JP2017123844A - 配糖体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールを効率よく配糖化することができる、当該化合物の配糖体の製造方法を提供すること。【解決手段】ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールに、糖供与体の存在下で、前記化合物の配糖体を生成する活性を有する、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物又はその処理物を作用させて、前記化合物の配糖体を製造する。より具体的には、例えばゲラニオールにマルトースの存在下で、エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物又はその処理物を接触させて、ゲラニオールとグルコースがグリコシド結合を形成したゲラニオール配糖体を製造する。【選択図】なし
Description
本発明は、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物の培養物や当該微生物由来の糖転移酵素を用いて、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールの配糖体を製造する方法に関する。
配糖体は、糖のヘミアセタール性ヒドロキシ基が、非糖成分であるアグリコンに結合した化合物のことである。配糖体は生物界に広く分布し、配糖体としては、植物色素であるアントシアニンやフラボン類、カラシナ類の辛味の主成分であるからし油配糖体、さらにサポニン(ステロイド、ステロイドアルカロイド、トリテルペンの配糖体の総称)、糖脂質、ヌクレオシド、抗生物質等が知られている。配糖体になると、糖が結合する前の化合物よりも水溶性や安定性等が向上する等、物性が変化する。
化合物の水溶性や安定性を向上させることや、新たな機能発現を見いだすことを目的として、配糖化研究がされている。例えば、アスコルビン酸をα-グルコシダーゼやシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼにより配糖化したことが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。アスコルビン酸は、熱、光や酸素等によって分解しやすいが、配糖化することによって安定に存在できる。また、メントールは揮発しやすく、水にも溶けにくい性質であるが、配糖化することによって、香気を持続させ、水溶性も向上することが開示されている(特許文献1)。メントールの配糖化方法として、例えば、スクロースやマルトース等の糖類とメントールとをα−グルコシダーゼを用いた酵素反応によりメントール配糖体を製造する方法(特許文献2)、Xanthomonas属やStenotrophomonas属、Arthrobacter属に属するメントール配糖化能を有する微生物によって製造する方法等が提案されている(特許文献3)。
また、植物体から精油成分として得られるテルペンアルコール(ヒドロキシ基をもつテルペノイド)は、医薬品原料として、調味料、清涼飲料、アルコール飲料、菓子類等の食品添加剤として、また化粧品の香料としても使用されている有用な化合物である。さらに、エタノールの配糖体であるエチルグルコシドは日本酒中の機能成分として知られている(特許文献4)。
Biochim.Biophys.Acta.,1990,1035,44−50
Agric.Biol.Chem.,1991,55,1751−1756
しかしながら、テルペンアルコールは、水に溶けにくいものが多く、そのため用途が制限されている。テルペンアルコールをはじめとするアルコール性化合物は、配糖化することにより、水溶性等の物性改善、機能改善や新たな機能発現が期待される。また、これら化合物の産業的利用においては、配糖体を含めた誘導体の効率のよい製造方法、配糖体の効率的な製造が可能な糖転移酵素等が求められている。
本発明の課題は、テルペンアルコールを含むヒドロキシ基を有するテルペン化合物や脂肪族アルコール等を効率よく配糖化を行うための糖転移酵素を利用した配糖体の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題の解決のために鋭意研究の結果、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物や脂肪族アルコール等のアルキルアルコールとマルトース等の糖供与体とを、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物の培養物の存在下で反応させることにより当該化合物の配糖体、例えばゲラニオールやネロール、シトロネロール、エタノール等の配糖体が合成可能であることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールに、糖供与体の存在下で、前記化合物の配糖体を生成する活性を有する、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物又はその処理物を作用させて、前記化合物の配糖体を生成させることを特徴とする配糖体の製造方法。
(2)エンシファー属に属する微生物が、エンシファー・アドヘレンス(E. adhaerens)である(1)に記載の配糖体の製造方法。
(3)ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が、モノテルペンアルコール、セスキテルペンアルコール及びジテルペンアルコールよりなる群から選ばれる何れかの化合物である(1)又は(2)に記載の配糖体の製造方法。
(1)ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールに、糖供与体の存在下で、前記化合物の配糖体を生成する活性を有する、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物又はその処理物を作用させて、前記化合物の配糖体を生成させることを特徴とする配糖体の製造方法。
(2)エンシファー属に属する微生物が、エンシファー・アドヘレンス(E. adhaerens)である(1)に記載の配糖体の製造方法。
(3)ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が、モノテルペンアルコール、セスキテルペンアルコール及びジテルペンアルコールよりなる群から選ばれる何れかの化合物である(1)又は(2)に記載の配糖体の製造方法。
