JP2020198270A - 全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層およびこれを用いた全固体リチウムイオン二次電池 - Google Patents

全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層およびこれを用いた全固体リチウムイオン二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウム含有硫化物固体電解質を含む固体電解質層を備えた全固体リチウムイオン二次電池において、運転時の拘束圧を小さくした場合に、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を抑制しうる手段を提供する。【解決手段】全固体リチウムイオン二次電池において、リチウム塩およびリチウム含有硫化物固体電解質に加えて、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質をさらに含有する固体電解質を用いて固体電解質層を構成する。【選択図】図2

Description

本発明は、全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層およびこれを用いた全固体リチウムイオン二次電池に関する。
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウムイオン二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。
ここで、全固体リチウムイオン二次電池の出力特性等の性能を向上させることを目的として、リチウムイオン伝導性に優れた固体電解質の開発が鋭意行われている。例えば、高いイオン伝導度を有する固体電解質として、リチウム含有硫化物固体電解質が知られている。また、特許文献1では、4級ホスホニウムカチオンを含む柔粘性結晶とイオン性塩との複合体であるイオン伝導性柔粘性結晶を電極層内部の空隙に充填する技術が提案されている。特許文献1によれば、このような構成とすることで、電極内部のリチウムイオンの伝導パスが向上して高出力化を実現することができるとされている。
特開2016−139461号公報
ところで、全固体リチウムイオン二次電池の運転時には、電極間の反応性を向上させるなどの目的で、二次電池のセルを積層方向に加圧するように拘束圧を付与することが一般的に行われている。ただし、拘束圧の付与手段の大型化は電池のエネルギー密度の低下をもたらす。このため、十分な電池反応の進行が担保される限り、電池の運転時に付与される拘束圧は小さいほど好ましい。
上記のような観点から、本発明者らは、高いイオン伝導度を示すリチウム含有硫化物固体電解質を含む固体電解質層を備えた全固体リチウムイオン二次電池において、運転時に付与される拘束圧を小さくする検討を行った。そうしたところ、特許文献1に開示されているような技術を採用したとしても、セルの拘束圧の低下に伴って固体電解質層のイオン伝導度も低下する場合があることが判明した。このように、セルの拘束圧の低下に伴って固体電解質層のイオン伝導度が低下すると、高イオン伝導度のリチウム含有硫化物固体電解質を採用したメリットが失われてしまうという問題がある。
そこで本発明は、リチウム含有硫化物固体電解質を含む固体電解質層を備えた全固体リチウムイオン二次電池において、運転時の拘束圧を小さくした場合に、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、リチウム塩およびリチウム含有硫化物固体電解質に加えて、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質をさらに含有する固体電解質を用いて固体電解質層を構成することで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一形態によれば、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が負極集電体の表面に配置されてなる負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素を備える全固体リチウムイオン二次電池が提供される。そして、当該全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質層を構成する固体電解質は、リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質とを含有するという特徴を備えている。
本発明によれば、リチウム含有硫化物固体電解質を含む固体電解質層を備えた全固体リチウムイオン二次電池において、運転時の拘束圧を小さくした場合に、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を抑制することが可能となる。
図1は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。 図2は、実施例の欄において用いた有機電解質(イオン性柔粘性結晶)のG’/G”の値の温度依存性のグラフ、および、実施例の欄において作製した固体電解質層のサンプルについて1[MPa]の拘束圧条件下で測定したイオン伝導度の値を処理温度に対してプロットしたグラフを示す。 図3は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
本発明の一形態は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が負極集電体の表面に配置されてなる負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素を備え、前記固体電解質が、リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質と、を含有する、全固体リチウムイオン二次電池である。
