JP5171198B2 - 冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材 - Google Patents

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Description

本発明は、冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質な2相ステンレス鋼線材に係わり、例えば、SUS304、SUS316並の耐食性を有するねじ、ピン、金網、ワイヤー、ロープ、ばね等の強冷間加工部品を安価に提供することができると共に着磁性を付与した冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材に係わるものである。
これまで、耐食性が必要とされるねじ、ピン、金網、ワイヤー等の製品については、SUS304、SUSXM7等のオーステナイト系ステンレス鋼線材を使用し、伸線や冷間鍛造、曲げ加工等の強冷間加工により製造されてきた。線材の冷間加工においては、材料の高伸び特性が求められる鋼板のプレス成形性と異なり、軟質で高引張破断絞り特性が求められる(高伸び特性は求められない)。軟質とは、線材の引張強さで、700N/mm以下、好ましくは650N/mm以下が求められる。
しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼の製品は、高価なNiが多量に添加されているため、安価な製造プロセスにもかかわらず、製品価格が高いという欠点があった。
また、オーステナイト系ステンレス鋼は磁性がないため、ファスナーの締結作業時に工具に付かないために作業性が悪い、金網・メッシュ(特に食品用のコンベア等)で材料が欠落して食品に混入した場合に磁気センサーにより混入をチェックできない等、磁性がないためにより不便さが生じていた。
磁性、耐食性を必要とされる製品については、フェライト系ステンレス鋼線材から製造され、低C、NでNbが添加されたフェライト系ステンレス鋼線材が提案されてきた(特許文献1〜3)。
しかしながら、冷間加工製品の耐食性が不足しているばかりか、高Cr系では線材圧延時の表面疵のため製造コストが高くなっていた。
一方、近年、Niを低減した廉価な2相ステンレス鋼が多く提案されている(特許文献4〜6)。
特許文献4には、低Ni系で強度を高める窒素を0.04%以上含有するヤング率に優れた高強度2相ステンレス鋼が記載されている。しかしながら、強度を高めるためにSiを1%超、窒素を0.04%以上添加しており、実施例には80kg/mmを超える高強度鋼が記載されており、軟質で高引張破断絞り特性という考え方はなく、実質的に線材の冷間加工性は困難である。
特許文献5には、低Ni系で0.05%以上の窒素を含有する耐食性および良好な溶接性を有する2相ステンレス鋼が記載されている。しかしながら、冷間加工性については記載されておらず、強度を高める窒素の好ましい範囲は0.06〜0.12%、実施例には窒素が0.13%以上含有する鋼(低Si鋼)が記載されており、軟質で高引張破断絞り特性という考え方はなく、実質的に線材の冷間加工性は困難である。
特許文献6には、低Ni系で0.05%以上の窒素を含有するレラクセーションに優れる高強度2相ステンレス鋼が記載されている。しかしながら、実施例には強度を高める窒素が0.13%以上含有する鋼が記載されており、軟質で高引張破断絞り特性という考え方はなく、実質的に線材の冷間加工性は困難である。
特許文献7には、低Ni系で0.05%以上の窒素を含有する延性および深い絞り性に優れた2相ステンレス鋼が記載されている。しかしながら、実施例には伸びを改善して鋼板の深絞り性を改善するために強度を高める窒素が0.08%以上含有する鋼が記載されており、軟質で高引張破断絞り特性という考え方はなく、実質的に線材の冷間加工性は困難である。
以上、これまでのステンレス鋼において、線材の冷間加工性に必要な軟質で高破断絞り特性を有し、且つ、安価で高耐食性、着磁性を示すものはなかった。
特許第2906445号公報 特許第2817266号公報 特開2006―16665号公報 特開昭62―47461号公報 特開昭61―56267号公報 特開平2―305940号公報 特開2006―169622号公報
