JP2503111B2 - 磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製造法 - Google Patents

磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製造法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は中磁場での磁気特性が高
く、かつ、高い固有抵抗値を有する無方向性電磁厚板の
製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年最先端科学技術である素粒子研究や
医療機器の進歩に伴って、大型構造物に磁気を用いる装
置が使われ、その性能向上が求められている。直流磁化
条件で使用される粒子加速器用磁極材、リターンヨーク
材では、高い飽和磁束密度の他に5Oe(400A/
m)付近の中磁場での高い磁束密度が求められている。
【0003】磁束密度に優れた電磁鋼板としては、従来
から薄板分野で珪素鋼板、電磁軟鉄板をはじめとする数
多くの材料が提供されているのは公知である。しかし、
構造部材として使用するには組立加工及び強度上の問題
があり、厚鋼板を利用する必要が生じてくる。これまで
電磁厚板としては純鉄系成分で製造されている。たとえ
ば、特開昭60−96749号公報が公知である。しか
しながら、近年の装置の大型化、能力の向上等に伴いさ
らに磁気特性の優れた、特に中磁場、たとえば5Oe
(400A/m)付近での磁束密度の高い鋼材開発の要
望が強い。従来5Oe付近での中磁場の高い磁束密度が
安定して得られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は以上の
点を鑑みなされたもので、中磁場での磁気特性が高く、
かつ、高い固有抵抗値を有する磁気特性の優れた無方向
性電磁厚板の製造法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は次の通り
である。 (1) 重量%で、C:0.01%以下、Si:0.1
〜4.0%、Mn:0.20%以下、S:0.010%
以下、Al:0.040%以下、N:0.004%以
下、O:0.005%以下、H:0.0002%以下、
残部実質的に鉄からなる鋼組成の鋼片または、鋳片を9
50〜1150℃に加熱し、800℃以上で圧延形状比
Aが0.6以上の圧延パスを1回以上はとる圧延を行な
い、引き続き800℃以下で圧下率を35%超70%以
下とする圧延を行ない、板厚50mm以上の厚板とし、該
厚板を600〜750℃脱水素熱処理を行なことを
特徴とする中磁場での磁気特性が高く、かつ、高い固有
抵抗値を有する磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製
造法。
【数3】
【0006】(2) 板厚50mm以上の厚板を脱水素処
理後、750〜1150℃で焼鈍するかあるいは910
〜1200℃で焼準することを特徴とする(1)記載の
中磁場での磁気特性が高く、かつ、高い固有抵抗値を有
する磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製造法。
【0007】(3) 重量%で、C:0.01%以下、
Si:0.1〜4.0%、Mn:0.20%以下、S:
0.010%以下、Al:0.040%以下、N:0.
004%以下、O:0.005%以下、H:0.000
2%以下、残部実質的に鉄からなる鋼組成の鋼片また
は、鋳片を950〜1150℃に加熱し、800℃以上
で圧延形状比Aが0.6以上の圧延パスを1回以上はと
る圧延を行ない、引き続き800℃以下で圧下率を35
%超70%以下とする圧延を行ない、板厚50mm未満の
厚板とし、該厚板を750〜1150℃で焼鈍するかあ
るいは910〜1200℃で焼準することを特徴とする
中磁場での磁気特性が高く、かつ、高い固有抵抗値を有
する磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製造法。
【数4】
