JP2020153004A - 溶融Zn−Al系めっき鋼板、およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ドロス付着欠陥などの欠陥がない美麗なめっき外観を有するとともに、めっき加工性にも優れた溶融Zn−Al系めっき鋼板を製造する。【解決手段】鋼板を再結晶焼鈍した後、Alを0.5〜4.8質量%含有する溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬して溶融Zn−Al系めっきを施すに際し、鋼板の溶融Zn−Al系めっき浴への浸漬開始から、該めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間に、溶融めっき金属と接触し且つ鋼板との距離が0〜50mmに設定された超音波発振部材から、鋼板に対して超音波周波数が10〜120kHzの超音波を0.010〜0.500秒印加し、超音波印加終了後30秒以内に鋼板の冷却を開始し、250℃までの平均冷却速度1.0℃/秒以上で鋼板を冷却する。【選択図】図1

Description

本発明は、溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法に関するものである。
めっき層中にAlを1〜15mass%含有する溶融Zn−Al系めっき鋼板は、溶融Znめっき鋼板に比べて優れた耐食性を有することから、電機、建材分野を中心に広く使用されている。代表的な溶融Zn−Al系めっき鋼板としては、Alを約5mass%を含有するガルファン(GF)が1980年代から製造され、多く使用されてきた。一方、最近では、Mg等の元素をめっき中に含有させて高機能化した溶融Zn−Al系めっき鋼板が開発され、使用されるようになってきた。また、これらのめっきの高張力鋼板への適用も検討されている。しかし、電機、建材、自動車分野において溶融Znめっき鋼板から溶融Zn−Al系めっき鋼板への置き換えを行うには、めっき外観や加工性の面で解決すべき課題がある。
溶融Zn−Al系めっき用にAlやMgが添加された溶融めっき浴では、溶融亜鉛めっき浴と比較して易酸化性元素であるAl、Mgが浴面で酸化されてドロスが発生しやすく、これが鋼板表面に付着すると不めっきや凹状、筋状の外観欠陥(ドロス付着欠陥)となりやすい。
このような問題に対して、特許文献1では、めっき浴の上方を不活性ガスでシールする方法が提案されている。また、特許文献2には、建浴時において予め溶融Znめっき浴中にAlを所定量溶解しておき、その後、MgあるいはMg−Zn、Mg−Zn−Al等のMg合金を浴中Mg換算で所定量になるように溶解することにより、浴内ドロス発生を少なくして溶融Zn−Mg−Al系めっき鋼板を製造する方法が示されている。
また、溶融Zn−Al系めっき層は、溶融亜鉛めっき層と較べて固いために曲げ性に劣り、曲げ加工時にめっき層にクラックが入ることで、(i)曲げ加工部のめっき外観が損なわれる、(ii)クラック部分からめっきが欠落してプレス金型に付着して疵となる、(iii)クラック部分が耐食性低下の原因となる、などの問題を生じやすい。
このような問題に対して、特許文献3には、加工性と耐食性の改善を目的として、所定量のAl、Mg、Niを含有するとともに、Feを0.10質量%以下に調整した溶融Zn−Al系めっき浴を用い、特定のめっき浴温とめっき浴侵入板温で鋼板を溶融めっきすることにより、めっき層が所定のFe分を含有するとともに、めっき層と鋼板の界面に所定厚さのNi濃化層を有する溶融Zn−Al系めっき鋼板を製造する方法が示されている。
特公昭61−33070号公報 特開平11−193452号公報 特開2012−246547号公報
しかし、上述した従来技術には以下のような問題がある。
まず、特許文献1の方法は、設備コストが高く、また長時間操業した場合にはドロスの発生を完全には抑えられない。
また、特許文献2の方法も、建浴直後のドロス発生は抑制できたとしても、長時間操業した場合には浴面で酸化が進行するためドロスの発生を完全には抑えられない。また、めっき鋼板を連続的に製造する場合には、めっき操業の進行とともにめっき浴中のZn、Al、Mgが連続的に浴外に持ち出され、Zn、Al、Mgの濃度が別々に変化するとともに、めっき浴の量も減少するため、追加でめっき金属を補充する必要があるが、めっき浴組成を管理することが難しいため、この方法を実施することは事実上困難である。
また、特許文献3の方法では、連続的にめっき鋼板を製造する場合に鋼板からめっき浴中に鉄が溶解し、めっき浴中のFe濃度が増加するため、Fe濃度を安定的に制御するのが困難である。また、この方法で製造することによりめっき鋼板の加工性はある程度改善されるが、溶融亜鉛めっき鋼板と比較した場合には、加工性は不十分であり、さらに高い加工性が求められる。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、ドロス付着欠陥などの欠陥がない美麗な表面外観(めっき外観)を有するとともに、めっき加工性にも優れた溶融Zn−Al系めっき鋼板を安定して製造することができる製造方法を提供することにある。
本発明者らは、溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造において、上記課題を解決できる方法について鋭意検討した結果、鋼板が溶融めっき浴に浸漬した後、めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固する前に、鋼板に特定の条件で超音波を印加することにより、めっきの濡れ性が変化し、ドロスが付着しても凹凸が平坦化されて美麗な表面外観が得られること、さらには、めっき組織が微細化することを知見した。この微細化しためっき組織について、さらに詳細に調査した結果、めっき相は初晶Zn相とZn−Al二元共晶を有し、また、めっき層がMgを含有する場合には、さらにAl−Zn−MgZn三元共晶が含まれ、組織が微細になるとともにめっき加工性が向上することを知見した。これは、溶融Zn−Al系めっき鋼板が曲げ加工を受けると初晶Zn相とZn−Al二元共晶の界面に応力が集中して割れの起点となりやすいが、めっき組織が微細化されることで初晶Zn相とZn−Al二元共晶の界面が増加して応力が分散されることにより、割れが抑制されてめっき層の加工性が向上したためであると考えられる。これらの結果から、めっき処理において特定の条件で超音波を印加する製造方法により、ドロス付着欠陥などの欠陥がない美麗な表面外観(めっき外観)を有し、めっき加工性にも優れた溶融Zn−Al系めっき鋼板が得られることを知見した。
