I.概説
本発明の例示的な実施形態は、疾患病態生理学又は血管新生等の多種多様な生物学的過程と、疾患過程を可能にする因子を包含する係る生物学的過程の根底にある主要分子ドライバーとを理解するためのツールである、照合による生物学プラットフォーム(「プラットフォーム」)を用いて行うことのできる方法を取り込む。一部の例示的な実施形態は、プラットフォームの少なくとも部分又は全てを取り込むことのできるシステムを包含する。一部の例示的な方法は、プラットフォームの少なくとも一部又は全てを用いることができる。説明目的のため、プラットフォームに関与する一部の例示的な実施形態のゴール及び目標について後に一般概要を述べる。
i)生物学的過程全体に関係するものとして、生物学的過程(例えば、疾患過程、血管新生)の重大な構成要素のドライバーとして特異的分子サインを創出すること、
ii)2種の生物学的状態間の変化の(例えば、正常から疾患状態又は血管新生状態への)機序を調停するため、ある生物学的状態(例えば、疾患状態、血管新生状態)対異なる生物学的ステージ(例えば、正常状態)を識別する差次的分子サインの同定に役立つ、生物学的過程に属する分子サイン又は差次的マップを作成し、サイン又は分子実体の理解を発展させること、及び
iii)生物学的過程の外部制御のための潜在的な介入標的としての(例えば、潜在的な治療標的又は血管新生をモジュレートするための標的としてハブを使用すること)、又は問題になっている生物学的過程(例えば、予後及び/又はセラノスティクスの使用における、疾患特異的バイオマーカー及び血管新生特異的マーカー)の潜在的なバイオマーカーとしての、分子活性の「ハブ」の役割を調査すること。
プラットフォームに関与する一部の例示的な方法は、次の特色のうち1種以上を包含することができる。
1)生物学的過程に関連する細胞を用いた、1種以上のモデル、好ましくは、in vitroモデル又は研究室モデル(例えば、CAMモデル、角膜ポケットモデル、マトリゲル(登録商標)モデル)における、生物学的過程(例えば、疾患過程、血管新生過程)及び/又は生物学的過程の構成要素(例えば、疾患生理学及び病態生理学、血管新生の生理学)のモデリング。例えば、細胞は、正常には、問題になっている生物学的過程に関わる、ヒト由来の細胞となり得る。モデルは、生物学的過程(例えば、疾患、血管新生)に特異的な様々な細胞合図/条件/変動を包含し得る。理想的には、モデルは、生物学的(疾患、血管新生(angiogenensis))状態の静的評価の代わりに、様々な(疾患、血管新生(angiogenensis))状態及び流動構成要素を表す。
2)本技術分野において認識されているいずれかの手段を用いた、mRNA及び/又はタンパク質サインのプロファイリング。例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及び質量分析(MS)等のプロテオミクス解析ツール。係るmRNA及びタンパク質データセットは、環境/変動に対する生物学的反応を表す。適用でき、可能であれば、リピドミクス、メタボロミクス及びトランスクリプトミクスデータを、問題になっている生物学的過程の補足的又は代替的尺度として統合することもできる。SNP解析は、過程において時折用いることのできる別の構成要素である。これは、例えば、SNP又は特異的突然変異が、生物学的過程にいかなる効果を有するかの調査に役立つことができる。これらの変数は、静的「スナップショット(snapshot)」又は動的過程の表現のいずれかとして、生物学的過程の説明に用いることができる。
3)生体エネルギープロファイリング、細胞増殖、アポトーシス及びオルガネラ機能を包含するがこれらに限定されない、合図及び変動に対する1種以上の細胞応答のアッセイ。真の遺伝子型-表現型関連は、ATP、ROS、OXPHOS、Seahorseアッセイ、カスパーゼアッセイ、遊走アッセイ、走化性アッセイ、管形成アッセイ等、機能モデルを用いることによって実現化される。係る細胞応答は、mRNA/タンパク質発現の対応する状態(複数可)及び上述の2)におけるその他の関連する状態に応答した、生物学的過程(又はそのモデル)における細胞の反応を表す。
4)人工知能に基づく(AIに基づく)インフォマティクスシステム又はプラットフォームを用いることによる、3)においてこのようにして得られた機能アッセイデータと、2)において得られたプロテオミクス及び他のデータとの統合、並びに因果関係により駆動されるタンパク質関連の決定。係るAIに基づくシステムは、生物学的過程に関する既存の知識に頼ることなく、2)及び/又は3)において得られるデータセットに基づき、好ましくは、これのみに基づく。好ましくは、データ点は、統計的に又は人為的にカットオフされない。代わりに、得られた全データを、タンパク質関連を決定するためのAIシステムに読み込ませる。統合過程のゴール又は出力の一つは、異なる生物学的状態(例えば、疾患vs.正常状態)間の1種以上の差次的ネットワーク(或いは、本明細書において、「デルタネットワーク」又は場合によっては「デルタ-デルタネットワーク」と称され得る)である。
5)潜在的な治療標的及び/又はバイオマーカーとしての活性の各ハブを探るための、AIに基づくインフォマティクスプラットフォームからの出力のプロファイリング。係るプロファイリングは、いかなる実際のウェットラボ(wet-lab)実験に頼ることもなく、得られたデータセットに基づき、完全にin silicoで行うことができる。
6)分子及び細胞技法を用いることによる、活性のハブの検証。ウェットラボの細胞に基づく実験による出力の係るポストインフォマティクス検証は、任意選択で行えばよいが、照合を完成(full-circle)させるのに役立つ。
上に概要を述べるアプローチのうちいずれか又は全ては、少なくとも一部には特異的な用途の性質に応じて、いずれかの生物学的過程に関するいずれかの特異的な用途において用いることができる。すなわち、上に概要を述べる1種以上のアプローチは、省略又は修飾することができ、1種以上の追加的なアプローチを、特異的な用途に応じて用いることができる。
プラットフォームを図解する様々な模式図が提供されている。特に、プラットフォームを用いた治療を同定するための例示的なアプローチの図解を図1において描写する。癌のシステム生物学及び統合された複数の生理学的相互作用的出力調節の結果の図解を図2において描写する。MIMSを用いた生物学的関連性の系統的照合の図解を図3において描写する。照合による生物学的クエリーを可能にするための癌ネットワークのモデリングの図解を図4において描写する。照合による生物学プラットフォーム及びプラットフォームにおいて用いられる技術の図解を図5及び図6において描写する。データ収集、データ統合及びデータマイニングを包含するプラットフォームの構成要素の略図を図7において描写する。MIMSを用いた系統的照合及び「オミクス」カスケードからの応答データの収集の略図を図8において描写する。
図14は、例示的な方法10の高レベル流れ図であり、例示的な方法の実施に用いられる例示的なシステムの構成要素が示されている。最初に、正常には生物学的過程に関連する細胞を用いて、生物学的過程(例えば、疾患過程)及び/又は生物学的過程の構成要素(例えば、疾患生理学及び病態生理学)に対するモデル(例えば、in vitroモデル)が確立される(ステップ12)。例えば、細胞は、正常には生物学的過程(例えば、疾患)に関わるヒト由来の細胞となり得る。細胞モデルは、生物学的過程(例えば、疾患)に特異的な様々な細胞合図、条件及び/又は変動を包含し得る。理想的には、細胞モデルは、生物学的過程の静的評価の代わりに、生物学的過程(例えば、疾患)の様々な(疾患)状態及び流動構成要素を表す。比較細胞モデルは、対照細胞又は正常(例えば、非罹患)細胞を包含し得る。細胞モデルの追加的な説明は、下のセクションIII.A及びIVにおいて現れる。
第1のデータセットは、いずれかの公知の過程又はシステム(例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及び質量分析(MS)等のプロテオミクス解析ツール)を用いた複数の遺伝子の発現レベル(例えば、mRNA及び/又はタンパク質サイン)を表す情報を包含する、生物学的過程の細胞モデルから得られる(ステップ16)。
第3のデータセットは、生物学的過程の比較細胞モデルから得られる(ステップ18)。第3のデータセットは、比較細胞モデル由来の比較細胞における複数の遺伝子の発現レベルを表す情報を包含する。
本発明の方法の特定の実施形態において、これら第1及び第3のデータセットは、本明細書において、生物システムに関連する細胞(比較細胞を包含するあらゆる細胞)における複数の遺伝子の発現レベルを表す「第1のデータセット」とまとめて称される。
第1のデータセット及び第3のデータセットは、1種以上のmRNA及び/又はタンパク質サイン解析システム(複数可)から得ることができる。第1及び第3のデータセットにおけるmRNA及びタンパク質データは、環境及び/又は変動に対する生物学的反応を表すことができる。適用でき、可能であれば、リピドミクス、メタボロミクス及びトランスクリプトミクスデータを、生物学的過程の補足的又は代替的尺度として統合することもできる。SNP解析は、過程において時折用いることのできる別の構成要素である。これは、例えば、一塩基多型(SNP)又は特異的突然変異が、生物学的過程にいかなる効果を有するか調査するために役立つことができる。データ変数は、静的「スナップショット」又は動的過程の表現のいずれかとして生物学的過程の説明に用いることができる。細胞における複数の遺伝子の発現レベルを表す情報を得ることに関する追加的な説明は、下のセクションIII.Bにおいて現れる。
第2のデータセットは、細胞の機能活性又は応答を表す情報を包含する、生物学的過程の細胞モデルから得られる(ステップ20)。同様に、第4のデータセットは、比較細胞の機能活性又は応答を表す情報を包含する、生物学的過程の比較細胞モデルから得られる(ステップ22)。
本発明の方法の特定の実施形態において、これら第2及び第4のデータセットは、本明細書において、生物システムに関連する細胞(比較細胞を包含するあらゆる細胞)の機能活性又は細胞応答を表す「第2のデータセット」とまとめて称される。
1種以上の機能アッセイシステムは、細胞又は比較細胞の機能活性又は応答に関する情報を得るために用いることができる。合図及び変動に対する機能的細胞応答に関する情報として、生体エネルギープロファイリング、細胞増殖、アポトーシス及びオルガネラ機能を挙げられることができるがこれらに限定されない。過程及び経路の機能モデル(例えば、アデノシン三リン酸(ATP)、反応性酸素種(ROS)、酸化的リン酸化(OXPHOS)、Seahorseアッセイ、カスパーゼアッセイ、遊走アッセイ、走化性アッセイ、管形成アッセイ等)は、真の遺伝子型-表現型関連を得るために用いることができる。機能活性又は細胞応答は、mRNA/タンパク質発現の対応する状態(複数可)及びその他の関係する適用された条件又は変動に応答した、生物学的過程(又はそのモデル)における細胞の反応を表す。細胞の機能活性又は応答を表す情報を得ることに関する追加的な情報は、下のセクションIII.Bにおいて提供する。
方法は、細胞及び対照細胞における生物学的過程のコンピュータ実行モデルを作成するステップも包含する。例えば、複数の遺伝子の発現レベル及び機能活性又は細胞応答の間の因果関係の1種以上のベイズネットワーク(例えば、そのアンサンブル)は、第1のデータセット及び第2のデータセットから、細胞モデルのために作成することができる(「作成された細胞モデルネットワーク」)(ステップ24)。作成された細胞モデルネットワークは、個々に又はまとめて、関係性に関する定量的確率的指向性情報を包含する。作成された細胞モデルネットワークは、第1のデータセット及び第2のデータセット由来の情報以外の、遺伝子発現及び/又は機能活性若しくは細胞応答の間の公知の生物学的関係性に基づかない。1種以上の作成された細胞モデルネットワークは、コンセンサス細胞モデルネットワークとまとめて称され得る。
複数の遺伝子の発現レベル及び機能活性又は細胞応答の間の因果関係の1種以上のベイズネットワーク(例えば、そのアンサンブル)は、第1のデータセット及び第2のデータセットから、比較細胞モデルのために作成することができる(「作成された比較細胞モデルネットワーク」)(ステップ26)。作成された比較細胞モデルネットワークは、個々に又はまとめて、関係性に関する定量的確率的指向性情報を包含する。作成された細胞ネットワークは、第1のデータセット及び第2のデータセットにおける情報以外の、遺伝子発現及び/又は機能活性若しくは細胞応答の間の公知の生物学的関係性に基づかない。1種以上の作成された比較モデルネットワークは、コンセンサス細胞モデルネットワークとまとめて称され(refered)得る。
作成された細胞モデルネットワーク及び作成された比較細胞モデルネットワークは、人工知能に基づく(AIに基づく)インフォマティクスプラットフォームを用いて創出することができる。作成された細胞モデルネットワークの創出、作成された比較細胞モデルネットワークの創出及びAIに基づくインフォマティクスシステムに関する更なる詳細は、下のセクションIII.C及び図2A〜3の説明に現れる。
多くの異なるAIに基づくプラットフォーム又はシステムを用いて、定量的確率的指向性情報を包含する因果関係のベイズネットワークを作成するのに用いることができることに留意されたい。本明細書に記載されている特定の例は、特定の市販のシステム、すなわち、GNS(マサチューセッツ州ケンブリッジ)製のREFS(商標)(リバースエンジニアリング/フォワードシミュレーション(Reverse Engineering/Forward Simulation))を用いるが、実施形態はこれに限定されない。一部の実施形態の実行に適したAIに基づくシステム又はプラットフォームは、入力データのみに基づき、いかなる潜在的な確立された及び/又は確認された生物学的関係性に関する先行する既存の知識を考慮することもなく、入力変数(例えば、第1及び第2のデータセット)の間の因果関係を確立するために数学的アルゴリズムを用いる。
例えば、REFS(商標)AIに基づくインフォマティクスプラットフォームは、実験に由来する生の(元々の)又は加工が最小の入力生物学的データ(例えば、遺伝学、ゲノミクス、エピジェネティクス、プロテオミクス、メタボロミクス及び臨床データ)を利用し、数兆回の計算を迅速に実施し、分子が完全システムにおいて互いにどのように相互作用するか決定する。REFS(商標)AIに基づくインフォマティクスプラットフォームは、根底にある生物システムを定量的に表す入力データに基づき、in silicoコンピュータ実行細胞モデル(例えば、作成された細胞モデルネットワーク)の創出を意図したリバースエンジニアリングプロセスを実施する。更に、仮説に関する関連する信頼レベルを伴う予測を得るために、コンピュータ実行細胞モデルに基づき、根底にある生物システムに関する仮説を発展させ、迅速にシミュレートすることができる。
このアプローチにより、生物システムは、定量的コンピュータ実行細胞モデルにより表され、該モデルにおいて、「介入」がシミュレートされて、生物システム(例えば、疾患)の詳細な機序、有効介入戦略及び/又はいかなる患者が所定の処置レジメンに応答するか決定する臨床バイオマーカーを学習する。従来のバイオインフォマティクス及び統計的アプローチ、並びに公知の生物学のモデリングに基づくアプローチは、典型的には、この種の洞察をもたらすことができない。
作成された細胞モデルネットワーク及び作成された比較細胞モデルネットワークを創出した後、両者を比較した。作成された細胞モデルネットワークの少なくとも一部に存在し、作成された比較細胞モデルネットワークに存在しない又はそこに少なくとも1種の有意に異なるパラメータを有する1種以上の因果関係が同定される(ステップ28)。係る比較は、差次的ネットワークの創出をもたらし得る。比較、同定及び/又は差次的(デルタ)ネットワーク創出は、差次的ネットワーク創出モジュールを用いて行うことができ、これについては、下のセクションIII.D及び図26の説明に関して更に詳細に説明する。
一部の実施形態において、入力データセットは、1種の細胞型及び1種の比較細胞型に由来し、これは、1種の細胞型に基づく細胞モデルネットワークのアンサンブル及び1種の比較対照細胞型に基づく比較細胞モデルネットワークの別のアンサンブルを創出する。差次は、1種の細胞型のネットワークのアンサンブル及び比較細胞型(複数可)のネットワークのアンサンブルの間で実施することができる。
他の実施形態において、入力データセットは、複数の細胞型(例えば、2種以上の癌細胞型、異なる血管新生状態の、例えば、異なる血管新生促進刺激により誘導された2種以上の細胞型)及び複数の比較細胞型(例えば、2種以上の正常、非癌性細胞型、2種以上の非血管新生及び血管新生細胞型)に由来する。細胞モデルネットワークのアンサンブルは、各細胞型及び各比較細胞型のために個々に作成することができる、及び/又は複数の細胞型及び複数の比較細胞型由来のデータは、個々の複合性データセットへと組み合わせることができる。複合性データセットは、複数の細胞型に対応するネットワークのアンサンブル(複合性データ)及び複数の比較細胞型に対応するネットワークの別のアンサンブル(比較複合性データ)を作り出す。差次は、比較複合性データのネットワークのアンサンブルと比較した複合性データのネットワークのアンサンブルにおいて実施することができる。
一部の実施形態において、差次は、2種の異なる差次的ネットワークの間で実施することができる。この出力は、デルタ-デルタネットワークと称することができ、図26に関して下に説明されている。
定量的関係性情報は、作成された細胞モデルネットワークにおける関係性毎に同定することができる(ステップ30)。同様に、作成された比較細胞モデルネットワークにおける関係性毎の定量的関係性情報を同定することができる(ステップ32)。関係性に関する定量的情報は、因果関係を示す方向性、関係性に関する統計的不確定性の尺度(例えば、曲線下面積(AUC)統計的測定値)及び/又は関係性の強度の定量的規模の表現(例えば、倍数)を包含することができる。作成された細胞モデルネットワークにおける様々な関係性を、定量的関係性情報を用いてプロファイルして、潜在的な治療標的及び/又はバイオマーカーとしてネットワークにおける活性の各ハブを探ることができる。係るプロファイリングは、作成された細胞モデルネットワークの結果に基づき、いかなる実際のウェットラボ実験に頼ることもなく、完全にin silicoで行うことができる。
一部の実施形態において、ネットワークにおける活性のハブは、分子及び細胞技法を用いることにより検証することができる。ウェットラボの細胞に基づく実験により、出力の係るポストインフォマティクス検証を実施する必要はないが、照合を完成させるのに役立つことができる。図15は、例示的なAIに基づくインフォマティクスシステム(例えば、REFS(商標)AIに基づくインフォマティクスシステム)の機能性の単純化された高レベル表現及びAIに基づくシステムと照合による生物学プラットフォーム(「プラットフォーム」)の他の要素又は一部との間の相互作用を模式的に描写する。図15Aにおいて、薬物投与量、処置投与量、タンパク質発現、mRNA発現及び多くの関連する機能尺度(OCR、ECAR等)のいずれか等、生物学的過程(例えば、疾患モデル)のモデルから得られる様々なデータセットは、AIに基づくシステムに読み込まれる。図15Bに示す通り、AIシステムは、ベイズ断片列挙(図15B)と称されるプロセスにおいて、入力データセットから、生物学的過程(例えば、疾患)における分子機序を駆動する変数(タンパク質、脂質及び代謝物)を包含する「ネットワーク断片」のライブラリーを創出する。
図15Cにおいて、AIに基づくシステムは、ライブラリーにおけるネットワーク断片の部分集合を選択し、該断片から初期試行ネットワークを構築する。AIに基づくシステムはまた、ライブラリーにおけるネットワーク断片の異なる部分集合を選択して、別の初期試行ネットワークを構築する。最終的に、ライブラリーにおけるネットワーク断片の異なる部分集合から、初期試行ネットワークのアンサンブルが創出される(例えば、1000種のネットワーク)。このプロセスは、並行アンサンブルサンプリングと命名することができる。アンサンブルにおける各試行ネットワークは、ライブラリー由来の追加的なネットワーク断片を加算、減算及び/又は置換することにより進化又は最適化される。追加的なデータが得られる場合、ライブラリーにおけるネットワーク断片に追加的なデータを取り込ませることができ、各試行ネットワークの進化により、試行ネットワークのアンサンブルに取り込ませることができる。最適化/進化プロセスの完了後に、試行ネットワークのアンサンブルは、作成された細胞モデルネットワークとして記載することができる。
図15Dに示す通り、作成された細胞モデルネットワークのアンサンブルを用いて、生物システムの挙動をシミュレートすることができる。シミュレーションを用いて、条件が変化する生物システムの挙動を予測することができ、これは、ウェットラボの細胞に基づく又は動物に基づく実験を用いて実験により確認され得る。また、作成された細胞モデルネットワークにおける関係性の定量的パラメータは、作成された細胞モデルネットワーク(nework)における他のノードに対する効果を観察しつつ、各ノードに個々にシミュレートされた変動を適用することにより、シミュレーション機能性を用いて抽出することができる。更なる詳細は、下のセクションIII.Cにおいて提供する。
図2A〜図2Dに描写するAIに基づくインフォマティクスシステムの自動リバースエンジニアリングプロセスは、細胞の不偏性且つ系統的なコンピュータに基づくモデルである、作成された細胞モデルネットワークのアンサンブルを創出する。
リバースエンジニアリングは、データにおける分子測定値と、対象の表現型成績との間の確率的指向性ネットワーク接続を決定する。分子測定値における変異は、これらの実体とエンドポイントの変化との間の確率的な原因と結果の関係性の学習を可能にする。プラットフォームの機械学習性質は、絶えず進化しているデータセットに基づくクロス・トレーニング及び予測も可能にする。
一部には、接続が、コンピュータアルゴリズムにより「学習」された観察されたデータセット間の相関に基づき得るため、データにおける分子測定値間のネットワーク接続は「確率的」である。例えば、タンパク質Xの発現レベル及びタンパク質Yの発現レベルが、データセットの統計解析に基づき、正に又は負に相関する場合、因果関係を割り当て、タンパク質X及びY間のネットワーク接続を確立することができる。係る推定因果関係の信頼性は、p値(例えば、p<0.1、0.05、0.01等)により測定することのできる接続の尤度により更に定義することができる。
一部には、接続が刺激性であるか阻害性であるかに応じて、あるタンパク質の発現レベルの上昇が他のタンパク質の発現レベルを上昇又は下降させ得るように、リバースエンジニアリングプロセスにより決定される分子測定値間のネットワーク接続が、接続された遺伝子/タンパク質間の関係性の原因と結果を反映するため、データにおける分子測定値間のネットワーク接続は「指向性」である。
一部には、該プロセスにより決定される分子測定値間のネットワーク接続が、既存のデータセット及びこれに関連する確率的尺度に基づきin silicoでシミュレートすることができるため、データにおける分子測定値間のネットワーク接続は「定量的」である。例えば、分子測定値間の確立されたネットワーク接続において、所定のタンパク質(又はネットワークにおける「ノード」)の発現レベルを理論的に増加又は減少(例えば、1、2、3、5、10、20、30、50、100倍以上)させ、ネットワークにおける他の接続されたタンパク質に対するその効果を定量的にシミュレートすることが可能となり得る。
少なくとも一部には、データ点は統計的に又は人為的にカットオフされないため、また一部には、問題になっている生物学的過程に関する既存の知識を参照することなく、ネットワーク接続が入力データ単独に基づくため、データにおける分子測定値間のネットワーク接続は「不偏性」である。
一部には、あらゆる入力変数間のあらゆる潜在的な接続は、例えば、ペアワイズ様式で体系的に探られたため、データにおける分子測定値間のネットワーク接続は「体系的」及び(不偏性)である。係る体系的探索を実行する演算能力における確実性は、入力変数の数が増加するにつれて指数関数的に増加する。
一般に、ほぼ1,000種のネットワークのアンサンブルは通常、測定された実体全ての間の確率的な因果関係がある定量的関係性の予測に十分である。ネットワークのアンサンブルは、データにおける不確定性を捕捉し、モデル予測毎の信頼測定基準の計算を可能にする。予測は、ネットワークのアンサンブルを一体的に用いて作成され、アンサンブルにおける個々のネットワーク由来の予測の差は、予測における不確定性の度合いを表す。この特色は、モデルから作成された臨床応答の予測の信頼測定基準の割り当てを可能にする。
モデルがリバースエンジニアリングされると、更なるシミュレーションクエリーをモデルのアンサンブルにおいて行い、病状等、問題になっている生物学的過程の主要分子ドライバーを決定することができる。
正常及び糖尿病状態(statesis)を表す例示的な(examplary)In vitroモデルの組み立てに用いられる構成要素の素描を、図9に描写する。疾患病態生理学に関係するタンパク質の因果関係ネットワークの作成に用いられる例示的な(examplary)インフォマティクスプラットフォームREFS(商標)の略図を図10に描写する。糖尿病対正常状態における差次的ネットワーク及びMIMS処置により正常状態へと回復する糖尿病ノードの作成に向けた例示的な(examplary)アプローチの略図を図11に描写する。糖尿病対正常状態における代表的な差次的ネットワークを図12に描写する。対象のノード及び関連するエッジ(中心にノード1)並びに各エッジに関連する細胞機能性の略図を図13に描写する。
上述で本発明の概要を記載してきたが、以下のセクションでは、本明細書における方法を用いて解析することができる1種以上の特定の生物システムと併せて、一般発明の様々な態様又は要素のより詳細な説明を示す。しかし、下の例証目的に用いられている特定の生物システムは、限定的ではないことに留意されたい。それとは反対に、対象プラットフォーム技術を用いて、そのいかなる代替物、修飾及び均等物を包含する他の別個の生物システムも同様に解析できることが企図される。
II.定義
本明細書において、具体的に定義されることが企図されているが、本明細書の他のセクションにおいて未だ定義されていない特定の用語をここに定義する。
冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的目的語のうち1種又は2種以上(すなわち、少なくとも1種)を指すよう本明細書において用いられている。例として「要素(an element)」は、1種の要素又は2種以上の要素を意味する。
用語「包含する」は、語句「包含するがこれに限定されない」を意味するよう本明細書において用いられており、これと互換的に用いられている。
用語「又は」は、文脈がこれ以外を明らかに示さない限り、用語「及び/又は」を意味するよう本明細書において用いられており、これと互換的に用いられている。
用語「等」は、語句「等が挙げられるがこれに限定されない」を意味するよう本明細書において用いられており、これと互換的に用いられている。
「代謝経路」は、ある化合物を別の化合物に転換し、中間体及び細胞機能のためのエネルギーをもたらす一連の酵素媒介性反応を指す。代謝経路は、直線状又は環状又は分岐状となり得る。
「代謝状態」は、健康又は疾患の状態に関係するため、様々な化学的及び生物学的指標により測定された、所定の時点における特定の細胞、多細胞又は組織環境の分子含量を指す。
「血管新生」は、既存の血管からの新たな血管の成長に関与する生理学的過程を指す。血管新生は、少なくとも、血管内皮細胞の増殖、典型的には走化性(chemotacitic)薬剤に応答した血管内皮細胞の遊走、典型的にはマトリクスメタロプロテアーゼ産生による細胞外マトリクスの分解、マトリクスメタロプロテイナーゼ産生、管形成、血管腔形成、血管出芽、接着分子発現、典型的にはインテグリン発現及び分化を包含する。培養系(例えば、一次元vs.三次元)及び細胞型に応じて、血管新生の様々な側面は、in vitro及びin vivoで成長した細胞において観察することができる。血管新生細胞又は血管新生細胞の少なくとも1種の特徴を呈する細胞は、上に表示する1、2、3、4、5、6、7、8、9種以上の特徴を呈する。血管新生のモジュレーターは、上に示す特徴のうち少なくとも1種を増加又は減少させる。血管新生は、血管の自発的形成である脈管形成又は既存の血管の分割による新たな血管の形成の用語である挿入成長(intussusception)とは別個のものである。
用語「マイクロアレイ」は、紙、ナイロン若しくは他の種類の膜、フィルター、チップ、ガラススライド又はその他の適した固体支持体等、基板上に合成された別個のポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド(例えば、抗体)又はペプチドのアレイを指す。
用語「障害」及び「疾患」は、包括的に用いられ、身体のいずれかの部分、器官又は系(又はこれらのいずれかの組み合わせ)の正常構造又は機能からのいずれかの逸脱を指す。特異的疾患は、生物学的、化学的及び物理学的変化を包含する特徴的な症状及び兆候により顕在化され、多くの場合、人口統計学的、環境的、職業的(employment)、遺伝的及び病歴的因子が挙げられるがこれらに限定されない種々の他の因子に関連する。特定の特徴的な兆候、症状及び関係する因子を種々の方法により定量化して、重要な診断情報を得ることができる。
用語「発現」は、DNA等のポリヌクレオチドからポリペプチドが産生される過程を包含する。この過程は、遺伝子からmRNAの転写及びこのmRNAからポリペプチドへの翻訳に関与し得る。「発現」は、これが用いられる文脈に応じて、RNA、タンパク質又はその両方の産生を指すことができる。
用語「遺伝子の発現のレベル」又は「遺伝子発現レベル」は、細胞におけるmRNA並びにプレmRNA新生転写物(複数可)、転写物プロセシング中間体、成熟mRNA(複数可)及び分解産物のレベル、或いは遺伝子にコードされるタンパク質のレベルを指す。
用語「モジュレーション」は、応答の上方調節(すなわち、活性化又は刺激)、下方調節(すなわち、阻害又は抑制)、或いは両者の組み合わせ又はそれぞれ別個を指す。「モジュレーター」は、モジュレートする化合物又は分子であり、例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、活性化因子、刺激因子、抑制因子又は阻害剤となり得る。
語句「モジュレーターに影響を与える」とは、モジュレーターの発現を変更すること、そのレベルを変更すること、又はその活性を変更することとして理解される。
用語「トロラミン(Trolamine)」は、本明細書において、トロラミンNF、トリエタノールアミン、TEALAN(登録商標)、TEAlan、99%、トリエタノールアミン、99%、トリエタノールアミン、NF又はトリエタノールアミン、99%、NFを指す。これらの用語は、本明細書において互換的に用いることができる。
用語「ゲノム」は、生物学的実体(細胞、組織、器官、システム、生物)の遺伝情報の全体を指す。これは、DNA又はRNA(例えば、特定のウイルスにおける)のいずれかにおいてコードされる。ゲノムは、DNAの遺伝子及び非コード配列の両方を包含する。
用語「プロテオーム」は、所定の時間においてゲノム、細胞、組織又は生物により発現されるタンパク質の全セットを指す。より具体的には、これは、所定の時間に定義された条件下で所定の種類の細胞又は生物において発現されたタンパク質の全セットを指すことができる。プロテオームは、例えば、遺伝子の選択的スプライシング及び/又は翻訳後修飾(グリコシル化又はリン酸化等)によるタンパク質バリアントを包含することができる。
用語「トランスクリプトーム」は、所定の時間において1個の細胞又は細胞集団において産生される、mRNA、rRNA、tRNA、microRNA、ダイサー基質RNA及び他の非コードRNAを包含する転写されたRNA分子の全セットを指す。この用語は、所定の生物における転写物の総セット、又は特定の細胞型に存在する転写物の特異的な部分集合に適用することができる。所定の細胞株に緩やかに固定された(突然変異を除く)ゲノムとは異なり、トランスクリプトームは、外部環境条件に伴って変動し得る。これは、細胞におけるあらゆるmRNA転写物を包含するため、トランスクリプトームは、転写減衰等、mRNA分解現象を例外として、所定の時間において活発に発現されている遺伝子を反映する。
発現プロファイリングとも称されるトランスクリプトミクスの研究は、多くの場合、DNAマイクロアレイ技術に基づくハイスループット技法を用いて、所定の細胞集団におけるmRNAの発現レベルを試験する。
用語「メタボローム」は、所定の時間に所定の条件下で単一の生物等、生物試料内に見出された小分子代謝物(代謝性中間体、ホルモン及び他のシグナル伝達分子並びに二次代謝物等)の完全セットを指す。メタボロームは動的であり、刻一刻と変化し得る。
用語「リピドーム(lipidome)」は、所定の時間に所定の条件下で単一の生物等、生物試料内に見出された脂質の完全セットを指す。リピドームは動的であり、刻一刻と変化し得る。
用語「インタラクトーム」は、研究中の生物システム(例えば、細胞)における分子相互作用の全体のセットを指す。これは、有向グラフとして表示することができる。分子相互作用は、異なる生化学的ファミリー(タンパク質、核酸、脂質、炭水化物等)に属する分子の間で、また、所定のファミリー内で起こり得る。プロテオミクスの観点から述べると、インタラクトームは、タンパク質-タンパク質相互作用ネットワーク(PPI)又はタンパク質相互作用ネットワーク(PIN)を指す。別の広範に研究されている種類のインタラクトームは、タンパク質-DNAインタラクトーム(転写因子(及びDNA又はクロマチン調節タンパク質)及びその標的遺伝子により形成されたネットワーク)である。
用語「細胞出力」は、1種以上の遺伝子の転写レベル(例えば、RT-PCR、qPCR、マイクロアレイ等により測定可能)、1種以上のタンパク質の発現のレベル(例えば、質量分析又はウェスタンブロットにより測定可能)、1種以上の酵素又はタンパク質の絶対活性(例えば、基質変換速度として測定可能)又は相対活性(例えば、最大活性と比較した%値として測定可能)、1種以上の代謝物又は中間体のレベル、酸化的リン酸化のレベル(例えば、酸素消費速度又はOCRにより測定可能)、解糖のレベル(例えば、細胞外酸性化速度又はECARにより測定可能)、リガンド-標的結合又は相互作用の程度、細胞外分泌分子の活性等を包含する(これらに限定されない)、細胞状態に関係するパラメータ、好ましくは測定可能パラメータの収集を包含する。細胞出力は、標的遺伝子又はタンパク質等の予め定められた数のデータを包含し得る、或いはあらゆる検出可能な遺伝子又はタンパク質の網羅的評価を包含し得る。例えば、質量分析を用いて、試料又は細胞集団においていかなる特異的タンパク質が発現され得るかに関する先行する知識を用いることなく、所定の試料又は細胞集団において発現されるあらゆる検出可能なタンパク質を同定及び/又は定量化することができる。
本明細書において、「細胞系」は、均一又は不均一細胞の集団を包含する。システム内の細胞は、in vivoで、天然又は生理的環境下で育成することができる、或いは例えば、制御された組織培養環境においてin vitroで育成することができる。システム内の細胞は、相対的に均一(例えば、70%、80%、90%、95%、99%、99.5%、99.9%以上均一)となり得る、或いは通常in vivoでごく近接して成長することが見出される細胞型又は例えばパラ分泌若しくは他の長距離細胞間情報伝達により互いにin vivoで相互作用し得る細胞型等、2種以上の細胞型を含有し得る。細胞系内の細胞は、癌細胞株、不死細胞株又は正常細胞株を包含する、樹立細胞株に由来し得る、或いは初代細胞又は生きた組織若しくは器官から新鮮に単離された細胞となり得る。
細胞系における細胞は、典型的には、細胞挙動に影響を与える条件を定義することのできる、栄養素、気体(酸素又はCO2等)、化学物質又はタンパク質性/非タンパク質性刺激物質をもたらし得る「細胞環境」と接触する。細胞環境は、定義された化学的構成要素及び/又はあまり定義されていない組織抽出物若しくは血清構成要素を有する化学的培地となることができ、細胞が育成される特異的pH、CO2含量、圧力及び温度を包含することができる。或いは、細胞環境は、特異的細胞系のin vivoにおいて見出される天然又は生理的環境となり得る。
特定の実施形態において、細胞環境は、生物システム又は過程の側面をシミュレートする、例えば、疾患状態、過程又は環境をシミュレートする条件を含む。係る培養条件は、例えば、高血糖、低酸素又は乳酸豊富条件を包含する。多数の他の係る条件は、本明細書に記載されている。
特定の実施形態において、特異的細胞系の細胞環境は、細胞表面上の受容体又はリガンドの種類及びその個々の活性、炭水化物又は脂質分子の構造、膜極性又は流動性、特定の膜タンパク質のクラスター形成の状態等、細胞系の特定の細胞表面特色も包含する。これらの細胞表面特色は、異なる細胞系に属する細胞等、近隣の細胞の機能に影響を与えることができる。しかし、特定の他の実施形態において、細胞系の細胞環境は、細胞系の細胞表面特色を包含しない。
細胞環境が変更されて、「修飾された細胞環境」となり得る。変更は、細胞環境への1種以上の「外部刺激構成要素」の添加を包含する、細胞環境に見出されるいずれか1種以上の構成要素の変化(例えば、増加又は減少)を包含し得る。環境変動又は外部刺激構成要素は、細胞環境に対し内因性であっても(例えば、細胞環境は、あるレベルの刺激物質を含有し、これが更に添加されて、そのレベルを増加させる)、細胞環境に対し外因性であってもよい(例えば、刺激物質は、変更前の細胞環境には殆ど存在しない)。外部刺激構成要素は、細胞系により細胞環境へと分泌される分子を包含する細胞系の細胞出力を変化させ得るため、細胞環境は、外部刺激構成要素の添加に起因する二次変化により更に変更され得る。
本明細書において、本明細書において「環境変動」とも称される「外部刺激構成要素」は、細胞機能に影響を与え得るいずれかの外部物理学的及び/又は化学的刺激を包含する。これは、いずれかの大型又は小型の有機又は無機分子、天然又は合成化学物質、温度シフト、pH変化、放射線照射、光(UVA、UVB等)、マイクロ波、音波、電流、変調された又は変調されていない磁場等を包含し得る。
用語「多次元細胞内分子(Multidimensional Intracellular Molecule)(MIM)」は、体内で天然に産生された及び/又はヒトの少なくとも1個の細胞に存在する内因性分子の単離されたバージョン又は合成により産生されたバージョンである。MIMは、細胞に進入することができ、細胞への進入は、分子の生物学的活性部分が全体的に細胞に進入するのであれば、細胞への完全又は部分的な進入を包含する。MIMは、細胞内のシグナル伝達及び/又は遺伝子発現機序を誘導することができる。分子は、治療及び担体、例えば、薬物送達効果の両方を有するため、MIMは多次元的である。同様に分子は、一方では疾患状態において、異なる一方では正常状態において作用するため、MIMは多次元的である。例えば、CoQ-10の場合、VEGFの存在下におけるメラノーマ細胞へのCoQ-10の投与は、Bcl2のレベル減少をもたらし、これは次に、メラノーマ細胞の発癌潜在力減少をもたらす。対照的に、正常線維芽細胞において、CoQ-10及びVEFGの同時投与は、Bcl2のレベルに効果がない。
一実施形態において、MIMは、また、エピシフターである。別の一実施形態において、MIMは、エピシフターではない。別の一実施形態において、MIMは、前述の機能のうち1種以上により特徴付けられる。別の一実施形態において、MIMは、前述の機能のうち2種以上により特徴付けられる。更に別の一実施形態において、MIMは、前述の機能のうち3種以上により特徴付けられる。更にまた別の一実施形態において、MIMは、前述の機能のうち全種により特徴付けられる。当業者であれば、本発明のMIMが、2種以上の内因性分子の混合物を包摂することも企図され、該混合物が、前述の機能のうち1種以上により特徴付けられることを認められよう。混合物における内因性分子は、混合物がMIMとして機能するような比率で存在する。
MIMは、脂質に基づく又は非脂質に基づく分子となり得る。MIMの例として、CoQ10、アセチルCo-A、パルミチル(palmityl)Co-A、L-カルニチン、例えば、チロシン、フェニルアラニン及びシステイン等のアミノ酸が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態において、MIMは、小分子である。本発明の一実施形態において、MIMは、CoQ10ではない。MIMは、本明細書に詳細に記載されているアッセイのいずれかを用いて、当業者によってルーチンに同定することができる。MIMは、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容全体を明確に援用する、米国特許出願第12/777,902号明細書(米国特許出願公開第2011-0110914号明細書)に更に詳細に記載されている。
本明細書において、「エピメタボリックシフター(epimetabolic shifter)」(エピシフター)は、健康(又は正常)状態から疾患状態への(逆も同様)代謝性シフトをモジュレートして、これにより、ヒトにおける細胞、組織、器官、システム及び/又は宿主健康を維持又は再建する分子である。エピシフターは、組織微小環境における正常化を実現することができる。例えば、エピシフターは、細胞に添加又はこれから枯渇させると、細胞の微小環境(例えば、代謝状態)に影響を与えることができるいずれかの分子を包含する。当業者であれば、本発明のエピシフターが、2種以上分子の混合物の包摂にも企図されており、該混合物が、前述の機能のうち1種以上により特徴付けられることを認められよう。混合物における分子は、混合物がエピシフターとして機能するような比率で存在する。エピシフターの例として、CoQ-10;ビタミンD3;フィブロネクチン等、ECM構成要素;TNFa又はインターロイキンのいずれか、例えば、IL-5、IL-12、IL-23等、免疫モジュレーター;血管新生因子;及びアポトーシス因子が挙げられるがこれらに限定されない。
一実施形態において、エピシフターもMIMである。一実施形態において、エピシフターは、CoQ10ではない。エピシフターは、本明細書に詳細に記載されているアッセイのいずれかを用いて、当業者によってルーチンに同定することができる。エピシフターは、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容全体を明確に援用する、米国特許出願第12/777,902号明細書(米国特許出願公開第2011-0110914号明細書)に更に詳細に記載されている。
本願において明白に定義されていない他の用語は、当業者によって理解され得る意義を有する。
III.プラットフォーム技術の例示的なステップ及び構成要素
単なる例証目的のために、対象プラットフォーム技術の次のステップは、特注の癌モデルから得られるデータを統合するため及び癌の病理発生を駆動する新規タンパク質/経路を同定するための例示的な有用性として本明細書において下に記載され得る。この解析によってもたらされるリレーショナルマップは、癌処置標的と共に癌に関連する診断/予後マーカーを提供する。しかし、対象プラットフォーム技術は、いかなる生物システム又は過程に対しても一般適用性を有し、いかなる特定の癌又は他の特異的疾患モデルにも限定されない。
加えて、下の説明は、一部において個別のステップとして提示されているが、これは例証目的及び単純性のためであり、よって、現実的には、ステップの係る厳正な順序及び/又は区分を暗示しない。更に、本発明のステップは別々に実施することができ、本明細書に提供されている本発明は、対象プラットフォーム技術の個々のステップそれぞれ別々を、また、残りのステップと独立的に行ってよい1種以上の(例えば、いずれか1、2、3、4、5、6又は全7ステップ)ステップの組み合わせを包摂することが企図されている。
本発明は、また、プラットフォーム技術のあらゆる態様を別々の構成要素及び本発明の実施形態として包含することが企図されている。例えば、作成されたデータセットは、本発明の実施形態であることが企図されている。更に別の例として、作成された因果関係ネットワーク、作成されたコンセンサス因果関係ネットワーク及び/又は作成されたシミュレートされた因果関係ネットワークもまた、本発明の実施形態であることが企図されている。生物システムに独特であると同定された因果関係は、本発明の実施形態であることが企図されている。更に、特定の生物システムの特注のモデルもまた、本発明の実施形態であることが企図されている。例えば血管新生のモデル、癌、肥満(obestity)/糖尿病/心血管疾患の細胞モデル又は薬物の毒性(例えば、心毒性)の特注のモデル等、例えば、疾患状態又は過程の特注のモデルもまた、本発明の実施形態であることが企図されている。
A.注文モデル組み立て
プラットフォーム技術における第1のステップは、生物システム又は過程のモデルの確立である。
1.血管新生モデル
血管新生のin vitro及びin vivoモデルは両者共に公知のものである。例えば、ヒト臍帯血管内皮(vascular endothelail)細胞(HUVEC)を用いたin vitroモデルは、実施例において詳細に提供されている。簡潔に記すと、HUVECは、サブコンフルエント培養において育成すると、血管新生細胞の特徴を呈する。HUVECは、コンフルエント培養において育成すると、血管新生細胞の特徴を呈さない。内皮細胞増殖、遊走及び分化を包含する、血管新生カスケードにおける大部分のステップは、in vitroで解析することができる。増殖研究は、細胞計数、チミジン取り込み又は細胞増殖の免疫組織化学的染色(PCNAの測定による)又は細胞死(末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識又はタネル(Tunel)アッセイによる)に基づく。走化性は、膜フィルターに分離された上部及び下部ウェルからなるボイデンチャンバーにおいて試験することができる。走化性溶液を下部ウェルに置き、細胞を上ウェルに加え、インキュベーション期間の後、走化性刺激に向かって遊走した細胞を、膜の下部表面において計数する。細胞遊走は、下の実施例に提供する「スクラッチ」アッセイを用いて研究することもできる。分化は、二及び三次元フィブリン血栓、コラーゲンゲル及びマトリゲルを包含する異なるECM構成要素において内皮細胞を培養することにより、in vitroで誘導することができる。微小血管が、三次元フィブリンゲルに組み込まれたラット大動脈の環から成長することも示された。マトリクスメタロプロテアーゼ発現は、酵素原アッセイによりアッセイすることができる。
網膜脈管構造は、出生時のマウスにおいて完全には形成されない。血管成長及び血管新生は、このモデルにおいて詳細に研究されてきた。ステージ分類された網膜を用いて、正常生物学的過程として血管新生を解析することができる。
ニワトリ絨毛尿膜(CAM)アッセイは、本技術分野において周知のものである。初期ニワトリ胚は、成熟免疫系を欠き、従って、腫瘍誘導性血管新生の研究に用いられる。卵殻に作られた窓を通して、組織移植片をCAM上に置く。これにより、植え込み後4日以内に、移植片に向かう血管の定型放射状再編成及びその周りにおける血管の明らかな増加が引き起こされる。実体顕微鏡下で移植片に進入する血管を計数する。被験物質の抗血管新生又は血管新生活性を評価するため、化合物は、持続放出ポリマーペレットにおいて、ゼラチンスポンジにより吸収又はプラスチックディスク上で風乾のいずれかで調製し、続いてCAMに植え込む。ペトリ皿における殻のない(shell-less)胚の培養及び異なる定量化方法(すなわち、放射標識プロリンを用いた基底膜生合成速度の測定、顕微鏡下又は画像解析による血管数の計数)を包含するCAMアッセイの数種のバリアントが記載されてきた。
角膜は、in vivo無血管性(avascular)部位を提示する。従って、角膜縁(limbus)から角膜実質へと貫入するいかなる血管も、新たに形成されたものとして同定することができる。血管新生応答を誘導するため、血管新生物質(すなわち、VEGFのFGF-2)を含有する持続放出ポリマーペレット[すなわち、ポリ-2-ヒドロキシエチル-メタクリレート(ヒドロン)又はエチレン-酢酸ビニルコポリマー(ELVAX)]を、ウサギの角膜実質に作製された「ポケット」に植え込む。また、多種多様な組織、細胞、細胞抽出物及び条件培地が、角膜における血管新生に対するその効果に関して試験された。血管応答は、墨汁(India ink)による角膜の灌流後のコンピュータ画像解析により定量化することができる。角膜を回収し、本明細書に提供されているプラットフォーム方法を用いて解析することができる。
マトリゲル(登録商標)は、エンジェルブレス・ホーム・スワーン(Engelbreth-Holm-Swarm)マウス肉腫として公知のマウス基底膜新生物のマトリクスである。これは、ラミニン、コラーゲンIV型、ヘパラン硫酸、フィブリン並びにEGF、TGF-b、PDGF及びIGF-1を包含する増殖因子を包含する、基底膜タンパク質の複雑な混合物である。これは本来、in vitroにおける内皮細胞分化を研究するために開発された。しかし、マトリゲル(登録商標)含有FGF-2は、マウスに皮下注射することができる。マトリゲル(登録商標)は、4℃では液体であるが、37℃で固体ゲルを形成して増殖因子を閉じ込め、その持続放出を可能にする。典型的には、10日後にマトリゲル(登録商標)栓を取り除き、栓切片において組織学的又は形態計測学的に血管新生を定量化する。マトリゲル(登録商標)栓を回収し、本明細書に提供されているプラットフォーム方法を用いて解析することができる。
2.In vitro疾患モデル
生物システム又は過程の一例は癌である。その他の複雑な生物学的過程又はシステムと同様に、癌は、複数の独特な側面により特徴付けられる複雑な病理学的状態である。例えば、その速い成長速度のため、多くの癌細胞は、低酸素条件で成長するよう適応され、上方調節された解糖及び低下された酸化的リン酸化代謝経路を有する。その結果、癌細胞は、同じ処理に応答した正常細胞による反応と比較して、潜在的な薬物による処理等、環境変動に対し異なって反応し得る。よって、正常細胞の応答と比較して、薬物処理に対する癌の独特な応答を解読することは興味深いであろう。このため、注文癌モデルを確立して、in vivoにおける腫瘍における癌細胞の条件に近似する細胞培養条件を創出することにより、例えば、in vivoにおける腫瘍内の癌細胞の環境をシミュレートすることができる、或いは癌細胞の異なる成長条件を単離することにより、癌成長の様々な側面を模倣することができる。
係る癌「環境」又は成長ストレス条件の一つは、低酸素であり、これは、固形腫瘍内に典型的に見出される条件である。低酸素は、本技術分野において認識される方法を用いて細胞において誘導することができる。例えば、低酸素は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業用ガス混合物を充満させることができる、モジュラーインキュベーターチャンバー(Modular Incubator Chamber)(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、カリフォルニア州デル・マー)内に細胞系を置くことにより誘導することができる。効果は、追加的な外部刺激構成要素あり及びなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、低酸素処理後の予め定められた期間の後、例えば、24時間目に測定することができる。
同様に、細胞の乳酸処理は、in vivoにおける腫瘍環境に存在する通り、解糖活性が高い細胞環境を模倣する。乳酸に誘導されたストレスは、追加的な外部刺激構成要素あり又はなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、約12.5mMの最終乳酸濃度で、予め定められた時間、例えば、24時間目に調査することができる。
高血糖は、正常には、糖尿病に見出される状態である。しかし、多くの癌細胞は、その主要エネルギー源としてグルコースに依存するため、高血糖はまた、癌成長の一側面をある程度模倣する。典型的高血糖条件への対象細胞の曝露は、培地におけるグルコースの最終濃度が約22mMになるような、適した培地への10%培養グレードのグルコースの添加を包含し得る。
癌成長の異なる側面を反映する個々の条件は、特注の癌モデルにおいて別々に調査することができる、及び/又は一体に組み合わせることができる。一実施形態において、癌成長/条件の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の条件の組み合わせが、特注の癌モデルにおいて調査される。一実施形態において、個々の条件と、加えて、癌成長/条件の異なる側面を反映又はシミュレートする条件のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の組み合わせが、特注の癌モデルにおいて調査される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30又は10〜50種の間の異なる条件となることができる。
本明細書において、細胞の処理に用いることのできる条件のいくつかの例示的な組み合わせを下に列挙する。他の組み合わせは、行われている特異的な照合による生物学的評価に応じて容易に考案することができる。
1. 培地のみ
2. 50μM CTLコエンザイムQ10(CoQ10)3. 100μM CTLコエンザイムQ10
4. 12.5mM乳酸
5. 12.5mM乳酸+50μM CTLコエンザイムQ10
6. 12.5mM乳酸+100μM CTLコエンザイムQ10
7. 低酸素
8. 低酸素+50μM CTLコエンザイムQ10
9. 低酸素+100μM CTLコエンザイムQ10
10. 低酸素+12.5mM乳酸
11. 低酸素+12.5mM乳酸+50μM CTLコエンザイムQ10
12. 低酸素+12.5mM乳酸+100μM CTLコエンザイムQ10
13. 培地+22mMグルコース
14. 50μM CTLコエンザイムQ10+22mMグルコース
