JP4830031B2 - 転移酵素、糖質の製造方法、配糖体の製造方法、転移酵素の製造方法 - Google Patents
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Description
また、α−1,6グルコシド結合(以後、α1,6結合と記載)を分子内に有するイソマルトオリゴ糖は低甘味性や保湿性などのマルトオリゴ糖の特徴に加え、ビフィズス菌の選択増殖活性や虫歯になりにくいなどの生理効果が知られており、その特徴を生かして飲料や菓子など幅広く食品に応用されている。このように食品物性の改良および生理機能の付与を目的として幅広く利用されている澱粉由来の糖質は、その殆どがα1,4、α1,6結合で構成されている。
α1,2結合を有する糖質については、還元力が弱くメイラード反応性が弱い、う蝕原性菌によって酸醗酵されないなどの機能性(非特許文献1)が報告されている。
これに関して、『酵素応用の知識』 初版 80乃至129ページ 1986年 「糖質関連酵素とその応用」の「糖質関連酵素」の項において、「工業的な糖化条件では、55℃以下では雑菌汚染の危険性が伴い、糖化反応中にpHが低下する。」と記載されているように、澱粉を原料とし、長時間にわたる酵素反応の場合、55℃以下の温度の反応条件では、雑菌汚染により反応液がpH低下し、反応途中で酵素失活することが懸念され、リゾチーム等の添加による雑菌汚染防止や反応液のpH調整を必要とする場合もある。
なお、反応温度の高温化は、基質と生産物の溶解度を上げて単位体積当たりの仕込量を多くすることができる。酵素反応速度が早くなり反応時間の短縮化ができる等の利点があり、コスト的にも有効である。
その結果、Aspergillus属の菌株、特に、Aspergillus niger属菌株またはAspergillus awamori属菌株が、65℃で十分な耐熱性を持つ新規酵素を産生することを見出した。本菌株を適当な条件で培養し、得られた酵素を、澱粉分解物を基質として反応させると、α1,2結合、α1,3結合を有する糖転移物を生成する活性を持つことを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
本発明の転移酵素は、耐熱性が50〜65℃のいずれかの温度でpH5.0、30分間保持において、90%以上の残存活性を有するものが含まれる。
また、本発明の転移酵素は、下記の理化学的性質を有するものが含まれる。
(1)作用:マルトース、ニゲロース、コージビオース、マルトオリゴ糖などα−グルコオリゴ糖および、アミロース、可溶性澱粉などのα−グルカンの非還元末端側のα−グルコシド結合を分解し、グルコースを遊離する。また、スクロースを分解する活性を持つ。更に、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、α1,2グルコシド結合、α1,3結合グルコシドを有する糖質を産生する。
(2)分子量:SDS−ゲル電気泳動法により、48,000、59,000ダルトン。
(3)等電点:アンフォライン含有電気泳動法により、pI4.9〜5.5
(4)至適温度:pH4.0、10分間反応で、65℃
(5)至適pH:50℃、10分間反応で、pH3.5
(6)温度安定性:pH4.0、30分間保持で、65℃では初期活性の90%以上の残存
(7)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH3.0〜5.0
本発明の転移酵素は、Aspergillus niger属菌株またはAspergillus awamori属菌株のいずれか一方から生産することもできる。
本発明の転移酵素は、酵素をコードするアミノ酸配列に、配列I:LLVEYQTDERLHVMIYDADEEVYQVPESVLPR、配列II:TWLPDDPYVYGLGEHSDPMR、配列III:IPLETMWTDIDYMDKR、配列IV:VFTLDPQR、配列V:WASLGAFYTFYR、とからなる配列群より選択されるいずれか1以上の配列を含有するものがある。
本発明は、上記いずれかの転移酵素を、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖に作用させ、α1,2結合を有する糖質と、α1,3結合を有する糖質を生成した後、前記糖質を採取して糖質を製造することもできる。
また、本発明は、澱粉部分分解物に、上記のいずれかの転移酵素を作用させ、α1,2結合を有する糖質と、α1,3結合を有する糖質を生成した後、前記糖質を採取することもできる。
前記澱粉部分分解物は、澱粉質を前記転移酵素以外の酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られるものである。
更に、受容体糖分子に直鎖オリゴ糖を転移させる不均一化反応(Disproportionation反応)を触媒する酵素、及び/又は枝切酵素、及び/又はグルコアミラーゼを作用させることも可能である。
