JP2022085514A - 炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束、それらの製造方法、及び炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束、それらの製造方法、及び炭素繊維束の製造方法 Download PDF

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Abstract

【要約】【課題】耐炎化処理によって繊維強度が十分に向上し、耐炎化処理時における糸切れの発生が抑制される炭素繊維前駆体繊維束を提供すること。【解決手段】アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、前記炭素繊維前駆体繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexであることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束。【選択図】なし

Description

本発明は、炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束、それらの製造方法、及び炭素繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維の製造方法としては、従来から、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる炭素繊維前駆体に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が主として採用されている(例えば、特公昭37-4405号公報(特許文献1)、特開2015-74844号公報(特許文献2)、特開2016-40419号公報(特許文献3)、特開2016-113726号公報(特許文献4))。この方法に用いられるポリアクリロニトリルは安価な汎用溶媒に溶解しにくいため、重合や紡糸の際に、ジメチルスルホキシドやN,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
また、特開2013-103992号公報(特許文献5)には、アクリロニトリル単位96~97.5質量部と、アクリルアミド単位2.5~4質量部と、カルボン酸含有ビニルモノマー0.01~0.5質量部とからなるポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素材料前駆体繊維が記載されている。このポリアクリロニトリル系共重合体は、ポリマーの水溶性に寄与するアクリルアミド単位やカルボン酸含有ビニルモノマー単位を含有するものの、これらの含有量が少ないため、水には不溶であり、重合や成形加工(紡糸)の際に、N,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
さらに、ポリアクリロニトリルやその共重合体に加熱処理を施すと、急激な発熱が起こり、ポリアクリロニトリルやその共重合体の熱分解が加速されるため、炭素材料(炭素繊維)の収率が低くなるという問題があった。このため、ポリアクリロニトリルやその共重合体を用いて炭素材料(炭素繊維)を製造する場合には、耐炎化処理や炭化処理の昇温過程において、急激な発熱が発生しないように、長時間をかけて徐々に昇温する必要があった。
一方、アクリルアミド単位を多く含有するアクリルアミド系ポリマーは水溶性のポリマーであり、重合や成形加工(フィルム化、シート化、紡糸等)の際に、安価で環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができるため、炭素材料の製造コストの削減が期待される。例えば、特開2018-90791号公報(特許文献6)には、アクリルアミド系ポリマーと、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有する炭素材料前駆体組成物、及びそれを用いた炭素材料の製造方法が記載されている。また、特開2019-26827号公報(特許文献7)には、アクリルアミド系モノマー単位50~99.9モル%とシアン化ビニル系モノマー単位0.1~50モル%とを含有するアクリルアミド/シアン化ビニル系共重合体からなる炭素材料前駆体、及びこの炭素材料前駆体と、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有する炭素材料前駆体組成物、並びに、これらを用いた炭素材料の製造方法が記載されている。
また、特開2011-202336号公報(特許文献8)には、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られる凝固糸を、緻密かつ表面が平滑な前駆体繊維を得るために、20~98℃の温度下、1.1~5倍の延伸倍率で一次延伸し、さらに、得られた糸束を乾燥した後、前駆体繊維の緻密性を向上させるために、二次延伸することが記載されている。さらに、特許文献8には、前駆体繊維束に耐炎化処理を施す際に、0.85~1.10の延伸倍率で延伸することによって、得られる炭素繊維の弾性率が向上することも記載されている。
特公昭37-4405号公報 特開2015-74844号公報 特開2016-40419号公報 特開2016-113726号公報 特開2013-103992号公報 特開2018-90791号公報 特開2019-26827号公報 特開2011-202336号公報
しかしながら、従来の炭素繊維束の製造方法では、炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施しても、繊維強度が必ずしも十分に向上せず、耐炎化処理時に糸切れが発生する場合があった。また、得られる炭素繊維束の引張弾性率も必ずしも十分に高いものではなかった。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐炎化処理によって繊維強度が十分に向上し、耐炎化処理時における糸切れの発生が抑制される炭素繊維前駆体繊維束及びその製造方法、また、高い引張弾性率を有する炭素繊維束が得られる耐炎化繊維及びその製造方法、さらに、そのような高い引張弾性率を有する炭素繊維束の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来のアクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束においては、単繊維の断面形状が楕円形状やドッグボーン形状といった円形状以外の断面形状になりやすく、このような円形状以外の断面形状を有する単繊維に耐炎化処理を施しても、単繊維の断面中心部まで酸素や熱が十分に伝わらず、単繊維が十分に耐炎化されないため、繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等により糸切れが発生する場合があること、また、円形状以外の断面形状を有する単繊維に耐炎化処理を施し、さらに、炭化処理を施しても、単繊維の断面中心部まで十分に加熱されないため、炭素繊維束の引張弾性率が十分に向上しないことを見出した。
そこで、本発明者らは、更に鋭意研究を重ねた結果、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に特定の温度条件下で延伸処理を施すことによって、単繊維は断面形状が円形状になりやすく、このような円形状の断面形状を有する単繊維に耐炎化処理を施すと、単繊維の断面中心部まで酸素や熱が十分に伝わり、単繊維が十分に耐炎化されるため、繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが抑制されること、また、円形状の断面形状を有する単繊維に耐炎化処理を施し、さらに、炭化処理を施すことによって、単繊維の断面中心部まで十分に加熱されるため、炭素繊維束の引張弾性率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、前記炭素繊維前駆体繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexであることを特徴とするものである。
また、本発明の耐炎化繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束であり、前記耐炎化繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexであることを特徴とするものである。
さらに、本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に、225~320℃の範囲内の温度下、1.3~100倍の延伸倍率で延伸処理を施して、前記本発明の炭素繊維前駆体繊維束を得ることを特徴とする方法である。このような本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法においては、前記延伸倍率が1.8~30倍であることが好ましい。
また、本発明の耐炎化繊維束の製造方法は、前記本発明の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施して、前記本発明の耐炎化繊維束を得ることを特徴とする方法である。
さらに、本発明の炭素繊維束の製造方法は、前記本発明の耐炎化繊維束に炭化処理を施すことを特徴とする方法である。
なお、本発明において、「長手方向に対して直交方向の断面(以下、単に「断面」ともいう)の形状が円形状である単繊維」には、断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0の円形状(すなわち、真円形状)の単繊維だけでなく、断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0を超え1.3以下の円形状(すなわち、略円形状)の単繊維も包含される。
本発明によれば、耐炎化処理によって繊維強度が十分に向上し、耐炎化処理時における糸切れの発生が抑制される炭素繊維前駆体繊維束を得ることが可能となる。また、このような炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施し、さらに、炭化処理を施すことによって、高い引張弾性率を有する炭素繊維束を得ることが可能となる。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、前記炭素繊維前駆体繊維束においては、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexである。このような本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に、225~320℃の範囲内の温度下、1.3~100倍の延伸倍率で延伸処理を施すことによって製造することができる。
また、本発明の耐炎化繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束であり、前記耐炎化繊維束においては、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexである。このような本発明の耐炎化繊維束は、前記本発明の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施すことによって製造することができる。