15. 100μM CTLコエンザイムQ10+22mMグルコース
16. 12.5mM乳酸+22mMグルコース
17. 12.5mM乳酸+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
18. 12.5mM乳酸+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10
19. 低酸素+22mMグルコース
20. 低酸素+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
21. 低酸素+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10
22. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース
23. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
24. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10。
癌独特なタンパク質又は経路(下を参照)を同定するため、対照として、1種以上の正常細胞株(例えば、THLE2及びHDFa)を同様の条件下で培養する。対照は、上述の比較細胞モデルとなり得る。
同じ又は異なる起源の複数の癌細胞(例えば、癌系列PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7)は、単一の癌細胞型とは対照的に、癌モデルに包含され得る。特定の状況において、異なる癌細胞(例えば、HepG2及びPaCa2)間のクロストーク又はECS実験は、いくつかの相互に関係する目的で行うことができる。
クロストークに関与する一部の実施形態において、細胞モデルにおいて行われる実験が設計されて、定義された処理条件(例えば、高血糖、低酸素(虚血))下における、別の細胞系又は集団(例えば、膵臓癌PaCa2)による、ある細胞系又は集団(例えば、肝細胞がん細胞HepG2)の細胞の状態又は機能のモジュレーションを決定する。典型的な設定に従うと、第1の細胞系/集団は、候補分子(例えば、薬物小分子、タンパク質)又は候補条件(例えば、低酸素、高グルコース環境)等、外部刺激構成要素に接触される。それに応答して、第1の細胞系/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させて、細胞内部及び外部の両方で容易に検出することができる変化を生じる。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定することができ、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定することができ、メタボロームの変化は、所定の代謝物に特異的に設計されたアッセイによる複数の標的代謝物のレベルにより測定することができる。或いは、少なくとも特定の分泌された代謝物又はタンパク質に関するメタボローム及び/又はプロテオームの上述の変化は、第2の細胞系/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを包含する第2の細胞系/集団に対するその効果により測定することもできる。従って、実験は、異なる処理条件下における、第2の細胞系/集団に対する第1の細胞系/集団により分泌された対象の分子(複数可)の効果の同定に用いることができる。実験は、例えば、プロテオミクスの差次的スクリーニングにより、第1の細胞系(外部刺激構成要素処理に応答した)から別の細胞系へのシグナル伝達の結果モジュレートされる、いずれかのタンパク質の同定に用いることもできる。2種の細胞系の間の相反効果を評価することもできるように、同じ実験設定を逆の設定に適応させることもできる。一般に、この種の実験に関して、細胞株ペアの選択の大部分は、起源、疾患状態及び細胞機能等の因子に基づく。
2細胞系は、典型的にはこの種の実験設定に関与するが、例えば、別々の固体支持体に別個の細胞系それぞれを固定化することにより、3種以上の細胞系のために同様の実験を設計することもできる。
注文モデルを組み立てたら、患者間の遺伝的変異又は特定の薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なし等、1種以上の「変動」をシステムに適用することができる。図15Dを参照されたい。疾患関連癌細胞及び疾患関連正常対照細胞に対する効果を包含する、システムに対する係る変動の効果は、下のセクションIII.Bに記載されている、様々な本技術分野において認識されている又は専売の(proprietary)手段を用いて測定することができる。
例示的な実験において、癌系列PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7並びに正常細胞株THLE2及びHDFaは、高血糖、低酸素及び乳酸豊富条件のそれぞれ並びにこれらの条件の2又は3種のあらゆる組み合わせにおいて、加えて、環境変動、具体的にはコエンザイムQ10による処理あり又はなしで条件付けされる。
本明細書に記載されているステップを行うことにより、特注の細胞モデルを確立して、これを本発明のプラットフォーム技術のステップを通じて用いて、最終的に生物システムに独特の因果関係を同定することができる。しかし、当業者であれば、生物学的過程の初期「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に用いられる特注の細胞モデルが、例えば、追加的な癌若しくは正常細胞株及び/又は追加的な癌条件の導入により、連続的に進化又は経時的に拡張させることができることを理解できよう。進化した細胞モデルから得られた追加的なデータ、すなわち、細胞モデルの新たに加えられた部分(複数可)から得たデータを収集することができる。続いて、より強固な「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために、拡張又は進化した細胞モデル、すなわち、細胞モデルの新たに加えられた部分(複数可)から収集された新たなデータを、「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に以前に用いたデータセットに導入することができる。続いて、「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークから、生物システムに独特な新たな因果関係を同定することができる。このようにして、細胞モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、これにより、生物システムのモジュレーターに関する新たな及び/又はより信頼のおける洞察をもたらす。
特注の細胞モデルの追加的な例は、本明細書において詳細に記載されている。
B.データ収集
一般に、いずれかの特注のモデル系から2種類のデータを収集することができる。1種類のデータ(例えば、第1のセットのデータ、第3のセットのデータ)は通常、DNA、RNA、タンパク質、脂質等、特定の巨大分子のレベルに関係する。このカテゴリーにおける例示的なデータセットは、プロテオミクスデータ(例えば、試料由来のあらゆる又は実質的にあらゆる測定可能タンパク質の発現に関する定性的及び定量的データ)である。他の種類のデータは、一般に、第1の種類のデータの変化に起因する表現型変化を反映する機能データ(例えば、第2のセットのデータ、第4のセットのデータ)である。
第1の種類のデータに関して、一部の例の実施形態において、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びプロテオミクスが実施されて、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びプロテオミクスによる細胞mRNA及びタンパク質発現の変化をプロファイルする。全RNAは、市販のRNA単離キットを用いて単離することができる。cDNA合成後に、血管新生、アポトーシス及び糖尿病等、疾患区域又は細胞過程に特異的な市販のqPCRアレイ(例えば、SA Biosciences製)を用いて、メーカーの説明書に従って遺伝子の予め定められたセットをプロファイルすることができる。例えば、Biorad cfx-384増幅システムは、あらゆる転写プロファイリング実験に用いることができる。データ収集(Ct)後に、メーカーのプロトコールに概要が述べられているδCt方法を用いて、対照に対する最終倍数変化を決定することができる。プロテオミクス試料解析は、後続のセクションに記載されている通りに実施することができる。
対象方法は、同様の特性の数百種の試料の大規模ハイスループット定量的プロテオミクス解析を用いることができ、細胞出力差次の同定に必要なデータをもたらす。
この目的に適した多数の本技術分野において認識されている技術が存在する。例示的な技法である、質量分析と組み合わせたiTRAQ解析を下に簡潔に記載する。
定量的プロテオミクスアプローチは、8-plex iTRAQ試薬による安定的同位体標識並びにペプチド同定及び定量化のための2D-LC MALDI MS/MSに基づく。この技法による定量化は相対的である。ペプチド及びタンパク質は、参照試料に相対的な存在比を割り当てられる。複数のiTRAQ実験における共通参照試料は、複数のiTRAQ実験にわたる試料の比較を容易にする。
例えば、この解析スキームを実行するため、メーカーの示唆するところに従って、6種の一次試料及び2種の対照プール試料を8-plex iTRAQミックスに組み合わせることができる。続いて、8種の試料のこの混合物を二次元液体クロマトグラフィー(一次元目に強(strong)カチオン交換(SCX)、二次元目に逆相HPLC)により分画することができ、次いで質量分析による解析に付すことができる。
用いることのできる例示的な研究室手順の概略は、本明細書に提供されている。
タンパク質抽出:細胞をプロテアーゼ阻害剤(Thermo Scientific Haltプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー)入り8M尿素溶解バッファーにより溶解し、10分毎に5秒間ボルテックス(vertex)しつつ、氷上で30分間インキュベートすることができる。5秒間パルスの超音波処理により溶解を完了することができる。細胞ライセートを14000×gで15分間(4℃)遠心分離して、細胞デブリを除去することができる。ブラッドフォード(Bradford)アッセイを行って、タンパク質濃度の決定を実施することができる。各試料由来の100ugのタンパク質を還元(10mMジチオスレイトール(DTT)、55℃、1時間)し、アルキル化(25mMヨードアセトアミド、室温、30分間)し、トリプシンで消化(1:25w/w、200mM重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)、37℃、16時間)することができる。
セクレトーム試料調製:1)一実施形態において、細胞を無血清培地において培養することができる。条件培地を凍結乾燥機により濃縮し、還元(10mMジチオスレイトール(DTT)、55℃、1時間)し、アルキル化(25mMヨードアセトアミド、室温にて30分間インキュベート)し、次いでアセトン(actone)沈殿により脱塩することができる。濃縮された条件培地由来の等量のタンパク質をトリプシンで消化(1:25 w/w、200mM重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)、37℃、16時間)することができる。
一実施形態において、細胞を血清含有培地において培養することができる。3k MWCO Vivaspinカラム(GE Healthcare Life Sciences)を用いて培地の容量を低下させ、次いで1×PBS(Invitrogen)で再構成することができる。AlbuVoidカラム(Biotech Support Group、LLC)を用いて、条件培地適用に最適化するためにバッファー交換を修正しつつメーカーの説明書に従って、全試料から血清アルブミンを枯渇させることができる。
iTRAQ 8 Plex標識:各実験セットにおける各トリプシン消化物由来のアリコートを一体にプールして、プールされた対照試料を作製することができる。メーカーのプロトコール(AB Sciex)に従ってiTRAQ 8 Plex試薬により、各試料及びプールされた対照試料由来の等量のアリコートを標識することができる。反応物を組み合わせ、真空で乾固し、0.1%ギ酸を添加することにより再懸濁し、LC-MS/MSにより解析することができる。
2D-NanoLC-MS/MS:全標識ペプチド混合物を、オンライン2D-nanoLCにより分離し、エレクトロスプレータンデム質量分析により解析することができる。実験は、ナノエレクトロスプレーイオン源(Thermo Electron、ドイツ、ブレーメン)を備えるLTQ Orbitrap Velos質量分析計に接続されたEksigent 2D NanoLC Ultraシステムにおいて行うことができる。
ペプチド混合物を、5cm SCXカラム(300μm ID、5μm、ポリスルホエチルアスパルトアミド(PolySULFOETHYL Aspartamide)カラム、PolyLC製、メリーランド州コロンビア)に流速4μL/分で注射し、10個のイオン交換溶出セグメントにおいてC18トラップカラム(2.5cm、100μm ID、5μm、300Å ProteoPep II、New Objective製、マサチューセッツ州ウォバーン)へと溶出させ、H2O/0.1%FAで5分間洗浄することができる。続いて、2〜45%B(H2O/0.1%FA(溶媒A)及びACN/0.1%FA(溶媒B))の勾配を用いて300nL/分で120分間、15cm融解石英カラム(75μm ID、5μm、300Å ProteoPep II、New Objective製、マサチューセッツ州ウォバーン)において分離を更に行うことができる。
Orbitrapにおいて分解能30,000により、フルスキャンMSスペクトル(m/z 300〜2000)を取得することができる。高エネルギーC-トラップ解離(HCD)を用いて断片化のために最も強いイオン(最大10種)を連続して単離し、30秒間動的に除外することができる。HCDは、単離幅1.2Daで行うことができる。orbitrapにおいて分解能7500により、得られた断片イオンをスキャンすることができる。LTQ Orbitrap Velosは、Xcalibur2.1とfoundation1.0.1により制御することができる。
ペプチド/タンパク質同定及び定量化:ペプチド及びタンパク質は、SwissProtデータベースに対するMascot検索エンジンを備えるProteome Discovererソフトウェア(Thermo Electron)を用いた自動データベース検索により同定することができる。検索パラメータは、MSトレランス(tolerance)に対し10ppm、MS2トレランスに対し0.02Da及び最大2個の切断見逃しを許す完全トリプシン消化を包含し得る。カルバミドメチル化(Carbamidomethylation)(C)は、固定された修飾として設定することができる。酸化(M)、TMT6及び脱アミド(NQ)は、動的な修飾として設定することができる。ペプチド及びタンパク質同定は、Mascot有意閾値(p<0.05)によりフィルターをかけることができる。フィルターは、タンパク質同定の99%信頼レベルを許可することができる(1%FDA)。
Proteome Discovererソフトウェアは、レポーターイオンに補正因子を適用することができ、あらゆる定量化チャネルが存在する訳でなければ、あらゆる定量化値を拒絶することができる。相対的タンパク質定量化は、平均強度における正規化により成し遂げることができる。
第2の種類のデータに関して、一部の例示的な実施形態において、癌及び正常モデルの生体エネルギープロファイリングは、Seahorse(商標)XF24分析計を用いて、解糖及び酸化的リン酸化構成要素の理解を可能にすることができる。
具体的には、Seahorse培養プレート上に最適密度で細胞を蒔くことができる。これらの細胞を100μlの培地又は処理溶液において蒔き、5%CO2を有する37℃インキュベーター内に放置することができる。2時間後、細胞を24ウェルプレートに接着させる際に、追加的な150μlの培地又は処理溶液のいずれかを添加し、プレートを培養インキュベーター内に一晩放置することができる。この二段階播種手順は、培養プレートにおける細胞の均等な分布を可能にする。酸素及びpHのセンサーを含有するSeahorseカートリッジは、37℃の非CO2インキュベーター内で較正液において一晩給水させることができる。3種のミトコンドリア薬が、典型的に、カートリッジにおける3種のポートにロードされる。オリゴマイシン;複合体III阻害剤、FCCP;脱共役剤及びロテノン;複合体I阻害剤を、カートリッジのそれぞれポートA、B及びCにロードすることができる。全ストック薬は、緩衝されていない(unbuffered)DMEM培地において10×濃度で調製することができる。まず、カートリッジを、非CO2インキュベーター内でアッセイ前に約15分間ミトコンドリア化合物と共にインキュベートすることができる。Seahorse培養プレートは、正常成長培地に見出される濃度のグルコースを含有する、DMEMに基づく緩衝されていない培地において洗浄することができる。細胞を630ulの緩衝されていない培地で積層し、前較正したカートリッジを備えるSeahorse機器に置く前に非CO2インキュベーター内で平衡化(equilibriate)することができる。機器は、ポートを通した薬物の注射が始まる前に、ベースラインを得るために混合、待機及び測定サイクルによる3〜4ループを作動することができる。次の薬物が導入される前に2ループがあってもよい。
OCR(酸素消費速度)及びECAR(細胞外(Extracullular)酸性化速度)を、7μlチャンバーにおける電極により記録し、seahorse培養プレートを押しつけるカートリッジにより創出することができる。
C.データ統合及びin silicoモデル作成
関連するデータセットが得られたら、AIに基づくインフォマティクスシステム又はプラットフォーム(例えば、REFS(商標)プラットフォーム)を用いて、データセットの統合及びコンピュータ実行統計モデルの作成を実施することができる。例えば、例示的なAIに基づくシステムは、代謝性エンドポイント(ECAR/OCR)の主要なドライバーとしてタンパク質関連のシミュレーションに基づくネットワークを作り出すことができる。図15を参照されたい。REFS(商標)システムに関するいくつかの背景詳細は、ここに本明細書の一部を構成するものとしてこれらそれぞれの内容全体を明確に援用する、Xingら、「Causal Modeling Using Network Ensemble Simulations of Genetic and Gene Expression Data Predicts Genes Involved in Rheumatoid Arthritis」、PLoS Computational Biology、7巻、3号、1〜19(2011年3月)(e100105)及び米国特許第7,512,497号明細書、Periwalに見出すことができる。要するに、先に記載されている通り、REFS(商標)システムは、数学的アルゴリズムを用いて入力変数(例えば、タンパク質発現レベル、mRNA発現レベル及びSeahorse培養プレートにおいて測定されるOCR/ECAR値等の対応する機能データ)間の因果関係を確立する、AIに基づくシステムである。このプロセスは、潜在的な、確立された及び/又は確認された生物学的関係性に関する先行する既存の知識を考慮することなく、入力データ単独のみに基づく。
特に、本発明のプラットフォームの顕著な利点は、AIに基づくシステムが、生物学的過程に関する本技術分野におけるいかなる既存の知識に頼る又は考慮することもなく、細胞モデルから得られるデータセットに基づくことである。更に、好ましくはデータ点は、統計的に又は人為的にカットオフされず、代わりに、得られたデータは全て、タンパク質関連を決定するためにAIシステムに読み込まれる。従って、プラットフォームから作成された、その結果得られた統計モデルは、いかなる公知の生物学的関係性も考慮しないため不偏性である。
具体的には、プロテオミクス及びECAR/OCR由来のデータは、上に記載されている通り、データ関連に基づき統計モデルを組み立てるAIに基づく情報システムに入力することができる。続いて、次の方法を用いて、タンパク質関連のシミュレーションに基づくネットワークが、処理及び条件を包含する疾患対正常シナリオ毎に導かれる。
作成された(例えば、最適化又は進化された)ネットワークを組み立てるための例示的なプロセスの詳細な説明を、図16に関して下に記す。上に記載されている通り、プロテオミクス及び機能的細胞データ由来のデータをAIに基づくシステムに入力する(ステップ210)。生データ又は最小処理データとなり得る入力データに、正規化を包含し得る前処理(pre-process)を行う(例えば、分位関数又は内部標準を用いる)(ステップ212)。前処理は、欠測データ値の帰属化も包含し得る(例えば、K-最近傍(K-NN)アルゴリズムの使用による)(ステップ212)。
前処理されたデータを用いて、ネットワーク断片ライブラリーを構築する(ステップ214)。ネットワーク断片は、測定された変数(入力データ)のあらゆる可能な小セット(例えば、2〜3種のメンバーセット又は2〜4種のメンバーセット)の間の定量的、連続的な関係性を定義する。断片における変数間の関係性は、直線、ロジスティック、多項性、優性又は劣性ホモ接合性等となり得る。各断片における関係性に、候補関係性が入力データを与えられる可能性を反映し、また、その数学的複雑性のため関係性にペナルティーを科すベイズ確率スコアを割り当てる。入力データから推論される可能なペアワイズ及び3方向の関係性(及び一部の実施形態においては、4方向の関係性も)の全てのスコア化により、ライブラリーにおける最も可能性の高い断片を同定することができる(可能性の高い断片)。入力データに基づき関係性の定量的パラメータもコンピュータ処理し、断片毎に記憶する。直線回帰、ロジスティック回帰、(分散分析)ANOVAモデル、(共分散分析)ANCOVAモデル、非直線/多項式回帰モデル、更には非パラメトリック回帰等が挙げられるがこれらに限定されない断片列挙において、様々なモデル型を用いることができる。モデルパラメータに関する先の仮定は、モデルにおいて用いたパラメータ数に関係するガル(Gull)分布又はベイズ情報量基準(BIC)ペナルティーを仮定することができる。ネットワーク推論プロセスにおいて、断片ライブラリーにおける断片の部分集合から、初期試行ネットワークのアンサンブルにおける各ネットワークを構築する。断片ライブラリー由来の断片の異なる部分集合により、初期試行ネットワークのアンサンブルにおける各初期試行ネットワークを構築する(ステップ216)。
Xingら、「Causal Modeling Using Network Ensemble Simulations of Genetic and Gene Expression Data Predicts Genes Involved in Rheumatoid Arthritis」、PLoS Computational Biology、7巻、3号、1〜19(2011年3月)(e100105)に基づく、ベイズネットワーク及びネットワーク断片の根底にある数学的表現の概説を下に提示する。
による多変量システムは、多数のパラメータΘを包含する多変量確率分布関数
により特徴付けることができる。多変量確率分布関数を因数分解し、ローカル条件付き確率分布の積により表すことができる
である、そのKi親変数を与えられたその非派生(descendent)変数とは独立的である)。因数分解後に、各ローカル確率分布は、それ自身のパラメータΘiを有する。
多変量確率分布関数は、異なる仕方で因数分解することができ、各特定の因数分解及び対応するパラメータは、別個の確率的モデルである。各特定の因数分解(モデル)は、変数
における変数間の依存性を表す頂点間の有向性エッジを有する、有向非巡回グラフ(Directed Acrylic Graph)(DAC)で表すことができる。それぞれ頂点及び関連する有向性エッジを包含するDAGの部分グラフは、ネットワーク断片である。
モデルは、入力データに与えられる最も可能性の高い因数分解及び最も可能性の高いパラメータを決定することにより、進化又は最適化される。これは、「ベイズネットワークの学習」として記載することができる、或いは言い換えると、入力データのトレーニングセットを与えると、入力データに最もよく適合するネットワークを見出す。これは、入力データに関して各ネットワークを評定するスコア化関数を用いることにより達成される。
ベイズフレームワークを用いて、入力データを与えられた因数分解の尤度を決定する。ベイズ法は、データDを与えられたモデルMの事後確率
が、モデルの事前確率P(M)を乗じたモデル仮定を与えられたデータの事後確率
の積の積に比例すると述べ、データの確率P(D)が、モデルにわたって一定であることを仮定する。これは、次の方程式
において表現される。モデルを仮定するデータの事後確率は、パラメータの事前分布にわたるデータ尤度の積分
である。あらゆるモデルに等しく可能性がある(すなわち、P(M)が定数である)と仮定すると、データDを与えられたモデルMの事後確率は、次式
の通り、ローカルネットワーク断片M
i毎のパラメータにわたる積分の積に因数分解される。上の方程式において、最高次の定数項が省略されていることに留意されたい。一部の実施形態において、モデルの事後確率
の負の対数を取るベイズ情報量基準(BIC)を用いて、次式
(式中、モデルMの総スコアS
totは、ローカルネットワーク断片毎のローカルスコアS
iの和である)の通り、各モデルを「スコア化」することができる。BICは、個々のネットワーク断片毎のスコアを決定するための表現を更に与える
(式中、κ(Mi)は、モデルMiにおける適合パラメータの数であり、Nは、試料(データ点)の数である)。SMLE(Mi)は、ネットワーク断片毎に用いた機能的関係性から計算することのできる、ネットワーク断片の尤度関数の負の対数である。BICスコアに関して、スコアが低い程、モデルが入力データに一致する可能性が高くなる。
試行ネットワークのアンサンブルは網羅的に最適化され、これを最適化又は進化ネットワークとして記載することができる(ステップ218)。例えば、試行ネットワークは、メトロポリスモンテカルロ(Metropolis Monte Carlo)サンプリングアルゴリズム(alogorithm)に従って進化及び最適化させることができる。シミュレートされたアニーリングを用いて、ローカル変換によりアンサンブルにおける各試行ネットワークを最適化又は進化させることができる。シミュレートされたアニーリングプロセスの一例において、各試行ネットワークは、ライブラリーからネットワーク断片を加えることにより、試行ネットワークからネットワーク断片を削除することにより、ネットワーク断片を置換することにより、或いは他の仕方でネットワークトポロジーを変化させることにより変化され、次いでネットワークの新たなスコアが計算される。一般的に言えば、スコアが改善する場合、変化は続けられ、スコアが悪化する場合、変化は拒絶される。「温度」パラメータは、スコアを悪化させる一部のローカル変化を続けさせ、これは、一部のローカル最小値の回避における最適化プロセスを助ける。「温度」パラメータは、経時的に減少して、最適化/進化プロセスを収束させる。
ネットワーク推論プロセスの全て又は一部は、異なる試行ネットワークのために並行して行うことができる。各ネットワークは、別々のプロセッサ及び/又は別々の計算装置において並行して最適化することができる。一部の実施形態において、最適化プロセスは、並行して操作する数百から数千個のプロセッサを取り込むスーパーコンピュータにおいて行うことができる。情報は、並行プロセッサにおいて行われる最適化プロセスの間で共有することができる。
最適化プロセスは、スコア全体に関して閾値標準を満たさないあらゆるネットワークをアンサンブルから落すネットワークフィルターを包含し得る。落されたネットワークは、新たな初期ネットワークに置き換えることができる。更に、「スケールフリー」ではないあらゆるネットワークをアンサンブルから落すことができる。ネットワークのアンサンブルが最適化又は進化された後、結果を作成された細胞モデルネットワークのアンサンブルと呼ぶことができ、これは、作成されたコンセンサスネットワークとまとめて称することができる。
D.定量的関係性情報を抽出するため及び予測のためのシミュレーション
シミュレーションを用いて、作成された細胞モデルネットワークにおける各関係性に関する定量的パラメータ情報を抽出することができる(ステップ220)。例えば、定量的情報抽出のためのシミュレーションは、ネットワークにおける各ノードの10倍の変動(増加又は減少)及びモデルにおける他のノード(例えば、タンパク質)の事後分布の計算に関与し得る。1群当たり100試料の仮定及び0.01有意性カットオフによるt検定により、エンドポイントを比較する。t検定統計値は、100回のt検定の中央値である。このシミュレーション技法の使用により、予測の強度を表すAUC(曲線下面積)及びエンドポイントを駆動するノードのin silico規模を表す倍数変化が、ネットワークのアンサンブルにおける関係性毎に作成される。
ローカルコンピュータシステムの関係性定量化モジュールを用いて、AIに基づくシステムに、変動を実施してAUC情報及び倍数情報を抽出するよう指示することができる。抽出された定量的情報は、親ノード(note)を子ノードに接続するエッジ毎の倍数変化及びAUCを包含し得る。一部の実施形態において、特注のRプログラムを用いて、定量的情報を抽出することができる。
一部の実施形態において、作成された細胞モデルネットワークのアンサンブルをシミュレーションにより用いて、条件における変化に対する応答を予測することができ、これは後に、ウェットラボの細胞に基づく又は動物に基づく実験により確認することができる。
AIに基づくシステムの出力は、定量的関係性パラメータ及び/又は他のシミュレーション予測となり得る(222)。
E.差次的(デルタ)ネットワークの作成
差次的ネットワーク創出モジュールを用いて、作成された細胞モデルネットワーク及び作成された比較細胞モデルネットワークの間で差次的(デルタ)ネットワークを作成することができる。上に記載されている通り、一部の実施形態において、差次的ネットワークは、作成された細胞モデルネットワーク及び作成された比較細胞モデルネットワークにおける関係性の定量的パラメータの全てを比較する。差次的ネットワークにおける関係性毎の定量的パラメータは、比較に基づく。一部の実施形態において、差次は、デルタ-デルタネットワークと呼ぶことのできる様々な差次的ネットワークの間で実施することができる。デルタ-デルタネットワークの例は、実施例セクションにおいて図26に関して下に記載されている。差次的ネットワーク創出モジュールは、PERLで書かれたプログラム又はスクリプトとなり得る。
F.ネットワークの可視化
ネットワークのアンサンブル及び差次的ネットワークの関係性の値は、ネットワーク可視化プログラム(例えば、複雑なネットワーク解析のためのサイトスケープ(Cytoscape)オープンソースプラットフォーム及びサイトスケープ(Cytoscape)コンソーシアムからの可視化)を用いて可視化することができる。ネットワークの視覚的描写において、各エッジ(例えば、タンパク質を接続する各線)の厚さは、倍数変化の強度を表す。エッジは、因果関係を示す方向性でもあり、各エッジは、関連した予測信頼レベルを有する。
G.例示的なコンピュータシステム
図17は、AIに基づくインフォマティクスシステムと連絡するための、差次的ネットワークを作成するための、ネットワークを可視化するための、データをセーブ及び記憶するための、及び/又はユーザーと相互作用するための、一部の実施形態において用いることのできる例示的なコンピュータシステム/環境を模式的に描写する。上に説明されている通り、AIに基づくインフォマティクスシステムのための計算は、例示的なコンピュータシステムと直接的に又は間接的に相互作用する数百又は数千個の並行プロセッサを備える別々のスーパーコンピュータにおいて実施することができる。環境は、関連する周辺装置を備える計算装置100を包含する。計算装置100は、本明細書において教示されている様々な方法又は方法の部分を実施するための実行可能コード150の実行をプログラム可能である。計算装置100は、ハード・ドライブ、CD-ROM又は非一過性コンピュータ可読媒体等、記憶装置116を包含する。記憶装置116は、オペレーティング・システム118及び他の関係するソフトウェアを記憶することができる。計算装置100は、メモリ106を更に包含することができる。メモリ106は、DRAM、SRAM、EDO RAM等、コンピュータシステムメモリ又はランダムアクセスメモリを含むことができる。メモリ106は、同様に他の種類のメモリ又はこれらの組み合わせを含むことができる。計算装置100は、記憶装置116及び/又はメモリ106において実行可能コード150の各部分を実行及び処理するための命令を記憶することができる。
実行可能コード150は、AIに基づくインフォマティクスシステム190と連絡するための、差次的ネットワークを作成するための(例えば、差次的ネットワーク創出モジュール)、AIに基づくインフォマティクスシステム由来の定量的関係性情報を抽出するための(例えば、関係性定量化モジュール)、及びネットワークを可視化するための(例えば、サイトスケープ(Cytoscape))、コードを包含することができる。
一部の実施形態において、計算装置100は、AIに基づくインフォマティクスシステム190(例えば、REFSを実行するためのシステム)と直接的に又は間接的に連絡することができる。例えば、計算装置100は、ネットワークを通じてAIに基づくインフォマティクスシステム190へとデータファイル(例えば、データフレーム)を移動させることにより、AIに基づくインフォマティクスシステム190と連絡することができる。更に、計算装置100は、AIに基づくインフォマティクスシステム190にインターフェース及び命令を提供する実行可能コード150を有することができる。
一部の実施形態において、計算装置100は、入力データセットのためのデータを提供する1個以上の実験システム180と直接的に又は間接的に連絡することができる。データを作成するための実験システム180は、質量分析に基づくプロテオミクス、マイクロアレイ遺伝子発現、qPCR遺伝子発現、質量分析に基づくメタボロミクス及び質量分析に基づくリピドミクス、SNPマイクロアレイ、機能アッセイのパネル並びに他のin-vitro生物学プラットフォーム及び技術のためのシステムを包含することができる。
計算装置100は、メモリ106に記憶されたソフトウェア並びに他のシステムハードウェア、周辺装置及び/又は周辺ハードウェアを制御するためのプログラムを実行するためのプロセッサ102も包含し、1個以上の追加的なプロセッサ(複数可)102'を包含することができる。プロセッサ102及びプロセッサ(複数可)102'はそれぞれ、単一のコアプロセッサ又は複数のコア(104及び104')プロセッサとなり得る。計算装置におけるインフラストラクチャー及びリソースを動的に共有することができるように、計算装置100において仮想化を用いることができる。仮想化されたプロセッサは、記憶装置116における実行可能コード150及び他のソフトウェアと共に用いることもできる。プロセスが、複数ではなく1個のコンピュータ処理リソースのみを用いているように見えるように、仮想機械114を配置して、複数のプロセッサにおいて作動するプロセスを取り扱うことができる。複数の仮想機械を1個のプロセッサと共に用いることもできる。
ユーザーは、ユーザーインターフェース124又はその他のインターフェースを表示することのできるコンピュータのモニタ等の視覚的表示装置122を通じて計算装置100と相互作用することができる。表示装置122のユーザーインターフェース124を用いて、生データ、ネットワークの視覚的表現等を表示することができる。視覚的表示装置122は、例示的な実施形態の他の態様又は要素(例えば、記憶装置116のアイコン)を表示することもできる。計算装置100は、ユーザーからの入力を受け取るためのキーボード又はマルチポイントタッチインターフェース(例えば、タッチスクリーン)108及びポインティング装置110(例えば、マウス、トラックボール及び/又はトラックパッド)等、他のI/O装置を包含することができる。キーボード108及びポインティング装置110は、有線及び/又は無線接続を介して視覚的表示装置122及び/又は計算装置100に接続することができる。
計算装置100は、標準電話回線、LAN又はWANリンク(例えば、802.11、T1、T3、56kb、X.25)、ブロードバンド接続(例えば、ISDN、Frame Relay、ATM)、無線接続、コントローラーエリアネットワーク(CAN)又は上述のいずれか一部の組み合わせ若しくは全て等が挙げられるがこれらに限定されない種々の接続を通じて、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)又はインターネットを介してネットワーク装置126とインターフェース接続するためのネットワークインターフェース112を包含することができる。ネットワークインターフェース112は、内蔵ネットワークアダプタ、ネットワークインターフェースカード、PCMCIAネットワークカード、カードバスネットワークアダプタ、無線ネットワークアダプタ、USBネットワークアダプタ、モデム、又は計算装置100を情報伝達可能ないずれかの種類のネットワークとインターフェース接続させ、本明細書に記載されている操作を実施させるのに適したその他の装置を含むことができる。
更に、計算装置100は、ワークステーション、デスクトップコンピュータ、サーバー、ノート型パソコン、ハンドヘルドコンピュータ、又は情報伝達可能であり、本明細書に記載されている操作の実施に十分なプロセッサ能力及びメモリ容量を有する他の形態のコンピュータ処理若しくは遠隔通信装置等、いかなるコンピュータシステムであってもよい。
計算装置100は、MICROSOFT WINDOWS(登録商標)オペレーティング・システムのバージョンのいずれか、Unix(登録商標)及びLinux(登録商標)オペレーティング・システムの様々な版(release)、Macintoshコンピュータ用のMACOSのいずれかのバージョン、いずれかの組み込まれたオペレーティング・システム、いずれかのリアルタイムオペレーティング・システム、いずれかのオープンソースオペレーティング・システム、いずれかの専売のオペレーティング・システム、モバイル計算装置用のいずれかのオペレーティング・システム、又は計算装置において作動することができ、本明細書に記載されている操作を実施することのできるその他のオペレーティング・システム等、いずれかのオペレーティング・システム118を作動させることができる。オペレーティング・システムは、ネイティブモード又はエミュレート型モードで作動することができる。
IV.生物システムのモデル及びその使用
A.生物システムのモデルの確立
事実上あらゆる生物システム又は過程は、異なる細胞型及び/又は器官系の間の複雑な相互作用に関与する。ある細胞型又は器官における重大な機能の変動は、他の相互作用する細胞型及び器官に二次効果をもたらし、続いて係る下流の変化は、初期変化へとフィードバックし、更に別の複雑化を引き起こし得る。従って、生物システム又は過程のより完全な網羅的観点を得るために、所定の生物システム又は過程を、細胞型又は器官のペア間の相互作用等、その構成要素まで解剖し、このような構成要素間の相互作用を体系的に探索することが有益である。
従って、本発明は、生物システムの細胞モデルを提供する。このため、本出願人らは、対象の発見プラットフォーム技術において用いられてきた数種の例示的な生物システムの細胞モデルを組み立てた。本出願人らは、対象の発見プラットフォーム技術を用いて細胞モデルによる実験を行って、生物システムに独特な因果関係を包含するコンセンサス因果関係ネットワークを作成し、これにより、特定の生物システム又は過程に重要な「モジュレーター」又は重大な分子「ドライバー」を同定した。
プラットフォーム技術並びにその構成要素、例えば、特注の細胞モデル及び細胞モデルから得られるデータセットの顕著な利点の一つは、生物システム又は過程に対し作成された初期「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークが、例えば、追加的な細胞株/型及び/又は追加的な条件の導入により連続的に進化又は経時的に拡張することができることである。進化した細胞モデル由来の追加的なデータ、すなわち、細胞モデルの新たに加えられた部分(複数可)から得たデータを収集することができる。続いて、より強固な「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために、拡張又は進化した細胞モデル、すなわち、細胞モデルの新たに加えられた部分(複数可)から収集された新たなデータを、「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に以前に用いたデータセットに導入することができる。続いて、「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークから、生物システムに独特な新たな因果関係を同定することができる。このようにして、細胞モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、これにより、生物システムのモジュレーターに関する新たな及び/又はより信頼のおける洞察をもたらす。このようにして、細胞モデル、細胞モデル由来のデータセット及びプラットフォーム技術方法を用いて細胞モデルから作成された因果関係ネットワークが共に、絶えず進化し、プラットフォーム技術から得られた以前の知識の上に組み立てることができる。
従って、本発明は、プラットフォーム技術において用いられた細胞モデルから作成されたコンセンサス因果関係ネットワークを提供する。このようなコンセンサス因果関係ネットワークは、第1世代のコンセンサス因果関係ネットワークであっても、複数世代のコンセンサス因果関係ネットワーク、例えば、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20世代以上のコンセンサス因果関係ネットワークであってもよい。更に、本発明は、プラットフォーム技術において用いられた細胞モデルから作成されたシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークを提供する。このようなシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークは、第1世代のシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークであっても、複数世代のシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワーク、例えば、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17、第18、第19、第20世代以上のシミュレートされたコンセンサス因果関係ネットワークであってもよい。本発明は、本発明のコンセンサス因果関係ネットワークのいずれかから作成されたデルタネットワーク及びデルタ-デルタネットワークを更に提供する。
生物システム又は過程の特注の細胞モデルは、生物システムに関連する1種以上の細胞を含む。生物システム/過程のモデルを確立して、生物システム又は過程の特徴的な側面を模倣する条件(例えば、細胞培養条件)を創出することにより、生物システムの環境、例えば、in vivoにおける癌細胞の環境をシミュレートすることができる。
同じ又は異なる起源の複数の細胞が、単一の細胞型とは対照的に、細胞モデルにおいて包含され得る。一実施形態において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50種以上の異なる細胞株又は細胞型が、細胞モデルにおいて包含される。一実施形態において、細胞は全て同じ型のもの、例えば、全て乳癌細胞又は植物細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば、乳癌細胞又は植物細胞の異なる樹立細胞株である。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる細胞株又は細胞型となることができる。
本発明の細胞モデルに包含され得る細胞型の例として、ヒト細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母、細菌又は真菌(fungae)が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態において、細胞モデルの細胞は、癌細胞又は細菌若しくはウイルス感染細胞等、罹患細胞を包含し得る。一実施形態において、細胞モデルの細胞は、糖尿病、肥満又は心血管疾患状態に関与する細胞、例えば、大動脈平滑筋細胞又は肝細胞等、疾患関連細胞を包含し得る。当業者であれば、特定の生物学的状態/過程、例えば、疾患状態/過程に関与又は関連する細胞を認識することができ、係る細胞のいずれが本発明の細胞モデルに包含されてもよい。
本発明の細胞モデルは、1種以上の「対照細胞」を包含し得る。一実施形態において、対照細胞は、未処理又は無変動細胞となり得る。別の一実施形態において、「対照細胞」は、正常、例えば、非罹患細胞となり得る。一実施形態において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50種以上の異なる対照細胞が、細胞モデルに包含される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる対照細胞株又は対照細胞型となることができる。一実施形態において、対照細胞は全て同じ型のものであるが、該細胞型の異なる樹立細胞株である。一実施形態において、生物学的状態又は過程に独特なタンパク質又は経路を同定するために、対照として、1種以上の正常、例えば、非罹患細胞株が同様の条件下で培養される、及び/又は細胞モデルの初代細胞と同じ変動に曝露される。
本発明の注文細胞モデルは、生物学的状態又は過程の特徴的な側面を模倣する条件を含むこともできる。例えば、in vivoにおける腫瘍環境における癌細胞又は心血管疾患を患う患者の大動脈平滑筋細胞の条件に近似する細胞培養条件を選択することができる。場合によっては、条件は、ストレス条件である。本発明の細胞モデルにおいて様々な条件/ストレス要因を用いることができる。一実施形態において、このようなストレス要因/条件は、細胞系の「変動」、例えば、外部刺激を構成することができる。例示的なストレス条件の一つは低酸素であり、これは、例えば固形腫瘍内に典型的に見出される条件である。低酸素は、本技術分野において認識されている方法を用いて誘導することができる。例えば、低酸素は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業用ガス混合物を充満させることのできる、モジュラーインキュベーターチャンバー(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、カリフォルニア州デル・マー)内に細胞系を置くことにより誘導することができる。効果は、追加的な外部刺激構成要素あり及びなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、低酸素処理後の予め定められた期間の後、例えば、24時間目に測定することができる。同様に、乳酸処理は、解糖活性が高い細胞環境を模倣する。乳酸に誘導されたストレスは、追加的な外部刺激構成要素あり又はなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、約12.5mMの最終乳酸濃度で、予め定められた時間、例えば、24時間目に調査することができる。高血糖は、糖尿病及び癌に見出される条件である。対象細胞の処理に用いることのできる典型的な高血糖条件は、10%培養グレードのグルコースを包含し、これは適した培地に添加されて、培地におけるグルコースの最終濃度を約22mMとする。高脂血症は、例えば、肥満及び心血管疾患に見出される条件である。高脂血症条件は、0.15mMパルミチン酸ナトリウムを含有する培地において細胞を培養することによりもたらすことができる。高インスリン血症は、例えば、糖尿病に見出される条件である。高インスリン型条件は、1000nMインスリンを含有する培地において細胞を培養することにより誘導することができる。
個々の条件は、本発明の特注の細胞モデルにおいて別々に調査することができる、及び/又は一体に組み合わせることができる。一実施形態において、生物システムの異なる特徴的な側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の条件の組み合わせが、特注の細胞モデルにおいて調査される。一実施形態において、個々の条件と、加えて、生物システムの異なる特徴的な側面を反映又はシミュレートする条件のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50種以上の組み合わせが、特注の細胞モデルにおいて調査される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30又は10〜50種の間の異なる条件となることができる。
注文細胞モデルが組み立てられると、患者間の遺伝的変異又は特定の薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なし等、1種以上の「変動」をシステムに適用することができる。図15Dを参照されたい。細胞モデル系に対する係る変動の効果は、下のセクションIII.Bに記載されている通り、様々な本技術分野において認識されている又は専売の手段を用いて測定することができる。
特注の細胞モデルは、変動、例えば、「環境変動」又は「外部刺激構成要素」に曝露させることができる。「環境変動」又は「外部刺激構成要素」は、細胞環境に対し内因性であっても(例えば、細胞環境は、あるレベルの刺激物質を含有し、これが更に添加されて、そのレベルを増加させる)、細胞環境に対し外因性であってもよい(例えば、刺激物質/変動は、変更前の細胞環境には殆ど存在しない)。外部刺激構成要素は、細胞系により細胞環境へと分泌される分子等、細胞系の細胞出力を変化させ得るため、細胞環境は、環境変動又は外部刺激構成要素を加えることによる二次変化により更に変更され得る。環境変動又は外部刺激構成要素は、細胞機能に影響を与えることのできるいずれかの外部物理学的及び/又は化学的刺激を包含し得る。これは、いずれかの大型又は小型の有機又は無機分子、天然又は合成化学物質、温度シフト、pH変化、放射線照射、光(UVA、UVB等)、マイクロ波、音波、電流、変調された又は変調されない磁場等を包含し得る。環境変動又は外部刺激構成要素は、導入される遺伝的改変若しくは突然変異又は遺伝的改変/突然変異を引き起こす媒体(例えば、ベクター)も包含し得る。
(i)クロストーク細胞系
特定の状況において、2種以上の細胞系の間の相互作用の調査が望まれる場合、第1の細胞系の修飾された細胞環境を第2の細胞系と接触させて、第2の細胞系の細胞出力に影響を与えることにより、「クロストーク細胞系」を形成することができる。
本明細書において、「クロストーク細胞系」は、2種以上の細胞系を含み、該2種以上の細胞系において、少なくとも1種の細胞系の細胞環境は、第2の細胞系における少なくとも1種の細胞出力が変化又は影響されるように、第2の細胞系と接触させられる。特定の実施形態において、クロストーク細胞系内の細胞系は、互いに直接接触されている。他の実施形態において、細胞系のいずれも、互いに直接接触されていない。
例えば、特定の実施形態において、クロストーク細胞系は、第1の細胞系が挿入区画において育成され、第2の細胞系が対応するウェル区画において育成される、トランスウェルの形態となり得る。2種の細胞系を同じ又は異なる培地と接触させ、培地構成要素の一部又は全てを交換することができる。一方の細胞系に添加された外部刺激構成要素は、一方の細胞系により実質的に吸収され得る、及び/又は他方の細胞系へと拡散する機会を得る前に分解され得る。或いは、外部刺激構成要素は、最終的に2種の細胞系内で平衡に接近又は到達する。
特定の実施形態において、クロストーク細胞系は、別々に培養された細胞系の形態を採用することができ、各細胞系は、それ自身の培地及び/又は培養条件(温度、CO2含量、pH等)、又は同様の若しくは同一の培養条件を有することができる。例えば、一方の細胞系由来の馴化培地を採取し、これを別の細胞系と接触させることにより、2種の細胞系を接触させることができる。2種の細胞系の間の直接的な細胞-細胞接触を必要ならもたらすこともできる。例えば、2種の細胞系の細胞は、必要ならいずれかの時点で共培養し、後に、例えば、少なくとも一方の細胞系における細胞が選別可能なマーカー又は標識(安定的に発現される蛍光マーカータンパク質GFP等)を有する場合は、共培養された細胞系をFACS選別により分離することができる。
同様に、特定の実施形態において、クロストーク細胞系は、単純に共培養物であってよい。まず、一方の細胞系における細胞を処理した後に、別の細胞系における細胞との共培養において処理細胞を培養することにより、一方の細胞系における細胞の選択的処理をもたらすことができる。共培養クロストーク細胞系設定は、例えば、外部刺激構成要素による第1の細胞系の刺激後に、第1の細胞系における細胞表面変化によりもたらされる第2の細胞系に対する効果を研究することが望まれる場合に役立つことができる。
