JP5214542B2 - 高強度・高耐食性ステンレス鋼並びにこれを用いた鋼材及び鋼製品 - Google Patents
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例えば、特許文献1には、親水性フェライト系ステンレス鋼材として、光輝焼鈍された表面を有し、表面から深さ100nmまでの表層部におけるSi+Mnの平均濃度が5.0質量%以上でCrを10.0〜50.0質量%を含む鋼材が開示されている。
また、特許文献3には、耐食性に優れた高強度フェライト系ステンレス鋼として、耐食性の要求レベルに応じてCrを9〜40質量%含有させるとともに、Ni,Al,Cuの三元素を特定量以上含有させ、X=Ni+2.25Al+1.5Cuで定義される強化指数Xを5.0〜9.0の範囲に調節した鋼が開示されている。
従って、特許文献1〜4のフェライト系ステンレス鋼は、耐食性・強度、コスト等の点で全ての要求特性に見合うものではない。
次式(1)で表される[I]が、2.5≦[I]≦5.0、
次式(2)で表される[II]が、0.5≦[II]≦1.5、
次式(3)で表される[III]が、3000≦[III]≦9000、
であることを要旨とする。
但し、
[I]=[Cu]+[Ni] … 式(1)
[II] =[Cu]/[Ni] … 式(2)
[III]=([Cu]+[Ni])×[Cr]/[C] … 式(3)
(ここで、[M]は、元素Mの質量%)
Mo≦1.0質量%を含有してもよく、更に、
0.0005≦B≦0.0050質量%、及び/又は、0.10≦Al<0.50質量%を含有してもよい。尚、O及びNについては、O≦0.030質量%、及び/又は、N<0.030質量%とするとよい。
本発明に係る高強度・高耐食性ステンレス鋼は、更に、
Nb、Ti、V、W、Ta、Hfからなる群のいずれか1種または2種以上を合計で0.01質量%以上0.6質量%以下含有してもよく、更に、
0.01≦Co≦0.6質量%を含有してもよく、更に、
Ca、Mg、REMからなる群のいずれか1種又は2種以上を合計で0.0001質量%以上0.0100質量%以下含有してもよい。
また、本発明に係る高強度・高耐食性ステンレス鋼並びに鋼材及び鋼製品は、Ni量が抑えられているため低コスト化が実現されるという効果がある。
本実施形態に係る高強度・高耐食性ステンレス鋼は、以下の必須元素及び任意元素を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、以下の式(1)〜式(3)の値が所定範囲となる。
本実施形態に係る高強度・高耐食性ステンレス鋼は、必須元素として、C、Si、Mn、Ni、Cr、Cuを含有し、これらのうち、Ni、Cr、Cu、Cの含有量が高強度・高耐食性を両立させる所定の関係を有する。以下にこれらについて詳細に説明する。
(1)0.005≦C≦0.020質量%
Cは、必須元素であるが、Cr炭化物を形成して耐食性を劣化させる為、0.020質量%以下とする。しかし、0.005質量%未満とするには長時間の脱炭処理が必要となりコストアップとなる。そこで、C含有量は、0.005〜0.020質量%が好ましく、0.005〜0.015質量%がより好ましい。
Siは、鋼の脱酸剤となるため、0.2質量%を下限として添加する必須元素である。しかし、Si含有量が過大となると靱性の低下を招くばかりでなく、鋼の熱間加工性を劣化させるため、上限を1.0質量%とする。尚、冷間加工性を特に重視する場合には、Si含有量は、0.5質量%以下とするのがより好ましい。
Mnは、脱酸元素であるため、0.2質量%を下限として添加する必須元素である。一方で、Mnを過剰に添加すると加工硬化能が上昇し、冷間加工性を阻害し、また耐食性を低下させる。そこで、Mn含有量は1.0質量%を上限とする。Mn含有量は、0.2〜0.8質量%がより好ましく、0.2〜0.5質量%が更に好ましい。
Niは、オーステナイト形成元素であり、耐食性、特に、還元性酸環境中での耐食性を向上させるのに有効であることから、1.0質量%超を下限として添加する必須元素である。ただし、Niを過剰に添加すると、コストの上昇を招くことから3.0質量%を上限とする。Ni含有量は、1.5〜2.5質量%がより好ましい。
Crは、耐食性を確保する上で必須元素であり、20.0質量%以上の添加が必要である。一方、Crを過剰に添加すると、熱間加工性を害するとともに、σ相析出による靱性の劣化を招くため、Cr含有量は23.0質量%を上限とする。Cr含有量は、耐食性が十分確保でき、靱性の劣化が少ない20.5〜22.0質量%がより好ましい。