さらに、このような本発明の耐炎化繊維束に炭化処理を施すことによって、高い引張弾性率を有する炭素繊維束を得ることができる。
先ず、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー及びアクリルアミド系ポリマー繊維について説明する。
(アクリルアミド系ポリマー)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーとしては、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であっても、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であってもよいが、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、炭素繊維束の引張弾性率が向上し、さらに、炭化収率が向上するという観点から、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体が好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体におけるアクリルアミド系モノマー単位の含有量の下限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、50mol%以上が好ましく、55mol%以上がより好ましく、60mol%以上が特に好ましい。また、アクリルアミド系モノマー単位の含有量の上限としては、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、炭素繊維束の引張弾性率が向上し、さらに、炭化収率が向上するという観点から、99.9mol%以下が好ましく、99mol%以下がより好ましく、95mol%以下が更に好ましく、90mol%以下が特に好ましく、85mol%以下が最も好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量の下限としては、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、炭素繊維束の引張弾性率が向上し、さらに、炭化収率が向上するという観点から、0.1mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が更に好ましく、10mol%以上が特に好ましく、15mol%以上が最も好ましい。また、他の重合性モノマー単位の含有量の上限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、50mol%以下が好ましく、45mol%以下がより好ましく、40mol%以下が特に好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN-アリールメタクリルアミド;ジアセトンメタクリルアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドが挙げられる。これらのアクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのアクリルアミド系モノマーの中でも、水性溶媒又は水系混合溶媒への溶解性が高いという観点から、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、ジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドが特に好ましい。
前記他の重合性モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーが挙げられる。前記シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメタクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメタクリロニトリル等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸の塩としては、前記不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられ、前記ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらの他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性及び炭化収率が向上するという観点からは、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましく、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸及びその塩が好ましく、耐炎化処理時の炭素繊維前駆体繊維束の融着防止性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物がより好ましい。
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の上限としては、特に制限はないが、通常500万以下であり、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性が向上するという観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましく、30万以下がまた更に好ましく、20万以下が特に好ましく、13万以下がまた特に好ましく、10万以下が最も好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の下限としては、特に制限はないが、通常1万以上であり、炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束及び炭素繊維束の強度が向上するという観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上が特に好ましい。なお、前記アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるものである。
また、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーは、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)及び水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)のうちの少なくとも一方に可溶なものであることが好ましい。これにより、アクリルアミド系ポリマーを紡糸する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束及び炭素繊維束を製造することが可能となる。また、前記アクリルアミド系ポリマーに後述する添加成分を配合する場合に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと後述する添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。なお、前記水系混合溶媒中の有機溶媒の含有量としては、前記水性溶媒に不溶又は難溶な前記アクリルアミド系ポリマーが有機溶媒を混合することによって溶解する量であれば特に制限はない。また、このようなアクリルアミド系ポリマーの中でも、より低コストで安全に炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束及び炭素繊維束を製造することが可能となるという観点から、前記水性溶媒に可溶なアクリルアミド系ポリマーが好ましく、水に可溶な(水溶性の)アクリルアミド系ポリマーがより好ましい。
このようなアクリルアミド系ポリマーを合成する方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法によって行う方法を採用することができる。前記重合反応の中でも、前記アクリルアミド系ポリマーを低コストで製造できるという観点から、ラジカル重合が好ましい。また、溶液重合を採用する場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解するものを使用することが好ましく、低コストで安全に製造できるという観点から、前記水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒等)又は前記水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)を使用することがより好ましく、前記水性溶媒を使用することが特に好ましく、水を使用することが最も好ましい。
前記ラジカル重合においては、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、溶媒として前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性の向上と、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、前記重合開始剤に代えて又は加えて、テトラメチルエチレンジアミン等の従来公知の重合促進剤やn-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等の分子量調節剤を用いることが好ましく、前記重合開始剤と前記重合促進剤とを併用することが好ましく、過硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
重合開始剤を添加する際の温度としては特に制限はないが、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性の向上という観点から、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましく、55℃以上が最も好ましい。また、前記重合反応の温度としては特に制限はないが、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が最も好ましい。