【0008】
【作用】まず、磁化のプロセスについて述べる。消磁状
態の鋼を磁界の中に入れ、磁界を強めていくと次第に磁
区の向きに変化が生じ、磁界の方向に近い磁区が優勢に
なり他の磁区を蚕食併合していく。つまり、磁壁の移動
が起こる。さらに磁界が強くなり磁壁の移動が完了する
と、次に磁区全体が磁化方向に向きを変えていく。
【0009】この磁化プロセスの中で低磁場での磁束密
度を決めているのは、磁壁の移動しやすさである。つま
り低磁場で高磁束密度を得るためには、磁壁の移動を障
害するものを極力減らすことであると定性的に言うこと
ができる。この観点から従来磁壁の移動の障害となる結
晶粒の粗大化が重要な技術となっていた(特開昭60−
96749号公報)。これに対し、中磁場で高磁束密度
を得るための方法については知見がなかった。
【0010】発明者らは、ここにおいて中磁場で高磁束
密度を得るためには、単に結晶粒の粗大化だけでなく、
隣あった結晶粒間の磁化の方向が圧延方向に平行に揃っ
ていることが重要であることを見出した。超粗大粒で
も、細粒でもない比較的粗粒(フェライト粒度No.が0
〜4番程度)でかつ(100)方向が圧延方向に平行に
ランダムとなることで中磁場の磁気特性が大幅に向上す
ることを見出したのである。
【0011】このための熱間圧延条件として、800℃
以下において35%超70%以下の圧下率をとること
で、圧延後の熱処理前の結晶粒を微細化して再結晶させ
やすくするとともに、鋼中に歪みを導入して、この歪み
を熱処理時の再結晶の駆動力とすることで、比較的大き
な結晶粒を板厚全体にわたって安定的に得ると同時に、
(100)の結晶方位を圧延方向に平行にランダムとな
る。
【0012】図1に0.008C−1.3Si−0.0
14Al鋼での800℃以下の圧下率と5Oeでの磁束
密度を示す。35超70%以下の圧下により、高磁束密
度が得られる。さらに中磁場での高磁束密度を得るため
の手段として、内部応力の原因となる元素及び空隙性欠
陥の作用につき詳細な検討を行ない、所期の目的を達成
した。
【0013】また、空隙性欠陥の影響についても種々検
討した結果、そのサイズが100μ以上のものが磁気特
性を大幅に低下することを知見したものである。そして
この100μ以上の有害な空隙性欠陥をなくすためには
圧延形状比Aが0.6以上必要であることを見出した。
【数5】
【0014】さらに、鋼中の水素の存在も有害で、特に
板厚50mm以上の厚板において、脱水素熱処理を行なう
ことによって磁気特性が大幅に向上することを知見し
た。高形状比圧延により空隙性欠陥のサイズを100μ
以下にし、かつ、脱水素熱処理により鋼中水素を減少す
ることで中磁場での磁束密度が大幅に上昇する。
【0015】さらに、図3に示すように、鋼に高い固有
抵抗値を与え、かつ、Alの無添加の領域でAlに代わ
る脱酸剤として使える元素としてSiが最適であること
を知見した。
【0016】次に成分限定理由を述べる。Cは鋼中の内
部応力を高め、磁気特性、特に低磁場での磁束密度を最
も下げる元素であり、極力下げることが中磁場での磁束
密度を低下させないことに寄与する。また、磁気時効の
点からも低いほど経時低下が少なく、磁気特性の良い状
態で恒久的に使用できるものであり、このようなことか
ら、0.01%以下に限定する。図2に示すようにさら
に、0.005%以下にすることにより一層高磁束密度
が得られる。
【0017】Siは図3に示すように固有抵抗値、引張
強さを高めるには、不可欠な元素で、0.1%以上添加
する必要がある。しかし、4.0%を超えて添加すると
中磁場での磁束密度が低下するため、上限は4.0%と
する。Mnは中磁場での磁束密度の点から少ない方が好
ましく、MnS系介在物を生成する点からも低い方がよ
い。この意味からMnは0.20%以下に限定する。さ
らにMnS系介在物を生成する点より望ましくは0.1
0%以下がよい。
【0018】S,Oは鋼中において非金属介在物を形成
し、結晶粒の粗大化を妨げる害を及ぼし含有量が多くな
るに従って磁束密度の低下が見られ、磁気特性を低下さ
せるので少ない程よい。このため、Sは0.010%以