本発明のクロストーク細胞系は、一方又は両方の細胞系の細胞出力に対する特定の予め定められた外部刺激構成要素の効果の探るのに特に適している。第1の細胞系(刺激と直接的に接触する)における係る刺激の一次効果は、第1の細胞系と外部刺激との接触前後に、細胞出力(例えば、タンパク質発現レベル)を比較することにより決定することができ、これは本明細書において、「(有意な)細胞出力差次」と称され得る。第1の細胞系の修飾された細胞環境により媒介される、第2の細胞系における係る刺激の二次効果(そのセクレトーム等)を同様に測定することもできる。そこで、例えば、第2の細胞系のプロテオームにおける比較は、第1の細胞系における外部刺激処理ありの第2の細胞系のプロテオームと、第1の細胞系における外部刺激処理なしの第2の細胞系のプロテオームとの間で行うことができる。観察される(プロテオーム又はその他の対象の細胞出力の)いずれかの有意な変化は、「有意な細胞クロストーク差次」と称され得る。
細胞出力測定値(タンパク質発現等)の作成において、絶対発現量又は相対発現レベルのいずれかを用いることができる。例えば、第2の細胞系の相対タンパク質発現レベルを決定するために、第1の細胞系への外部刺激あり又はなしにおける、第2の細胞系におけるいずれか所定のタンパク質の量を適した対照細胞株及び細胞株の混合物と比較し、倍数増加又は倍数減少値を得ることができる。係る倍数増加(例えば、少なくとも1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75又は100倍以上の倍数増加)又は倍数減少(例えば、少なくとも0.95、0.9、0.8、0.75、0.7、0.6、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2、0.15、0.1若しくは0.05倍又は90%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%若しくは5%以下の減少)の予め定められた閾値レベルを用いて、有意な細胞クロストーク差次を選択することができる。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1.5〜5倍の間、2〜10倍の間、1〜2倍の間又は0.9〜0.7倍の間となることができる。
本願を通して、例えば、上述の値等、リストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもできる。
図解のため、心血管疾患モデルの側面を真似るよう確立された例示的な2細胞系の一例において、心臓平滑筋細胞株(第1の細胞系)を低酸素条件(外部刺激構成要素)で処理し、心臓平滑筋の馴化培地と腎臓細胞との接触に起因する腎臓細胞株(第2の細胞系)におけるプロテオーム変化を、従来の定量的質量分析を用いて測定することができる。このような腎臓細胞における有意な細胞クロストーク差次は、適切な対照(例えば、低酸素条件で処理されていない同様に培養された心臓平滑筋細胞由来の馴化培地と接触された、同様に培養された腎臓細胞)との比較に基づき決定することができる。
観察された有意な細胞クロストーク差次の全てに生物学的意義があるとは限らない。対象の照合による生物学的評価が適用されるいずれか所定の生物システムに関して、有意な細胞クロストーク差次の一部(又は恐らくは全て)が、問題になっている特異的生物学的課題に関して「決定的」となり得る、例えば、病状をもたらす原因である(治療介入の潜在的な標的)、或いは病状のバイオマーカーである(潜在的な診断又は予後因子)。
係る決定的なクロストーク差次は、対象方法のエンドユーザーにより選択され得る、或いはDAVID対応比較経路解析プログラム又はKEGG経路解析プログラム等、バイオインフォマティクスソフトウェアプログラムにより選択され得る。特定の実施形態において、2種以上のバイオインフォマティクスソフトウェアプログラムが用いられ、2種以上のバイオインフォマティクスソフトウェアプログラム由来のコンセンサス結果が好ましい。
本明細書において、細胞出力の「差次」は、細胞出力のいずれか1種以上のパラメータの差(例えば、レベルの増加又は減少)を包含する。例えば、タンパク質発現レベルの観点から、外部刺激構成要素による処理前後の細胞系に関連する出力等、2種の細胞出力の間の差次は、質量分析に基づくアッセイ(例えば、iTRAQ、2D-LC-MSMS等)等、本技術分野において認識されている技術を用いることにより測定及び定量化することができる。
(ii)癌特異的モデル
生物システム又は過程の一例は癌である。その他の複雑な生物学的過程又はシステムと同様に、癌は、複数の独特な側面により特徴付けられる複雑な病理学的状態である。例えば、その速い成長速度のため、多くの癌細胞は、低酸素条件で成長するよう適応され、上方調節された解糖及び低下された酸化的リン酸化代謝経路を有する。その結果、癌細胞は、同じ処理に応答した正常細胞による反応と比較して、潜在的な薬物による処理等、環境変動に対し異なって反応し得る。よって、正常細胞の応答と比較して、薬物処理に対する癌の独特な応答を解読することは興味深いであろう。このため、注文癌モデルを確立して、例えば、適切な癌細胞株を選び、疾患状態又は過程の特徴的な側面を模倣する細胞培養条件を創出することにより、in vivoにおける腫瘍内の癌細胞の環境をシミュレートすることができる。例えば、in vivoにおける腫瘍内の癌細胞の条件に近似する、或いは癌細胞の異なる成長条件を単離することにより、癌成長の様々な側面を模倣する、細胞培養条件を選択することができる。
同じ又は異なる起源の複数の癌細胞(例えば、癌系列PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7)は、単一の癌細胞型とは対照的に、癌モデルにおいて包含され得る。一実施形態において、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50種以上の異なる癌細胞株又は癌細胞型が、癌モデルにおいて包含される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる癌細胞株又は細胞型となることができる。
一実施形態において、癌細胞は全て同じ型のものである、例えば、全て乳癌細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば、乳癌の異なる樹立細胞株である。
癌モデルにおいて包含され得る癌細胞型の例として、肺癌、乳癌、前立腺癌、メラノーマ、扁平上皮がん、結腸直腸癌、膵臓癌、甲状腺癌、子宮内膜癌、膀胱癌、腎臓癌、固形腫瘍、白血病、非ホジキンリンパ腫が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態において、薬物抵抗性癌細胞が癌モデルにおいて包含され得る。癌モデルにおいて包含され得る細胞株の具体例として、PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7細胞が挙げられるがこれらに限定されない。多数の癌細胞株が本技術分野において公知であり、係る癌細胞株のいずれが本発明の癌モデルにおいて包含されてもよい。
本発明の細胞モデルは、1種以上の「対照細胞」を包含することができる。一実施形態において、対照細胞は、未処理又は無変動癌細胞となり得る。別の一実施形態において、「対照細胞」は、正常非癌性細胞となり得る。多数の正常非癌性細胞株のいずれか1種が細胞モデルにおいて包含され得る。一実施形態において、正常細胞は、THLE2及びHDFa細胞のうち1種以上である。一実施形態において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50種以上の異なる正常細胞型が癌モデルにおいて包含される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる正常細胞株又は細胞型となることができる。一実施形態において、正常細胞は全て同じ型のものである、例えば、全て健康な上皮又は乳房細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば、上皮又は乳房細胞の異なる樹立細胞株である。一実施形態において、癌独特なタンパク質又は経路を同定するため、対照として、1種以上の正常非癌性細胞株(例えば、THLE2及びHDFa)は、同様の条件下で培養される、及び/又は細胞モデルの癌細胞と同じ変動に曝露される。
注文癌モデルは、癌性状態又は過程の特徴的な側面を模倣する細胞培養条件を含むこともできる。例えば、in vivoにおける腫瘍環境における癌細胞の条件に近似する、或いは癌細胞の異なる成長条件を単離することにより、癌成長の様々な側面を模倣する、細胞培養条件を選択することができる。場合によっては、細胞培養条件はストレス条件である。
係る癌「環境」又はストレス条件の一つは、低酸素であり、これは、固形腫瘍内に典型的に見出される条件である。低酸素は、本技術分野において認識されている方法を用いて細胞において誘導することができる。例えば、低酸素は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業用ガス混合物を充満させることのできるモジュラーインキュベーターチャンバー(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、カリフォルニア州デル・マー)内に細胞系を置くことにより誘導することができる。効果は、追加的な外部刺激構成要素あり及びなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、低酸素処理後の予め定められた期間の後、例えば、24時間目に測定することができる。
同様に、細胞の乳酸処理は、in vivoにおける腫瘍環境に存在する通り、解糖活性が高い細胞環境を模倣する。乳酸で誘導されたストレスは、追加的な外部刺激構成要素あり又はなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、約12.5mMの最終乳酸濃度で、予め定められた時間、例えば、24時間目に調査することができる。
高血糖は、正常には、糖尿病において見出される条件である。しかし、多くの癌細胞は、その主要エネルギー源としてグルコースに依存するため、高血糖はまた、癌成長の一側面をある程度模倣する。典型的高血糖条件への対象細胞の曝露は、培地におけるグルコースの最終濃度が約22mMになるような、適した培地への10%培養グレードのグルコースの添加を包含することができる。
癌成長の異なる側面を反映する個々の条件は、特注の癌モデルにおいて別々に調査することができる、及び/又は一体に組み合わせることができる。一実施形態において、癌成長/条件の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の条件の組み合わせが、特注の癌モデルにおいて調査される。一実施形態において、個々の条件と、加えて、癌成長/条件の異なる側面を反映又はシミュレートする条件のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の組み合わせが、特注の癌モデルにおいて調査される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30又は10〜50種の間の異なる条件となることができる。
注文細胞モデルが組み立てられると、患者間の遺伝的変異又は特定の薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なし等、1種以上の「変動」をシステムに適用することができる。図15Dを参照されたい。疾患関連癌細胞及び疾患関連正常対照細胞に対する効果を包含する、システムに対する係る変動の効果は、下のセクションIII.Bに記載されている通り、様々な本技術分野において認識されている又は専売の手段を用いて測定することができる。
例示的な実験において、癌系列PaCa2、HepG2、PC3及びMCF7並びに正常細胞株THLE2及びHDFaは、高血糖、低酸素及び乳酸豊富条件のそれぞれ並びにこれらの条件の2又は3種のあらゆる組み合わせにおいて、加えて、環境変動、具体的には、コエンザイムQ10による処理あり又はなしで条件付けされる。本明細書において、癌細胞モデルの癌細胞及び/又は対照(例えば、正常)細胞の処理に用いることのできる、変動、コエンザイムQ10処理あり又はなしの係る例示的な条件の組み合わせを下に列挙する。他の組み合わせは、行われている特異的な照合による生物学的評価に応じて容易に考案することができる。
1. 培地のみ
2. 50μM CTLコエンザイムQ10
3. 100μM CTLコエンザイムQ10
4. 12.5mM乳酸
5. 12.5mM乳酸+50μM CTLコエンザイムQ10
6. 12.5mM乳酸+100μM CTLコエンザイムQ10
7. 低酸素
8. 低酸素+50μM CTLコエンザイムQ10
9. 低酸素+100μM CTLコエンザイムQ10
10. 低酸素+12.5mM乳酸
11. 低酸素+12.5mM乳酸+50μM CTLコエンザイムQ10
12. 低酸素+12.5mM乳酸+100μM CTLコエンザイムQ10
13. 培地+22mMグルコース
14. 50μM CTLコエンザイムQ10+22mMグルコース
15. 100μM CTLコエンザイムQ10+22mMグルコース
16. 12.5mM乳酸+22mMグルコース
17. 12.5mM乳酸+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
18. 12.5mM乳酸+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10
19. 低酸素+22mMグルコース
20. 低酸素+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
21. 低酸素+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10
22. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース
23. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース+50μM CTLコエンザイムQ10
24. 低酸素+12.5mM乳酸+22mMグルコース+100μM CTLコエンザイムQ10。
特定の状況において、異なる癌細胞(例えば、HepG2及びPaCa2)間のクロストーク又はECS実験は、いくつかの相互に関係する目的のために行うことができる。クロストークに関与する一部の実施形態において、細胞モデルにおいて行われる実験が設計されて、定義された処理条件(例えば、高血糖、低酸素(虚血))下における別の細胞系又は集団(例えば、膵臓癌PaCa2)による、ある細胞系又は集団(例えば、肝細胞がん細胞HepG2)の細胞状態又は機能のモジュレーションを決定する。典型的な設定に従うと、第1の細胞系/集団は、候補分子(例えば、薬物小分子、タンパク質)又は候補条件(例えば、低酸素、高グルコース環境)等、外部刺激構成要素に接触させられる。それに応答して、第1の細胞系/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させ、細胞内部及び外部の両方で容易に検出することができる変化をもたらす。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定することができ、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定することができ、メタボロームの変化は、所定の代謝物に特異的に設計されたアッセイによる複数の標的代謝物のレベルにより測定することができる。或いは、少なくとも特定の分泌された代謝物又はタンパク質に関するメタボローム及び/又はプロテオームの上述の変化は、第2の細胞系/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを包含する、第2の細胞系/集団に対するその効果により測定することもできる。従って、実験を用いて、異なる処理条件下における第2の細胞系/集団に対する第1の細胞系/集団により分泌された対象の分子(複数可)の効果を同定することができる。実験を用いて、例えば、プロテオミクスの差次的スクリーニングにより、第1の細胞系(外部刺激構成要素処理に応答した)から別の細胞系へのシグナル伝達の結果モジュレートされるいずれかのタンパク質を同定することもできる。2種の細胞系の間の相反効果も評価できるように、同じ実験設定を逆の設定に適応させることもできる。一般に、この種の実験に関して、細胞株ペアの選択の大部分は、起源、疾患状態及び細胞機能等の因子に基づく。
2細胞系は、典型的には、この種の実験設定に関与するが、例えば、それぞれ別個の細胞系を別々の固体支持体に固定化することにより、3種以上の細胞系のために同様の実験を設計することもできる。
特注の癌モデルを確立し、本発明のプラットフォーム技術のステップを通して用いて、本明細書に記載されているステップを行うことにより、生物システムに独特の因果関係を最終的に同定することができる。しかし、当業者であれば、初期「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に用いられた特注の癌モデルが、例えば、追加的な癌若しくは正常細胞株及び/又は追加的な癌条件の導入により、連続的に進化又は経時的に拡張することができることを理解されよう。進化した癌モデル由来の追加的なデータ、すなわち、癌モデルの新たに加えられた部分(複数可)由来のデータを収集することができる。続いて、より強固な「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために、拡張又は進化した癌モデル、すなわち、癌モデルの新たに加えられた部分(複数可)から収集された新たなデータを、「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に以前に用いたデータセットに導入することができる。続いて、「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークから、癌状態に独特な(又は変動に対する癌状態の応答に独特な)新たな因果関係を同定することができる。このようにして、癌モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、これにより、癌状態の決定的なドライバー(又はモジュレーター)に関する新たな及び/又はより信頼のおける洞察をもたらす。
(iii)糖尿病/肥満/心血管疾患細胞モデル
生物システム又は過程の他の例は、糖尿病、肥満及び心血管疾患である。癌と同様に、糖尿病、肥満及び心血管疾患の関連する疾患状態は、複数の独特な側面により特徴付けられる複雑な病理学的状態である。糖尿病/肥満/心血管疾患の病理発生を駆動するタンパク質/経路を同定することは興味深いであろう。正常細胞の応答と比較して、薬物処理に対する糖尿病/肥満/心血管疾患に関連する細胞の独特の応答を解読することも興味深いであろう。このため、注文糖尿病/肥満/心血管モデルを確立し、適切な細胞株を選び、疾患状態又は過程の特徴的な側面を模倣する細胞培養条件を創出することにより、疾患に関連する細胞により経験される環境をシミュレートすることができる。例えば、高血糖、高脂血症、高インスリン血症、低酸素又は乳酸豊富条件に近似する細胞培養条件を選択することができる。
糖尿病/肥満/心血管疾患に関連するいかなる細胞が、糖尿病/肥満/心血管疾患モデルにおいて包含されてもよい。糖尿病/肥満/心血管疾患に関連する細胞の例として、例えば、脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)及び近位尿細管細胞(例えば、HK2)が挙げられる。同じ又は異なる起源の複数の細胞型は、単一の細胞型とは対照的に、糖尿病/肥満/心血管疾患モデルに包含され得る。一実施形態において、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50種以上の異なる細胞型が、糖尿病/肥満/心血管疾患モデルに包含される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる細胞型となることができる。一実施形態において、細胞は全て同じ型のものである、例えば、全て脂肪細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば、異なる樹立脂肪細胞細胞株である。糖尿病/肥満/心血管疾患状態に関与する多数の他の細胞型が、本技術分野において公知であり、係る細胞のいずれが、本発明の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルにおいて包含されてもよい。
本発明の糖尿病/肥満/心血管疾患細胞モデルは、1種以上の「対照細胞」を包含することができる。一実施形態において、対照細胞は、未処理又は無変動の疾患関連細胞、例えば、高脂血症又は高インスリン型条件に曝露されていない細胞となり得る。別の一実施形態において、「対照細胞」は、上皮細胞等、非疾患関連細胞となり得る。多数の非疾患関連細胞のうちいずれか1種が、細胞モデルに包含され得る。一実施形態において、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50種以上の異なる非疾患関連細胞型が、細胞モデルに包含される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、2〜5又は5〜15種の間の異なる非疾患関連細胞株又は細胞型となることができる。一実施形態において、非疾患関連細胞は全て同じ型のものである、例えば、全て健康な上皮又は乳房細胞であるが、異なる樹立細胞株、例えば、上皮又は乳房細胞の異なる樹立細胞株である。一実施形態において、糖尿病/肥満/心血管疾患に独特なタンパク質又は経路を同定するために、対照として、1種以上の非疾患関連細胞株が、同様の条件下で培養される、及び/又は細胞モデルの疾患関連細胞と同じ変動に曝露される。
注文糖尿病/肥満/心血管疾患モデルは、糖尿病/肥満/心血管疾患状態又は過程の特徴的な側面を模倣する(その病態生理学を表す)細胞培養条件を含むこともできる。例えば、in vivoにおけるその環境における糖尿病/肥満/心血管疾患に関連する細胞の条件に近似する、或いは糖尿病/肥満/心血管疾患の様々な側面を模倣する細胞培養条件を選択することができる。場合によっては、細胞培養条件はストレス条件である。
糖尿病/肥満/心血管疾患の病態生理学を表す例示的な条件として、例えば、低酸素、乳酸豊富条件、高血糖、高脂血症(hyperlimidemia)及び高インスリン血症のうちいずれか1種以上が挙げられる。低酸素は、本技術分野において認識されている方法を用いて細胞において誘導することができる。例えば、低酸素は、5%CO2、2%O2及び93%窒素を含有する工業用ガス混合物を充満させることのできるモジュラーインキュベーターチャンバー(MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、カリフォルニア州デル・マー)内に細胞系を置くことにより誘導することができる。効果は、追加的な外部刺激構成要素あり及びなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、低酸素処理後の予め定められた期間の後、例えば、24時間目に測定することができる。
同様に、細胞の乳酸処理は、解糖活性が高い細胞環境を模倣する。乳酸に誘導されたストレスは、追加的な外部刺激構成要素あり又はなしで(例えば、0、50又は100μMのCoQ10)、約12.5mMの最終乳酸濃度で、予め定められた時間、例えば、24時間目に調査することができる。高血糖は、糖尿病において見出される条件である。典型的高血糖条件への対象細胞の曝露は、培地におけるグルコースの最終濃度が約22mMになるような、適した培地への10%培養グレードのグルコースの添加を包含し得る。高脂血症は、肥満及び心血管疾患において見出される条件である。高脂血症条件は、0.15mMパルミチン酸ナトリウムを含有する培地において細胞を培養することによりもたらすことができる。高インスリン血症は、糖尿病において見出される条件である。高インスリン型条件は、1000nMインスリンを含有する培地において細胞を培養することにより誘導することができる。
糖尿病/肥満/心血管疾患の病態生理学を表す追加的な条件は、例えば、炎症、小胞体ストレス、ミトコンドリアストレス及びペルオキシソームストレスのうちいずれか1種以上を包含する。細胞において炎症様条件を創出するための方法は、本技術分野において公知のものである。例えば、炎症性条件は、TNFアルファ及び/又はIL-6の存在下で細胞を培養することによりシミュレートすることができる。小胞体ストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も本技術分野において公知のものである。例えば、小胞体ストレスをシミュレートする条件は、タプシガルジン及び/又はツニカマイシンの存在下で細胞を培養することにより創出することができる。ミトコンドリアストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も本技術分野において公知のものである。例えば、ミトコンドリアストレスをシミュレートする条件は、ラパマイシン及び/又はガラクトースの存在下で細胞を培養することにより創出することができる。ペルオキシソームストレスをシミュレートする条件を創出するための方法も本技術分野において公知のものである。例えば、ペルオキシソームストレスをシミュレートする条件は、アブシシン酸の存在下で細胞を培養することにより創出することができる。
糖尿病/肥満/心血管疾患の異なる側面を反映する個々の条件は、特注の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルにおいて別々に調査することができる、及び/又は一体に組み合わせることができる。一実施形態において、糖尿病/肥満/心血管疾患の異なる側面を反映又はシミュレートする少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の条件の組み合わせは、特注の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルにおいて調査される。一実施形態において、個々の条件と、加えて、糖尿病/肥満/心血管疾患の異なる側面を反映又はシミュレートする条件のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50種以上の組み合わせは、特注の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルにおいて調査される。前述のリストに提示されているあらゆる値は、本発明の一部であると企図される範囲の上限又は下限となることもでき、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30又は10〜50種の間の異なる条件となることができる。
注文細胞モデルが組み立てられると、患者間の遺伝的変異又は特定の薬物若しくはプロドラッグによる処置あり/なし等、1種以上の「変動」をシステムに適用することができる。図15Dを参照されたい。糖尿病/肥満/心血管疾患関連細胞に対する効果を包含する、システムに対する係る変動の効果は、下のセクションIII.Bに記載されている通り、様々な本技術分野において認識されている又は専売の手段を用いて測定することができる。
例示的な実験において、脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)及び近位尿細管細胞(HK2)のそれぞれは、高血糖、低酸素、高脂血症、高インスリン血症及び乳酸豊富条件のそれぞれ並びに2、3、4及び全5種の条件のあらゆる組み合わせにおいて、加えて、環境変動、具体的には、コエンザイムQ10による処置あり又はなしで、条件付けされる。癌モデルの文脈における上述の条件の例示的な組み合わせに加えて、本明細書において、糖尿病/肥満/心血管疾患細胞モデルの糖尿病/肥満/心血管疾患に関連する細胞(及び/又は対照細胞)の処理に用いることのできる変動、例えば、コエンザイムQ10処理あり又はなしの、数例の追加的な例示的な条件組み合わせを下に列挙する。これらは単に、例示的なものとして企図されており、当業者であれば、糖尿病/肥満/心血管疾患の病態生理学を表す上述の条件のいずれか個々及び/又は組み合わせを細胞モデルにおいて用いて、出力データセットを作り出すことができることを認められよう。他の組み合わせは、行われている特異的な照合による生物学的評価に応じて容易に考案することができる。
1. 培地のみ
2. 50μM CTLコエンザイムQ10
3. 100μM CTLコエンザイムQ10
4. 0.15mMパルミチン酸ナトリウム
5. 0.15mMパルミチン酸ナトリウム+50μM CTLコエンザイムQ10
6. 0.15mMパルミチン酸ナトリウム+100μM CTLコエンザイムQ10
7. 1000nMインスリン
8. 1000nMインスリン+50μM CTLコエンザイムQ10
9. 1000nMインスリン+100μM CTLコエンザイムQ10
10. 1000nMインスリン+0.15mMパルミチン酸ナトリウム
11. 1000nMインスリン+0.15mMパルミチン酸ナトリウム+50μM CTLコエンザイムQ10
12. 1000nMインスリン+0.15mMパルミチン酸ナトリウム+100μM CTLコエンザイムQ10。
特定の状況において、異なる疾患関連細胞(例えば、HASMC及びHK2細胞、又は肝臓細胞及び脂肪細胞)の間のクロストーク又はECS実験は、いくつかの相互に関係する目的のために行うことができる。クロストークに関与する一部の実施形態において、細胞モデルにおいて行われる実験が設計されて、定義された処理条件(例えば、高血糖、低酸素、高脂血症、高インスリン血症)下における別の細胞系又は集団(例えば、脂肪細胞)による、ある細胞系又は集団(例えば、肝臓細胞)の細胞状態又は機能のモジュレーションを決定する。典型的な設定に従うと、第1の細胞系/集団は、候補分子(例えば、薬物小分子、タンパク質)又は候補条件(例えば、低酸素、高グルコース環境)等、外部刺激構成要素に接触させられる。それに応答して、第1の細胞系/集団は、そのトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及び/又はインタラクトームを変化させ、細胞内部及び外部の両方で容易に検出することができる変化をもたらす。例えば、トランスクリプトームの変化は、複数の標的mRNAの転写レベルにより測定することができ、プロテオームの変化は、複数の標的タンパク質の発現レベルにより測定することができ、メタボロームの変化は、所定の代謝物に特異的に設計されたアッセイによる複数の標的代謝物のレベルにより測定することができる。或いは、少なくとも特定の分泌された代謝物又はタンパク質に関するメタボローム及び/又はプロテオームの上述の変化は、第2の細胞系/集団のトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム及びインタラクトームのモジュレーションを包含する、第2の細胞系/集団に対するその効果により測定することもできる。従って、実験を用いて、異なる処理条件下において、第2の細胞系/集団に対する第1の細胞系/集団により分泌された対象の分子(複数可)の効果を同定することができる。実験を用いて、例えば、プロテオミクスの差次的スクリーニングにより、第1の細胞系(外部刺激構成要素処理に応答する)から別の細胞系へのシグナル伝達の結果モジュレートされるいずれかのタンパク質を同定することもできる。2種の細胞系の間の相反効果も評価できるように、同じ実験設定を逆の設定に適応させることもできる。一般に、この種の実験に関して、細胞株ペアの選択の大部分は、起源、疾患状態及び細胞機能等の因子に基づく。
2細胞系は、典型的には、この種の実験設定に関与するが、例えば、それぞれ別個の細胞系を別々の固体支持体に固定化することにより、3種以上の細胞系のために同様の実験を設計することもできる。
特注の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルを確立し、本発明のプラットフォーム技術のステップを通じて用いて、本明細書に記載されているステップを行うことにより、最終的に糖尿病/肥満/心血管疾患状態に独特な因果関係を同定することができる。しかし、当業者であれば、丁度癌モデルと同様に、初期「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に用いられた特注の糖尿病/肥満/心血管疾患モデルが、例えば、追加的な疾患関連細胞株及び/又は追加的な疾患関連条件の導入により、連続的に進化又は経時的に拡張することができることを理解されよう。進化した糖尿病/肥満/心血管疾患モデル由来の追加的なデータ、すなわち、癌モデルの新たに加えられた部分(複数可)由来のデータを収集することができる。続いて、より強固な「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークを作成するために、拡張又は進化したモデル、すなわち、モデルの新たに加えられた部分(複数可)から収集された新たなデータは、「第1世代」コンセンサス因果関係ネットワークの作成に以前に用いたデータセットに導入することができる。続いて、「第2世代」コンセンサス因果関係ネットワークから、糖尿病/肥満/心血管疾患状態に独特な(又は変動に対する糖尿病/肥満/心血管疾患状態の応答に独特な)新たな因果関係を同定することができる。このようにして、糖尿病/肥満/心血管疾患モデルの進化は、コンセンサス因果関係ネットワークの進化をもたらし、これにより、糖尿病/肥満/心血管疾患状態の決定的なドライバー(又はモジュレーター)に関する新たな及び/又はより信頼のおける洞察をもたらす。
B.照合による生物学的評価のための細胞モデルの使用
本発明において提供されている方法及び細胞モデルは、任意の数の「照合による生物学的評価」に用いる又は適用することができる。照合による生物学的評価のための本発明の方法の使用は、生物システムの「モジュレーター」又は決定的な細胞過程「ドライバー」の同定を容易にする。
本明細書において、「照合による生物学的評価」は、生物システムの1種以上のモジュレーター、例えば、環境変動若しくは外部刺激構成要素に関連する決定的な細胞過程「ドライバー」(例えば、生物学的経路又は経路の主要なメンバー又は経路のメンバーに対する主要な調節因子の活性の増加又は減少)又は生物システム又は過程に独特な、独特な因果関係の同定を包含することができる。これは、in vivo動物モデル及び/又はin vitro組織培養実験を包含する、同定された決定的な細胞過程ドライバーが、環境変動又は外部刺激構成要素に関連する下流の事象に必要である及び/又は十分であるか検査又は確認するよう設計された追加的なステップを更に包含することができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、疾患状態の診断又はステージ分類であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特なクロストーク差次又は因果関係)は、治療介入に付され得る疾患マーカー又は治療標的のいずれかを表す。対象照合による生物学的評価は、理論的にはあらゆる病状に適しているが、腫瘍学/癌生物学、糖尿病、肥満、心血管疾患及び神経学的状態(特に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び加齢神経変性等が挙げられるがこれらに限定されない神経変性疾患)等の分野において特に有用であると見出されることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、薬物の有効性の決定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特なクロストーク差次又は因果関係)は、成功する薬物のホールマークとなることができ、延いては、同じ病状を処置するためのMIM又はエピシフター等、追加的な薬剤の同定に用いることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、感染(例えば、細菌又はウイルス感染)を予防又は処置するための薬物標的の同定であり、同定された決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、感染状態の原因となるマーカー/指標又は主要な生物学的分子となることができ、延いては、抗感染剤の同定に用いることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、所定の疾患プロファイルにおける薬剤、例えば、薬物の分子効果の評価であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、1種以上の生物学的経路又は経路(複数可)の主要なメンバー又は経路(複数可)のメンバーに対する主要な調節因子の活性の増加又は減少となることができ、延いては、例えば、所定の疾患に対する薬剤の治療有効性の予測に用いることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、細胞、組織、器官又は生物における薬剤、例えば、薬物の毒物学的プロファイルの評価であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、毒性、例えば、細胞毒性の指標となることができ、延いては、薬剤の毒物学的プロファイルの予測又は同定に用いることができる。一実施形態において、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、薬物又は薬物候補の心毒性の指標であり、延いては、薬物又は薬物候補の心毒物学的プロファイルの予測又は同定に用いることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、疾患を引き起こす原生動物、真菌、細菌、protest、ウイルス又は毒物等、生物兵器により引き起こされる疾患又は障害を予防又は処置するための薬物標的の同定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、前記疾患又は障害の原因となるマーカー/指標又は主要な生物学的分子となることができ、延いては、生物テロ防御剤の同定に用いることができる。
特定の実施形態において、照合による生物学的評価は、アンチエイジング化粧品等、アンチエイジング剤のための標的の同定であり、生物システムの同定されたモジュレーター、例えば、決定的な細胞過程ドライバー(例えば、生物システム又は過程に独特な細胞クロストーク差次又は因果関係)は、老化過程、特に、皮膚における老化過程のマーカー又は指標となることができ、延いては、アンチエイジング剤の同定に用いることができる。
アンチエイジング化粧品のための標的を同定するための本発明の方法において用いられる老化のための一例示的な細胞モデルにおいて、細胞モデルは、例えば、UV光(環境変動又は外部刺激構成要素)で処理された老化上皮細胞及び/又は同様にUV光で任意選択で処理された新生児細胞を含む。一実施形態において、老化のための細胞モデルは、細胞クロストークシステムを含む。アンチエイジング化粧品の標的を同定するために確立された一例示的な2細胞クロストークシステムにおいて、老化上皮細胞(第1の細胞系)は、UV光(外部刺激構成要素)で処理することができ、処理された老化上皮細胞の馴化培地と新生児細胞との接触に起因する新生児細胞(第2の細胞系)における変化、例えば、プロテオミクス変化及び/又は機能的変化を測定することができ、例えば、プロテオーム変化は、従来の定量的質量分析を用いて測定することができる、或いはデータから作成された因果関係ネットワークから、老化に独特な因果関係を同定することができる。
V.プロテオミクス試料解析
特定の実施形態において、対象方法は、同様の特性の数百種の試料の大規模ハイスループット定量的プロテオミクス解析を用いて、細胞出力差次の同定に必要なデータをもたらす。
この目的に適した、本技術分野において認識されている技術が多数存在する。例示的な技法、質量分析と組み合わせたiTRAQ解析について下に簡潔に記載する。
iTRAQ技法による相対的定量化のための参照試料を用意するため、複数のQCプールを創出した。細胞#1及び細胞#2試料(これらの試料は、それぞれ上清及びペレットに関して、QCS1及びQCS2並びにQCP1及びQCP2として示される)から、各試料のアリコートからなる2種の別々のQCプールを作成した。2種の細胞株にわたるタンパク質濃度比較を可能にするため、上述のQCプール由来の細胞ペレットアリコートを等容量で組み合わせて、参照試料(QCP)を作成する。
定量的プロテオミクスアプローチは、8-plex iTRAQ試薬による安定的同位体標識並びにペプチド同定及び定量化のための2D-LC MALDI MS/MSに基づく。この技法による定量化は相対的である。ペプチド及びタンパク質は、参照試料に相対的な存在比を割り当てられる。複数のiTRAQ実験における共通参照試料は、複数のiTRAQ実験にわたる試料の比較を容易にする。
この解析スキームを実行するため、6種の一次試料及び2種の対照プール試料を組み合わせて1個の8-plex iTRAQミックスとし、対照プール試料は、メーカーの示唆するところに従って113及び117試薬で標識されている。続いて、二次元液体クロマトグラフィーによりこの8試料の混合物を分画する。一次元目に強カチオン交換(SCX)、二次元目に逆相HPLCを行う。MALDIプレートにおいてHPLC溶離液を直接的に分画し、MDS SCIEX/AB 4800 MALDI TOF/TOF質量分析計においてプレートを解析する。
追加的な情報なしで、タンパク質発現における最も重要な変化は、異なる処理条件下における同じ細胞型内の変化であることが仮定される。このため、細胞#1及び細胞#2由来の一次試料を、別々のiTRAQミックスにおいて解析する。細胞#1対細胞#2試料におけるタンパク質発現の比較を容易にするため、一次又は細胞株特異的QC試料(QC1及びQC2)に占有されていない利用できる「iTRAQスロット」において、普遍的QCP試料を解析する。
用いた研究室手順の概略を本明細書に提供する。
A.細胞上清試料からのタンパク質抽出
細胞上清試料(CSN)に関して、培養培地由来のタンパク質が、培養細胞により分泌されたタンパク質よりも大過剰に存在する。このようなバックグラウンドを低下させる試みにおいて、突出して(upfront)豊富なタンパク質の枯渇を実行した。特異的アフィニティーカラムは、ウシ又はウマ血清タンパク質に利用できないため、抗ヒトIgY14カラムを用いた。この抗体は、ヒトタンパク質に対するものであるが、抗体のポリクローナルな性質によってもたらされる幅広い特異性は、用いた細胞培養培地に存在するウシ及びウマタンパク質の両方の枯渇を達成することが期待された。
フロースルー材料における総タンパク質濃度を決定する試験(ビシンコニン酸(BCA)アッセイ)の開始前に、CSN QC材料の200μlアリコートを10mL IgY14枯渇カラムにロードする。次に、ロード容量を選択して、およそ40μg総タンパク質を含有する画分の枯渇を成し遂げる。
B.細胞ペレットからのタンパク質抽出
細胞#1及び細胞#2のアリコートを、BGMにおける組織試料の解析に用いた「標準」溶解バッファーに溶解し、BCAアッセイにより総タンパク質含量を決定する。これらの代表的な細胞ライセート(lystate)のタンパク質含量を確立した後、全細胞ペレット試料(セクション1.1に記載されているQC試料を包含)を細胞ライセートに加工した。およそ40μgの総タンパク質のライセート量を、加工ワークフローにおいて先に進めた。
C.質量分析のための試料調製
試料調製は、標準操作手順に従い、次の項目を構成する。
・タンパク質の還元及びアルキル化
・逆相カラムにおけるタンパク質清浄化(clean-up)(細胞ペレットのみ)
・トリプシンによる消化
・iTRAQ標識
・強カチオン交換クロマトグラフィー - 6画分の収集(Agilent 1200システム)
・HPLC分画及びMALDIプレートへのスポッティング(Dionex Ultimate3000/Probotシステム)。
D.MALDI MS及びMS/MS
HPLC-MSは、一般に、オンラインESI MS/MS戦略を用いる。BG Medicineは、同一試料を複数回注射する必要がなく、一次試料にわたる観察されたタンパク質セットのより優れた一致をもたらすオフラインLC-MALDI MS/MSプラットフォームを用いる。全iTRAQミックスにわたる最初のパスデータ収集後に、ペプチド画分はMALDI標的プレート上に保持されるため、最初の取得の際に得られた知識に由来する標的化MS/MS取得パターンを用いて、試料を2回目に解析することができる。このようにして、同定されたタンパク質全ての最大の観察頻度が達成される(理想的には、全iTRAQミックスにおいて全タンパク質を測定するべきである)。
E.データ処理
BGMプロテオミクスワークフロー内のデータ処理プロセスを、iTRAQミックス毎に個々に完了する予備的ペプチド同定及び定量化等の手順(セクション1.5.1)と、プロジェクトのデータ取得が完了するまで完了しないペプチドからタンパク質への最終割り当て及びタンパク質の最終定量化等のプロセス(セクション1.5.2)へと分離させることができる。
BGMプロテオミクスワークフロー内の主要データ処理ステップを次に示す。
・Mascot(Matrix Sciences)データベース検索エンジンを用いたペプチド同定
・Mascot IDの自動自家(in house)検証
・ペプチドの定量化及びタンパク質の予備的定量化
・最終データセットの専門家キュレーション
・自動PVTツールを用いた、タンパク質の共通セットへの各ミックス由来のペプチドの最終割り当て
・異常値除去及びタンパク質の最終定量化。
(i)個々のiTRAQミックスのデータ処理
各iTRAQミックスは、ワークフローにより処理されるため、ペプチド及びタンパク質同定のための専売のBGMソフトウェアツール並びに定量化情報の初期評価を用いてMS/MSスペクトルを解析する。この予備的解析の結果に基づき、ミックスにおける一次試料毎のワークフローの品質を、BGM性能測定基準のセットに対して判断する。所定の試料(又はミックス)が指定の最小性能測定基準をパスせず、追加的な材料が利用できる場合、該試料をその全体において反復し、ワークフローのこの2回目の実行由来のデータを最終データセットに取り込む。
(ii)ペプチド同定
ブタトリプシン等、共通夾雑物配列により増強されたヒト、ウシ及びウマ配列を含有するUniprotタンパク質配列データベースに対して、MS/MSスペクトルを検索した。修飾の完全リストを包含するMascot検索パラメータの詳細を表3に示す。
Mascot検索が完了した後、自動検証手順を用いて、特異的Mascotペプチドマッチを促進(すなわち、検証)する。有効及び無効マッチ間の区別は、予想されるMascotスコアに対する獲得したMascotスコア並びにランク1ペプチド及びランク2ペプチドMascotスコア間の差に基づく。ペプチドが、iTRAQミックスにおける単一のタンパク質にマッチした数個のうち1個である場合、或いはペプチドが、以前に検証されたペプチドのカタログに存在する場合、検証に必要とされる判断基準は、若干緩和される。
(iii)ペプチド及びタンパク質定量化
ミックス毎の検証されたペプチドのセットを利用して、ミックス毎の予備的タンパク質定量化測定基準を計算する。検証されたペプチド毎のiTRAQ標識(すなわち、m/z114、115、116、118、119又は121)由来のピーク面積を、参照プール(QC1又はQC2)のピーク面積の最も優れた表現で割ることにより、ペプチド比を計算する。このピーク面積は、両方の試料がQC承認判断基準をパスする場合、113及び117ピークの平均である。該タンパク質にマッチするあらゆる「有用な」検証されたペプチドの比率の中央値を計算することにより、予備的タンパク質比を決定する。「有用な」ペプチドは、完全にiTRAQ標識され(全N末端がリシン又はPyroGluのいずれかで標識される)、完全にシステイン標識される(すなわち、全Cys残基がカルバミドメチルによりアルキル化される又はN末端Pyro-cmc)。
(iv)取得後処理
プロジェクトにおける全ミックスに対しMS/MSデータ取得の全パスが完了したら、各一次試料由来の結果を別の結果と単純且つ有意義に比較できることを意図した後述する3ステップを用いて、データを並べる。
(v)タンパク質へのペプチド配列の網羅的割り当て
専売のタンパク質検証ツール(PVT)により、タンパク質受託番号へのペプチド配列の最終割り当てを行う。PVT手順は、最良の最小非冗長性タンパク質セットを決定して、プロジェクトにおいて同定されたペプチドの全収集を記載する。これは、均一な分類由来のデータを取り扱うよう最適化された自動手順である。
データベースにおける混合型分類の複雑性を扱うために、上清実験のタンパク質割り当てを手作業でキュレーションした。自動パラダイムは、ウシ及びウマ血清補充培地において育成した細胞培養物には有効ではないため、大規模な手作業のキュレーションが、いずれか所定のタンパク質のソースのあいまいさの最小化に必要である。
(vi)ペプチド比の正規化
Vandesompeleら、Genome Biology、2002、3(7)、research 0034.1-11の方法に基づき、試料毎のペプチド比を正規化する。この手順は、細胞ペレット測定のみに適用される。培地由来のペプチド同定への最大の貢献を考慮して、上清試料に関して定量的データは正規化されない。
(vii)タンパク質比の最終計算
標準統計的異常値除去手順を用いて、対数変換データセットにおいて1.96σレベルを超える、各タンパク質の比率の中央値から異常値を除去する。この除去プロセス後に、タンパク質比の最終セットを(再)計算する。
VI.本発明のマーカー及びそれらの使用
本発明は、疾患過程などの生物システム、又は治療剤などの変動への生物システムの応答に関連する新規のバイオマーカーの同定に、少なくとも部分的に基づく。
特に、本発明は、実施例で記載するマーカー(本明細書の以下では、「マーカー」又は「本発明のマーカー」)に関する。本発明は、マーカーによりコードされるか又はこれらに対応する核酸及びタンパク質(本明細書の以下では、それぞれ、「マーカー核酸」及び「マーカータンパク質」)を提供する。これらのマーカーは、疾患状態の診断;疾患状態の予後診断;多様な疾患状態のための薬物標的の開発;毒性、好ましくは、薬物誘導性毒性、例えば、心毒性の存在についてのスクリーニング;毒性を引き起こすか又は毒性を引き起こす危険性がある薬剤の同定;薬物誘導性毒性を軽減又は予防しうる薬剤の同定;薬物誘導性心毒性の緩和、軽減、又は予防;及び薬物誘導性心毒性を予測するマーカーの同定に特に有用である。
「マーカー」とは、組織内又は細胞内のその発現のレベルの、正常又は健常な組織内又は細胞内のその発現のレベルからの変化が、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患などの疾患状態、又は薬物誘導性毒性、例えば、心毒性などの毒性状態に関連する遺伝子である。「マーカー核酸」とは、本発明のマーカーによりコードされるか又はこれらに対応する核酸(例えば、mRNA、cDNA)である。このようなマーカー核酸は、本発明のマーカーである遺伝子のうちのいずれかの全配列若しくは部分配列、又はこのような配列の相補体を含むDNA(例えば、cDNA)を含む。当業者には、このような配列が知られており、例えば、NIHのPubmedウェブサイト上で見出すことができる。マーカー核酸はまた、本発明の遺伝子マーカーのうちのいずれかの全配列若しくは部分配列、又はこのような配列の相補体を含むRNAであって、全てのチミジン残基がウリジン残基で置きかえられたRNAも含む。「マーカータンパク質」とは、本発明のマーカーによりコードされるか又はこれらに対応するタンパク質である。マーカータンパク質は、本発明のマーカータンパク質のいずれかの全配列又は部分配列を含む。当業者には、このような配列が知られており、例えば、NIHのPubmedウェブサイト上で見出すことができる。「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用される。
「疾患状態又は毒性状態に関連する」体液とは、患者の体内で、肉腫細胞と接触するか若しくは肉腫細胞内を通過する体液、又は肉腫細胞から剥落した細胞若しくはタンパク質が通過することが可能な体液である。疾患状態又は毒性状態に関連する例示的な体液は、血液(例えば、全血液、血清、そこから血漿板を除去された血液)を含み、下記でより詳細に記載される。疾患状態又は毒性状態に関連する体液は、全血液、そこから血漿板を除去された血液、リンパ、前立腺液、尿、及び精液に限定されない。
マーカーの「正常な」発現のレベルとは、疾患状態又は毒性状態に罹患していないヒト対象又はヒト患者の細胞内のマーカーの発現のレベルである。
マーカーの「過剰発現」又は「高い発現のレベル」とは、発現を評価するために援用されるアッセイの標準誤差を超える、被験試料中の発現のレベルを指し、対照試料中のマーカーの発現のレベル(例えば、疾患状態又は毒性状態、例えば、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患、及び心毒性に関連するマーカーを有さない健常な対象由来の試料)であり、好ましくは、複数の対照試料中のマーカーの平均発現のレベルの、好ましくは、少なくとも2倍を指し、より好ましくは、3、4、5、6、7、8、9、又は10倍を指す。
マーカーの「低い発現のレベル」とは、対照試料中のマーカーの発現のレベル(例えば、疾患状態又は毒性状態、例えば、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患、及び心毒性に関連するマーカーを有さない健常な対象由来の試料)であり、好ましくは、複数の対照試料中のマーカーの平均発現のレベルの、多くとも2分の1である被験試料中の発現のレベルを指し、より好ましくは、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、又は10分の1である被験試料中の発現のレベルを指す。
「転写されたポリヌクレオチド」又は「ヌクレオチド転写物」とは、本発明のマーカーの転写、並びに、存在する場合は、RNA転写物の正常な転写後プロセシング(例えば、スプライシング)、及びRNA転写物の逆転写により作製される成熟mRNAの全部又は一部と相補的であるか又は相同なポリヌクレオチド(例えば、mRNA、hnRNA、cDNA、又はこのようなRNA又はcDNAの類似体)である。