(アクリルアミド系ポリマー繊維)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー繊維は、前記アクリルアミド系ポリマーからなるものであり、酸等の添加成分を配合せずに、そのまま炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束及び炭素繊維束の製造に使用することが可能であるが、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、さらに、多環が連続した構造の形成が加速して耐炎化繊維束の引張弾性率が向上するため、耐炎化処理時の炭素繊維前駆体繊維束の融着が更に抑制され、また、炭素繊維束の引張弾性率も向上するという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー繊維には、前記アクリルアミド系ポリマーに加えて、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分が含まれていることが好ましい。また、前記添加成分を含む炭素繊維前駆体繊維束に張力を付与しながら耐炎化処理を施すことによって、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、さらに、多環が連続した構造の形成が加速し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化繊維束が得られる。さらに、本発明によって得られる耐炎化繊維束及び炭素繊維束においては、前記添加成分及びその残渣の少なくとも一部が残存していてもよい。また、耐炎化繊維束に前記添加成分を加えて炭化処理を行ってもよい。
このような添加成分の含有量としては、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、耐炎化処理時の炭素繊維前駆体繊維束の融着が抑制され、さらに、耐炎化繊維束の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上し、また、炭素繊維束の引張弾性率が向上するという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.05~100質量部が好ましく、0.1~50質量部がより好ましく、0.3~30質量部が更に好ましく、0.5~20質量部が特に好ましく、1.0~10質量部が最も好ましい。
前記酸としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、このような酸の塩としては、金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。特に、これらの添加成分のうち、炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において円形状の断面形状を有する単繊維の割合が増大し、また、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上し、さらに、炭素繊維束の引張弾性率が向上するという観点から、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、及びこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、及びこれらのアンモニウム塩が特に好ましい。
また、前記アクリルアミド系ポリマー繊維においては、前記添加成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲内において、塩化ナトリウム、塩化亜鉛等の塩化物、水酸化ナトリウム等の水酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン等の各種フィラーが含まれていてもよい。
前記添加成分は、前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(より好ましくは前記水性溶媒、特に好ましくは水)に可溶なものであることが好ましい。これにより、アクリルアミド系ポリマー繊維を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。また、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。
このようなアクリルアミド系ポリマー繊維は以下のようにして作製(製造)することができる。先ず、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを含有するアクリルアミド系ポリマー組成物を紡糸する。このとき、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を用いて溶融紡糸、スパンボンド、メルトブロー、遠心紡糸してもよいが、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、紡糸性が高まるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に溶解し、得られた水性溶液又は水系混合溶液を用いて紡糸すること、或いは、前述の重合後のアクリルアミド系ポリマーの溶液又は後述する湿式混合で得られるアクリルアミド系ポリマー組成物の溶液をそのまま若しくは所望の濃度に調整した後、紡糸することが好ましい。このような紡糸方法としては、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸、ゲル紡糸、フラッシュ紡糸、又はエレクトロスピニングが好ましい。これにより、所望の繊度及び平均繊維径を有するアクリルアミド系ポリマー繊維を低コストで安全に作製(製造)することができる。また、より低コストで安全にアクリルアミド系ポリマー繊維を製造することができるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することがより好ましく、水を使用することが特に好ましい。
また、前記水性溶液又は前記水系混合溶液における前記アクリルアミド系ポリマーの濃度としては特に制限はないが、生産性向上とコスト低減の観点から、20質量%以上の高濃度が好ましい。なお、前記アクリルアミド系ポリマーの濃度が高くなりすぎると、前記水性溶液又は前記水系混合溶液の粘度が高くなり、紡糸性が低下するため、前記水性溶液又は前記水系混合溶液の濃度を、粘度を指標として、紡糸が可能な濃度に調整することが好ましい。
前記アクリルアミド系ポリマー組成物を製造する方法としては、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマーに前記添加成分を直接混合する方法(溶融混合)、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とをドライブレンドする方法(乾式混合)、前記添加成分を含有する水性溶液又は水系混合溶液、或いは前記アクリルアミド系ポリマーは完全溶解していないが前記添加成分は溶解している溶液に繊維状に成形した前記アクリルアミド系ポリマーを浸漬したり、通過させたりする方法等を採用することも可能であるが、使用する前記アクリルアミド系ポリマー及び前記添加成分が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一に混合することができるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。また、湿式混合としては、前記アクリルアミド系ポリマーの合成に際し、前述の重合を前記水性溶媒中又は前記水系混合溶媒中で行った場合に、重合後等に前記添加成分を混合する方法も採用することができる。さらに、得られる溶液から前記溶媒を除去することによって前記アクリルアミド系ポリマー組成物を回収し、これを前記アクリルアミド系ポリマー繊維の製造に用いることができるほか、前記溶媒を除去することなく、得られる溶液をそのまま前記アクリルアミド系ポリマー繊維の製造に用いることもできる。また、前記湿式混合においては、より低コストで安全に前記アクリルアミド系ポリマー組成物を製造できるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。さらに、前記溶媒を除去する方法としては特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を採用することができる。
本発明においては、このようなアクリルアミド系ポリマー繊維を繊維束として使用する。前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束における1糸条あたりのフィラメント数としては特に制限はないが、耐炎化繊維束及び炭素繊維束の高生産性及び機械特性が向上するという観点から、50~96000本が好ましく、100~48000本がより好ましく、500~36000本が更に好ましく、1000~24000本が特に好ましい。1糸条あたりのフィラメント数が前記上限を超えると、耐炎化処理時に焼成ムラが生じる場合がある。
〔炭素繊維前駆体繊維束及びその製造方法〕
次に、本発明の炭素繊維前駆体繊維束及びその製造方法について説明する。本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に特定の温度条件下で延伸処理を施すことによって得られるものであり、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束である。
本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法においては、前記延伸処理時の温度(最高温度)が225~320℃の範囲内にあることが必要である。延伸処理時の最高温度が前記範囲内にあると、前記延伸処理時に糸切れが起こりにくく、また、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が多く、耐炎化処理により繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが抑制される炭素繊維前駆体繊維束が得られる。一方、延伸処理時の最高温度が前記下限未満になると、前記延伸処理時に糸切れが起こり、また、得られる炭素繊維前駆体繊維束においては、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が少なく、耐炎化処理を施しても繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生する。他方、延伸処理時の最高温度が前記上限を超えると、前記アクリルアミド系ポリマー繊維同士の融着が生じる場合がある。また、前記延伸処理時の温度(最高温度)としては、前記延伸処理時に糸切れが更に起こりにくくなり、また、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が更に多くなり、耐炎化処理により繊維強度が更に向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが更に抑制される炭素繊維前駆体繊維束が得られるという観点から、225~300℃が好ましく、230~295℃がより好ましく、235~290℃が更に好ましく、240~285℃が特に好ましく、245~280℃が最も好ましい。