Cuは、必須元素であり、本発明において重要な元素である。Cuは、Cuの微細粒子の粒内析出による強化及びCuが粒界に析出することにより粒界を強化することで強度を向上させる。また、耐食性、特に、還元性酸環境中での耐食性を向上させるのに有効であり、加工硬化能を低下させて冷間加工性も向上させる。このように強度・耐食性の両方を向上させることができることから、Cuは、1.0%超を下限として添加する。しかし、Cuを過剰に添加すると、熱間加工性を劣化させるため、Cu含有量は3.0%を上限とする。Cu含有量は、1.5〜3.0質量%がより好ましい。また、Cuは、熱処理等を施すことにより抗菌性を向上させることができる。
[I]=[Cu]+[Ni] … 式(1)
式(1)によって求められる値[I]は、本発明の特徴であるCuとNiの複合添加の効果を表す値である。値[I]は、強度を得るためには少なくとも2.5(単位:質量%)が必要である。しかし、Cu及びNiのいずれか一方又は両者の添加が合計で過剰になると、加工性の低下やコストアップを招来する。そこで、値[I]は5.0(単位:質量%)を上限とする。従って、値[I]は、2.5〜5.0とするが、2.5〜4.5がより好ましい。
式(2)によって求められる値[II]は、本発明の特徴であるCuとNiの複合添加におけるバランス効果を表す値である。値[II]は、強度を確保するためには少なくとも0.5(単位:無し)以上必要である。しかし、値[II]が1.5を超えると加工性の低下を起こす。そこで、値[II]は、0.5〜1.5とするが、0.7〜1.4がより好ましく、0.9〜1.3が更に好ましい。
式(3)によって求められる値[III]は、耐食性と強度のバランス(耐食性及び強度の両者が良好であることを意味する)を得るために各成分量を調整するときの尺度となる値である。値[III]は、3000未満では十分な耐食性を得ることが出来ない。しかし、値[III]が9000超では加工性が低下する上にコストアップとなる。そこで、値[III]は、耐食性と強度のバランスを得るには3000〜9000とする。値[III]は、3000〜8500がより好ましく、3500〜8000が更に好ましい。
Moは、強度を低下させずに、耐食性を向上させることができるため、添加してもよい。Moを過剰に添加すると、熱間加工性を害するほか、コストの上昇を招くため、上限を1.0質量%とする。Mo含有量は、0.2〜0.5質量%がより好ましい。
Bは、粒界強度を高め、鋼の熱間加工性を改善することから効果が発現する0.0005質量%以上を添加することができる任意元素である。ただし、Bを過剰に添加すると、熱間加工性を害する硼化物を形成させるため、上限を0.0050質量%とする。B含有量は、0.0005〜0.0030質量%がより好ましく、0.0005〜0.0020質量%が更に好ましい。
Alは、強靱な脱酸元素であり、Oを極力低減するため、若しくは耐酸化性を改善するため必要に応じて添加することができる任意元素である。Al含有量は、その効果が確認できる0.10質量%を下限とするが、Alを過剰に添加すると、熱間加工性を劣化させることから上限を0.50質量%未満とする。
Oは、原料からO≦0.05質量%程度混入する不可避的不純物であり、冷間加工性や切削性に有害な酸化物を形成することから極力低めに抑制すべきである。そこで、O含有量は、0.030質量%以下が好ましく、製造コストとの兼ね合いによれば、0.015質量%以下がより好ましく、0.010質量%以下が更に好ましい。
Nは、原料からN≦0.05質量%程度混入する不可避的不純物であり、冷間加工性や切削性を劣化させる窒化物を形成することから極力低めに抑制すべきである。そこで、N含有量は、0.030質量%未満が好ましく、製造コストとの兼ね合いによれば、0.020質量%以下がより好ましく、0.015質量%以下が更に好ましい。
Nb、Ti、V、W、Ta、Hfは、任意元素であるが、これらの添加は、炭窒化物を形成して鋼の結晶粒を微細化し、強靱性を高める効果がある。そこで、Nb、Ti、V、W、Ta、Hfのいずれか1種又は2種以上を合計で0.01質量%以上0.6質量%以下含有させてもよい。しかし、これらを過剰に添加すると、コストの上昇を招くため、その含有量は、0.3質量%以下がより好ましい。
Coは、固溶強化による高強度化に寄与する任意元素である。そこで、Co含有量は、その効果が明瞭となる0.01質量%を下限とする。しかし、Coを過剰に添加すると、コストの大幅上昇を招くため、Co含有量は上限を0.6質量%とする。Co含有量は、0.3質量%以下がより好ましい。
