JP2876416B2 - D―プシコースの製造方法 - Google Patents

D―プシコースの製造方法

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【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、D−プシコースを製造方法に関するもので
あり、更に詳細には、アルカリゲネス属に属し、D−ガ
ラクチトール、D−タガトースおよびD−タリトールか
ら選ばれる一種以上の糖質からD−プシコース産生能を
有する細菌を用いて、D−ガラクチトール、D−タガト
ースおよびD−タリトールから選ばれる一種以上の糖質
からD−プシコースを製造する方法に関するものであ
る。
[従来の方法] D−プシコースは、ケトヘキソースに分類される単糖
類である。その製造方法としては、有機化学的手法によ
って、常法通り、D−アルトロースまたはD−アロース
をカセイソーダ、ピリジンなどのアルカリ性薬剤の共存
下で異性化させ、D−プシコースを製造することは原理
的には可能である。しかし、実際には、原料となるD−
アルトロースまたはD−アロースを得ることが困難であ
るため、充分量のD−プシコースを合成する適当な方法
は現在までに報告されていない。
D−プシコースの自然界における存在はアジサイ科ズ
イナ(Itea japonica Oliver)中に、また抗生物質プシ
コフラニン(psicofuranine)の成分として知られてい
る。しかし、一般的には殆ど存在しない希少糖質であ
る。
[発明が解決しようとする課題] 近年、生化学工業が急速に発達し、糖質化学の分野に
おいても、新たな糖質の開発が望まれている。D−プシ
コースは、試薬として少量市販されているものの、その
大量製造方法が確立されておらず、未だ、食品工業、医
薬品工業、化学工業などの工業原料として使用されるに
至っていない。
[課題を解決するための手段] 本発明者は、D−プシコースを生化学的手段により大
量、安価に製造することを目的に鋭意研究した。
その結果、アルカリゲネス属に属し、D−ガラクチト
ール、D−タガトースおよびD−タリトールから選ばれ
る一種以上の糖質からD−プシコース産生能を有する細
菌を、D−ガラクチトール、D−タガトースおよびD−
タリトールから選ばれる一種以上の糖質を含有する水溶
液に接触させて、D−プシコースを生成せしめ、これを
採取することにより、容易に、高収率でD−プシコース
を製造し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明において、D−ガラクチトール、D
−タガトースおよびD−タリトールから選ばれる一種以
上の糖質からD−プシコースを製造するのに使用される
細菌は、アルカリゲネス属に属し、D−ガラクチトー
ル、D−タガトースおよびD−タリトールから選ばれる
一種または二種以上の糖質からD−プシコース産生能を
有する細菌である。その一例としては、後に説明するア
ルカリゲネス・デニトリフィカンス・サブスピーシーズ
・キシロソキシダンス(Alcaligenes denitrificans su
bsp.xylosoxydans)701Aまたは、これの変異株などが有
利に利用できる。
アルカリゲネス・デニトリフィカンス・サブスピーシ
ーズ・キシロソキシダンス 701Aは、平成2年1月19日
付で、工業技術院微生物工業技術研究所に、微生物受託
番号FERM BP−2735として寄託されている。
このアルカリゲネス・デニトリフィカンス・サブスピ
ーシーズ・キシロソキシダンス 701A(FERM BP−2735)
の菌学的性質を以下に記載する。
A.採集地及び分離源 採集地 香川県木田郡三木町 分離源 土壌 B.細胞の形態 (1)細胞の形及び大きさ 短桿菌 0.8乃至0.9×1.2乃至1.3μm (2)細胞の多形性の有無 無 (3)運動性の有無 有 (4)鞭毛の有無 有 (5)胞子の有無 無 (6)グラム染色性 陰性 (7)坑酸性 無 C.各培地における生育状況 (1)肉汁寒天平板培養(28℃、2日) コロニーは、不透明な湿光を帯びた黄白色の円形で、
表面は平滑であり、半レンズ状の隆起をしている。周縁
は全縁で内容は均質である。色素は形成しない。
(2)肉汁ゼラチン穿刺培養(20℃および28℃、5
日) 培養表面に穿刺部を中心にコロニーが形成され、液化
しない。
D.生理学的性質 (1)硝酸塩の還元 陽性 (2)脱窒反応 陽性 (3)MRテスト 陽性 (4)VPテスト 陰性 (5)インドールの生成 陰性 (6)硫化水素の生成 陽性 (7)デンプンの加水分解 陰性 (8)クエン酸の利用 陽性 (9)色素の生成 生成せず (10)ウレアーゼ 陽性 (11)オキシダーゼ 陽性 (12)カタラーゼ 陽性 (13)生育の範囲 生育pH 5乃至9 生育温度 20乃至37℃ (14)酸素に対する態度 好気性 (15)O−Fテスト 糖(グルコース)を好気低条件下でのみ酸化する。
