JP2714987B2 - 高級洋食器用非磁性オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

高級洋食器用非磁性オーステナイト系ステンレス鋼

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JP2714987B2 JP22156589A JP22156589A JP2714987B2 JP 2714987 B2 JP2714987 B2 JP 2714987B2 JP 22156589 A JP22156589 A JP 22156589A JP 22156589 A JP22156589 A JP 22156589A JP 2714987 B2 JP2714987 B2 JP 2714987B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、高級洋食器用材として用いられる軽加工用
の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
〔従来技術とその問題点〕
オーステナイト系ステンレス鋼は、高強度、耐食性お
よび透磁率が低いという性質から、フェライト系ステン
レス鋼では満足されない用途に用いられる。この用途の
うち電子部品テレビブラウン管の電子銃部品は、深絞り
において冷間加工率80%の加工率と透磁率μ1.02以下が
要求される。このためオーステナイトを安定化するNiを
10〜13%含有するSUS305でも加工による加工誘起マルテ
ンサイトにより磁性を生じ、加工のままでは満足されな
い。この問題に関して、SUS305をベースにしてオーステ
ナイト安定化元素の影響について、「非磁性深絞り用オ
ーステナイト系ステンレス鋼NSS305M1」(日新製鋼技報
No.36p86〜91(1977))の研究がある。
従来洋食器材料としては、耐食性、装飾性の面からス
テンレス鋼が多く用いられてきた。洋食器例えばスプー
ン、フォーク類の加工は、比較的単純な打抜き、曲げ、
冷延などで約50%の冷間加工が加えられ、高級洋食器に
求められる非磁性の程度は、上記のような高級非磁性鋼
に求められる透磁率μ1.02以下ではなく、弱磁性あるい
は軟磁性と呼ばれる領域に近い透磁率μ1.06以下であ
る。しかし、Niを8.00〜11.00%含有するSUS304でも、
加工によって加工誘起マルテンサイトのため加工のまま
では満足されず、加工後に焼鈍処理を行わねばならず、
それに付随してスケール除去のための酸洗処理と表面仕
上の工程が必要となる。このため高価なNiの含有量が少
なく、しかも加工による磁性の増加が小さくて、加工後
の後処理を必要としない省工程、省コストの高級洋食器
用非磁性オーステナイト鋼が望まれる。
本発明は、焼鈍状態から50%の冷間加工を施した際、
透磁率μが1.02〜1.06を満足する省工程、省コストの高
級洋食器用非磁性オーステナイト鋼を開発することを目
的とする。
〔問題解決に関する知見〕
本発明は、高級洋食器用非磁性オーステナイト系ステ
ンレス鋼の省工程、省コストを課題とし、課題解決に関
し鋭意研究を行った。その結果SUS304をベースとし、Ni
含有量を8.00〜9.00%に限定し、オーステナイト安定化
元素CuおよびMnの含有量をそれぞれ3.0〜4.0%および0.
70〜2.00%添加する組成設計を行った結果、前記日新製
鋼技報No.36(1977)p70に開示される式R=−232.9+1
97.2(%C)+8.0(%Mn)+12.8(%Ni)+5.7(%C
r)+158.7(%N)+9.0(%Cu)で定義されるR値と5
0%冷間加工を加えたときの透磁率μの関係が、R値が3
0未満では透磁率が非磁性範囲μ≦1.06より大きくな
り、40をこえると高級非磁性鋼と同じくμ≦1.02の範囲
になり、R値を30〜40の範囲に管理することにより50%
冷間加工しても目的とする透磁率μ1.02〜1.06が得られ
ることを知見した。
〔発明の構成〕
本発明は、 C:0.03〜0.08% Si:≦1.00% Mn:0.70〜2.00% P:≦0.040% S:≦0.030% Ni:8.00〜9.00% Cr:18.0〜19.0% Cu:3.0〜4.0% N:≦0.06% を含有し、残部がFeと付加避的不純物からなり、かつ次
式によって計算されるR値が30〜40の範囲にあるように
組成を調整された50%冷間加工後の透磁率μが1.02〜1.
