JP2587785Y2 - エンボス部を有する金属積層形ガスケット - Google Patents

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本願考案は、エンボス部を有する
金属積層形ガスケットに関し、更に詳細には、比較的柔
らかい接合面に有利に使用することができる金属積層形
ガスケットに関するものである。

【０００２】

【従来の技術】例えば、内燃機関のヘッドガスケットと
して使用する金属積層形ガスケット（以下単にガスケッ
トという）Ｇは、図３に示すように、シリンダ穴Ｈｃの
他、水穴Ｈｗ、オイル穴Ｈｏ、ボルト穴Ｈｂなどが設け
られており、図４に示すように、金属薄板からなる第１
表面板１、第２表面板２、及び中板４を積層し、中板４
にシリンダ穴Ｈｃの周りに密封圧をもたらすビード６を
形成したものである。したがって、図示しないヘッドボ
ルトで締め付けると、ビード６が弾性変形して密封圧を
発生させ、シリンダ穴Ｈｃ内の周囲に高圧流体の洩れを
防止することができる。該ビード６は、圧縮に対して弾
性変形するので、接合面間隔が伸縮しても、密封力が低
下することがなく高い密封性能を得ることができる。し
かしながら、アルミニウム合金製の内燃機関に適用する
と、ビード６が当たる部分が変形して圧痕を生じ、密封
性能が損なわれるおそれがある。

【０００３】そこで、本出願人は、図５に示すガスケッ
トＧを考案し、１９８８年に米国特許願第１９３，２１
５号として出願した。図５に示すように、このガスケッ
トＧは、折返し部８を備えた構成板１と、これに積層し
た構成板２とから成るものである。このガスケットＧの
密封圧は、折返し部８に生じるので、より幅広のシール
部を形成することが可能であるが、湾曲部１０により高
い密封圧が発生するので、接合面をアルミニウム合金製
とすると、該部分に前記と同様に変形が起こるという問
題がある。

【０００４】そこで、前記欠点を改善するために、シー
ル穴を取り囲む段部をガスケット構成板に形成すると共
に、シール穴周縁で湾曲状に折り返して、中空の厚みの
あるリング状のシール部を形成し、更に所望により、該
中空部の内部にビードを設け、密封部を比較的幅広に形
成したガスケットを考案し、１９８８年に米国特許願第
２４３，５２８号として出願した。しかしながら、この
ガスケットは、完全に締め付けないと弾性変形部がクリ
ープを起こし、密封性能を逓減させる問題が認められ
た。

【０００５】

【考案が解決しようとする課題】以上説明したように、
車両の高速化に伴い、内燃機関本体に軽量材が使用され
るようになり、鋳鉄より軟質材のアルミニウム合金など
が多用され、しかも、内燃機関の高性能化に伴い、ガス
ケットの密封性能を更に向上させることが求められるに
至っている。

【０００６】本考案は、前記問題に着目してなされたも
のであり、接合面間隔の伸縮に追随することができ、し
かも、アルミニウム合金のような比較的軟質の接合面を
変形させるおそれがなく、長期間安定して高温・高圧の
作用するシール穴を密封することのできるエンボス部を
有する金属積層形ガスケットを提供することを目的とし
ている。

【０００７】

【課題を解決するための手段】以上の目的を達成するた
めの本考案のエンボス部を有する金属積層形ガスケット
の構成は、第１表面板１をシールする穴Hcの周囲で、第
２表面板２側に折り曲げたリング状の芯部14を形成し、
第２表面板２をシールする前記穴Hcの周囲で第１表面板
１側に湾曲状に折り返して前記芯部14を包むエンボス部
24を形成し、該エンボス部24は、前記芯部14の幅より広
く、且つ該芯部14との間に空間が形成されるように、前
記芯部14と第２表面板の平坦部16との間で第２表面板を
断面がクランク様となるように折り曲げた段部18と、前
記湾曲状に折り返した部分に形成される湾曲部20とによ
って形成し、前記第２表面板の前記湾曲部20の先端側に
前記芯部14と重なる折返し部22を形成し、内周縁が前記
折返し部22と干渉しない大きさの貫通穴28を有する少な
くとも１枚の中板４を第１表面板１と第２表面板２との
間に積層し、該中板４の貫通穴28の内周縁と、前記芯部
14、折返し部22及びエンボス部24からなるシール部26と
の間の積層板を、前記中板４によって互いに隔てられた
前記第１、第２の表面板１，２の２枚としたものであ
る。

