JP2022172242A - 銅粉、それを用いた光造形物の製造方法、および銅による光造形物 - Google Patents

銅粉、それを用いた光造形物の製造方法、および銅による光造形物 Download PDF

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Abstract

【課題】純銅と同等の組成を具備しかつ銅による稠密な光造形物を得ることができる銅粉を提供する。【手段】一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下である銅粉であって、前記一次粒子は、表面に、銅酸化物を含む光吸収層を有し、前記銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下であり、波長1070nmにおける反射率が60%以下である銅粉とする。【選択図】図5

Description

本発明は銅粉に関し、より詳細には、レーザー光などのエネルギー線の照射により三次元形状の造形物を得る金属光造形法に使用される銅粉に関する。
三次元の造形物を簡単に成形することができる三次元造形装置、所謂3Dプリンターの普及が進んでいる。このような三次元造形装置を用いた造形物の製造方法のなかでも、金属造形物を得る方法として金属光造形法が知られている。金属光造形法は、金属粉からなる層の表面に、高エネルギーのレーザー等のエネルギー線を照射して金属粉粒子を焼結ないし溶融固化させ、それを数十ミクロンの層としたものを積層し、繰り返し接合することにより、三次元の造形物を得る方法である。一部の金属種を原料に用いた方法では実用化も進み、Co-Cr合金、チタン合金、マルエージング鋼、ステンレス、ニッケル基超合金などの金属粉を原料として用いた金属光造形法は、得られる造形物の加工精度や製品としての完成度が高く、実用化され始めている。しかしながら、現状の金属光造形法では使用可能な金属種が限られており、得られる金属製品も一定の範囲のものに限られる。
その主な理由として、原料とする金属粉の光吸収性の問題が挙げられる。即ち、金属光造形法は金属粉がレーザー光などのエネルギー線を吸収し加熱されることで、金属粉粒子が焼結ないし溶融固化することを利用している。このため、原料として用いる金属粉は光エネルギーを効率的に吸収できるものであることが必要である。金属光造形法で使用される汎用的なレーザーの波長は近赤外ないし遠赤外領域であり、レーザーの波長域での光吸収率が低い金属(例えば、アルミニウム、金、銀、銅など)は表層部に照射されたレーザー光等から効率良く十分な熱量を受け取ることができないため、得られた金属光造形物の焼結密度が低くなってしまう。また、熱伝導性の高い金属は、レーザー光のエネルギー線を熱として一旦吸収しても、十分な焼結や溶融固化がなされる前に短時間で放熱してしまうため、稠密な金属光造形物を得ることが困難である。さらに銅については、その融点が約1084℃と比較的高いことも、焼結を難しくする要因になっている。そのため銅は、熱伝導性や電気伝導度が高く加工性にも優れた金属であるにもかかわらず、金属光造形法には用いられてこなかった。
また、平均粒径の小さい金属粉を用いると、金属粉からなる層の充填密度を高くできるため、稠密な金属光造形物が得られ易い。しかしながら、平均粒径が特に小さい金属粉では、凝集が生じて金属粉の流動性が大きく低下するため、スキージングにより金属粉からなる層を形成した際に均一な厚さの金属粉からなる層が得られ難くなる。ここでスキージングとは、金属光造形法において、供給された金属粉からなる層の表面にブレードやヘラ、ローラー等を当てて移動させ、金属粉からなる層の表面を平滑にし余剰の金属粉を除去することである。
上記のような問題に対して、特許文献1は銅にクロムおよび珪素を添加した銅合金粉末を金属光造形法に適用することを提案している。また特許文献2は、金属粉に黒鉛粉末を添加することでレーザー光の吸収性を上げ、マイクロクラックの発生を低減することを提案している。また特許文献3は、銅合金等の金属粉の表面を粗化処理し、その後さらにスパッタリング等の処理を行うことにより、レーザー吸収性に優れた金属粉が得られることを提案している。
特開2016-211062号公報 特開2008-81840号公報 国際公開第2018/062527号
しかしながら、銅粉に他の材料が添加され銅合金粉になると、得られる造形物の銅本来の特性、例えば、導電性や熱伝導性、加工性や純銅と同等の金属色が損なわれてしまうことが多い。このため銅粉の光吸収性を上げるために、例えば他の材料の含有量を高くしてしまうと、得られる光造形物においては銅本来の特性が損なわれ、目標とする純銅と同等の組成を具備した造形物が得られないことになる。
したがって本発明の目的は、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な銅による光造形物を得ることができる銅粉を提供することである。
