JP2892240B2 - ガラス成形用型およびその製造方法 - Google Patents

ガラス成形用型およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガラス光学素子などを
プレス成形により製造するためのガラス成形用型と、そ
の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、表面硬度などの特性を改善するた
めに、所定の基体表面に高硬度の膜を形成することが行
われている。高硬度膜としては、ダイヤモンド膜や窒化
ホウ素膜はその硬度が非常に高いことから広い分野でそ
の応用が進められている。
【0003】一方、レンズやプリズム等のガラス光学素
子を製造するのに、加熱軟化したガラス素材をプレス成
形することにより製造する方法が近年急速に発展してい
る。このプレス成形法によれば、高温で軟化したガラス
の成形型への融着を防ぎ、高精度に加工された成形型を
保護することを目的として離型膜が形成される。この離
型膜には成形型との密着性、ガラスとの離型性、耐酸化
性、平滑性、高硬度等の膜特性が要求される。
【0004】これらの要求に対して金属、セラミックス
等の成形型基体表面に窒化ホウ素やダイヤモンド膜を形
成することが行われている。例えば、特公平3−616
17号公報には、型基体の表面に炭化ケイ素膜を形成
し、その上に窒化ホウ素等の窒化物膜を被覆してなる光
学素子成形金型が提案されている。そして、特公平3−
61615号公報にはcBN及びa−BNの混在した薄
膜を光学素子成形金型へ適応する事が提案されている。
【0005】窒化ホウ素膜の製法について、本願出願人
による特公平2−59863号公報には真空反応室内に
設置した基体表面にホウ素蒸発源からホウ素(B)を蒸
着させると共に、加速したN2 イオンを照射することに
より、基体表面にcBNやhBNの膜を形成することが
開示されている。また、特開平4−124258号公報
には基体表面にホウ素蒸着と同時に100eV〜500
eVの窒素イオンと少なくとも1種類以上の希ガスイオ
ンとを照射して窒化ホウ素薄膜を形成することが開示さ
れている。
【0006】
【発明が解決しようとする問題点】これらのカーボンま
たはダイヤモンドの離型膜は、BK7等の鉛を含有しな
いガラス材料のプレス成形には適しており、100回以
上のプレス成形耐久性を得ている。しかしながら、SF
6等のように鉛を含有したガラス材料のプレス成形で
は、ガラス成分中の鉛がカーボン膜またはダイヤモンド
膜の炭素により還元され、成形したガラス光学素子の表
面に微少量析出し、表面を白濁させ、表面粗さを低下さ
せてしまうという問題がある。更に、この析出鉛により
離型膜の表面には引っかき傷が無数に発生し、離型膜の
耐久性を著しく劣化させていた。
【0007】また一方、BNの離型膜は、SF6やBK
7のいずれのガラス材料のプレス成形が可能ではある
が、BN膜と型基体との密着強度が低いため、膜の剥離
の発生により耐久性を著しく劣化させていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、窒化ホウ素膜
の基体との密着性を向上させるとともに、膜特性を改善
するための膜構造および成膜方法について検討をおこな
ったところ、窒化ホウ素からなる膜中に希ガス元素を所
定の割合で含有する膜が基体との密着性に優れるととも
に窒化ホウ素膜の硬度も向上することを見出し、本発明
に至った。
【0009】即ち、本発明のガラス成形用型は、炭化珪
素、窒化珪素、超硬合金あるいは酸化クロムの焼結体か
らなる型基体の成形面に窒化ホウ素からなる離型膜を形
成してなるものであって、前記離型膜に、希ガス元素を
0.001〜6.0原子%の割合で含有するとともに、
50kg/mm2 以上の圧縮応力を発生させてなること
を特徴とするものである。
【0010】また、上記ガラス成形用型の製造方法とし
て、ホウ素またはホウ素含有物質からなる蒸着源よりホ
ウ素原子を蒸発させて、炭化珪素、窒化珪素、超硬合金
あるいは酸化クロムの焼結体からなる型基体表面に蒸着
