JP2986259B2 - ゴルフボール及びゴルフボールディンプル - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明はゴルフボール及びゴルフ
ボールディンプルに関し、特に、ディンプルの形状を改
良して、飛行時におけるゴルフボール回りの空気の流れ
を乱すことにより飛行性能の向上を図るものである。

【０００２】

【従来の技術】ゴルフボールの球面には、通常、２８０
個から５４０個のディンプルが設けられている。該ディ
ンプルの役割は、ゴルフボールの飛行中において、ゴル
フボール回りの空気の流れを乱すことにより、境界層の
乱流遷移を促進し、乱流剥離を起こすことで、剥離点を
後方に下げ、圧力抵抗を小さくする点と、剥離点の上下
差の助長により揚力を向上する点の２点にある。よっ
て、ゴルフボール回りの空気の流れをより乱すことの出
来るディンプルほど空力的に優れたディンプルであると
言える。

【０００３】上記したディンプルの役割に鑑みて、従来
より、ゴルフボール回りの空気の流れを乱すために種々
の形状のディンプルを組み合わせたものが提案されてい
る。例えば、ディンプルの表面形状を五角形または六角
形としたもの (特開昭４８−１９３２５号）、ディンプ
ルの断面形状を異なる曲率を有する２種の曲面 (ダブル
ラジアス）で構成したもの (特公平３−２３１８４
号）、円形ディンプルと非円形ディンプルを組み合わせ
たもの (特開昭６４−８９８２号）がある。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記し
た従来提案されているディンプルでは、ゴルフボール回
りの空気の流れを乱す効果は十分でなく、従って、上記
ディンプルを有するゴルフボールでは所望の飛距離を得
ることが出来なかった。

【０００５】本発明は上記の問題に鑑みてなされたもの
で、ディンプルを改良することにより、ディンプルの役
割であるゴルフボール回りの空気の流れを乱す効果を増
大させ、ゴルフボールの飛距離を伸ばすことを目的とす
るものである。

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記した目的を達成する
ために、本発明は、表面にディンプルを有するゴルフボ
ールにおいて、該ディンプルのうちの４０％以上のディ
ンプルは、表面形状が多角形状で且つ断面形状がダブル
スロープで、該ダブルスロープのうちのディンプル底部
に近いスロープに比べディンプルエッジに近いスロープ
の方が勾配が急であり、ゴルフボールの仮想球面からデ
ィンプルの最深部までの深さであるＦ１がディンプルエ
ッジに近いスロープが占める深さであるＦ２よりも大き
いことを特徴とするゴルフボールを提供するものであ
る。

【０００７】さらに、本発明は、表面形状が多角形状で
あり、断面形状がダブルスロープであり、かつ、ディン
プル底部に近いスロープに比べディンプルエッジに近い
スロープの方が勾配が急であり、ゴルフボールの仮想球
面からディンプルの最深部までの深さであるＦ１がディ
ンプルエッジに近いスロープが占める深さであるＦ２よ
りも大きいことを特徴とするゴルフボールディンプルを
提供するものである。

【０００８】上記ディンプルの表面形状とは、ゴルフボ
ール球面の法線方向から見たディンプルの形状のことで
ある。また、断面形状がダブルスロープとは、図１に実
線で示すように、ディンプルエッジａからディンプル中
心ｂに至るまでの断面形状が勾配の異なる２つの直線
ｃ,ｄで構成されたものをいう。２つの直線ｃ,ｄのうち
ディンプルエッジａに近い直線を第１スロープ、ディン
プル底部に近い直線を第２スロープと称する。

【０００９】ディンプルの容積は一定の最適範囲に規定
されており、よって、該最適容積の範囲内で、ディンプ
ルのダブルスロープの形状を下記の３条件を満たすよう
に設定して、ディンプルによる空気をかき取る効果の増
大を図っている。即ち、第１に、第１スロープcの傾斜
角度θ１と第２スロープdの傾斜角度θ２とはθ１＞θ
２としている。第２に、ディンプル中心bからディンプ
ルエッジaまでの距離Ｌ１と、ディンプル中心bから第１
スロープと第２スロープとの交点eまでの距離Ｌ２との
関係は、Ｌ２／Ｌ１≧０.６としている。第３に、ゴル
フボールの仮想球面からディンプル最深部までの深さを
Ｆ１、該深さＦ１のうち第１スロープcが占める深さを
Ｆ２とし、かつ、Ｒをゴルフボールの半径とすると、下
記の式が成立するように設定している。{Ｆ２−Ｒ＋(Ｒ ^２ −Ｌ１ ^２ ) ^１／２ }／{Ｆ１−Ｒ＋(Ｒ ^２
−Ｌ１ ^２ ) ^１／２ }≧０.６