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。図1に示す双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図1に示すように、本形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。ただし、本発明の技術的範囲は図1に示すような双極型二次電池に限定されず、複数の単電池層が電気的に直列に積層されてなる結果として同様の直列接続構造を有する電池であってもよい。
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
さらに、図1に示す双極型二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
以下、上述した双極型二次電池の主な構成要素について説明する。
(集電体)
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5〜80質量%である。
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
(負極活物質層)
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12、SiO等が挙げられる。さらに、金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等の金属単体や、TiSi、LaNiSn等の合金が挙げられる。また、負極活物質として、Liを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Li含有合金が挙げられる。Li含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。
場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm〜100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm〜20μmの範囲内であり、特に好ましくは1〜20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40〜99質量%の範囲内であることが好ましく、50〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、後述する本発明の一形態に係るリチウムイオン伝導性固体電解質が挙げられる。ただし、その他の固体電解質が用いられてもよい。
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1〜60質量%の範囲内であることが好ましく、10〜50質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは2〜8質量%であり、さらに好ましくは4〜7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
(正極活物質層)
正極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む。なかでも、硫黄を含む正極活物質を含むことが好ましい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024−5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm−1と1560cm−1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm−1、379cm−1、472cm−1、929cm−1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、S−カーボンコンポジット、TiSおよびFeSがより好ましく、硫黄単体(S)が特に好ましい。ここで、S−カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質に代えて、硫黄を含まない正極活物質を含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni−Mn−Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm〜100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm〜20μmの範囲内であり、特に好ましくは1〜20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40〜99質量%の範囲内であることが好ましく、50〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。
正極活物質層もまた、負極活物質層と同様に固体電解質や導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよい。
(固体電解質層)
本形態に係る双極型二次電池の固体電解質層は、固体電解質を(通常は主成分として)含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。本形態において、固体電解質層に含有される固体電解質(以下、「本形態に係る固体電解質」とも称する)は、リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質とを含有する点に特徴を有するものである。以下、本形態に係る固体電解質の構成成分について、詳細に説明する。
(有機電解質)