本発明における糖転移酵素や微生物の培養物は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物や脂肪族アルコール等のアルキルアルコールを配糖化することができ、これにより得られた配糖体の水溶性や安定性等の物性は配糖化前よりも向上する。また、配糖化によって、配糖化される前の化合物にはなかった新たな生理活性機能が現れたり、活性の増強がされたりし得る。特に、当該糖転移酵素や当該微生物の培養物は、特にゲラニオール、ネロール、シトロネロール等のテルペンアルコールの配糖体やエタノールの配糖体(エチルグルコシド)を製造するのに特に適する。例えば、ゲラニオール配糖体は、水に溶解しやすく、ゲラニオールよりも安定であるため、飲食品、医薬品及び化粧品等に配合して用いることができる。また、エチルグルコシドは、飲食品、化粧品、医薬品等に配合して用いることができる。
(エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物)
本発明において、エンシファー属に属する微生物とは、配糖体を生成する活性を有し、16SrRNA遺伝子塩基配列解析の結果から、エンシファー属に含まれることが明らかとなった微生物をいい、従来、例えばシノリゾビウム(Sinorhizobium)属等として分類されていたものも含む。
本発明において、エンシファー属に属する微生物とは、配糖体を生成する活性を有し、16SrRNA遺伝子塩基配列解析の結果から、エンシファー属に含まれることが明らかとなった微生物をいい、従来、例えばシノリゾビウム(Sinorhizobium)属等として分類されていたものも含む。
エンシファー属に属する微生物としては、例えば、エンシファー・アドヘレンス(E. adhaerens)(=シノリゾビウム・モレレンス(S. morelense))、エンシファー・アルボリス(E. arboris)、エンシファー・フレディ(E. fredii)、エンシファー・ガラマンティカス(E. garamanticus)、エンシファー・コスティエンシス(E. kostiensis)、エンシファー・メディカ(E. medicae)、エンシファー・メリロティ(E. meliloti)、エンシファー・サヘリ(E. saheli)、エンシファー・テランガ(E. terangae)、エンシファー・キシンジアンエンシス(E. xinjiangensis)、シノリゾビウム・アメリカナム(S.americanum)等を挙げることができる。
エンシファー属に属する具体的な菌株としては、例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「NITE」という。)の生物遺伝資源部門生物資源カタログに記載されている、例えば、エンシファー・アドヘレンスNBRC100387、NBRC100388、NBRC108628等、エンシファー・アルボリスNBRC100383等、エンシファー・フレディNBRC100018、NBRC14780等、エンシファー・ガラマンティカスNBRC107849等、エンシファー・コスティエンシスNBRC100382等、エンシファー・メディカNBRC100384等、エンシファー・メリロティNBRC14782等、エンシファー・サヘリNBRC100386等、エンシファー・テランガNBRC100385等、エンシファー・キシンジアンエンシスNBRC100018等、シノリゾビウム・アメリカナムNBRC107163等を挙げることができる。これらは1株を単独で使用してもよく、また2株以上を一緒に使用してもよい。
また、これらエンシファー属に属する微生物の中でも、エンシファー・アドヘレンスに属する微生物が好ましく、これらエンシファー・アドヘレンスに属する微生物は、NITEに保存されている菌株の中から、誰にでも容易に入手することができる。
また、これらエンシファー属に属する微生物の中でも、エンシファー・アドヘレンスに属する微生物が好ましく、これらエンシファー・アドヘレンスに属する微生物は、NITEに保存されている菌株の中から、誰にでも容易に入手することができる。
また、本発明において、アグロバクテリウム属に属する微生物とは、配糖体を生成する活性を有し、16SrRNA遺伝子塩基配列解析の結果から、アグロバクテリウム属に含まれることが明らかとなった微生物をいう。
アグロバクテリウム属に属する微生物としては、例えば、アグロバクテリウム・アジル(A. agile)、アグロバクテリウム・ルテウム(A. luteum)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(A. tumefaciens)、アグロバクテリウム・リゾジネス(A. rhizogenes)、アグロバクテリウム・アトランティカム(A. atlanticum)、アグロバクテリウム・フェルジニューム(A. ferrugineum)、アグロバクテリウム・ゲラチノボラス(A. gelatinovorum)、アグロバクテリウム・キーレンス(A. kielense)、アグロバクテリウム・メテオン(A. meteon)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(A. radiobacter)、アグロバクテリウム・ルビ(A. rubi)等を挙げることができる。
アグロバクテリウム属に属する微生物の具体的な菌株として、アグロバクテリウム・エスピー(Agrobacterium sp.)M−12を挙げることができる。アグロバクテリウム・エスピーM−12は、本発明者等により天然土壌から分離された細菌であり、2016年1月8日付けで、NITEに受託番号NITE P−02189として寄託されている。
本発明において、アルスロバクター属に属する微生物とは、配糖体を生成する活性を有し、16SrRNA遺伝子塩基配列解析の結果から、アルスロバクター属に含まれることが明らかとなった微生物をいう。
また、アルスロバクター属に属する微生物としては、例えば、アルスロバクター・ニコチノボランス(A. nicotinovorans)、アルスロバクター・ヒスチジノロボランス(A. histidinolovorans)等を挙げることができる。
アルスロバクター属に属する微生物の具体的な菌株として、アルスロバクター・ニコチノボランスDSM420、アルスロバクター・ヒスチジノロボランスDSM20115等を挙げることができる。これら微生物は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Braunschweig, Germany)に保存されている菌株の中から、誰にでも容易に入手することができる。
また、アルスロバクター属に属する微生物の具体的な菌株として、アルスロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)M−238を挙げることができる。アルスロバクター・エスピーM−238は、本発明者等により天然土壌から分離された細菌であり、2016年12月22日付けで、NITEに受領番号NITE AP−02396として寄託されている。
また、上記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物を紫外線、エックス線、薬品等を用いる人工的な変異手段で変異させることができるが、このような変異株(変異微生物)も、本発明で用い得る糖転移酵素の活性を有するかぎり、本発明における糖転移酵素の由来微生物として使用することができる。