本発明の発明者らは、銅粉を構成する銅粒子(一次粒子)の表面に、特定の量の銅酸化物を含む光吸収層を設けて銅粒子の反射率を下げることにより、純銅と同等の組成を具備しつつ、稠密な光造形物が得られるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。なお本明細書において、「銅粒子」とは純銅の一次粒子を示し、「銅粉」とは銅粒子の二次粒子を含めて、銅粒子が複数個集まったものを示すこととする。
本発明による銅粉は、
一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下である銅粉であって、
前記一次粒子は、表面に、銅酸化物を含む光吸収層を有し、
前記銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下であり、
波長1070nmにおける反射率が60%以下である。
本発明によれば、銅粉を構成する銅粒子の表面に、銅粉全体に対する酸素含有量が一定量以下となるように銅酸化物を含む光吸収層を設けて銅粒子の反射率を下げることにより、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な光造形物を得ることができる銅粉を実現できる。
粉体流動性分析装置の通気試験モードを説明するための概略図。 トータルエネルギー値を求めるための説明図。 粉体流動性分析装置のせん断試験モードを説明するための概略図。 Cohesion値を求めるための説明図。 実施例3の光造形物断面の光学顕微鏡写真(25倍)。 比較例1の光造形物断面の光学顕微鏡写真(25倍)。
本発明の銅粉は、一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下であり、銅粉を構成する一次粒子は、表面に、銅酸化物を含む光吸収層を有し、銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下としたものである。本発明においては、銅粉を構成する一次粒子がその表面に、銅粉全体に対する酸素含有量が一定量以下となるような銅酸化物を含む光吸収層を有することによって、波長1070nmにおける銅粉の反射率を60%以下とすることができる。こうして原料の銅粉の光吸収率を向上させた処理銅粉とすることで、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な造形物を得ることができる。
即ち、銅は、平板の銅板の光吸収率が、金属光造形法において使用される一般的なYbファイバーレーザー光の波長領域(1030nm以上1070nm以下)で数%程度であり、レーザー光の光を吸収しにくい性質を持つ金属である。また熱伝導度もチタン、鉄、ニッケル等と比較して非常に高いため、そのままではレーザー光の照射によって加熱することが容易でない。そこで本発明のように、波長1070nmにおける銅粉の反射率が60%以下となるような光吸収層として、銅粉全体に対する酸素含有量が特定範囲内にある銅酸化物層を銅粒子の表面に設けることにより、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な光造形物を得ることができる。
なお本明細書において「平均粒径D50」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法等によって測定される累積体積50容量%における体積累積粒径D50値を意味する。また「反射率」とは、積分球ユニットを備えた分光光度計を用いて測定される分光反射率を意味し、特定波長の光に対して測定された被測定面(銅粉)における全反射光量をもとに、分光反射率等が既知の標準反射板(例えば硫酸バリウム標準反射板)の特定の波長領域における全反射光量を基準として算出された比率を意味する。通常使用されている銅粉は、波長1070nmにおける反射率が70%~80%程度である。本発明においては、銅粒子の表面に、銅酸化物を含む光吸収層を設けて、反射率を60%以下となるようにしたものである。以下、本発明の銅粉について詳細に説明する。
光吸収層を形成する前の銅粉としては、一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下のものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、ヒドラジン等の各種の還元剤を用い、酢酸銅や硫酸銅などの銅化合物を湿式で還元することで銅粉を得ることができる。また銅の溶湯を用い、アトマイズ法によっても銅粉を得ることができる。
銅粒子の形状は特に制限されるものではないが、金属光造形法に使用する場合、スキージングによって粉体の充填密度の高い銅粉体層を形成する観点からは、球状に近い形状であることが好ましい。そのため、アトマイズ法によって得られた銅粉を使用することが好ましい。アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法と水アトマイズ法が挙げられるが、銅粒子をより球状に近いものとするならばガスアトマイズ法が好ましい。