(16)糖類から酸の生成 L−アラビノース + D−キシロース + D−グルコース + D−マンノース + D−フラクトース + D−ガラクトース + マルトース − ショ糖 − 乳糖 − トレハロース − D−ソルビトール − D−マンニトール − D−ガラクチトール − イノシトール + グリセロール + (17)炭素源の資化性 D−グルコース + D−キシロース + D−ソルビトール + D−フラクトース + 酢酸 + 本菌株は、上述の菌学的性質から、ウイリアムズ・ア
ンド・ウィルキンズ(Williams & Wilkins)社、「バ
ージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バク
テリオロジー(Bergey′s Manual of Systematic Bacte
riology)」、第1巻(1984年)に準じて分類すれば、
グラム陰性、好気性の短桿菌であり、胞子を形成せず、
運動性あり、色素を生成せず、また、カタラーゼおよび
オキシダーゼが陽性であることからクロモバクテリウム
・リビダム(Chromobacterium lividum)あるいはアル
カリゲネス(Alcaligenes)の可能性が考えられる。本
菌は嫌気的条件下で硝酸塩に生育できることから、アル
カリゲネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitr
ificans)に属すると考えられる。D−グルコース、D
−キシロース、酢酸塩に生育すること、D−グルコー
ス、D−キシロースなどの糖から酸を生成することか
ら、アルカリゲネス・デニトリフィカンス・サブスピー
シーズ・キシロソキシダンス(Alcaligenes denitrific
ans subsp.xylosoxydans)と同定され、アルカリゲネス
・デニトリフィカンス・サブスピーシーズ・キシロソキ
シダンス701Aと命名された。
本発明でいう、アルカリゲネス属に属し、D−ガラク
チトール、D−タガトースおよびD−タリトールから選
ばれる一種以上の糖質からD−プシコース産生能を有す
る細菌を、D−ガラクチトール、D−タガトースおよび
D−タリトールから選ばれる一種以上の糖質を含有する
水溶液に接触させてD−プシコースを生成せしめ、これ
を採取するとは、D−ガラクチトール、D−タガトース
およびD−タリトールから選ばれる一種以上の糖質から
D−プシコース産生能を有する、例えば、アルカリゲネ
ス・デニトリフィカンス・サブスピーシーズ・キシロソ
キシダンス 701A(FERM BP−2735)、または、この変異
株などの細菌をD−ガラクチトール、D−タガトースお
よびD−タリトールから選ばれる一種以上の糖質を含有
する栄養培地で培養し、望ましくは、振盪、通気撹拌な
どの好気的条件下で培養し、培養液中にD−プシコース
を生成せしめ、これを採取するか、または、このように
して培養した後、得られる細菌(生菌体)を用いて水溶
液中のD−ガラクチトール、D−タガトースおよびD−
タリトールから選ばれる一種以上の糖質をD−プシコー
スに変換する。望ましくは、振盪、通気撹拌、酸素の圧
入などの好気的条件下で変換させ、生成するD−プシコ
ースを採取すればよい。
培養方法としては、アルガリゲネス属に属する細菌が
必要とする栄養源、例えば、炭素源、窒素源、無機塩な
どを含有する培地、望ましくは、微酸性乃至微アルカリ
性の液体培地に、D−ガラクチトール、D−タガトース
およびD−タリトールから選ばれる一種以上の糖質から
D−プシコース産生能を有する細菌を植菌し、温度約20
乃至35℃で、1乃至15日間好気的条件下で培養すればよ
い。とりわけ、L−ソルボース、D−ガラクチトール、
D−タガトースおよびD−タリトールなどの糖質ととも
に各種栄養源を含有する液体培地で好気的に培養するの
が望ましい。
前述のような培養方法によって得られた細菌(生菌
体)を、D−ガラクチトール,D−タガトースおよびD−
タリトールから選ばれる一種以上の糖質を含有する水溶
液と接触、望ましくは、好気的条件下で接触させ、D−
プシコースに変換させることができる。また、この際、
比較的安価なD−ガラクチトールを原料としてもD−ダ
カトース、D−タリトールを経てD−プシコースに変換
されるので好都合である。
この変換に用いられる細菌は、培養液から分離された
生菌体そのままの状態に限る必要はなく、例えば、生菌
体を半透膜製のホローファイバーに封入した細菌、寒
天、ゼラチン、アルギン酸塩などで包括し、ビーズ状、