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]鋼板を再結晶焼鈍した後、Alを0.5〜4.8質量%含有する溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬して溶融Zn−Al系めっきを施すに際し、
鋼板が溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬した後、該めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固する前に、溶融めっき金属と接触し且つ鋼板との距離が0〜50mmに設定された超音波発振部材から、鋼板に対して超音波周波数が10〜120kHzの超音波を0.010〜0.500秒印加し、超音波印加終了後30秒以内に鋼板の冷却を開始し、250℃までの平均冷却速度1.0℃/秒以上で鋼板を冷却することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、超音波発振部材が回転可能なロールで構成されることを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[6]上記[5]の製造方法において、超音波発振部材を構成するロールが、ロール径方向で超音波振動するとともに、鋼板と相対するロール面が鋼板進行方向と同じ方向に移動するように回転することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法において、溶融Zn−Al系めっき浴から引き上げられた後、めっき付着量調整された鋼板に対して超音波発振部材から超音波を印加することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[8]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、超音波発振部材により、溶融Zn−Al系めっき浴から引き上げられた鋼板に超音波を印加しつつ、当該超音波発振部材により鋼板面に付着した溶融めっき金属を掻き落とすことでめっき付着量調整を行うことを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
[9]鋼板表面にAlを0.5〜4.8質量%含有するZn−Al系合金めっき層が形成され、該Zn−Al系合金めっき層のめっき断面組織における初晶Zn相の平均長径が7μm以下であることを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板。
[10]上記[9]の溶融Zn−Al系めっき鋼板において、Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板。
[11]上記[9]または[10]の溶融Zn−Al系めっき鋼板において、Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板。
[12]上記[9]〜[11]のいずれかの溶融Zn−Al系めっき鋼板において、Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板。
本発明によれば、ドロス付着欠陥などの欠陥がない美麗な表面外観(めっき外観)を有するとともに、めっき加工性にも優れた溶融Zn−Al系めっき鋼板を安定して製造することができる。
本発明において、超音波発振部材から鋼板に超音波を印加する場合の代表的な実施形態を模式的に示すものであり、図1(A)はホーンで構成された超音波発振部材を用いる場合の一実施形態を示す説明図、図1(B)はロールで構成された超音波発振部材を用いる場合の一実施形態を示す説明図 本発明において、ロールで構成された超音波発振部材を用いる場合におけるロールの振動形態を模式的に示すものであり、図2(A)はロールがロール軸方向で振動する場合を示す説明図、図2(B)はロールがロール径方向で振動する場合を示す説明図 本発明において、鋼板に対する超音波印加位置が異なる種々の実施形態を模式的に示す説明図 本発明において、鋼板に超音波印加を行う超音波発振部材を用いてめっき付着量調整を行う場合の実施形態を模式的に示すものであり、図4(A)はホーンで構成された超音波発振部材を用いる場合の一実施形態を示す説明図、図4(B)はロールで構成された超音波発振部材を用いる場合の一実施形態を示す説明図 めっき断面組織における初晶Zn相の平均長径の求め方を模式的に示す説明図 溶融Zn−Al系めっきにおいて、超音波を印加しない場合と超音波を印加する場合について、ドロス起因の凹凸欠陥と不めっき欠陥の発生の有無の一形態を模式的に示した説明図 溶融Zn−Al系めっきにおいて、超音波を印加しない場合と超音波を印加する場合について、ドロス起因の凹凸欠陥と不めっき欠陥の発生の有無の他の形態を模式的に示した説明図
本発明は、鋼板(母材鋼板)を再結晶焼鈍した後、溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬して溶融Zn−Al系めっきを施すに際し、鋼板の溶融Zn−Al系めっき浴への浸漬開始から、めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間に、所定の条件で超音波発振部材から鋼板に対して超音波を印加し、この超音波印加が終了した後、速やかに所定の冷却条件で鋼板を冷却するものである。
以下、本発明で行われる再結晶焼鈍、溶融Zn−Al系めっき、超音波の印加、めっき後の冷却などについて順に説明する。なお、鋼板(母材鋼板)の成分組成などについては、後に詳述する。
本発明では、鋼板を溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬する前に、鋼板の再結晶焼鈍を行う。通常、再結晶焼鈍は還元雰囲気中で行うが、NOF型CGLやDFF型CGLのように、加熱帯において酸化させた後に還元処理(還元焼鈍)してもよい。再結晶焼鈍(還元焼鈍)は従来から行われている方法に準じて行えばよく、特に限定するものではない。例えば、放射加熱方式の焼鈍炉において水素を含む還元性雰囲気中で600〜900℃程度の温度で還元処理するのが一般的ではあるが、これに限定されるものではない。また、加熱帯において酸化させた後に還元処理(還元焼鈍)する場合も、加熱帯で鋼板表面に生成した酸化皮膜を還元することができる方法であれば本発明の効果を妨げるものではない。