また、本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法においては、前記延伸処理時の延伸倍率が1.3~100倍の範囲内にあることが必要である。延伸倍率が前記範囲内にあると、前記延伸処理時に糸切れが起こりにくく、また、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が多く、耐炎化処理により繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが抑制される炭素繊維前駆体繊維束が得られる。一方、延伸倍率が前記下限未満になると、得られる炭素繊維前駆体繊維束においては、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が少なく、耐炎化処理を施しても繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生する。他方、延伸倍率が前記上限を超えると、前記延伸処理時に糸切れが起こる。また、延伸倍率としては、前記延伸処理時に糸切れが更に起こりにくくなり、また、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が更に多くなり、耐炎化処理により繊維強度が更に向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが更に抑制される炭素繊維前駆体繊維束が得られるという観点から、1.4~50倍が好ましく、1.5~40倍がより好ましく、1.8~30倍が更に好ましく、2.0~20倍が特に好ましく、3.0~10倍が最も好ましい。
なお、このような延伸倍率は、加熱炉等に導入される前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束の送り速度(導入速度)と加熱炉等から引出される前記炭素繊維前駆体繊維束の送り速度(引出速度)の比(引出速度/導入速度)によって決定することができるほか、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束と前記炭素繊維前駆体繊維束の長さの比(炭素繊維前駆体繊維束の長さ/アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束の長さ)によって決定することもできる。このような延伸倍率は、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束と前記炭素繊維前駆体繊維束の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維束に付与する張力、延伸処理時の温度、アクリルアミド系ポリマー繊維の水分量等を調整することによって制御することができるが、例えば、延伸処理時の温度やアクリルアミド系ポリマー繊維の水分量が同じであっても、アクリルアミド系ポリマーの組成、アクリルアミド系ポリマー繊維における添加成分の有無やその添加量によって延伸倍率が変化するため、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束と前記炭素繊維前駆体繊維束の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維束に付与する張力(重りやバネ等によって制御)を調整することによって、所望の延伸倍率に調節する必要がある。
延伸処理の方法としては特に制限はないが、例えば、所定の温度に加熱した気相中(例えば、所定の温度に加熱した空気や不活性ガスを含む加熱炉(熱風炉を含む)内)で延伸する方法(気中延伸処理)、所定の温度に加熱した熱ローラー等の加熱体を用いる方法(熱延伸処理)、所定の温度に加熱した溶媒中で延伸する方法(湿潤延伸処理)等の公知の延伸手段を採用することができる。これらの延伸処理方法のうち、気中延伸処理、熱延伸処理が好ましい。気中延伸処理の場合、酸化性ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下のいずれの雰囲気下で延伸処理を行ってもよいが、簡便さの観点から、酸化性ガス雰囲気下、特に、空気中で行うことが好ましい。また、本発明においては、前記延伸処理を行った後、後述する耐炎化処理を行うため、耐炎化処理に使用する加熱炉(耐炎化炉)を用いて延伸処理と耐炎化処理とを連続して又は同時に行ってもよい。さらに、前記延伸処理は1段で行っても2段以上で行ってもよい。
本発明においては、このように、所定の温度(最高温度)及び延伸倍率で、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に延伸処理を施すことによって、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%の範囲内にあり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexの範囲内にある、本発明の炭素繊維前駆体繊維束が得られる。
断面形状が円形状の単繊維の割合が前記範囲内にある炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施すことによって、繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが抑制され、また、断面形状が円形状の単繊維の割合が多い耐炎化繊維束が得られる。一方、断面形状が円形状の単繊維の割合が前記下限未満の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施しても、繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生し、また、得られる耐炎化繊維束においては、円形状の断面形状を有する単繊維の割合が少なく、炭化処理を施しても引張弾性率が十分に向上しない。また、断面形状が円形状の単繊維の割合としては、炭素繊維前駆体繊維束の繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが抑制され、また、断面形状が円形状の単繊維の割合が多い耐炎化繊維束が得られるという観点から、35~100%が好ましく、40~100%がより好ましく、50~100%が特に好ましい。
また、前記炭素繊維前駆体繊維束において、単繊維の繊度が前記範囲内にあると、得られる耐炎化繊維束の引張強度及び引張弾性率が向上し、炭化処理時の糸切れを防止することができ、得られる炭素繊維束の引張弾性率が向上する。一方、単繊維の繊度が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる。他方、単繊維の繊度が前記上限を超えると、単繊維の断面中心部までの十分な耐炎化が困難となるほか、前記延伸処理時の延伸による引張弾性率の向上効果が低下する。また、前記単繊維の繊度としては、得られる耐炎化繊維束の引張強度及び引張弾性率が向上し、炭化処理時の糸切れを防止することができ、得られる炭素繊維束の引張弾性率が向上するという観点から、0.15~6dtexが好ましく、0.2~5dtexがより好ましく、0.25~4dtexが特に好ましい。
さらに、本発明の炭素繊維前駆体繊維束において、単繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、1~80μmが好ましく、2~50μmがより好ましく、3~40μmが更に好ましく、4~30μmが特に好ましく、5~25μmが最も好ましい。炭素繊維前駆体繊維束の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる耐炎化繊維束の単繊維において、表層付近と中心付近との間で構造が大きく異なり、得られる炭素繊維束の引張強度や引張弾性率が低下する傾向にある。
また、このような炭素繊維前駆体繊維束には、繊維の集束性、ハンドリングの向上、繊維同士の癒着の防止という観点から、シリコーン系油剤等の従来公知の油剤を付着させてもよい。油剤の付着させる時期は、前記延伸処理の前(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマーからなる繊維束に前記油剤を付着させた後、前記延伸処理を実施する)、前記延伸処理中(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマーからなる繊維束に延伸処理を施しながら前記油剤を付着させる)、前記延伸処理後(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマーからなる繊維束に延伸処理を施した後、得られた炭素繊維前駆体繊維束に前記油剤を付着させる)のいずれでもよい。前記油剤としては、耐熱性を有する油剤(特に、300℃以下の温度では熱分解しにくい油剤)が好ましく、シリコーン系油剤がより好ましく、変性シリコーン系油剤(例えば、アミノ変性シリコーン系油剤、エポキシ変性シリコーン系油剤、エーテル変性シリコーン系油剤、メチルフェニルシリコーン等のアリール基変性シリコーン系油剤)が特に好ましい。これらの油剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、油剤を付着させる際に用いる油剤浴における油剤濃度としては0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。さらに、このようにして油剤を付着させた前記炭素繊維前駆体繊維束は、50~250℃(好ましくは、100~200℃)の温度で乾燥させることが好ましい。これにより、緻密な前記炭素繊維前駆体繊維束が得られる。乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、表面温度が前記範囲内の温度に加熱された熱ローラーを用いて乾燥させる方法が挙げられる。
〔耐炎化繊維束及びその製造方法〕
次に、本発明の耐炎化繊維束及びその製造方法について説明する。本発明の耐炎化繊維束は、前記本発明の炭素繊維前駆体繊維束に酸化性雰囲気下(例えば、空気中)で加熱処理(耐炎化処理)を施すことによって得られるものであり、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束である。前記炭素繊維前駆体繊維束は、前記アクリルアミド系ポリマーを含むものであり、耐炎化処理によって熱分解されにくく、また、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐炎化処理によって耐熱性の高い構造に変換されるため、高い炭化収率を示す。特に、前記添加成分を含有する炭素繊維前駆体繊維束においては、添加成分である酸やその塩の触媒作用により、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されるため、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されやすく、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐熱性の高い構造に変換されやすいため、炭化収率が更に高くなる。
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において、前記耐炎化処理は、200~500℃の範囲内の温度で施されることが好ましく、270~450℃の範囲内の温度で施されることがより好ましく、300~430℃の範囲内の温度で施されることが更に好ましく、305~420℃の範囲内の温度で施されることが特に好ましいが、特に制限はない。なお、このような温度で施される耐炎化処理には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)での耐炎化処理だけでなく、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等における耐炎化処理も包含される。
