JP2563638B2 - 水素吸蔵合金電極 - Google Patents

水素吸蔵合金電極

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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は、電気化学的な水素の吸蔵・放出を可逆的に
行える水素吸蔵合金電極に関するものであり、特に開放
形や密閉形のアルカリ蓄電池の負極に使用できるもので
ある。
従来の技術 各種の電源として広く使われている蓄電池として鉛電
池とアルカリ電池がある。このうちアルカリ蓄電池は高
信頼性が期待でき、小形軽量化も可能などの理由で小型
電池は各種ポータブル機器用に、大型は産業用として使
われてきた。
このアルカリ蓄電池において、正極としては一部空気
極や酸化銀極なども取り上げられているが、ほとんどの
場合ニッケル極である。ポケット式から焼結式に代わっ
て特性が向上し、さらに密閉化が可能になるとともに用
途も広がった。
一方、負極としてはカドミウムの他に亜鉛、鉄、水素
などが対象となっているが、現在のところカドミウム極
が主体である。ところが、一層の高エネルギー密度を達
成するために金属水素化物つまり水素吸蔵合金極を使っ
たニッケル−水素蓄電池が注目され、製法などに多くの
提案がされている。
水素を可逆的に吸収・放出しうる水素吸蔵合金を負極
に使用するアルカリ蓄電池の水素吸蔵合金電極は、理論
容量密度がカドミウム極より大きく、亜鉛極のような変
形やデンドライトの形成などもないことから、長寿命・
無公害であり、しかも高エネルギー密度を有するアルカ
リ蓄電池用負極として期待されている。
このような水素吸蔵合金電極に用いられる合金とし
て、一般的にはTi-Ni系およびLa(またはMm)−Ni系の
多元系合金がよく知られている。Ti-Ni系の多元系合金
は、ABタイプとして分類できるが、この特徴として充放
電サイクルの初期には比較的大きな放電容量を示すが、
充放電を繰り返すと、その容量を長く維持することが困
難であるという問題がある。また、AB5タイプのLa(ま
たはMm)−Ni系の多元系合金は、近年電極材料として多
くの開発が進められており、これまでは比較的有力な合
金材料とされていた。しかし、この合金系も比較的放電
容量が小さいこと、電池電極としての寿命性能が不十分
であること、材料コストが高いなどの問題を有してい
る。したがって、さらに高容量化が可能で長寿命である
新規水素吸蔵合金材料が望まれていた。
これに対して、AB2タイプのLaves相合金(A:Zr,Tiな
どの水素との親和性の大きい元素、B:Ni,Mn,Crなどの遷
移元素)は水素吸蔵能が比較的高く、高容量かつ長寿命
の電極として有望である。すでにこの合金系について
は、例えばZrαVβNiγMδ系合金(特開昭64-60961号
公報)やAxByNiz系合金(特開平1-102855号公報)など
を提案している。
発明が解決しようとする課題 しかしながら、AB2タイプのLaves相合金を電極に用い
た場合、Ti-Ni系やLa(またはMm)−Ni系の多元系合金
に比べて放電容量が高く、長寿命化は可能なもののさら
にこれらの性能の向上が望まれていた。
本発明は、水素吸蔵合金を改善することによりさらに
放電容量が大きく、かつ長寿命である水素吸蔵合金電極
を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段 本発明の水素吸蔵合金電極は、合金の一般式が、Zrα
MnβVγCrδNiε(ただし、0.9≦α≦1.1,0<β≦0.5,
0<γ≦0.3,0<δ≦0.4であり、かつ1.2≦ε≦1.5)で
示され、合金相の主成分がC15(MgCu2)型ラーベス相
(Laves)であり、かつその結晶格子定数aが、7.04Å
≦a≦7.10Åである水素吸蔵合金またはその水素化物を
用いるものである。
そして、NiとVの配合比率が1.1≦ε−γ≦1.3である
ことが好ましく、C15型ラーベス相の結晶格子定数が、
特に7.05Å≦a≦7.08Åであることが望ましい。
作用 本発明の水素吸蔵合金は、従来のラーベス相合金の最
適化を図ったものであり、従来合金に比べて水素吸蔵−
放出量が大きくなり、しかも水素吸蔵−放出のヒステリ
シスが小さくなったため、電気化学的な充放電特性にお
いても効率よく多量の水素を吸蔵−放出させることがで
きる。また、充放電の繰り返しに対しても非常に安定な
性能を長期間持続できる。さらに、急速な充放電特性も
改善されている。
したがって、本発明の電極を用いて構成したアルカリ
蓄電池、例えばニッケル−水素蓄電池は、従来のこの電
池に比べて、高容量、長寿命、優れた急速充放電特性を
有することが可能になる。
実施例 以下に本発明の具体的な実施例について説明する。
市販のZr,Mn,V,Cr,Niなどの金属を原料として、アル