本形態に係る固体電解質は、リチウム塩およびリチウム含有硫化物固体電解質に加えて、所定の有機電解質をさらに含有する。ここで、当該有機電解質は、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えたものである。ここで、「貯蔵弾性率(G’)」および「損失弾性率(G”)」はまとめて動的弾性率とも称され、物質の動的な粘弾性特性を、粘弾性物質の応力−ひずみ特性の位相遅れに着目して複素弾性率の偏角として表現したものである。そして、これらのうち複素弾性率の実数部にあたるものが「貯蔵弾性率(G’)」であって物質の硬さの指標となり、虚数部にあたるものが「損失弾性率(G”)」であって物質の粘度の指標となる。また、貯蔵弾性率(G’)が損失弾性率(G”)よりも大きいことはその物質が固体に類する挙動を示すことを意味し、逆に損失弾性率(G”)が貯蔵弾性率(G’)よりも大きいことはその物質が液体に類する挙動を示すことを意味する。したがって、本形態に係る有機電解質が「損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質」を有するとは、温度の上昇に伴って当該有機電解質が固体としての挙動から液体としての挙動を示す傾向を有するようになることを意味しているともいえる。なお、ある有機電解質が上記の性質を有しているか否かは、後述する実施例の欄に記載されているような動的粘弾性測定装置を用いた正弦波振動法により、測定温度を変化させながら測定された貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)の値から判定することができる。ここで、図2に、後述する実施例の欄において用いた本発明に係る有機電解質のG’/G”の値の温度依存性のグラフを示す。図2に示すように、右側の縦軸で示されるG’/G”の値が、測定温度の上昇に伴って低下し、約85℃の測定温度で1未満の値となっていることがわかる。なお、図2に示す有機電解質では、G’/G”の値が100℃で0.55まで低下している。ここで、温度の上昇に伴って1未満となる性質を有するものであればよいが、イオン伝導度の向上効果の観点から、好ましくは0.8以下となる性質を有するものであり、より好ましくは0.6以下となる性質を有するものであり、特に好ましくは0.55以下となる性質を有するものである。また、別の規定で表現すれば、本形態に係る有機電解質は、その貯蔵弾性率(G’)[GPa]の値が、25℃における値を100%としたときに、温度の上昇に伴って90%以下まで低下する性質を備えたものであることが好ましく、70%以下まで低下する性質を備えたものであることがより好ましく、40%以下まで低下する性質を備えたものであることがさらに好ましく、10%以下まで低下する性質を備えたものであることが特に好ましい。
上記の性質を有する有機電解質の具体的な形態について特に制限はなく、このような性質を有する任意の有機電解質が好適に用いられうる。なかでも、イオン伝導度の向上効果の観点から、本形態に係る有機電解質は、イオン性柔粘性結晶を含むことが好ましい。
ここで、「柔粘性結晶」とは、固体と液体との中間的な性質を有する結晶であり、規則的に整列した三次元結晶格子から構成されるが、分子種または分子イオンのレベルでは配向的、回転的な無秩序さが存在する物質として定義される。
本形態に係るイオン性柔粘性結晶の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。なかでも、イオン伝導度の向上効果の観点から、イオン性柔粘性結晶は、ピロリジニウムイオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンおよびビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)アニオンからなる群から選択されるアニオンと、からなるイオン性化合物であることが好ましい。
ここで、FSIアニオン((FSO)およびTFSIアニオン((CFSO)の構造を下記に示す。本形態に係るイオン性柔粘性結晶は、下記の構造を有するFSIアニオンまたはTFSIアニオンの少なくとも一方を含むものであることが好ましい。これらのアニオンは、低温条件下におけるイオン伝導性に優れるという点で好ましいものであるが、なかでもFSIアニオンを含むイオン性柔粘性結晶が特に好ましい。
一方、ピロリジニウムイオンは、ピロリジン骨格を有するカチオンであり、その具体的な構造は特に限定されない。一例として、ピロリジニウムイオンは、下記の構造を有するものでありうる。
式中、R10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、炭素数1〜8の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられる。より具体的には、炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられる。なかでも、R10およびR11は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、それぞれ独立して炭素数1または2のアルキル基が好ましい。このように比較的炭素数の少ないアルキル基を有する形態によれば、有機カチオンの回転運動性を阻害する回転障壁を低減することができることから、柔粘性結晶としての特性を発揮できる温度域を拡大でき、また高いイオン伝導性を発揮することができる。
ピロリジニウムイオンの具体的な好ましい例としては、N,N−ジエチルピロリジニウムイオン、N−エチル−N−メチルピロリジニウムイオン、N,N−ジメチルピロリジニウムイオンが挙げられる。すなわち、本形態に係るイオン性柔粘性結晶は、N,N−ジメチルピロリジニウムイオン(P11)、N−エチル−N−メチルピロリジニウムイオン(P12)またはN,N−ジエチルピロリジニウムイオン(P22)と、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンとを含むものであることがより好ましい。なかでも、特に優れたリチウムイオン伝導性を有するという観点から、N,N−ジエチルピロリジニウムイオン(P22)とFSIアニオンとからなるイオン性柔粘性結晶が最も好ましい。上述したイオン性柔粘性結晶は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。ただし、1種のみが単独で用いられることが好ましい。
なお、イオン性柔粘性結晶におけるピロリジニウムイオンとFSIアニオンまたはTFSIアニオンとのモル比は、通常は1:1である。