本発明によれば、食物繊維含有量が30%以上とすることができる。更に、糖質を採取するに際し、塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを用いることもできる。
前記転移酵素を前記糖又は前記澱粉分解物に作用させる工程は、60〜80℃で行うことが好ましい。
また、上記いずれかの転移酵素を、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液とグルコースの誘導体に作用して、配糖体を採取することもできる。
本発明は、上記いずれかの転移酵素産生能を有するAspergillusに属する微生物を栄養培地中で培養して、当該転移酵素を生成させ、得られる培養物から当該転移酵素を採取することが可能である。
本発明は、このように、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む澱粉分解物等の糖原料に作用してα1,2結合、α1,3結合を有する糖質を生成する特性を持った、耐熱性のAspergillus属の転移酵素と、本酵素を用いた糖転移物の製造法に関するものである。
本発明の転移酵素は、後述するようにαグルコシド結合を加水分解する酵素であるから、以下本発明の転移酵素をα−グルコシダーゼ、又は本酵素とも称する。
具体的には、2糖であるコージビオース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→2)−O−D−グルコピラノース]]、三糖類であるコージビオシルグルコース[O−α−D−グルコピラノシル−(1→2)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノース]などが例示できる。また、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 205ページ 1964年)により、3糖以上の成分についても、その構造中に1,2結合が含有されるか判断できる。
糸状菌(Absidia、Acremonium、Actinomadura、Alternaria、Aspergillus、Chaetomium、Coprinus、Coriolus、Geotrichum、Humicola、Monascus、Mortierella、Mucor、Nocardiopsis、Oidiodendron、Penicillium、Rhizomucor、Rhizopus、Trichoderma、Verticillium)
担子菌(Coliolus、Corticium、Cyathus、Irpexs、Polyporus、Pycnoporus、Trametes)、
細菌(Aeromonas、Agrobacterium、Alcaligenes、Agrobacterium、Alteromonas、Arthrobacter、Bacillus、Brevibacterium、Chromobacterium、Corynebacterium、Crypnohectria、Erwinia、Escherichia、Flavobacterium、Klebsiella、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Microbacterium、Micrococcus、Pimelobacter、Plesiomonas、Protaminobacter、Pseudomonas、Serratia、Streptococcus、Streptoverticillium、Sulfolobus、Thermus、Xanthomonas)
放線菌(Actinomadura、Actinomyces、Actinoplanes、Amycolatopsis、Eupenicillium、Nocardiopsis、Streptomyces、Thermomonospora)
酵母(Aureobasidium、Candida、Irpex、Kluyveromyces、Pycnoporus、Saccharomyces、Trichosporon)など食品製造にて使用例のある株が望ましい。
Aspergillus niger(ATCC 10254)、Aspergillus niger van Tieghem var. niger fsp. hennebergii Blochwitz ex Al−Musallam(NBRC 4043)、Aspergillus awamori(ATCC 14331)などが好適な菌株として挙げられる。
本発明においてAspergillus属の菌を用いて、目的とする転移酵素を得るに際しては、その培養には、公知の手法が適宜に採用され、例えば液体培養及び固体培養の何れもが任意に用いられ得るものである。
本発明で使用する微生物は野生株に限らず、上記野生株を紫外線、エックス線、放射線、各種薬品[NTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、EMS(エチルメタンスルホネート)等]などを用いる人工的変異手段で変異した変異株も、α1,2結合、α1,3結合を有する糖質を産生する耐熱性の転移酵素である限り、使用できる。