上記のように再結晶焼鈍された鋼板は、所定の温度まで冷却された後、Alを0.5〜4.8質量%含有する溶融Zn−Al系めっき浴(以下、単に「めっき浴」という)に浸漬され、溶融Zn−Al系めっきが施される。ここで、めっき浴中のAl含有量が0.5質量%未満では、本発明法であってもめっき組織(初晶Zn相)の微細化効果が得られにくく、めっき加工性が低下する。一方、Al含有量が4.8質量%を超えるとZnとAlの共晶組織が得られず、Alリッチ層が増加して犠牲防食作用が低下するので、端面部の耐食性が劣る。また、Alリッチ層は硬く、めっき加工性に劣る。以上の理由から、めっき浴中のAl含有量は0.5〜4.8質量%、好ましくは2.0〜4.0質量%とする。
めっき浴には、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有させることができる。Mgを含むと初晶Zn相とZn−Al二元共晶に加えて、Al−Zn−MgZn三元共晶が凝固時に網目状に形成する。これにより、Zn−Al二元共晶も細粒化し、さらにめっき加工性が向上する。Mg含有量が0.2未満では、めっき加工性の向上効果が十分に得られず、一方、5.0質量%を超えるとドロスの発生が多くなり、本発明法であってもドロス付着欠陥の発生を抑えることが困難となる。
また、めっき浴中には、必要に応じて、さらに、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量の中から選ばれる1種以上を含有させることができる。めっき浴にNiやSiを含有させると、溶融Zn−Al系めっき鋼板の地鉄−めっき界面にNiやSiが含まれる界面合金層が形成されるため、めっき密着性が向上する。特にNiを含む界面合金層は、めっき厚さ方向に針状に形成されるため、アンカー効果を発現することでめっき上層との密着性が向上する。めっき浴中のNi含有量とSi含有量がそれぞれ0.01質量%未満では、めっき密着性の向上効果が十分に得られない。一方、Ni含有量とSi含有量がそれぞれ0.5質量%を超えると、添加効果が飽和し、コストアップとなる。なお、NiやSiを含有しためっき浴で製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板のめっき皮膜(界面合金層の上層のめっき層)には、界面合金層に取り込まれなかったNiやSiを含む相が観察される場合がある。
また、めっき浴中には、必要に応じて、さらに、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有させることができる。これらの元素は、ZnやAlと金属間化合物を形成し、この金属間化合物が凝固核となって凝固組織の微細化に寄与する。これらの元素は、合計の含有量が0.01質量%未満では効果が小さく、一方、5.0質量%を超えると添加効果が飽和し、コストアップとなる。なお、これら元素の1種以上を含有しためっき浴で製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板のめっき皮膜および界面合金層には、それらの元素とZnやAlとの金属間化合物が観察される場合がある。
通常、めっき浴の残部はZnおよび不可避不純物である。
溶融Zn−Al系めっきのその他の条件に特に制限ないが、通常、めっき浴温度を450〜500℃とし、板温450〜550℃の鋼板をめっき浴中に浸漬させて溶融Zn−Al系めっきを行うことが好ましい。
本発明では、鋼板の溶融Zn−Al系めっき浴への浸漬開始から、めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間に、超音波発振部材(超音波印加部材)から鋼板に対して所定の条件で超音波を印加(超音波振動を付与)する。これにより、AlやMgに起因するドロスが鋼板に付着しても超音波印加によりドロスが細かく破砕されて無害化されるとともに、溶融めっきの濡れ性が改善されることでドロスにめっきが弾かれることなく均一に濡れ広がるため、ドロス欠陥の存在しない美麗な表面外観(めっき外観)を得ることができる。
図6および図7は、溶融Zn−Al系めっきにおいて、超音波を印加しない場合と超音波を印加する場合について、ドロス起因の凹凸欠陥と不めっき欠陥の発生の有無の形態を、それぞれ模式的に示した説明図である。このうち図6は、超音波を印加することにより溶融めっきの濡れ性が改善されることで、ドロスにめっきが弾かれることなく均一に濡れ広がり、ドロス付着に起因する凹凸欠陥や不めっき欠陥が改善されることを示したものである。また、図7は、超音波を印加することによりドロスが細かく破砕されて無害化されることで、ドロス付着に起因する凹凸欠陥や不めっき欠陥が改善されることを示したものである。
さらに本発明では、超音波印加により凝固前のめっき金属中の不純物が微細に破砕されることにより、めっき金属が凝固する際の凝固核が増加し、また、超音波印加によりめっき金属中の濃度組成に微視的な揺らぎが生じることによっても凝固核が増加しやすくなり、凝固組織が効果的に微細化する。より具体的には、凝固核を中心に初晶Zn相が微細に析出し、その後にZn−Al二元共晶と、Mgを含有する場合にはAl−Zn−MgZn三元共晶が析出する。これにより、初晶Zn相とZn−Al二元共晶との界面が増加し、めっき加工性が向上する。
鋼板に超音波を印加する超音波発振部材は、溶融めっき金属と接触している必要があり、且つ鋼板との距離を0〜50mmに設定する。鋼板との距離が0mmとは鋼板に接しているということである。
超音波発振部材が溶融めっき金属と接触した状態で鋼板に超音波を印加しないと、超音波の印加が溶融めっき金属の濡れ性の改善に有効に作用しない。つまり、鋼板との距離が0〜50mm以内にある溶融めっき金属に超音波が付与されることで、溶融めっき金属の濡れ性が改善されるということである。また、超音波発振部材と鋼板の距離が50mmを超えると、鋼板に対して超音波が有効に作用せず、濡れ性の改善効果が得られない。このため、めっき浴中の鋼板に超音波発振部材から超音波を印加する場合には、超音波発振部材と鋼板との距離を0〜50mmに設定すればよいが、めっき浴から引き上げられた鋼板に超音波発振部材から超音波を印加する場合には、少なくとも鋼板面に付着した溶融めっき金属に超音波発振部材を接触させた状態にする必要がある。