また、前記耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)としては、前記延伸処理時の温度(最高温度)より高くかつ500℃以下が好ましく、310~450℃がより好ましく、320~440℃が更に好ましく、325~430℃が特に好ましく、330~420℃が最も好ましい。前記耐炎化処理温度が前記下限未満になると、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されず、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されにくいため、生成する耐炎化繊維束の耐熱性が低く、炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、生成する耐炎化繊維束が熱分解される傾向にある。
耐炎化処理時間(前記最高温度での加熱時間)としては特に制限はなく、長時間(例えば2時間超)の加熱も可能であるが、1~120分間が好ましく、2~60分間がより好ましく、3~50分間が更に好ましく、4~40分間が特に好ましい。耐炎化処理における前記加熱時間を前記下限以上とすることにより、炭化収率を向上させることができ、他方、2時間以下とすることにより、コストを低減することができる。
また、本発明の耐炎化繊維束の製造方法においては、前記炭素材料前駆体繊維束に、張力を付与しながら、或いは、張力を付与した後、前記耐炎化処理を施すことが好ましい。これにより、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維束の融着防止性が更に向上し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化繊維束が得られる。前記耐炎化繊維束に付与する張力としては特に制限はないが、0.007~30mN/dtexが好ましく、0.010~20mN/dtexがより好ましく、0.020~5mN/dtexが更に好ましく、0.025~1.5mN/dtexがまた更に好ましく、0.030~1mN/dtexが特に好ましく、0.035~0.5mN/dtexが最も好ましい。前記炭素材料前駆体繊維束に付与する張力が前記下限未満になると、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維束の融着が十分に抑制されず、耐炎化繊維束の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐炎化処理時に糸切れが発生する場合がある。なお、本発明において、前記炭素材料前駆体繊維束に付与する張力(単位:mN/dtex)は、前記炭素材料前駆体繊維束に付与する張力(単位:mN)を、前記炭素材料前駆体繊維束の絶乾状態での繊度(単位:dtex)で除した値、すなわち、前記炭素材料前駆体繊維束の単位繊度当たりの張力である。また、前記炭素材料前駆体繊維束に付与する張力は、耐炎化炉等の加熱装置の入口側、出口側等でロードセル、バネ、重り等によって調整することができる。
さらに、本発明の耐炎化繊維束の製造方法において、前記炭素材料前駆体繊維束に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施す場合、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)において、前記炭素材料前駆体繊維に所定の張力が付与されていれば、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等において張力が付与されていても、付与されていなくてもよいが、張力の付与による効果が十分に得られるという観点から、前記昇温過程等においても張力が付与されていることが好ましい。また、張力は、前記昇温過程等の初期段階から付与されていてもよいし、途中の段階から付与されていてもよい。
また、本発明の耐炎化繊維束の製造方法においては、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)で所定の張力を付与しながら加熱処理を施した後に、前記耐炎化処理温度より高い温度で所定の張力以外の張力を付与しながら又は張力を付与せずに加熱処理を施してもよい。
本発明の耐炎化繊維束の製造方法においては、延伸処理を施しながら耐炎化処理を施してもよい。耐炎化処理時の延伸倍率としては、1.3~100倍が好ましく、1.7~50倍がより好ましく、2.0~25倍が更に好ましく、3.0~10倍が特に好ましい。耐炎化処理時の延伸倍率が前記下限未満になると、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維束の融着が十分に抑制されず、耐炎化繊維束の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐炎化処理時に糸切れが発生する場合がある。
なお、このような延伸倍率は、加熱炉(耐炎化炉)に導入される前記炭素材料前駆体繊維束の送り速度(導入速度)と加熱炉等から引出される前記耐炎化繊維束の送り速度(引出速度)の比(引出速度/導入速度)によって決定することができるほか、前記炭素材料前駆体繊維束と前記耐炎化繊維束の長さの比(耐炎化繊維束の長さ/炭素材料前駆体繊維束の長さ)によって決定することもできる。このような延伸倍率は、前記炭素材料前駆体繊維束と前記耐炎化繊維束の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維束に付与する張力、延伸処理時の温度、アクリルアミド系ポリマー繊維の水分量等を調整することによって制御することができるが、例えば、延伸処理時の温度やアクリルアミド系ポリマー繊維の水分量が同じであっても、アクリルアミド系ポリマーの組成、アクリルアミド系ポリマー繊維における添加成分の有無やその添加量によって延伸倍率が変化するため、前記炭素材料前駆体繊維束と前記耐炎化繊維束の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維束に付与する張力(重りやバネ等によって制御)を調整することによって、所望の延伸倍率に調節する必要がある。
本発明においては、このように、前記炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施すことによって、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%の範囲内にあり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexの範囲内にある、本発明の耐炎化繊維束が得られる。
断面形状が円形状の単繊維の割合が前記範囲内にある耐炎化繊維束に炭化処理を施すことによって、高い引張弾性率を有する炭素繊維束が得られる。一方、断面形状が円形状の単繊維の割合が前記下限未満の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施しても、得られる炭素繊維束においては、引張弾性率が十分に向上しない。また、断面形状が円形状の単繊維の割合としては、高い引張弾性率を有する炭素繊維束が得られるという観点から、35~100%が好ましく、40~100%がより好ましく、50~100%が特に好ましい。
また、前記耐炎化繊維束において、単繊維の繊度が前記範囲内にあると、引張弾性率に優れた炭素繊維束が得られる。一方、単繊維の繊度が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや炭化処理が困難となる。他方、単繊維の繊度が前記上限を超えると、得られる炭素繊維束の引張弾性率が低下する傾向にある。また、前記単繊維の繊度としては、得られる炭素繊維束の引張弾性率が向上し、炭化処理時の糸切れや毛羽立ちの発生が抑制されるという観点から、0.15~6dtexが好ましく、0.2~5dtexがより好ましく、0.25~4dtexが特に好ましい。
さらに、本発明の耐炎化繊維束において、単繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、1~50μmが好ましく、2~40μmがより好ましく、3~30μmが更に好ましく、4~25μmが特に好ましく、5~20μmが最も好ましい。耐炎化繊維束の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや炭化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる炭素繊維束の単繊維において、表層付近と中心付近との間で構造が大きく異なり、引張強度や引張弾性率が低下する傾向にある。
また、本発明の耐炎化繊維束は、赤外吸収スペクトルにおいて、1560~1595cm-1の範囲内に多環構造に由来する吸収ピークを有するものであることが好ましい。このような吸収ピークを有する耐炎化繊維束は耐熱性が高く、炭化収率が高くなる。また、前記耐炎化繊維束においては、1560~1595cm-1の範囲内に見られる吸収ピークの強度(I)と1648cm-1付近に見られるアクリルアミド系ポリマーのアミド基に由来する吸収ピークの強度(I)との比(I/I)が0.1~20であることが好ましく、0.5~10であることが好ましい。I/Iが前記範囲内にある耐炎化繊維束は、耐熱性及び炭化収率が高くなる。
〔炭素繊維束の製造方法〕
次に、本発明の炭素繊維束の製造方法について説明する。本発明の炭素繊維束の製造方法は、前記本発明の耐炎化繊維束に、不活性雰囲気下(窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス中)、前記耐炎化処理における温度よりも高い温度で加熱処理を施す(炭化処理)方法である。これにより、耐炎化繊維束が炭化し、所望の炭素繊維束が得られる。このような炭化処理における加熱温度(最高温度)としては1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましく、1200℃以上が更に好ましく、1300℃以上が特に好ましい。また、加熱温度の上限としては3000℃以下が好ましく、2500℃以下がより好ましく、2000℃以下が更に好ましい。なお、本発明にかかる「炭化処理」には、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000~3000℃で加熱することによって行われる「黒鉛化処理」を含んでいてもよい。前記炭化処理における加熱時間としては特に制限はないが、30秒~60分間が好ましく、1~30分間がより好ましい。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法においては、前記炭化処理の前に、1000℃未満の温度で加熱処理(予備炭化処理)を行うことが好ましい。また、前記予備炭化処理は、前記耐炎化繊維束に延伸処理を施しながら行ってもよい。
さらに、本発明の炭素繊維束の製造方法においては、前記耐炎化繊維束に、前記予備炭化処理を施した後、前記炭化処理を施し、さらに、前記黒鉛化処理を施すといったように、複数回の加熱処理を行うことも可能である。