また、上記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物には、エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物に由来する糖転移酵素をコードする遺伝子で形質転換し、当該糖転移酵素を発現する大腸菌等の宿主細胞(組換え体)も便宜上含まれる。これら組換え体は、例えば以下の方法により作製することができる。
上記糖転移酵素の部分アミノ酸配列を常法により決定し、その配列に基づき適当なDNAプローブを調製する。当該DNAプローブを用いて、エンシファー、アグロバクテリウム又はアルスロバクターの遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることにより糖転移酵素遺伝子をクローニングすることができる。得られたDNAの塩基配列を部分アミノ酸配列の情報と比較することにより、エンシファー、アグロバクテリウム又はアルスロバクター由来の遺伝子が取得できたか否かを確認することができる。なお、エンシファー、アグロバクテリウム又はアルスロバクターの遺伝子ライブラリーは、例えば市販の遺伝子ライブラリー作製キット等を用いて作製することができる。
クローニングに用いる微生物DNAの単離、ゲノムライブラリーの作製、スクリーニング、塩基配列の解析は当業者に周知の方法によって行うことができる。例えば、精製した糖転移酵素を加水分解し、その加水分解断片の部分アミノ酸配列の情報をもとにオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、PCR反応を用いて当該糖転移酵素をコードする遺伝子の部分配列を単離する。次いで、この部分配列を用いてDNAプローブを調製し、エンシファー、アグロバクテリウム又はアルスロバクターのゲノムライブラリーをスクリーニングし、当該糖転移酵素を発現するクローンを選択することができる。この選択されたクローンより目的とするタンパク質をコードする遺伝子の配列を明らかにすることできる。
上記宿主細胞としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)等を用いることができ、またベクターとしては、エシェリヒア・コリ内で複製できるpUC18、pUC19、pBR322、pGEM3、pGEM4等、バチルス・ズブチリス内で複製できるpUC110、pE194、pC194等、バチルス・ブレビス内で複製できるpNCMO2、pNY326等のプラスミドが使用できる。
エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物は、pH5.0〜8.0程度の培地で、培養温度20〜40℃、培養時間1〜7日間培養することが好ましい。微生物の培養培地としては、通常の微生物の培養に使用される培地であれば用いることができ、例えば炭素源、窒素源、無機塩類及びその他の栄養物質等を含有する天然培地又は合成培地等を用いることができる。培地の形状としては、液体培地、半流動培地、固形培地等が挙げられる。
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、シュークロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトール、グリセリン等の糖質及び糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸等の有機酸;エタノール、プロパノール等のアルコール等を挙げることができる。特に好ましい炭素源としてマルトースが挙げられる。炭素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。これら炭素源の培地における濃度は通常0.1〜10wt%程度である。
窒素源としては、窒素化合物、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機もしくは有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等を挙げることができる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ−アミン、蛋白質加水分解物、アミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用可能である。窒素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。窒素源の培地濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、通常約0.1〜10wt%程度である。
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム(KH2PO4)、リン酸第二カリウム(K2HPO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫酸鉄(FeSO4)、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸カルシウム等を挙げることができる。これら無機塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。無機塩類の培地濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常0.01〜1.0wt%程度である。
栄養物質としては、例えば肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物、動植物のエキス、微生物菌体のエキス、それらの分解物等を挙げることができる。栄養物質の培地濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、通常0.1〜10wt%程度である。
培地のpHは、無機の酸又はアルカリ溶液、有機の酸又はアルカリ溶液、アンモニア、pH緩衝液等によって調整する。
(微生物の培養物)