上記のようにして得られる銅粉は、銅粒子の大きさを揃えるために必要に応じて分級することができる。 この分級は、目標とする平均粒径のものとなるように、適切な分級装置を用いて、得られた銅粉から粗粉や微粉を分離することにより容易に実施することができる。
上記のようにして得られた銅粉は、一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下のものを使用する。一次粒子の平均粒径が上記範囲にある銅粉を使用することで、光造形物を製造する際に充填密度の高い銅粉体層を形成できるとともに、銅粉を焼結した後の造形物の焼結密度も高くすることができる。近年の金属光造形法では、より精細な光造形物が求められる傾向にあり、また銅粉の流動性を確保するため、使用する銅粒子の平均粒径は、8μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることより好ましく、15μm以上50μm以下であることが特に好ましい。
また、本発明による銅粉は、一次粒子の体積累積粒径D90が10μm以上であることが好ましい。一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下で、かつ体積累積粒径D90が10μm以上であるような銅粉とすることにより、光造形法により銅粉を用いて光造形物を製造する際のスキージング工程において、均一な厚みの銅粉層を形成し易くなる。また、本発明による銅粉は、一次粒子の体積累積粒径D10が5μm以上40μm以下であることも、黒化処理時の過剰な反応を抑制しつつ粉末の流動性を確保する観点から好ましい。なお一次粒子の体積累積粒径D90とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法等によって測定される累積体積90容量%における体積累積粒径D90値を意味し、一次粒子の体積累積粒径D10とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法等によって測定される累積体積10容量%における体積累積粒径D10値を意味する。
本発明においては、銅粉の一次粒子のアスペクト比が2以下であることが好ましい。このような真球形状に近い銅粉とすることにより、上述したスキージング工程において均一な厚みの銅粉層を形成し易くなる。なおアスペクト比とは、銅粉を、例えば走査型電子顕微鏡等を用いて観察し、倍率1,000倍または3,000倍のSEM画像により、粒子100個について各粒子の長径と短径を測定し、長径を短径で除した値を平均した値をいうものとする。
次に、上記した銅粒子の表面に銅酸化物を含む光吸収層を形成する方法について説明する。本発明の一実施態様では、上記のようにして得られた銅粒子の表面に、銅酸化物を含む光吸収層を設ける。本発明の発明者らは、銅粒子の表面に、銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下となるように銅酸化物を含む光吸収層を設けることにより、銅粉の波長1070nmにおける反射率を60%以下とすることができ、その結果、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な光造形物が得られることを見出した。また、銅粒子の表面に、銅粉全体に対する酸素含有量が上記範囲内となるような銅酸化物を含む光吸収層を設けることにより、この光吸収層が銅粉の流動性を向上させることができることも判明した。
即ち、銅粒子は上記したとおり純銅のままでは波長1070nmにおける反射率が70~80%と高いものの、銅粒子の表面に銅酸化物を含む光吸収層を設けることにより光吸収性が増し、波長1070nmにおける反射率を60%以下とすることができる。銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%未満であると波長1070nmにおける反射率を60%以下とすることができず、稠密な光造形物を得ることができず、一方、2.2質量%を超えると、銅粉中の銅酸化物の割合が高くなるため金属銅が本来有している諸特性(高い導電性および熱伝導性など)を呈しにくくなるため好ましくない。なお銅粉全体に対する酸素含有量は、酸素ガス分析等により算出することができる。銅粉全体に対する酸素含有量の好ましい範囲は0.08質量%以上2.2質量%以下であり、より好ましい範囲は0.1質量%以上2.0質量%以下である。銅粉全体としての波長1070nmにおける反射率は、銅粉全体に対する酸素含有量にもよるが、純銅本来の性質を損なわない観点から10%以上とし、また銅粉の加熱され易さからは35%以下とすることが好ましい。