本発明で使用する超音波発振部材の形式に特別な制限はないが、通常、超音波振動子(ランジュバン型振動子など)の振動が伝達されるホーン(いわゆる超音波ホーン)やロールなどで構成された超音波発振部材が用いられる。
図1は、超音波発振部材1から鋼板Sに超音波を印加する場合の代表的な実施形態を模式的に示したものであり、図1(A)はホーン2で構成された超音波発振部材1から鋼板Sに超音波を印加する場合の一実施形態を、図1(B)はロール3(回転可能なロール)で構成された超音波発振部材1から鋼板Sに超音波を印加する場合の一実施形態を、それぞれ示している。図1(A),(B)に鋼板Sと超音波発振部材1の距離50mmを示すが、超音波発振部材1は鋼板Sに対して、この距離50mm以内で超音波を印加(付与)する。なお、標準的なサイズとして、鋼板Sの厚さは1mm前後、超音波発振部材1のサイズ(ホーン2の厚さやロール3の径)は数十〜数百mm程度であるが、図1は模式図であるため、鋼板Sの厚さに対して、超音波発振部材1と鋼板Sとの距離(50mm)、超音波発振部材1のサイズを小さく表している。
ここで、超音波発振部材1と鋼板S間でのドロス巻き込みを防止するなどの観点からは、図1(B)に示すようなロール3(回転可能なロール)で構成された超音波発振部材1を用いることが好ましい。超音波発振部材1がロール3の場合、鋼板Sに対して線で対向するためドロスの巻き込みが生じにくく、しかもロール3の回転により鋼板Sとの間にドロスが溜まりにくいためである。この超音波発振部材1は、超音波振動子の振動がロール3に伝達され、このロール3から鋼板Sに超音波振動が付与される。
超音波振動子の振動をロール3に伝達するために、通常、ロール3のロール軸に超音波振動子の振動が付与され、超音波振動子によりロール3をロール軸方向またはロール径方向に振動させる。
図2は、そのロール3の振動形態を模式的に示したものであり、超音波発振器4の超音波振動子が超音波振動を伝達できるようにロール軸30に機械的に接続又は連係されることにより、超音波振動子の振動がロール軸30を介してロール3(ロール本体)に伝達される。超音波発振器4の超音波振動子のロール軸30への取付形態により、図2(A)ではロール3がロール軸方向で超音波振動し、図2(B)ではロール3がロール径方向で超音波振動する。
ロール3は、モーターなどの駆動装置で回転できるようにし、鋼板Sと相対するロール面が鋼板進行方向と同じ方向に移動するように回転(鋼板Sの移動方向に対して順回転)させてもよいし、鋼板Sと相対するロール面が鋼板進行方向とは逆方向に移動するように回転(鋼板Sの移動方向に対して逆回転)させてもよい。また、前者の場合には、ロール3の周速を鋼板Sの通板速度に一致させてもよい。また、ロール3を無駆動とし、鋼板Sに接触させることにより回転するような機構としてもよい。
ここで、溶融亜鉛めっき浴中にロール3を配置する場合、例えば、次のような形態を採ることができる。ロール3が無駆動のロールの場合には、シンクロールの支持機構と同様に、保持手段のアームにロール軸30を支持させ、ロール3を浴中に保持すればよい。一方、ロール3が駆動ロールの場合には、例えば、ポット両側壁に設けた軸受にロール軸30を支持させ、ポット外側に設けられた駆動装置でロール軸30を回転させる、などの形態を採ることができる。
以上のようなロール3で構成された超音波発振部材1から鋼板Sに超音波を印加することにより、超音波ホーンに較べて超音波発振部材1と鋼板Sの対向面が少ないためドロスの巻き込みが生じにくく、しかもロール3の回転により鋼板Sとの間にドロスが溜りにくいため、超音波発振部材1と鋼板Sの間にドロスを巻き込んで発生する欠陥が抑制できる。また、ロール3が鋼板の移動方向に対して順回転する場合には、超音波発振部材1が意図せずに鋼板Sに接触しても鋼板Sに傷がつくことが抑制できるとともに、超音波発振部材1の摩耗も軽減できる。したがって、上述した種々の実施形態のなかでも、以上のような効果を特に期待できる実施形態としては、図2(A)に示すように、ロール3がロール径方向で超音波振動するとともに、鋼板と相対するロール面が鋼板進行方向と同じ方向に移動するように回転(鋼板Sの移動方向に対して順回転)することが好ましい。また、ロール3のロール周速が鋼板Sの通板速度と同じであることが特に好ましい。
鋼板に対して印加する超音波の周波数は10〜120kHzとする。超音波周波数が10kHz未満では濡れ性改善の効果が得られず、一方、120kHzを超えると超音波印加に起因して却ってめっき外観が損なわれ、また、超音波印加による効果が飽和するとともに、高価な超音波発振部材が必要となる。以上の観点から、より好ましい超音波周波数は15〜80kHzである。
超音波を印加する時間は0.010〜0.500秒とする。ここで、超音波を印加する時間とは、鋼板が、鋼板表面から超音波発振部材までの垂直距離が50mm以内の範囲にある時間とする。すなわち、図1において鋼板Sが範囲Lを通過する時間であり、図中ドットを付した部分が鋼板S表面から超音波発振部材1までの垂直距離が50mm以内の範囲(領域)である。
超音波を印加する時間が0.010未満では、濡れ性改善とめっき組織微細化の効果が十分に得られず、また印加時間を制御すること自体も難しくなる。一方、超音波を印加する時間が0.500秒を超えると、超音波印加時の疵がつきやすくなり、また、めっき界面に厚い合金層が生成してめっき密着性が低下する。また、超音波を印加する時間が長くなると、超音波発振部材の設置に必要な距離が長くなり、装置が大型化してしまう問題もある。以上の観点から、超音波を印加する時間は0.015〜0.200秒が好ましい。
超音波発振部材の振幅は特に規定しないが、1〜20μm程度が好ましい。振幅が1μm未満では制御が難しくなり、濡れ性改善の効果が小さくなりやすい。一方、20μmを超えると振幅が大きすぎて鋼板に傷がつく原因となる。
鋼板に超音波を印加する位置は、鋼板のめっき浴への浸漬開始から、めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間であればよい。したがって、超音波はめっき浴中で鋼板に印加してもよいし、めっき浴から引き上げられた鋼板(付着した溶融めっき金属の凝固が完了する前の鋼板)に印加してもよい。
図3(A)〜(C)は超音波印加位置が異なる種々の実施形態を模式的に示しており、図において、5はめっき浴、6はシンクロール、7はめっき付着量調整用のガスワイピングノズルである。