このようにして得られる炭素繊維束において、単繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、1~50μmが好ましく、2~40μmがより好ましく、3~30μmが更に好ましく、4~25μmが特に好ましく、5~20μmが最も好ましい。炭素繊維束の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、樹脂等をマトリックスとして複合材料を作製する場合に、マトリックスの粘度が高いと炭素繊維束中への樹脂等の含浸不足が生じ、複合材料の引張強度が低下する場合があり、他方、前記上限を超えると、炭素繊維束の引張強度や引張弾性率が低下する傾向にある。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法においては、炭素繊維束の表面を改質し、樹脂との密着性を適正化するために、前記炭素繊維束に電解処理を施すことが好ましい。これにより、前記炭素繊維束は、樹脂との複合材料を形成した場合に、強密着により複合材料が脆性破壊したり、繊維軸方向の引張強度が低下したり、繊維軸方向に垂直な方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、強度特性が繊維軸方向とそれに垂直な方向とにバランスの取れた複合材料が得られる。
前記電解処理に用いられる電解液としては、酸、アルカリ、又はそれらの塩を含有する水溶液が挙げられる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
また、前記電解処理を施した炭素繊維束には、水洗処理を施して前記電解液を除去し、乾燥処理を施した後、樹脂との密着性を向上させるために、サイジング剤を付与してもよい。このようなサイジング剤としては、複数の反応性官能基を有する化合物が好ましい。前記反応性官能基としては特に制限はないが、カルボキシ基や水酸基と反応可能な官能基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。前記サイジング剤において、前記化合物1分子中に存在する前記反応性官能基の個数としては、2~6個が好ましく、2~4個がより好ましく、2個が特に好ましい。前記反応性官能基の個数が1個の場合、前記炭素繊維束と樹脂との密着性が向上しない傾向にあり、他方、前記反応性官能基の個数が前記上限を超えると、前記サイジング剤を構成する化合物の分子間架橋密度が大きくなり、前記サイジング剤により形成される層が脆くなり、前記炭素繊維束と樹脂との複合材料の引張強度が低下する傾向にある。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した各アクリルアミド系ポリマー及び各アクリルアミド系ポリマー繊維は以下の方法により調製した。
(調製例1)
<アクリルアミド/アクリロニトリル共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)75mol%及びアクリロニトリル(AN)25mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水400質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AM/AN共重合体)を得た。
<AM/AN共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN共重合体中のアクリルアミド(AM)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比(AM/AN)を求めたところ、AM/AN=75mol%/25mol%であった。
(調製例2)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)73mol%、アクリロニトリル(AN)25mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水566.7質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。
<AM/AN/AA共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN/AA共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと、約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークと、約179ppm~約182ppmに現れるアクリル酸のカルボニル基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位及びアクリル酸(AA)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比((AM+AA)/AN)を算出した。
また、AM/AN/AA共重合体について、赤外分光分析(IR)を行い、得られたIRスペクトルにおいて、約1678cm-1に現れるアクリルアミド(AM)に由来するピークと、約2239cm-1に現れるアクリロニトリル(AN)に由来するピークと、約1715cm-1に現れるアクリル酸(AA)に由来するピークとの強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AA)を算出した。
前記(AM+AA)/ANと前記AM/AAとからAM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリロニトリル(AN)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AN/AA)を求めたところ、AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%であった。
(調製例3)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成と組成比の測定>
モノマーとして、アクリルアミド(AM)65mol%、アクリロニトリル(AN)33mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部を用いた以外は調製例2と同様にして水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。このAM/AN/AA共重合体の組成比を調製例2と同様にして測定したところ、AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%であった。
(調製例4)
<アクリルアミド単独重合体の合成>
アクリルアミド(AM)100質量部とテトラメチルエチレンジアミン8.78質量部とを蒸留水2912質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム1.95質量部を添加した後、60℃で3時間重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して単独重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド単独重合体(PAM、AM=100mol%)を得た。
(製造例1)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約3dtex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊度及び平均繊維径を以下の方法により測定したところ、繊度は3.3dtex/本であり、平均繊維径は18μmであった。
<アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度>
得られたアクリルアミド系ポリマー繊維を100本束ねてアクリルアミド系ポリマー繊維束(100本/束)を作製し、この繊維束の絶乾時又は120℃で2時間乾燥後の質量を測定して、下記式:
繊維束の繊度[dtex]=繊維束の質量[g]/繊維長[m]×10000[m]
により前記繊維束の繊度を算出し、前記繊維束を構成する単繊維の繊度(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度)を求めた。
<アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径>
前記アクリルアミド系ポリマー繊維束の密度を、乾式自動密度計(マイクロメリティックス社製「アキュピックII 1340」)を用いて測定し、下記式:
D={(Dt×4×100)/(ρ×π×n)}1/2
〔前記式中、Dは繊維束を構成する単繊維の平均繊維径[μm]を表し、Dtは繊維束の繊度[dtex]を表し、ρは繊維束の密度[g/cm]を表し、nは繊維束を構成する単繊維の本数[本]を表す。〕
により前記繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径)を求めた。
<アクリルアミド系ポリマー繊維束の作製>
前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を1500本束ねて繊維束(1500本/束)を作製した。この繊維束の単繊維断面の形状を以下の方法により観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は0%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は100%であった。
<アクリルアミド系ポリマー繊維束の単繊維断面の形状観察>
前記アクリルアミド系ポリマー繊維束の断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-7000」)を用いて観察し、単繊維の断面を無作為に20個抽出した。この20個の単繊維の断面のうち、長径と短径との比が1.0~1.3の円形状の断面の割合(円形状割合)及び長径と短径との比が1.3を超える楕円形状の断面の割合(楕円形状割合)を求めた。
(製造例2)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液にAM/AN共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸を添加して完全に溶解させた。得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約3dtex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は3.8dtex/本であり、平均繊維径は20μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は0%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は100%であった。
(製造例3)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例2で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約6dtex/本、平均繊維径が約25μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例1と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は5.7dtex/本であり、平均繊維径は24μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は0%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は100%であった。