本発明による銅粉は、銅粉全体に対する酸素含有量(質量%)を銅粉のBET比表面積(m/g)で除した値が4.0質量%・g/m以下であることが好ましく、より好ましくは1.0質量%・g/m以上4.0質量%・g/m以下であり、特に好ましくは1.5質量%・g/m以上3.5質量%・g/m以下である。酸素含有量を銅粉のBET比表面積で除した値が大きすぎると、銅粉の波長1070nmにおける反射率が低下して光吸収率が向上して銅による稠密な光造形物が得られるものの、純銅と同等の組成を有する光造形物が得られ難くなる傾向にある。即ち本発明者らは、銅粉の酸素含有量をBET比表面積で除した値が、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な銅による光造形物を得るための一つの指標となることを見出したものである。BET比表面積は、例えばマイクロトラック・ベル社製BELSORP-MR6を用いて、BET一点法により測定することができる。
上記のようにして形成された銅酸化物を含む光吸収層において、銅酸化物はCuOおよびCuOを含む。銅酸化物中のCuOおよびCuOの割合は、XPS分析によりの測定することができる。具体的にはX線光電子分光法により測定されるCu2p2/3のピークを、CuOとCu及びCuOのピークに波形分離し、それぞれのピーク面積比から、全体を100%としたときのCuOおよびCuOの割合を算出する。このCuOの割合は20%以上99%以下であることが好ましい。CuOの割合が上記の範囲にあれば、光吸収層表面の微細な凹凸により摩擦力が低減し、銅粉の流動性が高くなる。
さらに本発明においては、銅粒子の表面に銅酸化物からなる光吸収層を形成することにより、銅粉が経時変化しにくいものとすることができる。即ち、金属銅は空気や湿気により極めて酸化され易く、保管中に粉体物性が変動し易いことが知られている。同一ロットの金属銅粉を使用していても、保管によって銅粉の特性が経時変化してしまうため、所望の物性を有する光造形物が得られなくなる可能性がある。これを抑制するため金属銅粉の表面に銅酸化物等からなる光吸収層を設けることで、大気や湿気との酸化反応の進行を制御することができ、その結果、より安定的に光造形物を得ることができる。
銅酸化物を含む光吸収層を形成する方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば銅粉を、酸素雰囲気下で酸化させる方法、FeまたはCuイオン含有溶液、塩化物イオンなどのハロゲンイオン含有溶液、過酸化水素などの溶液に浸漬して、銅表面を酸化させる方法、あるいは、ハロゲンガスで処理する方法などが知られている。形成する光吸収層の均質性や層厚の制御のし易さの観点からは、次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、ペルオキソ二硫酸と水酸化ナトリウムの混合水溶液等を用いて銅粉の表面に銅酸化物からなる層(光吸収層)を形成する方法を選択することが好ましい。具体的には、次亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液、または亜塩素酸塩と水酸化ナトリウムの混合水溶液に銅粉を浸漬することで、銅粉表面に銅酸化物からなる層を形成することができる。
銅酸化物を含む光吸収層の平均厚さは20nm以上1300nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上1000nm以下である。但し上記した範囲内の平均厚さを有する銅酸化物を含む光吸収層の厚さは、使用する銅粉一次粒子の平均粒径D50の30%以下であることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。銅酸化物を含む光吸収層の平均厚さは、上記した溶液の濃度や処理条件(時間、温度)によって調整することができる。銅酸化物を含む光吸収層の平均厚さが1300nmを超えると、あるいは銅粉一次粒子の平均粒径D50の30%を超えると、銅粉の光吸収性は増すものの一次粒子の凝集体が形成され易くなり、従って銅粉の流動性が低下する。また、銅粉全体に占める酸素の割合が多くなるため、得られる光造形物が、金属銅が本来有している諸特性(高い導電性および熱伝導性など)を呈しにくくなる。なお本明細書において、光吸収層の平均厚さは、X線光電子分光(XPS)法およびイオンエッチングを併用した深さ方向分析によって評価することができ、具体的にはJIS K 0146に準拠した方法により測定されたSiO換算深さを意味する。
本発明の銅粉は、純銅であって、一次粒子(銅粒子)の平均粒径D50が1μm以上100μm以下の銅粉である。当該銅粉には上記したような銅酸化物を含む光吸収層が表面に形成されているため、三次元造形装置のレーザー光を効率的に吸収でき、その結果、純銅と同等の組成を具備し、かつ稠密な光造形物を得ることができる。また本発明においては、銅粒子の表面に上記したような銅酸化物を含む光吸収層を形成することにより銅粉の流動性が向上するため、造形物を製造する際のスキージングが容易となり、厚み方向に均一な分布をした銅粉からなる層を準備することができる。本発明の銅粉は、金属光造形法により適したものとするために、銅粉の流動度を5秒/50g以上30秒/50g以下とすることができる。なお本明細書において、流動度とはJIS Z 2502に準拠して測定された値を意味する。