イオン性柔粘性結晶の製造方法は特に制限されないが、例えば、以下の製造方法が例示される。まず、蒸留水にFSIアニオンまたはTFSIアニオンを含むアルカリ金属塩を溶解し、アルカリ金属塩溶液を調製する。続いて、FSIアニオンまたはTFSIアニオンを含むアルカリ金属塩と等モル量のハロゲン化(例えば、ヨウ化)したピロリジニウムイオンを同様に蒸留水に溶解し、ピロリジニウムイオンを含む水溶液を調製する。そして、この水溶液を撹拌しながら、FSIアニオンまたはTFSIアニオンを含むアルカリ金属塩溶液を少しずつ滴下して徐々に塩交換反応を行う。等モル量添加した後、所定時間撹拌することで目的とするイオン性柔粘性結晶を含む沈殿物が得られる。この沈殿物をろ過回収したのち、蒸留水等で洗浄後、真空乾燥することで、所望のイオン性柔粘性結晶を得ることができる。なお、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを含むアルカリ金属塩のアルカリ金属としては、Na、K、Li、Csが挙げられるが、好ましくはNaまたはKである。また、ハロゲン化した有機カチオンのハロゲンとしては、F、Cl、Br、Iが挙げられるが、ハンドリングの観点からCl、BrまたはIが好ましい。
(リチウム塩)
本形態に係る固体電解質は、リチウム塩を含む。リチウム塩としては、Li(FSON(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(CFSON(リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド;LiTFSI)、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等が挙げられる。なかでも、LiFSIまたはLiTFSIの少なくとも一方が好ましい。これらのリチウム塩は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
また、本形態に係る固体電解質に含まれるリチウム塩は、上述した有機電解質(特に、イオン性柔粘性結晶)を構成するアニオンと同一のアニオンを含むことが好ましい。すなわち、上述したイオン性柔粘性結晶がFSIアニオンを含む場合、本形態に係る固体電解質は、FSIアニオンを含むリチウム塩(すなわち、LiFSI)を含むことが好ましい。同様に、上述したイオン性柔粘性結晶がTFSIアニオンを含む場合、本形態に係るリチウムイオン伝導性固体電解質は、TFSIアニオンを含むリチウム塩(すなわち、LiTFSI)を含むことが好ましい。
本形態に係る固体電解質におけるリチウム塩の含有量は特に制限されない。ただし、優れたイオン伝導性を発揮させるという観点から、上述した有機電解質がイオン性柔粘性結晶である場合には、当該結晶を構成するカチオン100モル%に対してリチウム塩の含有量が1モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましい。なお、リチウム塩の含有量の上限値も特に制限されないが、有機電解質の柔粘性を十分に保持させて固体電解質の機械的強度を確保するという観点からは、好ましくは20モル%以下であり、より好ましくは15モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以下である。
(リチウム含有硫化物固体電解質)
本形態に係る固体電解質は、リチウム含有硫化物固体電解質を含む。硫化物固体電解質は、バルクでのイオン伝導度が高いうえに、機械特性にも優れるため負極から金属リチウムのデンドライトが成長しても内部短絡が生じにくいという利点がある。リチウム含有硫化物固体電解質としては、例えば、LiS−P、Li11、Li3.20.96S、LiS−SiS、LiS−B、LiS−GeS、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12、またはLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)等が挙げられる。なお、「LiS−P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI−LiPS、LiI−LiBr−LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi−P−S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4−x)Ge(1−x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。
また、全固体リチウムイオン二次電池の出力特性等の性能を向上させるという観点から、硫化物固体電解質の25℃におけるバルクでのイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10−5[S/cm]以上であることが好ましく、1×10−4[S/cm]以上であることがより好ましく、1×10−3[S/cm]以上であることが特に好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、後述する実施例の欄に記載されているような交流インピーダンス法により測定することができる。さらに、同様の理由から、硫化物固体電解質のイオン伝導度は、上述した有機電解質のイオン伝導度よりも高いことが好ましい。
本形態に係る固体電解質は、上述したような硫化物固体電解質以外の固体電解質をさらに含有してもよい。硫化物固体電解質以外の固体電解質としては、例えば、ガーネット型酸化物、NASICON型酸化物、ペロブスカイト型酸化物等の酸化物固体電解質が挙げられる。ただし、イオン伝導度が高く機械特性にも優れる硫化物固体電解質の特性を十分に発揮するという観点からは、本発明に係る固体電解質は酸化物固体電解質を含有しないことが好ましい。また、本形態に係る固体電解質におけるリチウム含有硫化物固体電解質の含有量は特に制限されない。ただし、優れたイオン伝導性を発揮させるという観点から、リチウム含有硫化物固体電解質の含有量は、固体電解質層を構成する無機固体電解質の全量100質量%に対して、10〜100質量%の範囲内であることが好ましく、50〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