【００１０】本発明において、表面形状を多角形と称す
る場合、その形状はゴルフボールの表面が曲面であり、
ディンプルの一辺は曲線となるから、厳密には多角形で
はない。しかしながら、本発明においては、上記のよう
な形状も近似的に多角形とみなし、多角形ディンプルと
称している。

【００１１】

【作用】上記した如く、表面形状が多角形状で且つ断面
形状をダブルスロープとしたディンプルでは、まず、表
面形状を多角形状としていることで空気の流れを乱す作
用が大きい。さらに、ダブルスロープとしているため、
従来の図１中において破線gで示すシングルスロープの
場合と比較して、ディンプル容積を同一とした場合に、
ディンプルエッジに近い第１スロープの勾配を大きくと
ることが出来る。即ち、空気の流れに対して大きな角度
を持った平面(第１スロープ面)をディンプルエッジに連
続して形成することが出来る。よって、ディンプルによ
る空気を掻き取る効果が大きく、ゴルフボール回りの空
気の流れをより大きく乱し、ゴルフボールの空力特性を
向上させることが出来る。

【００１２】本発明に係るゴルフボールでは、全ディン
プルの４０％以上を上記した形状を有するディンプルと
しているため、飛行性能が向上し、飛距離を伸ばすこと
ができる。尚、上記した多角形状でダブルスロープのデ
ィンプルが４０％未満の場合には、ゴルフボール全体と
しては飛行性能が十分に向上せず、所望の飛距離を得る
ことができないことが実験により証明されている。

【００１３】

【実施例】以下、本発明を図示の実施例により詳細に説
明する。図２及び図３は、本発明に係るゴルフボールの
第１実施例である。第１実施例ではゴルフボールの表面
に正五角形でダブルスロープのディンプルのみを設けて
いる。即ち、図４、図５及び図６に示すように、表面形
状が正５角形であり、断面形状がダブルスロープである
ディンプルＡを３３２個設けている。ディンプルＡの諸
元を下記の表１に示している。

【００１４】表１中、Ｌ１，Ｌ２，Ｆ１，Ｆ２は上記図
１において説明した部分の長さを現している。即ち、図
５に示すように、Ｌ１は多角形の頂点ａから中心ｂまで
の水平距離である。Ｌ２は第１スロープｃと第２スロー
プｄの交点ｅから正多角形の中心ｂまでの水平距離であ
る。Ｆ１はゴルフボールの仮想球面からディンプルの最
深部までの深さであり、Ｆ２はＦ１のうち第１スロープ
ｃが占める深さである。

【００１５】

【表１】

【００１６】上記ディンプルＡにおけるダブルスロープ
の形状は、上記した３つの条件を満たしている。 第１にＬ２／Ｌ１≧０.６、 第２に{Ｆ２−Ｒ＋(Ｒ ^２ −Ｌ１ ^２ ) ^１／２ }／{Ｆ１−Ｒ
＋(Ｒ ^２ −Ｌ１ ^２ ) ^１／２ }≧０.６ （但し、Ｒはゴルフボールの半径である。）第３にθ１
＞θ２で、この第３の条件は第１と第２の条件が満たさ
れると自動的に満たされるもので、ディンプルＡは、第
２スロープｄに比べ第１スロープcの勾配を急にしてお
り、ゴルフボール回りの空気を掻き取る効果を向上させ
ている。

【００１７】図７及び図８は、本発明に係るゴルフボー
ルの第２実施例であり、ゴルフボール表面に設けるディ
ンプルは、表面が正五角形でダブルスロープのディンプ
ルと表面が円形でダブルラジアスのディンプルからな
る。即ち、ゴルフボール表面には、第１実施例と同様の
ディンプルＡを１５２個設けており、また、図９及び図
１０に示すように、表面形状が円で、断面形状がダブル
アジアスであるディンプルＥを１８０個設けていて、デ
ィンプル総数は３３２個である。ディンプルＥの諸元を
上記表１に示している。表１中、Ｌ１は、図１０に示す
ように、円の半径であり、r１は、ディンプル底部の曲
面の曲率であり、r２は、ディンプルエッジａに近い曲
面の曲率である。ディンプルＥは、曲率r１に比べ曲率r
２を小さく、換言すれば、ディンプルエッジａ付近の曲
面のゴルフボール回りの空気の流れに対する角度を大き
くし (勾配を急にする）、空力特性を向上させている。