本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物の培養物は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコール及び糖供与体の存在下で、当該化合物の配糖体を生成するために使用するという用途が限定された培養物(菌自体をも含む)である。本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物としては、これら微生物の培養物を好適に例示することができ、かかる培養物の処理物としては、培養上清を分離した湿菌体、凍結乾燥処理やアセトン処理等による乾燥菌体、これら菌体を担体に結合させた固定化微生物、培養上清等が含まれる。また、上記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物の培養物には、エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物に由来する糖転移酵素をコードする遺伝子で、大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、糖転移酵素を発現する当該宿主細胞の培養物も含まれる。
本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物の培養物は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコール及び糖供与体の存在下で、当該化合物の配糖体を生成するために使用するという用途が限定された培養物(菌自体をも含む)である。本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物としては、これら微生物の培養物を好適に例示することができ、かかる培養物の処理物としては、培養上清を分離した湿菌体、凍結乾燥処理やアセトン処理等による乾燥菌体、これら菌体を担体に結合させた固定化微生物、培養上清等が含まれる。また、上記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物の培養物には、エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物に由来する糖転移酵素をコードする遺伝子で、大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、糖転移酵素を発現する当該宿主細胞の培養物も含まれる。
(糖転移酵素)
本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物やその処理物には、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコール及び糖供与体の存在下で前記化合物の配糖体を生成する活性を有する糖転移酵素が含まれている。かかる糖転移酵素としては、前記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物由来の酵素であれば特に制限されず、当該微生物の培養物から分離、精製処理された糖転移酵素含有組成物、精製された糖転移酵素、担体に当該糖転移酵素含有組成物又は当該精製糖転移酵素を結合させた固定化糖転移酵素等を挙げることができる。
本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物やその処理物には、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコール及び糖供与体の存在下で前記化合物の配糖体を生成する活性を有する糖転移酵素が含まれている。かかる糖転移酵素としては、前記エンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物由来の酵素であれば特に制限されず、当該微生物の培養物から分離、精製処理された糖転移酵素含有組成物、精製された糖転移酵素、担体に当該糖転移酵素含有組成物又は当該精製糖転移酵素を結合させた固定化糖転移酵素等を挙げることができる。
当該微生物の培養物からの糖転移酵素の分離、精製は、超音波やガラスビーズによる微生物菌体の破砕物や培養上清を、例えば硫安沈殿、イオン交換カラムクロマトグラフィー、キレートアフィニティクロマトグラフィーあるいはゲルろ過カラムクロマトグラフィー等といった通常の酵素精製処理手段を組み合わせることにより行うことができる。
前記の乾燥菌体や上記の糖転移酵素を固定化するための担体としては、微生物や酵素の固定化に使用される担体であればいずれも用いることができ、例えばセライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、アクリルアミド、カラギーナン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等を挙げることができる。前記担体への微生物や酵素等の固定化の方法としては、吸着法、イオン結合法、共有結合法、生化学的特異結合法等の公知の方法を挙げることができる。固定化された糖転移酵素を用いる場合、バッチ式で繰り返し、又は連続式で配糖体の製造に用いることも可能である。
上記糖転移酵素には、糖転移酵素をコードする遺伝子で、大腸菌等を形質転換した組換え体で発現させた糖転移酵素も含まれる。その他、一般的に、ペプチドないしタンパク質は、そのアミノ酸配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていても同じ活性を有することが知られていることから、これらの欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列や、コドンの縮重により相違する塩基配列によりコードされた遺伝子より発現されたタンパク質であっても、上記糖転移酵素の活性を有するタンパク質をコードしているかぎり利用することができ、発現した当該タンパク質も上記糖転移酵素に含まれる。
当該糖転移酵素遺伝子を、適当なプロモーターや形質発現にかかわる配列を導入した、適当なベクターで宿主細胞を形質転換し、得られた組換え体において当該糖転移酵素遺伝子を発現させることが可能であることから、このような遺伝子組換え技術により、上記糖転移酵素を大量に製造することが可能である。
(ヒドロキシ基を有するテルペン化合物)
本発明において、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物としては、イソプレン骨格を基本単位(以下「イソプレン単位」という。)として含む炭化水素であって、ヒドロキシ基を有する化合物であれば特に限定されず、非環式化合物でも、環式化合物であってもよい。
本発明において、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物としては、イソプレン骨格を基本単位(以下「イソプレン単位」という。)として含む炭化水素であって、ヒドロキシ基を有する化合物であれば特に限定されず、非環式化合物でも、環式化合物であってもよい。