(1)作用
本酵素は基質の非還元末端のα−グルコシド結合をエキソ型に切断するα−グルコシダーゼで、α1,4結合以外にα1,2結合、α1,3結合の加水分解を行う一方、糖供与体からのグルコース残基を糖受容体のグルコース残基の2,3,4位いずれかの水酸基に転移する糖転移反応も行う。
α−グルコシル基が4位の水酸基に転移した転移生成物は、本酵素によって再び分解されるため、最終的に転移生成物としてα1,2、α1,3結合を有する糖質が蓄積される。また、グルコース骨格を持つ誘導体、OH基を有する化合物を受容体とした場合でも、糖転移活性も持つ。従って、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコース等に、グルコース誘導体を加えた基質に作用して、配糖体を採取することができる。基質としては、澱粉、アミロース、アミロペクチン,グリコーゲン、デキストリン、などのα−グルカン、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトオリゴ糖、コージビオース、ニゲロースなどα−グルコオリゴ糖、グルコースを使用することができる。
Native-ゲル電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem)より、分子量97,000ダルトンであった。
SDS-ゲル電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem)より、分子量48,000、59,000ダルトンの2本のバンドが見られた。
(3)等電点
本酵素を等電点既知の標準タンパク質とともに等電点電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem)を行った結果、本酵素の等電点はpI:4.9〜5.5であり、中心値が5.2であった。
(4)至適温度
pH4.0、10分間の反応で、65℃であった。
(5)至適pH
50℃、10分間の反応で、pH3.5であった。
(6)温度安定性
65℃、30分の処理で、初期活性の90%以上残存した。
(7)pH安定性
4℃、24時間の保存で、pH3.0〜5.0であった。
以下に本発明の酵素利用法の具体例を説明するが、本発明の酵素利用法は特に限定されるものではない。
菌体及び培養液から取得した本発明の転移酵素を、基質であるα−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種からなる糖原料に作用させることにより、α1,2、α1,3結合を有する糖質を取得することができる。
α1,2結合、α1,3結合を含有する糖質を効率よく生産することのできる 基質としては、澱粉、アミロース、アミロペクチン,グリコーゲン、デキストリン、などのα−グルカン、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトオリゴ糖、コージビオース、ニゲロースなどα−グルコオリゴ糖、グルコースを使用することができる。
澱粉を部分的に加水分解するアミラーゼとしては、例えば、Handbook of Amylases and Related Enzymes (パーガモン・プレス社 東京 1988年)に記載されている、α−アミラーゼ、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーセなどが用いられる。これらアミラーゼとプルラナーゼ及びイソアミラーゼなどの枝切酵素を併用することも有利に実施できる。
α−グルコシル基の受容体としては、非還元末端にグルコース残基を有していればよく、具体的にはグルコース、マルトース、マルトトリオース、コージビオース、コージトリオース、コージビオシルグルコース、ニゲロース、ニゲロトリオース、ニゲロシルグルコース、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、トレハロース、スクロースなどが挙げられる。また、グルコースの誘導体やOH基を持つ化合物も受容体となりうる。
これらの酵素の中でも、50℃〜65℃でも失活しない耐熱性酵素を選択すれば、本発明の転移酵素と一緒に作用させる際に、50℃を超える高温で処理できる。
これらの酵素は、α1,2結合、α1,3結合を生成する転移酵素と同時に作用させても良いし、別々に反応させても良い。他の酵素が澱粉分解酵素の場合、本発明の転移酵素と同時に作用させると、澱粉部分分解物の生成と、当該分解物からの糖生成とが同時に進行する。また、得られたα1,2結合、α1,3結合を有する糖質を水素添加し糖アルコールにして、還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。
反応に用いられる温度としては酵素が反応液中で安定である温度域ならばよく、60〜80℃、望ましくは60℃から70℃で行うのが適当である。反応に用いられるpHは、通常pH3.5〜7.0、望ましくはpH4.0〜6.0で行うのが適当である。