06を示すことを特徴とする高級洋食器用非磁性オーステ
ナイト系ステンレス鋼を提供する。
R=−232.9+197.2(%C)+8.0(%Mn)+12.8(%Ni) +5.7(%Cr)+158.7(%N)+9.0(%Cu) 次に、本発明において鋼の組成の限定理由を述べる。
C:Cは鋼材の硬度を上げるので、加工性の面では低C
の方が望ましいが、強力なオーステナイト生成元素であ
り、その低減はオーステナイト相の安定性を低下し鋼中
のδフェライトと加工誘起マルテンサイトの生成をうな
がす。本発明では、特に高い加工性を要求される用途で
はないので、Cの含有量を工業的に安易に製造可能な0.
03〜0.08%の範囲とした。
Si:Siは、強力な脱酸剤であり、加工性に有害な酸素
を除去するのに有効であるが、オーステナイト相の安定
性に関しては、含有量が多過ぎると、δフェライトが生
成しやすくなり、マイナス面に働く。また、熱間加工性
も損なうなどの弊害が多いため、≦1.00%とした。
Mn:Mnは、オーステナイト相を安定にする元素であ
り、Mnを含有することにより高価なNiの含有値を下げる
ことができるほか、鋼材の加工性向上にも寄与する。ま
た、Cu含有鋼では、熱間加工時の延性低下をおぎなって
やることができるが、一方、ステンレス鋼にとって、も
っとも重要な耐食性、耐酸化性をそこない、含有量が多
くなると加工硬化性が大きくなるなどの欠点も生じるの
で、0.70〜2.00%の範囲で含有させることとした。
P:Pは、鋼材に対して有害であり、≦0.040%の値とし
た。
S:SもPと同様有害な元素であるが、通常硫化物とし
て固定されているので、≦0.030%の含有を許容した。
Ni:Niは、オーステナイト相の安定性を向上させ、非
磁性を保つオーステナイト系ステンレス鋼の基本的な元
素である。また、Niは圧造性に有効な元素であるが、資
源的、経済的な理由、及び他の成分とのバランスから、
8.00〜9.00%の範囲とした。
Cr:Crは、ステンレス鋼の耐食性を保障する基本的な
元素であり、耐食性、耐錆性の面から17%以上の含有が
必要である。しかし、フェライト生成元素であるため、
多量に含有されるとオーステナイト相の安定性を悪く
し、δフェライトの発生をうながして非磁性を低下させ
るなどの点から、その含有量には限界があり、本発明で
は18.0〜19.0%の範囲とした。
Cu:Niと同様にオーステナイト相を安定にし加工誘起
マルテンサイトの発生を抑制するのに役立つが、同時に
誘起されるマルテンサイトの強度を高め、加工硬化特性
を強化する。また、多量に含有すると鋼材の熱間加工性
を低下させるので、その面からも含有量に限界があり、
3.0〜4.0%の範囲に限定する。
N:Nは、強力なオーステナイト生成元素であり、加工
誘起マルテンサイトの生成を抑制するので非磁性の面で
有効な元素である。ただし、あまり含有量が多くなると
変形抵抗が高くなり加工性の面から問題となるので、≦
0.06%に設定した。
なお、組成範囲は以上のように設定したが、本発明で
は、各成分元素がオーステナイト相の安定性に与える影
響と、加工によって発生する磁性の関係を把握し、製品
に加工後の透磁率を非磁性の範囲に管理するために前記
のR値を用いた。目標とする透磁率の範囲がμ1.02〜1.
