JP2020174588A - 油脂分解物 - Google Patents

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Abstract

【課題】異味の付与が抑えられた、好ましい風味やコク味を有する飲食品を得ることができ、且つ、ベーカリー食品に適用した場合には、歯切れの悪さを生じさせずに、適度にソフトな食感と、老化耐性を有するベーカリー食品を得ることができる、油脂分解物を提供すること。【解決手段】含有されるモノグリセリドの量が0.1〜4質量%である、油脂分解物。含有されるモノオレインの量が1.0質量%以下であるであることが好ましい。酸価が10〜150であることも好ましい。脂肪酸組成中の、オレイン酸の含有量が60質量%以下であることも好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、飲食品の食感や食味、物性を改良することのできる、油脂分解物に関する。
油脂を加水分解した油脂分解物は、トリグリセリド、ジグリセリドやモノグリセリド等の部分グリセリド、脂肪酸等を含有するものである。
従来、油脂分解物を用いて、飲食品の食感や食味の改良、物性の改良を行うことが行われてきた。
油脂分解物を用いて飲食品の食感を改良する技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
特許文献1には、油脂の存在下で、グリアジンと酵母を接触させて、0〜15℃で熟成させるパン生地改良材の製造方法が提案されており、具体的には油脂のリパーゼ分解物とグリアジンと酵母と小麦粉とを撹拌したパン生地改良材をパン生地に含有することで、良好な食感と風味を有するパンが得られることが記載されている。
油脂分解物を用いて飲食品の食味を改良する技術としては、例えば特許文献2及び特許文献3が挙げられる。
特許文献2には、乳脂を多く含む乳原料を基質として、脂肪分解酵素を用いて、2段階で加水分解を施すことにより、好ましいバター風味を有するバターフレーバーを製造する方法が記載されている。
特許文献3には、脂肪酸分解酵素で分解する工程を経て得られる、ローストバター様の風味と色調を付与する油脂組成物が記載されている。
油脂分解物を用いて飲食品の物性を改良する技術としては、例えば特許文献4が挙げられる。
特許文献4には、油脂のリパーゼ処理物を含有する、炭素数14〜18の直鎖脂肪酸を含有する組成物からなるケービング抑制剤が記載されており、ケービングを起こしにくい食品を提供できることが記載されている。
特開2011−050378号公報 特開2009−261339号公報 特開2002−069481号公報 特開2010−057481号公報
特許文献1〜4に示すような、従来の油脂分解物を用いた飲食品の食感や食味、物性を改良する方法には、次のような課題があった。
すなわち、油脂分解物中の部分グリセリド等を低減する処理をすることなく、そのまま飲食品中に含有させているため、目的の効果が得られるまで油脂分解物を含有させると、油脂分解物が有するえぐみや刺激味といった異味がそのまま飲食品に付与されやすいという課題があった。そのため、好ましい風味を有する飲食品が得られにくかった。
また異味が生じない程度に従来の油脂分解物を添加すると、求める効果が得られにくかった。
したがって、異味を付与することなく、好ましい風味を付与することのできる油脂分解物が望まれていた。
加えて、油脂を分解した後に精製することなくそのまま飲食品中に含有させると、ベーカリー食品に適用した場合に、過度にソフトな食感となったり、歯切れの悪さが生じる場合があった。
したがって、歯切れの悪さを生じさせずに、適度にソフトな食感と、老化耐性を有するベーカリー食品を得ることができる油脂分解物が望まれていた。
本発明者らの鋭意検討により、従来提案されてきた油脂分解物を用いた飲食品の食感や食味、物性を改良する方法が、油脂分解物の基質となる油脂の種類や脂肪酸組成に着目したものであったところ、全く異なる観点である、油脂分解物中に含有されるモノグリセリドの量、及びモノグリセリドと脂肪酸の量比に着目し、従来に比してモノグリセリドを低減し、特定量とすることで上記課題を解決しうることが知見された。
本発明はこの知見に基づいてなされたものであり、モノグリセリドの含量が0.1〜4質量%である油脂分解物を提供するものである。
また本発明は、上記油脂分解物の製造方法であって、
油脂を基質としてリパーゼによる分解を行う際に、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼを用いる、油脂分解物の製造方法を提供するものである。
更に本発明は、以下の事項を提供するものである。
・上記油脂分解物を含有するベーカリー食品改良材、該ベーカリー食品改良材を用いてなるベーカリー食品、並びに該ベーカリー食品改良材をベーカリー生地に含有させるベーカリー食品の改良方法。
・上記油脂分解物を含有する含有する風味改良材、該風味改良材を用いてなる、飲食品並びに該風味改良材を含有させる、飲食品の風味改良方法。
本発明によれば主として、次の2つの効果が奏される。
(1)異味の付与が抑えられた、好ましい風味やコク味を有する飲食品を得ることができる。
(2)ベーカリー食品に適用した場合に、歯切れの悪さを生じさせずに、適度にソフトな食感と、老化耐性を有するベーカリー食品を得ることができる。
以下、本発明の油脂分解物について詳述する。
一般的に油脂分解物とは、任意の食用の油脂を基質として、任意の手法で加水分解(以下、単に「分解」という場合もある。)して得られる食用のものであり、分解に伴って生じた脂肪酸、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリドや、未分解のトリグリセリド等の油脂由来の成分、及び加水分解中に二次的に産生される、有機酸や炭化水素、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、含流化合物、ケトン類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、芳香族化合物、ラクトン類等の有機化合物の混合物を指す。本発明の油脂分解物は油脂のリパーゼ分解物であることが好ましい。「油脂のリパーゼ分解物」との記載は、油脂分解物の状態を示したものであり、製法を表したものではない。また油脂分解物のリパーゼ分解とそれ以外の方法の違いによる油脂分解物の組成又は物性の違いを特定するためには多種多様の油脂分解物及びその組成並びに数々の物性の測定を行わなければならず、迅速さを要する特許出願に実質的に不可能である。従って、仮に「油脂のリパーゼ分解物」との記載が製法的な要素を有していたとしても、当該記載には不可能・非実際的事情を有する。
まず、本発明の油脂分解物に含有されるモノグリセリドについて述べる。
本発明の油脂分解物は、モノグリセリドの含有量が0.1〜4質量%にあることを特徴の一つとする。
本発明の油脂分解物に含有されるモノグリセリドの量が0.1〜4質量%の範囲にあることで、油脂分解物が有するえぐみや刺激味といった異味が抑えられる他、ベーカリー食品に本発明の油脂分解物を適用した場合に、歯切れの悪さを生じさせずに、ソフトな食感やしっとりとした食感を有するベーカリー食品を得ることができる。
また、ベーカリー食品に用いた場合には、上記のような良好な食感の付与に加えて、経時的な老化現象の発生を抑制することもできる。
本発明においては、飲食品に対する異味付与を抑制しながら良好な風味やコク味を付与する観点や、ベーカリー食品の製造に用いた際に良好な食感を付与する観点から、油脂分解物に含有されるモノグリセリドの量が3.5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが特に好ましく、1.0質量%以下であることが最も好ましい。油脂分解物に含有されるモノグリセリドの量は、本発明の油脂分解物の製造容易性等の点から0.1質量%以上である。
油脂分解物中のモノグリセリドの含量(MG)は常法により測定されるが、例えば、イアトロスキャン MK−6s((株)LSIメディエンス)等を用いたTLC−FID法や、ガスクロマトグラフィ−質量分析法(GC−MS)や、液体クロマトグラフィ−質量分析法(LC−MS)等の手法を用いることにより測定することができる。
なお、例えばLC−MSで測定を行う場合の好ましい測定条件の例は次のとおりである。
<液体クロマトグラフィ部>
・カラム:オクタデシルシリルカラム(ODS)
・移動相
A:ギ酸アンモニウムを、水/メタノール/アセトニトリル=2:9:9(体積比)の比率で混合した液で1mMの濃度となるようにしたもの
B:ギ酸アンモニウムを、イソプロピルアルコールで1mMの濃度となるようにしたもの
尚、サンプル品通液時には、以下のスキームで通液した。
A100% 10min→B100% 12min→A100% 6min
・測定時間:10min
・ポンプ流速:0.3ml/min
・カラムオーブン温度:40℃
<質量分析部>
・イオン化モード:API−ESI
・極性:ネガティブ
・フラグメンター電圧:75V
・検出器ゲイン:1.0
本発明においては油脂分解物に含有されるモノグリセリドは一種又は二種以上である。油脂分解物に含有されるモノグリセリドが二種以上である場合、油脂分解物に含有される各種モノグリセリドのうちでも特にモノオレイングリセリド(以下、単に「モノオレイン」ともいう)の量(MO)が、油脂分解物中、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%以下であることで、油脂分解物が有するえぐみや刺激味といった異味が一層抑えられる他、一層良好な風味やコク味を飲食品に付与することができる。また、ベーカリー食品に本発明の油脂分解物を用いた場合にはくちゃつきを生じさせずに、いっそう好ましいソフトな食感や良好な歯切れを有するベーカリー食品を得ることができる。尚、油脂分解物中のモノオレイン量の下限は0質量%である。
上記のモノオレインは、モノグリセリドであって、モノグリセリドを構成する脂肪酸残基がオレイン酸残基であるものを指す。本発明においては、グリセリンの炭素骨格の1位の位置にオレイン酸がエステル結合した1−モノオレインであってもよく、グリセリンの炭素骨格の2位の位置にオレイン酸がエステル結合した2−モノオレインであってもよく、またこれらの混合物であってもよい。
尚、本発明の油脂分解物中に含有されるモノグリセリドに占める、モノオレインの割合は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下であることで、油脂分解物が有するえぐみや刺激味といった異味が好ましく抑えられる。また、ベーカリー食品に本発明の油脂分解物を用いた場合にはくちゃつきを生じさせずに、ソフトな食感や、老化耐性を有するベーカリー食品を好ましく得ることができる。尚、モノグリセリドに占める、モノオレインの割合の下限は0質量%である。
本発明においてモノグリセリド中、モノオレイン以外の成分としては、本発明で用いられるモノグリセリドとして、例えばモノラウリン酸グリセリド(モノラウリン)、モノミリスチン酸グリセリド(モノミリスチン)、モノパルミチン酸グリセリド(モノパルミチン)、モノステアリン酸グリセリド(モノステアリン)、モノリノール酸グリセリド(モノリノレイン)、モノリノレン酸グリセリド(モノリノレニン)、モノアラキドン酸グリセリド(モノアラキドン)、モノベヘン酸グリセリド(モノベヘン)や炭素数10以下の脂肪酸モノグリセリド等、食用油脂を加水分解することで得られる、主として炭素数24以下の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸で構成されたモノグリセリドを挙げることができる。上記で挙げた各種のモノグリセリドにはグリセリンの炭素骨格の1位の位置に該当する脂肪酸がエステル結合したものも、2位の位置に該当する脂肪酸がエステル結合したものも含まれる。モノグリセリド中のモノパルミチン酸グリセリドの割合は、基質として選択した油種や加水分解の方法によっても異なるが、0〜60質量%であることが好ましい。モノグリセリド中のモノステアリン酸グリセリドの割合は基質として選択した油種や加水分解の方法等によっても異なるが、0〜60質量%であることが好ましい。
本発明の油脂分解物中に含有されるモノグリセリド以外の成分の量は特に限定されず、例えば油脂分解物中のトリグリセリドの量が30〜90質量%であり、油脂分解物中のジグリセリドの含有量が0〜20質量%であり、油脂分解物中の脂肪酸の量が5〜70質量%であることが、飲食品に対する異味付与を抑制しながら良好な風味やコク味を付与する観点や、ベーカリー食品の製造に用いた際に良好な食感を付与する観点から好ましい。