銅粉の流動特性は、粉体流動性分析装置、例えばパウダーレオメーター(FT4、freeman technology製)を用いて評価することができる。粉体流動性分析装置には数種類の測定モードがあるが、通気試験モードとせん断試験モードの2種類の試験を行い銅粉の動的流動性評価を評価することができる。通気試験モードでは、図1に示すように、粉体に鉛直方向下方より所定の流量で通気を行いながら、粉体中をブレード(回転翼)がらせん状にH1の高さからH2の高さに回転しながら移動することで測定される回転トルクと垂直荷重とを用いて動的流動性の測定を行うことができる。測定条件を以下に示す。
ブレード直径:23.5mm
ブレードの先端スピード:100mm/s
容器の体積:25ml(内径25mm)
ブレードの進入角度:-5°
粉体流動性分析装置を用いた通気試験において、通気しないときのトータルエネルギー値をE(mJ)、4mm/sで通気した時のトータルエネルギー値をE(mJ)、銅粉の一次粒子の平均粒径D50をD(mm)、とした場合に、下記式:
F=E/E・1/D
で表される流動性パラメータFが、0.05mm-1以上10mm-1以下であることが好ましく、0.5mm-1以上8mm-1以下であることがより好ましい。
なお、トータルエネルギー値は、図2に示すように垂直荷重と回転トルクを移動距離に応じてプロットした時の面積の積算として得られる。一般的に、粉体の付着凝集性に関する指標として、下記式:
AR=E/E
(式中のEおよびEは上記の定義と同じである)
で表される通気指標AR(Aeration Ratio)が知られている。これは通気指標ARが小さいほど、粉体の付着凝集性が弱いことを示している。また粉体中を通過するガス速度の増加に伴い流動性エネルギーは低下することが知られているが、これは粒子間の接触点の減少による摩擦抵抗の低下による影響がより大きいためである。本発明の発明者らは、銅粒子の平均粒径が大きくなると同一体積当たりの接触点が少なくなる結果、同じ付着凝集性を有している銅粉であっても、通気指標ARも小さくなる傾向があることを見出した。そして通気指標ARを銅粒子の平均粒径で規格化することにより、銅粒子が異なる平均粒径を有する銅粉であっても、銅粉の付着凝集性を評価することができるとの知見を得た。上記した流動性パラメータFは、通気指標ARの逆数を銅粉一次粒子の平均粒径D50で除したものであり銅粉の付着凝集性を評価する際の指標となるものと考えられる。
一次粒子である銅粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下の範囲にある銅粉では、流動性パラメータFは10mm-1を超えているが、銅粒子の表面に上記したような銅酸化物を含む光吸収層を設けることにより、流動性パラメータFが10mm-1以下に低減されるものと考えられる。その理由は明らかではないが、光吸収層表面に形成された微細な凹凸が存在することで摩擦力が低減するためであると推察される。なお、Eを計測するときの通気量は、特に制限されるものではないが、ここでは4mm/sとした。
せん断試験モードでは、図3に示すように、粉体に所定の垂直応力に保持したせん断冶具を押し付け、回転方向に応力を付与した時のせん断応力を測定する。測定条件を以下に示す。
せん断冶具直径:23.5mm
せん断速度:18°/min
容器の体積:10ml(内径25mm)
垂直荷重:1.00kPa,1.25kPa,1.50kPa,1.75kPa,2.00kPa
粉体流動性分析装置を用いて、せん断試験モードで測定した、垂直応力が0kPaのときのせん断応力が、0.01kPa以上0.3kPa以下であることが好ましく、0.05kPa以上0.25kPa以下であることが好ましい。ここでせん断応力とは、一定の垂直応力下で回転する方向に粉体に応力を付与した際に、降伏応力に達して粉体が流動し始める際の応力を意味する。垂直応力が0kPaのときのせん断応力を粒子間の付着力として求めることができ、この付着力はCohesion値と呼ばれている。Cohesion値は、図4に示すように、各垂直応力下で測定されるせん断応力をプロットし、外挿することにより求められる。金属光造形法において、高品質な造形物を得るために、粉体をより均質かつ安定的にスキージングすることが求められており、これを達成するためには粉体粒子どうしの付着力が弱く、容易に流動することが重要となる。即ち、粉体流動性分析装置を用いて測定されるCohesion値が上記せん断応力の範囲内にあるような銅粉とすることにより、金属光造形法におけるスキージングを容易に行うことができるようになり、その結果、密度がより高く、かつ、より精密な形状の造形物を得ることができる。