反応に用いる酵素濃度は濃いほうが反応時間の短縮が図れて都合がよい。酵素濃度が薄いとα1,2結合、α1,3結合を有する糖質の収率が悪くなる。
必要ならば、更に、高度な精製をすることも随意である。例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画、活性炭カラムクロマトグラフィーによる分画することにより、高純度化することもできる。
本酵素の活性はマルトースを基質とした加水分解活性にて評価した。
本酵素の分解活性として、マルトースを基質とした加水分解活性は、以下のように測定した。20mM マルトース 100μLに対して、200mM酢酸緩衝液(pH4.0)を16μL、酵素溶液を84μL加え、50℃で10分間反応させた後、沸騰浴で5分間処理することで反応を停止した。反応液に生成したグルコース量をグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業製)にて測定した。1分間に1μmolのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義した。
反応液の重合度分布は以下の条件でゲルろ過カラムによる分析にて行った。
HPLC測定条件 : カラム;三菱化学CK04S、
カラム温度 : 65℃、
移動層組成 : D.W.(蒸留水)
検出 : RI(示差屈折検出機)
流速 : 0.35mL/分
各ピークは、あらかじめ同条件で分析した標準糖の溶出時間と比較して同定し、ピーク面積より生成量を算出した。
具体的な分析方法は、以下のように行った。
HPLC測定条件 : カラム: Unison UK−Amino 250×4.6mm (インタクト(株)社製)
カラム温度 : 35℃
流速 :溶離液:1.0mL/分、反応液:0.4mL/分
得られた組成物全体において、1,2結合、1,3結合の糖質が含有されるか評価するためには、メチル化分析法(Journal of Biochemistry 第55巻 205ページ 1964年)を行った。
得られた組成物の3糖以上の成分に1,2結合、1,3結合の糖質が含有されるか評価するために、酵素−HPLC法(Journal of AOAC International 第85巻 435ページ 2002年、もしくは、栄養表示基準における栄養成分等の分析方法について 平成11年4月26日衛新第13号)を行った。本分析法で検出される3糖以上の成分を食物繊維含有量(Prosky値)とした。
Journal of Applied Glycoscience 第49巻 479ページ 2002年の分析例では、αグルカンの分子中に1,2結合、1,3結合が存在すると糖質のProsky値が高くなることが知られている。そのため、この分析法で検出される3糖以上の成分には1,2結合、1,3結合が存在すると考えられる。
コーンスターチを常法によりαアミラーゼを用いて液化させ、濃度30%、DE10の澱粉液化液を得た。次いで、この澱粉液化液を50、55、60、65、70℃の各温度に保存して反応を継続させDE28まで分解した。なお、DEは粉糖関連工業分析法、(株)食品化学新聞社に記載された手法にて測定した。
反応終了時に塩酸を添加し、反応液をpH4.0に調整して80℃に1時間保存することによりαアミラーゼを失活させた。得られた各反応液中の異物を除去するため、φ9cmのヌッチェにろ布を張り、ろ過助剤(セライトKC580、米国、セライト社製)を20g重層してケーキを作成し反応液を通過させた。得られたサンプルの分解性、性状を評価するため、濁度(分光光度計UV−1200、島津製作所、1cm石英セル)を測定した。その結果を下記表4に記載する。
培地として、澱粉:2%、ペプトン:0.25%、酵母エキス:0.25%、大豆粉:1%、リン酸一カリウム:0.03%、硫酸マグネシウム:0.01%、塩化カルシウム:0.01%、及び塩化ナトリウム:0.01%を含み、pH=6.5としたものを準備し、その100mLを、500mL容の三角フラスコに入れて、蒸気滅菌した後、Aspergillus niger ATCC 10254株を植菌し、30℃の温度で3日間、振とう培養を行なった。
上記の種を滅菌水で80倍に希釈し、その10mLを、500mLの三角フラスコ内に収容した、オートクレーブ滅菌した10gの小麦ふすまに移植せしめ、水分が均一になるようによく攪拌した後、30℃で4日間、固体培養を行なった。培養終了後、100gの滅菌水で小麦ふすまを洗浄し、16,000×g, 30分、4℃で遠心して不溶物を除いた。酵素活性を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性にて評価した結果、培地原料1gあたり53Uの活性を得た。
実施例1の手法にて得られる培養液1.8L、9,700Uを濃縮し、以下の4段階のクロマト分離を行った。
