトースの場合、1−80%の範囲ならばよく、より効率よく糖質を得るためには、10−50%マルトースの条件で行うのが望ましい。具体的なオリゴ糖の製造方法は、実施例2,3に示す。
【0050】
反応に用いられる温度としては酵素が反応進行中に安定である温度域ならばよく、30―80℃、望ましくは40℃から70℃で行うのが適当である。
反応に用いられるpHは、通常pH3.5−7.0、望ましくはpH4.0−6.0で行うのが適当である。反応時間は、反応条件によって変化するが、本酵素は反応初期にはα−1,3−グルコシド結合をもつニゲロオリゴ糖を著量生成するので、ニゲロオリゴ糖を効率よく得る目的ならば反応時間は3−12時間で終了させる。十分量のコージオリゴ糖を生成させるためには通常24−124時間の反応時間が必要である。
【0051】
反応に用いる酵素濃度は濃いほうが反応時間の短縮が図れて都合がよい。酵素濃度が薄いとコージオリゴ糖の収率が悪くなる。
具体的にはマルトース1gに対して10U以上、望ましくは15U以上の濃度が適当である。
通常このような条件において、糖固形分中に10−30%のニゲロオリゴ糖および10−20%のコージオリゴ糖が蓄積する。
こうして得られたコージオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖を含む糖質は、そのまま濃縮してシロップとして利用できるほか、含まれるグルコースを除去するため更に、活性炭カラム、ゲルろ過などの分子分画クロマトグラフィー、またはイオン交換クロマトグラフィーを用いて、高濃度のオリゴ糖シロップとすることもできる。
【0052】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
パエシロマイセス ライラキナスHKS−124株を、マルトース(5%)、ポリペプトン(1%)、MgSO4・7H20(0.01%)、KCl(0.01%)、K2HPO4(0.05%)を含む培地(150mL/500mLフラスコ × 30本)で、25℃で、5日間振とう培養した。この培養液を遠心分離し、沈殿した菌体画分を50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で数回洗浄し、回収する。5Lの培養液より、湿重量約200gの菌体を得た。
培養によって得られたパエシロマイセス ライラキナスHKS−124株の菌体画分(200g)を50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で数回洗浄したのち、1000mLの50mMリン酸バッファー(pH8.0)に十分懸濁し、5℃で、一晩放置する。その後、遠心分離で上清を回収し、菌体内粗酵素液(0.2U/mL)1000mLを調製した。この方法により菌体内の酵素活性のほぼ90%を、菌体外に抽出し、回収することができた。本粗酵素液を50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で平衡化したSP−トヨパール650Mカラム(30mm × 180mm、東ソー株式会社製)にアプライし、NaCl濃度を直線的に上昇させて目的タンパク質の溶出を行った。
【0054】
このようにして溶出させた酵素活性画分を回収(380mL、0.3U/mL)し、50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で透析を行った。次いで、回収された溶出液に、1.5Mになるよう硫酸アンモニウムを加え、1.5M硫酸アンモニウムを含む50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で緩衝化したブチルトヨパールカラム(18mm × 250mm、東ソー株式会社製)にアプライし、硫酸アンモニウム濃度を、1.5Mから0Mに直線的に減少させて溶出してきたマルトース分解活性画分(22mL 1.6U/mL)を回収した。回収された活性画分は、限外ろ過により濃縮し、セファクリルS−100(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(30mm × 100cm)を用いて、溶出した活性画分を回収し、電気泳動的に単一な菌体内酵素標品を得た。
活性の回収率は12%で比活性は80倍に向上した。
【0055】
〔実施例2〕
実施例1のようにして調製した菌体内精製酵素0.5mL(20U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、50℃で反応を開始した。、反応開始3時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の還元糖をABEE標識化キットを用いて標識化し、転移生成物の組成を逆層HPLCで分析した。濃度既知の標準還元糖を同様にABEE標識化し、その溶出時間および、ピーク面積から、各成分を定量した。
その結果を表3に示す。反応開始後3時間で全糖固形分中ニゲロオリゴ糖が26.9%、コージオリゴ糖が7.6%得られた。ニゲロオリゴ糖のうち二糖類であるニゲロースが12.2%、三糖類であるニゲロシルグルコースが14.7%、また、コージオリゴ糖のうち二糖類であるコージビオースが2.5%、三糖類であるコージビオシルグルコースが5.1%得られた。このときのオリゴ糖のクロマトグラムを図4に示した。
【0056】
〔実施例3〕
実施例1のようにして調製した菌体内精製酵素0.5mL(20U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、50℃で反応を開始した。反応開始78時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の還元糖をABEE標識化キットを用いて標識化し、転移生成物の組成を逆相HPLCで分析した。濃度既知の標準還元糖を同様にABEE標識化し、その溶出時間および、ピーク面積から、各成分を定量した。
その結果を表3に示す。反応開始後78時間で全糖固形分中ニゲロオリゴ糖が13.2%、コージオリゴ糖が15.7%得られた。ニゲロオリゴ糖のうち二糖類であるニゲロースが11.9%、三糖類であるニゲロシルグルコースが1.3%、また、コージオリゴ糖のうち二糖類であるコージビオースが13.9%、三糖類であるコージビオシルグルコースが1.8%得られた。このときのオリゴ糖のクロマトグラムを図5に示した。