「相補的」とは、2つの核酸鎖の領域の間又は同じ核酸鎖の2つの領域の間の配列相補性についての広範な概念を指す。第1の核酸領域のアデニン残基は、その残基がチミン又はウラシルである場合は、第1の領域とアンチパラレルな第2の核酸領域の残基と、特異的な水素結合(「塩基対合」)を形成することが可能なことが公知である。同様に、第1の核酸鎖のシトシン残基は、その残基がグアニンである場合は、第1の鎖とアンチパラレルな第2の核酸鎖の残基と、塩基対合することが可能なことも公知である。2つの領域がアンチパラレルな形で配置される場合、第1の領域の少なくとも1種のヌクレオチド残基が、第2の領域の残基と塩基対合することが可能であれば、核酸の第1の領域は、同じ核酸又は異なる核酸の第2の領域と相補的である。好ましくは、第1の領域は、第1の部分を含み、第2の領域は、第2の部分を含み、ここで、第1の部分及び第2の部分がアンチパラレルな形で配置されると、第1の部分のヌクレオチド残基のうちの少なくとも約50%、好ましくは、少なくとも約75%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%は、第2の部分内のヌクレオチド残基と塩基対合することが可能である。より好ましくは、第1の部分の全てのヌクレオチド残基は、第2の部分内のヌクレオチド残基と塩基対合することが可能である。
本明細書で用いられる「相同」とは、同じ核酸鎖の2つの領域の間、又は2つの異なる核酸鎖の領域の間のヌクレオチド配列の類似性を指す。いずれの領域内のヌクレオチド残基の位置も、同じヌクレオチド残基により占有されている場合、領域はその位置において相同である。各領域の少なくとも1種のヌクレオチド残基の位置が、同じ残基により占有されている場合、第1の領域は、第2の領域と相同である。2つの領域の間の相同性は、同じヌクレオチド残基により占有されている2つの領域のヌクレオチド残基の位置の比率との関係性で表される。例を目的として述べると、ヌクレオチド配列5'-ATTGCC-3'を有する領域と、ヌクレオチド配列5'-TATGGC-3'を有する領域とは、50%の相同性を共有する。好ましくは、第1の領域は、第1の部分を含み、第2の領域は、第2の部分を含み、ここで、部分の各々のヌクレオチド残基の位置のうちの少なくとも約50%、好ましくは、少なくとも約75%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%は、同じヌクレオチド残基により占有されている。より好ましくは、各々の部分の全てのヌクレオチド残基の位置は、同じヌクレオチド残基により占有されている。
「本発明のタンパク質」は、マーカータンパク質及びそれらの断片;変異体のマーカータンパク質及びそれらの断片;マーカータンパク質又は変異体のマーカータンパク質の少なくとも15アミノ酸のセグメントを含むペプチド及びポリペプチド;並びにマーカータンパク質若しくは変異体のマーカータンパク質を含む融合タンパク質、又はマーカータンパク質若しくは変異体のマーカータンパク質の少なくとも15アミノ酸のセグメントを含む融合タンパク質を包摂する。
本発明は、とりわけ、本発明のマーカータンパク質及びマーカータンパク質の断片と結合する抗体、抗体の誘導体、及び抗体の断片も更に提供する。本明細書内で別段に指定されない限り、「抗体」及び「抗体」という用語は、抗体(例えば、IgG、IgA、IgM、IgE)の自然発生形態、並びに単鎖抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びに多特異性抗体などの組換え抗体、並びに前出の全ての断片及び誘導体であって、少なくとも1種の抗原結合性部位を有する断片及び誘導体を広範に包摂する。抗体の誘導体は、抗体へとコンジュゲートされたタンパク質又は化学部分を含みうる。
特定の実施形態では、本発明のマーカーは、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、CANX、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される1種以上の遺伝子(又はタンパク質)を含む。一部の実施形態では、マーカーは、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30種以上の組合せである。前出のリスト中に提示した全ての値はまた、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、本発明の一部であることを意図する範囲、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30の間の範囲の上限又は下限でもありうる。
一実施形態では、本発明のマーカーは、癌に関連するか又はこれに関与する遺伝子又はタンパク質である。癌に関与するこのような遺伝子又はタンパク質は、例えば、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及び/又はCANXを含む。一部の実施形態では、本発明のマーカーは、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20種以上の組合せである。前出のリスト中に提示した全ての値はまた、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、本発明の一部であることを意図する範囲、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30の間の範囲の上限又は下限でもありうる。
一実施形態では、本発明のマーカーは、薬物誘導性毒性に関連するか又はこれに関与する遺伝子又はタンパク質である。薬物誘導性毒性に関与するこのような遺伝子又はタンパク質は、例えば、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及び/又はTAZを含む。一部の実施形態では、本発明のマーカーは、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10種の組合せである。前出のリスト中に提示した全ての値はまた、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、本発明の一部であることを意図する範囲、例えば、1〜5、1〜10、1〜20、1〜30、2〜5、2〜10、5〜10、1〜20、5〜20、10〜20、10〜25、10〜30の間の範囲の上限又は下限でもありうる。
A.心毒性関連マーカー
本発明は、薬物誘導性心毒性に関連する新規のバイオマーカーの同定に、少なくとも部分的に基づく。本発明は更に、コエンザイムQ10は、薬物誘導性心毒性を軽減又は予防することが可能であるという発見にも、少なくとも部分的に基づく。
したがって、本発明は、毒性を引き起こすか又はこれを引き起こす危険性がある薬剤を同定する方法を提供する。一実施形態では、薬剤は、薬物又は薬物候補物質である。一実施形態では、毒性は、薬物誘導性毒性、例えば、心毒性である。一実施形態では、薬剤は、糖尿病、肥満、又は心血管障害を処置するための薬物又は薬物候補物質である。これらの方法では、対試料(薬物処置に付されていない第1の試料、及び薬物処置に付された第2の試料)中の1種以上のバイオマーカー/タンパク質の量を評価する。第2の試料中の1種以上のバイオマーカーの発現のレベルの、第1の試料と比較したモジュレーションが、薬物が、薬物誘導性毒性、例えば、心毒性を引き起こすか、又はこれを引き起こす危険性があることの指標である。一実施形態では、1種以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択される。本発明の方法を、当業者が使用する他の任意の方法と共に実施して、薬物誘導性心毒性を引き起こす危険性がある薬物を同定することができる。
したがって、一態様では、本発明は、薬物誘導性毒性(例えば、心毒性)を引き起こすか、又はこれを引き起こす危険性がある薬物を同定する方法であって、(i)薬物による処置の前に得られる第1の細胞試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルを、(ii)薬物による処置の後で得られる第2の細胞試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルと比較するステップを含み、1種以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択され;第2の試料中の1種以上のバイオマーカーの発現のレベルの、第1の試料と比較したモジュレーションが、薬物が、薬物誘導性毒性(例えば、心毒性)を引き起こすか、又はこれを引き起こす危険性があることの指標である方法を提供する。
一実施形態では、薬物誘導性毒性は、薬物誘導性心毒性である。一実施形態では、細胞は、心血管システムの細胞、例えば、心筋細胞である。一実施形態では、細胞は、糖尿病性心筋細胞である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満、又は心血管疾患を処置するための薬物又は薬物候補物質である。
一実施形態では、第2の試料中のGRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種全ての発現のレベルの、第1の試料と比較したモジュレーション(例えば、上昇又は低下)が、薬物が、薬物誘導性毒性を引き起こすか、又はこれを引き起こす危険性があることの指標である。
本発明ではまた、薬物誘導性毒性を軽減又は予防しうる薬剤を同定する方法も提供される。一実施形態では、薬物誘導性毒性は、心毒性である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満、又は心血管障害を処置するための薬物又は薬物候補物質である。これらの方法では、3つの試料(薬物処置に付されていない第1の試料、薬物処置に付された第2の試料、並びに薬物処置及び薬剤処置のいずれにもかけられた第3の試料)中の1種以上のバイオマーカーの量を評価する。第3の試料中の1種以上のバイオマーカーの発現のレベルが、第1の試料中の発現のレベルと比較してほぼ同じであることから、薬剤が、薬物誘導性毒性、例えば、薬物誘導性心毒性を軽減又は予防しうることが示される。一実施形態では、1種以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択される。
本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートする、例えば、増大又は減少させる分子を同定するために、本明細書で記載される方法を使用して、特に、細胞膜を越えることが可能な程度に十分に低分子を含む様々な分子をスクリーニングすることができる。対象における薬物誘導性毒性を軽減するか、緩和するか、又は予防するために、このようにして同定された化合物を、対象へと施すことができる。
したがって、別の態様では、本発明は、薬物誘導性毒性を軽減又は予防しうる薬剤を同定する方法であって、(i)毒性誘導性薬物による処置の前に得られる第1の細胞試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルを決定するステップと;(ii)毒性誘導性薬物による処置の後で得られる第2の細胞試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルを決定するステップと;(iii)毒性誘導性薬物及び薬剤による処置の後で得られる第3の細胞試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルを決定するステップと;(iv)第3の試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルを、第1の試料中に存在する、1種以上のバイオマーカーの発現のレベルと比較するステップとを含み、1種以上のバイオマーカーが、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択され;第3の試料中の1種以上のバイオマーカーの発現のレベルが、第1の試料中の発現のレベルと比較してほぼ同じであることから、薬剤が、薬物誘導性毒性を軽減又は予防しうることが示される方法を提供する。
一実施形態では、薬物誘導性毒性は、薬物誘導性心毒性である。一実施形態では、細胞は、心血管システムの細胞、例えば、心筋細胞である。一実施形態では、細胞は、糖尿病性心筋細胞である。一実施形態では、薬物は、糖尿病、肥満、又は心血管疾患を処置するための薬物又は薬物候補物質である。
一実施形態では、第3の試料中のGRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種全ての発現のレベルが、第1の試料中の発現のレベルと比較してほぼ同じであることから、薬剤が、薬物誘導性毒性を軽減又は予防しうることが示される。
本発明は、それらを必要とする対象における薬物誘導性心毒性を緩和、軽減、又は予防する方法であって、対象(例えば、哺乳動物、ヒト、又は非ヒト動物)へと、本明細書で提供されるスクリーニング法により同定される薬剤を投与するステップを含み、これにより、対象における薬物誘導性心毒性を軽減又は予防する方法も更に提供する。一実施形態では、薬剤を、心毒性誘導性薬物で既に処置されている対象へと投与する。一実施形態では、薬剤を、対象へと、心毒性誘導性薬物による対象の処置と同時に投与する。一実施形態では、薬剤を、心毒性誘導性薬物による対象の処置の前に対象へと投与する。
本発明は、それらを必要とする対象における薬物誘導性心毒性を緩和、軽減、又は予防する方法であって、コエンザイムQ10を、対象(例えば、哺乳動物、ヒト、又は非ヒト動物)へと投与するステップを含み、これにより、対象における薬物誘導性心毒性を軽減又は予防する方法も更に提供する。一実施形態では、コエンザイムQ10を、心毒性誘導性薬物で既に処置されている対象へと投与する。一実施形態では、コエンザイムQ10を、対象へと、心毒性誘導性薬物による対象の処置と同時に投与する。一実施形態では、コエンザイムQ10を、心毒性誘導性薬物による対象の処置の前に対象へと投与する。一実施形態では、薬物誘導性心毒性が、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択されるバイオマーカーのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種全ての発現のモジュレーションに関連する。前出のリスト中に提示した全ての値はまた、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、本発明の一部であることを意図する範囲、例えば、1〜5、1〜10、2〜5、2〜10、又は5〜10の間の範囲の上限又は下限でもありうる。
本発明は、心毒性、例えば、薬物誘導性心毒性について予測的なマーカーとして有用なバイオマーカー(例えば、遺伝子及び/又はタンパク質)も更に提供する。これらのバイオマーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZを含む。しかし、当業者は、本明細書で記載される方法を援用することにより、例えば、実施例3で記載する方法を実施することによってであるが、心毒性を誘導することが公知である異なる薬物を使用することにより、薬物誘導性心毒性を予測する更なるバイオマーカーを同定することが可能であろう。下記では、本発明の例示的な薬物誘導性心毒性のバイオマーカーについて更に記載する。
GRP78及びGRP75はまた、グルコース応答タンパク質とも称する。これらのタンパク質は、心筋細胞の小胞体/筋小胞体ストレス(ERストレス)に関連する。SERCA又は筋小胞体のカルシウムATPaseは、心筋細胞内のCa2+ホメオスタシスを調節する。これらのATPaseのいかなる破壊も、心機能不全及び心不全をもたらしうる。本明細書で提示されるデータに基づくと、GRP75及びGRP78並びにそれらの周囲のエッジは、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子である。
TIMPメタロプロテアーゼ阻害剤1ともまた称するTIMP1は、MMPに関連する細胞外マトリクスのリモデリングに関連する。TIMP1の発現は、心臓線維症と相関し、血管内皮細胞の低酸素状態もまた、TIMP1の発現を誘導する。本明細書で提示されるデータに基づくと、TIMP1は、薬物誘導性心筋毒性の新規の予測因子である。
Pentraxin 3ともまた称するPTX3は、C反応性タンパク質(CRP)のファミリーに属し、心臓の炎症状態の優れたマーカーである。しかし、血漿PTX3はまた、敗血症又は他の医学的状態に起因する全身性の炎症応答も表しうるであろう。本明細書で提示されるデータに基づくと、PTX3は、心機能又は心毒性の新規のマーカーでありうる。更に、ネットワーク内のPTX 3に関連するエッジは、バイオマーカーの新規のパネルを形成しうるであろう。
HSPA6ともまた称するHSP76は、内皮細胞内及びBリンパ球内で発現することが公知であるに過ぎない。このタンパク質については、心機能における役割が知られていない。本明細書で提示されるデータに基づくと、HSP76は、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子でありうる。
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼファミリーAタンパク質ともまた称するPDIA4、PDIA1は、GRPと同様に、ERストレス応答に関連する。これらのタンパク質については、心機能における役割が知られていない。本明細書で提示されるデータに基づくと、これらのタンパク質は、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子でありうる。
CA2D1はまた、電位依存性カルシウムチャネルアルファ2/デルタサブユニットとも称する。電位依存性カルシウムチャネルのアルファ-2/デルタサブユニットは、カルシウム電流の密度、及びカルシウムチャネルの活性化/不活化反応速度を調節する。CA2D1は、心臓における励起収縮連関において重要な役割を演じる。このタンパク質については、心機能における役割が知られていない。本明細書で提示されるデータに基づくと、CA2D1は、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子である。
GPAT1は、4つの既知のグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼアイソフォームのうちの1つであり、ミトコンドリア外膜上に位置し、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1との相互調節を可能とする。GPAT1は、インスリン及びSREBP-1cにより転写的に上方調節され、AMP活性化タンパク質キナーゼにより急速に下方調節され、トリアシルグリセロール合成における役割と符合する。本明細書で提示されるデータに基づくと、GPAT1は、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子である。
タファジンともまた称するTAZは、心筋内及び骨格筋内で高度に発現する。TAZは、カルジオリピンの代謝に関与し、リン脂質-リゾリン脂質トランスアシラーゼとして機能する。タファジンは、ミトコンドリア内膜の署名脂質のリン脂質であるカルジオリピン(CL)のリモデリングの一因となる。本明細書で提示されるデータに基づくと、TAZは、薬物誘導性心毒性の新規の予測因子である。
B.癌関連マーカー
本発明は、癌に関連する新規のバイオマーカーの同定に、少なくとも部分的に基づく。癌に関連するこのようなマーカーは、例えば、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及び/又はCANXを含む。一部の実施形態では、本発明のマーカーは、前出のマーカーのうちの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20種以上の組合せである。
したがって、本発明は、癌を引き起こすか又は癌を引き起こす危険性がある薬剤を同定する方法を提供する。一実施形態では、薬剤は、薬物又は薬物候補物質である。これらの方法では、対試料(薬物処置に付されていない第1の試料、及び薬物処置に付された第2の試料)中の1種以上のバイオマーカー/タンパク質の量を評価する。第2の試料中の1種以上のバイオマーカーの発現のレベルの、第1の試料と比較したモジュレーションが、薬物が、癌を引き起こすか又は癌を引き起こす危険性があることの指標である。一実施形態では、1種以上のバイオマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される。本発明の方法を、当業者が使用する他の任意の方法と共に実施して、癌を引き起こす危険性がある薬物を同定することができる。
一態様では、本発明は、対象における癌を処置するための治療の有効性を評価するための方法であって、処置レジメンのうちの少なくとも一部を対象へと投与する前に対象から得られる、第1の試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される発現のレベルと、処置レジメンのうちの少なくとも一部を投与した後で対象から得られる、第2の試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルとを比較するステップを含み、第2の試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルの、第1の試料と比較したモジュレーションが、治療が対象における癌を処置するのに有効であることの指標である方法を提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、対象が、癌に罹患しているのかどうかを評価する方法であって、対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを決定するステップであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと;対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを、対照試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルと比較するステップとを含み、対象から得られる生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルの、対照試料中1種以上のマーカーの発現のレベルと比べたモジュレーションが、対象が、癌に罹患していることの指標であり、これにより、対象が、癌に罹患しているのかどうかを評価する方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、対象が、癌を発症しやすいのかどうかを予後診断する方法であって、対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを決定するステップであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと;対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを、対照試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルと比較するステップとを含み、対象から得られる生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルの、対照試料中1種以上のマーカーの発現のレベルと比べたモジュレーションが、対象が、癌を発症しやすいことの指標であり、これにより、対象が、癌を発症しやすいのかどうかを予後診断する方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、対象における癌の再発を予後診断する方法であって、対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを決定するステップであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと;対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを、対照試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルと比較するステップとを含み、対象から得られる生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルの、対照試料中1種以上のマーカーの発現のレベルと比べたモジュレーションが、癌の再発の指標であり、これにより、対象における癌の再発を予後診断する方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、癌を伴う対象の生存を予後診断する方法であって、対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを決定するステップであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択されるステップと;対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを、対照試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルと比較するステップとを含み、対象から得られる生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルの、対照試料中1種以上のマーカーの発現のレベルと比べたモジュレーションが、対象の生存の指標であり、これにより、癌を伴う対象の生存を予後診断する方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、対象における癌の進行をモニタリングする方法であって、処置レジメンのうちの少なくとも一部を対象へと投与する前に対象から得られる、第1の試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルと、処置レジメンのうちの少なくとも一部を投与した後で対象から得られる、第2の試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルとを比較するステップを含み、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択され、これにより、対象における癌の進行をモニタリングする方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、対象における癌を処置するための化合物を同定する方法であって、生物試料を対象から得るステップと;生物試料を、被験化合物と接触させるステップと;対象から得られる生物試料中に存在する1種以上のマーカーの発現のレベルを決定するステップであり、1種以上のマーカーが、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択され、正の倍数変化及び/又は負の倍数変化を伴うステップと;生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、適切な対照と比較するステップと;生物試料中に提示される負の倍数変化により、1種以上のマーカーの発現のレベルを低下させる被験化合物を選択し、且つ/又は生物試料中に提示される正の倍数変化により、1種以上のマーカーの発現のレベルを上昇させる被験化合物を選択するステップとを含み、これにより、対象における癌を処置するための化合物を同定する方法も更に提供する。
一実施形態では、試料は、対象から得られる体液を含む。一実施形態では、体液は、血液、吐瀉物、唾液、リンパ液、嚢胞液、尿、気管支洗浄により回収される体液、腹腔内のすすぎにより回収される体液、及び婦人科体液からなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液試料又はその成分である。
別の実施形態では、試料は、対象から得られる組織又はその成分を含む。一実施形態では、組織は、骨、結合組織、軟骨、肺、肝臓、腎臓、筋肉組織、心臓、膵臓、及び皮膚からなる群から選択される。
一実施形態では、対象は、ヒトである。
一実施形態では、生物試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、試料中の転写されたポリヌクレオチド又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、転写されたポリヌクレオチドをアッセイすることが、転写されたポリヌクレオチドを増幅することを含む。
一実施形態では、対象試料中のマーカーの発現のレベルを、試料中のタンパク質又はその一部をアッセイすることにより決定する。一実施形態では、タンパク質を、タンパク質と特異的に結合する試薬を使用してアッセイする。
一実施形態では、試料中の1種以上のマーカーの発現のレベルを、前記試料の、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅反応、逆転写酵素によるPCR解析、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP)、ミスマッチ切断検出、ヘテロ二重鎖解析、サザンブロット解析、ノーザンブロット解析、ウェスタンブロット解析、in situハイブリダイゼーション、アレイ解析、デオキシリボ核酸配列決定、制限断片長多型解析、及びこれらの組合せ又は部分的な組合せからなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、試料中のマーカーの発現のレベルを、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、ELISA、及び質量分析からなる群から選択される技法を使用して決定する。
一実施形態では、複数のマーカーの発現のレベルを決定する。
一実施形態では、対象を、環境影響化合物、手術、放射線照射、ホルモン療法、抗体療法、成長因子による療法、サイトカイン、化学療法、同種幹細胞療法からなる群から選択される療法で処置する。一実施形態では、環境影響化合物は、コエンザイムQ10分子である。
本発明は、癌を処置するための治療の有効性を評価するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、癌を処置するための治療の有効性を評価するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明は、対象が、癌に罹患しているのかどうかを評価するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、対象が、癌に罹患しているのかどうかを評価するためのキットの使用についての指示書を含むキットを更に提供する。
本発明は、対象が、癌を発症しやすいのかどうかを予後診断するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、対象が、癌を発症しやすいのかどうかを予後診断するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明は、対象における癌の再発を予後診断するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを評価するための試薬と、癌の再発を予後診断するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明は、癌の再発を予後診断するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、癌の再発を予後診断するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明は、癌を伴う対象の生存を予後診断するためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、癌を伴う対象の生存を予後診断するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明は、対象における癌の進行をモニタリングするためのキットであって、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXからなる群から選択される少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬と、対象における癌の進行を予後診断するためのキットの使用についての指示書とを含むキットを更に提供する。
本発明のキットは、対象由来の生物試料、対照試料、及び/又は環境影響化合物を得るための手段も更に含みうる。
少なくとも1種のマーカーの発現のレベルを決定するための手段は、試料中の転写されたポリヌクレオチド若しくはその一部をアッセイするための手段、及び/又は試料中のタンパク質若しくはその一部をアッセイするための手段を含みうる。
一実施形態では、キットは、複数のマーカーの発現のレベルを決定するための試薬を含む。
本発明の多様な態様については、後続の小節で更に詳細に記載する。
C.単離核酸分子
本発明の一態様は、マーカータンパク質又はその一部をコードする核酸を含む単離核酸分子に関する。本発明の単離核酸はまた、マーカー核酸分子及びマーカー核酸分子の断片、例えば、マーカー核酸分子を増幅するか又は突然変異させるためのPCRプライマーとしての使用に適する断片を同定するためのハイブリダイゼーションプローブとしての使用に十分な核酸分子も含む。本明細書で使用される「核酸分子」という用語は、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)及びRNA分子(例えば、mRNA)並びにヌクレオチド類似体を使用して作り出されたDNA又はRNAの類似体を含むことを意図する。核酸分子は、一本鎖の場合もあり、二本鎖の場合もあるが、二本鎖DNAであることが好ましい。
「単離」核酸分子とは、核酸分子の天然供給源中に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子である。一実施形態では、「単離」核酸分子は、天然では、核酸が由来する生物のゲノムDNA内で、核酸に隣接する配列(すなわち、核酸の5'端及び3'端に位置する配列)(好ましくは、タンパク質コード配列)を含まない。例えば、多様な実施形態では、単離核酸分子は、天然では、核酸が由来する細胞のゲノムDNA内で、核酸分子に隣接するヌクレオチド配列のうちの約5kB、4kB、3kB、2kB、1kB、0.5kB、又は0.1kB未満を含有しうる。別の実施形態では、cDNA分子などの「単離」核酸分子は、組換え法により作製される場合は、他の細胞物質又は培養培地を実質的に含まないことも可能であり、化学合成される場合は、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まないことも可能である。細胞物質を実質的に含まない核酸分子は、約30%、20%、10%、又は5%未満の異種核酸(本明細書ではまた「夾雑核酸」とも称する)を有する調製物を含む。
本発明の核酸分子は、標準的な分子的生物学法及び本明細書で記載されるデータベース記録内の配列情報を使用して単離することができる。このような核酸配列の全部又は一部を使用する、標準的なハイブリダイゼーション法及びクローニング法(例えば、Sambrookら編、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989において記載されている)を使用して、本発明の核酸分子を単離することができる。
本発明の核酸分子は、標準的なPCR増幅法に従い、鋳型としてのcDNA、mRNA、又はゲノムDNA、及び適切なオリゴヌクレオチドプライマーを使用して増幅することができる。このようにして増幅された核酸は、適切なベクターへとクローニングし、DNA配列解析により特徴付けることができる。更に、本発明の核酸分子の全部又は一部に対応するヌクレオチドは、標準的な合成法により、例えば、自動式DNA合成器を使用して調製することができる。
別の好ましい実施形態では、本発明の単離核酸分子は、マーカー核酸のヌクレオチド配列又はマーカータンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有する核酸分子を含む。所与のヌクレオチド配列と相補的な核酸分子とは、所与のヌクレオチド配列とハイブリダイズし、これにより、安定的な二重鎖を形成しうる程度に十分に、所与のヌクレオチド配列と相補的な核酸分子である。
更に、本発明の核酸分子は、全長の核酸配列が、マーカー核酸を含むか、又はマーカータンパク質をコードする、核酸配列の一部だけを含む場合もある。このような核酸を、例えば、プローブ又はプライマーとして使用することができる。プローブ/プライマーは、1種以上の実質的に精製されたオリゴヌクレオチドとして使用することが典型的である。オリゴヌクレオチドは、厳密な条件下で、本発明の核酸のうちの少なくとも約7、好ましくは約15、より好ましくは約25、50、75、100、125、150、175、200、250、300、350、又は400以上の連続ヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含むことが典型的である。
本発明の核酸分子の配列に基づくプローブを使用して、本発明の1種以上のマーカーに対応する転写物配列又はゲノム配列を検出することができる。プローブは、それへと接合された標識基、例えば、放射性同位元素、蛍光化合物、酵素、又は酵素の共因子を含む。このようなプローブは、対象からの細胞試料中のタンパク質をコードする核酸分子のレベルを測定すること、例えば、mRNAレベルを検出すること、又はタンパク質をコードする遺伝子が突然変異又は欠失しているのかどうかを決定することなどにより、タンパク質を異常に発現させる細胞又は組織を同定するための診断検査用キットの一部として使用することができる。
本発明は、遺伝子コードの縮重に起因して、マーカータンパク質をコードする核酸のヌクレオチド配列と異なり、このため、同じタンパク質をコードする核酸分子も更に包摂する。
当業者は、アミノ酸配列の変化をもたらすDNA配列の多型が、集団(例えば、ヒト集団)内に存在しうることを察知するであろう。このような遺伝子多型は、天然の対立遺伝子変異に起因して、集団内の個体間に存在しうる。対立遺伝子とは、所与の遺伝子座において代替的に生じる遺伝子群のうちの1つである。加えてまた、RNAの発現のレベルに影響を与えるDNA多型も存在し、これらは、その遺伝子の網羅的発現のレベルに影響を与えうる(例えば、調節又は分解に影響を与えることにより)ことも察知されるであろう。
本明細書で使用される「対立遺伝子変異体」という語句とは、所与の遺伝子座において生じるヌクレオチド配列、又はヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドを指す。
本明細書で使用される「遺伝子」及び「組換え遺伝子」という用語は、本発明のマーカーに対応するポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子を指す。このような天然の対立遺伝子変異は、所与の遺伝子のヌクレオチド配列内に1〜5%の変異を結果としてもたらしうることが典型的である。代替的な対立遺伝子は、多数の異なる個体において、対象の遺伝子を配列決定することにより同定することができる。これは、様々な個体において、同じ遺伝子座を同定するためのハイブリダイゼーションプローブを使用することにより、容易に実行することができる。天然の対立遺伝子変異の結果であり、機能活性を変化させない、任意且つ全てのこのようなヌクレオチド変異、並びに結果として得られるアミノ酸多型又はアミノ酸変異は、本発明の範囲内にあることを意図する。
別の実施形態では、本発明の単離核酸分子は、少なくとも7、15、20、25、30、40、60、80、100、150、200、250、300、350、400、450、550、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3500、4000、4500ヌクレオチド以上の長さであり、厳密な条件下で、マーカー核酸又はマーカータンパク質をコードする核酸とハイブリダイズする。本明細書で使用される「厳密な条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーション及び洗浄のための条件であって、その下では、互いと少なくとも60%(65%、70%、好ましくは75%)同一なヌクレオチド配列が、互いとハイブリダイズした状態を維持することが典型的である条件について記載することを意図する。当業者には、このような厳密な条件が知られており、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、N.Y. (1989)の6.3.1〜6.3.6節において見出すことができる。厳密なハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な例は、約45℃で、6倍濃度の塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーションに続いて、50〜65℃で0.2倍濃度のSSC、0.1%のSDS中の1回以上の洗浄である。
集団内に存在しうる、本発明の核酸分子の自然発生の対立遺伝子の変異体に加えて、当業者は、突然変異により配列変化を導入し、これにより、コードされるタンパク質の生物学的活性を変化させることなく、コードされるタンパク質のアミノ酸配列の変化をもたらしうることを更に察知するであろう。例えば、「可欠」アミノ酸残基においてアミノ酸置換をもたらすヌクレオチド置換を施すことができる。「可欠」アミノ酸残基が、生物学的活性を変化させることなく野生型配列から変化させうる残基であるのに対し、「必須」アミノ酸残基は、生物学的活性に必要とされる。例えば、多様な種の相同体の間で保存的でないか又は半保存的であるに過ぎないアミノ酸残基は、活性に不可欠ではない可能性があり、したがって、変化のための標的となる可能性が高いであろう。代替的に、多様な種の相同体の間で(例えば、マウス相同体とヒト相同体との間で)保存的であるアミノ酸残基は、活性に不可欠である可能性があり、したがって、変化のための標的とはならない可能性が高いであろう。
したがって、本発明の別の態様は、活性に不可欠ではないアミノ酸残基の変化を含有する変異体のマーカータンパク質をコードする核酸分子に関する。このような変異体のマーカータンパク質は、自然発生のマーカータンパク質とはアミノ酸配列が異なるが、生物学的活性は保持する。一実施形態では、このような変異体のマーカータンパク質は、マーカータンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約40%同一であり、マーカータンパク質のアミノ酸配列と50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を有する。
変異体のマーカータンパク質をコードする単離核酸分子は、1カ所以上のアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失が、コードされるタンパク質へと導入されるように、1カ所以上のヌクレオチド置換、ヌクレオチド付加、又はヌクレオチド欠失を、マーカー核酸のヌクレオチド配列へと導入することにより創出することができる。突然変異は、部位指向突然変異誘発及びPCR媒介突然変異誘発などの標準的な技法により導入することができる。1種以上の予測される可欠アミノ酸残基において、保存的アミノ酸置換を施すことが好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置きかえられるアミノ酸置換である。当技術分野では、類似する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが規定されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非帯電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ-分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を伴うアミノ酸を含む。代替的に、突然変異は、飽和突然変異誘発などにより、コード配列の全部又は一部に沿って、ランダムに導入することができ、結果としてもたらされる突然変異体を、生物学的活性についてスクリーニングして、活性を保持する突然変異体を同定することができる。突然変異誘発に続き、コードされるタンパク質を組換えにより発現させることができ、タンパク質の活性を決定することができる。
本発明は、アンチセンスの核酸分子、すなわち、本発明のセンス核酸と相補的な、例えば、二本鎖のマーカーのcDNA分子のコード鎖と相補的であるか、又はマーカーのmRNA配列と相補的な分子を包摂する。したがって、本発明のアンチセンス核酸は、本発明のセンス核酸と水素結合(すなわち、アニール)しうる。アンチセンス核酸は、全コード鎖と相補的な場合もあり、その一部だけと相補的な場合もあり、例えば、タンパク質コード領域(又はオープンリーディングフレーム)の全部又は一部と相補的でありうる。アンチセンスの核酸分子はまた、マーカータンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の非コード領域の全部又は一部に対してアンチセンスでもありうる。非コード領域(「5'側及び3'側の非翻訳領域」)とは、コード領域に隣接し、アミノ酸へと翻訳されない、5'側及び3'側の配列である。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50ヌクレオチド以上の長さでありうる。本発明のアンチセンス核酸は、当技術分野で知られる手順を使用する化学合成及び酵素ライゲーション反応を使用して構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、自然発生のヌクレオチド、又は多様な形で修飾されたヌクレオチドであって、分子の生物学的安定性を増大させるか、又はアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成される二重鎖の物理的安定性を増大させるようにデザインされたヌクレオチドを使用して化学合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換されたヌクレオチドを使用することができる。アンチセンス核酸を作り出すために使用しうる修飾ヌクレオチドの例は、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ-D-ガラクトシルクェオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルクェオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、シュードウラシル、クェオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸 メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシルである(acp3)u、及び2,6-ジアミノプリンを含む。代替的に、アンチセンス核酸は、核酸をアンチセンスの配向性でサブクローニングした(すなわち、後続の小節で更に記載される通り、挿入された核酸から転写されたRNAは、対象の標的核酸に対してアンチセンスの配向性となろう)発現ベクターを使用して、生物学的に作製することもできる。
本明細書で使用される「核酸」阻害剤とは、標的遺伝子からのRNA転写物の少なくとも一部とハイブリダイズして、標的の発現の減少を結果としてもたらすことにより、標的の発現の減少を引き起こす、任意の核酸ベースの阻害剤である。核酸阻害剤は、例えば、一本鎖核酸分子、例えば、アンチセンス核酸、及びsiRNA、shRNA、dsiRNAなどの二本鎖核酸を含む(例えば、米国特許公開第20070104688号を参照されたい)。本明細書で使用される二本鎖核酸分子は、少なくとも12ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも15ヌクレオチドにわたり二本鎖であるようにデザインする。二本鎖核酸分子は、それ自体とハイブリダイズするようにデザインされた単一の核酸鎖、例えば、shRNAでありうる。標的の核酸阻害剤は、単離核酸として投与しうることが理解される。代替的に、核酸阻害剤は、細胞内で阻害剤を産生させる発現構築物として投与することもできる。特定の実施形態では、核酸阻害剤は、核酸阻害剤の活性及び/又は安定性を改善する1カ所以上の化学修飾を含む。当技術分野では、このような修飾が周知である。使用される具体的な修飾は、例えば、核酸阻害剤の種類に依存するであろう。
アンチセンス核酸治療剤は、典型的には、約16〜30ヌクレオチドの長さの一本鎖核酸治療剤であり、培養物中又は生物における標的細胞内の標的核酸配列と相補的である。
例えば、化学修飾されたRNAを含有する治療化合物に関する米国特許第5,898,031号、及びこれらの化合物を治療剤として使用する方法に関する米国特許第6,107,094号では、アンチセンス核酸、化学修飾、及び治療的使用を対象とする特許が提示される。米国特許第7,432,250号は、一本鎖化学修飾RNA様化合物を投与することにより患者を処置する方法に関し、米国特許第7,432,249号は、一本鎖化学修飾RNA様化合物を含有する医薬組成物に関した。米国特許第7,629,321号は、一本鎖オリゴヌクレオチドを使用して、複数のRNAヌクレオシド及び少なくとも1カ所の化学修飾を有する標的mRNAを切断する方法に関する。本段落で列挙した特許の各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
多くの実施形態では、二重鎖領域は、15〜30ヌクレオチド対の長さである。一部の実施形態では、二重鎖領域は、17〜23ヌクレオチド対の長さ、17〜25ヌクレオチド対の長さ、23〜27ヌクレオチド対の長さ、19〜21ヌクレオチド対の長さ、又は21〜23ヌクレオチド対の長さである。
特定の実施形態では、各鎖は、15〜30ヌクレオチドを有する。
本発明の方法において使用しうるRNAi剤は、例えば、それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み込まれる、2011年11月18日に出願された米国仮出願第61/561,710号、2010年9月15日に出願された国際出願第PCT/US2011/051597号、及びPCT公開第WO2009/073809号において開示されている化学修飾を伴う薬剤を含む。
本明細書では互換的に用いられる、「dsRNA剤」「dsRNA」、「siRNA」、「iRNA剤」ともまた称する「RNAi剤」、「二本鎖RNAi剤」、二本鎖RNA (dsRNA)分子とは、以下で規定する通り、2つのアンチパラレルで実質的に相補的な核酸鎖を含む二重鎖構造を有するリボ核酸分子の複合体を指す。本明細書で使用されるRNAi剤はまた、dsiRNA(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許公開第20070104688号を参照されたい)も含みうる。一般に、各鎖のヌクレオチドの大半は、リボヌクレオチドであるが、本明細書で記載される通り、これらの各鎖又は両方の鎖はまた、1種以上の非リボヌクレオチド、例えば、デオキシリボヌクレオチド及び/又は修飾ヌクレオチドも含みうる。加えて、本明細書で使用される「RNAi剤」は、化学修飾を伴うリボヌクレオチドを含むことが可能であり、RNAi剤は、複数のヌクレオチドにおける実質的な修飾を含みうる。このような修飾は、本明細書で開示されるか又は当技術分野で公知の全ての種類の修飾を含みうる。siRNA型の分子で使用される、任意のこのような修飾は、本明細書及び特許請求の範囲の目的のための「RNAi剤」により包摂される。
二重鎖構造を形成する2つの鎖は、1つの大型のRNA分子の異なる部分の場合もあり、個別のRNA分子の場合もある。2つの鎖が1つの大型の分子の一部であり、したがって、二重鎖構造を形成する一方の鎖の3'端と、それぞれの他方の鎖の5'端との間で、中断されないヌクレオチド鎖により接続される場合、接続するRNA鎖を「ヘアピンループ」と称する。2つの鎖が、二重鎖構造を形成する一方の鎖の3'端と、それぞれの他方の鎖の5'端との間で、中断されないヌクレオチド鎖以外の手段により共有結合的に接続される場合、接続する構造を「リンカー」と称する。RNA鎖は、同じ数のヌクレオチドの場合もあり、異なる数のヌクレオチドの場合もある。塩基対の最大数は、dsRNAの最短の鎖から二重鎖内に存在する任意の突出を差し引いたときのヌクレオチド数である。二重鎖構造に加えて、RNAi剤は、1種以上のヌクレオチド突出も含みうる。本明細書ではまた、上記で記載したRNAi剤を指すのに、「siRNA」という用語も使用される。
別の態様では、薬剤は、一本鎖アンチセンスRNA分子である。アンチセンスRNA分子は、標的mRNA内の配列と相補的である。アンチセンスRNAは、mRNAへと塩基対合し、翻訳機構を物理的に妨害することにより、翻訳を化学量論的に阻害しうる(Dias, N.ら(2002)、Mol Cancer Ther、1:347〜355を参照されたい)。アンチセンスRNA分子は、標的mRNAと相補的な約15〜30ヌクレオチドを有しうる。例えば、アンチセンスRNA分子は、表1のアンチセンス配列のうちの1つからの少なくとも15、16、17、18、19、20以上の連続ヌクレオチドの配列を有しうる。