させると同時に、前記型基体表面に窒素含有イオンと希
ガス元素イオンとを照射し、希ガス元素を0.001〜
6.0原子%の割合で含有するとともに、50kg/m
2 以上の圧縮応力を有する窒化ホウ素からなる膜を形
成することを特徴とするものである。
【0011】さらに、本発明は、上記希ガス元素含有の
窒化ホウ素膜を離型膜としてガラス成形用型表面に形成
したことを特徴ものである。
【0012】以下、本発明を詳述する。本発明の窒化ホ
ウ素膜被覆部材は、所定の基体表面に窒化ホウ素からな
る硬質膜をガラスの離型膜として形成したものである
が、本発明における大きな特徴は窒化ホウ素膜中に希ガ
ス元素を0.001〜6.0原子%、特に0.01〜
5.0原子%の割合で含有する点にある。希ガス元素の
含有量を上記の範囲に限定したのは、0.001原子%
より少ないと、窒化ホウ素膜の基体との密着性の改善が
なされず窒化ホウ素膜の硬度の向上がない。また、窒化
ホウ素膜中への希ガスの含有量はおよそ6.0原子%で
飽和するため、これ以上含有させることは難しい。この
窒化ホウ素からなる膜は0.1〜5μmの厚みで形成さ
れることが望ましい。本発明における窒化ホウ素膜は、
それ自体立方晶窒化ホウ素(cBN)、ウルツ鉱型窒化
ホウ素(wBN)あるいは常圧窒化ホウ素(hBN)の
いずれか、またはこれらの混合体からなるものである
が、高硬度の要求に対しては、cBNまたはwBNから
なることが望ましい。
【0013】一方、本発明の窒化ホウ素膜が形成される
基体は、炭化珪素、窒化珪素、超硬合金、酸化クロムか
ら構成され、その表面粗さは平均表面粗さRaで1μm
以下であることが望ましく、表面粗さが大きくなると窒
化ホウ素膜との密着性が低下し窒化ホウ素膜の硬度が低
下するためである。
【0014】さらに、窒化ホウ素は熱膨張係数が3〜5
×10-6/℃の化合物であるが、型基体との熱膨張差が
大きい場合、型基体と窒化ホウ素からなる離型膜の間に
B−Si−N、B−Ti−NおよびB−Al−Nの元素
構成からなる中間層を形成すると、熱膨張差などに起因
する離型膜の剥離を防止することができる。例えば、型
基体として炭化珪素焼結体を選択した場合には、中間層
としてB−Si−N系組成物を形成すればよい。
【0015】本発明によれば、上記窒化ホウ素膜をガラ
ス成形用型における離型膜として用いる。ガラス成形用
型基体としては、炭化珪素、窒化珪素、超硬合金あるい
は酸化クロムの焼結体が用いられる。かかる型基体表面
も前述したように平均表面粗さRaで1μm以下である
ことが望ましく、また、型基体と窒化ホウ素膜の間には
金属ホウ素などの中間層が形成されていてもよい。
【0016】次に、窒化ホウ素膜は、ホウ素またはホウ
素含有物質からなる蒸着源よりホウ素原子を蒸発させ
て、所定の基体表面にに蒸着させると同時に、前記基体
表面に窒素窒素含有イオンを照射することにより窒化ホ
ウ素膜が形成されるが、本発明によれば、この時、窒素
イオンと同時に希ガスイオンを照射することにより、窒
化ホウ素膜中に希ガス元素を含有せしめることができ
る。なお、ガラス成形用型を製造する場合には、基体と
してガラス成形用型基体を設置すればよい。
【0017】そこで、本発明の製造方法における一実施
例として、イオンプレーティング法による製造方法につ
いて説明する。図1はイオンプレーティング装置の概略
配置図である。図中、1は基体、2は反応室、3は蒸着
源である。
【0018】かかる装置によれば、金属ホウ素などのホ
ウ素を含有する物質を蒸着源3として設置し、これに電
子ビーム(図示せず)を照射して蒸発させると同時に、
窒素ガスなどの窒素を含有するガス4を反応室2内に導
入し、高周波コイル5により高周波プラズマを発生さ
せ、プラズマ中で窒素イオンを生成させる。基体1には
0.1〜1.0keVの負のバイアス電圧を印加するこ
とにより窒素イオンは型基体1に加速して引き寄せられ
る。そして型基体1表面にてホウ素原子の蒸着と窒素イ
オンの照射により窒化ホウ素が生成される。
【0019】本発明によれば、上記方法において窒素含
有ガスと同時に希ガスを導入することによりプラスマ中