【００１８】図１１及び図１２は、本発明に係るゴルフ
ボールの第３実施例であり、ゴルフボール表面に設ける
ディンプルは正五角形でダブルスロープのディンプルと
正五角形でシングルスロープのディンプルとからなる。
即ち、ゴルフボールの表面には、第１実施例及び第２実
施例と同様のディンプルＡを１５２個設けており、ま
た、図１３、図１４及び図１５に示すように、表面形状
が五角形でシングルスロープであるディンプルＣを１８
０個設けていて、ディンプル総数は３３２個としてい
る。上記シングルスロープとは、例えば図１４に示すよ
うに、ディンプルエッジａからディンプル中心ｂに至る
までの断面が単一の直線ｆで構成されたものをいう。デ
ィンプルＣの諸元を上記表１に示している。

【００１９】図１６及び図１７は、本発明に係るゴルフ
ボールの第４実施例であり、ゴルフボールの表面には正
六角形でダブルスロープのディンプルのみを設けてい
る。即ち、ゴルフボールの表面には、図１８、図１９及
び図２０に示すように、表面形状が正六角形であり、断
面形状がダブルスロープであるディンプルＢを３３２個
設けている。ディンプルＢの諸元を上記表１に示してい
る。該ディンプルＢは、上記ディンプルＡと同様に上記
３つの条件を満たして、第２スロープｄに比べ第１スロ
ープｃの勾配を急にしており、ゴルフボール回りの空気
を掻き取る効果を向上させている。

【００２０】図２１及び図２２は、本発明に係るゴルフ
ボールの第５実施例である。該ゴルフボールの表面に
は、第４実施例と同様の正六角形でダブルスロープのデ
ィンプルＢを１５２個設けており、また、第２実施例と
同様の円形でダブルラジアスのディンプルＥを１８０個
設けていて、ディンプル総数は３３２個である。

【００２１】図２３及び図２４は、本発明に係るゴルフ
ボールの第６実施例である。該ゴルフボールの球面に
は、正六角形のダブルスロープのディンプルと、正六角
形のシングルスロープのディンプルとを設けている。即
ち、第４実施例及び第５実施例と同様の正六角形でダブ
ルスロープのディンプルＢを１５２個設けており、ま
た、図２５、図２６及び図２７に示すように、表面形状
が正六角形であり、断面形状がシングルスロープｆであ
るディンプルＤを１８０個設けていて、ディンプル総数
は３３２個である。ディンプルＤの諸元を上記表１に示
している。

【００２２】上記第１実施例から第６実施例のディンプ
ルＡ〜Ｅの効果を確認するため、下記に示す第１比較例
から第３比較例のゴルフボールを作成した。

【００２３】図２８及び図２９は、第１比較例のゴルフ
ボールである。該ゴルフボールの球面には、第２実施例
及び第５実施例に設けたディンプルと同様の表面円形で
ダブルラジアスのディンプルＥのみを３３２個設けてい
る。図３０及び図３１は、第２比較例のゴルフボールで
ある。該ゴルフボールの球面には、第３実施例に設けた
ディンプルと同様の正五角形でシングルスロープのディ
ンプルＣのみを３３２個設けている。図３２及び図３３
は、第３比較例のゴルフボールである。該ゴルフボール
の球面には、第６実施例に設けたディンプルと同様の正
六角形でシングルスロープのディンプルＤのみを３３２
個有している。

【００２４】上記第１実施例から第６実施例及び第１比
較例から第３比較例のゴルフボールは、いずれもバラタ
カバー及びリキッドセンターを有する糸巻ボールであ
り、その構造及び配合は同一である。また、外径は４
２.７０±０.０３ｍｍに統一し、コンプレッションは９
５±２に統一している。さらに、ディンプルパターン
は、従来よりゴルフボールに多く用いられている２０面
体パターンに統一し、ディンプル総数も３３２個に統一
している。

【００２５】以下に、第１実施例から第６実施例及び第
１比較例から第３比較例の実験例を記載する。第１実施
例から第６実施例及び第１比較例から第３比較例のゴル
フボールを、「ツルテンパー社」製のスイングロボット
を用いて、ドライバー (Ｗ１）にてヘッドスピードが４
５ｍ／ｓの条件で飛距離テストに供した。スピンが３５
００±３００ｒｐｍ、ボール打出角が１０±０．５度と
なるようにマシン条件を調整した。打撃前のボールは２
３±１℃のオーブンで保温した。試験時の風向きは右か
らの横風であり、風速は１.１〜２.８m/sであった。各
ゴルフボールにつき２０個ずつ実験した結果の平均を表
２に示す。

【００２６】

【表２】

【００２７】上記表２中、キャリーとは、ボール発射地
点から落下した地点までの距離のことであり、トータル
とは、ボール発射地点から最終的にボールが静止した地
点までの距離のことである。トータルとキャリーの差が
ランである。また、弾道高さとは、発射地点から見た弾
道最高点の仰角のことである。