本発明の目的は、冷間加工性と耐食性に優れ、磁性を有する安価な2相ステンレス鋼線材を提供し、従来のオーステナイト系ステンレス鋼線材の冷間加工製品の製造コストを大幅に下げ、且つ、着磁性を付与することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、磁性を有するフェライト相+オーステナイト相の高耐食性2相ステンレス鋼を基に、高価なNiを低減すると共に成分調整にて組織を制御し(M値制御)、且つ、低(C+N)化にて加工硬化を抑制することで、安価な高耐食性の2相ステンレス鋼線材で飛躍的に優れた冷間加工性を付与できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 質量%で、
C;0.005〜0.05%、
Si;0.1〜1.0%、
Mn;0.1〜10.0%、
Ni;1.6〜6.0%、
Cr;19.0〜30.0%、
Cu:0.05〜3.0%、
N;0.005%以上、0.06%未満
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で構成され、C+N;0.09%以下、(a)式のM値が60以下であり、引張強さが700N/mm以下であり、引張破断絞りが70%以上であることを特徴とする冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
M=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)
−13.7Cr−18.5Mo ・・・(a)
ここで、式中の成分元素は、鋼中に含有されている成分元素の質量%であり、含有されていない成分元素は0とする。
(2)質量%で、
Mo;3.0%以下
を含有することを特徴とする前記(1)記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材である。
(3)質量%で、
B;0.01%以下
を含有することを特徴とする前記(1)または(2)記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材である。
(4)質量%で、
Al;0.1%以下、
Mg;0.01%以下、
Ca;0.01%以下
の内、1種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材である。
(5)質量%で、
Nb;1.0%以下、
Ti;0.5%以下、
V;1.0%以下、
Zr;1.0%以下
の内、1種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材である。
本発明による冷間加工性に優れた軟質な2相ステンレス鋼線材は、高価なNiをあまり含有していないにもかかわらず、飛躍的に優れた冷間加工性、着磁性とSUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼並の耐食性を付与でき、着磁性を有する高耐食性製品を安価に提供することができるという顕著な効果を奏する。
以下に、先ず、本発明の請求項1記載の限定理由について説明する。以下、成分元素についての%は質量%である。
Cは、鋼の強度を確保するために、0.005%以上添加する。しかしながら、0.05%を超えて添加すると冷間加工性が劣化するばかりかCr炭化物が生成して耐食性も劣化する。そのため、上限を0.05%以下にする。好ましい範囲は、0.01〜0.03%である。
Nは、固溶強化により冷間加工部品の強度を確保するために、0.005%以上添加する。しかしながら、0.06%以上を添加すると引張強さが上昇し、冷間加工性が劣化する。そのため、上限を0.06%未満にする。通常の2相ステンレス鋼では高価な合金元素の使用を減らすため0.06%以上のNを添加するが、本鋼の場合、組織や成分バランスの制御と共にN含有量を低く抑えて軟質で線材の冷間加工性を飛躍的に向上させることが特徴である。好ましい範囲は、0.02以上、0.05%未満である。
C+Nは、上記の冷間加工性の理由から0.09%以下に限定する。好ましくは、0.07%以下である。
Siは、脱酸のために0.1%以上添加する。しかしながら、1.0%を超えて添加すると硬質化して冷間加工性が劣化する。そのため、上限を1.0%にする。好ましい範囲は、0.2〜0.6%である。
Mnは、脱酸のためおよびフェライト+オーステナイトの2相組織を得て、且つオーステナイト組織を安定化させるための調整として、0.1%以上添加する。しかしながら、10.0%を超えて添加すると耐食性および強度上昇により冷間加工性が劣化する。そのため、上限を10.0%に限定する。好ましい範囲は、0.5〜5.0%である。
Niは、M値を低めてフェライト+オーステナイトの2相組織を得て、且つオーステナイト組織を安定化させて、冷間加工性を確保するために1.6%添加する。しかしながら、6.0%を超えて添加してもその効果は飽和するし、Niは高価なため経済性に劣る。そのため、上限を6.0%に限定する。好ましい範囲は、2.0〜5.0%である。