上記したような銅粉を用いて、銅による光造形物を得る方法について説明する。先ず造形用ステージに銅粉を供給し、スキージング用ブレードを用いて粉体表面をスキージングすることで所定の厚さの銅粉層を形成する(工程1)。なお特に本発明におけるスキージングとは、金属光造形法において供給された金属粉からなる層の表面にブレードやヘラ、ローラー等を当てて移動させ、金属粉からなる層の表面を平滑にし、余剰の金属粉を除去することである。次いで、レーザー光等の光ビームを銅粉層上部の任意の位置に照射する。この照射位置は、造形したい物品の三次元CADデータに基づいて作成された断層平面図から定めることができる。光ビームが照射された位置にある複数の銅粒子どうしが焼結または溶融固化し、第1層が形成される(工程2)。続いて、第1層の厚さに相当する深さ分だけ、造形用ステージの位置を移動させる(工程3)。この工程1~工程3を繰り返し、第1層に第2層、第3層と複数の層を順に積層させて、銅による光造形物が製造される。このような金属光造形装置には、光ビームとして赤外線レーザーが一般的に搭載されており、波長が1064nmの赤外線を含む波長帯域である固体レーザー、950nm以上1900nm以下の波長帯域のファイバーレーザー、10.6μmの波長帯域のCOレーザー等が使用されている。ファイバーレーザーのガラスコアへの増幅媒質としては、Yb(1030nm以上1070nm以下)、Nd(約950nm)、Tm(約1900nm)、Er(約1550nm)等の希土類元素が一般的である。本発明の銅粉は波長1070nmにおける反射率が60%以下であることから、中心波長が1070nmのYb添加ファイバーレーザーを使用することが好ましい。レーザーの照射モードはビーム品質や集光性の違いがあるものの、シングルモードとマルチモードのどちらでもよい。また上記造形方法はあくまで光造形法を用いた場合の一例であり、これに限られるものではない。
上記のようにして銅粉から得られた光造形物は稠密なものである。そのため、機械強度の高い、銅による光造形物を得ることができる。例えば、JIS Z 2244に準拠して測定されるビッカース硬度(Hv)が80Hv以上300Hv以下であるような銅による光造形物を得ることができる。また銅酸化物を含む光吸収層を銅粒子が備える場合であっても、銅による光造形物全体に占める銅酸化物の割合はごく僅かであるため純銅と同等の組成を有し、銅による光造形物は金属銅本来の特性(高い導電性および熱伝導性など)を具備することができる。具体的には、本発明の銅粉を用いることにより、酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下である純銅と同等の組成を具備し、かつ銅による稠密な光造形物を得ることができる。本発明の光造形物は、銅粉以外の材料が含まれることを排除するものではないが、光造形物における銅の純度は、97.8質量%以上であることが好ましく、98.5質量%以上であることがより好ましく、99.0質量%以上であることがさらに好ましい。
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<銅粉の準備>
ガスアトマイズ法により製造した下記3種類の銅粉を準備した。
銅粉1:MA-C15、三井金属鉱業株式会社製(一次粒子の平均粒径D50:15μm、D90:25μm)
銅粉2:MA-CHS、三井金属鉱業株式会社製(一次粒子の平均粒径D50:33μm、D90:53μm)
銅粉3:MA-CNS、三井金属鉱業株式会社製(一次粒子の平均粒径D50:64μm、D90:86μm)
<光吸収層の形成>
亜塩素酸ナトリウム(BO-200A、マクダーミッド・パフォーマンス・ソリューションズ・ジャパン株式会社製)を40体積%と、水酸化ナトリウム(BO-200B、マクダーミッド・パフォーマンス・ソリューションズ・ジャパン株式会社製)を15体積%と無機塩(BO-200C、マクダーミッド・パフォーマンス・ソリューションズ・ジャパン株式会社製)を4体積%と純水41体積%とを含む混合液を調製した。準備した銅粉1~3のそれぞれを、濃度が0.25kg/Lとなるように調製した混合液に全量が浸漬されるようにし、撹拌羽根を用いて物理撹拌を行った。処理条件は、表1に示した温度および時間とした。撹拌後、混合液を濾過することにより銅粉を分離し、十分に水洗した銅粉を常温で12時間放置した後、窒素雰囲気下、140℃で乾燥することにより、光吸収層が形成された実施例1~8および比較例1~5の銅粉(以下、処理銅粉という)を得た。
なおこれらの処理銅粉のうち、比較例5の処理銅粉は、国際公開第2018/062527号に記載されている実施例13の銅粉と同一の条件で処理を行ったものであるが、国際公開第2018/062527号に記載されている実施例13の銅粉と同一の条件で銅粉の処理を行うと、銅粉と処理液とが激しく反応し発泡が著しく粗化処理が実施できなかったため、処理条件を硫酸20g/Lおよび過酸化水素10g/Lの水溶液を30℃に保持して5分間浸漬する条件に変更して行った。しかしこの粗化処理条件の変更は、銅粉表面の酸化量や黒化処理の反応にはほとんど影響しないと考えられるため、国際公開第2018/062527号に記載されている実施例13の銅粉と同等の粗化処理であるとみなすことができる。また粗化処理した後の光吸収層形成は、国際公開第2018/062527号に記載されている実施例13と同様に二段階浸漬処理により行い、処理銅粉を製造した。