図3(A)の実施形態では、ホーン式の超音波発振部材1を用い、鋼板Sの片面に対する超音波印加を鋼板Sがめっき浴5に浸漬した直後の位置で、鋼板Sの他の片面に対する超音波印加を鋼板Sがシンクロール6に巻き付いた位置で、それぞれ行っている。また、図3(B)の実施形態では、ロール式の超音波発振部材1を用い、鋼板Sの両面に対する超音波印加を鋼板Sがめっき浴5から引き上げられた位置(同じ位置)で行っている。また、図3(C)の実施形態では、ホーン式の超音波発振部材1を用い、鋼板Sの両面に対する超音波印加を鋼板Sがめっき浴5から引き上げられる直前の位置(同じ位置)で行っている。なお、めっき浴5に浸漬した鋼板Sに超音波を印加する場合、通常、超音波発振源である超音波振動子はめっき浴の温度に耐えられるような耐熱性を有しないため、ホーン式やロール式の超音波発振部材1のみがめっき浴中に浸漬され、超音波振動子はめっき浴外に置かれ、その振動が超音波発振部材1に伝えられる。
ここで、超音波発振部材1のメンテナンスや設置スペースの観点からは、めっき浴5から鋼板Sを引き上げた後に超音波を印加するのが好ましい。また、超音波印加からめっき金属の凝固までの時間が短い方が凝固核を多く有したまま凝固するため、よりめっき組織が微細化される。この観点からもめっき浴5から鋼板Sを引き上げた後に超音波を印加するのが好ましい。特に、ガスワイピングなどによるめっき付着量調整後に超音波を印加するのが好ましい。ガスワイピングなどによるめっき付着量調整によって溶融めっき金属の凝固が開始する場合があるが、本発明の効果は、溶融めっき金属の凝固完了直前に超音波を印加した場合に最も大きくなるためである。
超音波発振部材1は1箇所に設置してもよいし、複数箇所に設置してもよいが、鋼板Sの幅方向全体に超音波を印加するためには、鋼板幅方向および鋼板長手方向に複数の超音波発振部材1を設置するのが好ましい。例えば、50mm幅以上300mm幅以下の超音波発振部材1を2個以上、40個以下設置するのが好ましい。
また、超音波は鋼板Sの片面にのみ印加してもよいが、超音波を印加しない鋼板面には効果が及ばないため、図3(A)〜(C)に示すように鋼板両面に印加するのが好ましく、特に同じ位置で鋼板両面に超音波を印加するのが好ましい。
めっき浴から引き上げられた鋼板に対しては、表面に付着した溶融めっき金属の一部を掻き落とすことによりめっき付着量調整が行われる。この調整後のめっき付着量(溶融Zn−Al系めっき鋼板のめっき付着量)は特に制限はないが、めっき付着量が少な過ぎると耐食性が低下するとともに、付着量の制御自体が難しくなり、一方、多過ぎるとめっき加工性が低下するので、通常、片面あたりのめっき付着量は25〜300g/m程度が好ましい。
めっき付着量調整を行う方法に特別な制限はないが、通常は、図3に示すようなガスワイピングが行われ、ガスワイピングのガス圧やガスワイピングノズル−鋼板間距離などを調整することにより溶融めっき金属の掻き落し量が調整され、めっき付着量調整がなされる。
一方、本発明では、鋼板Sに超音波印加を行う超音波発振部材1をめっき付着量調整手段(溶融めっき金属の掻き落し手段)として用い、めっき付着量調整を行ってもよい。図4は、その場合の実施形態を模式的に示している。図4(A)はホーン2で構成された超音波発振部材1を用いる場合を、図4(B)はロール3(回転可能なロール)で構成された超音波発振部材1を用いる場合を、それぞれ示しているが、いずれの場合も、超音波発振部材1は鋼板Sに超音波を印加するとともに、鋼板Sと所定の間隔をとることにより、鋼板面に付着した溶融めっき金属の一部を下方に掻き落とし、めっき付着量を調整する。なお、標準的なサイズとして、鋼板Sの厚さは1mm前後、めっき皮膜の厚さは10μm前後、超音波発振部材1のサイズ(ホーン2の厚さやロール3の径)は数十〜数百mm程度であるが、図4は模式図であるため、鋼板Sの厚さに対して、めっき皮膜の厚さを大きく、超音波発振部材1のサイズを小さく表している。
ここで、図4(B)に示すようにロール3(回転可能なロール)で構成された超音波発振部材1を用いる場合には、鋼板Sと相対するロール面が鋼板進行方向とは逆方向に移動するようにロール3を回転(鋼板Sの移動方向に対して逆回転)させ、鋼板面に付着した溶融めっき金属の一部を下方に掻き落とす。
また、図4は鋼板片面についてのみ示しているが、通常、鋼板の他の片面でも、同じ位置で同様のめっき付着量調整が行われる。
なお、めっき付着量調整にガスワイピングと超音波発振部材の両方を使用することもできるが、この場合には、ガスワイピングによりめっき金属が冷却されて凝固する場合があるため、超音波印加を行う超音波発振部材でめっき金属の掻き取りを行った後にガスワイピングすることが好ましい。
本発明では、超音波印加によるめっき組織の微細化効果が確実に得られるようにするために、超音波発振部材からの超音波印加の終了後30秒以内に鋼板の冷却を開始し、250℃までの平均冷却速度1.0℃/秒以上で鋼板を冷却する。この鋼板の冷却にはガス冷却を適用することができる。N、H、Ar等のガスを鋼板に吹き付けることで冷却し、ガスの流量と吹き付け時間を調整することで冷却速度を制御することができる。
超音波印加終了後、鋼板の冷却を開始するまでの時間が30秒を超えると、超音波印加により微細化された凝固核が再度凝集するため、めっき組織の微細化の効果が得られにくい。また、250℃までの平均冷却速度が1.0℃/秒未満では、めっき組織の微細化効果が得られにくく、また、めっき金属の凝固過程でめっき層の厚みにむらが生じ、波形の凹凸である湯だれ欠陥ができやすい。また、以上の観点からは、250℃までの平均冷却速度は2.0℃/秒以上が好ましい。ここで、250℃未満の温度領域ではめっき金属が十分に凝固し、めっき組織は変化しないため、250℃までの冷却速度を制御すればよい。
250℃までの平均冷却速度の上限は特にないが、平均冷却速度が15℃/秒を超えると、冷却に必要なガス流量が増加してコストアップにつながるので、平均冷却速度は15℃/秒以下が好ましく、10℃/秒以下がより好ましい。
本発明において、溶融Zn−Al系めっきされる母材鋼板の鋼成分組成や機械的性質に特別な制限はない。したがって、母材鋼板には、例えば、極低炭素鋼板、低炭素鋼板、Si、Mn、P等を含有する鋼板などを用いることができ、軟質鋼板、高張力鋼板などのいずれを用いてもよい。また、母材鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板のいずれでもよい。