Crは、耐食性を確保し、且つフェライト+オーステナイトの2相組織を得て、且つオーステナイト組織を安定化させて冷間加工性を確保するために、19.0%以上添加する。しかしながら、30.0%を超えて添加しても、その効果は飽和し、冷間加工性が逆に劣化する。そのため、上限を30.0%にする。好ましい範囲は、20.0〜26.0%である。
Cuは、M値を低めてフェライト+オーステナイトの2相組織を得て、且つオーステナイト組織を安定化し、加工硬化を抑制して冷間加工性を向上させるために0.05%以上含有させる。しかしながら、3.0%を超えて含有させるとCuの固溶限を超えて素材の熱間製造性が著しく劣化するため、上限を3.0%にする。好ましい範囲は、1.0%未満である。
下記(a)式のM値は、オーステナイト相の安定度に寄与し、鉄と鋼、63(1977)、772頁に記載された指標であり、M値が高くなると硬質な加工誘起マルテンサイト相が生成する。二相ステンレス鋼の冷間鍛造の場合、M値が60を超えると冷間加工時に硬質な加工誘起マルテンサイト相が生成し、冷間加工性が著しく劣化する。そのため、M値を60以下に限定する。好ましい範囲は、40以下である。
M=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo ・・・(a)
線材の引張強さは、線材の冷間加工性に大きく寄与し、線材の引張強さが700N/mmを超えると冷間加工性が著しく劣化する。そのため、上限を700N/mmにする。一方、線材の引張強さが500N/mm未満の場合、冷間加工製品の強度が低過ぎ、製品としての価値が低くなる。そのため、好ましくは、下限を500N/mmに限定する。好ましい範囲は、500〜650N/mmである。
線材の引張破断絞りは、線材の冷間加工性に大きく寄与し、線材の引張破断絞りが70%未満の場合、冷間伸線加工、冷間鍛造性等の冷間加工性が劣化する。そのため、70%以上に限定する。好ましい範囲は、75%以上である。
着磁性は、オーステナイト系ステンレス鋼にはない機能であり、ファスナーの締結作業時に磁性工具への着磁性による作業性の向上、金網・メッシュ(特に食品用のコンベア等)で材料が欠落して食品に混入した場合の磁気センサーにより混入防止等、工業的に着磁性は大きな機能である。そのため、本発明で着磁性を限定する。好ましくは、比透磁率で3.0以上である。
本発明の請求項2記載の限定理由について述べる。
Moは、耐食性を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上の添加で安定的に効果が得られる。しかしながら、3%を超えて添加すると材料が硬質化するばかりか、シグマ相が析出し、冷間加工性が著しく劣化する。そのため、上限を3%に限定する。好ましい範囲は、0.3〜1.0%である。
本発明の請求項3記載の限定理由について述べる。
Bは、熱間加工性を向上させるのに有効な元素であり、0.001%以上の添加で安定的に効果が得られる。しかしながら、0.01%を超えて添加してもボライドが生成し、耐食性および冷間加工性が劣化する。そのため、上限を0.01%に限定する。好ましい範囲は、0.002〜0.006%である。
本発明の請求項4記載の限定理由について述べる。
Al、Mg、Caは脱酸に有効であるため、Al;0.005%以上、Mg;0.001%以上、Ca;0.001%以上の1種類以上の添加で安定的に効果が得られる。しかしながら、それぞれ、Al;0.1%、Mg;0.01%、Ca;0.01%を超えて含有させてもその効果は飽和するし、逆に粗大酸化物(介在物)が発生し、冷間加工性が劣化する。そのため、それぞれ、上限をAl;0.1%、Mg;0.01%、Ca;0.01%にする。好ましい範囲は、Al;0.008〜0.06%、Mg;0.001〜0.005%、Ca;0.001〜0.005%の1種類以上を含有させることである。
本発明の請求項5記載の限定理由について述べる。
Nb、Ti、V、Zrは、Cr炭窒化物の生成を抑制して耐食性を確保するのに有効であり、Nb;0.01以上、Ti;0.01%以上、V;0.01%以上、Zr;0.01%以上の1種類以上の添加で安定的に効果が得られる。しかしながら、Nb;1.0%、Ti;0.5%、V;1.0%、Zr;1.0%を超えて含有させてもその効果は飽和するし、逆に粗大析出物が発生し、冷間加工性が劣化する。そのため、各元素の上限を規定する。好ましい範囲は、Nb;0.05〜0.6%、Ti;0.05〜0.5%、V;0.1〜0.6%、Zr;0.05〜0.6%の内、1種以上を含有させる。
通常、不可避的不純物として、製造工程上、鋼は酸素を含有するが、本発明の場合、不可避的不純物として、0.01%以下の酸素とすることが好ましい。