Ca、Mg、REMは、鋼の熱間加工性を向上させるのに有効な任意元素である。そこで、Ca、Mg、REMのいずれか1種又は2種以上を合計で0.0001質量%を下限として含有させてもよい。しかし、これらを過剰に添加すると、効果が飽和し、逆に熱間加工性を低下させるため、その含有量は上限を0.0100質量%とするが、0.0050質量%以下がより好ましい。尚、ここでいうREMは、Ce、La又はそれらの合金からなるものを含む意味である。
Pは、不可避的不純物であり、粒界に偏析し、粒界腐食感受性を高めるほか、靱性の低下を招くため低いほうが望ましいが、必要以上の低減はコストの上昇を招くため、0.04質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下が更に好ましい。
Sは、不可避的不純物であり、熱間加工性を低下させるため極力抑制すべく0.010質量%を上限とする。製造コストとの兼ね合いによれば、S含有量は、0.005質量%以下がより好ましい。
本実施形態に係る高強度・高耐食性ステンレス鋼は、上記所定成分を含有する鋼塊を溶製し、熱間加工により適当な形状・サイズに加工した後、700〜1000℃で約1〜24時間熱処理後空冷する、より好ましくは、750〜950℃で約1〜8時間熱処理後空冷することにより得られる。ここで、空冷時の冷却速度は15〜250℃/分であればよい。
ちなみに、本実施形態においては、ロックウエル硬さとして、85〜100HRBが好ましく、88〜98HRBがより好ましい。85HRB未満では十分な強度が得られず、100HRB超では加工性が低下するからである。
また、本実施形態においては、耐力比として、70〜90%が好ましく、75〜90%がより好ましい。耐力比が70%未満では十分な強度が得られず、オーステナイト系ステンレス鋼代替用途として使用が困難となり、90%超では加工性が低下するためである。
尚、ロックウエル硬さ、絞り、耐力比は上記の熱処理条件によって調節可能である。
(ステンレス鋼)
表1に示した成分組成(残部はFe及び不可避的不純物からなる)の鋼種の50kg鋼塊を高周波誘導炉にて溶製したのち冷却してインゴットを作製した。各インゴットを1000〜1200℃に加熱し、熱間鍛造により20mmの丸棒に加工した。それら丸棒を更に大気熱処理炉で800℃で4時間保持した後、空冷(焼きなまし処理:冷却速度50℃/分)し、供試材(ステンレス鋼)とした。
表1に示す発明鋼1〜4、比較鋼1〜4の50kgインゴットを1000〜1200℃に加熱後に熱間圧延によりφ5.5mmの線材に加工し、そこからφ4.0mmまで伸線加工を行い、線径4.0mmの鋼線を作製した。それら鋼線に対して更に大気熱処理炉で800℃で4時間保持した後、空冷(焼なまし処理:冷却速度50℃/分)し、供試材(ステンレス鋼線)とした。また、それらの線径4.0mmの鋼線から冷間伸線加工により線径3.8mm(伸線加工率10%)に加工し、供試材(ステンレス鋼線伸線)とした。
(ステンレス鋼−引張試験)
供試材からJIS4号試験片を作製し、JIS Z 2241に基づき引張試験を行った。引張強さ、絞り、及び、オフセット法により0.2%耐力を求めた。耐力比(%)は、耐力比(%)={0.2%耐力(MPa)/引張強さ(MPa)}×100により求めた。また、ロックウエル硬さも測定した。これらの試験結果を表2に示す。
塩水噴霧試験は、JIS Z 2371に基づいて行った。すなわち、供試材から、表面を♯400まで研磨仕上げしたφ10×50mmの円柱形状の試験片を作製し、この試験片を35℃、5%塩化ナトリウム水溶液噴霧環境中に96時間暴露することにより試験を行った。耐食性は、試料表面に生じた発銹面積から評価した。これらの試験結果を表2に示す。
発明鋼1〜21は、強度(引張強さ、0.2%耐力、耐力比、ロックウエル硬さ)、加工性(絞り)、耐食性(発銹ランク)のいずれもが良好であり、要求特性を満たした。発明鋼1〜21は、表1に規定する成分を所定量含有するとともに、Cu、Ni、Cr、Cの含有量(質量%)で規定される式(1)〜式(3)の値が所定範囲であるため、CuとNiの複合添加の効果、CuとNiとのバランスの効果、更に、CuとNiの複合添加とCr及びCとのバランスの効果が得られ、これにより、強度と耐食性が兼ね備えられたためと考えられる。
比較鋼5,6は、Cu量、Ni量はそれぞれが所定範囲ではあるものの、比較鋼5が[I]値超であったため絞りが低く加工性が悪くなり、比較鋼6が[I]値未満であったため十分な強度が得られないことが分かった。