【０００８】本考案のガスケットは、前記芯部の幅を調
整することにより密封圧を調整することができる。ま
た、芯部は、厚さを調整するために２層以上とすること
ができる。この場合、第１表面板を巻き込むように、又
は、折り重ねるように複数回折り曲げて芯部を形成する
ことができる。

【０００９】前記エンボス部は、圧縮された際に、折り
返し部、段部及び芯部が弾性変形して密封圧を発生させ
る。また、前記湾曲部を、芯部の厚みより大きく湾曲さ
せ、エンボス部と芯部との間に隙間を設けるように形成
したために、ガスケットが圧縮される際に湾曲部と段部
とが完全に圧縮されず、圧縮力が低下した際に弾性変形
して、接合面間隔の変化に追随することがてきるので、
シリンダ穴など内圧が大きく変動する場合にも、高い密
封性能を維持させることができる。

【００１０】該エンボス部の形状、即ち、湾曲部と段部
との間の形状は、ガスケット平面部と平行な平面に形成
してもよく、緩く湾曲する曲面などによって形成しても
よい。前記段部のクランク様断面形状は、明確な折り曲
げ線により形成してもよく、また、曲線状に折り曲げて
もよい。また、段部に生じる弾性力は、第１，第２表面
板の材質と厚さとによって定まる。以上ように形成した
段部は、ガスケットが圧縮されても、他の部分より積層
板枚数が少ないため圧縮されることがない。したがって
ガスケットに接する接合面が相互にずれるなどの原因で
シール部（芯部）に無理な応力が作用すると、前記２枚
構成部分は予め屈曲しているので容易に変形して応力を
分散・吸収する。

【００１１】本考案を実施する際に、前記中板を積層し
た部位の合計板厚より、前記エンボス部の合計板厚を厚
くすると、エンボス部が確実に圧縮されて、安定した密
封圧を発生させることができる。以上のとおり、本考案
のエンボス部を有する金属積層形ガスケットは、シール
幅を任意に調整でき、且つ、剛性の高い芯部と、エンボ
ス部の弾力性によってシールすることができる。したが
って、ヘッドガスケットに使用した場合、ヘッドボルト
の締め付けでヘッドガスケットに反りが生じ、シリンダ
穴周縁の接合面の間隔が開く傾向が強いアルミニウム合
金製のシリンダヘッドに使用しても、高い密封性能を長
期間維持させることができる。

【００１２】前記エンボス部は、シールする穴が比較的
大きい場合のシール部形成に適している。ただし、ヘッ
ドガスケットの場合、シリンダ穴のシールの外、水穴、
オイル穴など、他のシール穴に適用してもよく、また、
ヘッドガスケット以外のガスケットにも有利に適用する
ことができる。また、前記エンボス部の外側にビードを
設け、２重のシール部を形成することもできる。

【００１３】

【実施例】以下添付の図面を対照して実施例により本考
案を具体的に説明する。図１に示す実施例１のガスケッ
トＧは、内燃機関のヘッドガスケットのシリンダ穴Ｈｃ
の部分を示しており、一方の表面板である第１表面板１
を、シリンダ穴Ｈｃの周囲でリング状に１回折り重ねて
折返し部１２とし、芯部１４を形成した。そして、第２
表面板２を、シリンダ穴Ｈｃを囲むリング状に、芯部１
４の外側で、平坦な基部１６からクランク様に折り曲げ
て段部１８を設け、また、シリンダ穴Ｈｃの周縁で第１
表面板１側に湾曲部２０を形成しながら折返し部２２を
折り返してエンボス部２４を形成した。段部１８は、弾
性変形し易いように傾斜させて設けるのがよい。前記エ
ンボス部２４を配置した部分が、シリンダ穴Ｈｃのシー
ル部２６を構成する。

【００１４】前記各板１，２の間に配置した中板４は、
シリンダ穴Ｈｃを囲む貫通穴２８を開口させ、両面に、
弾性と柔軟性とを有する材料によるコーティング層３０
を設け、第１表面板１及び第２表面板２との密着性を高
め、積層した板間にシールする流体（本実施例では燃焼
ガス）の侵入を防止した。なお、前記コーティング層３
０を設けないで本考案を実施することができる。なお、
段部１８は、折返し部１２の外周縁と貫通穴２８の内周
縁との間に設ける。また、折返し部２２の外周縁は、折
返し部１２の幅より広くして、エンボス部２４に加わる
圧縮力を芯部１４に集中させるようにした。また、シー
ル部２６の積層板の合計厚さは、シール部２６の外側の
平坦部１６の積層板の合計厚さと実質的に同じ厚さとし
た。但し、実際には、前者を僅かに厚くすることが、該
部分に圧縮力を集中させるために有利である。通常の車
両用内燃機関の場合、シール部２６の前記合計厚さを、
平坦部１６の合計厚さより、例えば、０．０５〜０．１
ｍｍ厚程度厚くすることが好ましい。