「アンチセンス鎖」という用語は、標的配列と実質的に相補的な領域を含む二本鎖RNAi剤の鎖を指す。本明細書で使用される、対象のタンパク質「をコードするmRNAの一部と相補的な領域」という用語は、タンパク質をコードする標的mRNA配列の一部と実質的に相補的なアンチセンス鎖上の領域を指す。相補性の領域が、標的配列と完全には相補的でない場合、ミスマッチは、存在する場合、末端領域で最もよく許容され、一般に、例えば、5'末端及び/又は3'末端から6、5、4、3、又は2ヌクレオチド以内にある1種以上の末端領域内に存在する。
本明細書で用いられる「センス鎖」という用語は、アンチセンス鎖領域と実質的に相補的な領域を含むdsRNA鎖を指す。
多様な実施形態では、本発明の核酸分子は、塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格において修飾して、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーション、又は可溶性を改善することができる。例えば、核酸のリン酸デオキシリボース骨格を修飾して、ペプチド核酸を作り出すことができる(Hyrupら、1996、Bioorganic & Medicinal Chemistry、4(1): 5〜23を参照されたい)。本明細書で使用される「ペプチド核酸」又は「PNA」という用語は、リン酸デオキシリボース骨格が、シュードペプチド骨格により置きかえられ、4つの天然の核酸塩基だけが保持された核酸模倣体、例えば、DNA模倣体を指す。PNAの中性の骨格は、低イオン強度の条件下で、DNA及びRNAとの特異的なハイブリダイゼーションを可能とすることが示されている。PNAオリゴマーの合成は、Hyrupら(1996)、前出; Perry-O'Keefeら(1996)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93:14670〜675において記載されている、標準的な固相ペプチド合成プロトコールを使用して実施することができる。
PNAは、治療適用及び診断適用において使用することができる。例えば、PNAは、例えば、転写若しくは翻訳の停止を誘導するか、又は複製を阻害することにより、配列特異的に遺伝子の発現をモジュレートするためのアンチセンス薬剤又はアンチジーン薬剤として使用することができる。PNAはまた、例えば、PNA指向PCRクランピングによる、例えば、遺伝子内の単一塩基対突然変異の解析においても使用することができ、他の酵素、例えば、S1ヌクレアーゼと組み合わせて使用される場合の人工制限酵素としても使用することができ(Hyrup (1996)、前出)、DNA配列及びハイブリダイゼーションのためのプローブ又はプライマーとしても使用することができる(Hyrup、1996、前出; Perry-O'Keefeら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93:14670〜675)。
別の実施形態では、PNAを修飾して、例えば、親油性又は他のヘルパー基を、PNAへと接合させることを介して、PNA-DNAキメラを形成することにより、又はリポソーム若しくは当技術分野で公知の薬物送達の他の技法を使用することにより、それらの安定性又は細胞への取込みを増強することができる。例えば、PNAの有利な特性とDNAの有利な特性とを組み合わせうる、PNA-DNAキメラを作り出すことができる。このようなキメラは、DNA認識酵素、例えば、RNアーゼH及びDNAポリメラーゼが、DNA部分と相互作用する一方で、PNA部分が高度な結合アフィニティー及び特異性をもたらすことを可能とする。PNA-DNAキメラは、塩基スタッキング、核酸塩基の間の結合数、及び配向性との関係性で選択される適切な長さのリンカーを使用して連結することができる(Hyrup、1996、前出)。PNA-DNAキメラの合成は、Hyrup (1996)、前出;及びFinnら(1996)、Nucleic Acids Res.、24(17):3357〜63において記載されている通りに実施することができる。例えば、DNA鎖は、固体の支持体上で、標準的なホスホルアミダイトカップリング化学反応及び修飾ヌクレオシド類似体を使用して合成することができる。5'-(4-メトキシトリチル)アミノ-5'-デオキシ-チミジンホスホルアミダイトなどの化合物は、PNAとDNAの5'端との間の連結として使用することができる(Magら、1989、Nucleic Acids Res.、17:5973〜88)。次いで、PNAの単量体を、段階的にカップリングして、5'側のPNAセグメント及び3'側のDNAセグメントを伴うキメラ分子を作製する(Finnら、1996、Nucleic Acids Res.、24(17):3357〜63)。代替的に、キメラ分子は、5'側のDNAセグメント及び3'側のPNAセグメントにより合成することもできる(Peterserら、1975、Bioorganic Med. Chem. Lett.、5:1119〜11124)。
他の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、in vivoにおいて宿主細胞受容体ターゲティングするためのペプチド)、又は細胞膜(例えば、Letsingerら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:6553〜6556; Lemaitreら、1987、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、84:648〜652; PCT公開第WO88/09810号を参照されたい)若しくは血液脳関門(例えば、PCT公開第WO89/10134号を参照されたい)を越える輸送を容易にする薬剤など、他の付属基を含みうる。加えて、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション誘発型切断剤(例えば、Krolら、1988、Bio/Techniques、6:958〜976を参照されたい)又は挿入剤(例えば、Zon、1988、Pharm. Res.、5:539〜549を参照されたい)で修飾することができる。この目的で、オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発型架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発型切断剤などへとコンジュゲートすることができる。
本発明はまた、分子ビーコンが試料中の本発明の核酸の存在を定量化するのに有用であるように、本発明の核酸と相補的な少なくとも1種の領域を有する分子ビーコン核酸も含む。「分子ビーコン」核酸とは、相補的領域の対を含み、フルオロフォア及びそれと会合する蛍光消光剤を有する核酸である。フルオロフォア及び消光剤は、相補的領域が互いとアニールすると、フルオロフォアの蛍光が消光剤により消光されるような配向性で、核酸の異なる部分と会合する。核酸の相補的領域が互いとアニールしない場合は、フルオロフォアの蛍光が消光される程度が低下する。分子ビーコン核酸は、例えば、米国特許第5,876,930号において記載されている。
D.単離タンパク質及び単離抗体
本発明の一態様は、単離マーカータンパク質及びその生物学的活性部分、並びにマーカータンパク質又はその断片を指向する抗体をもたらす免疫原としての使用に適するポリペプチド断片に関する。一実施形態では、天然のマーカータンパク質は、標準的なタンパク質精製法を使用する適切な精製スキームにより、細胞供給源又は組織供給源から単離することができる。別の実施形態では、マーカータンパク質の全体又はセグメントを含むタンパク質又はペプチドは、組換えDNA法により作製する。組換え発現に対する代替法として、このようなタンパク質又はペプチドは、標準的なペプチド合成法を使用して化学合成することもできる。
「単離」又は「精製」されたタンパク質又はその生物学的活性部分は、タンパク質が由来する細胞供給源又は組織供給源からの細胞物質又は他の夾雑タンパク質を実質的に含まないか、又は化学合成される場合、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という表現は、タンパク質が、それが単離されるか又は組換え法により作製される細胞の細胞内成分から分離された、タンパク質の調製物を含む。したがって、細胞物質を実質的に含まないタンパク質は、約30%、20%、10%、又は5%未満(乾燥重量で)の異種タンパク質(本明細書ではまた「夾雑タンパク質」とも称する)を有するタンパク質の調製物を含む。タンパク質又はその生物学的活性部分を組換え法により作製する場合、タンパク質又はその生物学的活性部分はまた、培養培地も実質的に含まない、すなわち、培養培地は、タンパク質調製物の容量のうちの約20%、10%、又は5%未満を表すことが好ましい。タンパク質を化学合成により作製する場合、タンパク質は、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない、すなわち、タンパク質が、タンパク質の合成に関与する化学的前駆体又は他の化学物質から分離されていることが好ましい。したがって、このようなタンパク質の調製物は、約30%、20%、10%、又は5%未満(乾燥重量で)の、対象のポリペプチド以外の化学的前駆体又は化合物を有する。
マーカータンパク質の生物学的活性部分は、マーカータンパク質のアミノ酸配列と十分に同一であるか又はこれに由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、全長タンパク質より少数のアミノ酸を含み、対応する全長タンパク質の少なくとも1種の活性を呈示するポリペプチドを含む。生物学的活性部分は、対応する全長タンパク質の少なくとも1種の活性を伴うドメイン又はモチーフを含むことが典型的である。本発明のマーカータンパク質の生物学的活性部分は、例えば、10、25、50、100以上のアミノ酸の長さのポリペプチドでありうる。更に、マーカータンパク質の他の領域を欠失させた他の生物学的活性部分も、組換え法により調製し、マーカータンパク質の天然形態の機能活性のうちの1種以上について査定することができる。
好ましいマーカータンパク質は、実施例において記載される遺伝子のうちのいずれかをコードする配列を含むヌクレオチド配列によりコードされる。他の有用なタンパク質は、これらの配列のうちの1つと実質的に(例えば、少なくとも約40%、好ましくは、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一であり、対応する自然発生のマーカータンパク質の機能活性を保持するが、天然の対立遺伝子変異又は突然変異誘発に起因して、アミノ酸配列が異なる。
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸の同一性パーセントを決定するために、配列を、最適な比較を目的として配列決定する(例えば、第2のアミノ酸配列又は核酸配列との最適なアライメントのために、第1のアミノ酸配列又は核酸配列の配列内にギャップを導入することができる)。次いで、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列内の位置が、第2の配列内の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドにより占有されている場合、分子は、その位置において同一である。好ましくは、2つの配列の間の同一性パーセントを、グローバルアライメントを使用して計算する。代替的に、2つの配列の間の同一性パーセントを、ローカルアライメントを使用して計算する。2つの配列の間の同一性パーセントとは、配列により共有される同一な位置の数の関数(すなわち、同一性%=同一な位置の数/位置の総数(例えば、重複する位置)×100)である。一実施形態では、2つの配列は、同じ長さである。別の実施形態では、2つの配列は、同じ長さではない。
2つの配列の間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。2つの配列を比較するために利用される数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例は、Karlin及びAltschul (1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90:5873〜5877における通りに改変された、Karlin及びAltschul (1990)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、87:2264〜2268のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)、J. Mol. Biol.、215:403〜410のBLASTNプログラム及びBLASTXプログラムへと組み込む。BLAST ヌクレオチド検索は、スコア=100、ワード長=12とするBLASTNプログラムにより実施して、本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索は、スコア=50、ワード長=3とするBLASTPプログラムにより実施して、本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較を目的として、ギャップを施したアライメントを得るために、Altschulら(1997)、Nucleic Acids Res.、25:3389〜3402において記載されている、ギャップBLASTと呼ばれるBLASTアルゴリズムの新たなバージョンであって、BLASTNプログラム、BLASTPプログラム、及びBLASTXプログラムのためのギャップを施したローカルアライメントを実施することが可能なバージョンを利用することができる。代替的に、PSI-Blastを使用して、分子の間の遠隔の関係性を検出する、繰り返し検索を実施することもできる。BLASTプログラム、ギャップBLASTプログラム、及びPSI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、BLASTX及びBLASTN)のデフォルトのパラメータを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列を比較するために利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例は、Myers及びMiller、(1988)、CABIOS、4:11〜17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)へと組み込む。アミノ酸配列を比較するために、ALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重み残基表、ギャップ長ペナルティー12、及びギャップペナルティー4を使用することができる。局所的な配列類似性の領域及びアライメントを同定するための、更に別の有用なアルゴリズムは、Pearson及びLipman (1988)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85:2444〜2448において記載されているFASTAアルゴリズムである。ヌクレオチド又はアミノ酸配列を比較するために、FASTAアルゴリズムを使用する場合、PAM120重み残基表は、例えば、k-タプル値を2として用いることができる。
2つの配列の間の同一性パーセントは、ギャップを許容するか又はギャップを許容しない、上記で記載した技法と類似の技法を使用して決定することができる。同一性パーセントの計算では、正確なマッチだけをカウントする。
本発明はまた、マーカータンパク質又はそのセグメントを含むキメラタンパク質又は融合タンパク質も提供する。本明細書で使用される「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、異種ポリペプチド(すなわち、マーカータンパク質以外のポリペプチド)へと作動可能に連結したマーカータンパク質の全部又は一部(好ましくは、生物学的活性部分)を含む。融合タンパク質内で、「作動可能に連結した」という用語は、マーカータンパク質又はそのセグメントと異種ポリペプチドとを、インフレームで互いと融合させることを指し示すことを意図する。異種ポリペプチドは、マーカータンパク質又はセグメントのアミノ末端又はカルボキシル末端と融合させることができる。
1つの有用な融合タンパク質は、マーカータンパク質又はセグメントを、GST配列のカルボキシル末端へと融合させたGST融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、本発明の組換えポリペプチドの精製を容易としうる。
別の実施形態では、融合タンパク質は、そのアミノ末端に異種シグナル配列を含有する。例えば、マーカータンパク質の天然のシグナル配列は、除去し、別のタンパク質からのシグナル配列で置きかえることができる。例えば、バキュロウイルスエンベロープタンパク質のgp67分泌配列は、異種シグナル配列として使用することができる(Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、NY、1992)。他の真核生物異種シグナル配列の例は、メリチン及びヒト胎盤アルカリホスファターゼの分泌配列(Stratagene; La Jolla、California)を含む。更に別の例では、有用な原核生物異種シグナル配列は、phoA分泌シグナル(Sambrookら、前出)及びプロテインA分泌シグナル(Pharmacia Biotech; Piscataway、New Jersey)を含む。
更に別の実施形態では、融合タンパク質は、マーカータンパク質の全部又は一部を、免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列へと融合させた免疫グロブリン融合タンパク質である。本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、医薬組成物へと組み込み、対象へと投与して、リガンド(可溶性リガンド又は膜に結合したリガンド)と、細胞(受容体)表面上のタンパク質との間の相互作用を阻害し、これにより、in vivoにおけるシグナル伝達を抑制することができる。免疫グロブリン融合タンパク質を使用して、マーカータンパク質のコグネイトリガンドのバイオアベイラビリティーに影響を与えることができる。リガンド/受容体相互作用の阻害は、増殖分化障害の処置及び細胞生存のモジュレート(例えば、促進又は阻害)のいずれにも治療的に有用でありうる。更に、本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、対象において、マーカータンパク質を指向する抗体を産生させ、リガンドを精製し、スクリーニングアッセイにおいて、マーカータンパク質のリガンドとの相互作用を阻害する分子を同定するための免疫原として使用することもできる。
本発明のキメラタンパク質及び融合タンパク質は、標準的な組換えDNA法により作製することができる。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動式DNA合成器を含む従来の技法により合成することができる。代替的に、遺伝子断片のPCR増幅は、2つの連続的な遺伝子断片の間で相補的な突出をもたらすアンカープライマーを使用して実行し、その後、これを、アニール及び再増幅して、キメラ遺伝子配列を作り出すこともできる(例えば、Ausubelら、前出を参照されたい)。更に、融合部分(例えば、GSTポリペプチド)を予めコードする多くの発現ベクターも市販されている。本発明のポリペプチドをコードする核酸は、融合部分を、インフレームで、本発明のポリペプチドへと連結するように、このような発現ベクターへとクローニングすることができる。
シグナル配列を使用して、マーカータンパク質の分泌及び単離を容易とすることができる。シグナル配列は、一般に1回以上の切断イベント内の分泌時において成熟タンパク質から切断される、疎水性アミノ酸のコアにより特徴付けられることが典型的である。このようなシグナルペプチドは、それらが、分泌経路を通過するときに、シグナル配列の成熟タンパク質からの切断を可能とするプロセシング部位を含有する。したがって、本発明は、シグナル配列を有するマーカータンパク質、融合タンパク質、又はこれらのセグメント、並びにシグナル配列がタンパク質分解により切断されたタンパク質(すなわち、切断産物)に関する。一実施形態では、シグナル配列をコードする核酸配列は、発現ベクター内で、マーカータンパク質又はそのセグメントなど、対象のタンパク質へと作動可能に連結することができる。シグナル配列は、発現ベクターが形質転換され、シグナル配列が、その後又は同時に切断される真核生物宿主などからのタンパク質の分泌を方向付ける。次いで、タンパク質は、当技術分野で認識された方法により、細胞外培地から容易に精製することができる。代替的に、シグナル配列は、GSTドメインによるなどの精製を容易とする配列を使用して、対象のタンパク質へと連結することもできる。
本発明はまた、マーカータンパク質の変異体にも関する。このような変異体は、アゴニスト(模倣体)又はアンタゴニストとして機能しうるアミノ酸配列の変化を有する。変異体は、突然変異誘発、例えば、離散点突然変異又は切断により作り出すことができる。アゴニストは、タンパク質の自然発生形態の生物学的活性の実質的な同一物又はサブセットを保持しうる。タンパク質のアンタゴニストは、例えば、対象のタンパク質を含む細胞内シグナル伝達カスケードの下流又は上流のメンバーに競合的に結合することにより、タンパク質の自然発生形態の活性のうちの1種以上を阻害しうる。したがって、特殊な生物学的効果を、機能を制限された変異体で処置することにより誘発することができる。タンパク質の自然発生形態の生物学的活性のサブセットを有する変異体による対象の処置は、対象における副作用を、タンパク質の自然発生形態による処置と比べて小さくすることができる。
アゴニスト(模倣体)又はアンタゴニストとして機能するマーカータンパク質の変異体は、本発明のタンパク質の突然変異体、例えば、切断突然変異体のコンビナトリアルライブラリーを、アゴニスト活性又はアンタゴニスト活性についてスクリーニングすることにより同定することができる。一実施形態では、多種変異体ライブラリーは、核酸レベルのコンビナトリアルの突然変異誘発により作り出し、多種遺伝子ライブラリーによりコードさせる。多種変異体ライブラリーは、例えば、潜在的なタンパク質配列の縮重セットが、個々のポリペプチドとして、又は代替的に、大型の融合タンパク質のセット(例えば、ファージディスプレイのための)として発現可能となるように、合成オリゴヌクレオチドの混合物を、遺伝子配列へと酵素的にライゲーションすることにより作製することができる。潜在的なマーカータンパク質の変異体のライブラリーを、縮重オリゴヌクレオチド配列から作製するのに使用しうる様々な方法が存在する。当技術分野では、縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法が公知である(例えば、Narang、1983、Tetrahedron、39:3; Itakuraら、1984、Annu. Rev. Biochem.、53:323; Itakuraら、1984、Science、198:1056; Ikeら、1983、Nucleic Acids Res.、11:477を参照されたい)。
加えて、マーカータンパク質のセグメントのライブラリーを使用して、変異体のマーカータンパク質又はこれらのセグメントをスクリーニングし、その後選択するためのポリペプチドの多種集団を作り出すこともできる。例えば、対象のコード配列の二本鎖PCR断片を、ニッキングが分子1つ当たり約1回だけ生じる条件下においてヌクレアーゼで処理し、二本鎖DNAを変性させ、DNAを復元して、異なるニッキング産物からのセンス/アンチセンス対を含みうる二本鎖DNAを形成し、一本鎖部分を、S1ヌクレアーゼで処理することを介して、再形成された二重鎖から除去し、結果としてもたらされる断片ライブラリーを、発現ベクターへとライゲーションすることにより、コード配列断片のライブラリーを作り出すことができる。この方法により、対象のタンパク質のアミノ末端及び多様なサイズの内部断片をコードする発現ライブラリーを誘導することができる。
当技術分野では、点突然変異又は切断により作製されるコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングし、cDNAライブラリーを、選択される特性を有する遺伝子産物についてスクリーニングするための複数の技法が公知である。大規模な遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために最も広く使用されている技法であって、ハイスループット解析に適する技法は、遺伝子ライブラリーを、複製可能な発現ベクターへとクローニングするステップと、適切な細胞を、結果としてもたらされるベクターライブラリーで形質転換するステップと、コンビナトリアル遺伝子を、所望の活性の検出により、その産物が検出される遺伝子をコードするベクターの単離が容易となる条件下で発現させるステップとを含むことが典型的である。ライブラリー内の機能的な突然変異体の頻度を増大させる技法である再帰的アンサンブル突然変異誘発(REM)を、スクリーニングアッセイと組み合わせて使用して、本発明のタンパク質の変異体を同定することができる(Arkin及びYourvan、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:7811〜7815; Delgraveら、1993、Protein Engineering、6(3):327- 331)。
本発明の別の態様は、本発明のタンパク質を指向する抗体に関する。好ましい実施形態では、抗体は、マーカータンパク質又はその断片に特異的に結合する。本明細書では互換的に用いられる「抗体」及び「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分(すなわち、このような部分は、マーカータンパク質、例えば、マーカータンパク質のエピトープなどの抗原に特異的に結合する抗原結合性部位を含有する)を含む免疫グロブリン分子並びにその断片及び誘導体を指す。本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体は、試料中、例えば、天然でタンパク質を含有する生物試料中の、タンパク質には結合するが、他の分子には実質的に結合しない抗体である。免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分の例は、単鎖抗体(scAb)、F(ab)、及びF(ab')2断片を含むがこれらに限定されない。
本発明の単離タンパク質又はその断片は、抗体を作り出すための免疫原として使用することができる。全長タンパク質を使用することもできるが、代替的に、本発明は、免疫原としての使用のための抗原ペプチド断片も提供する。本発明のタンパク質の抗原ペプチドは、本発明のタンパク質のうちの1つのアミノ酸配列のうちの少なくとも8アミノ酸残基(好ましくは、10、15、20、又は30アミノ酸残基以上)を含み、ペプチドに対して作製される抗体が、タンパク質と特異的な免疫複合体を形成するように、タンパク質の少なくとも1種のエピトープを包摂する。抗原ペプチドにより包摂される好ましいエピトープは、タンパク質の表面上に位置する領域、例えば、親水性領域である。疎水性配列解析、親水性配列解析、又は類似の解析を使用して、親水性領域を同定することができる。好ましい実施形態では、単離マーカータンパク質又はその断片を、免疫原として使用する。
免疫原は、ウサギ、ヤギ、マウス、又は他の哺乳動物若しくは脊椎動物など、適切な(すなわち、免疫応答性の)対象を免疫化することにより、抗体を調製するのに使用されることが典型的である。適切な免疫原性調製物は、例えば、組換え発現タンパク質若しくは組換え発現ペプチド又は化学合成タンパク質若しくは化学合成ペプチドを含有しうる。調製物は、フロイント完全アジュバント若しくはフロイント不完全アジュバント、又は類似の免疫刺激剤などのアジュバントも更に含みうる。好ましい免疫原組成物は、例えば、本発明のタンパク質を組換え発現させるための非ヒト宿主細胞を使用して作製される免疫原組成物など、他のヒトタンパク質を含有しない免疫原組成物である。このようにして、結果としてもたらされる抗体組成物は、本発明のタンパク質以外のヒトタンパク質に対する結合が低減されているか、又はこれらに対して結合しない。
本発明は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を提供する。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という用語は、特定のエピトープと免疫反応することが可能な抗原結合性部位の1つの分子種だけを含有する抗体分子の集団を指す。好ましいポリクローナル抗体組成物及びモノクローナル抗体組成物とは、本発明のタンパク質を指向する抗体のために選択された、ポリクローナル抗体組成物及びモノクローナル抗体組成物である。特に好ましいポリクローナル抗体調製物及びモノクローナル抗体調製物は、マーカータンパク質又はその断片を指向する抗体だけを含有するポリクローナル抗体調製物及びモノクローナル抗体調製物である。
ポリクローナル抗体は、適切な対象を、免疫原としての本発明のタンパク質で免疫化することにより調製することができる。免疫化された対象における抗体力価は、固定化されたポリペプチドを使用する酵素結合免疫アッセイ(ELISA)による技法など、標準的な技法により、時間経過に沿ってモニタリングすることができる。免疫化後の適切な時点、例えば、特異的抗体力価が最大となるときに、抗体産生細胞を対象から得、Kohler及びMilstein (1975)、Nature、256:495〜497により最初に記載されたハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozborら、1983、Immunol. Today、4:72を参照されたい)、EBV-ハイブリドーマ法(Coleら、77〜96頁、「Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy」、Alan R. Liss, Inc.、1985を参照されたい)、又はトリオーマ法などの標準的な技法により、モノクローナル抗体(mAb)を調製するのに使用することができる。ハイブリドーマを作製するための技術は周知である(「Current Protocols in Immunology」、Coliganら編、John Wiley & Sons、New York、1994を一般に参照されたい)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、ハイブリドーマ培養物の上清を、例えば、標準的なELISAアッセイを使用して、対象のポリペプチドに結合する抗体についてスクリーニングすることにより検出する。
モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマの調製に対する代替法として、本発明のタンパク質を指向するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)を、対象のポリペプチドでスクリーニングすることにより同定及び単離することもできる。ファージディスプレイライブラリーを作り出し、スクリーニングするためのキットが市販されている(例えば、PharmaciaによるRecombinant Phage Antibody System、型番27-9400-01;及びStratagene SurfZAP Phage Display Kit、型番240612)。更に、抗体ディスプレイライブラリーを作り出し、スクリーニングするときの使用に特に適する方法及び試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号; PCT公開第WO92/18619号; PCT公開第WO91/17271号; PCT公開第WO92/20791号; PCT公開第WO92/15679号; PCT公開第WO93/01288号; PCT公開第WO92/01047号; PCT公開第WO92/09690号; PCT公開第WO90/02809号; Fuchsら(1991)、Bio/technology、9:1370〜1372; Hayら(1992)、Hum. Antibod. Hybridomas、3:81〜85; Huseら(1989)、Science、246:1275- 1281; Griffithsら(1993)、EMBO J.、12:725〜734において見出すことができる。
本発明はまた、本発明のタンパク質に特異的に結合する組換え抗体も提供する。好ましい実施形態では、組換え抗体は、マーカータンパク質又はその断片に特異的に結合する。組換え抗体は、ヒト部分及び非ヒト部分の両方を含むキメラモノクローナル抗体及びヒト化モノクローナル抗体、単鎖抗体、並びに多特異性抗体を含むがこれらに限定されない。キメラ抗体とは、マウスmAbに由来する可変領域及びヒト免疫グロブリン定常領域を有する分子など、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である(例えば、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる、Cabillyら、米国特許第4,816,567号;及びBossら、米国特許第4,816,397号を参照されたい)。単鎖抗体は、抗原結合性部位を有し、単一のポリペプチドからなる。それらは、当技術分野で知られる技法により、例えば、Ladnerら、米国特許第4,946,778号(参照によりその全体において本明細書に組み込まれる); Birdら(1988)、Science、242:423〜426; Whitlowら(1991)、Methods in Enzymology、2:1〜9; Whitlowら(1991)、Methods in Enzymology、2:97〜105;及びHustonら(1991)、Methods in Enzymology Molecular Design and Modeling: Concepts and Applications、203:46〜88において記載される方法を使用して作製することができる。多特異性抗体とは、異なる抗原に特異的に結合する少なくとも2つの抗原結合性部位を有する抗体分子である。このような分子は、当技術分野で知られる技法により、例えば、Segal、米国特許第4,676,980号(その開示が参照によりその全体において本明細書に組み込まれる); Holligerら(1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90:6444〜6448; Whitlowら(1994)、Protein Eng.、7:1017〜1026;及び米国特許第6,121,424号において記載される方法を使用して作製することができる。
ヒト化抗体とは、非ヒト種に由来する1種以上の相補性決定領域(CDR)及びヒト免疫グロブリン分子に由来するフレームワーク領域を有する、非ヒト種に由来する抗体分子である(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Queen、米国特許第5,585,089号を参照されたい)。ヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で公知の組換えDNA法により、例えば、PCT公開第WO87/02671号;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号; PCT公開第WO86/01533号;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号; Betterら(1988)、Science、240:1041〜1043; Liuら(1987)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、84:3439〜3443; Liuら(1987)、J. Immunol.、139:3521- 3526; Sunら(1987)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、84:214〜218; Nishimuraら(1987)、Cancer Res.、47:999〜1005; Woodら(1985)、Nature、314:446〜449;及びShawら(1988)、J. Natl. Cancer Inst.、80:1553〜1559); Morrison (1985)、Science、229:1202〜1207; Oiら(1986)、Bio/Techniques、4:214;米国特許第5,225,539号; Jonesら(1986)、Nature、321:552〜525; Verhoeyanら(1988)、Science、239:1534;及びBeidlerら(1988)、J. Immunol.、141:4053〜4060において記載される方法を使用して作製することができる。
より特定すると、ヒト化抗体は、例えば、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子及び内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子を発現させることが不可能であるが、ヒト重鎖遺伝子及びヒト軽鎖遺伝子は発現させうるトランスジェニックマウスを使用して作製することができる。トランスジェニックマウスは、選択された抗原、例えば、本発明のマーカーに対応するポリペプチドの全部又は一部により、通常の形で免疫化する。抗原を指向するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を使用して得ることができる。トランスジェニックマウスにより保有されるヒト免疫グロブリントランス遺伝子は、B細胞分化時に再構成され、その後、クラススイッチ及び体細胞突然変異を経る。したがって、このような技法を使用して、治療的に有用なIgG抗体、IgA抗体、及びIgE抗体を作製することが可能である。ヒト抗体を作製するためのこの技術の概観については、Lonberg及びHuszar (1995)、Int. Rev. Immunol.、13:65〜93を参照されたい)。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を作製するためのこの技術並びにこのような抗体を作製するためのプロトコールの詳細な議論については、例えば、米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許第5,661,016号;及び米国特許第5,545,806号を参照されたい。加えて、Abgenix, Inc. (Freemont、CA)などの企業も、上記で記載した技術と類似の技術を使用して、選択された抗原を指向するヒト抗体を提供することに関与しうる。
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択」と称する技法を使用して作り出すことができる。この手法では、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を誘導する(Jespersら、1994、Bio/technology、12:899〜903)。
本発明の抗体は、作製の後、単離(例えば、対象の血液又は血清から)又は合成し、よく知られた技法により更に精製することができる。例えば、IgG抗体は、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製することができる。本発明のタンパク質に特異的な抗体は、選択(例えば、部分的に精製)することもでき、例えば、アフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。例えば、組換えにより発現させ、精製(又は部分的に精製)した本発明のタンパク質は、本明細書で記載される通りに作製し、例えば、クロマトグラフィーカラムなど、固体の支持体へと共有結合的又は非共有結合的にカップリングする。次いで、カラムを使用して、本発明のタンパク質に特異的な抗体を、多数の異なるエピトープを指向する抗体を含有する試料からアフィニティー精製し、これにより、実質的に精製された抗体組成物、すなわち、夾雑抗体を実質的に含まない抗体組成物を作り出すことができる。この文脈において、実質的に精製された抗体組成物とは、抗体試料が、最大で30%(乾燥重量で)に限り、本発明の所望のタンパク質のエピトープ以外のエピトープを指向する夾雑抗体を含有し、試料のうちの好ましくは最大で20%、更により好ましくは最大で10%であり、最も好ましくは最大で5%の(乾燥重量で)が夾雑抗体であることを意味する。精製抗体組成物とは、組成物中の少なくとも99%の抗体が、本発明の所望のタンパク質を指向することを意味する。
好ましい実施形態では、実質的に精製された本発明の抗体は、本発明のタンパク質のシグナルペプチド、分泌配列、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、又は細胞質ドメイン、又は細胞膜ドメインに特異的に結合しうる。特に好ましい実施形態では、実質的に精製された本発明の抗体は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列の分泌配列又は細胞外ドメインに特異的に結合する。より好ましい実施形態では、実質的に精製された本発明の抗体は、マーカータンパク質のアミノ酸配列の分泌配列又は細胞外ドメインに特異的に結合する。
本発明のタンパク質を指向する抗体を使用して、アフィニティークロマトグラフィー又は免疫沈降などの標準的な技法によりタンパク質を単離することができる。更に、このような抗体を使用して、マーカータンパク質又はその断片(例えば、細胞溶解物又は細胞上清中の)を検出して、マーカーの発現のレベル及び発現パターンを査定することができる。抗体はまた、例えば、所与の処置レジメンの有効性を決定するための臨床検査手順の一部として、組織内又は体液中(例えば、疾患状態又は毒性状態に関連する体液中)のタンパク質レベルを診断的にモニタリングするのにも使用することができる。検出は、検出用物質へとカップリングされた本発明の抗体を含む抗体の誘導体を使用することにより容易とすることができる。検出用物質の例は、多様な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質を含む。適切な酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼを含み;適切な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み;適切な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、又はフィコエリトリンを含み;発光物質の例は、ルミノールを含み;生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びアクォリンを含み;適切な放射性物質の例は、125I、131I、35S、及び3Hを含む。
本発明の抗体はまた、癌の処置における治療剤としても使用することができる。好ましい実施形態では、本発明の完全ヒト抗体を、ヒト癌患者、特に、癌を有する癌患者の治療的処置に使用する。別の好ましい実施形態では、マーカータンパク質又はその断片に特異的に結合する抗体を、治療的処置に使用する。更に、このような治療的抗体は、細胞毒素、治療剤、又は放射性金属イオンなどの治療部分へとコンジュゲートされた抗体を含む抗体の誘導体又は免疫毒素でありうる。細胞毒素又は細胞傷害薬剤は、細胞に有害な任意の薬剤を含む。例は、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシン、並びにこれらの類似体又は相同体を含む。治療剤は、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ、クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、及びロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、及びcis-ジクロロジアミン白金(II) (DDP;シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(旧称:ダウノマイシン)及びドキソルビシン)、抗生剤(例えば、ダクチノマイシン(旧称:アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、及びアントラマイシン(AMC))、及び抗有糸分裂剤(例えば、ビンクリスチン及びビンブラスチン)を含むがこれらに限定されない。
本発明のコンジュゲート抗体は、所与の生物学的応答を修飾するために使用することができるが、これは、薬物部分は、古典的な化学的治療剤へと限定されると解釈されるべきではないからである。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を保有するタンパク質又はポリペプチドでありうる。このようなタンパク質は、例えば、リボソーム阻害タンパク質(その開示がその全体において本明細書に組み込まれる、Betterら、米国特許第6,146,631号を参照されたい)、アブリン、リシンA、シュードモナス(Pseusomonas)属外毒素、又はジフテリア毒素などの毒素;腫瘍壊死因子、α-インターフェロン、β-インターフェロン、神経成長因子、血漿板由来成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子などのタンパク質;又は例えば、リンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、又は他の成長因子などの生物学的応答修飾剤を含みうる。
このような治療部分を抗体へとコンジュゲートするための技法は周知である(例えば、Arnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編)、243〜56頁(Alan R. Liss, Inc.、1985); Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery、(2版)、Robinsonら(編)、623〜53頁(Marcel Dekker, Inc.、1987); Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Bilological And Clinical Applications、Pincheraら(編)、475〜506頁(1985);「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、303〜16頁(Academic Press、1985);及びThorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62:119〜58 (1982)を参照されたい)。
したがって、一態様では、本発明は、それらの全てが本発明のタンパク質に特異的に結合し、好ましくは、マーカータンパク質に特異的に結合する、実質的に精製された抗体、抗体断片、及び抗体の誘導体を提供する。多様な実施形態では、実質的に精製された本発明の抗体又はそれらの断片若しくは誘導体は、ヒト抗体、非ヒト抗体、キメラ抗体、及び/又はヒト化抗体でありうる。別の態様では、本発明は、それらの全てが本発明のタンパク質に特異的に結合し、好ましくは、マーカータンパク質に特異的に結合する、非ヒト抗体、非ヒト抗体の断片、及び非ヒト抗体の誘導体を提供する。このような非ヒト抗体は、ヤギ抗体、マウス抗体、ヒツジ抗体、ウマ抗体、ニワトリ抗体、ウサギ抗体、又はラット抗体でありうる。代替的に、本発明の非ヒト抗体は、キメラ抗体及び/又はヒト化抗体でありうる。加えて、本発明の非ヒト抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体でありうる。なお更なる態様では、本発明は、それらの全てが本発明のタンパク質に特異的に結合し、好ましくは、マーカータンパク質に特異的に結合する、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体の断片、及びモノクローナル抗体の誘導体を提供する。モノクローナル抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、及び/又は非ヒト抗体でありうる。
本発明はまた、検出用物質へとコンジュゲートされた本発明の抗体及び使用のための指示書を含有するキットも提供する。本発明のなおも別の態様は、本発明の抗体を含む医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、本発明の抗体及び薬学的に許容される担体を含む。
E.予測医学
本発明は、診断アッセイ、予後診断アッセイ、ゲノム薬理学、及び臨床試験のモニタリングが、予後診断(予測)の目的で使用し、これにより個体を予防的に処置する、予測医学の分野に関する。したがって、本発明の一態様は、個体に、特定の疾患又は薬物誘導性毒性を発症する危険性があるのかどうかを決定するために、1種以上のマーカータンパク質又はマーカー核酸の発現のレベルを決定するための診断アッセイに関する。このようなアッセイを予後診断の目的又は予測の目的で使用し、これにより、障害が発症する前に個体を予防的に処置することができる。
本発明の更に別の態様は、臨床試験において、薬剤(例えば、障害又は薬物誘導性毒性を阻害又は処置又は予防するために投与される{すなわち、このような処置が及ぼしうる、任意の薬物誘導性毒性作用を理解するための}薬物又は他の化合物)の、本発明のマーカーの発現又は活性に対する影響をモニタリングすることに関する。これらの薬剤及び他の薬剤については、以下の節で更に詳細に記載する。
F.診断アッセイ
生物試料中のマーカータンパク質又はマーカー核酸の存在又は非存在を検出するための例示的な方法は、生物試料(例えば、毒性に関連する体液試料又は組織試料)を、検査対象から得るステップと、生物試料を、ポリペプチド又は核酸(例えば、mRNA、ゲノムDNA、又はcDNA)を検出することが可能な化合物又は薬剤と接触させるステップとを伴う。したがって、本発明の検出方法を使用して、例えば、in vitro並びにin vivoにおける生物試料中のmRNA、タンパク質、cDNA、又はゲノムDNAを検出することができる。例えば、mRNAを検出するためのin vitro法は、ノーザンハイブリダイゼーション、及びin situハイブリダイゼーションを含む。マーカータンパク質を検出するためのin vitro法は、酵素結合免疫アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降、及び免疫蛍光を含む。ゲノムDNAを検出するためのin vitro法は、サザンハイブリダイゼーションを含む。mRNAを検出するためのin vivo法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ノーザンハイブリダイゼーション、及びin situハイブリダイゼーションを含む。更に、マーカータンパク質を検出するためのin vivo法は、対象へと、タンパク質又はその断片を指向する標識された抗体を導入することを含む。例えば、抗体は、対象におけるその存在及び位置を、標準的な造影法により検出しうる、放射性マーカーで標識することができる。
このような診断アッセイ及び予後診断アッセイの一般原理は、マーカー及びプローブを含有しうる試料又は反応混合物を、適切な条件下で、マーカー及びプローブが、相互作用して結合し、これにより、反応混合物から除去しうる複合体及び/又は反応混合物中に検出しうる複合体を形成することを可能とするのに十分な時間にわたり調製することを伴う。これらのアッセイは、様々な形で実行することができる。
例えば、このようなアッセイを実行する1つの方法は、マーカー又はプローブを、基質ともまた称する固相支持体へとアンカリングするステップと、反応の終了時に固相上にアンカリングされた標的のマーカー/プローブ複合体を検出するステップとを伴うであろう。このような方法の一実施形態では、マーカーの存在及び/又は濃度についてアッセイされる、対象由来の試料は、担体又は固相支持体へとアンカリングすることができる。別の実施形態では、プローブを、固相へとアンカリングすることができ、対象由来の試料を、アッセイのアンカリングされない成分として反応させうる、逆の状況も可能である。
アッセイ成分を固相へとアンカリングするための多くの方法が確立されている。これらは、限定せずに述べると、ビオチンとストレプトアビジンとのコンジュゲーションにより固定化されるマーカー分子又はプローブ分子を含む。このようなビオチニル化されたアッセイ成分は、当技術分野で公知の技法(例えば、ビオチニル化キット、Pierce Chemicals、Rockford、IL)を使用して、ビオチン-NHS (N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し、ストレプトアビジンでコーティングされた96ウェルプレート(Pierce Chemical)のウェル内に固定化することができる。特定の実施形態では、アッセイ成分を固定化された表面は、予め調製し、保存することができる。
このようなアッセイに適する他の担体又は固相支持体は、マーカー又はプローブが属する分子のクラスに結合することが可能な任意の物質を含む。よく知られた支持体又は担体は、ガラス、ポリスチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、アミラーゼ、天然セルロース及び修飾セルロース、ポリアクリルアミド、斑レイ岩、及び磁鉄鉱を含むがこれらに限定されない。
上記で言及した手法によるアッセイを実行するために、固定化されていない成分を、その上に第2の成分がアンカリングされた固相へと添加する。反応の完了後、形成された任意の複合体が、固相上における固定化を維持するような条件下で、複合体化されていない成分を除去することができる(例えば、洗浄により)。固相へとアンカリングされたマーカー/プローブ複合体の検出は、本明細書で概括される多数の方法で達成することができる。