本形態に係る固体電解質は、上述したように、リチウム塩、所定の性質を有する有機電解質およびリチウム含有硫化物固体電解質を必須成分として含むが、有機電解質(リチウム塩を含む)と硫化物固体電解質との質量比は特に制限されない。好ましい実施形態において、これらの質量比(有機電解質(リチウム塩を含む):硫化物固体電解質)は、好ましくは0.1:99.9〜20:80であり、より好ましくは1:99〜10:90である。
また、本形態に係る固体電解質は、上述した成分以外の成分を添加剤として含んでもよい。例えば、固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。ただし、イオン伝導性の観点からは、これらの必須成分以外の成分の含有量は少ないほど好ましい。すなわち、本形態に係るリチウムイオン伝導性固体電解質におけるこれらの必須成分の合計含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、いっそう好ましくは95〜100質量%であり、特に好ましくは98〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
固体電解質層の厚さは、目的とする双極型二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1〜1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜300μmの範囲内であることがより好ましい。
本発明の他の形態によれば、上述した全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質層の製造方法もまた、提供される。当該製造方法は、リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質と、を含有する固体電解質材料を圧粉成形して、シート状である固体電解質層前駆体を作製することと、前記固体電解質層前駆体を加熱することとを含むものである。ここで、上記固体電解質材料の具体的な形態や組成については上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
本形態に係る全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法は、上述した固体電解質材料を圧粉成形して固体電解質層前駆体を作製した後、当該前駆体を加熱する点に特徴を有するものである。なお、本明細書において、「圧粉成形」とは、粉末状の原料を金型の内部に充填した後に加圧成形する成形方法をいうものとする。この際、加圧成形により作製された固体電解質層を加熱することなくそのまま固体電解質層として用いることは可能である。ただし、固体電解質層のイオン伝導度をよりいっそう向上させ、全固体リチウムイオン二次電池の出力特性等の性能をよりいっそう向上させうる固体電解質層を製造するという観点からは、加圧成形により作製された固体電解質層を加熱する工程を実施することが好ましいことが判明したのである。なお、固体電解質層前駆体に対する加熱処理は、上述した圧粉成形(加圧成形)と同時に行ってもよいし、圧粉成形(加圧成形)を終了した後に、得られた前駆体に対して行ってもよい。上述したように本発明に係る固体電解質層はG’/G”の値が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質を含有するものである。このため、加熱処理を施すことによって有機電解質のG’/G”の値が低下し、硫化物固体電解質と有機電解質とがよりよくなじむことにより、イオン伝導度の向上が達成されるものと推定されている。
固体電解質前駆体に対する加熱処理の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の加熱手段を用いて加熱処理を施すことが可能である。また、加熱温度についても特に制限はないが、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。一方、加熱温度の上限値についても制限はないが、通常は200℃以下であり、好ましくは150℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下である。加熱時間についても特に制限はなく、例えば30秒間〜10時間程度であり、好ましくは1分間〜5時間であり、さらに好ましくは30分間〜2時間である。また、固体電解質層に含まれる有機電解質を用いて予備検討を行っておき、加熱条件を決定してもよい。この場合には、有機電解質のG’/G”の値が2.7以下となる条件で固体電解質層前駆体を加熱することが好ましく、有機電解質のG’/G”の値が1.4以下となる条件で固体電解質層前駆体を加熱することがより好ましい。このような条件で加熱処理を施すことで、硫化物固体電解質と有機電解質とがよりよくなじみ、イオン伝導度の低下やこれに起因する出力特性等の電池性能を低下を防止することが可能となる。
以上、本発明の他の形態に係る固体電解質層の製造方法について説明したが、このようにして製造された固体電解質層は、全固体リチウムイオン二次電池の製造に用いられうる。あるいは、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法の一部に、上述した固体電解質層の製造方法が含まれうる。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が負極集電体の表面に配置されてなる負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素を備える全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、上述した固体電解質層の製造方法によって上記固体電解質層を製造することを含む、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法もまた、提供される。なお、固体電解質層を製造する工程以外の工程については、従来公知の知見を適宜参照しつつ実施が可能である。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、カーボン被覆アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