【００１５】以上のように実施例１のガスケットＧを組
み立てると、平坦部１６の構成板１，２とコーティング
層３０を備えた中板４とは互いに接触し、エンボス部２
４と芯部１４との間に隙間が形成され、該部分が圧縮さ
れると、段部１８と湾曲部２０とが弾性変形して、弾性
による密封力を発生させる。しかも、前記間隙部分の積
層板枚数が、シール部２６及び中板４を設けた部分より
１枚少ないため、前記段部１８は完全に圧縮されること
がない。したがって、面圧が大きく減少して接合面間隔
が変動した場合に、接合面に追随して密封性を維持する
ことができる。弾性と柔軟性とを有する前記コーティン
グ層３０に使用しうる材料としては、例えばＮＢＲゴ
ム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム弾性体など
であるが、他のゴム弾性体、高分子エラストマーなども
使用することができる。コーティング層３０の厚さは、
特に限定はないが、５〜１００μｍ、好ましくは１０〜
５０μｍである。また、本実施例の応用として、中板
（図に示す中板４でなくてもよい）にビード（図示せ
ず）を設け、２重にシール部を形成することもできる。

【００１６】

【考案の効果】以上説明したように、本考案のエンボス
部を有する金属積層形ガスケットは、前記芯部が高い剛
性と調整可能の幅を与えることができ、高いシール面圧
を広い幅で発生させたシール部を形成することができ、
しかも芯部の外周縁と中板の内周縁との間の隙間に段部
を形成したため、段部及びこの部分の第１表面板は潰れ
るまで圧縮されず、しかも予め屈曲しているため変形が
容易であり、接合面の相対的ずれなどの変化に追随する
ことが可能となる。したがって接合面が相対的にずれを
起こすなど、ガスケットに不整な歪みが発生した場合な
どの際に、前記段部がこの歪みを吸収することができ
る。したかって、密封性能を維持することが可能とな
り、硬質の金属板を使用しても、アルミニウム合金な
ど、比較的軟質の接合面を傷付けることなく高い密封性
能を長期間維持させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本考案の実施例１のエンボス部を有する金属積
層形ガスケットを一部断面で示した要部斜視図である。

【図２】図１に示すガスケットの使用状態を示す要部断
面図である。

【図３】従来例による金属積層形ヘッドガスケットの部
分平面図である。

【図４】図３のＩＶ−ＩＶ線矢視断面図である。

【図５】別の従来例による金属積層形ヘッドガスケット
の要部断面図である。

【符号の説明】

１ 第１表面板 ２ 第２表面板 ４ 中板 １０ 湾曲部 １２ 折返し部 １４ 芯部 １６ 平坦部 １８ 段部 ２０ 湾曲部 ２２ 折返し部 ２４ エンボス部 ２６ シール部 ２８ 貫通穴

Claims (2)

(57)【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】 第１表面板１をシールする穴Hcの周囲
   で、第２表面板２側に折り曲げたリング状の芯部14を形
   成し、第２表面板２をシールする前記穴Hcの周囲で第１
   表面板１側に湾曲状に折り返して前記芯部14を包むエン
   ボス部24を形成し、該エンボス部24は、前記芯部14の幅
   より広く、且つ該芯部14との間に空間が形成されるよう
   に、前記芯部14と第２表面板の平坦部16との間で第２表
   面板を断面がクランク様となるように折り曲げた段部18
   と、前記湾曲状に折り返した部分に形成される湾曲部20
   とによって形成し、前記第２表面板の前記湾曲部20の先
   端側に前記芯部14と重なる折返し部22を形成し、内周縁
   が前記折返し部22と干渉しない大きさの貫通穴28を有す
   る少なくとも１枚の中板４を第１表面板１と第２表面板
   ２との間に積層し、該中板４の貫通穴28の内周縁と、前
   記芯部14、折返し部22及びエンボス部24からなるシール
   部26との間の積層板を、前記中板４によって互いに隔て
   られた前記第１、第２の表面板１，２の２枚としたこと
   を特徴とするエンボス部を有する金属積層形ガスケッ
   ト。
2. 【請求項２】 前記芯部14の積層板厚合計を、中板４を
   配置したガスケット平坦部16の積層板厚合計より、厚く
   形成した請求項１記載のエンボス部を有する金属積層形
   ガスケット。