好ましい実施形態では、アンカリングされないアッセイ成分である場合のプローブは、アッセイの検出及びリードアウトを目的として、本明細書で論じられ、当業者に周知の検出用標識で、直接的又は間接的に標識することができる。
また、例えば、蛍光エネルギー移動の技法を利用することにより、いずれの成分(マーカー又はプローブ)の更なる操作又は標識化を伴わずに、マーカー/プローブ複合体の形成を直接的に検出することも可能である(例えば、Lakowiczら、米国特許第5,631,169号; Stavrianopoulosら、米国特許第4,868,103号を参照されたい)。第1の「ドナー」分子上のフルオロフォア標識は、適切な波長の入射光により励起されると、その発光蛍光エネルギーが、第2の「アクセプター」分子上の蛍光標識により吸収され、これが、吸収されたエネルギーに起因して蛍光発光することが可能であるように選択される。代替的に、「ドナー」タンパク質分子は、トリプトファン残基の天然の蛍光エネルギーだけを使用することも可能である。「アクセプター」分子の標識を、「ドナー」の標識と差別化しうるように、異なる波長の光を発光する標識を選択する。標識間のエネルギー移動の効率は、分子を隔てる距離に関連するので、分子間の空間的関係性を評価することができる。結合が分子間で生じる状況では、アッセイ中の「アクセプター」分子の標識による蛍光発光が最大となろう。FET結合イベントは、当技術分野で周知の標準的な蛍光分析検出手段により(例えば、蛍光光度計を使用して)測定することができて簡便である。
別の実施形態では、マーカーを認識するプローブの能力の決定は、リアルタイムの生体分子間相互作用解析(BIA)などの技術(例えば、Sjolander, S.及びUrbaniczky, C.、1991、Anal. Chem.、63:2338〜2345;並びにSzaboら、1995、Curr. Opin. Struct. Biol.、5:699〜705を参照されたい)を利用することにより、いずれのアッセイ成分(プローブ又はマーカー)も標識化せずに達成することができる。本明細書で使用される「BIA」又は「表面プラズモン共鳴」とは、生体特異的な相互作用を、リアルタイムで、相互作用体のいずれも標識化せずに研究するための技術(例えば、BIAcore)である。結合表面における質量の変化(結合イベントを示す)は、表面近傍における光の屈折率の変化(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学現象)を結果としてもたらすことから、検出可能なシグナルを結果としてもたらし、これは、生物学的分子間のリアルタイム反応の指標として使用することができる。
代替的に、別の実施形態では、マーカー及びプローブを液相中の溶質とする、類似の診断アッセイ及び予後診断アッセイを実行することができる。このようなアッセイでは、複合体化されたマーカー及びプローブを、差次的遠心分離、クロマトグラフィー、電気泳動、及び免疫沈降を含むがこれらに限定されない、多数の標準的な技法のうちのいずれかにより、複合体化されていない成分から分離する。差次的遠心分離では、それらの異なるサイズ及び密度に基づく、複合体の異なる沈殿平衡のために、一連の遠心分離ステップにより、マーカー/プローブ複合体を、複合体化されていないアッセイ成分から分離することができる(例えば、Rivas, G.及びMinton, A.P.、1993、Trends Biochem Sci.、18(8):284〜7を参照されたい)。また、標準的なクロマトグラフィー法も、複合体化された分子を、複合体化されていない分子から分離するのに利用することができる。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーは、サイズに基づき、且つ、適切なゲル濾過樹脂をカラムフォーマット内で利用することにより分子を分離し、例えば、比較的大型の複合体を、比較的小型の複合体化されていない成分から分離することができる。同様に、マーカー/プローブ複合体の、複合体化されていない成分と比較して相対的に異なる電荷特性を利用して、例えば、イオン交換クロマトグラフィー樹脂を利用することにより、複合体を、複合体化されていない成分から差別化することができる。当業者には、このような樹脂及びクロマトグラフィー法が周知である(例えば、Heegaard, N.H.、1998年冬季、J. Mol. Recognit.、11(1〜6):141〜8; Hage, D.S.及びTweed, S.A.、J Chromatogr B Biomed Sci Appl、1997年10月10日;699(1〜2):499〜525を参照されたい)。また、ゲル電気泳動も、複合体化されたアッセイ成分を、結合していない成分から分離するのに援用することができる(例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987〜1999を参照されたい)。この技法では、タンパク質複合体又は核酸複合体を、例えば、サイズ又は電荷に基づき分離する。電気泳動過程における結合相互作用を維持するために、典型的には、非変性ゲルマトリクス物質及び還元剤の非存在下にある条件が好ましい。当業者には、特殊なアッセイ及びその成分に適する条件が周知である。
特定の実施形態では、当技術分野で公知の方法を使用して、生物試料中で、in situフォーマット及びin vitroフォーマットのいずれによっても、マーカーmRNAのレベルを決定することができる。「生物試料」という用語は、対象、並びに対象内に存在する組織、細胞、及び体液から単離された、組織、細胞、生物学的流体、及びその単離物を含むことを意図する。多くの発現検出法では、単離RNAを使用する。in vitro法には、mRNAの単離に限定されない任意のRNA単離法を、RNAを細胞から精製するために利用することができる(例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York 1987〜1999を参照されたい)。更に、多数の組織試料を、例えば、Chomczynski (1989、米国特許第4,843,155号)による単一ステップのRNA単離工程など、当業者に周知の技法を使用して容易に処理することができる。
単離mRNAは、サザンブロット法又はノーザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応解析、及びプローブアレイを含むがこれらに限定されない、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅アッセイにおいて使用することができる。mRNAレベルを検出するのに好ましい1つの診断法は、単離mRNAを、検出される遺伝子によりコードされるmRNAとハイブリダイズすることができる核酸分子(プローブ)と接触させるステップを伴う。核酸プローブは、例えば、少なくとも7、15、30、50、100、250、又は500ヌクレオチドの長さであり、厳密な条件下で、本発明のマーカーをコードするmRNA又はゲノムDNAと特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドなど、全長cDNA又はその一部でありうる。本明細書では、本発明の診断アッセイにおける使用に適する他のプローブについても記載する。mRNAのプローブとのハイブリダイゼーションにより、問題のマーカーが発現していることが明示される。
1つのフォーマットでは、例えば、単離mRNAにアガロースゲル上を泳動させ、mRNAをゲルから、ニトロセルロースなどの膜へと転写することにより、mRNAを、固体表面上に固定化させ、プローブと接触させる。代替的なフォーマットでは、例えば、Affymetrix遺伝子チップアレイ内で、プローブ(複数可)を固体表面上に固定化させ、mRNAをプローブ(複数可)と接触させる。当業者は、既知のmRNA検出法を、本発明のマーカーによりコードされるmRNAのレベルの検出における使用に容易に適合させることができる。
試料中のmRNAマーカーのレベルを決定するための代替的な方法は、核酸増幅の工程、例えば、RT-PCR(実験的実施形態は、Mullis、1987、米国特許第4,683,202号に示されている)、リガーゼ連鎖反応(Barany、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:189〜193)、自己持続配列複製(Guatelliら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、87:1874〜1878)、転写増幅システム(Kwohら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:1173〜1177)、Q-ベータレプリカーゼ(Lizardiら、1988、Bio/technology、6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardiら、米国特許第5,854,033号)、又は他の任意の核酸増幅法に続いて、当業者に周知の技法を使用する、増幅された分子の検出による工程を伴う。これらの検出スキームは、核酸分子を、このような分子が極めて少数で存在する場合に検出するのにとりわけ有用である。本明細書で使用される増幅プライマーは、遺伝子の5'領域又は3'領域(それぞれ、プラス鎖及びマイナス鎖、又はこの逆)へとアニールし、中間の短い領域を含有しうる核酸分子の対であると規定される。一般に、増幅プライマーは、約10〜30ヌクレオチドの長さであり、約50〜200ヌクレオチドの長さの領域に隣接する。適切な条件下で、且つ、適切な試薬を伴って、このようなプライマーは、プライマーに挟まれるヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を可能とする。
in situ法では、mRNAは、検出の前に単離する必要がない。このような方法では、細胞試料又は組織試料を、既知の組織学的方法を使用して調製/処理する。次いで、試料を、支持体、典型的には、スライドガラス上に固定化し、次いで、マーカーをコードするmRNAとハイブリダイズしうるプローブと接触させる。
マーカーの絶対発現のレベルに基づき決定を下すことに対する代替法として述べると、決定は、マーカーの標準化した発現のレベルに基づきうる。発現のレベルは、マーカーの絶対発現のレベルを、その発現を、マーカーではない遺伝子、例えば、構成的に発現するハウスキーピング遺伝子の発現と比較することを介して補正することにより標準化する。標準化に適する遺伝子は、アクチン遺伝子又は上皮細胞特異的遺伝子などのハウスキーピング遺伝子を含む。この標準化により、1つの試料、例えば、患者試料中の発現のレベルの、別の試料、例えば、非疾患試料若しくは非毒性試料との比較、又は異なる供給源由来の試料の間の比較が可能となる。
代替的に、発現のレベルは、相対発現のレベルとして提示することができる。マーカーの相対発現のレベルを決定するために、マーカーの発現のレベルを、疾患細胞単離物又は毒性細胞単離物と対比した正常細胞単離物による10以上の試料、好ましくは、50以上の試料について決定してから、問題の試料についての発現のレベルを決定する。多数の試料中でアッセイした遺伝子の各々の平均発現のレベルを決定し、これを、マーカーについてのベースラインの発現のレベルとして使用する。次いで、被験試料について決定されたマーカーの発現のレベル(絶対発現のレベル)を、そのマーカーについて得られた平均発現値で除する。これにより、相対発現のレベルがもたらされる。
ベースラインの決定で使用した試料は、非疾患細胞又は非毒性細胞に由来することが好ましいであろう。細胞供給源の選択は、相対発現のレベルの使用に依存する。正常組織内で見出される発現を、平均発現スコアとして使用することは、アッセイされたマーカーが、疾患特異的又は毒性特異的(正常細胞と対比して)であるのかどうかを検証する一助となる。加えて、より多くのデータが蓄積されるにつれ、平均発現値を修正し、蓄積されたデータに基づき、相対発現値の改善をもたらすことができる。疾患細胞又は毒性細胞からの発現データは、疾患状態又は毒性状態の重症度をグレード付けするための手段をもたらす。
本発明の別の実施形態では、マーカータンパク質を検出する。本発明のマーカータンパク質を検出するのに好ましい薬剤は、このようなタンパク質又はその断片に結合することが可能な抗体、好ましくは、検出用標識を伴う抗体である。抗体は、ポリクローナル抗体の場合もあり、より好ましくは、モノクローナル抗体の場合もある。無傷抗体又はその断片若しくは誘導体(例えば、Fab又はF(ab')2)を使用することができる。プローブ又は抗体に関する「標識された」という用語は、検出用物質を、プローブ又は抗体へとカップリング(すなわち、物理的に連結)することによる、プローブ又は抗体の直接的な標識化、並びに直接的に標識された別の試薬との反応性による、プローブ又は抗体の間接的標識化を包摂することを意図する。間接的標識化の例は、蛍光標識された二次抗体、及び蛍光標識されたストレプトアビジンで検出されうるように、ビオチンによるDNAプローブの末端標識化を使用する一次抗体の検出を含む。
細胞からのタンパク質は、当業者に周知の技法を使用して単離することができる。援用されるタンパク質単離法は、例えば、Harlow及びLane (Harlow及びLane、1988、「Antibodies: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York)において記載されている単離法などでありうる。
様々なフォーマットを援用して、試料が、所与の抗体に結合するタンパク質を含有するのかどうかを決定することができる。このようなフォーマットの例は、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット解析、及び酵素結合免疫アッセイ(ELISA)を含むがこれらに限定されない。当業者は、既知のタンパク質/抗体を、細胞が本発明のマーカーを発現させるのかどうかの決定における使用のための検出法に容易に適合させることができる。
1つのフォーマットでは、抗体又は抗体の断片若しくは誘導体を、ウェスタンブロット法又は免疫蛍光法などの方法において使用して、発現したタンパク質を検出することができる。このような使用では一般に、抗体又はタンパク質を固体の支持体上に固定化することが好ましい。適切な固相支持体又は担体は、抗原又は抗体に結合することが可能な任意の支持体を含む。よく知られた支持体又は担体は、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロース及び修飾セルロース、ポリアクリルアミド、斑レイ岩、及び磁鉄鉱を含む。
当業者は、抗体又は抗原への結合に適する他の多くの担体について承知しており、このような支持体を、本発明を伴う使用に適合させることが可能であろう。例えば、疾患細胞又は毒性細胞から単離されたタンパク質は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動に付し、ニトロセルロースなどの固相支持体へと固定化することができる。次いで、支持体を、適切な緩衝液で洗浄した後、検出可能に標識された抗体による処理を施すことができる。次いで、固相支持体を、緩衝液で2回目に洗浄して、結合していない抗体を除去することができる。次いで、固体の支持体上で結合した標識の量を、従来の手段により検出することができる。
本発明はまた、生物試料中のマーカータンパク質又はマーカー核酸の存在を検出するためのキットも包摂する。このようなキットを使用して、対象が、特定の疾患又は薬物誘導性毒性を患っているか、又はこれを発症する危険性を増大させているのかどうかを決定することができる。例えば、キットは、生物試料中のマーカータンパク質又はマーカー核酸を検出することが可能な、標識された化合物又は薬剤、及び試料中のタンパク質又はmRNAの量を決定するための手段(例えば、タンパク質若しくはその断片に結合する抗体、又はタンパク質をコードするDNA若しくはmRNAに結合するオリゴヌクレオチドプローブ)を含みうる。キットはまた、キットを使用して得られる結果を解釈するための指示書も含みうる。
抗体ベースのキットでは、キットは、例えば、(1)マーカータンパク質に結合する第1の抗体(例えば、固体の支持体へと接合された);及び、任意選択で、(2)タンパク質又は第1の抗体に結合し、検出用標識へとコンジュゲートされた第2の異なる抗体を含みうる。
オリゴヌクレオチドベースのキットでは、キットは、例えば、(1)マーカータンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、例えば、検出可能に標識されたオリゴヌクレオチド、又は(2)マーカー核酸分子を増幅するのに有用であるプライマー対を含みうる。キットはまた、例えば、緩衝剤、保存剤、又はタンパク質安定化剤も含みうる。キットは、検出用標識(例えば、酵素又は基質)を検出するのに必要な成分も更に含みうる。キットはまた、アッセイし、被験試料と比較しうる、対照試料又は一連の対照試料も含有しうる。キットの各成分は、個別の容器内に封入し、多様な容器の全てを、単一のパッケージ内に、キットを使用して実施されるアッセイの結果を解釈するための指示書と共に封入することができる。
G.ゲノム薬理学
本発明のマーカーはまた、ゲノム薬理学マーカーとしても有用である。本明細書で使用される「ゲノム薬理学マーカー」とは、その発現のレベルが、患者における特異的な臨床薬物応答又は臨床薬物感受性と相関する客観的生化学マーカーである(例えば、McLeodら(1999)、Eur. J. Cancer、35(12): 1650〜1652を参照されたい)。ゲノム薬理学マーカー発現の存在又は量は、予測される患者の応答、及び、より特定すると、患者の疾患細胞又は毒性細胞の特殊な薬物又は特殊なクラスの薬物による治療への応答に関連する。患者における1種以上のゲノム薬理学マーカー発現の存在又は量を評価することにより、患者にとって最も適切であるか、又は最大限の奏効をもたらすことが予測される薬物治療を選択することができる。例えば、患者における特殊な腫瘍マーカーによりコードされるRNA又はタンパク質の存在又は量に基づき、患者において存在する可能性が高い特殊な腫瘍を処置するのに最適化された薬物又は処置コースを選択することができる。したがって、ゲノム薬理学マーカーを使用することにより、異なる薬物又はレジメを試すことなく、各癌患者に最も適切な処置を選択又はデザインすることが可能となる。
ゲノム薬理学の別の側面は、身体が薬物に対して作用する形を変化させる遺伝子状態を扱う。これらの薬理遺伝学的状態は、まれな欠陥として生じる場合もあり、多型として生じる場合もある。例えば、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)欠損症は、主要な臨床的合併症が、酸化薬(抗マラリア剤、スルホンアミド、鎮痛剤、ニトロフラン)の服用後、及びソラマメの摂取後における溶血である、一般的な遺伝性酵素病である。
例示的な実施形態として述べると、薬物代謝酵素の活性が、薬物作用の強度及び持続時間の両方の主要な決定因子である。薬物代謝酵素(例えば、N-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT 2)、並びにチトクロームP450酵素であるCYP2D6及びCYP2C19)の遺伝子多型の発見は、なぜ一部の患者は、期待される薬物効果を得ないのか、又は標準的な安全用量の薬物を服用した後で、過剰な薬物応答及び重篤な毒性を示すのかについての説明をもたらした。これらの多型は、集団内で、高代謝群(EM)及び低代謝群(PM)という2つの表現型により発現する。PMの発生率は、異なる集団間で異なる。例えば、CYP2D6をコードする遺伝子は、高度に多型性であり、PMでは、複数の突然変異が同定されており、これらは全て、機能的なCYP2D6の非存在をもたらす。CYP2D6及びCYP2C19の低代謝群は、標準的な用量を施されても、極めて高頻度に過剰な薬物応答及び副作用を被る。代謝物が活性の治療部分である場合、PMは、CYP2D6により形成されるその代謝物であるモルヒネにより媒介されるコデインの鎮痛剤効果について裏付けられている通り、治療的応答を示さないであろう。他の極は、標準的な用量に応答しない、いわゆる超高代謝群である。近年、超高代謝の分子的基盤が、CYP2D6の遺伝子増幅に起因することが同定された。
したがって、個体における本発明のマーカーの発現のレベルを決定して、これにより、個体の治療的処置又は予防的処置に適切な薬剤(複数可)を選択することができる。加えて、薬理遺伝学的研究を使用して、薬物代謝酵素をコードする多型性対立遺伝子の遺伝子型決定を、個体の薬物応答性の表現型の同定へと適用することができる。この知識を、投薬又は薬物の選択へと適用すると、有害反応又は治療的不奏効を回避し、したがって、本発明のマーカーの発現のモジュレーターで対象を処置する場合の治療効率又は予防効率を増強することができる。
H.臨床試験のモニタリング
薬剤(例えば、薬物化合物)の、本発明のマーカーの発現のレベルに対する影響をモニタリングすることは、基礎的な薬物スクリーニングだけでなく、また、臨床試験にも適用することができる。例えば、マーカーの発現に影響を与える薬剤の有効性は、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患、及び心毒性、又は薬物誘導性毒性など、特定の疾患のための処置を施される対象についての臨床試験においてモニタリングすることができる。好ましい実施形態では、本発明は、薬剤(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、ペプチド模倣体、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子、又は他の薬物候補物質)による対象の処置の有効性をモニタリングするための方法であって、(i)投与前試料を、対象から、薬剤を投与する前に得るステップと;(ii)投与前試料中の、本発明の、1種以上の選択されたマーカーの発現のレベルを検出するステップと;(iii)1種以上の投与後試料を、対象から得るステップと;(iv)投与後試料中の、マーカー(複数可)の発現のレベルを検出するステップと;(v)投与前試料中の、マーカー(複数可)の発現のレベルを、1種以上の投与後試料中の、マーカー(複数可)の発現のレベルと比較するステップと;(vi)これにしたがって、薬剤の対象への投与を変化させるステップとを含む方法を提供する。例えば、処置コース中のマーカー遺伝子(複数可)の発現の増大は、投与量が有効でなく、投与量の増大が所望であることを明示しうる。逆に、マーカー遺伝子(複数可)の発現の減少は、処置が有効であり、投与量を変化させる必要がないことを明示しうる。
H.アレイ
本発明はまた、本発明のマーカーを含むアレイも含む。アレイを使用して、アレイ内の1種以上の遺伝子の発現をアッセイすることができる。一実施形態では、アレイを使用して、組織内の遺伝子の発現をアッセイして、アレイ内の遺伝子の組織特異性を確認することができる。このようにして、最大で約7600の遺伝子を、発現について同時にアッセイすることができる。これにより、とりわけ、1種以上の組織内で発現する遺伝子のバッテリーを示すプロファイルを開発することが可能となる。
このような定性的決定に加えて、本発明では、遺伝子の発現の定量化も可能となる。したがって、組織特異性だけでなく、また、組織内の遺伝子バッテリーの発現のレベルも確認可能である。したがって、それらの組織発現それ自体及びその組織内の発現のレベルに基づき、遺伝子を群分けすることができる。これは、例えば、組織間の遺伝子の発現の関係性を確認するときに有用である。したがって、1つの組織を変動させ、第2の組織内の遺伝子の発現に対する効果を決定することができる。この文脈において、生物学的刺激に応答した、1つの細胞型の、別の細胞型に対する影響を決定することができる。このような決定は、例えば、遺伝子の発現のレベルにおける細胞間相互作用の影響を知るのに有用である。薬剤を治療的に投与して、1つの細胞型を処置するのであるが、別の細胞型に対して望ましくない影響を与える場合、本発明は、望ましくない影響の分子的基盤を決定するためのアッセイを提供し、これにより、対抗薬剤を共投与するか、又は望ましくない影響を他の形で処置する機会を提供する。同様に、単一の細胞型内であっても、望ましくない生物学的影響を分子レベルで決定することができる。したがって、薬剤の、標的遺伝子以外の発現に対する影響を確認し、これに対抗することができる。
別の実施形態では、アレイを使用して、アレイ内の1種以上の遺伝子の発現の時間経過をモニタリングすることができる。これは、本明細書で開示される通り、多様な生物学的文脈、例えば、薬物誘導性毒性の発生、薬物誘導性毒性の進行、及び薬物誘導性毒性に関連する細胞の形質転換などの過程で生じうる。
アレイはまた、遺伝子の発現の、同じ細胞内又は異なる細胞内の他の遺伝子の発現に対する影響を確認するのにも有用である。これにより、例えば、最終的標的又は下流の標的を調節することができない場合に、治療的介入のための代替的な分子標的の選択がもたらされる。
アレイはまた、正常細胞内及び異常細胞内の1種以上の遺伝子の差次的な発現パターンを確認するのにも有用である。これにより、診断的介入又は治療的介入のための分子的標的として用いられうる遺伝子バッテリーがもたらされる。
VII.試料を得るための方法
本発明の方法において有用な試料は、本発明のマーカーを発現させる任意の組織試料、細胞試料、生検試料、又は体液試料を含む。一実施形態では、試料は、組織、細胞、全血液、血清、血漿、口腔内掻爬物、唾液、脳脊髄液、尿、糞便、又は気管支肺胞洗浄液でありうる。好ましい実施形態では、組織試料は、疾患状態試料又は毒性状態試料である。より好ましい実施形態では、組織試料は、癌試料、糖尿病試料、肥満試料、心血管試料、又は薬物誘導性毒性試料である。
体内試料は、例えば、生検の使用、領域の掻爬若しくはスワビング、又は体液を吸引するための注射針の使用を含む、当技術分野で公知の様々な技法により、対象から得ることができる。当技術分野では、多様な体内試料を回収するための方法が周知である。
本発明のマーカーを検出及び定量化するのに適する組織試料は、採取したての場合もあり、凍結させる場合もあり、当業者に公知の方法により固定する場合もある。適切な組織試料は、更なる解析のために、切片化し、顕微鏡用スライド上に置くことが好ましい。代替的に、固体試料、すなわち、組織試料は、可溶化及び/又はホモジナイズし、その後、可溶性抽出物として解析することもできる。
一実施形態では、得られたばかりの生検試料は、例えば、液体窒素又はジフルオロジクロロメタンを使用して凍結させる。凍結させた試料は、例えば、OCTを使用して、切片化するように取り付け、低温保持装置内で逐次的に切片化する。逐次的な切片を、顕微鏡用スライドガラス上に回収する。免疫組織化学染色では、スライドを、例えば、クロム-アラム、ゼラチン、又はポリ-L-リシンでコーティングして、切片が、スライドに付着していることを確保することができる。別の実施形態では、切片化の前に、試料を固定及び包埋した。例えば、組織試料を、例えば、ホルマリン中に固定し、例えば、パラフィン中に逐次的に脱水及び包埋することができる。
試料が得られたら、本発明のマーカーを検出及び定量化するのに適することが当技術分野で知られる任意の方法を使用する(核酸レベル又はタンパク質レベルで)ことができる。当技術分野では、このような方法がよく知られており、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、サザンブロット、免疫組織化学、ELISA、例えば、増幅ELISA、免疫沈降、免疫蛍光、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、質量分析、例えば、MALDI-TOF及びSELDI-TOF、核酸ハイブリダイゼーション法、核酸逆転写法、及び核酸増幅法を含むがこれらに限定されない。特定の実施形態では、本発明のマーカーの発現は、例えば、これらのタンパク質に特異的に結合する抗体を使用して、タンパク質レベルで検出する。
試料は、本発明のマーカーを、抗体への結合に利用可能とするために、修飾する必要のある場合がある。免疫細胞化学法又は免疫組織化学法の特定の側面では、スライドを前処理用緩衝液へと移し、任意選択で加熱して、抗原のアクセス可能性を増大させることができる。前処理用緩衝液中で試料を加熱することにより、細胞の脂質二重層を急速に破壊し、抗原に抗体の結合へのアクセス可能性を増大させる(採取したての検体の場合は該当しうるが、固定された検体で典型的に生じるわけではない)。本明細書では、「前処理用緩衝液」及び「調製用緩衝液」という用語を互換的に使用して、特に、本発明のマーカーの、抗体の結合へのアクセス可能性を増大させることにより、免疫染色のための細胞学試料又は組織学試料を調製するのに使用される緩衝液を指す。前処理用緩衝液は、pH特異的な塩溶液、ポリマー、洗浄剤、或いは、例えば、エチルオキシル化されたアニオン性界面活性剤若しくは非イオン性界面活性剤、アルカノエート若しくはアルコキシレート、なお又はこれらの界面活性剤のブレンドなどの非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤、なお或いは胆汁塩の使用を含みうる。前処理用緩衝液は、例えば、0.1%〜1%のデオキシコール酸(ナトリウム塩)の溶液、又はラウレス-13-カルボン酸ナトリウム(例えば、Sandopan LS)若しくはエトキシル化されたアニオン性複合体の溶液でありうる。一部の実施形態では、前処理用緩衝液はまた、スライド保存用緩衝液としても使用することができる。
本発明を実施するときには、本発明のマーカータンパク質の、抗体の結合へのアクセス可能性を増大させるための任意の方法であって、当技術分野で公知の抗原回収法を含む方法を使用することができる。例えば、それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み込まれる、Bibboら(2002)、Acta. Cytol.、46:25〜29; Saqiら(2003)、Diagn. Cytopathol.、27:365〜370; Bibboら(2003)、Anal. Quant. Cytol. Histol.、25:8〜11を参照されたい。
マーカータンパク質のアクセス可能性を増大させるための前処理に続き、適切なブロッキング剤、例えば、過酸化水素などのペルオキシダーゼブロッキング試薬を使用して、試料をブロッキングすることができる。一部の実施形態では、タンパク質ブロッキング試薬を使用して、試料を、ブロッキングして、抗体の非特異的結合を予防することができる。タンパク質ブロッキング試薬は、例えば、精製カゼインを含みうる。次いで、抗体、特に、本発明のマーカーに特異的に結合するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を、試料とインキュベートする。当業者は、場合によっては、患者試料中の本発明のマーカータンパク質上の複数のエピトープを検出することにより、より正確な予後診断又は診断を得うることを察知するであろう。したがって、特定の実施形態では、本発明のマーカーの異なるエピトープを指向する少なくとも2つの抗体を使用する。複数の抗体を使用する場合、これらの抗体は、単一の試料へと、個別の抗体試薬として逐次的に添加することもでき、抗体カクテルとして同時に添加することもできる。代替的に、各個別の抗体を、同じ患者からの個別の試料へと添加し、結果としてもたらされるデータをプールすることもできる。
当技術分野では、抗体の結合を検出するための技法が周知である。本発明のマーカーへの抗体の結合は、抗体結合のレベルに対応し、したがって、マーカータンパク質発現のレベルに対応する、検出可能なシグナルを発生させる化学試薬を使用することにより検出することができる。本発明の免疫組織化学法又は免疫細胞化学法のうちの1つでは、抗体の結合を、標識されたポリマーへとコンジュゲートされた二次抗体を使用することにより検出する。標識されたポリマーの例は、ポリマー-酵素コンジュゲートを含むがこれらに限定されない。これらの複合体内の酵素は、抗原-抗体の結合部位における色原体の析出を触媒し、これにより、対象のバイオマーカーの発現のレベルに対応する細胞染色を結果としてもたらすのに使用されることが典型的である。特に対象の酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)及びアルカリホスファターゼ(AP)を含むがこれらに限定されない。
1つの特定の、本発明の免疫組織化学法又は免疫細胞化学法では、本発明のマーカーへの抗体の結合を、二次抗体へとコンジュゲートされた、HRPで標識されたポリマーを使用することにより検出する。抗体の結合はまた、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体に結合する、分子種特異的なプローブ試薬、及び分子種特異的なプローブ試薬に結合する、HRPへとコンジュゲートされたポリマーを使用することによっても検出することができる。スライドは、任意の色原体例えば、色原体である3,3-ジアミノベンジジン(DAB)を使用して、抗体の結合について染色し、次いで、ヘマトキシリンで対比染色し、任意選択では、水酸化アンモニウム又はTBS/Tween-20などの青み剤で対比染色する。他の適切な色原体は、例えば、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)を含む。本発明の一部の態様では、スライドを、細胞検査技師及び/又は病理学者に、顕微鏡で再検討させて、細胞染色、例えば、蛍光染色(すなわち、マーカーの発現)を評価する。代替的に、試料は、自動式顕微鏡により再検討することもでき、陽性染色細胞の同定を容易とするコンピュータソフトウェアを一助として、検査員に再検討させることもできる。
抗体の結合の検出は、抗マーカー抗体を、検出用物質へとカップリングすることにより容易とすることができる。検出用物質の例は、多様な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質を含む。適切な酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼを含み;適切な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み;適切な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、又はフィコエリトリンを含み;発光物質の例は、ルミノールを含み;生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びアクォリンを含み;適切な放射性物質の例は、125I、131I、35S、14C、又は3Hを含む。
本発明の一実施形態では、凍結試料を、上記で記載した通りに調製し、その後、例えば、トリス緩衝生理食塩液(TBS)を使用して適切な濃度まで希釈された、本発明のマーカーに対する抗体で染色する。一次抗体は、スライドを、ビオチニル化された抗免疫グロブリン中でインキュベートすることにより検出することができる。このシグナルは、任意選択で増幅し、抗原のジアミノベンジジン沈殿を使用して造影することができる。更に、スライドは、任意選択で、例えば、ヘマトキシリンにより対比染色して、細胞を造影することができる。
別の実施形態では、固定及び包埋された試料を、本発明のマーカーに対する抗体で染色し、凍結させた切片について上記で記載した通りに対比染色する。加えて、試料は、任意選択で、薬剤により処理して、シグナルを増幅して、抗体の染色を造影することができる。例えば、ペルオキシダーゼでコンジュゲートしたストレプトアビジン(Catalyzed Signal Amplification (CSA) System、DAKO、Carpinteria、CA)と反応する、ビオチニル-Tyramideのペルオキシダーゼ触媒析出を使用することができる。
組織ベースのアッセイ(すなわち、免疫組織化学)は、本発明のマーカーを検出及び定量化する好ましい方法である。一実施形態では、本発明のマーカーの存在又は非存在は、免疫組織化学により決定することができる。一実施形態では、免疫組織化学解析で、マーカーを欠く細胞が染色されないように、低濃度の抗マーカー抗体を使用する。別の実施形態では、本発明のマーカーの存在又は非存在を、マーカータンパク質を欠く細胞が濃く染色されるように、高濃度の抗マーカー抗体を使用する、免疫組織化学法を使用して決定する。染色されない細胞は、突然変異したマーカーを含有して、抗原として認識可能なマーカータンパク質を産生することがないか、又はマーカーレベルを調節する経路が調節異常を来している結果として、安定状態におけるマーカータンパク質の発現が無視できる細胞である。
当業者は、本発明の方法を実施するのに使用される特定の抗体の濃度が、結合時間、本発明のマーカーに対する抗体の特異性のレベル、及び試料調製の方法などの因子に応じて変化することを認識するであろう。更に、複数の抗体を使用する場合、必要とされる濃度は、抗体を試料へと適用する順序、例えば、カクテルとして同時であるのか、又は個々の抗体試薬として逐次的であるのかに影響を受ける可能性がある。更に、本発明のマーカーへの抗体の結合を造影するのに使用される検出化学反応もまた、所望のシグナル対ノイズ比をもたらすように最適化しなければならない。
本発明の一実施形態では、プロテオミクス法、例えば、質量分析、を使用して、本発明のマーカータンパク質を検出及び定量化する。例えば、血清などの生物試料のタンパク質結合性チップへの適用を伴う、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF MS)又は表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析(SELDI-TOF MS)(Wright, G.L., Jr.ら(2002)、Expert Rev Mol Diagn、2:549; Li, J.ら(2002)、Clin Chem、48:1296; Laronga, C.ら(2003)、Dis Markers、19:229; Petricoin, E.F.ら(2002)、359:572; Adam, B.L.ら(2002)、Cancer Res、62:3609; Tolson, J.ら(2004)、Lab Invest、84:845; Xiao,Z.ら(2001)、Cancer Res、61:6029)を使用して、PY-Shcタンパク質及び/又はp66-Shcタンパク質を検出及び定量化することができる。質量分析法は、例えば、それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,622,824号、同第5,605,798号、及び同第5,547,835号において記載されている。
他の実施形態では、本発明のマーカーの発現は、核酸レベルで検出する。当技術分野では、発現を評価するための核酸ベースの技法がよく知られており、例えば、対象由来の試料中のマーカーmRNAのレベルを決定するステップを含む。多くの発現検出法では、単離RNAを使用する。mRNAの単離に限定されない任意のRNA単離法を、本発明のマーカーを発現する細胞からRNAを精製するために利用することができる(例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York 1987〜1999を参照されたい)。更に、多数の組織試料を、例えば、Chomczynski (1989、米国特許第4,843,155号)による単一ステップのRNA単離工程など、当業者に周知の技法を使用して容易に処理することができる。
「プローブ」という用語は、本発明のマーカー、例えば、ヌクレオチド転写物及び/又はタンパク質に選択的に結合することが可能な任意の分子を指す。プローブは、当業者が合成することもでき、適切な生物学的調製物から誘導することもできる。プローブは、とりわけ、標識するようにデザインすることができる。プローブとして利用しうる分子の例は、RNA、DNA、タンパク質、抗体、及び有機分子を含むがこれらに限定されない。
単離mRNAは、サザンブロット法又はノーザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応解析、及びプローブアレイを含むがこれらに限定されない、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅アッセイにおいて使用することができる。mRNAレベルを検出するための1つの方法は、単離mRNAを、マーカーmRNAとハイブリダイズしうる核酸分子(プローブ)と接触させるステップを伴う。核酸プローブは、例えば、少なくとも7、15、30、50、100、250、又は500ヌクレオチドの長さであり、厳密な条件下で、マーカーのゲノムDNAと特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドなど、全長cDNA又はその一部でありうる。
一実施形態では、例えば、単離mRNAにアガロースゲル上を泳動させ、mRNAをゲルから、ニトロセルロースなどの膜へと転写することにより、mRNAを固体表面上に固定化させ、プローブと接触させる。代替的な実施形態では、例えば、Affymetrix遺伝子チップアレイ内で、プローブ(複数可)を固体表面上に固定化させ、mRNAをプローブ(複数可)と接触させる。当業者は、既知のmRNA検出法を、マーカーmRNAのレベルの検出における使用に容易に適合させることができる。
試料中のmRNAマーカーのレベルを決定するための代替的な方法は、核酸増幅の工程、例えば、RT-PCR(実験的実施形態は、Mullis、1987、米国特許第4,683,202号に示されている)、リガーゼ連鎖反応(Barany、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:189〜193)、自己持続配列複製(Guatelliら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、87:1874〜1878)、転写増幅システム(Kwohら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:1173〜1177)、Q-ベータレプリカーゼ(Lizardiら、1988、Bio/technology、6:1197)、ローリングサークル複製(Lizardiら、米国特許第5,854,033号)、又は他の任意の核酸増幅法に続いて、当業者に周知の技法を使用する、増幅された分子の検出による工程を伴う。これらの検出スキームは、核酸分子を、このような分子が極めて少数で存在する場合に検出するのにとりわけ有用である。本発明の特定の態様では、マーカーの発現を、定量的蛍光RT-PCR(すなわち、TaqMan(商標)System)により評価する。このような方法は、本発明のマーカーに特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対を使用することが典型的である。当技術分野では、既知の配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーをデザインするための方法が周知である。
本発明のマーカーの発現のレベルは、メンブレンブロット(ノーザンブロット法、サザンブロット法、ドット解析などのハイブリダイゼーション解析で使用されるメンブレンブロットなど)、又はマイクロウェル、試料管、ゲル、ビーズ、又はファイバー(又は結合した核酸を含む任意の固体の支持体)を使用してモニタリングすることができる。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,770,722号、同第5,874,219号、同第5,744,305号、同第5,677,195号、及び同第5,445,934号を参照されたい。マーカーの発現の検出はまた、溶液中の核酸プローブの使用も含みうる。
本発明の一実施形態では、マイクロアレイを使用して、本発明のマーカーの発現を検出する。マイクロアレイは、異なる実験間の再現性のために、この目的に特に好適である。DNAマイクロアレイは、多数の遺伝子の発現のレベルを同時に測定するための1つの方法をもたらす。各アレイは、固体の支持体へと接合された、再現可能なパターンの捕捉プローブからなる。標識されたRNA又はDNAを、アレイ上の相補的なプローブとハイブリダイズさせ、次いで、レーザー走査により検出する。アレイ上の各プローブについて、ハイブリダイゼーション強度を決定し、相対遺伝子の発現のレベルを表す定量値へと変換する。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,040,138号、同第5,800,992号、及び同第6,020,135号、同第6,033,860号、及び同第6,344,316号を参照されたい。高密度のオリゴヌクレオチドアレイは、試料中の多数のRNAの遺伝子の発現プロファイルを決定するのに特に有用である。
本発明のマーカーのマーカー量及び/又はマーカー量の数学的関係性は、当業者に公知の回帰分析法を含みうる、本発明の方法を使用して、疾患状態又は毒性状態について処置されている対象における、疾患状態、例えば、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患、又は毒性状態、例えば、薬物誘導性毒性又は薬物誘導性心毒性の再発の危険性、疾患状態又は毒性状態について処置されている対象の生存、疾患状態又は毒性状態が侵襲性であるのかどうか、疾患状態又は毒性状態を処置するための処置レジメンの有効性などを計算するのに使用することができる。例えば、適切な回帰モデルは、CART回帰モデル(例えば、Hill, T及びLewicki, P. (2006)、「STATISTICS Methods and Applications」、StatSoft、Tulsa、OK)、Cox回帰モデル(例えば、www.evidence-based-medicine.co.uk)、指数回帰モデル、ノーマル回帰モデル、及び対数ノーマル回帰モデル(例えば、www.obgyn.cam.ac.uk/mrg/statsbook/stsurvan.html)、ロジスティック回帰モデル(例えば、www.en.wikipedia.org/wiki/Logistic_regression)、パラメトリック回帰モデル、ノンパラメトリック回帰モデル、セミパラメトリック回帰モデル(例えば、www.socserv.mcmaster.ca/jfox/Books/Companion)、線形回帰モデル(例えば、www.en.wikipedia.org/wiki/Linear_regression)、又は加算回帰モデル(例えば、www.en.wikipedia.org/wiki/Generalized_additive_model)を含むがこれらに限定されない。
一実施形態では、回帰分析は、マーカー量を含む。別の実施形態では、回帰分析は、マーカーの数学的関係性を含む。更に別の実施形態では、マーカー量及び/又はマーカーの数学的関係性についての回帰分析は、更なる臨床共変量及び/又は分子共変量を含みうる。このような臨床共変量は、結節状態、腫瘍病期、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、処置レジメ、例えば、化学療法及び/又は放射線療法、臨床転帰(例えば、再発、疾患特異的な生存、治療の不奏効)、並びに/又は診断後の時間、治療開始後の時間、及び/若しくは処置完了後の時間の関数としての臨床転帰を含むがこれらに限定されない。
VIII.キット
本発明はまた、疾患状態、例えば、癌、糖尿病、肥満、心血管疾患、又は毒性状態、例えば、薬物誘導性毒性若しくは薬物誘導性心毒性、疾患状態又は毒性状態の再発、或いは疾患状態又は毒性状態について処置されている対象の生存について予後診断するための組成物及びキットも提供する。これらのキットは、以下:本発明のマーカーに特異的に結合する検出可能な抗体、染色のための対象の組織試料を得、且つ/又はこれを調製するための試薬、及び使用のための指示書のうちの1つ以上を含む。
本発明のキットは、任意選択で、本発明の方法を実施するのに有用な更なる成分を含みうる。例を目的として述べると、キットは、相補的な核酸のアニーリング、又は抗体の、それが特異的に結合するタンパク質との結合に適する流体(例えば、SSC緩衝液)、1つ以上の試料コンパートメント、本発明の方法の実施について記載する指示書、及び組織特異的な対照/基準物質を含みうる。
IX.スクリーニングアッセイ
本発明の標的は、本明細書で列挙される遺伝子及び/又はタンパク質を含むがこれらに限定されない。本明細書で出願人らが記載する実験の結果に基づき、疾患状態又は毒性状態においてモジュレートされる鍵となるタンパク質は、細胞骨格成分、転写因子、アポトーシス応答、五炭糖リン酸経路、生合成経路、酸化的ストレス(酸化促進剤)、膜の変化、及び酸化的リン酸化による代謝を含む、異なる経路若しくは分子群に関連するか、又は異なる経路若しくは分子群へと分類することができる。したがって、本発明の一実施形態では、マーカーは、HSPA8、FLNB、PARK7、HSPA1A/HSPA1B、ST13、TUBB3、MIF、KARS、NARS、LGALS1、DDX17、EIF5A、HSPA5、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、CANX、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1及びTAZからなる群から選択される1種以上の遺伝子(又はタンパク質)を含みうる。一実施形態では、マーカーは、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1、GPAT1、及びTAZからなる群から選択される1種以上の遺伝子(又はタンパク質)を含みうる。一部の実施形態では、マーカーは、前出の遺伝子(又はタンパク質)のうちの、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30種以上の組合せである。
同定されたマーカーのモジュレーターを同定するのに有用なスクリーニングアッセイについては、下記に記載する。
本発明はまた、本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートすることにより、疾患状態又は毒性状態を処置又は予防するのに有用なモジュレーター、すなわち、候補物質又は被験化合物又は薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、ペプトイド、低分子又は他の薬物)を同定するための方法(本明細書ではまた「スクリーニングアッセイ」とも称する)も提供する。このようなアッセイは、本発明のマーカーと1種以上のアッセイ成分との間の反応を含むことが典型的である。他の成分は、被験化合物それ自体の場合もあり、被験化合物と、本発明のマーカーの天然の結合パートナーとの組合せの場合もある。本明細書で記載される化合物など、アッセイにより同定された化合物は、例えば、疾患状態又は毒性状態の侵襲性をモジュレートする、例えば、阻害、緩和、処置、又は予防するのに有用でありうる。
本発明のスクリーニングアッセイで使用される被験化合物は、天然化合物及び/又は合成化合物の体系的ライブラリーを含む、任意の入手可能な供給源から得ることができる。被験化合物はまた、生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの官能基を有するが、新規の非ペプチド骨格であって、酵素分解に対して耐性であるが、にもかかわらず、生理活性を維持する非ペプチド骨格を伴う分子のライブラリー;例えば、Zuckermannら、1994、J. Med. Chem.、37:2678〜85を参照されたい。);空間的にアドレス可能なパラレル固相ライブラリー又はパラレル液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ-1化合物」ライブラリー法;及びアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における、多数の手法のうちのいずれかによっても得ることができる。生物学的ライブラリー法及びペプトイドライブラリー法は、ペプチドライブラリーへと限定されるが、他の4つの手法は、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は低分子のライブラリー化合物へと適用可能である(Lam、1997、Anticancer Drug Des.、12:145)。
当技術分野では、分子ライブラリーを合成するための方法の例を、例えば、DeWittら(1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、90:6909; Erbら(1994)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91:11422; Zuckermannら(1994)、J. Med. Chem.、37:2678; Choら(1993)、Science、261:1303; Carrellら(1994)、Angew. Chem. Int. Ed. Engl.、33:2059; Carellら(1994)、Angew. Chem. Int. Ed. Engl.、33:2061;及びGallopら(1994)、J. Med. Chem.、37:1233において見出すことができる。
化合物のライブラリーは、溶液(例えば、Houghten、1992、Biotechniques、13:412〜421)中に存在させることもでき、ビーズ(Lam、1991、Nature、354:82〜84)上に存在させることもでき、チップ(Fodor、1993、Nature、364:555〜556)上に存在させることもでき、細菌及び/又は胞子(Ladner、米国特許第5,223,409号)上に存在させることもでき、プラスミド(Cullら、1992、Proc Natl Acad Sci USA、89:1865〜1869)上に存在させることもでき、ファージ(Scott及びSmith、1990、Science、249:386〜390; Devlin、1990、Science、249:404〜406; Cwirlaら、1990、Proc. Natl. Acad. Sci.、87:6378〜6382; Felici、1991、J. Mol. Biol.、222:301〜310; Ladner、前出)上に存在させることもできる。