次に、本発明の油脂分解物の酸価について述べる。
本発明においては、油脂分解物中に含有されるモノグリセリドの量が4質量%以下、好ましくはモノオレインの量が1.0質量%以下であれば任意の酸価をとりうるが、油脂分解物の酸価(AV, Acid Value)が10〜150であることが好ましい。
先に述べたように、油脂の加水分解により、油脂分解物中には、脂肪酸やグリセリン、ジグリセリドやモノグリセリドといったグリセリド類、二次産生物が含まれている。
ここで、過度に油脂の加水分解が進行すると、これらの成分が過剰に多く産生され、えぐ味が感じられるようになりやすく、得られる飲食品の風味を損ねてしまいやすい。このため、本発明では油脂分解物の酸価が150以下であることが好ましい。
また、本発明品の油脂分解物の酸価が10以上であることで、飲食品に対して良好な風味やコク味を好ましく付与することができるようになり、またベーカリー食品に適用した場合には、ソフトな食感やしっとりとした食感を有するベーカリー食品を好ましく得ることができるようになる。
本発明の油脂分解物の酸価は、本発明品の効果を十分に発現させる観点と異味発現を抑制する観点から、基質として選択する油種によっても異なるが、20〜120であることがより好ましく、30〜90であることが更に好ましい。
本発明の油脂分解物の酸価については、油脂を加水分解する過程で適宜サンプリングして酸価を測定し、上記範囲となった時点で加水分解反応を停止することや、吸着剤処理後、吸着剤を濾別する手法やクロマトグラフィ等の手法により低減することで、任意に調整される。勿論、これらの手法は組合せて行ってもよい。尚、酸価は、例えば「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.1-2013」を参考に、常法に則って測定することが出来る。
次に、本発明の油脂分解物の脂肪酸組成について述べる。本発明の油脂分解物中の成分を構成する脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸をはじめ、通常食用油脂を構成する各種の脂肪酸が含まれる。
特に限定されるものではないが、本発明の油脂分解物の脂肪酸組成中、炭素数18の不飽和脂肪酸であるオレイン酸の含有量が60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
油脂分解物の脂肪酸組成中、オレイン酸が60質量%超であると、ソフトな食感を有するベーカリー食品が得られにくい他、油脂分解物を含有する飲食品が渋味や苦味を有する、異味のあるものとなりやすい。本発明の油脂分解物の脂肪酸組成中のオレイン酸の含有量の下限としては、油脂分解物の製造容易性や原料の入手容易性等の点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
食品中に含まれるトランス脂肪酸への栄養学的な評価から、本発明の油脂分解物は実質的にトランス脂肪酸を含まないことが好ましい。
本発明において「実質的にトランス脂肪酸を含まない」とは、脂肪酸組成においてトランス脂肪酸含量が5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であることをいう。
また、本発明の油脂分解物の脂肪酸組成において、炭素数16〜18の飽和脂肪酸の量が10〜70質量%、特に20〜70質量%であることが、飲食品に対する異味付与を抑制する観点やベーカリー食品の食感や物性等の改良効果を得る観点から好ましい。
更に、飲食品に対する風味付与効果を一層高める点から、油脂分解物の脂肪酸組成におけるリノール酸やリノレン酸等の多価不飽和脂肪酸の量は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
本発明の油脂分解物における脂肪酸組成は、トリグリセリドやジグリセリド、モノグリセリドに結合する脂肪酸残基に加え、遊離脂肪酸も考慮するものとする。
油脂分解物の脂肪酸組成は、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3−2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3−2013」に則って、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。
本発明において、油脂分解物の脂肪酸組成中のオレイン酸含量を60質量%以下とする手法としては、特に限定されないが、好ましくは、後述の通り、脂肪酸組成中のオレイン酸含量が60質量%以下の油脂を基質として選択し、加水分解する手法をとる。
次に、本発明の油脂分解物の製造方法について述べる。
まず、本発明の油脂分解物の基質となる油脂について述べる。
本発明の油脂分解物を製造する際に、基質として選択される油脂としては、食用であれば特に限定されず、任意の食用の油脂を用いることが可能である。
例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、微細藻類油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、羊脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油、リン脂質等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上からなるもの、及び、これらを含んでなるものが、本発明における基質として挙げられる。
油脂分解物中に含有されるモノオレインの量を1.0質量%以下とする観点や、油脂分解物の脂肪酸組成中のオレイン酸含量を60質量%以下とする観点から、脂肪酸組成中、オレイン酸含量が60質量%以下である油脂を基質として選択することが好ましく、50質量%以下である油脂を基質として選択することがより好ましい。
脂肪酸組成中、オレイン酸含量が60質量%超である油脂としては、例えばハイオレイック種の、ヒマワリ油、サフラワー油、キャノーラ油、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。一方、脂肪酸組成中、オレイン酸含量が60質量%以下である油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、米油、牛脂、乳脂、豚脂、羊脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂の使用量は、上述した油脂分解物の脂肪酸組成におけるオレイン酸含量を満たすように調整されることが好ましい。
また上述した通り油脂分解物の脂肪酸組成における多価不飽和脂肪酸の量は20質量%以下であることが好ましいところ、コーン油、大豆油、綿実油、米油といった、脂肪酸組成において多価不飽和脂肪酸を15質量%以上、特に20質量%以上含む油脂の量は、上述した油脂分解物の脂肪酸組成における多価不飽和脂肪酸の量が20質量%以下となるように不使用とするか、或いは使用量を調整することが好ましい。
加水分解反応中に基質である食用油脂が酸化劣化することを防ぐために、予めトコフェロール等の酸化防止剤を基質に対して50〜1000ppm含有させることができる。
本発明の製造方法においては、含有されるモノグリセリドの量が0.1〜4質量%である油脂分解物、好ましくはモノグリセリドの含有量に加えて、含有されるモノオレインの量や脂肪酸組成中のオレイン酸の含有量、酸価が上記の範囲である油脂分解物が得られれば、任意の加水分解の手法をとることが出来るが、好ましくは下記工程(a)及び(b)を含むものである。
(a)油脂を加水分解し、油脂の加水分解物を得る工程。
(b)油脂の加水分解物を、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼを用いて、さらに加水分解する工程。
以下では(a)工程を経て得られるものを「トリグリセリド分解物」、(a)工程及び(b)工程を経て得られるものを「油脂分解物」と記載することとする。
尚、本発明におけるトリグリセリド分解物とは油脂を加水分解して得られるもののうち、含有されるモノグリセリドの量が4質量%超のものをさし、好ましくは、さらに酸価が5以上のものをさす。
以下、上記(a)工程及び(b)工程について述べる。
尚、これらの工程は、基質となる油脂に対して(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行うことができ、或いは、基質となる油脂に対して(a)工程と(b)工程を同時に行うこともできる。製造工程の簡略化等を図る観点から、上記(a)工程と上記(b)工程とを同時に行うことが好ましい。
先ず、基質となる油脂に対して(a)工程と(b)工程とを、同時に行う場合について述べる。
はじめに、上記(a)工程について述べる。
本発明における(a)工程は、油脂を加水分解し、油脂のトリグリセリド分解物を得る工程である。
油脂を加水分解する方法としては、トリグリセリド分解物が得られれば特に制限されず、常法により行うことができる。
油脂を加水分解する方法は、工業的には、高温高圧分解法や、リパーゼによる酵素分解法が主に行われている。
高温高圧分解法、酵素分解法、若しくはその他の方法の、いずれの方法で油脂を加水分解してもよいが、温和な条件で分解することができ、トランス脂肪酸を生成しない、酵素分解法を用いることが好ましい。
尚、市販されているトリグリセリド分解物をそのまま用いることも可能であるが、本発明の効果をいっそう好ましく得る観点から、下記条件を満たす方法で製造されたトリグリセリド分解物を選択して用いることが好ましい。
尚、本発明の好ましい態様において、「(a)工程と(b)工程とを同時に行う」とは、食用の油脂を基質として、トリグリセリドを分解するリパーゼと、後述のトリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼとを作用させ、トリグリセリドを分解するリパーゼの働きにより油脂中のトリグリセリドを加水分解しトリグリセリド分解物を得る段階と、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼの働きによりトリグリセリド分解物を更に加水分解する段階とを、同じバッチの中で連続的に進行させることを意味する。
ここで、(a)工程において、油脂を酵素分解法により加水分解し、トリグリセリド分解物を得る方法について述べる。(a)工程において、油脂を酵素分解する方法については、特に限定されず、常法により行うことができるが、好ましくは以下の手順で加水分解されたものが用いられる。
先ず、(a)工程の油脂の酵素分解に用いられるリパーゼについて述べる。
(a)工程に用いることのできるリパーゼとしては、トリグリセリドを分解するものであれば特に限定されず、動物由来のリパーゼ、微生物由来のリパーゼのいずれのものも特に制限なく使用することができる。
例えば、キャンディダ属由来、アスペルギルス属由来、ムコール属由来、クロモバクテリウム属由来、ペニシリウム属由来、リゾプス属由来、リゾムコール属由来、サーモマイス属由来、シュードモナス属由来、アルカリゲネス属由来、バークホルデリア属由来、ゲオトリクム属由来、トルロプシス属由来、パキルス属由来、ピキア属由来、アルスロバクター属由来、アクロモバクター属由来の微生物が生産するリパーゼや、畜産動物の膵臓から得られるリパーゼ、山羊、羊、子牛等の口頭分泌腺から得られるリパーゼ等が挙げられ、ランダム酵素、1,3−位置特異性酵素、鎖長特異性酵素のいずれのものも使用することができる。
以下、(a)工程で用いられる、トリグリセリドを分解するリパーゼのことを、単にTGリパーゼと記載する場合がある。
本発明に用いることの出来るTGリパーゼとしては、市販のいずれのリパーゼやリパーゼ製剤も使用することが可能であるが、例えばリパーゼA「アマノ」6、リパーゼAH「アマノ」SD、リパーゼAY「アマノ」30、リパーゼPS「アマノ」SD、リパーゼDF「アマノ」15、リパーゼM「アマノ」、リパーゼR「アマノ」(以上、天野エンザイム社製)、リリパーゼA−10D(以上、ナガセケムテックス社製)、グリンドアミルEXEL639(ダニスコ(Danisco)・ジャパン社製)、ダイエットレンツリパーゼCR、バリダーゼリパーゼMJ、ベイクザイムL80.000B、ピカンターゼA、ピカンターゼAN、ピカンターゼR800、ピカンターゼC3X、ピカンターゼK、ピカンターゼKL、パナモアゴールデン、パナモアスプリング(以上、ディー・エス・エム(DSM)ジャパン社製)、リポパン50BG、リポパンFBG(以上、ノボザイムス(Novozymes)ジャパン社製)エンチロンAKG(洛東化成工業社製)等が挙げられる。