(1)陰イオン交換クロマトグラフィー(1回目):培養液を限外ろ過により20mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.5に置換し、0.2μmのフィルターを通過したものを酵素原液として用いた。分離樹脂はTOYOPEARL DEAE−650M(東ソー(株)社製)を用い、樹脂量(以後CVと記載)は100mLとした。
初発の緩衝液として20mM 酢酸ナトリム緩衝液pH5.5を用いて、0→0.4M 塩化ナトリウムの直線的濃度勾配(8CV)で溶出し、上記<分析方法>で記載したマルトース分解活性を含む画分を回収した。
得られた画分はNative−ポリアクリルアミドゲルゲル電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem、以後Native−PAGEと記載)にて純度を評価した結果を図1a(左方)に示す。97,000ダルトンの単一バンドであった。
実施例2の方法で得られた酵素をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem、以後SDS−PAGEと記載))にて分析した結果を図1a(右方)に示す。分子量48,000、59,000の2本が検出された。Native−PAGEによる結果と比較すると、本酵素はヘテロダイマーの構造を持つと考えられた。
また、等電点電気泳動(GEヘルスケア・ジャパン(株)社製、PhastSystem)にて分析し、等電点は約4.9〜5.5であった(中心値が5.2)。蛋白質が糖鎖等の修飾を受けているために、広い分布を示すと考えられる。
本酵素活性に対する温度、pHの影響を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて調べた。pHの影響の評価では酢酸緩衝液の代わりにブリトン−ロビンソン緩衝液を用いて実施した。
その結果を図2(温度の影響)、図3(pHの影響)に示した。酵素の至適温度はpH4.0、10分間反応で65℃、至適pHは50℃、10分間反応で3.5であった。
本酵素活性に対する温度、pHの安定性を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて調べた。pHの安定性の評価では酢酸緩衝液の代わりにブリトン−ロビンソン緩衝液を用いて実施した。
温度安定性は酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH4.0)を各温度に30分間保持し、氷水にて冷却後、残存する酵素活性を評価した。pH安定性は酵素溶液(各pHの20mMブリトン−ロビンソン緩衝液)を4℃、24時間保持し、pHを4.0に調整した後、残存する酵素活性を評価した。
それぞれの結果を図4(温度安定性)、図5(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は65℃では初期活性の95%以上残存し、70℃では90%以上残存していた。pH安定性は3.0〜5.0の範囲であった。
<基質特異性>
本酵素の基質特異性を50℃、pH4.0の条件にて評価した。下記表5に示す。
重合度2〜4のイソマルトオリゴ糖、パノース、αサイクロデキストリン、アミロース、グリコーゲンについては作用性が低下する。パラニトロフェニルα−グルコシド、メチルα―グルコシド、γ−シクロデキストリン、についてはわずかに反応がみられた。トレハロース、β−サイクロデキストリンには全く反応がみられなかった。
本酵素の各金属イオンの影響を上記<分析方法>に記載したマルトース分解活性の測定方法に準じて実施した。各種イオンを反応系に添加して測定した結果を下記表6に示す。
本酵素は亜鉛イオン、銅イオンによりその活性を阻害される。EDTAは本酵素のマルトース分解活性には影響を与えなかった。
本酵素に含まれるアミノ酸配列を以下の方法で分析した。SDS−PAGEのゲルから、タンパク質のバンドを切り出し、還元アルキル化処理でタンパク質分子中のS−S結合を切断した後、トリプシン消化によってペプチド断片化して分析サンプルを調製した。LC/MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計、Agilent 1100シリーズ、アジレント・テクノロジー(株)社製)に供した。Aspergillus niger CBS 513.88株の配列と比較した結果、分子量59,000のバンドからは以下の配列が含有されると予測された。
配列I:LLVEYQT DERLHVMIYDADEEVYQVPESVLPR、
配列II:TWLPDDPYVYGLGEHSDPMR、
配列III:IPLETMWTDIDYMDKR、
配列IV:VFTLDPQR
また、分子量48,000のバンドからは以下の配列が含有されると予測された。
配列V:WASLGAFYTFYR
本発明の転移酵素は図1bの下線部で示した配列、すなわち配列番号64−95、146−165、295−310、312−319、619−630の5箇所でGene agdBの配列と一致が見られるため、Gene agdBである可能性が高い。