本発明のスクリーニング法は、疾患状態細胞又は毒性状態細胞を、被験化合物と接触させるステップと、細胞内の本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートする被験化合物の能力を決定するステップとを含む。本発明のマーカーの発現及び/又は活性は、本明細書で記載される通りに決定することができる。
別の実施形態では、本発明は、本発明のマーカー又はその生物学的活性部分の基質である候補物質又は被験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。更に別の実施形態では、本発明は、本発明のマーカー又はその生物学的活性部分に結合する候補物質又は被験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。マーカーに直接結合する被験化合物の能力の決定は、例えば、複合体内の標識されたマーカー化合物を検出することにより、化合物のマーカーへの結合を決定しうるように、化合物を、放射性同位元素又は酵素標識とカップリングすることにより達成することができる。例えば、化合物(例えば、マーカー基質)は、131I、125I、35S、14C、又は3Hで直接的又は間接的に標識し、放射性同位元素は、放射性発光の直接的なカウンティング又はシンチレーションカウンティングにより検出することができる。代替的に、アッセイ成分は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素的に標識し、酵素標識は、適切な基質の産物への転換を決定することにより検出することができる。
本発明は更に、上記で記載したスクリーニングアッセイにより同定される新規の薬剤にも関する。したがって、本明細書で記載される通りに同定される薬剤を、適切な動物モデルで更に使用することも、本発明の範囲内にある。例えば、本明細書で記載される通りに同定される本発明のマーカーの発現及び/又は活性をモジュレートすることが可能な薬剤を、動物モデルにおいて使用して、このような薬剤による処置の有効性、毒性、又は副作用を決定することができる。代替的に、本明細書で記載される通りに同定される薬剤を、動物モデルにおいて使用して、このような薬剤の作用機構も決定することができる。更に、本発明は、上記で記載したスクリーニングアッセイにより同定される新規の薬剤の、上記で記載した処置のための使用にも関する。
[実施例1]
癌コンセンサスネットワーク及び癌シミュレーションネットワークを構築するためのプラットフォーム技術の援用
本実施例では、上記で詳細に記載したプラットフォーム技術を援用して、特注のin vitro癌モデルから得られるデータを統合し、これにより、癌の発症機序を駆動する新規のタンパク質/経路を同定した。この解析から結果として得られる関係性マップは、癌処置の標的、並びに癌に関連する診断/予後診断マーカーを提示している。
研究デザインを、図18に描示する。略述すると、2つの癌細胞株(PaCa2、HepG2)及び1つの正常細胞株(THLE2)を、in vivoにおいて癌細胞が被る環境をシミュレートする7つの条件のうちの1つの下に置いた。具体的には、細胞を、高血糖条件、低酸素条件、乳酸条件、高血糖+低酸素組合せ条件、高血糖+乳酸組合せ条件、低酸素+乳酸組合せ条件、又は高血糖+低酸素+乳酸組合せ条件へと曝露した。異なる条件は、以下の通りに創出した:
・高血糖条件は、22mMのグルコースを含有する培地中で細胞を培養することにより創出した。
・低酸素条件は、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber (MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、Del Mar、CA)内に入れることにより誘導した。
・乳酸条件は、12.5mMの乳酸を含有する培地中で細胞を培養することにより創出した。
・高血糖+低酸素組合せ条件は、22mMのグルコースを含有する培地中で細胞を培養することにより創出し、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber内に入れた。
・高血糖+乳酸組合せ条件は、22mMのグルコース及び12.5mMの乳酸を含有する培地中で細胞を培養することにより創出した。
・低酸素+乳酸組合せ条件は、12.5mMの乳酸を含有する培地中で細胞を培養することにより創出し、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber内に入れた。
・高血糖+低酸素+乳酸組合せ条件は、22mMのグルコース及び12.5mMの乳酸を含有する培地中で細胞を培養することにより創出し、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber内に入れた。
上記で記載した各条件へと曝露した上述の細胞を含む細胞モデルを、コエンザイムQ10で処置することを介して、細胞を環境変動へと曝露することにより更に精査した。具体的には、細胞を、0、50μM又は100μMのコエンザイムQ10で処置した。
各条件及び各コエンザイムQ10処置を伴う各細胞系についての細胞試料並びに培地試料を、処置の24時間後及び48時間後を含む、処置後の多様な時点で回収した。
加えて、2つの異なる癌細胞である、PaCa2細胞とHepG2細胞とのクロストーク実験を実行したが、この場合、PaCa2細胞及びHepG2細胞は共培養した。この共培養法を、細胞外セクレトーム(EC)実験と称する。第1の細胞系(PaCa2)を、まず、トランスウェル型成長チャンバーのウェルインサート内に播種した。6ウェルプレートを使用して、統計学的解析の向上を可能とした。第1の細胞系をインサート内に播種するときは、インサートを、個別の6ウェルプレート内に入れた。第2の細胞系(HepG2)は、プライマリートレイ上に播種した。第1の細胞系を含有するインサートトレイ、及び第2の細胞系を含有するプライマリートレイを、37℃で一晩にわたりインキュベートした。細胞系の各々は、特殊な細胞に特異的な培地中で成長させた(この場合、代替的に、細胞系の各々を、両方の細胞型の成長を支持するように適合させた培地中で成長させることもできるであろう)。2日目に、培地を交換することにより、所定の処置を施した。具体的には、第1の細胞系を含有するインサートを、第2の細胞系を含有するプライマリートレイ内に入れた。次いで、トレイを、所定の時間、例えば、24時間又は48時間にわたりインキュベートした。条件が同じ2連のウェルを準備し、二次元解析に十分な材料をもたらすように細胞をプールした。培地(1mlのアリコート)、インサートからの細胞、プライマリートレイのウェルからの細胞を、個別の試料として採取した。実験は、統計学的解析力を向上させるために、3連で実行した。
クロストーク実験はまた、「培地スワップ」実験によっても実行した。具体的には、第1の細胞系からの、培養された培地又は「セクレトーム」(PaCa2)を、変動又は上記で記載した条件付けの24時間後又は48時間後に回収し、次いで、第2の細胞系(HepG2)へと24〜48時間にわたり添加した。次いで、第2の細胞系からの、最終的な、培養された培地又は「セクレトーム」を回収した。全ての最終的なセクレトームを、プロテオミクス解析に付した。
各条件において、且つ、上記の「発明を実施するための形態」で記載した技法を使用する各「環境変動」、すなわち、コエンザイムQ10処置を伴う、各細胞系について回収された細胞及び培地試料についての定量的プロテオミクスにより、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを実施した。定量的プロテオミクスによる、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを、各処置を伴う各条件で共培養された各細胞株について回収された細胞試料及び培地試料についても同様に実施した。
更に、癌細胞、正常細胞、及びクロストーク実験における細胞であって、各条件へと曝露され、コエンザイムQ10による変動を伴うか又は伴わない細胞のバイオエナジェティクスプロファイリングを、本質的に、製造元により推奨される通りに、Seahorse解析器を援用することにより作成した。OCR (酸素消費速度)及びECAR (細胞外酸性化速度)を、カートリッジをSeahorse培養プレートに押し当てることにより創出される、7μlのチャンバー内の電極により記録した。
各条件で、且つ、各変動を伴う各細胞系(クロストーク実験における細胞を含む)について回収されたプロテオミクスデータ、及び各条件で、且つ、各変動を伴う各細胞系について回収されたバイオエナジェティクスプロファイリングデータの全てを、REFS(商標)システムにより入力及び処理した。次いで、Paca2、HepG2、THLE2、及びクロストーク実験についての生データを、標準化された命名法を使用して組合せた。プロテオミクスデータのうちの15%超が逸失している遺伝子を取り除いた。データインピュテーション戦略を開発した。例えば、反復内エラーモデルを使用して、反復による実験条件からのデータを補完した。10の近傍点に基づくK-NNアルゴリズムを使用して、反復を伴わないデータを補完した。表現型データと連関させた、3つを併せた生物システム、Paca2システムだけ、又はHepG2システムだけについて、異なるREFS(商標)モデルを構築した。
シミュレーションネットワーク内の親ノードを子ノードへと接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語とは、統計学的計算及びグラフ表示のための、オープンソースのソフトウェア環境である)。
Rプログラムからの出力は、オープンソースプログラムであるCytoscapeへと入力して、コンセンサスネットワークの視覚的表示を作成した。
構築された全てのモデルのうちで、断片頻度70%の例示的なタンパク質相互作用REFSコンセンサスネットワークを、図21に示す。
図21に示されるコンセンサスネットワーク内の各ノードは、LDHAの発現を4倍又は4分の1にすることによりシミュレートして、上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載した通りに、REFS(商標)を使用するシミュレーションネットワークを作成した。
シミュレートされたLDHAの発現変化の、図21に示される例示的なコンセンサスネットワーク内の、高レベルのPARK7及びPARK7に関連する注記中のタンパク質に対する影響を探索した。REFS(商標)を使用して、2つの癌細胞株、すなわち、Paca2内及びHepG2内のLDHAシミュレーションに応答するタンパク質を同定した(図22を参照されたい)。数字は、特定のタンパク質発現のレベルの倍数変化を表す。
上記の方法を使用して同定されたタンパク質の連関を検証するため、シミュレーションネットワーク内でLDHAとじかに近接することが同定されたマーカーを、実験からの出力と、既に刊行された文献に基づくネットワークとの分子的連関を決定するために、ニューラルネットワークを利用するソフトウェアプログラムである、IPAへと入力した。IPAプログラムの出力を、図23に示す(プラットフォームにより作成されたシミュレーションネットワーク内でLDHAとじかに近接することが同定されたグレーの形状のマーカーと、白抜きの形状のマーカーとは、既に刊行された文献中の既知の知見に基づくIPAにより同定される連関を有する)。
精査のためのBiologyプラットフォーム技術からの出力中で同定されるマーカー(図21に示す)、すなわち、DHX9、HNRNPC、CKAP4、HSPA9、PARP1、HADHA、PHB2、ATP5A1、及びCANXは、IPAにより作成されたネットワーク内で、TP53及びPARK7などのよく知られた癌マーカーと連関することが観察された(図23に示す)。精査のためのBiologyプラットフォームを使用することにより同定される因子は、学術文献で公表されている既知の因子との連関性を共有するという事実により、精査のためのBiologyプラットフォームを使用することにより創出されたネットワークの精度が検証された。加えて、精査のためのBiologyプラットフォームの出力を使用することにより創出される、LDHAサブネットワーク内のネットワーク連関により、分子的実体間の連関が相互作用ノード間の機能的指向性を提示しないIPAネットワークとは対照的に、各因子の指向的影響の存在が裏付けられた。したがって、データ作成への偏りのない手法を援用することにより、コンピュータモデルを創出するための統合及びリバースエンジニアリングに続くシミュレーション及び差次的ネットワーク解析である、精査のためのBiology発見プラットフォームは、癌の病態生理において従来知られていなかった機構であって、疾患の病態生理の十分に確立された科学的理解と合致する機構の理解を可能とする。
図19は、iProfilingからのタンパク質発現データに基づき、CoQ10処置の、下流のノード(Pubmedのタンパク質受託番号を、図19に列挙する)に対する効果を示す。タンパク質受託番号P00338は、LDHAである。HepG2細胞内のLDHA発現について、ウェットラボによるプロテオミクスデータの検証を実施した(図20を参照されたい)。図20に示す通り、HepG2を、50uMのCoQ10又は100uMのCoQ10で24又は48時間にわたり処置したところ、LDHA発現のレベルは低下した。
よく知られた癌マーカーであるTP53、Bcl-2、Bax、及びCaspase3について、CoQ10処置の、SKMEL 28細胞におけるこれらのマーカーの発現のレベルに対する効果の、ウェットラボによる検証を実施した(図24及び図25を参照されたい)。
[実施例2]
癌デルタ-デルタネットワークを構築するためのプラットフォーム技術の援用
本実施例では、上記で詳細に記載したプラットフォーム技術を援用して、特注のin vitro癌モデルから得られるデータを統合し、これにより、癌の発症機序を駆動する新規のタンパク質/経路を同定した。この解析から結果として得られる関係性マップは、癌処置の標的、並びに癌に関連する診断/予後診断マーカーを提示している。
略述すると、4つの癌細胞株(PaCa2、HepG2、PC3、及びMCF7)及び2つの正常細胞株(THLE2及びHDFa)を、in vivoにおいて癌細胞が被る環境をシミュレートする多様な条件下に置いた。具体的には、細胞を、高血糖条件、低酸素条件、及び乳酸による処置の各々へと個別に曝露した。例えば、高血糖条件は、22mMのグルコースを含有する培地中で細胞を培養することにより創出した。低酸素条件は、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber (MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、Del Mar、CA)内に入れることにより誘導した。乳酸処理には、各細胞株を、0又は12.5mMの乳酸で処理した。細胞をそれぞれ3つの前出の条件の各々へと曝露することに加えて、細胞はまた、2つの条件又は3つ全ての条件の組合せ(すなわち、高血糖条件及び低酸素条件;高血糖条件及び乳酸;低酸素条件及び乳酸;並びに高血糖条件及び低酸素条件及び乳酸)へも曝露した。
各種類の細胞を上記で記載した各条件へと曝露した上述の細胞を含む細胞モデルを、コエンザイムQ10で処置することを介して、細胞を環境変動へと曝露することにより更に精査した。具体的には、細胞を、0、50μM又は100μMのコエンザイムQ10で処置した。
各条件(又は条件の組合せ)へと曝露され、コエンザイムQ10処置を伴う各細胞系、及び各条件(又は条件の組合せ)へと曝露され、コエンザイムQ10処置を伴わない各細胞系について、細胞からのセクレトームを含有する細胞試料並びに培地試料を、処置の24時間後及び48時間後を含む、処置後の多様な時点で回収した。
加えて、2つの異なる癌細胞である、PaCa2細胞とHepG2細胞とのクロストーク実験を実行したが、この場合、PaCa2細胞及びHepG2細胞は共培養した。この共培養法を、細胞外セクレトーム(ECS)実験と称する。第1の細胞系(PaCa2)を、トランスウェル型成長チャンバーのウェルインサート内に播種した。統計学的解析の向上を可能とするために、6ウェルプレートを一般に使用した。第1の細胞系をインサート内に播種するときは、インサートを、個別の6ウェルプレート内に入れた。第2の細胞系(HepG2)は、プライマリートレイ内に播種した。第1の細胞系を含有したインサートを含有する6ウェルプレート、及び第2の細胞系を含有するプライマリートレイを、37℃で一晩にわたりインキュベートした。細胞系の各々は、それぞれの細胞に特異的な培地中で成長させた(この場合、代替的に、細胞系の各々を、両方の細胞型の成長を支持するように適合させた培地中で成長させることもできるであろう)。2日目に、培地を交換することにより、所定の処置を施した。具体的には、第1の細胞系及び第1の細胞系のそれぞれの培地を含有するインサートを、第2の細胞系及び第2の細胞系のそれぞれの培地を含有するプライマリートレイ内に入れた。しかし、共培養の全ての場合において、共培養される細胞は、共培養の前日に個別にではあるが、同じ「癌条件」(例えば、高血糖、低酸素、乳酸、又はこれらの組合せ)へと曝露しておいた。すなわち、インサート内の第1の細胞系と、トレイ内の第2の細胞系とは、「共培養」配置へと移動させる前に、同じ条件へと曝露した。次いで、トレイを、所定の時間、例えば、24時間又は48時間にわたりインキュベートした。条件が同じ2連のウェルを準備し、細胞をその後のプロテオミクス解析に十分な材料をもたらすようにプールした。セクレトームを含有する培地(1mlのアリコート)、インサートからの細胞、プライマリートレイのウェルからの細胞を、個別の試料として採取した。実験は、統計学的解析力を向上させるために、3連で実行した。
クロストーク実験はまた、「培地スワップ」実験によっても実行した。具体的には、第1の細胞系(PaCa2)からの、培養された培地又は「セクレトーム」を、変動及び/又は条件化の24時間後又は48時間後に回収し、次いで、第2の細胞系へと24〜48時間にわたり添加した。次いで、第2の細胞系からの、最終的な、培養された培地又は「セクレトーム」を回収した。全ての最終的なセクレトームを、プロテオミクス解析に付した。
細胞系を上記で記載した「癌条件」、変動(すなわち、コエンザイムQ10処置)、及び/又は共培養実験からの対細胞のセクレトーム中でもたらされた条件へと曝露した後で、次いで、細胞系からの多様なリードアウトを解析することにより、細胞の応答を解析した。リードアウトは、プロテオミクスデータ、とりわけ、細胞内タンパク質の発現並びに細胞培養培地へと分泌されたタンパク質、及び機能データ、とりわけ、細胞バイオエナジェティクスを含んだ。
上記の「発明を実施するための形態」で記載した技法を使用して、定量的プロテオミクスによる、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを、各条件(又は条件の組合せ)へと曝露され、「環境変動」、すなわち、コエンザイムQ10処置を伴うか又は伴わない各細胞系(正常細胞株及び癌細胞株)について回収された、細胞試料及び培地試料について実施した。
更に、各条件(又は条件の組合せ)へと曝露され、「環境変動」、すなわち、コエンザイムQ10処置を伴うか又は伴わない各細胞株(正常細胞株及び癌細胞株)のバイオエナジェティクスプロファイリングを、本質的に、製造元により推奨される通りに、Seahorse解析器を援用することにより作成した。酸素消費速度(OCR)及び細胞外酸性化速度(ECAR)を、カートリッジをSeahorse培養プレートに押し当てることにより創出される、7μlのチャンバー内の電極により記録した。
次いで、各条件(複数可)で、且つ、各変動を伴う/伴わない各細胞系について回収されたプロテオミクスデータ、及び各条件(複数可)で、且つ、各変動を伴う/伴わない各細胞系について回収されたバイオエナジェティクスプロファイリングデータを、REFS(商標)システムにより処理した。「複合癌変動ネットワーク」は、各々が各特殊条件(及び条件の組合せ)へと曝露され、且つ、変動(CoQ10)へと更に曝露された、癌細胞株の全てから得られる組合せデータから作成した。「複合癌非変動ネットワーク」は、各々が各特殊条件(及び条件の組合せ)へと曝露され、変動を伴わない(CoQ10を伴わない)、癌細胞株の全てから得られる組合せデータから作成した。同様に、「複合正常変動ネットワーク」は、各々が各特殊条件(及び条件の組合せ)へと曝露され、且つ、更に、変動(CoQ10)へも曝露された、正常細胞株の全てから得られる組合せデータから作成した。「複合正常非変動ネットワーク」は、各々が各特殊条件(及び条件の組合せ)へと曝露され、変動を伴わない(CoQ10を伴わない)正常細胞株の全てから得られる組合せデータから作成した。
次に、REFS(商標)を使用して、上記で記載した4つの複合ネットワークの各々について、「シミュレーション複合ネットワーク」(本明細書ではまた「シミュレーションネットワーク」とも称する)を作成した。これを達成するため、上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載した通り、REFS(商標)を使用して、所与のコンセンサス複合ネットワーク内の各ノードをシミュレートして(10倍にするか又は10分の1にすることにより)、シミュレーションネットワークを作成した。
シミュレーションネットワーク内の親ノードを子ノードへと接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語とは、統計学的計算及びグラフ表示のための、オープンソースのソフトウェア環境である)。
最後に、デルタネットワークを作成した(デルタネットワークとは、2つのシミュレーション複合ネットワークの間の差違を表す)。デルタネットワークは、シミュレーション複合ネットワークから作成した。コエンザイムQ10に応答した、正常と対比した癌の差次的ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)を作成するために、図26に例示する通りに、PERLプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより、連続的な比較ステップを実施した。
まず、Rプログラムを使用して、癌非処置(T0)ネットワークと、癌処置(T1)ネットワークとを比較し、固有の癌処置T1ネットワークを分離した(図26の濃いグレーの三日月形を参照されたい)。これは、癌T1∩(交わり)癌T0「デルタ」ネットワークを表す。このデルタネットワーク内のタンパク質の相互作用/連関は、コエンザイムQ10処置に対する固有の癌応答を表すものとして考えることができる。
同様に、Rプログラムを使用して、正常非処置(T0)と、正常処置(T1)ネットワークとを比較し、固有の正常処置T1ネットワークを分離した(図26の明るいグレーの三日月形を参照されたい)。これは、正常T1∩正常T0「デルタ」ネットワークを表す。このデルタネットワーク内のタンパク質の相互作用/連関は、コエンザイムQ10処置に対する固有の正常細胞応答を表すものとして考えることができる。
最後に、Rプログラムを使用して、固有の癌T1ネットワーク(図26の濃いグレーの三日月形を参照されたい)と、固有の正常T1ネットワーク(図26の明るいグレーの三日月形を参照されたい)とを比較し、コエンザイムQ10に応答した、癌単独に固有であり、正常細胞には存在しないネットワークを作成した(図26を参照されたい)。このタンパク質の相互作用/連関のコレクションは、コエンザイムQ10で処置したときの、正常細胞には存在しない、癌細胞内に固有の経路を表す。このタンパク質の相互作用/連関のコレクションを、癌細胞からの差次的マップと正常対照細胞からの差次的マップとの比較から作成される差次的マップなので、「デルタ-デルタネットワーク」と呼ぶ。
PERLプログラム及びRプログラムからの出力は、オープンソースプログラムであるCytoscapeへと入力して、デルタ-デルタネットワークの視覚的表示を作成した。
本明細書で記載される方法を使用して同定されたデルタ-デルタネットワークは、癌処置のための標的を同定するのに高度に有用である。例えば、図27に提示するデルタ-デルタネットワークによれば、タンパク質Aは、OCR3 (酸化的リン酸化の尺度)を阻害し、ECAR3 (解糖の尺度)を増強する。この相互作用は、癌細胞内に固有であるので(デルタ-デルタネットワークでは、コエンザイムQ10処置したときに正常細胞内に共通に存在する任意の相互作用を差し引いているため)、タンパク質Aの発現の阻害は、癌の代謝経路の顕徴である解糖ベースのエネルギー代謝を低減し、細胞を、正常細胞とより密接に関連する表現型である、酸化的リン酸化ベースのエネルギー代謝へとシフトさせると予測される。したがって、コエンザイムQ10とタンパク質A阻害剤とを使用する組合せ治療は、癌細胞のエネルギー代謝プロファイルを、正常細胞に類似するエネルギー代謝プロファイルへとシフトさせることにより、少なくとも部分的に癌を処置するのに有効であると予測される。
実験からの出力と、既に刊行された文献に基づくネットワークとの分子的連関を決定するために、ニューラルネットワークを利用するソフトウェアプログラムであるIPAを使用して、因果ネットワークに由来するサブネットワークを、分子ネットワークと比較した実質例を使用することにより、本発明の精査のためのBiologyプラットフォーム技術の利点を更に例示する。精査のためのBiologyプラットフォームを使用して作成された、PARK7を含有する因果サブネットワーク(図29に示す)を、実質例として使用する。精査のためのBiologyプラットフォームからのPARK7ネットワークの全ての分子署名をIPAへと組み込んで、既知/既存の文献による証拠に基づくネットワークを作成した。次いで、精査のためのBiologyによる出力と、IPAを使用することにより作成された出力との間で、ネットワーク出力を比較した。
精査のためのBiologyプラットフォーム技術からの出力により同定される6つのマーカー(図29に示す)、すなわち、図27〜29中のA、B、C、X、Y、及びZは、IPAにより作成されたネットワーク内で、TP53と連関することが観察された(図28)。6つのマーカーのうちで、A、B、及びCは、文献中で、HSPA1A/HSPA1Bと同様に、癌に関連することが報告されている。X、Y、及びZを、癌状態の「ハブ」又は鍵となる駆動因子として同定し、したがって、新規の癌マーカーとして同定した。更に、MIF1及びKARSもまた、癌状態の「ハブ」又は鍵となる駆動因子として同定し、したがって、新規の癌マーカーとして同定した。精査のためのBiologyプラットフォームを使用することにより同定される因子は、学術文献で公表されている既知の因子との連関性を共有するという事実により、精査のためのBiologyプラットフォームを使用することにより創出されたネットワークの精度が検証された。加えて、精査のためのBiologyプラットフォームの出力を使用することにより創出されたPARK7サブネットワーク内のネットワーク連関(図29に示す)により、分子的実体間の連関が相互作用ノード間の機能的指向性を提示しないIPAネットワークとは対照的に、各因子の指向的影響の存在が裏付けられた(図28に示す)。更に、精査のためのBiologyプラットフォームからの出力(図29中で破線として示す)は、これらの成分の連関により、PARK7を介する潜在的な機構がもたらされることを裏付けた。タンパク質C、タンパク質A、及びPARK7の他のノードは、癌代謝の鍵となる駆動因子であることが観察された(図27)。
本実施例により証拠立てられる通り、データ作成への偏りのない手法を援用することにより、コンピュータモデルを創出するための統合及びリバースエンジニアリングに続くシミュレーション及び差次的ネットワーク解析である、精査のためのBiology発見プラットフォームは、癌の病態生理において従来知られていなかった機構であって、疾患の病態生理の十分に確立された科学的理解と合致する機構の理解を可能とする。
[実施例3]
糖尿病/肥満/心血管疾患デルタ-デルタネットワークを構築するためのプラットフォーム技術の援用
本実施例では、上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載したプラットフォーム技術を援用して、特注で構築した糖尿病/肥満/心血管疾患(CVD)モデルから得られるデータを統合し、糖尿病/肥満/CVDの発症機序を駆動する新規のタンパク質/経路を同定した。この解析から結果として得られる関係性マップにより、糖尿病/肥満/CVDの処置標的、並びに糖尿病/肥満/CVDに関連する診断/予後診断マーカーがもたらされた。
5つの初代ヒト細胞株、すなわち、脂肪細胞、筋管、肝細胞、大動脈平滑筋細胞(HASMC)、及び近位尿細管細胞(HK2)を、in vivoにおいてこれらの疾患関与性の細胞が被る環境をシミュレートする5つの条件のうちの1つの下に置いた。具体的には、5つの細胞株の各々を、以下の条件:高血糖条件、高脂血条件、高インスリン血条件、低酸素条件、及び乳酸への曝露の各々へと個別に曝露した。高血糖条件は、22mMのグルコースを含有する培地中で細胞を培養することにより誘導した。高脂血条件は、0.15mMのパルミチン酸ナトリウムを含有する培地中で細胞を培養することにより誘導した。高インスリン血条件は、1000nMのインスリンを含有する培地中で細胞を培養することにより誘導した。低酸素条件は、細胞を、5%のCO2、2%のO2、及び93%の窒素を含有する業務用ガスミックスで満たした、Modular Incubator Chamber (MIC-101、Billups-Rothenberg Inc.、Del Mar、CA)内に入れることにより誘導した。各細胞株はまた、0又は12.5mMの乳酸でも処理した。
加えて、2つの異なる細胞対である、HASMC (細胞系1)及びHK2細胞(細胞系2)又は肝細胞(細胞系1)及び脂肪細胞(細胞系2)の間のクロストーク実験を実行したが、この場合、対細胞は共培養した。この共培養法を、細胞外セクレトーム(ECS)実験と称する。第1の細胞系(例えば、HASMC)を、まず、トランスウェル型成長チャンバーのウェルインサート内に播種した。6ウェルプレートを使用して、統計学的解析の向上を可能とした。第1の細胞系をインサート内に播種するときは、インサートを、個別の6ウェルプレート内に入れた。第2の細胞系(例えば、HK2)は、プライマリートレイ上に播種した。第1の細胞系を含有するインサートトレイ、及び第2の細胞系を含有するプライマリートレイを、37℃で一晩にわたりインキュベートした。細胞系の各々は、特殊な細胞に特異的な培地中で成長させた(この場合、代替的に、細胞系の各々を、両方の細胞型の成長を支持するように適合させた培地中で成長させることもできるであろう)。2日目に、培地を交換することにより、所定の処置を施した。具体的には、第1の細胞系を含有するインサートを、第2の細胞系を含有するプライマリートレイ内に入れた。次いで、トレイを、所定の時間、例えば、24時間又は48時間にわたりインキュベートした。条件が同じ2連のウェルを準備し、二次元解析に十分な材料をもたらすように細胞をプールした。培地(1mlのアリコート)、インサートからの細胞、プライマリートレイのウェルからの細胞を、個別の試料として採取した。実験は、統計学的解析力を向上させるために、3連で実行した。
クロストーク実験はまた、「培地スワップ」実験によっても実行した。具体的には、第1の細胞系であるHASMCからの、培養された培地又は「セクレトーム」を、変動又は条件付けの24時間後又は48時間後に回収し、次いで、第2の細胞系である脂肪細胞へと24〜48時間にわたり添加した。次いで、第2の細胞系からの、最終的な、培養された培地又は「セクレトーム」を回収した。全ての最終的なセクレトームを、プロテオミクス解析に付した。
上記で記載した各条件へと曝露した上述の細胞を含む細胞モデルを、コエンザイムQ10で処置することを介して、細胞を「環境変動」へと曝露することにより更に「精査」した。具体的には、細胞を、0、50μM又は100μMのコエンザイムQ10で処置した。
条件及び各コエンザイムQ10処置を伴う各細胞系についての細胞試料を、処置の24時間後及び48時間後を含む、処置後の多様な時点で回収した。特定の細胞について、特定の条件下で、培地試料もまた回収及び解析した。
各条件において、且つ、上記の「発明を実施するための形態」で記載した技法を使用する各「環境変動」、すなわち、コエンザイムQ10処置を伴う、各細胞系について回収された細胞及び培地試料についての定量的プロテオミクスにより、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを実施した。
次いで、各条件で、且つ、各変動を伴う、上記で列挙した各細胞系について回収されたプロテオミクスデータ、及び各条件で、且つ、各変動を伴う各細胞系について回収されたバイオエナジェティクスプロファイリングデータを、REFS(商標)システムにより処理した。複合変動ネットワークは、変動(CoQ10)へと曝露された、1つの特殊な条件(例えば、高血糖)についての全ての細胞株から得られる組合せデータから作成した。複合非変動ネットワークは、変動を伴わない(CoQ10を伴わない)、同じ1つの特殊な条件(例えば、高血糖)についての全ての細胞株から得られる組合せデータから作成した。同様に、複合変動ネットワークは、変動(CoQ10)へと曝露された、第2の対照条件(例えば、正常血糖)についての全ての細胞株から得られる組合せデータからも作成した。複合非変動ネットワークは、変動を伴わない(CoQ10を伴わない)、同じ第2の対照条件(例えば、正常血糖)についての全ての細胞株から得られる組合せデータからも作成した。
上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載した通り、REFS(商標)を使用して、上記で記載したコンセンサス複合ネットワーク内の各ノードをシミュレートして(10倍にするか又は10分の1にすることにより)、シミュレーションネットワークを作成した。
シミュレーションネットワーク内の親ノードを子ノードへと接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語とは、統計学的計算及びグラフ表示のための、オープンソースのソフトウェア環境である)。
デルタネットワークは、シミュレートされた複合ネットワークから作成した。コエンザイムQ10に応答した、正常条件と対比した糖尿病/肥満/心血管疾患条件の差次的ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)を作成するために、図30に例示する通りに、PERLプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより、比較ステップを実施した。
具体的には、図30に示す通り、処置T1とは、コエンザイムQ10処置を指し、NG及びHGとは、正常及び条件としての高血糖を指す。NG∩HGデルタネットワーク内のNGからの固有のエッジを、HG∩HGT1デルタネットワーク内のHGT1の固有のエッジと比較した。NGとHGT1との交わりの中のエッジは、T1によりNGへと回復するHGエッジである。T1によりNGへと回復するHGエッジを、NG∩HGデルタネットワーク上に重ね合わせる(図31中の暗色の円内に示す)。
具体的には、正常血糖条件の固有のエッジを作成するために、特製のPerlプログラムを使用して、正常血糖(NG)条件のシミュレートされた複合マップと、高血糖(HG)条件のシミュレートされた複合マップとを比較した。コエンザイムQ10処置を伴う、高血糖条件の固有のエッジ(HGT1)を作成するために、特製のPerlプログラムを使用して、コエンザイムQ10処置を伴わない、高血糖条件のシミュレートされた複合マップ(HG)と、コエンザイムQ10処置を伴う、高血糖条件のシミュレートされたマップ(HGT1)とを比較した。正常血糖条件からの固有のエッジ(NG)と、コエンザイムQ10処置を伴う、高血糖条件からの固有のエッジ(HGT1)との交わりの中のエッジは、Perlプログラムを使用して同定した。これらのエッジは、コエンザイムQ10処置により、高血糖条件から正常血糖条件へと回復する因子/ネットワークを表す。コエンザイムQ10処置により正常へと回復する高血糖エッジのデルタ-デルタネットワークを、正常血糖∩高血糖デルタネットワークへと重ね合わせた。重ね合わされたネットワークのサンプルを、図31に示す。図31は、例示的な、コエンザイムQ10に応答した、正常条件と対比した糖尿病/肥満/心血管疾患条件の差次的ネットワーク(デルタ-デルタネットワーク)である。図31中の暗色の円は、同定された、コエンザイムQ10処置により、高血糖条件から正常血糖条件へと回復するエッジである。図31中の明色の円は、同定された固有の正常血糖エッジである。
PERLプログラム及びRプログラムからの出力は、オープンソースプログラムであるCytoscapeへと入力して、デルタ-デルタネットワークの視覚的表示を作成した。
コエンザイムQ10処置を伴う、高脂血条件の固有のエッジを作成するために、Perlプログラムを使用して、正常血糖条件と対比した高血糖条件について上記で記載した実験と同様に、コエンザイムQ10処置を伴わない、高脂血条件のシミュレートされた複合ネットワーク(上記で記載した、全ての糖尿病/肥満/心血管関連細胞からのデータを組み合わせる)と、コエンザイムQ10処置を伴う、高脂血条件のシミュレートされた複合ネットワーク(上記で記載した、全ての糖尿病/肥満/心血管関連細胞からのデータを組み合わせる)とを比較した。正常脂血条件からの固有のエッジと、コエンザイムQ10処置を伴う、高脂血条件からの固有のエッジとの交わりの中のエッジは、Perlプログラムを使用して同定した。これらのエッジは、コエンザイムQ10処置により、高脂血条件から正常脂血条件へと回復する因子/ネットワークを表す。コエンザイムQ10処置により正常へと回復する高脂血エッジのデルタ-デルタネットワークを、正常脂血∩高脂血デルタネットワークへと重ね合わせた。重ね合わされたネットワークのサンプルを、図32に示す。図32中の暗色の円は、同定された、コエンザイムQ10処置により、高脂血条件から正常脂血条件へと回復するエッジである。図32中の明色の円は、同定された固有の正常脂血エッジである。FASNは、高脂血条件を正常脂血条件へと回復させるコエンザイムQ10の効果をモジュレートするシグナル伝達経路の1つの重要な因子として同定された。
脂肪酸シンターゼ(FASNなどの脂肪酸合成酵素)は、肥満、インスリン抵抗性、又は脂質異常など、ヒト代謝変化のほとんど全ての側面に関与している。FASN阻害剤は、分子機構は知られていないが、肥満を処置するための主要な分子として提起されている(Mobbsら、2002)。セルレニン及び合成化合物であるC75-FASN阻害剤は、食物摂取の低減に効果を及ぼし、減量を生じさせることが示されている(Loftusら、2000)。
図32に示される通り、本明細書で記載されるプラットフォーム技術により、FASNが、糖尿病性状態を正常状態へと回復させるコエンザイムQ10の効果をモジュレートするシグナル伝達経路における1つの重要な因子として同定されたという事実により、デルタ-デルタネットワークの精度が検証された。したがって、このデルタ-デルタネットワーク内で同定される他の新規の因子は、潜在的な治療因子又は更なる探索のための薬物標的となろう。
[実施例4]
薬物誘導性心毒性モデルを構築するためのプラットフォーム技術の援用
本実施例では、上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載したプラットフォーム技術を援用して、特注で構築した心毒性モデルから得られるデータを統合し、薬物の発症機序/毒性を駆動する新規のタンパク質/経路を同定した。この解析から結果として得られる関係性マップにより、バイオマーカー毒性がもたらされた。
健常な心臓では、収縮機能は、脂肪酸の酸化と炭水化物の酸化との均衡に依存する。非脂肪組織(心臓及び肝臓)における、取込み、利用、オルガネラの生合成、及び分泌の慢性的な不均衡が、ミトコンドリアの損傷及び機能不全並びに薬物誘導性心毒性の鍵となる要素の中心にあると考えられる。本明細書で、出願人らは、タンパク質署名及び脂質署名を、とりわけ、細胞バイオエナジェティクス及びミトコンドリア膜の機能に注目する、機能的エンドポイントアッセイと組み合わせる、系統的手法について記載する。過剰な脂肪酸及び高血糖を補充された糖尿病性心筋細胞と正常心筋細胞とを比較するin vitroモデルを、毒性の署名及び潜在的な機構を創出する薬物のパネルで処置した。出願人らは、エネルギー代謝の成分を破壊することにより、ミトコンドリアを不安定化させるときの薬物の多様な効果を、(i)ミトコンドリアのエネルギー代謝遺伝子の発現を制御する転写ネットワークの調節異常;(ii)糖尿病性心筋細胞内でGPAT1及びタファジンを誘導し、これにより、デノボのリン脂質合成及びミトコンドリア膜のリモデリングを誘発すること;及び(iii)取込み、脂肪酸の酸化、及びATPの合成に影響を与える、糖尿病性心筋細胞内の脂肪酸の運命の変化を含む多様なレベルで裏付けた。更に、ベイズモデルに基づき、因果ネットワークを作成するために、出願人らは、ウェットラボ生物学の効力と、AIベースのデータマイニングプラットフォームの効力とを組み合わせた。正常細胞機能の喪失の原因となるタンパク質及び脂質のネットワークを使用して、薬物誘導性毒性機構を、細胞保護機構から弁別した。この新規の手法は、表現型の変化を是正するより安全な治療剤の発症を可能としながら、毒性の機構を理解するための強力で新たなツールとして用いられるであろう。
ヒト心筋細胞を、in vivoにおいて疾患関与性の細胞が経る糖尿病性環境をシミュレートする条件下に置いた。具体的には、細胞を、高血糖条件及び高脂血条件へと曝露した。高血糖条件は、22mMのグルコースを含有する培地中で細胞を培養することにより誘導した。高脂血条件は、1mMのL-カルニチン、0.7mMのオレイン酸、及び0.7mMのリノール酸を含有する培地中で細胞を培養することにより誘導した。
心毒性を引き起こすことが公知の糖尿病薬(T)、レスキュー分子(R)、又は糖尿病薬及びレスキュー分子の両方(T+R)で処置することを介して、細胞を「環境変動」へと曝露することにより、上記で記載した各条件へと曝露した上述の細胞を含む細胞モデルを更に「精査」した。具体的には、細胞を、糖尿病薬で処置するか;又はレスキュー分子である0、50μM又は100μMのコエンザイムQ10で処置するか;又は糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置した。
各変動処置を伴う各条件からの細胞試料を、処置の6時間後を含む、処置後の多様な時点で回収した。特定の条件については、培地試料もまた、回収及び解析した。
各条件について、且つ、上記の「発明を実施するための形態」で記載した技法を使用する各「環境変動」、すなわち、糖尿病薬処置、コエンザイムQ10処置、又はこれらの両方を伴って回収された細胞試料及び培地試料についての定量的プロテオミクスにより、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを実施した。Biorad cfx-384増幅システムを使用して、転写プロファイリング実験を実行した。データ(Ct)回収後、製造元のプロトコールで概括されている通りに、δCt法を使用して、対照に対する最終的な倍数変化を決定した。質量分析を使用して、リピドミクス実験を実行した。本質的に、製造元により推奨される通りに、Seahorse解析器を援用することにより、酸素消費速度であるOCRなどの機能アッセイを測定した。OCRは、カートリッジをSeahorse培養プレートに押し当てることにより創出される、7μlのチャンバー内の電極により記録した。
図35に示す通り、糖尿病性心筋細胞(高血糖及び高脂血で条件化された心筋細胞)内の転写ネットワーク及びヒトミトコンドリアのエネルギー代謝遺伝子の発現を、変動処置と非変動処置との間で比較した。具体的には、転写ネットワーク及びヒトミトコンドリアのエネルギー代謝遺伝子の発現のデータを、糖尿病薬で処置された糖尿病性心筋細胞試料(T)と、非処置の糖尿病性心筋細胞試料(UT)との間で比較した。転写ネットワーク及びヒトミトコンドリアのエネルギー代謝遺伝子の発現のデータを、糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置された糖尿病性心筋細胞試料(T+R)と、非処置の糖尿病性心筋細胞試料(UT)との間で比較した。糖尿病性心筋細胞を、糖尿病薬で処置したところ、非処置の糖尿病性心筋細胞からのデータと比較して、特定の遺伝子の発現及び転写が変化した。レスキュー分子であるコエンザイムQ10は、糖尿病薬の毒性効果を逆転し、遺伝子の発現及び転写を正常化することが裏付けられた。
図36Aに示す通り、心筋細胞を、正常血糖(NG)条件又は高血糖(HG)条件で培養し、糖尿病薬単独(T)又は糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方(T+R)で処置した。各条件及び各処置に対するGPAT1及びTAZのタンパク質発現のレベルを、ウェスタンブロット法で調べた。高血糖条件化され、且つ、糖尿病薬で処置された心筋細胞では、GPAT1及びTAZのいずれもが上方調節された。高血糖条件化された心筋細胞を、糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置したところ、上方調節されたGPAT1及びTAZのタンパク質発現のレベルは正常化された。
図37Aに示す通り、ミトコンドリア酸素消費速度(%)実験を、高血糖条件化された心筋細胞試料について実行した。高血糖条件化された心筋細胞は、処置しない(UT)か、心毒性を引き起こすことが公知の糖尿病薬で処置する(T1)か、心毒性を引き起こすことが公知の糖尿病薬で処置する(T2)か、糖尿病薬T1及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置する(T1+R)か、又は糖尿病薬T2及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置した(T2+R)。高血糖条件化された心筋細胞を、糖尿病薬T1又はT2で処置したところ、非処置の対照試料と比較して、ミトコンドリアのOCRは低下した。しかし、高血糖条件化された心筋細胞を、糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方(T1+R又はT2+R)で処置したところ、ミトコンドリアのOCRは正常化された。
図37Bに示す通り、ミトコンドリアによるATP合成実験を、高血糖条件化された心筋細胞試料について実行した。高血糖条件化された心筋細胞は、処置しない(UT)か、糖尿病薬で処置する(T)か、又は糖尿病薬及びレスキュー分子であるコエンザイムQ10の両方で処置した(T+R)。高血糖条件化された心筋細胞を、糖尿病薬で処置した(T)ところ、非処置の対照試料と比較して、ミトコンドリアによるATP合成は抑制された。
図38に示す通り、収集されたプロテオミクスデータに基づき、薬物処置により下方調節されるタンパク質を、遺伝子オントロジーターム(GO term)で注記した。高血糖条件化された心筋細胞を、心毒性を引き起こすことが公知の糖尿病薬で処置したところ、ミトコンドリアのエネルギー代謝に関与するタンパク質は、下方調節された。
次いで、各条件について、且つ、各変動を伴って収集されたプロテオミクス、リピドミクス、転写プロファイリング、機能アッセイ、及びウェスタンブロット法のデータを、REFS(商標)システムにより処理した。複合変動ネットワークは、各変動(例えば、糖尿病薬、CoQ10、又はこれらの両方)へと曝露された、1つの特殊な条件(例えば、高血糖又は高脂血)から得られる組合せデータから作成した。複合非変動ネットワークは、変動を伴わない(処置されない)、同じ1つの特殊な条件(例えば、高血糖又は高脂血)から得られる組合せデータから作成した。同様に、複合変動ネットワークは、各変動(例えば、糖尿病薬、CoQ10、又はこれらの両方)へと曝露された、第2の対照条件(例えば、正常血糖)について得られる組合せデータからも作成した。複合非変動ネットワークは、変動を伴わない(処置されない)、同じ第2の対照条件(例えば、正常血糖)から得られる組合せデータからも作成した。
上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載した通り、REFS(商標)を使用して、上記で記載したコンセンサス複合ネットワーク内の各ノードをシミュレートして(10倍にするか又は10分の1にすることにより)、シミュレーションネットワークを作成した。
シミュレーションネットワーク内の親ノードを子ノードへと接続する各エッジについての曲線下面積及び倍数変化を、Rプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより抽出した(ここで、Rプログラミング言語とは、統計学的計算及びグラフ表示のための、オープンソースのソフトウェア環境である)。
デルタネットワークは、シミュレートされた複合ネットワークから作成した。糖尿病薬に応答した、正常条件と対比した薬物誘導性毒性条件の差次的ネットワーク(デルタネットワーク)を作成するために、図39に例示する通りに、PERLプログラミング言語を使用する、特注で構築したプログラムにより、比較ステップを実施した。
具体的には、図39に示す通り、UTとは、高血糖条件において処置されない対照心筋細胞のタンパク質発現ネットワークを指す。処置Tとは、高血糖条件において糖尿病薬で処置された心筋細胞のタンパク質発現ネットワークを指す。UT∩Tデルタネットワーク内のTからの固有のエッジを図40に提示する。
具体的には、高血糖条件において糖尿病薬で処置された心筋細胞の固有のエッジを作成するために、特製のPerlプログラムを使用して、高血糖条件において処置されない心筋細胞のシミュレートされた複合マップと、高血糖条件において糖尿病薬で処置された心筋細胞のシミュレートされた複合マップを比較した。PERLプログラム及びRプログラムからの出力は、オープンソースプログラムであるCytoscapeへと入力して、デルタネットワークの視覚的表示を作成した。図40に示される通り、ネットワークは、高血糖条件下の心筋細胞/心毒性モデルにおいて、非処置と対比した糖尿病薬により駆動されるデルタネットワークを表す。
図40に示される正常条件と対比した薬物誘導性毒性条件の差次的ネットワークから、GRP78、GRP75、TIMP1、PTX3、HSP76、PDIA4、PDIA1、CA2D1など、薬物誘導性心毒性の病態生理を駆動するタンパク質を同定した。これらのタンパク質は、他の心毒性誘導性薬物を同定するためのバイオマーカーとして機能しうる。これらのタンパク質はまた、心毒性を緩和しうる薬剤を同定するためのバイオマーカーとしても機能しうる。
本実施例において記載した実験は、薬物処置へと曝露された糖尿病性心筋細胞内の変動膜生物学及び遊離脂肪酸の運命の変化が、薬物誘導性毒性の中央部的要素を表すことを裏付ける。データの組込み及びネットワーク生物学により、心毒性の理解の増進及び心毒性を予測する新規のバイオマーカーの同定が可能となった。
[実施例5]
マルチプロテオミクスを実装するためのプラットフォーム技術の援用
酵素活性を解明するためのモデル
一般に、上記の実施例1〜4において記載したプラットフォーム技術は、生物システム又は疾患過程のモジュレーターを更に同定する方法を実装するために適合させることができる。方法は、生物システムに関連する細胞を使用する、生物システムについてのモデルを援用して、生物システムの特徴的な側面を表す。モデルを使用して、少なくとも3つのレベルのデータ、すなわち、(i)生物システムに関連する細胞内の網羅的酵素活性を表す、第1のデータセット、(ii)生物システムに関連する細胞内の、網羅的酵素活性の、酵素代謝物又は基質に対する効果を表す第2のデータセット、及び(iii)生物システムに関連する細胞内の網羅的プロテオミクス変化を表す第3のデータセットを得る。データを使用して、網羅的酵素活性と、網羅的酵素活性の効果と、網羅的プロテオミクス変化との間のコンセンサス因果関係性ネットワークを作成する。コンセンサス因果関係性ネットワークは、プログラムされた計算装置を使用する第1のデータセット、第2のデータセット、及び第3のデータセットだけに基づく(すなわち、他の既知のいかなる生物学的関係性にも基づかない)。次いで、コンセンサス因果関係性ネットワークを使用して、生物システムに固有の因果関係性を同定するが、この場合、固有の因果関係性に関連する少なくとも1種の遺伝子又はタンパク質を、生物システム又は疾患過程のモジュレーターとして同定する。
本実施例では、プラットフォーム技術を、酵素活性と、その活性のプロテオームに対する直接的な影響とを測定し、これにより、細胞内プロテオームの網羅的変化の文脈において、酵素とそれらの代謝物/基質との間の因果関係性を理解するのに使用しうるシステムを提供するためのマルチプロテオミクス法を実装するように適合させた。本実施例で裏付けられる通り、酵素活性は、酵素発現と直交しうる(例えば、活性が下方調節されると、発現が上方調節される)ために、このような技法は、貴重な洞察をもたらしうる。このような解析から結果として得られる関係性マップは、疾患処置の標的並びに疾患に関連する診断/予後診断マーカーをもたらしうる。このような標的及びマーカーは、治療組成物及び方法をもたらしうる。モデルを確立し、データセットを得、コンセンサス因果関係性ネットワークを作成し、生物システムに固有の因果関係性を同定するための技法は、上記の「発明の概要」、「発明を実施するための形態」、及び「実施例」で論じられている。モデルを確立し、網羅的酵素活性、及び網羅的酵素活性の、酵素代謝物又は基質に対する効果を表すデータセットを得るための更なる技法は、下記で提示される。