本形態の双極型二次電池は、複数の単電池層が直列に接続された構成を有することにより、高レートでの出力特性に優れるものである。したがって、本形態の双極型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
図3は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図3に示すように、扁平な双極型二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図1に示す双極型二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、固体電解質層17を介して複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
組電池に対して本発明に係る充電方法を実施する際には、例えば組電池を構成する個々の電池(単セル)のそれぞれの交流インピーダンスを測定しながら充電処理を実行することができる。このような構成とすることで、個々の電池(単セル)のそれぞれにおける電析の発生を別々にモニタリングしながら充電処理を行うことができる。
[車両]
本形態に係る双極型二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記双極型二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
なお、上記の説明では、双極型全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて本発明の一形態に係る電気化学デバイスの一実施形態を説明したが、本発明が適用可能な電気化学デバイスの種類は特に制限されず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型の全固体電池や、従来公知の任意の双極型または非双極型(並列積層型)の非水電解質二次電池(電解液を用いる電池)にも適用可能である。さらに、本発明に係るイオン伝導性固体電解質は、二次電池以外にも、一次電池や燃料電池、電気二重層キャパシタなどに適用されてもよい。
ここで、本発明の一形態に係る全固体リチウムイオン二次電池によれば、運転時の拘束圧を小さくした場合であっても、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を抑制することが可能である。したがって、本発明のさらに他の形態によれば、本発明の一形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の運転方法もまた、提供される。すなわち、当該運転方法は、本発明の一形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の発電要素をその積層方向に4[MPa]以下の拘束圧で拘束しながら電池を運転することを含むものである。このような構成とすることにより、従来全固体電池に必要とされていた拘束圧よりも非常に小さい拘束圧で発電要素を拘束した状態で電池を運転することができ、しかもイオン伝導度の低下やそれに起因する出力特性等の電池性能の低下も防止することが可能である。なお、上記運転方法における発電要素の拘束圧は、好ましくは3[MPa]以下であり、より好ましくは2[MPa]以下であり、さらに好ましくは1[MPa]以下であり、特に好ましくは0.5[MPa]以下であり、最も好ましくは0.2[MPa]以下である。一方、拘束圧の下限値について特に制限はないが、この拘束圧は、例えば、0.05[MPa]以上であり、好ましくは0.1[MPa]以上である。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(有機電解質の製造例)
購入したN−エチルピロリジン(Aldrich:9.74g、98.3mmol)をそのまま量りとり、アセトニトリル溶媒(200mL)に室温で溶解させた。ここへ、ヨードエタン(富士フイルム和光純薬株式会社製:17.0g、109mmol)をそのまま量りとり、N−エチルピロリジンが溶解しているアセトニトリル溶液中に加えた。混合後、室温で24時間混合撹拌した後、エーテルを用いて生成物の洗浄を行うことで、目的とするN,N−ジエチルピロリジニウムのヨウ化物(「P22I」とも称する)を得た。続いて、所定量(11.6g、51.1mmol)を量り取ったP22Iを蒸留水(25mL)に溶解させて、室温にて5分撹拌することで水溶液を調製した。同様にKFSI(三菱マテリアル電子化成株式会社製)(13.4g、61.3mmol)をそのまま量りとり、蒸留水(25mL)に加えて、室温にて30分撹拌することで水溶液を調製した。P22I水溶液を室温で撹拌したまま、KFSI水溶液をゆっくりと滴下した。全量滴下後、室温で24時間撹拌を行った。24時間後、水溶液中で沈殿している粘稠物をデカンテーションして固液分離を行った。次いで、得られた粘稠物について、ジクロロメタンと蒸留水との混合物(ジクロロメタン:水=10:1(体積比))を用いて洗浄を繰り返し3回行った。その後、ジクロロメタン相を分離して減圧下で一晩乾燥させ、無色透明な結晶性固体物として、目的とするイオン性柔粘性結晶であるP22FSI(11.0g、収率91%)を得た。なお、P22FSIを構成するジエチルピロリジニウムイオン(P22 )とフルオロスルホニルイオン(FSI)とのモル比は1:1であった。
上記で得られたP22FSIの所定量を秤量し、そこに溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)の適量を添加して撹拌することにより溶解させた。次いで、リチウム塩であるLiFSIの粉末を添加した。この際、LiFSIの添加量は、P22FSIを構成するカチオン(P22 )100モル%に対して5モル%となるようにした。その後、90℃にて真空乾燥することにより、上記イオン性柔粘性結晶と上記リチウム塩とからなるリチウムイオン伝導性固体電解質(有機電解質)の粉末を得た。なお、このようにして得られた有機電解質の25℃におけるバルクでのイオン伝導度は1.4×10−3[S/cm]であった。
(有機電解質の評価例)