上記ヒドロキシ基を有するテルペン化合物に含まれるイソプレン単位の数は特に限定されないが、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個である。かかるヒドロキシ基を有するテルペン化合物の具体例としては、例えば、プレノール(3−メチル−2−ブテン−1−オール)、3−メチル−3−ブテン−2−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヘミテルペンアルコール(イソプレン単位1個のテルペアルコール);ネロール、ゲラニオール、8−ヒドロキシゲラニオール、リナロール、8−ヒドロキシリナロール、テルピネオール、シトロネロール等のモノテルペンルコール(イソプレン単位2個のテルペンアルコール);ネロリドール、ファルネソール等のセスキテルペンアルコール(イソプレン単位3個のテルペンアルコール)、ゲラニルゲラニオール、フィトール等のジテルペンアルコール(イソプレン単位4個のテルペンアルコール)等が挙げられる。これらヒドロキシ基を有するテルペン化合物には、その立体異性体、光学異性体等が含まれる。
上記ヒドロキシ基を有するテルペン化合物として、植物等に由来する原料から公知の方法による抽出物の他、市販品を用いることもできる。また、本発明において、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物の形態で提供されていてもよく、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物を含む抽出物の形態で提供されてもよい。例えば、植物由来の原料である場合、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物を含む抽出物は、植物全体、あるいは葉部、茎部、花部、果肉部、根部等を破砕、搾汁、粉末化、ペースト化等の加工後、必要に応じて熱水抽出、エタノール抽出、超臨界抽出等の抽出処理を行うことにより得ることができる。
また、これらヒドロキシ基を有するテルペン化合物は、天然物であっても、合成品であってもよい。
(脂肪族アルコール)
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、R−2−ペンタノール、S−2−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、1−ノナノール、5−ノナノール等が挙げられる。中でも、第1級アルコールが好ましく、具体的にはエタノールが最も好ましい。これら脂肪族アルコールは天然物であっても、合成品であってもよい。
また、脂肪族アルコールは、芳香族基、好ましくはフェニル基で置換されていてもよい。具体的には、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。これら化合物も、本明細書においては、脂肪族アルコールと総称する。
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、R−2−ペンタノール、S−2−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、1−ノナノール、5−ノナノール等が挙げられる。中でも、第1級アルコールが好ましく、具体的にはエタノールが最も好ましい。これら脂肪族アルコールは天然物であっても、合成品であってもよい。
また、脂肪族アルコールは、芳香族基、好ましくはフェニル基で置換されていてもよい。具体的には、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。これら化合物も、本明細書においては、脂肪族アルコールと総称する。
(糖供与体)
糖供与体としては、当該酵素の存在下で配糖体が生成するものであれば、特に制限は無いが、例えば、グルコース;マルトース;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース等のマルトオリゴ糖;デキストリン;シクロデキストリン;アミロース等のα−グルカンと称される澱粉加水分解物;澱粉及びそれらの混合物等を糖供与体として用いることができる。また、前記糖供与体は、市販品を用いてもよいし、澱粉や澱粉分解物にα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ等の加水分解酵素を作用させたものも用いることができる。
糖供与体としては、当該酵素の存在下で配糖体が生成するものであれば、特に制限は無いが、例えば、グルコース;マルトース;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース等のマルトオリゴ糖;デキストリン;シクロデキストリン;アミロース等のα−グルカンと称される澱粉加水分解物;澱粉及びそれらの混合物等を糖供与体として用いることができる。また、前記糖供与体は、市販品を用いてもよいし、澱粉や澱粉分解物にα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ等の加水分解酵素を作用させたものも用いることができる。
(配糖体)
本発明における配糖体は、糖のヘミアセタール性OH基がヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールに結合した化合物であれば特に制限されず、かかるグリコシド結合は、α−グリコシド結合であっても、β−グリコシド結合であってもよい。
本発明における配糖体は、糖のヘミアセタール性OH基がヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールに結合した化合物であれば特に制限されず、かかるグリコシド結合は、α−グリコシド結合であっても、β−グリコシド結合であってもよい。
具体的には、例えば、ゲラニオール配糖体は下記一般式(1)で表わされる。
(式中、Rはグルコシル基、マルトシル基又はマルトオリゴ糖のグルコシル基を示す。)
また、上記一般式(1)で表わされるゲラニオール配糖体の中でも、以下の式(2)で表される配糖体を好適に例示することができる。
また、脂肪族アルコール配糖体としては、具体的には、例えばエタノールの配糖体であるエチルグルコシドが特に好ましい配糖体として挙げられる。エチルグルコシドとしては、エチル−α−D−グルコシド、エチル−β−D−グルコシドが好ましく、エチル−α−D−グルコシドがより好ましい。
(配糖体の製造)
本発明の配糖体の製造方法としては、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールと糖供与体との混合物に本発明における糖転移酵素又は微生物の培養物を加え、糖転移反応を生起させる方法を挙げることができる。ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が非水溶性である場合、通常水相と分離するため、アジテーター、スターラー等で攪拌しながら、あるいはローテーター等を利用して反応を行うことが好適である。反応液に、乳化剤を混合させておいてもよい。また、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が例えばテルペンアルコールである場合、テルペンアルコール又はテルペンアルコールを含む植物抽出物に上記糖転移酵素又は微生物の培養物の存在下で糖供与体を接触させることによってテルペンアルコールの配糖体を製造することができる。