(製造例4)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例2で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約6dtex/本、平均繊維径が約25μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は6.8dtex/本であり、平均繊維径は26μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は0%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は100%であった。
(製造例5)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例3で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約4dtex/本、平均繊維径が約20μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例1と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は4.2dtex/本であり、平均繊維径は21μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は10%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は90%であった。
(製造例6)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例3で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約2dtex/本、平均繊維径が約14μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は2.3dtex/本であり、平均繊維径は15μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は20%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は80%であった。
(製造例7)
リン酸の代わりにAM/AN/AA共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸水素二アンモニウムを添加した以外は製造例6と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は2.0dtex/本であり、平均繊維径は14μmであった。
次に、製造例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊維束(1500本/束)を作製し、単繊維断面の形状を観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は20%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は80%であった。
(製造例8)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例4で得られたPAM(AM=100mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約3dtex/本、平均繊維径が約20μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例1と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-8)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-8)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は4.0dtex/本であり、平均繊維径は20μmであった。
次に、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を1200本束ねて繊維束(1200本/束)を作製した。この繊維束の単繊維断面の形状を、製造例1と同様にして観察したところ、断面が円形状の単繊維の割合(円形状割合)は0%であり、楕円形状の単繊維の割合(楕円形状割合)は100%であった。
(実施例1)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)を、温度260℃の空気雰囲気下、4倍の延伸倍率で延伸して炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)を作製した。
得られた炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)を合糸して12000本/束の前駆体繊維束を作製し、この前駆体繊維束(12000本/束)に、空気雰囲気下、350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間の加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(12000本/束)を作製した。
得られた耐炎化繊維束(12000本/束)を、300℃~800℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中を3分間かけて移動させて加熱処理(予備炭化処理)を行い、次いで、1300℃~1700℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中を3分間かけて移動させて加熱処理(炭化処理)を行い、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例2)
延伸時の温度を250℃に、延伸倍率を2倍に変更し、炭化処理時の温度勾配を1000℃~1350℃の温度勾配に変更した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例3)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例2で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例4)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例3で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例5)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例4で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例6)
延伸倍率を6倍に変更した以外は実施例5と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例7)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例5で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例8)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例6で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例9)
延伸倍率を2.5倍に変更した以外は実施例8と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例10)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例7で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊維束(1500本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例11)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(1500本/束)の代わりに製造例8で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-8)の繊維束(1200本/束)を用い、延伸倍率を2.5倍に変更し、炭化処理時の温度勾配を1000℃~1350℃の温度勾配に変更した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1200本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(比較例1)
延伸時の温度を190℃に、延伸倍率を1.5倍に変更した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。なお、得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束においては、一部の繊維が破断していた。
(比較例2)
延伸時の温度を190℃に、延伸倍率を1.5倍に変更した以外は実施例3と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。なお、得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束においては、一部の繊維が破断していた。
(比較例3)
延伸時の温度を190℃に、延伸倍率を1.5倍に変更した以外は実施例4と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。なお、得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束においては、一部の繊維が破断していた。
(比較例4)
延伸時の温度を190℃に、延伸倍率を1.5倍に変更した以外は実施例11と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(1200本/束)、耐炎化繊維束(12000本/束)及び炭素繊維束(12000本/束)を作製した。なお、得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束においては、一部の繊維が破断していた。
<炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束の単繊維断面の形状観察>
得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束の断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-7000」)を用いて観察し、単繊維の断面を無作為に20個抽出した。この20個の単繊維の断面のうち、長径と短径との比が1.0~1.3の円形状の断面の割合(円形状割合)を求めた。その結果を表2に示す。