以下、母材鋼板として高強度鋼板を用いる場合について、好ましい成分組成などについて説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の単位は「質量%」であるが、便宜上「%」で示す。
母材鋼板となる高強度鋼板は、固溶強化元素としてSi:0.1〜2.5%、Mn:1.0〜3.0%を含有することが好ましい。この高強度鋼板の引張強さは特に限定されないが、一般に引張強さTSが440MPa以上の高強度鋼板であることが好ましい。
また、母材鋼板のより具体的な成分組成としては、基本成分として、C:0.3%以下、Si:0.1〜2.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下を含有することが好ましく、さらに必要に応じて、強度と延性のバランスを制御することなどを目的として、Al:0.01〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%、B:0.0005〜0.005%、Sb:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.10%の中から選ばれる1種以上を含有することができる。以下、これらの限定理由について説明する。
・Si:0.1〜2.5%
Siは鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素である。Si量が0.1%未満では高強度を得るために高価な合金元素が必要になり、経済的に好ましくない。一方、Si量が2.5%を超えると、合金化温度が高温化するため本発明の製造条件を適用しても所望の機械特性を得ることが困難になり、また、合金化ムラなど外観不良が生じ、めっき密着性も劣ったものとなる。このためSi量は0.1〜2.5%とする。
・Mn:1.0〜3.0%
Mnは鋼の高強度化に有効な元素であり、機械特性や強度を確保するためには1.0%以上含有する必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えると溶接性やめっき密着性が低下し、強度と延性のバランスの確保が困難になる場合がある。このためMn量は1.0〜3.0%とする。
・C:0.3%以下
C量が0.3%を超えると溶接性が劣化するため、C量は0.3%以下とすることが好ましい。一方、Cは、鋼組織として残留オーステナイト相やマルテンサイト相などを形成させることで加工性を向上させやすくするため、C量は0.025%以上とすることが好ましい。
・P:0.100%以下
Pは、不可避的に含有される元素であるため下限は規定しない。P量が0.100%を超えると溶接性が劣化する場合がある。このためP量は0.100%以下とすることが好ましい。
・S:0.010%以下
Sは、不可避的に含有される元素であるため下限は規定しない。S量が0.010%を超えると溶接性が劣化する場合がある。このためS量は0.010%以下とすることが好ましい。
・Al:0.01〜1.0%
Alは炭化物の生成を抑制し、残留オーステナイトの生成を促進するのに有効な元素である。また、製鋼工程で脱酸剤として添加される元素である。こうした効果を得るには、Al量を0.01%以上とする必要がある。一方、Al量が1.0%を超えると、鋼板中の介在物が多くなり延性を劣化させる。このため、Alを添加する場合、Al量は0.01〜1.0%とすることが好ましい。
・Mo:0.05〜1.0%
Moは強度の調整に有効な元素であるが、Mo量が0.05%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、Mo量が1.0%を超えるとコストアップを招く。このため、Moを添加する場合、Mo量は0.05〜1.0%とすることが好ましい。
・Nb:0.005〜0.05%
Nbも強度の調整に有効な元素であるが、Nb量が0.005%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、Nb量が0.05%を超えるとコストアップを招く。このためNbを添加する場合、Nb量は0.005〜0.05%とすることが好ましい。
・Ti:0.005〜0.05%
Tiも強度の調整に有効な元素であるが、Ti量が0.005%未満では強度調整の効果が得られにくい。一方、Ti量が0.05%を超えるとめっき密着性が劣化しやすい。このため、Tiを添加する場合、Ti量は0.005〜0.05%とすることが好ましい。
・Cu:0.05〜1.0%
Cuには残留オーステナイト相の形成を促進する効果があるが、Cu量が0.05%未満では残留オーステナイト相の形成促進効果が得られにくい。一方、Cu量が1.0%を超えるとコストアップを招く。このためCuを添加する場合、Cu量は0.05〜1.0%とすることが好ましい。
・Ni:0.05〜1.0%
Niにも残留オーステナイト相の形成を促進する効果があるが、Ni量が0.05%未満では残留オーステナイト相の形成促進効果が得られにくい。一方、Ni量が1.0%を超えるとコストアップを招く。このためNiを添加する場合、Ni量は0.05〜1.0%とすることが好ましい。
・Cr:0.01〜0.8%
Crは焼入れ性の向上に有効な元素であるが、Cr量が0.01%未満では焼入れ性の向上効果が得られにくく、強度と延性のバランスが劣化する場合がある。一方、Cr量が0.8%を超えるとコストアップを招く。このためCrを添加する場合、Cr量は0.01〜0.8%とすることが好ましい。
・B:0.0005〜0.005%
Bも鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるが、B量が0.0005%未満では焼入れ性の向上効果が得られにくい。一方、B量が0.005%を超えると鋼板表面でのSiの酸化を促進させ、めっき外観の劣化を招く。このためBを添加する場合、B量は0.0005〜0.005%とすることが好ましい。
・Sb:0.001〜0.10%
Sbは脱窒、脱硼等を抑制して、鋼の強度低下抑制に有効な元素であるが、Sb量が0.001%未満ではその効果が得られにくく、一方、0.10%を超えると靭性や耐せん断部割れ性の低下を招く。このためSbを添加する場合、Sb量は0.001〜0.10%とすることが好ましい。
・Sn:0.001〜0.10%
Snも脱窒、脱硼等を抑制して、鋼の強度低下抑制に有効な元素であるが、Sn量が0.001%未満ではその効果が得られにくく、一方、0.10%を超えると靭性や耐せん断部割れ性の低下を招く。このためSnを添加する場合、Sn量は0.001〜0.10%とすることが好ましい。