(a)工程において、基質である油脂にリパーゼを作用させる方法としては、リパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させる方法や、固定化されたリパーゼ(固定化酵素)を用いる方法が挙げられるほか、リパーゼを産生する能力のあるカビ、酵母等の微生物そのものを用いることもできるが、油脂の加水分解を効率よく進行させる観点から、リパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させることが好ましい。
次に(b)工程について述べる。
(b)工程は、上記トリグリセリド分解物を、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼを用いて、さらに加水分解する工程である。
ここで、(b)工程で用いられる、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼ(以下、単にMG・DGリパーゼと記載する場合がある)について述べる。
本発明で使用されるMG・DGリパーゼは、グリセリンの三つの水酸基のいずれか一つが脂肪酸でエステル化されたいわゆるモノグリセリド、及び/又は、グリセリンの1位及び2位(または2位及び3位)、あるいは1位及び3位の位置の水酸基が脂肪酸でエステル化された、いわゆるジグリセリドを、選択的に加水分解する性質を有するリパーゼであり、グリセリンの1位、2位、3位の全てが脂肪酸でエステル化されたトリグリセリドに対する特異性を全く若しくはほとんど有しないリパーゼである。
尚、(a)工程で用いた、TGリパーゼは、トリグリセリドを優先して加水分解する性質を有しており、トリグリセリドの分解のみが優先的に進行するため、仮にモノグリセリドやジグリセリドを加水分解する性質を有しているリパーゼであっても、MG・DGリパーゼとして(b)工程には用いないことが好ましい。
本発明において「トリグリセリドを基質として実質的に認識しないリパーゼ」とは、トリオレインを基質として、トリオレイン100質量部に対して0.1質量部添加して至適温度で60分作用させた時に遊離するオレイン酸が0.05mM以下となるリパーゼを指すものとする。
本発明で用いられるMG・DGリパーゼとしては、特に限定されず、一例として、ブタ脂肪組織などの動物臓器由来のモノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼ、バチルス属、ペニシリウム属、シュードモナス属等の微生物が産生するMG・DGリパーゼを挙げることができる。
市販品としては、例えば「リパーゼG「アマノ」50」「リパーゼGS「アマノ」250G」(天野エンザイム社)等が挙げられる。
かかるMG・DGリパーゼを、基質である油脂に含有させる方法としては、リパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させる方法や、固定化されたリパーゼ(固定化酵素)を用いる方法が挙げられるほか、リパーゼを産生する能力のあるカビ、酵母等の微生物そのものを用いることもできるが、油脂の加水分解物中のモノグリセリド及び/又はジグリセリドの加水分解を効率よく進行させる観点から、リパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させることが好ましい。
ここまで述べた、TGリパーゼおよびMG・DGリパーゼを、基質である油脂に含有させる方法としては、上記の(a)工程または(b)工程と同様の手法をとることができるが、効率よく基質の加水分解を進行させる観点から、リパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させることが好ましい。
(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合に用いられるTGリパーゼとMG・DGリパーゼの量は、基質の量や、使用するリパーゼの力価や種類等によって異なり、それぞれの系において適宜設定される。
一例として、TGリパーゼとMG・DGリパーゼとが十分に加水分解しうる量の水分が基質と共に存在し、且つTGリパーゼとMG・DGリパーゼの至適温度で、バッチ式での基質の加水分解を行う場合において、設定する分解時間にも依るが、TGリパーゼとして「リパーゼAY「アマノ」30SD」(30000u/g以上)を選択し、MG・DGリパーゼとして「リパーゼG「アマノ」50」(50000u/g以上)を選択した場合、基質となる油脂100質量部に対して、TGリパーゼが0.001〜0.05質量部、MG・DGリパーゼが0.01〜1.2質量部であることが好ましい。
また、TGリパーゼとして「リパーゼAY「アマノ」30SD」(30000u/g以上)を選択し、MG・DGリパーゼとして「リパーゼGS「アマノ」250G」(250000u/g以上)を選択した場合、基質となる油脂100質量部に対して、TGリパーゼが0.001〜0.05質量部、MG・DGリパーゼが0.002〜0.24質量部であることが好ましい。
モノグリセリドの含量を十分に低減する観点から、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比が前者:後者で1:10〜90であることが好ましく、1:10〜80であることがより好ましく、1:10〜70であることが最も好ましい。
尚、後述のとおり、使用する油脂の性質等によって、加水分解する際の反応温度、即ち油脂温度が任意に設定されるが、反応温度が45℃以上である場合は、TGリパーゼ1質量部に対してMG・DGリパーゼが50質量部以上であることが、効率的な加水分解を行う観点から好ましい。
本発明において、TGリパーゼの酵素活性は、LMAP法によって測定され、ここでいうu数は、1分間に1μモルの脂肪酸の増加をもたらす酵素量を1単位[u]とする。
本発明において、MG・DGリパーゼの酵素活性は、LV乳化法によって測定され、ここでいうu数は、1分間に1μモルの脂肪酸の増加をもたらす酵素量を1単位[u]とする。LV乳化法とは、ラウリン酸ビニルの乳化液にリパーゼを作用(pH5.6、40℃にて30分間)させ、エタノール/アセトン混合溶媒で反応を停止し、水酸化ナトリウムで生成脂肪酸を中和後、残存する水酸化ナトリウムを塩酸で滴定することで、生成脂肪酸を定量してu数を求める。
(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合において、基質をリパーゼにより加水分解する際の反応温度、即ち油脂温度は、選択したTGリパーゼとMG・DGリパーゼの活性が共に最大効率化する温度に適宜設定され、基質となる油脂が流動性を有し、加水分解に必要な水が十分に分散することができる温度であれば特に制限されないが、35〜75℃であることが好ましい。
油脂温度を35℃以上とすることで、リパーゼの活性が十分となり、常温で固体の性状を示す油脂等、基質として選択される油脂に流動性を付与して、加水分解に必要な水が基質中に十分に分散しやすく、リパーゼにより分解することがより容易となる。また75℃以下とすることで、リパーゼを構成する蛋白質が変性を起こしたり、基質の油脂が熱劣化したりするおそれを抑制できる。
(a)工程と(b)工程とを同時に行うにあたり、本発明では、基質となる油脂中に一定量の水分を含有させることが好ましい。
本発明では加水分解の開始時において、好ましくは基質中に水分を500ppm以上、より好ましくは650ppm以上、最も好ましくは800ppm以上含有させる。尚、加水分解の進行につれて油脂に添加した水は漸減することを考慮し、加水分解する際に油脂に添加される水の量の上限については特に限定されない。
基質中の水分含有量が500ppm未満である場合、基質の分解反応と平衡の関係にあるエステル交換反応が、目的の油脂やモノグリセリド、ジグリセリドの分解反応よりも優位に進みやすい。
油脂中に水分を含有させる方法としては、予め水分調整された油脂を用いることもできるが、例えば、次の(イ)又は(ロ)の方法を好ましくとることができ、加水分解効率を高める観点から(ロ)の方法を選択することがより好ましい。尚、油脂に添加する水の量は、分解に要する時間や反応温度、使用する酵素の種類や量等によって適宜調整され、下記の範囲に限定されるものではない。
(イ)基質となる油脂にリパーゼを分散させた後、反応容器中の油脂100質量%に対して3〜30質量%の水を加え十分に静置し、油脂と水の二相分離を確認した後、油水界面から撹拌羽根を油脂側に浮かせ、油水界面を乱さないように油脂を撹拌し、上記の好ましい水分含有量とした後、そのまま加水分解反応を開始する方法。
(ロ)基質となる油脂にリパーゼを分散させた後、反応容器中の油脂100質量%に対して3〜30質量%の水を加えた後、均質化処理等を施し、油脂中に水を分散・乳化させた後、そのまま加水分解反応を開始する方法。
基質は、撹拌羽根等を用いて、沈殿物がなく、油脂中に水が分散し、油水が分離しない状態となるように撹拌することが好ましい。
(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合の、加水分解の終点については、本発明の効果が得られる任意の時点を終点として判断することができるが、下述する(1)油脂分解物中のモノグリセリド(MG)含量、(2)油脂分解物の酸価(AV)のいずれか一方、又は両方を基準として判断することにより、得られる油脂分解物をベーカリー食品改良材として用いる場合には、くちゃつきを生じさせずに、適度にソフトな食感や良好な歯切れを付与することのできるベーカリー食品改良材が得られるため好ましい。また油脂分解物を風味改良材として用いる場合には、異味異臭やえぐ味が十分に低減され、且つコク味の付与効果が高い風味改良材が得られるため好ましい。
(1)油脂分解物中のモノグリセリド(MG)含量を基準とする場合、油脂分解物中のモノグリセリドの含量が4質量%以下となった点を終点とすることが好ましく、3.5質量%以下となった点を終点とすることがより好ましく、2.5質量%以下となった点を終点とすることがさらに好ましく、2.0質量%以下となった点を終点とすることが特に好ましく、1.0質量%以下となった点を終点とすることが最も好ましい。尚、下限は0.1質量%である。
(2)油脂分解物の酸価(AV)を基準とする場合は、油脂分解物の酸価が10〜150に到達した時点で反応を終了することが好ましく、AV=20〜120に到達した時点で反応を終了することがより好ましく、AV=30〜90に到達した時点で反応を終了することがさらに好ましい。
酸価が10未満の場合、本発明の油脂分解物を風味改良材として用いた場合に、風味改良効果が乏しくなりやすい。また、本発明の油脂分解物をベーカリー食品改良材として用いた場合には、食感改良効果が乏しくなりやすく、ソフトな食感や良好な歯切れが得られにくい。
また酸価が150超の場合、本発明の油脂分解物中に含有される部分グリセリドの量や、油脂分解物の添加量によっては、本発明の油脂分解物を風味改良材として用いた場合に、風味改良材そのものの風味が酸味や金属味のようなえぐ味の強いものとなってしまい、含有させた飲食品に対して異味異臭を付与してしまうおそれがある。また、本発明の油脂分解物をベーカリー食品改良材として用いた場合には、くちゃつきや歯切れの悪化が生じやすい。
ここで、本発明の油脂分解物の製造方法においては、基質となる油脂に対して、上述の(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合は、終点を迎えた後に後述の脱水工程等の、グリセリドの分解以外の処理工程を行ってもよい。
本発明においては、(a)工程と(b)工程とを同時に行って、最終的に油脂分解物を得る前に、脱水処理もしくはリパーゼの失活・除去処理から選択される1つ以上の処理を行うことが好ましく、どちらも行うことがより好ましい。
どちらも行う場合においては、その順序は制限されないが、リパーゼの失活・除去処理を施したのち、脱水処理を施すことが加水分解の進行を抑制する観点から好ましい。
脱水処理やリパーゼの失活・除去処理を施すことで、得られた油脂分解物を、ベーカリー食品改良材や風味改良材等に用いる場合に、意図しない、更なる加水分解が進行することを好ましく抑制でき、変質が抑えられやすい。
先ず、リパーゼの失活・除去処理について述べる。
リパーゼを失活・除去させる条件については、リパーゼを構成する蛋白質が変性する条件であれば特に限定されず、加熱やpHを変化させる等の方法を採り得るが、好ましくは加熱による失活処理が選択され、例えば、脱水処理が施されていない油脂分解物を、撹拌しながら90℃で30分処理することにより、系中に加えたリパーゼを失活することができる。