銅粉1~3および上記のようにして得られた各処理銅粉の諸特性を下記のようにして測定した。
(1)反射率
銅粉1~3および各処理銅粉の反射率は、分光光度計(U-4100、株式会社 日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、銅粉を凹型のホルダーに充填し、石英カバーガラスで封じて、波長を1070nmとして積分球法により測定した。
(2)アスペクト比
銅粉1~3および各処理銅粉を走査型電子顕微鏡(XL-30FEG、日本FEI社製)により観察し、倍率1,000倍または3,000倍のSEM画像により、粒子100個について各粒子の長径と短径を測定し、長径を短径で除した値の平均値を算出し、アスペクト比を求めた。
(3)酸素含有量
銅粉1~3および各処理銅粉、並びにこれらの粉体を用いて製造された造形物の酸素含有量(質量%)を、酸素分析装置(EMGA-820ST、堀場製作所株式会社製)を用いて、He雰囲気中で加熱溶融することで測定した。
(4)BET比表面積
銅粉1~3および各処理銅粉のBET比表面積を、マイクロトラック・ベル社製BELSORP-MR6を用いてBET一点法で測定した。
(5)耐酸化性
処理銅粉の耐酸化性を評価するため、銅粉2、および銅粉2を処理した処理銅粉を用いて常温常湿環境下での保管試験を行った。試験は平均室温22℃(範囲20.5~24.5℃)、平均湿度55%(範囲26~74%)の環境下で20日間、銅粉ないし各処理銅粉をそれぞれ蒸発皿に載せて保管した後、酸素分析装置を用いて上記と同様にして酸素含有量(質量%)を測定した。耐酸化性は、保管前後での酸素含有量の差を保管前の酸素含有量で除した値を100分率で表した増加率で評価した。増加率が低いほど耐酸化性が高いことを表す。
(6)光吸収層の厚さ
X線光電子分光(XPS)法およびイオンエッチングを併用した深さ方向分析装置(Quantum2000、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、励起線源をモノクロAl-Kα線(hν=1486.7eV)とし、検出器と試料台との角度を45度とし、解析ソフトとしてアルバック・ファイ製MultiPak9.0を使用し、JIS K 0146に準拠して光吸収層の厚さを測定した。より具体的には7.7nm/分(SiO換算)の速度でイオンエッチングを行いながらXPS分析を行い、金属銅及び銅酸化物に由来するCuLMM線のピーク(540eV以上610eV以下に現れるピーク)を内部標準試料を用いてそれぞれのピークを分離した。即ち酸化物由来のCuLMMメインピーク(570eV以上571eV以下)と金属由来のCuLMMメインピーク(568eV以上569eV以下)とに分離(バックグラウンドモード:Shirley)し、酸化物由来のCuLMMの信号強度が50%の位置のエッチング深さを光吸収層の平均厚さとした。また、XPSのCu2p2/3のメインピーク(930eV以上940eV以下に現れるピーク)を、CuO(933.0eV以上937.0eV以下)とCu及びCuO(930.0eV以上933.0eV以下)のピークに波形分離(バックグラウンドモード:Shirley)し、それぞれのピーク面積比からCuOおよびCuOの比率(%)を算出した。
(7)流動性
パウダーレオメーター(FT4、freeman technology製)を用いて、せん断応力測定モードにてCohesion値の測定を行った。測定方法は上述した通りである。また通気試験モードにて、通気しないときのトータルエネルギー値E(mJ)、および4mm/sで通気した時のトータルエネルギー値E(mJ)を測定した。得られたEおよびEの値と、銅粉の平均粒径Dとから、F=E/E・1/Dで表される流動性パラメータFを算出した。
さらに、流動度測定器(筒井理化学器械株式会社)を用いて、各粉体ごとに50gをロートに投入し、JIS Z 2502に準拠した方法により、粉体の流動度(秒)の測定を行った。上記(1)~(5)の測定結果は表1に示すとおりであった。なお表1中に示すとおり、実施例6で用いた処理銅粉、並びに比較例1および比較例2で用いた銅粉は、流動度測定の際にロートから落下する際に引っかかりがあり、ロートに投入した粉体(銅粉または処理銅粉)の全部が落下しなかった(なお、粉体の全部が落下しなかったものは、表1中、「×」と表記した)。
(8)粉末敷度
銅粉のスキージング性能を評価するため、平滑なガラス基板上に薬さじ一杯の銅粉を載置し、アプリケーター(日本シーダーサービス社製ベーカー式アプリケーター)を用いて、ガラス基板とアプリケーターとのギャップを100μmに設定し、手動で円筒形アプリケーターを15cm移動させて、銅粉をガラス基板上に拡げた。ガラス基板上に敷拡された銅粉の形状を写真撮影し、二値化することにより敷拡された銅粉の面積を測定した。撮影面積全体に対する敷拡された銅粉の面積割合(%)を算出し、以下の評価基準により粉末敷度を評価した。