【0057】
〔比較例1〕
用いる菌株をパエシロマイセス ライラキナスHKS−124株の代わりに、パエシロマイセス ライラキナスD218株に置き換えて、実施例1のように、粗酵素液を調整した。その粗酵素液(20U/mL) を用いて実施例3と同様に、45%マルト−スに作用させ、転移生成物の組成を逆相HPLCで分析した。その結果を表3に示す。反応開始後78時間で、全糖固形分中ニゲロオリゴ糖が6.2%、コージオリゴ糖が5.3%得られた。ニゲロオリゴ糖のうち二糖類であるニゲロースが5.8%、三糖類であるニゲロシルグルコースが0.4%、また、コージオリゴ糖のうち二糖類であるコージビオースが4.5%、三糖類であるコージビオシルグルコースが0.8%得られた。
【0058】
〔実施例4〕
実施例1のようにして調製した菌体内精製酵素0.3mL(20U/mL) を、80%グルコース0.5mLに作用させ(最終濃度50%)、50℃で反応を開始した。反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の還元糖をABEE標識化キットを用いて標識化し、転移生成物の組成を逆相HPLCで分析した。濃度既知の標準還元糖を同様にABEE標識化し、その溶出時間およびピーク面積から、各成分を定量した。
その結果を表3に示す。グルコースを基質とした縮合反応においても、転移反応と比較すると収率は低いが、ニゲロース、コージビオースを得ることができる
。
【0059】
【表3】
【0060】
〔実施例5〕
実施例1のようにして調製した酵素液1mLを、45%マルトース2mLに作用させ(最終濃度30%)、50℃で反応を開始した。経時的に100μL分取し、沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の還元糖をABEE標識化キットを用いて標識化し、転移生成物の組成を逆相HPLCで分析した。濃度既知の標準還元糖を同様にABEE標識化し、その溶出時間および、ピーク面積と比較した結果、図6に示したように反応開始直後は、基質であるマルトースにグルコースがα−1,2、α−1,3結合で転移したコージビオシルグルコースやニゲロシルグルコースなどの三糖類が主に生成してくるが、反応開始後20時間あたりで、これら三糖類は急激に減少する。それに伴いグルコースを糖受容体としてα−1,2、α−1,3結合したコージビオースとニゲロースが主な転移生成物として蓄積してくることが分かる。
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明によって開示されたパエシロマイセス属由来の菌が有する新規なα−グルコシダーゼをα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用させることにより、機能性を期待されるオリゴ糖であるコージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を効率よく産生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】マルトースを基質としたときの本酵素のpH安定性およびマルトース分解活性におよぼすpHの影響を調べた結果を示すグラフである。
【図2】マルトースを基質としたときに本酵素における転移活性(ニゲロシルグルコースの生成量)とpHの影響を調べた結果を示すグラフである。
【図3】本酵素の温度安定性、およびマルトースを基質としたときのマルトース分解活性の至適温度を調べた結果を示すグラフである。。
【図4】30%マルトース溶液と本酵素を50℃で3時間作用させたときの転移生成物をABEE標識した後HPLCで分析したクロマトグラムを示す。
【図5】30%マルトース溶液と本酵素を50℃で78時間作用させたときの転移生成物をABEE標識した後HPLCで分析したクロマトグラムを示す。
【図6】30%マルトース溶液と本酵素を50℃で作用させたときの転移生成物組成の経時変化をそれぞれの時間の転移生成物をABEE標識した後分析した結果を示すグラフである。
Claims (4)
- α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、コージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を産生する特徴を有するパエシロマイセス ライラキナス(Paecilomyces lilacinus)に属する真菌由来の下記の性質を有するα−グルコシダーゼ。
(1) 基質特異性
マルトース、ニゲロース、コージビオース、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチンおよびグリコーゲンの非還元末端側のα−グルコシド結合を分解し、グルコースを遊離する。更にα−グルコシル基を糖受容体の非還元末端のグルコース残基の2、3、4位に転移する糖転移活性も有する。パラニトロフェニルα−グルコシド、メチルα−グルコシドおよびショ糖には作用しにくい。
(2) 至適pH 5.0 (40℃)
(3) 安定pH範囲 40℃、1時間の処理で4.0−8.0である。
(4) 至適温度 65℃ (pH5.5)。
(5) 温度安定性 pH5.5、30分間の処理で50%の活性を有する温度は65℃である。
(6) 分子量 54,000(ゲルろ過クロマトグラフィー)、50,000(SDSゲル電気泳動)。
(7) 等電点 9.1。 - 真菌がパエシロマイセス ライラキナスHKS−124 (FERM P−18406)である請求項1記載のα−グルコシダーゼ。
- 真菌パエシロマイセス ライラキナスHKS−124を好気的に培養し、培養液中に産生した、もしくは、培養した菌体抽出液より、請求項1記載のα−グルコシダーゼを採取することを特徴とするα−グルコシダーゼの製造方法。
- 請求項1または2記載のα−グルコシダーゼをα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に対して作用させ、コージオリゴ糖とニゲロオリゴ糖を含む糖質を得ることを特徴とする糖質の製造方法。
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