以下に本発明の実施例について説明する。
表1に実施例で用いた鋼(供試材)の化学組成(質量%)を示す。
Figure 0005171198
これらの化学組成の鋼は、150kgの真空溶解炉にて溶解し、φ180mmの鋳片に鋳造し、その鋳片をφ5.5mmまで熱間の線材圧延を行い、1050℃で熱間圧延を終了し、そのまま、1050℃で5分、水冷の連続熱処理を施して、酸洗を行い線材とした。その後、通常のプロセスにてφ2.0mmまで冷間強伸線加工を施し、その鋼線をコンベアー用のメッシュ状の金網に曲げ加工にて冷間加工した。
評価は、線材の引張強さ、引張破断絞り、冷間加工性、耐食性、着磁性を評価した。その評価結果を表2に示す。
Figure 0005171198
線材の引張強さと引張破断絞りは、JIS Z 2241の引張試験での引張強さと破断絞りにて評価した。本発明例の線材では、全て、引張強さ;500〜700N/mm、破断絞り≧70%の範囲であった。
冷間加工性は、冷間伸線加工とその後の金網加工性で評価した。断線、折損なく金網に成型できた場合の冷間成型性を○、断線や折損により金網に成型できなかった場青を×として評価した。本発明例の線材では、断線、折損無く、冷間加工性に優れていた。
耐食性は、酸洗された線材の表層を#500で研磨後、JIS Z 2371の塩水噴霧試験に従い、100時間噴霧試験を実施し、発銹するか否かで評価した。無発銹および点錆レベルであれば耐食性を○、流れ錆、前面発銹の場合は耐食性を×として評価した。本発明鋼の耐食性の評価は全て○であった。
着磁性は、金網でフェライトメータ(簡易透磁率計)により比透磁率を測定した。比透磁率が着磁性を明確に確認できる3.0以上であれば、着磁性有り、3.0未満の場合を着磁性無しとして評価した。
一方、比較例No.22〜43は、本発明の範囲外にあり、冷間加工性、耐食性、コスト、着磁性等で劣っており、本発明の優位性は明らかである。
以上の各実施例から明らかなように、本発明により、軟質で着磁性を有する安価な2相ステンレス鋼線材を製造でき、飛躍的に優れた冷間加工性と共にSUS304、SUS316等オーステナイト系ステンレス鋼並の耐食性を付与でき、ねじ、ピン、金網、ワイヤー、ロープ、バネ等、着磁性を有する高耐食の冷間加工製品を安価に提供することができ、産業上極めて有用である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C;0.005〜0.05%、
    Si;0.1〜1.0%、
    Mn;0.1〜10.0%、
    Ni;1.6〜6.0%、
    Cr;19.0〜30.0%、
    Cu:0.05〜3.0%、
    N;0.005%以上、0.06%未満
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で構成され、C+N;0.09%以下、(a)式のM値が60以下であり、引張強さが700N/mm以下であり、引張破断絞りが70%以上であることを特徴とする冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
    M=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)
    −13.7Cr−18.5Mo ・・・(a)
    ここで、式中の成分元素は、鋼中に含有されている成分元素の質量%であり、含有されていない成分元素は0とする。
  2. 質量%で、
    Mo;3.0%以下
    を含有することを特徴とする請求項1記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
  3. 質量%で、
    B;0.01%以下
    を含有することを特徴とする請求項1または2記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
  4. 質量%で、
    Al;0.1%以下、
    Mg;0.01%以下、
    Ca;0.01%以下
    の内、1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
  5. 質量%で、
    Nb;1.0%以下、
    Ti;0.5%以下、
    V;1.0%以下、
    Zr;1.0%以下の内、
    1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の冷間加工性に優れた着磁性を有する軟質2相ステンレス鋼線材。
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