に窒素イオンと希ガスイオンが生成され、これが型基体
1に到達し、窒化ホウ素の生成とともに膜中に希ガス元
素が混入されることから、窒素ガスと希ガスとの混合比
率を制御することにより、窒化ホウ素膜中の希ガス元素
量を任意に調整することができる。
【0020】また、本発明のガラス成形用型の他の製造
方法として、イオンビームアシステッドデポジション法
による方法について説明する。図2は、イオンビームア
システッドデポジション成膜装置の概略図である。図
中、11は型基体、12は反応室、13は蒸発源、14
はイオン源である。
【0021】かかる装置によれば、図2に示すように基
体11を反応室12内部に設置し、反応室12内部を1
-6torr以下に真空引きする。蒸着源13として金
属ホウ素などのホウ素含有物質を用い、蒸着源13に電
子ビームを照射して金属ホウ素を蒸発させる。それと同
時に窒素含有ガスをイオン源14に導入し、窒素イオン
を生成させて基体11に照射する。これにより基体11
表面には、蒸着源13より蒸発したホウ素原子と照射さ
れた窒素イオンの反応により窒化ホウ素が生成される。
【0022】この時、本発明によれば、イオン源14に
窒素含有ガスとともに希ガスを導入することにより窒素
イオンと希ガスイオンが生成され、基体11表面に照射
され、窒化ホウ素膜の生成とともに希ガス元素が膜中に
混入される。
【0023】上記のイオンプレーティング法およびイオ
ンビームアシステッドデポジション法によれば、いずれ
も希ガスと窒素ガスの割合は、1:99〜80:20の
範囲に設定される。また、窒素ガスへの希ガスの混合割
合をを窒化ホウ素膜が生成に合わせて徐々に多くする
と、窒化ホウ素膜中で希ガスの含有量が基体から膜表面
まで徐々に多くなるような濃度勾配を形成することがで
きる。
【0024】
【作用】本発明において、窒化ホウ素膜中に希ガスを
0.001〜6.0原子%を割合で含有せしめることに
より、窒化ホウ素膜におよそ50kg/mm2 以上の圧
縮応力が与えられ、基体と膜との密着強度が向上と同時
にヌープ硬度も向上する。また、窒化ホウ素膜の基体と
の密着性も向上し、膜の剥離が発生しにくく、被覆部材
としての耐久性をも付与することができる。
【0025】また、本発明によれば、かかる窒化ホウ素
膜をガラス成形用型の表面に離型膜として形成すること
により、ガラスのプレス成形における耐久性が改善さ
れ、しかも傷が入り難くなり成形されたガラスの品質を
向上させることができる。更に、この離型膜は鉛と化学
的に反応しないので、従来成形できなかったSF6等の
鉛を含有したガラス光学材料をプレス成形する事ができ
る。
【0026】
【0027】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。 実施例1 ガラス光学素子成形型の型基体1としてSiC(炭化ケ
イ素)焼結体を用い、その成形面にCVD法により下地
層としてSiC膜を厚さ数100μm蒸着した。次にS
iC膜の表面を平均表面粗さRa=1nm以下になるよ
うに鏡面仕上げした。この型基体1を図1のイオンプレ
ーティング装置の反応室2内にセットし、真空ポンプに
て真空引きした。金属ホウ素からなる蒸着源3に電子ビ
ームを照射して金属ホウ素を蒸発させた。それと同時に
2 ガスとArガスを反応室2に導入してRFコイル5
でプラズマ6を発生させる。型基体には−500eVの
バイアスを印加させながらBN膜を成膜した。
【0028】得られた膜を赤外線吸収スペクトルによる
膜質を同定したところ、cBNまたはwBNからなる膜
であった。さらに膜の化学組成をマイクロオージェ電子
分光分析により測定した結果を表1に示した。また、表
1中の離型膜の圧縮応力はX線応力測定装置により型基
体のSiC焼結体の応力状態から評価した。さらに離型
膜のヌープ硬度を測定し表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】表1に示すように、窒化ホウ素膜中に希ガ
ス元素を含有せしめることにより膜の圧縮応力が増大
し、硬度が向上した。
【0031】実施例2 図2に示すように、型基体11を図2の反応室12の中