下、Oは0.005%以下とした。Alは脱酸剤として
用いるもので、多くなりすぎると介在物を生成し鋼の性
質を損なうので上限は0.040%とする。さらに結晶
粒粗大化を妨げる析出物であるAlNを減少させるため
には低いほどよく、望ましくは0.020%以下がよ
い。Nは内部応力を高めかつAlNにより結晶粒微細化
作用により中磁場での磁束密度を低下させるので上限は
0.004%とする。Hは磁気特性を低下させ、かつ、
空隙性欠陥の減少を妨げるので0.0002%以下とす
る。
【0019】次に製造法について述べる。圧延条件につ
いては、まず圧延前加熱温度を1150℃以下にするの
は、1150℃を超える加熱温度では、加熱γ粒径の板
厚方向のバラツキは大きく、このバラツキが圧延後も残
り最終的な結晶粒が不均一となるため、上限を1150
℃とする。加熱温度が950℃未満となると圧延の変形
抵抗が大きくなり、以下に述べる空隙性欠陥をなくすた
めの形状比の高い圧延の圧延負荷が大きくなるため、9
50℃を下限とする。
【0020】熱間圧延にあたり前述の空隙性欠陥は鋼の
凝固過程で大小はあるが、必ず発生するものでありこれ
をなくす手段は圧延によらなければならないので、熱間
圧延の役目は重要である。すなわち、熱間圧延1回当た
りの変形量を大きくし板厚中心部にまで変形が及ぶ熱間
圧延が有効である。
【0021】具体的には800℃以上で圧延形状比Aが
0.6以上の圧延パスが1回以上を含む高形状比圧延を
行ない、空隙性欠陥のサイズを100μ以下にすること
が磁気特性によい。圧延中にこの高形状比圧延により空
隙性欠陥をなくすことで、後で行なう脱水素熱処理にお
ける脱水素効率が飛躍的に上昇するのである。ここに8
00℃以上で高形状比圧延を行なう理由は、800℃未
満の低温では変形抵抗が大きく通常の圧延機では圧下が
困難となるからである。
【0022】次に800℃以下の温度において累積圧下
率35%超にすることにより結晶粒を微細化するととも
に歪みを導入し、これに続く熱処理時の再結晶を促進さ
せる。さらにこの圧延により(100)の結晶方位を圧
延方向に平行にランダムとする。ただし70%超の圧下
率になると、熱処理後結晶粒度が板厚方向に不均一にな
り、磁束密度のばらつきを大きくする。従って板厚方向
に均一な比較的粗大な粒を得るために、圧下率を35%
超70%以下とする。
【0023】次に熱間圧延に引き続き結晶粒粗大化、内
部歪除去及び板厚50mm以上の厚手材については脱水素
熱処理を施す。板厚50mm以上では水素の拡散がしにく
く、これが空隙性欠陥の原因となり、かつ、水素自身の
作用と合わさって磁場での磁束密度を低下させる。こ
のため、脱水素熱処理を行なうが、その際600℃未満
では脱水素効率が悪く750℃超では変態が一部開始す
るので600〜750℃の温度範囲で行なう。脱水素時
間としては種々検討の結果〔0.6(t−50)+6〕
時間(t:板厚)が適当である。
【0024】焼鈍は結晶粒粗大化及び内部歪除去のため
に行なうが、750℃未満では結晶粒粗大化が起こら
ず、また、1150℃超では結晶粒の板厚方向の均質性
が保てないため、焼鈍温度としては750〜1150℃
に限定する。
【0025】焼準は板厚方向の結晶粒調整及び内部歪除
去のために行なうが、焼準温度は910〜1200℃に
限定する。910℃未満ではオーステナイト域とフェラ
イト域の混在により結晶粒が混粒となり、1200℃超
では結晶粒の板厚方向の均一性が保てない。
【0026】なお、磁気特性向上のためには、結晶粒粗
大化と内部歪除去とが考えられるが、特に内部歪除去は
必須条件である。内部歪除去は、板厚50mm以上の厚手
材では脱水素熱処理で行うことができるので、本発明の
厚手材では脱水素熱処理で、上記焼鈍あるいは焼準を兼
ねることができる。
【0027】
【実施例】次の本発明の実施例を比較例とともにあげ
る。表1に電磁厚板の製造条件とフェライト粒径、中磁
場での磁束密度を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】例1〜10は本発明の実施例を示し、例1
1〜26は比較例を示す。例1〜5は板厚100mmに仕