次に、本発明における油脂分解物の脱水処理について述べる。脱水処理の方法については特に限定されないが、例えば、得られた油脂分解物のみを常法によって系中から取り出した後、0.01MPa以下まで減圧し80〜100℃で0.5〜1.0時間程度加熱することで、油脂分解物中の脱水処理を行うことができる。或いは無水硫酸ナトリウム等の食品に添加可能な脱水剤を用いてもよい。
次に、基質となる油脂に対して、上記(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合について述べる。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合においても、(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合と同様の条件で操作することができる。
先ず、(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(a)工程について述べる。
油脂を加水分解し、トリグリセリド分解物を得る方法は、(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合と同様に、高温高圧分解法、リパーゼによる酵素分解法、若しくはその他の方法の、いずれの方法で油脂を加水分解してもよいが、温和な条件で分解することができ、トランス脂肪酸を生成しない、リパーゼによる酵素分解法を用いることが好ましい。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(a)工程において、トリグリセリド分解物を得る際に用いることのできるTGリパーゼとしては、これらの工程を同時に行う場合と同様にトリグリセリドを分解するものであれば特に限定されず、動物由来のリパーゼ、微生物由来のリパーゼのいずれのものも特に制限なく使用することができる。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(a)工程に用いるTGリパーゼとしては、市販のいずれのTGリパーゼやTGリパーゼ製剤も使用することが可能であり、市販品としては上述のものが挙げられる。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合においても、上記のTGリパーゼを、単独で又は任意の組合せで使用することができる。
(a)工程において、基質である油脂にTGリパーゼを作用させる方法としては、いずれの手法をとっても構わないが油脂の加水分解を効率よく進行させる観点から、(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合と同様に、TGリパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させることが好ましい。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合の(a)工程における、トリグリセリド分解物を得る際の酵素反応のプロセスは、基質である油脂にTGリパーゼを直接投入するバッチ式とすることができ、カラムに固定化したTGリパーゼを充填し、基質である油脂を液体の状態で通液するカラム式とすることもできるが、油脂の加水分解を効率よく進行させる観点から、酵素分解法としてはバッチ式が好ましく選択される。
上記のTGリパーゼの量は、基質として加水分解に供する油脂の量や、TGリパーゼの力価や種類等によって異なり、それぞれの系において適宜設定されるが、一例として、TGリパーゼが十分に加水分解しうる量の水分が基質と共に存在し、且つTGリパーゼの至適温度で、バッチ式での基質の加水分解を行う場合において、設定する分解時間にも依るが、通常、基質となる油脂の重量を基準とし、TGリパーゼとして「リパーゼAY「アマノ」30SD」(30000u/g以上)を選択した場合、基質となる油脂100質量部に対して、TGリパーゼが0.001〜0.05質量部であることが好ましい。
(a)工程において、油脂をTGリパーゼにより加水分解する際の反応温度、即ち油脂温度は、選択したTGリパーゼの活性が最大化する至適温度に応じて適宜設定され、基質となる油脂が流動性を有し、加水分解に必要な水が十分に分散することができる温度であれば特に制限されないが、35〜75℃であることが好ましい。
油脂温度を35℃以上とすることで、リパーゼの活性が十分となり、常温で固体の性状を示す油脂等、基質として選択される油脂に流動性を付与して、加水分解に必要な水が基質中に十分に分散しやすく、リパーゼにより分解することがより容易となる。また75℃以下とすることで、リパーゼを構成する蛋白質が変性を起こしたり、基質の油脂が熱劣化したりするおそれを抑制できる。
(a)工程において、トリグリセリド分解物を得るための加水分解反応の終点は、酸価(AV)により決定することができ、異味を付与しない観点や、ベーカリー食品改良材として使用した場合に、くちゃつきなく、ソフトな食感や良好な歯切れを得る観点から、AV=5〜110に到達した時点で反応を終了することが好ましく、AV=10〜100に到達した時点で反応を終了することがより好ましく、AV=15〜80に到達した時点で反応を修了することが最も好ましい。
(a)工程を進めるにあたり、本発明では、効率よくトリグリセリドを分解させるとともに、油脂の分解反応と平衡の関係にある油脂のエステル交換反応の進行を抑制するために、基質となる油脂中に一定量の水分を含有させる。
本発明では加水分解の開始時において、好ましくは基質中に水分を500ppm以上、より好ましくは650ppm以上、最も好ましくは800ppm以上含有させる。尚、加水 分解の進行につれて油脂に添加した水は漸減することを考慮し、加水分解する際に油脂に添加される水の量の上限については特に限定されない。
油脂中に水分を含有させる方法としては、予め水分調整された食用の油脂を用いることもできるが、(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合における、上述の(イ)又は(ロ)の方法を好ましくとることができ、油水界面面積を増大させ、加水分解効率を高める観点から(ロ)の方法を選択することがより好ましい。尚、リパーゼを含有させるのは油脂中に水を含有させた後であっても勿論構わない。
基質は、撹拌羽根等を用いて、沈殿物がなく、油脂中に水が分散し、油水が分離しない状態となるように撹拌することが好ましい。
次に、(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(b)工程について述べる。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(b)工程において、用いることのできるMG・DGリパーゼとしては、これらの工程を同時に行う場合と同様に、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するものであれば特に限定されることなく使用することができる。
(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合における(b)工程において、用いることのできるMG・DGリパーゼは市販のいずれのMG・DGリパーゼやMG・DGリパーゼ製剤も使用することが可能であり、市販品としては上述のものが挙げられる。
かかるMG・DGリパーゼを、(b)工程において、(a)工程を経て得られたトリグリセリド分解物に作用させる方法としては、いずれの手法をとっても構わないが、モノグリセリドやジグリセリドの加水分解を効率よく進行させる観点から、(a)工程と(b)工程とを同時に行う場合と同様に、MG・DGリパーゼそのものを粉体又は水溶液の形で含有させることが好ましい。
かかるMG・DGリパーゼを、(b)工程において、(a)工程を経て得られたトリグリセリド分解物に作用させる際の酵素反応のプロセスは、基質であるトリグリセリド分解物にMG・DGリパーゼを直接投入するバッチ式とすることができ、円筒状の容器(カラム)に固定化したMG・DGリパーゼを充填し、基質であるトリグリセリド分解物を液体の状態で通液するカラム式とすることもできるが、トリグリセリド分解物中のモノグリセリド及び/又はジグリセリドの加水分解を効率よく進行させる観点から、バッチ式が好ましく選択される。
上記のMG・DGリパーゼの量は、基質の量や、使用するMG・DGリパーゼの力価や種類等によって異なり、それぞれの系において適宜設定されるが、一例として、MG・DGリパーゼとが十分に加水分解しうる量の水分が基質と共に存在し、且つMG・DGリパーゼの至適温度で、バッチ式での基質の加水分解を行う場合において、設定する分解時間にも依るが、基質となるトリグリセリド分解物の重量を基準とし、MG・DGリパーゼとして「リパーゼG「アマノ」50」(50000u/g以上)を選択した場合、基質となるトリグリセリド分解物100質量部に対して、MG・DGリパーゼが0.01〜1.2質量部であることが好ましい。
また、MG・DGリパーゼとして「リパーゼGS「アマノ」250G」(250000u/g以上)を選択した場合、基質となるトリグリセリド分解物100質量部に対して、MG・DGリパーゼが0.002〜0.24質量部であることが好ましい。
(b)工程において、トリグリセリド分解物をMG・DGリパーゼにより加水分解する際の反応温度、即ち油脂温度は、選択したMG・DGリパーゼの活性が最大化する至適温度に応じて適宜設定され、基質となるトリグリセリド分解物が流動性を有し、加水分解に必要な水が十分に分散することができる温度であれば特に制限されないが、35〜75℃であることが好ましい。
油脂温度が35℃未満では、MG・DGリパーゼの活性が十分にあがらないおそれがある上、基質として選択した油脂によっては、トリグリセリド分解物が流動性を有さず、加水分解に必要な水が基質中に十分に分散しないおそれがあり、MG・DGリパーゼにより分解することが困難となる場合がある。また75℃超では、MG・DGリパーゼを構成する蛋白質が変性を起こすおそれがある上、基質となるトリグリセリド分解物が熱劣化するおそれがある他、揮発しやすい成分が逸失するおそれがある。
基質であるトリグリセリド分解物中の、モノグリセリド及び/又はジグリセリドをMG・DGリパーゼで加水分解するにあたり、本発明では、基質となるトリグリセリド分解物中に一定量の水分を含有させることが好ましい。
本発明では加水分解の開始時において、好ましくは基質となるトリグリセリド分解物中に水分を500ppm以上、より好ましくは650ppm以上、最も好ましくは800ppm以上含有させる。尚、加水分解の進行につれて油脂に添加した水は漸減することを考慮し、加水分解する際に油脂に添加される水の量の上限については特に限定されない。
トリグリセリド分解物中に水分を含有させる方法としては、(a)工程と同様、上記の(イ)又は(ロ)の方法を好ましくとることができ、加水分解効率を高める観点から(ロ)の方法を選択することがより好ましい。
尚、MG・DGリパーゼを含有させるのは、トリグリセリド分解物中に上記範囲となるように水を含有させた後であっても構わない。
また上記(a)工程を経た後のトリグリセリド分解物の水分含有量が、上記の範囲である場合は、(a)工程終了後のトリグリセリド分解物をそのまま(b)工程に供してもよい。
基質は、撹拌羽根等を用いて、沈殿物がなく、トリグリセリド分解物中に水が分散し、水が分離しない状態となるように撹拌することが好ましい。
(b)工程の終点については、本発明の効果が得られる任意の時点を終点として判断することができるが、下述する(1)油脂分解物中のモノグリセリド(MG)含量、(2)油脂分解物の酸価(AV)のいずれか一方、又は両方を基準として判断することが好ましく、両方を基準とすることがより好ましい。
(1)油脂分解物中のモノグリセリド(MG)含量を基準とする場合、(b)工程を経た後の油脂分解物中のモノグリセリドの含量が4質量%以下となった点を終点とすることが好ましく、3.5質量%以下となった点を終点とすることがより好ましく、2.5質量%以下となった点を終点とすることがさらに好ましく、2.0質量%以下となった点を終点とすることが特に好ましく、1.0質量%以下となった点を終点とすることが最も好ましい。尚、下限は0.1質量%である。
また、(2)油脂分解物の酸価(AV)を基準とする場合は、油脂分解物の酸価が10〜150に到達した時点で反応を終了することが好ましく、AV=20〜120に到達した時点で反応を終了することがより好ましく、AV=30〜90に到達した時点で反応を終了することがさらに好ましい。
ここで、本発明の油脂分解物の製造方法において、基質となる油脂に対して上記の(a)工程と(b)工程とを、この順でそれぞれ独立して行う場合は、(a)工程と(b)工程との間に、例えば、以下に示す脱水処理やTGリパーゼの失活・除去処理等のグリセリドの分解以外の処理工程を経てもよく、(a)工程と(b)工程とを経た後にグリセリドの分解以外の処理工程を行ってもよい。