図41Aは、生物システム又は疾患過程のモジュレーターを同定する方法であって、酵素(例えば、キナーゼ)活性を解明するためにマルチプロテオミクス法を援用する方法を例示する。第1に、細胞株を、疾患をシミュレートする条件下に置き、環境変動への曝露(例えば、下記で提示される肝細胞がんの具体例では、ソラフェニブへの曝露)により精査する、プラットフォーム技術に従いモデルを確立する。比較のために対照を用意する。第2に、(i)網羅的酵素活性、(ii)酵素活性のプロテオームに対する(例えば、酵素活性の代謝物/基質に対する)特異的効果、及び(iii)細胞内プロテオームに対する網羅的効果を解析することにより、酵素活性及びその下流における効果を、網羅的プロテオミクス変化の文脈で追跡する。第3に、データセットを、プラットフォーム技術に従い解析して、対象のモジュレーターを同定する。例えば、癌モデルは、既知の抗癌薬であるキナーゼ阻害剤により精査することができ;システムに対するこの変動の、網羅的キナーゼ活性に対する効果を、結果としてもたらされる、リン酸化プロテオーム及び全プロテオームに対する効果と共に解析することができ;データセットを、AIベースのREFS(商標)システムにより解析することができる。
本実施例では、プラットフォーム技術の例示的な実装を呈示するために、肝細胞がん(HCC)を選択した。HCCは、全世界で癌に関連する死亡の主要な原因のうちの1つであり、肺がん及び胃がんに続き、致死的な癌の3番目としてランクされている。HCCの多岐にわたる病因、高い罹患率/死亡率、早期診断のための診断マーカーの欠如、及び高度に可変的な臨床経過のために、診断及び処置の進歩が阻まれてきた。多年にわたるHCC研究の後、HCCにおいて作動的な分子的機構の理解は、依然として不完全なままである。ゲノムプロファイル、トランスクリプトームプロファイル、及び比較プロテオミクスプロファイルは、HCC研究にある程度重要な洞察をもたらしている。しかし、多くの研究は、HCCに関連する細胞内変化の単一の側面に焦点を当てていることから、生物システムの、それらの真の複雑性及び動態における完全な理解が阻まれている。
この例示的な例は、(i)細胞生物学、(ii)プロテオミクスプラットフォームと、翻訳後修飾、例えば、リン酸化、及びHCCの病態生理におけるこのような機構に関与する酵素、例えば、キナーゼの役割を描出する因果タンパク質ネットワークを作成するインフォマティクスプラットフォームとの統合の効力を組み合わせる。特に、この手法は、ATP結合性ドメイン豊富プローブ及びHCC細胞モデル内の全タンパク質のリン酸化プロテオームマッピングを援用する活性ベースのプロテオミクスを組み込む。
進行型HCC患者のための第1選択の化学療法剤であるマルチキナーゼ阻害剤のソラフェニブを使用して、網羅的キナーゼ活性の役割及びこの処置に関連するタンパク質のリン酸化の変化を探査した。HepG2 (ATCC受託番号HB-8065)細胞株を、HCC細胞をモデル化するのに選択し、THLE2 (ATCC受託番号CRL-10149)細胞株を、正常肝細胞をモデル化するのに選択した。
図41Bは、網羅的酵素(例えば、キナーゼ)豊富プロファイリングのための方法を例示する。まず、ターゲティングされた酵素(例えば、キナーゼ)を含む細胞溶解物を調製する。第2のステップは、プローブの結合(例えば、キナーゼの場合のATPプローブ)である。次いで、酵素消化を実行し、プローブに結合した断片を捕捉する。これらの断片を解析し(例えば、LC-MS/MSにより)、これにより、対応するタンパク質を同定することができる(例えば、LC-Ms/MSデータのデータベース検索を介して)。
THERMO SCIENTIFIC(C) PIERCE(登録商標) Kinase Enrichment Kits and ACTIVX(C)プローブ(指示書は、THERMO SCIENTIFIC(C) and PIERCE(登録商標) Biotechnology www.thermoscientific.com/pierceから入手可能である)を、網羅的酵素活性解析に使用した。略述すると、これらのキット及び類似のキットは、キナーゼ、シャペロン、及び代謝酵素を含むATPアーゼの選択的な標識化及び豊富を可能とする。ATPプローブ及びADPプローブは一般に、酵素の活性部位を、ヌクレオチド結合性部位内の保存的なリシン残基で共有結合的に修飾するヌクレオチド誘導体である。例えば、デスチオビオチン-ATP及びデスチオビオチン-ADPの構造は、不安定なアシルリン酸結合によりヌクレオチドへと接合された修飾ビオチンからなる。酵素活性部位内のリシンの位置に応じて、デスチオビオチン-ATP及びデスチオビオチン-ADPが、特異的なATPアーゼを標識化するのに好ましい場合がある。
デスチオビオチン-ATP及びデスチオビオチン-ADPのいずれも、試料中の標的酵素クラスを、選択的に豊富、同定、及びプロファイリングすることも可能であり、酵素阻害剤の特異性及びアフィニティーを評価することも可能である。多くのATPアーゼ及び他のヌクレオチド結合性タンパク質は、それらが酵素的に不活性なときであっても、ヌクレオチド又は阻害剤に結合し;これらの試薬は、複合体試料中の不活性酵素及び活性酵素のいずれにも結合する。阻害剤の結合アフィニティー及び標的特異性を決定するために、活性部位プローブについて競合する低分子阻害剤を伴う、試料のプレインキュベーションを使用することができる。
活性部位の標識化の評価は、ウェスタンブロット又は質量分析(MS)により達成することができる。ウェスタンブロットワークフローでは、デスチオビオチンで標識されたタンパク質を、SDS-PAGE解析及び特異的抗体によるその後の検出のために豊富する。MSワークフローでは、デスチオビオチンで標識されたタンパク質を、還元し、アルキル化し、ペプチドへと酵素的に消化する。デスチオビオチンで標識された活性部位ペプチドだけを、LC-MS/MSによる解析のために豊富する。阻害剤の標的結合を決定するために、いずれのワークフローも使用することができるが、網羅的阻害剤の標的及び標的外を同定しうるのは、MSワークフローだけである。
THERMO SCIENTIFIC(C) PIERCE(登録商標) TiO2 Phosphopeptide Enrichment and Clean-up Kit (指示書は、THERMO SCIENTIFIC(C) and PIERCE(登録商標) Biotechnology www.thermoscientific.com/pierceから入手可能である)を、リン酸化プロテオーム解析に使用した。略述すると、これらのキット及び類似のキットは、質量分析(MS)による解析のための、複合体及び画分化されたタンパク質消化物からのリン酸化ペプチドの効率的な単離を可能としうる。最適化された緩衝液と組み合わされた球状の多孔性二酸化チタン(TiO2)は、非特異的結合を最小限とするホスホペプチドの豊富及び同定を増強する。スピンカラムフォーマットは、使用が迅速且つ容易であり、300〜1000μgの消化されたタンパク質試料から最大で100μgのホスホペプチドを豊富しうる。キットの最適化されたプロトコール、緩衝液の成分及びグラファイトスピンカラムは、MS解析の準備ができた、高収率の清浄なホスホペプチド試料を結果としてもたらす。
リン酸化とは、細胞のシグナル伝達、成長、分化及び分裂、並びにプログラム細胞死などの生物学的機能に不可欠なタンパク質修飾である。しかし、ホスホペプチドは、親水性が高く、存在量が小さく、クロマトグラフィー、イオン化、及び断片化の結果は思わしくない。したがって、ホスホペプチドの豊富は、MS解析の成功に不可欠である。Phosphopeptide Enrichment and Clean-up Kitは、ホスホペプチドの豊富及び同定のための完全なワークフローをもたらすように、溶解、還元、アルキル化、消化、及びグラファイトスピンカラムに適合性でありうる。
比較プロテオミクスデータ、リン酸化プロテオームデータ、及び酵素活性データを、AIベースのREFS(商標)インフォマティクスプラットフォームへと組み込む。次いで、とりわけ、機能的な観点、すなわち、キナーゼ/酵素活性及びキナーゼがリン酸化しうる潜在的な標的からの、タンパク質相互作用の因果ネットワークを作成する。加えて、細胞機能についてのリードアウトを使用して、標的のリン酸化をモジュレートし、病態生理的な細胞内挙動を機構的に駆動する酵素/キナーゼを決定する。本明細書で概括される例示的な実装は、HCCの臨床管理のための、細胞応答の網羅的特徴付け、化学感受性の機構及び潜在的な標的/バイオマーカーへの洞察を容易とする。
材料及び方法
細胞は、以下のプロトコールに従い培養した。1日目: HepG2/Hep3B: T-75培養フラスコ内に3.2×106個の細胞; T-175培養フラスコ内に7.4×106個の細胞;又はT-225培養フラスコ内に9.5×106個の細胞を播種する。THLE-2: T-75培養フラスコ内に1.3×106個の細胞を播種する。2日目: 16〜24時間後、50〜70%のコンフルエント状態で:処置を加える。対照:最終濃度0.01%のDMSO。EGF: 10mMの酢酸中に500ng/mL。ソラフェニブ: DMSO中の容量0.1%で1μM。3日目:処置の24時間後、トリプシン化により細胞を採取する。凍結の前にペレットをPBSで2回にわたり洗浄する。
網羅的酵素活性解析は、以下のプロトコールに従い実行した。
細胞の溶解:
新たに作製した溶解緩衝液:5Mの尿素、50mMのトリス-HCL、pH8.4、0.1%のSDS、1%のプロテアーゼ阻害剤カクテル、1%のホスファターゼ阻害剤カクテル。
1)1.5〜2mLのEppendorf微量遠心管中、2000gで5分間にわたり遠心分離することにより、細胞をペレット化し、上清を除去する。
2)ペレットをPBS中に再懸濁させることにより、細胞を洗浄する。洗浄を今一度反復する。
3)適量の溶解緩衝液を各試料へと添加して、ボルテックスする。
4)周期的に混合しながら、氷上で10分間にわたりインキュベートする。
5)溶解が完了するまで、各試料を超音波処理する。
6)トップスピードで、15分間にわたり遠心分離する。
7)溶解物(上清)を新たな試験管へと移す。
溶解緩衝液の交換:
Pierceによる既製のReaction Bufferを使用した。
反応緩衝液:20mMのHEPES、pH7.4、150mMのNaCl、0.1%のTritonX-100
1)Zeba Spin Desalting Columnの底蓋を回して外し、上蓋を緩める。
2)15mLの円錐管に入れる。
3)カラムを、室温、1000gで2分間にわたり遠心分離して、保存溶液を除去する。
4)3mLのReaction Bufferをカラムに添加する。1000gで2分間にわたり遠心分離して、緩衝液を除去する。更に2回にわたり繰り返し、緩衝液を廃棄する。
a.最終回の洗浄時に過剰な緩衝液が見られる場合は、1000gで更に2〜3分間にわたり遠心分離する。
5)カラムを、未使用の円錐管へと移す。
6)全溶解物を樹脂床の中央部へとゆっくりと適用する。
7)1000gで2分間にわたり遠心分離して、試料を回収する。カラムを廃棄する。
8)1:100のプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤カクテルを試料へと添加し、氷上に置く。
a.試料は、冷凍庫内、-80℃で凍結させることができる。
ストッピングポイント
プローブによる試料の標識化:
Pierceによる既製の1MのMgCl2を使用した。
新たに1MのMnCl2を作製した。
1)Bradford Assayを使用して、タンパク質濃度を決定する。
2)可能な場合は、溶解物を、水で2mg/mL (2μg/μL)へと希釈する。
3)2mgを未使用の微量遠心管へと移す。
4)1MのMgCl2 20μLを、各試料へと添加し、混合し、室温で1分間にわたりインキュベートする。
注:最終濃度は、0.02MのMgCl2とする。
5)1MのMgCl2 10μLを、各試料へと添加し、混合し、室温で1分間にわたりインキュベートする。
注:最終濃度は、10mMのMgCl2とする。
6)ATP/ADP試薬を、乾燥剤と共に室温へと平衡化する。残りを-80℃で保存する。
7)20μMの反応物:10μLの超純水を試薬へと添加して、1mMの原液を作製する。
8)20μLのATP/ADP原液を各試料へと添加し、室温で1時間にわたりインキュベートする。
標識されたタンパク質の還元及びアルキル化:
新たに10Mの尿素/50mMのトリス-HCL、pH8.4を調製する。
1)1mLの10Mの尿素/50mMのトリス-HCLを各反応物へと添加する。
2)200mMのTCEP 100μLを各試料へと添加する。55℃で1時間にわたりインキュベートする。
3)375mMのヨードアセトアミド100μLを各試料へと添加する。暗所内、室温で30分間にわたりインキュベートする。
緩衝液の交換:
新たに消化緩衝液:2Mの尿素、200mMのトリス-HCL、pH8.4を調製する
1)Zeba Spin Desalting Columnの底蓋を回して外し、上蓋を緩める。
2)15mLの円錐管に入れる。
3)カラムを、室温、1000gで2分間にわたり遠心分離して、保存溶液を除去する。
4)3mLの消化緩衝液をカラムに添加する。1000gで2分間にわたり遠心分離して、緩衝液を除去する。更に2回にわたり繰り返し、緩衝液を廃棄する。
a.最終回の洗浄時に過剰な緩衝液が見られる場合は、1000gで更に2〜3分間にわたり遠心分離する。
5)カラムを、未使用の円錐管へと移す。
6)全試料を樹脂床の中央部へとゆっくりと適用する。
7)1000gで2分間にわたり遠心分離して、試料を回収する。カラムを廃棄する。
標識されたタンパク質消化物:
1)トリプシンを、1:50(トリプシン:タンパク質)の比で添加する。
2)37℃で、振とうしながら、一晩にわたりインキュベートする。
標識されたペプチドの捕捉及び溶出:
新たに溶出緩衝液を調製する(50%のACN; 0.1%のギ酸)
1)50μLのスラリーを、消化された各試料へと添加する。定常的に混合しながら、室温で1.5時間にわたりインキュベートする。
2)試料をPierce Spin Columnへと移す。1000gで1分間にわたり遠心分離する。フロースルーを回収し、保存する。
3)1回の洗浄当たり1000gで1分間にわたる:
a.樹脂を、4Mの尿素/50mMのトリス-HCl 500μL、pH8.4で3回にわたり洗浄する。
b.樹脂を、500μLのPBSで4回にわたり洗浄する。
c.樹脂を、500μLの水で4回にわたり洗浄する。
4)ペプチドを、75μLの溶出緩衝液で溶出させ、3分間にわたりインキュベートする。更に2回にわたり繰り返し、溶出物画分を組み合わせる。
5)試料を、真空濃縮器内で凍結乾燥させる。
LCMSMS解析のための無標識の一次元分離
1)試料を、凍結乾燥させることにより乾燥させたら、各試料を、0.1%のギ酸25μL中に再懸濁させる。
2)LCMSMSのために、10μLをバイアルへと移す。
iTRAQによる標識化
1)残りの試料15μLを、完全に乾燥させた。
2)試料を、200mMのTEAB(テトラエチルアンモニウムブロミド)30μL中に再懸濁させる。
3)15μLの試料を、30μLのiTRAQ試薬で標識し、室温で2時間にわたりインキュベートした。
a.QCP(定量的比較プロテオミクス)のために、試料1例当たり6μLずつをプールした。
4)標識化の後、クエンチングのために、5%のヒドロキシルアミン8μLを、4℃で15分間にわたり添加した。
5)全てのMP(マーカータンパク質)を併せてプールし、乾燥させ、脱塩し、0.1%のギ酸20μL中に再懸濁させた。
Eksigent/LTQ Orbitrap測定器には、問題があったので、MPを乾燥させ、20mMのギ酸アンモニウム18μL中に再懸濁させた。
試料1例当たりの残余:
・-80℃で200mMのTEAB中に9μLの溶出物
・測定器上、20mMのギ酸アンモニウム中のMP
リンタンパク質解析は、以下のプロトコールに従い実行した。
試料調製プロトコール:
1.細胞溶解
a.溶解緩衝液:5Mの尿素、50mMのトリス-HCL、0.1%のSDS、1%のプロテアーゼ阻害剤カクテル、1%のホスファターゼ阻害剤カクテル
b.ペレットを、適量の溶解緩衝液中に懸濁させる。
c.ボルテックスし、氷上で10分間にわたりインキュベートする。繰り返す。
d.超音波処理し、氷上で10分間にわたりインキュベートする。
e.トップスピードで、15分間にわたり遠心分離する。
f.溶解物がなおも粘稠性/粘着性である場合は、再超音波処理する。
g.溶解物を新たな試験管へと移す。
2.タンパク質濃度を決定するために、Bradford Assayを実施する。
3.700μgのタンパク質(THLE-2では400μg)を、200mMのTEAB 45μLと共に、未使用の微量遠心管へと移す。
4.TCEP 5μL:容量100μLの200mM TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)により、55℃で1時間にわたり還元した。
5.ヨード5μL:容量100μLの375mMヨードアセトアミドにより、暗所内、室温で30分間にわたりアルキル化した。
6. -20℃、7倍容量で一晩にわたるアセトン沈殿
7. タンパク質を、200mMのTEAB中に50μg/μLで再懸濁させる。1:40 (トリプシン:タンパク質)のトリプシンにより、37℃で一晩にわたり消化する。
カラムを調製する間、ペプチド試料を、150μLの緩衝液B中に再懸濁させる。
カラムの調製:
1.Centrifuge Column Adaptorを、回収用試験管に入れ、TiO2 Spin Tipを、アダプターに挿入する。
2. 20Lの緩衝液Aを添加する。3000gで2分間にわたり遠心分離する。FT(フロースルー)を廃棄する。
3. 20Lの緩衝液Bを添加する。3000gで2分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。
ホスホペプチドの結合:
1.Spin Tipを、清浄な微量遠心管へと移す。
2.懸濁させた試料を、Spin Tipへと適用する。1000gで10分間にわたり遠心分離する。
3.試料をSpin Tipへと再適用し、1000gで10分間にわたり遠心分離する。FTを保存する。
4.Spin Tipを、未使用の微量遠心管へと移す。
5. 20μLの緩衝液Bを添加することにより、カラムを洗浄する。3000gで2分間にわたり遠心分離する。
6. 20μLの緩衝液Aを添加することにより、カラムを洗浄する。3000gで2分間にわたり遠心分離する。今一度繰り返す。
溶出:
1.Spin Tipを、未使用の回収用試験管に入れる。50μLの溶出緩衝液1を添加する。
1000gで5分間にわたり遠心分離する。
2.同じ回収用試験管を使用して、50μLの溶出緩衝液2を、Spin Tipへと添加する。
1000gで5分間にわたり遠心分離する。
3. 2.5%のギ酸100μLを添加することにより、溶出画分を酸性化する。
グラファイトによるホスホペプチドのクリーンアップ
**これは、LC/MS/MS解析前の最後のクリーンアップであるので、TFA(トリフルオロ酢酸)をギ酸で置きかえる。
カラムの調製:
1.グラファイトスピンカラムから、上蓋及び底蓋を取り外す。カラムを、1.5mLの微量遠心管内に入れる。2000gで1分間にわたり遠心分離して、保存用緩衝液を除去する。
2. 1MのNH4OH 100μLを添加する。2000gで1分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。今一度繰り返す。
3. 100μLのアセトニトリルを添加することにより、グラファイトを活性化させる。2000gで1分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。
4. 1%のギ酸100μLを添加する。2000gで1分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。今一度繰り返す。
試料の結合及び溶出:
溶出緩衝液=0.1%のFA+50%のACN
1.カラムを、未使用の回収用試験管に入れる。試料を、樹脂床の上部に適用する。周期的にボルテックス混合しながら、10分間にわたり結合させる。
2. 1000gで3分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。
3.カラムを、未使用の回収用試験管に入れる。1%のFA 200μLを添加することにより、カラムを洗浄する。2000gで1分間にわたり遠心分離する。FTを廃棄する。今一度繰り返す。
4.カラムを、未使用の回収用試験管に入れる。0.1%のFA/50%のACN 100μLを添加して、試料を溶出させる。2000gで1分間にわたり遠心分離する。合計400μLの溶出のために、更に3回にわたり繰り返す。
5.試料を、真空蒸発器(SpeedVac)内で乾燥させる。
HepG2及びHep3B:
・700μgのタンパク質で始める。
・TiO2による豊富及びグラファイトによるクリーンアップの後、ホスホペプチドを、0.1%のギ酸/50%のACN 400μL中で溶出させた。
・比(400/700)*400μLのアリコートを、溶離液から採取し、完全に乾燥させた。乾燥させたアリコートを、iTRAQによる標識化のために、200mMのTEAB 20μL中に再懸濁させた。
・標識化後、試料を脱塩し、乾燥させ、0.1%のギ酸20μL中に再懸濁させた。
・残りのアリコートを、完全に乾燥させ、0.1%のギ酸20μL中に再懸濁させた。
・無標識LCMSMS解析のために、10μLを、バイアルへと移した。
THLE-2:
・400μgのタンパク質だけを採取した。
・全てのタンパク質を、TiO2カラムで豊富し、グラファイトカラムで清浄化した。
・溶出物を乾燥させ、iTRAQによる標識化のために、200mMのTEAB 20μL中に再懸濁させた。
・標識化後、試料を脱塩し、乾燥させ、0.1%のギ酸20μL中に再懸濁させた。
残余試料:
iTRAQ試料:測定器上、20mMのギ酸アンモニウム中
無標識HepG2/Hep3B: -80℃、0.1%のギ酸中に10μL;測定器上、0.1%のギ酸中に10μL
結果
図42は、ソラフェニブで処置されたHepG2中の、ENO1活性の有意な減少は例示するが、ENO1発現の有意な減少は例示しない。図43は、ソラフェニブで処置されたHepG2中の、PGK1活性の有意な減少は例示するが、PGK1タンパク質発現の有意な減少は例示しない。図44は、ソラフェニブで処置されたHepG2中の、LDHA活性の有意な減少を例示する。各場合に、ENO1の発現は、QC試料と比べた単位で測定し、ENO1活性の変化は、対照の非処置試料と比べた単位で測定した。
図42〜44中のデータは、HCC疾患モデルにおけるENO1、LDHA、及びPGK1について、細胞のソラフェニブによる処置は、タンパク質発現の上方調節を結果としてもたらす一方で、同時に、タンパク質の酵素活性は下方調節することを示す。したがって、リン酸化プロテオームは、細胞外シグナル(例えば、薬物分子)のキナーゼ活性に対する影響と、全細胞内タンパク質との間の複雑な関係性を解明し、これにより、疾患処置の標的並びに疾患に関連する診断/予後診断マーカーの同定を容易にするために使用しうる更なる情報の層をもたらす。
図45は、結果として得られるデータセットを、AIベースのREFS(商標)システムを使用して解析することにより作製しうる因果分子相互作用ネットワークを例示する(左側の枠囲いを参照されたい)。例えば、ネットワークを使用して、正常細胞と癌細胞とで差次的に調節される対象のネットワークを同定することができる(それぞれ、中央の枠囲い及び右側の枠囲いを参照されたい)。このような情報を使用して、HCC処置の標的並びにHCCに関連する診断/予後診断マーカーを提示することができる。
図46〜51は、発癌システムの二次元化学精査及びマルチオーミクスによる署名の組込みが、癌の病態生理に関与する新規のシグナル伝達経路を、いかにして明らかにし、これにより、治療標的、関与性のバイオマーカー、及び/又は治療剤を、いかにして同定しうるのかを例示する。特に、図46〜51は、図41に示され、本明細書で記載される多様な方法に従う一般的方法の実装を例示する。図41に示される通り、手法は、第1の次元では、in vitroの癌モデル及び対照モデルを、キナーゼ阻害剤(ソラフェニブ)により精査した、「二次元化学精査」により作動する。キナーゼ活性の網羅的変化は、活性ベースのキナーゼ豊富プローブを援用する、第2の次元の化学精査により捕捉した。キナーゼは、LC-MSにより同定した。加えて、リンタンパク質豊富法を使用して、キナーゼ阻害剤への曝露に応答したリン酸化プロテオームの変化を捕捉した後で、タンパク質を同定するためのLC-MSも行った。最後に、全タンパク質発現の定量的変化を得た。結果としてもたらされるマルチオーミクスデータを、AIベースのインフォマティクスを使用して組み込むことから、癌モデルでは作動するが、「正常」モデルでは作動しない、タンパク質のリン酸化を駆動する差次的キナーゼ活性を表す、データに駆動される因果ネットワークを作成した。これらの相補的解析の組込みを、図46及び47の推定経路に示す。この技術は、癌の病態生理と機構的に関与性である新規のキナーゼ及び関係性の発見をもたらした(例えば、図48〜50)。
図46は、ベイズネットワークによる推定アルゴリズムを援用するマルチオーミクスデータの組込みが、肝細胞がんにおけるシグナル伝達経路の理解の改善を、いかにしてもたらしうるのかを例示する。黄色の四角は、転写後修飾(ホスホ)データを表し、青色の三角は、活性ベースの(キナーゼ)データを表し、緑色の丸は、プロテオミクスデータを表す。図47は、肝細胞がんシグナル伝達経路における自己調節及び逆フィードバック調節を、プラットフォームによりいかにして推定しうるのかを例示する。四角は、PMT(ホスホ)データ(グレー/暗色=キナーゼ、黄色/明色:キナーゼ活性を伴わない)を表し、四角は、活性ベースの(キナーゼ)+プロテオミクスデータ(グレー/暗色=キナーゼ、黄色/明色:キナーゼ活性を伴わない)を表す。これらの解析は、上記で記載し、図41にまとめた三相式マルチプロテオミクス法を使用して実施した。これらの解析の結果を、図48〜51に示し、下記で更に詳細に論じる。
図48〜50は、プラットフォームにより推定されるシグナル伝達経路内の因果連関の例を例示する。キナーゼ名を、連結子により表示される因果連関元と共に、代表的な四角及び丸に表示する。図48は、CLTCL1、MAPK1、NME1、HIST1H2BA、RPS5、TMED4、及びMAP4キナーゼのアイソフォームを同定し、これらの間で推定される関係性を示す。図49は、HNRPDL、HNRNPK、RAB7A、RPL28、HSPA9、MAP2K2、RPS6、FBL、TCOF1、PGK1、SLTM、TUBB、PGK2、CDK1、MARCKS、HDLBP、及びGSK3Bキナーゼのアイソフォームを同定し、これらの間で推定される関係性を示す。図50は、RPS5、TNRCBA、CLTCL1、NME1、MAPK1、RPL17、CAMK2A、NME2、UBE21、CLTCL1、HMGB2、及びNME2キナーゼのアイソフォームを同定し、これらの間で推定される関係性を示す。これらのキナーゼのアイソフォームは、潜在的な治療標的、マーカー、及び治療剤を提示する。
図51は、プラットフォームにより導出される因果連関を例示する。特に、図51は、EIF4G1、MAPK1、及びTOP2Aキナーゼのアイソフォームを同定し、これらの間で推定される関係性を示す。この関係性は、EIFキナーゼ、MAPKキナーゼ、及びTOPキナーゼの間の公表された関係性と適合するために、モデル及び方法についての検証をもたらす。
結論として述べると、酵素(例えば、キナーゼ)活性についてのマルチオーミクスベースの解析は、代謝物と基質との間の下流の因果関係性を、細胞挙動の関数として決定するのに有用な方法を表す。同様に、治療的処置に応答した、酵素活性の網羅的変化の、活性ベースのプロテオームによるモニタリングは、網羅的細胞内タンパク質(例えば、酵素)の発現だけのモニタリングと比較して、細胞内シグナル伝達の動態への極めて重要な洞察ももたらしうる。更に、プラットフォームは、正常環境と対比した発癌性環境におけるシグナル伝達経路及びリバースフィードバック調節を頑健に推定し、したがって、発癌性シグナル伝達経路における新規の因果連関を同定することも示されている。したがって、この技術は、新規のキナーゼの同定、及びキナーゼ阻害剤の作用機構の解読をもたらす。
[実施例6]
in vitro血管新生モデル及びCoQ10によるモジュレーション
序説: 2〜5mMのサイズを超える腫瘍の進行には、腫瘍に酸素及び栄養物質を供給する血管新生の誘導が必要とされる。血管新生は、低酸素状態又は遺伝子突然変異に応答した、腫瘍内細胞による内皮マイトジェン因子の放出に起因して生じ、現在のところ、多数の内因性タンパク質が、治療的抗血管新生標的として臨床開発にかけられている(例えば、VEGF及びPlGF)。本明細書において、本発明者らは、in vitroにおいて、コエンザイムQ10(CoQ10)について探索してきたが、これは、現在のところ、癌の進行についてのヒト研究において探索中である。
方法:血管新生性の表現型をモジュレートするヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)運命の決定を、100若しくは1500μMのCoQ10又は賦形剤の存在下において検討し、非処置の対照細胞と比較した。アポトーシス、増殖、遊走、及びMATRIGEL(登録商標)内の三次元管形成についての内皮細胞運命アッセイを実施した。
結果:アネキシンV/ヨウ化プロピジウム陽性細胞についての形態解析及びフローサイトメトリー解析により、1500μMのCoQ10の存在下における、HUVECのアポトーシスの、賦形剤又は対照細胞と比較した増大が明らかとなった。CoQ10に起因する細胞死の増大と共時的に、HUVECの細胞カウントは、1500μMのCoQ10の存在下において著明に減少した。CoQ10の内皮遊走に対する潜在的な効果を評価するために、HUVEC遊走を、細胞クリアランスの5時間後に、内皮スクラッチアッセイで検討した。CoQ10及び賦形剤のいずれも、100μMの濃度及び1500μMの濃度のいずれにおいても、HUVEC遊走を著明に損なったことから、賦形剤及びCoQ10両方の抗遊走活性が裏付けられる。CoQ10の抗腫瘍活性が、内皮発芽型血管新生に対する効果に起因するのかどうかを決定するために、本発明者らは、三次元MATRIGEL(登録商標)培養物中の内皮管形成を、時間経過に沿って検討した。ゲル及びその上部を覆う培地のいずれにおいても、賦形剤の添加は、対照と比較して管形成を損なった。更に、1500μMのCoQ10の添加は、賦形剤及び対照の非処置細胞のいずれと比較しても、HUVEC管形成を更に損なった。これらの効果は、早ければ播種の24時間後〜96時間まで、培養物中で認められた。まとめると、これらの研究は、CoQ10効果が、腫瘍による、新血管形成のための、局所的な血液供給の動員の阻害に、少なくとも部分的に起因する可能性が高いことを裏付ける。
CoQ10の内皮の形態に対する効果:ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC細胞)を、ある濃度範囲のCoQ10で、24時間にわたり処置した。薬物は、「正常」細胞と酷似するコンフルエント細胞へと適用し、また、増殖性細胞の血管新生性の表現型をより緊密に表すサブコンフルエント細胞へも適用した。コンフルエント培養物中では、濃度を増大させるCoQ10の添加により、EC(内皮細胞)のより緊密な会合、伸長、及び整列がもたらされた。5000μMでは、円形の細胞のわずかな増大がもたらされた(図52A)。サブコンフルエント内皮細胞のCoQ10に対する応答は、コンフルエント細胞の応答と隔たった(図52B)。内皮は、CoQ10が1000μM及びこれを上回るとき、目視可能な程度に非健常であった。CoQ10の濃度を増大させると、細胞死の増大は、目視可能であった。
CoQ10の内皮細胞の生存に対する効果には隔たりがある: HUVEC細胞のコンフルエント培養物及びサブコンフルエント培養物を、100又は1500μMのCoQ10で24時間にわたり処置し、ヨウ化プロピジウム陽性アポトーシス細胞についてアッセイした。結果を、それぞれ、図53A及び53Bに示す。CoQ10は、コンフルエント状態で処置されたECに対しては保護的である一方、サブコンフルエント細胞は、CoQ10に対して感受性であり、CoQ10を1500μMとしたときに、アポトーシスの増大を提示した。CoQ10の濃度を増大させるときのアポトーシスレベルの増大を裏付けるサブコンフルエントの対照EC(左)、100μMのCoQ10(中)、及び1500μMのCoQ10(右)を表すヒストグラムを、図53Cに示す。
CoQ10は内皮細胞数及び内皮細胞の増殖を減殺する:HUVEC細胞のサブコンフルエント培養物を、100又は1500μMのCoQ10で、72時間にわたり処置し、ヨウ化プロピジウム取込みアッセイ(G2/M期のDNAを検出する)を使用して、これらの細胞数(図54A)及び細胞の増殖(図54B)の両方についてアッセイした。高濃度のCoQ10は、細胞数の著明な減少をもたらし、ECの増殖に対する用量依存的な効果を及ぼした。細胞周期のG2/M期にある細胞についてゲーティングする細胞増殖を表すヒストグラムであって、CoQ10の濃度を増大させるときの細胞増殖の減少を裏付けるヒストグラムを、図54C[対照EC(左)、100μMのCoQ10(中)、及び1500μMのCoQ10(右)]に示す。
CoQ10は内皮細胞遊走を減殺する: HUVEC細胞を、コンフルエント状態まで成長させ、「スクラッチ」アッセイを使用して、遊走について調べた。100又は1500μMのCoQ10を、スクラッチングの時点において適用し、除去された領域の閉止を、48時間にわたりモニタリングした。100μMのCoQ10は、対照と比較して内皮の閉止を遅延させた。0、12、24、及び36時間後における代表的な画像を、図55に提示する。1500μMのCoQ10の添加は、最大で48時間後でもなお、閉止を阻止した(データは示さない)。
CoQ10は内皮における管形成を損なう:三次元Matrigel内で成長する内皮細胞は、時間経過と共に管を形成する。100μMのCoQ10の管形成に対する効果と、1500μMのCoQ10の管形成に対する効果との差違を観察した。細胞連関が損なわれ、早期の管構造の破壊を示す細胞は、CoQ10を1500μMとしたときに著明であった。興味深いことに、管形成は、1500μMのCoQ10の存在下において始まったが、過程は管成長及び管形成の48時間後に損なわれた。図56に示される画像は、72時間後に取得した。
結果及び結論:
本発明者らは、CoQ10の潜在的な血管新生モジュレート効果について探索した。CoQ10は、現在のところ、ヒト固形腫瘍研究において探索されている抗癌剤であって、細胞内エネルギー代謝をモジュレートする抗癌剤である。
低用量のCoQ10は、コンフルエントの内皮細胞に対しては保護的であったが、CoQ10の、サブコンフルエント細胞への添加は、アポトーシスの増大、細胞数の減少をもたらし、内皮増殖の強力な阻害剤であった。本発明者らは、コンフルエント細胞及びサブコンフルエント細胞に対する、多岐にわたる効果であって、「正常」な血管システムを保護する効果を裏付ける。
二次元スクラッチアッセイにおける、遊走する内皮の能力の機能的な評価は、内皮遊走の強力な阻害を明らかにした。低速度撮影写真は、力動的な内皮「前線」が、2日間にわたる培養/処置において、除去された帯域を閉止し損なったことを明らかにした。
内皮細胞を三次元Matrigel中に懸濁させると、時間経過に沿った管の形成がもたらされる。腫瘍の血管新生において作用する因子の多くを再現する、この十分に特徴付けられたアッセイを使用して、本発明者らは、CoQ10の、内皮における管形成に対する効果を検討した。100μMのCoQ10の添加が及ぼす管形成に対する効果はわずかであったが、1500μMのCoQ10の添加は、内皮における管形成の劇的な破壊をもたらした。
まとめると、これらの結果は、CoQ10の、内皮の発芽、遊走、及び増殖に対する効果、並びに血管新生性内皮細胞内の選択的な細胞死の誘導を裏付ける。
[実施例7]
コエンザイムQ10はコンフルエントHUVEC細胞及びサブコンフルエントHUVEC細胞における機能的応答を差次的にモジュレートした
コンフルエント条件下及びサブコンフルエント条件下で成長させたHUVEC細胞における、細胞の増殖及び遊走に対するCoQ10の差次的な効果を裏付けた後で、CoQ10のHUVEC細胞の生化学的経路に対する効果について探索した。
CoQ10の存在下及び非存在下における、HUVEC細胞の正常酸素状態及び低酸素状態への応答を評価した。具体的には、HUVEC細胞を、本明細書で記載される正常酸素条件下又は低酸素条件下のサブコンフルエント培養物及びコンフルエント培養物中で成長させた。細胞はまた、0、100、又は1500μMのCoQ10へも曝露した。一酸化窒素(NO)レベル及び反応性酸素分子種(ROS)レベルは、本明細書で提供される方法を使用して決定した。図57に示す通り、HUVEC細胞は、CoQ10及び低酸素状態に応答して、一酸化窒素(NO)及び反応性酸素種(ROS)の、用量依存的な差次的生成を裏付けた。
HUVEC細胞のバイオエナジェティクスを、多様な濃度のCoQ10の存在下において評価した。具体的には、HUVEC細胞を、CoQ10の非存在下又は存在下(10、100、1500μM)のサブコンフルエント条件又はコンフルエント条件で成長させた。Seahorseアッセイを使用して、総酸素消費速度(OCR)及びミトコンドリアOCRの両方のOCR、ATP産生、並びに細胞外酸性化速度(ECAR)を評価した。図58A〜Dに示す通り、サブコンフルエント培養物中で成長させたHUVEC細胞は、ミトコンドリアの酸素消費を、コンフルエント培養物と比較して制限する((A)総OCR; (B)ミトコンドリアOCR; (C)ATP; (D)ECAR)。CoQ10の、サブコンフルエント培養物への添加は、ミトコンドリアのOCRを、コンフルエントレベルのOCRへと戻す(図58B)。
[実施例8]
CoQ10の抗血管新生機構を解明するための、機能的プロテオミクス及び機能的リピドミクスの適用
血管新生とは、腫瘍進行を可能とする鍵となる特徴であって、腫瘍細胞の成長に必要とされる酸素及び栄養物質をもたらす特徴である。本発明者らは、現在のところ、癌の進行についてのヒト研究において探索されている抗腫瘍薬である、CoQ10の抗血管新生特性について探索してきた。CoQ10は、「スクラッチ」アッセイにおける内皮遊走及び三次元MATRIGEL(登録商標)管形成アッセイにおける管形成を損なう。CoQ10の添加はまた、G2/M期の細胞及び増殖性細胞核抗原(pCNA)タンパク質により検出される内皮増殖も損なう。CoQ10は、カスパーゼ3の活性化を誘導し、血管新生性内皮細胞/増殖性内皮細胞のアポトーシスは増大させるが、非増殖性のコンフルエント内皮細胞培養物の細胞死は、対照と比較して減少させる。
血管新生性の増殖性内皮細胞及び非増殖性内皮細胞の細胞内プロテオミクスプロファイルを決定するために、本発明者らは、プロテオミクス法、リピドミクス法、及び機能的プロテオミクス法を使用した。それぞれ、LTQ-OrbiTrap-Velos及びVantage-QqQ上で、プロテオミクス解析及びショットガンリピドミクス解析を実施した。機能的プロテオミクス法では、比較プロテオミクスと組み合わせて活性ベースのプローブを援用した。キナーゼ及び他のATPアーゼは、とりわけ、それらの天然のコンフォメーションにおける酵素の活性部位と相互作用するATP結合性ドメイン豊富プローブで標識した。豊富は、ストレプトアビジン樹脂を伴う免疫沈降により実行した。
リピドミクス及びプロテオミクスの統合型プラットフォーム並びに脂質/タンパク質/機能的プロテオミクス因果ネットワークを作成するAIベースのベイズインフォマティクスプラットフォームを使用して、血管新生をモジュレートする新規のタンパク質、脂質、及び酵素を同定した。CoQ10で処置された細胞と正常内皮細胞と血管新生性内皮細胞との比較を使用して、網羅的キナーゼ活性をプローブした。血管新生の複雑性及び動態を解明するために、比較プロテオミクス及び酵素活性データを、AIベースのベイズインフォマティクスプラットフォームへと組み込んで、機能的タンパク質間相互作用の因果ネットワークを探索した。因果相互作用ネットワークを、図59A〜Cに示す。具体的には、図59Aは、脂質、タンパク質、及びキナーゼの完全なマルチオーミクスによる因果相互作用ネットワークである。図59Bは、タンパク質豊富ネットワークのハブを示し、図59Cは、キナーゼ、リピドミクス、及び機能的エンドポイントによるネットワークのハブを示す。ネットワークでは、タンパク質を丸で明示し、キナーゼを四角で明示し、脂質をダイアモンドで明示し、機能活性又は細胞応答を八角形で明示する。いくつかのタンパク質及びキナーゼ名を提示する。プラットフォームからの出力は、既知のタンパク質相互作用を確認した。
まとめると、プラットフォーム技術を使用して、統合型機能的プロテオミクスアッセイを適用して、酵素活性の網羅的変化を決定することにより、CoQ10の抗血管新生機構及び増殖性内皮細胞の固有の特徴について探索してきた。精査のための「オーミクス」ベースのプラットフォームにより、細胞内の情報のやり取りが頑健に推定される。AIベースのネットワークエンジニアリングによる、因果性を推定するためのデータマイニングへの接近は、使用可能な生物学的な情報のやり取りを結果としてもたらす。更に、発見プラットフォームは、環境チャレンジに応答した内皮細胞の病態生理、代謝状態の変化、生理学的変動を緩和する適合性分子の産生についての理解の増強も可能とする。
[実施例9]
血管新生モデルを構築するためのプラットフォーム技術の援用
本実施例では、上記の「発明を実施するための形態」で詳細に記載したプラットフォーム技術を援用して、特注で構築した血管新生モデルから得られるデータを統合し、血管新生を駆動する新規のタンパク質/経路を同定する。この解析から結果として得られる関係性マップにより、血管新生バイオマーカーが提示される。
血管新生とは、完全には理解されていない、シグナル伝達経路の複雑な連鎖の結果である。血管新生は、癌を含むがこれらに限定されない、多数の病理学的状態において役割を果たす。本明細書では、タンパク質署名及び脂質署名を、とりわけ、細胞バイオエナジェティクス及びミトコンドリア膜の機能に注目する、機能的エンドポイントアッセイ組み合わせる、系統的手法が提供される。上記で裏付けた通り、サブコンフルエントのHUVEC細胞を使用して、血管新生性状態を模倣することができる一方、コンフルエントのHUVEC細胞を使用して、非血管新生性状態、すなわち、正常状態を模倣することができる。
in vitroモデルでは、HUVEC細胞を、血管新生阻害剤、例えば、CoQ10などの環境影響因子の存在下又は非存在下の接触阻害条件下(例えば、コンフルエント培養物)又は接触阻害を欠く条件下(例えば、サブコンフルエント培養物、例えば、約60%未満のコンフルエント培養物、約70%未満のコンフルエント培養物、約80%未満のコンフルエント培養物、約90%未満のコンフルエント培養物;三次元培養物;又は培養物を「スクラッチング」することにより細胞パッチを除去した培養物)で成長させて、署名を創出し、血管新生の潜在的な機構を解明する。本明細書で提供されるプラットフォーム方法を使用して、プロテオミクス署名及びリピドミクス署名を解析する。ウェットラボ法を使用して、血管新生のバイオマーカーを更に確認する。この手法は、血管新生機構を理解し、新たな血管新生バイオマーカーの同定、並びに血管新生をモジュレートする薬剤の発症及び試験を可能とするための強力なツールとして用いられる。
ヒト臍静脈内皮細胞を、in vivoにおいて疾患関与性の細胞が経る血管新生性環境をシミュレートする条件下に置く。具体的には、接触阻害に起因して成長が阻害される条件下(すなわち、正常細胞)、又は培養物の少なくとも一部においては、接触阻害に起因して成長が阻害されることのない条件下(すなわち、血管新生性細胞)で細胞を成長させる。簡潔さのために述べると、培養物の少なくとも一部においては、接触阻害に起因して成長が阻害されることのない条件下で成長するこのような細胞を、非コンフルエント培養物と称するものとする。
コンフルエント培養物中又は非コンフルエント培養物中で細胞を成長させる、上述の細胞を含む細胞モデルを、血管新生をモジュレートする薬剤、例えば、血管新生を阻害する薬剤で処置することにより、細胞を「環境変動」へと曝露することにより、更に「精査」する。例えば、細胞を、多様な濃度、例えば、0、50μM、100μM、250μM、500μM、750μM、1000μM、1250μM、又は1500μMのうちの1種以上のコエンザイムQ10で処置する。本明細書で提示される通り、変動は、例えば、培養物を「スクラッチング」するか、又は細胞を低密度で継代培養することによる、細胞の機械的破壊を含みうる。
各変動処置を伴う各条件からの細胞試料を、処置後の多様な時点で、例えば、6、12、18、24、36、48、60、72、84、96、108、もしく120時間後において、又は処置のこれらの時間後の間のある時点で収集する。特定の条件下では、培地試料もまた、回収及び解析した。次いで、試料を、タンパク質の発現又は活性、遺伝子の発現、及び脂質のレベルのうちの1種以上のレベルについて解析することができる。
各条件において、且つ、上記の「発明を実施するための形態」で記載した技法を使用する各「環境変動」、すなわち、コエンザイムQ10処置を伴う、回収された細胞及び培地試料についての定量的プロテオミクスにより、全細胞内タンパク質発現の変化のiProfilingを実施した。例えば、Biorad(登録商標) CFX-384増幅システムを使用して、転写プロファイリング実験を実行する。データ(Ct)回収後、製造元のプロトコールで概括されている通りに、例えば、δCt法を使用して、対照に対する最終的な倍数変化を決定する。質量分析を使用して、リピドミクス実験を実行する。例えば、本質的に、製造元により推奨される通りに、Seahorse解析器を援用することにより、酸素消費速度(OCR)などの機能アッセイを測定した。OCRは、カートリッジをSeahorse培養プレートに押し当てることにより創出される、7μlのチャンバー内の電極により記録することができる。
まとめると、形態解析、酵素解析、及びフローサイトメトリー解析は、CoQ10処置に応答した、アポトーシス、遊走、一酸化窒素生成及びROS生成、並びにバイオエナジェティクス能の劇的な変化を明らかにした。リピドミクス解析は、ミトコンドリア機能及び細胞密度を変化させることにより緩和される脂質経路の新規の変化を明らかにした。プラットフォーム方法を活用するプロテオミクスの統合は、ミトコンドリアのモジュレーションにより方向付けられる細胞内適応及びシグナル伝達についての、特徴付けられていなかった連関を明らかにした。まとめると、これらの研究は、CoQ10が、内皮遊走、増殖、アポトーシス、一酸化窒素、ROS、及びタンパク質/脂質構造を変化させることを明らかにする。本明細書では、CoQ10の抗腫瘍活性が、血管新生因子と、腫瘍による新血管形成のための局所的な血液供給の動員を阻害するアポトーシス因子との代謝的クロストークに起因する、新規の機構が提示される。更に、プロテオミクス及びリピドミクスの適合は、環境的刺激に応答した内皮細胞の生理学的必要を支持する相互作用ネットワークと関連した。これらのデータは、ミトコンドリアの代謝制御エレメントの調節異常に起因する、腫瘍血管新生の選択的な適応への確証的洞察をもたらす。
[実施例10]
マルチプロテオミクスを実装するためのプラットフォーム技術の援用
酵素活性を解明するためのモデル
一般に、上記の実施例5で記載した酵素プラットフォーム技術は、血管新生など、生物システム又は疾患過程のモジュレーターを更に同定する方法を実装するために適合させることができる。方法は、血管新生に関連する細胞を含む、血管新生についてのモデルを援用して、血管新生の特徴的な側面を表す。モデルを使用して、少なくとも3つのレベルのデータ、すなわち、(i)血管新生に関連する細胞内の網羅的酵素活性を表す、第1のデータセット、(ii)血管新生に関連する細胞内の、網羅的酵素活性の、酵素代謝物又は基質に対する効果を表す第2のデータセット、及び(iii)血管新生に関連する細胞内の網羅的プロテオミクス変化を表す第3のデータセットを得る。リピドミクスデータ、トランスクリプトミクスデータ、メタボロミクスデータ、及びSNPデータなどの更なるデータセットを使用して、網羅的酵素活性と、網羅的酵素活性の効果と、網羅的プロテオミクス変化との間のコンセンサス因果関係性ネットワークを作成する。コンセンサス因果関係性ネットワークは、プログラムされた計算装置を使用する第1のデータセット、第2のデータセット、及び第3のデータセットだけに基づく(すなわち、他の既知のいかなる生物学的関係性にも基づかない)。次いで、コンセンサス因果関係性ネットワークを使用して、血管新生に固有の因果関係性を同定するが、この場合、固有の因果関係性に関連する少なくとも1種の遺伝子又はタンパク質を、血管新生のモジュレーターとして同定する。
本実施例では、プラットフォーム技術を、血管新生に関連する酵素活性と、その活性のプロテオームに対する直接的な影響とを測定し、これにより、血管新生時における細胞内プロテオームの網羅的変化の文脈において、酵素(例えば、キナーゼ及び/又はプロテアーゼ)とそれらの代謝物/基質との間の因果関係性を理解するのに使用しうるシステムを提供するためのマルチプロテオミクス法を実装するように適合させた。酵素活性は、酵素発現と直交しうる(例えば、活性が下方調節されると、発現が上方調節される)ために、このような技法は、貴重な洞察をもたらしうる。このような解析から結果として得られる関係性マップは、血管新生をモジュレートすることにより、疾患処置の標的をもたらしうるほか、血管新生に関連する診断/予後診断マーカーももたらしうる。このような標的及びマーカーは、治療組成物及び方法をもたらしうる。モデルを確立し、データセットを得、コンセンサス因果関係性ネットワークを作成し、血管新生に固有の因果関係性を同定するための技法は、上記の「発明の概要」、「発明を実施するための形態」、及び「実施例」で論じられている。モデルを確立し、網羅的酵素活性、及び網羅的酵素活性の、酵素代謝物又は基質に対する効果を表すデータセットを得るための更なる技法は、下記で提示される。
第1に、例えば、細胞株を、疾患をシミュレートする条件下に置き、環境変動への曝露(例えば、血管新生のモジュレーター、例えば、CoQ10、Avastin、VEGF阻害剤、アンギオスタチン、ベバシズマブへの曝露、HUVEC細胞のコンフルエント状態の変化への曝露)により精査する、プラットフォーム技術に従いモデルを確立する。比較のために対照を用意する。第2に、(i)網羅的酵素活性、(ii)酵素活性のプロテオームに対する(例えば、酵素活性の代謝物/基質に対する)特異的効果、及び(iii)細胞内プロテオームに対する網羅的効果を解析することにより、酵素活性及びその下流における効果を、網羅的プロテオミクス変化の文脈で追跡する。第3に、データセットを、プラットフォーム技術に従い解析して、対象のモジュレーターを同定する。例えば、血管新生モデルは、既知の血管新生モジュレーターにより精査することができ;システムに対するこの変動の、網羅的キナーゼ活性に対する効果を、結果としてもたらされる、リン酸化プロテオーム及び全プロテオームに対する効果と共に解析することができ;データセットを、AIベースのREFS(商標)システムにより解析することができる。
例えば、多様な条件下で成長させるHUVEC細胞を使用して、血管新生状態及び正常(例えば、非血管新生)状態を刺激することができる。成人では、特殊な状況下、例えば、妊娠、創傷の治癒などを除き、血管新生は生じないので、この手法を使用することにより同定される血管新生マーカーの存在は、疾患状態、例えば、癌、関節リウマチ、加齢黄斑変性、又は糖尿病性網膜症を示すマーカーとして有用でありうる。
この例示的な例は、(i)細胞生物学、(ii)プロテオミクスプラットフォームと、翻訳後修飾、例えば、リン酸化、及び血管新生におけるこのような機構に関与する酵素、例えば、キナーゼの役割を描出する因果タンパク質ネットワークを作成するインフォマティクスプラットフォームとの統合の効力を組み合わせる。特に、この手法は、ATP結合性ドメイン豊富プローブ及び血管新生モデル内の全タンパク質のリン酸化プロテオームマッピングを援用する活性ベースのプロテオミクスを組み込む。
比較プロテオミクスデータ、リン酸化プロテオームデータ、及び酵素活性データを、AIベースのREFS(商標)インフォマティクスプラットフォームへと組み込む。次いで、とりわけ、機能的な観点、すなわち、キナーゼ/酵素活性及びキナーゼがリン酸化しうる潜在的な標的からの、タンパク質相互作用の因果ネットワークを作成する。加えて、細胞機能についてのリードアウトを使用して、標的のリン酸化をモジュレートし、病態生理的な細胞内挙動を機構的に駆動する酵素/キナーゼを決定する。本明細書で概括される例示的な実装は、血管新生の臨床管理のための、細胞応答の網羅的特徴付け、血管新生の機構及び潜在的な標的/バイオマーカーへの洞察を容易とする。
例示的な例として述べると、正常細胞及び血管新生性細胞を表す細胞は、比較のために選択する。本明細書で裏付けられる通り、HUVEC細胞は、サブコンフルエント培養物中で成長させると、血管新生の特徴を示すが、コンフルエントのHUVEC細胞は、血管新生の特徴を示さない。本明細書で裏付けられる通り、HUVEC細胞のサブコンフルエント培養物のCoQ10による処置は、HUVEC細胞を、非血管新生状態へとシフトさせる。上記で提示したプロテオミクス法と同様、酵素活性を解析するための方法は、任意の条件下で成長させるHUVEC細胞の対解析を含むことが可能であり、任意選択で、第3のデータセットからの結果との対比較からの結果についての更なる解析も含みうる。
例示的な実施形態として述べると、コンフルエント培養物中及び非コンフルエント培養物中で培養された同等数のHUVEC細胞を採取し、細胞を、対象のペプチド、例えば、ホスホペプチドの存在について豊富する。実施例5における通りに比較解析を実施して、血管新生に関連する酵素活性の変化を検出する。
参照による組込み
本出願全体で引用されうる、全ての引用された参考文献(参考文献、特許、特許出願、本出願の出願日において、及びウェブサイトにおいて入手可能なバージョンのGenBank番号を含む)の内容は、それらの中で引用された参考文献と同様に、参照によりそれらの全体において本明細書に明示的に組み込まれる。別段に明示されない限り、本発明の実施は、当技術分野で周知の、タンパク質製剤化の従来の技法を援用するであろう。
同等物
本発明は、その精神又は本質的特徴から逸脱しない限りにおいて、他の特殊な形態でも実施することができる。したがって、前出の実施形態は、全ての点において、本明細書で記載される本発明に対して、制限的ではなく例示的であると考えるものとする。したがって、本発明の範囲は、前出の記載によってではなく、付属の特許請求の範囲により明示され、したがって、特許請求の範囲の同等性の意味及び範囲内に収まる全ての変化が、本明細書に包摂されることを意図する。