以上述べた基本成分および任意添加成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
以上述べたような本発明法で製造される溶融Zn−Al系めっき鋼板は、鋼板表面にAlを0.5〜4.8質量%含有するZn−Al系合金めっき層が形成され、このZn−Al系合金めっき層は、その主要組織が初晶Zn相とZn−Al二元共晶からなり、若しくは初晶Zn相とZn−Al二元共晶とAl−Zn−MgZn三元共晶からなり(Mgを含有する場合)、且つめっき断面組織における初晶Zn相の平均長径が7μm以下である微細組織となる。初晶Zn相の粒径が小さくなることにより、初晶Zn相とZn−Al二元共晶の界面が増加する。初晶Zn相とZn−Al二元共晶のヤング率の違いから、この界面に歪がたまりやすいが、界面が増加することによって歪が緩和され、めっき加工性が向上する。ここで、初晶Zn相の平均長径が7μmを超えるとめっき加工性が劣る。また、平均長径の下限は特にないが、1μm未満では効果が飽和する。
本発明では、初晶Zn相の平均長径を次のようにして求める。めっき鋼板の板厚方向断面SEMにおいて、タテ:めっき層厚さ、ヨコ:めっき層厚さの2倍、となる任意の8視野において、図5に示すように個々の初晶Zn相の最大長さを長径として測定し、8視野すべての測定値の平均値を平均長径とする。初晶Zn相とその他の相はSEMでのコントラストが異なるために容易に判別でき、EDXによりZn以外が検出されないことから確認することもできる。
溶融Zn−Al系めっき鋼板の表面に形成されるZn−Al系合金めっき層は、さきに説明しためっき浴組成に相当するめっき組成を有する。すなわち、Zn−Al系合金めっき層は、Alを0.5〜4.8質量%含有するが、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有することができる。また、必要に応じて、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量%の中から選ばれる1種以上を含有することができる。さらに、必要に応じて、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有することができる。Zn−Al系合金めっき層の残部はZnおよび不可避不純物からなる。これらめっき組成の限定理由は、さきに説明しためっき浴組成の限定理由と同じである。
本発明を実施するにあたり、めっき浴やめっき皮膜の組成の測定は任意の方法で行うことができる。めっき浴の組成は、例えば、めっき浴の一部を汲み出し、凝固させた後、塩酸等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析することにより確認(測定)することができる。また、めっき皮膜(下地鋼板との界面合金層の上のめっき層)の組成は、例えば、低電位電解剥離法により、下地鋼板との界面合金層の上に存在するめっき層のみを剥離した後、その剥離液をICP発光分光分析や原子吸光分析することにより確認(測定)することができる。
表1に示す化学成分の鋼を溶製して得た鋳片を熱間圧延し、酸洗した後、冷間圧延して板厚1.2mmの冷延鋼板とした。この冷延鋼板を母材鋼板とし、以下のようにして溶融亜鉛系めっき鋼板を製造した。ART型焼鈍炉を有するCGLにおいて、冷延鋼板をN−10%H雰囲気中において810℃で120秒保持する還元焼鈍した後、表2に示す浴組成のめっき浴(めっき浴温度470℃)に浸漬して溶融Zn−Al系めっきを施し、鋼板をめっき浴から引き上げた後、ガスワイピングで片面あたりのめっき付着量(目付量)を約50g/mに調整した。
鋼板のめっき浴への浸漬開始から、めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間に超音波発振部材により鋼板の両面(鋼板両面の同じ位置)に超音波を印加した。超音波発振部材としては図1に示すようなホーンまたはロールを使用し、振幅を5μmとした。
高さ方向での超音波発振部材の位置は、次の3通りとした。
位置1:めっき浴面下の位置
位置2:めっき浴面よりも上で、ガスワイピングよりも下の位置
位置3:ガスワイピングよりも上で、めっきの凝固完了点よりも下の位置
ガスワイピングによるめっき付着量の調整後、Nガス冷却により鋼板を常温まで冷却したが、その際に、ガス流量を調整することで250℃までの鋼板の平均冷却速度を制御した。また、超音波発振部材による超音波印加終了後、冷却開始までの時間は冷却ガスの噴射位置およびライン速度により調整した。
超音波発振部材に使用したロールは、図2(B)に示す振動形態のロールであり、鋼板と相対するロール面が鋼板進行方向と同じ方向に移動するように回転駆動(鋼板の移動方向に対して順回転駆動)させた。ロール周速は鋼板の通板速度と同じにした。
なお、一部の実施例(比較例)は、超音波印加を行わない条件で実施した。
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板について、めっき外観を評価するとともに、めっき組織とめっき加工性およびめっき密着性を調査した。以下に、それらの測定方法および評価方法を示す。
・めっき組織の同定
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板から採取された試料について、めっき層の断面組織をSEMにより観察し、またEDXにより分析することで、主要めっき組織を以下のように同定した。
1:(初晶Zn相)+(Zn−Al二元共晶)
2:(初晶Zn相)+(Zn−Al二元共晶)+(Al−Zn−MgZn三元共晶)
3:(初晶Al相)+(Zn−Al二元共晶)
・めっき組織中の初晶Zn相の平均長径の測定
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板から採取された試料について、さきに説明した方法で初晶Zn相の平均長径を測定した。
・めっき外観
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板の外観を目視観察し、ドロス付着欠陥、超音波印加時の疵、湯だれ欠陥の有無を検査した。1コイルを10等分した位置から1000mm×1000mmのサイズの鋼板を各1枚、計10枚採取し、いずれの鋼板からも上記欠陥が認められないものを優良(○)、1〜2枚の鋼板で上記欠陥が認められるものを良好(△)、3枚以上の鋼板で上記欠陥が認められるものを不良(×)とした。