本発明においては、(a)工程と(b)工程を経て、最終的に油脂分解物を得る前に、脱水処理もしくはリパーゼの失活・除去処理から選択される1つ以上の処理を行うことが好ましく、どちらも行うことがより好ましい。
どちらも行う場合においては、その順序は制限されないが、リパーゼの失活・除去処理を施したのち、脱水処理を施すことが加水分解の進行を抑制する観点から好ましい。
尚、脱水処理、及びリパーゼの失活・除去処理の手法については、(a)工程と(b)工程を同時に行う場合と同様に行うことができる。
次に、上記の油脂分解物を含有するベーカリー食品改良材、及び風味改良材について述べる。
先ず、本発明のベーカリー食品改良材について述べる。
本発明のベーカリー食品改良材は上記のモノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物、好ましくは上記工程を経て得られた油脂分解物を有効成分として含有するものである。本発明のベーカリー食品改良材は、これをベーカリー生地中に添加することにより、次の効果(i)及び(ii)を奏しうる。
(i)ソフトな食感やしっとりとした食感をベーカリー食品に付与することができる。
(ii)生地の物性を悪化させることなく、また、風味を悪化させることなく(i)の効果を得ることができる。
本発明においては、モノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物、好ましくは上記工程を経て得られた油脂分解物を、そのまま本発明のベーカリー食品改良材とすることもできるが、必要に応じて、水、乳化剤、酸化防止剤、糖類及び糖アルコール、増粘剤、澱粉、小麦粉、無機塩及び有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、着香料、調味料、着色料、保存料、pH調整剤等のその他食品素材と混合して、本発明のベーカリー食品改良材とすることもできる。
乳化剤としてモノグリセリドを含有させることも可能ではあるが、本発明のベーカリー食品改良材の効果が得られにくくなってしまうため、含有させないことが好ましい。
本発明のベーカリー食品改良材が、上記の油脂分解物に加えて、その他食品素材を含有する際は、油脂を加水分解した後に、任意に選択された上記のその他食品素材を加えて混合することが好ましい。
本発明のベーカリー食品改良材において、その他食品素材の含有量は、本発明品のベーカリー食品改良効果を損ねない範囲である限り、特に限定されるものではない。
尚、本発明のベーカリー食品改良材は、モノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物を、原料の一つとして用いた油脂組成物の形態をとることもでき、油脂組成物の形態でベーカリー生地中に含有させてもよい。
上記の油脂組成物としては、ショートニングや粉末油脂のような水分を殆ど含まない油脂組成物や、マーガリン、ファットスプレッド、バター等の油中水型乳化物のように連続相が油相の油脂組成物であってもよく、純生クリームやコンパウンドクリーム、植物性ホイップクリーム等の水中油型乳化物のように連続相が水相の油脂組成物であってもよい。
本発明のベーカリー食品改良材が油脂組成物の形態をとる場合、油脂組成物の原料である食用油脂100質量部に対して、上記のモノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物を1〜30質量部となるように含有させることが好ましい。
尚、該油脂組成物が可塑性を有する場合には、ロールイン用途に用いても練り込み用途に用いてもよいが、生地中に均一に分散することで一層ベーカリー食品改良材としての効果を得ることができるため、練り込み用途に用いることが好ましい。
次に、本発明のベーカリー食品改良材を用いてなるベーカリー食品について述べる。
本発明のベーカリー食品は、ベーカリー生地を調製する際に、上記のベーカリー食品改良材を含有させたものであることを特徴とする。
ここで、本発明のベーカリー食品を得るための、ベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー食品を得るためのベーカリー生地中の上記ベーカリー食品改良材の含量は、ベーカリー生地中の穀粉類100質量部に対して、油脂分解物が0.1〜8質量部となるように含有されることが好ましく、0.1〜5質量部となるように含有されることがより好ましく、0.2〜4質量部となるようにベーカリー食品改良材が含有されることが更に好ましく、0.2〜3質量部となるように含有されることが特に好ましく、0.2〜2.8質量部となるように含有されることが最も好ましい。
また、ベーカリー食品改良材中の油脂分解物を、ベーカリー生地全体のモノグリセリド量が、その他の原材料由来のモノグリセリドも含めて、0.0001〜0.5質量%となるように含有させることが好ましく、0.0002〜0.3質量%となるように油脂分解物を含有させることがより好ましい。
ベーカリー生地中の穀粉類100質量部に対して、ベーカリー食品改良材中の油脂分解物が0.1質量部以上となるように含有させることで、本発明のベーカリー食品改良効果が十分に得られやすい。また、ベーカリー生地中の穀粉類100質量部に対して、製パン改良材中の油脂分解物が8質量部以下となるように含有させることで、油脂分解物由来の異味がベーカリー食品に付与されてしまうことを抑制しやすい。
また、本発明のベーカリー食品改良材の他、下述のその他原料も考慮したベーカリー生地全体のモノグリセリド量が上記範囲となるようにベーカリー生地を調製することで、歯切れの悪さがベーカリー食品に付与されるのを抑制しやすい。
尚、上記の穀粉類とは、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、ライ麦粉、大麦粉、ひえ粉、トウモロコシ粉、米粉、豆粉等を指す。
また、本発明のベーカリー食品を得るためのベーカリー生地の種類は特に問われず、食パン生地や菓子パン生地、バターロール生地、バラエティーブレッド生地、フランスパン生地、デニッシュ生地、ペストリー生地等のパン生地類や、パイ生地、シュー生地、ドーナツ生地、ケーキ生地、クッキー生地、ハードビスケット生地、ワッフル生地、スコーン生地等の菓子生地類の、ベーカリー生地を挙げることが出来るが、好ましくはパン生地類に含有させることで、本発明のベーカリー食品改良効果をより顕著に得られる。従って、本発明のベーカリー食品改良材は、製パン改良材としてパン生地に適用することが好ましい。
ベーカリー生地中に、本発明のベーカリー食品改良材を、上記範囲となるように含有させる際、調製中の生地に直接添加して含有させる方法や、ベーカリー生地の原料と事前に混合してから生地を調製し含有させる方法、などが挙げられる。
ベーカリー食品改良材を穀粉類以外の副原料と事前に混合する際、ベーカリー生地の原料の一として油脂組成物を含有する場合には、油脂組成物と混合してから、ベーカリー生地中に含有させることが、ベーカリー生地中にベーカリー食品改良材を均一に分散させる観点から好ましい。
本発明のベーカリー生地には、必要に応じ、一般の製菓・製パン材料として使用することのできるその他原料を使用することができる。該その他原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類、卵類、ゲル化剤や増粘安定剤、甘味料、着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等のチーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、植物蛋白、アスコルビン酸等の酸化剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、植物及び動物エキス、酵母エキス、食品添加物等を挙げることができる。
なお、本発明のベーカリー食品を得るためのベーカリー生地を製造する際、例えばパン生地類の場合、速成法、ストレート法、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法、冷凍生地法等の製パン法を適宜選択して製造することができる。上記冷凍生地法は、混涅直後に冷凍する板生地冷凍法、分割丸め後に生地を冷凍する玉生地冷凍法、成型後に生地を冷凍する成型冷凍法、最終発酵(ホイロ)後に生地を冷凍するホイロ済み冷凍法等の種々の方法が採用でき、通常のパン生地を調製する際と同様に、フロアタイム、分割、ベンチタイム、成形、ホイロをとることが出来る。
本発明のベーカリー食品は、上記のように調製されたベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。この加熱処理とは、焼成することに加えて、フライしたり、蒸したり、電子レンジ等によりマイクロ波処理することを指す。
上記の、本発明のベーカリー食品改良材により、ソフトな食感や良好な歯切れが経時的に維持されたベーカリー食品を、生地物性を悪化させることなく得ることができる。
尚、本発明のベーカリー食品は、冷蔵・冷凍保存したり、該保存後にオーブントースターや電子レンジで加熱したりすることも可能である。
次に、本発明の風味改良材について述べる。
本発明の風味改良材は上記のモノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物、好ましくは上記工程を経て得られた油脂分解物を有効成分として含有するものである。これにより、本発明の風味改良材は次の効果(i)及び(ii)を奏しうる。
(i)飲食品に添加した際の、異味の付与が抑制されている。
(ii)好ましい風味やコク味を飲食品に付与することができる。
本発明の風味改良材においては、上記のモノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物、好ましくは上記工程を経て得られた油脂分解物を、そのまま、本発明の風味改良材とすることもできるが、必要に応じて、水、食用の動植物油脂、乳化剤、酸化防止剤、糖類及び糖アルコール、増粘剤、澱粉、小麦粉、無機塩及び有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、着香料、調味料、着色料、保存料、pH調整剤等のその他食品素材と混合して、本発明の風味改良材とすることもできる。
本発明の風味改良材において、その他食品素材の含有量は、油脂分解物のコク味付与効果及び風味改良効果を損ねない範囲である限り、特に限定されるものではない。
上記のようにして得られた本発明の風味改良材は、従来の油脂分解物を含む風味改良材を含有させた際に感じられた、飲食品へ配合した際の異味異臭の発生が抑えられ、且つ、コク味付与効果や風味改良効果が良好である。
尚、本発明の風味改良材は、モノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物を、原料の一つとして用いた油脂組成物の形態をとることもでき、油脂組成物の形態で飲食品中に含有させてもよい。
上記の油脂組成物としては、ショートニングや粉末油脂のような水分を殆ど含まない油脂組成物や、マーガリン、ファットスプレッド、バター等の油中水型乳化物のように連続相が油相の油脂組成物であってもよく、純生クリームやコンパウンドクリーム、植物性ホイップクリーム等の水中油型乳化物のように連続相が水相の油脂組成物であってもよい。
本発明の風味改良材が油脂組成物の形態をとる場合、油脂組成物の原料である食用油脂100質量部に対して、上記のモノグリセリド含量が0.1〜4質量%の油脂分解物を1〜30質量部となるように含有させることが好ましい。
本発明の風味改良材は、コク味を向上したり風味を良好なものとしたりする目的から、一般の食用油脂の一部又は全部を置き換えて、食品に含有させることができる。すなわち、油脂を使用する飲食品の製造時に、使用油脂の一部又は全部を、本発明で得られた風味改良材に置き換えて使用することができる。
油脂を含有する食品の場合、本発明の風味改良材を飲食品に直接使用してもよく、上記の油脂組成物の形態をとる風味改良材を使用してもよい。
油脂分解物自体の風味の強さや、目指す飲食品の風味強度や飲食品の種類によって適宜調整されるが、本発明の風味改良材を、油脂を含有する食品中の油脂100質量部に対して、上記の油脂分解物が好ましくは0.01〜25質量部、より好ましくは0.05〜15質量部となるように使用することが好ましい。ここでいう油脂は、食品が油脂を含む食材を含有する場合は、当該食材中の油脂も含まれる。