本発明の配糖体の製造方法としては、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールと糖供与体との混合物に本発明における糖転移酵素又は微生物の培養物を加え、糖転移反応を生起させる方法を挙げることができる。ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が非水溶性である場合、通常水相と分離するため、アジテーター、スターラー等で攪拌しながら、あるいはローテーター等を利用して反応を行うことが好適である。反応液に、乳化剤を混合させておいてもよい。また、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が例えばテルペンアルコールである場合、テルペンアルコール又はテルペンアルコールを含む植物抽出物に上記糖転移酵素又は微生物の培養物の存在下で糖供与体を接触させることによってテルペンアルコールの配糖体を製造することができる。
上記糖転移酵素を用いた配糖体の製造においては、糖転移酵素の使用量と反応条件が製造効率に大きく影響するため、適切な酵素量及び反応時間等の反応条件を選択することが重要である。通常は、経済性の点から、約1〜100時間で反応が終了できるような酵素の添加量を選択することが好ましい。また、糖転移酵素が十分に作用する条件としては、pH5〜10、温度15〜50℃の範囲から選ばれる条件を挙げることができる。
糖転移酵素の濃度としては、通常、糖供与体1gあたり0.1〜100U、好ましくは、糖供与体1gあたり0.2〜50Uである。1Uは、1分間につき1μmolの基質の化学反応を促進する酵素量を表す。
本発明の製造方法における、酵素反応溶液におけるヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールの濃度は、通常1w/v%以上、好ましくは2〜30w/v%であればよく、糖供与体濃度(w/v)は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールに対して、0.5〜30倍の濃度範囲が好ましい。
ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールと糖供与体との反応は溶媒の存在下に行ってもよい。反応に用いられる溶媒としては、反応に影響しない種類と濃度範囲であればよく、具体的には、例えば、メタノール、DMSO、2−プロパノール、エタノール等が通常用い得るものとして挙げられる。これら溶媒は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
また、本発明の製造方法における配糖体は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールに、糖供与体の存在下で、前記微生物の培養物を接触させることによって製造することもできる。「微生物の培養物を接触させる」とは、微生物を培養した培地に、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールと糖供与体を添加・インキュベーションすることや、例えば、固定化微生物にヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等のアルキルアルコールと糖供与体の溶液を流下・接触させることをいう。その場合、培地中に当該微生物が存在していても、存在していなくてもよく、「微生物の培養物」には、前述したように、当該微生物の乾燥菌体や破砕物、前記糖転移酵素の遺伝子で形質転換された宿主細胞、当該宿主細胞の乾燥菌体や破砕物、精製された糖転移酵素、それらの固定化物等を含まれる。また、培地にグルコース、フルクトース、シュークロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトール、グリセリン等の糖質が含まれる場合、前記糖質を糖供与体として用いることができる。
上記のように製造された配糖体及び糖供与体を共存させた状態で、更に他の糖転移酵素を作用させることにより、配糖体のグルコース重合度を2以上とすること、又はグルコース以外の糖を配糖体のグルコシル基に転移することも当然可能であり、また、そのようにして生じた物質はモノグルコシドよりも水溶性が高いと予想される。
混合物を加熱、あるいはpHを下げることなどにより含有されている酵素を失活させ、反応を停止することができる。
上記のように製造された配糖体を含む混合物には配糖体の他、未反応物であるヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等の基質、糖供与体、場合によっては酵素、及びグルコース等の反応副生成物が混合しているため、必要に応じて、α−アミラーゼ(EC番号:EC.3.2.1.1)、β−アミラーゼ(EC番号:EC.3.2.1.2)、グルコアミラーゼ(EC番号:EC.3.1.1.3)等によって加水分解処理を行い、残存した糖供与体を低分子化させることができる。
ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコール等の等のアルキルアルコール基質と配糖体では水に対する溶解性が違うため、通常、抽出操作により、油相及び水相に分離することが可能である。特に、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物の配糖体はより親水性の高い溶媒に溶解するため、この親水性溶媒を更にイオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等の方法で分離精製することにより、高純度の配糖体の精製品を容易に得ることができる。
上記配糖体の混合物、混合物の加水分解処理物、混合物の酵素失活処理物、混合物の精製処理物、これらの乾燥、粉末化したもの等を、配糖体を含む、飲食品用、化粧品用、医薬部外品用又は医薬品用組成物として、飲食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]ゲラニオール配糖体の製造
(1)寒天培地の作製
マルトース(日本食品化工製)5g、酵母エキス(ベクトン・ディッキンソン製)100mg、(NH4)2SO4(和光純薬工業製)2g、KH2PO4(関東化学製)1g、K2HPO4(和光純薬工業製)1g、MgSO4・7H2O(関東化学製)0.2g、FeSO4・7H2O(関東化学製)0.01g及び培地用寒天BA−10(伊那食品工業製)を15g量り取り、2Lビーカーに移して蒸留水1Lを加え、溶解し、NaOHでpH7.0に調整した。当該溶液をオートクレーブで121℃、20分間滅菌後、クリーンベンチ内のシャーレに15mlずつ分注した。シャーレの蓋を僅かに開けて20分間静置し、冷却後、寒天培地として利用した。