上げたもので、中磁場で高磁束密度を示す。例1に比
べ、例2はさらに低C、例3,4は低Mn、例5は低A
lであり、より高い磁気特性を示す。例6〜8は500
mm、例9は40mm、例10は5mmに仕上げたもので、高
磁束密度である。
【0031】例11はCが高く低磁気特性値となってい
る。例12はSiが低く、固有抵抗値が低くなってい
る。例13はSiが高く、例14はMnが高く、例15
はSが高く、例16はAlが高く、例17はNが高く、
例18はOが高く、例19はHが高く、それぞれ上限を
超えるため低磁気特性値となっている。例20は加熱温
度が上限を超え低磁束密度となっている。例21は加熱
温度が下限をはずれているため、低磁束密度となってい
る。例22は800℃以下の圧下率が下限をはずれ低磁
束密度となっている。例23は最大形状比が下限をはず
れ、例24は脱水素熱処理温度が下限をはずれ、例25
は焼鈍温度が下限をはずれ、例26は脱水素熱処理がな
いため低磁束密度となっている。
【0032】
【発明の効果】本発明は、適切な成分限定により板厚の
厚い厚鋼板に均質な高電磁特性を具備せしめることに成
功し、直流磁化による磁気特性を利用する構造物に適用
可能としたものであり、かつその製造法も前述の成分限
定と熱間圧延後結晶粒調整及び脱水素熱処理を同時に行
なう方式であり、極めて経済的に製造する方法を提供す
るもので産業上多大な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】5Oeにおける磁束密度に及ぼす800℃以下
の圧下率の影響を示すグラフである。
【図2】5Oeにおける磁束密度に及ぼすC含有量の影
響を示すグラフである。
【図3】固有抵抗値に及ぼすSi含有量の影響を示すグ
ラフである。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C :0.01%以下、 Si:0.1〜4.0%、 Mn:0.20%以下、 S :0.010%以下、 Al:0.040%以下、 N :0.004%以下、 O :0.005%以下、 H :0.0002%以下、 残部実質的に鉄からなる鋼組成の鋼片または、鋳片を9
    50〜1150℃に加熱し、800℃以上で圧延形状比
    Aが0.6以上の圧延パスを1回以上はとる圧延を行な
    い、引き続き800℃以下で圧下率を35%超70%以
    下とする圧延を行ない、板厚50mm以上の厚板とし、該
    厚板を600〜750℃脱水素熱処理を行なことを
    特徴とする中磁場での磁気特性が高く、かつ、高い固有
    抵抗値を有する磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製
    造法。 【数1】
  2. 【請求項2】 板厚50mm以上の厚板を脱水素処理後、
    750〜1150℃で焼鈍するかあるいは910〜12
    00℃で焼準することを特徴とする請求項1記載の中磁
    場での磁気特性が高く、かつ、高い固有抵抗値を有する
    磁気特性の優れた無方向性電磁厚板の製造法。
  3. 【請求項3】 重量%で、 C :0.01%以下、 Si:0.1〜4.0%、 Mn:0.20%以下、 S :0.010%以下、 Al:0.040%以下、 N :0.004%以下、 O :0.005%以下、 H :0.0002%以下、 残部実質的に鉄からなる鋼組成の鋼片または、鋳片を9
    50〜1150℃に加熱し、800℃以上で圧延形状比
    Aが0.6以上の圧延パスを1回以上はとる圧延を行な
    い、引き続き800℃以下で圧下率を35%超70%以
    下とする圧延を行ない、板厚50mm未満の厚板とし、該
    厚板を750〜1150℃で焼鈍するかあるいは910
    〜1200℃で焼準することを特徴とする中磁場での磁
    気特性が高く、かつ、高い固有抵抗値を有する磁気特性
    の優れた無方向性電磁厚板の製造法。 【数2】
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