上記風味改良材を含有する飲食品としては、油脂を使用する飲食品であればとくに制限なく使用することができ、例えば、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、ふりかけ等の調味料、コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハンバーグ、ミートボール、肉団子、ミートローフ、ミートパテ、チキンナゲット、ミートコロッケ、メンチカツ、つくね、ハム、ソーセージ、ウインナー等の畜産加工品、佃煮、珍味等の水産加工品、ポテトチップス、コーンスナック、煎餅等のスナック類、ドーナツやフライ食品、食パン、菓子パン、デニッシュ・ペストリー、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、米菓、蒸しパン、蒸しケーキ、パイ、どら焼、今川焼き、ホットケーキ、クレープ、バターケーキ、スポンジケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー、乾パン、プレッツエル、カットパン、ウェハース、サブレ、マカロン、シュー、ワッフル、スコーン、発酵菓子、ピザ生地、中華饅頭等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、辛子蓮根、焼き物、カレー、シチュー、グラタン等の調理食品、パスタ、うどん、ラーメン等の麺類食品、フラワーペースト、餡等の製菓製パン用素材、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、ガム等の菓子類、饅頭、カステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、スポーツドリンク等の飲料、ミルクレモンチェッロ、カルーアミルク等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳や乳製品等が挙げられる。上記風味改良材において、本発明の油脂分解物はそのまま他の成分と混合された状態で含有されていてもよく、他の成分と混合されて加熱された状態で含有されていてもよい。
次に本発明の、飲食品の風味改良方法について述べる。
本発明の飲食品の風味改良方法は、上記のようにして得られた風味改良材を、油脂を含有する飲食品に使用することを特徴とするものである。
本発明の飲食品の風味改良方法が適用される飲食品の種類や、飲食品に対する風味改良材の使用方法、飲食品に対する風味改良材の使用量については上述のとおりである。
以下、実施例を基に、更に本発明を詳述するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。下記において検討に使用したTGリパーゼ、およびMG・DGリパーゼは表1記載のとおりである。
Figure 2020174588
以下の実施例および比較例で用いた基質のうち、エステル交換油脂については次のとおり製造されたものを用いた。
(製造例1)
パーム油とパーム極度硬化油とをそれぞれ加熱溶解した状態で65:35の質量比で混合したものを、常法に従い、ナトリウムメトキシドを用いて、ランダムエステル交換を行った後、常法に従い、精製を行って、エステル交換油脂を得た。
<検討1>
基質とする油種を固定し、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比や、油脂の加水分解の終点を変えて油脂分解物を作成し、そのベーカリー食品改良材としての特性をロールパン(バターロール成型)により観察した。
(実施例1)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.007質量部、MG・DGリパーゼを対油0.40質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:57である。
ここに水を対油30質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が64.8となった点で分解を止め、液温が80℃となるまで加熱し、80℃で1時間加熱して失活処理を行った。失活処理を行ったのち、濾別により油相のみを得て、油相に無水硫酸ナトリウムを添加し脱水処理を行った。脱水処理後、濾別により添加した無水硫酸ナトリウムを除いて、油脂分解物(E1)を得た。
油脂分解物(E1)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.20質量%、モノオレインの総量は0.09質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は45.0%であった。
(実施例2)
酸価が77.7となった時点で分解を止めた他は、実施例1と同様に油脂の加水分解を行い、油脂分解物(E2)を得た。
油脂分解物(E2)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.83質量%、モノオレインの総量は0.39質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は46.67%であった。
(実施例3)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0055質量部、MG・DGリパーゼを対油0.33質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:60である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が44.2となった点で分解を止めた。その後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E3)を得た。
油脂分解物(E3)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.48質量%、モノオレインの総量は0.12質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は24.50%であった。
(実施例4)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0077質量部、MG・DGリパーゼを対油0.462質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:60である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が64.1となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E4)を得た。
油脂分解物(E4)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.72質量%、モノオレインの総量は0.21質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は29.76%であった。
(実施例5)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0088質量部、MG・DGリパーゼを対油0.53質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:60である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が80.7となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E5)を得た。
油脂分解物(E5)中に含有されるモノグリセリドの総量は1.49質量%、モノオレインの総量は0.48質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は32.46%であった。
(実施例6)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0075質量部、MG・DGリパーゼを対油0.225質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:30である。
ここに水を対油5質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が64.8となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E6)を得た。
油脂分解物(E6)中に含有されるモノグリセリドの総量は2.44質量%、モノオレインの総量は0.85質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は34.8%であった。
(実施例7)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.03質量部、MG・DGリパーゼを対油0.6質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:20である。
ここに水を対油5質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が29.1となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E7)を得た。
油脂分解物(E7)中に含有されるモノグリセリドの総量は1.27質量%、モノオレインの総量は0.66質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は52.0%であった。
(比較例1)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0075質量部、MG・DGリパーゼを対油0.113質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:15である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が106.6となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(CE1)を得た。
油脂分解物(CE1)中に含有されるモノグリセリドの総量は4.88質量%、モノオレインの総量は1.58質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は32.4%であった。
(比較例2)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。 調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.1質量部、MG・DGリパーゼを対油0.1質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:1である。
ここに水を対油3質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が64.0となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(CE2)を得た。
油脂分解物(CE2)中に含有されるモノグリセリドの総量は6.56質量%、モノオレインの総量は2.09質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は31.9%であった。
(比較例3)
製造例1のエステル交換油脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に50℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.1質量部、MG・DGリパーゼを対油0.1質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:1である。
ここに水を対油4質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が50℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が79.2となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(CE3)を得た。
油脂分解物(CE3)中に含有されるモノグリセリドの総量は8.28質量%、モノオレインの総量は2.38質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は28.7%であった。
以下、油脂分解物(E1)を単にE1と記載する場合があり、油脂分解物(CE1)を単にCE1と記載する場合がある。油脂分解物(E2)〜(E7)、油脂分解物(CE2)〜(CE3)についても同様である。