【００２８】上記表２に示すように、全ディンプルがダ
ブルスロープである第１実施例及び第４実施例のゴルフ
ボールが最も良く飛び、全ディンプル中４６％にあたる
１５２個がダブルスロープである第２実施例、第３実施
例、第５実施例及び第６実施例のゴルフボールが次に良
く飛び、ダブルスロープが全くない第１比較例から第３
比較例のゴルフボールが最も飛ばなかった。これによ
り、ダブルスロープのディンプルがゴルフボールの空力
特性を向上させることが確認できた。

【００２９】ダブルスロープの利点は、前述のように、
エッジ付近のディンプル形状がゴルフボール回りの空気
の流れに対して大きな角度を持った平面になることにあ
る。この平面の角度を大きくする、つまり勾配を急にす
るほど空気を掻き取る効果が大きくなる。このディンプ
ルエッジ付近の角度を大きくすることは、ディンプルの
径および容積が一定範囲に規定されていることより、シ
ングルスロープでは大きく取ることが出来ず、本発明の
ようにダブルスロープとすることにより、ディンプルエ
ッジ付近の勾配を急にすることが可能となる。

【００３０】尚、本発明においては、ディンプルの表面
形状を多角形としているが、多角形のなかでも特に正多
角形が望ましい。なぜなら、ゴルフボールがどの方向に
スピンしても、ほぼ同等に空気を掻き取る効果が生ずる
からである。

【００３１】

【発明の効果】以上の説明より明らかなように、本発明
に係るディンプルでは、表面形状を多角形とし、断面形
状をダブルスロープとしているので、ゴルフボール回り
の空気の掻き取り効果が大きく、ゴルフボール回りの空
気の流れを大きく乱すことができ、ゴルフボールの空力
特性を向上させることができる。また、本発明に係るゴ
ルフボールは、上記ディンプルを４０％以上有している
ため、飛行性能が向上し飛距離を増大させることができ
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】 本発明の多角形ディンプルにおけるダブルス
ロープの説明図である。

【図２】 第１実施例の正面図である。

【図３】 第１実施例の平面図である。

【図４】 ディンプルＡの平面図である。

【図５】 ディンプルＡの断面図である。

【図６】 ディンプルＡの斜視図である。

【図７】 第２実施例の正面図である。

【図８】 第２実施例の平面図である。

【図９】 ディンプルＥの平面図である。

【図１０】 ディンプルＥの断面図である。

【図１１】 第３実施例の正面図である。

【図１２】 第３実施例の平面図である。

【図１３】 ディンプルＣの平面図である。

【図１４】 ディンプルＣの断面図である。

【図１５】 ディンプルＣの斜視図である。

【図１６】 第４実施例の正面図である。

【図１７】 第４実施例の平面図である。

【図１８】 ディンプルＢの平面図である。

【図１９】 ディンプルＢの断面図である。

【図２０】 ディンプルＢの斜視図である。

【図２１】 第５実施例の正面図である。

【図２２】 第５実施例の平面図である。

【図２３】 第６実施例の正面図である。

【図２４】 第６実施例の平面図である。

【図２５】 ディンプルＤの平面図である。

【図２６】 ディンプルＤの断面図である。

【図２７】 ディンプルＤの斜視図である。

【図２８】 第１比較例の正面図である。

【図２９】 第１比較例の平面図である。

【図３０】 第２比較例の正面図である。

【図３１】 第２比較例の平面図である。

【図３２】 第３比較例の正面図である。

【図３３】 第３比較例の平面図である。

【符号の説明】

Ａ,Ｂ,Ｃ,Ｄ,Ｅ ディンプル

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 表面にディンプルを有するゴルフボール
   であって、該ディンプルのうちの４０％以上のディンプ
   ルは、表面形状が多角形状で且つ断面形状がダブルスロ
   ープで、該ダブルスロープのうちディンプル底部に近い
   スロープに比べてディンプルエッジに近いスロープの方
   が勾配が急であり、ゴルフボールの仮想球面からディン
   プルの最深部までの深さであるＦ１がディンプルエッジ
   に近いスロープが占める深さであるＦ２よりも大きいこ
   とを特徴とするゴルフボール。
2. 【請求項２】 表面形状が多角形状であり、断面形状が
   ダブルスロープであり、かつ、ディンプル底部に近いス
   ロープに比べディンプルエッジに近いスロープの方が勾
   配が急であり、ゴルフボールの仮想球面からディンプル
   の最深部までの深さであるＦ１がディンプルエッジに近
   いスロープが占める深さであるＦ２よりも大きいゴルフ
   ボールディンプル。