ゴン雰囲気中、アーク溶解炉で加熱溶解することによ
り、表に示したような組成の合金を作製した。次いで、
真空中、1100℃で12時間熱処理し、合金試料とした。
この合金試料の一部はX線回折などの合金分析および
水素ガス雰囲気における水素吸収−放出量測定(通常の
P(水素圧力)−C(組成)−T(温度)測定)に使用
し、残りは電極特性評価に用いた。
試料No.1〜4は本発明と構成元素が異なる例であり、
試料No.5〜19は本発明の水素吸蔵合金のいくつかの例で
ある。本発明の水素吸蔵合金について、真空熱処理後X
線回折測定を行った結果、合金相の主成分がC15型Laves
相であることを確認した。一例として試料No.5について
のX線回折パターンを第1図に示す。C15型Laves相はfc
c(面心立方格子)構造であり、第1図よりfccの大きな
鋭いピークが現われていることから、合金相の主成分が
C15型Laves相であることがわかった。また、熱処理前の
X線回折パターンと比べて上記のfccのピークがより大
きく鋭くなったので、熱処理することによりC15型Laves
相の割合が増大し、合金の均質性および結晶性も向上し
たことがわかった。
以上のような試料No.1〜19の合金について、まず、水
素ガス雰囲気中における水素吸蔵−放出特性を調べるた
めに、P−C−T測定を行っ た。代表的なものについての45℃における結果を第2図
に示す。第2図は横軸に合金成分−原子あたりの水素濃
度(H/M)を、縦軸に水素圧力(kg/cm2対数値)を示し
たものであり、図中の番号は試料No.と一致している。
第2図から、本発明の水素吸蔵合金の一例である試料N
o.6は水素吸蔵−放出量が多く、プラトー性もよいこと
がわかった。しかし、試料No.3は水素吸蔵量が少なく、
水素平衡圧力が非常に小さかった。また、試料No.2は水
素平衡圧力が非常に大きかった。これらの結果から、試
料No.1〜4の水素吸蔵合金を用いて電気化学的に水素を
吸蔵−放出させると、本発明の水素吸蔵合金(試料No.5
〜19)の場合に比べて水素吸蔵−放出量が小さくなるこ
とが予想できる。
次に、実際に電気化学的な充放電反応によるアルカリ
蓄電池用負極としての電極特性を評価するために単電池
試験を行った。
試料No.1〜19の合金を400メッシュ以下の粒径になる
ように粉砕し、この合金粉末1gと導電剤としてのカーボ
ニルニッケル粉末3gおよび結着剤としてのポリエチレン
微粉末0.12gを十分混合攪拌し、プレス加工により24.5
Φ×2.5mmHの円板状に成形した。これを真空中、130℃
で1時間加熱し、結着剤を溶融させて水素吸蔵合金電極
とした。
この水素吸蔵合金電極にニッケル線のリードを取り付
けて負極とし、正極として過剰の容量を有する焼結式ニ
ッケル極を、セパレータとしてポリアミド不織布を用
い、比重1.30の水酸化カリウム水溶液を電解液として、
25℃において、一定電流で充電と放電を繰り返し、各サ
イクルでの放電容量を測定した。なお、充電電気量は水
素吸蔵合金1gあたり100mA×5時間であり、放電は同様
に1gあたり50mAで行い、0.8Vでカットした。その結果を
第3図に示す。第3図はいずれも横軸に充放電サイクル
数を、縦軸に合金1gあたりの放電容量を示したものであ
り、この場合も図中の番号は表の試料No.と一致してい
る。第3図から本発明の水素吸蔵合金を用いると、いず
れも放電容量が大きく0.35Ah/g前後であり、充放電サイ
クルを繰り返してもその高容量を安定して持続できるこ
とがわかった。
さらに、これらの合金を用いて構成した密閉形ニッケ
ル−水素蓄電池について説明する。
表に示した本発明の合金の中からNo.5,6の2種合金を
選び、400メッシュ以下の粉末にした各水素吸蔵合金を
それぞれカルボキシメチルセルローズ(CMC)の希水溶
液と混合撹拌してペースト状にし、電極支持体として平
均ポアサイズ150ミクロン、多孔度95%、厚さ1.0mmの発
泡状ニッケルシートに充填した。これを120℃で乾燥し
てローラープレス加圧し、さらにその表面にフッ素樹脂
粉末をコーティングして水素吸蔵合金電極とした。
この電極をそれぞれ幅3.3cm、長さ21cm、厚さ0.40mm
に調整し、リード板を所定の2カ所に取り付けた。そし
て、正極およびセパレータと組み合わせて円筒状に3層
を渦巻き状にしてSCサイズの電槽に収納した。このとき
の正極は公知の発泡式ニッケル極を選び、幅3.3cm、長
さ18cmとして用いた。この場合もリード板を2カ所に取
り付けた。また、セパレータは親水性を付与したポリプ
ロピレン不織布を使用し、電解液としては、比重1.20の
水酸化カリウム水溶液に水酸化リチウムを30g/l溶解し
たものを用いた。これを封口して密閉形電池とした。こ
の電池は正極容量規制であり理論容量は3.0Ahにした。
これらの電池をそれぞれ10個づつ作製し、通常の充放
電サイクル試験によって評価した。すなわち、充電は0.