実施例1〜7、及び比較例1〜3で得られた、E1〜E7およびCE1〜CE3の詳細については、表2にまとめて記載した。
尚、E1〜E7およびCE1〜CE3の全てにおいて、脂肪酸組成におけるトランス脂肪酸含量は3質量%以下であった。また、E1〜E7およびCE1〜CE3の全てにおいて、脂肪酸組成において、炭素数16〜18の飽和脂肪酸の量は60〜67質量%であり、オレイン酸の量は20〜30質量%であり、多価不飽和脂肪酸の量は15質量%以下であった。また油脂分解物E1〜E7中、トリグリセリドの量は30〜90質量%であり、ジグリセリドの含有量が0〜20質量%であり、脂肪酸の量が5〜70質量%であった。
Figure 2020174588
得られたE1〜E7、CE1〜CE3を用いて、表3に示した配合で実施例のロールパンE1〜E7、比較例のロールパンCE1〜CE3を製造し、その食感と風味について評価を行った。
Figure 2020174588
<ロールパン(バターロール成型)の製法>
上記の中種生地配合の全原料を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で2分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地は、28℃、相対湿度80%にて120分の中種発酵を取った。
上記中種生地並びに本捏生地配合の強力粉、砂糖、食塩、脱脂粉乳、全卵及び水を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングした後、本捏生地配合のマーガリンに予め、実施例1〜7、比較例1〜3で得られた油脂分解物であるE1〜E7、CE1〜CE3を混合したものを含有させ、更に低速で3分、中速で4分ミキシングし、本捏生地(捏ね上げ温度28℃)を得た。尚、使用したマーガリンは、バターコンパウンド率10%であった。
得られた本捏生地は、30分フロアタイムをとり、分割(45g)、丸めし、30分ベンチタイムを取った後、バターロール成型した。これを天板に乗せ、38℃、相対湿度80%、50分のホイロを取った後、190℃のオーブンで13分焼成して、実施例のロールパンE1〜E7、比較例のロールパンCE1〜CE3を得た。
尚、本捏生地配合中に油脂分解物を含有させずに同様の製法でロールパンを製造したものを、コントロールとした。
<評価方法>
得られた実施例のロールパンE1〜E7、比較例のロールパンCE1〜CE3を密閉できる袋に入れ、室温下で2日間保管したものについて、下記評価基準に則って、10名の専門パネラーにより、食感について官能評価を行った。その結果を◎+:41〜50点、◎:31〜40点、○:21〜30点、△:11〜20点、×:10点以下として、表4に示した。評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
尚、全ての項目について○以上の評価を得たものを合格品として評価した。
▼異味雑味の程度
5点:コントロールと比較して同等であり、異味、雑味がなく非常に良好である。
3点:コントロールと比較して異味、雑味がほとんどなく、良好である。
1点:コントロールと比較して異味、雑味が感じられる。
0点:コントロールと比較して異味、雑味が強く、不良である。
▼食感(ソフト性)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較して同等。
0:コントロールと比較してソフトでない、若しくは過度にソフトである。
▼食感(歯切れ)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較して同等。
0点:コントロールと比較してくちゃつく。
Figure 2020174588
使用した油脂分解物の酸価が同程度である、ロールパンE4とロールパンCE2の評価結果を比較すると、異味雑味や食感に差異が生じており、油脂分解物中のモノグリセリド含量の、得られるベーカリー食品の風味や食感への寄与が確認された。
また、使用した油脂分解物中のモノグリセリド含量に着目して見てみると、モノグリセリド含量を4質量%以下とすることで、歯切れ性を向上させ、くちゃつきを防止できた。
さらに、使用した油脂分解物に含有されるモノグリセリドの分子種のうち、とくにモノオレインについて注目すると、モノオレインの含有量が高まるにつれ、くちゃつきを伴って、過度にソフトになる傾向がみられた。
一方、特にロールパンE1〜E7において、コントロールと比較してコク味が増しており、本発明の油脂分解物に製パン性を改良する効果の他、風味を改良する特性を有していることがうかがわれた。
また、酵素による加水分解を行う際の水の量で、加水分解の進行や、得られる油脂分解物の性状に違いが生じることを確認した。
<検討2>
検討1で使用した基質であるエステル交換油脂を、動物脂である豚脂へと変更し、検討1と同様にTGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比や、油脂の加水分解の終点を変えて油脂分解物を製造し、そのベーカリー食品改良材としての特性を、ロールパン(バターロール成型)を調製することにより観察した。
(実施例8)
豚脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に41℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.015質量部、MG・DGリパーゼを対油0.195質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:13である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が41℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が36.0となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E8)を得た。
油脂分解物(E8)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.42質量%、モノオレインの総量は0.18質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は43.0%であった。
(実施例9)
随時サンプリングを行いながら、酸価が64.0となった点で分解を止めた他は、実施例8と同様に処理を行い、油脂分解物(E9)を得た。
油脂分解物(E9)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.78質量%、モノオレインの総量は0.43質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は55.1%であった。
(実施例10)
豚脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に41℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.003質量部、MG・DGリパーゼを対油0.060質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:20である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が41℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が69.9となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E10)を得た。
油脂分解物(E10)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.50質量%、モノオレインの総量は0.22質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は62.7%であった。
(実施例11)
豚脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に41℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.005質量部、MG・DGリパーゼを対油0.10質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:20である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が41℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が80.2となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E11)を得た。
油脂分解物(E11)中に含有されるモノグリセリドの総量は0.85質量%、モノオレインの総量は0.48質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は57.0%であった。
(実施例12)
豚脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に41℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.0075質量部、MG・DGリパーゼを対油0.15質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:20である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が41℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が113.0となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(E12)を得た。
油脂分解物(E12)中に含有されるモノグリセリドの総量は2.39質量%、モノオレインの総量は1.09質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は46.0%であった。
(比較例4)
豚脂100質量部を、加温して完全に融解させた後に、トコフェロールを対油0.03質量部添加し、よく撹拌した後に41℃になるように調温した。調温された油脂に、TGリパーゼを対油0.006質量部、MG・DGリパーゼを対油0.006質量部となるように添加し、撹拌・分散した。尚、TGリパーゼとMG・DGリパーゼの質量比は1:1である。
ここに水を対油10質量部加えたのち、均質化を行った。この後、再度液温が41℃になるように調温した後、300rpmで撹拌しながら、油脂の加水分解を行った。
随時サンプリングを行いながら、酸価が65.9となった点で分解を止めた後、実施例1と同様に失活処理、脱水処理を行い、油脂分解物(CE4)を得た。
油脂分解物(CE4)中に含有されるモノグリセリドの総量は4.50質量%、モノオレインの総量は2.32質量%、含有されるモノグリセリド中に占めるモノオレインの割合は51.6%であった。
実施例8〜12、及び比較例4で得られた、E8〜E12およびCE4の詳細については、表5にまとめて記載した。
尚、E8〜E12およびCE4の全てにおいて、脂肪酸組成におけるトランス脂肪酸含量は3質量%以下であり、炭素数12の飽和脂肪酸含量は10質量%以下であった。E8〜E12およびCE4の全てにおいて、脂肪酸組成において、炭素数16〜18の飽和脂肪酸の量は35〜42質量%であり、脂肪酸組成において、オレイン酸の量は40〜50質量%であった。更に、E8〜E12およびCE4全てにおいて、脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸の量は15質量%以下であった。また油脂分解物E8〜E12中、トリグリセリドの量は30〜90質量%であり、ジグリセリドの含有量が0〜20質量%であり、脂肪酸の量が5〜70質量%であった。
Figure 2020174588
得られたE8〜E12、CE4を用いて、表6に示した配合で実施例のロールパンE8〜E12、比較例のロールパンCE4を、上述のロールパンE1等と同様に製造し、その食感について評価を行った。尚、評価基準、評価方法は上述の手法に則って行った。
評価した結果を表7に示す。
Figure 2020174588
Figure 2020174588