シート状などの各種形状に固定化した細菌などとして、
D−ガラクチトール、D−タガトースおよびD−タリト
ールから選ばれる一種以上の糖質からD−プシコースへ
の変換に、繰り返し利用することも好都合である。
以上述べた各種の方法により生成、蓄積したD−プシ
コースを含有する水溶液は、適当な分離方法、例えば、
遠心分離、濾過などの方法によって細菌と分離され、採
取される。
得られたD−プシコース液は、必要により、例えば、
硫安塩析、水酸化亜鉛吸着などによる除蛋白、活性炭吸
着による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩な
どの方法で精製し、濃縮してシラップ状のD−プシコー
ス製品を採取することができる。また、更に、イオン交
換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、例えばダウ
ケミカル社製造の商品名ダウエックス50W−X4、ダウエ
ックスWGR、東京有機化学工業株式会社製造の商品名ア
ンバーライトXT−1008、アンバーライトIRA47、三菱化
成工業株式会社製造の商品名ダイヤイオンSK106、ダイ
ヤイオンWA11などを用いるカラムクロマトグラフィーで
分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容
易に得ることができる。
このようにして製造されるD−プシコースは、通常、
D−ガラクチトール、D−タガトースおよびD−タリト
ールから選ばれる一種以上の原料糖質に対し約50W/W%
以上の高収率で得られ、大量、安価に供給する工業的製
造方法として好適である。
従って、D−プシコースの用途も、従来のように試薬
用途に限定されることなく、食品工業、医薬品工業、化
学工業などの原料、中間体などとして自由に利用でき
る。
以下、実施例について述べる。
実施例 1 硫酸アンモニウム0.2W/V%、リン酸一カリウム0.24W/
V%、リン酸二カリウム0.56W/V%、硫酸マグネシウム・
7水塩0.01W/V%、酵母エキス0.5W/V%、L−ソルボー
ス2W/V%及び脱イオン水からなる培養液100mLずつを500
mL容振盪フラスコ20本にとり、120℃で20分間オートク
レーブした後、アルカリゲネス・デニトリフィカンス・
サブスピーシーズ・キシロソキシダンス 701A(FERM BP
−2735)を1白金耳ずつ植菌し、30℃で7日間振盪培養
した。
培養後、遠心分離により集菌し、得られた生菌体約20
gをD−ガラクチトール2W/V%を含有する0.05Mリン酸塩
緩衝液(pH7.0)1Lに加え混合し、この混合液約100mLず
つを500mL容振盪フラスコに分注し、30℃2日間振盪
し、D−ガラクチトールをD−プシコースに変換させ
た。次いで遠心分離して細菌を除去した。
得られた上清に25W/V%硫酸亜鉛を1/10容加えpH7.6に
調整し、遠心分離して上清を採取したこの上清を、常法
に従って、活性炭を用いて脱色し、次いで、ダイヤイオ
ンSK1B(H型、三菱化成工業株式会社製造の商品名)お
よびダイヤイオンWA30(OH型、三菱化成工業株式会社製
造の商品名)を用いて脱塩し、減圧濃縮して濃度約60%
の透明なシラップを得た。
これをダウエックス50W−X4(カルシウム型のカチオ
ン交換樹脂、ダウケミカル社製造の商品名)を用いるカ
ラムクロマトグラフィーにより精製、濃縮して高純度に
精製されたD−プシコースシラップを採取した。
D−プシコースのD−ガラクチトールに対する収率
は、固形物当り約70%であった。
このようにして得られた製品を同定するため、Sigma
社が市販している試薬D−プシコースと、その理化学的
性質を比較実験した。この実験においては、Sigma社の
試薬D−プシコースを標準D−プシコースと呼び、本発
明の方法で得られたD−プシコースを本製品と呼ぶ。
(1)高速液体クロマトグラフィーによる分析 本製品を高速液体クロマトグラフィー(日本分光工業
社製880−PU;カラム、日立製作所GL−C611;溶離液、10
-4M水酸化ナトリウム、60℃;流速、1mL/min;検出、島
津製作所RID−6A)で分析したところ、その溶出位置
は、標準のL−ソルボース、D−フラクトース、D−タ
ガトースなどのケトヘキソースとは異り、標準D−プシ
コースと同一の28.7分であった。
(2)13C−NMRによる測定 本製品の13C−NMRによる測定を、バイオケミストリー
(Biochemistry)、第13巻、第146乃至153頁(1974年)
に記載している方法に準じて行ったところ、そのケミカ
ルシフトは、全てのシグナルについて、標準D−プシコ
ースのそれとよく一致した。また、そのケミカルシフト