続いて、上記で得られた有機電解質について、動的粘弾性測定装置(Anton Paar製(型番MCR302))を用いた正弦波振動法により、せん断歪み0.0001に固定した条件下で測定温度を変化させたときの貯蔵弾性率(G’)[GPa]および損失弾性率(G”)[GPa]の値を測定した。結果を下記の表1および図2(○印のグラフ)に示す。なお、表1における「相対値」の値は、実施例1の値を100%としたときのものである。
表1および図2(○印のグラフ)からわかるように、処理温度の上昇に伴って貯蔵弾性率(G’)の値は低下する傾向にあったのに対し、損失弾性率(G”)の値は測定温度が60〜70℃程度のときに最大となった。そして、G’/G”の値もまた、測定温度の上昇に伴って低下し、測定温度80〜90℃の領域で1未満の値となった。すなわち、本製造例において得られた固体電解質は、「損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質」を備えた有機電解質であることがわかる。
(実施例1〜実施例8)
上記で得られたリチウムイオン伝導性固体電解質(有機電解質)の粉末の所定量を秤量し、そこに溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)の適量を添加して撹拌することにより溶解させた。次いで、リチウム含有硫化物固体電解質であるLi11(25℃におけるバルクでのイオン伝導度:約3.2×10−3[S/cm])の粉末(平均粒子径(D50):8μm)を添加し、自転・公転ミキサー(大気圧タイプ)(あわとり練太郎AR−100、シンキー株式会社製)を用いて2000rpmの回転数で4分間撹拌することにより各成分を均一に分散させた。その後、80℃1時間の減圧処理によって溶媒を除去して、固体電解質の粉末を得た。なお、Li11の添加量は、Li11と上記有機電解質との質量割合が90:10(Li11:有機電解質)となる量とした。
続いて、上記で得られた固体電解質の粉末を300[MPa]の成形圧で圧粉成形することにより、固体電解質からなる成形体(直径7mmおよび厚み210μmの円板形状、緻密度85〜95%)を作製した。
その後、上記で作製された成形体を100[MPa]の拘束圧で拘束しながら1時間、異なる温度条件(25℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃および100℃)下に静置した。このようにして、実施例1〜実施例8に係るリチウムイオン伝導性固体電解質膜を作製した。
(実施例9および実施例10)
Li11の添加量を、Li11と上記有機電解質との質量割合が99:1(Li11:有機電解質)となる量としたこと以外は、上述した実施例6(処理温度:80℃)と同様の手法により、実施例9に係るリチウムイオン伝導性固体電解質膜を作製した。
また、Li11の添加量を、Li11と上記有機電解質との質量割合が95:5(Li11:有機電解質)となる量としたこと以外は、上述した実施例6(処理温度:80℃)と同様の手法により、実施例10に係るリチウムイオン伝導性固体電解質膜を作製した。
(比較例1〜比較例4)
有機電解質を混合することなくLi11のみを用いて固体電解質膜を作製したこと以外は、上述した実施例1(処理温度:25℃)、実施例4(処理温度:60℃)、実施例6(処理温度:80℃)および実施例8(処理温度:100℃)のそれぞれと同様の手法により、比較例1〜比較例4に係るリチウムイオン伝導性固体電解質膜を作製した。
(固体電解質膜の評価例)
続いて、上記で作製した各実施例および各比較例に係る固体電解質膜のいくつかについて、異なる拘束圧条件下におけるイオン伝導度を測定した。
具体的には、上述した実施例および比較例のいくつかにおいて作製された固体電解質膜のそれぞれをカーボン被覆アルミニウム製の板2枚で挟持して、2032型コインセルを作製した。このようにして作製されたコインセルを、25℃に設定された恒温槽中に静置し、印加電圧10mV、測定周波数0.1Hz〜1MHzで交流インピーダンススペクトルを測定した。得られたスペクトルの低周波数成分に現れる直線部分を外挿し、実抵抗軸の切片の値から固体電解質膜部分の抵抗値[Ω・cm]を取得した。そして、この抵抗値を固体電解質膜の厚み(210μm)で除したものの逆数をイオン伝導度[S/cm]として算出した。
以上のようにして各サンプルについて算出されたイオン伝導度の結果を下記の表2に示す。なお、表2に示すイオン伝導度の値は、比較例1のサンプルについて100[MPa]の拘束圧条件下で測定したイオン伝導度の値を100%としたときの相対値である。また、各サンプルについて1[MPa]の拘束圧条件下で測定したイオン伝導度の値を処理温度に対してプロットしたグラフを図2に示す。なお、図2に示すイオン伝導度(左側の縦軸)の値は相対値であり、■は各実施例において得られた固体電解質層サンプルにおけるイオン伝導度を示し、▲は各比較例において得られた固体電解質層サンプルにおけるイオン伝導度を示す。
表2および図2に示す結果から、各実施例における固体電解質膜は、各比較例のサンプルと比較して、拘束圧が4[MPa]以下と小さい値となった場合であっても、イオン伝導度が比較的高い値を示すことがわかる。このように、本発明によれば、リチウム含有硫化物固体電解質を含む固体電解質層を備えた全固体リチウムイオン二次電池において、運転時の拘束圧を小さくした場合に、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を抑制することが可能である。
10、50 双極型二次電池、
11 集電体、
11a 正極側の最外層集電体、
11b 負極側の最外層集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
23 双極型電極、
25 正極集電板(正極タブ)、
27 負極集電板(負極タブ)、
29、52 ラミネートフィルム、
58 正極タブ、
59 負極タブ。

Claims (15)

  1. リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、
    リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が負極集電体の表面に配置されてなる負極と、