使用した油脂分解物の酸価が同程度である、ロールパンE9とロールパンCE4の評価結果を比較すると、異味雑味や食感に差異が生じており、検討1の結果とあわせて、基質となる油種を問わず、油脂分解物中のモノグリセリド含量の、得られるベーカリー食品の風味や食感への寄与が確認された。
また、使用した油脂分解物中のモノグリセリド含量に着目して見てみると、検討1の結果とあわせて、基質となる油種を問わず、モノグリセリド含量を4質量%以下とすることで、歯切れ性を向上させ、くちゃつきを防止できた。
一方、特にロールパンE8〜E12において、コントロールと比較してコク味が増し、パンとしての甘味が強く感じられるようになっており、本発明の油脂分解物に製パン性を改良する効果の他、風味を改良する特性を有していることがうかがわれた。
尚、パネラーによっては酸価が比較的高いE12を使用したロールパンE12について、風味プロフィールにおけるミドルからラストにかけて、わずかに苦味を感じるという意見があった。
<検討3>
検討3では、油脂分解物がベーカリー食品に与える老化耐性への影響を検証した。
(検討3−1)
(実施例10(2)、実施例10(2)−2及び実施例10(2)−3、比較例5)
豚脂の油脂分解物(E10)を用いて、ベーカリー食品中への添加量をみながら、油脂分解物がベーカリー食品に老化耐性を付与できるかについて確認した。
具体的には、まず、表8の配合に則って、下記手順でロールパンを調製した。次に、焼成後4日(以下D+4と記載する場合がある)の時点で、レオメーターによるロールパンの硬さ(レオ値)を測定し、この値から後述のとおり、老化耐性スコアを算出し、老化耐性の程度を評価・比較した。
その結果を表9に示す。表8の配合に則って調製された、E10を含むロールパンを、以下ロールパンE10(2)と示し、E10の添加量が異なるロールパンをロールパンE10(2)−2、ロールパンE10(2)−3として示した。また、E10を含まず、代わりにモノグリセリドを含有するロールパンを、ロールパンCE5として示した。
<ロールパン(バターロール成型、老化耐性評価用)の製法>
表8の中種生地配合の全原料を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で2分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地は、28℃、相対湿度80%にて120分の中種発酵を取った。
上記中種生地並びに本捏生地配合の強力粉、砂糖、食塩、及び水を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングした後、本捏生地配合のマーガリンに予め、油脂分解物であるE10、若しくはモノグリセリドを混合したものを含有させ、更に低速で3分、中速で4分ミキシングし、本捏生地(捏ね上げ温度28℃)を得た。尚、使用したマーガリンは、バターコンパウンド率10%であった。
得られた本捏生地は、30分フロアタイムをとり、分割(45g)、丸めし、30分ベンチタイムを取った後、バターロール成型した。これを天板に乗せ、38℃、相対湿度80%、50分のホイロを取った後、190℃のオーブンで13分焼成して、ロールパンを得た。
尚、本捏生地配合中に油脂分解物やモノグリセリドを含有させずに同様の製法でロールパンを製造したものを、コントロールとした。
<レオメーターによるロールパンの硬さ測定>
レオメーター((株)サン科学製、CR−3000EX)を使用し、ロールパンの硬さ測定を実施した。
測定対象となるロールパンの上部を底面から30mmのところで切り落とし、内部のクラムを表出させた後、パン用の感圧軸を用いて、進入距離15mm、テーブル移動速度60.0mm/min、反復回数1回の条件下で圧縮試験を行い、得られた測定値をロールパンの硬さとした。尚、各サンプルについて測定サンプル数はn=5とした。
<老化耐性スコアの算出>
老化耐性の程度を評価・比較するために用いた老化耐性スコアは以下のとおり算出した。
まず、焼成後4日時点における、上記の硬さ測定の結果の平均値を、各ロールパンについて算出した。次に、コントロールの硬さを基準として、以下の計算式に則って、硬さの変化率を算出し、経時的な硬さの変化の割合を老化耐性スコアとした。この老化耐性スコアの値が高いほど、経時的な老化に対する耐性が高いことを意味している。
(老化耐性スコア)=
100−((焼成後4日時点の測定サンプルの硬さ測定の結果の平均値)/(焼成後4日時点のコントロールの硬さ測定の結果の平均値)×100)
Figure 2020174588
Figure 2020174588
得られた結果について、先ずロールパンE10(2)とロールパンCE5とを比較する。
従前、食品添加物である蒸留モノグリセリド等の乳化剤を、パンやケーキ等のベーカリー食品に含有させることで、澱粉の老化が抑制されることは知られていた。(例えば、オレオサイエンス 2001年、1巻、10号、p.1013−1019等)
ロールパンE10(2)とロールパンCE5の老化耐性スコアの結果は、同程度の値を示しており、本発明の油脂分解物は食品添加物である乳化剤と力価が同程度であることが分かった。検討1および検討2の結果とも併せると、本発明の油脂分解物によれば、飲食品、特にベーカリー食品の食感や物性を、食品添加物に頼らず改良することができ、食品添加物を含有する場合であっても、少ない含有量で、同様の効果が得られることが示唆された。
次に、ロールパンE10(2)、ロールパンE10(2)−2、ロールパンE10(2)−3を比較する。老化耐性付与の観点からは、一定範囲においては油脂分解物の添加量に比例して老化耐性スコアが向上するが、今回のロールパンの系では次第に老化耐性付与の効果が頭打ちになる傾向が見受けられた。
(検討3−2)
(実施例2(2)及び実施例2(2)−2)
エステル交換油脂の油脂分解物(E2)を用いて、ベーカリー生地への添加方法が、ベーカリー食品の老化耐性に影響を与えるか否かについて確認した。
具体的には、表10の配合のマーガリンとE2とを事前に混合してから生地中に添加させた場合(ロールパンE2(2))と、マーガリンとE2とをそれぞれ別々に生地中に投入した場合(ロールパンE2(2)−2)とを、比較した。
尚、油脂分解物の添加方法が異なる他は、検討3−1と同様にロールパンの調製を行った。また、ロールパンの焼成後4日の時点における硬さの評価や老化耐性スコアの算出方法は検討3−1に行った手法と同じ手法で実施した。
Figure 2020174588
Figure 2020174588
<検討4>
(実施例8−1〜8−5)
検討2で製造したE8を用いて、添加量を変えてロールパン(バターロール成型)を表12の配合に則って、検討1と同様に調製し、風味改良材としての特性について検証した。
表12のとおり、油脂分解物E8の添加量を変えたロールパン(バターロール成型)を、それぞれロールパンE8−1〜E8−5として調製した。
得られた実施例のロールパンE8−1〜E8−5を密閉できる袋に入れ、室温下で2日間保管したものについて、下記の評価方法に則って、10名の専門パネラーにより、風味について官能評価を行った。その結果を◎+:41〜50点、◎:31〜40点、○:21〜30点、△:11〜20点、×:10点以下として、表13に示した。評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
また、検討1、検討2と同様に食感についても官能評価を行った。その結果を風味評価の結果とあわせて表13に示した。
<風味評価の方法>
評価項目を「異味雑味の程度」「先味の程度」「コク味の程度」の3項目とした。先味の程度とコク味の程度については、コントロールとした油脂分解物無配合品との比較で評価を行った。
尚、先味とは、喫食後すぐに感じられるふくらみのある好ましい風味を意味する。また、コク味とは、咀嚼途中から嚥下直後に口腔・鼻腔内に好ましく感じられる濃厚な風味を意味する。
尚、全ての項目について○以上の評価を得たものを合格品として評価した。
<評価基準>
(異味雑味の程度)
5点:異味、雑味がなく非常に良好である。
3点:異味、雑味がほとんどなく、良好である。
1点:異味、雑味が感じられる。
0点:異味、雑味が強く、不良である。
(先味の程度)
5点:コントロールに比べ優れた先味が感じられた。
3点:コントロールに比べ先味が感じられた。
1点:コントロールと同等の先味であった。
0点:コントロールに比べ先味が感じられない。
(コク味の程度)
5点:コントロールに比べ優れたコク味が感じられた。
3点:コントロールに比べコク味が感じられた。
1点:コントロールと同等のコク味であった。
0点:コントロールに比べコク味が感じられない。
Figure 2020174588
Figure 2020174588
今回の検討結果から、本発明の油脂分解物を添加することで、程度に差はあるが、総じてコントロールと比較して、コク味や先味を強化することができることが知見された。また、この効果は添加量に比例して強まる傾向もうかがわれた。
また、一定の量以上に油脂分解物の添加量を高めると、油脂分解物が有している苦味等の異味が発現しやすくなることも知見された。
食感については特に一定範囲の添加量においては、非常に優れたソフト性と歯切れを有していることが知見された。
<検討5>
(実施例8−1H〜8−5H)
油脂分解物E8を用いて、ハンバーグを調製し、風味改良材としての特性をさらに観察した。
(ハンバーグの調製方法)
まず、豚ひき肉に塩コショウを加え、ミキサーボウルと卓上ミキサーを使用して、中低速で1分混合した。次に、表14に記載された原料を、事前に水でもどしておいた粒状大豆蛋白質以外、ミキサーボウルに全て投入し、中低速で2分混合した。尚、油脂分解物E8は事前に豚脂と混合してから添加した。
この後、粒状大豆蛋白質を加えて、更に中低速で1分混合して畜肉生地を得た。得られた畜肉生地を30g/個で成形したのち、固定オーブン(設定温度190℃)で10分間焼成し、ハンバーグを得た。尚、E8を入れずに調製したハンバーグをコントロールとした。
得られたハンバーグのコク味及びジューシー感について、以下の評価方法で専門のパネラー10名により評価を行った。
<風味(コク味及びジューシー感)の評価方法>
得られたハンバーグについて、下記の評価方法に則って、10名の専門パネラーにより、風味について官能評価を行った。その結果を合計点が32点以上のものを◎+、25〜31点のものを◎ 、20〜24点のものを○、15〜19点のものを△、14点以下のものを×として表15に示した。評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
(評価基準)
4点:コントロールに比べ、コク味、ジューシー感が十分に感じられ、とてもおいしい。
3点:コントロールに比べ、コク味、ジューシー感が感じられ、おいしい。
2点:コントロールと同様のコク味、ジューシー感を有している。
1点:コントロールに比べ、コク味、ジューシー感ではない油っぽさが感じられる。
Figure 2020174588
Figure 2020174588
得られたハンバーグE8−1〜E8−5について風味評価を行ったところ、総じてコク味が増しており、ジューシーさが強く感じられ、風味改良効果があることを確認した。

Claims (11)

  1. モノグリセリドの含有量が0.1〜4質量%である、油脂分解物。
  2. モノオレインの含有量が1.0質量%以下である、請求項1に記載の油脂分解物。
  3. 酸価が10〜150である、請求項1または2に記載の油脂分解物。
  4. 脂肪酸組成中の、オレイン酸の含有量が60質量%以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の油脂分解物。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の油脂分解物の製造方法であって、
    油脂を基質としてリパーゼによる分解を行う際に、トリグリセリドを基質として実質的に認識せず、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを基質として認識するリパーゼを用いる、油脂分解物の製造方法。
  6. 請求項1〜4の何れか1項に記載の油脂分解物を含有するベーカリー食品改良材。
  7. 請求項6記載のベーカリー食品改良材を用いてなる、ベーカリー食品。
  8. 請求項6に記載のベーカリー食品改良材をベーカリー生地に含有させるベーカリー食品の改良方法。
  9. 請求項1〜4の何れか1項に記載の油脂分解物を含有する風味改良材。
  10. 請求項9記載の風味改良材を用いてなる、飲食品。
  11. 請求項9記載の風味改良材を含有させる、飲食品の風味改良方法。
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