Gene agdBには、本発明の転移酵素のような、基質特性、転移特性、耐熱特性等があるということは今まで全く見出されていない。
従って、上記配列I〜Vのいずれか1以上と一致する物が、耐熱性を備え、かつ、新規の糖組成物を生産可能なことが分かる。なお、α1,2、α1,3結合オリゴ糖生成酵素(Paecilomyces lilacinus由来α―グルコシダーゼ 特開2003−169665号公報)の配列は公開されていなかった。
実施例2の方法で得られた精製酵素、0.5mL(0.7U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。
所定時間反応後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
この反応液中の重合度分布を上記<分析方法>に記載したゲルろ過クロマトグラフィーで分析した。また、2糖、3糖の異性体の組成を<分析方法>に記載したポストカラム法にて分析し、2種のHPLCより各成分の組成を算出した。反応開始後48時間における2種のHPLC分析におけるクロマトグラムを図6a、図6bに示す。
また、上記<分析方法>に記載した手法に従い、Prosky値を算出した結果、31%となった。反応液では3糖以上(DP3+)の成分は45.3%となることより、DP3+成分中の66%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
実施例1の方法で得られた粗酵素、0.5mL(4.0U/mL)を、45%マルトース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。
この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様の手法を用いて行った。
その結果を下記表7に示す。実施例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は52%となっていた。
また、Prosky値を算出した結果、31%となり、反応液3糖以上の成分中の61%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
Aspergillus niger van Tieghem var. niger fsp. hennebergii Blochwitz ex Al−Musallam(NBRC 4043)、Aspergillus awamori(ATCC14331)を用いた以外は、実施例1と同様に液体培地による前培養、固層培地による本培養を行い、培養1g当たり、41U、35Uの活性を持つ培養抽出液を得た。
それぞれの抽出液より、実施例2の方法に準じて、2回の陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーを行い、部分精製酵素を得た。これらの酵素の性質を実施例3にて記載した手法に従い評価した。ATCC10254株の場合とともに表8にまとめた。
<実施例7:精製酵素によるマルトペンタオースの転移物>
実施例2の方法で得られた精製酵素、0.5mL(0.7U/mL)を、45%マルトペンタオース1mLに作用させ(最終濃度30%)、65℃で反応を開始した。反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表9に示す。
実施例4同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は54%となっていた。また、Prosky値を算出した結果、44%となり、反応液3糖以上の成分中の75%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
高分子のαグルカンを基質とした転移反応は以下のように行った。DE10の30%(W/W)コーンスターチ液化液100gをpH6.0に調整した。液温65℃にて、実施例2の方法で得られた精製酵素を0.7U/gDS(DS:Dry Solid basis、乾燥固形物基準)、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)0.01%/gDS、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)0.1%/gDSを添加し、72時間反応した。
反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表10に示す。
実施例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は57%となっていた。
また、Prosky値を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の77%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