◎:95%以上
○:90%以上95%未満
△:80%以上90%未満
×:80%未満
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
<光造形物の製造>
銅粉2および各処理銅粉のそれぞれを、金属光造形機(LUMEX Avance-25、株式会社松浦機械製作所)を用いて造形した。S50C製ベースプレート(125×125×10mm)を用いて、窒素ガスのフロー下で、レーザー光による単位体積あたりのエネルギー密度を160J/mm、単位面積あたりのエネルギー密度を8J/mm、出力320W、スポット径0.2mm、積層ピッチ0.05mm、走査ピッチ0.2mmとした。縦10mm×横10mm×高さ1.8mmの銅による光造形物をベースプレートの中央横一列に、20mmの間隔ごとに3個サンプルを製造した。
なお、表1中の比較例4の処理銅粉は凝集性が強く大きな塊状となり、造形に適切な大きさの処理銅粉が回収できなかった。その結果、所望の焼結層を形成するに至らなかったため、金属光造形機によって光造形物を得ることができなかった。
<光造形物の特性評価>
得られた銅による光造形物の稠密性評価として、光学顕微鏡(25倍)により垂直断面の中央900μm×120μmの領域を観察し、焼結ないし溶融固化した部分(マトリックス領域)と気孔部分(非マトリックス領域)との2領域に分割し、焼結ないし溶融固化した部分の面積占有率(%)を算出し、実施例または比較例毎に各3個のサンプルの平均値を求めた。この測定の際、ベースプレート付近で、鉄と銅の合金が生成している領域がみられたが、この領域は算入せず、外観から金属銅特有の光沢を有している領域のみを評価した。
銅による光造形物のビッカース硬度(Hv)はJIS Z 2244に準拠して測定を行った。測定結果は下記の表に示される通りであった。実施例3の光造形物の断面光学顕微鏡写真(25倍)を図5に、比較例1の光造形物の断面光学顕微鏡写真(25倍)を図6に示す。
Figure 2022172242000002

Claims (11)

  1. 銅粉をレーザー光により焼結または溶融固化させて光造形物を製造する際に使用される、一次粒子の平均粒径D50が1μm以上100μm以下である銅粉であって、
    前記一次粒子は、表面に、銅酸化物を含む光吸収層を有し、
    前記銅粉全体に対する酸素含有量が0.05質量%以上2.2質量%以下であり、
    波長1070nmにおける反射率が60%以下であり、
    前記光吸収層の平均厚さが、20nm以上1300nm以下であり、かつ前記一次粒子の平均粒径D50の30%以下である、銅粉。
  2. 前記一次粒子のアスペクト比が2以下である、請求項1に記載の銅粉。
  3. 前記銅粉全体に対する酸素含有量(質量%)を、前記銅粉のBET比表面積(m/g)で除した値が、4質量%・g/m以下である、請求項1または2に記載の銅粉。
  4. 粉体流動性分析装置を用いて、通気試験モードで測定した通気しないときのトータルエネルギー値をE(mJ)、4mm/sで通気したときのトータルエネルギー値をE(mJ)、銅粉の一次粒子の平均粒径D50をD(mm)、
    とした場合に、下記式:
    F=E/E・1/D
    で表される流動性パラメータFが、10(mm-1)以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の銅粉。
  5. 前記流動性パラメータFが、0.05(mm-1)以上10(mm-1)以下である、請求項4に記載の銅粉。
  6. JIS Z 2502に準拠して測定された流動度が5秒/50g以上30秒/50g以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の銅粉。
  7. 前記一次粒子の平均粒径D50が50μm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の銅粉。
  8. 前記一次粒子の平均粒径D50が8μm以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の銅粉。
  9. 前記一次粒子の体積累積粒径D90が10μm以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の銅粉。
  10. 請求項1~9のいずれか一項に記載の銅粉をレーザー光により焼結または溶融固化させる工程を含む、銅による光造形物の製造方法。
  11. 前記レーザー光が、Yb添加ファイバーレーザーである、請求項10に記載の銅による光造形物の製造方法。
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