に入れ、反応室を10-6torr以下に真空引きした。
金属ホウ素からなる蒸着源13に電子ビームを照射して
金属ホウ素を蒸発させると同時にN2 ガスと希ガス(H
e,Ne,Ar,Kr,Xe)を表2のようにイオン源
14に導入してイオンビームを型基体11表面に照射し
た。成膜工程を表2に示すように第1および第2の工程
に分け、第1の工程では希ガスを導入せず、型基体11
と離型膜とのミキシング層及び希ガス元素を含まない窒
化ホウ素膜からなる中間層を形成する第1工程と、希ガ
ス元素を含む窒化ホウ素膜を形成する第2工程を連続し
て行った。
【0032】得られた膜について、化学組成をマイクロ
オージェ電子分光分析により測定し、膜の圧縮応力をX
線応力測定装置により型基体のSiCの応力状態から評
価した。さらに、膜のヌープ硬度およびガラス成形耐久
試験として鉛を含有したSF6Wガラスを成形したと
き、離型膜の剥離やガラスの付着、成形体表面の白濁な
どが発生するまでの成形回数を表2、表3に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】表2に示すように、本発明によれば、希ガ
ス元素を全く含まない試料No.3に比較して硬度を向上
させることができ、しかもガラス成形用型としてそのガ
ラス成形耐久回数を1000回以上に高めることができ
る。
【0036】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
窒化ホウ素膜中に希ガス元素を所定量含有せしめること
により、基体との密着性および膜硬度を向上することが
できる。また、かかる窒化ホウ素膜をガラス成形用型の
離型膜に適用した場合、ガラスのプレス成形における耐
久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例におけるイオンプレーティング
成膜装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例におけるイオンビームアシステ
ッドデポジション成膜装置の概略図である。
【符号の説明】
1、11 型基体 2、12 反応室 3、13 蒸着源 4 導入ガス 5 RFコイル 14 イオン源
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C23C 14/00 - 14/58 C03B 11/00

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】炭化珪素、窒化珪素、超硬合金あるいは酸
    化クロムの焼結体からなる型基体の成形面に窒化ホウ素
    からなる離型膜を形成してなるガラス成形用型におい
    て、前記離型膜に希ガス元素を0.001〜6.0原子
    %の割合で含有するとともに、50kg/mm2 以上の
    圧縮応力を発生させてなることを特徴とするガラス成形
    用型。
  2. 【請求項2】前記離型膜中の希ガス元素の含有量が基体
    側より膜表面側が多いことを特徴とする請求項1記載の
    ガラス成形用型。
  3. 【請求項3】ホウ素またはホウ素含有物質からなる蒸着
    源よりホウ素原子を蒸発させて、炭化珪素、窒化珪素、
    超硬合金あるいは酸化クロムの焼結体からなる型基体表
    面に蒸着させると同時に、前記型基体表面に窒素含有イ
    オンと希ガス元素イオンとを照射し、希ガス元素を0.
    001〜6.0原子%の割合で含有するとともに、50
    kg/mm2 以上の圧縮応力を有する窒化ホウ素からな
    る膜を形成したことを特徴とするガラス成形用型の製造
    方法。
  4. 【請求項4】前記イオン照射における希ガス元素イオン
    量の比率を徐々に多くすることにより、前記離型膜中の
    希ガス元素の含有量を基体側より膜表面に多くなるよう
    にしたことを特徴とするガラス成形用型の製造方法。
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