ここで、ドロス付着欠陥とは、目視でめっきに点状若しくは線状の凹部または凸部、不めっき部分が確認できる欠陥であり、欠陥部分の断面をSEM-EDXで分析した場合に、Zn−Al系めっきや地鉄とは明確に異なるドロスの付着が認められる。ドロスの成分は、主としてトップドロスFeAl、ボトムドロスFeZnであるが、平衡組成からずれている場合や、Al酸化物、Fe酸化物、Zn酸化物が含まれている場合もある。超音波印加時の疵とは、超音波発振部材と鋼板が接触して鋼板進行方向に線状に発生した疵であり、めっきや鋼板の凹凸として観察される。湯だれ欠陥とは、めっき凝固時にめっき層の厚みにむらが生じ、波形の模様が観察される欠陥であり、めっき断面で厚みの違いが認められる。
・めっき加工性
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板からJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を実施した。試験中に40倍ルーペでめっき層表面を観察し、めっき層表面にクラックが確認できる歪量(クラック発生歪量)を求め、以下の評価基準でめっき鋼板の加工性を評価した。
◎:クラック発生歪量が25%以上
〇:クラック発生歪量が15%以上25%未満
△:クラック発生歪量が5%以上15%未満
×:クラック発生歪量が5%未満
・めっき密着性
製造された溶融Zn−Al系めっき鋼板から採取された試験片に対して、ボール重量1000g,3000g、ボール落下高さ100cmのボールインパクト条件でボールインパクト試験を行い、その加工部をテープ剥離し、めっき層の剥離の有無を目視判定し、以下のように評価した。
○:ボール重量3000gでめっき層の剥離無し
△:ボール重量3000gでめっき層の剥離有り、ボール重量1000gでめっき層の剥離無し
×:ボール重量1000gでめっき層の剥離有り
以上の結果を製造条件ととともに表3および表4に示す。
表3および表4によれば、本発明例の溶融Zn−Al系めっき鋼板は、ドロス付着欠陥などの欠陥がない美麗なめっき外観を有するとともに、めっき加工性およびめっき密着性にも優れている。
Figure 2020153004
Figure 2020153004
Figure 2020153004
Figure 2020153004
1 超音波発振部材
2 ホーン
3 ロール
4 超音波発振器
30 ロール軸
S 鋼板

Claims (12)

  1. 鋼板を再結晶焼鈍した後、Alを0.5〜4.8質量%含有する溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬して溶融Zn−Al系めっきを施すに際し、
    鋼板の溶融Zn−Al系めっき浴への浸漬開始から、該めっき浴から引き上げられた鋼板に付着した溶融めっき金属が凝固を完了するまでの間に、溶融めっき金属と接触し且つ鋼板との距離が0〜50mmに設定された超音波発振部材から、鋼板に対して超音波周波数が10〜120kHzの超音波を0.010〜0.500秒印加し、超音波印加終了後30秒以内に鋼板の冷却を開始し、250℃までの平均冷却速度1.0℃/秒以上で鋼板を冷却することを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  2. 溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  3. 溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  4. 溶融Zn−Al系めっき浴が、さらに、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  5. 超音波発振部材が回転可能なロールで構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  6. 超音波発振部材を構成するロールが、ロール径方向で超音波振動するとともに、鋼板と相対するロール面が鋼板進行方向と同じ方向に移動するように回転することを特徴とする請求項5に記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  7. 溶融Zn−Al系めっき浴から引き上げられた後、めっき付着量調整された鋼板に対して超音波発振部材から超音波を印加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  8. 超音波発振部材により、溶融Zn−Al系めっき浴から引き上げられた鋼板に超音波を印加しつつ、当該超音波発振部材により鋼板面に付着した溶融めっき金属を掻き落とすことでめっき付着量調整を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板の製造方法。
  9. 鋼板表面にAlを0.5〜4.8質量%含有するZn−Al系合金めっき層が形成され、該Zn−Al系合金めっき層のめっき断面組織における初晶Zn相の平均長径が7μm以下であることを特徴とする溶融Zn−Al系めっき鋼板。
  10. Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Mgを0.2〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項9に記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板。
  11. Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Ni:0.01〜0.5質量%、Si:0.01〜0.5質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項9または10に記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板。
  12. Zn−Al系合金めっき層が、さらに、Ca、Cr、Mo、Ti、Co、V、Mn、Sr、Sb、Bの中から選ばれる1種以上を合計で0.01〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の溶融Zn−Al系めっき鋼板。
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