比較鋼7,8は、Cu量、Ni量はそれぞれが所定範囲ではあるものの、比較鋼7がCuが過剰で[II]値超となり絞りが低く加工性が悪くなり、比較鋼8がNiが過剰で[II]値未満であったため十分な強度が得られないことが分かった。
比較鋼12はCu量過少であったためNiとの複合添加の効果が十分発現されず、硬さが不十分となることが分かった。
比較鋼13はNi量過少であったため耐食性が悪くなることが分かった。
比較鋼14はCr量過少であったため耐食性が悪くなることが分かった。
比較鋼15はC量過少であったため硬さが不十分となることが分かった。
比較鋼16はCu量過多、Ni量過多であったため硬くなりすぎ絞りが低く加工性が悪くなることが分かった。
JIS Z 2241に基づき、供試材(線径4.0mmの鋼線、線径3.8mmの鋼線伸線)を試験片として用いて引張試験を行った。これらの試験結果を表3に示す。
塩水噴霧試験は、JIS Z 2371に基づいて行った。すなわち、供試材(線径4.0mmの鋼線、線径3.8mmの鋼線伸線)の表面を#800まで研磨した試験片を35℃、5%塩化ナトリウム水溶液噴霧環境中に96時間暴露することにより試験を行った。耐食性は、試料表面に生じた発銹面積から評価した。これらの試験結果を表3に示す。
発明鋼1〜4を用いた鋼線・鋼線伸線は、強度(引張強さ、0.2%耐力、耐力比、ロックウエル硬さ)、加工性(絞り)、耐食性(発銹ランク)のいずれもが良好であり、要求特性を満たした。ステンレス鋼の場合と同様の理由によるものと考えられる。これに対し、比較鋼1〜3を用いた鋼線・鋼線伸線は、従来のフェライト系ステンレス鋼を用いたものであり、いずれも強度や耐食性が劣ることが確認できた。
以上説明したことから明かなように、所定の成分組成を備えるとともに、Ni及びCuの複合添加及びそのバランス並びにこれら複合添加とCr量及びC量との調整により、強度及び耐食性に優れたステンレス鋼が得られることがわかった。また、Ni量を低めにしているためコストを抑えることができることも分かった。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
Claims (9)
- 0.005≦C≦0.020質量%、
0.2≦Si≦1.0質量%、
0.2≦Mn≦1.0質量%、
1.0<Ni≦3.0質量%、
20.0≦Cr≦23.0質量%、及び、
1.0<Cu≦3.0質量%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる高強度・高耐食性ステンレス鋼であって、
次式(1)で表される[I]が、2.5≦[I]≦5.0、
次式(2)で表される[II]が、0.5≦[II]≦1.5、
次式(3)で表される[III]が、3000≦[III]≦9000、
であることを特徴とする高強度・高耐食性ステンレス鋼。
但し、
[I]=[Cu]+[Ni] … 式(1)
[II] =[Cu]/[Ni] … 式(2)
[III]=([Cu]+[Ni])×[Cr]/[C] … 式(3)
(ここで、[M]は、元素Mの質量%) - 更に、
Mo≦1.0質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 更に、
0.0005≦B≦0.0050質量%、及び/又は、
0.10≦Al<0.50質量%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 更に、
O≦0.030質量%、及び/又は、
N<0.030質量%としたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 更に、
Nb、Ti、V、W、Ta、Hfからなる群のいずれか1種または2種以上を合計で0.01質量%以上0.6質量%以下含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 更に、
0.01≦Co≦0.6質量%を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 更に、
Ca、Mg、REMからなる群のいずれか1種又は2種以上を合計で0.0001質量%以上0.0100質量%以下含有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼。 - 請求項1から7に記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼を使用した鋼線。
- 請求項1から7に記載の高強度・高耐食性ステンレス鋼を使用した鋼製品。
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