5C(2時間率)で150%まで、放電は0.2C(5時間率)
は終止電圧1.0Vとし、20℃において充放電サイクルを繰
り返した。その結果、いずれの電池もサイクルの初期は
理論容量より実際の放電容量が低かったが、数サイクル
の充放電で理論容量の3.0Ahに到達し、500サイクルまで
の充放電試験において安定した電池性能を持続した。
また、この電池の急速充放電特性を評価するために、
充電は2C(0.5時間率)で150%まで、放電は同じく2C
(0.5時間率)で終止電圧1.0Vとし、20℃と0℃での充
放電サイクルを繰り返した。その結果、これまでのよく
知られている希土類−ニッケル系のAB5タイプの多元系
合金と比べて充電時の電池内圧力が低く、放電電圧も高
いことが確認できた。
ここで、本発明の合金組成の作用について説明する。
水素ガス雰囲気中でのPCT特性と併せて考えると、Mnは
プラトー性に、Crはヒステリシスに寄与するので、Mnが
なければプラトー性が悪くなるため水素吸蔵量自体が少
なくなり、Crを含まなければヒステリシスが大きくなる
ため水素吸蔵量に対する放出量の割合が少なくなる。ま
た、Mnは合金表面の活性の度合にも寄与するので、これ
が多すぎると表面活性が非常に大きくなり、アルカリ溶
液中では表面が腐食されやすく充放電反応に支障をきた
す。そして、Crが多すぎるとヒステリシスが小さくなっ
ても今度はプラトー性を失い、水素吸蔵量自体が少なく
なる。したがって、Mn量は0<β≦0.5であり、Cr量は
0<δ≦0.4であることが最適である。
また、Zr量を1.0から変化させると合金組成が化学量
論的な組成からずれるが、1.0より小さくするとC15型La
ves相の割合が増大する。しかし、結晶格子定数が減少
し水素吸蔵量も少なくなる。反対に、1.0より大きくす
ると結晶格子定数は増加するが、合金の均質性が悪くな
る。したがって、Zr量にも最適範囲が存在し、それは0.
9≦α≦1.1である。
さらに、V量およびNi量は結晶格子定数に大きく影響
する。V量が大きくなると結晶格子定数が大きくなる
が、合金の均質性が悪くなる。また、Ni量が大きくなる
と電気化学的な水素の吸蔵−放出に対する活性が高くな
るが、結晶格子定数が減少し水素吸蔵量自体が少なくな
る。逆に、Ni量が小さくなると結晶格子定数は増加する
が、電気化学的な水素吸蔵量が少なくなる。よって、V
量およびNi量はそれぞれ0<γ≦0.3,1.2≦ε≦1.5とい
う範囲が最適であるが、V量とNi量とのバランスが非常
に重要であり、1.1≦ε−γ≦1.3という条件も満足しな
ければならない。
つまり、ε−γの値は結晶格子定数と密接な関係があ
り、結晶格子定数は水素平衡圧力および水素吸蔵−放出
量と相関性があるからである。ε−γが1.1より小さく
なると結晶格子定数が7.08Aより大きくなり、水素平衡
圧力が非常に小さくなるため、電気化学的な水素の吸蔵
−放出量が少なくなる。また、ε−γが1.3より大きく
なると、上とは逆に結晶格子定数が7.05Aより小さくな
り、水素平衡圧力が大きくなり、やはり電気化学的な水
素の吸蔵−放出量が少なくなる。
以上のことから、高容量かつ長寿命の水素吸蔵合金電
極を得るためには、本発明の合金組成の条件を満たすこ
とが重要である。
なお、Zr,Mn,V,Cr,Niから成る水素吸蔵合金にこれら
以外の元素、例えばMg,Ca,Ti,Hf,Fe,Co,Cu,Ag,Zn,Sn,P
b,Alなどをさらに加える場合にも、本発明の合金条件に
該当するものは同様に優れた性能が得られ、本発明とし
て有効である。
発明の効果 本発明の水素吸蔵合金電極は従来のものに比べて放電
容量が大きいため、アルカリ蓄電池のさらなる高容量化
を図ることができる。また、充放電サイクルを繰り返し
ても高容量を持続することができ、急速充放電にも十分
対応できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の合金についてのX線回折測
定結果を示すX線回折パターン図、第2図は同様にP−
C−T測定結果を表わす水素圧力−組成等温線図、第3
図は表に示した各種合金についての単電池試験結果を示
す充放電サイクル特性図である。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】合金の一般式が、ZrαMnβVγCrδNiε
    (ただし、0.9≦α≦1.1,0<β≦0.5,0<γ≦0.3,0<δ
    ≦0.4であり、かつ1.2≦ε≦1.5)で示され、合金相の
    主成分がC15(MgCu2)型ラーベス相であり、かつその結
    晶格子定数aが、7.04Å≦a≦7.10Åである水素吸蔵合
    金またはその水素化物を用いることを特徴とする水素吸
    蔵合金電極。
  2. 【請求項2】NiとVの配合比率が1.1≦ε−γ≦1.3であ
    ることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金電極。
  3. 【請求項3】C15型ラーベス相の結晶格子定数が、7.05
    Å≦a≦7.08Åであることを特徴とする請求項1記載の
    水素吸蔵合金電極。
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