高分子のαグルカンを基質とした転移反応は以下のように行った。DE10の30%(W/W)コーンスターチ液化液100gをpH6.0に調整した。液温65℃にて、実施例1の方法で得られた粗酵素を4.0U/gDS、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)0.01%/gDS、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)0.1%/gDSを量添加し、72時間反応した。
反応開始72時間後に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表11に示す。
実施例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は53%となっていた。
また、Prosky値を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の74%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
実施例6の方法で得られたAspergillus awamori(ATCC14331)由来の粗酵素を用い、実施例9に記載した手法で高分子のαグルカンを基質にした反応を実施した。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表13に示す。
実施例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計44%となっていた。また、Prosky値を算出した結果、55%となり、反応液3糖以上の成分中の65%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。
酵素処理物は塩型強酸性カチオン交換樹脂(FX1040オルガノ社製)を充填した連続式クロマト分離装置(トレソーネ、オルガノ社製)により分離を行い、3糖以上の成分を分画し、常法により精製、濃縮、噴霧乾燥を行い、固形分2kgの分画物を得た。分画したサンプルの糖組成はDP1、DP2、DP3、DP4+が、0.0、0.0、27.1、72.9%となった。また、<分析方法>に記載した手法に従い、Prosky値を算出した結果、93%となった。
得られたサンプルに含有する結合様式を確認するため、実施例9と同様にメチル化分析を行った。結果上記表14に示す。クロマト分画物には1,2結合、1,3結合が存在することがわかる。
高分子のαグルカンを基質とし、CGTaseと組み合わせた転移反応は以下のように行った。DE10の30%(W/W)コーンスターチ液化液100gをpH6.0に調整した。液温60℃にて実施例1で得られる粗酵素4.0U/gDSと、枝切酵素(クライスラーゼPLF、天野エンザイム社製)を0.2%/gDSと、CGTase(コンチザイム、天野エンザイム社製)を0.8%/gDS所定量添加し、72時間反応した。
反応終了時に沸騰浴槽で10分間加熱し、酵素を失活させた。この反応液中の重合度分布、2糖、3糖の異性体分析を実施例4と同様な手法を用いて行い、各成分の組成分析を行った。分析結果を表15に示す。
実施例4と同様にα1,2結合オリゴ糖、α1,3結合オリゴ糖の生成がみられ、反応液の2糖、3糖成分中のα1,2結合オリゴ糖とα1,3結合オリゴ糖の割合の合計は56%となっていた。
また、Prosky値を算出した結果、74%となり、反応液3糖以上の成分中の79%はα1,2、α1,3結合を持つ糖質が含有されると考えられた。実施例9〜10における分析と同様に、構成分子中に1,2、1,3結合が生じていると推定される。
糖供与体として30%マルトース、受容体としてN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)3%を含む、20mM 酢酸緩衝液pH6.0、10gに対して、実施例3で調製した精製酵素を0.7U/gDS作用させ、65℃、24時間反応させた。反応終了時に沸騰浴槽で10分間加熱して酵素を失活させて、下記条件の HPLC分析を行った。
カラム温度:40℃
溶離液:75%アセトニトリル
流速:1.0ml/分
検出機:UV(280nm)
本発明の転移酵素を用いて生成された糖質は、飲料や菓子等の食品だけでなく、医薬、化粧品、家畜飼料等広い分野で添加剤として使用することができる。また、その糖質は、水に分散しやすく、飲料や食品等の添加剤として利用価値が高い、水溶性食物繊維としての利用も可能である。
Claims (14)
- 下記の理化学的性質を有し、かつα−グルカンと、α−グルコオリゴ糖と、グルコースとからなる群より選択されるいずれか1種以上の糖類に作用して、α1,2グルコシド結合を有する糖質と、α1,3グルコシド結合を有する糖質を生成し、65℃以上の温度で酵素反応可能な耐熱性のAspergillus属由来の転移酵素。