(1)寒天培地の作製
マルトース(日本食品化工製)5g、酵母エキス(ベクトン・ディッキンソン製)100mg、(NH4)2SO4(和光純薬工業製)2g、KH2PO4(関東化学製)1g、K2HPO4(和光純薬工業製)1g、MgSO4・7H2O(関東化学製)0.2g、FeSO4・7H2O(関東化学製)0.01g及び培地用寒天BA−10(伊那食品工業製)を15g量り取り、2Lビーカーに移して蒸留水1Lを加え、溶解し、NaOHでpH7.0に調整した。当該溶液をオートクレーブで121℃、20分間滅菌後、クリーンベンチ内のシャーレに15mlずつ分注した。シャーレの蓋を僅かに開けて20分間静置し、冷却後、寒天培地として利用した。
(2)液体培地の作製
マルトース(日本食品化工製)50g、ポリペプトン(和光純薬工業製)2g、酵母エキス(ベクトン・ディッキンソン製)2g、(NH4)2SO4(和光純薬工業製)2g、KH2PO4(関東化学製)1g、K2HPO4(和光純薬工業製)1g、MgSO4・7H2O(関東化学製)0.2gを量り取り、2Lビーカーに移して蒸留水1Lを加え、溶解し、NaOHでpH7.0に調整した。当該溶液50mlを200ml容バッフル付三角フラスコに仕込み、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却後、液体培地として利用した。
マルトース(日本食品化工製)50g、ポリペプトン(和光純薬工業製)2g、酵母エキス(ベクトン・ディッキンソン製)2g、(NH4)2SO4(和光純薬工業製)2g、KH2PO4(関東化学製)1g、K2HPO4(和光純薬工業製)1g、MgSO4・7H2O(関東化学製)0.2gを量り取り、2Lビーカーに移して蒸留水1Lを加え、溶解し、NaOHでpH7.0に調整した。当該溶液50mlを200ml容バッフル付三角フラスコに仕込み、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却後、液体培地として利用した。
(3)培養及びゲラニオール配糖体の製造[1]
上記寒天培地上で、2〜3日間、25℃で培養させた、エンシファー・アドヘレンスNBRC100387株を2白金耳、上記液体培地に植菌し、25℃、160rpmにて42時間振とう培養した。
培養後、ゲラニオール14mgを含むメタノール溶液0.1mlを当該培養液に添加し、25℃、160rpmにて反応を開始した。ゲラニオールの添加から24時間後にメタノールを5ml添加後、遠心分離により菌体を分離し、生成されたゲラニオール配糖体を含む反応上清を取得した。
上記寒天培地上で、2〜3日間、25℃で培養させた、エンシファー・アドヘレンスNBRC100387株を2白金耳、上記液体培地に植菌し、25℃、160rpmにて42時間振とう培養した。
培養後、ゲラニオール14mgを含むメタノール溶液0.1mlを当該培養液に添加し、25℃、160rpmにて反応を開始した。ゲラニオールの添加から24時間後にメタノールを5ml添加後、遠心分離により菌体を分離し、生成されたゲラニオール配糖体を含む反応上清を取得した。
(4)培養及びゲラニオール配糖体の製造[2]
上記寒天培地上で、2〜3日間、25℃で培養させた、アグロバクテリウム・エスピーM−12株を2白金耳、上記液体培地に植菌し、25℃、160rpmにて42時間振とう培養した。
培養後、ゲラニオール14mgを含むメタノール溶液0.1mlを当該培養液に添加し、25℃、160rpmにて反応を開始した。ゲラニオールの添加から48時間後にメタノールを5ml添加後、遠心分離により菌体を分離し、生成されたゲラニオール配糖体を含む反応上清を取得した。
上記寒天培地上で、2〜3日間、25℃で培養させた、アグロバクテリウム・エスピーM−12株を2白金耳、上記液体培地に植菌し、25℃、160rpmにて42時間振とう培養した。
培養後、ゲラニオール14mgを含むメタノール溶液0.1mlを当該培養液に添加し、25℃、160rpmにて反応を開始した。ゲラニオールの添加から48時間後にメタノールを5ml添加後、遠心分離により菌体を分離し、生成されたゲラニオール配糖体を含む反応上清を取得した。
[実施例2]ゲラニオール配糖体の分析
実施例1で取得した、ゲラニオール配糖体を含む反応上清について、HPLC及びLC−MSによる分析を行った。
実施例1で取得した、ゲラニオール配糖体を含む反応上清について、HPLC及びLC−MSによる分析を行った。
(1)HPLCによる分析
分析カラムとしてCOSMOSIL 5C18-MS-II 4.6mm×150mm、溶離液としてメタノール:水=7:3を用い、室温、流速0.5ml/minの条件で、215nmのUV吸収により分析を行った。ゲラニオール配糖体の製造[1]及び[2]において、HPLC分析の結果、溶出時間15.1分にピークが観測され、ゲラニオール配糖体の生成が確認された。
分析カラムとしてCOSMOSIL 5C18-MS-II 4.6mm×150mm、溶離液としてメタノール:水=7:3を用い、室温、流速0.5ml/minの条件で、215nmのUV吸収により分析を行った。ゲラニオール配糖体の製造[1]及び[2]において、HPLC分析の結果、溶出時間15.1分にピークが観測され、ゲラニオール配糖体の生成が確認された。
(2)LC−MSによる分析
反応上清に等量の酢酸エチルを添加し十分に混和し、静置後、水層及び酢酸エチル層をLC−MSにより測定した。測定は北海道大学 大学院保健科学研究院 健康イノベーションセンター 高度脂質分析ラボで行った。分析の条件を図1に示す。
反応上清に等量の酢酸エチルを添加し十分に混和し、静置後、水層及び酢酸エチル層をLC−MSにより測定した。測定は北海道大学 大学院保健科学研究院 健康イノベーションセンター 高度脂質分析ラボで行った。分析の条件を図1に示す。
LC−MS分析により、ゲラニオールにグルコースが結合したゲラニオール配糖体の水素付加イオン(分子式:C16H29O6、理論値:317.3978[(M+H)+]、実測値:317.1959)及びゲラニオール配糖体の水素+水付加イオン(分子式:C16H31O7、理論値:335.4131[(M+H+H2O)+]、実測値:335.2065)が観測された(図2、3)。以上の観測結果は、ゲラニオール配糖体の製造[1]及び[2]において、ゲラニオールとグルコースがグリコシド結合を形成し、ゲラニオール配糖体になったことを示す。
[実施例3]脂肪族アルコール配糖体の製造
メタノールから1−ブタノールまでを基質(アクセプター)として用いた以外は実施例1(4)と同様の方法で、マルトースを糖供与体(ドナー)とするアグロバクテリウム・エスピーM−12株による配糖化反応を行った。
反応上清のTLC分析(Merk kieselgel 60 F254、展開溶媒;1−ブタノール:2−プロパノール:水=2:2:1)により、メタノールからブタノールまで配糖体の生成が確認できた。エタノールが配糖化したエチル−α−D−グルコシドについては試薬(和光純薬)とRf値が一致した。