は、下記の表に示すごとく、前記文献の値ともよい一致
を見た。
(3)比旋光度の測定 本製品値 ▲[α]20 D▼=+2.9(C=10%、inH
2O) 文献値 ▲[α]20 D▼=+3.1(C=10%、inH
2O) 以上の結果から明らかなように、本発明の方法で得ら
れた製品は、D−プシコースであると判断される。
本製品は、希少糖質としての試薬のみならず、食品工
業、医薬品工業、化学工業などの原料、中間体などとし
ても有利に利用できる。
実施例 2 実施例1の培養液のうち、L−ソルボースをD−ガラ
クチトールに置き換えた以外は、実施例1と同組成の培
養液15Lを30L容ジャーファーメンター2基にとり、120
℃で20分間滅菌した後、30℃に冷却し、これに、同組成
の培養液に30℃で1日間振盪培養したアルカリゲネス・
デニトリフィカンス・サブスピーシーズ・キシロソキシ
ダンス 701A(FERM BP−2735)の種培養液を1W/V%植菌
し、30℃で2日間通気撹拌培養して、D−ガラクチトー
ルをD−プシコースに変換させ、次いで遠心分離して菌
体と上清とに分離し、得られた上清を実施例1の方法に
準じて、活性炭、イオン交換樹脂を用いて脱塩し、濃縮
した後、カラムクロマトグラフィーによって精製、濃縮
してD−プシコースシラップを採取した。D−プシコー
スのD−ガラクチトールに対する収率は、固形物当り約
55%であった。
本製品の理化学的性質も、実施例1の場合と同様に、
Sigma社の試薬D−プシコースとよく一致した。
本製品は、希少糖質としての試薬のみならず、食品工
業、医薬品工業、化学工業などの原料、中間体などとし
ても有利に利用できる。
実施例 3 実施例1の方法で得た生菌体約20gを、D−タリトー
ル2W/V%を含有する0.05Mリン酸塩緩衝液(pH7.0)1Lに
加えて混合し、以後、実施例1と同様に、D−プシコー
スに変換せしめ、精製、濃縮して、D−プシコースシラ
ップをD−タリトールに対して、固形物当り約85%の収
率で得た。
本製品は、食品工業、医薬品工業、化学工業などの原
料、中間体などとして有利に利用できる。
実施例 4 実施例2の方法で得た生菌体約100gを、D−ガラクチ
トールおよびD−タガトースを各1.5W/V%ずつ含有する
0.02Mリン酸塩緩衝液(pH6.8)5Lに加えて混合し、以
後、実施例2と同様に、D−プシコースに変換せしめ、
精製、濃縮して、D−プシコースシラップを原料糖質に
対して、固形物当り約75%の収率で得た。
本製品は、食品工業、医薬品工業、化学工業などの原
料、中間体などとして有利に利用できる。
[発明の効果] 上記したことから明らかなように、本発明は、従来得
ることの極めて困難であったD−プシコースを、生化学
的方法により容易に製造する方法を確立するものであ
る。特に、アルカリゲネス属に属する微生物を用いて、
D−ガラクチトールという安価な糖アルコールを原料と
してもD−タガトース、D−タリトールを経てD−プシ
コースを生産できることを見出したことは、D−プシコ
ースの製造方法にとって、極めて有利である。
従って、本発明の方法は、D−プシコースの工業的製
造方法として好適であり、大量、安価な供給を可能に
し、希少糖質としての試薬用途のみならず、従来予想す
らできなかった食品工業、医薬品工業、化学工業などの
原料、中間体などへの用途を可能にするものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12R 1:05)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】アルカリゲネス属に属し、D−ガラクチト
    ール、D−タガトースおよびD−タリトールから選ばれ
    る一種以上の糖質からD−プシコース産生能を有する細
    菌を、D−ガラクチトール、D−タガトースおよびD−
    タリトールから選ばれる一種以上の糖質を含有する水溶
    液に接触させてD−プシコースを生成せしめ、これを採
    取することを特徴とするD−プシコースの製造方法。
  2. 【請求項2】アルカリゲネス属に属する細菌が、アルカ
    リゲネス・デニトリフィカンス・サブスピーシーズ・キ
    シロソキシダンス 701A EFRM BP−2735であることを
    特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載のD−プシコ
    ースの製造方法。
  3. 【請求項3】アルカリゲネス・デニトリフィカンス・サ
    ブスピーシーズ・キシロソキシダンス 701A (FERM
    BP−2735)。
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