(1)作用:α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、α1,2グルコシド結合、α1,3グルコシド結合を有する食物繊維を含有する糖質を産生する。
(2)分子量:SDS−ゲル電気泳動法により、48,000、59,000ダルトン。
(3)等電点:アンフォライン含有電気泳動法により、pI4.9〜5.5(中心値が5.2)。
(4)温度安定性:pH4.0、30分間保持で、65℃では初期活性の90%以上の残存。
(5)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH3.0〜5.0。
(6)至適pH:50℃、10分間反応で、pH3.5。 - 耐熱性が50〜65℃のいずれかの温度でpH4.0、30分間保持において、90%以上の残存活性を有することを特徴とする請求項1記載の転移酵素。
- 下記の理化学的性質を有する請求項1又は請求項2記載の転移酵素。
(1)作用:マルトース、ニゲロース、コージビオース、マルトオリゴ糖のα−グルコオリゴ糖、および、アミロース、可溶性澱粉のα−グルカンの非還元末端側のα−グルコシド結合を分解し、グルコースを遊離する。また、スクロースを分解する活性を持つ。更に、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液に作用して、α1,2グルコシド結合、α1,3グルコシド結合を有する食物繊維を含有する糖質を産生する。
(2)分子量:SDS−ゲル電気泳動法により、48,000、59,000ダルトン。
(3)等電点:アンフォライン含有電気泳動法により、pI4.9〜5.5(中心値が5.2)。
(4)至適温度:pH4.0、10分間反応で、65℃。
(5)至適pH:50℃、10分間反応で、pH3.5。
(6)温度安定性:pH4.0、30分間保持で、65℃では初期活性の90%以上の残存。
(7)pH安定性:4℃、24時間保持で、pH3.0〜5.0。 - Aspergillus niger属菌株から生産される請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の転移酵素。
- 酵素をコードするアミノ酸配列に、
配列I:LLVEYQTDERLHVMIYDADEEVYQVPESVLPR、
配列II:TWLPDDPYVYGLGEHSDPMR、
配列III:IPLETMWTDIDYMDKR、
配列IV:VFTLDPQR、
配列V:WASLGAFYTFYR。
となる配列群より選択されるいずれか1以上の配列を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の転移酵素。 - 請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の転移酵素と他酵素を、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖に作用させ、α1,2グルコシド結合を有する糖質と、α1,3グルコシド結合とを有する糖質を生成した後、前記糖質を採取する糖質の製造方法。
- 澱粉部分分解物に、請求項1乃至5のいずれか1項記載の転移酵素を作用させ、α1,2グルコシド結合を有する糖質と、α1,3グルコシド結合を有する糖質を生成した後、前記糖質を採取する糖質の製造方法。
- 前記澱粉部分分解物が、澱粉質を前記転移酵素以外の酵素又は酸によって部分的に加水分解して得られる請求項7記載の糖質の製造方法。
- 請求項6記載の他酵素が、受容体糖分子に直鎖オリゴ糖を転移させる不均一化反応(Disproportionation反応)を触媒する酵素、及び/又は枝切酵素、及び/又はグルコアミラーゼである糖質の製造方法。
- 食物繊維の含有量(Prosky値)が全糖中の30%以上となる請求項6乃至請求項9のいずれか1項記載の糖質の製造方法。
- 前記糖質を採取するに際し、塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを用いることを特徴とする、請求項6乃至請求項10のいずれか1項記載の糖質の製造方法。
- 前記転移酵素を前記糖又は前記澱粉部分分解物に作用させる工程を、60〜80℃で行う請求項6乃至請求項11のいずれか1項記載の糖質の製造方法。
- 請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の転移酵素を、α−グルカン、α−グルコオリゴ糖、グルコースから選ばれる少なくとも一種を含む糖液とグルコースの誘導体に作用して、配糖体を採取することを特徴とする、配糖体の製造方法。
- 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の転移酵素産生能を有するAspergillus属に属する微生物を栄養培地中で培養して、当該転移酵素を生成させ、得られる培養物から当該転移酵素を採取することを特徴とする、転移酵素の製造方法。
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