メタノールから1−ブタノールまでを基質(アクセプター)として用いた以外は実施例1(4)と同様の方法で、マルトースを糖供与体(ドナー)とするアグロバクテリウム・エスピーM−12株による配糖化反応を行った。
反応上清のTLC分析(Merk kieselgel 60 F254、展開溶媒;1−ブタノール:2−プロパノール:水=2:2:1)により、メタノールからブタノールまで配糖体の生成が確認できた。エタノールが配糖化したエチル−α−D−グルコシドについては試薬(和光純薬)とRf値が一致した。
[実施例4]アルスロバクター属微生物による配糖体の製造、基質特異性
実施例1(3)と同様の方法で培養したアルスロバクター・エスピー238株の洗浄菌体を用い、次の反応条件で、各種アルキルアルコール基質(アクセプター)のマルトースを糖供与体(ドナー)とする配糖化反応を行った。
反応条件
反応液:マルトース 100g/l(pH7.0 100mMリン酸緩衝液) 0.2ml
各種基質添加量:2μl(固体の基質は2mg添加)
反応温度:30℃ 反応時間:48hr
実施例1(3)と同様の方法で培養したアルスロバクター・エスピー238株の洗浄菌体を用い、次の反応条件で、各種アルキルアルコール基質(アクセプター)のマルトースを糖供与体(ドナー)とする配糖化反応を行った。
反応条件
反応液:マルトース 100g/l(pH7.0 100mMリン酸緩衝液) 0.2ml
各種基質添加量:2μl(固体の基質は2mg添加)
反応温度:30℃ 反応時間:48hr
各反応上清について、実施例3と同様の方法で、TLC分析を行い、配糖体生成の有無を確認した。
その結果、基質(アクセプター)として、ゲラニオール、ネロール、β−シトロネロール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、2−エチル−1−ブタノール、1−ブタノール、1−ノナノール、2−ペンタノール、フェネチルアルコールを用いた場合、配糖体生成が明確に確認できた。また、R−2−ペンタノール、ベンジルアルコールを用いた場合、配糖体生成が確認できた。
その結果、基質(アクセプター)として、ゲラニオール、ネロール、β−シトロネロール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、2−エチル−1−ブタノール、1−ブタノール、1−ノナノール、2−ペンタノール、フェネチルアルコールを用いた場合、配糖体生成が明確に確認できた。また、R−2−ペンタノール、ベンジルアルコールを用いた場合、配糖体生成が確認できた。
[実施例5]エンシファー属微生物の基質特異性
実施例1(3)と同様の条件で培養したエンシファー・アドヘレンスNBRC100387株の洗浄菌体を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、各種アルキルアルコール基質(アクセプター)のマルトースを糖供与体(ドナー)とする配糖化反応を行い、配糖体生成の有無を確認した。
実施例1(3)と同様の条件で培養したエンシファー・アドヘレンスNBRC100387株の洗浄菌体を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、各種アルキルアルコール基質(アクセプター)のマルトースを糖供与体(ドナー)とする配糖化反応を行い、配糖体生成の有無を確認した。
その結果、基質(アクセプター)として、ネロール、β−シトロネロール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、1−ブタノール、2−ペンタノール、R−2−ペンタノール、S−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、ピロカテコールを用いた場合、最も多い配糖体の生成が確認できた。ゲラニオール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ノナノール、5−ノナノール、フェネチルアルコールを用いた場合、配糖体生成が明確に確認できた。また、プロカテク酸を用いた場合も配糖体生成が確認できた。
本発明におけるエンシファー属、アグロバクテリウム属又はアルスロバクター属に属する微生物由来の糖転移酵素及び上記微生物の培養物は、ヒドロキシ基を有するテルペン化合物や脂肪族アルコール等を配糖化することに用いることができ、特にゲラニオールの配糖体やエタノールの配糖体(エチルグルコシド)等の製造に好適に用いることができる。製造されたゲラニオール配糖体を含む組成物は、ゲラニオールと比較して、水溶性及び安定性に優れ、飲食品、化粧品、医薬品等に配合して用いることができる。また、エチルグルコシドは、飲食品、化粧品、医薬品等に配合して用いることができる。
Claims (3)
- ヒドロキシ基を有するテルペン化合物又は脂肪族アルコールに、糖供与体の存在下で、前記化合物の配糖体を生成する活性を有する、エンシファー(Ensifer)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属又はアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物又はその処理物を作用させて、前記化合物の配糖体を生成させることを特徴とする配糖体の製造方法。
- エンシファー属に属する微生物が、エンシファー・アドヘレンス(E. adhaerens)である請求項1に記載の配糖体の製造方法。
- ヒドロキシ基を有するテルペン化合物が、モノテルペンアルコール、セスキテルペンアルコール及びジテルペンアルコールよりなる群から選ばれる何れかの化合物である請求項1又は2に記載の配糖体の製造方法。
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Cited By (3)
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CN110317765A (zh) * | 2018-03-29 | 2019-10-11 | 中国科学院天津工业生物技术研究所 | 一种高产香叶醇葡萄糖苷的大肠杆菌表达菌株及其应用 |
CN112074527A (zh) * | 2018-09-29 | 2020-12-11 | 弗门尼舍有限公司 | 萜烯糖苷衍生物及其用途 |
CN113926472A (zh) * | 2021-07-29 | 2022-01-14 | 山东大学 | 一种糖苷化反应催化剂、糖苷化方法和应用 |
-
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- 2017-01-13 JP JP2017004372A patent/JP2017123844A/ja active Pending
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