    前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、
    を有する発電要素を備え、
    前記固体電解質が、リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質と、を含有する、全固体リチウムイオン二次電池。
  2. 前記リチウム含有硫化物固体電解質のイオン伝導度が、前記有機電解質のイオン伝導度よりも高い、請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  3. 前記リチウム含有硫化物固体電解質の25℃におけるバルクでのイオン伝導度が、1×10−3[S/cm]よりも高い、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  4. 前記リチウム含有硫化物固体電解質が、LiS−P、Li11、Li3.20.96S、LiS−SiS、LiS−B、LiS−GeS、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12、LiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)、Li11、またはLi(4−x)Ge(1−x)(xは、0<x<1を満たす)を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  5. 前記有機電解質が、イオン性柔粘性結晶を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  6. 前記イオン性柔粘性結晶が、ピロリジニウムイオンと、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンおよびビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)アニオンからなる群から選択されるアニオンと、を含む、請求項5に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  7. 前記イオン性柔粘性結晶が、N,N−ジメチルピロリジニウムイオン(P11)、N−エチル−N−メチルピロリジニウムイオン(P12)またはN,N−ジエチルピロリジニウムイオン(P22)と、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンと、を含む、請求項6に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  8. 前記有機電解質は、その貯蔵弾性率(G’)[GPa]の値が、25℃における値を100%としたときに、温度の上昇に伴って90%以下まで低下する性質を備えたものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
  9. リチウム塩と、リチウム含有硫化物固体電解質と、損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が温度の上昇に伴って1未満まで低下する性質を備えた有機電解質と、を含有する固体電解質材料を圧粉成形して、シート状である固体電解質層前駆体を作製することと、
    前記固体電解質層前駆体を加熱することと、
    を含む、全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法。
  10. 前記有機電解質が、イオン性柔粘性結晶を含む、請求項9に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法。
  11. 前記イオン性柔粘性結晶が、N,N−ジメチルピロリジニウムイオン(P11)、N−エチル−N−メチルピロリジニウムイオン(P12)またはN,N−ジエチルピロリジニウムイオン(P22)と、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンと、を含む、請求項10に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法。
  12. 前記有機電解質の損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が2.7以下となる条件で前記固体電解質層前駆体を加熱することを含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法。
  13. 前記有機電解質の損失弾性率(G”)[GPa]に対する貯蔵弾性率(G’)[GPa]の比の値(G’/G”)が1.4以下となる条件で前記固体電解質層前駆体を加熱することを含む、請求項12に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質層の製造方法。
  14. リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、
    リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層が負極集電体の表面に配置されてなる負極と、
    前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、
    を有する発電要素を備える全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
    請求項9〜13のいずれか1項に記載の製造方法によって前記固体電解質層を製造することを含む、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
  15. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池の運転方法であって、前記発電要素をその積層方向に4[MPa]以下の拘束圧で拘束しながら電池を運転することを含む、全固体リチウムイオン二次電池の運転方法。
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