<炭素繊維前駆体繊維及び耐炎化繊維の繊度>
得られた炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束の絶乾時又は120℃で2時間乾燥後の質量を測定して、下記式:
繊維束の繊度[dtex]=繊維束の質量[g]/繊維長[m]×10000[m]
により前記繊維束の繊度を算出し、前記繊維束を構成する単繊維の繊度(前記炭素繊維前駆体繊維及び前記耐炎化繊維の繊度)を求めた。その結果を表2に示す。
<炭素繊維前駆体繊維、耐炎化繊維及び炭素繊維の平均繊維径>
得られた炭素繊維前駆体繊維束、耐炎化繊維束及び炭素繊維束について、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-1000」)を用いてそれぞれの側面を観察し、無作為に抽出した10本の単繊維の各々の繊維径の測定点を無作為に選択して、前記炭素繊維前駆体繊維束を構成する炭素繊維前駆体繊維、前記耐炎化繊維束を構成する耐炎化単繊維及び前記炭素繊維束を構成する炭素繊維の繊維径を測定し、その平均値(炭素繊維前駆体繊維、耐炎化繊維及び炭素繊維の平均繊維径)を求めた。その結果を表2に示す。
<炭素繊維の引張弾性率>
得られた炭素繊維束から単繊維を取出し、微小強度評価試験機(株式会社島津製作所製「マイクロオートグラフMST-I」)を用いてJIS R7606に準拠して室温にて引張試験(標線間距離:25mm、引張速度:1mm/分)を行い、引張弾性率を測定し、10回の平均値を求めた。その結果を表2に示す。
Figure 2022085514000001
Figure 2022085514000002
表1及び表2に示したように、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に、所定の温度、所定の延伸倍率で延伸処理を施した場合(実施例1~11)には、断面が円形状の単繊維を所定の割合で含有する炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束が得られることが確認された。また、断面が円形状の単繊維を所定の割合で含有する耐炎化繊維束に炭化処理を施すことによって、引張弾性率に優れた炭素繊維束が得られることがわかった。
一方、延伸処理時の温度が所定の温度範囲より低い場合(比較例1~4)には、延伸処理時に一部の繊維が破断することがわかった。また、得られた炭素繊維前駆体繊維束においては、断面が円形状の単繊維の割合が少ないことがわかった。そして、このような断面が円形状の単繊維の割合が少ない炭素繊維前駆体繊維束は、耐炎化処理時に一部の繊維が破断し、繊維強度に劣ることがわかった。また、得られた耐炎化繊維束においては、断面が円形状の単繊維の割合が少ないことがわかった。そして、このような断面が円形状の単繊維の割合が少ない耐炎化繊維束に炭化処理を施すことによって得られる炭素繊維束は、引張弾性率に劣ることがわかった。
また、表2に示すように、実施例1と実施例2、実施例6と実施例5、実施例8と実施例9とを対比すると、延伸倍率が高いほど、得られる炭素繊維前駆体繊維束及び耐炎化繊維束において、断面が円形状の単繊維の割合が多くなり、炭素繊維束の引張弾性率が向上することがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、耐炎化処理によって繊維強度が十分に向上し、耐炎化処理時における糸切れの発生が抑制される炭素繊維前駆体繊維束を得ることが可能となる。また、このような炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施し、さらに、炭化処理を施すことによって、高い引張弾性率を有する炭素繊維束を得ることが可能となる。
さらに、このような炭素繊維束は、軽量性、剛性、強度、弾性率、耐腐食性等の各種特性に優れているため、例えば、航空用材料、宇宙用材料、自動車用材料、圧力容器、土木・建築用材料、ロボット用材料、通信機器材料、医療用材料、電子材料、ウェアラブル材料、風車、ゴルフシャフト、釣竿等のスポーツ用品等の各種用途の材料として広く使用することができる。
すなわち、本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、前記炭素繊維前駆体繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexであることを特徴とするものである。
また、本発明の耐炎化繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束であり、前記耐炎化繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexであることを特徴とするものである。
なお、本発明において、「円形状断面を有する単繊維」には、長手方向に対して直交方向の断面(以下、単に「断面」ともいう)についての長径と短径との比が1.0である円形状(すなわち、真円形状)断面を有する単繊維だけでなく、前記断面についての長径と短径との比が1.0を超え1.3以下である円形状(すなわち、略円形状)断面を有する単繊維も包含される。
本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、前記炭素繊維前駆体繊維束においては、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexである。このような本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に、225~320℃の範囲内の温度下、1.3~100倍の延伸倍率で延伸処理を施すことによって製造することができる。
また、本発明の耐炎化繊維束は、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束であり、前記耐炎化繊維束においては、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%であり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexである。このような本発明の耐炎化繊維束は、前記本発明の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施すことによって製造することができる。
前記他の重合性モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーが挙げられる。前記シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメチルアクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメチルアクリロニトリル等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸の塩としては、前記不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられ、前記ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらの他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性及び炭化収率が向上するという観点からは、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましく、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸及びその塩が好ましく、耐炎化処理時の炭素繊維前駆体繊維束の融着防止性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物がより好ましい。
本発明においては、このように、所定の温度(最高温度)及び延伸倍率で、前記アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に延伸処理を施すことによって、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%の範囲内にあり、前記単繊維の繊度が0.1~7dtexの範囲内にある、本発明の炭素繊維前駆体繊維束が得られる。
本発明においては、このように、前記炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施すことによって、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面についての長径と短径との比が1.0~1.3である円形状断面を有する単繊維の割合が30~100%の範囲内にあり、前記単繊維の繊度が0.1~6dtexの範囲内にある、本発明の耐炎化繊維束が得られる。
Figure 2022085514000003

Claims (6)

  1. アクリルアミド系ポリマー繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束であり、
    前記炭素繊維前駆体繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、
    前記単繊維の繊度が0.1~7dtexである
    ことを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束。
  2. アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維束であり、
    前記耐炎化繊維束における、単繊維の長手方向に対して直交方向の断面の形状が前記断面における長径と短径との比が1.0~1.3の円形状である単繊維の割合が30~100%であり、
    前記単繊維の繊度が0.1~6dtexである
    ことを特徴とする耐炎化繊維束。
  3. アクリルアミド系ポリマー繊維からなる繊維束に、225~320℃の範囲内の温度下、1.3~100倍の延伸倍率で延伸処理を施して、請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維束を得ることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
  4. 前記延伸倍率が1.8~30倍であることを特徴とする請求項3に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
  5. 請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維束に耐炎化処理を施して、請求項2に記載の耐炎化繊維束を得ることを特徴とする耐炎化繊維束の製造方法。
  6. 請求項2に記載の耐炎化繊維束に炭化処理を施すことを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
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