06であるため、R値は、それに対応するR=30〜40の範
囲とした。
〔発明の具体的開示〕
次に本発明を具体的に説明する。
オーステナイト系ステンレス鋼の磁性を左右する要因
には、(1)鋼中のδフェライト量、及び(2)加工誘
起マルテンサイト量の2つがある。
(1)の鋼中のδフェライト量は、鋼の組成と製造条
件により変化し、一般にオーステナイト相が安定な組成
ほど析出しにくいことがわかっている。δフェライト
は、母材のオーステナイト相が常磁性体(非磁性体)で
あるのに対し、強磁性体であるため、鋼中のδフェライ
ト存在量が多くなると非磁性の性質が失われる。
(2)の加工誘起マルテンサイト量は、鋼材の組成と
加工量により変化する量である。通常、δフェライトが
存在せず、焼鈍された状態にあるオーステナイト系ステ
ンレス鋼は非磁性であるが、加工により磁性を誘起す
る。これは、オーステナイト系ステンレス鋼が、状態図
的に準安定状態であり、加工によって常磁性(非磁性)
のオーステナイト相から強磁性の加工誘起マルテンサイ
ト相に変態するために生じる。そして、加工量が大きく
なるほど、加工誘起マルテンサイト量を増大し磁性が強
くなる。
以上の2つの要因は、ともに鋼中のオーステナイト相
の安定性に大きく依存しており、鋼の組成を制御するこ
とにより、オーステナイト相の安定性を増すことで鋼の
非磁性を強めることができる。一般に、鋼中のオーステ
ナイト相を安定にするには、Ni含有量を多くするのが有
効な手段であるが、Niは高価な材料であり、本発明が対
象とする軽加工時のオーステナイト系ステンレス鋼に多
量に使用するのは省資源、省コストの面から適切ではな
い。そのため、Niと同じくオーステナイト相を安定化さ
せる働きのあるCu、Mnの添加量を増すことにより、非磁
性をひきだすよう組成設計を行った。さらに、各成分元
素がオーステナイト相の安定性に与える影響と、加工に
よって発生する磁性の関係を把握し、製品に加工後の透
磁率を、非磁性の範囲に管理するため、R値を用いた。
このR値とは、前述の日新製鋼技報No.36(1977)p90の
(2)式によって定義されるものであり、加工による磁
性の増加に対する成分元素の抑制効果を重回帰分析より
求めた結果得られたものである。具体的には、ある組成
の鋼に冷間加工を行なった時に透磁率が1.02を示すとき
の冷間加工率(%)を示している。この数値が高いもの
ほどオーステナイト相が安定であり、非磁性が強いこと
を意味する。本発明では、このR値の上限と下限を設定
して本発明鋼が必要とする非磁性の透磁率μを1.02〜1.
06の範囲におさまるように組成を管理する方法を採用し
た。
第1図は、各オーステナイト系ステンレス鋼のR値と
それらの各試料に50%の冷間加工を加えたときの透磁率
(μ)との関係を整理したものである。R値が、30未満
では、透磁率が非磁性の範囲μ≦1.06より大きくなり、
40をこえると、高級非磁性鋼と同じμ≦1.02の範囲にな
っている。これにより、R値を、30〜40の範囲に管理す
ることにより、目的とする非磁性と加工度を得た。
〔実施例〕
表1に、本発明鋼と、比較鋼としてSUS304にCuを添加
して冷間加工性の向上を図った鋼種であるSUSXM7(JIS
には棒としてG4303、線材としてG4308、線としてG4315
等に規定されているもの)とSUS304およびSUS305の化学
組成とR値及び50%冷間加工後の透磁率μ値を示す。比
較鋼のSUS304は通常の構造材、SUS305はNi含有量が高く
オーステナイト相が安定で高級非磁性材として用いられ
る。本発明鋼は50%冷間加工後の透磁率μが1.02〜1.06
を満足することが分かる。
第2図は、本発明鋼と比較鋼の冷間圧延率(%)透磁
率(μ)の関係を示す。本発明鋼は、目標どおり、冷間
圧延率50%において透磁率μが1.06以下であり、SUS304
に比較して磁化されにくく、SUS305のような高Ni鋼より
は若干おとる磁化特性を有している。
〔発明の効果〕
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼において、
鋼材に要求される加工度と非磁性の関係を予測して組成
を管理するという方法をとっており、これまでになかっ
たものである。また、本発明鋼を使用することにより、
高級洋食器などの軽加工用途の製品の加工において、省
工程、省資源、省コストをはかることができ、工業的に
大変有益である。
【図面の簡単な説明】
第1図は各種オーステナイト系ステンレス鋼のR値と50
%の冷間加工を加えた場合の透磁率(μ)との関係を示
す図。 第2図は本発明鋼と比較鋼(SUS304、SUS305)の冷間圧
延時の冷間圧延率(%)と透磁率(μ)との関係を示す
図である。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C:0.03〜0.08% Si:≦1.00% Mn:0.70〜2.00% P:≦0.040% S:≦0.030% Ni:8.00〜9.00% Cr:18.0〜19.0% Cu:3.0〜4.0% N:≦0.06% を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、かつ次
    式によって計算されるRの値が30〜40の範囲にあるよう
    に調整された組成を有する、50%冷間加工後の透磁率μ
    が1.02〜1.06を示すことを特徴とする高級洋食器用非磁
    性オーステナイト系ステンレス鋼。 R=−232.9+197.2(%C)+8.0(%Mn)+12.8(%Ni) +5.7(%Cr)+158.7(%N)+9.0(%Cu)
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